説明

ポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョン及びセメント組成物

【課題】優れた下地追随性と適度な塗膜強度を有しながら塗膜伸度の温度依存性が比較的小さい、すなわち低温(−10〜5℃)においても高温(28℃〜60℃)においても優れた塗膜伸度を有するとともに、表面タックの少ないポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョンおよびセメント組成物を提供する。
【解決手段】ガラス転移温度が−9〜+5℃のエチレン−酢酸ビニル−多官能性単量体共重合体と乳化安定剤とを含むエマルジョンであって、エチレン:酢酸ビニル:多官能性単量体の質量比が、20〜30:80〜70:0.35〜0.8であり、且つ乳化安定剤としてポリビニルアルコールのみを含むポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョンおよび、該ポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョンとセメントとを必須成分とするセメント組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョンおよびセメント組成物に関する。さらに詳しくは下地追随性に優れ、塗膜の表面タックが少なく、適度な塗膜強度を有しながら塗膜伸度の温度依存性が比較的小さいポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョンおよびセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリルエマルジョンや酢酸ビニル系エマルジョン等の合成高分子エマルジョンを用いたポリマーセメント組成物を防水材として使用することが良く知られている。
しかし、これらのポリマーセメント組成物は、セメントの硬化に伴う収縮、又は、例えば、温度変化、凍結融解および下地の動き等の外的要因により、硬化後にクラックが入り易いという課題を有しており、このクラック発生は防水材としての性能が損なわれる主要因であるため、その改良が望まれていた。
【0003】
このため、ポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョンとして、たとえば、共重合体なガラス転移温度(Tg)が−15〜15℃のエチレン−酢酸ビニル系共重合体エマルジョンに、アルミナセメントを添加することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この場合、Tgが0℃より高い時は塗膜の低温伸度が悪く、逆にTgが0℃より低い場合は塗膜の高温伸度が悪く、塗膜伸度の温度依存性が大きくバランスが取れないという欠点があった。
【0004】
また、Tgが−30℃以下のエチレン−アクリル酸エステル−酢酸ビニル共重合体のポリビニルアルコール含水水性エマルジョンを用いることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、このエマルジョンは、低温時の塗膜伸びは優れるが、塗膜強度が低く塗膜の表面タックも強いという欠点があった。
【0005】
更に、Tgが−30〜−10℃のエチレン−酢酸ビニル−多官能性単量体共重合体エマルジョンに、ポリビニルアルコールとノニオン系界面活性剤からなる乳化剤を用いて得られるエマルジョンを用いることも提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、このエマルジョンは、低温での塗膜伸びは優れるが、高温での塗膜強度が不満足であった、さらに、ノニオン乳化剤を必須成分とするため、乳化剤の表面ブリードによる塗膜表面のタックが強いという欠点があった。
【特許文献1】特公平1−39713号公報
【特許文献2】特開平2−188459号公報
【特許文献3】特開2003−221267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上、述べたように、ポリマーセメント組成物を防水材として使用することはよく知られているが、従来のポリマーセメント組成物は、温度変化、凍結、融解や下地の動き、セメント組成物の硬化に伴う収縮などにより硬化後にクラックの発生や表面タックが発生するなどの課題がある。
本発明の目的は、これらの従来技術の課題を解決し、優れた下地追随性と適度な塗膜強度を有しながら塗膜伸度の温度依存性が比較的小さい、すなわち低温(−10〜5℃)においても高温(28℃〜60℃)においても優れた塗膜伸度を有するとともに、表面タックの少ないポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョンおよびセメント組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のガラス転移温度と組成とを有するエチレン−酢酸ビニル−多官能性単量体共重合体と、ポリビニルアルコールからなる乳化安定剤とを含むポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョンを用いることによって、上記課題を解決し、優れた性能を有する防水材が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は以下のポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョンおよびセメント組成物を提供するものである。
(1)、 ガラス転移温度が−9〜+5℃のエチレン−酢酸ビニル−多官能性単量体共重合体と乳化安定剤とを含むエマルジョンであって、エチレン:酢酸ビニル:多官能性単量体の質量比が、20〜30:80〜70:0.035〜0.8であり、且つ乳化安定剤としてポリビニルアルコールのみを含むことを特徴とするポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョン。
