説明

ポリマーマトリックス中に細孔を形成するための方法

【課題】ポリマーマトリックス中に制御された形状、寸法および分布の細孔を形成するための方法を提供する。
【解決手段】非重合ポリマーマトリックスまたは少なくとも1種の溶媒の非重合ポリマーマトリックス懸濁液もしくは溶液にシリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーを埋め込むステップと、ポリマーマトリックスを硬化させるステップと、化学的処理によってシリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーを除去するステップとを含む。
【効果】プロトン交換膜燃料電池活性層の製造に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーマトリックス中に制御された形状、寸法および分布の細孔を形成するための方法に関する。本発明はまた、プロトン交換膜燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーマトリックス中に制御された形状、寸法および分布の細孔を形成することは、電気化学的デバイス(センサ、バッテリ等)を使用する用途や、フィルタなどの多孔質材料を必要とする任意のシステムなど、多くの用途において重要である。
【0003】
特に、プロトン交換膜燃料電池の活性層の製造において重要である。
【0004】
プロトン交換膜燃料電池の活性層は、電気化学反応の、すなわち、水素の酸化(アノードについて)の、また酸素の還元(カソードについて)の部位であり、これらの反応により水が生成される。これらの反応は、反応速度論の加速を可能にする触媒、電子を収集するための電子伝導体、プロトン伝導体およびガス反応物が共存する領域で起こる。
【0005】
したがって、活性層は、
・膜から反応部位へのプロトンの輸送を可能にするためにプロトン伝導性であり、
・反応部位からへ集電体への電子の輸送を可能にするために電子伝導性であり、かつ
・a.単極性プレートから反応部位へのガスのアクセスを可能にし、
b.反応部位から単極性プレートへの水の排出を可能にするために多孔質でなければならない複合材料である。
【0006】
活性層は、電子、プロトン、ガスおよび液体の水の輸送現象の結合の部位である。
【0007】
活性層においては、電気的活性表面積は、最も有利な性能を得るために、所与の幾何学的表面積について、また所与の触媒量について可能な限り大きくなくてはならない。
【0008】
現在、使用する触媒は一般的に白金であり、所与の白金重量について可能な限り触媒表面積を増大させるために、その直径が数ナノメートル程度である球形粒子の形で供給される。これらの触媒粒子は、その直径が数十ナノメートル程度(20〜80nmを含めた)である炭素粒子上に堆積され、凝集体の形で存在することができる。触媒は、平面または構造化膜の形であってもよい。この組み合わさった生成物は、「白金黒(platinized)炭素」または「Pt/C」として知られている。この伝導性物質は、その化学安定性およびそのコストにより選択された。プロトン伝導体はアイオノマー、すなわち、ポリマー電解質(たとえば、ペルフルオロスルホン酸(perfluorosulfonated)型の)である。これらの成分を混合することにより、多孔質構造が得られる。
【0009】
通常、活性層は2つの異なるやり方で作製される。
【0010】
・アイオノマーおよび白金黒炭素を溶媒に懸濁させる。続いてインクとして知られるこの懸濁液を、溶媒の蒸発後に活性層を形成するために膜上または拡散層上に堆積させる。得られた構造は多孔質である。
【0011】
・白金黒炭素とプロトン伝導体ではないポリマー結合剤とを含むあらかじめ製造した多孔質層に、(たとえば、噴霧によって)アイオノマーを含浸させる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】P.Gentileら、Nanotechnologie、19(2008)、125608ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
構造的見地からすると、これらの活性層において、アイオノマーは白金黒炭素の粒子を覆う。したがって、ガスは、反応部位に到達する前にアイオノマーを通過しなければならない。これにより、ガスの触媒部位へのアクセスが制限され、したがって電池の性能が低下する結果となる。
【0014】
さらに、アイオノマーの、また白金の分布は不十分にしか制御されず、触媒を不十分にしか使用することができない。
【0015】
最後に、使用する触媒の性質によって強いられるこれらの製造方法を用いて活性層の構造(細孔の直径、分布、電気的活性表面積)を、したがって電気的活性表面を制御することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
これに関連して、本発明は、ポリマーマトリックス中に制御された形状、寸法および分布の細孔を形成するための方法を提供する。この方法により、特にプロトン交換膜燃料電池の活性層の製造に適用された場合、ガスが触媒の反応表面に到達するためにアイオノマーを通過する必要がない活性層を得ることが可能となる。
