説明

ポリマーセメント組成物、これらのモルタル、モルタルを被覆した構造体

【課題】セメントとエマルションとを配合したポリマーセメントは、建造物などの防水材、仕上げ材、下地調整材として用いられている。ポリマーセメントは、水に浸漬すると変色したり、性能が低下したりする場合がある。本発明は、従来に比べ耐水性が優れ、水浸漬による変色が起こりにくい防水性塗膜を得ることができるポリマーセメント組成物を提供することを目的とした。
【解決手段】アルミナセメントを含む水硬性成分と、充填材と、カルボキシル基を有するエマルションと、水溶性ポリカルボジイミド樹脂とを含むポリマーセメント組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物などの施工部に防水性の付与を目的として使用されるスラリー状のモルタル組成物を得ることができ、耐水性に優れた塗膜を得ることができるポリマーセメント組成物、及びこれらを混練して得られるモルタル、これらのモルタルを被覆した構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の屋上、地下、ベランダなどに防水性を付与するため、樹脂エマルションなどにセメントを配合したポリマーセメントが施工されている。
【0003】
例えば特許文献1には、炭素数4〜10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートから選ばれた1種以上の単量体30〜98重量%、(メタ)アクリル酸0.1〜3重量%及びグリシジル(メタ)アクリレート0.1〜5重量%を必須構成単量体とし、かつガラス転移温度が−20℃以下である重合体がカチオン性又はノニオン性の界面活性剤により水に乳化分散されているエマルションと、無機質水硬性物質からなることを特徴とする防水材組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ポリマー成分、セメント、骨材、減水剤及び保水剤の各成分を含有し、該ポリマー成分はガラス転移温度(Tg)が−5℃以下で、かつ−20℃を超えるアニオン−カチオン両性アルカリ硬化型アクリル−スチレン系合成樹脂エマルションからなり、セメントに対する該エマルションの樹脂固形分の重量%(P/C)は30〜80%であり、ポゾラン反応を起こす成分としてのシリカフューム微粒子(SiO2含有量が90%以上で、平均粒子径が0.1〜0.2μm)をセメントに対して5〜20%含有することを特徴とするコンクリート防水用組成物が開示されている。
【0005】
特許文献3には、(A)成分:セメント、(B)成分:樹脂水性分散液、(C)成分:会合性増粘剤、(D)成分:1分子中に2個以上のスルホン酸基を有する界面活性剤又はカチオン性界面活性剤、を含有する組成物であって、該組成物中(C)成分を0.01〜10重量%、及び(D)成分を0.01〜10重量%含有し、かつ(C)成分と(D)成分の割合(C/D)が0.1〜15であることを特徴とするセメント組成物が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−268167号公報
【特許文献2】特開平11−116313号公報
【特許文献3】特開平9−221350号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
セメントとエマルションとを配合したポリマーセメントは、建造物などの防水材、仕上げ材、下地調整材として用いられている。ポリマーセメントは、水に浸漬すると変色したり、性能が低下する場合がある。
本発明は、従来に比べ耐水性が優れ、水浸漬による変色が起こりにくい防水性塗膜を得ることができるポリマーセメント組成物を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一は、アルミナセメントを含む水硬性成分と、充填材と、カルボキシル基を有するエマルションと、水溶性ポリカルボジイミド樹脂とを含むポリマーセメント組成物である。
【0009】
本発明の第ニは、本発明のポリマーセメント組成物を混練して得られるモルタルである。
本発明のモルタルは、ポリマーセメント組成物単独で、又はさらに必要に応じて水を加えて混練して得られる均質なスラリー状である。
【0010】
本発明の第三は、本発明のモルタルをコンクリートなどの被施工物表面に施工して得られる、モルタルと被施工物との構造体である。
【0011】
本発明のポリマーセメント組成物の好ましい態様を示し、これらは複数組み合わせることが出来る。
1)ポリマーセメント組成物は、エマルションのポリマー固形分100質量部に対し、
水硬性成分を15〜175質量部含むこと。
