説明

ポリマー生物活性セラミック/セメントハイブリッド複合材

カルシウム系セメントのポリマー浸潤構造体を本明細書中に記載する。ポリマー浸潤構造体は、凝結したカルシウム系セメント又は凝結性のカルシウム系セメントの表面を安定化させ、流失を防ぎ、凝結時間を減らし、耐圧強度を増強し且つ所望の位置で修復物を安定化させる。本材料は様々な歯科用途に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は包括的に複合材料に関する。より詳細には、本発明は、歯科用複合材料に関する。特に本発明は、ポリマー生物活性セラミック/セメントハイブリッド複合材料、及びこのような材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[発明の背景]
カルシウム系の生物活性セメント又は粒子は、様々な歯科用途における硬質組織及び軟質組織の治療を容易にする機能を証明している。バイオガラス、リン酸カルシウム系セメント、ヒドロキシアパタイト系材料、アルミン酸カルシウム系セメント及びポルトランドセメント等の材料は、硬質組織及び軟質組織の補修に使用されてきたわずかなカルシウム系生体材料である。これらのセメントの具体的な歯科用途としては、例えば、歯髄覆罩剤、歯髄切断剤、象牙質及びセメント質における破断(breach)用の歯根補修材料、歯根端充填材料及び骨移植剤のような選択肢が挙げられる。これらの材料としては、酸性、中性又は塩基性の水性環境中で反応してセメント系構造体を形成することができる水系セメントがある。
【0003】
このような材料は、広範に使用及び承認されており、これらのカルシウム系の粒状セメントの欠点は、それらの遅い反応速度、早期感湿性及び高溶解度の傾向、並びに低い早期強度である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、これらのカルシウム系セメントの低い早期強度、低い表面硬度、緩結性及び高い初期溶解度を克服すると同時に、これらの材料の生体適合性を保つ、方法及び最終複合構造体に対する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[発明の概要]
本発明は、カルシウム系セメントの新規のポリマー浸潤構造体を提供する。ポリマー浸潤構造体は、凝結したカルシウム系セメント又は凝結性のカルシウム系セメントの表面を安定化させ、流失(washout)を防ぎ且つ所望の位置で修復物を安定化させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、カルシウム系セメントの新規のポリマー浸潤構造体を提供する。ポリマー浸潤構造体は、凝結したカルシウム系セメント又は凝結性のカルシウム系セメントの表面を安定化させ、流失を防ぎ且つ所望の位置で修復物を安定化させる。
【0007】
様々なポリマー材料を使用して、カルシウム系セメントの境界及び表面を浸潤及び強化することができる。多種の水溶性ポリマー及び組成物を使用してもよい。あるいは、溶媒(アセトン、アルコール等)、賦形剤(carrier vehicles)、又は粘度調整剤を使用して又は使用せずに、疎水性樹脂組成物を、凝結する前に又はセメントが完全に凝結した状態で、カルシウム系セメントの表面又は大部分に堆積、ブラシによる塗布、噴霧又は別法で供給してもよい。
【0008】
セメントの表面の浸潤は、セメントが完全に凝結する前にセメントを安定化させて、独自の、カルシウムカルシウム含有生体材料系ハイブリッド複合体を生成する。この複合体は、1つの接合面における治療を容易にすると同時に、封止に対するセメントの他の表面又は大部分の特性又は物理特性を安定化させる。したがって、この材料複合体は、物理安定性及び生体適合性/生体活性に関して独自に最適化する。
【0009】
本発明の別の実施形態では、事前反応させたセメント複合体を形成(development)し、その複合体を規定のサイズ及び/若しくは形状の粒子又は要素に縮小し、その後、適切なポリマー材料を用いて浸潤又は複合する。このアプローチの1つの例では、以下の事項を伴う。凝結したカルシウム系水溶性セメントを形成し、その後セメントを粒状分散体にまで粉砕し、続けて樹脂系ペースト又は溶液と複合及び浸潤させて、複合材料を形成する。この複合材料は、一成分系又は二成分系材料中の従来の光硬化又は自己硬化化学開始剤によって活性化され、本明細書中に記載される用途の強化カルシウム系セメントを形成する。
