ポリペプチドの特徴分析
(a)検体を所定の周波数で光を吸収する光吸収標識体で標識して、標識検体を形成する工程と、(b)標識検体を、光を吸収する少なくとも1つの化合物から形成されるマトリックスに包埋して、包埋標識検体を形成する工程と、(c)包埋標識検体を所定の周波数を有する光を照射することで脱離して、脱離検体を形成する工程と、(d)脱離検体を質量分析法により検出し、検体の特徴を分析する工程とを含み、光吸収標識体は蛍光体部分を含み、検体は質量分析計による検出の前に蛍光体部分に基づいて検出のために選択されることを特徴とするマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非質量系分析法及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法による関連検体の生体分子検出感度を向上する多モードマーカーで検体分子、特には不揮発性の生体分子を標識する方法に関する。詳細には、本発明は、蛍光検出能力を特定の色素の能力と組み合わせて、これらの色素で標識した検体のMALDI質量分析法による検出感度を向上するマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料中のタンパク質の発現を決定する従来の技術は、タンパク質の同定に左右される。タンパク質発現プロファイルは、試料中のできる限り多くのタンパク質を同定し、好ましくは、試料中のタンパク質量を決定することを目標とする。典型的なタンパク質のプロファイリング法は、二次元電気泳動法(2−DE)によるものである(非特許文献1)。この方法では、生体試料から抽出したタンパク質試料が2つの独立した電気泳動法によって分離される。通常、第1の分離はタンパク質の等電点に基づく分離であり、pH勾配のあるゲル充填毛細管又はゲルストリップを使用する。タンパク質はpH勾配に沿って電気泳動的に移動し、最終的にはタンパク質に正味の荷電が存在しなくなるpH、(これを等電点と呼ぶ)、に達するとそれ以上タンパク質は移動できなくなる。試料中の全タンパク質が等電点に達した後、第2の電気泳動法を使って、タンパク質を更に分離する。第2の方法を実施するために、次に、等電点電気泳動ゲルストリップ全体を、長方形のゲルの1つの角に合わせて置く。その後、ストリップ中の分離されたタンパク質を、そのサイズに基づいて、第2ゲルで電気泳動によって分離する。タンパク質は、長方形のアクリルアミド板中の二次元スポット列で解像される。しかし、試料中のタンパク質を相互に分離した後には、タンパク質の検出とその後の同定の問題が残る。現時点でタンパク質を同定する好ましい方法は、ゲル上の特定スポットにあるタンパク質をMALDI−TOF質量分析法を使用してペプチドマスフィンガープリンティング法により分析することである(非特許文献2)が、処理量が限られている。従って、2−DE技術は、ゲルスポット中のタンパク質同定に使用されるペプチドマスフィンガープリンティング法の検出能に制限される。現在の2−Dゲル技術を用いて行われる分析から有効なタンパク質同定の数量を増加する1つの方法は、病気の試料のゲルと参照試料のゲルと比較して違いを同定し、発現差異に対応するスポットに存在するタンパク質を同定するだけである。2つ以上の試料を異なる蛍光体で共有結合標識して同一ゲル上で分離する、改良2−DEゲル技術が開発されている(非特許文献3)。この技術はDIGEと称され、試料対を同じ分析で定量的に比較可能にし、これは異なるゲル上で試料が比較されるという厄介な再現性の問題を避けるために非常に有利である。蛍光標識タンパク質は、ゲル上のタンパク質の視覚化に特に必要とされる追加的な染色工程を経ずに検出可能である。染色が多いとその後に続く質量分析法による解析を妨げるので、染色を避けることは有利である。しかしながら、DIGE法は、ペプチドマスフィンガープリンティング法に対して通常使用するMALDI−TOF解析の感度を高めない。
【0003】
代表的なペプチドマスフィンガープリンティング法のプロトコルでは、未同定タンパク質の質量を決定し、次にトリプシン等の酵素で(ゲル状又は溶解した)タンパク質を消化する。トリプシンは、ポリペプチドをアルギニン及びリジン残基で選択的に開裂し、生じたペプチドのC−末端にアルギニンかリジンを残す。ポリペプチド配列中のリジン及びアルギニンの位置によって、どこでポリペプチドが開裂されて特徴的な一連のペプチドが生じるかが決定する。ペプチドパターンはMALDI−TOF質量分析法により容易に検出できる。この質量分析技術は、質量範囲が広く、大きな生体分子を容易にイオン化可能であり、優先的に1価のイオンを生じるので、この技術ではイオン化の競合が深刻ではない。ただし、競合は問題となる可能性がある。以上のことは、一般的に質量スペクトルではペプチド毎に1つのピークがあり、各ピークの質量電荷比の値はプロトンが加わってイオン化したペプチドの質量と実質的に同じであり、従って、未同定タンパク質のトリプシン消化ペプチドは大部分(時には全て)同時に分析可能であるということを意味する。実際、質量スペクトルは「バーコード」であり、そのスペクトル線によってタンパク質の特徴的な開裂によって生じたペプチドの質量が表現されている。任意のタンパク質のあるペプチドが他のタンパク質由来のペプチドと質量が同じであることはあり得るが、2種類のタンパク質が同一質量な同一のペプチド群を生じる可能性は低い。これは、トリプシンタンパク質消化物の質量パターンがそのタンパク質のかなり特異的な識別子であることを意味し、それゆえにペプチドマスフィンガープリント(PMF)と呼ばれる。PMFが相対的に特異であるということは、既知タンパク質配列、ゲノムDNAから予測した配列、又は発現配列タグ(EST)から決めた予測(仮定の)PMFのデータベースを使用すれば、生物学試料中のタンパク質を同定することができることを意味する(非特許文献4〜6)。未同定タンパク質のPMFをデータベース中の全てのPMFと比較して、最良の一致を見出さすことで、そのタンパク質を同定することができる。この種の検索には、消化前にタンパク質質量を決めなければならないという制約を受ける。しかし、このようにして未同定ポリペプチドの質量パターンは、その配列に関連付けることができ、これにより、特定試料中のタンパク質の役割を決定するのに役立てることができる。
【0004】
しかし、タンパク質に対するPMF決定には、多くの技術的難題が含まれる。典型的なタンパク質は、トリプシンによる開裂後、20〜30個のペプチドを生じるが、これらのペプチドの全部が質量スペクトルに現れるわけではない。これに関する正確な理由は、十分に理解されていない。不完全なスペクトルを引き起こすと考えられる一つの要因としては、イオン化の過程でプロトン化と競合し、アルギニン含有ペプチドが優先的にイオン化してしまうことが挙げられる(非特許文献7)。更に、MALDI標的の調製過程に起因する表面効果がある。標的は、ペプチド消化物をマトリックス材料の溶液に溶解して調製する。ペプチド/マトリックス溶液の小滴を金属標的上に滴下し、乾燥する。ペプチドの溶解度に差があるために、あるペプチドはマトリックス上面近くで優先的に結晶化し、その場所で一層容易に脱離することになる。
【0005】
PMFからタンパク質を同定するための従来のプロトコルでは感度もまた問題である。そのプロトコルが有効なツールであるためには、できるだけ小さなタンパク質試料のPMFを決定することができ、タンパク質試料の分析の感度を向上させなければならない。
【0006】
ペプチドの化学的誘導体化によりアルギニンを含まないペプチドのイオン化を増大するための様々な試みが行われている。リジンのホモアルギニンへの変換は、ある程度成功した取り組みである(非特許文献8〜10)。リジンをホモアルギニンに変換すると、トリプシン消化に由来するC−末端ペプチドを除く全てのペプチドにグアニジノ官能基が導入され、MALDI−TOF質量スペクトルにおけるリジン含有ペプチドの出現が増大する。
【0007】
グアニジノ基を導入するためのペプチドの誘導体化は、誘導体化ペプチドのプロトン親和性を改善する方法である。感度を向上するためのこの取り組みは、エレクトロスプレーイオン化(ESI)及びMALDI分析等のイオン化を達成するためにプロトン付加に依存する技術での検出感度向上に適度に成功した。これらの技術は、検体がプロトン親和性の高い官能基、例えば、オリゴ糖などをまだ有していなければ最も効果的である(非特許文献11)。しかしながら、トリプシン消化ペプチド等の容易にプロトン化される官能基を既に含む検体は、これらの種類の検体の感度を改善するために必要とされるような試薬及び他の方法から大きく恩恵を受けない。
【0008】
ペプチドを誘導体化するための様々な他の試薬もまた開発されている。4級アンモニウム基及び4級ホスホニウム基を導入する試薬が、陽イオン質量分析法用に開発されている。ハロゲン化合物、特に、ハロゲン化芳香族化合物は良く知られた電荷運搬体で、即ち、熱電子を非常に簡単に捕捉することは公知である。フッ素化芳香族化合物に基づく様々な誘導体化試薬(非特許文献12)が、陰イオン質量分析法に使用可能な非常に高感度なイオン化及び検出方法である電子捕獲検出法のために開発されている(非特許文献13)。フッ素化芳香族基は、感度向上基としてもまた使用可能である。芳香族スルホン酸もまた、陰イオン質量分析法における感度を改善するために使用されている。
【0009】
先行技術で開示されている各種類の誘導体化試薬は、使用するイオン化方法、及び使用する質量分析方法によって異なる利点及び制限がある(概説については、非特許文献14)。感度向上メカニズムもまた、各々の基の種類により異なる。誘導体化方法のいくつかは塩基性を増加させることによりプロトン化と電荷の局在を促進させ、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)及び高速原子衝撃法(FAB)の様な表面脱離技術における感度を改善する。これまでは、電荷を有する官能基又は高プロトン化親和性の官能基を導入する試薬がMALDI質量分析法に対して開発されてきたが、光吸収能、及び対マトリックス混合能を改善することで検体の脱離を向上する試薬は報告されていない。
【0010】
陰イオン質量分析法は、時に、バックグランドノイズがより少ないために感度がより高くなる。陰イオンモード検出及び陽イオンモード検出の両方を向上させることができるタグは、重要な利点を有している。全ての関連する検体の感度を一様に改善するタグは、全ての質量分析技術に対してはまだ見つけられておらず、万能試薬が見つかる見込みはない。しかしながら、特定の質量分析技術に対して特定の技術の特徴を活用して検出感度を促進する試薬の設計は可能なはずである。
本発明では、誘導体化試薬及びその使用方法がゲル上でのタンパク質の標識及び検出の両方を可能にするために開発され、その上、MALDI質量分析法による検出感度が向上された。
【0011】
特許文献1には、共有結合した核酸プローブの配列を同定する、質量分析法で検出できる開裂可能な標識体のアレイが開示される。これらの質量標識体は、他の核酸分析方法と比べて多くの利点がある。目下、DNAの蛍光標識に基づくシステムが商業的に好まれる。蛍光標識方式は、比較的少ない分子を同時に標識可能であり、一般的に4標識体を同時に使用可能であり、最大8標識体まで可能である。しかしながら、検出装置の費用、及び得られた信号分析の困難性により蛍光検出方式で同時に使用可能である標識体の数が限定される。質量標識体を使用する利点は、多数の標識体を形成する可能性であり、該標識体は、質量スペクトル中で個々のピークを有するので、同様の数の別個の分子種を同時に標識可能にする。蛍光色素は、合成費用が高いが、質量標識体は低価で多数の標識体の組み合わせの合成を可能にする比較的単純なポリマーを含むことができる。この用途は、生体分子の標識用に質量を変えたMALDIマトリックス分子の使用が使用されることを示している。光解離性リンカーを介して生体分子に付着可能な桂皮酸、及びシナピン酸等のMALDIマトリックス剤を含むタグが、追加的にマトリックスを必要とせずにレーザー脱離イオン化質量分析計内でタグの切断及び脱離を可能とする。
【0012】
特許文献2は、核酸及びオリゴヌクレオチドを標識するためのトリチル基を含む質量タグを開示する。これらのタグは、脱離前にMALDI−TOF質量分析計において光分解により関連するオリゴヌクレオチドから切断可能である。帯電される切断産物は、タグの検出感度を向上するので有利である。この方法もまた追加のマトリックスを必要としない。
【0013】
従って、先行技術は、MALDI質量分析法で使用する追加のマトリックス無しで脱離し得る切断可能なタグのための方法及び試薬を開示する。本発明は、タグが検体から切断されず、及びタグが自由なマトリックス材料の存在下で使用される事実により特徴付けられる。
【0014】
【非特許文献1】R.A.Van Bogelen., E.R. Olson, “Application of two−dimensional protein gels in biotechnology.”, Biotechnol Annu Rev, 1:69−103,1995
【非特許文献2】Jungblut P, Thiede B. “Protein identification from 2−DE gels MALDI mass spectrometry.” Mass Spectrom Rev. 16:145−162,1997
【非特許文献3】Unlu, M.; Morgan, M.E.; Minden, J.S. Electrophoresis 1997, 18, 2071−2077
【非特許文献4】Pappin DJC, Hoejrup P and Bleasby AJ, Current Biology 3: 327−332, “Rapid identification of proteins by peptide−mass fingerprinting.”1993
【非特許文献5】Mann M, Hojrup P, Roepstorff P, Biol. Mass Spectrom 22 (6): 338−345, “Use of mass spectrometric molecular weight information to identify proteins in sequence databases.”1993
【非特許文献6】Yates JR 3rd, Speicher S, Griffin PR, Hunkapiller T, Anal Biochem 214(2):397−408, “Peptide mass maps: a highly informative approach to protein identification.”1993
【非特許文献7】Krause E. & Wenschuh H. & Jungblut P.R., Anal Chem. 71(19): 4160−4165, “The dominance of arginine−containing peptides in MALDI−derived tryptic mass fingerprints of proteins.”1999
【非特許文献8】V.Bonetto et al., Journal of Protein Chemistry 16 (5): 371−374, “C−terminal Sequence Determination of Modified peptides by MALDI MS”,1997
【非特許文献9】Francesco L. Brancia, Stephen G. Oliver and Simon J. Gaskell, Rapid Commun. in Mass Spec., 14, 2070−2073,“Improved matrix−assisted laser desorption/ionisation mass spectrometric analysis of tryptic hydrolysates of proteins following guanidination of lysine−containing peptides.”2000
【非特許文献10】Brancia et al., Electrophoresis 22: 552−559, “A combination of chemical derivatisation and improved bioinformatics tools optimises protein identification for proteomics”,2001
【非特許文献11】Okamoto et al., Anal Chem. 69(15): 2919−2926, “High−sensitivity detection and post−source decay of 2−aminopyridine−derivatized oligosaccharides with matrix−assisted laser desorption/ionisation mass spectrometry.”1997
【非特許文献12】Bian N.et al., Rapid Commun Mass Spectrom 11(16): 1781−1784, “Detection via laser desorption and mass spectrometry of multiplex electrophore−labelled albumin.”1997
【非特許文献13】Abdel−Baky S. & Giese R. W., Anal Chem. 63(24): 2986−2989, “Gas chromatography/electron capture negative−ion mass spectrometry at the zeptomole level.”1991
【非特許文献14】Roth et al., Mass Spectrometry Reviews 17: 255−274, “Charge derivatisation of peptides for analysis by mass spectrometry”,1998
【特許文献1】国際公開第98/31830号パンフレット
【特許文献2】国際公開第99/60007号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、上記先行技術に関する問題を解決することである。特に、本発明の目的は、改善されたペプチドマスフィンガープリントの作製に使用することができる方法及び標識体を提供し、それにより他の標識不揮発性高分子、特にタンパク質及び核酸等の他の生体分子の検出感度を向上させることである。この方法は感度を向上し、及び従来のMALDI実験では検出不可能であったタンパク質から検出するペプチド(例えば、小さいペプチド)の数を増加可能である。更に、適切なタグの使用により、本発明は多数の試料を同時に分析可能であり、また異なる試料における対応するペプチド比、及び1つ以上の試料における個別のペプチド量もまた決定可能である。適切な標識方法を用いることで、質量分析法で検出するためのポリペプチド試料の調整もまた容易になる。
【0016】
本発明の更なる目的は、質量標識体として所望の特徴を有する化合物、及び関連する検体の改善された質量スペクトルを提供するそれらの化合物の使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
従って、本発明は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析する下記工程(a)から(d)を含む方法を提供する。
(a) 検体を所定の周波数で光を吸収する光吸収標識体で標識して、標識検体を形成する工程。
(b) 標識検体を、光を吸収する少なくとも1つの化合物から形成されるマトリックスに包埋して、包埋標識検体を形成する工程。
(c) 包埋標識検体を所定の周波数を有する光で照射することで脱離して、脱離検体を形成する工程。
(d) 脱離検体を質量分析法により検出し、検体の特徴を分析する工程。
上記工程において、光吸収標識体は蛍光体部分を含み、検体は質量分析法による検出の前に蛍光体部分に基づいて検出のために選択される。
【0018】
上記に示す選択の1例は、事前にゲル又はHPLCで同定した多くのタンパク質種について蛍光体を分析する工程と、それらのタンパク質に付着した特定の蛍光体に基づいて該ゲル又はHPLCから特定の1つ又は複数のタンパク質を質量分析法で検査するために選択する工程とを含むことがある。
【0019】
従って、本発明は、同じ実験において異なる試料から検体(例えば、タンパク質)の発現差異の定量(Differential quantification)を可能にする増感質量タグ(SMT)を使用してMALDI感度を向上する方法を提供する。定量は、多くの方法で達成し得る。例えば、ゲル上又はHPLCにおける蛍光体の蛍光強度の比較、MALDIスペクトル中のピーク高さ/領域の比較、及び検体の標識上への質量レポーター基を封入し、タンデム質量分析計による解析において同定されたレポーター基に基づく量の測定が挙げられる。
【0020】
本発明においては、該方法を二次元電気泳動法(2−DE)よりもむしろ液体クロマトグラフィー(LC)と組み合わせる場合に、SMTを使用すると更に有利である。これは、高塩基性及び/又は小さな(例えば、10Da以下)検体に対して特に利点である。本発明の方法により、ユーザが非常に高価なエレクトロスプレー質量分析計を必要とせずに比較的単純なMS及びLC機器を用いて、信頼できる定量を得ることが可能となる。
【0021】
本発明の文脈において、MALDIとは、脱離イオン化技術型、又はMALDIの単に最も一般的な型であるレーザー脱離イオン化技術型を包含することを意図する。従って、MALDIという用語そのものは、MALDI−TOF、及びSELDI(下記に示す)を含む。
【0022】
特に好適な実施形態において、上記方法は、質量分析法による検出の前に、蛍光体部分の種類及び/又は量に基づいて検出するために検体を選択する工程を含む。よって、例えば、単一試料を分析したい場合は、試料中のタンパク質は、上記のように標識され、及び初めにゲル上(例えば大きさ及び/又は等電点に基づいて)で分離されうる。通常、ゲル上で露呈したタンパク質毎に同定しようとするのは好ましくなく、選択的に同定するのが好ましい。例えば、高発現タンパク質だけが重要であり得る。この場合、蛍光体が、ゲルから抽出するタンパク質の選択、消化による同定、その次の質量分析に使用され得る。また、一緒に分析される試料がいくつかあれば、タンパク質を様々な試料から識別するために蛍光体が使用され、これに基づき選択がなされる。もちろん、必要であれば、量及び種類も選択の基準となり得る。
【0023】
好ましくは、蛍光体部分は色素部分を含む。色素部分は、キサンテン色素部分(フルオレセイン部分、又はローダミン部分等)及びシアニン色素部分から選択され得る。より好ましくは、蛍光体部分は、プロピル−Cy3−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、メチル−Cy5−ヒドロキシスクシンイミドエステル、又はCy2−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを含む。
【0024】
概して、脱離検体は質量分析法により直接検出される。或いは、脱離検体は質量分析法により間接的にも検出される。この実施形態において検体は、当該検体に関係づけられる質量標識体で更に標識されて、当該質量標識体は脱離検体から切断され、当該脱離検体が質量分析法により検出されて検体が特徴分析される。
【0025】
一般的に、包埋標識検体を照射する光はレーザー光である。マトリックスを形成する化合物は光吸収標識体と同一周波数で光を吸収するのが好ましい。ある実施形態において、マトリックス及び光吸収標識体は、同一化合物から形成される。
【0026】
概して、マトリックスは、固体マトリックス又は液体マトリックスである。好ましくは、マトリックスが液体マトリックスである場合に、ニトロベンジルアルコールを含む。他の実施形態において、好ましくは、マトリックスは、3−ヒドロキシピコリン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、及び4−ヒドロキシ−α−シアノ桂皮酸から選択される化合物を含む。
【0027】
マトリックスのpHは、特に限定されず、マトリックスは、酸性マトリックス、又は塩基性マトリックスを含む。
【0028】
一般的に、光吸収標識体は、色素から形成される。好ましくは、色素は非蛍光色素である。色素は、4−ジメチルアミノアゾベンゼン−4’−スルホニルクロライド(ダブシル(DABSYL)クロライド)、3−ヒドロキシピコリン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、及び4−ヒドロキシ−α−シアノ桂皮酸を含む適切な化合物から選択され得る。
【0029】
検体の本質は、特に限定されない。好ましくは、検体はタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ペプチド断片及びアミノ酸から選択される1つ以上の化合物を含む。
【0030】
また、本発明は、ポリペプチドの特徴を分析する下記工程(a)から(f)を含む方法を提供する。
(a) 任意にポリペプチド中でシステインジスルフィド架橋を還元し、遊離チオールを形成し、遊離チオールをキャップする工程。
(b) ポリペプチドを配列特異的開裂試薬で開裂して、ペプチド断片を形成する工程。
(c) 任意に開裂試薬を不活性化する工程。
(d) 存在する1つ以上のε−アミノ基をリジン反応剤でキャップする工程。
(e) ペプチド断片を上記で定義する方法により分析して、ポリペプチドのマスフィンガープリントを形成する工程。
(f) マスフィンガープリントからポリペプチドを同定する工程。
【0031】
更に本発明は、複数のポリペプチドの特徴を分析する下記工程(a)から(g)を含む方法も提供する。
(a) 任意に1つ以上のポリペプチド中でシステインジスルフィド架橋を還元して、遊離チオールを形成し、遊離チオールをキャップする工程。
(b) 複数のポリペプチドから1つ以上のポリペプチドを分離する工程。
(c) 1つ以上のポリペプチドを配列特異的開裂試薬で開裂して、ペプチド断片を形成する工程。
(d) 任意に開裂試薬を不活性化する工程。
(e) 存在する1つ以上のε−アミノ基をリジン反応剤でキャップする工程。
(f) ペプチド断片を上記で定義する方法により分析して、1つ以上のポリペプチドのマスフィンガープリントを形成する工程。
(g) マスフィンガープリントから1つ以上のポリペプチドを同定する工程。
【0032】
本発明は、また各試料が1つ以上のポリペプチドを含む複数の試料を比較する下記工程(a)から(g)を含む方法も提供する。
(a) 任意に試料からの1つ以上のポリペプチド中でシステインジスルフィド架橋を還元し、かつ遊離チオールをキャップする工程。
(b) 各試料から1つ以上のポリペプチドを分離する工程。
(c) ポリペプチドを配列特異的開裂試薬で開裂して、ペプチド断片を形成する工程。
(d) 任意に開裂試薬を不活性化する工程。
(e) 存在する1つ以上のε−アミノ基をリジン反応剤でキャップする工程。
(f) ペプチド断片を上記で定義する方法により分析して、試料から1つ以上のポリペプチドのマスフィンガープリントを形成する工程。
(g) 1つ以上のマスフィンガープリントから試料中の1つ以上のポリペプチドを同定する工程。
上記方法において、リジン反応剤は標識したリジン反応剤であるのが好ましい。
【0033】
必要であれば、上記方法は複数の試料に適応され得る。各試料が1つ以上のポリペプチドを含む複数の試料を比較する本発明の方法は、下記工程(a)から(h)を含む。
