ポリマーフィルムの延伸方法
【課題】フィルムの接合領域近傍に発生するボーイング現象を最小限に抑えること。
【解決手段】先行フィルム3aと後行フィルム3bとの接合領域21のフィルム搬送方向Aでの寸法を、フィルム幅の0.2%から2.2%の範囲内にする。接合後のフィルム3には延伸処理及び熱緩和処理等を施す。接合領域21の寸法をフィルム幅の0.2%以上確保することにより、先行フィルム3aと後行フィルム3bとを確実に接合することが可能である。接合領域21の寸法をフィルム幅の2.2%以下にすることにより、ボーイング現象が接合領域21以外に及ぶことが防止できる。
【解決手段】先行フィルム3aと後行フィルム3bとの接合領域21のフィルム搬送方向Aでの寸法を、フィルム幅の0.2%から2.2%の範囲内にする。接合後のフィルム3には延伸処理及び熱緩和処理等を施す。接合領域21の寸法をフィルム幅の0.2%以上確保することにより、先行フィルム3aと後行フィルム3bとを確実に接合することが可能である。接合領域21の寸法をフィルム幅の2.2%以下にすることにより、ボーイング現象が接合領域21以外に及ぶことが防止できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーフィルムの延伸方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ等の急速な発展・普及により、これら液晶ディスプレイの保護フィルム等に用いられるセルロースアシレートフィルム、特にトリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)の需要が増大している。この需要の増大に伴い生産性の向上が望まれている。TACフィルムは、連続走行する支持体に、流延ダイを用いて、TACと溶媒とを含むドープを流延し、この流延膜を乾燥や冷却等により自己支持性を持たせた後に、支持体から剥がして、乾燥させて巻き取ることにより製造されている。このような溶液製膜方法では、溶融押出による製膜方法に比べて、異物が無く光学特性に優れたフィルムが得られる。
【0003】
溶液製膜方法において、前記ドープを受ける支持体として、バンドやドラムがある。バンドに比べてドラム方式の方が流延速度の向上が図り易い。また、支持体上で自己支持性を持たせるためには、乾燥の促進や冷却ゲル化といった手法が用いられる。一方、TACフィルムの光学特性、特にレタデーションを調節する方法として、延伸することが行われている。
【0004】
製膜速度と延伸速度とはその最適速度が異なり、製膜速度が律速となるため、製膜速度に合わせると、光学特性を上げるための延伸を十分に行うことができなくなる。そこで、溶液製膜ラインとは別にオフラインで延伸することが提案されている。
【0005】
溶液製膜ラインとは別にオフラインで延伸を行う場合には、延伸処理を効率よく行うために、フィルムを連続して延伸することが好ましい。オフライン延伸設備は、先行フィルムと後行フィルムとを接合する接合工程と、接合したフィルムを連続して搬送しながら、フィルムを加熱してフィルムの両側縁部を複数のクリップにより把持してフィルム幅方向に延伸する延伸工程と、延伸したフィルムを応力緩和のために熱処理する熱緩和工程などを有している(例えば、特許文献1参照)。接合工程では、簡易な接合手段として両面接合テープが用いられている。一般に、両面接合テープは、シート状の基材とこの基材の両面に設けられた粘着層とを有し、基材にはTACフィルムとは異なる材料が用いられている。
【特許文献1】特願2007−084424号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オフライン延伸設備の接合工程で両面接合テープを使用した場合には、延伸工程及び熱緩和工程を施すと、両面接合テープを構成する基材の熱伸縮量とフィルムの熱伸縮量とが異なることから、図12に示すように、先行するフィルム500aと後行するフィルム500bとの接合領域501(ここではフィルム同士が重なり合う領域全体に両面接合テープが貼り付けられているとして説明する)には、フィルム搬送方向で力が働き、この力はフィルム幅方向において端部よりも中央部で強くなって(矢印の長さが力の大きさを表す)、ボーイング現象が発生するという問題があった。ボーイング現象を言い換えると、延伸工程を施す前にフィルムにフィルム幅方向に描いた直線が、延伸工程及び熱緩和工程を施した後に、弓なりに湾曲する現象である。このようなボーイング現象が発生すると、フィルムにおいてフィルム幅方向で光学特性(遅延軸)がばらつくという問題が生じる。
【0007】
両面接合テープにより接合された接合領域301は、両面接合テープの基材を含むことからフィルム原料としての再利用が不可能であり、接合領域301は切断して廃棄する必要があるが、このとき接合領域301と共にボーイング現象の影響が及ぶ周囲領域302まで廃棄しなければならなかった。このため、製品にできる領域が少なくなるという問題があった。
【0008】
本発明は、フィルムの接合領域近傍のボーイング現象を最小限に抑えることができるフィルム延伸方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、先行するポリマーフィルムの後端部と後行するポリマーフィルムの先端部とを両面接合テープを介して重ね合わせて接合する接合工程と、接合された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら、前記ポリマーフィルムを加熱して前記ポリマーフィルムの両側縁部を複数のクリップにより把持してフィルム幅方向に延伸する延伸工程と、延伸された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら応力緩和のための熱処理を行う熱緩和工程とを有するポリマーフィルムの延伸方法に関し、前記接合工程では、先行するポリマーフィルムと後行するポリマーフィルムとの接合領域の前記ポリマーフィルムの搬送方向における長さを、フィルム幅の0.2%から2.2%の範囲内にすることを特徴とする。
【0010】
本発明は、先行するポリマーフィルムの後端部と後行するポリマーフィルムの先端部とを重ね合わせて接合する接合工程と、接合された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら、前記ポリマーフィルムを加熱して前記ポリマーフィルムの両側縁部を複数のクリップにより把持してフィルム幅方向に延伸する延伸工程と、延伸された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら応力緩和のための熱処理を行う熱緩和工程とを有するポリマーフィルムの延伸方法に関し、前記接合工程はフィルム同士が重なり合う部分を溶着して接合することを特徴とする。ここで、前記接合工程はヒートシーラ装置により熱溶着することが好ましい。また、前記接合工程は超音波接合装置により熱溶着してもよい。また、前記接合工程はポリマーの溶剤を用いて溶着してもよい。
【0011】
本発明は、先行するポリマーフィルムの後端部と後行するポリマーフィルムの先端部とを重ね合わせて接合する接合工程と、接合された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら、前記ポリマーフィルムを加熱して前記ポリマーフィルムの両側縁部を複数のクリップにより把持してフィルム幅方向に延伸する延伸工程と、延伸された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら応力緩和のための熱処理を行う熱緩和工程とを有するポリマーフィルムの延伸方法に関し、前記接合工程は基材を有しない粘着層のみの両面粘着テープにより接合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、両面接合テープを用いて接合する接合領域のフィルム搬送方向における長さを、フィルム幅の0.2%から2.2%の範囲内にしたので、両面接合テープの基材とフィルムとの間で熱伸縮性が異なることに起因するボーイング現象は最小限に抑えられる。
【0013】
本発明によれば、フィルム同士を溶着により接合するので、接合領域は熱伸縮性が均一でありボーイング現象は抑えられる。
【0014】
本発明によれば、基材を有しない粘着層のみの両面粘着テープを用いてフィルム同士を接合するので、接合領域には両面粘着テープの基材が存在しないことから、ボーイング現象は抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[第1実施形態]
図1に示すように、オフライン延伸設備2は、TACフィルム3(以下、フィルム3)を延伸するものであり、フィルム供給室4と、テンタ部5と、熱緩和室6と、冷却室7と、巻取室8とを備え、これらがフィルム搬送方向Aに沿って順に配置されている。フィルム供給室4には溶液製膜設備で製造されたフィルムロール9が備えられている。フィルムロール9はフィルム3を巻芯に巻き取ってロール状にしたものである。フィルム供給室4に備えられたフィルムロール9からフィルム3が送り出され、このフィルム3がテンタ部5で加熱されながらフィルム幅方向に延伸され、この延伸したフィルム3が熱緩和室6及び冷却室7を経て温度が下げられて巻取室8で巻き取られる。テンタ部5ではフィルム3を幅方向に100.5%〜300%延伸する。
【0016】
フィルム供給室4は、ターレット型のフィルム送出装置10と、接合部11とを有する。フィルム送出装置10は、両端部に取付軸12が設けられたターレットアーム13を有する。各取付軸12にはフィルムロール9が装着される。ターレットアーム13は、180度間欠回転し、一方の取付軸12を送出位置(接合部11の側)に位置させ、他方の取付軸12を巻芯交換位置に位置させる。送出位置にある取付軸12に装着されたフィルムロール9からフィルム3が接合部11に送り出される。全てのフィルム3が送り出されるとターレットアーム13が回転し、巻芯交換位置に位置した取付軸12から空の巻芯が取り外されて新たなフィルムロールが装着される。
【0017】
図2及び図3に示すように、接合部11では、テンタ部5に連続したフィルム3を供給するために、先行して送り出された先行フィルム3aの後端部と、後行して送り出された後行フィルム3bの先端部とを、伸縮性を有する両面接合テープ20を介して重ね合わせて接合する。両面接合テープとしては、例えば、日東電工(株)製のNo.532の、基材としてポリエステル材料を用い、この基材の両面に粘着層が形成されたテープを用いる。
【0018】
先行フィルム3aと後行フィルム3bとを重ね合わせた領域を重ね合わせ領域22とし、両面接合テープ20によって接合する領域を接合領域21とするとき、フィルム搬送方向Aにおける接合領域21の長さL1は、フィルム搬送方向Aにおける重ね合わせ領域22の長さよりも短い(図3参照)。なお、接合領域21の長さL1を、フィルム搬送方向Aにおける重ね合わせ領域22の長さと等しくしてもよい。
【0019】
接合領域21のフィルム搬送方向Aでの寸法(両面接合テープ20のフィルム搬送方向Aでの寸法)は、フィルム幅の0.2%から2.2%の範囲内に設定する。すなわち、フィルム幅をWa、接合領域21のフィルム搬送方向Aでの寸法をL1とするとき、0.002Wa≦L1≦0.022Waの条件を満たすようにL1を設定する。接合領域21の寸法をフィルム幅の0.2%以上確保することにより、先行フィルム3aと後行フィルム3bとが確実に接合されて外れることがない。また、接合領域21の寸法をフィルム幅の2.2%以下にすることにより、接合領域21以外にボーイング現象が及ぶことが防止できる。本実施形態では、Wa=2500mm、L1=50mm(=0.02Wa)に設定している。
【0020】
先行フィルム3aと後行フィルム3bとを接合するときには、先行フィルム3aの後端部上面に両面接合テープ20を貼り付けてから、この両面接合テープ20に後行フィルム3bの先端部を重ね合わせて圧着する。このフィルムの接合は、自動で行うようにしてもよいし、簡易構成にする場合には人手により行うようにしてもよい。
【0021】
図1に示すように、フィルム供給室4とテンタ部5との間にはリザーバ24が配置されており、このリザーバ24は、フィルム接合処理に必要な長さ分以上のフィルム3のループを形成する。このため、フィルム接合時には、テンタ部5にはリザーバ24に収納されていたフィルム3が送り出されるから、テンタ部5を停止させることなくフィルム3の接合処理を行うことができる。
【0022】
図4に示すように、テンタ部5は、フィルム3をフィルム搬送方向Aに搬送しながら、フィルム3を幅方向に延伸するものであり、第1レール30と、第2レール31と、第1レール30に案内される第1チェーン32、第2レール31に案内される第2チェーン33を有する。テンタ部5は、図示しない乾燥室内に配置されている。乾燥室は、フィルム搬送方向Aに沿って順に、予熱ゾーン27、加熱ゾーン28、熱緩和ゾーン29に区画されており、ゾーン毎に最適なフィルム温度になるように図示しないダクトにより乾燥風が送られている。
【0023】
第1チェーン32は原動スプロケット35及び従動スプロケット36の間に掛け渡され、第2チェーン33は原動スプロケット37及び従動スプロケット38の間に掛け渡されている。各原動スプロケット35,37は、図示しない駆動機構により回転駆動される。
