説明

ポリマー混合系によるナノ周期構造の作製法

【課題】ブロック共重合体の自己組織化よりも、低コストで簡便であり、且つ大面積(数μm〜100μmオーダー)でナノスケールの周期的パターンを得ることができる、ナノ周期構造の作製法、及びそれにより得られるナノ周期構造体を提供する。
【解決手段】結晶性ポリマー、結晶性ポリマーに非相溶性のポリマー、及び結晶性有機溶媒との混合物を基板上に配する工程を含み、結晶性ポリマーと、結晶性ポリマーに非相溶性のポリマーとからなるポリマー混合系の膜を、基板上に調製し、基板上の塗膜面に、結晶性有機溶媒を配し、ポリマー混合系の膜と溶媒とを接触させる工程を含むナノ周期構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー混合系によるナノ周期構造の作製法、及びそれにより得られるナノ周期構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ブロック共重合体は、その自己組織化を利用することでナノスケールの周期的な相分離構造(ナノ周期構造)を容易に得られることが知られている。近年、電子部品の高性能化に伴い、ナノメートルレベルで構造制御された微細パターンや構造体の必要性が高まるなかで、このブロック共重合体が形成するナノ相分離構造は大きな注目を集め、その実用化に向け様々な研究がなされている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、ブロック共重合体の自己組織化は、そのドメイン配列の配向制御が難しく、実用に供しうる大面積(数μm〜100μmオーダー)で一定のパターンを有するナノ周期構造を得るには至っていない。
【0003】
またブロック共重合体は合成上の理由によりポリマーの選択に制限があり、その組合せには限界がある。例えば、リビング重合によりブロック共重合体を合成する場合、モノマーが官能基を有すると、重合体末端の活性点とその官能基が反応してリビング重合を停止させるため、モノマーはもっぱら官能基を持たないものに制限される。さらにこのブロック共重合体の自己組織化を利用する手法では、予め所定の構造を有するブロック共重合体を合成しておかなければならないため、コストや簡便さの点からは好ましくはない。
【0004】
従ってブロック共重合体を用いず、2種以上のポリマーの混合物により秩序的なナノ周期構造を作製することができれば、ポリマーの選択肢を広げる観点から有用であるが、従前、このような系には、ブロック共重合体のように異種の分子鎖間を束縛する化学結合がないことから、大きなドメインに分離しナノスケールの周期的パターンを形成しないと考えられていた。しかしながら本発明者は、低融点の低分子有機化合物(結晶性有機溶媒)の配向結晶化を利用することにより、特定のポリマーの組合せからなるポリマーブレンドが驚くべきことに数μm〜100μmオーダーという大面積のナノスケールの周期的パターンを作成しうることを見出した(例えば、特許文献2、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−58314号公報
【特許文献2】特開2008−266469号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ejima H. et al., Macromolecules 2007, 40, 6445-6447
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来のブロック共重合体の自己組織化よりも、低コストで簡便であり、且つ大面積(数μm〜100μmオーダー)でナノスケールの周期的パターンを得ることができる、ポリマー混合系によるナノ周期構造の作製法、及びそれにより得られるナノ周期構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記で述べたように、本発明者はこれまでに、ブロック共重合体ではなくポリマーの混合物からの秩序的なナノ周期構造の作製法について検討し、低融点の低分子有機化合物(結晶性有機溶媒)の配向結晶化を利用することにより、特定のポリマーの組合せからなるポリマーブレンド、具体的には、結晶性ポリマーと、かかる結晶性ポリマーに相溶性のポリマー(例えば、ポリ-L-乳酸と、ポリ酢酸ビニル)とからなるポリマーブレンドが驚くべきことに数μm〜100μmオーダーという大面積のナノスケールの周期的パターンを作成しうることを見出し、報告した(例えば、特許文献2、非特許文献1参照)。