(2)、 エチレン−酢酸ビニル−多官能性単量体共重合体のガラス転移温度が−8〜0℃である(1)のポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョン。
(3)、 多官能性単量体がアクリレート系多官能性単量体及び/又はアリル系多官能性単量体である(1)又は(2)のポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョン。
(4)、 エチレン−酢酸ビニル−多官能性単量体共重合体100質量部当たり、ポリビニルアルコールを3〜10質量部の割合で含む請求項1〜3のいずれかに記載のポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョン。
(5)、 (1)〜(4)のいずれかに記載のポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョンとセメントとを必須成分とするセメント組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記のガラス転移温度と組成を有するエチレン−酢酸ビニル−多官能性単量体共重合体と、ポリビニルアルコールからなる乳化安定剤とを含むポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョンを用いることによって、下地追随性に優れ、塗膜の表面タックが少なく、適度な塗膜強度を有しながら塗膜伸度の温度依存性が比較的小さいポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョンおよびセメント組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、ポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョンとして、ガラス転移温度が−9〜+5℃のエチレン−酢酸ビニル−多官能性単量体共重合体を用いるものである。
当該共重合体で用いられる多官能性単量体としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、メタクリル酸ビニル、アクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、アジピン酸ビニル等を挙げることができ、アクリレート系多官能性単量体やアリル系多官能性単量体が好ましい。なお、多官能性単量体は、単独でも、二種以上を用いることもできる。
また、本発明においては、多官能性単量体の中でも、3官能性単量体を用いることが好ましい。特に3官能性単量体を用いることにより、下地追随性および低温時および高温時の強伸度がより優れたポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョンが得られる。
【0011】
本発明のポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョンは、エチレン−酢酸ビニル−多官能性単量体共重合体を必須成分とするものであるが、当該共重合体は(メタ)アクリル酸エステル、ビニルエステル等の単量体を、更に共重合させたものであってもよい。ここで、(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ノニルアクリレート等のアクリル酸エステル、メチルメタアクリレート、n−ブチルメタアクリレート、イソブチルメタアクリレート、2−エチルヘキシルメタアクリレート等のメタアクリル酸エステルが挙げられ、ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、酪酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどのアルキル酸ビニルエステル等が挙げられる。
これらのエチレン、酢酸ビニルおよび多官能性単量体以外の単量体は、全単量体中、
50質量%以下とすることが好ましい。
【0012】
本発明の共重合体におけるエチレン:酢酸ビニル:多官能性単量体の各成分の質量比は、20〜30:80〜70:0.035〜0.8であり、好ましくは22〜28:78〜72:0.1〜0.3である。エチレンの質量比を20以上とすることにより、エマルジョンの耐アルカリ性が得られ、30以下とすることにより、エマルジョン状態が安定し、分子量が低下しない。酢酸ビニルの質量比を70以上とすることにより、適度な強度が得られ、80以下とすることにより、適度な伸度が得られる。
多官能性単量体の質量比を0.035以上とすることにより充分な強度が得られ、0.8以下とすることにより、充分な伸度で、安定なエマルジョンが得られる。
【0013】
本発明において、エチレン−酢酸ビニル−多官能性単量体共重合体のガラス転移温度(Tg)は、−9〜+5℃の範囲、好ましくは−8〜0℃の範囲である。+5℃以下とすることにより低温での伸びおよび下地追随性が得られるようになり、−9℃以上とすることにより高温で充分な強度が得られる。
【0014】
本発明においては、塗膜防水材用エマルジョンの乳化剤に、ポリビニルアルコールを単独で用いる。乳化剤としてポリビニルアルコールを用いることにより、表面がべた付きを発生せずに、通常の乳化重合により製造することができる。ポリビニルアルコールは鹸化度88〜98、重合度500〜3000のものが好適に用いられる。なお、ポリビニルアルコールは、がカルボン酸、スルホン酸、シロキサン等の化合物で変性されたものを用いてもよい。また、二種以上のポリビニルアルコールの混合物を用いてエマルジョンの粘度を調整することができる。
