説明

ポリマーの製造方法及びポリマーの製造装置

【課題】ポリ乳酸等のポリマーを高収率で安定的に得ることができる製造方法または製造装置を提供する。
【解決手段】原料であるヒドロキシカルボン酸を濃縮する工程と、この濃縮物を縮合して得られた縮合物の溶融物を触媒と接触させて開重合させ環状二量体に変換する工程と、この環状二量体を開環重合する工程とを備えたポリマーの製造方法であって、前記濃縮工程において、発生した蒸気を水分または水蒸気を選択的に透過させるフィルターを解して水分または水蒸気とヒドロキシカルボン酸及びその縮合物を含む蒸気とに分離して、この分離されたヒドロキシカルボン酸及びその縮合物を濃縮工程に戻す工程を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料を反応させて重合してポリマーを合成する製造方法または製造装置に係り、特に、ヒドロキシカルボン酸を成分として含み熔融状態の原料を反応させて重合してポリマーを合成する製造方法または製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記ヒドロキシカルボン酸を成分として含む原材料を合成して生成されるポリエステルの一つに、乳酸を原材料とするポリ乳酸がある。この乳酸からポリ乳酸を合成する方法として、乳酸を濃縮及び縮合して低重合度,低粘度のオリゴマーを生成したのち、このオリゴマーに2−エチルヘキサン酸スズ,酸化アンチモン等の触媒を添加し減圧環境下で解重合反応を起こすことによって環状縮合物であるラクチド(乳酸の二量体)を生成させ、ラクチドにオクチル酸スズ等の触媒を添加して開環重合する方法が知られている。ここで、乳酸に替えてグリコール酸,ラクチドに替えてグリコリドを用いた場合には、ポリグリコール酸の重合方法となる。
【0003】
原料である乳酸およびグリコール酸は、通常10〜30%程度の水分を含有しているため、縮合してオリゴマーを合成するには、事前に濃縮する必要がある。濃縮は水分濃度が10%以下、望ましくは5%以下、さらに望ましくは2%以下となるまで行われる。濃縮は、例えば、反応槽の内部で常圧の不活性ガス雰囲気下において加熱することにより、水分を蒸発させる。蒸発した水分を含む排気ガスは凝縮器で液化して気相から除去された後、排気装置から装置外に排出される。この際、濃縮の工程を常圧環境下で実施することによりヒドロキシカルボン酸またはその縮合物が蒸発することを低減している。
【0004】
しかしながら、このような技術では、これら蒸発した縮合物の一部は水蒸気と同伴して反応槽から排出されるため、原料収率が低下してしまうという問題があった。さらに、ヒドロキシカルボン酸やその縮合物が反応槽から排出されると、凝縮器や排気装置を腐食させる等の悪影響を与えてしまう、あるいはヒドロキシカルボン酸やその縮合物が上記機器の内表面に付着して固化してこれらの機器内の通路や配管を閉塞させてしまうという問題が生じていた。
【0005】
このような課題を解決する従来の技術として、特開平7−102044号公報(特許文献1)に開示のものが知られていた。この従来技術は、2−ヒドロキシカルボン酸を濃縮させる技術であって、水分を選択的に留縮する分縮器を取り付けた反応器を備えたものである。特に、濃縮させる反応槽と蒸気を凝縮する凝縮器との間に水分を分離するためのカラムを内装した環流器を備え、このカラムを透過し切らなかった成分を乳酸及びその縮合物として反応槽に戻すとともに、カラムを透過した成分を水蒸気として凝縮器に送る構成を備えている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−102044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術の構成では、原理的に分縮用のカラムの透過速度を利用して速度の遅い成分を徐々に分離するものであり、完全に水分を分離しようとすると環流させる乳酸に混入する水分が多くなってしまうという問題があった。このため、実際に運転する場合には、一部の乳酸およびその縮合物は分離されずに凝縮器や排気装置等の後流側の機器に到達して腐食や閉塞等上記の問題を生起させていたという問題点については、上記従来技術は考慮していなかった。
【0008】