【0017】
この目的のために、ポリマーマトリックス中に制御された形状、寸法および分布の細孔を形成するための方法を提供する。この方法は、
−非重合ポリマーマトリックスまたは少なくとも1種の溶媒の非重合ポリマーマトリックス懸濁液もしくは溶液にシリコンナノワイヤおよび/またはナノツリー(nanotree)を埋め込むステップと、
−ポリマーマトリックスを硬化させるステップと、
−化学的処理によってシリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーを除去するステップとを含む。
【0018】
本発明の好ましい一実施形態においては、ポリマーマトリックスが少なくとも1種のアイオノマーを含む。
【0019】
最も好ましくは、ポリマーマトリックスがアイオノマーで構成される。
【0020】
より具体的に、また好ましくは、アイオノマーがペルフルオロスルホン酸化ポリマーである。
【0021】
ポリマーマトリックス中に細孔を形成するためのこの方法は、シリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーを成長させるステップを含むことができ、このステップが支持体上で行われ、支持体はその後、ポリマーマトリックスを硬化させるステップと、化学的処理によってシリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーを除去するステップとの間で撤収される。
【0022】
本発明はまた、プロトン交換膜燃料電池活性層を製造する方法も提供する。この方法は、
a)本発明による方法によって、アイオノマーを含むまたは好ましくはアイオノマーで構成されるポリマーマトリックス中に制御された形状、寸法および分布の細孔を形成するステップと、
b)形成された細孔に少なくとも1種の触媒を堆積させるステップとを含む。
【0023】
本発明はまた、プロトン交換膜燃料電池活性層を製造するための方法も提供する。この方法は、
a)本発明の方法によって、アイオノマーを含むまたは好ましくはアイオノマーで構成されるポリマーマトリックス中に制御された形状、寸法および分布の細孔を形成するステップと、
b)ポリマーマトリックスにこれらのナノワイヤおよび/またはナノツリーを埋め込むステップの前に、ナノワイヤおよび/またはナノツリー上に少なくとも1種の触媒を堆積させるステップとを含む。
【0024】
本発明はさらに、ポリマーマトリックス中で覆われている少なくとも1種の触媒を備える型のプロトン交換膜燃料電池活性層を提供する。このプロトン交換膜燃料電池活性層は開放細孔を備え、その内壁が少なくとも1種の触媒で覆われ、触媒が前記ポリマーマトリックスで完全には覆われていない。
【0025】
最後に、本発明は、本発明による活性層を、または本発明による活性層を製造するための方法によって得られる活性層を備えるプロトン交換膜燃料電池を提供する。
【0026】
図面を参照しながら以下の例示的な説明を読むと、本発明のさらなる理解が得られ、本発明の他の利点および特定がより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】シリコンナノワイヤを示す概略図である。
【図2】シリコンナノツリーを示す概略図である。
【図3】支持体上でのその成長後のシリコンナノワイヤを示す概略図である。
【図4】その支持体に接着され、触媒粒子で覆われたシリコンナノワイヤを示す概略図である。
【図5】その支持体に接着され、触媒粒子で覆われ、アイオノマーで構成されるポリマーマトリックスに埋め込まれているシリコンナノワイヤを示す概略図である。
【図6】プロトン伝導膜によって分離されている図5による活性層2つで構成されている3層組立体を示す図である。
【図7】各活性層から支持体を撤収した後の、図6の開放気孔率を有する3層組立体を示す図である。
【図8】図7に示す3層組立体におけるナノワイヤを取り除いた後に得られる、各活性層が開放気孔率を有する本発明による3層組立体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本説明において、また特許請求の範囲において、
−用語「ナノワイヤ」とは、図1に1で示すような少なくとも1つの寸法が100nm未満であるワイヤを意味する。
【0029】
−用語「ナノツリー」とは、図2に2で示すような分岐構造を表し、この構造の各分岐の少なくとも1つの寸法が100nm未満である。
【0030】
−用語「硬化」とは、関与する重合の種類にかかわらず、すなわち、熱重合であるか、光重合であるか、または化学重合であるかにかかわらずポリマーマトリックスの重合も、また非重合ポリマーマトリックスをその中に懸濁または溶解させた(1種または複数種の)溶媒の蒸発による硬化も共に指す。
【0031】