2)ポリマーセメント組成物は、エマルションのポリマー固形分100質量部に対し、水硬性成分と充填材との合計量を16〜350質量部含むこと。
3)ポリマーセメント組成物は、さらに増粘剤を含むこと。
4)エマルションは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を含む単量体成分より得られるエマルションであること、さらにガラス転移温度が−0℃以下のエマルションであること。
5)水溶性ポリカルボジイミド樹脂とカルボキシル基を有するエマルションとの配合割合は、カルボキシル基を有するエマルション中のカルボキシル基1当量に対して、水溶性ポリカルボジイミド樹脂中のカルボジイミド基を0.1〜0.5当量の範囲で配合すること。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリマーセメント組成物は、硬化物の浸水前後の引張り強度及び引裂き強度の保持に優れ、水浸漬前後の変色の小さな、耐水性に優れた硬化物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、アルミナセメントを含む水硬性成分と、充填材と、カルボキシル基を有するエマルションと、水溶性ポリカルボジイミド樹脂とを含む防水性に優れるポリマーセメント組成物であり、エマルションのカルボキシル基と、水溶性ポリカルボジイミド樹脂のカルボジイミド基とが反応することにより、硬化物の浸水前後の引張り強度及び引裂き強度の保持に優れ、水浸漬前後の変色の小さな、耐水性に優れた硬化物を得ることができる。
【0014】
水硬性成分は、アルミナセメントのほかに、ポルトランドセメント及び石膏から選ばれる成分を1種又は2種含むことができる。
水硬性成分は、アルミナセメントを含むことにより、硬化物が水に濡れその後乾燥した時の変色が小さいために好ましく用いることができる。
水硬性成分は、水硬性成分100質量%中に、アルミナセメントを好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、より好ましくは30質量%以上、特に好ましくは50質量%以上含むものを用いることが好ましい。
【0015】
アルミナセメントは、潜在的に急硬性を有しており、硬化後は耐化学薬品性、耐火性に優れた硬化体を与える。また、潜在水硬性を有する高炉スラグの存在により、その欠点である硬化体強度の経時的な低下も抑制される。アルミナセメントは鉱物組成が異なるものが数種知られ市販されており、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であるが、強度および着色性の面からは、CA成分が多く且つC4AF等の少量成分が少ないアルミナセメントが好ましい。
【0016】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメントなどを用いるができる。
【0017】
石膏は、無水、半水等の各石膏がその種を問わず1種又は2種以上の混合物として使用できる。石膏は急硬性であり、また、硬化後の寸法安定性保持成分として働くものである。
【0018】
充填材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、スラグ粉、フライアッシュ、シリカフーム、石灰石粉、タルク、カオリン、アルミナ粉、酸化チタン、水酸化アルミニウムなどを用いることが出来、これらの充填材を1種または2種以上用いることが出来る。特に珪砂の場合5〜7号の使用が好ましい。
充填材としては、粒径2mm以下、さらに粒径1.5mm以下、特に粒径1mm以下のものを用いることが好ましい。
【0019】
エマルションとしては、公知のカルボキシル基を有するエマルションを用いることが出来る。エマルションとしては、カルボキシル基を有する合成樹脂エマルションを用いることが出来る。
エマルションとしては、アクリル酸及びメタクリル酸などのカルボキシル基を有するビニル重合などの重合可能な成分を含むモノマー成分を重合して得られるものを用いることができる。
さらにエマルションとして、
1)アクリル酸及びメタクリル酸などから選ばれるカルボキシル基を有するビニル重合などの重合可能な成分と、
1)エチレン、酢酸ビニルなどのオレフィン系化合物; スチレン、p−クロロスチレンなどのスチレン系化合物; 塩化ビニル、塩化ビニリデンなどのハロゲン化のα−オレフィン化合物; メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート2−エチルヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミドなどのアクリル酸誘導体やメタクリル酸誘導体などから選ばれるビニル基を有するモノマー成分と、を重合して得られるものを用いることができる。