(a) 任意に試料からの1つ以上のポリペプチド中でシステインジスルフィド架橋を還元し、及び遊離チオールをキャップする工程。
(b) 各試料中に存在する1つ以上のε−アミノ基を標識したリジン反応剤でキャップする工程。
(c) 試料をプールする工程。
(d) プールした試料から1つ以上のポリペプチドを分離する工程。
(e) ポリペプチドを配列特異的開裂試薬で開裂してペプチド断片を形成する工程。
(f) 任意に開裂試薬を不活性化する工程。
(g) ペプチド断片を上記で定義する方法により分析して試料から1つ以上のポリペプチドのマスフィンガープリントを形成する工程。
(h) 1つ以上のマスフィンガープリントから試料中の1つ以上のポリペプチドを同定する工程。
上記方法において、同一の標識体を同一の試料からのポリペプチド又はペプチドに使用し、及び異なる標識体を異なる試料からのポリペプチド又はペプチドに使用して、ポリペプチド又はペプチドが由来する試料がその標識体から決定可能となるようにする。
【0034】
好ましくは、配列特異的開裂試薬は、リジン残基のC−末端側で1つ以上のポリペプチドを開裂する。特異的開裂試薬は、一般的にLys−C又はトリプシンを含む。概して、ε−アミノ基がキャップされたペプチド断片は親和性捕捉により除去される。この実施形態において、リジン反応剤はビオチンを含む。
【0035】
ある好適な実施形態において、リジン反応剤は、立体障害のあるミカエル試薬を含むのが好ましい。一般的に、立体障害のあるミカエル試薬は以下の構造を有する化合物を含む。
【化2】
Xは、陰電荷を安定化可能な電子吸引基である。R基はR基の少なくとも1つが立体障害基を含むという条件で水素、ハロゲン、アルキル、アリール、又は芳香族基を独立して含む。R2基は、水素、ハロゲン、炭化水素基、電子吸引基及び/又は親和性捕捉官能基又は固相担体へ付加可能なリンカーを含む。
【0036】
更に本発明は標識検体化合物を提供し、化合物は以下の構造のどちらかを含む。
F−D−L−A
D−F−L−A
Fは蛍光体を含み、Dは光吸収標識体を含み、Lはリンカーを含み、また、Aは検体を含む。一般的に、蛍光体Fは更なるリンカーを介してDに付加する。必要であれば、特に、標識体そのものが質量分析法により解析されるならば、質量マーカーMは、D又はFとLとの間に(F−D−M−L−A又はD−F−M−L−A)配置してよい。
【0037】
また、本発明は、検体を標識するための化合物を提供し、化合物は以下の構造のどちらかを含む。
F−D−L−R
D−F−L−R
Fは蛍光体を含み、Dは光吸収標識体を含み、Lはリンカーを含み、及びRは検体に化合物が付加するための反応性官能基を含む。一般的に、蛍光体Fは更なるリンカーを介してDに付加する。必要であれば、特に、標識体そのものが質量分析法により解析されるならば、質量マーカーMは、D又はFとLとの間に(F−D−M−L−R又はD−F−M−L−R)配置してよい。
【0038】
上記タイプの全ての化合物の場合、一般的にMが存在するならば、各標識体は同じM、または少なくとも同じ質量を有するMを有することが好ましく、その結果、スペクトルはMの複数の質量に由来する複数のピークで複雑にはならない。
【0039】
既に上記に示したように、概してDは非蛍光色素を含む。よって、Dは、例えば、桂皮酸誘導体、ニコチン酸誘導体、ピコリン酸誘導体、ヒドロキシ安息香酸誘導体、メトキシ安息香酸誘導体又はシナピン酸誘導体を含み得る。好ましくは、非蛍光色素は、4−ジメチルアミノアゾベンゼン−4’−スルホニルクロライド(ダブシル(DABSYL)クロライド)、3−ヒドロキシピコリン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、及び4−ヒドロキシ−α−シアノ桂皮酸から選択される化合物を含む。
【0040】
Mの種類は、特に限定されない。好ましくは、Mはアリールエーテルから形成される化合物、及び2つ以上のアリールエーテルユニットから形成されるオリゴマーから選択される。
【0041】
リンカーもまた特に限定されない。好ましくは、リンカー及び/又は更なるリンカーは、CR2−CH2−SO2−、−N(CR2−CH2−SO2−)2、−NH−CR2−CH2−SO2−、−CO−NH−、−CO−O−、−NH−CO−NH−、−NH−CS−NH−、−CH2−NH−、−SO2−NH−、−NH−CH2−CH2−、及び−OP(=O)(O)O−から選択される基を含む。
【0042】
一般的に、検体、Aは、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ペプチド断片及びアミノ酸から選択される。
蛍光体は、既に上記に定義した成分が好ましい。
【0043】
一般的に、Rはエステル基、酸無水物基、酸塩化物等の酸ハロゲン化物基、N−ヒドロキシスクシンアミド基、ペンタフルオロフェニルエステル基、マレイミド基、アルケニルスルホン基、又はヨードアセトアミド基を含む。
【0044】
更に、本発明は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析するための下記(a)及び(b)を含むキットを提供する。
(a) 検体に標識体を付加するための反応性官能基を有する1つ以上の光吸収標識体。
(b) 光吸収標識体と同じ周波数で光を吸収する、マトリックスを形成するための化合物。
【0045】
これから、本発明を、ほんの一例としてより詳細な実施形態を参照して更に詳細を示す。本発明の1つの態様において、蛍光体に結合するMALDI色素を含む標識化合物を提供し、蛍光体及びMALDI色素はどちらも反応性官能基に結合する。
【0046】
本発明のこの態様の一実施形態において、標識分子は次の構造の1つを有する。
MALDI色素−リンカー−蛍光体−リンカー−反応性官能基
蛍光体−リンカー−MALDI色素−リンカー−反応性官能基
MALDI色素は、好ましくは非蛍光であり、また、好ましくは吸収した放射エネルギーを熱で消散する。
【0047】
本発明のこの態様の更なる実施形態において、2つ以上の標識化合物からなるアレイが提供され、異なる標識化合物は、それぞれ他の標識化合物とは異なる発光周波数を有する蛍光体で識別される。好適な実施形態において、標識化合物のアレイは同じ質量のタグを含む。
【0048】
本発明の更なる態様において、1つ以上の試料の検体分子を分析する下記工程1から8を含む方法を提供する。
1. 各試料の検体分子をMALDI色素及び蛍光体を含む本発明の第1の態様の異なる標識化合物で標識し、異なる標識化合物は、それぞれ他の標識化合物とは異なる発光周波数を有する蛍光体で識別される工程。
2. 標識検体を分離する工程。
3. 標識検体を蛍光測定により検出する工程。
4. 標識検体を単離する工程。
5. 任意に標識検体分子を開裂する工程。
6. 標識検体分子を脱離工程で使用するレーザーの周波数で光を吸収する色素を含むマトリックスに包埋する工程。
7. マトリックスの蒸発によりまた標識検体も蒸発するように、標識検体を所定の周波数のレーザー光で照射することで脱離する工程。
8. 質量分析法による脱離工程の間に形成されるイオンを検出する工程。
【0049】
本発明の更なる態様において、下記1及び2を含むキットを提供する。
1. 本発明の第1の態様による質量標識分子。
2. 適合性MALDIマトリックス試薬。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、更に本発明の詳細を示す。
MALDIマトリックス色素
様々な化合物が大きな生体分子のMALDI分析のためのマトリックスとして見出された。これらの化合物は、概して多くの特性により特徴付けられる。化合物は、概して、脱離に使用されるレーザーの周波数で強力な吸光係数を有する。化合物は、また、固溶体中の検体分子を分離可能であり、MALDI質量分析計によってレーザーショットが照射された場合、化合物は十分に蒸発し易いため急速に昇華する。昇華色素は、包埋検体分子を同伴する噴流中で急速に蒸発するはずであり、ほとんどの目的に対して検体を切断せずに蒸発するはずである(検体について構造的情報を求めるならば切断が望ましいこともあるが)。しかし、時々実験が数時間かかる場合もあり、この間は検体/マトリックス共結晶は、イオン源において真空下で安定でなければならないので、マトリックスは過度に揮発性であるべきではない。レーザー照射下での揮発性及び真空下での安定性の特性はある程度矛盾する。レーザー照射に対する揮発度は、マトリックスが形成する検体イオンの初期速度を決定することでおおよそ測定可能である。より速い初期速度が「よりソフトな」イオン化、即ち還元切断に関連して観察されている(Karas M. & Glueckmann M., J. Mass Spectrom. 34:467−477, “The initial ion velocity and its dependence on matrix, analyte and preparation method in Ultraviolet Matrix−assisted Laser Desorption/Ionisation”,1999)が、初期イオン速度の速いマトリックスもまた真空下の急速な昇華に相関する。
【0051】
マトリックスによって、包埋検体の脱離を支援する能力、及びその後の検体を検出する感度に関する特性は様々である。ある種のマトリックスは、他のマトリックスよりも特定の検体の分析により適していることが経験的に分かっている。例えば、3−ヒドロキシピコリン酸は、オリゴヌクレオチドの分析に最も効果的であることが分かっており(Wu et al., Rapid Commun. Mass Spectrom. 7:142−146, “Matrix−assisted laser desorption time−of−flight mass spectrometry of oligonucleotides using 3−hydroxypicolinic acid as an ultra−violet sensitive matrix”,1993)、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、及び4−ヒドロキシ−α−シアノ−桂皮酸(HCCA)はペプチド及びタンパク質の分析に最も効果的である(Strupat et al., Int. J. Mass Spectrom. Ion Proc. 111:89−102, “2,5−dihroxybenzoic acid: a new matrix for laser desorption/ionisation mass spectrometry”,1991; Beavis et al., Org. Mass Spectrom. 27: 156−158,“α−cyano−4−hydroxy cinnamic acid as a matrix for matrix−assisted laser desorption mass spectrometry”,1992)。様々な桂皮酸誘導体がタンパク質の分析に効果的であることが分かっており(Beavis R.C. & Chait B.T., Rapid Commun Mass Spectrom 3(12): 432−435, “Cinnamic acid derivatives as matrices for ultraviolet laser desorption mass spectrometry of proteins.”1989)、及びマトリックスの選択は検体の特性次第であり、例えば、HCCAは、概してより小さなペプチドに対して好まれるが、大きなペプチド及びポリペプチドに対しては、HCCAよりシナピン酸が好まれることがある。2,5−ジヒドロキシ安息香酸は、場合によっては桂皮酸誘導体よりもより少ない切断を生じるようである。所定の検体に対してマトリックスを選択するには、最良の結果を得るために、数回の実験を要することが多い。
【0052】
上記で考察された殆どのマトリックスは、酸性マトリックスである。塩基性マトリックスもまた開発されており、酸に鋭敏な化合物の分析に最適である(Fitzgerald et al., Anal Chem. 65(22): 3204−3211, “Basic matrices for the matrix−assisted laser desorption/ionisation mass spectrometry of proteins and oligonucleotides.”1993)。
【0053】
赤外光MALDI(IR−MALDI)は、検体が、脱離機器においてレーザーの周波数で強力な吸光係数を有するのが好ましいマトリックスに包埋されなければならない点で、主に紫外光MALDI(UV−MALDI)と似ている。適切なマトリックスは、UV−MALDIで使用する化合物とは異なる化合物を使用する傾向があり液体マトリックスがしばしば使用される。グリセリン、ウレア、氷、及びコハク酸は全て、IR−MALDIに対して効果的なマトリックスであることが示されている(Talrose et al., Rapid Commun Mass Spectrom 13(21): 2191−2198, “Insight into absorption of radiation/energy transfer in infrared matrix−assisted laser desorption/ionisation: the roles of matrices, water and metal substrates.”1999)。しかし、桂皮酸誘導体等のいくつかのUV−MALDIマトリックスもまたIRマトリックスとして作用するようである(Niu et al., J Am. Soc. Mass Spectrom. 9:1−7, “Direct comparison of infrared and ultraviolet wavelength matrix−assisted laser desorption/ionisation mass spectrometry of proteins”,1998)。
【0054】
UV−MALDIに対する液体マトリックスの探索も行われている(Ring S. & Rudich Y., Rapid Commun Mass Spectrom 14(6): 515−519, “A comparative study of a liquid and a solid matrix in matrix−assisted laser desorption/ionisation time−of−flight mass spectrometry and collision cross section measurements.”2000; Sze et al., J Am Soc Mass Spectrom 9(2): 166−174, “Formulation of matrix solutions for use in matrix−assisted laser desorption/ionisation of biomolecules.” 1998; Karas et al., Mass Spectrom Rev 10: 335,1991)。液体マトリックスの最も簡単な例は、固体として使用するマトリックス溶体を含む。実際の液体マトリックスとしては、ニトロベンゾイルアルコール等も知られている。どちらのタイプのマトリックスも試料稠度、真空下での安定性、及び取扱易さの点でいくつか利点を有するが、固体マトリックスは更により注意を払うべきである。本発明の文脈において、感度の改善には、液体マトリックスの使用が正当であると証明する。これは、液体取扱ロボットが広範囲で可能であり、また、固体マトリックスの共結晶化により分注装置を容易に詰まらせるマトリックス溶体の使用を避けることができるので、試料調製の自動化上有利である。
【0055】
色素を含む反応タグ及びMALDIマトリックス色素
本発明の第1の態様において、反応性色素分子が提供される。MALDI質量分析法で従来使用されていない様々な色素が本発明では使用され得る。反応性官能基と共にUV周波数で強力に吸収する色素がいくつか市販されており、例えば、4−ジメチルアミノアゾベンゼン−4’−スルホニルクロライド(ダブシル(DABSYL)クロライド シグマアルドリッチ(株)(Sigma−Aldrich)プール、ドーセット州、イギリス)がある。発明者らは、この試薬及び管腔の励起を熱で消散する同様のUV吸収色素は、本発明に適用するはずであると見込んでいる。
【0056】
市販の中間体から反応性色素を調製することも可能である。MALDI質量分析法に広く使用される桂皮酸、ニコチン酸、及びヒドロキシ安息香酸誘導体等の多くの酸性マトリックスが市販されている。これらの殆どの試薬中の酸性官能基は、カルボン酸基である。この官能基は、従来の化学方法で活性エステル又は酸塩化物に容易に変換し得る(例えば、Solomons, “Organic Chemistry”第5版 Wiley社参照)。好適な活性エステルは、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル及びペンタフルオロフェニルエステルを含む。発明者らは様々な色素が本発明の方法において機能すると見込んでいるが、好適な化合物は質量分析計におけるレーザー脱離に対して使用する周波数で強力に吸収することが期待される。
【0057】
桂皮酸誘導体はUV−MALDI−TOFで広く使用される好適な色素である(Beavis RC, Chait BT, Rapid Commun Mass Spectrom 3(12): 432−435,“Cinnamic acid derivatives as matrices for ultraviolet laser desorption mass spectrometry of proteins.”1989)。桂皮酸の反応性誘導体は、下記の実施例で考察する。この試薬はUV−及びIR−MALDIの両方に適用可能であると見込まれる。
【0058】
反応性官能基
タンパク質は、自身に反応性を示す試薬を使用して標識可能とする様々な求核性官能基を含む。タンパク質は、一般的に、チオール、アミノ、ヒドロキシル、及びイミダゾール基を含む。これらは、必要に応じて、全て適切な試薬で標識し得る。本発明の好適な実施形態において、アミノ基が標識される。アミノ基は、様々な標識体で標識されるが、酸塩化物及び活性エステルが通常最も選択される反応性官能基である。他の様々な反応性官能基は本発明の反応性色素の調製に適している。下記表1に色素分子に組み込まれ得る反応性官能基をいくつか列挙する。これらの反応性官能基は、生体分子、特に、ペプチド及びポリペプチド中に見られる求核性官能基と反応し得る。求核性官能基と反応する反応性官能基は、2つの物質間に共有結合を形成する。共有結合は表の第3列に示す。合成オリゴヌクレオチドへの応用においては、標識を可能にするために、合成の際に分子の末端に1級アミン、又はチオールが導入されることが多い。下記のいずれの官能基も、本発明の化合物に導入し、質量マーカーを目的分子に付加させるために用いることができる。必要に応じて、反応性官能基を他の反応性官能基を持つ他のリンカー基の導入にも使用可能である。表1は、完全網羅することを意図しておらず、本発明は列挙した官能基のみの使用に限定されない。
【0059】
【表1】
【0060】
尚、本発明の質量マーカーによるオリゴヌクレオチドの標識を使用する用途においては、上記の反応性官能基の一部又はそれらから得られる結合基は、オリゴヌクレオチド合成機に導入する前に保護しなければならない。好ましくは、非保護エステル、チオエーテルおよびチオエステル、アミンおよびアミド結合は、通常、オリゴヌクレオチド合成機中で安定しないので避けるべきである。多様な保護基が当分野公知であり、それらを使用して望ましくない副反応から結合を保護することができる。或いは、アミン官能基を有するオリゴヌクレオチドは公知の標準方法を使用して調製可能であり、これらはNHS−エステル等のアミン反応性試薬で標識可能である。
【0061】
蛍光体
本発明の第1の態様では、標識化合物は蛍光体を含むと規定される。多数の蛍光体が当分野公知であり、殆どが本発明に適用可能である。しかしながら、好適な色素はキサンテン色素(フルオレセイン及びローダミン色素等)及びシアニン色素(例えば、米国特許第5,286,486号明細書、参照することにより本発明に援用する)を含む。
【0062】
本発明の好適な実施形態において、2つ以上の試料、例えばタンパク質試料が本発明の第1の態様に定義される様々な標識試薬で標識され、標識した試薬は、例えば二次元ゲル電気泳動法等で分析的に分離される。分離した検体は局在化され、及びそれらの相対量は、タグ由来の蛍光を測定して決定される。これらの実施形態において、様々な蛍光タグは、好ましくは特定の判定基準を満たす。
【0063】
試薬は、好ましくは、分析分離中における標識検体の共移動に適合する大きさ及び電荷を有する。蛍光体が高い量子収率及び高い吸光係数を有するならば、有利である。蛍光体は、好ましくはpHに対して無感受、すなわち、第一次元(IEF)分離間に使用される広いpH範囲上において信号の変化を示すべきでない。蛍光体の発光周波数は、好ましくは、個別の信号が各蛍光体から得られるようにするために重複すべきでない。更に、蛍光体は、標識、分析分離、及び検出間の信号の損失を最小にするために有利に光安定性である。
【0064】
本発明に使用する好適な色素(図1参照)は、米国特許第6,127,134号明細書及びMujumdar他に記載されている(Bioconjug Chem. 4(2): 105−11 “Cyanine dye labelling reagents: sulfoindocyanine succinimidyl esters.”,1993)。これらの文献は、明確な発光周波数、高い吸光係数、及び高い量子収率を有するインドール含有色素を開示する。色素はまた大きさ及び電荷も適合する。これらの文献は、タンパク質中のアミノ基、特にリジン−ε−アミノ基を標識するためのこれらの色素の活性エステルを開示する。タンパク質中のリジンアミノ酸は、中性又は酸性pHで1価の正電荷を元々持つ。米国特許第6,127,134号明細書に開示される蛍光体もまた1価の正電荷を持ち、リジンに結合する場合、リジンの1価の正電荷を蛍光体の1価の正電荷と置き換えて、標識タンパク質の等電点(pI)が同じ非標識タンパク質に比べて大きく変わらないことを確実にする。本発明で開示される活性エステル色素は、これらの蛍光体を本発明の標識化合物に組み込むことができ、リンカーに容易に結合可能である(図2〜5参照)。
【0065】
親和性捕捉リガンド
本発明の特定の実施形態において、質量マーカーは、更に親和性捕捉リガンドを含み得る。親和性捕捉リガンドは、極めて特異的な結合パートナーを有するリガンドである。これらの結合パートナーは、リガンドで標識した分子を結合パートナーで選択的に捕捉可能にする。好ましくは、親和性リガンド標識分子が固相担体上に選択的に捕捉可能となるように固相担体は結合パートナーで誘導体化される。親和性捕捉リガンドの使用は、多くの利点をもたらす。すなわち、分析前に標識種が選択的に捕捉可能であるから、標識、非標識物質の分離を可能にし、一方ではまた質量分析法のための検体の調整を可能にする。試料の調整は、イオン化を抑制、或いは、質量分析を妨げる可能性がある界面活性剤、及び他の不純物の除去も含む。調整は、また、質量スペクトル中で質量シフトを生じる検体に付加化合物を形成しうる塩の除去も含む。更に、pHはイオン化を最適化するように調整される。捕捉された材料が所望のpH次第で炭酸アンモニウム又はトリフルオロ酢酸等の揮発性塩を含む適切なバッファーで容易に洗浄可能であるため、固相担体上に捕捉された標識検体の調整は些細なことである。この洗浄工程は、不純物を除去可能であり、pHを適切に調整するために使用可能である。
【0066】
親和性リガンドを含むことの更なる利点は、タグが特定の検体に親和性リガンドを結合する反応性官能基を更に含む場合、ある種の検体種を選択的に隔離する能力である。例えば、Gygiら(Nature Biotechnology 17: 994−999,1999)は、タンパク質発現分析を可能にするタンパク質からペプチドを捕捉するための「同位体コードアフィニティータグ」(ICAT)の使用を開示している。著者らは、イースト中のタンパク質の大部分(>90%)は、少なくとも1つのシステイン残基を有することを報告している(平均では1つのタンパク質に約5つのシステイン残基を有する)。タンパク質試料中のジスルフィド結合を還元し、また、ヨードアセトアミドイルビオチンによって遊離チオールをキャップすることにより、全てのシステイン残基が標識される。そして、標識タンパク質は、トリプシン等で消化され、システイン標識ペプチドはアビジン化ビーズを使用して単離し得る。次いで、これらの捕捉ペプチドを液体クロマトグラフィータンデム質量分析計(LC−MS/MS)で解析してタンパク質試料の発現プロフィールが決定可能である。2つのタンパク質試料は、異なる同位体修飾ビオチンタグでシステイン残基を標識することで比較可能である。本発明の有用な実施形態において、同位体識別された親和性リガンドを含む本発明のシステイン反応タグは、ICAT解析方法の感度を改善するために用いることができる。同様に、Schmidt and Thompson(国際公開第98/32876号パンフレット)は、質量分析法によるタンパク質発現プロファイリング解析のためにC−又はN−末端ペプチドを捕捉するためのビオチン試薬の使用を開示している。このプロセスの感度もまた親和性リガンドを含む本発明のタグにより向上する。
【0067】
好適な親和性捕捉リガンドは、ビオチンであり、当分野公知の標準方法により本発明のタグに導入可能である。特に、リジン残基をアミノ酸2の後に取り込むと、このアミノ酸を介してアミン反応性ビオチンをペプチド質量タグに結合することができる(例えば、Geahlen R. L. et al., Anal Biochem 202(1): 68−67, “A general method for preparation of peptides biotinylated at the carboxy terminus.”1992; Sawutz D. G. et al., peptides 12(5): 1019−1012, “Synthesis and molecular characterization of a biotinylated analog of [Lys]bradykinin.”1991; Natarajan S. et al., Int. J. Pept. Protein Res. 40(6): 567−567, “Site−specific biotinylation. A novel approach and its application to endothelin−1 analogs and PTH−analog.”,1992)。イミノビオチン及びデスチオビオチンもまた適用可能である。ビオチンに対して多様なアビジンカウンターリガンドが利用でき、これには、単量体及び四量体アビジン及びストレプトアビジンがあり、全て多数の固相担体上で利用できる。
【0068】