−用語「非重合ポリマーマトリックス」とは、未硬化ポリマーマトリックスまたは1種もしくは複数種の溶媒の未硬化ポリマーマトリックス懸濁液もしくは溶液を指す。それは、非常に粘度が低い溶液または懸濁液であっても、粘度がより高い溶液または懸濁液であってもよく、重要な点は、未硬化ポリマーマトリックスの粘度により、それを支持体の上に注ぐこと、蒸発させること等が可能となることである。
【0032】
−用語「アイオノマー」とは、公知のように、イオン伝導性を有するポリマー電解質を意味する。
【0033】
本発明は、制御された形状、寸法および分布の細孔を形成するために、「失われる(lost)」モールド、すなわち、この方法の最後には取り除かれることになるモールドとしてのシリコンベースの構造の使用に基づいている。
【0034】
これらのシリコンベースの構造は、シリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーから形成される。
【0035】
したがって、細孔は、ナノワイヤから作製される場合線状でもよく、分岐シリコン構造から作製される場合には分岐していてもよく、線状細孔と分岐細孔との混合構造を形成することもできる。
【0036】
したがって、本発明による、ポリマーマトリックス中に制御された形状、寸法および分布の細孔を形成するための方法は、未硬化(非重合)ポリマーマトリックスまたは少なくとも1種の溶媒の未硬化(非重合)ポリマーマトリックス懸濁液もしくは溶液に、シリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーを埋め込むステップを含む。このポリマーマトリックスをその後硬化させ、シリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーを化学的処理によって取り除く。
【0037】
有利には、本発明のポリマーマトリックス中に細孔を形成するための方法は、シリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーを埋め込むステップの前に、これらナノワイヤおよび/またはナノツリーを成長させるステップを含む。
【0038】
好ましくは、この成長ステップを、それ自体はポリマーマトリックスに埋め込まれることはない支持体上で行う。
【0039】
しかしながら、本発明の細孔を形成するための方法は、あらかじめ形成されたシリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーを用いて実施することができることが当業者には明らかであろう。
【0040】
本発明の方法により、支持体を撤収しシリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーを取り除いた後、開放細孔を有する構造を得ることが可能となる。
【0041】
一般に、ポリマーマトリックスは、その能力が細孔を製造する様々なステップに耐えるように選択されることにもなる。
【0042】
本発明の好ましい一実施形態においては、ポリマーマトリックスがアイオノマーを含む。ポリマーマトリックスは、好ましくはペルフルオロスルホン酸化ポリマー、たとえばNafion(登録商標)などのアイオノマーで構成される。
【0043】
これは、この場合、細孔内に少なくとも1種の触媒を堆積させることによってプロトン交換膜燃料電池用活性層を製造することが可能であるからである。
【0044】
この少なくとも1種の触媒、好ましくは白金の堆積は、2通りの異なるやり方で行うことができる。
【0045】
第1のやり方は、ポリマーマトリックスを用いてシリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーを埋め込む前に、シリコンナノワイヤおよび/またはナノツリー上に白金を堆積させることにある。
【0046】
シリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーの除去後、触媒は、ポリマーマトリックス中にこのようにして形成された細孔の壁上および底部に残存したままとなる。先行技術において起こることに反して、触媒はポリマーマトリックスで完全に覆われることはない。
【0047】
一方、細孔への触媒の堆積は、細孔の形成後、すなわち、シリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーの除去後に行うことができる。この場合にも同様に、触媒はポリマーマトリックスで完全には覆われない。
【0048】
本発明の方法によって得られるプロトン交換膜燃料電池活性層は、出願人の知る限りでは、本発明よりも前に得られることがなかった開放細孔のみを、またもっぱら開放細孔を有する。
【0049】
もっぱら開放細孔を有するこの構造は、数々の利点を示す。
【0050】
まず第一に、細孔の形成後に触媒を導入することができる。
【0051】
一方で、特に、反応性ガスが、先行技術の構造とは対照的に、触媒部位に到達するためにアイオノマーを通過する必要がない。ガスは細孔構造を通過して触媒まで到達し、この触媒上で交換が起こり、最大でも約1ナノメートルの距離にわたる触媒の表面を経由してアイオノマーまで到達することができる。電子は、触媒であってもよい電子伝導層によって収集されて膜の表面まで到達する。
