説明

ポリペプチド、及びユビキチン化タンパク質の回収方法

【課題】非変性条件下でユビキチン化タンパク質を回収できるポリペプチド及び回収方法等の提供。
【解決手段】該ユビキチン化タンパク質の回収方法は、特定のアミノ酸配列からなるポリペプチドが固定化された担体を試料に接触させることで、試料に含まれるユビキチン化タンパク質をポリペプチドに結合させる捕捉手順と、このポリペプチドを2−メルカプトエタノールを添加して担体から解離させることで、ユビキチン化タンパク質を溶出する溶出手順と、を有する。これにより、ユビキチン化タンパク質は、その結合性タンパク質に結合された複合体として得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユビキチン化タンパク質を回収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の多くは、様々な翻訳後修飾を受けることで機能調節されている。その中でも、ユビキチン化は、パーキンソン病やある種の癌等の様々な重篤な疾患への関与が報告されていることからも、注目すべき翻訳後修飾の一つである。ここで、ユビキチンとは、76アミノ酸からなる分子量の極めて小さなタンパク質である。
【0003】
ユビキチン化は、一分子のユビキチンが修飾されるモノユビキチン化と、鎖状に連なった複数のユビキチンが修飾されるポリユビキチン化とに分類される。更に、ポリユビキチン化は、ユビキチン分子同士の結合に使われるアミノ酸(リジン残基)の違いによって、機能的に細分化される。即ち、ユビキチンの48番目のリジン残基を介して起こるK48結合型ユビキチン化はタンパク質分解を誘発する一方、他のリジン残基を介したユビキチン化(K63等)やモノユビキチン化は、エンドサイトーシスや細胞内タンパク質輸送制御といった、タンパク質分解とは異なる細胞内機能に関与している。
【0004】
多くのタンパク質が、分解や活性制御のためにユビキチン化されることが既に報告されているが、そのユビキチン化は、緻密に制御された調節機構に基づいて行われる。例えば、タンパク質のユビキチン化は、ユビキチンリガーゼにより触媒されるが、このユビキチンリガーゼは、特定のタンパク質のみをユビキチン化する基質特異性を有している。従って、ユビキチン化されるタンパク質(基質)の種類に匹敵する数だけのユビキチンリガーゼが細胞内に存在することが予想される。
【0005】
そこで、ユビキチンリガーゼ及び基質の関連性を探索するため、まずユビキチン化タンパク質を回収する必要がある。従来行われている回収方法は、抗原抗体反応を用いるものであり、具体的には、担体に固定化された抗ユビキチン抗体で、細胞溶解液から免疫沈降させて回収する方法である(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−238096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した従来技術では、担体上に捕捉したポリユビキチン化タンパク質を溶出する際、酸やアルコールといった変性剤を用いる必要がある。この過程で、ユビキチン化タンパク質が変性するため、ユビキチンリガーゼ等の結合タンパク質が分離する。このため、ユビキチン化の調節機構を解明することが困難である。
【0007】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、その第1の目的は、非変性条件下でユビキチン化タンパク質を回収できるポリペプチド及び回収方法、並びに、ユビキチン化タンパク質に結合する結合タンパク質の特定方法、ポリペプチドに結合する抗体又は抗体フラグメント、ポリペプチドをコードするDNA分子、このDNAを有するベクター、このベクターが導入された形質転換体を提供することである。
【0008】
また、本発明の第2の目的は、非変性条件下でユビキチン化タンパク質を回収できるポリペプチドのスクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、抗体の代わりに、ユビキチンへの結合に必要なアミノ酸配列を有するポリペプチドを使用すれば、このポリペプチドに結合するユビキチン化タンパク質を非変性条件下で回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) ユビキチンへの結合能を有する以下の(a)又は(b)のポリペプチド。
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、且つ、ユビキチンへの結合能を有するポリペプチド
【0011】
(2) 担体に結合及び解離可能なタグを更に有する(1)記載のポリペプチド。
【0012】
(3) 前記タグは、1以上のシステイン分子を有する(2)記載のポリペプチド。
【0013】
(4) ユビキチン化タンパク質の回収方法であって、
(1)から(3)いずれか記載のポリペプチドが固定化された担体を試料に接触させることで、前記試料に含まれるユビキチン化タンパク質を前記ポリペプチドに結合させる捕捉手順と、
前記ポリペプチドを前記担体から解離させることで、前記ユビキチン化タンパク質を溶出する溶出手順と、を有する回収方法。
【0014】
(5) 前記ポリペプチドは、ジスルフィド結合を介して前記担体に固定化され、
前記溶出手順は、還元剤を添加することで、前記ポリペプチドを前記担体から解離させる手順である(4)記載の回収方法。
【0015】
(6) ユビキチン化タンパク質に結合する結合タンパク質の特定方法であって、