他の親和性捕捉リガンドとしては、ジゴキシゲニン、フルオレセイン、ニトロフェニル部分、及びc−mycエピトープ等の多数のペプチドエピトープが挙げられ、これらに対する選択的なモノクローナル抗体はカウンターリガンドとして存在する。Ni2+イオンと容易に結合する金属イオン結合リガンド、例えばヘキサヒスチジンも利用できる。例えば、イミノ二酢酸キレート化N2+イオンを放出するクロマトグラフ用樹脂が市販されている。これらの固定化ニッケルカラムは、オリゴマーヒスチジンを含む標識ペプチドの捕捉に使用できる。他の方法として、親和性捕捉官能基を適切に誘導体化された固相担体と選択的に反応させることができる。例えばボロン酸は、隣接するシス−ジオール及びサリチルヒドロキサム酸等化学的に類似するリガンドと選択的に反応することが知られている。ボロン酸を含む試薬は、サリチルヒドロキサム酸を誘導体化した固相担体上でのタンパク質捕捉用に開発されている(Stolowitz M. L. et al., Bioconjug Chem. 12(2): 229−239, “Phenylboronic Acid−Salicylhydroxamic Acid Bioconjugates. 1. A Novel Boronic Acid Complex for Protein Immobilization.”2001; Wiley J. P. et al., Bioconjug Chem. 12(2): 240−250, “Phenylboronic Acid−Salicylhydroxamic Acid Bioconjugates. 2. Polyvalent Immobilization of Protein Ligands for Affinity Chromatography.”2001, Prolix, Inc, ワシントン州、米国)。本発明のタグにフェニルボロン酸官能基を結合し、選択的化学反応で捕捉できる捕捉試薬を生成するのは、比較的簡単であろうと予想される。この種の化学の使用は、隣接するシス−ジオール含有糖を有する生体分子と直接両立しないと思われる。しかし、ボロン酸誘導体化標識試薬との反応の前にこの種の糖はフェニルボロン酸又は関連試薬で封鎖できる。
【0069】
ペプチドの電荷誘導
本発明の第1の態様の実施形態において、タグは、容易にイオン化可能な基を含み、質量分析計でのタグ及び標識検体の可溶化、及び標識検体のイオン化の両方を支援可能である。多様な官能基をイオン性基として使用可能である。3級アミノ基及びグアニジノ基は、可溶化及びイオン化のどちらにも有用な官能基である(Francesco L. Branca, Stephen G. Oliver and Simon J. Gaskell, Rapid Commun. in Mass Spec., 14, 2070−2073,” Improved matrix−assisted laser desorption/ionisation mass spectrometric analysis of tryptic hydrolysates of proteins following guanidination of lysine−containing peptides.”2000)。
【0070】
様々な他のペプチド誘導体化方法もまた開発されている。これらには、陽イオン質量分析法のための、4級アンモニウム誘導体、4級ホスホニウム誘導体及びピリジル誘導体の使用がある。各種類のイオン性官能基は使用するイオン化方法、及び使用する質量分析法によって、様々な利点を有する。塩基性を増加することで陽イオン質量分析法のためのプロトン付加及び/又は電荷局在を促進する誘導体化試薬もあれば、急速にプロトンを失って陰イオン質量分析法に適するようになる誘導体化試薬もある。陰イオン質量分析法はバックグラウンドノイズがより少ないため、大抵、陽イオン質量分析法よりもより感度が高い。衝突誘起解離を使用する際に、電荷を誘導して誘導体化ペプチドの切断産物を変化可能である。特に、ペプチドを衝突誘起解離などの技術によって分析することになっている場合には、切断パターンを簡素化する非常に有利な誘導技術がいくつかある。用いるイオン性官能基は、使用予定の質量分析技術によって決定する(概説については、Roth et al., Mass Spectrometry Reviews 17:255−274, “Charge derivatisation of peptides for analysis by mass spectrometry”,1998参照)。本発明の目的として、陽又は陰イオンの形成を促進するイオン性官能基は同等に使用可能である。
【0071】
3級アミノ基、グアニジノ基及びスルホン酸基等の荷電基は更に利点をもたらす。これらの基はイオン交換により標識検体を精製可能にする親和性リガンドとして作用可能である。グアニジノ基機能及び3級アミノ基機能を含むタグ(例えば、図3及び図5参照)は、質量分析法による解析の前に調整可能にする強力な陽イオン交換樹脂上に捕捉可能である。同様に、スルホン酸機能を含むタグは、質量分析法による解析の前に調整可能にするアミノ交換樹脂上に捕捉可能である。更に、未反応タグと陰イオン交換樹脂又は陽イオン交換樹脂との間の相互作用は、標識検体の相互作用よりも弱いので未反応タグを容易に洗い流すことができる。標識検体は、樹脂に応じて適切な濃度の揮発性の酸、塩基、又は塩を含む適当なバッファーで溶出させることができる。従って、陽イオン交換樹脂又は陰イオン交換樹脂を充填したピペットチップ、スピンカラム及びカートリッジは、標識試料の有効な調製用器具であり、分析の前に標識ペプチドを容易に浄化可能にすると予想される。
【0072】
更に、スルホン酸基は、MALDI−TOF分析に有利である。ペプチドのα−アミノ官能基のスルホン酸誘導体は、MALDI−イオントラップ型ペプチド分析で切断効率を向上し、それによりアスパラギン酸及びグルタミン酸を含むペプチド類等のイオントラップにおいて一般的に不良なMS/MSスペクトルを与えるある種のペプチドについて、スペクトルの改善が認められる(Keough, T., Lacey M. P., et al., Rapid Commun Mass Spectrom 15(23): 2227−2239, “Atmospheric pressure matrix−assisted laser desorption/ionisation ion trap mass spectrometry of sulphonic acid derivatised tryptic peptides.”,2001)。強力な酸性官能基は、MALDIにおいて1価のペプチド類のアミド主鎖のプロトン付加を促進するために、切断効率の増加をもたらす。
本発明の特定の実施形態において、グアニジノ基及びスルホン酸基を含むタグが合成される(図及び実施例部分参照)。概して、好適な荷電基としては、グアニジノ基、3級アミノ基、及びスルホン酸基が挙げられる。
【0073】
表面増強レーザー脱離イオン化
表面増強レーザー脱離イオン化(SELDI)は、MALDIの通常の金属標的が誘導体化されるMALDIの変形である(Weinberger S. R., Morris T. S., Pawlak M., Pharmacogenomics 1(4): 395−416 “Recent trends in protein biochip technology.”,2000)。これらの表面修飾としては、陰イオン交換体、陽イオン交換体、疎水性表面、又は親水性表面での誘導体化が挙げられる。タンパク質、又はペプチド試料をこれらの表面に適用する場合、試料は該表面に吸収され、適切な洗浄工程によって試料を選択的に分画することで、標的の特定の成分が残り、これをMALDI−TOF質量分析法によって更に解析する。これは、分析的目的のため、及び未反応タグ、特に陽イオン交換樹脂、又は陰イオン交換樹脂で被覆された表面から標識検体を分離するために、本発明の標識体に用いるための有効な技術であると予想される。
【0074】
タンパク質発現プロファイリング法及びペプチドマスフィンガープリンティング法
本発明の第2の態様は、検体の1つ以上の試料の発現レベルを比較する方法を提供する。好適な実施形態において、試料はポリペプチドを含み、各種試料中のポリペプチドは、二次元ゲル電気泳動法で分離され、分離されたポリペプチドは、ペプチドマスフィンガープリンティング法により同定される。2つの試料の発現プロファイルを比較するには、2つの試料中の各成分ポリペプチドの種類及び相対量を決定する必要がある。本発明の第3の態様は、2つ以上の異なる試料中の成分ポリペプチドのそれぞれの種類及び相対量の両方を決定する方法を提供する。これを達成するには、各試料中のポリペプチドを蛍光発光で解像できる標識体で標識する。次に、標識されたポリペプチドをプールする。プールした試料の成分は、電気泳動又はクロマトグラフィーで分離することによって、互いに解像する。その後、分離されたタンパク質は、ペプチドマスフィンガープリンティング法で同定できる。本発明で記載する成分及び標識操作を使用すると、各成分ポリペプチドの相対レベルを標識ポリペプチドの質量分析による同定前に、蛍光測定で決定することも可能である。更に、本発明のタグは、質量分析同定工程の感度を向上する。
【0075】
本発明の第2の態様の好適な実施形態においては、2つ以上のポリペプチド含有試料を分析する方法が提供され、各試料は1つよりも多いポリペプチドを含み、該方法は下記1から5を含む。
1. 本発明の第1の態様で提供する形態のタグで各試料のポリペプチドを共有結合反応させる工程。
2. 標識試料をプールする工程。
3. プールした試料をゲル電気泳動、等電点電気泳動、液体クロマトグラフィー又は他の適当な手段で分離し、個別の分画を生成する工程。これらの分画は、ゲル上のバンド若しくはスポット、又はクロマトグラフィー分離による液体分画である。1度の分離による分画は、第2分離技術を使って更に分離することができる。同様に、その後の分析工程用にタンパク質が十分な解像度を持つまで、再度分画を進めることができる。
4. 配列特異的開裂試薬で、各分画のポリペプチドを消化する工程。
5. 消化物を質量分析法で解析し、ペプチドマスフィンガープリントでポリペプチドを同定する工程。
【0076】
本発明の第2の態様の上記の好適な実施形態において、タンパク質の分画工程は、第一次元の等電点電気泳動と第二次元のSDS PAGEを使った二次元ゲル電気泳動を実施することで達成されるのが好ましい。一般的には、該ゲルを可視化し、タンパク質がゲル上のどこに移動したかを突き止める。ゲルの可視化は、一般的にゲルを染色し、タンパク質スポットを明らかにすることによって実施される。しかしながら、本発明のタグは、蛍光体を含むため通常の染色工程を省くことができる。よって、各スポットのタンパク質は標識化合物の蛍光によって同定される。従って、ゲルは色素を励起するレーザーでスキャンされ、異なる色素は、異なる励起波長、又は異なる発光波長のどちらか(又は両方)を有するはずであり、様々な色素が個別に撮像可能になる。図1に示すCy3化合物の最適励起波長は553nm、及び最大発光波長は569nmであり、一方、Cy5化合物の最適励起波長は645nm、及び最大発光波長は664nmであるため、これらの2色素は一緒に使用可能となる。これらの化合物を用いて、ゲルは異なる色素を励起するレーザーを使用して2度撮像されるため、各試料に対応するゲルの2つの異なる蛍光像が形成される。これらの色素は、共に移動するために最適化されているので、2つの蛍光像は容易に表れるため各試料中の対応するタンパク質の発光強度が比較可能になるはずである。よって、この情報は同定対象の2つの試料中で発現差異を示すタンパク質の同定に使用可能である。これは、ペプチドマスフィンガープリンティング法によるその後の同定の調節を指示するタンパク質だけを選択可能とするため、その後の質量分析法によるタンパク質同定がより効率的となる。同定工程には、2つの方法がある。第1の方法では、タンパク質をゲルから抽出する。ロボット装置を使用して、ゲルからタンパク質含有スポットを切り取ることができる。次に、切り取ったゲルスポットからタンパク質を抽出する。その後、これらの抽出タンパク質を消化し、ポリペプチドからの消化ペプチドを質量分析法で解析しペプチドマスフィンガープリントを決定する。通常は、MALDI−TOF質量分析法で決定するが、電子スプレー質量分析法もかなり広く使用されている。タンパク質は、ポリビニリデンジフロライド膜上のエレクトロブロッティングでも抽出でき、その後、タンパク質の酵素消化を該膜上で行うことができる(Vestling MM, Fenselau C, Biochem Soc Trans 22(2): 547−551, “Polyvinylidene difluoride (PVDF): an interface for gel electrophoresis and matrix−assisted laser desorption/ionisation mass spectrometry”,1994)。第2の方法では、消化ペプチドをゲルから、又は、切り取ったゲルスポットから抽出した後、ポリペプチドをゲル中で消化し、質量分析法によってペプチドマスフィンガープリントを決定する(Lamer S, Jungblut PR, J Chromatogr. B Biomed. Sci Appl. 752(2): 311−322, “Matrix−assisted laser desorption−ionisation mass spectrometry peptide mass fingerprinting for proteome analysis: identification efficiency after on−blot or in−gel digestion with and without desalting procedures.”2001)。
【0077】
標識ポリペプチドのペプチドマスフィンガープリンティング法
本発明の第2の態様において、1つ以上の試料の検体分子を分析する方法が提供される。この方法において、検体分子は、本発明の第1の態様の標識化合物で共有結合標識される。標識検体は分離され、そして任意に切断される。そして、切断ペプチドが検体分子に結合する標識化合物を更に含むMALDI色素から同じ、又は異なる色素分子を含むMALDIマトリックスに包埋される。そして、標識及び包埋生体分子は、MALDI質量分析計で解析される。検体分子の標識に使用するMALDI色素、及び自由なマトリックスとして選択される色素は、どちらもMALDIプロセスに使用される周波数で強力に光を吸収するために選択される。一般的に、紫外レーザー(UV)周波数266nm(Nd:YAGレーザー)又は337nm(窒素レーザー)が使用される。
【0078】
ペプチド及びタンパク質は、本発明の方法の恩恵をうける好適な生体分子である。ポリペプチド、ペプチド、ポリペプチド混合物、又はペプチド混合物は電気泳動、クロマトグラフィー、又はアフィニティークロマトグラフィー等の従来の方法のいずれかで単離可能である。質量分析の目的のため、ポリペプチド、又はタンパク質が塩又は界面活性剤、特に金属塩で汚染されていないのが好ましい。ポリペプチド、又はペプチド混合物を脱塩する様々な技術が当分野公知であり、例えば、ゲル濾過、透析、又は疎水性樹脂の使用等がある。特に便利で簡単なペプチドの脱塩方法は、C18充填材料を装填するピペットチップでペプチド、又はポリペプチド混合物溶液の少量吸引によるものである。C18樹脂は、一般的に、より極性のある塩汚染物よりもペプチドに対してより高い親和性を有するので、塩、及び界面活性剤がまず初めに溶出可能である。この浄化工程はペプチド分析の検出感度を実質的に向上する。適切な樹脂が事前に充填されたピペットチップ、及びその使用説明書はミリポア社(Millipore)から「Zip Tip(R)」(ベッドフォード、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)として市販されている。
【0079】
本発明で使用する好適なUV吸収色素には、桂皮酸の活性エステル及びその誘導体、ニコチン酸の活性エステル、又はヒドロキシ安息香酸誘導体の活性エステルが挙げられる。従って、本発明の第2の態様の一実施形態において、混合物中の単離ペプチドは、4−ヒドロキシ−α−シアノ−桂皮酸誘導体の活性エステルを含むタグで標識される。ペプチドは、Zip Tip(R)を使用して脱塩され、非修飾4−ヒドロキシ−α−シアノ−桂皮酸のマトリックスに包埋される。一般的に、マトリックス溶体は、少量のトリフルオロ酢酸(0.1から0.5容量%で十分)を含むアセトニトリル等の揮発性溶剤で調製される。次いで、この溶液をピペットで金属標的上に滴下し、小さな溶滴を形成する。少量の脱塩標識ペプチド溶液をマトリックス溶液の溶滴に滴らせる。溶液は、ペプチドがマトリックスと共結晶化できるようにそのまま乾燥する。他の技術では、マトリックス溶液は、ペプチド溶液を加える前に、乾燥して結晶可能である(Hutchens and Yip, Rapid Commun. Mass Spectrom. 7: 576−580,1993)。この手法もまた、検体とマトリックスの共結晶層を形成するために繰り返される。これらの共結晶技術とその変形は、ペプチド又はポリペプチドの分析を改善するために使用され得る。上記の液体マトリックスもまた使用され得る。概して、これらの手法の成功、又は失敗はペプチド混合物の組成次第であり、特別な試料に対する優れたスペクトルを得るために異なる手法を試みる必要があろう。そして、マトリックス/ペプチド共結晶は、MALDI−TOF質量分析計でレーザー脱離により分析される。
【0080】
定量
本発明の方法及び化合物は、タンパク質、及びペプチドの定量に特に良く適している。これは、多くの様々な方法で達成され、より好適な方法を以下に記載する。
【0081】
本願において先行技術との決定的な違いは、同じ実験において異なる試料からタンパク質の発現差異の定量(Differential quantification)を可能にするSMTを使用して下記(a)から(c)のいずれかによりMALDI感度を向上する方法を提供することである。(a)検出及び相対的に定量可能な異なる蛍光色素をゲルに組み込む、(b)同じ配列を有するポリペプチドがMALDIにおいて互いにPMFオフセットを形成するが、この相対イオン強度が親タンパク質の相対存在度と適合するように、異なる質量のレポーターを標識体に組み込む、又は(c)MALDI−TOF/TOF質量分析器のタンデムMSモード、又はMALDIソースを装備したタンデムMS機で定量するように、異なる質量のレポーターを標識体に組み込む。
【0082】
従って、本発明は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析する下記(a)から(d)を含む更なる方法を提供する。
(a) 検体を所定の周波数で光を吸収する光吸収標識体で標識して、標識検体を形成する工程。
(b) 標識検体を、光を吸収する少なくとも1つの化合物から形成されるマトリックスに包埋して、包埋標識検体を形成する工程。
(c) 包埋標識検体を所定の周波数を有する光を照射することで脱離して、脱離検体を形成する工程。
(d) 脱離検体を質量分析法により検出し、検体の特徴を分析する工程。
質量分析法により前記脱離検体を検出する工程は、存在する前記検体量の検出工程の前に行われるか、存在する前記検体量の検出工程を含むか、あるいは、存在する前記検体量の検出工程の後に行われる。
【0083】
上記の工程(a)において、光吸収標識体が蛍光体部分を含み、質量分析法による検出前に検体は蛍光体部分に基づいて検出のために選択される。この実施形態において定量は、ゲル上又は液体クロマトグラフィーの実施のいずれかで蛍光体部分の蛍光を測定して行われる。この方法では、同じ検体が異なる試料から一緒に溶出するために、標識体は同じ質量であるのが好ましい。
【0084】
上記の工程(b)において、検体は異なる質量のレポーターで標識される。これらは、異なるSMT標識体(下記実施例1参照)又は同位体標識したPST標識体等の異なる標識体(下記実施例2参照)がよい。定量は、試料を組み合わせて、組み合わせた試料混合物を質量分析法により解析することにより行われる。特徴的なピーク対(2つを超える試料があれば2つ以上のピーク)のピーク高/領域が測定されて各種に相対存在度を与える。蛍光体群は、この実施形態に必須ではない。質量分析法による解析が定量的に確実になるように正確な感度を提供するためには光吸収標識体の存在だけが必要である。
【0085】
上記の工程(c)において、検体は異なる質量のレポーターで再度標識される。これらは、好ましくは、上記により詳細を示したTMT標識体である。定量は、レポーター群を検出するためにMALDIと組み合わせたタンデム質量分析方法を用いて及びレポーター群の数量を決定することで行われる(下記実施例3参照)。蛍光体群は、この実施形態には必須ではない。質量分析法による解析が定量的に確実になるように正確な感度を提供するためには光吸収標識体の存在だけが必要である。
【0086】
上記の工程(b)において、本発明の光吸収標識体は、質量に基づく質量スペクトル中で個別に区別できる。よって、2つの試料1と2にタンパク質Aが存在すれば、タンパク質は異なる質量を有する標識体に付加されるため、同じ断片から得られるが異なる試料由来のスペクトル中のイオンを試料のMALDIスペクトルから分離する。これらの異なる質量は、標識体の同位体置換、又は小さな化学変換により達成され得る。前者の例として、それぞれ2H、13C、15N及び18Oを有する1H、12C、14N及び16Oで置換される。後者の例として、分子中のCH2基等の不活性基の含有が挙げられる(例えば、図6中のSMT#13及びSMT#14と比較)。
【0087】
上記のとおり、他の方法として、本発明の増感標識体に加えて、更に質量に基づいて個別に区別可能な標識体に断片を付加することが挙げられる。そのような標識体の例は、国際公開第98/32876号パンフレット及び国際公開第00/20870号パンフレットに開示される。これらの標識体は、概してタンパク質配列タグ(PST)と称され、定量に適合する際にはqPSTと称される。本発明のこの実施形態において、2つの試料1と2にタンパク質Aが存在すれば、タンパク質は異なる質量を有するqSMT標識体に付加されるため、同じ断片から得られるが異なる試料由来のスペクトル中のイオンを試料のMALDIスペクトルから分離する。本発明の標識体は、感度の改善により更に定量を正確にする。
【0088】
工程(c)としては、本発明の増感標識体に加えて質量に基づいて個別に区別可能な更なる標識体に断片を付加することが挙げられる。そのような標識体の例は、国際公開第01/68664号パンフレット及び国際公開第03/025576号パンフレットに開示される。これらの標識体は、概してタンデム質量タグ(TMT)であり、定量に適合する際にはqTMTと称される。これらの標識体は2つの部分に形成され、1つは質量マーカーであり、1つは質量を標準化するためであるので1セット内の全てのTMT標識体が同じ質量を有するという利点がある。これは、HPLC、又は他のクロマトグラフィー間に、異なる標識体を有していても同じ質量を有する標識断片は同じ方法で溶出するという利点がある。本発明のこの実施形態において、2つの試料1と2にタンパク質Aが存在すれば、タンパク質は異なる質量を有するqTMT標識体に付加されるため、同じ断片から得られるが異なる試料由来のスペクトル中のイオンを試料のMALDIスペクトルから分離する。本発明の標識体は、感度の改善により更に定量を正確にする。実際に、本発明の標識体は、適切な設計では、TMT標識体の代わりに使用され得ることもある。
【0089】
質量分析計
質量分析計の必須の特徴は次の通りである:
導入系→イオン源→質量分析器→イオン検出器→データ捕捉系
大きな生体分子を分析するために使用可能な導入系、イオン源及び質量分析器が様々あるが、しかし、本発明の文脈において、イオン源は、導入系の数だけが限られているマトリックス支援レーザー脱離イオン化源である。同様に、商業的に生産されていない質量分析器構造があるが、様々な質量分析器、イオン検出器、及びデータ捕捉系がMALDIと共に使用される。飛行時間型質量分析器は、一般的にMALDIと共に使用され、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型質量分析器及び四重極/飛行時間型質量分析器も同様である。主に、イオントラップ、及びセクター方式装置もまた、MALDIと共に使用可能であるが、これらは概して商業的に生産されていない。
【0090】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)
MALDIでは、生体分子の溶液を大過剰モルの光励起「マトリックス」に包埋する必要がある。適切な振動数のレーザー光を当てると、マトリックスが励起し、次に閉じ込めた生物分子と一緒にマトリックスが迅速に気化する。酸性マトリックスから生物分子にプロトンが移動して生物分子のプロトン化形が生じ、これは陽イオン質量分析法、特に飛行時間型(TOF)質量分析法により検出することができる。陰イオン質量分析法もMALDI−TOFにより可能である。この技術は、イオンにかなりの量の遷移エネルギーを付与するが、これにもかかわらず、過剰な分離を誘導しない傾向がある。イオン源からイオンを加速するために使用するレーザーエネルギー及び電位差の印加時期は、この技術を用いる開裂を調整するために使用できる。この技術は、質量範囲が大きいこと、1価イオンが多いこと、及び複数ペプチドを同時に分析する能力があること等から、ペプチドマスフィンガープリントの決定に非常に好まれる。
【0091】
光励起性マトリックスは「色素」、即ち、特別な周波数の光を強力に吸収する化合物を含み、好ましくは、蛍光、又は、りん光によりそのエネルギーを放射せず、むしろ熱でエネルギーを消散する、即ち振動モードによりエネルギーを消散する。レーザー励起により生じるマトリックスの振動が、色素の急速な昇華を招き、同時に包埋検体を気相中に取り込む。
【0092】
質量分析器
飛行時間型質量分析器
名前が暗示する通り、飛行時間型質量分析器は、イオンが所定の電位差の影響下で所定の距離を移動する時間を測定する。飛行時間型測定により、検出器にぶつかるイオンの質量電荷比の算出が可能となる。これらの機器は、試料内のほぼ全てのイオンの出現を測定するので、結果として非常に高感度であるが、この技術で選択性を達成するのはより難しい。この技術は、また、イオントラップ、又は四重極質量分析計で一般的に測定できるイオンより高い質量電荷比のイオンを検出可能である。TOF質量分析器は、現在はMALDIと共に広く使用される。
【0093】
イオントラップ
イオントラップ質量分析計は、四重極質量分析計に関連するものである。一般にイオントラップは3個の電極からなる構造をしており、すなわち各端に「キャップ」電極があり、それらによって空洞が形成されている円筒状電極である。円筒状電極には正弦波高周波数電位を印加し、キャップ電極にはDC又はAC電位でバイアスをかける。空洞に注入されたイオンは円筒状電極の振動電界によりトラップ内の安定な円形軌道に拘束される。しかし、所定の振幅の振動電位に対して特定のイオンは不安定な軌道をとり、トラップから放出される。振動高周波電位を変化することによって、トラップに注入したイオン試料をそれらの質量電荷比に応じてトラップから連続的に放出させることができる。次に放出されたイオンを検出することによって質量スペクトルが生成される。
【0094】
一般にイオントラップは、イオントラップの空洞に存在する少量の「浴ガス」、例えばヘリウムで操作される。これにより装置の解像度と感度の両方が向上する。その理由は、トラップに入ったイオンは本質的には浴ガスとの衝突を経て浴ガスの環境温度にまで冷却されるからである。衝突すると、試料をトラップに導入した時のイオン化が増加し、それと共にイオン軌道の振幅と速度は減衰し、イオン軌道はトラップの中央近傍に保持される。これは、振動電位を変更することにより軌道が不安定になったイオンは減衰している循環イオンに比べると急速にエネルギーを獲得し、緊密な束となってトラップから飛び出し、その結果、ピークが狭く大きくなることを意味する。
【0095】
