説明

ポリマー、その製造方法及び貴金属回収方法

【課題】フェノール水酸基を含有する各種貴金属の回収等に利用できる新規なポリマーの提供。
【解決手段】金属吸着材はフェノール性水酸基を含有するポリマーであるチラミン重合体(ポリチラミン)であり、過酸化水素と還元触媒とを使用して重合し、還元触媒が、西洋わさびペルオキシダーゼであることを特徴とする。金属吸着材を、貴金属イオン溶液に溶解し、当該溶解により形成される前記ポリマーから成るポリマー溶液の溶液組成を調節し、当該調節により貴金属イオンを還元する貴金属回収方法。ポリマー溶液の溶液組成を調節し、当該調節により前記ポリマーを不溶化することを特徴とする貴金属回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール性水酸基を含有する新規のポリマーに関し、特に、貴金属回収に利用できるポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール性水酸基を含有するポリマーは、通称ポリフェノールと呼ばれ、抗酸化作用に代表されるその機能性から、医薬品、機能性食品をはじめとして極めて広範に利用されている重要な化合物である。ポリフェノールは、さらに現在も適用分野を拡大している。
【0003】
一方で、鉱物分野において、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)等の貴金属は、宝飾品から電気電子部品などの最先端材料まで極めて広範に使用されており、その重要性が高まっている。このような貴金属は、希少で高価なため、それらの分離回収による再利用が求められている。このような状況の中、安価であるとともに容易に実施することができる貴金属回収方法が盛んに研究されている。
【0004】
従来の貴金属回収方法としては、イオン交換法および溶媒抽出法を主に用いて行われている。従来の貴金属回収方法は、例えば、粒径が50〜1500μm、ロージン・ラムラーの分布関数の指数が3以上の粒度分布を持つ球状セルロースイオン交換体を使用するものがある(例えば、特許文献1参照)。また、従来の貴金属回収方法は、例えば、白金族元素を含有する製錬残渣に、塩酸存在下で過酸化水素を導入し白金族元素を塩化物錯体に転化して塩酸に溶解し、該溶解液に高濃度のジアルキルスルフィド抽出液を数分以内の接触時間で連続的に接触させてパラジウムを他の白金族元素から選択的に抽出して回収し、更に、パラジウムを抽出除去した水相にトリブチルリン酸を連続的に接触させて白金を抽出して回収するものがある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、ポリフェノールを含有する果実廃棄物を利用して、金イオンを選択的に還元し、回収できる技術も開示されている(例えば、非特許文献1、2参照)。さらに、ポリフェノールの一種である柿タンニンがウラニウムやトリウムの吸着除去に有効であることも示されている(例えば、非特許文献3参照)。また、ポリフェノールの一種であるミモザタンニンやワットルタンニンを原料とする吸着材を使用することで、金属イオンの吸着除去に有効であることも示されている(例えば、非特許文献4、5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001―104806
【特許文献2】特開平10―265863
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Y.Xiong, Chaitanya Raj Adhikari, Hidetaka Kawakita, Keisuke Ohto, Katsutoshi Inoue, Hiroyuki Harada, Bioresource Technology,100,4083-4089.