【0052】
これは、本発明の方法では、触媒がポリマーマトリックス中で完全にコーティングされているわけではなく、触媒の表面の大部分が自由であるからである。これは、触媒が多孔質ポリマーマトリックス中で「コーティング」され、したがってこれにより触媒の活性表面の大部分が覆われる先行技術の方法では得られなかった。
【0053】
さらに、水は、アイオノマーで構成されている活性層の表面の一部を介して好ましくは排出させることができ、反対方向に生じる反応物の流れを妨げにくい。
【0054】
開放細孔を有するこのような構造により、同じ重量の触媒について、触媒のより優れた使用、すなわち、より優れた性能が可能となる。
【0055】
触媒は、粒子の形で、または平坦膜もしくは構造化膜の形で堆積させることができる。
【0056】
したがって、このような活性層を含む膜を備える燃料電池もまた、本発明の主題である。
【0057】
本発明をより良く理解するために、これからいくつかの実施形態について、単に例示的で非限定的な例として説明する。
【実施例1】
【0058】
シリコン構造の成長を含む、プロトン交換膜燃料電池用活性層を2つ有する組立体の製造
本実施例は、図3〜8を参照しながら説明する。
【0059】
1)ステップ1:
第1のステップにおいては、シリコン構造、この例においては図3に1で示すナノワイヤを備える構造を、図3に3で示す支持体上に成長させる。
【0060】
支持体3は金属、酸化物または半導体材料でよい。本実施例においては、シリコンで作製された支持体を使用する。このシリコンは、<100>、<111>または<110>型のnドープまたはpドープされているシリコンでもよい。
【0061】
図3に4で示す支持構造が得られる。
【0062】
シリコンナノワイヤ4で形成されるこの構造は、たとえば、P.Gentileら、Nanotechnologie、19(2008)、125608ページに記載されているように成長させる。
【0063】
より一般的には、これらシリコンナノワイヤの構造の成長は、レーザーアブレーションを施したシリコン粒子またはシランなどの反応性ガスであってもよい材料源を用いて行われる。
【0064】
この材料源はその後、ナノワイヤの成長をもたらす触媒と反応する。最高の収率をもたらす、ナノワイヤの成長に使用する触媒は通常、液体状(コロイド溶液)または固体状(ナノ凝集体)の金属触媒である。これらの金属触媒は、いくつかのやり方で、たとえば、コロイド溶液の液滴の単純な堆積によって、または支持体上にあらかじめ堆積させた自己組織化(self−assembled)薄膜の熱的脱濡れ(thermal dewetting)によって堆積させることができる。
【0065】
最も多く使用される触媒は金であるが、銅、チタン、白金、銀、パラジウム、ニッケルなど他の金属が文献には言及されている。得られるシリコンナノワイヤの直径を決定し固定するのは、触媒の直径である。
【0066】
成長機構は以下のように起こる。
【0067】
まず第一に、反応ガスにより触媒凝集体に連続的な材料供給が生じ、その後この連続的な材料供給は、反応ガスからの分解生成物(シランについてはシリコン、ゲルマンについてはゲルマニウム等)で過飽和となるまでその組成が変化する。過飽和が得られたら、反応ガス源に起因する連続的な材料供給が、触媒の基部で、固体材料の、一般的には結晶性の柱の形で、沈殿によって堆積され成長する。したがって、堆積させた材料の最終的な形は、その活性端部が触媒凝集体によって覆われた固体の強いナノワイヤである。ワイヤの長さは、反応ガスへの暴露時間を変えることによって調整することができる。化学気相成長(CVD)反応器内でVLS(気相−液相−固相)法によって直径5〜20nmのナノワイヤを製造するための典型的な方法の例を、以下に説明する。
【0068】
a)支持体の準備:シリコン<111>をアセトンの、その後のイソプロピルアルコールの浴中で洗浄し、その後HF/NHFに2分間浸漬させることによって表面の脱酸素を行う。
【0069】
b)触媒の堆積:直径5〜20nmの金コロイドの、コロイド溶液への支持体の浸漬、または電着による。
【0070】
c)支持体をCVD(化学気相成長)反応器に導入し、その後20mbarで4 l/分の水素の流れの下、温度を550℃まで上昇させながら加熱する。
【0071】
d)ナノワイヤの成長:4 l/分のHおよび20mbarの圧力を用い550℃で50cm/sのシランを導入する。他の条件はすべて変わらないままで、ナノワイヤの長さは堆積の継続時間によって固定されることになる。
【0072】
e)成長の停止:シランを止め、Hの流れの下冷却する。
【0073】
f)最後に、ナノワイヤの最上部に生じる触媒を化学的に、触媒金属を攻撃するための溶液、たとえば、金にはヨウ化カリウムの溶液に支持体を浸漬することで除去することができる。
【0074】
2)ステップ2:
本発明による2つの活性層を備える組立体を製造するための方法の第2のステップは、シリコンナノワイヤの表面上への図4に6で示す触媒、この例では白金の化学気相成長によって、プラズマ支援化学気相成長によって、または化学的経路によって触媒を堆積させることにある。