イオントラップは、タンデム質量分析計の構造を模倣することができ、実際に多重質量分析計の構造を模倣することにより、トラップイオンの複雑な分析が可能になっている。試料から単一質量種をトラップに保持できる、すなわちその他の種は全てトラップから放出させることができ、保持した種は、注意しながら第1振動周波の上に第2振動周波を重ね合わせることにより励起することができる。次に励起されたイオンは浴ガスと衝突し、十分に励起されると開裂する。次にその開裂を更に分析することができる。更なる分析のために他のイオンをトラップから排出することによって開裂イオンを保持し、その開裂イオンを励起して開裂させることができる。十分な試料が存在する限りこのプロセスを反復することにより、更なる分析が可能になる。留意すべきこととして、これらの機器は一般に誘導開裂後の開裂イオンを高い存在割合で保持する。これらの機器及びFTICR質量分析計(下記記載)は、線形質量分析計に存在する空間的に解決されたタンデム質量分析計というよりもむしろ時間的に解決されたタンデム質量分析計の形態を代表するものである。
【0096】
フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FTICR MS)
FTICR質量分析計には、イオン試料が空洞内に保持されるという点でイオントラップと類似の特徴があるが、FTICR MSではイオンは交差電磁界により高真空チャンバに捕捉される。箱の2つの側面を形成する一対の平板電極が電界を形成する。この箱は電界を形成しかつ捕捉平板と呼ばれる2枚の平板に連結しており、捕捉平板の間にあってかつ印加磁界に直交する円形軌道に注入イオンを拘束する超伝導磁石の磁界に含まれる。箱の他の対向側面を形成する2枚の「送信板」に高周波パルスを印加するとイオンはより大きな軌道の中に励起される。イオンの円形運動によりそれに対応する電界が、「受信板」を含む箱の残りの2つの対向側面に発生する。励起パルスによりイオンはより大きな軌道に励起されるが、衝突を経てイオンの凝集運動が失われるに従いこの軌道は崩壊する。受信板が検出した対応シグナルはフーリエ変換(FT)解析により質量スペクトルに変換される。
【0097】
誘起開裂実験のために、これらの機器は、イオントラップと類似の方法、すなわち目的の単一種を除く全てのイオンがトラップから排出可能な方法で行うことができる。衝突ガスをトラップに導入して開裂を誘起することができる。その後に開裂イオンを分析することができる。
【実施例】
【0098】
1.本発明のタグを使用する定量(qSMT)
この実験では、本発明の標識体(増感質量タグ、SMT)を異なるリンカー鎖長を使用する定量に適応した。図6に示す2つの標識体(SMT#13及びSMT#14)を用いた。
BSA消化を本発明の方法により行った。2つの試料を用いて、各試料中のリジン側鎖及びN−末端をタグ(各試料に対して異なるタグ)の1つで修飾した。
各試料のMALDIスペクトルを図7に示し、拡大したスペクトルを図8に示す。これらのスペクトルから同じピークプロファイルが形成され、2つのタグの質量が異なるため、一方が他方に対して質量において若干移動するのが分かる。これは図9に示す1:1混合スペクトル、及び図10に示す対応する拡大スペクトルでより容易に分かる。図11に示す分離した試料スペクトルと1:1混合スペクトルも同様である。
存在する種の数はこれらのスペクトルに正確に反映され、上述の図において同様のピーク高(及び領域から)分かる。存在する2つの試料の量を変化させてこれを実証した。図12は図11に対応する1セットのスペクトルを示し、図12では3つの混合比、1:2、1:1、及び2:1と量が変化する。図14は、同位体除去後の同じスペクトルを示す。量の変化は極めて明白であり、絶対量の計算、又は2つの試料間の相対量の比較に用いることができる。
【0099】
上記記載の3つの量の比率、1:2、1:1、及び2:1のスペクトル中のピーク下で領域の測定により、ピーク強度が得られ、下記結果が得られる。
比率1:1
比率1:2
比率2:1
内比は以下のように算出される。
内比=IS/IL
IL=軽い種のイオン強度
IS=重い種のイオン強度
以下の式も記載する。
NL=軽い種の総量
NS=重い種の総量
Delta=ISNL/ILNS
これらの小規模実験、及び上記比率から、2つの種の相対量の正当な推定値が決定されると理解できる。
【0100】
2.qPSTと共に本発明のタグを使用する定量(SMT−qPST)
この実験では、本発明の標識体(増感質量タグ、SMT)は、qPSTタグと共に使用する定量に適用した(これらのタグのより詳細については上記に記載)。qPST標識体対を同位体標識した(それぞれ質量が+85及び+95Da)。qPSTタグはトリプシン消化を行う前に、試料の分離に用いた。これにより、トリプシンに切断されないリジン残基が修飾される。
消化後、増感標識体を加え、新規のN−末端ペプチドと反応させた。各混合物中に、各ペプチドは1つのSMTの最大数を有する。
HPLC分離を、試料に対するMALDI質量分析法の実施前に各試料に対して実施した。組み合わせた試料のスペクトルを図15に示すが、予想ピーク対が明らかに際立っている。
この増感標識体を用いた実験と、この増感標識体を用いない実験とを繰り返して、存在するSMT標識体の有用性を実証した。比較スペクトルを図16に示す。図16では、上側スペクトルは増感標識体を含むが、下側は含まない。例えば、下側スペクトル中の増感体(+341Da)で修飾された902/907対が、上側スペクトルでは1243/1248対として現れる。上側スペクトルにおけるピークは、存在するSMT標識体によりかなり向上した。
完全のため、HPLC後の比較スペクトルを図17に示す。図18は、HPLC終了時点での塗布標本を示す。2066/2071対が長く溶離するが、確実な定量を提供するための方法の能力には影響しない。
【0101】
3.タンデム質量分析法と共に本発明のタグを使用する定量
この実験では、本発明の標識体(増感質量タグ、SMT)は、MS/MSモード質量分析計と共に使用した。ペプチドVATVSLPRを本発明の方法においてSMT#2で標識した。SMT#2は以下の構造を有する。
【化3】
得られた断片のタンデム質量スペクトルを図19に示す。スペクトルは70、72、86、112、及び114でイミニウムイオンを示す。イオンは、172で増感タグを切断して生成される(SMT#2におけるアミド結合の切断)。ピークは以下のように同定された。
Y2−NH3 255.1
Y2 272.2
B1 384.2
Y3 385.2
B2 455.3
B3−18(Tyr) 538.3
B3 556.3
B4 655.3
ここで使用する命名法は1984年にRoeppstorfとFohlmannに考案された正式な命名法である。MS/MS測定によるペプチド切断に使用され、YはC−末端断片、及びBはN−末端断片を言及する(例えば、B1はスペクトル中の第1N−末端断片)。
この実施例は、更なる特徴分析方法において本発明のSMT標識体の有用性を実証する。
【図面の簡単な説明】
【0102】
本発明のより詳細な記載をほんの1例として図面を参照して以下に示す。
【図1】図1は、市販されている3つの反応性蛍光体である、プロピル−Cy3−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、メチル−Cy5−ヒドロキシスクシンイミドエステル及びCy2−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを示す。これらの蛍光体は、タンパク質中のアミノ基と反応し、これらの色素で標識される異なる試料中の対応するタンパク質は共に移動する。
【図2】図2は、桂皮酸誘導体及びアミン反応性N−ヒドロキシスクシンイミドエステル官能基に結合したプロピル−Cy3蛍光体を含むバイモーダルなタグを示す。
【図3】図3は、桂皮酸誘導体、可溶化のためのアルギニン、及びアミン反応性N−ヒドロキシスクシンイミドエステル官能基に結合したプロピル−Cy3蛍光体を含むバイモーダルなタグを示す。
【図4】図4は、桂皮酸誘導体及びアミン反応性N−ヒドロキシスクシンイミドエステル官能基に結合したメチル−Cy5蛍光体を含むバイモーダルなタグを示す。
【図5】図5は、桂皮酸誘導体、可溶化のためのアルギニン、及びアミン反応性N−ヒドロキシスクシンイミドエステル官能基に結合したメチル−Cy5蛍光体を含むバイモーダルなタグを示す。
【図6】図6は、存在するペプチド量を決定可能な本発明の実施形態において用いられる本発明の2つのタグ(SMT#13及びSMT#14)を示し、SMTタグ#13及びSMTタグ#14は芳香族系と反応性基の間のリンカー長が異なるため、結果として質量差が14.0156Daとなる。
【図7】図7は、BSA消化物の2つの質量スペクトルを比較するために示し、上方がSMT#14、下方がSMT#13を用いた質量スペクトルである。
【図8】図8は、図7のスペクトルの拡大図を示す。
【図9】図9は、SMT#13標識BSA消化物及びSMT#14標識消化物を1対1で混合した単一質量スペクトルを示す。
【図10】図10は、図9のスペクトルの拡大図を示す。
【図11】図11は、異なるSMTで標識したBSAの3つのスペクトルを示し、上側はSMT#13、下側はSMT#14、及び中央は両者の1:1混合を用いたスペクトルである。
【図12】図12は、両方のSMTを異なる比率で標識したBSAの3つのスペクトルを示し、SMT#13:SMT#14が、上側は1:2、中央は1:1、及び下側は2:1である。
【図13】図13は、同位体除去後の図12の3つのスペクトルを示す。
【図14】図14は、図13のスペクトルの拡大図を示す。
【図15】図15は、定量的タンパク質配列タグ(qPST)及び本発明のタグ(SMT)の両方で標識したBSA消化物の結果のスペクトルを示す。qPST標識体は、識別的に同位体標識され、結果として1つの試料からより高い質量対、及びもう1つの試料からより低い質量対のピーク対を得る。
【図16】図16は、本発明の増感タグが有る場合と無い場合での図15と同じ消化物の比較を示す。
【図17】図17は、プロセスにHPLC分離工程を含んだ後で選択されたイオン対を示す。
【図18】図18は、スペクトル中の弱いピーク対でさえも本発明の増感体を使用して有効な定量データを生じ得ることを示す。
【図19】図19は、増感質量タグ(SMT)で標識したペプチドVATVSLPRのタンデム質量スペクトルを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、非質量系分析法及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法による関連検体の生体分子検出感度を向上する多モードマーカーで検体分子、特には不揮発性の生体分子を標識する方法に関する。詳細には、本発明は、蛍光検出能力を特定の色素の能力と組み合わせて、これらの色素で標識した検体のMALDI質量分析法による検出感度を向上するマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料中のタンパク質の発現を決定する従来の技術は、タンパク質の同定に左右される。タンパク質発現プロファイルは、試料中のできる限り多くのタンパク質を同定し、好ましくは、試料中のタンパク質量を決定することを目標とする。典型的なタンパク質のプロファイリング法は、二次元電気泳動法(2−DE)によるものである(非特許文献1)。この方法では、生体試料から抽出したタンパク質試料が2つの独立した電気泳動法によって分離される。通常、第1の分離はタンパク質の等電点に基づく分離であり、pH勾配のあるゲル充填毛細管又はゲルストリップを使用する。タンパク質はpH勾配に沿って電気泳動的に移動し、最終的にはタンパク質に正味の荷電が存在しなくなるpH、(これを等電点と呼ぶ)、に達するとそれ以上タンパク質は移動できなくなる。試料中の全タンパク質が等電点に達した後、第2の電気泳動法を使って、タンパク質を更に分離する。第2の方法を実施するために、次に、等電点電気泳動ゲルストリップ全体を、長方形のゲルの1つの角に合わせて置く。その後、ストリップ中の分離されたタンパク質を、そのサイズに基づいて、第2ゲルで電気泳動によって分離する。タンパク質は、長方形のアクリルアミド板中の二次元スポット列で解像される。しかし、試料中のタンパク質を相互に分離した後には、タンパク質の検出とその後の同定の問題が残る。現時点でタンパク質を同定する好ましい方法は、ゲル上の特定スポットにあるタンパク質をMALDI−TOF質量分析法を使用してペプチドマスフィンガープリンティング法により分析することである(非特許文献2)が、処理量が限られている。従って、2−DE技術は、ゲルスポット中のタンパク質同定に使用されるペプチドマスフィンガープリンティング法の検出能に制限される。現在の2−Dゲル技術を用いて行われる分析から有効なタンパク質同定の数量を増加する1つの方法は、病気の試料のゲルと参照試料のゲルと比較して違いを同定し、発現差異に対応するスポットに存在するタンパク質を同定するだけである。2つ以上の試料を異なる蛍光体で共有結合標識して同一ゲル上で分離する、改良2−DEゲル技術が開発されている(非特許文献3)。この技術はDIGEと称され、試料対を同じ分析で定量的に比較可能にし、これは異なるゲル上で試料が比較されるという厄介な再現性の問題を避けるために非常に有利である。蛍光標識タンパク質は、ゲル上のタンパク質の視覚化に特に必要とされる追加的な染色工程を経ずに検出可能である。染色が多いとその後に続く質量分析法による解析を妨げるので、染色を避けることは有利である。しかしながら、DIGE法は、ペプチドマスフィンガープリンティング法に対して通常使用するMALDI−TOF解析の感度を高めない。
【0003】
代表的なペプチドマスフィンガープリンティング法のプロトコルでは、未同定タンパク質の質量を決定し、次にトリプシン等の酵素で(ゲル状又は溶解した)タンパク質を消化する。トリプシンは、ポリペプチドをアルギニン及びリジン残基で選択的に開裂し、生じたペプチドのC−末端にアルギニンかリジンを残す。ポリペプチド配列中のリジン及びアルギニンの位置によって、どこでポリペプチドが開裂されて特徴的な一連のペプチドが生じるかが決定する。ペプチドパターンはMALDI−TOF質量分析法により容易に検出できる。この質量分析技術は、質量範囲が広く、大きな生体分子を容易にイオン化可能であり、優先的に1価のイオンを生じるので、この技術ではイオン化の競合が深刻ではない。ただし、競合は問題となる可能性がある。以上のことは、一般的に質量スペクトルではペプチド毎に1つのピークがあり、各ピークの質量電荷比の値はプロトンが加わってイオン化したペプチドの質量と実質的に同じであり、従って、未同定タンパク質のトリプシン消化ペプチドは大部分(時には全て)同時に分析可能であるということを意味する。実際、質量スペクトルは「バーコード」であり、そのスペクトル線によってタンパク質の特徴的な開裂によって生じたペプチドの質量が表現されている。任意のタンパク質のあるペプチドが他のタンパク質由来のペプチドと質量が同じであることはあり得るが、2種類のタンパク質が同一質量な同一のペプチド群を生じる可能性は低い。これは、トリプシンタンパク質消化物の質量パターンがそのタンパク質のかなり特異的な識別子であることを意味し、それゆえにペプチドマスフィンガープリント(PMF)と呼ばれる。PMFが相対的に特異であるということは、既知タンパク質配列、ゲノムDNAから予測した配列、又は発現配列タグ(EST)から決めた予測(仮定の)PMFのデータベースを使用すれば、生物学試料中のタンパク質を同定することができることを意味する(非特許文献4〜6)。未同定タンパク質のPMFをデータベース中の全てのPMFと比較して、最良の一致を見出さすことで、そのタンパク質を同定することができる。この種の検索には、消化前にタンパク質質量を決めなければならないという制約を受ける。しかし、このようにして未同定ポリペプチドの質量パターンは、その配列に関連付けることができ、これにより、特定試料中のタンパク質の役割を決定するのに役立てることができる。
【0004】
しかし、タンパク質に対するPMF決定には、多くの技術的難題が含まれる。典型的なタンパク質は、トリプシンによる開裂後、20〜30個のペプチドを生じるが、これらのペプチドの全部が質量スペクトルに現れるわけではない。これに関する正確な理由は、十分に理解されていない。不完全なスペクトルを引き起こすと考えられる一つの要因としては、イオン化の過程でプロトン化と競合し、アルギニン含有ペプチドが優先的にイオン化してしまうことが挙げられる(非特許文献7)。更に、MALDI標的の調製過程に起因する表面効果がある。標的は、ペプチド消化物をマトリックス材料の溶液に溶解して調製する。ペプチド/マトリックス溶液の小滴を金属標的上に滴下し、乾燥する。ペプチドの溶解度に差があるために、あるペプチドはマトリックス上面近くで優先的に結晶化し、その場所で一層容易に脱離することになる。
【0005】
PMFからタンパク質を同定するための従来のプロトコルでは感度もまた問題である。そのプロトコルが有効なツールであるためには、できるだけ小さなタンパク質試料のPMFを決定することができ、タンパク質試料の分析の感度を向上させなければならない。
【0006】
ペプチドの化学的誘導体化によりアルギニンを含まないペプチドのイオン化を増大するための様々な試みが行われている。リジンのホモアルギニンへの変換は、ある程度成功した取り組みである(非特許文献8〜10)。リジンをホモアルギニンに変換すると、トリプシン消化に由来するC−末端ペプチドを除く全てのペプチドにグアニジノ官能基が導入され、MALDI−TOF質量スペクトルにおけるリジン含有ペプチドの出現が増大する。
【0007】
グアニジノ基を導入するためのペプチドの誘導体化は、誘導体化ペプチドのプロトン親和性を改善する方法である。感度を向上するためのこの取り組みは、エレクトロスプレーイオン化(ESI)及びMALDI分析等のイオン化を達成するためにプロトン付加に依存する技術での検出感度向上に適度に成功した。これらの技術は、検体がプロトン親和性の高い官能基、例えば、オリゴ糖などをまだ有していなければ最も効果的である(非特許文献11)。しかしながら、トリプシン消化ペプチド等の容易にプロトン化される官能基を既に含む検体は、これらの種類の検体の感度を改善するために必要とされるような試薬及び他の方法から大きく恩恵を受けない。
【0008】
ペプチドを誘導体化するための様々な他の試薬もまた開発されている。4級アンモニウム基及び4級ホスホニウム基を導入する試薬が、陽イオン質量分析法用に開発されている。ハロゲン化合物、特に、ハロゲン化芳香族化合物は良く知られた電荷運搬体で、即ち、熱電子を非常に簡単に捕捉することは公知である。フッ素化芳香族化合物に基づく様々な誘導体化試薬(非特許文献12)が、陰イオン質量分析法に使用可能な非常に高感度なイオン化及び検出方法である電子捕獲検出法のために開発されている(非特許文献13)。フッ素化芳香族基は、感度向上基としてもまた使用可能である。芳香族スルホン酸もまた、陰イオン質量分析法における感度を改善するために使用されている。
【0009】
先行技術で開示されている各種類の誘導体化試薬は、使用するイオン化方法、及び使用する質量分析方法によって異なる利点及び制限がある(概説については、非特許文献14)。感度向上メカニズムもまた、各々の基の種類により異なる。誘導体化方法のいくつかは塩基性を増加させることによりプロトン化と電荷の局在を促進させ、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)及び高速原子衝撃法(FAB)の様な表面脱離技術における感度を改善する。これまでは、電荷を有する官能基又は高プロトン化親和性の官能基を導入する試薬がMALDI質量分析法に対して開発されてきたが、光吸収能、及び対マトリックス混合能を改善することで検体の脱離を向上する試薬は報告されていない。
【0010】
陰イオン質量分析法は、時に、バックグランドノイズがより少ないために感度がより高くなる。陰イオンモード検出及び陽イオンモード検出の両方を向上させることができるタグは、重要な利点を有している。全ての関連する検体の感度を一様に改善するタグは、全ての質量分析技術に対してはまだ見つけられておらず、万能試薬が見つかる見込みはない。しかしながら、特定の質量分析技術に対して特定の技術の特徴を活用して検出感度を促進する試薬の設計は可能なはずである。
本発明では、誘導体化試薬及びその使用方法がゲル上でのタンパク質の標識及び検出の両方を可能にするために開発され、その上、MALDI質量分析法による検出感度が向上された。
【0011】
特許文献1には、共有結合した核酸プローブの配列を同定する、質量分析法で検出できる開裂可能な標識体のアレイが開示される。これらの質量標識体は、他の核酸分析方法と比べて多くの利点がある。目下、DNAの蛍光標識に基づくシステムが商業的に好まれる。蛍光標識方式は、比較的少ない分子を同時に標識可能であり、一般的に4標識体を同時に使用可能であり、最大8標識体まで可能である。しかしながら、検出装置の費用、及び得られた信号分析の困難性により蛍光検出方式で同時に使用可能である標識体の数が限定される。質量標識体を使用する利点は、多数の標識体を形成する可能性であり、該標識体は、質量スペクトル中で個々のピークを有するので、同様の数の別個の分子種を同時に標識可能にする。蛍光色素は、合成費用が高いが、質量標識体は低価で多数の標識体の組み合わせの合成を可能にする比較的単純なポリマーを含むことができる。この用途は、生体分子の標識用に質量を変えたMALDIマトリックス分子の使用が使用されることを示している。光解離性リンカーを介して生体分子に付着可能な桂皮酸、及びシナピン酸等のMALDIマトリックス剤を含むタグが、追加的にマトリックスを必要とせずにレーザー脱離イオン化質量分析計内でタグの切断及び脱離を可能とする。
【0012】
特許文献2は、核酸及びオリゴヌクレオチドを標識するためのトリチル基を含む質量タグを開示する。これらのタグは、脱離前にMALDI−TOF質量分析計において光分解により関連するオリゴヌクレオチドから切断可能である。帯電される切断産物は、タグの検出感度を向上するので有利である。この方法もまた追加のマトリックスを必要としない。
【0013】
従って、先行技術は、MALDI質量分析法で使用する追加のマトリックス無しで脱離し得る切断可能なタグのための方法及び試薬を開示する。本発明は、タグが検体から切断されず、及びタグが自由なマトリックス材料の存在下で使用される事実により特徴付けられる。
【0014】
【非特許文献1】R.A.Van Bogelen., E.R. Olson, “Application of two−dimensional protein gels in biotechnology.”, Biotechnol Annu Rev, 1:69−103,1995
【非特許文献2】Jungblut P, Thiede B. “Protein identification from 2−DE gels MALDI mass spectrometry.” Mass Spectrom Rev. 16:145−162,1997
【非特許文献3】Unlu, M.; Morgan, M.E.; Minden, J.S. Electrophoresis 1997, 18, 2071−2077
【非特許文献4】Pappin DJC, Hoejrup P and Bleasby AJ, Current Biology 3: 327−332, “Rapid identification of proteins by peptide−mass fingerprinting.”1993
【非特許文献5】Mann M, Hojrup P, Roepstorff P, Biol. Mass Spectrom 22 (6): 338−345, “Use of mass spectrometric molecular weight information to identify proteins in sequence databases.”1993
【非特許文献6】Yates JR 3rd, Speicher S, Griffin PR, Hunkapiller T, Anal Biochem 214(2):397−408, “Peptide mass maps: a highly informative approach to protein identification.”1993
【非特許文献7】Krause E. & Wenschuh H. & Jungblut P.R., Anal Chem. 71(19): 4160−4165, “The dominance of arginine−containing peptides in MALDI−derived tryptic mass fingerprints of proteins.”1999
【非特許文献8】V.Bonetto et al., Journal of Protein Chemistry 16 (5): 371−374, “C−terminal Sequence Determination of Modified peptides by MALDI MS”,1997
【非特許文献9】Francesco L. Brancia, Stephen G. Oliver and Simon J. Gaskell, Rapid Commun. in Mass Spec., 14, 2070−2073,“Improved matrix−assisted laser desorption/ionisation mass spectrometric analysis of tryptic hydrolysates of proteins following guanidination of lysine−containing peptides.”2000
【非特許文献10】Brancia et al., Electrophoresis 22: 552−559, “A combination of chemical derivatisation and improved bioinformatics tools optimises protein identification for proteomics”,2001
【非特許文献11】Okamoto et al., Anal Chem. 69(15): 2919−2926, “High−sensitivity detection and post−source decay of 2−aminopyridine−derivatized oligosaccharides with matrix−assisted laser desorption/ionisation mass spectrometry.”1997
【非特許文献12】Bian N.et al., Rapid Commun Mass Spectrom 11(16): 1781−1784, “Detection via laser desorption and mass spectrometry of multiplex electrophore−labelled albumin.”1997
【非特許文献13】Abdel−Baky S. & Giese R. W., Anal Chem. 63(24): 2986−2989, “Gas chromatography/electron capture negative−ion mass spectrometry at the zeptomole level.”1991
【非特許文献14】Roth et al., Mass Spectrometry Reviews 17: 255−274, “Charge derivatisation of peptides for analysis by mass spectrometry”,1998
【特許文献1】国際公開第98/31830号パンフレット