本発明者は、ポリマーの混合物による秩序的なナノ周期構造の作製について引き続き検討を重ねた結果、上記特定の組み合わせのみならず、結晶性ポリマーと、かかる結晶性ポリマーに非相溶性のポリマーとからなるポリマー混合物(以下、「ポリマー混合系」という)からも、数μm〜100μmオーダーという大面積のナノスケールの周期的パターンを作成しうることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、
(a)結晶性ポリマー(P)、前記結晶性ポリマーに非相溶性のポリマー(P)、及び結晶性有機溶媒(S)との混合物を基板上に配する工程
[ここで、ポリマー(P)又は(P)と、溶媒(S)とは、下記:
Tm−P≧Tm−S>Tg−P
〔Tm−Pは、ポリマー(P)の融点(Tm−P)を意味するか、又はポリマー(P)が、第二の結晶性ポリマーである場合には、Tm−Pと、第二の結晶性ポリマーの融点(Tm−P)のいずれか高いほうの融点を意味し、Tm−Sは、溶媒(S)の融点を意味し、Tg−Pは、ポリマー(P)又は(P)のいずれか低いほうのガラス転移温度を意味する〕の関係を満たすものである];
(b)前記基板を、Tm−P以上の温度に保持する工程;そして
(c)前記基板を、Tm−Sより低く且つTg−Pより高い温度に冷却、保持する工程
を含む、ナノ周期構造体の製造方法、及びそのような製造方法により得られるナノ周期構造体に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のナノ周期構造の製造方法によれば、従来のブロック共重合体の自己組織化よりも、低コスト且つ簡便に、大面積(数μm〜100μmオーダー)で、欠陥の少ないナノスケールの周期的パターンを有する構造体を提供することができる。本発明の製造方法は、結晶性ポリマーと共に、かかる結晶性ポリマーに非相溶性のポリマーを使用できることから、従来技術よりもポリマーの選択肢が広い。本発明のナノ周期構造の製造においては、後述するように、ポリマーの組合せ(種類、分子量等)や、ポリマー混合系における組成比を適宜変更することにより、得られる構造体の周期的パターンやそのスケールを調整することができるため、事前にそれらを決定し、合成しておかなければならないブロック共重合体に比べ、かかる変更を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ポリマーの結晶化速度と、温度の関係との概念図である。
【図2】本発明の製造方法における、配向結晶化のための冷却条件の概念図である。
【図3a】実施例1で得られたPLLA/PS=1/1ポリマー混合系から作製したナノ周期構造体のAFM画像(位相像)である。
【図3b】実施例1で得られたPLLA/PS=1/1ポリマー混合系から作製したナノ周期構造体のAFM画像(高さ像)である。
【図4】実施例2で得られたPE/PS=1/1ポリマー混合系から作製したナノ周期構造体のAFM画像(高さ像)である。
【図5】実施例3で得られたPoly A/PS=4/1ポリマー混合系から作製したナノ周期構造体のAFM画像。左が高さ像、右が位相像である。
【図6】実施例4で得られたPoly A/PS=1/4ポリマー混合系から作製したナノ周期構造体のAFM画像。左が高さ像、右が位相像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明におけるナノ周期構造体とは、低融点の低分子有機化合物(結晶性有機溶媒)の配向結晶化を利用して、ポリマー混合系により製造される、ナノスケールのドメインが規則的に配列した構造(ナノ周期構造)を有するものをいう。具体的には、結晶性ポリマーと、かかる結晶性ポリマーに非相溶性のポリマーとからなるポリマー混合系から、結晶性有機溶媒の結晶化を利用して製造される、結晶性ポリマーの結晶化により形成されるナノスケールのドメインと、かかる結晶性ポリマーに非相溶性のポリマーに富むドメインとが規則的に配列した構造を有するものをいう。そのようなナノ周期構造としては、典型的には、海島(又はドット状)構造(一方のドメイン領域がドット状に分離したもの;例えば、図4参照)、シリンダー構造(一方のドメイン領域が棒状に分離したもの)、あるいはラメラ(又はストライプ様)構造(一方のドメイン領域と他方のドメイン領域が交互に積層する(又は縞模様を形成する)ように分離したもの;例えば、図3a参照)等を挙げることができる。
