説明

ポリマー−及びポリマーブレンド−バイオセラミック複合体製埋込み型医用デバイス

ポリマー/バイオセラミック複合体及びポリマーブレンド/バイオセラミック複合体から作製される埋込み型医用デバイスが開示される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の背景]
[発明の分野]
本発明は、埋込み型医用デバイス及び埋込み型医用デバイスの作製方法に関する。
【0002】
[最新技術の説明]
本発明は、体内管腔に埋め込むように適合された、半径方向に拡張可能な体内補綴物に関する。「体内補綴物」という用語は、体内に設置される人工デバイスに対応する。「管腔」という用語は、血管等の管状臓器の空洞を意味する。
【0003】
ステントはそのような体内補綴物の一例である。ステントは一般に円筒形のデバイスで、血管又は尿道及び胆管等の他の身体構造上の管腔の部分を開存させ、時には拡張するように機能する。ステントはしばしば血管のアテローム動脈硬化性狭窄の治療に用いられる。「狭窄」という用語は体内の通路又は開口部の直径の狭小化又は収縮を意味する。そのような治療においては、ステントは、体内の血管を補強し、血管系における血管形成術後の再狭窄を防止する。「再狭窄」という用語は、(バルーン血管形成術、ステント処置、又は弁形成術等によって)見掛け上成功して治療された後の、血管又は心臓弁における狭窄の再発を意味する。
【0004】
ステントによる病変部又は障害の治療は、ステントの送達及び展開の両者を含む。「送達」という用語は、治療が必要な導管内の障害部等の部位に体腔を通してステントを導入し、輸送することを意味する。「展開」という用語は、治療部位において管腔内でステントを拡張することに対応する。ステントの送達及び展開は、ステントをカテーテルの一端付近に位置決めし、皮膚を通してカテーテルのこの一端を体内管腔に挿入し、カテーテルを体内管腔内で所望の治療位置まで進め、この治療位置でステントを拡張し、カテーテルを管腔から除去することにより達成される。
【0005】
バルーン拡張型ステントの場合は、ステントはカテーテル上に配置されたバルーンの周囲に取り付けられる。ステントの取り付けは、通常はステントをバルーン上に圧縮又は圧着することを含む。次にバルーンを膨張させることによりステントを拡張する。次いでバルーンを収縮させ、カテーテルを引き抜くことができる。自己拡張型ステントの場合には、ステントは引込式シース又はソック等の拘束部材を通してカテーテルに固定される。ステントが体内の所望の部位に位置すれば、シースが引き抜かれ、それによりステントは自己拡張する。
【0006】
ステントはいくつかの機械的要求事項を満たすことができなければならない。第一に、ステントは構造的負荷、即ちステントが血管壁を支える際にステントにかかる半径方向の圧縮力に耐えることが可能でなくてはならない。それゆえ、ステントは適切な半径方向の強度を有さなければならない。ステントが半径方向の圧縮力に耐える能力である半径方向の強度は、ステントの円周方向の強度及び剛性によるものである。したがって、半径方向の強度及び剛性は、輪状又は円周方向の強度及び剛性としても記述できる。
【0007】
一旦拡張すると、ステントは拍動する心臓によって生じる周期的負荷などの、ステントにかかることのある種々の力にもかかわらず、その耐用期間を通してその寸法及び形状を適切に保持しなければならない。たとえば、半径方向の力はステントを内側にリコイルさせる傾向があるかもしれない。一般的には、リコイルを最小にすることが望ましい。さらに、ステントは圧着、拡張、及び周期的負荷を考慮に入れるために充分な可撓性を有さなければならない。ステントが曲がりくねった血管路を通して操作できるために、また直線的でなく、屈曲することを免れない展開部位にステントを適合させることを可能にするために、長手方向の可撓性は重要である。最後に、ステントはいかなる有害な血管反応も引き起こさないよう、生体親和性でなければならない。
【0008】
ステントの構造は通常、パターン又は当技術分野においてしばしばストラット又はバーアームと称される相互連結した構造要素のネットワークを含む足場からなる。足場は、ワイヤ、チューブ、又は円筒形に巻いた材料シートから形成することができる。足場は、ステントが半径方向に圧縮(圧着するため)でき、また半径方向に拡張(展開するため)できるように設計される。従来のステントは、相互に対するパターンの個別構造要素の動きを通して拡張及び収縮できるようになっている。
【0009】
さらに、金属又はポリマー製の足場の表面を活性若しくは生理活性物質又は薬剤を含むポリマー担体で被覆することによって、医薬含有ステントを作製することができる。ポリマー製足場も活性物質又は薬剤の担体として役立つであろう。
【0010】
さらに、ステントは生体分解性であることが望ましい。多くの治療用途において、体内におけるステントの存在は、その意図した機能、たとえば血管開存の維持及び/又は薬剤放出が達成されるまでの制限された期間は、必要であろう。したがって、生体吸収性ポリマーなどの生体分解性、生体吸収性、及び/又は生体被浸食性材料で作製されたステントは、その臨床的必要性が終わった後に初めて完全に浸食されるように構成されているべきである。
【0011】
ステントへの使用に適するであろう分解性ポリマーの潜在的問題点として、靭性が不適切なこと及びある種の治療に対して望ましい速度よりも分解速度が遅いことがある。
【0012】
[発明の概要]
本発明のある実施形態には、バイオセラミック/コポリマー複合体を含む構造要素を含む埋込み型医用デバイスが含まれ、該複合体はマトリックスポリマー中に分散した複数のバイオセラミック粒子を有し、マトリックスポリマーの大部分は第1官能基を含み、第1官能基はマトリックスポリマーの大部分であり、マトリックスポリマーは第1官能基のホモポリマーよりも大きな破壊靭性と大きな分解速度を有する。
【0013】
本発明の他の実施形態には、バイオセラミック/コポリマー複合体を含む構造要素を含む埋込み型医用デバイスが含まれ、該複合体はマトリックスポリマー中に分散した複数のバイオセラミック粒子を有し、マトリックスポリマーは第1官能基、第2官能基、及び第3の官能基を含むコポリマーを含み、マトリックスポリマーの大部分は第1官能基を含み、マトリックスポリマーは第1官能基のホモポリマーよりも大きな破壊靭性と大きな分解速度を有する。
【0014】
本発明の追加的な実施形態には、構造要素を含む埋込み型医用デバイスが含まれ、構造要素は、第1官能基と第2官能基を含むマトリックスコポリマーを含む連続ポリマー相及び連続相中の不連続ポリマー相を含み、コポリマーの大部分は第1官能基を含み、第2官能基は第1官能基よりも加水分解活性が高く、且つ不連続ポリマー相は不連続相セグメントを有する改質剤ポリマーを含み、不連続相セグメントはマトリックスコポリマーと非相溶性であり、改質剤ポリマーはマトリックスポリマーと相溶性のアンカーセグメントをさらに含み、アンカーセグメントは不連続相から連続相に少なくとも部分的に相分離し、複数のバイオセラミック粒子が連続及び/又は不連続相中に分散している。
【0015】
本発明のさらなる実施形態には、構造要素を含む埋込み型医用デバイスが含まれ、構造要素は、L−ラクチド及びグリコリドのマトリックスコポリマーを含む連続相及び連続相中の不連続相を含み、コポリマーの大部分はL−ラクチドを含み、且つ不連続相は不連続相セグメントを有する改質剤ポリマーを含み、不連続相セグメントはマトリックスコポリマーと非相溶性であり、改質剤ポリマーはマトリックスコポリマーと相溶性のアンカーセグメントをさらに含み、複数のバイオセラミック粒子が連続及び/又は不連続相中に分散している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】PLLA及びPGAホモポリマー並びにLPLGコポリマーの、半減期分解期間とLLA/GA比との関係を示す図である。
【図2A】ステントの三次元視図である。
【図2B】図2Aに示されたステントの構造要素の断面を示す図である。
【図3A】ポリマー/バイオセラミック複合体から作製されたステントの図2Bに示された断面の概略拡大図である。
【図3B】ポリマーブレンド/バイオセラミック複合体から作製されたステントの図2Bに示された断面の概略拡大図である。
【図4】図3Bの不連続ポリマー相と連続ポリマー相の界面の概略拡大図である。
【図5A】PLLAアンカーセグメントを有する改質剤ポリマーの合成スキームを示す図である。
【図5B】LPLGアンカーセグメントを有する改質剤ポリマーの合成スキームを示す図である。
【図6A】それぞれ、拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、及び4.0mmに拡張後の、クリンパーNo.1のステント試料の写真イメージを示す図である。
【図6B】それぞれ、拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、及び4.0mmに拡張後の、クリンパーNo.1のステント試料の写真イメージを示す図である。
【図6C】それぞれ、拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、及び4.0mmに拡張後の、クリンパーNo.1のステント試料の写真イメージを示す図である。
【図6D】それぞれ、拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、及び4.0mmに拡張後の、クリンパーNo.1のステント試料の写真イメージを示す図である。
【図7A】それぞれ、拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、及び4.0mmに拡張後の、クリンパーNo.2のステント試料の写真イメージを示す図である。
【図7B】それぞれ、拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、及び4.0mmに拡張後の、クリンパーNo.2のステント試料の写真イメージを示す図である。
【図7C】それぞれ、拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、及び4.0mmに拡張後の、クリンパーNo.2のステント試料の写真イメージを示す図である。
【図7D】それぞれ、拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、及び4.0mmに拡張後の、クリンパーNo.2のステント試料の写真イメージを示す図である。
【図8】拡張したLPLG/コポリマー/ナノ複合体ステント及びLPLGステントの写真イメージを示す図である。
【図9】拡張したLPLG/コポリマー/ナノ複合体ステント及びLPLGステントの写真イメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のある実施形態には、マトリックスコポリマー及びコポリマー中に分散したバイオセラミック粒子を含むコポリマー/バイオセラミック複合体から少なくとも部分的に作製された埋込み型医用デバイスが含まれる。いくつかの実施形態においては、マトリックスコポリマーは、少なくとも2個の官能基を含み、コポリマーの大部分は官能基の1個を含む。
【0018】
