説明

ポリプロピレン系樹脂組成物

【課題】 成形体にした場合、ウエルド外観とフローマーク外観に優れた成形体を得ることができ、かつ、流動性に優れ、高い剛性と耐衝撃性の良好なバランスを有するポリプロピレン系樹脂組成物およびそれからなる成形体を提供する。
【解決手段】 ポリプロピレン樹脂94〜50重量%と、
炭素数4〜12のα−オレフィンとエチレンとを含有し、密度が0.850〜0.870g/cm3、メルトフローレートが0.05〜1g/10分であるエチレン−α−オレフィン共重合体ゴム1〜25重量%と、
無機充填剤5〜25重量%とを含有するポリプロピレン系樹脂組成物であって、
前記ポリプロピレン樹脂が、特定の要件を満足する結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体、または、前記ブロック共重合体と結晶性プロピレン単独重合体とを含有する重合体混合物であるポリプロピレン系樹脂組成物およびその成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂組成物およびそれからなる成形体に関するものである。さらに詳細には、成形体にした場合、ウエルド外観とフローマーク外観に優れた成形体を得ることができ、かつ、流動性に優れ、高い剛性と耐衝撃性の良好なバランスを有するポリプロピレン系樹脂組成物およびそれからなる成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂組成物は、剛性や耐衝撃性等に優れる材料であることから、自動車内外装材や電気部品箱体等の成形体として、広範な用途に利用されている。
【0003】
例えば、特開平9−71711号公報には、成形加工性、機械的強度バランス並びに塗装性を有するプロピレン系樹脂組成物として、結晶性プロピレン単独重合体部分およびエチレン含量が20〜80重量%であるエチレン・プロピレンランダム共重合部分を含有し、メルトフローレート(MFR)が25〜140g/10分であるプロピレン・エチレンブロック共重合体と、MFRが0.5〜15g/10分で、エチレン3連鎖分率が55〜70%であるエチレン・α−オレフィン共重合体と、タルクからなるプロピレン系樹脂組成物が記載されている。
【0004】
また、特開2000−26697号公報には、射出成形加工性、物性バランスと共に低光沢性とウェルド外観を改良し、無塗装での製品化を目的として、結晶性ポリプロピレン単独重合体部分およびエチレン含量が30重量%以上で、重量平均分子量が200,000〜1,000,000であるエチレン・プロピレン−ランダム共重合体部分とを含有するプロピレン・エチレン−ブロック共重合体と、MFRが0.05〜1.2g/10分のエチレン・α−オレフィン共重合体ゴム或いはエチレン・α−オレフィン・ジエン共重合体ゴムと、タルクと、MFRが11g/10分いい状の高密度ポリエチレンからなるプロピレン系樹脂組成物が記載されている。
【0005】
そして、特開2000−178389号公報には、流動性、低温耐衝撃性、外観および成形性を改良することを目的として、プロピレン単独重合体部分のMFRが100g/10分以上で、かつブロック共重合体全体のMFRが55〜200g/10分であるプロピレン・エチレンブロック共重合体と、MFRが0.9g/10分未満であり、コモノマー含量が28重量%以上であるエチレン・α−オレフィン共重合体ゴムと、タルクより構成されているポリプロピレン系樹脂が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−71711号公報
【特許文献2】特開2000−26697号公報
【特許文献3】特開2000−178389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の公報等に記載のポリプロピレン系樹脂組成物を用いたとしても、さらに高い品質が望まれている自動車内外装部品等の分野では、更なる改良が必要で、ポリプロピレン系樹脂組成物については、その流動性、および、剛性と耐衝撃性のバランスの改良が求められており、成形体については、そのウエルド外観とフローマーク外観の改良が求められていた。
【0008】
かかる状況の下、本発明の目的は、成形体にした場合、ウエルド外観とフローマーク外観に優れた成形体を得ることができ、かつ、流動性に優れ、高い剛性と耐衝撃性の良好なバランスを有するポリプロピレン系樹脂組成物およびそれからなる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討した結果、本発明が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
ポリプロピレン樹脂(A)94〜50重量%と、
炭素数4〜12のα−オレフィンとエチレンとを含有し、密度が0.850〜0.870g/cm3、メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.05〜1g/10分であるエチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)1〜25重量%と、
無機充填剤(C)5〜25重量%とを含有するポリプロピレン系樹脂組成物(ただし、ポリプロピレン系樹脂組成物の全量を100重量%とする)であって、
前記ポリプロピレン樹脂(A)が、下記の要件(1)と(2)と(3)と(4)とを満足する結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体(A−1)、または、前記ブロック共重合体(A−1)と結晶性プロピレン単独重合体(A−2)とを含有する重合体混合物(A−3)であるポリプロピレン系樹脂組成物に係るものである。
要件(1):
前記ブロック共重合体(A−1)は、結晶性ポリプロピレン部分55〜90重量%と、プロピレン−エチレンランダム共重合体部分10〜45重量%とを含有する結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体である(ただし、前記ブロック共重合体の全量を100重量%とする)。
要件(2):
前記ブロック共重合体(A−1)の結晶性ポリプロピレン部分が、
プロピレン単独重合体、または、
エチレンおよび炭素数4以上のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンと、プロピレンとの共重合体であり、
前記結晶性ポリプロピレン部分が、エチレンおよび炭素数4以上のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンと、プロピレンとの共重合体である場合、エチレンおよび炭素数4以上のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンの含有量が1モル%以下である(ただし、エチレンおよび炭素数4以上のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンと、プロピレンとの共重合体の全量を100モル%とする)。
要件(3):
前記ブロック共重合体(A−1)のプロピレン−エチレンランダム共重合体部分に含有されるプロピレンとエチレンの含有量の比(プロピレン/エチレン(重量/重量))が、70/30〜50/50である。
要件(4):
前記ブロック共重合体(A−1)のプロピレン−エチレンランダム共重合体部分の極限粘度[η]EP-A-1が4〜5.5dl/g以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、流動性に優れ、高い剛性と耐衝撃性の良好なバランスを有するポリプロピレン系樹脂組成物、および、ウエルド外観とフローマーク外観に優れた成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレン樹脂(A)94〜50重量%と、エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)1〜25重量%と、無機充填剤(C)5〜25重量%とを含有するポリプロピレン系樹脂組成物(ただし、ポリプロピレン系樹脂組成物の全量を100重量%とする)である。
【0012】