このため、水蒸気と乳酸及びその縮合物とをより確実に分離して、分離される乳酸、その縮合物に水分が混入することを抑制する技術が望まれていた。本発明の目的は、溶融状態の原料を反応させて重合させポリエステル等のポリマーを合成する方法または装置であって、高品質のポリマーを高収率で安定的に合成する方法または装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記課題を解決する上で、水蒸気を乳酸及びその縮合物から、より高純度で分離し、かつ分離された乳酸及びその縮合物への水分の混入を抑制するために、水蒸気を選択的に透過し乳酸及びその縮合物を透過させないフィルターを備えて、透過しなかった成分を凝縮して反応槽に戻すことが有効であるという知見を得た。そして、このような構成によりポリ乳酸を高収率で合成できるという知見を得て、本発明を想到した。
【0010】
具体的には、上記目的は、原料であるヒドロキシカルボン酸を濃縮し縮合させ、得られた縮合物の溶融物を触媒と接触させることにより生起させる解重合により環状二量体に変換し、これを開環重合することによりポリマーを製造する方法であって、上記濃縮するステップにおいて発生する蒸気を水分または水蒸気を選択的に透過させるフィルターを介して水分または水蒸気とヒドロキシカルボン酸及びその縮合物を含む上記に分離して、分離したヒドロキシカルボン酸及びその縮合物を上記濃縮するステップまたはヒドロキシカルボン酸の貯留タンクに戻すステップを備えたポリマーの製造方法により、達成される。
【0011】
また、原料であるヒドロキシカルボン酸を反応槽に供給して反応させて濃縮させる反応槽と、この反応槽内で得られた縮合物の溶融物を触媒と接触させることにより生起させる解重合により環状二量体に変換し、これを開環重合することによりポリマーを製造する装置であって、上記反応槽に接続され発生する蒸気が供給されこの蒸気内の水分または水蒸気を選択的に透過させるフィルターを有して水分または水蒸気とヒドロキシカルボン酸及びその縮合物を含む上記に分離する分離装置と、この分離装置の後段で連結されて配置され分離された水分または水蒸気を凝縮させる凝縮器と、前記分離装置で分離されたヒドロキシカルボン酸及びその縮合物が上記反応槽またはヒドロキシカルボン酸の貯留タンクに戻される戻り経路とを備えたポリマーの製造装置により達成される。
【0012】
さらには、水分または水蒸気を選択的に透過させるフィルターが、ゼオライト,ポリビニルアルコール,ポリイミドの少なくとも1つを含む素材で構成されたことにより達成される。
【0013】
さらにまた、ヒドロキシカルボン酸が乳酸またはグリコール酸であることにより達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ポリエステル等のポリマーを高収率で安定して製造する方法または製造する装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0016】
本発明の実施の形態に係るポリマーの製造方法または製造装置は、開環重合反応によりポリマーを製造する場合に好適に用いられる。開環重合による反応によって生成されるポリマーは、環式縮合物のポリマー減少、特に環式二量体の開環重合の反応によって合成されるポリマー、特にポリエステルの製造に好適に用いられる。このようなポリエステルとしては、例えば、ポリ乳酸,乳酸を主成分とする共重合体等、ヒドロキシカルボン酸のホモポリマー、これらを含む共重合体が挙げられる。
【0017】
また、本発明の実施の形態に係るポリマーの製造方法または製造装置は、ラクチドの開環重合によるポリ乳酸,グリコリドの開環重合によるポリグリコール酸の合成,製造に特に好適に用いられる。ここで、ポリ乳酸の原料として使用されるラクチドは、乳酸2分子から水2分子を脱水することにより生じる環式エステル(以下、環状二量体)を意味し、一方、ポリ乳酸は乳酸を主成分とする重合体を意味し、ポリL−乳酸ホモポリマー,ポリD−乳酸ホモポリマー,ポリL/D−乳酸共重合物、これらのポリ乳酸に他のエステル結合形成性成分、例えば、ヒドロキシカルボン酸,ラクトン類,ジカルボン酸とジオール等を共重合した共重合ポリ乳酸及びそれらに副次成分として添加物を混合したものを包含する。
【0018】
また、グリコリドはグリコール酸2分子から水2分子を脱水することにより生じる環式エステルを意味し、ポリグリコール酸は、グリコール酸を主成分とする重合体を意味し、他のエステル結合形成成分、例えば、ヒドロキシカルボン酸,ラクトン類,ジカルボン酸とジオール等を共重合した共重合ポリグリコール酸及びそれらに副次成分として添加物を混合したものを包含する。