【0024】
第1チェーン32及び第2チェーン33には、クリップ39が一定間隔で多数取り付けられている。これらのクリップ39は、フィルム3の側縁部を把持しながら、各レール30,31に沿って移動することで、フィルム3を幅方向に延伸する。点PAはクリップ39のフィルム把持開始位置を示し、点PBはクリップ39のフィルム把持開放位置を示している。また、点PCはクリップ39による延伸開始位置を示し、点PDはクリップ39による延伸終了位置を示している。延伸処理により、フィルム3のフィルム幅はWaからWb(>Wa)になる。なお、フィルム3の延伸倍率は所望の光学特性等に合わせて適宜変更されるものである。
【0025】
図1に戻って、フィルム3は、テンタ部5で延伸された後、耳切装置40に送り出される。フィルム3は、耳切装置40によりその両側縁部が切り離しライン23(図2参照)で切り離され、切り離されたスリット状の側縁部である耳屑は、両面接合テープ20を含む部位が除去された後、カットブロア41で細かく小片にカットされる。カットされた耳屑小片は、図示しない風送装置によりクラッシャー42に送られ、粉砕されてチップとなる。このチップはフィルム原料として再利用される。耳切装置40によりその両側縁部が切り離されたフィルム3は、熱緩和室6に送られる。
【0026】
熱緩和室6には、多数のローラ43が備えられており、フィルム3はローラ43により熱緩和室6内を搬送される。熱緩和室6には、送風機(図示せず)から所望の温度の風が送り込まれてフィルム3が熱処理される。このときの風の温度は、20℃〜250℃であることが好ましい。フィルム3は徐々に温度を下げる。
【0027】
熱緩和後のフィルム3は冷却室7に送られて30℃以下に冷却された後、巻取室8に送られる。巻取室8の内部には、巻取ローラ44、プレスローラ45が設けられている。巻取室8に送られたフィルム3は、巻取ローラ44で巻き取られる。この際にプレスローラ45で押圧されて巻き取られる。
【0028】
フィルム3は、周知の溶液製膜方法で製造されるものであればよく、例えば、特開2005−104148号公報に記載されているTACフィルムを用いることができる。特に、製膜速度の向上を図るべく、冷却した流延ドラムの周面に、TACと溶媒とを含むドープを流延し、この流延膜が冷却ゲル化して自己支持性を有した後に剥ぎ取って、ピンテンタを経て乾燥させ巻取り収納したTACフィルムに対して、本発明を実施することにより、効率よく且つ無駄なく光学特性に優れたTACフィルムを製造することができる。
【0029】
上記構成によるオフライン延伸設備2によれば、先行フィルム3aと後行フィルム3bの接合領域21のフィルム搬送方向Aでの寸法を所定範囲内に規定したから、延伸処理及び熱緩和処理を施した後のフィルム3であっても、図5に示すように、接合領域21において、フィルム搬送方向Aに働く力自体が小さく、また、フィルム幅方向において端部と中央部との力の差が小さいことから、ボーイング現象は最小限に抑えられる。このため、ボーイング現象の影響は接合領域21の周囲には及ばないことから、従来に比べて製品にできる領域が広くできる。
【0030】
なお、上記実施形態では、先行フィルム3aと後行フィルム3bとの接合領域21のフィルム搬送方向Aでの寸法を、フィルム幅の0.2%から2.2%の範囲内に規定したが、フィルム幅の0.2%から1.0%の範囲内に規定することがより好ましく、この場合には、ボーイング現象をより小さく抑えることができる。
【0031】
[第2実施形態]
第1実施形態では、接合部11において、先行フィルム3aと後行フィルム3bとの接合に両面接合テープ20を用いたが、この替わりにヒートシーラ装置を用いて熱溶着により接合してもよい。図6に示すように、ヒートシーラ装置100は、フィルム3の搬送路を上下に挟むようにして設けられた上溶着ヘッド101及び下溶着ヘッド102とを備えている。上溶着ヘッド101は下面から露呈するヒータ103を有し、下溶着ヘッド102は上面から露呈するヒータ106を有する。各溶着ヘッド101,102は、図示しないシフト機構によって、ヒータ103,106をフィルム3に接触させる加熱位置とヒータ103,106をフィルム3から離す退避位置との間で移動する。各ヒータ103,106は、温調器104,107により温度制御される。
【0032】
ヒートシーラ装置100を用いてフィルムを接合する手順について説明する。先行フィルム3aの後端部に後行フィルム3bの先端部を重ね合わせる。上溶着ヘッド101及び下溶着ヘッド102を加熱位置に移動させる。各ヒータ103,106の温度は、フィルム3を溶解はするが分解はしない所定の温度、例えば150℃から299℃の範囲に設定する。各ヒータ103,106はフィルムを重ね合わせた領域内に接触させる。各ヒータ103,106により所定時間加熱することによりフィルムの一部が溶けて接着される。各ヒータ103,106は所定時間加熱した後に加熱を停止し、接合領域108を圧状態で自然冷却する。次に、上溶着ヘッド101及び下溶着ヘッド102を退避位置に移動させる。
【0033】
フィルム3の接合領域108を上下の両面から加熱することにより、フィルム3に効率的に熱を伝達させることが可能であり、接合領域108の温度を分解温度以下に保ったまま溶着して接合することができる。また、融解点と分解点が近いポリマーフィルムに対して、溶解部の孔開きや樹脂劣化を防止することもできる。
【0034】
上記構成によるヒートシーラ装置100で接合を行った場合には、接合領域108には異種材料が存在しないことから、延伸処理及び熱緩和処理を施した後のフィルム3のボーイング現象は最小限に抑えられる。また、接合領域108がフィルム原料として再利用できる。なお、ヒートシーラ装置100の替わりに、インパルスシーラ装置を用いてフィルムを熱溶着接合してもよい。
【0035】
[第3実施形態]
第1実施形態では、接合部11において、両面接合テープ20を用いてフィルム3を接合したが、この替わりに超音波接合装置を用いて熱溶着により接合してもよい。図7に示すように、超音波接合装置200は、振動子201、ホーン202、発信器203を備え、フィルム3を、例えば振幅0.03mm、毎秒2万〜2万8千回で機械的に振動させて発熱させて溶着する。振動子201は2個設けられており、2個の振動子201の間には永久磁石204が配され、2個の振動子201には、それぞれコイル205が巻き掛けられている。発信器203は、コイル205を介して振動子201を駆動させる。振動子201は、電気振動を機械的振動に変換する。ホーン202は、振動子201による機械的振動を拡大して、受台206に載せられた先行フィルム3aの後端部と後行フィルム3bの先端部とにエネルギーを与える(振動させる)。
【0036】
超音波接合装置200を用いてフィルムを接合する手順について説明する。先行フィルム3aの後端部に後行フィルム3bの先端部を重ね合わせる。発信器203が振動子201を駆動し、振動子201の機械的振動がホーン202で拡大されて、接合領域207が振動により発熱して溶着される。
【0037】
上記構成による超音波接合装置200で接合処理を行った場合には、接合領域207には異種材料が存在しないことから、延伸処理及び熱緩和処理を施した後のフィルム3においてボーイング現象は最小限に抑えられる。また、接合領域207の全てがフィルム原料として再利用できる。
【0038】
[第4実施形態]
第1実施形態では、接合部11において、両面接合テープ20を用いてフィルム3を接合したが、この替わりに、両面接合テープ20が貼り付けられた領域に、ポリマーの溶剤(例えばアセトン)を塗布して溶着してもよい。この場合には、接合領域には異種材料が存在しないことから、延伸処理及び熱緩和処理を施した後のフィルム3においてボーイング現象は最小限に抑えられる。また、接合領域の全てがフィルム原料として再利用できる。
【0039】
なお、フィルム3を接合するための溶剤としては、アセトンに限られず、ドープに用いられる溶媒のほか、フィルム3をなすポリマーを溶解させることができるものであればよい。
【0040】
[第5実施形態]
第1実施形態では、接合部11において、基材有りの両面接合テープ20を使用してフィルム3の接合を行ったが、この替わりに、基材無しの粘着層のみの両面接合テープを使用してもよい。この両面接合テープの粘着層にはフィルムを構成する材料と同じものが用いられている。この場合には、接合領域には異種材料が存在しないことから、延伸処理及び熱緩和処理を施した後のフィルム3においてボーイング現象は最小限に抑えられる。また、接合領域の全てがフィルム原料として再利用できる。
【0041】
(溶液製膜方法)
上記実施形態におけるフィルムは溶液製膜方法により得ることができる。溶液製膜方法を行う溶液製膜設備210は、図8に示すように、ストックタンク211と流延室212とピンテンタ213と乾燥室215と冷却室216と巻取室217とを有する。
【0042】
ストックタンク211は、モータ211aで回転する攪拌翼211bとジャケット211cとを備える。ストックタンク211の内部には、TACフィルム3の原料となるポリマーが溶媒に溶解したドープ221が貯留されている。ストックタンク211内のドープ221は、ジャケット211cにより温度が略一定となるように調整される。また、攪拌翼211bの回転によって、ポリマーなどの凝集を抑制しつつ、ドープ221を均一な品質に保持している。配管222は、ストックタンク211と流延ダイ230とを接続する。
【0043】
流延室212には、流延ダイ230、支持体としての流延ドラム232、剥取ローラ234、温調装置235,236、及び減圧チャンバ237が設置されている。流延ドラム232は図示を省略した駆動装置により軸232aを中心に、方向Z1へ回転する。流延室212内及び流延ドラム232は、温調装置235,236によって、流延膜233が冷却固化(ゲル化)し易い温度に設定されている。
【0044】
流延ダイ230は、幅方向TDに伸びるように形成されるスリットを有する。流延ダイ230は、スリットから回転する流延ドラム232の周面232bに向けて、ドープ221を吐出する。その後、流延ドラム232の周面232b上のドープ221から流延膜233が形成される。そして、流延ドラム232が約3/4回転する間に、ゲル化による自己支持性が流延膜233に発現し、流延膜233は剥取ローラ234によって流延ドラム232から剥ぎ取られ、湿潤フィルム238となる。剥ぎ取り時の流延膜233の残留溶媒量は、150重量%以上320重量%以下であることが好ましい。ここで、残留溶媒量とは、TACフイルム3等に残留する溶媒量を乾量基準で示したものであり、その測定方法は、対象のフイルム等からサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0045】
減圧チャンバ237は、流延ダイ230に対し、方向Z1の上流側に配置されており、減圧チャンバ237内を負圧に保ち、流延ビードの背面(後に、流延ドラム232の周面232bに接する面)側を所望の圧力に減圧する。流延ビードの背面側の減圧により、流延ドラム232の回転により発生する同伴風の影響を少なくし、流延ダイ230と流延ドラム232との間に安定した流延ビードを形成し、膜厚ムラの少ない流延膜233を形成することができる。
【0046】
流延ダイ230の材質は、電解質水溶液、ジクロロメタンやメタノールなどの混合液に対する高い耐腐食性、及び低い熱膨張率を有する素材から形成される。流延ダイ230の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。
【0047】
流延ドラム232の周面232bは、クロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。また、温調装置236は、流延ドラム232の周面232bの温度を所望の温度に保つために、流延ドラム232に伝熱媒体を循環させる。伝熱媒体は所望の温度に保持されており、流延ドラム232内の伝熱媒体流路を通過することにより、流延ドラム232の周面232bの温度が所望の温度に保持される。
【0048】
流延ドラム232の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。流延ドラム232の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム232の周面232bに施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0049】
また、流延室212内には、蒸発している溶媒を凝縮液化するための凝縮器(コンデンサ)239と凝縮液化した溶媒を回収する回収装置240とが備えられている。凝縮器239で凝縮液化した溶媒は、回収装置240により回収される。その溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
【0050】
流延室212の下流には、渡り部241、ピンテンタ213が順に設置されている。渡り部241では、搬送ローラ242が、湿潤フィルム238をピンテンタ213に導入する。ピンテンタ213は、湿潤フィルム238の両側縁部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。ピンプレートにより走行する湿潤フィルム238に対し乾燥風が送られ、湿潤フィルム238は乾燥し、フィルム220となる。