本発明の追加的な実施形態には、ポリマーブレンド及びブレンド中に分散したバイオセラミック粒子を含むコポリマーブレンド/バイオセラミック複合体から少なくとも部分的に作製された埋込み型医用デバイスが含まれる。ポリマーブレンドは、連続ポリマー相及び連続ポリマー相中の不連続ポリマー相を有し得る。バイオセラミック粒子は、連続相、不連続ポリマー相、又はその両者の中に分散し得る。本明細書に記述する本発明の実施形態は、埋込み型医用デバイスの使用に関する生体分解性ポリマーの欠点を減少又は解消するために適合される。そのような欠点は、分解期間、強度、及び靭性に関連する。
【0019】
本明細書においては、「埋込み型医用デバイス」には、これだけに限らないが、自己拡張型ステント、バルーン拡張型ステント、ステントグラフト、埋込み型心臓ペースメーカー及び除細動器、これらの機器用の導線及び電極、血管グラフト、グラフト、人工心臓弁、及び脳脊髄液シャントが含まれる。
【0020】
埋込み型医用デバイスは、治療用薬剤の局所送達用に設計することができる。医薬含有埋込み型医用デバイスは、治療用薬剤を含むコーティング材でデバイス又は基材を被覆することによって構成することができる。デバイスの基材も治療用薬剤を含むことができる。
【0021】
埋込み型医用デバイスは生体分解性、生体吸収性、又は生体安定性のポリマーから部分的に又は完全に作製することができる。埋込み型医用デバイスの作製に用いられるポリマーは、生体安定性、生体吸収性、生体分解性、又は生体被浸食性であり得る。生体安定性とは、生体分解性でないポリマーを意味する。生体分解性、生体吸収性、及び生体被浸食性という用語は、相互に交換可能に用いられ、血液等の体液に触れた際に完全に分解され及び/又は浸食されることができ、生体によって徐々に再吸収、吸収、及び/又は除去されることができるポリマーを意味する。ポリマーの破壊及び吸収の過程は、たとえば、加水分解及び代謝プロセスによって起こり得る。
【0022】
埋込み型医用デバイスは、治療におけるその使用の要求によって決定される機械的、化学的、又は物理的特性の理想的な範囲を有し得る。たとえば、機械的特性には、強度及び靭性が含まれる。さらに、生体分解性デバイスは、分解速度又は時間の理想的な範囲を有し得る。たとえば、ステントは、管腔壁を支持するための適切な半径方向の強度を必要とする。ステントはまた、ステントが圧着若しくは拡張されたときに起こり得る亀裂又は展開時の繰り返し荷重に耐える充分な靭性を有しなければならない。さらに、ステントはまた、治療期間によって決定される理想的な分解期間を有し得る。本明細書で記述する実施形態には、ポリマーの化学的性質を調整すること及びデバイスの理想的若しくは所望の分解及び機械的性質に到達又は近づくためにポリマー及びセラミックの相をポリマーに組み込むことが含まれる。
【0023】
ステント等の埋込み型医用デバイスに適するであろういくつかのポリマーには潜在的な欠点がある。たとえば、いくつかの生体分解性ポリマーの分解速度は、ある種のステント治療に望ましい分解速度より遅い。その結果、そのようなポリマーから作製されたステントの分解期間は、所望の分解期間より長いことがある。たとえば、ポリ(L−ラクチド)(PLLA)から作製されたステントの分解期間は約2〜3年の間であり得る。ある種の治療の状況においては、1年未満、たとえば4〜8カ月の間の分解期間が望ましいことがある。
【0024】
いくつかのポリマーにおける別の欠点は、それらの靭性が、特にステントの用途において、所望より低いことである。たとえば、PLLA等のポリマーは生理学的条件又は人体内条件において脆い傾向がある。具体的には、そのようなポリマーは約37°Cである人体温より高いTgを有することがある。これらのポリマーは、破壊に先立って殆ど又は全く塑性変形がない脆性破壊機構を示すことがある。その結果、そのようなポリマーから作製されたステントは、ステントの用途の範囲内では靭性が不充分なことがある。
【0025】
埋込み型医用デバイスの特定の治療用途に関する埋込み型医用デバイスのためのポリ(L−ラクチド)等の生体分解性ポリマーの欠点は、少なくとも2つの方法:(1)ポリマーの化学組成を改質又は変更することによって、(2)ポリマー中に粒子状又は分散したセラミック相を含ませることによって、及び(3)マトリックスポリマー中に追加のポリマー相を組み込むことによって、対処することができる。(1)、(2)、及び(3)は単独で、又は組み合わせて適用することができる。
【0026】
(1)に関しては、いくつかの実施形態には、ポリマー中に官能基を組み込むことにより、得られたコポリマーが増大した分解速度を有するようにすることが含まれ得る。得られたコポリマーから作製されたデバイスは、このようにして短縮した分解期間を有し得る。1つの実施形態においては、コポリマー又は改質ポリマーは、L−ラクチド等の大部分の1次官能基と、少なくとも1個の追加の2次官能基とを有し得る。2次官能基(1個又は複数)は、実質的に又は完全に1次官能基から作製されたポリマーと比較して、分解速度を増大させ得る。分解速度の増大は、1次官能基よりも大きな加水分解活性を有する、及び/又はより親水性の2次官能基を選択することによって得ることができる。さらに、又はこれに代えて、この増大は、もとのポリマーと比べた改質ポリマーの結晶性の低下によることもあり得る。本明細書に開示するコポリマーは、当業者に知られた方法を用いて合成することができる。たとえば、コポリマーは、LLA及びGAモノマー又はLLA及びジオキサノンモノマーのランダム共重合によって形成することができる。
【0027】
一般に、加水分解性ポリマーの分解は、ポリマー中への水の浸透と、これに続くポリマー中の結合の加水分解を含む順序に従う。したがって、ポリマーの分解は、官能基の加水分解の速さ、親水性の程度、及びポリマー中の水の拡散速度によって影響され得る。より大きな加水分解活性を有する官能基は、より大きな速度で加水分解を受ける。このような官能基は、「加水分解促進性官能基」と称することができる。たとえば、グリコリド(GA)は,L−ラクチド(LLA)よりも大きな加水分解活性を有する。したがって、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)(LPLG)コポリマーは、PLLAよりも大きな分解速度を有し得る。さらに、ポリマーの結晶領域を通しての水の拡散速度は非晶領域よりも小さいので、ポリマー中の水の拡散速度は、結晶性の程度に影響され得る。非晶領域の割合が大きいと、水の浸透の増大が可能になり、コポリマーの分解速度が大きくなり、コポリマーから作製されたステントの分解期間が短くなる。
【0028】
図1に、PLLA及びPGAのホモポリマー並びにLPLGコポリマーの、半減期分解期間とLLA/GA比との関係を示す。分解性ポリマーの「半減期分解期間」は、ポリマーの分子量が初期値の半分に減少するために必要な期間である。図1のデータは、ラット組織中に埋め込まれたPLLA及びPGAのホモポリマー並びにLLAとGAのコポリマーの分解の半減期を表す。(Hoffman,A.S.,Schoen,F.J.,Lemons,J.E.,編,Biomaterials Science,New York:Academic Press,1996,356−360ページ)
【0029】
PLLA及びPGAの両者は半結晶性ポリマーである。したがって、結晶性の減少のため、コポリマーの分解期間は、両者のホモポリマーよりも短い。さらに図1は、PGAホモポリマーがPLLAホモポリマーよりも短い分解期間を有していることを示しており、GAがLLAよりも加水分解活性が大きいことを示している。したがって、GA/LLA比がゼロ、即ちPLLAホモポリマーから増大するにつれて分解期間が短くなることは、加水分解活性が増大することにもよる。
【0030】
ポリマーを改質する追加的な実施形態には、破壊靭性を増大する官能基をポリマー中に組み込むことが含まれ得る。このようなコポリマーは、非改質ポリマーよりも亀裂に対する抵抗性が大きい。2次官能基は、この2次官能基のホモポリマーが非改質ポリマーよりも大きな破壊靭性を有するように選択することができる。そのような官能基は「靭性増大性官能基」と称することができる。たとえば、ポリマーの破壊靭性を増大し得る官能基には、これだけに限らないが、カプロラクトン(CL)及びトリメチレンカーボネート(TMC)が含まれる。ジオキサノンはPLLAよりも加水分解活性が大きいとともに、PLLAの破壊靭性を増大し得る。
【0031】
1つの実施形態においては、第2官能基のホモポリマーはエラストマーである。「エラストマー」又は「ゴム状」ポリマーは、天然ゴムにおけるように、力により生じた変形に抵抗し、変形から回復し得るポリマーを意味する。1つの実施形態においては、エラストマー又はゴム状ポリマーは、元の長さの少なくとも2倍に繰り返し伸張することができ、応力の解除により直ちにほぼ元の長さに力をもって復帰することができる。別の実施形態においては、エラストマー又はゴム状ポリマーは、それらのガラス転移温度より高い温度にある、実質的に又は完全に非晶質のポリマーである。
【0032】
コポリマー中の2次官能基の割合が増大すると、コポリマーの弾性率は非改質ポリマーに比べて低下することがある。弾性率の低下は、結晶性の低下によることもある。ステント用途においては弾性率のこの低下は一般に望ましくない。なぜなら弾性率はステントが血管を支持する能力を低下させることがあるからである。したがって、2次官能基の重量百分率は、ステントが構造支持体として作用するための適切な強度を有し得るように調整することができる。しかしながら、適切な強度と所望の分解期間の両者を有するコポリマーのみから作製されたステントは、官能基の特定の組合せを有するコポリマーでは可能でないかもしれない。
【0033】
一般に、ポリマーの強度、靭性、及び弾性率は、分散したバイオセラミック粒子をポリマー中に含ませることによって増大させることができる。いくつかの実施形態においては、コポリマー中にバイオセラミック粒子を含有させることにより、2次官能基によるコポリマーの弾性率の減少を部分的に又は完全に補償することができる。バイオセラミック粒子によって靭性、強度、及び弾性率を増大させることができるが、いくつかの用途においては靭性の増大は充分でないことがある。さらに、バイオセラミック粒子の重量百分率が増大すると、強度及び靭性の増加は限界に達する。さらに、生理的条件下で破壊靭性が低いポリマーの破壊靭性は、生理的条件下でより高い又は比較的高い破壊靭性を有する別のポリマーをこれに配合することによって増大させることができる。より破壊靭性が高いポリマーはまた非相溶性であると考えられ、破壊靭性が低いポリマーとは不連続のポリマー相を形成する。不連続相はブレンドから作製されたデバイスに付与された応力から生じるエネルギーを吸収し、ブレンドから作製されたデバイスの破壊靭性を増大させ得る。相の界面間の良好なエネルギー移動を確実にするために、ポリマー相間に充分な結合又は接着があることが重要である。Y.Wang,他,Journal of Polymer Science Part A:Polymer Chemistry,39,2001,2755−2766ページ参照。
【0034】
上で論じたように、本発明の種々の実施形態には、マトリックスコポリマー及びコポリマー中に分散したバイオセラミック粒子を含むコポリマー/バイオセラミック複合体から少なくとも部分的に作製された埋込み型医用デバイスが含まれる。これらの実施形態においては、マトリックスコポリマーは少なくとも2個の官能基を含み、コポリマーの大部分は1次官能基を含む。マトリックスコポリマーは、1個又は複数の追加の又は2次官能基をさらに含む。
【0035】