【0020】
エマルションに含まれるカルボキシル基の濃度は、目的に応じて適宜選択することができるが、エマルションに含まれるカルボキシル基の当量は、好ましくは4000〜300000の範囲であり、さらに好ましくは4500〜25000の範囲であり、より好ましくは7000〜23000の範囲であり、特に好ましくは12000〜21000の範囲が、引張り強度、引裂き強度及び伸びのバランスに優れているために好ましい。
本発明において、エマルションに含まれるカルボキシル基の濃度が高くなるに従い、強度が高く伸びの小さなポリマーセメント組成物の硬化物が得られ、エマルションに含まれるカルボキシル基の濃度が低くなるに従い、伸びの大きなポリマーセメント組成物の硬化物が得られる。
【0021】
エマルションに含まれるポリマー成分のガラス転移温度は、どのようなものでも用いることができるが、好ましくは0℃以下、さらに好ましくは−25℃以下、特に好ましくは−25℃〜−50℃の範囲を有するものが、低温環境下でも優れたのびなどの特性を有するために好ましく、特に(メタ)クリル酸誘導体を含むガラス転移温度が0℃以下、好ましくは−25℃以下、特に好ましくは−25℃〜−50℃の範囲のエマルションを好ましく用いることができる。
【0022】
特にエマルションとして、
アクリル系樹脂エマルションは、
(1)メチル(メタ)アクリレート及びエチル(メタ)アクリレートから選ばれる成分及び、
(2)炭素数4〜10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートから選ばれる成分とを主成分として、
(1)メチル(メタ)アクリレート及びエチル(メタ)アクリレートから選ばれる成分、
(2)炭素数4〜10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートから選ばれる成分、
及び(3)アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる成分、好ましくは全モノマー質量(100質量%)中にアクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる成分を1質量%以下、さらに0.8質量%以下、特に0.6質量%以下で、共重合した、
ガラス転移温度が好ましくは0℃以下、さらに好ましくは−25℃以下、特に好ましくは−25℃〜−50℃の範囲を有するものが、低温環境下でも優れた特性を有するために好ましく用いることができる。
【0023】
エマルションは、公知の製造方法により得られるものを用いることができ、例えば、乳化剤の存在下に、重合開始剤を用いて、水又は含水溶媒中で合成樹脂の原料となる重合性モノマーを乳化重合する方法などにより製造することができる。
【0024】
乳化剤としては、公知のものを用いることができ、アニオン性、ノニオン性、カチオン性又は両性の界面活性剤やポリビニルアルコール等の保護コロイドなどを挙げることができる。
重合開始剤としては、水又は含水溶媒中でラジカル重合できるものが好ましく、過酸化水素、過酢酸、過硫酸又はこれらのアンモニウム塩や硫酸塩等の水溶性の過酸化物やその塩などを挙げることができる。また、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチルニトリルなどの有機過酸化物、メタ亜硫酸ナトリウムやピロ亜硫酸ナトリウムなどの還元剤を併用することができる。
重合開始剤の使用量は、エマルションが製造できる範囲であれば適宜選択できる。
【0025】
エマルションは、水又は含水溶媒を含まない粉末状の合成樹脂粒子を含み、粉末状の合成樹脂粒子を用いると、水又は含水溶媒を除いた全成分を一つのパッケージとすることができ、施工現場では水を添加するだけで使用できるので便利である。
【0026】
エマルションは、水又は含水溶媒を含むものを使用する場合には、ポリマーセメント組成物単独で混練してモルタル組成物を得ることができ、また粘度及びTI値を調整する目的で、さらに必要に応じて水を加えることができる。
エマルションとして粉末状の合成樹脂粒子を使用する場合には、ポリマーセメント組成物単独ではスラリー状のモルタル組成物を得ることが出来ないため、ポリマーセメント組成物と水とを混練することにより均質なスラリーを製造することができる。
【0027】
水又は含水溶媒を含まない粉末状の合成樹脂を除くエマルションは、エマルション中に含まれるポリマーの固形分は適宜選択することができるが、エマルション100質量部中、30〜80質量部が好ましく、40〜60質量部がより好ましい。