【0051】
ピンテンタ213は、フィルム220の両側縁部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を走行する。クリップにより走行するフィルム220に対し乾燥風が送られ、フィルム220には、フィルム幅方向TDへの延伸処理とともに乾燥処理が施される。
【0052】
ピンテンタ213の下流にはそれぞれ耳切装置243が設けられている。耳切装置243はフィルム220の両側縁部を裁断する。この裁断した両側縁部は、送風によりクラッシャ244に送られて、粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0053】
乾燥室215には、多数のローラ247が設けられており、これらにフィルム220が巻き掛けられて搬送される。乾燥室215の出口側には冷却室216が設けられており、この冷却室216でフィルム220が室温となるまで冷却される。冷却室216の下流には強制除電装置(除電バー)249が設けられており、フィルム220が除電される。さらに、強制除電装置249下流側には、ナーリング付与ローラ250が設けられており、フィルム220の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室217には、プレスローラ252を有する巻取機251が設置されており、フィルム220が巻き芯にロール状に巻き取られ、巻取機251により、フィルムロール255が得られる。フィルムロール255は、フィルムロール9として、巻取室217からオフライン延伸設備2のフィルム供給室4(図1参照)に送られ、フィルム供給室4からフィルム3として、送り出される。
【0054】
上記第1〜第5実施形態では、ポリマーフィルムとしてTACフィルムを用いて説明を行ったが、TACフィルムに限定されることなく、各種ポリマーフィルムにも本発明が適用できる。
【0055】
本発明に用いることのできるポリマーフィルムとしては、例えば、セルロースアシレートフィルムのほか、溶液製膜方法によって製造され、環状オレフィン等、他のポリマーからなるポリマーフィルムや、溶融製膜方法によって製造されたポリマーフィルムがある。
【0056】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわちアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBはアシル基の置換度を表わし、置換度Aはアセチル基の置換度、また置換度Bは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0057】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0058】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0059】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0060】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0061】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0062】
(溶媒)
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0063】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0064】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
【0065】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明にも適用できる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
【0066】
(溶融製膜設備)
次に、溶融製膜方法によりポリマーフィルムを製造する製造設備(以下、溶融製膜設備と称す)について説明する。溶融製膜設備410は、図9に示すように、液晶表示装置等に使用できる熱可塑性フィルムFを製造する装置である。熱可塑性フィルムFの原材料であるペレット状の熱可塑性樹脂を乾燥機412に導入して乾燥させた後、このペレットを押出機414によって押し出し、ギアポンプ416によりフィルタ418に供給する。次いで、フィルタ418により異物がろ過され、ダイ420から溶融樹脂(溶融した熱可塑性樹脂)が押し出される。溶融樹脂は、第1キャスティングロール428とタッチロール424で挟まれて押圧成形された後、第1キャスティングロール428にて冷却固化されて所定の表面粗さのフィルム状とされ、さらに、第2キャスティングロール426、第3キャスティングロール427によって搬送されることで未延伸フィルムFaが得られる。この未延伸フィルムFaは、この段階で巻き取られてもよいし、連続的に長スパン延伸を行う横延伸部442に供給されてもよい。また、一度巻き取られた未延伸フィルムFaを再度横延伸部442に供給しても、連続的に長スパン延伸を行う横延伸部442に供給した場合と同様の効果が得られる。
【0067】
横延伸部442では、未延伸フィルムFaが搬送方向(以下、MD方向と称する)と直交する幅方向(以下、TD方向と称する)に延伸され、横延伸フィルムFbとされる。横延伸部442の上流側に予熱部436を設けてもよいし、横延伸部442の下流側に熱固定部444を設けてもよい。これにより、延伸中のボーイング(光学軸のズレ)を小さくできる。予熱温度は横延伸温度より高いこと、熱固定温度は横延伸温度より低いことが好ましい。すなわち、通常、ボーイングは幅方向中央部が進行方向に向かって凹となるが、予熱温度>横延伸温度、横延伸温度>熱固定温度とすることによりボーイングを低減できる。予熱処理、熱固定処理はどちらか一方でもよく、両方行ってもよい。
【0068】
横延伸の後に後熱処理を行なった後、熱処理ゾーン446でMD方向に横延伸フィルムFbを収縮させる。熱処理ゾーン446では、図10に示すように、横延伸フィルムFbの側端部をチャックで把持しない状態で、TD方向の収縮が起こらずに、MD方向の収縮のみが起こるように複数のロール448a〜448dで横延伸フィルムFbを搬送する。このとき、図11に示すように、複数のロール448a〜448dは、ロールラップ長(D)とロール間長(G)の比(G/D)が0.01以上3以下となるように配置される。これにより横延伸フィルムFbと各ロール448〜448dとの摩擦によりTD方向の収縮が抑制される。そして、横延伸フィルムFbは、上流側のロール448aによる周速度(V1)と下流側のロール448dによる周速度(V2)の比(V2/V1)が0.6以上0.999以下で搬送しながら熱処理される。つまり、横延伸フィルムFbは熱処理ゾーンにてMD方向に収縮する。
【0069】
横延伸フィルムFbが熱処理ゾーンにて熱処理されることで、配向角、レターデーションが調整された最終製品である熱可塑性フィルムFが製造される。このフィルムFは巻取部449によって巻き取られる。
【0070】
TD方向への延伸の前又は後にMD方向の延伸を行ってもよい。MD方向の延伸は、MD方向に並ぶ複数のニップロール対を用いてフィルムを搬送し、上流側のニップロール対の周速度より下流側のニップロール対の周速度を速くすることで達成できる。MD方向におけるニップロール間の距離(L)と上流側のニップロール対でのフィルム幅Wの比(L/W)の大きさで延伸方式が異なり、L/Wが小さいと特開2005−330411号公報、特開2006−348114号公報記載のようなMD方向の延伸方式を採用できる。この方式は、Rthが大きくなり易いが装置をコンパクトにすることができる。一方、L/Wが大きい場合は特開2005−301225号公報記載のようなMD方向の延伸方式を用いることができる。この方式はRthを小さくできるが、装置が長大になり易い。
【0071】
溶融製膜方法に用いることのできるポリマーは、熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状オレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状オレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状オレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状オレフィンである。
【0072】
(環状オレフィン)
環状オレフィンはノルボルネン系化合物から重合されるものが好ましい。この重合は開環重合、付加重合いずれの方法でも行える。付加重合としては例えば特許3517471号公報記載のものや特許3559360号公報、特許3867178号公報、特許3871721号公報、特許3907908号公報、特許3945598号公報、特表2005−527696号公報、特開2006−28993号公報、国際公開第2006/004376号パンフレットに記載のものが挙げられる。特に好ましいのは特許3517471号公報に記載のものである。
【0073】
開環重合としては国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報、特許3220478号公報、特許3273046号公報、特許3404027号公報、特許3428176号公報、特許3687231号公報、特許3873934号公報、特許3912159号公報記載のものが挙げられる。なかでも好ましいのが国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報記載のものである。
【0074】
これらの環状オレフィンの中でも付加重合のものの方がより好ましい。
【0075】
(ラクトン環含有重合体)
下記(一般式1)で表されるラクトン環構造を有するものを指す。
【0076】
【化1】
【0077】
(一般式1)中、R1,R2,R3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0078】
(一般式1)のラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。
【0079】
(一般式1)で表されるラクトン環構造以外に、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記(一般式2)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0080】
【化2】
【0081】
(一般式2)中、R4は水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R5基、又は−C−O−R5基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R5及びR5は水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。
【0082】
例えば、国際公開第2006/025445号パンフレット、特開2007−70607号公報、特開2007−63541号公報、特開2006−171464号公報、特開2005−162835号公報記載のものを用いることができる。
【実施例】
【0083】
(実験1〜3)
次に、実験1〜3について説明する。フイルム製造に使用したポリマー溶液(ドープ)の調製に際しての配合を下記に示す。
【0084】
[ドープの調製]
原料ドープの調製に用いた化合物の処方を下記に示す。
セルローストリアセテート(置換度2.86) 89.3重量%
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.1重量%
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 3.6重量%
の組成比からなる固形分(溶質)を
ジクロロメタン 80重量%
メタノール 13.5重量%
n−ブタノール 6.5重量%
からなる混合溶剤に適宜添加し、攪拌溶解して原料ドープを調製した。なお、原料ドープのTAC濃度は略23重量%になるように調整した。原料ドープを濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した後にストックタンクに入れた。
【0085】
[セルローストリアセテート]
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1重量%以下であり、Ca含有率が57ppm、Mg含有率が41ppm、Fe含有率が0.4ppmであり、遊離酢酸38ppm、さらに硫酸イオンを13ppm含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.91であった。また、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基の水素が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8重量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であった。このTACは、綿から採取したセルロースを原料として合成されたものである。