1組の実施形態には、マトリックスポリマーが少なくとも1個の2次官能基を有し、1次官能基のホモポリマーよりも大きな分解速度を有する複合体が含まれ得る。この組の実施形態においては、2次官能基には、加水分解促進性官能基が含まれ得る。たとえば、2次官能基にはグリコリドが含まれ得る。分解速度の増大は、加水分解活性の増大及び結晶性の低下の両方によることがあり得る。
【0036】
別の組の実施形態には、マトリックスポリマーが少なくとも1個の2次官能基を有し、1次官能基のホモポリマーよりも大きな破壊靭性及び大きな分解速度を有する複合体が含まれ得る。1つのそのような実施形態においては、2次官能基には、靭性増大性官能基が含まれ得る。たとえば、2次官能基には、カプロラクトン又はトリメチレンカーボネートが含まれ得る。分解速度の増大は、結晶性の低下によって生じることがあり得る。
【0037】
別の組の実施形態には、マトリックスポリマーが少なくとも2個の2次官能基を含み、1次官能基のホモポリマーよりも大きな破壊靭性及び大きな分解速度を有する複合体が含まれ得る。これらの実施形態においては、2次官能基には、靭性増大性官能基及び加水分解促進性官能基が含まれ得る。たとえば、2次官能基には、カプロラクトン又はトリメチレンカーボネートが含まれ得る。分解速度の増大は、加水分解活性の増大及び結晶性の低下の両方によることがあり得る。
【0038】
さらに、2次官能基(1個又は複数)の重量百分率は、所望のコポリマーの分解速度又はコポリマーから作製されたステントの分解期間が得られるように選択し又は調整することができる。2次官能基の重量百分率はまた、所望の破壊靭性が得られるように調整することができる。所望の破壊靭性の程度は、圧着又は拡張の際に見られるステントの亀裂の最大数に対応するであろう。
【0039】
いくつかの例示的な実施形態においては、コポリマー中の2次官能基の重量百分率は、約1%、5%、10%、15%、30%、40%、50%又は60%未満であってよい。ある例示的な実施形態においては、ステントの分解期間が、分散したバイオセラミック粒子の有無にかかわらず、18カ月、12カ月、8カ月、5カ月未満、又はより狭くは3カ月未満となり得るように、2次官能基を選択することができ、また2次官能基の重量百分率を調整することができる。
【0040】
マトリックスポリマー中に分離相を形成する別のポリマーを含ませることによって、コポリマー/バイオセラミック複合体から作製されたデバイスの構造要素の破壊靭性及び/又は分解速度を制御することも望ましいであろう。埋込み型医用デバイスの実施形態のさらなる組には、ポリマーブレンド/バイオセラミック複合体から少なくとも部分的に作製された構造要素が含まれ得る。1つの実施形態においては、ポリマーブレンドには、マトリックスポリマーがポリマーブレンドの大部分であるようなマトリックスポリマーと改質剤ポリマーとの混合物が含まれ得る。改質剤ポリマーは、改質剤ポリマーの少なくともいくらかのブロック又はセグメントと非相溶性であるマトリックスポリマーとのブロックコポリマーであり得る。ポリマーブレンド/バイオセラミック複合体にはまた、ポリマーブレンド中に分散した複数のバイオセラミック粒子が含まれ得る。
【0041】
改質剤ポリマーの少なくともいくらかのブロック又はセグメントはマトリックスポリマーと非相溶性であるので、複合体は、連続ポリマー相及び連続ポリマー相中の不連続ポリマー相を有する。バイオセラミック粒子は、連続相、不連続相、又は不連続相と連続相の両者中に分散し得る。
【0042】
さらに、連続相にはマトリックスポリマーが含まれ、不連続相には改質剤ポリマーの非相溶性ブロックが含まれ得る。1つの実施形態においては、マトリックスポリマーは生理的条件で比較的低い破壊靭性を有してもよく、不連続ポリマー相は生理的条件で比較的より高い破壊靭性を有してもよい。たとえば、マトリックスポリマーは体温より高いTgを有してもよく、不連続ポリマー相を形成する改質剤ポリマーの一部は体温より低いTgを有してもよい。改質剤ポリマー又は不連続相はマトリックスポリマーの、したがって複合体の靭性を増大させる傾向がある。記載したポリマーブレンドの使用は、加水分解促進性官能基を含み、靭性増大性官能基を殆ど若しくは全く含まないマトリックスポリマーによって最も有利になるであろう。
【0043】
いくつかの実施形態においては、改質剤ポリマーは不連続相セグメント及びアンカーセグメントを有し得る。不連続相セグメントはマトリックスポリマーと非相溶性であるので、不連続相セグメントは不連続相中に存在する。アンカーセグメントはマトリックスポリマーと相溶性であるので、アンカーセグメントは不連続相から連続相に少なくとも部分的に相分離する。
【0044】
図2Aにはステント100の三次元視図が描かれている。いくつかの実施形態においては、ステントにはパターン又は相互連結した構造要素105のネットワークが含まれ得る。ステント100はチューブ(図示せず)から形成することができる。構造要素110のパターンは種々の形態を取り得る。デバイスの構造パターンは実質上どのようなデザインでもよい。本明細書で開示された実施形態は図2Aに描かれたステント又はステントパターンに限定されない。実施形態は容易に他のパターン及び他のデバイスに応用できる。パターン構造の変化は実質上無制限である。ステント100等のステントは、レーザー切削又は化学エッチング等の技術によりパターンを形成することによってチューブから作製することができる。
【0045】
図2Bには図2Aに描かれたステントのストラット105のセグメント110の部分が描かれている。図3A−Bには図2Bに描かれたストラットのセグメント110の部分140の2つの代替的な微視図が描かれている。図3Aにおいて、バイオセラミック粒子160はマトリックスポリマー170中に混合又は分散している。
【0046】
ポリマー/バイオセラミック複合体の例示的な実施形態には、重量百分率比がLLA80%、GA10%、及びCL10%の、PLLA−PGA−PCLコポリマー(LPLGC)のマトリックスポリマーが含まれる。ポリマーとヒドロキシアパタイトバイオセラミック粒子の重量百分率比は100:3である。この混合物を押し出してチューブに成形し、チューブは半径方向に拡張することができ、次いで拡張したチューブを切断してステントにする。この例示的複合体ステントの予想される分解期間は、約10〜14カ月である。
【0047】
ポリマー/バイオセラミック複合体の別の例示的実施形態には、重量百分率比がLLA80%、GA17%,及びCL3%の、PLLA−PGA−PCLコポリマー(LPLGC)のマトリックスポリマーが含まれる。ポリマーとナノ硫酸カルシウムバイオセラミック粒子の重量百分率比は100:3である。この混合物を押し出してチューブに成形し、チューブは半径方向に拡張することができ、次いで拡張したチューブを切断してステントにする。この複合体ステントの予想される分解期間は、約8〜10カ月である。
【0048】
図3Bには連続ポリマー相210中に混合又は分散した不連続ポリマー相200が描かれている。バイオセラミック粒子220は、不連続ポリマー相200及び連続ポリマー相210中に混合又は分散している。
【0049】
図4には不連続相200及び連続ポリマー相210の間の界面を含む部分250の概略拡大図が描かれている。改質剤ポリマー300は不連続相セグメント310及びアンカーセグメント320を有することが示されている。領域330は不連続相200と連続相210の間の境界の輪郭を描くことを意味している。アンカーセグメント320は不連続相200から連続相210に相分離していることが示されている。
【0050】
デバイスが応力下に置かれると、破壊が構造要素を介して進行を開始するときに、不連続相がエネルギーを吸収しやすいと考えられる。そのため連続相を介した亀裂伝播は低減又は阻止されるであろう。その結果、マトリックスポリマーと改質剤ポリマーとのブレンド、したがって構造要素の破壊靭性は増大しやすい。さらに、アンカーセグメントは、不連続相と連続相との間の接着を増大しやすい。したがって、アンカーセグメントは界面を通っての及び相間のエネルギー移動を促進する。
【0051】
バイオセラミック粒子はより大きな体積にわたるデバイス中での応力と歪みの分散によりマトリックスポリマーの破壊靭性を増大させると考えられる。応力と歪みは無数の個々の粒子を含む多くの小さな相互作用に分割され得る。たとえば、材料中で亀裂が発生しマトリックスポリマー中で移動を開始するとき、亀裂は粒子との相互作用により分散され、又はより細かな亀裂へと分割される。したがって、粒子は、亀裂を生じさせた適用応力によってデバイスに付加されたエネルギーを分散させやすい。例示的実施形態において、複合体は少なくとも0.1wt%、0.1〜2wt%、2〜10wt%、又は10〜20wt%のバイオセラミック粒子を含み得る。
【0052】
一般に、バイオセラミック粒子から生じる靭性の増大は粒子のサイズに正比例する。粒子とマトリックスの所与の重量比においては、粒子サイズが減少すればデバイス全体の単位体積あたりに分散した粒子の数もまた増加する。したがって、デバイスに適用された応力のエネルギーを分散する粒子の数は増加する。したがって、ポリマーの靭性を増大させるためにナノ粒子を使用することが有利である。複合体中でナノ粒子を不連続相又は強化相として使用することによりポリマー材料の破壊靭性が改善され得ることが示されている。J.of Applied Polymer Science、94(2004)796〜802ページ。
【0053】
一般に、バイオセラミック粒子が生体分解性マトリックスポリマー又はポリマーブレンド全体に均一に分散していることが望ましい。粒子の分散がより均一であれば複合体及び複合体から作製されたデバイスの性質がより均一になる。たとえば、均一な分散は靭性及び弾性率の均一な増大並びに分解速度の改変をもたらし得る。いくつかの実施形態においては、バイオセラミック粒子は生体分解性マトリックス又はポリマーブレンド中で均一に、又は実質的に均一に分散される。
【0054】
いくつかの実施形態においては、改質剤ポリマーの不連続相セグメントにはPLLA又はLPLG等のマトリックスポリマーよりも大きな破壊靭性を有するポリマーを形成することが知られている単位又は官能基が含まれ得る。不連続相セグメントは連続相のマトリックスポリマーよりも可撓性が高く弾性率が低い不連続相を形成し得る。1つの実施形態においては、改質剤ポリマーの不連続相セグメントはゴム状又はエラストマーポリマーであり得る。1つの実施形態においては、改質剤ポリマーの不連続相セグメントは体温より低いTgを有する。
【0055】
上に示したように、比較的大きな破壊靭性を有する生体分解性ポリマーには、これだけに限らないが、ポリカプロラクトン(PCL)及びポリ(トリメチレンカーボネート)(PTMC)が含まれる。PCL及びPTMCはPLLA等の例示的マトリックスポリマー及びLPLGと非相溶性である。したがって、改質剤ポリマーの不連続相セグメントのいくつかの実施形態には、CL及び/又はTMC単位が含まれ得る。CL及び/又はTMC単位の割合は、不連続相セグメントがPLLA又はLPLGと非相溶性になるよう、充分に大きく調整することができる。
【0056】
上に示したように、PLLA等のマトリックスポリマーは、ある種のステント治療に望ましい分解速度よりも遅い分解速度を有することがある。したがって、追加的な実施形態においては、改質剤ポリマーは、所望の分解特性をもたらす加水分解性単位又は官能基を含み得る。ある実施形態においては、改質剤ポリマーの不連続相セグメントは、不連続相及び連続相への水の浸透性及び含水率を増大させる官能基又は単位を含み得る。特に、不連続相セグメントは、マトリックスポリマーよりも高い親水性を有し、及び/又は加水分解活性がより高いモノマーを含み得る。たとえば、不連続相セグメントはL−ラクチド単位よりも速く分解するGA単位等の加水分解促進性官能基を含み得る。