【0010】
本発明のさらなる実施形態は、ガッタパーチャ等の歯内治療用歯根充填材として許容可能な材料における、事前反応させたセメント粒子、又は事前反応させていないセメント粉末成分の添加を伴う。ガッタパーチャは従来、軟化させてガッタパーチャを流し、歯根管空間を充填及び封止するのを容易にするために、熱を用いる様々な充填技法によって様々な形態をとる。あるいは、事前反応させたセメント粒子、又は事前反応させていないセメント粉末成分を、他の従来の感熱性又は熱可逆性材料又はポリマーに添加してもよい。
【0011】
この複合材料及びその適用方法は、広範な潜在効果及び歯科医療における臨床用途を有する。潜在効果としては、歯髄覆罩剤;歯周靱帯空間への内部歯根の露出を伴う領域を補正する歯根補修材料;歯根管充填材料;中間充填材料、ライナー又はベース;歯根端充填材料、骨移植材料;コロナルリーケージ(coronal leakage)を減らすか又は除く、歯根管充填空間の冠状領域の封止;及び歯科医療における他の修復用途、歯内治療用途又は外科用途が挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
本発明の実施形態は、カルシウム系の生体適合性セメントの表面上の接着界面の生成を容易にする。この固有の可能性は、同時に又は所望する際に、セメント及び歯組織に他の接着材料及び層を塗工及び結合させることを容易にする。本発明は、歯構造へのカルシウム系の生体適合性水系セメント及び他の充填材料の物的単一性及び安定性を増大する。
【0013】
本発明のさらなる特徴及び固有の実施形態は、自己エッチング/自己下塗り接着剤と水系セメント成分との組み合わせである。自己エッチング接着剤による、生物活性又は生体適合性の水系セメントの固有の表面浸潤は、水系セメントの凝結を続けながら、遅れることなく、ハイブリッド複合材料の表面全体に最終修復材料を即座に塗布することができる固有の臨床有効性を可能にする。このように、歯内治療用充填手法の生活歯髄療法又は処理の応用は、1つの統合手法において達成され得る。歯髄覆罩に適用される際のこの手法の予期せぬ見解は、この一段階手法を利用すると、高度の歯髄活力及び歯髄橋形成が示されたことであった。接着性の歯髄覆罩剤の実現が最終的に達成された。
【実施例1】
【0014】
本発明によれば、カルシウム系セメント、例えばDENTSPLY International Inc.より入手可能な三酸化ミネラルアグリゲイト(MTA)の使用の際に自己エッチング接着剤、例えばまたDENTSPLY製のXenoIIIの表面処理を組み合わせると、1つの手法から成る接着性歯髄覆罩材料及び手法を達成する効果的な手段が提供された。この手法は以下の通りである。
1)窩洞形成が歯内で起こる。形成の間、歯髄の露出が起こる。止血(出血の調節)を生理食塩水に浸したコットンペレットを用いて行う。クロルヘキシジン配合物(例えば、Ultradent Products Inc.製のConsepsis(登録商標))等の抗菌剤が、出血の調節を助けるのに適用され得る。
2)ProRoot(商標)MTA(DENTSPLY)、すなわちカルシウム含有セメントをその後、滅菌生理食塩水又は水中で混合し、露出部に慎重に塗布する。
3)露出部を含む全形成面をその後、自己エッチングプライマー接着剤、例えばXeno(登録商標)で処理する。Xeno(登録商標)自己エッチング接着剤は、二成分系材料であり、これは窩洞形成で塗布する前に混合される。材料を混合して、適切なブラシ又は塗布具を用いて塗布し、その後軽くエアを吹きかけた。市販されている他の自己エッチング材料を本手法におけるこの目的に使用してもよい。
4)塗布されたXeno(登録商標)自己エッチング接着剤及び形成全体を青色スペクトル範囲の可視光に露光して、接着層と複合Xeno接着剤との接合面の硬化を容易にする。
5)光硬化されたか、二重硬化されたか又は適切な自己硬化性の複合修復材(すなわち、DENTSPLY製のSpectrumTPH(登録商標))を適用して窩洞形成を充填し、且つ可視光硬化ユニットを用いて硬化させる。適切な仕上げ及び研磨をその後行って、修復を完成することができる。