前記ポリプロピレン樹脂(A)は、結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体(A−1)、または、前記ブロック共重合体(A−1)と結晶性プロピレン単独重合体(A−2)とを含有する重合体混合物(A−3)である。
【0013】
前記ブロック共重合体(A−1)は、結晶性ポリプロピレン部分55〜90重量%と、プロピレン−エチレンランダム共重合体部分10〜45重量%とを含有する結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体である(要件(1)、ただし、前記ブロック共重合体の全量を100重量%とする)。
【0014】
好ましくは、結晶性ポリプロピレン部分65〜90重量%と、プロピレン−エチレンランダム共重合体部分10〜35重量%とを含有するブロック共重合体であり、より好ましくは、結晶性ポリプロピレン部分70〜85重量%と、プロピレン−エチレンランダム共重合体部分15〜30重量%とを含有するブロック共重合体である。
【0015】
結晶性ポリプロピレン部分が55重量%未満の場合(すなわちプロピレン−エチレンランダム共重合体部分が45重量%を超えた場合)、剛性や硬度が低下したり、メルトフローレート(MFR)が低下して十分な成形性が得られないことがあり、結晶性ポリプロピレン部分が90重量%を超えた場合(すなわちプロピレン−エチレンランダム共重合体部分が10重量%未満の場合)、靭性や耐衝撃性が低下することがある。
【0016】
前記ブロック共重合体(A−1)の結晶性ポリプロピレン部分は、
プロピレン単独重合体、または、
エチレンおよび炭素数4以上のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンと、プロピレンとの共重合体であり、
前記結晶性ポリプロピレン部分が、エチレンおよび炭素数4以上のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンと、プロピレンとの共重合体である場合、エチレンおよび炭素数4以上のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンの含有量が1モル%以下である(ただし、エチレンおよび炭素数4以上のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンと、プロピレンとの共重合体の全量を100モル%とする)。
【0017】
前記ブロック共重合体(A−1)の結晶性ポリプロピレン部分が、エチレンおよび炭素数4以上のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンと、プロピレンとの共重合体である場合に、エチレンおよび炭素数4以上のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンの含有量が、1モル%を超えると、剛性、耐熱性または硬度が低下することがある。
【0018】
前記ブロック共重合体(A−1)の結晶性ポリプロピレン部分として、好ましくは、剛性、耐熱性または硬度の観点から、プロピレン単独重合体であり、より好ましくは、13C−NMRによって測定されるアイソタクチック・ペンタッド分率が0.97以上のプロピレン単独重合体である。さらに好ましくは、アイソタクチック・ペンタッド分率が0.98以上のプロピレン単独重合体である。
【0019】
アイソタクチック・ペンタッド分率とは、A.ZambelliらによってMacromolecules,6,925(1973)に記載されている方法、すなわち13C−NMRを使用して測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖、換言すればプロピレンモノマー単位が5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるプロピレンモノマー単位の分率である(ただし、NMR吸収ピークの帰属に関しては、その後、発刊されたMacromolecules, 8,687(1975)に基づいて行う)。具体的には13C−NMRスペクトルのメチル炭素領域の全吸収ピーク中のmmmmピークの面積分率としてアイソタクチック・ペンタッド分率を測定する。この方法によって、英国 NATIONAL PHYSICAL LABORATORYのNPL標準物質 CRM No.M19−14 Polypropylene PP/MWD/2のアイソタクチック・ペンタッド分率を測定したところ、0.944であった。
【0020】
前記ブロック共重合体(A−1)の結晶性ポリプロピレン部分の極限粘度[η]Pは、溶融時の流動性と成形体の靭性とのバランスを良好にするという観点から、好ましくは0.7〜1.3dl/gであり、より好ましくは0.85〜1.1dl/gである。
また、前記ブロック共重合体(A−1)の結晶性ポリプロピレン部分のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定された分子量分布(Q値、Mw/Mn)として、好ましくは3以上7未満であり、より好ましくは3〜5である。
【0021】
前記ブロック共重合体(A−1)のプロピレン−エチレンランダム共重合体部分に含有されるプロピレンとエチレンの含有量の比(プロピレン/エチレン(重量/重量))は、良好な剛性と耐衝撃性のバランスを得るという観点から、70/30〜50/50であり(要件(3))、好ましくは65/35〜55/45である。
【0022】
前記ブロック共重合体(A−1)のプロピレン−エチレンランダム共重合体部分の極限粘度[η]EP-A-1は、ウエルドラインの発生を防止し(ウエルド外観に優れ)、かつフローマークの発生を防止し(フローマーク外観に優れ)、さらに良好な剛性と耐衝撃性のバランスを得るという観点から、4.0dl/g以上5.5dl/g以下であり(要件(4))、好ましくは4.5〜5.3である。
【0023】
結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体(A−1)のメルトフローレート(MFR)は、成形性や耐衝撃性を高めるという観点から、好ましくは10〜120g/10分であり、より好ましくは20〜53g/10分である。
【0024】
結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体(A−1)の製造方法としては、例えば、(a)マグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与体を必須成分として含有する固体触媒成分、(b)有機アルミニウム化合物、および(c)電子供与体成分を接触させて得られる触媒系を用い、公知の重合方法によって製造する方法が挙げられる。この触媒の製造方法は、例えば、特開平1−319508号公報、特開平7−216017号公報、特開平10−212319号公報等に記載の方法が挙げられる。
【0025】
結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体(A−1)の重合方法としては、例えば、
少なくとも2段階の重合工程からなり、第1工程で結晶性ポリプロピレン部分を製造した後、第2工程で、エチレン含有量が30重量%以上50重量%以下であり、極限粘度[η]EPが4.0dl/g以上5.5dl/g以下であるプロピレン−エチレンランダム共重合体成分を製造する方法等が挙げられる。
【0026】
重合方法としては、例えば、バルク重合法、溶液重合法、スラリー重合法、気相重合法等が挙げられる。これらの重合方法は、バッチ式、連続式のいずれでも可能であり、また、これらの重合方法を任意に組合せもよい。工業的かつ経済的に有利であるという観点から、好ましくは、連続式の気相重合法、連続式のバルク−気相重合法である。
【0027】
より具体的な製造方法としては、
(1)前述の固体触媒成分(a)、有機アルミニウム化合物(b)および電子供与体成分(c)を接触させて得られる触媒系の存在下に、少なくとも2槽からなる重合槽を直列に配置し、1槽目の重合槽で結晶性ポリプロピレン部分を製造した後、生成物を第2槽目の重合槽に移し、第2槽目の重合槽でエチレン含有量が30重量%以上50重量%以下であり、極限粘度[η]EPが4.0dl/g以上5.5dl/g以下であるプロピレン−エチレンランダム共重合体成分を連続的に製造する方法、