【非特許文献2】D.Parajuli, Hidetaka Kawakita, Katsutoshi Inoue, Keisuke Ohto, Kumiko Kajiyama, Hydrometallurgy,87,133-139(2007)
【非特許文献3】T.Sakaguchi, A.Nakajima; Separation Science and Technology, 29巻2号、p.205-221(1994)
【非特許文献4】山口東彦、井浦良徳、樋口光雄、坂田功;木材学会誌、37巻9号、p.815-820(1991)
【非特許文献5】Y.Nakano, K.Takeshita, T.Tsutsumi; Water Research, 35巻2号、p.496-500(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の貴金属回収方法は、球状セルロースイオン交換体を使用する場合のようにイオン交換法を用いる場合には、貴金属吸着後の脱離及び溶離が困難なために、吸着後にこれらを全て焼却して金属を回収することから、コストが非常に高く、さらに燃焼によって生じるタールやコーク状物質の後処理も手間がかかるという課題がある。また、従来の貴金属回収方法は、ジアルキルスルフィド抽出液を使用する場合のように溶媒抽出法を用いる場合には、高価で有害な有機溶媒を使用することから、コスト、環境負荷および作業リスクが高いという課題がある。
また、ポリフェノールを使用した金属吸着では、金属吸着後の金属分離処理および使用済みのポリフェノールの後処理に手間を要するという課題がある。
【0009】
本発明の目的は、貴金属回収等に利用されるフェノール性水酸基を含有する新規のポリマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かくして、本発明に従えば、上記課題を解決するものとして、下記の一般式(I)で表
されるポリマー、その製造方法及び貴金属回収方法が提供される。
さらに、本発明に従えば、上記ポリマーを金属吸着材として、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)等をはじめとする各種の貴金属を吸着して回収する貴金属回収方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の金を回収する貴金属回収方法を示す説明図
【図2】本発明のチラミン重合体の溶解度に関する実験結果
【図3】本発明のチラミン重合体の収率に関する実験結果
【図4】本発明のチラミン重合体の反応時間に対する金属還元量の実験結果
【図5】本発明のチラミン重合体の貴金属回収およびその結果
【図6】本発明のチラミン重合体の吸着率および繰り返し実験に関する実験結果
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のポリマーは、次の一般式(I)の繰り返し単位から成るものとして表すことが
できる。
【0013】
【化1】

【0014】
また、上記式(I)中、R1は、低級アルキル基、低級アルコキシ基または水酸基によ
り置換されていてもよいアリール基を表し、R2は、末端炭素原子に低級アルキル基により置換されていてもよいアミノ基またはカルボキシ基が付加したアルキル基を表し、Xは、水酸基または水酸基から水素イオンが脱離した陰イオンを表す。
【0015】
ここで、アリール基とは、芳香族炭化水素から1つの水素原子が脱離した構造を表す。上記式(I)中、R1の構造は、環状炭化水素であれば特に限定されるものではない。し
かしながら、嵩高いアリール基を用いると、R2に対する予期しない反応、ポリマー合成の容易性、取り扱い易さ、価格などの観点から利点が少ない。
【0016】
このようなことから、該アリール基を構成する芳香環としては、一般に、5員環または6員環からなる芳香環が2つ以内から成るものが望ましい。また、それらのアリール基に置換されていてもよい置換基の低級アルキル基および低級アルコキシ基における「低級」とは、炭素数1〜6、好ましくは、炭素数1〜3を有するものを表す。
【0017】