【0013】
本発明の製造方法において使用しうる結晶性ポリマー(P)は、固体状態で結晶になる性質をもった高分子化合物であって、融点を示すものであればよい。そのような結晶性ポリマー(P)は、一般に103を超える分子量を有する鎖状高分子であり、例えば、側鎖が比較的小さく立体規則性をもつもの、分子間凝集力の強い官能基をもつものなどが挙げられる。また、非晶部分を含むものであってもよい。結晶性ポリマー(P)の具体例としては、脂肪族ポリエステル類(例えば、ポリ-L-乳酸(PLLA)、ポリ−D−乳酸(PDLA)、ポリコハク酸ブチレン(PBS)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB))、ポリエーテル類(例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO))、芳香族ポリエステル類(例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリブチレンテレフタラート(PBT))、ポリオレフィン類(例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP))、ポリアミド類(例えば、ナイロン6、ナイロン66)、ポリアクリル酸エステル類、あるいは液晶ポリマー、機能性ポリマー等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。好ましい結晶性ポリマーとしては、約103〜106の数平均分子量(Mn)を有する、脂肪族ポリエステル類、ポリオレフィン類、又はポリアクリル酸エステル類を挙げることができる。
【0014】
本発明の製造方法において使用しうる、結晶性ポリマーに非相溶性のポリマー(P)は、上記の結晶性ポリマー(P)と相溶性/混和性のものでなければよい。すなわち、本発明の製造方法で使用する結晶性ポリマー(P)と、全ての/いずれか所定の割合で混合したときに、相溶又は混和しないものであればよいが、非相溶性のポリマー(P)が、結晶性ポリマー(P)に部分的に相溶又は混和することを排除するものではない。そのようなポリマー(P)は、一般に103を超える分子量を有する高分子と呼ばれるものから、本発明の製造方法で使用する結晶性ポリマー(P)との非相溶性/非混和性に応じて、適宜選択すればよい。例えば、本発明の製造方法で使用する結晶性ポリマー(P)が、脂肪族ポリエステル、特に、ポリ-L-乳酸のような脂肪族ポリエステルである場合、非相溶性のポリマー(P)として、約103〜106、好適には約104〜105の数平均分子量(Mn)を有する、ポリスチレン(PS)などを挙げることができる。
【0015】
本発明に用いられるポリマー(P)及び(P)は、当業者に公知の、任意の方法で合成するか、又は市販品として入手することができる。なお本発明の製造方法では、結晶性ポリマー(P)の結晶化を妨げない限りにおいて、ポリマー混合系に慣用の添加剤や第三のポリマー成分を配合してもよい。そのような添加剤の例としては、フォトレジスト用感光剤等を挙げることができる。慣用の添加剤や第三のポリマー成分の配合割合は、具体的成分の種類に応じて適宜設定すればよい。
【0016】
本発明の結晶性有機溶媒(S)は、低融点の低分子有機化合物であり、液体状態にあるときに、上述したポリマー混合系を溶解できるものであればよい。そのような結晶性有機溶媒(S)の例としては、安息香酸、アントラセン、テトラクロロベンゼン、ヘキサメチルベンゼン等を挙げることができるが、これらに限定されない。また、本発明の製造方法における結晶性有機溶媒(S)の使用量は、各ポリマー(P)及び(P)に対する溶解性などに応じて適宜決定されるが、好ましくは、ポリマー混合系の使用量に対し、10〜1,000倍量(質量基準)、より好ましくは50〜500倍量(質量基準)である。
【0017】