(2)前述の固体触媒成分(a)、有機アルミニウム化合物(b)および電子供与体成分(c)を接触させて得られる触媒系の存在下に、少なくとも4槽からなる重合槽を直列に配置し、1〜2槽目の重合槽で結晶性ポリプロピレン部分を製造した後、生成物を第3槽目の重合槽に移し、第3〜4槽目の重合槽でエチレン含有量が30重量%以上50重量%以下であり、極限粘度[η]EPが4.0dl/g以上5.5dl/g以下であるプロピレン−エチレンランダム共重合体成分を連続的に製造する方法、
等が挙げられる。
【0028】
上記の重合方法における固体触媒成分(a)、有機アルミニウム化合物(b)および電子供与体成分(c)の使用量や、各触媒成分を重合槽へ供給する方法は、公知の触媒の使用方法によって、適宜、決めることができる。
【0029】
重合温度は、通常、−30〜300℃であり、好ましくは20〜180℃である。重合圧力は、通常、常圧〜10MPaであり、好ましくは0.2〜5MPaである。また、分子量調整剤として、例えば、水素を用いても良い。
【0030】
結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体(A−1)の製造において、本重合を実施する前に、公知の方法によって、予備重合を行っても良い。公知の予備重合の方法としては、例えば、固体触媒成分(a)および有機アルミニウム化合物(b)の存在下、少量のプロピレンを供給して溶媒を用いてスラリー状態で実施する方法が挙げられる。
【0031】
前記ブロック共重合体(A−1)には、必要に応じて、各種添加剤を加えてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、帯電防止剤、銅害防止剤、難燃剤、中和剤、発泡剤、可塑剤、造核剤、気泡防止剤、架橋剤等が挙げられる。これらの添加剤の中でも、耐熱性、耐候性、耐酸化安定性を向上させるためには、酸化防止剤や紫外線吸収剤を添加することが好ましい。
【0032】
前記ブロック共重合体共重合体(A−1)は、前記の製造方法によって得られた重合体の他、前記の製造方法によって得られた重合体に、過酸化物を配合し溶融混練して分解処理して得られた重合体でもよい。
過酸化物を配合し溶融混練して分解処理して得られた重合体に含有されるプロピレン−エチレンランダム共重合体部分の極限粘度[η]EP-Aは、分解処理して得られた重合体のペレットの20℃キシレン可溶成分の極限粘度を測定することによって求められる。
【0033】
過酸化物としては、一般に有機系過酸化物が用いられ、過酸化アルキル類、過酸化ジアシル類、過酸化エステル類および過酸化カーボネート類等が挙げられる。
過酸化アルキル類としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−t―ブチルパーオキサイド、ジ−t―ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、t−ブチルクミル、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、3,6,9−トリエチル−3,6,9−トリメチル−1,4,7−トリパーオキソナン等が挙げられる。
【0034】
過酸化ジアシル類としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド等が挙げられる。
過酸化エステル類としては、例えば、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t―ヘキシルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシル−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルーパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t−アミルパーオキシ3,5,5―トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ3,5,5―トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−ブチルパーオキシトリメチルアディペート等が挙げられる。
【0035】
過酸化カーボネート類としては、例えば、ジ−3−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジセチル パーオキシジカーボネート、ジミリスチルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0036】
前記ブロック共重合体(A−1)に含有されるプロピレン−エチレンランダム共重合体部分の含有量は、ウエルド外観とフローマーク外観とのバランスを改良するという観点から、好ましくは、ポリプロピレン系樹脂組成物の6重量%以下である(ただし、ポリプロピレン系樹脂組成物の全量を100重量%とする)。
【0037】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物に含有されるポリプロピレン樹脂(A)としては、前記ブロック共重合体(A−1)を単独で用いてもよく、前記ブロック共重合体(A−1)と結晶性プロピレン単独重合体(A−2)とを含有する重合体混合物(A−3)を用いても良い。
【0038】
重合体混合物(A−3)に含有される前記ブロック共重合体(A−1)の含有量は、通常、30〜99重量%であり、前記単独重合体(A−2)の含有量は、通常、1〜70重量%であり、好ましくは、前記ブロック共重合体(A−1)の含有量が45〜90重量%であり、前記単独重合体(A−2)の含有量が55〜10重量%である。
【0039】
前記単独重合体(A−2)として、好ましくは、アイソタクチック・ペンタッド分率が97%以上の単独重合体であり、より好ましくは98%以上の単独重合体である。
【0040】
前記単独重合体(A−2)のメルトフローレート(MFR:230℃、荷重2160g)は、通常、10〜500g/10分であり、好ましくは40〜350g/10分である。
【0041】
前記単独重合体(A−2)の製造方法としては、前記ブロック共重合体(A−1)と同様の触媒を用いる製造方法が挙げられる。
【0042】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物に含有されるポリプロピレン樹脂(A)の含有量は、94〜50重量%であり、好ましくは90〜55重量%であり、より好ましくは85〜60重量%である(ただし、ポリプロピレン系樹脂組成物の全量を100重量%とする)。
ポリプロピレン樹脂(A)の含有量が50重量%未満である場合、剛性が低下することがあり、93重量%を超えると、衝撃強度が低下することがある。
【0043】
ポリプロピレン樹脂(A)には、ウエルド外観とフローマーク外観および機械物性とのバランスをさらに改良する観点から、プロピレン−エチレンランダム共重合体部分の極限粘度[η]EP-A-4が、2〜3dl/gである結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体(A−4)を添加しても良い。
前記ブロック共重合体(A−4)として、さらに好ましくは、プロピレン−エチレンランダム共重合体部分の極限粘度[η]EP-A-4が2〜3dl/gであり、プロピレン−エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量が35〜50重量%である結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体である。
【0044】
本発明で用いられるエチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)は、炭素数4〜12のα−オレフィンとエチレンとを含有し、密度が0.850〜0.870g/cm3であり、メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.05〜1g/10分であるエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムである。