【0028】
ポリマーセメント組成物は、エマルションのポリマー固形分100質量部に対し、水硬性成分を好ましくは15〜175質量部、さらに好ましくは20〜100質量部、より好ましくは22〜90質量部、特に好ましくは23〜70質量部含むものを用いることができる。水硬性成分が、エマルションのポリマー固形分に対して含む割合が、上記範囲より大きい場合、得られるポリマーセメント組成物のポットライフが短く、また粘度が高くなり施工性が低下するなど好ましくなく、上記範囲より小さい場合、乾燥時間が遅くなり、塗膜強度が低下するなど好ましくない。
【0029】
ポリマーセメント組成物は、エマルションのポリマー固形分100質量部に対し、水硬性成分と充填材とを含む粉体を好ましくは16〜350質量部、さらに好ましくは20〜330質量部、より好ましくは22〜300質量部、より好ましくは23〜270質量部、より好ましくは80〜250質量部、特に好ましくは150〜230質量部を含むものを用いることができる。水硬性成分と充填材とを含む粉体が、エマルションのポリマー固形分に対して含む割合が、上記範囲より大きい場合、得られるポリマーセメント組成物の粘度が高くなり施工性が低下するとともに、十分な塗膜の伸びが得られないため好ましくなく、上記範囲より小さい場合、十分な塗膜強度が低下するとともに、塗膜のタックが強くなるなど好ましくない。
【0030】
水溶性ポリカルボジイミド樹脂としては、公知の水溶性ポリカルボジイミド樹脂を用いることが出来、例えばカルボジイミド基(−N=C=N−基)を分子中に少なくとも2以上有する水溶性の樹脂、カルボジイミド基(−N=C=N−基)を分子中に少なくとも2以上有する樹脂に親水性セグメントを付与した水溶性の樹脂を用いることができる。
水溶性ポリカルボジイミド樹脂としては、商品名:カルボジライト(日清紡社製)V−02、V−02−L2、V−04、V−06などを用いることができる。
ポリマーセメント組成物において、水溶性ポリカルボジイミド樹脂の配合量は、用いるエマルションの種類により、適宜選択することができるが、特に水溶性ポリカルボジイミド樹脂の配合量は、エマルションのカルボキシル基の当量に対して、0.1〜0.5当量の範囲で用いることが、引裂き強度の保持に優れるために好ましい。
(但し、カルボジイミド基当量とは、カルボジイミド基1モル当たりの化学式量を表す。)
【0031】
ポリマーセメント組成物において、エマルションのポリマー固形分100質量部に対し、水硬性成分を15〜175質量部、水硬性成分と充填材の合計が16〜350質量部含み、
1)エマルションは、
(1)メチル(メタ)アクリレート及びエチル(メタ)アクリレートから選ばれる成分及び、
(2)炭素数4〜10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートから選ばれる成分とを主成分として、
(1)メチル(メタ)アクリレート及びエチル(メタ)アクリレートから選ばれる成分、
(2)炭素数4〜10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートから選ばれる成分、
及び(3)アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる成分、好ましくは全モノマー質量(100質量%)中にアクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる成分を1質量%以下、さらに0.8質量%以下、特に0.6質量%以下で、共重合した、
ガラス転移温度が好ましくは0℃以下、さらに好ましくは−25℃以下、特に好ましくは−25℃〜−50℃の範囲を有するカルボキシル基を有するアクリル系エマルションを用い、
2)水溶性ポリカルボジイミド樹脂とカルボキシル基を有するアクリル系エマルションとの配合割合が、カルボキシル基を有するエマルション中のカルボキシル基1当量に対して、水溶性ポリカルボジイミド樹脂中のカルボジイミド基を好ましくは0.1〜0.5当量の範囲、さらに好ましくは0.12〜0.4当量の範囲、特に0.15〜0.35当量の範囲で配合することにより、浸漬後の引張強度及び引裂き強度とこれらの保持率が向上し、さらに水浸漬前後における塗膜の色差の発生が著しく抑制され、油膜の浮遊がないものが得られる。
【0032】
水溶性ポリカルボジイミド樹脂は、下記化学式(1)及び化学式(2)で示されるものを用いることができ、特に化学式(1)の構造が好ましい。
【化1】