【特許文献2】国際公開第99/60007号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、上記先行技術に関する問題を解決することである。特に、本発明の目的は、改善されたペプチドマスフィンガープリントの作製に使用することができる方法及び標識体を提供し、それにより他の標識不揮発性高分子、特にタンパク質及び核酸等の他の生体分子の検出感度を向上させることである。この方法は感度を向上し、及び従来のMALDI実験では検出不可能であったタンパク質から検出するペプチド(例えば、小さいペプチド)の数を増加可能である。更に、適切なタグの使用により、本発明は多数の試料を同時に分析可能であり、また異なる試料における対応するペプチド比、及び1つ以上の試料における個別のペプチド量もまた決定可能である。適切な標識方法を用いることで、質量分析法で検出するためのポリペプチド試料の調整もまた容易になる。
【0016】
本発明の更なる目的は、質量標識体として所望の特徴を有する化合物、及び関連する検体の改善された質量スペクトルを提供するそれらの化合物の使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
従って、本発明は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析する下記工程(a)から(d)を含む方法を提供する。
(a) 検体を所定の周波数で光を吸収する光吸収標識体で標識して、標識検体を形成する工程。
(b) 標識検体を、光を吸収する少なくとも1つの化合物から形成されるマトリックスに包埋して、包埋標識検体を形成する工程。
(c) 包埋標識検体を所定の周波数を有する光で照射することで脱離して、脱離検体を形成する工程。
(d) 脱離検体を質量分析法により検出し、検体の特徴を分析する工程。
上記工程において、光吸収標識体は蛍光体部分を含み、検体は質量分析法による検出の前に蛍光体部分に基づいて検出のために選択される。
【0018】
上記に示す選択の1例は、事前にゲル又はHPLCで同定した多くのタンパク質種について蛍光体を分析する工程と、それらのタンパク質に付着した特定の蛍光体に基づいて該ゲル又はHPLCから特定の1つ又は複数のタンパク質を質量分析法で検査するために選択する工程とを含むことがある。
【0019】
従って、本発明は、同じ実験において異なる試料から検体(例えば、タンパク質)の発現差異の定量(Differential quantification)を可能にする増感質量タグ(SMT)を使用してMALDI感度を向上する方法を提供する。定量は、多くの方法で達成し得る。例えば、ゲル上又はHPLCにおける蛍光体の蛍光強度の比較、MALDIスペクトル中のピーク高さ/領域の比較、及び検体の標識上への質量レポーター基を封入し、タンデム質量分析計による解析において同定されたレポーター基に基づく量の測定が挙げられる。
【0020】
本発明においては、該方法を二次元電気泳動法(2−DE)よりもむしろ液体クロマトグラフィー(LC)と組み合わせる場合に、SMTを使用すると更に有利である。これは、高塩基性及び/又は小さな(例えば、10Da以下)検体に対して特に利点である。本発明の方法により、ユーザが非常に高価なエレクトロスプレー質量分析計を必要とせずに比較的単純なMS及びLC機器を用いて、信頼できる定量を得ることが可能となる。
【0021】
本発明の文脈において、MALDIとは、脱離イオン化技術型、又はMALDIの単に最も一般的な型であるレーザー脱離イオン化技術型を包含することを意図する。従って、MALDIという用語そのものは、MALDI−TOF、及びSELDI(下記に示す)を含む。
【0022】
特に好適な実施形態において、上記方法は、質量分析法による検出の前に、蛍光体部分の種類及び/又は量に基づいて検出するために検体を選択する工程を含む。よって、例えば、単一試料を分析したい場合は、試料中のタンパク質は、上記のように標識され、及び初めにゲル上(例えば大きさ及び/又は等電点に基づいて)で分離されうる。通常、ゲル上で露呈したタンパク質毎に同定しようとするのは好ましくなく、選択的に同定するのが好ましい。例えば、高発現タンパク質だけが重要であり得る。この場合、蛍光体が、ゲルから抽出するタンパク質の選択、消化による同定、その次の質量分析に使用され得る。また、一緒に分析される試料がいくつかあれば、タンパク質を様々な試料から識別するために蛍光体が使用され、これに基づき選択がなされる。もちろん、必要であれば、量及び種類も選択の基準となり得る。
【0023】
好ましくは、蛍光体部分は色素部分を含む。色素部分は、キサンテン色素部分(フルオレセイン部分、又はローダミン部分等)及びシアニン色素部分から選択され得る。より好ましくは、蛍光体部分は、プロピル−Cy3−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、メチル−Cy5−ヒドロキシスクシンイミドエステル、又はCy2−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを含む。
【0024】
概して、脱離検体は質量分析法により直接検出される。或いは、脱離検体は質量分析法により間接的にも検出される。この実施形態において検体は、当該検体に関係づけられる質量標識体で更に標識されて、当該質量標識体は脱離検体から切断され、当該脱離検体が質量分析法により検出されて検体が特徴分析される。
【0025】
一般的に、包埋標識検体を照射する光はレーザー光である。マトリックスを形成する化合物は光吸収標識体と同一周波数で光を吸収するのが好ましい。ある実施形態において、マトリックス及び光吸収標識体は、同一化合物から形成される。
【0026】
概して、マトリックスは、固体マトリックス又は液体マトリックスである。好ましくは、マトリックスが液体マトリックスである場合に、ニトロベンジルアルコールを含む。他の実施形態において、好ましくは、マトリックスは、3−ヒドロキシピコリン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、及び4−ヒドロキシ−α−シアノ桂皮酸から選択される化合物を含む。
【0027】
マトリックスのpHは、特に限定されず、マトリックスは、酸性マトリックス、又は塩基性マトリックスを含む。
【0028】
一般的に、光吸収標識体は、色素から形成される。好ましくは、色素は非蛍光色素である。色素は、4−ジメチルアミノアゾベンゼン−4’−スルホニルクロライド(ダブシル(DABSYL)クロライド)、3−ヒドロキシピコリン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、及び4−ヒドロキシ−α−シアノ桂皮酸を含む適切な化合物から選択され得る。
【0029】
検体の本質は、特に限定されない。好ましくは、検体はタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ペプチド断片及びアミノ酸から選択される1つ以上の化合物を含む。
【0030】
また、本発明は、ポリペプチドの特徴を分析する下記工程(a)から(f)を含む方法を提供する。
(a) 任意にポリペプチド中でシステインジスルフィド架橋を還元し、遊離チオールを形成し、遊離チオールをキャップする工程。
(b) ポリペプチドを配列特異的開裂試薬で開裂して、ペプチド断片を形成する工程。
(c) 任意に開裂試薬を不活性化する工程。
(d) 存在する1つ以上のε−アミノ基をリジン反応剤でキャップする工程。
(e) ペプチド断片を上記で定義する方法により分析して、ポリペプチドのマスフィンガープリントを形成する工程。
(f) マスフィンガープリントからポリペプチドを同定する工程。
【0031】
更に本発明は、複数のポリペプチドの特徴を分析する下記工程(a)から(g)を含む方法も提供する。
(a) 任意に1つ以上のポリペプチド中でシステインジスルフィド架橋を還元して、遊離チオールを形成し、遊離チオールをキャップする工程。
(b) 複数のポリペプチドから1つ以上のポリペプチドを分離する工程。
(c) 1つ以上のポリペプチドを配列特異的開裂試薬で開裂して、ペプチド断片を形成する工程。
(d) 任意に開裂試薬を不活性化する工程。
(e) 存在する1つ以上のε−アミノ基をリジン反応剤でキャップする工程。
(f) ペプチド断片を上記で定義する方法により分析して、1つ以上のポリペプチドのマスフィンガープリントを形成する工程。
(g) マスフィンガープリントから1つ以上のポリペプチドを同定する工程。
【0032】
本発明は、また各試料が1つ以上のポリペプチドを含む複数の試料を比較する下記工程(a)から(g)を含む方法も提供する。
(a) 任意に試料からの1つ以上のポリペプチド中でシステインジスルフィド架橋を還元し、かつ遊離チオールをキャップする工程。
(b) 各試料から1つ以上のポリペプチドを分離する工程。
(c) ポリペプチドを配列特異的開裂試薬で開裂して、ペプチド断片を形成する工程。
(d) 任意に開裂試薬を不活性化する工程。
(e) 存在する1つ以上のε−アミノ基をリジン反応剤でキャップする工程。
(f) ペプチド断片を上記で定義する方法により分析して、試料から1つ以上のポリペプチドのマスフィンガープリントを形成する工程。
(g) 1つ以上のマスフィンガープリントから試料中の1つ以上のポリペプチドを同定する工程。
上記方法において、リジン反応剤は標識したリジン反応剤であるのが好ましい。
【0033】
必要であれば、上記方法は複数の試料に適応され得る。各試料が1つ以上のポリペプチドを含む複数の試料を比較する本発明の方法は、下記工程(a)から(h)を含む。
(a) 任意に試料からの1つ以上のポリペプチド中でシステインジスルフィド架橋を還元し、及び遊離チオールをキャップする工程。
(b) 各試料中に存在する1つ以上のε−アミノ基を標識したリジン反応剤でキャップする工程。
(c) 試料をプールする工程。
(d) プールした試料から1つ以上のポリペプチドを分離する工程。
(e) ポリペプチドを配列特異的開裂試薬で開裂してペプチド断片を形成する工程。
(f) 任意に開裂試薬を不活性化する工程。
(g) ペプチド断片を上記で定義する方法により分析して試料から1つ以上のポリペプチドのマスフィンガープリントを形成する工程。
(h) 1つ以上のマスフィンガープリントから試料中の1つ以上のポリペプチドを同定する工程。
上記方法において、同一の標識体を同一の試料からのポリペプチド又はペプチドに使用し、及び異なる標識体を異なる試料からのポリペプチド又はペプチドに使用して、ポリペプチド又はペプチドが由来する試料がその標識体から決定可能となるようにする。
【0034】
好ましくは、配列特異的開裂試薬は、リジン残基のC−末端側で1つ以上のポリペプチドを開裂する。特異的開裂試薬は、一般的にLys−C又はトリプシンを含む。概して、ε−アミノ基がキャップされたペプチド断片は親和性捕捉により除去される。この実施形態において、リジン反応剤はビオチンを含む。
【0035】
ある好適な実施形態において、リジン反応剤は、立体障害のあるミカエル試薬を含むのが好ましい。一般的に、立体障害のあるミカエル試薬は以下の構造を有する化合物を含む。
【化2】
Xは、陰電荷を安定化可能な電子吸引基である。R基はR基の少なくとも1つが立体障害基を含むという条件で水素、ハロゲン、アルキル、アリール、又は芳香族基を独立して含む。R2基は、水素、ハロゲン、炭化水素基、電子吸引基及び/又は親和性捕捉官能基又は固相担体へ付加可能なリンカーを含む。
【0036】
更に本発明は標識検体化合物を提供し、化合物は以下の構造のどちらかを含む。
F−D−L−A
D−F−L−A
Fは蛍光体を含み、Dは光吸収標識体を含み、Lはリンカーを含み、また、Aは検体を含む。一般的に、蛍光体Fは更なるリンカーを介してDに付加する。必要であれば、特に、標識体そのものが質量分析法により解析されるならば、質量マーカーMは、D又はFとLとの間に(F−D−M−L−A又はD−F−M−L−A)配置してよい。
【0037】
また、本発明は、検体を標識するための化合物を提供し、化合物は以下の構造のどちらかを含む。
F−D−L−R
D−F−L−R
Fは蛍光体を含み、Dは光吸収標識体を含み、Lはリンカーを含み、及びRは検体に化合物が付加するための反応性官能基を含む。一般的に、蛍光体Fは更なるリンカーを介してDに付加する。必要であれば、特に、標識体そのものが質量分析法により解析されるならば、質量マーカーMは、D又はFとLとの間に(F−D−M−L−R又はD−F−M−L−R)配置してよい。
【0038】
上記タイプの全ての化合物の場合、一般的にMが存在するならば、各標識体は同じM、または少なくとも同じ質量を有するMを有することが好ましく、その結果、スペクトルはMの複数の質量に由来する複数のピークで複雑にはならない。
【0039】
既に上記に示したように、概してDは非蛍光色素を含む。よって、Dは、例えば、桂皮酸誘導体、ニコチン酸誘導体、ピコリン酸誘導体、ヒドロキシ安息香酸誘導体、メトキシ安息香酸誘導体又はシナピン酸誘導体を含み得る。好ましくは、非蛍光色素は、4−ジメチルアミノアゾベンゼン−4’−スルホニルクロライド(ダブシル(DABSYL)クロライド)、3−ヒドロキシピコリン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、及び4−ヒドロキシ−α−シアノ桂皮酸から選択される化合物を含む。
【0040】
Mの種類は、特に限定されない。好ましくは、Mはアリールエーテルから形成される化合物、及び2つ以上のアリールエーテルユニットから形成されるオリゴマーから選択される。
【0041】
リンカーもまた特に限定されない。好ましくは、リンカー及び/又は更なるリンカーは、CR2−CH2−SO2−、−N(CR2−CH2−SO2−)2、−NH−CR2−CH2−SO2−、−CO−NH−、−CO−O−、−NH−CO−NH−、−NH−CS−NH−、−CH2−NH−、−SO2−NH−、−NH−CH2−CH2−、及び−OP(=O)(O)O−から選択される基を含む。
【0042】
一般的に、検体、Aは、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ペプチド断片及びアミノ酸から選択される。
蛍光体は、既に上記に定義した成分が好ましい。
【0043】
一般的に、Rはエステル基、酸無水物基、酸塩化物等の酸ハロゲン化物基、N−ヒドロキシスクシンアミド基、ペンタフルオロフェニルエステル基、マレイミド基、アルケニルスルホン基、又はヨードアセトアミド基を含む。
【0044】
更に、本発明は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析するための下記(a)及び(b)を含むキットを提供する。
(a) 検体に標識体を付加するための反応性官能基を有する1つ以上の光吸収標識体。
(b) 光吸収標識体と同じ周波数で光を吸収する、マトリックスを形成するための化合物。
【0045】
これから、本発明を、ほんの一例としてより詳細な実施形態を参照して更に詳細を示す。本発明の1つの態様において、蛍光体に結合するMALDI色素を含む標識化合物を提供し、蛍光体及びMALDI色素はどちらも反応性官能基に結合する。
【0046】
本発明のこの態様の一実施形態において、標識分子は次の構造の1つを有する。
MALDI色素−リンカー−蛍光体−リンカー−反応性官能基
蛍光体−リンカー−MALDI色素−リンカー−反応性官能基
MALDI色素は、好ましくは非蛍光であり、また、好ましくは吸収した放射エネルギーを熱で消散する。
【0047】
本発明のこの態様の更なる実施形態において、2つ以上の標識化合物からなるアレイが提供され、異なる標識化合物は、それぞれ他の標識化合物とは異なる発光周波数を有する蛍光体で識別される。好適な実施形態において、標識化合物のアレイは同じ質量のタグを含む。
【0048】
本発明の更なる態様において、1つ以上の試料の検体分子を分析する下記工程1から8を含む方法を提供する。
1. 各試料の検体分子をMALDI色素及び蛍光体を含む本発明の第1の態様の異なる標識化合物で標識し、異なる標識化合物は、それぞれ他の標識化合物とは異なる発光周波数を有する蛍光体で識別される工程。
2. 標識検体を分離する工程。
3. 標識検体を蛍光測定により検出する工程。
4. 標識検体を単離する工程。
5. 任意に標識検体分子を開裂する工程。
6. 標識検体分子を脱離工程で使用するレーザーの周波数で光を吸収する色素を含むマトリックスに包埋する工程。
7. マトリックスの蒸発によりまた標識検体も蒸発するように、標識検体を所定の周波数のレーザー光で照射することで脱離する工程。
8. 質量分析法による脱離工程の間に形成されるイオンを検出する工程。
【0049】
本発明の更なる態様において、下記1及び2を含むキットを提供する。
1. 本発明の第1の態様による質量標識分子。
2. 適合性MALDIマトリックス試薬。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、更に本発明の詳細を示す。
MALDIマトリックス色素
様々な化合物が大きな生体分子のMALDI分析のためのマトリックスとして見出された。これらの化合物は、概して多くの特性により特徴付けられる。化合物は、概して、脱離に使用されるレーザーの周波数で強力な吸光係数を有する。化合物は、また、固溶体中の検体分子を分離可能であり、MALDI質量分析計によってレーザーショットが照射された場合、化合物は十分に蒸発し易いため急速に昇華する。昇華色素は、包埋検体分子を同伴する噴流中で急速に蒸発するはずであり、ほとんどの目的に対して検体を切断せずに蒸発するはずである(検体について構造的情報を求めるならば切断が望ましいこともあるが)。しかし、時々実験が数時間かかる場合もあり、この間は検体/マトリックス共結晶は、イオン源において真空下で安定でなければならないので、マトリックスは過度に揮発性であるべきではない。レーザー照射下での揮発性及び真空下での安定性の特性はある程度矛盾する。レーザー照射に対する揮発度は、マトリックスが形成する検体イオンの初期速度を決定することでおおよそ測定可能である。より速い初期速度が「よりソフトな」イオン化、即ち還元切断に関連して観察されている(Karas M. & Glueckmann M., J. Mass Spectrom. 34:467−477, “The initial ion velocity and its dependence on matrix, analyte and preparation method in Ultraviolet Matrix−assisted Laser Desorption/Ionisation”,1999)が、初期イオン速度の速いマトリックスもまた真空下の急速な昇華に相関する。
【0051】
マトリックスによって、包埋検体の脱離を支援する能力、及びその後の検体を検出する感度に関する特性は様々である。ある種のマトリックスは、他のマトリックスよりも特定の検体の分析により適していることが経験的に分かっている。例えば、3−ヒドロキシピコリン酸は、オリゴヌクレオチドの分析に最も効果的であることが分かっており(Wu et al., Rapid Commun. Mass Spectrom. 7:142−146, “Matrix−assisted laser desorption time−of−flight mass spectrometry of oligonucleotides using 3−hydroxypicolinic acid as an ultra−violet sensitive matrix”,1993)、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、及び4−ヒドロキシ−α−シアノ−桂皮酸(HCCA)はペプチド及びタンパク質の分析に最も効果的である(Strupat et al., Int. J. Mass Spectrom. Ion Proc. 111:89−102, “2,5−dihroxybenzoic acid: a new matrix for laser desorption/ionisation mass spectrometry”,1991; Beavis et al., Org. Mass Spectrom. 27: 156−158,“α−cyano−4−hydroxy cinnamic acid as a matrix for matrix−assisted laser desorption mass spectrometry”,1992)。様々な桂皮酸誘導体がタンパク質の分析に効果的であることが分かっており(Beavis R.C. & Chait B.T., Rapid Commun Mass Spectrom 3(12): 432−435, “Cinnamic acid derivatives as matrices for ultraviolet laser desorption mass spectrometry of proteins.”1989)、及びマトリックスの選択は検体の特性次第であり、例えば、HCCAは、概してより小さなペプチドに対して好まれるが、大きなペプチド及びポリペプチドに対しては、HCCAよりシナピン酸が好まれることがある。2,5−ジヒドロキシ安息香酸は、場合によっては桂皮酸誘導体よりもより少ない切断を生じるようである。所定の検体に対してマトリックスを選択するには、最良の結果を得るために、数回の実験を要することが多い。
【0052】
上記で考察された殆どのマトリックスは、酸性マトリックスである。塩基性マトリックスもまた開発されており、酸に鋭敏な化合物の分析に最適である(Fitzgerald et al., Anal Chem. 65(22): 3204−3211, “Basic matrices for the matrix−assisted laser desorption/ionisation mass spectrometry of proteins and oligonucleotides.”1993)。
【0053】
赤外光MALDI(IR−MALDI)は、検体が、脱離機器においてレーザーの周波数で強力な吸光係数を有するのが好ましいマトリックスに包埋されなければならない点で、主に紫外光MALDI(UV−MALDI)と似ている。適切なマトリックスは、UV−MALDIで使用する化合物とは異なる化合物を使用する傾向があり液体マトリックスがしばしば使用される。グリセリン、ウレア、氷、及びコハク酸は全て、IR−MALDIに対して効果的なマトリックスであることが示されている(Talrose et al., Rapid Commun Mass Spectrom 13(21): 2191−2198, “Insight into absorption of radiation/energy transfer in infrared matrix−assisted laser desorption/ionisation: the roles of matrices, water and metal substrates.”1999)。しかし、桂皮酸誘導体等のいくつかのUV−MALDIマトリックスもまたIRマトリックスとして作用するようである(Niu et al., J Am. Soc. Mass Spectrom. 9:1−7, “Direct comparison of infrared and ultraviolet wavelength matrix−assisted laser desorption/ionisation mass spectrometry of proteins”,1998)。
【0054】
UV−MALDIに対する液体マトリックスの探索も行われている(Ring S. & Rudich Y., Rapid Commun Mass Spectrom 14(6): 515−519, “A comparative study of a liquid and a solid matrix in matrix−assisted laser desorption/ionisation time−of−flight mass spectrometry and collision cross section measurements.”2000; Sze et al., J Am Soc Mass Spectrom 9(2): 166−174, “Formulation of matrix solutions for use in matrix−assisted laser desorption/ionisation of biomolecules.” 1998; Karas et al., Mass Spectrom Rev 10: 335,1991)。液体マトリックスの最も簡単な例は、固体として使用するマトリックス溶体を含む。実際の液体マトリックスとしては、ニトロベンゾイルアルコール等も知られている。どちらのタイプのマトリックスも試料稠度、真空下での安定性、及び取扱易さの点でいくつか利点を有するが、固体マトリックスは更により注意を払うべきである。本発明の文脈において、感度の改善には、液体マトリックスの使用が正当であると証明する。これは、液体取扱ロボットが広範囲で可能であり、また、固体マトリックスの共結晶化により分注装置を容易に詰まらせるマトリックス溶体の使用を避けることができるので、試料調製の自動化上有利である。
【0055】
色素を含む反応タグ及びMALDIマトリックス色素
本発明の第1の態様において、反応性色素分子が提供される。MALDI質量分析法で従来使用されていない様々な色素が本発明では使用され得る。反応性官能基と共にUV周波数で強力に吸収する色素がいくつか市販されており、例えば、4−ジメチルアミノアゾベンゼン−4’−スルホニルクロライド(ダブシル(DABSYL)クロライド シグマアルドリッチ(株)(Sigma−Aldrich)プール、ドーセット州、イギリス)がある。発明者らは、この試薬及び管腔の励起を熱で消散する同様のUV吸収色素は、本発明に適用するはずであると見込んでいる。
【0056】
市販の中間体から反応性色素を調製することも可能である。MALDI質量分析法に広く使用される桂皮酸、ニコチン酸、及びヒドロキシ安息香酸誘導体等の多くの酸性マトリックスが市販されている。これらの殆どの試薬中の酸性官能基は、カルボン酸基である。この官能基は、従来の化学方法で活性エステル又は酸塩化物に容易に変換し得る(例えば、Solomons, “Organic Chemistry”第5版 Wiley社参照)。好適な活性エステルは、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル及びペンタフルオロフェニルエステルを含む。発明者らは様々な色素が本発明の方法において機能すると見込んでいるが、好適な化合物は質量分析計におけるレーザー脱離に対して使用する周波数で強力に吸収することが期待される。
【0057】
桂皮酸誘導体はUV−MALDI−TOFで広く使用される好適な色素である(Beavis RC, Chait BT, Rapid Commun Mass Spectrom 3(12): 432−435,“Cinnamic acid derivatives as matrices for ultraviolet laser desorption mass spectrometry of proteins.”1989)。桂皮酸の反応性誘導体は、下記の実施例で考察する。この試薬はUV−及びIR−MALDIの両方に適用可能であると見込まれる。
【0058】
反応性官能基