炭素数4〜12のα−オレフィンとしては、例えば、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、デセン等が挙げられ、好ましくは、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1である。
【0045】
前記共重合体ゴム(B)に含有されるα−オレフィンの含有量は、衝撃性強度、特に低温衝撃強度を高めるという観点から、通常、20〜50重量%であり、好ましくは、24〜50重量%である(ただし、前記共重合体ゴム(B)の全量を100重量%とする)。
【0046】
前記共重合体ゴムとしては、例えば、エチレン−ブテン−1ランダム共重合体ゴム、エチレン−ヘキセン−1ランダム共重合体ゴム、エチレン−オクテン−1ランダム共重合体ゴム等が挙げられ、好ましくは、エチレン−オクテン−1ランダム共重合体ゴムまたはエチレン−ブテン−1ランダム共重合体ゴムである。また、少なくとも2種のエチレン−α−オレフィンランダム共重合体ゴムを併用しても良い。
【0047】
前記共重合体ゴム(B)の密度は、良好な剛性と耐衝撃性のバランスを得るという観点から、0.850〜0.870g/cm3であり、好ましくは0.850〜0.865g/cm3である。
【0048】
前記共重合体ゴム(B)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)は、ウエルドラインの発生を防止し(ウエルド外観に優れ)、かつ、良好な剛性と耐衝撃性のバランスを得るという観点から、0.05〜1g/10分であり、好ましくは、0.2〜1g/10分である。
【0049】
前記共重合体ゴム(B)の製造方法としては、公知の触媒と公知の重合方法を用いて、エチレンと各種のα−オレフィンを共重合させることによって製造する方法が挙げられる。
公知の触媒としては、例えば、バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物からなる触媒系、チーグラーナッタ触媒系又はメタロセン触媒系等が挙げられ、公知の重合方法としては、溶液重合法、スラリー重合法、高圧イオン重合法又は気相重合法等が挙げられる。
【0050】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物に含有される前記共重合体ゴム(B)の含有量は、1〜25重量%であり、好ましくは3〜22重量%であり、より好ましくは5〜22重量%である(ただし、ポリプロピレン系樹脂組成物の全量を100重量%とする)。
前記共重合体ゴム(B)の含有量が1重量%未満である場合、ウエルド外観が不十分であったり、衝撃強度が低下することがあり、25重量%を超えると、剛性が低下することがある。
【0051】
本発明で用いられる無機充填剤(C)は、通常、ポリプロピレン系樹脂組成物の剛性を向上させるために用いられるものであり、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マイカ、結晶性ケイ酸カルシウム、タルク、硫酸マグネシウム繊維等が挙げられ、好ましくはタルクまたは硫酸マグネシウム繊維である。より好ましくはタルクである。これらの無機充填剤は、少なくとも2種を併用しても良い。
【0052】
無機充填剤(C)として用いられるタルクとして、好ましくは、含水ケイ酸マグネシウムを粉砕したものである。含水ケイ酸マグネシウムの分子の結晶構造は、パイロフィライト型三層構造であり、タルクはこの構造が積み重なったものである。タルクとして、より好ましくは、含水ケイ酸マグネシウムの分子の結晶を単位層程度にまで微粉砕した平板状のものである。
【0053】
上記のタルクの平均粒子径として、好ましくは3μm以下である。ここでタルクの平均粒子径とは、遠心沈降式粒度分布測定装置を用いて水またはアルコールである分散媒中に懸濁させて測定した篩下法の積分分布曲線から求めた50%相当粒子径D50のことを意味する。
【0054】
上記のタルクは、無処理のまま使用しても良く、または、ポリプロピレン樹脂(A)との界面接着性や、ポリプロピレン樹脂(A)に対する分散性を向上させるために、公知の各種の界面活性剤で表面を処理して使用しても良い。界面活性剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩類等が挙げられる。
【0055】
無機充填剤(C)として用いられる硫酸マグネシウム繊維の平均繊維長として、好ましくは5〜50μmであり、より好ましくは10〜30μmである。また、硫酸マグネシウム繊維の平均繊維径として、好ましくは0.3〜2μmであり、より好ましくは0.5〜1μmである。
【0056】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物に含有される無機充填剤(C)の含有量は、5〜25重量%であり、好ましくは7〜23重量%であり、より好ましくは10〜22重量%である(ただし、ポリプロピレン系樹脂組成物の全量を100重量%とする)。
無機充填剤(C)の含有量が5重量%未満である場合、剛性が低下することがあり、25重量%を超えると、衝撃強度が低下することがある。
【0057】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法としては、各成分を溶融混練する方法が挙げられ、例えば、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、熱ロール等の混練機を用いる方法等が挙げられる。混練の温度は、通常、170〜250℃であり、時間は、通常、1〜20分である。また、各成分の混練は同時に行なっても良く、分割して行なっても良い、
【0058】
各成分を分割して混練する方法としては、例えば、次の(1)、(2)、(3)の方法が挙げられる。
(1)前記ブロック共重合体(A−1)を事前に混練してペレット化し、同ペレットと前記共重合体ゴム(B)と無機充填剤(C)とを一括して、混練する方法。
(2)前記ブロック共重合体(A−1)を事前に混練してペレット化し、同ペレットと前記単独重合体(A−2)と前記共重合体ゴム(B)と無機充填剤(C)とを一括して、混練する方法。
(3)前記ブロック共重合体(A−1)と前記共重合体ゴム(B)とを混練した後、無機充填剤(C)を添加し、混練する方法。
(4)前記ブロック共重合体(A−1)と無機充填剤(C)を混練した後、前記共重合体ゴム(B)を添加し、混練する方法。
なお、上記(3)または(4)の方法において、結晶性プロピレン単独重合体(A−2)を、任意に添加しても良い。
【0059】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物には、必要に応じて、各種添加剤を加えてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、帯電防止剤、銅害防止剤、難燃剤、中和剤、発泡剤、可塑剤、造核剤、気泡防止剤、架橋剤等が挙げられる。耐熱性、耐候性、耐酸化安定性を向上させるためには、酸化防止剤または紫外線吸収剤を添加することが好ましい。
【0060】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物には、機械物性のバランスをさらに改良するために、ビニル芳香族化合物含有ゴムを添加しても良い。
ビニル芳香族化合物含有ゴムとしては、例えば、ビニル芳香族化合物重合体ブロックと共役ジエン系重合体ブロックからなるブロック共重合体等が挙げられ、その共役ジエン部分の二重結合の水素添加率として、好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは85重量%以上である(ただし、共役ジエン部分に含有される二重結合の全量を100重量%とする)。
【0061】
上記のビニル芳香族化合物含有ゴムのGPC(ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー)法によって測定される分子量分布(Q値)として、好ましくは2.5以下であり、より好ましくは1〜2.3以下である。
【0062】
上記のビニル芳香族化合物含有ゴムに含有されるビニル芳香族化合物の含有量として、好ましくは10〜20重量%であり、より好ましくは12〜19重量%である(ただし、ビニル芳香族化合物含有ゴムの全量を100重量%とする)。
【0063】
上記のビニル芳香族化合物含有ゴムのメルトフローレート(MFR、JIS−K−6758、230℃)として、好ましくは0.01〜15g/10分であり、より好ましくは0.03〜13g/10分である。