【0086】
[マット剤液の調製]
下記の処方からマット剤液を調製した。
シリカ(日本アエロジル(株)製アエロジルR972) 0.67重量%
セルローストリアセテート 2.93重量%
トリフェニルフォスフェート 0.23重量%
ビフェニルジフェニルフォスフェート 0.12重量%
ジクロロメタン 88.37重量%
メタノール 7.68重量%
上記処方からマット剤液を調製して、アトライターにて体積平均粒径0.7μmになるように分散を行った後、富士フイルム(株)製アストロポアフィルタにてろ過した。そして、マット剤液用タンクに入れた。
【0087】
[紫外線吸収剤溶液の調製]
下記の処方から紫外線吸収剤溶液を調製した。
2(2´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−tert―ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール 5.83重量%
2(2´−ヒドロキシ3´,5´−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール 11.66重量%
セルローストリアセテート 1.48重量%
トリフェニルフォスフェート 0.12重量%
ビフェニルジフェニルフォスフェート 0.06重量%
ジクロロメタン 74.38重量%
メタノール 6.47重量%
上記処方から紫外線吸収剤溶液を調製し、富士フイルム(株)製のアストロポアフィルタにてろ過した後に紫外線吸収剤液法用タンクに入れた。
【0088】
図8に示すように、溶液製膜設備210を用いてフイルム220を製造した。紫外線吸収剤溶液にマット剤液を混合し、インラインミキサで混合攪拌して混合添加剤を得た。添加剤供給ラインは、混合添加剤を配管内に送液した。インラインミキサは原料ドープと混合添加剤とを混合攪拌して流延ドープを得た。流延ドラム232は、制御部の制御の下、軸232aを中心に回転し、走行方向Z1における周面232bの速度を50m/分以上200m/分以下の範囲内でほぼ一定となるように保持した。流延ドラム232の周面232bの温度を、−10℃以上10℃以下の範囲内でほぼ一定となるように保持した。流延ダイ230は、流延ドープを周面232b上に流延し、周面232bに流延膜233を形成した。冷却により、流延膜233が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ234を用いて、流延ドラム232から流延膜233を湿潤フイルム238として剥ぎ取った。剥取不良を抑制するために流延ドラム232の速度に対する剥取速度(剥取ローラドロー)を、100.1%〜110%の範囲で適切に調整した。湿潤フイルム238は、渡り部241、ピンテンタ213、及び乾燥室215へ順次案内された。渡り部241、ピンテンタ213、及び乾燥室215では、湿潤フイルム238に乾燥空気をあてて、所定の乾燥処理を行った。この乾燥処理によって得られるフイルム220を冷却室216に送った。冷却室216では、フイルム220を30℃以下になるまで冷却した。その後、フイルム220に、除電処理、ナーリング付与処理などを行った後、巻取室217に搬送した。巻取室217では、フイルム220は、プレスローラ252で所望のテンションを付与されながら、巻取機251の巻き芯に巻き取られ、フイルムロール255となった。フイルムロール255を、オフライン延伸装置2に送った。
【0089】
上記第1実施形態のオフライン延伸設備2を用いてフィルム3の延伸処理を実施した。フィルム3の熱緩和処理を終えた後に、フィルム3に生じたボーイング現象に関する評価を行った。実験1〜3におけるフィルム幅Wa、接合領域21のフィルム搬送方向Aでの長さL1は、表1に示す通りである。フィルム3の厚みは80μmであり、両面接合テープ20の厚みは60μmである。両面接合テープ20の基材にはポリエステルフィルムが用いられ、粘着層にはアクリル系のものが用いられている。テンタ部5でのフィルム3の延伸倍率は140%であり、延伸時のフィルム温度は200℃である。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
ここで、ボーイング現象とは、テンタ部5の入口でフィルム3にフィルム幅方向に描いた直線が、テンタ部5及び熱緩和室6を経て弓なりの曲線に変わる現象であり、ボーイング量とは、この弓なりの曲線の最も凹んだ点(通常はフィルム中央部)と最も突出した点(通常はフィルム両縁部)のフィルム搬送方向での寸法差を示すものである。さらに、ボーイングひずみとは、フィルム幅に対するボーイング量の比率を示すものである。
【0092】
実験1では、ボーイングひずみが0.16%であり、この値であればボーイング現象の影響は接合領域21の周囲には及ばない。実験1は評価「○」である。実験2では、ボーイングひずみが0.23%であり、この値はボーイング現象の影響が接合領域21の周囲に及ぶことがない限界の値である。すなわち、ボーイングひずみが0.23%を超えると、ボーイング現象の影響が接合領域21の周囲に強く及びはじめる。実験2は、評価「○」である。実験3では、ボーイングひずみが1.09%であり、ボーイング現象の影響が接合領域21の周囲に強く及んでいた。実験3は評価「×」である。
【0093】
(実験11〜実験13)
溶融製膜方法を用いて、特開2007−98917の実施例1のセルロースアセテートプロピオネート(表1では、「CAP」と表記する)フイルム(厚み100μm)を得たこと、及び各条件を表1に示す値としたこと以外は、実験1〜3と同様にして、実験11〜13を行った。
【0094】
(実験21〜実験23)
溶融製膜方法を用いて、特開2007−169588号公報の実施例Bの実施例101に従いセルロースアシレートフイルム(厚み=100μm、Tg=131℃)を得たこと、及び各条件を表1に示す値としたこと以外は、実験1〜3と同様にして、実験21〜23を行った。
【0095】
(実験31〜実験33)
溶液製膜方法を用いて、特開2001−188128の実施例1に記載のフイルムNo.1(セルロースアセテートプロピオネート:厚み100μm)得たこと、及び各条件を表1に示す値としたこと以外は、実験1〜3と同様にして、実験31〜33を行った。
【0096】
(実験41〜実験43)
溶融製膜方法を用いて、シクロオレフィン樹脂A(表1では、「シクロオレフィン」と表記する)からポリマーフイルムを得たこと、及び各条件を表1に示す値としたこと以外は、実験1〜3と同様にして、実験41〜43を行った。
シクロオレフィン樹脂A(付加重合系):ポリプラスチックス(株)製TOPAS6013(Tg=130℃)
【0097】
実験41〜実験43における溶融製膜方法の詳細は次の通りである。シクロオレフィン樹脂Aを110℃の真空乾燥機で乾燥し含水率を0.1%以下とした後、1軸混練押出し機を用い260℃で溶融しギアポンプから送り出した後、濾過精度5μmのリーフディスクフィルタにて濾過し、スタティックミキサーを経由してスリット間隔0.8mm、270℃のハンガーコートダイから、(Tg−5)℃、Tg℃、(Tg−10)℃に設定した3連のキャストロール上にメルト(溶融樹脂)を押出した。この時、最上流側のキャストロールに面圧0.1MPaでタッチロールを接触させ、厚み100μmの未延伸フイルムを製膜した。タッチロールは特開平11−235747号公報の実施例1に記載のもの(二重抑えロールと記載のあるもの)を用い、Tg−5℃に調温した(但し薄肉金属外筒厚みは2mmとした)。
【0098】
この後、巻き取り直前に両端(全幅の各3%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ20μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた。各水準とも、幅は1.5mで30m/分で3000m巻き取った。
【0099】
(実験51〜実験53)
溶融製膜方法を用いて、ラクトン環含有重合体樹脂(表1では、「ラクトン」と表記する)からなるポリマーフイルムを得たこと、及び各条件を表1に示す値としたこと以外は、実験1〜3と同様にして、実験51〜53を行った。実験51〜実験53における溶融製膜方法は、国際公開第2006/025445号パンフレット記載の実施例1に従った。但し、フイルム幅は1.5mで製膜した。これらの原反(未延伸フイルム)の厚みは全て100μmで調製した。
【0100】
実験11〜53にて、ボーイングひずみについて評価したところ、実験1〜3と同様の傾向の結果を得ることができた。
【0101】
以上の各実験より、本発明によれば、各種のポリマーフイルムにおいて、ボーイング現象を最小限に抑えることができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】オフライン延伸設備の概略構成図である。
【図2】先行フィルム及び後行フイルムの斜視図である。
【図3】先行フィルムと後行フィルムの接合領域の断面図である。
【図4】テンタ部の概略構成図である。
【図5】延伸処理及び熱緩和処理を施した後のフィルムを示す図である。
【図6】ヒートシーラ装置の概略構成図である。
【図7】超音波接合装置の概略構成図である。
【図8】溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図9】溶融製膜設備の概要を示す説明図である。
【図10】熱処理ゾーンにおける複数のロールの配置状態を示す斜視図である。
【図11】熱処理ゾーンにおける複数のロールのロールラップ長(D)及びロール間長(G)を示す説明図である。
【図12】延伸処理及び熱緩和処理を施した後の従来のフィルムを示す図である。
【符号の説明】
【0103】
2 オフライン延伸設備
3 フィルム
3a 先行フィルム
3b 後行フィルム
5 テンタ部
6 熱緩和室
20 両面接合テープ
21 接合領域
100 ヒートシーラ装置
200 超音波接合装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーフィルムの延伸方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ等の急速な発展・普及により、これら液晶ディスプレイの保護フィルム等に用いられるセルロースアシレートフィルム、特にトリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)の需要が増大している。この需要の増大に伴い生産性の向上が望まれている。TACフィルムは、連続走行する支持体に、流延ダイを用いて、TACと溶媒とを含むドープを流延し、この流延膜を乾燥や冷却等により自己支持性を持たせた後に、支持体から剥がして、乾燥させて巻き取ることにより製造されている。このような溶液製膜方法では、溶融押出による製膜方法に比べて、異物が無く光学特性に優れたフィルムが得られる。
【0003】
溶液製膜方法において、前記ドープを受ける支持体として、バンドやドラムがある。バンドに比べてドラム方式の方が流延速度の向上が図り易い。また、支持体上で自己支持性を持たせるためには、乾燥の促進や冷却ゲル化といった手法が用いられる。一方、TACフィルムの光学特性、特にレタデーションを調節する方法として、延伸することが行われている。
【0004】
製膜速度と延伸速度とはその最適速度が異なり、製膜速度が律速となるため、製膜速度に合わせると、光学特性を上げるための延伸を十分に行うことができなくなる。そこで、溶液製膜ラインとは別にオフラインで延伸することが提案されている。
【0005】
溶液製膜ラインとは別にオフラインで延伸を行う場合には、延伸処理を効率よく行うために、フィルムを連続して延伸することが好ましい。オフライン延伸設備は、先行フィルムと後行フィルムとを接合する接合工程と、接合したフィルムを連続して搬送しながら、フィルムを加熱してフィルムの両側縁部を複数のクリップにより把持してフィルム幅方向に延伸する延伸工程と、延伸したフィルムを応力緩和のために熱処理する熱緩和工程などを有している(例えば、特許文献1参照)。接合工程では、簡易な接合手段として両面接合テープが用いられている。一般に、両面接合テープは、シート状の基材とこの基材の両面に設けられた粘着層とを有し、基材にはTACフィルムとは異なる材料が用いられている。
【特許文献1】特願2007−084424号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オフライン延伸設備の接合工程で両面接合テープを使用した場合には、延伸工程及び熱緩和工程を施すと、両面接合テープを構成する基材の熱伸縮量とフィルムの熱伸縮量とが異なることから、図12に示すように、先行するフィルム500aと後行するフィルム500bとの接合領域501(ここではフィルム同士が重なり合う領域全体に両面接合テープが貼り付けられているとして説明する)には、フィルム搬送方向で力が働き、この力はフィルム幅方向において端部よりも中央部で強くなって(矢印の長さが力の大きさを表す)、ボーイング現象が発生するという問題があった。ボーイング現象を言い換えると、延伸工程を施す前にフィルムにフィルム幅方向に描いた直線が、延伸工程及び熱緩和工程を施した後に、弓なりに湾曲する現象である。このようなボーイング現象が発生すると、フィルムにおいてフィルム幅方向で光学特性(遅延軸)がばらつくという問題が生じる。