【0057】
他の実施形態においては、不連続相セグメントは、ポリマーブレンドの破壊靭性を増大させる官能基及びポリマーブレンドの分解速度を増大させる官能基を含み得る。したがって、不連続相セグメントは、靭性増大性及び加水分解促進性官能基を含み得る。1つの実施形態においては、不連続相セグメントは、CL及びGAモノマーの両者を含み得る。特に、不連続相セグメントは、ポリ(グリコリド−co−ε−カプロラクトン)(P(GA−co−CL))であり得る。P(GA−co−CL)不連続相セグメントは、交互の又はランダムのGA及びCLモノマーを有し得る。より速く分解するGAモノマーは、平衡含水率及び構造要素中への浸透を増大させることにより、ポリマーブレンドの分解速度を増大させ得る。GAセグメントの酸性及び親水性の分解生成物はまた、ポリマーブレンドの分解速度を増大させるように作用する。
【0058】
いくつかの実施形態においては、不連続相セグメントの可撓性及び分解速度は、加水分解促進性及び靭性増大性単位の割合により調整することができる。たとえばP(GA−co−CL)セグメント中のCLの割合が増大すると、ポリマーの可撓性及び靭性が増大する。不連続相セグメントのTgは、成分モノマーの割合を調整することによって所望の値に調整することができる。たとえば、生理的条件下で不連続相をより可撓性にするために、不連続相のTgを体温より低い温度に設計することができる。さらに、不連続相セグメント、したがってブレンドの分解速度は、不連続相セグメント中のGAの割合を増大することにより増大することができる。例示的な実施形態においては、P(GA−co−CL)セグメントは1wt%、5wt%、20wt%、50wt%、70wt%、80wt%、又は90wt%より多いGAモノマーを有し得る。
【0059】
1つの実施形態においては、改質剤ポリマーは、P(GA−co−CL)−b−PLLA又はPLLA−b−P(GA−co−CL)を含み得る。それぞれの場合において、不連続相セグメントはP(GA−co−CL)であり、アンカーセグメントはPLLAである。P(GA−co−CL)−b−PLLA及び/又はPLLA−b−P(GA−co−CL)の改質剤ポリマーとPLLAのマトリックスポリマーとの二元ポリマーブレンドにおいては、改質剤ポリマーのPLLAアンカーセグメントは連続相のPLLAマトリックス中に相分離し得る。PLLAアンカーセグメントは不連続相を連続相に結合し、ポリマーブレンドの破壊靭性の増大を容易にし得る。
【0060】
例示的な実施形態においては、ポリマーブレンド/バイオセラミック複合体は、約1〜30wt%又は5〜20wt%の改質剤ポリマー及び約75〜95wt%のマトリックスポリマーを含み得る。ポリマーブレンド/バイオセラミック複合体はさらに、少なくとも約0.1wt%、0.1〜1wt%、1〜10%、又は10〜20wt%のバイオセラミック粒子を含み得る。
【0061】
また、改質剤ポリマーのアンカーセグメントはアンカーセグメントがマトリックスコポリマーと相溶性を有するように選択することができる。1つの実施形態においては、アンカーセグメントはマトリックスコポリマーと同じ官能基組成を有してよい。別の実施形態においては、アンカーセグメントはマトリックスコポリマーと異なるが、アンカーセグメントがマトリックスポリマーと相溶するように充分近い官能基組成を有してもよい。別の実施形態においては、アンカーセグメントはマトリックスポリマーと相溶性であるアンカーセグメントを有するマトリックスポリマーと異なる組成を有してもよい。
【0062】
いくつかの実施形態には、PLLAのマトリックスポリマー及び100%のL−ラクチド単位又はL−ラクチドとGA単位の両者を含むアンカーブロックが含まれ得る。他の実施形態には、LPLGのマトリックスポリマー及び100%のL−ラクチド単位又はL−ラクチドとGA単位の両者を含むアンカーブロックが含まれ得る。
【0063】
いくつかの実施形態においては、埋込み型医用デバイスを作製するためのブレンドは、マトリックスポリマーと、不連続相セグメント及びアンカーブロックを有する改質剤ポリマーと、改質剤ポリマーの不連続相セグメントからなる不連続相コポリマーとの三元ブレンドであってよい。マトリックスポリマーは連続相を形成し、不連続相コポリマーは連続相中に不連続相を形成し得る。改質剤ポリマーは不連続相と連続相の間の接着を容易にすることにより、マトリックスポリマーと不連続相コポリマーとの相溶化剤として作用し得る。1つの実施形態においては、不連続相セグメントを有するコポリマーは、不連続相の大部分である。
【0064】
1つの例示的実施形態においては、三元ブレンドはマトリックスポリマーとしてのPLLA、P(GA−co−CL)コポリマー、及び改質剤ポリマーとしてのP(GA−co−CL)−b−PLLA及び/又はPLLA−b−P(GA−co−CL)を含み得る。そのような実施形態においては、P(GA−co−CL)コポリマーは、改質剤ポリマーのP(GA−co−CL)セグメントとともに不連続相中に存在する。改質剤ポリマーのPLLAはPLLA連続相に相分離する。
【0065】
別の例示的実施形態においては、三元ブレンドは、マトリックスポリマーとしてのLGLG、P(GA−co−CL)コポリマー、及び改質剤ポリマーとしてのP(GA−co−CL)−b−LPLG及び/又はLPLG−b−P(GA−co−CL)を含み得る。そのような実施形態においては、P(GA−co−CL)コポリマーは、改質剤ポリマーのP(GA−co−CL)セグメントとともに不連続相中に存在する。改質剤ポリマーのLPLGはLPLG連続相に相分離する。
【0066】
例示的実施形態においては、ポリマーブレンド/バイオセラミック複合体用の三元ポリマーブレンドは、約5〜25wt%の不連続相コポリマー、約0.5〜2wt%の改質剤ポリマー、及び約75〜95wt%のマトリックスポリマーを含み得る。マトリックスポリマーはPLLAであり、不連続相コポリマーはP(GA−co−CL)であり、また改質剤ポリマーはPLLA−b−P(GA−co−CL)及び/又はPLLA−b−P(GA−co−CL)であり得る。ポリマーブレンド/バイオセラミック複合体は、少なくとも0.1wt%、0.1〜1wt%、1〜10%、又は10〜20wt%のバイオセラミック粒子を含み得る。
【0067】
いくつかの実施形態においては、P(GA−co−CL)−b−PLLA又はP(GA−co−CL)−b−LPLG等の改質剤ポリマーは、溶液重合法(solution−based polymerization)により形成することができる。改質剤ポリマーを形成するために用いられる他の方法、たとえば限定するものではないが、溶融相重合(melt phase polymerization)も可能である。溶液重合法においては、重合反応に関与するすべての反応性成分は溶媒に溶解している。
【0068】
P(GA−co−CL)−b−PLLAコポリマーを調製するには、図5Aに示すように、溶液重合によりP(GA−co−CL)をまず調製し、次にこれをL−ラクチドモノマーの重合を開始する高分子量開始剤(macro−initiator)として用いてPLLAセグメントを形成させることができる。具体的には、最初にGAモノマー及びCLモノマーを溶媒と混合して溶液を作ることによってP(GA−co−CL)セグメントを形成する。この溶液の中で、GAモノマーとCLモノマーが反応してP(GA−co−CL)を形成する。次にL−ラクチドモノマーをこの溶液又は生成したP(GA−co−CL)を含む別の溶液に加えることができる。L−ラクチドモノマーはP(GA−co−CL)と反応してP(GA−co−CL)−b−PLLAを形成する。
【0069】
P(GA−co−CL)−b−LPLGコポリマーを調製するには、図5Bに示すように、溶液重合によりP(GA−co−CL)をまず調製し、次にこれをL−ラクチド及びグリコリドモノマーの重合を開始する高分子量開始剤として用いてLPLGセグメントを形成させることができる。図5Aと同様に、最初にGAモノマー及びCLモノマーを溶媒と混合して溶液を作ることによってP(GA−co−CL)セグメントを形成する。この溶液の中で、GAモノマーとCLモノマーが反応してP(GA−co−CL)を形成する。次にL−ラクチド及びグリコリドモノマーをこの溶液又は生成したP(GA−co−CL)を含む別の溶液に加えることができる。L−ラクチド及びグリコリドモノマーはP(GA−co−CL)と反応してP(GA−co−CL)−b−LPLGを形成する。
【0070】
1つの実施形態においては、L−ラクチドモノマーは、P(GA−co−CL)を形成するのに用いた同じ溶液中で反応する。或いは、L−ラクチドモノマーは、P(GA−co−CL)を形成するための溶液とは異なる溶媒を有する溶液中で反応することができる。PLLAアンカーセグメントを形成するための溶媒(1種又は複数)は、P(GA−co−CL)コポリマーがその溶媒(1種又は複数)に溶解し、したがってこのコポリマーがさらにL−ラクチドモノマーと共重合できるように選択することができる。
【0071】
他の実施形態においては、P(GA−co−CL)−b−PLLAは、P(GA−co−CL)コポリマーを溶媒に膨潤させてL−ラクチドモノマーと反応させることによって形成することができる。当業者は、P(GA−co−CL)を膨潤させるが溶解しない溶媒を選択することができる。P(GA−co−CL)コポリマーは生成後に溶媒に膨潤し、したがってP(GA−co−CL)コポリマーは添加したL−ラクチドモノマーと反応することができる。
【0072】
別の実施形態においては、PLLA−b−P(GA−co−CL)コポリマーの合成は、最初にPLLAブロックを合成することによって実施することができる。L−ラクチドモノマーは、溶媒と混合して溶液を形成することができる。形成されたPLLA含有溶液にGAモノマーとCLモノマーを加え、PLLA−b−P(GA−co−CL)コポリマーを形成させる。溶液はPLLAを形成するのに用いた同じ溶液でもよく、又は異なった溶媒を含む溶液でもよい。
【0073】
1つの実施形態においては、コポリマーの合成に用いる溶媒は、アルコール官能基を含まない。そのようなアルコール基はポリマーの鎖成長の開始剤として作用することがある。コポリマーの合成に用いる溶媒には、これらに限らないが、クロロホルム、トルエン、キシレン、及びシクロヘキサンが含まれる。コポリマーの合成を促進する開始剤には、これらに限らないが、ドデカノール、エタノール、エチレングリコール、及びポリエチレングリコールが含まれる。コポリマーの合成を促進するために用いられる触媒には、これらに限らないが、オクチル酸スズ及びトリフルオロメタンスルホン酸スズが含まれる。
【0074】
いくつかの実施形態においては、マトリックスポリマー/バイオセラミック又はポリマーブレンド/バイオセラミック複合体は溶融混合により形成することができる。溶融混合においては、バイオセラミック粒子はポリマー溶融物と混合される。粒子は押し出し又はバッチ法によりポリマー溶融物と混合することができる。マトリックスポリマー又はポリマーブレンドとバイオセラミック粒子の複合体は押し出してチューブ等のポリマー構造物を形成することができる。次にこのチューブからステントを作製することができる。
【0075】