(但し、n1は4〜12の整数を表し、n2は2〜10の整数を表し、R1及びR2はX−O−(R5−O)n4−R6−を表し、Xは水素又はメチル基であり、R5及びR6は−CH2CH2−又は−CH2CH(CH3)−を表し、n4は6〜20の整数を表し、R1とR2は同一でもよく又は異なっていてもよい。)
【化2】

(但し、n3は2〜10の整数を表し、R3はX−O−(R5−O)n4−R6−を表し、R4はX−O−(R5−O)n5−R6−を表し、Xは水素又はメチル基であり、R5及びR6は−CH2CH2−又は−CH2CH(CH3)−を表し、n4は6〜20の整数を表し、n5は1〜20の整数を表し、R3とR4は同一でもよく又は異なっていてもよい。)
【0033】
化学式(1)において、n1は6が好ましく、n2は3〜8が好ましく、R1及びR2はH3C−O−(CH2CH2−O)n4−CH2CH2−で、n4は7〜15がこのましい。
【0034】
増粘剤は、ポリエーテル系、ウレタン系、アクリル系などの水溶性ポリマー系、セルロース系、蛋白質系、などの増粘剤を用いることが出来、特に水溶性ポリウレタン系などの水溶性ポリマー系の増粘剤を好ましく用いることが出来る。水溶性ポリウレタン系増粘剤としては、商品名アデカノールUH−420、UH−438、UH−472(旭電化工業社製)などの市販品を用いることができる。
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で適宜添加量を調整することができ、水硬性組成物100質量%中、0.05〜1.0質量%、さらに0.1〜0.7質量部、特に0.2〜0.5質量部含むことが好ましい。
【0035】
ポリマーセメント組成物は、本発明の特性を損なわない範囲で、凝結遅延剤や凝結促進剤の凝結調整剤、流動化剤、消泡剤などを配合することができる。
【0036】
ポリマーセメント組成物は、以下の特性を少なくとも1つ有する硬化物を得ることができる。
1)浸漬後の引張り強度が、好ましくは0.3N/mm2以上であり、さらに好ましくは0.35N/mm2以上、より好ましくは0.38N/mm2以上、特に好ましくは0.38N/mm2以上であること。
2)浸漬後の引張り強度の保持率が、好ましくは50%以上、さらに好ましくは52%以上、より好ましくは54%以上、特に好ましくは55%以上であること。
3)浸漬後の引裂き強度が、好ましくは3N/mm2以上であり、さらに好ましくは3.3N/mm2以上、より好ましくは3.5N/mm2以上、特に好ましくは3.8N/mm2以上であること。
4)浸漬前後での塗膜の色には、ほとんど差が生じないこと。
5)油膜の浮遊は、ほとんど認められないこと。
【0037】
モルタル組成物の製造法の一例としては、攪拌容器にエマルションを所定量計量し、攪拌機でエマルションを攪拌しながら所定量のアルミナセメントを含む水硬性成分、充填材及び増粘剤を、さらに必要に応じて凝結遅延剤や凝結促進剤の凝結調整剤、流動化剤、消泡剤などを添加し、数分間攪拌・混合して、さらに必要に応じて水を添加し、所定の粘度及びTI値を有するスラリー状の組成物を製造することができる。
モルタル組成物の製造法の一例としては、容器にポリマーセメント組成物の各成分を所定量を計量して加え、さらに必要に応じて凝結遅延剤や凝結促進剤の凝結調整剤、流動化剤、消泡剤などを添加し、攪拌機で数分間攪拌・混合して、さらに必要に応じて水を添加し、所定の粘度及びTI値を有するスラリー状の組成物を製造することができる。
アルミナセメントを含む水硬性成分、充填材、増粘剤或いは添加剤などは、単独で添加しても良いし、予め他の数種と混合したものを添加しても良く、添加順序は特に選ばない。また、攪拌機は、一般的な固液攪拌機など撹拌機能を有するものを問題なく用いることが出来る。
水を添加する場合は、成分が分離しないように、均質なスラリーを得るように添加することが好ましい。
【0038】
本発明のモルタル組成物は、ローラー、コテ及び吹き付け(スプレーなど)などを用いる一般的方法で被施工物表面に塗布して使用することができ、被施工物表面に本発明のモルタル組成物を硬化させて、モルタル組成物と被施工物との構造体を得ることができる。モルタル組成物の乾燥後に更に同じ操作を繰り返し、複数層のモルタル組成物層を形成させることができる。また、屋上などの施工でメッシュをモルタル組成物層の間に挟んだ構造とする場合には、モルタル組成物の乾燥後、その上にメッシュを置き、メッシュの上からさらにモルタル組成物を塗布してメッシュを固定する工程を加える工法を採用してもよい。さらに、最外層に別の組成物や保護塗装を塗布・乾燥させた保護層を形成させて仕上げることも可能である。
【0039】
モルタル組成物を被施工物表面に施工する方法としては、