【0064】
上記のビニル芳香族化合物含有ゴムとしては、例えば、スチレン−エチレン−ブテン−スチレン系ゴム(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン系ゴム(SEPS)、スチレン−ブタジエン系ゴム(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレン系ゴム(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン系ゴム(SIS)等のブロック共重合体、または、これらのブロック共重合体を水添したブロック共重合体等が挙げられる。さらに、エチレン−プロピレン−非共役ジエン系ゴム(EPDM)にスチレン等のビニル芳香族化合物を反応させたゴムも挙げられる。また、少なくとも2種のビニル芳香族化合物含有ゴムを併用しても良い。
【0065】
上記のビニル芳香族化合物含有ゴムの製造方法としては、例えば、オレフィン系共重合体ゴムまたは共役ジエンゴムに対し、ビニル芳香族化合物を、重合または反応等によって結合させる方法等が挙げられる。
【0066】
本発明の射出成形体は、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物を、公知の射出成形方法によって、射出成形して得られる射出成形体である。
本発明の射出成形体の用途として、好ましくは自動車用射出成形体であり、例えば、ド
【0067】
アートリム、ピラー、インストルメンタルパネル、バンパー等が挙げられる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例および比較例によって、本発明を説明する。実施例および比較例で用いた重合体および組成物の物性の測定方法を、以下に示した。
(1)極限粘度(単位:dl/g)
ウベローデ型粘度計を用いて濃度0.1、0.2および0.5g/dlの3点について還元粘度を測定した。極限粘度は、「高分子溶液、高分子実験学11」(1982年共立出版株式会社刊)第491頁に記載の計算方法すなわち、還元粘度を濃度に対しプロットし、濃度をゼロに外挿する外挿法によって求めた。テトラリンを溶媒として用いて、温度135℃で測定した。
【0069】
(1−1)結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体の極限粘度
(1−1a)結晶性ポリプロピレン部分の極限粘度:[η]P
結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体に含有される結晶性ポリプロピレン部分の極限粘度[η]Pは、結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体の製造時に、第1工程である結晶性ポリプロピレン部分の重合後に、重合槽内より重合体パウダーを取り出し、上記(1)の方法で測定して求めた。
【0070】
(1−1b)プロピレン−エチレンランダム共重合体部分の極限粘度:[η]EP
結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体に含有されるプロピレン−エチレンランダム共重合体部分の極限粘度[η]EPは、プロピレン単独重合体部分の極限粘度[η]Pとプロピレン−エチレンブロック共重合体全体の極限粘度[η]Tを、それぞれ上記(1)の方法で測定し、プロピレン−エチレンランダム共重合体部分のプロピレン−エチレンブロック共重合体全体に対する重量比率Xを用いて、次式から算出して求めた。(プロピレン−エチレンブロック共重合体全体に対する重量比率Xは、下記(2)の測定方法によって求めた。)
[η]EP=[η]T/X−(1/X−1)[η]P
[η]P:プロピレン単独重合体部分の極限粘度(dl/g)
[η]T:プロピレン−エチレンブロック共重合体全体の極限粘度(dl/g)
【0071】
過酸化物で熱分解処理した結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体に含有されるプロピレン−エチレンランダム共重合体部分の極限粘度[η]EPは、下記方法で得た20℃キシレン可溶成分の極限粘度を測定し、その値を用いた。
[20℃キシレン可溶成分]
結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体5gを沸騰キシレン500mlに完全に溶解させた後、20℃に降温し4時間放置する。その後これを濾別し、20℃キシレン不溶部を分離した。濾液を濃縮、乾固してキシレンを蒸発させ、さらに減圧下60℃で乾燥して、20℃のキシレンに可溶な重合体成分を得た。
【0072】
(2)プロピレン−エチレンランダム共重合体部分のプロピレン−エチレンブロック共重合体全体に対する重量比率:X、および、プロピレン−エチレンブロック共重合体中のプロピレン−エチレンランダム共重合体部分のエチレン含量:[(C2’)EP
下記の条件で測定した13C−NMRスペクトルから、Kakugoらの報告(Macromolecules 1982,15,1150−1152)に基づいて求めた。
10mmΦの試験管中で約200mgのプロピレン−エチレンブロック共重合体を3mlのオルソジクロロベンゼンに均一に溶解させて試料を調整し、その試料の13C−NMRスペクトルを下記の条件下で測定した。
測定温度:135℃
パルス繰り返し時間:10秒
パルス幅:45°
積算回数:2500回
【0073】
(3)メルトフローレート(MFR、単位:g/10分)
JIS−K−6758に規定された方法に従って、測定した。特に断りのない限り、測定温度は230℃で、荷重は2.16kgで測定した。
【0074】
(4)引っ張り試験(破断伸び(UE)、単位:%)
ASTM D638に規定された方法に従って、測定した。射出成形により成形された厚みが3.2mmである試験片を用いて、引っ張り速度は20mm/分で、破断伸び(UE)を評価した。
【0075】
(5)曲げ弾性率(FM、単位:MPa)
JIS−K−7203に規定された方法に従って、測定した。射出成形により成形された厚みが6.4mmであり、スパン長さが100mmである試験片を用いて、荷重速度は2.0mm/分で、測定温度は23℃で測定した。
【0076】
(6)アイゾット衝撃強度(Izod、単位:kJ/m2
JIS−K−7110に規定された方法に従って、測定した。射出成形により成形された厚みが6.4mmであり、成形の後にノッチ加工されたノッチ付きの試験片を用いて、測定温度は23℃または−30℃で測定した。
【0077】
(7)加熱変形温度(HDT、単位:℃)
JIS−K−7207に規定された方法に従って、測定した。ファイバーストレスは1.82kg/cm2で測定した。
【0078】
(8)ロックウェル硬度(HR、Rスケール)
JIS−K−7202に規定された方法に従って、測定した。射出成形により成形された厚みが3.0mmである試験片を用いて測定した。測定値はRスケールで表示した。
【0079】
(9)脆化温度(BP、単位:℃)
JIS−K−7216に規定された方法に従って、測定した。射出成形により成形された25×150×2mmの平板から所定の6.3×38×2mmの試験片を打ち抜き、測定を行なった。
【0080】
(10)アイソタクチック・ペンタッド分率([mmmm])
アイソタクチック・ペンタッド分率とは、A.ZambelliらによってMacromolecules,6,925(1973)に発表されている方法、すなわち13C−NMRを使用して測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖、換言すればプロピレンモノマー単位が5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるプロピレンモノマー単位の分率である。ただし、NMR吸収ピークの帰属に関しては、その後発刊されたMacromolecules,8,687(1975)に基づいて行った。
【0081】
具体的には13C−NMRスペクトルのメチル炭素領域の全吸収ピーク中のmmmmピークの面積分率としてアイソタクチック・ペンタッド分率を測定した。この方法により英国 NATIONAL PHYSICAL LABORATORYのNPL標準物質 CRM No.M19−14 Polypropylene PP/MWD/2のアイソタクチック・ペンタッド分率を測定したところ、0.944であった。