(1)から(3)いずれか記載のポリペプチドが固定化された担体を試料に接触させることで、前記試料に含まれるユビキチン化タンパク質を前記ポリペプチドに結合させる捕捉手順と、
前記ポリペプチドを前記担体から解離させて得られる溶出液から、前記ユビキチン化タンパク質を回収する回収手順と、
前記ユビキチン化タンパク質とともに回収された前記結合タンパク質のアミノ酸配列を決定し、既知のアミノ酸配列と比較することで前記結合タンパク質を同定する同定手順と、を有する特定方法。
【0016】
(7) 前記回収手順は、前記ユビキチン化タンパク質に結合する抗体と、抗ユビキチン抗体とを用いて、前記ユビキチン化タンパク質を沈降させる手順である(6)記載の特定方法。
【0017】
(8) (1)から(3)いずれか記載のポリペプチドに結合する抗体又は抗体フラグメント。
【0018】
(9) (1)から(3)いずれか記載のポリペプチドをコードするDNA分子。
【0019】
(10) (9)記載のDNA分子を有するベクター。
【0020】
(11) (10)記載のベクターが導入された形質転換体。
【0021】
(12) ユビキチンへの結合に必要なアミノ酸配列のスクリーニング方法であって、
ユビキチンへの結合に必要なアミノ酸配列を有するユビキチン結合性タンパク質の一部が削除された変異ポリペプチドの各々を、ユビキチンに接触させる接触手順と、
前記変異ポリペプチドの各々へのユビキチンの結合を判定する判定手順と、
ユビキチンが結合すると判定された前記変異ポリペプチドから、最短のアミノ酸配列を選別する選別手順と、を有するスクリーニング方法。
【0022】
(13) 前記ユビキチン結合性タンパク質は、以下の式で示されるアミノ酸配列からなるユビキチン結合モチーフを有する(12)記載のスクリーニング方法。
XeeeXΦXXAXXXSXXe
(式中、eは酸性アミノ酸、Φは疎水性アミノ酸、Xは任意のアミノ酸を示す)
【0023】
(14) 前記ユビキチン結合性タンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列からなるヒトASB2aである(12)又は(13)記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、非変性条件下でユビキチン化タンパク質を回収できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明が特に限定されるものではない。
【0026】
<ポリペプチド>
本発明のポリペプチドは、(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は、(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、且つ、ユビキチンへの結合能を有するポリペプチドである。
【0027】
変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。
【0028】
あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有する蛋白質がその生物学的活性を維持することは既に知られている(Mark,D.F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)81,5662−5666、Zoller,M.J.& Smith,M.Nucleic Acids Research(1982)10,6487−6500、Wang,A.et al.,Science 224,1431−1433、Dalbadie−McFarland,G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1982)79,6409−6413)。
【0029】
配列番号1のアミノ酸配列は、後述する実施例に示されるように、ヒトASB2aの13番目〜41番目に位置し、ユビキチンへの結合に必要なアミノ酸配列である。ただし、アミノ酸配列の由来は、ヒトに限らず任意であってよい。
【0030】
このヒトASB2aは、Ubiquitine interacting motif(UIM)と呼ばれるユビキチン結合モチーフを26番目〜41番目の位置に有し、ユビキチンリガーゼを構成するタンパク質である(配列表、図1(A)参照)。
【0031】
UIMのアミノ酸配列は高度に保存されており、以下の式で示されるアミノ酸配列をコンセンサス配列とする。
XeeeXΦXXAXXXSXXe
(式中、eは酸性アミノ酸(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸)、Φは疎水性アミノ酸(例えば、アラニン、メチオニン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン)、Xは任意のアミノ酸を示す)
【0032】
本発明のポリペプチドは、より穏和な条件下でユビキチン化タンパク質を溶出できる点で、担体に結合及び解離可能なタグを更に有することが好ましい。このようなタグとしては、例えば、システイン、ポリヒスチジン、ビオチン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)が挙げられる。これらタグを用いてポリペプチドを担体に固定化する技術は、いずれも周知である。
【0033】
これらのうち、小分子であり、回収されるユビキチン化タンパク質への夾雑物の混入を抑制できる点で、システイン、ポリヒスチジン、ビオチンが好ましい。また、ポリペプチドを人工的に合成する場合には、安価にポリペプチドを合成できる点で、システインがより好ましい。システイン分子の数は、ポリペプチド1分子につき1分子以上であってよいが、担体への結合性に問題がない限りにおいて1分子で充分である。