1)被施工物表面を洗浄し、さらに必要に応じてエマルションを塗布し、さらに必要に応じてエマルションを乾燥させ、
2)上記1)の被施工物表面に、モルタル組成物を、吹き付け、鏝塗り、ローラー塗工などの公知の塗布方法により施工し、さらに必要に応じて塗工表面を鏝などを用いてならし、さらに必要に応じて乾燥させることにより、モルタル組成物を被施工物表面に施工することができ、モルタル組成物の硬化物層と被施工物との構造体を得ることができる。
【0040】
本発明のモルタル組成物は、ベランダ、屋上、屋根、柱、水槽などの防水材、仕上げ材、下地調整材などをして用いることができる。
本発明のモルタル組成物は、コンクリート構造物などの防水用途に用いることが出来、コンクリートの被施工物表面に塗布して用いることが出来る。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0042】
1.硬化物の評価
1)引張り強度及び伸び率
ガラス板にPETフィルムを敷き、その上にモルタル組成物を1.8kg/m2の量で塗布し、20±3℃、湿度65±5%の条件下で2日間養生後に塗膜を剥がし、さらに20±3℃、湿度65±5%の状態で4日間養生し、ポリマーセメントシートを得る。
引張り強度及び伸びの測定は、ポリマーセメントシートよりダンベル1号型を用いて試験片(A)を作製し、測定温度20℃、湿度60%の条件で、オートグラフ((株)東洋ボールドウイン製、TENSILON/UTM−I−2500)を用い、チャック間距離80mmで、引張速度200mm/分の条件で行う。測定は、3本のサンプルを使用して行う。なお、伸び(%)は、数式(1)に従い算出する。引張り強度及び伸びは、測定サンプル3本の平均値とする。
【0043】
【数1】

【0044】
2)引裂き強度:
引裂き強度の測定は、上記1.1)のポリマーセメントシートよりダンベルB型を用いて試験片(B)を作製し、測定温度20℃、湿度60%の条件で、オートグラフ((株)東洋ボールドウイン製、TENSILON/UTM−I−2500)を用い、チャック間距離60mmで、引張速度200mm/分の条件で行う。測定は、3本のサンプルを使用して行う。引裂き強度は、測定サンプル3本の平均値とする。
【0045】
2.耐水性の評価
1)引張り強度、伸び及び引裂き強度の保持率
上記1.1)のポリマーセメントシートの試験片(A)3本と試験片(B)3本を20±3℃の水に24時間浸漬させ、この試験片を水から取り出して、よく水滴をふき取り(これを試験片(A’)、試験片(B’)とする)、直ぐに機械的評価(引張り強度及び伸び、引裂き強度)を行う。浸漬後の引張り強度、伸び及び引裂き強度は、測定サンプル3本の平均値とする。保持率は、下記数式(2)、数式(3)及び数式(4)に従い算出する。
【数2】

【0046】
2)塗膜の水による変色
5mm厚スレート板(300×300mm)に、予めプライマー(各実施例及び比較例と同じエマルションを用い、エマルションに水を添加し10倍に希釈した液)を0.4kg/m2の量で塗布する。このスレート板のプライマー塗布面に、ポリマーセメント組成物を1.8kg/m2の量で塗布し、20±3℃、湿度65±5%の条件で7日間養生し、試験体Cを得る。
その後、試験体Cを20±3℃の水に、24時間浸漬させる。その後試験体Cを水から取り出して、よく水滴をふき取り(これを試験体(C’)とする)、直ぐに試験体Cと試験体C’との色の変化を目視で観察し、以下の評価を行う。
評価:◎:ほとんど差がない、○:僅かに目立つ、△:少し目立つ、×:目立つ。
【0047】
3)油膜の浮遊
上記2.2)の試験片C’を水から取り出す前の水面に油膜の有無を目視で観察し、以下の評価を行う。
評価:○:全く浮遊なし、△:若干浮遊あり、×:水面全体に浮遊あり。
【0048】
(製造例1:エマルションAの製造)
予め、容器にイオン交換水446部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(花王社製、エマルゲン935)14部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩(第一工業製薬社製、アクアロンKH−10)14部、メチルメタクリレート322部、2−エチルヘキシルアクリレート868部、n−ブチルアクリレート210部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート60部、メタクリル酸7部、アクリルアミド7部を秤量し、単量体乳化混合液を調整した。