【0082】
〔射出成形体の製造−1〕
上記(4)〜(7)の物性評価用の射出成形体である試験片は、東芝機械製IS150E−V型射出成形機を用い、成形温度220℃、金型冷却温度50℃、射出時間15秒、冷却時間30秒で射出成形を行って得た。
【0083】
(11)ウエルド及びフローマーク外観評価用射出成形体の製造
ウエルドの外観評価用の射出成形体である試験片は、次の方法に従って作成した。
射出成形機として、住友重機械工業製 SE180D 型締力180トン、金型として、100mm×400mm×3.0mmt、平行2点ゲートを用いて、成形温度220℃で成形を実施し、図1に示した平板成形体を得た。図1において、1及び2は2点ゲート、3はウェルド、4は端面側に発生したフローマークA、5は中央部に発生したフローマークBを表す。
【0084】
(12)ウエルド外観
前記(11)の方法で作成した平板成形体を用いて、目視によりウエルドを観察した。図1に示したウエルドライン長さと目立ち感を観察した。この場合、ウエルドライン長さが短いほど、目立たないほど外観性能が良好であることを示す。
【0085】
(13)フローマーク外観
前記(11)の方法で作成した平板成形体を用いて、目視によりフローマークを観察した。図1に示したフローマークが発生し始めるゲート端面からの距離(フローマーク発生位置A(端面側の発生位置)、フローマーク発生位置B(中央部の発生位置)、単位:mm)と目立ちの程度を観察した。この場合、フローマーク発生位置が長いほど、また目立ちにくいほど、外観性能が良好であることを示す。
【0086】
実施例および比較例で用いた重合体の製造に用いた3種類の触媒(固体触媒成分(I)、(II)および(III)の合成方法を以下に示した。
(1)固体触媒成分(I)
(1−1)還元固体生成物の合成
撹拌機、滴下ロートを備えた500mlのフラスコを窒素で置換した後、ヘキサン290ml、テトラブトキシチタン8.9ml(8.9g、26.1ミリモル)、フタル酸ジイソブチル3.1ml(3.3g、11.8ミリモル)およびテトラエトキシシラン87.4ml(81.6g、392ミリモル)を投入し、均一溶液とした。次に、n−ブチルマグネシウムクロライドのジ−n−ブチルエーテル溶液(有機合成薬品社製、n−ブチルマグネシウムクロライド濃度2.1mmol/ml)199mlを、フラスコ内の温度を6℃に保ちながら、滴下ロートから5時間かけて徐々に滴下した。滴下終了後、6℃でさらに1時間撹拌した後、室温でさらに1時間攪拌した。その後、固液分離し、トルエン260mlで3回洗浄を繰り返した後、トルエンを適量加え、スラリー濃度0.176g/mlとした。固体生成物スラリーの一部をサンプリングし、組成分析を行ったところ固体生成物中にはチタン原子が1.96重量%、フタル酸エステルが0.12重量%、エトキシ基が37.2重量%、ブトキシ基が2.8重量%含有されていた。
【0087】
(1−2)固体触媒成分の合成
撹拌機、滴下ロート、温度計を備えた100mlのフラスコを窒素で置換したのち、上記(1)で得られた固体生成物を含むスラリーを52ml投入し、上澄み液を25.5ml抜き出しブチルエーテル0.80ml(6.45ミリモル)と四塩化チタン16.0ml(0.146モル)の混合物を加え、ついで、フタル酸クロライド1.6ml(11.1ミリモル:0.20ml/1g固体生成物)を加え、115℃まで昇温しそのまま3時間攪拌した。反応終了後、同温度で固液分離した後、同温度でトルエン40mlで2回洗浄を行った。次いで、トルエン10.0ml、フタル酸ジイソブチル0.45ml(1.68ミリモル)、ブチルエーテル0.80ml(6.45ミリモル)、及び四塩化チタン8.0ml(0.073モル)の混合物を加え、115℃で1時間処理を行った。反応終了後、同温度で固液分離し、同温度でトルエン40mlで3回洗浄を行ったのち、ヘキサン40mlで3回洗浄し、さらに減圧乾燥して固体触媒成分7.36gを得た。固体触媒成分中には、チタン原子が2.18重量%、フタル酸エステルが11.37重量%、エトキシ基が0.3重量%、ブトキシ基が0.1重量%含まれていた。また、固体触媒成分を実体顕微鏡で観察したところ、微粉の無い良好な粒子性状を有していた。この固体触媒成分を、以下、固体触媒成分(I)と呼ぶ。
【0088】
(3)固体触媒成分(II)
200リットルの円筒型反応器(直径0.35mの攪拌羽根を3対持つ撹拌機および幅0.05mの邪魔板4枚を備えた直径0.5mのもの)を窒素置換し、ヘキサン 54リットル、ジイソブチルフタレート 100g、テトラエトキシシラン 20.6kg及びテトラブトキシチタン 2.23kgを投入、撹拌した。次に、前記攪拌混合物に、ブチルマグネシウムクロリドのジブチルエーテル溶液(濃度2.1モル/リットル)51リットルを反応器内の温度を7℃に保ちながら4時間かけて滴下した。この時の攪拌回転数は150rpmであった。滴下終了後、20℃で1時間撹拌したあと濾過し、得られた固体について室温下トルエン 70リットルでの洗浄を3回実施し、トルエンを加え、固体触媒成分前駆体スラリーを得た。該固体触媒成分前駆体は、Ti:1.9重量%、OEt(エトキシ基):35.6重量%、OBu(ブトキシ基):3.5重量%を含有していた。その平均粒径は39μmであり、16μm以下の微粉成分量は0.5重量%であった。次いでスラリーの体積が49.7リットルとなるようにトルエンを抜き出し、80℃で1時間攪拌し、その後、スラリーを40℃以下となるように冷却し、攪拌下、テトラクロロチタン 30リットルと、ジブチルエーテル 1.16kgとの混合液を投入、さらにオルトフタル酸クロライド 4.23kgを投入した。反応器内の温度を110℃として3時間攪拌した後、濾過し、得られた固体について95℃にてトルエン 90リットルでの洗浄を3回実施した。トルエンを加え、スラリーとし、静置後、スラリーの体積が49.7リットルとなるようにトルエンを抜き出し、攪拌下、テトラクロロチタン 15リットルと、ジブチルエーテル 1.16kgと、ジイソブチルフタレート 0.87kgとの混合液を投入した。反応器内の温度を105℃として1時間攪拌した後、濾過し、得られた固体について95℃にてトルエン 90リットルでの洗浄を2回実施した。トルエンを加え、スラリーとし、静置後、スラリーの体積が49.7リットルとなるようにトルエンを抜き出し、攪拌下、テトラクロロチタン 15リットルと、ジブチルエーテル 1.16kgとの混合液を投入した。反応器内の温度を105℃として1時間攪拌した後、濾過し、得られた固体について95℃にてトルエン 90リットルでの洗浄を2回実施した。トルエンを加え、スラリーとし、静置後、スラリーの体積が49.7リットルとなるようにトルエンを抜き出し、攪拌下、テトラクロロチタン 15リットルと、ジブチルエーテル 1.16kgとの混合液を投入した。反応器内の温度を105℃として1時間攪拌した後、濾過し、得られた固体について95℃にてトルエン 90リットルでの洗浄を3回、ヘキサン 90リットルでの洗浄を2回実施した。得られた固体成分を乾燥し、固体触媒成分を得た。該固体触媒成分は、Ti:2.1重量%、フタル酸エステル成分:10.8重量%を含有していた。この固体触媒成分を、以下固体触媒成分(II)と呼ぶ。
【0089】
(4)固体触媒成分(III)
攪拌機付きの200LSUS製反応容器を窒素で置換した後、ヘキサン80L、テトラブトキシチタン6.55モル、フタル酸ジイソブチル2.8モル、およびテトラエトキシシラン98.9モルを投入し均一溶液とした。次に濃度2.1モル/Lのブチルマグネシウムクロリドのジイソブチルエーテル溶液51Lを、反応容器内の温度を5℃に保ちながら5時間かけて徐々に滴下した。滴下終了後5℃で1時間、室温でさらに1時間攪拌した後、室温で固液分離し、トルエン70Lで3回洗浄を繰り返した。次いで、スラリー濃度が0.2Kg/Lになるようにトルエン量を調整した後、105℃で1時間攪拌した。その後、95℃まで冷却し、フタル酸ジイソブチル47.6モル加え、95℃で30分間反応を行った。反応後固液分離し、トルエンで2回洗浄を行った。次いで、スラリー濃度が0.4Kg/Lになるようにトルエン量を調節後、フタル酸ジイソブチル3.1モル、n−ジブチルエーテル8.9モル及び四塩化チタン274モルを加え、105℃で3時間反応を行った。反応終了後、同温度で固液分離した後、同温度でトルエン90Lで2回洗浄を行った。スラリー濃度が0.4Kg/Lになるようにトルエン量を調節後、n−ジブチルエーテル8.9モル及び四塩化チタン137モルを加え、105℃で1時間反応を行った。反応終了後、同温度で固液分離し同温度でトルエン90Lで3回洗浄を行った後、さらにヘキサン70Lで3回洗浄した後減圧乾燥して固体触媒成分11.4Kgを得た。固体触媒成分はチタン原子1.83重量%、フタル酸エステル8.4重量%、エトキシ基0.30重量%、ブトキシ基0.20重量%を含有していた。この固体触媒成分を、以下固体触媒成分(III)と呼ぶ。