【0007】
両面接合テープにより接合された接合領域301は、両面接合テープの基材を含むことからフィルム原料としての再利用が不可能であり、接合領域301は切断して廃棄する必要があるが、このとき接合領域301と共にボーイング現象の影響が及ぶ周囲領域302まで廃棄しなければならなかった。このため、製品にできる領域が少なくなるという問題があった。
【0008】
本発明は、フィルムの接合領域近傍のボーイング現象を最小限に抑えることができるフィルム延伸方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、先行するポリマーフィルムの後端部と後行するポリマーフィルムの先端部とを両面接合テープを介して重ね合わせて接合する接合工程と、接合された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら、前記ポリマーフィルムを加熱して前記ポリマーフィルムの両側縁部を複数のクリップにより把持してフィルム幅方向に延伸する延伸工程と、延伸された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら応力緩和のための熱処理を行う熱緩和工程とを有するポリマーフィルムの延伸方法に関し、前記接合工程では、先行するポリマーフィルムと後行するポリマーフィルムとの接合領域の前記ポリマーフィルムの搬送方向における長さを、フィルム幅の0.2%から2.2%の範囲内にすることを特徴とする。
【0010】
本発明は、先行するポリマーフィルムの後端部と後行するポリマーフィルムの先端部とを重ね合わせて接合する接合工程と、接合された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら、前記ポリマーフィルムを加熱して前記ポリマーフィルムの両側縁部を複数のクリップにより把持してフィルム幅方向に延伸する延伸工程と、延伸された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら応力緩和のための熱処理を行う熱緩和工程とを有するポリマーフィルムの延伸方法に関し、前記接合工程はフィルム同士が重なり合う部分を溶着して接合することを特徴とする。ここで、前記接合工程はヒートシーラ装置により熱溶着することが好ましい。また、前記接合工程は超音波接合装置により熱溶着してもよい。また、前記接合工程はポリマーの溶剤を用いて溶着してもよい。
【0011】
本発明は、先行するポリマーフィルムの後端部と後行するポリマーフィルムの先端部とを重ね合わせて接合する接合工程と、接合された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら、前記ポリマーフィルムを加熱して前記ポリマーフィルムの両側縁部を複数のクリップにより把持してフィルム幅方向に延伸する延伸工程と、延伸された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら応力緩和のための熱処理を行う熱緩和工程とを有するポリマーフィルムの延伸方法に関し、前記接合工程は基材を有しない粘着層のみの両面粘着テープにより接合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、両面接合テープを用いて接合する接合領域のフィルム搬送方向における長さを、フィルム幅の0.2%から2.2%の範囲内にしたので、両面接合テープの基材とフィルムとの間で熱伸縮性が異なることに起因するボーイング現象は最小限に抑えられる。
【0013】
本発明によれば、フィルム同士を溶着により接合するので、接合領域は熱伸縮性が均一でありボーイング現象は抑えられる。
【0014】
本発明によれば、基材を有しない粘着層のみの両面粘着テープを用いてフィルム同士を接合するので、接合領域には両面粘着テープの基材が存在しないことから、ボーイング現象は抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[第1実施形態]
図1に示すように、オフライン延伸設備2は、TACフィルム3(以下、フィルム3)を延伸するものであり、フィルム供給室4と、テンタ部5と、熱緩和室6と、冷却室7と、巻取室8とを備え、これらがフィルム搬送方向Aに沿って順に配置されている。フィルム供給室4には溶液製膜設備で製造されたフィルムロール9が備えられている。フィルムロール9はフィルム3を巻芯に巻き取ってロール状にしたものである。フィルム供給室4に備えられたフィルムロール9からフィルム3が送り出され、このフィルム3がテンタ部5で加熱されながらフィルム幅方向に延伸され、この延伸したフィルム3が熱緩和室6及び冷却室7を経て温度が下げられて巻取室8で巻き取られる。テンタ部5ではフィルム3を幅方向に100.5%〜300%延伸する。
【0016】
フィルム供給室4は、ターレット型のフィルム送出装置10と、接合部11とを有する。フィルム送出装置10は、両端部に取付軸12が設けられたターレットアーム13を有する。各取付軸12にはフィルムロール9が装着される。ターレットアーム13は、180度間欠回転し、一方の取付軸12を送出位置(接合部11の側)に位置させ、他方の取付軸12を巻芯交換位置に位置させる。送出位置にある取付軸12に装着されたフィルムロール9からフィルム3が接合部11に送り出される。全てのフィルム3が送り出されるとターレットアーム13が回転し、巻芯交換位置に位置した取付軸12から空の巻芯が取り外されて新たなフィルムロールが装着される。
【0017】
図2及び図3に示すように、接合部11では、テンタ部5に連続したフィルム3を供給するために、先行して送り出された先行フィルム3aの後端部と、後行して送り出された後行フィルム3bの先端部とを、伸縮性を有する両面接合テープ20を介して重ね合わせて接合する。両面接合テープとしては、例えば、日東電工(株)製のNo.532の、基材としてポリエステル材料を用い、この基材の両面に粘着層が形成されたテープを用いる。
【0018】
先行フィルム3aと後行フィルム3bとを重ね合わせた領域を重ね合わせ領域22とし、両面接合テープ20によって接合する領域を接合領域21とするとき、フィルム搬送方向Aにおける接合領域21の長さL1は、フィルム搬送方向Aにおける重ね合わせ領域22の長さよりも短い(図3参照)。なお、接合領域21の長さL1を、フィルム搬送方向Aにおける重ね合わせ領域22の長さと等しくしてもよい。
【0019】
接合領域21のフィルム搬送方向Aでの寸法(両面接合テープ20のフィルム搬送方向Aでの寸法)は、フィルム幅の0.2%から2.2%の範囲内に設定する。すなわち、フィルム幅をWa、接合領域21のフィルム搬送方向Aでの寸法をL1とするとき、0.002Wa≦L1≦0.022Waの条件を満たすようにL1を設定する。接合領域21の寸法をフィルム幅の0.2%以上確保することにより、先行フィルム3aと後行フィルム3bとが確実に接合されて外れることがない。また、接合領域21の寸法をフィルム幅の2.2%以下にすることにより、接合領域21以外にボーイング現象が及ぶことが防止できる。本実施形態では、Wa=2500mm、L1=50mm(=0.02Wa)に設定している。
【0020】
先行フィルム3aと後行フィルム3bとを接合するときには、先行フィルム3aの後端部上面に両面接合テープ20を貼り付けてから、この両面接合テープ20に後行フィルム3bの先端部を重ね合わせて圧着する。このフィルムの接合は、自動で行うようにしてもよいし、簡易構成にする場合には人手により行うようにしてもよい。
【0021】
図1に示すように、フィルム供給室4とテンタ部5との間にはリザーバ24が配置されており、このリザーバ24は、フィルム接合処理に必要な長さ分以上のフィルム3のループを形成する。このため、フィルム接合時には、テンタ部5にはリザーバ24に収納されていたフィルム3が送り出されるから、テンタ部5を停止させることなくフィルム3の接合処理を行うことができる。
【0022】
図4に示すように、テンタ部5は、フィルム3をフィルム搬送方向Aに搬送しながら、フィルム3を幅方向に延伸するものであり、第1レール30と、第2レール31と、第1レール30に案内される第1チェーン32、第2レール31に案内される第2チェーン33を有する。テンタ部5は、図示しない乾燥室内に配置されている。乾燥室は、フィルム搬送方向Aに沿って順に、予熱ゾーン27、加熱ゾーン28、熱緩和ゾーン29に区画されており、ゾーン毎に最適なフィルム温度になるように図示しないダクトにより乾燥風が送られている。
【0023】
第1チェーン32は原動スプロケット35及び従動スプロケット36の間に掛け渡され、第2チェーン33は原動スプロケット37及び従動スプロケット38の間に掛け渡されている。各原動スプロケット35,37は、図示しない駆動機構により回転駆動される。
【0024】
第1チェーン32及び第2チェーン33には、クリップ39が一定間隔で多数取り付けられている。これらのクリップ39は、フィルム3の側縁部を把持しながら、各レール30,31に沿って移動することで、フィルム3を幅方向に延伸する。点PAはクリップ39のフィルム把持開始位置を示し、点PBはクリップ39のフィルム把持開放位置を示している。また、点PCはクリップ39による延伸開始位置を示し、点PDはクリップ39による延伸終了位置を示している。延伸処理により、フィルム3のフィルム幅はWaからWb(>Wa)になる。なお、フィルム3の延伸倍率は所望の光学特性等に合わせて適宜変更されるものである。
【0025】
図1に戻って、フィルム3は、テンタ部5で延伸された後、耳切装置40に送り出される。フィルム3は、耳切装置40によりその両側縁部が切り離しライン23(図2参照)で切り離され、切り離されたスリット状の側縁部である耳屑は、両面接合テープ20を含む部位が除去された後、カットブロア41で細かく小片にカットされる。カットされた耳屑小片は、図示しない風送装置によりクラッシャー42に送られ、粉砕されてチップとなる。このチップはフィルム原料として再利用される。耳切装置40によりその両側縁部が切り離されたフィルム3は、熱緩和室6に送られる。
【0026】
熱緩和室6には、多数のローラ43が備えられており、フィルム3はローラ43により熱緩和室6内を搬送される。熱緩和室6には、送風機(図示せず)から所望の温度の風が送り込まれてフィルム3が熱処理される。このときの風の温度は、20℃〜250℃であることが好ましい。フィルム3は徐々に温度を下げる。
【0027】
熱緩和後のフィルム3は冷却室7に送られて30℃以下に冷却された後、巻取室8に送られる。巻取室8の内部には、巻取ローラ44、プレスローラ45が設けられている。巻取室8に送られたフィルム3は、巻取ローラ44で巻き取られる。この際にプレスローラ45で押圧されて巻き取られる。
【0028】
フィルム3は、周知の溶液製膜方法で製造されるものであればよく、例えば、特開2005−104148号公報に記載されているTACフィルムを用いることができる。特に、製膜速度の向上を図るべく、冷却した流延ドラムの周面に、TACと溶媒とを含むドープを流延し、この流延膜が冷却ゲル化して自己支持性を有した後に剥ぎ取って、ピンテンタを経て乾燥させ巻取り収納したTACフィルムに対して、本発明を実施することにより、効率よく且つ無駄なく光学特性に優れたTACフィルムを製造することができる。
【0029】
上記構成によるオフライン延伸設備2によれば、先行フィルム3aと後行フィルム3bの接合領域21のフィルム搬送方向Aでの寸法を所定範囲内に規定したから、延伸処理及び熱緩和処理を施した後のフィルム3であっても、図5に示すように、接合領域21において、フィルム搬送方向Aに働く力自体が小さく、また、フィルム幅方向において端部と中央部との力の差が小さいことから、ボーイング現象は最小限に抑えられる。このため、ボーイング現象の影響は接合領域21の周囲には及ばないことから、従来に比べて製品にできる領域が広くできる。
【0030】
なお、上記実施形態では、先行フィルム3aと後行フィルム3bとの接合領域21のフィルム搬送方向Aでの寸法を、フィルム幅の0.2%から2.2%の範囲内に規定したが、フィルム幅の0.2%から1.0%の範囲内に規定することがより好ましく、この場合には、ボーイング現象をより小さく抑えることができる。
【0031】
[第2実施形態]
第1実施形態では、接合部11において、先行フィルム3aと後行フィルム3bとの接合に両面接合テープ20を用いたが、この替わりにヒートシーラ装置を用いて熱溶着により接合してもよい。図6に示すように、ヒートシーラ装置100は、フィルム3の搬送路を上下に挟むようにして設けられた上溶着ヘッド101及び下溶着ヘッド102とを備えている。上溶着ヘッド101は下面から露呈するヒータ103を有し、下溶着ヘッド102は上面から露呈するヒータ106を有する。各溶着ヘッド101,102は、図示しないシフト機構によって、ヒータ103,106をフィルム3に接触させる加熱位置とヒータ103,106をフィルム3から離す退避位置との間で移動する。各ヒータ103,106は、温調器104,107により温度制御される。