【0019】
乳酸,グリコール酸以外のヒドロキシカルボン酸の例としては、ヒドロキシブチカルボン酸,ヒドロキシ安息香酸等、ラクトンの例としては、ブチラクトン,カプロラクトン等、ジカルボン酸の例としては、炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸,フタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸,ハフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、ジオールの例としては、炭素数2〜20の脂肪族ジオールが挙げられる。ポリエチレングリコール,ポリプロピレンブリコール,ポリブチレンエーテル等ポリアルキレンエーテルのオリゴマー及びポリマーも共重合成分として用いられる。同様に、ポリアルキレンカーボネートのオリゴマー及びポリマーも共重合成分として用いられる。
【0020】
添加物の例としては、酸化防止剤,安定剤,紫外線吸収剤,顔料,着色剤,無機粒子,各種フィラー,離型剤,可塑剤、その他類似のものが挙げられる。これらの共重合成分及び添加剤の添加率は任意であるが、主成分は乳酸または乳酸由来のもので共重合成及び添加剤は50重量%以下、特に30%以下とすることが好ましい。
【0021】
さらに、本発明の実施の形態に係るポリマーの製造方法または製造装置は、原料となるモノマーを中間原料である環状二量体にする工程において原料を濃縮する構成を備え、この濃縮工程は液状である原料をバッチ式または連続的に供給し加熱することにより原料に含まれる水分の蒸発を行う工程を含む。また、原料とは、重合するポリマーの骨格構成要素であるモノマーを含む。ポリ乳酸を製造する場合には、乳酸、ポリグリコール酸を製造する場合には、グリコール酸を含む。本発明の実施の形態では、原料の縮合物は、原料分子自体が縮合反応により、複数個が直鎖状にエステル結合した低分子量ポリマーの集合体となる。また、本発明の実施の形態での濃縮物には、原料の他、一部縮合物が含まれる。
【0022】
また、本発明の実施の形態において、連続的な合成は、当技術分野において通常用いられる範囲内に該当し、原料等の供給と生成物や反応液等の排出を行う時間が少なくとも一部重なる場合や、原料等の供給を連続的に行い生成物や反応液等を連続的に排出する場合を含む。
【0023】
図1を用いて、本発明のポリマーを合成し製造する方法の実施の形態を説明する。図1は、本発明のポリマーを製造する方法の工程の流れの概略を示す流れ図である。この図は、例えば、乳酸を濃縮してポリ乳酸を製造する場合の工程の流れを含んでいる。
【0024】
この図において、本実施の形態に係るポリマーの製造方法は、原料であるモノマーの濃縮工程101,濃縮物の縮合工程104,オリゴマーの解重合工程105,解重合工程
105から得られた環状縮合物の精製工程106,精製工程106の精製物の開環重合工程107,残存モノマーの処理工程108及びポリマーの乾燥工程109を備えている。これらの工程は、ポリマーの性状,プロセスの必要性に応じて省略されたり、これら工程同士の間に他の工程が追加されても良い。また、残存モノマーの処理工程108では、減圧環境下におけるモノマーの脱離・除去,融点以下の温度における固相重合等の処理のうちの少なくとも1つが行われる。
【0025】
この実施の形態の濃縮工程101は、原料のモノマーとして乳酸が用いられ、さらに、反応槽等の密閉または略密閉の容器内での濃縮の反応を行う濃縮反応工程102と、この濃縮の反応により生じた水分,水蒸気を分離する水分分離工程103を備えている。この水分分離工程103は、水分(水蒸気)lと乳酸とを分離する手段としての水分または水蒸気を透過させるフィルターが用いられる。特に、本実施の形態では、このようなフィルターとしてはゼオライト複合膜が用いられる。ゼイライト複合膜は、例えば、中空のチューブ状に成形された多孔質セラミクスの表面にゼオライトを水熱処理により膜状に固定されたものである。さらに、このチューブは内が陰圧になっており、外側における雰囲気圧よりも内側が低い気圧にされている。すなわち、チューブの外側よりも内側の中空部の圧力が低い構成を備えている。
【0026】