【0090】
〔重合体の重合〕
(1)プロピレン単独重合体(HPP)の重合
(1−1)HPP−1の重合
(1−1a)予備重合
SUS製3L攪拌機付きオートクレーブにおいて、充分に脱水,脱気したヘキサン1Lにトリエチルアルミニウム(以下TEAと略す)25mmol/L、電子供与体成分としてt−ブチル−n−プロピルジメトキシシラン(以下tBunPrDMSと略す。)をtBunPrDMS/TEA=0.1(mol/mol)および固体触媒成分(II)を15.6g/Lを添加し、15℃以下の温度を保持しながらプロピレンを固体触媒当たり2.5g/gに達するまで連続的に供給し予備重合を実施した。得られた予備重合体スラリーは120LのSUS製攪拌機付きの希釈槽へ移送し充分に精製された液状ブタンを加えて希釈し10℃以下の温度で保存した。
【0091】
(1−1b)本重合
内容積1m3の攪拌機付き流動床反応器において、重合温度70℃、重合圧力1.8MPa−G、気相部の水素濃度を対プロピレン比で11.7vol%を保持するようにプロピレンと水素を供給し、TEAを42mmol/h、tBunPrDMSを12.3mmol/hおよび(1−1a)で作成した予備重合体スラリーを固体触媒成分として1.28g/hを連続的に供給して連続の気相重合を行い、20.7Kg/hの重合体を得た。得られたポリマーの極限粘度[η]Pは1.08dl/g、アイソタクチック・ペンタッド分率は0.987であった。またMFRは56g/10分であった。
【0092】
(1−2)HPP−2の重合
(1−2a)予備重合
固体触媒成分を固体触媒成分(I)とした以外は、HPP−1と同様の方法で実施した。
(1−2b)本重合
本重合における気相部の水素濃度と固体触媒成分の供給量を調整した以外はHPP−1と同様の方法で実施した。得られたポリマーの極限粘度[η]Pは0.92dl/gであった。
【0093】
(2)プロピレン−エチレンブロック共重合体(BCPP)の重合
(2−1)BCPP−1の重合
内容積45及び32m3の攪拌機及びジャケット付きのSUS製反応器5槽をプロピレンで十分置換し、第一槽圧力をプロピレンで0.5kg/cm2Gに調整し、n−ヘプタンを20m3張る。攪拌機起動後、トリエチルアルミニウム50モル及びシクロヘキシルエチルジメトキシシラン7.5モルを投入し、該反応器の内温を60〜75℃に昇温したのち、プロピレンで反応圧力を4〜8kg/cm2Gに昇圧する。水素濃度を6〜8%に保つよう水素を投入後、固体触媒成分(III)を供給し重合を開始した。同時にトリエチルアルミニウム2.5〜3.0kg/H(約24〜25mol/H)、の供給を開始した。反応開始後、槽内の安定を確認して反応圧力を目標の4.5〜9.0kg/cm2Gまで昇圧し、気相部の水素濃度を8〜10%に保つように供給しながら重合を継続した。生成した重合スラリーは次の反応槽に抜き出され、設定した条件にて引き続き重合継続した。合計5槽の連続した反応槽にて結晶性ポリプロピレン部分(以下P部と省略する)の重合を継続した。P部のポリマーをサンプリングし分析した結果、極限粘度〔η〕Pは0.93dl/gであった。
引き続いて、プロピレン及びエチレンにより6〜8番目の反応槽の反応圧力を2〜4kg/cm2Gに昇圧しエチレン−プロピレン共重合部(以下EP部と省略する)の重合を開始し、反応温度60℃で反応圧力を2〜4kg/cm2Gに保ちながらプロピレン/エチレンの混合ガスを連続的に供給し、気相部の水素濃度が0.1〜0.2%に保たれるように調整しながらEP部の重合を継続した。生成した重合スラリーは次の反応槽に抜き出され、設定した条件にて引き続き重合継続した。合計3槽の連続した反応槽にてEP部の重合を継続した。 反応器内のポリマースラリーの全量を失活槽へ導き、未反応モノマーを分離、水で失活処理を行った後、該ポリマースラリーを遠心分離することにより固体ポリマーを回収し、ドライヤーにて乾燥して粉末状白色パウダーを得た。
最終的に得られたプロピレン−エチレンブロック共重合体全体の極限粘度([η]T)は1.39dl/gであった。分析の結果プロピレン−エチレンランダム共重合体含量(EP含量)は10重量%であったので、第三槽で生成したプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(EP部)の極限粘度[η]EPは5.5dl/gであった。又、分析の結果EP部でのエチレン含量は40重量%、立体規則性(mmmm分率)は0.974であった。またMFRは50g/10分であった。
【0094】
(2−1)BCPP−2の重合
内容積0.36m3のSUS製ループ型液相重合反応器をプロピレンで十分置換したのち、トリエチルアルミニウム0.105mol/時間及びt−ブチルn−プロピルジメトキシシラン0.0057mol/時間を供給し、さらに内温を45〜55℃、圧力をプロピレン及び水素で3.3〜3.4MPaGに調整し、固体触媒成分(II)0.040〜0.050kg/時間を連続して供給して重合を開始した。ループ型液相重合反応器で生成された重合体は気相重合反応器へ抜き出される。気相重合反応器は3槽で構成され、第1槽(内容積が45.75m3)は反応温度70℃で反応圧力1.9MPaGを保つようにプロピレンを連続的に供給し、気相部の水素濃度を17.5〜18.5vol%に保つように供給しながらプロピレン単独重合体成分の気相重合を継続した。ついで、この第一槽で重合したプロピレン単独重合体成分を断続的に第二槽へ導入した。第二槽(内容積が22.68m3)は反応温度70℃で反応圧力1.5MPaGを保つようにプロピレンを連続的に供給し、気相部の水素濃度を17.5〜18.5vol%に保つように供給しながら気相重合を継続し、プロピレン単独重合体成分(以下、重合体成分(I)と省略する)を生成した。ついで、この第二槽で重合したプロピレン単独重合体成分(重合体成分(I))を断続的に第三槽へ導入した。第三槽(内容積が40.59m3)は反応温度70℃で反応圧力1.1MPaGを保つようにプロピレンを連続的に供給し、気相部の水素濃度を2.5〜3.5vol%、気相部のエチレン濃度を24〜25vol%に保つように供給しながらエチレン−プロピレン共重合体成分(以下、重合体成分(II)と省略する)の気相重合を継続した。ついで、反応器内(第三槽)の重合体成分(I)と重合体成分(II)からなる粉末を断続的に失活槽へ導き、水で触媒成分の失活処理を行った後、該粉末を80℃の窒素により乾燥して、プロピレン−エチレンブロック共重合体からなる白色の粉末状パウダーを得た。
第二槽で重合した重合体成分(I)を少量採取して分析した結果、この重合体成分(I)の極限粘度([η]I)は0.90dl/gであり、立体規則性(mmmm分率)は0.983であった。最終的に得られたプロピレン−エチレンブロック共重合体全体の極限粘度([η]Total)は1.34dl/gであった。分析の結果プロピレン−エチレンランダム共重合体含量(EP含量)は26.5重量%であったので、第三槽で生成したプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(EP部)の極限粘度[η]EPは2.6dl/gであった。又、分析の結果EP部でのエチレン含量は41重量%であった。得られた重合体の分析結果を表1に示した。押し出し機を用いてパウダー100重量部に、安定剤としてステアリン酸カルシウム(日本油脂製)0.05重量部、3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(スミライザーGA80、住友化学製)0.05重量部、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト(ウルトラノックスU626、GEスペシャリティーケミカルズ製)0.05重量部を添加し造粒したペレットのMFRは3650g/10分であった。