1つの実施形態においては、バイオセラミック粒子は、ポリマーの溶融前に粉末又は顆粒形態でマトリックスポリマー又はポリマーブレンドと混合することができる。粒子とポリマーとは容器又はミキサー内で粒子とポリマーとをかきまぜることなどの機械的混合又は攪拌によって混合することができる。次にかきまぜた混合物を、押し出し機内で又はバッチ法を用いて、マトリックスポリマー又はポリマーブレンド中の少なくとも1つのポリマーの溶融温度より高い温度に加熱することができる。
【0076】
さらなる実施形態においては、医用デバイス用のポリマーブレンド/バイオセラミック複合体の製造方法には、バイオセラミック粒子の懸濁液とポリマー溶液から複合体を調製することが含まれ得る。上述の機械的混合又は攪拌手法の潜在的問題点は、ポリマー及び粒子が領域又は層に分離する可能性があることである。これは特にナノ粒子等のより微小な粒子に関して問題である。また、粒子は凝集する、又は塊を形成する可能性があるため、粒子をポリマー溶融物と混合して均一な分散を得ることが難しいことがある。押し出し機内又はバッチ法での機械的混合が塊を破壊するのに不充分で、その結果、バイオセラミック粒子とポリマーブレンドの混合が不均一になることがある。バイオセラミック粒子は、懸濁液から形成された複合体にはより均一に分散できることがある。
【0077】
埋込み型医用デバイスを形成する方法のある種の実施形態には、ポリマー溶液中に懸濁したバイオセラミック粒子を含む懸濁液からマトリックスポリマー/バイオセラミック又はポリマーブレンド/バイオセラミック複合体を形成することが含まれ得る。「懸濁液」は、流体中に粒子が懸濁又は分散した混合物である。ポリマー溶液は、ポリマーに対して溶媒である流体中に溶解したポリマーを含み得る。粒子は、ポリマーを流体に溶解する前又は後に流体と混合することができる。バイオセラミック粒子を懸濁液に分散させるためには、当業者に知られた種々の機械的混合方法が使用できる。1つの実施形態においては、粒子の分散は超音波ミキサーにより促進することができる。
【0078】
方法には、懸濁液をポリマーの貧溶媒である第2の流体と混合することがさらに含まれ得る。少なくともいくらかのポリマーは懸濁溶液と第2の流体との混合に際して沈殿し得る。いくつかの実施形態においては、少なくともいくらかのバイオセラミック粒子は沈殿したポリマーとともに懸濁液から沈殿して、バイオセラミック粒子とポリマーの複合体混合物を形成し得る。沈殿した複合体混合物は、次に溶媒から濾過することができる。濾過した複合体混合物は乾燥して残存溶媒を除くことができる。たとえば、複合体混合物は真空オーブンで、又は加熱ガスを混合物に吹き付けることにより、乾燥することができる。
【0079】
ポリマー溶液には、たとえばマトリックスポリマー/バイオセラミック複合体の場合には、マトリックスポリマーが含まれ得る。ポリマーブレンド/バイオセラミック複合体の場合には、ポリマー溶液には、溶媒中に溶解した改質剤ポリマー、不連続相セグメントのポリマー、又はこれらの組合せが含まれ得る。例示的なポリマーには、これらに限らないが、PLLA、PDLA、LPLG、P(GA−co−CL)、PGA、PTMC、P(GA−co−CL)−b−PLLA、及びPLLA−b−P(GA−co−CL)が含まれ得る。このようなポリマーに対する代表的な溶媒には、トルエン及びクロロホルムが含まれ得る。ポリマーを沈殿させるために用い得る、これらのポリマーに対する代表的な貧溶媒には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、及びヘキサン又はヘプタン等の種々のアルカン類が含まれ得る。
【0080】
バイオセラミックナノ粒子を含む懸濁液では、粒子は溶液中でポリマー鎖と強い相互作用を有し、その結果、粒子がポリマー鎖によってカプセル化され、又は取り囲まれることがあると考えられる。したがって、ポリマーが溶液から沈殿する際に、粒子とポリマーとの相互作用が粒子と溶液との相互作用を凌駕し、粒子がポリマーとともに沈殿することがある。
【0081】
さらに、粒子の沈殿の程度及び沈殿したポリマー中での粒子の分散の程度の両者は溶液に溶解したポリマーの量に依存することが観察されてきた。沈殿の程度とは、懸濁液から沈殿した粒子の量を意味する。沈殿したポリマー中での粒子の分散の程度とは、粒子と沈殿したポリマーの混合の程度を意味する。
【0082】
ポリマーの量は懸濁溶液中のポリマーの重量百分率によって定量することができる。また、溶液の粘度も、溶液中のポリマーの量に関連している。溶解したポリマーの重量百分率が高いほど、懸濁溶液の粘度が高い。
【0083】
懸濁した粒子の所与の濃度について、溶解したポリマーの重量百分率又は粘度が減少すると、粒子の沈殿の程度が低下する。これはおそらく、粒子とポリマー鎖との相互作用が低下するためであろう。したがって、ポリマーの重量百分率又は粘度が低くなると、沈殿する粒子の量は比較的少なくなるであろう。
【0084】
さらに、懸濁した粒子の所与の濃度について、ポリマーの重量百分率又は溶液の粘度が観察された範囲を超えて増大すると、沈殿したポリマー中の粒子の分散の程度が低下する傾向がある。ポリマーの重量百分率が高いと、又は粘度が高いと、ポリマー鎖間の相互作用が粒子とポリマー鎖との相互作用を低下させ、粒子を沈殿させると考えられる。たとえば、粒子はポリマー鎖の間を自由に移動することはできないであろう。
【0085】
所与の懸濁液は、粒子の種類、粒子濃度、及び溶媒の特定の組合せを有している。この所与の懸濁液について、ポリマーの重量百分率又は粘度を変化させて所望の粒子の沈殿の程度及び所望の沈殿したポリマー中の粒子の分散の程度を得ることができる。したがって、所望の粒子の沈殿の程度及び所望の沈殿したポリマー中の粒子の分散の程度をもたらし得るポリマーの重量百分率又は粘度の範囲があり得る。
【0086】
さらに、懸濁液を貧溶媒と混合する方法も沈殿の程度及び分散の程度に影響し得る。たとえば、懸濁液の小滴の微細なミストを貧溶媒中に堆積させることにより、所望の沈殿の程度及び分散の程度がより容易に得られる。したがって、懸濁液を貧溶媒と混合する方法は、所望の沈殿の程度及び分散の程度をもたらすポリマーの重量百分率又は粘度の範囲に影響し得る。
【0087】
本方法のさらなる実施形態には、複合体混合物を押し出し機に輸送することが含まれる。複合体混合物は、複合体混合物中のポリマーの融解温度より高く、バイオセラミック粒子の融解温度よりも低い温度で押し出すことができる。いくつかの実施形態においては、乾燥した複合体混合物は、たとえば刻むこと又は磨砕することにより小片に分割できる。複合体混合物のより小さな片を押し出すことにより、押し出しプロセス中でのナノ粒子のより均一な分布がもたらされ得る。
【0088】
押し出された複合体混合物は、次にチューブ又は巻きつけ若しくは接着によりチューブを形成することができるシート等のポリマー構造物に形成することができる。次にこの構造物から医用デバイスを作成することができる。たとえば、チューブにパターンをレーザー加工することにより、チューブからステントを作製することができる。別の実施形態においては、ポリマー構造物は複合体混合物から射出成形装置を用いて形成することができる。
【0089】
所望の量の沈殿した複合体混合物の調製には大量の溶媒及び沈殿剤を必要とすることがある。したがって、いくつかの実施形態においては、押し出し機内又はバッチ法で、沈殿した複合体混合物をある量のポリマーと溶融混合することが有利であることもある。ポリマーは沈殿した複合体混合物と同じポリマーでも異なるポリマーでもよい。たとえば、比較的少量の、所望よりも多い重量百分率のバイオセラミック粒子を有する沈殿した複合体混合物を調製することができる。沈殿した複合体混合物をある量の生体分解性ポリマーと溶融混合して、所望の重量百分率のバイオセラミック粒子を有する複合体混合物を形成することができる。
【0090】
いくつかの実施形態においては、埋込み型デバイスの作製に用いる複合体は、最初にマトリックスポリマーとバイオセラミック粒子の複合体混合物を形成することにより形成することができる。複合体混合物は、マトリックスポリマー溶液中のバイオセラミック粒子の懸濁液からマトリックスポリマーを沈殿させることによって形成することができる。ポリマーブレンド組成物の場合には、次いで、複合体混合物は改質剤ポリマーと、たとえば押し出しにより混合することができる。1つの実施形態においては、沈殿したマトリックスポリマー又はポリマーブレンド/バイオセラミック複合体混合物のバッチを、デバイスの目標の重量百分率よりも大きな重量百分率のバイオセラミック粒子により形成することができる。次にこのバッチを、マトリックスポリマー又はポリマーブレンドと混合して、目標とする重量百分率のバイオセラミック粒子を含むマトリックスポリマー又はポリマーブレンド/バイオセラミック複合体を得ることができる。たとえば、最初にPLLAとバイオセラミック粒子の比が2:1であるPLLA/バイオセラミック複合体のバッチを作製することによって、PLLAと改質剤ポリマーを含む100:1の複合体を調製することができる。次にこの2:1の複合体をPLLA及び改質剤ポリマーと混合することによって、100:1のPLLA−改質剤ポリマーブレンド/バイオセラミック複合体を得ることができる。
【0091】
他の実施形態においては、埋込み型デバイスの作製に用いるポリマーブレンド/バイオセラミック複合体は、最初に改質剤ポリマーとバイオセラミック粒子の複合体混合物を形成することにより形成することができる。複合体混合物は、改質剤ポリマー溶液中のバイオセラミック粒子の懸濁液から改質剤ポリマーを沈殿させることによって形成することができる。次に複合体混合物は、マトリックスポリマーと、たとえば押し出しにより混合することができる。1つの実施形態においては、沈殿した改質剤ポリマー/バイオセラミック複合体混合物のバッチを、デバイスの目標重量百分率よりも大きな重量百分率のバイオセラミック粒子により形成することができる。次にこのバッチを、マトリックスポリマー及び改質剤ポリマーと混合して、目標とする重量百分率のバイオセラミック粒子を含むポリマーブレンド/バイオセラミック複合体を得ることができる。たとえば、最初に改質剤ポリマーとバイオセラミック粒子の比が2:1である改質剤ポリマー/バイオセラミック複合体のバッチを作製することによって、PLLAと改質剤ポリマーを含む100:1の複合体を調製することができる。次にこの2:1の複合体をPLLA及び改質剤ポリマーと混合することにより、100:1のPLLA−改質剤ポリマーブレンド/バイオセラミック複合体を得ることができる。
【0092】
いくつかの実施形態においては、複合体中のバイオセラミック粒子は、生体吸収性であり得る。生体吸収性バイオセラミック粒子は、複合体の分解速度及びデバイスの分解期間を増大させ得る。1つの実施形態においては、複合体デバイスの分解期間は所望の時間枠に調整及び/又は調節することができる。バイオセラミック粒子がポリマーマトリックス中で浸食されるにつれて、マトリックスポリマー又はポリマーブレンドの多孔性は増大する。多孔性が増大すると、マトリックスポリマー又はポリマーブレンド中の水分の拡散速度が増大し、したがってマトリックスポリマー又はポリマーブレンドの平衡水分含率が増大する。その結果、マトリックスポリマー又はポリマーブレンドの分解速度が増大する。多孔構造はまた分解生成物のマトリックス外への輸送を増大させ、これはまたマトリックスポリマー又はポリマーブレンドの分解速度を増大させる。
【0093】