ポリビニルアルコールからなる乳化剤の使用量は、エチレン−酢酸ビニル−多官能性単量体共重合体100質量部当たり、3〜8質量部が好ましく、4〜6質量部がさらに好ましい。3質量部以上とすることにより、エマルジョン状態が安定となり、8質量部以下とすることにより、適度な伸度が得られる。
【0015】
本発明の塗膜防水材用エマルジョンには、さらに必要に応じて、PH調整剤、増粘剤、消泡剤、分散剤、防腐剤などを含有することができる。PH調整剤としてはアンモニア水、2−アミノ、2−メチル、1−プロパノール等があるが、好ましくはセメント混和時の揮発性物質の放出のない2−アミノ、2−メチル、1−プロパノール等の不揮発性のアルカリ化剤を用いるのが好ましい。増粘剤としてはポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ウレタン系会合型、消泡剤としてはシリコン系、鉱物油系、分散剤としてはポリカルボン酸系、無機リン系などが挙げられる。
【0016】
塗膜防水材用エマルジョンの製造方法については特に制限はなく、乳化重合方法は公知の方法を使用することができる。また、重合条件にも特に制限はないが、一般的には重合温度は20〜80℃である。触媒としては、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、過酸化水素及び各種有機過酸化物が挙げられる。レドソックス開始系の場合は、さらに還元物質としてホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレートなどが組み合わせて用いられる。
【0017】
次に本発明のセメント組成物は、上記のポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョンとセメントとを必須成分とするものである。該組成物に用いられるセメントは水和反応で硬化するものであれば良い。セメントには普通ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、アルミナセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント等があるが、アルミナセメントが好適に用いられる。
セメントとエマルジョンの質量比はエマルジョン100質量部に対して、セメントが10〜200質量部が好ましく、70〜150質量部の範囲がより好ましい。
【0018】
本発明のセメント組成物には、砂、けい砂、シリカ、酸化チタンなどの骨材や、ガラス繊維、ビニロン繊維、鉱物繊維、金属繊維などの各種補強繊維、カルシウムアルミネート、凝結調整剤等を含有してもよい。
セメントは施工時にエマルジョンと混合しても良いし、予め本発明のエマルジョン以外の材料をセメントに混合しておいてから、施工時にエマルジョンと混合してもよい。混合機は傾胴ミキサー、Vミキサー、ヘンシェルミキサー等の公知の方法で行うことができる。
【実施例】
【0019】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
以下の実施例および比較例において得られたセメント組成物の性能評価を次のように行った。
(1)塗膜強度および塗膜伸度
平面上に置いた離型紙上にエマルジョンを塗布し、23℃で乾燥し、膜厚が1mmになるように塗膜を形成した。14日間養生後、塗膜を2号ダンベルで打ち抜き試験片とした。この試験片を、0℃、60℃および常温(23℃)の各雰囲気下に4時間放置後、同雰囲気下で引張速度200mm/min、チャック間距離60mmで塗膜強度および塗膜伸度を測定した。
(2)表面タック
上記の如くして作製した塗膜の表面のベタツキ(タック)を指触で確認した。
【0020】
実施例1
いかり型攪拌機を備えた内容量1.5リットルのステンレス型オートクレーブに、蒸留水45質量部、酢酸ビニル35質量部、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、「ポバール205」、けん化度88モル%、平均重合度500)1.1質量部、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、「ポバール217」けん化度88モル%、平均重合度1700)1.5質量部およびアスコルビン酸0.05質量部を仕込んだ。続いてオートクレーブ内の空気をエチレンで十分置換した。攪拌下、重合温度を60℃に、エチレン圧を5.0MPaに昇圧し、過酸化水素0.06質量部を8時間かけて均一に添加した。また、同時に6時間かけて酢酸ビニル15質量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート0.1質量部を均一に添加した。エチレン圧は酢酸ビニル添加後5.7MPaまで昇圧し、酢酸ビニル添加終了後まで5.7MPaを保った。過酸化水素の添加終了後に冷却して、消泡剤、防腐剤、防黴剤及びpH調整剤を添加し、エチレン−酢酸ビニル−ペンタエリスリトールトリアクリレート共重合体エマルジョンを得た。
得られたエマルジョンは共重合体中のエチレン含有量28質量%、不揮発分56質量%、粘度6000mPa・s、pH 5.0、ガラス転移温度(Tg)−5℃であった。このエマルジョン90部にアルミナセメント17.5部、ケイ砂7号52.5部、水10部を加え、ディスパーで混練してポリマーセメント系塗膜防水材としてのセメント組成物を調製した。得られたセメント組成物の塗膜を作製し、0〜60℃の雰囲気下においてセメント組成物の性能評価を行った。結果を第1表に示す。
【0021】
実施例2
エチレン−酢酸ビニル−ペンタエリスリトールトリアクリレート共重合体エマルジョン作製中にポリビニルアルコール「ポバール205」の量を2.0質量部に、「ポバール217」の量を0.5質量部に、過酸化水素の量を0.08質量部に各々変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