乳酸を濃縮するための工程である濃縮工程101では、乳酸が反応槽の外周側にこれを囲んで配置された加熱手段により加熱されて、乳酸と水分とを含む混合蒸気が発生する。発生した混合蒸気は反応槽の外側に排気用の配管を有する排気系統を介して排出される。この混合蒸気が排気系統の配管内を通って上記水分分離工程103のフィルターに到達して、水分を含む蒸気はチューブ状のフィルターの外側に到達する。この際、親水性の差異から水蒸気がゼオライト複合膜の表面層に吸着する。吸着した水蒸気はフィルター内外の圧力差により低圧の内側へ取り込まれて中空部側へ移動する。
【0027】
混合蒸気のうちの水蒸気(水分)が多孔質のセラミクス層に到達すると、それら孔を通りチューブ内の中空部である空洞に到達し、中空部を通ってフィルター外部へ排出される。フィルターをでた水蒸気は、その後流側に配置された凝縮器を備える凝縮工程110において凝縮され液相となることで、気相から除去される。凝縮された水分は別途排気系外に排出される。
【0028】
一方、乳酸の蒸気はフィルターを透過できずフィルターから排出され凝縮器111により凝縮されて液相に戻された後、配管から構成される所定の経路を通り濃縮反応工程102を行う反応槽に戻される。反応槽に戻された乳酸は、槽内に在る乳酸よりも濃度が高くなっていることから、これと混合されることで槽内の乳酸の濃度が向上する。凝縮器111には、間接的な熱交換の他、冷媒として不活性ガス等を用いた直接的な熱交換、あるいは乳酸自体を熱交換媒体として用いた熱交換等を行えるように構成可能である。
【0029】
このようにして、徐々に濃縮反応工程102を行う反応槽内の乳酸の濃度が増大し、濃縮工程101の後における乳酸中に残存した水分の濃度は5%以下、好ましくは2%以下となるまで原料のモノマーである乳酸が濃縮される。このように濃縮された乳酸が次の縮合工程104に供給される。
【0030】
次に、上記実施の形態のポリマーの製造装置を、図2を用いてより詳細に説明する。
【実施例1】
【0031】
図2に、本発明のポリマーの製造装置の実施例に係る濃縮工程を含む構成の概略を示す。この図において、原料のモノマーとして乳酸を用い、水蒸気(水分)を分離するフィルターとして上記ゼオライト複合膜を用いたバッチ式のポリマーの製造装置の反応槽を中心とする濃縮工程101を行う部分を拡大して示している。
【0032】
本実施例では、濃縮する反応である濃縮反応工程101が行われる乳酸濃縮槽2と、これに配管等で連結され乳酸濃縮槽2に供給される乳酸が貯留される乳酸供給槽1,乳酸濃縮槽2内に発生した水分を含む蒸気が供給される水分分離工程103を行う水蒸気透過フィルター3、この水蒸気透過フィルター3により分離され抽出された乳酸及び水分(水蒸気)を各々凝縮して液相にする回収乳酸凝縮器4,水蒸気凝縮器5を備えている。水蒸気透過フィルター3は、内部が陰圧、すなわちフィルター外側の気圧より内側の圧力を低くされ、このために水蒸気透過フィルター3の中空部に連通してこの中空部に取り出された水分を水蒸気凝縮器5を介して排出するための配管を含む排出経路上の水蒸気凝縮器5の後流側には真空ポンプ6が配置されている。この真空ポンプ6の動作により、外側より低圧にされた水蒸気透過フィルター3の中空部から排出経路を通り系外に液化された水分が排出される。
【0033】
また、乳酸供給槽1と乳酸濃縮槽2との間を連結する供給経路上には、乳酸供給槽1内の乳酸を乳酸濃縮槽2内に送出する送液ポンプ7が配置され、供給経路上の送液ポンプ7と乳酸濃縮槽2との間には送出される液状の原料の量を調節し供給経路を開放,閉塞するバルブ12が配置される。乳酸濃縮槽2で濃縮された乳酸は配管22を有する排出経路を通り排出されて次の縮合工程104が施される。排出経路上には、濃縮された乳酸を送出するための送液ポンプ8とこの送液ポンプ8と乳酸濃縮槽2との間に排出経路上を送出される乳酸の量を調節し経路を開放,閉塞するバルブ13が配置されている。また、不活性ガス,混合蒸気,水蒸気の移送経路上にもこれら経路内を移送されるガス,蒸気の量を調節し、開放,閉塞するバルブ9,10,11,14が配置されている。
【0034】
さらに、本実施例では、反応槽である乳酸濃縮槽2内を陰圧、すなわち、反応槽外部より低圧にすることで、濃縮された乳酸の縮合を行えるようにすることもできる。さらにまた、乳酸を含めた他のヒドロキシカルボン酸の連続及びバッチ式濃縮を行うことができる。あるいは縮合を行えるようにすることもできる。