【0032】
ヒートシーラ装置100を用いてフィルムを接合する手順について説明する。先行フィルム3aの後端部に後行フィルム3bの先端部を重ね合わせる。上溶着ヘッド101及び下溶着ヘッド102を加熱位置に移動させる。各ヒータ103,106の温度は、フィルム3を溶解はするが分解はしない所定の温度、例えば150℃から299℃の範囲に設定する。各ヒータ103,106はフィルムを重ね合わせた領域内に接触させる。各ヒータ103,106により所定時間加熱することによりフィルムの一部が溶けて接着される。各ヒータ103,106は所定時間加熱した後に加熱を停止し、接合領域108を圧状態で自然冷却する。次に、上溶着ヘッド101及び下溶着ヘッド102を退避位置に移動させる。
【0033】
フィルム3の接合領域108を上下の両面から加熱することにより、フィルム3に効率的に熱を伝達させることが可能であり、接合領域108の温度を分解温度以下に保ったまま溶着して接合することができる。また、融解点と分解点が近いポリマーフィルムに対して、溶解部の孔開きや樹脂劣化を防止することもできる。
【0034】
上記構成によるヒートシーラ装置100で接合を行った場合には、接合領域108には異種材料が存在しないことから、延伸処理及び熱緩和処理を施した後のフィルム3のボーイング現象は最小限に抑えられる。また、接合領域108がフィルム原料として再利用できる。なお、ヒートシーラ装置100の替わりに、インパルスシーラ装置を用いてフィルムを熱溶着接合してもよい。
【0035】
[第3実施形態]
第1実施形態では、接合部11において、両面接合テープ20を用いてフィルム3を接合したが、この替わりに超音波接合装置を用いて熱溶着により接合してもよい。図7に示すように、超音波接合装置200は、振動子201、ホーン202、発信器203を備え、フィルム3を、例えば振幅0.03mm、毎秒2万〜2万8千回で機械的に振動させて発熱させて溶着する。振動子201は2個設けられており、2個の振動子201の間には永久磁石204が配され、2個の振動子201には、それぞれコイル205が巻き掛けられている。発信器203は、コイル205を介して振動子201を駆動させる。振動子201は、電気振動を機械的振動に変換する。ホーン202は、振動子201による機械的振動を拡大して、受台206に載せられた先行フィルム3aの後端部と後行フィルム3bの先端部とにエネルギーを与える(振動させる)。
【0036】
超音波接合装置200を用いてフィルムを接合する手順について説明する。先行フィルム3aの後端部に後行フィルム3bの先端部を重ね合わせる。発信器203が振動子201を駆動し、振動子201の機械的振動がホーン202で拡大されて、接合領域207が振動により発熱して溶着される。
【0037】
上記構成による超音波接合装置200で接合処理を行った場合には、接合領域207には異種材料が存在しないことから、延伸処理及び熱緩和処理を施した後のフィルム3においてボーイング現象は最小限に抑えられる。また、接合領域207の全てがフィルム原料として再利用できる。
【0038】
[第4実施形態]
第1実施形態では、接合部11において、両面接合テープ20を用いてフィルム3を接合したが、この替わりに、両面接合テープ20が貼り付けられた領域に、ポリマーの溶剤(例えばアセトン)を塗布して溶着してもよい。この場合には、接合領域には異種材料が存在しないことから、延伸処理及び熱緩和処理を施した後のフィルム3においてボーイング現象は最小限に抑えられる。また、接合領域の全てがフィルム原料として再利用できる。
【0039】
なお、フィルム3を接合するための溶剤としては、アセトンに限られず、ドープに用いられる溶媒のほか、フィルム3をなすポリマーを溶解させることができるものであればよい。
【0040】
[第5実施形態]
第1実施形態では、接合部11において、基材有りの両面接合テープ20を使用してフィルム3の接合を行ったが、この替わりに、基材無しの粘着層のみの両面接合テープを使用してもよい。この両面接合テープの粘着層にはフィルムを構成する材料と同じものが用いられている。この場合には、接合領域には異種材料が存在しないことから、延伸処理及び熱緩和処理を施した後のフィルム3においてボーイング現象は最小限に抑えられる。また、接合領域の全てがフィルム原料として再利用できる。
【0041】
(溶液製膜方法)
上記実施形態におけるフィルムは溶液製膜方法により得ることができる。溶液製膜方法を行う溶液製膜設備210は、図8に示すように、ストックタンク211と流延室212とピンテンタ213と乾燥室215と冷却室216と巻取室217とを有する。
【0042】
ストックタンク211は、モータ211aで回転する攪拌翼211bとジャケット211cとを備える。ストックタンク211の内部には、TACフィルム3の原料となるポリマーが溶媒に溶解したドープ221が貯留されている。ストックタンク211内のドープ221は、ジャケット211cにより温度が略一定となるように調整される。また、攪拌翼211bの回転によって、ポリマーなどの凝集を抑制しつつ、ドープ221を均一な品質に保持している。配管222は、ストックタンク211と流延ダイ230とを接続する。
【0043】
流延室212には、流延ダイ230、支持体としての流延ドラム232、剥取ローラ234、温調装置235,236、及び減圧チャンバ237が設置されている。流延ドラム232は図示を省略した駆動装置により軸232aを中心に、方向Z1へ回転する。流延室212内及び流延ドラム232は、温調装置235,236によって、流延膜233が冷却固化(ゲル化)し易い温度に設定されている。
【0044】
流延ダイ230は、幅方向TDに伸びるように形成されるスリットを有する。流延ダイ230は、スリットから回転する流延ドラム232の周面232bに向けて、ドープ221を吐出する。その後、流延ドラム232の周面232b上のドープ221から流延膜233が形成される。そして、流延ドラム232が約3/4回転する間に、ゲル化による自己支持性が流延膜233に発現し、流延膜233は剥取ローラ234によって流延ドラム232から剥ぎ取られ、湿潤フィルム238となる。剥ぎ取り時の流延膜233の残留溶媒量は、150重量%以上320重量%以下であることが好ましい。ここで、残留溶媒量とは、TACフイルム3等に残留する溶媒量を乾量基準で示したものであり、その測定方法は、対象のフイルム等からサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0045】
減圧チャンバ237は、流延ダイ230に対し、方向Z1の上流側に配置されており、減圧チャンバ237内を負圧に保ち、流延ビードの背面(後に、流延ドラム232の周面232bに接する面)側を所望の圧力に減圧する。流延ビードの背面側の減圧により、流延ドラム232の回転により発生する同伴風の影響を少なくし、流延ダイ230と流延ドラム232との間に安定した流延ビードを形成し、膜厚ムラの少ない流延膜233を形成することができる。
【0046】
流延ダイ230の材質は、電解質水溶液、ジクロロメタンやメタノールなどの混合液に対する高い耐腐食性、及び低い熱膨張率を有する素材から形成される。流延ダイ230の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。
【0047】
流延ドラム232の周面232bは、クロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。また、温調装置236は、流延ドラム232の周面232bの温度を所望の温度に保つために、流延ドラム232に伝熱媒体を循環させる。伝熱媒体は所望の温度に保持されており、流延ドラム232内の伝熱媒体流路を通過することにより、流延ドラム232の周面232bの温度が所望の温度に保持される。
【0048】
流延ドラム232の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。流延ドラム232の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム232の周面232bに施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0049】
また、流延室212内には、蒸発している溶媒を凝縮液化するための凝縮器(コンデンサ)239と凝縮液化した溶媒を回収する回収装置240とが備えられている。凝縮器239で凝縮液化した溶媒は、回収装置240により回収される。その溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
【0050】
流延室212の下流には、渡り部241、ピンテンタ213が順に設置されている。渡り部241では、搬送ローラ242が、湿潤フィルム238をピンテンタ213に導入する。ピンテンタ213は、湿潤フィルム238の両側縁部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。ピンプレートにより走行する湿潤フィルム238に対し乾燥風が送られ、湿潤フィルム238は乾燥し、フィルム220となる。
【0051】
ピンテンタ213は、フィルム220の両側縁部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を走行する。クリップにより走行するフィルム220に対し乾燥風が送られ、フィルム220には、フィルム幅方向TDへの延伸処理とともに乾燥処理が施される。
【0052】
ピンテンタ213の下流にはそれぞれ耳切装置243が設けられている。耳切装置243はフィルム220の両側縁部を裁断する。この裁断した両側縁部は、送風によりクラッシャ244に送られて、粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0053】
乾燥室215には、多数のローラ247が設けられており、これらにフィルム220が巻き掛けられて搬送される。乾燥室215の出口側には冷却室216が設けられており、この冷却室216でフィルム220が室温となるまで冷却される。冷却室216の下流には強制除電装置(除電バー)249が設けられており、フィルム220が除電される。さらに、強制除電装置249下流側には、ナーリング付与ローラ250が設けられており、フィルム220の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室217には、プレスローラ252を有する巻取機251が設置されており、フィルム220が巻き芯にロール状に巻き取られ、巻取機251により、フィルムロール255が得られる。フィルムロール255は、フィルムロール9として、巻取室217からオフライン延伸設備2のフィルム供給室4(図1参照)に送られ、フィルム供給室4からフィルム3として、送り出される。
【0054】
上記第1〜第5実施形態では、ポリマーフィルムとしてTACフィルムを用いて説明を行ったが、TACフィルムに限定されることなく、各種ポリマーフィルムにも本発明が適用できる。
【0055】
本発明に用いることのできるポリマーフィルムとしては、例えば、セルロースアシレートフィルムのほか、溶液製膜方法によって製造され、環状オレフィン等、他のポリマーからなるポリマーフィルムや、溶融製膜方法によって製造されたポリマーフィルムがある。
【0056】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわちアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBはアシル基の置換度を表わし、置換度Aはアセチル基の置換度、また置換度Bは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0057】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0058】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0059】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0060】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0061】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0062】
(溶媒)
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0063】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0064】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
【0065】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明にも適用できる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