ある実施形態においては、デバイスの分解速度及び分解期間は、バイオセラミック材料の種類並びに粒子のサイズ及び形状などの変数により調整又は制御することができる。いくつかの実施形態においては、バイオセラミック材料は、ポリマーブレンドよりも速い分解速度を有するように選択することができる。バイオセラミック材料の分解速度が速いと、マトリックスポリマー又はポリマーブレンドの多孔性の増大も速く、その結果、マトリックスポリマー又はポリマーブレンドの分解速度の増大がより大きくなる。さらに、粒子のサイズは粒子の浸食時間に影響する。粒子が小さければ粒子の単位質量あたりの表面積が大きくなるので、粒子の浸食が速くなる。
【0094】
たとえば、ナノ粒子はマイクロ粒子に比べて比較的速い浸食速度を有し得る。さらに、繊維などの延伸した粒子は、粒子の単位質量あたりの表面積が大きいので、単位質量あたりより速い速度で浸食されやすい。また、短繊維は長繊維より速く浸食されやすい。短繊維は短い長さに切断された長繊維を意味する。いくつかの実施形態においては、短繊維は上述のように繊維を形成してそれらを短い長さに切断することにより作成される。1つの実施形態においては、短繊維の少なくとも一部の長さは、形成されたチューブの直径よりも実質的に短い。たとえば、いくつかの実施形態においては、短繊維の長さは0.05mm未満であり得る。他の実施形態においては、短繊維の長さは0.05〜8mm、又はより狭い範囲では0.1〜0.4mm、又は0.3〜0.4mmであり得る。
【0095】
さらに、バイオセラミック粒子の浸食により生じた細孔のサイズ及び分布はまた、マトリックスポリマー又はポリマーブレンドの分解速度及び時間に影響し得る。ナノ粒子等のより小さい粒子は、マイクロ粒子等のより大きい粒子よりも、より大きい体積のマトリックスポリマー又はポリマーブレンドを体液にさらす多孔性網目を生じる。その結果、ナノ粒子を用いた場合には、マイクロ粒子に比べて、マトリックスの分解速度と時間は増大し得る。
【0096】
粒子に用いる材料の種類並びに粒子のサイズ及び形状を適切に選択することにより、粒子及び複合体デバイスは、選択した浸食速度と分解期間を有するように設計することができる。たとえば、粒子は、数分、数時間、数日、又は1カ月、体液にさらすことによって浸食されてなくなるように設計することができる。
【0097】
上に示したように、多くの生体分解性ポリマーは、加水分解機構により分解する。加水分解反応の速度は、pHの低下とともに増大する傾向がある。ポリラクチド等のポリマーの分解生成物は酸性なので、分解生成物は自己触媒効果を有する。したがって、バイオセラミックの分解生成物のpHはまた、デバイスの分解速度に影響し得る。したがって、酸性の分解副生物を有するバイオセラミック粒子は、マトリックスポリマー又はポリマーブレンドの分解速度をさらに増大させることがある。
【0098】
たとえば、リン酸三カルシウムは、酸性の分解生成物を放出する。したがって、いくつかの実施形態には、体液にさらすことで酸性の分解生成物を有するバイオセラミックを含む複合体が含まれ得る。酸性の分解生成物はポリマーの分解速度を増大させ、これはデバイスの分解期間を短くし得る。
【0099】
他の実施形態においては、複合体は塩基性の分解生成物を有するバイオセラミック粒子を有し得る。たとえば、ヒドロキシアパタイトは塩基性の分解生成物を放出する。バイオセラミック粒子の塩基性の分解生成物はポリマー分解による酸性の分解生成物を中和することにより、マトリックスポリマー又はポリマーブレンドの分解の自己触媒性効果を減少させ得る。いくつかの実施形態においては、バイオセラミック粒子の塩基性の分解生成物は、マトリックスポリマー又はポリマーブレンドの分解速度を低下させ得る。
【0100】
いくつかの実施形態においては、バイオセラミック粒子には、粒子とマトリックスポリマー又はポリマーブレンドとの接着を改善するために、接着促進剤が含まれ得る。1つの実施形態においては、接着促進剤にはカップリング剤が含まれ得る。カップリング剤は、複合体材料のバイオセラミック粒子とマトリックスポリマー又はポリマーブレンドの両者と反応することができる化学物質を意味する。カップリング剤は、ポリマーとバイオセラミック粒子の間の界面として作用し、両者の間に化学架橋を形成して接着を強化する。
【0101】
接着促進剤には、これらに限らないが、シラン及び非シランカップリング剤が含まれ得る。たとえば、接着促進剤には、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、有機トリアルコキシシラン類、チタン酸塩、ジルコン酸塩、及び有機酸−塩化クロム配位錯体が含まれ得る。特に、3−アミノプロピルトリメトキシシランは、ポリ(L−ラクチド)とバイオガラスの接着を強化することが示されている。Biomaterials 25(2004)2489〜2500ページ。
【0102】
いくつかの実施形態においては、バイオセラミック粒子の表面を、マトリックスポリマー又はポリマーブレンドと混合する前に接着促進剤で処理してもよい。1つの実施形態においては、接着促進剤を含む溶液でバイオセラミック粒子を処理してもよい。処理の例には、これらに限らないが、接着促進剤又は接着促進剤を含む溶液で粒子をコーティング、浸漬、又はスプレー処理する方法が含まれ得る。粒子はまた、接着促進剤を含む気体で処理してもよい。1つの実施形態においては、バイオセラミック粒子の処理には、接着促進剤を蒸留水及びエタノール等の溶媒の溶液と混合し、次いでバイオセラミック粒子を加えることが含まれる。次いでバイオセラミック粒子をたとえば遠心により溶液から分離し、粒子を乾燥することができる。次いでバイオセラミック粒子をポリマー複合体を形成するために用いることができる。代替の実施形態として、複合体の形成中に接着促進剤を粒子に加えることもできる。たとえば、押し出しの間に接着促進剤を複合体混合物に混合することができる。
【0103】
埋込み型医用デバイスの作製に使用できるポリマーの代表的な例には、これらに限らないが、ポリ(N−アセチルグルコサミン)(キチン)、キトサン、ポリ(ヒドロキシバレレート)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート−co−バレレート)、ポリオルソエステル、ポリ酸無水物、ポリ(グリコール酸)、ポリ(グリコリド)、ポリ(L−乳酸)、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(D,L−乳酸)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド);ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリエチレンアミド、ポリエチレンアクリレート、ポリ(グリコール酸−co−トリメチレンカーボネート)、コポリ(エーテル−エステル)(たとえばPEO/PLA)、ポリホスファゼン、生体分子(フィブリン、フィブリノーゲン、セルロース、デンプン、コラーゲン及びヒアルロン酸等)、ポリウレタン、シリコーン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリイソブチレン及びエチレン−αオレフィンコポリマー、ポリアクリレート以外のアクリル酸ポリマー及びコポリマー、ハロゲン化ビニルポリマー及びコポリマー(ポリ塩化ビニル等)、ポリビニルエーテル(ポリビニルメチルエーテル等)、ポリハロゲン化ビニリデン(ポリ塩化ビニリデン等)、ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン、ポリビニル芳香族(ポリスチレン等)、ポリビニルエステル(ポリ酢酸ビニル等)、アクリロニトリル−スチレンコポリマー、ABS樹脂、ポリアミド(Nylon66及びポリカプロラクタム等)、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリウレタン、レーヨン、レーヨントリアセテート、セルロース、セルロースアセテート、セルロースブチレート、セルロースアセテートブチレート、セロファン、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースエーテル、及びカルボキシメチルセルロースが含まれる。
【0104】
本明細書で開示された方法による埋込み型医用デバイスの作製用に特によく適しているであろうポリマーの追加的な代表例には、エチレンビニルアルコールコポリマー(一般名EVOH又は商品名EVALとして一般に知られている)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(フッ化ビニリデン−co−ヘキサフルオロプロペン)(たとえばSolvay Solexis PVDF、Thorofare、NJから入手可能なSOLEF 21508)、ポリフッ化ビニリデン(他にATOFINA Chemicals、Philadelphia、PAから入手可能なKYNARとして知られている)、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、及びポリエチレングリコールが含まれる。
【0105】
本発明の目的のため、以下の用語及び定義を適用する。
バイオセラミックには人体と親和性のある任意のセラミック材料が含まれ得る。より一般的には、バイオセラミック材料には任意の種類の親和性無機材料又は無機/有機複合材料が含まれ得る。バイオセラミック材料には、これらに限らないが、アルミナ、ジルコニア、アパタイト、リン酸カルシウム、シリカ系ガラス又はガラスセラミック、及び熱分解炭素が含まれ得る。バイオセラミック材料は生体吸収性及び/又は活性であり得る。バイオセラミックは、生理的プロセスに能動的に関与するならば活性である。バイオセラミック材料はまた「不活性」でもあり得る。これはその材料が人体の生理的条件下で吸収又は分解されず、生理的プロセスに能動的に関与しないことを意味する。
【0106】
アパタイト及び他のリン酸カルシウムの説明的な例には、これらに限らないが、ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))、フッ化アパタイト(Ca10(PO)、カーボネートアパタイト(Ca10(POCO)、リン酸三カルシウム(Ca(PO)、リン酸八カルシウム(Ca(PO・5HO)、リン酸八カルシウム(Ca(PO・5HO)、ピロリン酸カルシウム(Ca・2HO)、リン酸四カルシウム(Ca)、及びリン酸二カルシウム脱水物(CaHPO・2HO)が含まれる。
【0107】
バイオセラミックという用語には、SiO、NaO、CaO、及びP等の化合物からなる生体活性ガラスセラミックである生体活性ガラスも含まれ得る。たとえば、商品として入手可能な生体活性ガラスであるBioglass(登録商標)は、SiO−NaO−KO−CaO−MgO−P系のある組成から誘導される。いくつかの商品として入手可能な生体活性ガラスには、これらに限らないが、
45S5:SiO 46.1モル%、CaO 26.9モル%、NaO 24.4モル%、及びP 2.5モル%
58S:SiO 60モル%、CaO 36モル%、及びP 4モル%、並びに
S70C30:SiO 70モル%、CaO 30モル%
が含まれる。
商品として入手可能な別のガラスセラミックはA/Wである。
【0108】