【0035】
まず、バルブ9,10,11が開放され、乳酸濃縮槽2に窒素等の不活性ガスが供給される。次に、バルブ9を閉じた後、バルブ12を開放して送液ポンプ7を動作させて所定量の原料のモノマーである溶融状態の乳酸を乳酸供給槽1から乳酸濃縮槽2に供給する。乳酸濃縮槽2には液面計15が取り付けられ、前記所定の量の乳酸の供給により乳酸濃縮槽2内の液面が予め定められた高さとなり槽内の原料の量が反応に適正な値の範囲にあることが検知された後、バルブ10,12が閉塞されて送液ポンプ7が停止される。本実施の例では、原料の乳酸についてその濃度を90%程度としているが、これ以下であっても良い。次に、バルブ14を開放し真空ポンプ6を動作させて水蒸気透過フィルター3内側及びその後流側が陰圧にされる。
【0036】
さらに、乳酸濃縮槽2には温度計16,加熱装置17が取り付けられて配置され、原料である液状の乳酸を所定の温度まで加熱した後、この温度が所定の時間維持される。このため、図示しない制御装置が配置され、この制御装置は温度計16の検知結果を受信してこの信号に基づいて加熱装置の運転を調節して前記所定の温度を維持している。また、この制御装置は、上記バルブ9〜14及び真空ポンプ6,送液ポンプ7,8や乳酸供給槽1,乳酸濃縮槽2内の撹拌動作を調節するための指令信号を発信してこれらの動作を調節する。本実施例の温度計16は、乳酸濃縮槽2内の液状の乳酸の液内の液面近傍及び下部または中間部の温度を検知している。また、加熱装置は、液内に浸るような位置に配置された通電される抵抗線やヒートポンプ等の発熱装置を反応槽の内壁面に沿ってコイル状に巻かれて配置されている。
【0037】
本実施例では、例えば、原料の乳酸の濃度が90%程度の場合には、乳酸濃縮槽2は温度120℃で加熱時間は6時間の間維持される。温度が135℃である場合には2時間程度、150℃の場合には1.5 時間維持される。加熱中は所定の撹拌装置により乳酸が撹拌される。
【0038】
乳酸の加熱に伴って、水蒸気と乳酸及び乳酸の縮合物が混合している混合蒸気が発生する。この混合蒸気は配管18,19を有する排出経路から乳酸濃縮槽2から排出される。その際、乳酸濃縮槽2から排出された混合蒸気が通る配管18は、内部での混合蒸気内の成分の凝縮および固着を抑制するため、所定の温度、例えば100〜115℃に加熱されていることが望ましい。混合蒸気は、このような配管18を通り所定の温度(例えば、
110〜130℃)に加熱された水蒸気透過フィルター3に到達する。混合蒸気内の水蒸気は水蒸気透過フィルター3を透過して内部に到達し、配管19内を通り後段に配置された水蒸気凝縮器5において凝縮されて液化される。その際、配管19は水蒸気の凝縮を抑制するため所定の温度、例えば100〜150℃)に加熱されていることが望ましい。水蒸気凝縮器5を通過した排ガスは真空ポンプ6により系外に排出される。
【0039】
一方、乳酸及び乳酸縮合物の混合蒸気は水蒸気透過フィルター3を透過できないため、回収乳酸凝縮器4が配置された配管20を備える回収経路内を移動して、回収乳酸凝縮器4において凝縮される。この際、配管20は内部での混合蒸気内の成分の凝縮,固着を防止するため(例えば100〜150℃)に加熱されていることが望ましい。回収乳酸凝縮器4で凝縮された乳酸は、水分濃度が低下しており、これが回収経路の配管21を介して乳酸濃縮槽2に戻されて内部の乳酸と混合されることにより、槽内の乳酸の濃度が上昇する。その際、配管21は乳酸の粘度を低下させるため所定の温度(例えば、40〜150℃)に加熱されることが望ましい。
【0040】
乳酸濃縮槽2での濃縮が終了した後、バルブ11が閉塞され、バルブ13が開放されて、送液ポンプ8が駆動されて、濃縮された乳酸が乳酸濃縮槽2から排出経路を通り排出される。濃縮された乳酸は粘度が上昇しているため、この乳酸が流れる配管22は所定の温度に加熱されて乳酸の配管22内の滞留,固着が抑制される。濃縮された乳酸は、その後、縮合工程104,解重合工程105,精製工程106を経てラクチドにされ、これを開環重合工程107,残存モノマー除去工程108(または固相重合工程、及びこれらの組み合わせ),乾燥工程109を経てポリ乳酸に合成される。
【0041】