本発明の製造方法において使用される、結晶性ポリマー(P)又は非相溶性のポリマー(P)と、溶媒(S)の選択は、上記に加えて、それらの融点、ガラス転移温度などのデータに基づいて行われる。すなわち、本発明の製造方法において使用される、結晶性ポリマー(P)又は非相溶性のポリマー(P)と、溶媒(S)とは、Tm−P≧Tm−S>Tg−Pの関係を満たすものである。ここで、Tm−Pは、結晶性ポリマー(P)の融点(Tm−P)を意味するか、又は非相溶性のポリマー(P)が、第二の結晶性ポリマーである場合には、Tm−Pと、第二の結晶性ポリマーの融点(Tm−P)のいずれか高いほうの融点を意味し、Tm−Sは、溶媒(S)の融点を意味し、Tg−Pは、ポリマー(P)又は(P)のいずれか低いほうのガラス転移温度を意味する。なお、かかるガラス転移温度(Tg−P)は、文献値から、あるいは示差走査熱量計(DSC)などにより実験的に決定することができる。
【0018】
好ましくは、本発明の製造方法において使用される、結晶性ポリマー(P)又は非相溶性のポリマー(P)と、溶媒(S)とは、Tm−P≧Tm−S>Tp−Pの関係を満たすものである。ここで、Tm−P及びTm−Sは、前述のとおりであり、Tp−Pは、ポリマー混合系中でTm−Pを有するポリマーの結晶化速度が最大となる温度を意味する(図1)。したがって、本発明の製造方法を実施しようとする当業者は、例えば、結晶性ポリマー(P)を特定することにより、それに応じた非相溶性のポリマー(P)を、本明細書の記載や技術常識に基づいて、適宜選択することができる。そして、結晶性有機溶媒(S)は、上記で述べたように、各ポリマー(P)及び(P)に対する溶解性や、当該溶媒(S)の融点(Tm−S)と、ポリマー(P)又は(P)の融点(Tm−P)やガラス転移温度(Tg−P)との関係などを考慮して決定すればよい。
【0019】
好適には、本発明におけるナノ周期構造は、結晶性ポリマー(P)の結晶化により形成されたナノスケールのドメインと、かかる結晶性ポリマーに非相溶性のポリマー(P)に富むドメインとが規則的に配列した海島(又はドット状)構造、あるいはラメラ(又はストライプ様)構造を有するものである。例えば、本発明の製造方法により、基板上に形成されたストライプ様構造を構成する縞の幅は約1 μm以下であることが好ましく、約1 nm〜約500 nmであることがより好ましく、約30 nm〜約300 nmであることがさらに好ましい。かかる縞の幅は、結晶性ポリマー(P)と非相溶性のポリマー(P)の種類や分子量、その組成比等により調整することができるが、例えば、結晶性ポリマーとしてポリ-L-乳酸のような脂肪族ポリエステルを用いる場合、結晶性ポリマー(P)と非相溶性のポリマー(P)との組成比(質量基準)は、1:99〜99:1、特には1:10〜10:1の範囲であるのが好ましい。
【0020】
本発明に用いられる基板の材料としては特に限定されず任意のものを用いることができるが、例えば、ケイ素や窒化ケイ素(SiN、Si23、Si43)などの他、ガラス、金属酸化物、耐熱性樹脂や、銅等の金属などを用いてもよい。
【0021】
次に、本発明のナノ周期構造体の製造方法について説明する。本発明のナノ周期構造体は、例えば、以下の工程(a)〜(c)を含む方法により製造することができる:
(a)結晶性ポリマー(P)、前記結晶性ポリマーに非相溶性のポリマー(P)、及び結晶性有機溶媒(S)との混合物を基板上に配する工程;
(b)前記基板を、Tm−P以上の温度に保持する工程;
(c)次いで前記基板を、Tm−Sより低く且つTg−Pより高い温度に冷却、保持する工程。
【0022】
工程(a)では、まず、結晶性ポリマー(P)、前記結晶性ポリマーに非相溶性のポリマー(P)、及び結晶性有機溶媒(S)との混合物を、基板上に配する。この三元混合物は、いずれか任意の方法で、例えば、予め三成分(P、P及びS)をTm−P以上の温度で溶融混合し、その温度を保持したまま基板上に塗布することにより、又はP/Pポリマー混合系より予め基板上に膜を形成し、その膜上に粉末状の結晶性有機溶媒(S)を撒くこと等により、調製することができる。
【0023】
例えば、工程(a)は、一実施態様である、以下の工程(a)〜(a)に従って行ってもよい:
(a)結晶性ポリマー(P)と、前記結晶性ポリマーに非相溶性のポリマー(P)とからなるポリマー混合系の膜を、基板上に調製する工程;及び
(a)基板上の塗膜面に、結晶性有機溶媒(S)を配し、ポリマー混合系の膜と溶媒(S)とを接触させる工程。