【0075】
ナノワイヤのような非平面の表面を、これら周知の堆積方法によって覆う。堆積させた触媒材料が優れた電子伝導体でない場合には、触媒の堆積を行う前に、シリコンナノワイヤの表面に電子伝導体の薄層をあらかじめ堆積させることが必要である。この堆積は、触媒向けの方法と同じ堆積方法によって行われる。したがって、電子伝導性を有し触媒された、図4に5で示す支持構造が得られる。
【0076】
3)ステップ3:
本発明による2つの活性層を備える組立体を製造するための方法の第3のステップは、混合溶媒の溶液または懸濁液を注ぐまたは噴霧することによるアイオノマーの堆積である。本実施例において使用するアイオノマーは、図5に7で示すNafion(登録商標)である。
【0077】
4)ステップ4:
本発明による2つの活性層を備える組立体を製造するための方法の第4のステップは、必要に応じて熱処理によって、ポリマー電解質7の懸濁溶液から溶媒を蒸発させることにある。その支持体3に接着させたシリコンナノワイヤ1で構成され、白金粒子6で覆われ、Nafion(登録商標)に埋め込まれている図5に8で示す活性層が、このようにして得られる。
【0078】
5)ステップ5:
本発明による2つの活性層を備える組立体を製造するための方法の第5のステップは、図5に示すような支持されている活性層2つと、図6に9で示すプロトン伝導膜とを、ホットプレスによって、または接着結合によって組み立てることにある。
【0079】
伝導膜は、Nafion(登録商標)またはHyflon(登録商標)などのペルフルオロスルホン酸化ポリマーで作製することができる。しかしながら、燃料電池向けの、カチオン伝導ポリマーなど別の導電ポリマーでこの伝導膜を作製することもできる。
【0080】
膜9によって分離されている図5に示すような2つの活性層で構成される、図6に示す3つの層を備える交換膜組立体が得られる。
【0081】
6)ステップ6:
本発明による2つの活性層を備える組立体を製造するための方法の第6のステップは、図7に示す3つの層を備え、支持体なしでアイオノマーNafion(登録商標)に埋め込まれ膜9によって分離されている2つのナノワイヤ構造で構成されている交換膜組立体を得るために、水への浸漬によって、または機械的作用によって支持体3を撤収することにある。
【0082】
7)ステップ7:
本発明による2つの活性層を備える組立体を製造するための方法の第7のステップは、化学的処理によってシリコンナノ構造1を取り除くことにある。
【0083】
この除去には数種の方法を使用することができる。
【0084】
−80℃の水中で25質量%の水酸化カリウム(KOH)の、必要に応じてイソプロピルアルコール中に希釈させた浴に浸漬させる。
【0085】
−48%のフッ化水素酸HFと、70%の硝酸HNOと、脱イオン水と、酢酸CHCOOHとの混合物に浸漬させる。
【0086】
−48%のHFと、70%のHNOと、CHCOOHとの混合物に浸漬させる。
【0087】
−80℃の水中で25質量%のTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)の浴に浸漬させる。
【0088】
KOH溶液の浴を、またはTMAH溶液の浴を使用する場合、またシリコン構造の除去がその支持体の撤収の数時間後に行われる場合には、シリコンワイヤの基部の脱酸素が必要である。
【0089】
このために、BOEとして知られている緩衝化酸化物浴(buffered oxide etch)、約10%のHFで構成される溶液への浸漬、または48%のHFまたは希釈HF(1%まで)の浴への浸漬を利用することができる。
【0090】
48%HF混合物を既に利用している場合、脱酸素は必要ない。
【0091】
得られた組立体はその後、シリコンナノワイヤ構造の除去後プロトン交換膜となる。この組立体を水ですすぐ。この組立体は、開放細孔を備える活性層を有する膜である。
【0092】
続いて、化学的処理に起因するカチオンをプロトンに置換するために、得られた組立体を1Mの硫酸に、または80℃の水中で希釈した30質量%の硝酸に1時間浸漬させる。
【0093】
最後に、この組立体を脱イオン水中ですすぐ。
【実施例2】
【0094】
活性層を1つだけ備えるプロトン交換膜の製造
実施例1と同じステップ1〜4を行うが、第5のステップにおいて、活性層を1つだけプロトン伝導膜で組み立てる。
【0095】
ステップ6および7を続けて行う。
【実施例3】
【0096】
活性層を2つ備えるプロトン交換膜組立体の製造
既に準備されたシリコンナノワイヤ構造を利用すること以外は、手順は実施例1と同様である。
【0097】
使用するシリコンナノワイヤは、電着による触媒の堆積が可能となるように、nドープであってもpドープであってもよい。このドーピングが、シランまたはジクロロシランとドープ剤の前駆体ガスを組み合わせて使用することによって、成長中に行われる。ドーピングガスは、nドープシリコンナノワイヤを得るためには、ホスフィンであってもよい。pドープシリコンナノワイヤを得るためには、ジボランを使用することができる。