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下装置及び窒素ガス導入管を備えた3Lの反応容器に、イオン交換水620部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王社製、ネオペレックスG−65)2.8部を仕込み、窒素ガスで置換し、攪拌しながら内温が78℃になるまで加温した。先に調整した単量体乳化混合液からその全体の量の0.9重量%を量り取り、反応容器に添加した。5分後、10%有機過酸化物18部と2%還元剤18部を添加して、初期重合を行った。同温で、残りの単量体乳化混合液と2%還元剤46部とを同時に滴下しながら、5時間重合反応を行った。滴下終了後、さらに1時間、78℃を保ったまま、攪拌を持続させた。その後、70℃まで温度を下げ、有機過酸化物と還元剤を用いて、未反応モノマーの重合を完結させた。その後、室温まで下げ、消泡剤、防腐剤、光安定剤、紫外線吸収剤を添加し、アンモニア水、イオン交換水でpH、不揮発分を調整し、アクリル系のエマルションAを得た。
アクリル系のエマルションAは、メチルメタクリレート約23重量%、2−エチルヘキシルアクリレート約62重量%、n−ブチルアクリレート約15重量%から得られる、ガラス転移温度が−40℃である。
アクリル系エマルションAのカルボキシル基の当量は、18703gである。
【0049】
(製造例2:エマルションBの製造)
予め、容器にイオン交換水446部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(花王社製、エマルゲン935)14部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩(第一工業製薬社製、アクアロンKH−10)14部、メチルメタクリレート322部、2−エチルヘキシルアクリレート868部、n−ブチルアクリレート210部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート60部、メタクリル酸28部、アクリルアミド7部を秤量し、単量体乳化混合液を調整した。
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下装置及び窒素ガス導入管を備えた3Lの反応容器に、イオン交換水620部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王社製、ネオペレックスG−65)2.8部を仕込み、窒素ガスで置換し、攪拌しながら内温が78℃になるまで加温した。先に調整した単量体乳化混合液からその全体の量の0.9重量%を量り取り、反応容器に添加した。5分後、10%有機過酸化物18部と2%還元剤18部を添加して、初期重合を行った。同温で、残りの単量体乳化混合液と2%還元剤46部とを同時に滴下しながら、5時間重合反応を行った。滴下終了後、さらに1時間、78℃を保ったまま、攪拌を持続させた。その後、70℃まで温度を下げ、有機過酸化物と還元剤を用いて、未反応モノマーの重合を完結させた。その後、室温まで下げ、消泡剤、防腐剤、光安定剤、紫外線吸収剤を添加し、アンモニア水、イオン交換水でpH、不揮発分を調整し、アクリル系のエマルションAを得た。
アクリル系のエマルションAは、メチルメタクリレート約23重量%、2−エチルヘキシルアクリレート約62重量%、n−ブチルアクリレート約15重量%から得られる、ガラス転移温度が−40℃である。
アクリル系エマルションBのカルボキシル基の当量は、4879gである。
【0050】
(ガラス転移温度の評価)
ガラス板上にエマルションを適量滴下し、60℃で16時間乾燥し、得られた質量が9.5〜10.5mgの範囲に入った乾燥塗膜を、示差走査熱量計(島津製作所社製、DSC−50)を用い、ガラス転移温度を測定する。
DSCの測定条件は、室温から150℃に10分間で昇温し、150℃を10分間保持した後に計算で得られた試料のTgより50℃低い温度まで下げ、再度150℃まで10分間で昇温するさいに、1回目のTgの測定を行う。次に1回目で測定したTgより50℃低い温度まで下げるさいに、2回目のTgの測定を行い、2回目のTgの値をガラス転移温度とする。
【0051】
[実施例1〜2、比較例1]
(1)原料は、以下の物を用いた。
・アルミナセメント:ブレーン比表面積3300cm2/g、モノカルシウムアルミネート含有量45質量%。
・珪砂:7号珪砂(市販品)。
・増粘剤:水性ウレタン増粘剤(UH472、旭電化社製)。
・水性樹脂A:水溶性ポリカルボジイミド樹脂(日清紡社製、商品名:カルボジライトV02、カルボジイミド基当量:590(カタログ値))。
・水性樹脂B:水溶性ポリカルボジイミド樹脂(日清紡社製、商品名:カルボジライトV02L2、カルボジイミド基当量:385(カタログ値))。