【0024】
工程(a)では、まず、結晶性ポリマー(P)と、前記結晶性ポリマーに非相溶性のポリマー(P)とからなるポリマー混合系の膜を、基板上に調製する。かかる調製は、結晶性ポリマー(P)と、前記結晶性ポリマーに非相溶性のポリマー(P)を含むポリマー混合系の溶液を、当業者に公知のいずれかの方法に従って、基板上に塗布(コーティング)した後、乾燥させることにより行うことができる。そのような方法としては、例えば、蒸着、溶媒キャスト法、ディップコーティング法、スピンコーティング法などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。また、ポリマー混合系の溶液は、ポリマー(P)及び(P)の双方を適切な溶媒に溶解させることにより調製することができる。そのような溶媒としては、例えばクロロホルム、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、アセトン、エタノール、メタノール、ジメチルスルホキシド、水、ヘキサフルオロ−2−プロパノールなどが挙げられるが、それらに限定されるものではなく、本発明で使用するポリマーの種類に応じて適宜選択される。
【0025】
次いで工程(a)では、基板上の塗膜面に、結晶性有機溶媒(S)を配し、ポリマーブレンドの膜と溶媒(S)とを接触させる。このとき、この三元混合物の性質、特に低融点の低分子化合物である、結晶性有機溶媒(S)の昇華や蒸発を抑制するために、更なる基板を用いて三元混合物を2つの基板の間に保持してもよい。
【0026】
次いで工程(b)では、前記三元混合物を任意の方法により配した前記基板を、Tm−P以上の温度に保持する。具体的には、前記三元混合物を任意の方法により配した前記基板を、Tm−Pより高い温度に加熱し、結晶性ポリマー(P)と、前記結晶性ポリマーに非相溶性のポリマー(P)とからなるポリマー混合系の膜が結晶性有機溶媒(S)に溶解するまで保持する。それにより、混合物が基板上(又は、場合により2つの基板の間)で均一な溶液状態で存在する。
【0027】
そして工程(c)では、前記基板を、Tm−Sより低く且つTg−P又はTp−Pより高い温度に冷却、保持する。これにより、結晶性ポリマー(P)が、結晶化した結晶性有機溶媒(S)上で配向結晶化し、規則的に配列したドメインを得ることができる。工程(c)における、工程(b)所定の保持温度からの冷却は、例えば、図2に示すように、連続的に(点線)又は急速に(実線)降温させるか、あるいはTm−S付近まで連続的に降温させた後、溶媒(S)の結晶化の確認を経て急冷し(太線)、工程(c)所定の保持温度とすればよい。また徐冷速度は、一定であっても、自然冷却のように一定でなくてもよい。
【0028】
更に、本発明の製造方法は、(d)結晶性有機溶媒(S)を除去する工程、を行ってもよい。結晶性有機溶媒(S)は、例えば、昇華や、適切な溶媒で洗浄することにより、容易に除去されうる。溶媒は、結晶性有機溶媒(S)に対しては良溶媒であり、且つポリマー混合系の各ポリマー成分(P)及び(P)に対しては貧溶媒であればよく、本発明の製造方法で使用する、結晶性ポリマー(P)、非相溶性のポリマー(P)、及び結晶性有機溶媒(S)の種類に応じて適宜選択される。例えば、結晶性有機溶媒(S)がヘキサメチルベンゼンや安息香酸である場合は、昇華により除去することが好ましい。
【0029】
更に、本発明の製造方法は、(e)ナノ周期構造体の一方のポリマー相を選択的に除去する工程を行ってもよい。例えば、特定の試薬や酵素で化学的処理を施したり、プラズマ、紫外線照射等の光学的処理を行い、そのような処理に耐性を持たないいずれか一方のドメインのみを侵して除去することにより、所望のナノ周期構造体を得ることができる。
【0030】
本発明の製造方法により得られたナノ周期構造体は、そのまま用いてもよいし、鋳型として更に他の材料を加工するのに用いてもよい。
【0031】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
実施例1
結晶性ポリマーとして、ポリ-L-乳酸(PLLA,Mn=12,800、PDI(分散度)=1.43、融点=167℃、及びTg(ガラス転移温度)=57℃)、PLLAに非相溶性のポリマーとして、ポリスチレン(PS, Mn=15,000、PDI=1.02、非晶性、及びTg=103℃)を使用し、PLLA:PS=1:1(質量基準)でクロロホルムに溶解させた。