【実施例4】
【0098】
プロトン交換膜組立体の製造
触媒の堆積の第2のステップを、ナノワイヤの成長直後には行わないが、これらナノワイヤの除去のステップ後に行うこと以外は、手順は実施例1と同様である。触媒の堆積はCVDによって行うことができる。
【実施例5】
【0099】
シリコンナノツリーを成長させること以外は、手順は実施例1と同様である。この手順は、Gentileら、Nanotechnologie、19(2008)、125608ページに記載されているように行う。
【0100】
上記実施例においてプロトン交換膜組立体の製造について説明してきたが、ステップ1〜4および6〜7が活性層自体の製造に対応することが当業者には明らかであろう。
【0101】
同様にして、本発明をプロトン交換膜に関して上記実施例において説明してきたが、上述のような活性層を製造するための方法を使用して、触媒の添加なしで任意のポリマーマトリックス中に制御されたサイズ、寸法および分布の細孔を形成することができることが当業者には明らかであろう。
【符号の説明】
【0102】
1 シリコンナノワイヤ、シリコンナノ構造
2 ナノツリー
3 支持体
4 支持構造、シリコンナノワイヤ
5 支持構造
6 触媒、白金粒子
7 アイオノマー、ポリマー電解質
8 活性層
9 プロトン伝導膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーマトリックス中に制御された形状、寸法および分布の細孔を形成するための方法であって、
−非重合ポリマーマトリックスまたは少なくとも1種の溶媒の非重合ポリマーマトリックス懸濁液もしくは溶液にシリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーを埋め込むステップと、
−前記ポリマーマトリックスを硬化させるステップと、
−化学的処理によって前記シリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーを除去するステップとを含む方法。
【請求項2】
前記ポリマーマトリックスが少なくとも1種のアイオノマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマーマトリックスがアイオノマーで構成される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アイオノマーがペルフルオロスルホン酸化ポリマーである、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記シリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーを支持体上で成長させるステップをさらに含み、前記支持体が、前記ポリマーマトリックスを硬化させる前記ステップと、化学的処理によって前記シリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーを除去する前記ステップとの間で撤収される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
プロトン交換膜燃料電池活性層を製造する方法であって、請求項2から5のいずれか一項に記載の前記方法によってポリマーマトリックス中に制御された形状、寸法および分布の細孔を形成するステップa)と、このようにして形成された前記細孔に少なくとも1種の触媒を堆積させるステップb)とを含む方法。
【請求項7】
プロトン交換膜燃料電池活性層を製造するための方法であって、請求項2から5のいずれか一項に記載の前記方法によってポリマーマトリックス中に制御された形状、寸法および分布の細孔を形成するステップa)と、前記非重合ポリマーマトリックスまたは少なくとも1種の溶媒の前記非重合ポリマーマトリックス懸濁液もしくは溶液にこれらのシリコンナノワイヤおよび/またはナノツリーを埋め込む前記ステップの前に、前記シリコンナノワイヤおよび/またはナノツリー上に少なくとも1種の触媒を堆積させるステップb)とを含む方法。
【請求項8】
少なくとも1種の触媒と少なくとも1種のポリマーマトリックスとを備える型のプロトン交換膜燃料電池活性層であって、開放細孔を備え、その内壁が少なくとも1種の触媒で覆われ、前記少なくとも1種の触媒が前記ポリマーマトリックスで完全には覆われていないプロトン交換膜燃料電池活性層。
【請求項9】
請求項8に記載の、または請求項6または7に記載の方法によって得られる活性層を備える、プロトン交換膜燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−100849(P2010−100849A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−234133(P2009−234133)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(506423291)コミサリア ア レネルジィ アトミーク (85)
【Fターム(参考)】