【0066】
(溶融製膜設備)
次に、溶融製膜方法によりポリマーフィルムを製造する製造設備(以下、溶融製膜設備と称す)について説明する。溶融製膜設備410は、図9に示すように、液晶表示装置等に使用できる熱可塑性フィルムFを製造する装置である。熱可塑性フィルムFの原材料であるペレット状の熱可塑性樹脂を乾燥機412に導入して乾燥させた後、このペレットを押出機414によって押し出し、ギアポンプ416によりフィルタ418に供給する。次いで、フィルタ418により異物がろ過され、ダイ420から溶融樹脂(溶融した熱可塑性樹脂)が押し出される。溶融樹脂は、第1キャスティングロール428とタッチロール424で挟まれて押圧成形された後、第1キャスティングロール428にて冷却固化されて所定の表面粗さのフィルム状とされ、さらに、第2キャスティングロール426、第3キャスティングロール427によって搬送されることで未延伸フィルムFaが得られる。この未延伸フィルムFaは、この段階で巻き取られてもよいし、連続的に長スパン延伸を行う横延伸部442に供給されてもよい。また、一度巻き取られた未延伸フィルムFaを再度横延伸部442に供給しても、連続的に長スパン延伸を行う横延伸部442に供給した場合と同様の効果が得られる。
【0067】
横延伸部442では、未延伸フィルムFaが搬送方向(以下、MD方向と称する)と直交する幅方向(以下、TD方向と称する)に延伸され、横延伸フィルムFbとされる。横延伸部442の上流側に予熱部436を設けてもよいし、横延伸部442の下流側に熱固定部444を設けてもよい。これにより、延伸中のボーイング(光学軸のズレ)を小さくできる。予熱温度は横延伸温度より高いこと、熱固定温度は横延伸温度より低いことが好ましい。すなわち、通常、ボーイングは幅方向中央部が進行方向に向かって凹となるが、予熱温度>横延伸温度、横延伸温度>熱固定温度とすることによりボーイングを低減できる。予熱処理、熱固定処理はどちらか一方でもよく、両方行ってもよい。
【0068】
横延伸の後に後熱処理を行なった後、熱処理ゾーン446でMD方向に横延伸フィルムFbを収縮させる。熱処理ゾーン446では、図10に示すように、横延伸フィルムFbの側端部をチャックで把持しない状態で、TD方向の収縮が起こらずに、MD方向の収縮のみが起こるように複数のロール448a〜448dで横延伸フィルムFbを搬送する。このとき、図11に示すように、複数のロール448a〜448dは、ロールラップ長(D)とロール間長(G)の比(G/D)が0.01以上3以下となるように配置される。これにより横延伸フィルムFbと各ロール448〜448dとの摩擦によりTD方向の収縮が抑制される。そして、横延伸フィルムFbは、上流側のロール448aによる周速度(V1)と下流側のロール448dによる周速度(V2)の比(V2/V1)が0.6以上0.999以下で搬送しながら熱処理される。つまり、横延伸フィルムFbは熱処理ゾーンにてMD方向に収縮する。
【0069】
横延伸フィルムFbが熱処理ゾーンにて熱処理されることで、配向角、レターデーションが調整された最終製品である熱可塑性フィルムFが製造される。このフィルムFは巻取部449によって巻き取られる。
【0070】
TD方向への延伸の前又は後にMD方向の延伸を行ってもよい。MD方向の延伸は、MD方向に並ぶ複数のニップロール対を用いてフィルムを搬送し、上流側のニップロール対の周速度より下流側のニップロール対の周速度を速くすることで達成できる。MD方向におけるニップロール間の距離(L)と上流側のニップロール対でのフィルム幅Wの比(L/W)の大きさで延伸方式が異なり、L/Wが小さいと特開2005−330411号公報、特開2006−348114号公報記載のようなMD方向の延伸方式を採用できる。この方式は、Rthが大きくなり易いが装置をコンパクトにすることができる。一方、L/Wが大きい場合は特開2005−301225号公報記載のようなMD方向の延伸方式を用いることができる。この方式はRthを小さくできるが、装置が長大になり易い。
【0071】
溶融製膜方法に用いることのできるポリマーは、熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状オレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状オレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状オレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状オレフィンである。
【0072】
(環状オレフィン)
環状オレフィンはノルボルネン系化合物から重合されるものが好ましい。この重合は開環重合、付加重合いずれの方法でも行える。付加重合としては例えば特許3517471号公報記載のものや特許3559360号公報、特許3867178号公報、特許3871721号公報、特許3907908号公報、特許3945598号公報、特表2005−527696号公報、特開2006−28993号公報、国際公開第2006/004376号パンフレットに記載のものが挙げられる。特に好ましいのは特許3517471号公報に記載のものである。
【0073】
開環重合としては国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報、特許3220478号公報、特許3273046号公報、特許3404027号公報、特許3428176号公報、特許3687231号公報、特許3873934号公報、特許3912159号公報記載のものが挙げられる。なかでも好ましいのが国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報記載のものである。
【0074】
これらの環状オレフィンの中でも付加重合のものの方がより好ましい。
【0075】
(ラクトン環含有重合体)
下記(一般式1)で表されるラクトン環構造を有するものを指す。
【0076】
【化1】
【0077】
(一般式1)中、R1,R2,R3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0078】
(一般式1)のラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。
【0079】
(一般式1)で表されるラクトン環構造以外に、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記(一般式2)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0080】
【化2】
【0081】
(一般式2)中、R4は水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R5基、又は−C−O−R5基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R5及びR5は水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。
【0082】
例えば、国際公開第2006/025445号パンフレット、特開2007−70607号公報、特開2007−63541号公報、特開2006−171464号公報、特開2005−162835号公報記載のものを用いることができる。
【実施例】
【0083】
(実験1〜3)
次に、実験1〜3について説明する。フイルム製造に使用したポリマー溶液(ドープ)の調製に際しての配合を下記に示す。
【0084】
[ドープの調製]
原料ドープの調製に用いた化合物の処方を下記に示す。
セルローストリアセテート(置換度2.86) 89.3重量%
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.1重量%
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 3.6重量%
の組成比からなる固形分(溶質)を
ジクロロメタン 80重量%
メタノール 13.5重量%
n−ブタノール 6.5重量%
からなる混合溶剤に適宜添加し、攪拌溶解して原料ドープを調製した。なお、原料ドープのTAC濃度は略23重量%になるように調整した。原料ドープを濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した後にストックタンクに入れた。
【0085】
[セルローストリアセテート]
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1重量%以下であり、Ca含有率が57ppm、Mg含有率が41ppm、Fe含有率が0.4ppmであり、遊離酢酸38ppm、さらに硫酸イオンを13ppm含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.91であった。また、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基の水素が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8重量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であった。このTACは、綿から採取したセルロースを原料として合成されたものである。
【0086】
[マット剤液の調製]
下記の処方からマット剤液を調製した。
シリカ(日本アエロジル(株)製アエロジルR972) 0.67重量%
セルローストリアセテート 2.93重量%
トリフェニルフォスフェート 0.23重量%
ビフェニルジフェニルフォスフェート 0.12重量%
ジクロロメタン 88.37重量%
メタノール 7.68重量%
上記処方からマット剤液を調製して、アトライターにて体積平均粒径0.7μmになるように分散を行った後、富士フイルム(株)製アストロポアフィルタにてろ過した。そして、マット剤液用タンクに入れた。
【0087】
[紫外線吸収剤溶液の調製]
下記の処方から紫外線吸収剤溶液を調製した。
2(2´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−tert―ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール 5.83重量%
2(2´−ヒドロキシ3´,5´−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール 11.66重量%
セルローストリアセテート 1.48重量%
トリフェニルフォスフェート 0.12重量%
ビフェニルジフェニルフォスフェート 0.06重量%
ジクロロメタン 74.38重量%
メタノール 6.47重量%
上記処方から紫外線吸収剤溶液を調製し、富士フイルム(株)製のアストロポアフィルタにてろ過した後に紫外線吸収剤液法用タンクに入れた。
【0088】
図8に示すように、溶液製膜設備210を用いてフイルム220を製造した。紫外線吸収剤溶液にマット剤液を混合し、インラインミキサで混合攪拌して混合添加剤を得た。添加剤供給ラインは、混合添加剤を配管内に送液した。インラインミキサは原料ドープと混合添加剤とを混合攪拌して流延ドープを得た。流延ドラム232は、制御部の制御の下、軸232aを中心に回転し、走行方向Z1における周面232bの速度を50m/分以上200m/分以下の範囲内でほぼ一定となるように保持した。流延ドラム232の周面232bの温度を、−10℃以上10℃以下の範囲内でほぼ一定となるように保持した。流延ダイ230は、流延ドープを周面232b上に流延し、周面232bに流延膜233を形成した。冷却により、流延膜233が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ234を用いて、流延ドラム232から流延膜233を湿潤フイルム238として剥ぎ取った。剥取不良を抑制するために流延ドラム232の速度に対する剥取速度(剥取ローラドロー)を、100.1%〜110%の範囲で適切に調整した。湿潤フイルム238は、渡り部241、ピンテンタ213、及び乾燥室215へ順次案内された。渡り部241、ピンテンタ213、及び乾燥室215では、湿潤フイルム238に乾燥空気をあてて、所定の乾燥処理を行った。この乾燥処理によって得られるフイルム220を冷却室216に送った。冷却室216では、フイルム220を30℃以下になるまで冷却した。その後、フイルム220に、除電処理、ナーリング付与処理などを行った後、巻取室217に搬送した。巻取室217では、フイルム220は、プレスローラ252で所望のテンションを付与されながら、巻取機251の巻き芯に巻き取られ、フイルムロール255となった。フイルムロール255を、オフライン延伸装置2に送った。
【0089】