上記の実施例で示した構成により、原料の乳酸の濃縮を行った。この際、原料の乳酸の濃度は90%であった。加熱温度が120℃であれば加熱時間は6時間、135℃であれば2時間、150℃の場合は1.5 時間の濃縮を行うことで、いずれの場合も重量濃度
98%の濃縮された乳酸を得ることができた。また、水蒸気透過フィルター3の後段側に到達した乳酸は凝縮された液水に対して3〜5%の重量であった。
【0042】
また、上記実施例と同じ濃度,組成の乳酸を用いて、従来の技術の環流によるバッチ式の乳酸の濃縮を行った。反応槽内の乳酸の加熱温度,時間の条件を上記実施例と同等にすることで、濃度98%の乳酸を得ることができたが、凝縮された液水中の乳酸は凝縮された液水の重量に対して15〜20%の重量となった。この結果、上記実施例に対して、5倍程度の乳酸がロスして、水蒸気の凝縮系,排気経路の機器に乳酸が到達することが分かった。
【0043】
以上の通り、上記実施の形態,実施例によれば、原料となる乳酸のロスを低減して、水蒸気の排出経路に混入して排出される乳酸を低減して、ポリ乳酸等のポリマーを高収率で安定的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のポリマーを製造する方法の工程の流れの概略を示す流れ図である。
【図2】本発明のポリマーの製造装置の実施例に係る濃縮工程を含む構成の概略を示す模式図である。
【符号の説明】
【0045】
1…乳酸供給槽、2…乳酸濃縮槽、3…水蒸気透過フィルター、4…回収乳酸凝縮器、5…水蒸気凝縮器、6…真空ポンプ、7,8…送液ポンプ、9,10,11,12,13,14…バルブ、15…液面計、16…温度計、17…加熱装置、18,19,20,
21,22…配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料であるヒドロキシカルボン酸を濃縮する工程と、この濃縮物を縮合して得られた縮合物の溶融物を触媒と接触させて開重合させ環状二量体に変換する工程と、この環状二量体を開環重合する工程とを備えたポリマーの製造方法であって、
前記濃縮工程において、発生した蒸気を水分または水蒸気を選択的に透過させるフィルターを解して水分または水蒸気とヒドロキシカルボン酸及びその縮合物を含む蒸気とに分離して、この分離されたヒドロキシカルボン酸及びその縮合物を濃縮工程に戻す工程を備えたポリマーの製造方法。
【請求項2】
原料であるヒドロシキカルボン酸が貯留される貯留槽と、この貯留槽内の前記ヒドロキシカルボン酸がその内部に供給されて濃縮される反応槽と、この反応槽から供給された濃縮物を縮合して得られた縮合物の溶融物を触媒と接触させて開重合させ環状二量体に変換し、この環状二量体を開環重合してポリマーを得るポリマーの製造装置であって、
前記反応槽内に発生する蒸気をこの反応槽から排出する排出経路上に配置され前記蒸気内の水分または水蒸気を選択的に透過させ内部が減圧されたフィルターと、このフィルターの後流側に配置され前記透過した水分または水蒸気を凝縮させる凝縮器と、前記フィルターを透過しなかった前記蒸気内の成分が前記反応槽または前記貯留槽に戻される回収経路とを備えたポリマーの製造装置。
【請求項3】
前記水分または水蒸気を選択的に透過させるフィルターが、ゼオライト,ポリビニルアルコール,ポリイミドの少なくとも1つを含む部材から構成された請求項1に記載のポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記水分または水蒸気を選択的に透過させるフィルターが、ゼオライト,ポリビニルアルコール,ポリイミドの少なくとも1つを含む部材から構成された請求項2に記載のポリマーの製造装置。
【請求項5】
前記原料であるヒドロキシカルボン酸が、乳酸またはグリコール酸である請求項1または3に記載のポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記原料であるヒドロキシカルボン酸が、乳酸またはグリコール酸である請求項2または4に記載のポリマーの製造装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−308644(P2007−308644A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141006(P2006−141006)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】