【0034】
タグの位置は、特に限定されないが、本発明のポリペプチドの特性変化を抑制するため、N末端であることが好ましい。
【0035】
[作製方法]
本発明のポリペプチドは、従来公知の方法で作製でき、具体的には、化学的に合成する方法(例えば、固相合成法、Fmoc法、t−Boc法)、細胞培養を通じて合成する方法が挙げられる。しかし、ポリペプチドの純度に優れ、ユビキチン化タンパク質への夾雑物の混入を抑制できる点で、化学的に合成する方法が好ましい。
【0036】
なお、細胞培養は、後述するポリペプチドをコードするDNAを有する発現ベクターが導入された形質転換体を用いて行われてよい。形質転換体の培養は、ポリペプチドが大量に且つ容易に取得できるように、形質転換体の種類等に応じて、公知の栄養培地から適宜選択し、温度、栄養培地のpH、培養時間等を適宜調整して行うことができる。
【0037】
ポリペプチドの単離方法及び精製方法としては、特に限定されず、溶解度を利用する方法、分子量の差を利用する方法、荷電を利用する方法等の公知の方法(例えば、特開平11−29599号公報参照)が挙げられる。
【0038】
<抗体・抗体フラグメント>
本発明は、前述したポリペプチドに結合する抗体も包含する。本発明の抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれでもよい。また、抗体には、ウサギ等の免疫動物に本発明のポリペプチドを免疫して得られる抗血清、全クラスのポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体、ヒト抗体や遺伝子組換えによるヒト型化抗体、種々の修飾が施された抗体が含まれる。
【0039】
なお、本発明の抗体の作成方法としては、例えば、従来公知のハイブリドーマ法が挙げられる(Kohler and Milstein, Nature 256: 495 (1975))。
【0040】
また、本発明の抗体フラグメントとしては、Fab、F(ab’)2、Fv又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェーンFv(scFv)(Huston, J. S. et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1988)85,5879−5883)が挙げられる。
【0041】
<DNA分子>
本発明のDNAは、センス鎖(例えば、タンパク質合成に適用できる)又はアンチセンス鎖(例えば、プローブとして使用できる)のいずれでもよく、その形状は一本鎖と二本鎖のいずれでもよい。また、ゲノムDNAであっても、cDNAであっても、合成されたDNAであってもよい。
【0042】
本発明のDNAを取得する方法としては、特に限定されないが、mRNAから逆転写することでcDNAを得る方法(例えば、RT−PCR法)、ゲノムDNAから調整する方法、化学合成により合成する方法、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーから単離する方法等の公知の方法(例えば、特開平11−29599号公報参照)が挙げられる。
【0043】
<ベクター>
本発明のベクターは、適当なベクターに上述のDNAを挿入することにより作製できる。
【0044】
「適当なベクター」とは、原核生物及び/又は真核生物の各種の宿主内で複製保持又は自己増殖できるものであればよく、使用の目的に応じて適宜選択できるものである。例えば、ポリペプチドを取得したい場合には発現ベクターを選択でき、DNAを大量に取得したい場合には高コピーベクターを選択できる。
【0045】
<形質転換体>
本発明の形質転換体は、前述のDNAを含むベクターを宿主に導入することにより、作製できる。
【0046】
このような宿主は、本発明のベクターに適合し形質転換され得るものであればよく、その具体例としては、特に限定されないが、細菌、酵母、動物細胞、昆虫細胞等の、公知の天然細胞もしくは人工的に樹立された細胞(特開平11−29599号公報参照)が挙げられる。
【0047】
ベクターの導入方法は、ベクターや宿主の種類等に応じて適宜選択できるものである。その具体例としては、特に限定されないが、プロトプラスト法、コンピテント法等の公知の方法(例えば、特開平11−29599号公報参照)が挙げられる。
【0048】
<回収方法>
本発明のポリペプチドによれば、非変性条件下でユビキチン化タンパク質を回収できる。このような本発明の回収方法は、捕捉手順と、溶出手順とを有する。各手順の詳細について、以下に説明する。
【0049】
(捕捉手順)
捕捉手順は、本発明のポリペプチドが固定化された担体を試料に接触させることで、試料に含まれるユビキチン化タンパク質をポリペプチドに結合させる手順である。
【0050】
担体へのポリペプチドの固定化は、非変性条件下で解離できる様式であれば特に限定されない。具体的には、ポリペプチドが有するシステイン、ポリヒスチジン、アビジン等のタグと、担体が有するシステイン、ニトリロ三酢酸及びニッケルイオン、ストレプトアビジン等とを結合させればよい。この中でも、システイン分子同士によるジスルフィド結合を介する固定化が、安価にポリペプチドを合成できる点で、より好ましい。
【0051】
(溶出手順)