これらの点からR1によって表される置換されていてもよいアリール基としては、好ましくは、次のものが挙げられる。(1)フェニル基、ナフチル基、チエニル基、ピリジン基、ビフェニル基、アンスラニル基等のアリール基;(2)トリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、3,6−ジメチルフェニル基、2,3,4−トリメチルフェニル基、2,3,5−トリメチルフェニル基、2,3,6−トリメチルフェニル基、2,4,5−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、3,4,5−トリメチルフェニル基、2−エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、シクロヘキシルフェニル基、オクチルフェニル基、2−メチル−1−ナフチル基、3−メチル−1−ナフチル基、4−メチル−1−ナフチル基、5−メチル−1−ナフチル基、6−メチル−1−ナフチル基、7−メチル−1−ナフチル基、8−メチル−1−ナフチル基、1−メチル−2−ナフチル基、3−メチル−2−ナフチル基、4−メチル−2−ナフチル基、5−メチル−2−ナフチル基、6−メチル−2−ナフチル基、7−メチル−2−ナフチル基、8−メチル−2−ナフチル基、2−エチル−1−ナフチル基等の低級アルキル基により置換されたアリール基;(3)3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2,3−ジメトキシフェニル基、2,4−ジメトキシフェニル基、2,5−ジメトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基、3,4−ジメトキシフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、3,6−ジメトキシフェニル基、2,3,4−トリメトキシフェニル基、2,3,5−トリメトキシフェニル基、2,3,6−トリメトキシフェニル基、2,4,5−トリメトキシフェニル基、2,4,6−トリメトキシフェニル基、3,4,5−トリメトキシフェニル基、2−エトキシフェニル基、プロポキシフェニル基、2−メトキシ−1−ナフチル基、3−メトキシ−1−ナフチル基、4−メトキシ−1−ナフチル基、5−メトキシ−1−ナフチル基、6−メトキシ−1−ナフチル基、7−メトキシ−1−ナフチル基、8−メトキシ−1−ナフチル基、1−メトキシ−2−ナフチル基、3−メトキシ−2−ナフチル基、4−メトキシ−2−ナフチル基、5−メトキシ−2−ナフチル基、6−メトキシ−2−ナフチル基、7−メトキシ−2−ナフチル基、8−メトキシ−2−ナフチル基、2−エトキシ−1−ナフチル基等の低級アルコキシ基により置換されたアリール基;(4)フェノール基、ナフトール基、クレゾール基等の水酸基により置換されたアリール基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
本発明のポリマーを金属吸着材として用いる点から好ましいR1は、フェニル基、トリル基、ナフチル基であり、特に好ましいのは、フェニル基およびトリル基であり、その中でもフェニル基が好ましい。
【0019】
なお、本発明のポリマーを表す上記一般式(I)において、R1で表されるアリール基
は、一般に、芳香環を構成する炭素原子に結合手を有し、該結合手を介して水酸基(ヒドロキシル基)に結合している。
【0020】
なお、本発明のポリマーを表す上記一般式(I)において、R2は、末端炭素原子にア
ミノ基またはカルボキシ基が付加したアルキル基を表す。
【0021】
該アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられるが、炭素数2〜10のものが好ましく、例えば、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等を好ましい例として挙げることができ、取り扱いの容易さから、より好ましくは、エチル基を挙げることができる。
【0022】
また、該アルキル基の末端炭素原子に付加した低級アルキル基により置換されていてもよいアミノ基の例としては、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基、t−ブチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ-n−プロピルアミノ基、ジ-iso−プロピルアミノ基などのアルキルアミノ基;シクロヘキシルアミノ基などのシクロアルキルアミノ基などが挙げられる。
【0023】
特に、上述したようなアミノ基の中で、構成する炭素数が3以下のアミノ基が、一般的な溶媒に対して溶け易く、ポリマー合成が容易であるという観点から好ましく、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基などを挙げることができ、このうちより好ましくは、アミノ基を挙げることができる。
また、該アルキル基の末端炭素原子に付加するアミノ基を代替して、カルボキシ基とすることもできる。
【0024】
上述したように、上記式(I)は、例えば、構成するモノマーが、3-エチルカテコー