上記第1実施形態のオフライン延伸設備2を用いてフィルム3の延伸処理を実施した。フィルム3の熱緩和処理を終えた後に、フィルム3に生じたボーイング現象に関する評価を行った。実験1〜3におけるフィルム幅Wa、接合領域21のフィルム搬送方向Aでの長さL1は、表1に示す通りである。フィルム3の厚みは80μmであり、両面接合テープ20の厚みは60μmである。両面接合テープ20の基材にはポリエステルフィルムが用いられ、粘着層にはアクリル系のものが用いられている。テンタ部5でのフィルム3の延伸倍率は140%であり、延伸時のフィルム温度は200℃である。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
ここで、ボーイング現象とは、テンタ部5の入口でフィルム3にフィルム幅方向に描いた直線が、テンタ部5及び熱緩和室6を経て弓なりの曲線に変わる現象であり、ボーイング量とは、この弓なりの曲線の最も凹んだ点(通常はフィルム中央部)と最も突出した点(通常はフィルム両縁部)のフィルム搬送方向での寸法差を示すものである。さらに、ボーイングひずみとは、フィルム幅に対するボーイング量の比率を示すものである。
【0092】
実験1では、ボーイングひずみが0.16%であり、この値であればボーイング現象の影響は接合領域21の周囲には及ばない。実験1は評価「○」である。実験2では、ボーイングひずみが0.23%であり、この値はボーイング現象の影響が接合領域21の周囲に及ぶことがない限界の値である。すなわち、ボーイングひずみが0.23%を超えると、ボーイング現象の影響が接合領域21の周囲に強く及びはじめる。実験2は、評価「○」である。実験3では、ボーイングひずみが1.09%であり、ボーイング現象の影響が接合領域21の周囲に強く及んでいた。実験3は評価「×」である。
【0093】
(実験11〜実験13)
溶融製膜方法を用いて、特開2007−98917の実施例1のセルロースアセテートプロピオネート(表1では、「CAP」と表記する)フイルム(厚み100μm)を得たこと、及び各条件を表1に示す値としたこと以外は、実験1〜3と同様にして、実験11〜13を行った。
【0094】
(実験21〜実験23)
溶融製膜方法を用いて、特開2007−169588号公報の実施例Bの実施例101に従いセルロースアシレートフイルム(厚み=100μm、Tg=131℃)を得たこと、及び各条件を表1に示す値としたこと以外は、実験1〜3と同様にして、実験21〜23を行った。
【0095】
(実験31〜実験33)
溶液製膜方法を用いて、特開2001−188128の実施例1に記載のフイルムNo.1(セルロースアセテートプロピオネート:厚み100μm)得たこと、及び各条件を表1に示す値としたこと以外は、実験1〜3と同様にして、実験31〜33を行った。
【0096】
(実験41〜実験43)
溶融製膜方法を用いて、シクロオレフィン樹脂A(表1では、「シクロオレフィン」と表記する)からポリマーフイルムを得たこと、及び各条件を表1に示す値としたこと以外は、実験1〜3と同様にして、実験41〜43を行った。
シクロオレフィン樹脂A(付加重合系):ポリプラスチックス(株)製TOPAS6013(Tg=130℃)
【0097】
実験41〜実験43における溶融製膜方法の詳細は次の通りである。シクロオレフィン樹脂Aを110℃の真空乾燥機で乾燥し含水率を0.1%以下とした後、1軸混練押出し機を用い260℃で溶融しギアポンプから送り出した後、濾過精度5μmのリーフディスクフィルタにて濾過し、スタティックミキサーを経由してスリット間隔0.8mm、270℃のハンガーコートダイから、(Tg−5)℃、Tg℃、(Tg−10)℃に設定した3連のキャストロール上にメルト(溶融樹脂)を押出した。この時、最上流側のキャストロールに面圧0.1MPaでタッチロールを接触させ、厚み100μmの未延伸フイルムを製膜した。タッチロールは特開平11−235747号公報の実施例1に記載のもの(二重抑えロールと記載のあるもの)を用い、Tg−5℃に調温した(但し薄肉金属外筒厚みは2mmとした)。
【0098】
この後、巻き取り直前に両端(全幅の各3%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ20μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた。各水準とも、幅は1.5mで30m/分で3000m巻き取った。
【0099】
(実験51〜実験53)
溶融製膜方法を用いて、ラクトン環含有重合体樹脂(表1では、「ラクトン」と表記する)からなるポリマーフイルムを得たこと、及び各条件を表1に示す値としたこと以外は、実験1〜3と同様にして、実験51〜53を行った。実験51〜実験53における溶融製膜方法は、国際公開第2006/025445号パンフレット記載の実施例1に従った。但し、フイルム幅は1.5mで製膜した。これらの原反(未延伸フイルム)の厚みは全て100μmで調製した。
【0100】
実験11〜53にて、ボーイングひずみについて評価したところ、実験1〜3と同様の傾向の結果を得ることができた。
【0101】
以上の各実験より、本発明によれば、各種のポリマーフイルムにおいて、ボーイング現象を最小限に抑えることができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】オフライン延伸設備の概略構成図である。
【図2】先行フィルム及び後行フイルムの斜視図である。
【図3】先行フィルムと後行フィルムの接合領域の断面図である。
【図4】テンタ部の概略構成図である。
【図5】延伸処理及び熱緩和処理を施した後のフィルムを示す図である。
【図6】ヒートシーラ装置の概略構成図である。
【図7】超音波接合装置の概略構成図である。
【図8】溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図9】溶融製膜設備の概要を示す説明図である。
【図10】熱処理ゾーンにおける複数のロールの配置状態を示す斜視図である。
【図11】熱処理ゾーンにおける複数のロールのロールラップ長(D)及びロール間長(G)を示す説明図である。
【図12】延伸処理及び熱緩和処理を施した後の従来のフィルムを示す図である。
【符号の説明】
【0103】
2 オフライン延伸設備
3 フィルム
3a 先行フィルム
3b 後行フィルム
5 テンタ部
6 熱緩和室
20 両面接合テープ
21 接合領域
100 ヒートシーラ装置
200 超音波接合装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行するポリマーフィルムの後端部と後行するポリマーフィルムの先端部とを両面接合テープを介して重ね合わせて接合する接合工程と、接合された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら、前記ポリマーフィルムを加熱して前記ポリマーフィルムの両側縁部を複数のクリップにより把持してフィルム幅方向に延伸する延伸工程と、延伸された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら応力緩和のための熱処理を行う熱緩和工程とを有するポリマーフィルムの延伸方法において、
前記接合工程では、先行するポリマーフィルムと後行するポリマーフィルムとの接合領域の前記ポリマーフィルムの搬送方向における長さを、フィルム幅の0.2%から2.2%の範囲内にすることを特徴とするポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項2】
先行するポリマーフィルムの後端部と後行するポリマーフィルムの先端部とを重ね合わせて接合する接合工程と、接合された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら、前記ポリマーフィルムを加熱して前記ポリマーフィルムの両側縁部を複数のクリップにより把持してフィルム幅方向に延伸する延伸工程と、延伸された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら応力緩和のための熱処理を行う熱緩和工程とを有するポリマーフィルムの延伸方法において、
前記接合工程は、フィルム同士が重なり合う部分を溶着して接合することを特徴とするポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項3】
前記接合工程は、ヒートシーラ装置により熱溶着することを特徴とする請求項2記載のポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項4】
前記接合工程は、超音波接合装置により熱溶着することを特徴とする請求項2記載のポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項5】
前記接合工程は、ポリマーの溶剤を用いて溶着することを特徴とする請求項2記載のポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項6】
先行するポリマーフィルムの後端部と後行するポリマーフィルムの先端部とを重ね合わせて接合する接合工程と、接合された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら、前記ポリマーフィルムを加熱して前記ポリマーフィルムの両側縁部を複数のクリップにより把持してフィルム幅方向に延伸する延伸工程と、延伸された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら応力緩和のための熱処理を行う熱緩和工程とを有するポリマーフィルムの延伸方法において、
前記接合工程は、基材を有しない粘着層のみの両面粘着テープにより接合することを特徴とするポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項1】
先行するポリマーフィルムの後端部と後行するポリマーフィルムの先端部とを両面接合テープを介して重ね合わせて接合する接合工程と、接合された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら、前記ポリマーフィルムを加熱して前記ポリマーフィルムの両側縁部を複数のクリップにより把持してフィルム幅方向に延伸する延伸工程と、延伸された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら応力緩和のための熱処理を行う熱緩和工程とを有するポリマーフィルムの延伸方法において、
前記接合工程では、先行するポリマーフィルムと後行するポリマーフィルムとの接合領域の前記ポリマーフィルムの搬送方向における長さを、フィルム幅の0.2%から2.2%の範囲内にすることを特徴とするポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項2】
先行するポリマーフィルムの後端部と後行するポリマーフィルムの先端部とを重ね合わせて接合する接合工程と、接合された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら、前記ポリマーフィルムを加熱して前記ポリマーフィルムの両側縁部を複数のクリップにより把持してフィルム幅方向に延伸する延伸工程と、延伸された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら応力緩和のための熱処理を行う熱緩和工程とを有するポリマーフィルムの延伸方法において、
前記接合工程は、フィルム同士が重なり合う部分を溶着して接合することを特徴とするポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項3】
前記接合工程は、ヒートシーラ装置により熱溶着することを特徴とする請求項2記載のポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項4】
前記接合工程は、超音波接合装置により熱溶着することを特徴とする請求項2記載のポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項5】
前記接合工程は、ポリマーの溶剤を用いて溶着することを特徴とする請求項2記載のポリマーフィルムの延伸方法。
【請求項6】
先行するポリマーフィルムの後端部と後行するポリマーフィルムの先端部とを重ね合わせて接合する接合工程と、接合された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら、前記ポリマーフィルムを加熱して前記ポリマーフィルムの両側縁部を複数のクリップにより把持してフィルム幅方向に延伸する延伸工程と、延伸された前記ポリマーフィルムを連続して搬送しながら応力緩和のための熱処理を行う熱緩和工程とを有するポリマーフィルムの延伸方法において、
前記接合工程は、基材を有しない粘着層のみの両面粘着テープにより接合することを特徴とするポリマーフィルムの延伸方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−90650(P2009−90650A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238158(P2008−238158)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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