溶出手順は、ポリペプチドを担体から解離させることで、ユビキチン化タンパク質を溶出する手順である。即ち、ポリペプチドを担体から解離させると、ポリペプチドが溶出することに伴い、このポリペプチドに結合したユビキチン化タンパク質が溶出する。
【0052】
解離の様式は、固定化の様式に応じて適宜設定される。即ち、ポリペプチドが有するシステインを用いて固定化を行った場合、解離は還元剤を用いて行われ、ポリペプチドが有するポリヒスチジンを用いて固定化を行った場合、解離はイミダゾールを用いて行われ、ポリペプチドが有するアビジンを用いて固定化を行った場合、解離はビオチン誘導体であるデスチオビオチンを用いて行われてよい。これらの解離様式は、いずれも非変性条件にある。
【0053】
本発明の回収方法を通じて得られる溶出液は、非変性条件下で得られるものであるため、ユビキチン化タンパク質と、このユビキチン化タンパク質に結合する結合タンパク質とを有するライブラリーを含有する。従って、本発明の回収方法は、これらユビキチン化タンパク質及び結合タンパク質のライブラリーを包含するものである。このライブラリーは、溶液状、固体状、又は後述する基盤上に配列された状態等、任意の形態で保存されてよい。
【0054】
<特定方法>
本発明は、ユビキチン化タンパク質に結合する結合タンパク質の特定方法も包含する。この特定方法は、捕捉手順と、回収手順と、同定手順とを有する。捕捉手順は前述した回収方法と共通するため、回収手順及び同定手順について以下説明する。
【0055】
(回収手順)
回収手順は、ポリペプチドを担体から解離させて得られる溶出液から、ユビキチン化タンパク質を回収する手順である。即ち、前述した回収方法で得られるユビキチン化タンパク質及び結合タンパク質のライブラリーから、目的のユビキチン化タンパク質と、このユビキチン化タンパク質の結合タンパク質とを精製する。例えば、溶出液に対して、目的のユビキチン化タンパク質に対する抗体と、抗ユビキチン抗体とを用いて共免疫沈降処理を行えばよい。
【0056】
(同定手順)
同定手順は、ユビキチン化タンパク質とともに回収された結合タンパク質のアミノ酸配列を決定し、既知のアミノ酸配列と比較することで結合タンパク質を同定する手順である。例えば、回収手順で回収された目的のユビキチン化タンパク質と、このユビキチン化タンパク質の結合タンパク質とを電気泳動し、染色(例えば、銀染色)し、観察されたバンドに存在するタンパク質のアミノ酸配列を質量分析で決定する。続いて、決定されたアミノ酸配列を、データベース等に保存された既知のアミノ酸配列と比較して、結合タンパク質を同定する。
【0057】
本発明の特定方法によれば、多種多様に亘るユビキチン化タンパク質が回収され、このユビキチン化タンパク質の結合タンパク質が特定される。従って、本発明の特定方法は、個別の基質に対するユビキチン化機構に関する深遠な調査のみならず、網羅的なユビキチン化機構の解析にも寄与できる。
【0058】
<スクリーニング方法>
本発明のポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列からなるものとしたが、これに限られず、以下のスクリーニング方法によって得られる、ユビキチンへの結合に必要なアミノ酸配列によっても、ユビキチン化タンパク質を非変性条件下で回収できることが期待される。
【0059】
本発明のスクリーニング方法は、接触手順と、判定手順と、選別手順とを有する。各手順の詳細について、以下に説明する。
【0060】
(接触手順)
接触手順は、ユビキチンへの結合に必要なアミノ酸配列を有するユビキチン結合性タンパク質の一部が削除された変異ポリペプチドの各々を、ユビキチンに接触させる手順である。これにより、ユビキチン結合能を有する変異ポリペプチドにはユビキチンが結合するが、ユビキチン結合能を有しない変異ポリペプチドにはユビキチンが結合しない。
【0061】
ユビキチン結合性タンパク質は、以下の式で示されるアミノ酸配列からなるユビキチン結合モチーフを有することが好ましく、ヒトASB2aであることがより好ましい。
XeeeXΦXXAXXXSXXe
(式中、eは酸性アミノ酸、Φは疎水性アミノ酸、Xは任意のアミノ酸を示す)
【0062】
なお、UIMは、26SプロテアソームのサブユニットS5aに存在するユビキチン結合モチーフとして最初に発見され、現在では、特にエンドサイトーシスや小胞輸送等の膜輸送系に関与する多くのタンパク質中に存在することが明らかになっている。具体的には、UIMは、前述したヒトASB2aの他、HRS、Eps15、epsin(A single motif responsible for ubiquitin recognition and monoubiquitination in endocytic proteins. Polo S ,Sigismund S ,Faretta M ,Guidi M ,Capua MR ,Bossi G ,Chen H ,De Camilli P ,Di Fiore PP . Nature. 