タンパク質は、自身に反応性を示す試薬を使用して標識可能とする様々な求核性官能基を含む。タンパク質は、一般的に、チオール、アミノ、ヒドロキシル、及びイミダゾール基を含む。これらは、必要に応じて、全て適切な試薬で標識し得る。本発明の好適な実施形態において、アミノ基が標識される。アミノ基は、様々な標識体で標識されるが、酸塩化物及び活性エステルが通常最も選択される反応性官能基である。他の様々な反応性官能基は本発明の反応性色素の調製に適している。下記表1に色素分子に組み込まれ得る反応性官能基をいくつか列挙する。これらの反応性官能基は、生体分子、特に、ペプチド及びポリペプチド中に見られる求核性官能基と反応し得る。求核性官能基と反応する反応性官能基は、2つの物質間に共有結合を形成する。共有結合は表の第3列に示す。合成オリゴヌクレオチドへの応用においては、標識を可能にするために、合成の際に分子の末端に1級アミン、又はチオールが導入されることが多い。下記のいずれの官能基も、本発明の化合物に導入し、質量マーカーを目的分子に付加させるために用いることができる。必要に応じて、反応性官能基を他の反応性官能基を持つ他のリンカー基の導入にも使用可能である。表1は、完全網羅することを意図しておらず、本発明は列挙した官能基のみの使用に限定されない。
【0059】
【表1】
【0060】
尚、本発明の質量マーカーによるオリゴヌクレオチドの標識を使用する用途においては、上記の反応性官能基の一部又はそれらから得られる結合基は、オリゴヌクレオチド合成機に導入する前に保護しなければならない。好ましくは、非保護エステル、チオエーテルおよびチオエステル、アミンおよびアミド結合は、通常、オリゴヌクレオチド合成機中で安定しないので避けるべきである。多様な保護基が当分野公知であり、それらを使用して望ましくない副反応から結合を保護することができる。或いは、アミン官能基を有するオリゴヌクレオチドは公知の標準方法を使用して調製可能であり、これらはNHS−エステル等のアミン反応性試薬で標識可能である。
【0061】
蛍光体
本発明の第1の態様では、標識化合物は蛍光体を含むと規定される。多数の蛍光体が当分野公知であり、殆どが本発明に適用可能である。しかしながら、好適な色素はキサンテン色素(フルオレセイン及びローダミン色素等)及びシアニン色素(例えば、米国特許第5,286,486号明細書、参照することにより本発明に援用する)を含む。
【0062】
本発明の好適な実施形態において、2つ以上の試料、例えばタンパク質試料が本発明の第1の態様に定義される様々な標識試薬で標識され、標識した試薬は、例えば二次元ゲル電気泳動法等で分析的に分離される。分離した検体は局在化され、及びそれらの相対量は、タグ由来の蛍光を測定して決定される。これらの実施形態において、様々な蛍光タグは、好ましくは特定の判定基準を満たす。
【0063】
試薬は、好ましくは、分析分離中における標識検体の共移動に適合する大きさ及び電荷を有する。蛍光体が高い量子収率及び高い吸光係数を有するならば、有利である。蛍光体は、好ましくはpHに対して無感受、すなわち、第一次元(IEF)分離間に使用される広いpH範囲上において信号の変化を示すべきでない。蛍光体の発光周波数は、好ましくは、個別の信号が各蛍光体から得られるようにするために重複すべきでない。更に、蛍光体は、標識、分析分離、及び検出間の信号の損失を最小にするために有利に光安定性である。
【0064】
本発明に使用する好適な色素(図1参照)は、米国特許第6,127,134号明細書及びMujumdar他に記載されている(Bioconjug Chem. 4(2): 105−11 “Cyanine dye labelling reagents: sulfoindocyanine succinimidyl esters.”,1993)。これらの文献は、明確な発光周波数、高い吸光係数、及び高い量子収率を有するインドール含有色素を開示する。色素はまた大きさ及び電荷も適合する。これらの文献は、タンパク質中のアミノ基、特にリジン−ε−アミノ基を標識するためのこれらの色素の活性エステルを開示する。タンパク質中のリジンアミノ酸は、中性又は酸性pHで1価の正電荷を元々持つ。米国特許第6,127,134号明細書に開示される蛍光体もまた1価の正電荷を持ち、リジンに結合する場合、リジンの1価の正電荷を蛍光体の1価の正電荷と置き換えて、標識タンパク質の等電点(pI)が同じ非標識タンパク質に比べて大きく変わらないことを確実にする。本発明で開示される活性エステル色素は、これらの蛍光体を本発明の標識化合物に組み込むことができ、リンカーに容易に結合可能である(図2〜5参照)。
【0065】
親和性捕捉リガンド
本発明の特定の実施形態において、質量マーカーは、更に親和性捕捉リガンドを含み得る。親和性捕捉リガンドは、極めて特異的な結合パートナーを有するリガンドである。これらの結合パートナーは、リガンドで標識した分子を結合パートナーで選択的に捕捉可能にする。好ましくは、親和性リガンド標識分子が固相担体上に選択的に捕捉可能となるように固相担体は結合パートナーで誘導体化される。親和性捕捉リガンドの使用は、多くの利点をもたらす。すなわち、分析前に標識種が選択的に捕捉可能であるから、標識、非標識物質の分離を可能にし、一方ではまた質量分析法のための検体の調整を可能にする。試料の調整は、イオン化を抑制、或いは、質量分析を妨げる可能性がある界面活性剤、及び他の不純物の除去も含む。調整は、また、質量スペクトル中で質量シフトを生じる検体に付加化合物を形成しうる塩の除去も含む。更に、pHはイオン化を最適化するように調整される。捕捉された材料が所望のpH次第で炭酸アンモニウム又はトリフルオロ酢酸等の揮発性塩を含む適切なバッファーで容易に洗浄可能であるため、固相担体上に捕捉された標識検体の調整は些細なことである。この洗浄工程は、不純物を除去可能であり、pHを適切に調整するために使用可能である。
【0066】
親和性リガンドを含むことの更なる利点は、タグが特定の検体に親和性リガンドを結合する反応性官能基を更に含む場合、ある種の検体種を選択的に隔離する能力である。例えば、Gygiら(Nature Biotechnology 17: 994−999,1999)は、タンパク質発現分析を可能にするタンパク質からペプチドを捕捉するための「同位体コードアフィニティータグ」(ICAT)の使用を開示している。著者らは、イースト中のタンパク質の大部分(>90%)は、少なくとも1つのシステイン残基を有することを報告している(平均では1つのタンパク質に約5つのシステイン残基を有する)。タンパク質試料中のジスルフィド結合を還元し、また、ヨードアセトアミドイルビオチンによって遊離チオールをキャップすることにより、全てのシステイン残基が標識される。そして、標識タンパク質は、トリプシン等で消化され、システイン標識ペプチドはアビジン化ビーズを使用して単離し得る。次いで、これらの捕捉ペプチドを液体クロマトグラフィータンデム質量分析計(LC−MS/MS)で解析してタンパク質試料の発現プロフィールが決定可能である。2つのタンパク質試料は、異なる同位体修飾ビオチンタグでシステイン残基を標識することで比較可能である。本発明の有用な実施形態において、同位体識別された親和性リガンドを含む本発明のシステイン反応タグは、ICAT解析方法の感度を改善するために用いることができる。同様に、Schmidt and Thompson(国際公開第98/32876号パンフレット)は、質量分析法によるタンパク質発現プロファイリング解析のためにC−又はN−末端ペプチドを捕捉するためのビオチン試薬の使用を開示している。このプロセスの感度もまた親和性リガンドを含む本発明のタグにより向上する。
【0067】
好適な親和性捕捉リガンドは、ビオチンであり、当分野公知の標準方法により本発明のタグに導入可能である。特に、リジン残基をアミノ酸2の後に取り込むと、このアミノ酸を介してアミン反応性ビオチンをペプチド質量タグに結合することができる(例えば、Geahlen R. L. et al., Anal Biochem 202(1): 68−67, “A general method for preparation of peptides biotinylated at the carboxy terminus.”1992; Sawutz D. G. et al., peptides 12(5): 1019−1012, “Synthesis and molecular characterization of a biotinylated analog of [Lys]bradykinin.”1991; Natarajan S. et al., Int. J. Pept. Protein Res. 40(6): 567−567, “Site−specific biotinylation. A novel approach and its application to endothelin−1 analogs and PTH−analog.”,1992)。イミノビオチン及びデスチオビオチンもまた適用可能である。ビオチンに対して多様なアビジンカウンターリガンドが利用でき、これには、単量体及び四量体アビジン及びストレプトアビジンがあり、全て多数の固相担体上で利用できる。
【0068】
他の親和性捕捉リガンドとしては、ジゴキシゲニン、フルオレセイン、ニトロフェニル部分、及びc−mycエピトープ等の多数のペプチドエピトープが挙げられ、これらに対する選択的なモノクローナル抗体はカウンターリガンドとして存在する。Ni2+イオンと容易に結合する金属イオン結合リガンド、例えばヘキサヒスチジンも利用できる。例えば、イミノ二酢酸キレート化N2+イオンを放出するクロマトグラフ用樹脂が市販されている。これらの固定化ニッケルカラムは、オリゴマーヒスチジンを含む標識ペプチドの捕捉に使用できる。他の方法として、親和性捕捉官能基を適切に誘導体化された固相担体と選択的に反応させることができる。例えばボロン酸は、隣接するシス−ジオール及びサリチルヒドロキサム酸等化学的に類似するリガンドと選択的に反応することが知られている。ボロン酸を含む試薬は、サリチルヒドロキサム酸を誘導体化した固相担体上でのタンパク質捕捉用に開発されている(Stolowitz M. L. et al., Bioconjug Chem. 12(2): 229−239, “Phenylboronic Acid−Salicylhydroxamic Acid Bioconjugates. 1. A Novel Boronic Acid Complex for Protein Immobilization.”2001; Wiley J. P. et al., Bioconjug Chem. 12(2): 240−250, “Phenylboronic Acid−Salicylhydroxamic Acid Bioconjugates. 2. Polyvalent Immobilization of Protein Ligands for Affinity Chromatography.”2001, Prolix, Inc, ワシントン州、米国)。本発明のタグにフェニルボロン酸官能基を結合し、選択的化学反応で捕捉できる捕捉試薬を生成するのは、比較的簡単であろうと予想される。この種の化学の使用は、隣接するシス−ジオール含有糖を有する生体分子と直接両立しないと思われる。しかし、ボロン酸誘導体化標識試薬との反応の前にこの種の糖はフェニルボロン酸又は関連試薬で封鎖できる。
【0069】
ペプチドの電荷誘導
本発明の第1の態様の実施形態において、タグは、容易にイオン化可能な基を含み、質量分析計でのタグ及び標識検体の可溶化、及び標識検体のイオン化の両方を支援可能である。多様な官能基をイオン性基として使用可能である。3級アミノ基及びグアニジノ基は、可溶化及びイオン化のどちらにも有用な官能基である(Francesco L. Branca, Stephen G. Oliver and Simon J. Gaskell, Rapid Commun. in Mass Spec., 14, 2070−2073,” Improved matrix−assisted laser desorption/ionisation mass spectrometric analysis of tryptic hydrolysates of proteins following guanidination of lysine−containing peptides.”2000)。
【0070】
様々な他のペプチド誘導体化方法もまた開発されている。これらには、陽イオン質量分析法のための、4級アンモニウム誘導体、4級ホスホニウム誘導体及びピリジル誘導体の使用がある。各種類のイオン性官能基は使用するイオン化方法、及び使用する質量分析法によって、様々な利点を有する。塩基性を増加することで陽イオン質量分析法のためのプロトン付加及び/又は電荷局在を促進する誘導体化試薬もあれば、急速にプロトンを失って陰イオン質量分析法に適するようになる誘導体化試薬もある。陰イオン質量分析法はバックグラウンドノイズがより少ないため、大抵、陽イオン質量分析法よりもより感度が高い。衝突誘起解離を使用する際に、電荷を誘導して誘導体化ペプチドの切断産物を変化可能である。特に、ペプチドを衝突誘起解離などの技術によって分析することになっている場合には、切断パターンを簡素化する非常に有利な誘導技術がいくつかある。用いるイオン性官能基は、使用予定の質量分析技術によって決定する(概説については、Roth et al., Mass Spectrometry Reviews 17:255−274, “Charge derivatisation of peptides for analysis by mass spectrometry”,1998参照)。本発明の目的として、陽又は陰イオンの形成を促進するイオン性官能基は同等に使用可能である。
【0071】
3級アミノ基、グアニジノ基及びスルホン酸基等の荷電基は更に利点をもたらす。これらの基はイオン交換により標識検体を精製可能にする親和性リガンドとして作用可能である。グアニジノ基機能及び3級アミノ基機能を含むタグ(例えば、図3及び図5参照)は、質量分析法による解析の前に調整可能にする強力な陽イオン交換樹脂上に捕捉可能である。同様に、スルホン酸機能を含むタグは、質量分析法による解析の前に調整可能にするアミノ交換樹脂上に捕捉可能である。更に、未反応タグと陰イオン交換樹脂又は陽イオン交換樹脂との間の相互作用は、標識検体の相互作用よりも弱いので未反応タグを容易に洗い流すことができる。標識検体は、樹脂に応じて適切な濃度の揮発性の酸、塩基、又は塩を含む適当なバッファーで溶出させることができる。従って、陽イオン交換樹脂又は陰イオン交換樹脂を充填したピペットチップ、スピンカラム及びカートリッジは、標識試料の有効な調製用器具であり、分析の前に標識ペプチドを容易に浄化可能にすると予想される。
【0072】
更に、スルホン酸基は、MALDI−TOF分析に有利である。ペプチドのα−アミノ官能基のスルホン酸誘導体は、MALDI−イオントラップ型ペプチド分析で切断効率を向上し、それによりアスパラギン酸及びグルタミン酸を含むペプチド類等のイオントラップにおいて一般的に不良なMS/MSスペクトルを与えるある種のペプチドについて、スペクトルの改善が認められる(Keough, T., Lacey M. P., et al., Rapid Commun Mass Spectrom 15(23): 2227−2239, “Atmospheric pressure matrix−assisted laser desorption/ionisation ion trap mass spectrometry of sulphonic acid derivatised tryptic peptides.”,2001)。強力な酸性官能基は、MALDIにおいて1価のペプチド類のアミド主鎖のプロトン付加を促進するために、切断効率の増加をもたらす。
本発明の特定の実施形態において、グアニジノ基及びスルホン酸基を含むタグが合成される(図及び実施例部分参照)。概して、好適な荷電基としては、グアニジノ基、3級アミノ基、及びスルホン酸基が挙げられる。
【0073】
表面増強レーザー脱離イオン化
表面増強レーザー脱離イオン化(SELDI)は、MALDIの通常の金属標的が誘導体化されるMALDIの変形である(Weinberger S. R., Morris T. S., Pawlak M., Pharmacogenomics 1(4): 395−416 “Recent trends in protein biochip technology.”,2000)。これらの表面修飾としては、陰イオン交換体、陽イオン交換体、疎水性表面、又は親水性表面での誘導体化が挙げられる。タンパク質、又はペプチド試料をこれらの表面に適用する場合、試料は該表面に吸収され、適切な洗浄工程によって試料を選択的に分画することで、標的の特定の成分が残り、これをMALDI−TOF質量分析法によって更に解析する。これは、分析的目的のため、及び未反応タグ、特に陽イオン交換樹脂、又は陰イオン交換樹脂で被覆された表面から標識検体を分離するために、本発明の標識体に用いるための有効な技術であると予想される。
【0074】
タンパク質発現プロファイリング法及びペプチドマスフィンガープリンティング法
本発明の第2の態様は、検体の1つ以上の試料の発現レベルを比較する方法を提供する。好適な実施形態において、試料はポリペプチドを含み、各種試料中のポリペプチドは、二次元ゲル電気泳動法で分離され、分離されたポリペプチドは、ペプチドマスフィンガープリンティング法により同定される。2つの試料の発現プロファイルを比較するには、2つの試料中の各成分ポリペプチドの種類及び相対量を決定する必要がある。本発明の第3の態様は、2つ以上の異なる試料中の成分ポリペプチドのそれぞれの種類及び相対量の両方を決定する方法を提供する。これを達成するには、各試料中のポリペプチドを蛍光発光で解像できる標識体で標識する。次に、標識されたポリペプチドをプールする。プールした試料の成分は、電気泳動又はクロマトグラフィーで分離することによって、互いに解像する。その後、分離されたタンパク質は、ペプチドマスフィンガープリンティング法で同定できる。本発明で記載する成分及び標識操作を使用すると、各成分ポリペプチドの相対レベルを標識ポリペプチドの質量分析による同定前に、蛍光測定で決定することも可能である。更に、本発明のタグは、質量分析同定工程の感度を向上する。
【0075】
本発明の第2の態様の好適な実施形態においては、2つ以上のポリペプチド含有試料を分析する方法が提供され、各試料は1つよりも多いポリペプチドを含み、該方法は下記1から5を含む。
1. 本発明の第1の態様で提供する形態のタグで各試料のポリペプチドを共有結合反応させる工程。
2. 標識試料をプールする工程。
3. プールした試料をゲル電気泳動、等電点電気泳動、液体クロマトグラフィー又は他の適当な手段で分離し、個別の分画を生成する工程。これらの分画は、ゲル上のバンド若しくはスポット、又はクロマトグラフィー分離による液体分画である。1度の分離による分画は、第2分離技術を使って更に分離することができる。同様に、その後の分析工程用にタンパク質が十分な解像度を持つまで、再度分画を進めることができる。
4. 配列特異的開裂試薬で、各分画のポリペプチドを消化する工程。
5. 消化物を質量分析法で解析し、ペプチドマスフィンガープリントでポリペプチドを同定する工程。
【0076】
本発明の第2の態様の上記の好適な実施形態において、タンパク質の分画工程は、第一次元の等電点電気泳動と第二次元のSDS PAGEを使った二次元ゲル電気泳動を実施することで達成されるのが好ましい。一般的には、該ゲルを可視化し、タンパク質がゲル上のどこに移動したかを突き止める。ゲルの可視化は、一般的にゲルを染色し、タンパク質スポットを明らかにすることによって実施される。しかしながら、本発明のタグは、蛍光体を含むため通常の染色工程を省くことができる。よって、各スポットのタンパク質は標識化合物の蛍光によって同定される。従って、ゲルは色素を励起するレーザーでスキャンされ、異なる色素は、異なる励起波長、又は異なる発光波長のどちらか(又は両方)を有するはずであり、様々な色素が個別に撮像可能になる。図1に示すCy3化合物の最適励起波長は553nm、及び最大発光波長は569nmであり、一方、Cy5化合物の最適励起波長は645nm、及び最大発光波長は664nmであるため、これらの2色素は一緒に使用可能となる。これらの化合物を用いて、ゲルは異なる色素を励起するレーザーを使用して2度撮像されるため、各試料に対応するゲルの2つの異なる蛍光像が形成される。これらの色素は、共に移動するために最適化されているので、2つの蛍光像は容易に表れるため各試料中の対応するタンパク質の発光強度が比較可能になるはずである。よって、この情報は同定対象の2つの試料中で発現差異を示すタンパク質の同定に使用可能である。これは、ペプチドマスフィンガープリンティング法によるその後の同定の調節を指示するタンパク質だけを選択可能とするため、その後の質量分析法によるタンパク質同定がより効率的となる。同定工程には、2つの方法がある。第1の方法では、タンパク質をゲルから抽出する。ロボット装置を使用して、ゲルからタンパク質含有スポットを切り取ることができる。次に、切り取ったゲルスポットからタンパク質を抽出する。その後、これらの抽出タンパク質を消化し、ポリペプチドからの消化ペプチドを質量分析法で解析しペプチドマスフィンガープリントを決定する。通常は、MALDI−TOF質量分析法で決定するが、電子スプレー質量分析法もかなり広く使用されている。タンパク質は、ポリビニリデンジフロライド膜上のエレクトロブロッティングでも抽出でき、その後、タンパク質の酵素消化を該膜上で行うことができる(Vestling MM, Fenselau C, Biochem Soc Trans 22(2): 547−551, “Polyvinylidene difluoride (PVDF): an interface for gel electrophoresis and matrix−assisted laser desorption/ionisation mass spectrometry”,1994)。第2の方法では、消化ペプチドをゲルから、又は、切り取ったゲルスポットから抽出した後、ポリペプチドをゲル中で消化し、質量分析法によってペプチドマスフィンガープリントを決定する(Lamer S, Jungblut PR, J Chromatogr. B Biomed. Sci Appl. 752(2): 311−322, “Matrix−assisted laser desorption−ionisation mass spectrometry peptide mass fingerprinting for proteome analysis: identification efficiency after on−blot or in−gel digestion with and without desalting procedures.”2001)。
【0077】
標識ポリペプチドのペプチドマスフィンガープリンティング法
本発明の第2の態様において、1つ以上の試料の検体分子を分析する方法が提供される。この方法において、検体分子は、本発明の第1の態様の標識化合物で共有結合標識される。標識検体は分離され、そして任意に切断される。そして、切断ペプチドが検体分子に結合する標識化合物を更に含むMALDI色素から同じ、又は異なる色素分子を含むMALDIマトリックスに包埋される。そして、標識及び包埋生体分子は、MALDI質量分析計で解析される。検体分子の標識に使用するMALDI色素、及び自由なマトリックスとして選択される色素は、どちらもMALDIプロセスに使用される周波数で強力に光を吸収するために選択される。一般的に、紫外レーザー(UV)周波数266nm(Nd:YAGレーザー)又は337nm(窒素レーザー)が使用される。
【0078】
ペプチド及びタンパク質は、本発明の方法の恩恵をうける好適な生体分子である。ポリペプチド、ペプチド、ポリペプチド混合物、又はペプチド混合物は電気泳動、クロマトグラフィー、又はアフィニティークロマトグラフィー等の従来の方法のいずれかで単離可能である。質量分析の目的のため、ポリペプチド、又はタンパク質が塩又は界面活性剤、特に金属塩で汚染されていないのが好ましい。ポリペプチド、又はペプチド混合物を脱塩する様々な技術が当分野公知であり、例えば、ゲル濾過、透析、又は疎水性樹脂の使用等がある。特に便利で簡単なペプチドの脱塩方法は、C18充填材料を装填するピペットチップでペプチド、又はポリペプチド混合物溶液の少量吸引によるものである。C18樹脂は、一般的に、より極性のある塩汚染物よりもペプチドに対してより高い親和性を有するので、塩、及び界面活性剤がまず初めに溶出可能である。この浄化工程はペプチド分析の検出感度を実質的に向上する。適切な樹脂が事前に充填されたピペットチップ、及びその使用説明書はミリポア社(Millipore)から「Zip Tip(R)」(ベッドフォード、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)として市販されている。
【0079】
本発明で使用する好適なUV吸収色素には、桂皮酸の活性エステル及びその誘導体、ニコチン酸の活性エステル、又はヒドロキシ安息香酸誘導体の活性エステルが挙げられる。従って、本発明の第2の態様の一実施形態において、混合物中の単離ペプチドは、4−ヒドロキシ−α−シアノ−桂皮酸誘導体の活性エステルを含むタグで標識される。ペプチドは、Zip Tip(R)を使用して脱塩され、非修飾4−ヒドロキシ−α−シアノ−桂皮酸のマトリックスに包埋される。一般的に、マトリックス溶体は、少量のトリフルオロ酢酸(0.1から0.5容量%で十分)を含むアセトニトリル等の揮発性溶剤で調製される。次いで、この溶液をピペットで金属標的上に滴下し、小さな溶滴を形成する。少量の脱塩標識ペプチド溶液をマトリックス溶液の溶滴に滴らせる。溶液は、ペプチドがマトリックスと共結晶化できるようにそのまま乾燥する。他の技術では、マトリックス溶液は、ペプチド溶液を加える前に、乾燥して結晶可能である(Hutchens and Yip, Rapid Commun. Mass Spectrom. 7: 576−580,1993)。この手法もまた、検体とマトリックスの共結晶層を形成するために繰り返される。これらの共結晶技術とその変形は、ペプチド又はポリペプチドの分析を改善するために使用され得る。上記の液体マトリックスもまた使用され得る。概して、これらの手法の成功、又は失敗はペプチド混合物の組成次第であり、特別な試料に対する優れたスペクトルを得るために異なる手法を試みる必要があろう。そして、マトリックス/ペプチド共結晶は、MALDI−TOF質量分析計でレーザー脱離により分析される。
【0080】
定量
本発明の方法及び化合物は、タンパク質、及びペプチドの定量に特に良く適している。これは、多くの様々な方法で達成され、より好適な方法を以下に記載する。
【0081】
本願において先行技術との決定的な違いは、同じ実験において異なる試料からタンパク質の発現差異の定量(Differential quantification)を可能にするSMTを使用して下記(a)から(c)のいずれかによりMALDI感度を向上する方法を提供することである。(a)検出及び相対的に定量可能な異なる蛍光色素をゲルに組み込む、(b)同じ配列を有するポリペプチドがMALDIにおいて互いにPMFオフセットを形成するが、この相対イオン強度が親タンパク質の相対存在度と適合するように、異なる質量のレポーターを標識体に組み込む、又は(c)MALDI−TOF/TOF質量分析器のタンデムMSモード、又はMALDIソースを装備したタンデムMS機で定量するように、異なる質量のレポーターを標識体に組み込む。
【0082】
従って、本発明は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析する下記(a)から(d)を含む更なる方法を提供する。
(a) 検体を所定の周波数で光を吸収する光吸収標識体で標識して、標識検体を形成する工程。
(b) 標識検体を、光を吸収する少なくとも1つの化合物から形成されるマトリックスに包埋して、包埋標識検体を形成する工程。