上に示したように、ステント等の埋込み型医用デバイスは、そのデバイス上のコーティングに、又はそのデバイスの基材の内部に、活性薬剤を組み込むことによって医薬を含ませることができる。いくつかの実施形態においては、バイオセラミックから溶出するイオンは、活性薬剤に対して付加的な治療効果及び/又は相乗的な治療効果を有することができる。たとえば、イオンは、抗増殖剤及び/又は抗炎症剤と併せて用いることができる。
【0109】
バイオセラミック粒子は、部分的に又は完全に生体分解性、生体吸収性、又は生体安定性セラミックから作製することができる。生体吸収性バイオセラミックの例には、種々の種類のバイオガラス材料、リン酸四カルシウム、非晶性リン酸カルシウム、α−リン酸三カルシウム、及びβ−リン酸三カルシウムが含まれる。生体安定性バイオセラミックには、アルミナ及びジルコニアが含まれる。
【0110】
複合体には種々のサイズのバイオセラミック粒子を使用することができる。たとえば、バイオセラミック粒子には、これらに限らないが、ナノ粒子及び/又はマイクロ粒子が含まれ得る。ナノ粒子は、約1nmから約1,000nmの範囲の特性長(たとえば直径)を有する粒子を意味する。マイクロ粒子は、1,000nmより大きく、約10μmより小さな範囲に特性長を有する粒子を意味する。さらに、バイオセラミック粒子は、これらに限らないが、球及び繊維を含む種々の形態を取り得る。
【0111】
さらに、ポリマーの性質を改変する際に粒子サイズ分布が重要なこともあり得る。一般には、サイズ分布が狭いことが好ましい。
【0112】
デバイスの構造要素の複合体は、複合体のポリマー成分に比較して重量で0.01%から10%の間のバイオセラミック粒子、より狭くは重量で0.5%から2%の間のバイオセラミック粒子を有してよい。
【0113】
本発明の目的のため、以下の用語及び定義が適用される。
「ガラス転移温度」、Tgは、大気圧において、ポリマーの非晶質ドメインが脆いガラス状態から固体の可変形性又は延性のある状態に変化する温度である。換言すると、Tgはポリマーの鎖中においてセグメント運動の開始が起こる温度に対応する。非晶質又は半結晶質のポリマーが温度上昇にさらされると、ポリマーの膨張係数及び熱容量の両者は温度上昇とともに増大し、分子運動が増大していることを示す。温度の上昇とともに試料中の実際の分子体積は一定を保ち、したがってより高い膨張係数は、その系に関連する自由体積を増大させ、したがって分子が運動する自由度を増大させる傾向を示す。熱容量の増大は、運動による熱の消散の増大に対応する。所与のポリマーのTgは、加熱速度に依存し、ポリマーの熱履歴に影響され得る。さらに、ポリマーの化学構造は、移動度に影響することにより、ガラス転移に多大の影響を与える。
【0114】
「応力」はある面内の小面積を通して作用する力におけるように、単位面積あたりの力を意味する。応力は、それぞれ法線応力及びせん断応力と呼ばれる、面に対して垂直及び平行の成分に分割することができる。真の応力は力と面積が同時に測定される場合の応力を意味する。引っ張り及び圧縮試験に適用される従来の応力は、力を元のゲージ長で割ったものである。
【0115】
「強度」は、材料が破壊される前に耐え得る、軸に沿った最大応力を意味する。極限強度は、試験中に適用された最大負荷を元の断面積で割ったものから計算される。
【0116】
「弾性率」は、材料に適用された応力又は単位面積あたりの力の成分を、適用された力に起因する、適用された力の軸に沿う歪みで割った比として定義されよう。たとえば、材料は引っ張り及び圧縮弾性率の両者を有する。比較的高い弾性率を有する材料は、こわばった又は硬い傾向がある。逆に、比較的低い弾性率を有する材料は、撓みやすい傾向がある。材料の弾性率は、分子の組成及び構造、材料の温度、変形量、及び歪み速度又は変形速度に依存する。たとえば、Tgより低い温度では、ポリマーは高い弾性率を有し、脆い傾向がある。Tgより低い温度からTgより高い温度にポリマーの温度が上昇するとともに、その弾性率は低下する。
【0117】
「歪み」は、所与の応力又は負荷において、材料中に生じる伸び又は圧縮の量を意味する。
【0118】
「伸び」は、応力を加えたときに生じる材料中の長さの増加として定義されよう。これは典型的には元の長さの百分率として表される。
【0119】
「靭性」は、破壊前に吸収されたエネルギーの量、又はこれと等価に、材料を破壊するために必要な仕事の量である。靭性の1つの尺度は、ゼロ歪みから破壊時の歪みまでの応力歪み曲線の下の面積である。したがって、脆い材料は比較的低い靭性を有する傾向がある。
【0120】
「溶媒」は、1種又は複数の他の物質を溶解若しくは分散させる能力、又はこれらの物質(1種又は複数)を少なくとも部分的に溶解又は分散させて、選択した温度及び圧力において、分子サイズ又はイオンサイズレベルで均一に分散した溶液を形成する能力を有する物質として定義される。溶媒は、選択した温度及び圧力、たとえば周囲温度及び周囲圧力において、溶媒1mlあたり少なくとも0.1mg、より狭くは1mlあたり0.5mgのポリマーを溶解する能力を有するべきである。
【実施例】
【0121】
以下に説明する実施例及び実験データは説明目的のためのみであり、本発明を何ら限定するものではない。以下の実施例は本発明の理解を助けるために提供されているが、本発明は実施例の特定の材料又は方法に限定されないことを理解すべきである。
【0122】
実施例1
ステントはポリマーブレンド/バイオセラミック複合体から作製した。PLLAはマトリックスポリマーであり、P(GA−co−CL)−b−PLLA及び/又はPLLA−b−P(GA−co−CL)は改質剤ポリマーである。硫酸カルシウムのナノ粒子はバイオセラミックナノ粒子である。硫酸カルシウムのナノ粒子は、PEG−PPG−PEG表面改質剤で前処理した。PEGはポリエチレングリコールを意味し、PPGはポリプロピレングリコールを意味する。マトリックスポリマーと改質剤ポリマーとバイオセラミック粒子の重量比は、100:10:1であった。
【0123】
複合体は、本明細書に記載の方法に従って作製した。ステントは複合体から製造したチューブから作製し、チューブは半径方向に拡張させた。拡張したチューブをレーザーで切断してステントを形成した。
【0124】
ステント試料について圧縮、リコイル、又は拡張テストを実施した。ここでクリンパーNo.1及びクリンパーNo.2と称する自家製の2種の異なったクリンパーを用いた。ステントはゼロ時点、即ち作製後に時間を置くことなく試験した。
【0125】
レーザーで切断した後、それぞれのステント試料をカテーテルバルーンに圧着し、ホイルパウチに包装し、電子線照射により滅菌した。次いで、圧縮、リコイル、及び拡張試験のためにステント試料をパウチから取り出した。
【0126】
圧縮試験に先立ち、パウチから取り出したステント試料を3.0mmに展開し、カテーテルアセンブリーから取り外した。圧縮試験は、Canton、MAのInstron社から得たInstron試験機により実施した。ステント試料を2枚の平板の間に置いた。平板間の距離が非圧縮状態のステントの直径になるよう、平板を調整した。次いで、非圧縮時の平板間距離の10%、15%、25%、及び50%にステントを圧縮するよう、平板を調整した。抵抗力、即ちN/mmの単位の、ステントをそれぞれの圧縮距離に保つために必要な力の量を測定した。抵抗力は半径方向の強度(Rs)の尺度に対応する。弾性率も測定した。
【0127】
表1Aに、クリンパーNo.1試料より得た圧縮試験結果を示す。Rs及び弾性率は50%圧縮に対応する。表1BにクリンパーNo.2試料より得た圧縮試験結果を示す。
【0128】
【表1A】

【0129】
【表1B】

【0130】
リコイル試験のため、圧着したステント試料をホイルパウチから取り出し、バルーン圧8気圧で展開した。展開したステントの直径を測定した。バルーンを収縮させ、再び直径を測定した。リコイル%を
リコイル%=(拡張直径−収縮直径)/拡張直径×100%
より計算した。
【0131】
拡張直径は、バルーンを収縮させる前の展開したステントの直径であり、収縮直径は、バルーンを収縮させた後のリコイルしたステントの直径である。ステントの展開はまた、ステントの長さの増加をもたらす。長さ変化%は、
長さ変化%=(圧着した長さ−配置した長さ)/圧着した長さ×100%
から計算した。
【0132】
表2AはクリンパーNo.1についてゼロ時点で5個のステント試料について実施したリコイル試験結果を示す。表2BはクリンパーNo.2についてゼロ時点で5個のステント試料について実施したリコイル試験結果を示す。与えられた全リコイル%はステントの長さに沿ったそれぞれの点で計算したリコイルの平均である。
【0133】
【表2A】

【0134】
【表2B】

【0135】
拡張試験のため、圧着したステント試料をホイルパウチから取り出し、外径をまず3.0mmに、次に3.5mmに、次に4.0mmに展開した。ステント試料中の亀裂の数をそれぞれの展開直径においてカウントした。
【0136】
表3AはクリンパーNo.1について直径3.5mm及び4mmで展開した際のゼロ時点でのステント試料中で観察された亀裂の数を示す。表3BはクリンパーNo.2について直径3.5mm及び4mmで展開した際のゼロ時点でのステント試料中で観察された亀裂の数を示す。欄は亀裂のサイズを示す:「マイクロ」はマイクロサイズの亀裂を示し、「<25%」はストラット幅の25%未満の亀裂を示し、「<50%」はストラット幅の50%未満の亀裂を示し、「>50%」はストラット幅の50%より大きい亀裂を示す。「A」はストラットの「v字型」領域又は屈曲領域を示し、「B」は5個のストラットの交点におけるクモ状の領域を示す。領域は図6A〜Dに見ることができる。3.5mm又は4.0mmの展開直径においては、壊れたストラットは観察されなかった。
【0137】
【表3A】

【0138】
【表3B】

【0139】
図6A〜Dはそれぞれ、拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、及び4.0mmに拡張後のクリンパーNo.1のステント試料の写真イメージを示す。図7A〜Dはそれぞれ、拡張前、3.0mmに拡張、3.5mmに拡張、及び4.0mmに拡張後のクリンパーNo.2のステント試料の写真イメージを示す。
【0140】
2種のクリンパーに対応した試験結果を表4にまとめる。2種のクリンパーの結果には僅かな差しか見られず、測定した性質は用いたクリンパーに依存しないことが示された。
【0141】
【表4】

【0142】
実施例2
LPLGをマトリックスポリマー、P(GA−co−CL)−b−LPLGを改質剤ポリマーとして、ポリマーブレンド/バイオセラミック複合体からステントを作製した。
【0143】
1.LPLG/P(GA−co−CL)−b−LPLG/ナノバイオセラミックチューブの調製
LPLG(85:15)100部、自家製P(GA−co−CL)−b−LPLGコポリマー10部、及びナノバイオセラミック1部を共に混合し、次いで210℃で押し出してポリマーチューブを形成した。形成したチューブの壁厚は約0.050インチ、外径(OD)は約0.072インチであった。
【0144】
2.ステントの調製
半径方向の強度を高めるために、押し出したチューブを半径方向に拡張した。次いで半径方向に拡張したチューブからステントを切り取って電子線で滅菌した。最終ステントの壁厚は約0.005インチ、ODは約0.052インチであった。
【0145】
3.ステントの試験
3a)拡張試験