ル、4-エチルカテコール、チラミンなどが好ましく、特にチラミンを好ましい例として挙げることができる。また、上記式(I)のポリマーは、重合度に関して、特に制約は無いが、好ましくは、5〜100であり、より好ましくは、10〜30である。また、該ポリマーの分子量は、特に制約は無いが、該ポリマーを金属吸着材として用いる点から、好ましくは、1000〜3000であり、より好ましくは、1600程度である。
【0025】
該ポリマーの分子量は、1000より小さい場合には、ポリマーの溶解性が増加して不溶化できず、また、3000より大きい場合には、ポリマーの溶解性が低下するとともに粘度も増加することから、共に金属吸着材として使用するのは困難である。
本発明のポリマーは、次の反応式(II)で表される反応を用いて、製造することができる。
【0026】
【化2】

【0027】
上記反応式中、R1、R2およびXは、式(I)に関連して既に詳述したものと同じである。
上記の反応式(II)で表されるように、式(IIa)で表されるフェノール性水酸基を含有するモノマーに過酸化水素を滴下し、還元触媒である西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)の存在下、常温常圧で反応させて、一般式(IIb)で表されるフェノール性水酸基を含有するポリマーを生成することができる。
【0028】
酵素重合を用いることにより、穏やかな条件下で有害なホルムアルデヒドを用いずにポリマーを重合できること、様々なフェノール誘導体の重合ができること、酵素の基質特異性を活かし官能基選択的な重合が可能となる。
【0029】
上記式(II)中、nは、ポリマーの重合度を表す自然数であり、特に制約は無いが、好ましくは、5〜100であり、より好ましくは、10〜30である。また、該ポリマーの分子量は、特に制約は無いが、該ポリマーを金属吸着材として用いる点から、好ましくは、1000〜3000であり、より好ましくは、1600程度である。
【0030】
該ポリマーの分子量は、1000より小さい場合には、ポリマーの溶解性が増加して不溶化できず、また、3000より大きい場合には、ポリマーの溶解性が低下するとともに粘度も増加することから、共に金属吸着材として使用するのは困難である。
【0031】
本発明のポリマーは、各種の目的に使用することができるが、特に金属吸着材として、各種の貴金属、例えば、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)等の吸着に使用することができ、貴金属を吸着して溶解した該ポリマーは、ポリマー溶液の溶液組成を調節することで、該ポリマーを不溶化することができるという特徴的な性質を有する。
(チラミン重合体の製造方法)
例えば、フェノール性水酸基を含有するポリマーであるチラミン重合体(ポリチラミン)は、還元触媒である西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)の存在下、チラミンに過酸化水素を滴下し、良溶媒のアセトンのもとで製造することができる。この製造は、例えば、次の式(III)で表すことができる。
【0032】
【化3】

【0033】
上記式(III)中、Xは、式(I)に関連して既に詳述したものと同じである。また、上記式(III)中、nは、チラミン重合体の重合度を表す自然数であり、特に制約は無いが、好ましくは、5〜100であり、より好ましくは、10〜30である。また、該チラミン重合体の分子量は、特に制約は無いが、該チラミン重合体を金属吸着材として用いる点から、好ましくは、1000〜3000であり、より好ましくは、1600程度である。
【0034】
該チラミン重合体の分子量は、1000より小さい場合には、チラミン重合体の溶解性が増加して不溶化できず、また、3000より大きい場合には、チラミン重合体の溶解性が低下するとともに粘度も増加することから、共に金属吸着材として使用するのは困難である。
【0035】
式(III)において、チラミンは一般式(IIIa)で表され、得られるチラミン重合体は一般式(IIIb)で表されている。また、反応条件としては、常圧下、常温で十分に反応を進行させることができる。
【0036】
このチラミン重合体の重合過程において、過酸化水素は、時間の経過に対して連続的に滴下されることが好ましい。これは、重合時間が増加するとチラミン重合体の収率が増加する傾向にあり、さらに、過酸化水素の滴下量が一定であっても、過酸化水素を加える回数が増加するにつれてチラミン重合体の収率が増加する傾向にあるためである。
【0037】