2002;416(6879):451−5)、Rpn10(Structural determinants for the binding of ubiquitin−like domains to the proteasome. Mueller TD ,Feigon J . EMBO J. 2003;22(18):4634−45.Characterization of two polyubiquitin binding sites in the 26 S protease subunit 5a. Young P ,Deveraux Q ,Beal RE ,Pickart CM ,Rechsteiner M . J Biol Chem. 1998;273(10):5461−7)、MJD1(Defining the role of ubiquitin−interacting motifs in the polyglutamine disease protein, ataxin−3. Berke SJ ,Chai Y ,Marrs GL ,Wen H ,Paulson HL . J Biol Chem. 2005;280(36):32026−34)、Ufo1(Unique role for the UbL−UbA protein Ddi1 in turnover of SCFUfo1 complexes. Ivantsiv Y ,Kaplun L ,Tzirkin−Goldin R ,Shabek N ,Raveh D . Mol Cell Biol. 2006;26(5):1579−88)、MEKK1(Non−traditional functions of ubiquitin and ubiquitin−binding proteins. Schnell JD ,Hicke L . J Biol Chem. 2003;278(38):35857−60)等の種々のタンパク質の中に存在する(図1(B)参照)。
【0063】
大部分のタンパク質では、一分子中に複数のコンセンサス配列がタンデムに存在するが、ASB2aやHRSでは、一分子中に一つのコンセンサス配列しか存在しないことが特徴的である。即ち、ASB2a又はHRSが有するUIMは、それ自身で、ユビキチン結合能を発揮する。従って、ASB2a又はHRSの変異ポリペプチドを用いれば、ユビキチン結合能を有するために最低限必要な短いアミノ酸配列が得られることが期待される。アミノ酸配列が短いことは、そのポリペプチドを安価に合成できる点、及び夾雑物の混入を抑制できる点において有利である。
【0064】
なお、変異ポリペプチドの作製方法は、特に限定されないが、例えば、変異ポリペプチドの各々をコードするDNAを有する発現ベクターを作成し、この発現ベクターを導入した形質転換体を培養し変異ポリペプチドを合成させ、合成された変異ポリペプチドを精製すればよい。精製用タグが融合した形で変異ポリペプチドが合成されるように発現ベクターを作成すれば、変異ポリペプチドの精製が容易となる。このような精製系は、従来周知であり、例えば、グルタチオンが担持された担体及びGSTタグを使用する系、マルトースが担持された担体及びMBPタグを使用する系であってよい。
【0065】
(判定手順)
判定手順は、変異ポリペプチドの各々へのユビキチンの結合を判定する手順である。ユビキチンの結合の有無は、例えば、各変異ポリペプチドを担体から解離させて得られる溶出液を電気泳動し、抗ユビキチン抗体を用いて免疫ブロッティングを行うことで判定できる。即ち、抗ユビキチン抗体の存在を示すバンドが確認されれば、溶出液中に変異タンパク質とともにユビキチンが存在し、これらが互いに結合することが示唆される。
【0066】
(選別手順)
ユビキチンが結合すると判定された変異ポリペプチドから、最短のアミノ酸配列を選別する手順である。これにより、ユビキチンに結合するために最低限必要なアミノ酸配列が選別される。このようなアミノ酸配列からなるポリペプチドは、ユビキチン化タンパク質を非変性条件下で回収できることに加え、安価に合成できる点及び夾雑物の混入を抑制できる点において有利である。
【0067】
<その他>
[記録媒体]
新規なユビキチン化タンパク質や結合タンパク質のアミノ酸配列は、コンピュータ読み取り可能記録媒体に保存されてよい。この記録媒体によれば、保存されているアミノ酸配列を、コンピュータを用いてデータベース化することができ、配列情報としても活用できる。
【0068】
記録媒体としては、コンピュータ読み取り可能であれば、特に限定されず、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ等の磁気媒体、CD−ROM、MO、CD−R、CD−RW、DVD−R、DVD−RAM等の光ディスク、半導体メモリ等が挙げられる。
【0069】
[網羅的解析用ツール]
本発明のポリペプチド及びDNA、並びに、これらの部分断片は、基盤上に結合された状態で使用することもできる。このようなツールは、ユビキチン化機構の網羅的な解析のために使用できる。
【0070】
基盤としては、特に限定されないが、ナイロン膜、ポリプロピレン膜等の樹脂基板、ニトロセルロース膜、ガラスプレート、シリコンプレート等が挙げられる。また、ハイブリダイゼーションの検出を、例えば蛍光物質といった非放射性同位体物質を用いて行う場合、基盤として、蛍光物質を含まないガラスプレート、シリコンプレート等を好ましく使用できる。なお、ポリペプチドやDNAの基板上への結合は、公知の方法で行うことができる。
【実施例】
【0071】
<実施例1> スクリーニング方法
ヒトASB2aに着目した出願人は、ユビキチン結合性タンパク質としてのヒトASB2aから、ユビキチンへの結合に必要なアミノ酸配列のスクリーニングを行った。まず、図2(A)に示されるヒトASB2acDNAから、ヒトASB2aアミノ酸配列(配列番号3)の1〜68番目、1〜41番目、12〜68番目、26〜68番目、12〜41番目、26〜41番目からなる変異ポリペプチドをコードするDNA分子をそれぞれ作製し、大腸菌発現用の発現ベクターである「pGEX−2TK」(GEヘルスケア社製)の挿入部位に挿入した。挿入は、変異ポリペプチドのN末端側にGSTタグが融合した形でタンパク質発現がなされるように行った。この発現ベクターを大腸菌BL21株に導入して形質転換体を作製した。この形質転換体を2xYT培地(終濃度100μg/mLのアンピシリンを含む)で終夜30℃にて培養し、翌日、この終夜培養液を新しい2×YT培地(終濃度100μg/mLのアンピシリンを含む)に種菌し、30℃で2時間更に培養した。次に、培養液に、終濃度が0.4mMとなるようにIPTGを添加し、30℃で2時間培養することでタンパク質発現を誘導した。