(c) 包埋標識検体を所定の周波数を有する光を照射することで脱離して、脱離検体を形成する工程。
(d) 脱離検体を質量分析法により検出し、検体の特徴を分析する工程。
質量分析法により前記脱離検体を検出する工程は、存在する前記検体量の検出工程の前に行われるか、存在する前記検体量の検出工程を含むか、あるいは、存在する前記検体量の検出工程の後に行われる。
【0083】
上記の工程(a)において、光吸収標識体が蛍光体部分を含み、質量分析法による検出前に検体は蛍光体部分に基づいて検出のために選択される。この実施形態において定量は、ゲル上又は液体クロマトグラフィーの実施のいずれかで蛍光体部分の蛍光を測定して行われる。この方法では、同じ検体が異なる試料から一緒に溶出するために、標識体は同じ質量であるのが好ましい。
【0084】
上記の工程(b)において、検体は異なる質量のレポーターで標識される。これらは、異なるSMT標識体(下記実施例1参照)又は同位体標識したPST標識体等の異なる標識体(下記実施例2参照)がよい。定量は、試料を組み合わせて、組み合わせた試料混合物を質量分析法により解析することにより行われる。特徴的なピーク対(2つを超える試料があれば2つ以上のピーク)のピーク高/領域が測定されて各種に相対存在度を与える。蛍光体群は、この実施形態に必須ではない。質量分析法による解析が定量的に確実になるように正確な感度を提供するためには光吸収標識体の存在だけが必要である。
【0085】
上記の工程(c)において、検体は異なる質量のレポーターで再度標識される。これらは、好ましくは、上記により詳細を示したTMT標識体である。定量は、レポーター群を検出するためにMALDIと組み合わせたタンデム質量分析方法を用いて及びレポーター群の数量を決定することで行われる(下記実施例3参照)。蛍光体群は、この実施形態には必須ではない。質量分析法による解析が定量的に確実になるように正確な感度を提供するためには光吸収標識体の存在だけが必要である。
【0086】
上記の工程(b)において、本発明の光吸収標識体は、質量に基づく質量スペクトル中で個別に区別できる。よって、2つの試料1と2にタンパク質Aが存在すれば、タンパク質は異なる質量を有する標識体に付加されるため、同じ断片から得られるが異なる試料由来のスペクトル中のイオンを試料のMALDIスペクトルから分離する。これらの異なる質量は、標識体の同位体置換、又は小さな化学変換により達成され得る。前者の例として、それぞれ2H、13C、15N及び18Oを有する1H、12C、14N及び16Oで置換される。後者の例として、分子中のCH2基等の不活性基の含有が挙げられる(例えば、図6中のSMT#13及びSMT#14と比較)。
【0087】
上記のとおり、他の方法として、本発明の増感標識体に加えて、更に質量に基づいて個別に区別可能な標識体に断片を付加することが挙げられる。そのような標識体の例は、国際公開第98/32876号パンフレット及び国際公開第00/20870号パンフレットに開示される。これらの標識体は、概してタンパク質配列タグ(PST)と称され、定量に適合する際にはqPSTと称される。本発明のこの実施形態において、2つの試料1と2にタンパク質Aが存在すれば、タンパク質は異なる質量を有するqSMT標識体に付加されるため、同じ断片から得られるが異なる試料由来のスペクトル中のイオンを試料のMALDIスペクトルから分離する。本発明の標識体は、感度の改善により更に定量を正確にする。
【0088】
工程(c)としては、本発明の増感標識体に加えて質量に基づいて個別に区別可能な更なる標識体に断片を付加することが挙げられる。そのような標識体の例は、国際公開第01/68664号パンフレット及び国際公開第03/025576号パンフレットに開示される。これらの標識体は、概してタンデム質量タグ(TMT)であり、定量に適合する際にはqTMTと称される。これらの標識体は2つの部分に形成され、1つは質量マーカーであり、1つは質量を標準化するためであるので1セット内の全てのTMT標識体が同じ質量を有するという利点がある。これは、HPLC、又は他のクロマトグラフィー間に、異なる標識体を有していても同じ質量を有する標識断片は同じ方法で溶出するという利点がある。本発明のこの実施形態において、2つの試料1と2にタンパク質Aが存在すれば、タンパク質は異なる質量を有するqTMT標識体に付加されるため、同じ断片から得られるが異なる試料由来のスペクトル中のイオンを試料のMALDIスペクトルから分離する。本発明の標識体は、感度の改善により更に定量を正確にする。実際に、本発明の標識体は、適切な設計では、TMT標識体の代わりに使用され得ることもある。
【0089】
質量分析計
質量分析計の必須の特徴は次の通りである:
導入系→イオン源→質量分析器→イオン検出器→データ捕捉系
大きな生体分子を分析するために使用可能な導入系、イオン源及び質量分析器が様々あるが、しかし、本発明の文脈において、イオン源は、導入系の数だけが限られているマトリックス支援レーザー脱離イオン化源である。同様に、商業的に生産されていない質量分析器構造があるが、様々な質量分析器、イオン検出器、及びデータ捕捉系がMALDIと共に使用される。飛行時間型質量分析器は、一般的にMALDIと共に使用され、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型質量分析器及び四重極/飛行時間型質量分析器も同様である。主に、イオントラップ、及びセクター方式装置もまた、MALDIと共に使用可能であるが、これらは概して商業的に生産されていない。
【0090】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)
MALDIでは、生体分子の溶液を大過剰モルの光励起「マトリックス」に包埋する必要がある。適切な振動数のレーザー光を当てると、マトリックスが励起し、次に閉じ込めた生物分子と一緒にマトリックスが迅速に気化する。酸性マトリックスから生物分子にプロトンが移動して生物分子のプロトン化形が生じ、これは陽イオン質量分析法、特に飛行時間型(TOF)質量分析法により検出することができる。陰イオン質量分析法もMALDI−TOFにより可能である。この技術は、イオンにかなりの量の遷移エネルギーを付与するが、これにもかかわらず、過剰な分離を誘導しない傾向がある。イオン源からイオンを加速するために使用するレーザーエネルギー及び電位差の印加時期は、この技術を用いる開裂を調整するために使用できる。この技術は、質量範囲が大きいこと、1価イオンが多いこと、及び複数ペプチドを同時に分析する能力があること等から、ペプチドマスフィンガープリントの決定に非常に好まれる。
【0091】
光励起性マトリックスは「色素」、即ち、特別な周波数の光を強力に吸収する化合物を含み、好ましくは、蛍光、又は、りん光によりそのエネルギーを放射せず、むしろ熱でエネルギーを消散する、即ち振動モードによりエネルギーを消散する。レーザー励起により生じるマトリックスの振動が、色素の急速な昇華を招き、同時に包埋検体を気相中に取り込む。
【0092】
質量分析器
飛行時間型質量分析器
名前が暗示する通り、飛行時間型質量分析器は、イオンが所定の電位差の影響下で所定の距離を移動する時間を測定する。飛行時間型測定により、検出器にぶつかるイオンの質量電荷比の算出が可能となる。これらの機器は、試料内のほぼ全てのイオンの出現を測定するので、結果として非常に高感度であるが、この技術で選択性を達成するのはより難しい。この技術は、また、イオントラップ、又は四重極質量分析計で一般的に測定できるイオンより高い質量電荷比のイオンを検出可能である。TOF質量分析器は、現在はMALDIと共に広く使用される。
【0093】
イオントラップ
イオントラップ質量分析計は、四重極質量分析計に関連するものである。一般にイオントラップは3個の電極からなる構造をしており、すなわち各端に「キャップ」電極があり、それらによって空洞が形成されている円筒状電極である。円筒状電極には正弦波高周波数電位を印加し、キャップ電極にはDC又はAC電位でバイアスをかける。空洞に注入されたイオンは円筒状電極の振動電界によりトラップ内の安定な円形軌道に拘束される。しかし、所定の振幅の振動電位に対して特定のイオンは不安定な軌道をとり、トラップから放出される。振動高周波電位を変化することによって、トラップに注入したイオン試料をそれらの質量電荷比に応じてトラップから連続的に放出させることができる。次に放出されたイオンを検出することによって質量スペクトルが生成される。
【0094】
一般にイオントラップは、イオントラップの空洞に存在する少量の「浴ガス」、例えばヘリウムで操作される。これにより装置の解像度と感度の両方が向上する。その理由は、トラップに入ったイオンは本質的には浴ガスとの衝突を経て浴ガスの環境温度にまで冷却されるからである。衝突すると、試料をトラップに導入した時のイオン化が増加し、それと共にイオン軌道の振幅と速度は減衰し、イオン軌道はトラップの中央近傍に保持される。これは、振動電位を変更することにより軌道が不安定になったイオンは減衰している循環イオンに比べると急速にエネルギーを獲得し、緊密な束となってトラップから飛び出し、その結果、ピークが狭く大きくなることを意味する。
【0095】
イオントラップは、タンデム質量分析計の構造を模倣することができ、実際に多重質量分析計の構造を模倣することにより、トラップイオンの複雑な分析が可能になっている。試料から単一質量種をトラップに保持できる、すなわちその他の種は全てトラップから放出させることができ、保持した種は、注意しながら第1振動周波の上に第2振動周波を重ね合わせることにより励起することができる。次に励起されたイオンは浴ガスと衝突し、十分に励起されると開裂する。次にその開裂を更に分析することができる。更なる分析のために他のイオンをトラップから排出することによって開裂イオンを保持し、その開裂イオンを励起して開裂させることができる。十分な試料が存在する限りこのプロセスを反復することにより、更なる分析が可能になる。留意すべきこととして、これらの機器は一般に誘導開裂後の開裂イオンを高い存在割合で保持する。これらの機器及びFTICR質量分析計(下記記載)は、線形質量分析計に存在する空間的に解決されたタンデム質量分析計というよりもむしろ時間的に解決されたタンデム質量分析計の形態を代表するものである。
【0096】
フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FTICR MS)
FTICR質量分析計には、イオン試料が空洞内に保持されるという点でイオントラップと類似の特徴があるが、FTICR MSではイオンは交差電磁界により高真空チャンバに捕捉される。箱の2つの側面を形成する一対の平板電極が電界を形成する。この箱は電界を形成しかつ捕捉平板と呼ばれる2枚の平板に連結しており、捕捉平板の間にあってかつ印加磁界に直交する円形軌道に注入イオンを拘束する超伝導磁石の磁界に含まれる。箱の他の対向側面を形成する2枚の「送信板」に高周波パルスを印加するとイオンはより大きな軌道の中に励起される。イオンの円形運動によりそれに対応する電界が、「受信板」を含む箱の残りの2つの対向側面に発生する。励起パルスによりイオンはより大きな軌道に励起されるが、衝突を経てイオンの凝集運動が失われるに従いこの軌道は崩壊する。受信板が検出した対応シグナルはフーリエ変換(FT)解析により質量スペクトルに変換される。
【0097】
誘起開裂実験のために、これらの機器は、イオントラップと類似の方法、すなわち目的の単一種を除く全てのイオンがトラップから排出可能な方法で行うことができる。衝突ガスをトラップに導入して開裂を誘起することができる。その後に開裂イオンを分析することができる。
【実施例】
【0098】
1.本発明のタグを使用する定量(qSMT)
この実験では、本発明の標識体(増感質量タグ、SMT)を異なるリンカー鎖長を使用する定量に適応した。図6に示す2つの標識体(SMT#13及びSMT#14)を用いた。
BSA消化を本発明の方法により行った。2つの試料を用いて、各試料中のリジン側鎖及びN−末端をタグ(各試料に対して異なるタグ)の1つで修飾した。
各試料のMALDIスペクトルを図7に示し、拡大したスペクトルを図8に示す。これらのスペクトルから同じピークプロファイルが形成され、2つのタグの質量が異なるため、一方が他方に対して質量において若干移動するのが分かる。これは図9に示す1:1混合スペクトル、及び図10に示す対応する拡大スペクトルでより容易に分かる。図11に示す分離した試料スペクトルと1:1混合スペクトルも同様である。
存在する種の数はこれらのスペクトルに正確に反映され、上述の図において同様のピーク高(及び領域から)分かる。存在する2つの試料の量を変化させてこれを実証した。図12は図11に対応する1セットのスペクトルを示し、図12では3つの混合比、1:2、1:1、及び2:1と量が変化する。図14は、同位体除去後の同じスペクトルを示す。量の変化は極めて明白であり、絶対量の計算、又は2つの試料間の相対量の比較に用いることができる。
【0099】
上記記載の3つの量の比率、1:2、1:1、及び2:1のスペクトル中のピーク下で領域の測定により、ピーク強度が得られ、下記結果が得られる。
比率1:1
比率1:2
比率2:1
内比は以下のように算出される。
内比=IS/IL
IL=軽い種のイオン強度
IS=重い種のイオン強度
以下の式も記載する。
NL=軽い種の総量
NS=重い種の総量
Delta=ISNL/ILNS
これらの小規模実験、及び上記比率から、2つの種の相対量の正当な推定値が決定されると理解できる。
【0100】
2.qPSTと共に本発明のタグを使用する定量(SMT−qPST)
この実験では、本発明の標識体(増感質量タグ、SMT)は、qPSTタグと共に使用する定量に適用した(これらのタグのより詳細については上記に記載)。qPST標識体対を同位体標識した(それぞれ質量が+85及び+95Da)。qPSTタグはトリプシン消化を行う前に、試料の分離に用いた。これにより、トリプシンに切断されないリジン残基が修飾される。
消化後、増感標識体を加え、新規のN−末端ペプチドと反応させた。各混合物中に、各ペプチドは1つのSMTの最大数を有する。
HPLC分離を、試料に対するMALDI質量分析法の実施前に各試料に対して実施した。組み合わせた試料のスペクトルを図15に示すが、予想ピーク対が明らかに際立っている。
この増感標識体を用いた実験と、この増感標識体を用いない実験とを繰り返して、存在するSMT標識体の有用性を実証した。比較スペクトルを図16に示す。図16では、上側スペクトルは増感標識体を含むが、下側は含まない。例えば、下側スペクトル中の増感体(+341Da)で修飾された902/907対が、上側スペクトルでは1243/1248対として現れる。上側スペクトルにおけるピークは、存在するSMT標識体によりかなり向上した。
完全のため、HPLC後の比較スペクトルを図17に示す。図18は、HPLC終了時点での塗布標本を示す。2066/2071対が長く溶離するが、確実な定量を提供するための方法の能力には影響しない。
【0101】
3.タンデム質量分析法と共に本発明のタグを使用する定量
この実験では、本発明の標識体(増感質量タグ、SMT)は、MS/MSモード質量分析計と共に使用した。ペプチドVATVSLPRを本発明の方法においてSMT#2で標識した。SMT#2は以下の構造を有する。
【化3】
得られた断片のタンデム質量スペクトルを図19に示す。スペクトルは70、72、86、112、及び114でイミニウムイオンを示す。イオンは、172で増感タグを切断して生成される(SMT#2におけるアミド結合の切断)。ピークは以下のように同定された。
Y2−NH3 255.1
Y2 272.2
B1 384.2
Y3 385.2
B2 455.3
B3−18(Tyr) 538.3
B3 556.3
B4 655.3
ここで使用する命名法は1984年にRoeppstorfとFohlmannに考案された正式な命名法である。MS/MS測定によるペプチド切断に使用され、YはC−末端断片、及びBはN−末端断片を言及する(例えば、B1はスペクトル中の第1N−末端断片)。
この実施例は、更なる特徴分析方法において本発明のSMT標識体の有用性を実証する。
【図面の簡単な説明】
【0102】
本発明のより詳細な記載をほんの1例として図面を参照して以下に示す。
【図1】図1は、市販されている3つの反応性蛍光体である、プロピル−Cy3−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、メチル−Cy5−ヒドロキシスクシンイミドエステル及びCy2−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを示す。これらの蛍光体は、タンパク質中のアミノ基と反応し、これらの色素で標識される異なる試料中の対応するタンパク質は共に移動する。
【図2】図2は、桂皮酸誘導体及びアミン反応性N−ヒドロキシスクシンイミドエステル官能基に結合したプロピル−Cy3蛍光体を含むバイモーダルなタグを示す。
【図3】図3は、桂皮酸誘導体、可溶化のためのアルギニン、及びアミン反応性N−ヒドロキシスクシンイミドエステル官能基に結合したプロピル−Cy3蛍光体を含むバイモーダルなタグを示す。
【図4】図4は、桂皮酸誘導体及びアミン反応性N−ヒドロキシスクシンイミドエステル官能基に結合したメチル−Cy5蛍光体を含むバイモーダルなタグを示す。
【図5】図5は、桂皮酸誘導体、可溶化のためのアルギニン、及びアミン反応性N−ヒドロキシスクシンイミドエステル官能基に結合したメチル−Cy5蛍光体を含むバイモーダルなタグを示す。
【図6】図6は、存在するペプチド量を決定可能な本発明の実施形態において用いられる本発明の2つのタグ(SMT#13及びSMT#14)を示し、SMTタグ#13及びSMTタグ#14は芳香族系と反応性基の間のリンカー長が異なるため、結果として質量差が14.0156Daとなる。
【図7】図7は、BSA消化物の2つの質量スペクトルを比較するために示し、上方がSMT#14、下方がSMT#13を用いた質量スペクトルである。
【図8】図8は、図7のスペクトルの拡大図を示す。
【図9】図9は、SMT#13標識BSA消化物及びSMT#14標識消化物を1対1で混合した単一質量スペクトルを示す。
【図10】図10は、図9のスペクトルの拡大図を示す。
【図11】図11は、異なるSMTで標識したBSAの3つのスペクトルを示し、上側はSMT#13、下側はSMT#14、及び中央は両者の1:1混合を用いたスペクトルである。
【図12】図12は、両方のSMTを異なる比率で標識したBSAの3つのスペクトルを示し、SMT#13:SMT#14が、上側は1:2、中央は1:1、及び下側は2:1である。
【図13】図13は、同位体除去後の図12の3つのスペクトルを示す。
【図14】図14は、図13のスペクトルの拡大図を示す。
【図15】図15は、定量的タンパク質配列タグ(qPST)及び本発明のタグ(SMT)の両方で標識したBSA消化物の結果のスペクトルを示す。qPST標識体は、識別的に同位体標識され、結果として1つの試料からより高い質量対、及びもう1つの試料からより低い質量対のピーク対を得る。
【図16】図16は、本発明の増感タグが有る場合と無い場合での図15と同じ消化物の比較を示す。
【図17】図17は、プロセスにHPLC分離工程を含んだ後で選択されたイオン対を示す。
【図18】図18は、スペクトル中の弱いピーク対でさえも本発明の増感体を使用して有効な定量データを生じ得ることを示す。
【図19】図19は、増感質量タグ(SMT)で標識したペプチドVATVSLPRのタンデム質量スペクトルを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析する方法であって、
(a) 検体を所定の周波数で光を吸収する光吸収標識体で標識して、標識検体を形成する工程と、
(b) 前記標識検体を、光を吸収する少なくとも1つの化合物から形成されるマトリックスに包埋して、包埋標識検体を形成する工程と、
(c) 前記包埋標識検体を所定の周波数を有する光で照射することで脱離して、脱離検体を形成する工程と、
(d) 前記脱離検体を質量分析法により検出し、前記検体の特徴を分析する工程と
を含み、前記光吸収標識体は蛍光体部分を含み、前記検体は質量分析法による検出の前に前記蛍光体部分に基づいて検出のために選択されることを特徴とするマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析する方法。
【請求項2】
前記検体は、前記蛍光体部分の種類及び/又は量に基づいて検出のために選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記蛍光体部分は、キサンテン色素部分、又はシアニン色素部分を含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記蛍光体部分は、プロピル−Cy3−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、メチル−Cy5−ヒドロキシスクシンイミドエステル、又はCy2−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記脱離検体は、質量分析法により直接検出される請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記検体は前記検体に関係づけられる質量標識体で更に標識され、該質量標識体が前記脱離検体から切断されて質量分析法により検出されて検体の特徴を分析するように、前記脱離検体は質量分析法により間接的に検出される請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記包埋標識検体を照射する光は、レーザー光である請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記マトリックスを形成する化合物は、前記光吸収標識体と同一周波数で光を吸収する請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記マトリックス及び前記光吸収標識体は、同一化合物から形成される請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記マトリックスは、固体マトリックス、又は液体マトリックスである請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記マトリックスは、ニトロベンジルアルコールを含む液体マトリックスである請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記マトリックスは、酸性マトリックス、又は塩基性マトリックスを含む請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記マトリックスは、3−ヒドロキシピコリン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、及び4−ヒドロキシ−α−シアノ桂皮酸から選択される化合物を含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記光吸収標識体は、色素から形成される請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記色素は、非蛍光色素である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記色素は、4−ジメチルアミノアゾベンゼン−4’−スルホニルクロライド(ダブシル(DABSYL)クロライド)、3−ヒドロキシピコリン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、及び/又は4−ヒドロキシ−α−シアノ桂皮酸を含む請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記検体は、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ペプチド断片及びアミノ酸から選択される1つ以上の化合物を含む請求項1から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
ポリペプチドの特徴を分析する方法であって、
(a) 任意にポリペプチド中でシステインジスルフィド架橋を還元して、遊離チオールを形成し、該遊離チオールをキャップする工程と、
(b) 前記ポリペプチドを配列特異的開裂試薬で開裂して、ペプチド断片を形成する工程と、
(c) 任意に前記開裂試薬を不活性化する工程と、
(d) 存在する1つ以上のε−アミノ基をリジン反応剤でキャップする工程と、
(e) 前記ペプチド断片を請求項1から17のいずれかに定義する方法により分析して、前記ポリペプチドのマスフィンガープリントを形成する工程と、
(f) 前記マスフィンガープリントから前記ポリペプチドを同定する工程と
を含むことを特徴とするポリペプチドの特徴を分析する方法。
【請求項19】
複数のポリペプチドの特徴を分析する方法であって、
(a) 任意に1つ以上のポリペプチド中でシステインジスルフィド架橋を還元して、遊離チオールを形成し、該遊離チオールをキャップする工程と、
(b) 複数のポリペプチドから1つ以上の前記ポリペプチドを分離する工程と、
(c) 1つ以上の前記ポリペプチドを配列特異的開裂試薬で開裂して、ペプチド断片を形成する工程と、
(d) 任意に前記開裂試薬を不活性化する工程と、
(e) 存在する1つ以上のε−アミノ基をリジン反応剤でキャップする工程と、
(f) 前記ペプチド断片を請求項1から17のいずれかに定義する方法により分析して、1つ以上の前記ポリペプチドのマスフィンガープリントを形成する工程と、
(g) 前記マスフィンガープリントから1つ以上の前記ポリペプチドを同定する工程と
を含むことを特徴とする複数のポリペプチドの特徴を分析する方法。
【請求項20】
各試料が1つ以上のポリペプチドを含む複数の試料を比較する方法であって、
(a) 任意に試料からの1つ以上のポリペプチド中でシステインジスルフィド架橋を還元し、かつ遊離チオールをキャップする工程と、
(b) 各試料から1つ以上の前記ポリペプチドを分離する工程と、
(c) 前記ポリペプチドを配列特異的開裂試薬で開裂して、ペプチド断片を形成する工程と、
(d) 任意に前記開裂試薬を不活性化する工程と、
(e) 存在する1つ以上のε−アミノ基をリジン反応剤でキャップする工程と、
(f) 前記ペプチド断片を請求項1から17のいずれかに定義する方法により分析して、前記試料から1つ以上の前記ポリペプチドのマスフィンガープリントを形成する工程と、
(g) 1つ以上の前記マスフィンガープリントから前記試料中の1つ以上の前記ポリペプチドを同定する工程と
を含むことを特徴とする各試料が1つ以上のポリペプチドを含む複数の試料を比較する方法。
【請求項21】
前記リジン反応剤は標識したリジン反応剤である請求項18から20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
各試料が1つ以上のポリペプチドを含む複数の試料を比較する方法であって、
(a) 任意に試料からの1つ以上のポリペプチド中でシステインジスルフィド架橋を還元し、かつ遊離チオールをキャップする工程と、
(b) 各試料中に存在する1つ以上のε−アミノ基を標識したリジン反応剤でキャップする工程と、
(c) 前記試料をプールする工程と、
(d) プールした前記試料から1つ以上の前記ポリペプチドを分離する工程と、
(e) 前記ポリペプチドを配列特異的開裂試薬で開裂してペプチド断片を形成する工程と、
(f) 任意に前記開裂試薬を不活性化する工程と、