上記式(III)から理解されるように、本発明により得られるチラミン重合体は、フェノール性水酸基およびアミノ基を有するという構造的な特徴を有する。このように、本チラミン重合体は、フェノール性水酸基を有することから、金属イオンに対する還元作用を有するとともに、アミノ基を有することから、水溶性も有し、酸雰囲気に応じてイオン交換反応することができる。
【0038】
本発明者らは、このチラミン重合体を金属吸着材として用いて貴金属を還元し、チラミン重合体の溶解により貴金属の固体のみを回収し、さらに、酸雰囲気を調整することにより溶解したチラミン重合体を不溶化して再回収することで、金属吸着材の繰返し使用を可能とする新たな貴金属回収方法を見出した。
【0039】
(チラミン重合体を用いた貴金属回収方法)
チラミン重合体から成る金属吸着材を用いて、金を回収する貴金属回収方法を、図1に従い説明する。図1は、本発明の金を回収する貴金属回収方法を示す説明図である。
【0040】
まず、金がイオン状態となって溶解している金溶液と、チラミン重合体とを混合させる(S1)。この混合溶液を30 ℃の液温で振とうさせることで、金の還元が生じ、金イオンから固体の金が析出する(S2)。ここで、S1での金イオン濃度が高いほど、得られる金の還元量も増大する。
【0041】
次に、このS2の溶液に対して、濾過乾燥を行い、析出した金が吸着したチラミン重合体が固体として得られる(S3)。この固体を強酸性水溶液に溶解させることで、チラミン重合体を溶解し、還元した金を沈殿物とする水溶液を作成する(S4)。この水溶液のpHは、強酸性を示すものであり、好ましくはpH1〜3、より好ましくはpH1とする。この強酸性水溶液は、塩酸、硫酸等を使用して調製することができる。この強酸性水溶液により、チラミン重合体を十分に溶解させることができる。
【0042】
次に、S4で得られた溶液を濾過乾燥させることで、析出した金のみを回収することができる(S5)。この濾過乾燥により生じた濾液のpHを中性にすることで、チラミン重合体を不溶化(再固体化)する(S6)。このように不溶化したチラミン重合体を、遠心分離し、乾燥を行うことで、再度、固体状態のチラミン重合体を取り出す(S7)。
【0043】
このS7で取り出したチラミン重合体を再度、前記S1に使用する。このように、チラミン重合体の溶液pHを調節することにより、チラミン重合体の溶解および不溶化を繰り返し行えることとなり、チラミン重合体を繰り返し利用して金回収を行うことができる。本発明の金属吸着材は、金属を吸着した金属吸着材を焼却して金属を回収する方法や脱着後電気分解して金属を回収する方法のように高コストな従来の方法とは異なり、繰り返し使用を可能とすることで、貴金属回収におけるコストダウンおよび取り扱いの容易さを実現することができる。
【0044】
以上の記載から分かるように、本発明のポリマーは、その用途の好ましい例として、金属吸着材として、各種貴金属の回収に利用することができる。
なお、本発明のポリマーは、別の観点では、金の回収材料としてだけではなく、金以外の酸化還元電位の高い化合物の回収や変化、膜などの構造体に投入して酸濃度変化によって性状が変化する材料として利用することもできる。
【0045】
また、上記では、貴金属の対象として金に関して記載したが、金に限定されることはなく、例えば、白金、バナジウム等の他の貴金属も同様に回収することができる。
また、上記では、還元触媒として、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)を使用したが、これに限定されることはなく、例えば、一般的な酸化還元酵素を使用することもできる。また、上記の酵素以外でも、ホルムアルデヒド等を使用して実施する化学架橋反応を用いても、温度や圧力等の反応条件を変化させることにより、本発明と同様な性能を得ることができる。
【0046】
(チラミン重合体と溶液組成との相関)
チラミン重合体と溶液組成との相関を、図2により説明する。図2は、本発明のチラミン重合体の溶解度に関する実験結果である。
図2(a)は、攪拌時間24時間、温度30℃、樹脂量6mg、溶液量4mLにおけるチラミンおよびその重合体の溶解度と濃塩酸濃度との相関を示している。また、同図(b)は、攪拌時間24時間、温度30℃、樹脂量6mg、溶液量4mLにおけるチラミンおよびその重合体の溶解度と溶液pHとの相関を示している。
これらの結果から、チラミン重合体は、溶液pHが1〜3の範囲で、溶液に対して、高い溶解度を示すことが理解される。また、チラミン重合体は、溶液pHが中性付近の5〜10の範囲で、溶液に溶解しないことが理解される。
【0047】
(チラミン重合体の溶解性と塩化物濃度との相関)
チラミン重合体が溶解している溶液の塩化物濃度は、好ましくは、0〜1.5Mであり、より好ましくは、0.3〜1.0Mである。