5個のステントをOD4.0mmまで拡張した。拡張後に破壊されたストラットは観察されなかった。4.0mmの拡張で亀裂は観察されなかった。比較として、同じ加工条件を用いて改質剤ポリマー又はバイオセラミック粒子なしにLPLGからステントを作製した。4.0mmへの拡張後に破壊されたストラットが観察された。図8及び図9に、それぞれLPLG/コポリマー/ナノ複合体及びLPLGから作製した拡張ステントの像を示す。
【0146】
3b)圧縮試験
Instron試験機を用いて圧縮試験を実施した。ステント試料を、3.0mmに拡張した後に2枚の平板の間に置いた。平板間の距離が非圧縮状態のステントの直径になるよう、平板を調整した。次いで、非圧縮時の平板間距離の50%にまでステントを圧縮するよう、平板を調整した。抵抗力、即ちN/mmの単位の、ステントをそれぞれの圧縮距離に保つために必要な力の量を測定した。抵抗力は半径方向の強度(Rs)の尺度に対応する。弾性率も測定した。表5に、LPLG/コポリマー/ナノステントの圧縮試験結果を示す。半径方向の強度及び弾性率は、LPLGから作製したステントと同様である。
【0147】
【表5】

【0148】
3c)加速分解試験
押出しして拡張したLPLG/コポリマー/ナノチューブを、切ってステントにする前に滅菌した。加速分解試験のため、チューブを47℃のリン酸緩衝生理食塩(PBS)溶液を満たしたバイアルに入れた。バイアルをインキュベーターチャンバー内に設置した往復振盪器(platform shaker)に保管した。インキュベーター内の温度を47℃に保ち、振盪器を毎分2〜4サイクルで振盪した。予備試験結果より、滅菌したLPLG/コポリマー/ナノチューブの分子量は、半月後に68%減少したことが示された。比較として、滅菌したLPLGチューブの分子量は同じ期間中に53%減少した。
【0149】
本発明の特定の実施形態を示し、記載したが、そのより広い態様において本発明から逸脱することなく、変更及び改変ができることは、当業者には明白であろう。したがって、付属の特許請求の範囲は、本発明の真の精神及び範囲内に含まれるすべての変更及び改変を、その範囲内に包含するためのものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオセラミック/コポリマー複合体を含む構造要素を含む埋込み型医用デバイスであって、前記複合体はマトリックスポリマー中に分散した複数のバイオセラミック粒子を有し、マトリックスポリマーの大部分は第1官能基を含み、第1官能基はマトリックスポリマーの大部分であり、マトリックスポリマーは第1官能基のホモポリマーよりも大きな破壊靭性及び大きな分解速度を有する、埋込み型医用デバイス。
【請求項2】
ステントを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
マトリックスポリマーがランダムコポリマーである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
第1官能基及び第2官能基が加水分解性である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
第2官能基のホモポリマーが、第1官能基のホモポリマーよりも大きな破壊靭性を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
第2官能基のホモポリマーがエラストマーである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
第2官能基が、第1官能基よりも加水分解活性が大きい、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
コポリマーが、第1官能基又は第2官能基を含むホモポリマーよりも大きな分解速度を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
第1官能基がL−ラクチドである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
第2官能基が、カプロラクトン及びトリメチレンカーボネートからなる群から選択される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
第1官能基の重量百分率が約80%と95%の間である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
第2官能基の重量百分率が約5%と20%の間である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項13】
バイオセラミック/コポリマー複合体を含む構造要素を含む埋込み型医用デバイスであって、前記複合体はマトリックスポリマー中に分散した複数のバイオセラミック粒子を有し、マトリックスポリマーは第1官能基、第2官能基、及び第3官能基を含むコポリマーを含み、マトリックスポリマーの大部分は第1官能基を含み、マトリックスポリマーは第1官能基のホモポリマーよりも大きな破壊靭性及び大きな分解速度を有する、埋込み型医用デバイス。
【請求項14】
ステントを含む、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
マトリックスポリマーがランダムコポリマーである、請求項13に記載のデバイス。
【請求項16】
第1官能基、第2官能基、及び第3官能基が加水分解活性である、請求項13に記載のデバイス。
【請求項17】
第2官能基のホモポリマーが第1官能基のホモポリマーよりも大きな破壊靭性を有する、請求項13に記載のデバイス。
【請求項18】
第2官能基のホモポリマーがエラストマーであって、第3官能基が第1官能基よりも加水分解活性が大きい、請求項13に記載のデバイス。
【請求項19】
第1官能基がL−ラクチドである、請求項13に記載のデバイス。
【請求項20】
第2官能基がカプロラクトン及びトリメチレンカーボネートからなる群から選択され、第3官能基がグリコリドである、請求項13に記載のデバイス。
【請求項21】
第1官能基の重量百分率が約70%と90%の間である、請求項13に記載のデバイス。
【請求項22】
第2官能基又は第3官能基の重量百分率が5%と15%の間である、請求項13に記載のデバイス。
【請求項23】
バイオセラミック/コポリマー複合体を含む構造要素を含む埋込み型医用デバイスであって、前記複合体はマトリックスポリマー中に分散した複数のバイオセラミック粒子を有し、マトリックスポリマーはL−ラクチド、エラストマーの官能基、及びL−ラクチドよりも加水分解活性が大きな官能基を含むランダムコポリマーを含み、マトリックスポリマーの大部分はL−ラクチドであり、マトリックスポリマーはポリ(L−ラクチド)よりも大きな破壊靭性及び大きな分解速度を有する、埋込み型医用デバイス。
【請求項24】
構造要素を含む埋込み型医用デバイスであって、
構造要素は、第1官能基及び第2官能基を含むマトリックスコポリマーを含む連続ポリマー相並びに連続相中の不連続ポリマー相を含み、
コポリマーの大部分は第1官能基を含み、第2官能基は第1官能基よりも加水分解活性が高く、
不連続ポリマー相は不連続相セグメントを有する改質剤ポリマーを含み、不連続相セグメントはマトリックスコポリマーと非相溶性であり、改質剤ポリマーはマトリックスポリマーと相溶性のアンカーセグメントをさらに含み、アンカーセグメントは不連続相から連続相に少なくとも部分的に相分離し、
複数のバイオセラミック粒子が連続及び/又は不連続相中に分散している、埋込み型医用デバイス。
【請求項25】
埋込み型医用デバイスがステントである、請求項24に記載のデバイス。
【請求項26】
連続相のすべて又は大部分がマトリックスコポリマーを含む、請求項24に記載のデバイス。
【請求項27】
不連続相セグメントが人体温より低いTgを有する、請求項24に記載のデバイス。
【請求項28】
不連続相セグメントがエラストマー官能基を含む、請求項24に記載のデバイス。
【請求項29】
不連続相セグメントが、第1官能基よりも加水分解活性が大きい官能基を有する、請求項24に記載のデバイス。
【請求項30】
第1官能基がL−ラクチドであり、第2官能基がグリコリドである、請求項24に記載のデバイス。
【請求項31】
不連続相セグメントがカプロラクトン、トリメチレンカーボネート、及びグリコリドからなる群から選択されるモノマーを含む、請求項24に記載のデバイス。
【請求項32】
改質剤ポリマーが、ポリ(グリコリド−co−ε−カプロラクトン)−b−ポリ(L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド)−b−ポリ(グリコリド−co−ε−カプロラクトン)、ポリ(グリコリド−co−ε−カプロラクトン)−b−ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)−b−ポリ(グリコリド−co−ε−カプロラクトン)、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項24に記載のデバイス。
【請求項33】
バイオセラミック粒子がナノ粒子である、請求項24に記載のデバイス。
【請求項34】
バイオセラミック粒子が生体分解性である、請求項24に記載のデバイス。
【請求項35】
バイオセラミック粒子の分解生成物が、デバイスの使用中にマトリックスポリマー及び/又は改質剤ポリマーの分解速度を改変することができる、請求項24に記載のデバイス。
【請求項36】
バイオセラミック粒子が、硫酸カルシウム及びヒドロキシアパタイトからなる群から選択される、請求項24に記載のデバイス。
【請求項37】
バイオセラミック粒子の表面が接着促進剤を含み、接着促進剤が、マトリックス及び/又は改質剤ポリマーとバイオセラミック粒子の間の結合を強化する、請求項24に記載のデバイス。
【請求項38】
粒子が、生理的条件において、デバイスの構造要素の靭性及び弾性率を増大させる、請求項24に記載のデバイス。
【請求項39】
不連続相が、アンカーセグメントを含まない不連続相セグメントを含むコポリマーをさらに含む、請求項24に記載のデバイス。
【請求項40】
構造要素の1〜40wt%が改質剤ポリマーを含む、請求項24に記載のデバイス。
【請求項41】
構造要素を含む埋込み型医用デバイスであって、
構造要素は、L−ラクチド及びグリコリドのマトリックスコポリマーを含む連続相並びに連続相中の不連続相を含み、
コポリマーの大部分はL−ラクチドを含み、
不連続相は不連続相セグメントを有する改質剤ポリマーを含み、不連続相セグメントはマトリックスコポリマーと非相溶性であり、改質剤ポリマーはマトリックスコポリマーと相溶性のアンカーセグメントをさらに含み、
複数のバイオセラミック粒子が連続及び/又は不連続相中に分散している、埋込み型医用デバイス。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−514474(P2010−514474A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543191(P2009−543191)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/088184
【国際公開番号】WO2008/079894
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(507135788)アボット カーディオヴァスキュラー システムズ インコーポレイテッド (92)
【Fターム(参考)】