(g) 前記ペプチド断片を請求項1から17のいずれかに定義する方法により分析して前記試料から1つ以上の前記ポリペプチドのマスフィンガープリントを形成する工程と、
(h) 1つ以上の前記マスフィンガープリントから前記試料中の1つ以上の前記ポリペプチドを同定する工程と
を含み、同一の標識体を同一の試料からのポリペプチド又はペプチドに使用し、また異なる標識体を異なる試料からのポリペプチド又はペプチドに使用して、ポリペプチド又はペプチドが由来する前記試料が前記標識体から決定可能となるようにする請求項20に記載の各試料が1つ以上のポリペプチドを含む複数の試料を比較する方法。
【請求項23】
前記配列特異的開裂試薬は、リジン残基のC−末端側で1つ以上の前記ポリペプチドを開裂する請求項18から22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記特異的開裂試薬は、Lys−C又はトリプシンを含む請求項18から23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記ε−アミノ基がキャップされた前記ペプチド断片は親和性捕捉により除去され、前記リジン反応剤はビオチンを含む請求項18から24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記リジン反応剤は、立体障害のあるミカエル試薬を含む請求項18から25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記立体障害のあるミカエル試薬は以下の構造を有する化合物を含み、
【化1】
Xは、陰電荷を安定化可能な電子吸引基であり、R基は、R基の少なくとも1つが立体障害基を含むという条件で水素、ハロゲン、アルキル、アリール、又は芳香族基を独立して含み、R2基は、水素、ハロゲン、炭化水素基、電子吸引基及び/又は親和性捕捉官能基又は固相担体へ付加可能なリンカーを含む請求項26に記載の方法。
【請求項28】
質量分析法により前記脱離検体を検出する工程は、存在する前記検体量の検出工程の前に行われるか、存在する前記検体量の検出工程を含むか、あるいは、存在する前記検体量の検出工程の後に行われる請求項1から27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
存在する前記検体量は前記検体に付加した蛍光体群の蛍光を測定して決定する請求項29に記載の方法。
【請求項30】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析する方法であって、
(a) 検体を所定の周波数で光を吸収する光吸収標識体で標識して、標識検体を形成する工程と、
(b) 前記標識検体を、光を吸収する少なくとも1つの化合物から形成されるマトリックスに包埋して、包埋標識検体を形成する工程と、
(c) 前記包埋標識検体を所定の周波数を有する光を照射することで脱離して、脱離検体を形成する工程と、
(d) 前記脱離検体を質量分析法により検出し、前記検体の特徴を分析する工程と
を含み、質量分析法により前記脱離検体を検出する工程は、存在する前記検体量の検出工程の前に行われるか、存在する前記検体量の検出工程を含むか、あるいは、存在する前記検体量の検出工程の後に行われることを特徴とするマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析する方法。
【請求項31】
存在する前記検体量は、質量スペクトル分析により決定する請求項30に記載の方法。
【請求項32】
標識検体化合物は、以下の構造のどちらかを含み、
F−D−L−A
D−F−L−A
Fは蛍光体を含み、Dは光吸収標識体を含み、Lはリンカーを含み、及びAは検体を含むことを特徴とする標識検体化合物。
【請求項33】
検体を標識するための化合物は、以下の構造のどちらかを含み、
F−D−L−R
D−F−L−R
Fは蛍光体を含み、Dは光吸収標識体を含み、Lはリンカーを含み、及びRは検体に化合物が付加するための反応性官能基を含むことを特徴とする検体を標識するための化合物。
【請求項34】
前記Dは非蛍光色素を含む請求項32又は33に記載の化合物。
【請求項35】
前記Dは桂皮酸誘導体、ニコチン酸誘導体、ピコリン酸誘導体、ヒドロキシ安息香酸誘導体、メトキシ安息香酸誘導体、又はシナピン酸誘導体を含む請求項に32記載の化合物。
【請求項36】
前記非蛍光色素は、4−ジメチルアミノアゾベンゼン−4’−スルホニルクロライド(ダブシル(DABSYL)クロライド)、3−ヒドロキシピコリン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、及び4−ヒドロキシ−α−シアノ桂皮酸から選択される化合物を含む請求項34又は35に記載の化合物。
【請求項37】
前記化合物は、更なるリンカーを介して付加する質量マーカーMを更に含み、Mはアリールエーテルから形成される化合物、及び2つ以上のアリールエーテルユニットから形成されるオリゴマーから選択される請求項32から36のいずれかに記載の化合物。
【請求項38】
前記リンカー及び/又は更なるリンカーは、CR2−CH2−SO2−、−N(CR2−CH2−SO2−)2、−NH−CR2−CH2−SO2−、−CO−NH−、−CO−O−、−NH−CO−NH−、−NH−CS−NH−、−CH2−NH−、−SO2−NH−、−NH−CH2−CH2−、及び−OP(=O)(O)O−から選択される基を含む請求項32から37のいずれかに記載の化合物。
【請求項39】
前記Aは、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ペプチド断片及びアミノ酸から選択される請求項32から38のいずれかに記載の化合物。
【請求項40】
前記Fはキサンテン色素部分、又はシアニン色素部分を含む請求項32から39のいずれかに記載の化合物。
【請求項41】
前記蛍光体部分は、プロピル−Cy3−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、メチル−Cy5−ヒドロキシスクシンイミドエステル、又はCy2−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを含む請求項40に記載の化合物。
【請求項42】
前記Rは、前記化合物をタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ペプチド断片又はアミノ酸に付加するためにある請求項32から41のいずれかに記載の化合物。
【請求項43】
前記Rは、エステル基、酸無水物基、酸塩化物等の酸ハロゲン化物基、N−ヒドロキシスクシンアミド基、ペンタフルオロフェニルエステル基、マレイミド基、アルケニルスルホン基、又はヨードアセトアミド基を含む請求項33から42のいずれかに記載の化合物。
【請求項44】
親和性リガンドを更に含む請求項32から43のいずれかに記載の化合物。
【請求項45】
前記親和性リガンドは、ビオチンを含む請求項44に記載の化合物。
【請求項46】
イオン性部分を更に含む請求項32から45のいずれかに記載の化合物。
【請求項47】
前記イオン性部分は、3級アミノ基、グアニジノ基、及びスルホン酸基から選択される請求項46に記載の化合物。
【請求項48】
前記化合物は、桂皮酸官能基を含む請求項32から47のいずれかに記載の化合物。
【請求項49】
アレイ中の化合物は、請求項33から48のいずれかに定義される化合物であり、前記アレイ中の各化合物は蛍光体及び/又はその質量に基づいて前記アレイ中の他の全ての化合物から識別可能である検体を標識するための2つ以上の化合物のアレイ。
【請求項50】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析するためのキットであって、
(a) 検体に標識体を付加するための反応性官能基を有する請求項33から48のいずれかに定義する1つ以上の光吸収標識体と、
(b) 前記光吸収標識体と同じ周波数で光を吸収する、マトリックスを形成するための化合物と
を含むマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析するためのキット。
【請求項51】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析するためのキットであって、
(a) 請求項33から49のいずれかに定義する化合物、又は化合物のアレイと、
(b) イオン交換樹脂と
を含むマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析するためのキット。
【請求項52】
前記化合物又は前記化合物のアレイは、正電荷を形成するイオン性部分を含み、前記イオン交換樹脂は陽イオン交換樹脂を含む請求項51に記載のキット。
【請求項53】
前記化合物又は前記化合物のアレイは、陰電荷を形成するイオン性部分を含み、前記イオン交換樹脂は陰イオン交換樹脂を含む請求項51に記載のキット。
【請求項1】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析する方法であって、
(a) 検体を所定の周波数で光を吸収する光吸収標識体で標識して、標識検体を形成する工程と、
(b) 前記標識検体を、光を吸収する少なくとも1つの化合物から形成されるマトリックスに包埋して、包埋標識検体を形成する工程と、
(c) 前記包埋標識検体を所定の周波数を有する光で照射することで脱離して、脱離検体を形成する工程と、
(d) 前記脱離検体を質量分析法により検出し、前記検体の特徴を分析する工程と
を含み、前記光吸収標識体は蛍光体部分を含み、前記検体は質量分析法による検出の前に前記蛍光体部分に基づいて検出のために選択されることを特徴とするマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析する方法。
【請求項2】
前記検体は、前記蛍光体部分の種類及び/又は量に基づいて検出のために選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記蛍光体部分は、キサンテン色素部分、又はシアニン色素部分を含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記蛍光体部分は、プロピル−Cy3−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、メチル−Cy5−ヒドロキシスクシンイミドエステル、又はCy2−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記脱離検体は、質量分析法により直接検出される請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記検体は前記検体に関係づけられる質量標識体で更に標識され、該質量標識体が前記脱離検体から切断されて質量分析法により検出されて検体の特徴を分析するように、前記脱離検体は質量分析法により間接的に検出される請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記包埋標識検体を照射する光は、レーザー光である請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記マトリックスを形成する化合物は、前記光吸収標識体と同一周波数で光を吸収する請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記マトリックス及び前記光吸収標識体は、同一化合物から形成される請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記マトリックスは、固体マトリックス、又は液体マトリックスである請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記マトリックスは、ニトロベンジルアルコールを含む液体マトリックスである請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記マトリックスは、酸性マトリックス、又は塩基性マトリックスを含む請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記マトリックスは、3−ヒドロキシピコリン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、及び4−ヒドロキシ−α−シアノ桂皮酸から選択される化合物を含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記光吸収標識体は、色素から形成される請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記色素は、非蛍光色素である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記色素は、4−ジメチルアミノアゾベンゼン−4’−スルホニルクロライド(ダブシル(DABSYL)クロライド)、3−ヒドロキシピコリン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、及び/又は4−ヒドロキシ−α−シアノ桂皮酸を含む請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記検体は、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ペプチド断片及びアミノ酸から選択される1つ以上の化合物を含む請求項1から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
ポリペプチドの特徴を分析する方法であって、
(a) 任意にポリペプチド中でシステインジスルフィド架橋を還元して、遊離チオールを形成し、該遊離チオールをキャップする工程と、
(b) 前記ポリペプチドを配列特異的開裂試薬で開裂して、ペプチド断片を形成する工程と、
(c) 任意に前記開裂試薬を不活性化する工程と、
(d) 存在する1つ以上のε−アミノ基をリジン反応剤でキャップする工程と、
(e) 前記ペプチド断片を請求項1から17のいずれかに定義する方法により分析して、前記ポリペプチドのマスフィンガープリントを形成する工程と、
(f) 前記マスフィンガープリントから前記ポリペプチドを同定する工程と
を含むことを特徴とするポリペプチドの特徴を分析する方法。
【請求項19】
複数のポリペプチドの特徴を分析する方法であって、
(a) 任意に1つ以上のポリペプチド中でシステインジスルフィド架橋を還元して、遊離チオールを形成し、該遊離チオールをキャップする工程と、
(b) 複数のポリペプチドから1つ以上の前記ポリペプチドを分離する工程と、
(c) 1つ以上の前記ポリペプチドを配列特異的開裂試薬で開裂して、ペプチド断片を形成する工程と、
(d) 任意に前記開裂試薬を不活性化する工程と、
(e) 存在する1つ以上のε−アミノ基をリジン反応剤でキャップする工程と、
(f) 前記ペプチド断片を請求項1から17のいずれかに定義する方法により分析して、1つ以上の前記ポリペプチドのマスフィンガープリントを形成する工程と、
(g) 前記マスフィンガープリントから1つ以上の前記ポリペプチドを同定する工程と
を含むことを特徴とする複数のポリペプチドの特徴を分析する方法。
【請求項20】
各試料が1つ以上のポリペプチドを含む複数の試料を比較する方法であって、
(a) 任意に試料からの1つ以上のポリペプチド中でシステインジスルフィド架橋を還元し、かつ遊離チオールをキャップする工程と、
(b) 各試料から1つ以上の前記ポリペプチドを分離する工程と、
(c) 前記ポリペプチドを配列特異的開裂試薬で開裂して、ペプチド断片を形成する工程と、
(d) 任意に前記開裂試薬を不活性化する工程と、
(e) 存在する1つ以上のε−アミノ基をリジン反応剤でキャップする工程と、
(f) 前記ペプチド断片を請求項1から17のいずれかに定義する方法により分析して、前記試料から1つ以上の前記ポリペプチドのマスフィンガープリントを形成する工程と、
(g) 1つ以上の前記マスフィンガープリントから前記試料中の1つ以上の前記ポリペプチドを同定する工程と
を含むことを特徴とする各試料が1つ以上のポリペプチドを含む複数の試料を比較する方法。
【請求項21】
前記リジン反応剤は標識したリジン反応剤である請求項18から20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
各試料が1つ以上のポリペプチドを含む複数の試料を比較する方法であって、
(a) 任意に試料からの1つ以上のポリペプチド中でシステインジスルフィド架橋を還元し、かつ遊離チオールをキャップする工程と、
(b) 各試料中に存在する1つ以上のε−アミノ基を標識したリジン反応剤でキャップする工程と、
(c) 前記試料をプールする工程と、
(d) プールした前記試料から1つ以上の前記ポリペプチドを分離する工程と、
(e) 前記ポリペプチドを配列特異的開裂試薬で開裂してペプチド断片を形成する工程と、
(f) 任意に前記開裂試薬を不活性化する工程と、
(g) 前記ペプチド断片を請求項1から17のいずれかに定義する方法により分析して前記試料から1つ以上の前記ポリペプチドのマスフィンガープリントを形成する工程と、
(h) 1つ以上の前記マスフィンガープリントから前記試料中の1つ以上の前記ポリペプチドを同定する工程と
を含み、同一の標識体を同一の試料からのポリペプチド又はペプチドに使用し、また異なる標識体を異なる試料からのポリペプチド又はペプチドに使用して、ポリペプチド又はペプチドが由来する前記試料が前記標識体から決定可能となるようにする請求項20に記載の各試料が1つ以上のポリペプチドを含む複数の試料を比較する方法。
【請求項23】
前記配列特異的開裂試薬は、リジン残基のC−末端側で1つ以上の前記ポリペプチドを開裂する請求項18から22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記特異的開裂試薬は、Lys−C又はトリプシンを含む請求項18から23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記ε−アミノ基がキャップされた前記ペプチド断片は親和性捕捉により除去され、前記リジン反応剤はビオチンを含む請求項18から24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記リジン反応剤は、立体障害のあるミカエル試薬を含む請求項18から25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記立体障害のあるミカエル試薬は以下の構造を有する化合物を含み、
【化1】
Xは、陰電荷を安定化可能な電子吸引基であり、R基は、R基の少なくとも1つが立体障害基を含むという条件で水素、ハロゲン、アルキル、アリール、又は芳香族基を独立して含み、R2基は、水素、ハロゲン、炭化水素基、電子吸引基及び/又は親和性捕捉官能基又は固相担体へ付加可能なリンカーを含む請求項26に記載の方法。
【請求項28】
質量分析法により前記脱離検体を検出する工程は、存在する前記検体量の検出工程の前に行われるか、存在する前記検体量の検出工程を含むか、あるいは、存在する前記検体量の検出工程の後に行われる請求項1から27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
存在する前記検体量は前記検体に付加した蛍光体群の蛍光を測定して決定する請求項29に記載の方法。
【請求項30】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析する方法であって、
(a) 検体を所定の周波数で光を吸収する光吸収標識体で標識して、標識検体を形成する工程と、
(b) 前記標識検体を、光を吸収する少なくとも1つの化合物から形成されるマトリックスに包埋して、包埋標識検体を形成する工程と、
(c) 前記包埋標識検体を所定の周波数を有する光を照射することで脱離して、脱離検体を形成する工程と、
(d) 前記脱離検体を質量分析法により検出し、前記検体の特徴を分析する工程と
を含み、質量分析法により前記脱離検体を検出する工程は、存在する前記検体量の検出工程の前に行われるか、存在する前記検体量の検出工程を含むか、あるいは、存在する前記検体量の検出工程の後に行われることを特徴とするマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析する方法。
【請求項31】
存在する前記検体量は、質量スペクトル分析により決定する請求項30に記載の方法。
【請求項32】
標識検体化合物は、以下の構造のどちらかを含み、
F−D−L−A
D−F−L−A
Fは蛍光体を含み、Dは光吸収標識体を含み、Lはリンカーを含み、及びAは検体を含むことを特徴とする標識検体化合物。
【請求項33】
検体を標識するための化合物は、以下の構造のどちらかを含み、
F−D−L−R
D−F−L−R
Fは蛍光体を含み、Dは光吸収標識体を含み、Lはリンカーを含み、及びRは検体に化合物が付加するための反応性官能基を含むことを特徴とする検体を標識するための化合物。
【請求項34】
前記Dは非蛍光色素を含む請求項32又は33に記載の化合物。
【請求項35】
前記Dは桂皮酸誘導体、ニコチン酸誘導体、ピコリン酸誘導体、ヒドロキシ安息香酸誘導体、メトキシ安息香酸誘導体、又はシナピン酸誘導体を含む請求項に32記載の化合物。
【請求項36】
前記非蛍光色素は、4−ジメチルアミノアゾベンゼン−4’−スルホニルクロライド(ダブシル(DABSYL)クロライド)、3−ヒドロキシピコリン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、及び4−ヒドロキシ−α−シアノ桂皮酸から選択される化合物を含む請求項34又は35に記載の化合物。
【請求項37】
前記化合物は、更なるリンカーを介して付加する質量マーカーMを更に含み、Mはアリールエーテルから形成される化合物、及び2つ以上のアリールエーテルユニットから形成されるオリゴマーから選択される請求項32から36のいずれかに記載の化合物。
【請求項38】
前記リンカー及び/又は更なるリンカーは、CR2−CH2−SO2−、−N(CR2−CH2−SO2−)2、−NH−CR2−CH2−SO2−、−CO−NH−、−CO−O−、−NH−CO−NH−、−NH−CS−NH−、−CH2−NH−、−SO2−NH−、−NH−CH2−CH2−、及び−OP(=O)(O)O−から選択される基を含む請求項32から37のいずれかに記載の化合物。
【請求項39】
前記Aは、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ペプチド断片及びアミノ酸から選択される請求項32から38のいずれかに記載の化合物。
【請求項40】
前記Fはキサンテン色素部分、又はシアニン色素部分を含む請求項32から39のいずれかに記載の化合物。
【請求項41】
前記蛍光体部分は、プロピル−Cy3−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、メチル−Cy5−ヒドロキシスクシンイミドエステル、又はCy2−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを含む請求項40に記載の化合物。
【請求項42】
前記Rは、前記化合物をタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ペプチド断片又はアミノ酸に付加するためにある請求項32から41のいずれかに記載の化合物。
【請求項43】
前記Rは、エステル基、酸無水物基、酸塩化物等の酸ハロゲン化物基、N−ヒドロキシスクシンアミド基、ペンタフルオロフェニルエステル基、マレイミド基、アルケニルスルホン基、又はヨードアセトアミド基を含む請求項33から42のいずれかに記載の化合物。
【請求項44】
親和性リガンドを更に含む請求項32から43のいずれかに記載の化合物。
【請求項45】
前記親和性リガンドは、ビオチンを含む請求項44に記載の化合物。
【請求項46】
イオン性部分を更に含む請求項32から45のいずれかに記載の化合物。
【請求項47】
前記イオン性部分は、3級アミノ基、グアニジノ基、及びスルホン酸基から選択される請求項46に記載の化合物。
【請求項48】
前記化合物は、桂皮酸官能基を含む請求項32から47のいずれかに記載の化合物。
【請求項49】
アレイ中の化合物は、請求項33から48のいずれかに定義される化合物であり、前記アレイ中の各化合物は蛍光体及び/又はその質量に基づいて前記アレイ中の他の全ての化合物から識別可能である検体を標識するための2つ以上の化合物のアレイ。
【請求項50】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析するためのキットであって、
(a) 検体に標識体を付加するための反応性官能基を有する請求項33から48のいずれかに定義する1つ以上の光吸収標識体と、
(b) 前記光吸収標識体と同じ周波数で光を吸収する、マトリックスを形成するための化合物と
を含むマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析するためのキット。
【請求項51】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析するためのキットであって、
(a) 請求項33から49のいずれかに定義する化合物、又は化合物のアレイと、
(b) イオン交換樹脂と
を含むマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析法により検体の特徴を分析するためのキット。
【請求項52】
前記化合物又は前記化合物のアレイは、正電荷を形成するイオン性部分を含み、前記イオン交換樹脂は陽イオン交換樹脂を含む請求項51に記載のキット。
【請求項53】
前記化合物又は前記化合物のアレイは、陰電荷を形成するイオン性部分を含み、前記イオン交換樹脂は陰イオン交換樹脂を含む請求項51に記載のキット。
【図7】
【図8】
【図9】
【図17】
【図18】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図19】
【図8】
【図9】
【図17】
【図18】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図19】
【公表番号】特表2006−528344(P2006−528344A)
【公表日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520889(P2006−520889)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003139
【国際公開番号】WO2005/012914
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(505423678)エレクトロフォレティクス リミテッド (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003139
【国際公開番号】WO2005/012914
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(505423678)エレクトロフォレティクス リミテッド (7)
【Fターム(参考)】
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