図2(c)は、チラミン重合体が溶解するpH1において、攪拌時間24時間、温度303Kで塩化物濃度を変化させてチラミン重合体の溶解性を調べた結果である。この結果から、塩化物濃度が増加するにつれて溶解性は増加し、やがて低下する結果となった。また、上記の塩化物濃度であれば、該溶解度が100%近傍を示して最大となることが理解される。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
(チラミン重合体の合成)
5mmolのチラミン溶液をアセトン/水溶液中(PBS 10mM, pH7.0)に溶解させ、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)3mgおよび過酸化水素溶液を投入して303Kで重合を開始した。
ここで、過酸化水素の投入量は、2時間ごとに0.3mLを12回滴下した。24時間経過後、得られた粗製物を、ろ過(Advantec 5C)によって回収しチラミン重合体が、黒色固体(収率 40%)として得られた。
【0049】
また、得られたチラミン重合体の分子量を測定したところ、12mer程度であり、分子量にして1600程度であった。分子量3000以上の場合には溶解性が低下し、粘度も増加するため、金属吸着材として使用するのは困難である。また、trimer程度の場合には、不溶化できないことから、金属吸着材として使用するのは困難である。
【0050】
なお、該測定には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー、移動相THF、検出器 UV Tosoh UV-8020、カラム G2000H(tosoh)+ HR3000(waters)を使用した。また、校正曲線には、ポリスチレンを使用した。
【0051】
ここで、過酸化水素の投入量は、2時間ごとに0.3mLを12回滴下したが、この滴下回数が多いほど好ましい。
ここで、図3は、本発明のチラミン重合体の収率に関する実験結果を示す。図3(a)は、この滴下に関して、1時間ごとに0.6mLを6回滴下した場合と、2時間ごとに0.3mLを12回滴下した場合を比較した結果であり、この結果から、開始から24時間経過後には、チラミン重合体の収率に2倍の差が表れている。
【0052】
また、上記の重合反応溶液におけるアセトンおよびPBS溶液の比率は、溶液中のアセトンの割合が50%より小さいことが好ましい。図3(b)は、反応溶液であるアセトンおよびPBS溶液の比率を変化させて、攪拌時間15時間、温度303K、チラミン5mmol、過酸化水素添加時間2時間の条件下で実施したポリチラミン重合のチラミン重合体の収率を示す。この結果から溶液中のアセトンの割合が50%より大きくなるとチラミン重合体の収率が急激に低下することが理解される。
【0053】
また、金イオンの濃度が高いほど、得られる金の還元量が高くなる。ここで、図4は、本発明のチラミン重合体の反応時間に対する金属還元量の実験結果を示す。同図(a)は、吸着の反応時間を24時間とした結果であり、同図(b)は、吸着の反応時間を48時間とした結果であり、共に金イオンの濃度と還元量を、濃塩酸濃度5M、温度303Kのもとで測定した結果である。この結果から、金イオンの濃度が高いほど、得られる金の還元量が高くなることが理解される。
(チラミン重合体による貴金属回収結果)
上記手順により合成されたチラミン重合体を使用し、金、パラジウム、白金、亜鉛、銅を含有する貴金属溶液に対して貴金属回収を行った。その結果を図5により説明する。図5は、本発明のチラミン重合体の貴金属回収およびその結果を示す。
【0054】
まず、金属がイオン状態となって溶解している塩酸濃度3.0Mの金属溶液(0.1 mM、10 mL)と、チラミン重合体(15 mg)とを混合させた。この混合溶液を303Kの液温で24時間振とうさせることで、固体の金属が析出した。次に、この溶液に対して、濾過(平均孔径 1.0 mm)して乾燥し、析出した金属が吸着したチラミン重合体が固体として得られた。
【0055】
この混合溶液を濾過乾燥し、貴金属が吸着したチラミン重合体を固体として得た。この固体の光学顕微鏡写真を図5(b1)に示す。この固体をpH1の濃塩酸溶液に溶解させたところ、チラミン重合体が溶解し、貴金属が沈殿した水溶液を得た(図5(a1))。
【0056】
この得られた水溶液を濾過乾燥させ、析出した固体である貴金属計算2.26 mgを回収した。この固体の光学顕微鏡写真を図5(b2)に示す。この濾過乾燥により生じた濾液のpHを7とすることで、チラミン重合体を不溶化した(図5(a2))。このように不溶化したチラミン重合体を含む溶液を、すぐさま、静置した(図5(a3))。この後、この溶液を遠心分離した後、真空乾燥を行い、再度、固体状態のチラミン重合体14 mgを取り出した(図5(a4))。