【0072】
培養液を遠心分離して菌体を回収し、冷PBSで洗浄した。菌体を50mLの溶解用緩衝液(50mM リン酸緩衝液(pH8.0)、300mM NaCl、1%「protease inhibitor cocktail」(Sigma社製))で懸濁し、超音波破砕機により破砕した。その遠心上清を菌体溶解液として回収し、この菌体溶解液を、グルタチオンを担持した「グルタチオンセファロース4B」(GEヘルスケア社製)とともに、1〜2時間に亘ってインキュベーションすることで、各変異ポリペプチドを「グルタチオンセファロース4B」ビーズに固定した。ビーズを、10倍容量の洗浄用緩衝液(50mM リン酸緩衝液(pH8.0)、300mM NaCl)で3回洗浄することで、各変異ポリペプチドを担体に固定化した。
【0073】
一方、ヒト子宮頸由来HeLa細胞を、直径10cmの組織培養ディッシュに1枚当り3.75x10個の細胞密度で播種し、翌日、無血清培地に交換した。更に翌日、細胞を冷PBSで2回洗浄し、ディッシュ1枚当り500μLの溶解緩衝液(50mMリン酸緩衝液(pH7.0)、150mM NaCl、1mM EDTA、0.5% NP−40、1%プロテアーゼインヒビターカクテル、10mMヨードアセトアミド、1mM NaVO、10mM N−エチルマレイミド)を加えた。直ちにセルスクレイパーを用いて細胞を剥離し、回収した溶解液を氷上で30分間静置した後、17,500g、4℃にて30分間遠心した。得られた細胞溶解液を試料とした。
【0074】
図2(A)に示されるように、細胞溶解液には、ユビキチンが結合したタンパク質の他、ユビキチンが結合しなかったタンパク質、及び遊離ユビキチン等の種々の物質が混在している。このような細胞溶解液を、変異ポリペプチドが固定化されたカラムを通過させることで、変異ポリペプチドの各々を、ユビキチンに接触させた。以上は、接触手順の一例である。
【0075】
カラムを洗浄することで、カラム中に残存する夾雑物を除去した後、変異ポリペプチドを担体から解離させ、溶出液を得た。得られた各溶出液に含有された物質を、SDS−PAGE法にて分離した。分離後のタンパク質を、ゲルからPVDF膜へと転写し、この膜を、TBST(50mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl、0.2%「Tween20(登録商標)」)に溶解した5%スキムミルク中で、室温にて2時間反応させた。膜をTBSTで洗浄し(10分間、3回)、抗ユビキチンモノクローナル抗体(一次抗体)で室温にて一晩反応させた。その後、膜をTBSTで洗浄し(10分間、3回)、一次抗体に対応したHRP標識二次抗体で、室温にて1時間反応させた。膜をTBSTで洗浄し(10分間、3回)、「ECL Western blotting detection reagents(商品名)」(Amarsham Biosciences社製)で反応させた後、X線フィルムに露光させた。この結果を、図2(B)に示す。
【0076】
図2(B)に示されるように、ユビキチンの結合が認められた変異ポリペプチドは、ヒトASB2aタンパク質の1〜68番目、1〜41番目、12〜68番目、12〜41番目のアミノ酸配列からなっていた。一方、26〜68番目、26〜41番目のアミノ酸からなる変異ポリペプチドへのユビキチンの結合は認められなかった。以上は、判定手順の一例である。
【0077】
ユビキチンが結合する変異ポリペプチドから選別される最短のアミノ酸配列は、ヒトASB2aタンパク質の12〜41番目のアミノ酸配列であった。以上は、選別手順の一例である。なお、ヒトASB2aタンパク質の12〜41番目のアミノ酸配列は、配列表の配列番号1のアミノ酸配列のN末端にシステインが付加された配列に等しい。
【0078】
<実施例2> ユビキチン化タンパク質の回収方法
次に、ヒトASB2aタンパク質の12〜41番目のアミノ酸配列からなるポリペプチドを、化学的に合成した(図5において「WT」と表記する)。このポリペプチドを、担体であるセファロースレジン「Activated Thiol Sepharose 4B(商品名)」(アマシャムバイオサイエンス社製)に固定化し(捕捉手順)、実施例1と同様の手順でユビキチン化タンパク質との結合活性の有無を調べた。
【0079】
なお、この実施例において、ポリペプチドの16〜18番目に位置する「EDE」を、「AAA」に置換した変異ポリペプチドを対照区(図5において「MT」と表記する)として使用した。この3つの酸性アミノ酸は、ユビキチンへの結合に極めて重要な役割を果たすことが既に報告されている(A single motif responsible for ubiquitin recognition and monoubiquitination in endocytic proteins. Polo S ,Sigismund S ,Faretta M ,Guidi M ,Capua MR ,Bossi G ,Chen H ,De Camilli P ,Di Fiore PP . Nature. 2002 Mar 28;416(6879):451−5.、Analysis of the role of ubiquitin−interacting motifs in ubiquitin binding and ubiquitylation. Miller SL ,Malotky E ,O’Bryan JP . J Biol Chem. 2004;279(32):33528−37)。