次に、ガラス基板(光学顕微鏡用カバーガラス:18mm×18mm)上に、PLLA/PS=1/1のクロロホルム溶液(3 mg/mL)をスピンコーティング(スピン速度2,000rpm)し、乾燥させることにより、薄膜を得た。一方、結晶ヘキサメチルベンゼン(HMB、東京化成工業(株)製、融点165℃(文献値))の粉末約100mgを別のカバーガラス上に撒き、ポリマー薄膜を有するガラス基板の塗膜面をHMBに向けて置き、サンプルとした。サンプルを180℃のホットプレート上に置くと、溶融したHMBがポリマー薄膜を溶解し、2枚のガラスの間で透明な溶液を形成した。次いで、ホットプレート上のスライドガラスを、80℃に保持したホットプレート上に移し、HMBを結晶化させた。このサンプルからガラス基板(カバーガラス)を取り出し、さらに80℃に保持したホットプレート上で約1時間放置することにより、HMBを昇華させた後、室温に冷却し、得られたナノ周期構造体を原子間力顕微鏡法(AFM)で観察した(図3)。AFM位相像(図3a)からは、PLLAのドメイン(明色部分)とPSのドメイン(暗色部分)が直線的に交互に配列したストライプ様構造(ストライプの周期は約400〜600nm)が形成されたことが確認できた。この周期構造は、約15μm×15μmの大面積にわたって確認された。またAFM高さ像(グラフィック処理済み;図3b)からは、PLLAのドメイン(明色部分)がPSのドメイン(暗色部分)と比べて約50nm高く、その表面の凹凸があることが確認できた。
【0033】
実施例2
結晶性ポリマーとして、ポリエチレン(PE, Mn=1,100、PDI=2.27、融点=140℃、及びTg=-60℃)、PEに非相溶性のポリマーとして、ポリスチレン(PS, Mn=15,000、PDI=1.02、非晶性、及びTg=103℃)を使用し、PEの飽和クロロホルム溶液にほぼ等質量のPSを溶解させた。
次に、ガラス基板(光学顕微鏡用カバーガラス:18mm×18mm)上に、PE/PSクロロホルム溶液(3 mg/mL)をスピンコーティング(スピン速度2,000rpm)し、乾燥させることにより、薄膜を得た。一方、結晶安息香酸(BA、東京化成工業(株)製、融点121-123℃(文献値))の粉末約100mgを別のカバーガラス上に撒き、ポリマー薄膜を有するガラス基板の塗膜面をBAに向けて置き、サンプルとした。サンプルを150℃のホットプレート上に置くと、溶融したBAがポリマー薄膜を溶解し、2枚のガラスの間で透明な溶液を形成した。次いでサンプルを、120℃に保持したホットプレート上に移し、1時間平衡化した。このサンプルからガラス基板(カバーガラス)を取り出し、さらに80℃に保持したホットプレート上で放置することにより、BAを昇華させた後、室温に冷却し、得られたナノ周期構造体を原子間力顕微鏡法(AFM)で観察した(図4)。AFM高さ像(図4)からは、非晶性のPSの海(暗色で示されるドメイン)に結晶性のPEの島(明色で示される、ドット状のドメイン)が形成されているのが確認できた。このPEの島は、PSの海面から約10nmほど高く、その表面の凹凸があることが確認できた。
【0034】
合成例1
ポリ{6−{4−[(2−ナフチル)オキシカルボニル]フェノキシ}ヘキシル=アクリラート}(以下、「Poly A」という)の合成
【0035】
【化1】

【0036】
a)モノマーA:6−{4−[(2−ナフチル)オキシカルボニル]フェノキシ}ヘキシル=アクリラートの合成
4−(ω−プロペノイルオキシヘキシルオキシ)安息香酸(Michael Portugallら、Makromol. Chem., 1982, 183, 2311 に従い合成)5.84 g(20.0 mmol)に、ジブチルヒドロキシトルエン(2 mmol)を加え、窒素雰囲気下でジメチルホルムアミド数滴、次いで塩化チオニル 25 mlを加え40分攪拌した。その後アスピレーターで塩酸などの気体を除去した後、減圧により未反応の塩化チオニルを除去した。脱水テトラヒドロフラン 30 mlを加え固体を溶解した後、0℃まで冷却し、脱水テトラヒドロフラン 100 ml、トリエチルアミン 5.0 ml、2−ナフトール 3.18 gを混合した冷却溶液を滴下した。4時間攪拌した後、エバポレーターで溶媒を除去し、クロロホルムに溶解させ水で数回分液した。有機層に硫酸ナトリウムを加え脱水し、硫酸ナトリウムをろ過により除去した後、エバポレーターで溶媒を除去した。シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル混合溶媒)により精製し、55%の収率でモノマーAを得た(4.56 g、10.9 mmol)。