【0095】
実施例1
BCPP―1パウダー40重量%、BCPP―2ペレット9.7重量%、プロピレン単独重合体(HPP―1)パウダー10重量%、エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)としてエチレン−ブテン−1ランダム共重合体ゴム EBR−1(三井化学(株)製タフマーA0250:密度0.861g/cm3、MFR(230℃、2.16kg荷重)g/10分)は0.46であった。)を19重量%、無機充填材(C)として平均粒子径2.7μmのタルク(林化成社製、商品名:MWHST)21.3重量%の組成割合で配合し、タンブラーで均一に予備混合した後、二軸混練押出機(日本製鋼所社製TEX44SS−30BW−2V型)を用いて、押し出し量50kg/hr、230℃、スクリュー回転数を350rpmで混練押出して、ポリプロピレン系樹脂組成物を製造した。
表1に各成分の配合割合と造粒して得られたポリプロピレン系樹脂組成物のMFR、射出成形品の物性とウエルド外観及びフローマーク外観の評価結果を示した。
【0096】
実施例−2、比較例−1
表1に示したプロピレン−エチレンブロック共重合体(BCPP)とプロピレン単独重合体(HPP)に変更した以外は、実施例−1と同様の処理を行いMFRと射出成形品の物性を測定し、射出成形品のウエルド外観及びフローマーク外観を評価した。表2に評価結果を示した。
【0097】
実施例−3
表1に示したプロピレン−エチレンブロック共重合体(BCPP)とプロピレン単独重合体(HPP)に変更し、エチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)としてエチレン−ブテン−1ランダム共重合体ゴムEBR−1(三井化学(株)製タフマーA0250:密度0.861g/cm3、MFR(230℃、2.16kg荷重)g/10分)は0.46であった。)を10重量%、エチレン−ブテン−1ランダム共重合体ゴムEBR−2(三井化学(株)製タフマーA0550:密度0.861g/cm3、MFR(230℃、2.16kg荷重)g/10分)は0.94であった。)を9重量%とした以外は実施例−1と同様の処理を行いMFRと射出成形品の物性を測定し、射出成形品のウエルド外観及びフローマーク外観を評価した。表2に評価結果を示した。
【0098】
比較例−2
表1に示したプロピレン−エチレンブロック共重合体(BCPP)とプロピレン単独重合体(HPP)に変更した以外は実施例−3と同様の処理を行いMFRと射出成形品の物性を測定し、射出成形品のウエルド外観と及びフローマーク外観を評価した。表2に評価結果を示した。
【0099】
【表1】

*1)ウエルドの目視による目立ち易さ
○:ウエルドが目立たなかった。
×:ウエルドが目立った。
*2)フローマークの目視による目立ち易さ
○:フローマークが目立たなかった。
△:フローマークがやや目立った。
×:フローマークが目立った。
【0100】
本発明の要件を満足する実施例−1〜3であるポリプロピレン系樹脂組成物およびそれからなる成形体は、ウエルド外観とフローマーク外観に優れ、かつ、流動性に優れ、高い剛性と耐衝撃性の良好なバランスを有するものであることが分かる。
【0101】
比較例−1、−2は、ポリプロピレン樹脂のプロピレン−エチレンランダム共重合体部分の極限粘度[η]EPが本発明の要件を満足しないため、フローマーク外観が十分でなく、剛性と靭性、耐衝撃性のバランスが十分でないことが分かる。
【0102】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、自動車内外装部品等の高い品質が望まれる分野に使用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】外観を評価するための平板成形体の平面図を示す。
【符号の説明】
【0104】
1 ゲート1
2 ゲート2
3 ウエルド
4 フローマークA
5 フローマークB

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂(A)94〜50重量%と、
炭素数4〜12のα−オレフィンとエチレンとを含有し、密度が0.850〜0.870g/cm3、メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.05〜1g/10分であるエチレン−α−オレフィン共重合体ゴム(B)1〜25重量%と、
無機充填剤(C)5〜25重量%とを含有するポリプロピレン系樹脂組成物(ただし、ポリプロピレン系樹脂組成物の全量を100重量%とする)であって、
前記ポリプロピレン樹脂(A)が、下記の要件(1)と(2)と(3)と(4)とを満足する結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体(A−1)、または、前記ブロック共重合体(A−1)と結晶性プロピレン単独重合体(A−2)とを含有する重合体混合物(A−3)であるポリプロピレン系樹脂組成物。
要件(1):
前記ブロック共重合体(A−1)は、結晶性ポリプロピレン部分55〜90重量%と、プロピレン−エチレンランダム共重合体部分10〜45重量%とを含有する結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体である(ただし、前記ブロック共重合体の全量を100重量%とする)。
要件(2):
前記ブロック共重合体(A−1)の結晶性ポリプロピレン部分が、
プロピレン単独重合体、または、
エチレンおよび炭素数4以上のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンと、プロピレンとの共重合体であり、
前記結晶性ポリプロピレン部分が、エチレンおよび炭素数4以上のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンと、プロピレンとの共重合体である場合、エチレンおよび炭素数4以上のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンの含有量が1モル%以下である(ただし、エチレンおよび炭素数4以上のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種のオレフィンと、プロピレンとの共重合体の全量を100モル%とする)。
要件(3):
前記ブロック共重合体(A−1)のプロピレン−エチレンランダム共重合体部分に含有されるプロピレンとエチレンの含有量の比(プロピレン/エチレン(重量/重量))が、70/30〜50/50である。
要件(4):
前記ブロック共重合体(A−1)のプロピレン−エチレンランダム共重合体部分の極限粘度[η]EP-A-1が4〜5.5dl/g以下である。
【請求項2】
ポリプロピレン樹脂(A)が、さらに、結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体(A−4)を含有し、前記ブロック共重合体(A−4)に含有されるプロピレン−エチレンランダム共重合体部分の極限粘度[η]EP-A-4が2〜3dl/gである請求項1記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ブロック共重合体(A−1)に含有されるプロピレン−エチレンランダム共重合体部分の含有量が、ポリプロピレン系樹脂組成物の6重量%以下である請求項1記載のポリプロピレン系樹脂組成物(ただし、ポリプロピレン系樹脂組成物の全量を100重量%とする)。
【請求項4】
無機充填剤(C)が、タルクである請求項1〜3のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物からなる射出成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−193644(P2006−193644A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7567(P2005−7567)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】