【0080】
この実験系において、ポリペプチドは、そのN末端に存在するシステイン分子を用い、ジスルフィド結合を介して「Activated Thiol Sepharose 4B」に固定化されるため、2−メルカプトエタノール(2−ME)等の還元剤で、レジンから溶出できる(図3参照)。従って、ポリペプチドにユビキチン化タンパク質との結合活性があれば、レジンに捕捉されたユビキチン化タンパク質を変性させることなく、タンパク質間相互作用を破壊しない穏和な条件で溶出できる(図4参照)。
【0081】
ポリペプチドを固定化した「Activated Thiol Sepharose 4B」を、実施例1で用いた細胞溶解液と混合した後、2−MEを添加することで、ポリペプチドをレジンから溶出した(溶出手順)。この溶出液を用い、実施例1と同様の手順で、ユビキチンの存在を確認した。この結果を図5に示す。
【0082】
図5に示されるように、ポリペプチド(WT)とともに溶出した画分には、幅広い分子量に亘るユビキチン化タンパク質の存在が確認された。一方、ユビキチンへの結合活性を失っていると予想される変異ポリペプチド(MT)とともに溶出した画分には、ユビキチン化タンパク質の存在が確認されなかった。従って、ヒトASB2aタンパク質由来のポリペプチドは、化学的に合成しても、ユビキチン化タンパク質との結合活性を保持することが示された。
【0083】
<実施例3>
実施例2で使用したポリペプチド固定化レジンを、48番目のリジン残基を介して互いに結合されたオリゴユビキチン分子(図6において「K48」と表記する)、又は63番目のリジン残基を介して互いに結合されたオリゴユビキチン分子(図6において「K63」と表記する)と混合した。オリゴユビキチン分子は、1〜7分子が結合された各々を用いた。その後、実施例2と同様の手順で、ユビキチン化タンパク質を溶出し、溶出画分におけるユビキチン(Ub)の存在を確認した。この結果を図6に示す。
【0084】
図6に示されるように、ポリペプチド(WT)とともに溶出した画分には、K48及びK63のいずれの様式で結合したオリゴユビキチン分子も存在した。一方、ユビキチンへの結合活性を失っていると予想される変異ポリペプチド(MT)とともに溶出した画分には、K48及びK63のいずれの様式で結合したオリゴユビキチンの存在も確認されなかった。従って、ヒトASB2aタンパク質由来のポリペプチドによれば、試料中に存在するあらゆる種類のユビキチン化タンパク質を回収できることが期待される。
【0085】
また、ポリペプチド(WT)とともに溶出した画分には、モノユビキチン分子の存在を確認できなかった。従って、ヒトASB2aタンパク質由来のポリペプチドによれば、試料中に存在する遊離のユビキチンが結合しないので、回収物への夾雑物の混入を抑制できることも期待される。
【0086】
<実施例4>
増殖因子の一つであるEGF(Epidermal Growth Factor)は、その受容体であるEGFR(EGF Receptor)に結合すると、EGFRのリン酸化を引き金とした細胞内シグナル伝達の活性化を誘導する。それに伴って負の制御機構が同時に働き、間もなくEGFRはエンドサイトーシスで細胞内に取り込まれる。その機構に重要な役割を果たすのがCblであり、このCblは、EGF刺激依存的にEGFRをモノユビキチン化するユビキチンリガーゼである。Cblは、過剰なモノユビキチン化を抑えるために、別のユビキチンリガーゼであるNedd4により、K48結合型でポリユビキチン化されることが既に報告されている。しかし、最近、EGF刺激依存的なEGFRのユビキチン化には、モノユビキチン化のみならず、K63結合型のポリユビキチン化も含まれることが明らかになってきた(図7参照)。このモデルについて、本発明のポリペプチドの適用を試みた。
【0087】
まず、ヒト子宮頸由来HeLa細胞を、直径10cmの組織培養ディッシュに1枚当り3.75x10個の細胞密度で播種し、翌日、無血清培地に交換した。更に翌日、50ng/mLのEGFを5分間処理した後、実施例1と同様の手順で細胞溶解液(図8〜9において「+」と表記する)を得た。一方、EGF処理を行わない対照区として、実施例1で得た細胞溶解液(図8〜9において「−」と表記する)を使用した。各細胞溶解液を用い、実施例2と同様の手順で、ユビキチン(Ub)の存在を確認した。また、一次抗体として、抗EGFR抗体、抗Cbl抗体を用いた以外は、実施例2と同様の手順で、EGFR、Cblの存在を確認した。この結果を併せて図8に示す。
【0088】
図8上段に示されるように、ポリペプチド固定化レジンを用い、ポリペプチドとともに溶出した画分には、EGF処理の有無に関わらず、幅広い分子量に亘る多様なユビキチン化タンパク質の存在が確認された。また、図8中段、下段に示されるように、EGF処理を行った画分には、EGFR、Cblの存在を示す、幅広い分子量に亘るバンドが検出された。以上をまとめると、この溶出画分には、K63結合型のユビキチン化EGFR(図8中段のバンド)、K48結合型のユビキチン化Cbl(図8下段の上側バンド)、及びユビキチン化タンパク質に結合したCbl(図8下段の下側バンド)のすべてが存在することが明らかになった。
【0089】
<実施例5>