得られたエマルジョンはエチレン含有量30質量%、不揮発分56質量%、粘度800mPa・s、pH5.0、ガラス転移温度(Tg)−7℃であった。セメント組成物の評価結果を第1表に示す。
【0022】
実施例3
エチレン−酢酸ビニル−ペンタエリスリトールトリアクリレート共重合体エマルジョン作製中に過酸化水素の量を0.04質量部に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
得られたエマルジョンはエチレン含有量26質量%、不揮発分56質量%、粘度3200mPa・s、pH5.0、ガラス転移温度(Tg)0℃であった。セメント組成物の評価結果を第1表に示す。
【0023】
比較例1
エチレン圧を重合開始時に4.5MPaまで昇圧し、酢酸ビニル添加終了後まで4.5MPaを保った以外は、実施例1と同様に実施した。
得られたエマルジョンは共重合体中のエチレン含有量16質量%、不揮発分56質量%、粘度3000mPa・s、pH 5.0、ガラス転移温度(Tg)10℃であった。セメント組成物の性能評価結果を第1表に示す。
【0024】
比較例2
エチレン−酢酸ビニル−ペンタエリスリトールトリアクリレート共重合体エマルジョン作製中にペンタエリスリトールトリアクリレートを用いなかった以外は、実施例1と同様に実施した。
得られたエマルジョンは共重合体中のエチレン含有量28質量%、不揮発分56質量%、粘度3000mPa・s、pH 5.0、ガラス転移温度(Tg)−5℃であった。セメント組成物の性能評価結果を第1表に示す。
【0025】
比較例3
ペンタエリスリトールトリアクリレートの使用量を0.01質量部とした以外は、実施例1と同様に実施した。
得られたエマルジョンは共重合体中のエチレン含有量28質量%、不揮発分56質量%、粘度3000mPa・s、pH 5.0、ガラス転移温度(Tg)−5℃であった。セメント組成物の性能評価結果を第1表に示す。
【0026】
比較例4
ペンタエリスリトールトリアクリレートの使用量を0.5質量部とした以外は、実施例1と同様に実施した。
得られたエマルジョンは共重合体中のエチレン含有量28質量%、不揮発分56質量%、粘度8000mPa・s、pH 5.0、ガラス転移温度(Tg)−5℃であった。セメント組成物の性能評価結果を第1表に示す。
【0027】
比較例5
重合に用いる界面活性剤としてノニオン乳化剤(花王株式会社製、「エマルゲン1150S−70」)0.4質量部を併用した以外は、実施例1と同様に実施した。
得られたエマルジョンは共重合体中のエチレン含有量28質量%、不揮発分56質量%、粘度6000mPa・s、pH 5.0、ガラス転移温度(Tg)−6℃であった。セメント組成物の性能評価結果を第1表に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
第1表に示したように、本発明の実施例で得られたエマルジョンは、下地追随性があり適度な塗膜強度を有しながら塗膜伸度の温度依存性が比較的小さい、すなわち低温においても高温においても優れた塗膜伸度を有するとともに、表面タックの少ないポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョンおよびセメント組成物を提供することができる。
一方、比較例1ではガラス転移温度(Tg)が10℃と高く、低温時における下地追随性が悪い。比較例2では低温時における下地追随性はあるものの高温時の塗膜伸度が悪い。比較例3では少量の多官能性単量体を使用し、塗膜伸度が向上しているが高温(60℃)で充分ではない。比較例4では多量の多官能性単量体を使用しており、著しく塗膜伸度が低下している。比較例5では界面活性剤としてノニオン乳化剤を併用しており、充分な塗膜伸度が得られているものの、常温及び高温における塗膜強度が低く、且つ塗膜表面にタックを生じる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が−9〜+5℃のエチレン−酢酸ビニル−多官能性単量体共重合体と乳化安定剤とを含むエマルジョンであって、エチレン:酢酸ビニル:多官能性単量体の質量比が、20〜30:80〜70:0.035〜0.8であり、且つ乳化安定剤としてポリビニルアルコールのみを含むことを特徴とするポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョン。
【請求項2】
エチレン−酢酸ビニル−多官能性単量体共重合体のガラス転移温度が−8〜0℃である請求項1に記載のポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョン。
【請求項3】
多官能性単量体がアクリレート系多官能性単量体及び/又はアリル系多官能性単量体である請求項1又は2に記載のポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョン。
【請求項4】
エチレン−酢酸ビニル−多官能性単量体共重合体100質量部当たり、ポリビニルアルコールを3〜10質量部の割合で含む請求項1〜3のいずれかに記載のポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョン。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリマーセメント系塗膜防水材用エマルジョンとセメントとを必須成分とするセメント組成物。



【公開番号】特開2006−282420(P2006−282420A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101715(P2005−101715)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】