【0037】
b)Poly Aの合成
得られたモノマーA 2.0 gを、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN) 2.51 mol%の存在下、窒素雰囲気下で、脱水トルエン 20 ml 中、60℃で12時間攪拌した。その後冷メタノールにより再沈させ、Poly A(Mn=9,300、PDI=1.40、融点=97℃、及びTg=36℃)を得た。
【0038】
実施例3
結晶性ポリマーとして、合成例1で得たPoly A(Mn=9,300、PDI=1.40、融点=97℃、及びTg=36℃)、Poly A に非相溶性のポリマーとして、ポリスチレン(PS, Mn=1.07×104、PDI=1.02、非晶性、及びTg=96℃)を使用し、Poly A:PS=4:1(質量基準)でクロロホルムに溶解させた。
次に、ガラス基板(光学顕微鏡用カバーガラス:18mm×18mm)上に、Poly A/PS=4/1のクロロホルム溶液(3 mg/mL)をスピンコーティング(スピン速度2,000rpm)し、乾燥させることにより、薄膜を得た。一方、結晶ヘキサメチルベンゼン(HMB、東京化成工業(株)製、融点165℃(文献値))の粉末約20 mgを別のカバーガラス上に撒き、ポリマー薄膜を有するガラス基板の塗膜面をBAに向けて置き、サンプルとした。サンプルを180℃のホットプレート上に置くと、溶融したHMBがポリマー薄膜を溶解し、2枚のガラスの間で透明な溶液を形成した。次いでサンプルを、75℃に保持したホットプレート上に移し、1時間平衡化した。このサンプルからガラス基板(カバーガラス)を取り出し、さらに75℃に保持したホットプレート上で約2時間放置することにより、HMBを昇華させた後、室温に冷却し、得られたナノ周期構造体を原子間力顕微鏡法(AFM)で観察した(図5)。AFM位相像(図5右)からは、非晶性のPSの海(明色で示されるドメイン)に結晶性のPoly Aの島(暗色で示される、ドット状のドメイン)が形成されているのが確認できた。AFM高さ像(図5左)からは、このPoly A の島(明色で示されるドメイン)が、PSの海面(暗色で示されるドメイン)から約5nmほど高く、その表面の凹凸があることが確認できた。この周期構造は、数百μm×数百μmの大面積にわたって確認された。
【0039】
実施例4
組成比をPoly A:PS=1:4(質量基準)とした以外は、実施例3と同様な方法により、ナノ周期構造体を得、AMFで観察した(図6)。AFM位相像(図6右)からは、Poly Aの結晶(暗色で示されるドメイン)の合間で非晶性のPS(明色で示されるドメイン)が凝集しているのが確認できた。このとき、独特の三角形のパターンが出現した。高さ像(図6左)からは、このPoly A 相(明色で示されるドメイン)が、PS相(暗色で示されるドメイン)より約5〜10nmほど高く、その表面の凹凸があることが確認できた。この周期構造は、数百μm×数百μmの大面積にわたって確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上述べたように、本発明の製造方法は、低コストで、簡便な手法であり、また従来技術よりも大面積(数μm〜100μmオーダー)で、欠陥の少ないナノスケールの周期的パターンを有するナノ相分離構造体を提供することができる。また、そのような製造方法により得られる、本発明のナノ周期構造体は、例えば、偏光フィルム、回折格子、光導波路等として利用することができる。またナノ周期構造体に、特定の試薬や酵素で化学的処理を施したり、プラズマ、紫外線照射等の光学的処理を行い、そのような処理に耐性を持たない一方の部位のみを侵して除去することにより、電子デバイスの作製などの広範な用途に応用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)結晶性ポリマー(P)、前記結晶性ポリマーに非相溶性のポリマー(P)、及び結晶性有機溶媒(S)との混合物を基板上に配する工程