続いて、実施例4で得た溶出画分から、抗EGFR抗体を用いて、ユビキチン化EGFRを沈降させ、精製した。この精製物について、実施例4と同様の手順で、ユビキチン、EGFR、Cblの存在を確認した。この結果を図9に示す。
【0090】
図9上段及び中段に示されるように、精製物には、ユビキチン化EGFRが存在していた。そして、図9下段に示されるように、この精製物には、Cblの存在も確認された。以上から、EGFRとCblとが結合した複合体が、その形態を保持したまま存在することが明らかになった。従って、本発明のポリペプチドを用いることで、ユビキチン化タンパク質及びその結合タンパク質を複合体の形態のまま回収できることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の一実施例に係るスクリーニング方法で用いたユビキチン結合性タンパク質の一次構造を示す図である。
【図2】本発明の一実施例に係るスクリーニング方法で用いた変異ポリペプチドへのユビキチンの結合の有無を示す図である。
【図3】本発明の一実施例に係る回収方法の機構を示す模式図である。
【図4】本発明の一実施例に係る回収方法の機構を示す模式図である。
【図5】本発明の一実施例に係る回収方法を通じて得られるユビキチン化タンパク質の存在を示す図である。
【図6】本発明の一実施例に係る回収方法を通じて得られるオリゴユビキチンの存在を示す図である。
【図7】本発明の一実施例に係る回収方法で用いられた実験系の模式図である。
【図8】本発明の一実施例に係る回収方法で得られるユビキチン化タンパク質及びその結合タンパク質の存在を示す図である。
【図9】本発明の一実施例に係る回収方法で得られるユビキチン化タンパク質及びその結合タンパク質の複合状態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユビキチンへの結合能を有する以下の(a)又は(b)のポリペプチド。
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、且つ、ユビキチンへの結合能を有するポリペプチド
【請求項2】
担体に結合及び解離可能なタグを更に有する請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記タグは、1以上のシステイン分子を有する請求項2記載のポリペプチド。
【請求項4】
ユビキチン化タンパク質の回収方法であって、
請求項1から3いずれか記載のポリペプチドが固定化された担体を試料に接触させることで、前記試料に含まれるユビキチン化タンパク質を前記ポリペプチドに結合させる捕捉手順と、
前記ポリペプチドを前記担体から解離させることで、前記ユビキチン化タンパク質を溶出する溶出手順と、を有する回収方法。
【請求項5】
前記ポリペプチドは、ジスルフィド結合を介して前記担体に固定化され、
前記溶出手順は、還元剤を添加することで、前記ポリペプチドを前記担体から解離させる手順である請求項4記載の回収方法。
【請求項6】
ユビキチン化タンパク質に結合する結合タンパク質の特定方法であって、
請求項1から3いずれか記載のポリペプチドが固定化された担体を試料に接触させることで、前記試料に含まれるユビキチン化タンパク質を前記ポリペプチドに結合させる捕捉手順と、
前記ポリペプチドを前記担体から解離させて得られる溶出液から、前記ユビキチン化タンパク質を回収する回収手順と、
前記ユビキチン化タンパク質とともに回収された前記結合タンパク質のアミノ酸配列を決定し、既知のアミノ酸配列と比較することで前記結合タンパク質を同定する同定手順と、を有する特定方法。
【請求項7】
前記回収手順は、前記ユビキチン化タンパク質に結合する抗体と、抗ユビキチン抗体とを用いて、前記ユビキチン化タンパク質を沈降させる手順である請求項6記載の特定方法。
【請求項8】
請求項1から3いずれか記載のポリペプチドに結合する抗体又は抗体フラグメント。
【請求項9】
請求項1から3いずれか記載のポリペプチドをコードするDNA分子。
【請求項10】
請求項9記載のDNA分子を有するベクター。
【請求項11】
請求項10記載のベクターが導入された形質転換体。
【請求項12】
ユビキチンへの結合に必要なアミノ酸配列のスクリーニング方法であって、
ユビキチンへの結合に必要なアミノ酸配列を有するユビキチン結合性タンパク質の一部が削除された変異ポリペプチドの各々を、ユビキチンに接触させる接触手順と、
前記変異ポリペプチドの各々へのユビキチンの結合を判定する判定手順と、
ユビキチンが結合すると判定された前記変異ポリペプチドから、最短のアミノ酸配列を選別する選別手順と、を有するスクリーニング方法。
【請求項13】
前記ユビキチン結合性タンパク質は、以下の式で示されるアミノ酸配列からなるユビキチン結合モチーフを有する請求項12記載のスクリーニング方法。
XeeeXΦXXAXXXSXXe
(式中、eは酸性アミノ酸、Φは疎水性アミノ酸、Xは任意のアミノ酸を示す)
【請求項14】
前記ユビキチン結合性タンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列からなるヒトASB2aである請求項12又は13記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−199967(P2008−199967A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40239(P2007−40239)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】