・エマルションA:製造例1で合成したもの。
・エマルションB:製造例2で合成したもの。
【0052】
(2)モルタル組成物の調製(実施例1〜4、比較例1)
モルタル組成物の調製には、エマルションA、アルミナセメント、珪砂、水性樹脂(水溶性ポリカルボジイミド樹脂)及び増粘剤をそれぞれ表1に示した質量で使用したポリマーセメント組成物を用いた。
2Lのポリ容器に、エマルション、アルミナセメント、珪砂、水性樹脂及び増粘剤の合計1250gを加え、0.15KW攪拌機を使用し1300rpmの条件下で3分間混合し、スラリー状のモルタル組成物を得た。
モルタル組成物より得られる硬化物の評価及び耐水性の評価を行い、結果を表2に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
1)実施例1〜4は、比較例1と比べ、浸漬後の引張り強度及び保持率が向上し、浸漬前後の塗膜の変色も殆ど乃至全く認められず、特に実施例1、2及び4が優れていた。
2)実施例1、実施例2及び実施例4は、浸漬後の引裂き強度が向上した。
【0056】
(3)モルタル組成物の調製(実施例5、比較例2)
モルタル組成物の調製には、エマルションB、アルミナセメント、珪砂、水性樹脂(水溶性ポリカルボジイミド樹脂)及び増粘剤をそれぞれ表3に示した質量で使用したポリマーセメント組成物を用いた。
2Lのポリ容器に、エマルションB、アルミナセメント、珪砂、水性樹脂及び増粘剤の合計1250gを加え、0.15KW攪拌機を使用し1300rpmの条件下で3分間混合し、スラリー状のモルタル組成物を得た。
モルタル組成物より得られる硬化物の評価及び耐水性の評価を行い、結果を表4に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
実施例5は、比較例2と比べ、浸漬後の引張り強度及び保持率、浸漬後の引裂き強度及び保持率が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のポリマーセメント組成物は、施工後において浸水しても、その変色の度合いは少なく、また、油膜の発生が殆どない硬化物を形成することが出来るという優れた効果を有することから、産業上の利用可能性は高い。特に、この組成物から形成されたモルタルは、優れた特性を有し、又、この組成物で被覆したモルタルは、長期間その初期特性を長く維持できるという効果を有するので、施工主にとっても、満足が得られることから、産業上の利用可能性は高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメントを含む水硬性成分と、充填材と、カルボキシル基を有するエマルションと、水溶性ポリカルボジイミド樹脂とを含むポリマーセメント組成物。
【請求項2】
カルボキシル基を有するエマルションが、
アクリル酸及び/又はメタクリル酸を含む単量体成分より得られるエマルションであることを特徴とする請求項1に記載のポリマーセメント組成物。
【請求項3】
水溶性ポリカルボジイミド樹脂とカルボキシル基を有するエマルションとの配合割合は、
カルボキシル基を有するエマルション中のカルボキシル基1当量に対して、水溶性ポリカルボジイミド樹脂中のカルボジイミド基を0.1〜0.5当量の範囲で配合することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリマーセメント組成物。
【請求項4】
カルボキシル基を有するエマルションが、ガラス転移温度が0℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマーセメント組成物。
【請求項5】
ポリマーセメント組成物は、エマルションのポリマー固形分100質量部に対し、
水硬性成分を15〜175質量部、水硬性成分と充填材の合計が16〜350質量部含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリマーセメント組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリマーセメント組成物を混練して得られるモルタル。
【請求項7】
請求項6に記載のモルタルを被施工物表面に施工して得られる、モルタルと被施工物との構造体。

【公開番号】特開2007−112680(P2007−112680A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−307725(P2005−307725)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】