【0057】
このようにして金属吸着材に吸着した貴金属のXRD測定結果を図5(c)に示す。この結果から、金由来のピークが確認された。
また、吸着等温線の結果を図5(d)に示す。同図は、横軸に平衡後の金属濃度、縦軸に吸着量を示している。この結果より、吸着量は金1.89 mol/kg、白金0.76 mol/kg、パラジウム0.59 mol/kgであった。このように本発明の金属吸着材は、特に金に対してきわめて優れた吸着能を有している。
【0058】
また、金属吸着材に吸着した貴金属の塩酸濃度に応じた吸着率を図6(a)に示す。この吸着率の測定には、原子発光分光光度計(株式会社島津製作所製 ICP- 8100)および原子吸光分光光度計(株式会社島津製作所製 AAS- 6650)を使用した。この結果から、金イオンは、特に高い吸着率を示している。
【0059】
(金属吸着材の繰り返し実験結果)
また、上記手順により合成されたチラミン重合体を使用して、金を含有する貴金属溶液に対して吸着実験を繰り返し行った。
まず、チラミン重合体および塩酸濃度3.0Mの10mM金溶液が2:1の配合割合となるように調整し、303Kで24時間攪拌した。チラミン重合体および還元した金の沈殿物を濾過し真空乾燥した。その後、チラミン重合体および還元した金の混合物を0.1M塩酸溶液30mLと混合し、チラミン重合体を溶解した。還元した金の沈殿物を濾過(濾紙平均孔径0.45mm)により回収した。溶解したチラミン重合体の溶液をpH7.0に調整すると再びチラミン重合体の沈殿が得られた。得られたチラミン重合体の沈殿物を濾過し、真空乾燥後、繰り返し、得られたチラミン重合体および塩酸濃度3.0Mの10mM金溶液が2:1の割合になるように調整し、303Kで24時間攪拌した。この操作を3回行った。
【0060】
この金属吸着材の繰り返し実験結果を、図6(b)に示す。同図(b)は、本発明のチラミン重合体の繰り返し実験に関する実験結果であり、この3回の各回における金イオンの吸着結果を示している。同図(b)に示すように、繰り返して金属吸着材を使用した場合でも、金属の吸着能は落ちることなく一定を維持した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(I)の繰り返し単位から成ることを特徴とするポリマー。
【化1】

(式中、R1は、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基または水酸基により置換されていてもよいアリール基であり、R2は、末端炭素原子に低級アルキル基により置換されていてもよいアミノ基またはカルボキシ基が付加したアルキル基であり、Xは、水酸基または水酸基から水素イオンが脱離した陰イオンである。)
【請求項2】
前記R2が、炭素数2〜10のアルキル基であることを特徴とする請求項1記載のポリマー。
【請求項3】
次の一般式(II)で表されるモノマーを、過酸化水素と還元触媒とを使用して重合し、請求項1または請求項2記載のポリマーを製造することを特徴とするポリマー製造方法。
【化2】

【請求項4】
前記還元触媒が、西洋わさびペルオキシダーゼであることを特徴とする請求項3記載のポリマー製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のポリマーから成ることを特徴とする金属吸着材。
【請求項6】
請求項5に記載の金属吸着材を、貴金属イオン溶液に溶解し、当該溶解により形成される前記ポリマーから成るポリマー溶液の溶液組成を調節し、当該調節により貴金属イオンを還元することを特徴とする貴金属回収方法。
【請求項7】
前記ポリマー溶液の溶液組成を調節し、当該調節により前記ポリマーを不溶化することを特徴とする請求項6記載の貴金属回収方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−178853(P2011−178853A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43124(P2010−43124)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年10月9日 日本イオン交換学会発行の「日本イオン交換学会年会 第25回日本イオン交換研究発表会 講演要旨集」に発表
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】