[ここで、ポリマー(P)又は(P)と、溶媒(S)とは、下記:
Tm−P≧Tm−S>Tg−P
〔ここで、Tm−Pは、ポリマー(P)の融点(Tm−P1)を意味するか、又はポリマー(P)が、第二の結晶性ポリマーである場合には、Tm−Pと、第二の結晶性ポリマーの融点(Tm−P)のいずれか高いほうの融点を意味し、Tm−Sは、溶媒(S)の融点を意味し、Tg−Pは、ポリマー(P)又は(P)のいずれか低いほうのガラス転移温度を意味する〕の関係を満たすものである];
(b)前記基板を、Tm−P以上の温度に保持する工程;そして
(c)前記基板を、Tm−Sより低く且つTg−Pより高い温度に冷却、保持する工程
を含む、ナノ周期構造体の製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)が、
(a)結晶性ポリマー(P)と、前記結晶性ポリマーに非相溶性のポリマー(P)とからなるポリマー混合系の膜を、基板上に調製する工程;及び
(a)基板上の塗膜面に、結晶性有機溶媒(S)を配し、ポリマー混合系の膜と溶媒(S)とを接触させる工程
を含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(b)が、前記基板を、Tm−Pより高い温度に加熱し、結晶性ポリマー(P)と、前記結晶性ポリマーに非相溶性のポリマー(P)とからなるポリマー混合系の膜が結晶性有機溶媒(S)に溶解するまで保持することを特徴とする、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
結晶性ポリマー(P)又は前記結晶性ポリマーに非相溶性のポリマー(P)と、結晶性有機溶媒(S)とが、下記:
Tm−P≧Tm−S>Tp−P
(ここで、Tm−P及びTm−Sは、請求項1と同義であり、Tp−Pは、ポリマー混合系でTm−Pを有するポリマーの結晶化速度が最大となる温度を意味する)の関係を満たすものである、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記工程(c)が、前記基板を、Tm−Sより低く且つTp−Pより高い温度(ここで、Tm−S及びTp−Pは、請求項4と同義である)に冷却、保持することを特徴とする、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
更に、(d)結晶性有機溶媒(S)を除去する工程
を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
更に、(e)ナノ周期構造体の一方のポリマー相を選択的に除去する工程
を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
結晶性ポリマー(P)が、脂肪族ポリエステル、ポリオレフィン、又はポリアクリル酸エステルである、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
結晶性ポリマー(P)が、ポリ-L-乳酸、ポリエチレン、又はポリ{6−{4−[(2−ナフチル)オキシカルボニル]フェノキシ}ヘキシル=アクリラート}である、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
前記結晶性ポリマーに非相溶性のポリマー(P)が、ポリスチレンである、請求項8又は9記載の製造方法。
【請求項11】
結晶性ポリマー(P)と前記結晶性ポリマーに非相溶性のポリマー(P)との組成比(質量基準)が、1:99〜99:1の範囲である、請求項8〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法により得られる、ナノ周期構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−51958(P2012−51958A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193162(P2010−193162)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】