【0015】
類似の手法が動物実験において実施された場合、結果は、手法後の極めて高いレベルの残存歯髄活力(84.6%)、並びに露出した歯髄領域にわたって極めて高いレベルの象牙質橋形成(84.6%)を示した。処理された歯に対して、ゼロ(0)グレードの炎症反応が見られた(炎症反応は見られなかった)。
【実施例2】
【0016】
上記の実施例1に関する代替的な手法は、自己エッチング接着材料の代わりに、ProRootMTAの表面へのアセトン又はエタノール系、すなわち第5世代の接着剤を塗布することであろう。この場合、Prime&BondNT(登録商標)(DENTSPLY)の層が、未凝結のProRootMTAの表面にわたって適用され、軽くエアで乾燥され、可視光硬化ユニットを用いて硬化されるであろう。この手法はまた、凝結の間にMTA又はカルシウム系セメントの表面を安定化させるような、ポリマー−セメントハイブリッド界面を達成するであろう。
【実施例3】
【0017】
適切な樹脂マトリクス材料(この場合UDMA)、適切な光硬化開始剤、及び事前反応させたProRootMTA材料の粉砕粒子から成る一成分系の光硬化材料が一成分系歯髄覆罩剤兼歯科用充填材料として用いられるのに調製された。
【0018】
ProRootMTAは、水と配合されて、48時間硬化され、その後80メッシュの篩により粉砕され、83.33%がセメントであり、残りが水であるプレミックス製品を生成する。プレミックス及び硬化されたセメントを、UDMA並びにヒュームドシリカ及び光開始剤と以下のように混合した。
・プレミックス相 22g
・UDMA 73.2g
・Aerosil 4.6g
・CQ 0.2g
・合計 100.0%
【0019】
全ての成分を真空ミキサー内に約40分間置いた。生成物を1.2cc光不透過性シリンジに入れた。
【0020】
歯髄が露出している領域で止血を行った後、上記のように、実施例3に記載されるこの一成分系材料は、適切な塗布具によって露出部に塗布され、その後可視光硬化ユニットを用いて硬化された。次に、窩洞形成全体を34%リン酸を用いてエッチングし、余分な水は加えずに洗浄及び湿潤状態となるように湿らせた。Prime&BondNTの層を形成に適用させ、軽くエアで乾燥させ、可視光硬化ユニットを用いて硬化させた。この形成を複合修復材料、例えばSpectrumTPHによって充填し、可視光硬化ユニットを用いて硬化させた。
【0021】
この組成物を組織学的に分析すると、歯髄活力のレベルは、非常に高く(91.6%)、象牙質橋形成の成功率も良好であった(75%)。見受けられる全体的な炎症反応は低く、グレード0.5であった。
【0022】
本実施例中で上述された複合歯髄覆罩材料は代替的に、未反応のProRootMTA粒子、並びに事前反応させたMTA粉末のブレンドである充填剤組成物を含有していてもよい。2つの異なる粒子成分は、篩にかけられ、樹脂マトリクス材料中に包含される前に適度な均質粉末ブレンドとして混合され得る。この粉末ブレンドを、他のポリマーマトリクス材料、例えば歯根管充填手法で用いられるガッタパーチャ中に包含することもできる。
【実施例4】
【0023】
ProRootMTA又は他のカルシウム系セメントの配合に基づいて、事前反応させたセメント粒子、又は事前反応させていないセメント粉末成分を代替的に、エポキシ系樹脂歯根管封止材組成物、例えばAH Plus(登録商標)(DENTSPLY)に添加してもよい。このカルシウム系の生物活性粉末成分材料を、歯根管封止材の使用前又は使用部位で、一方又は両方のペースト成分に添加してもよい。
【実施例5】
【0024】
多くのカルシウム系セメントの初期強度が低く、そのため一時的又永久的な応力負担修復材料としてのそれらの使用を制限することが知られている。この制限は、本発明によって、ポリマー表層を初期硬化性のカルシウム系水系セメントの表面に適用することにより克服することができる。広範なポリマー被覆層及び接着剤が、この目的に使用できる。例えば、ProRootMTAから成る一時的な充填材又はアルミン酸カルシウム充填材料(カルシウム系セメントの単なる2つの例である)を、混合して窩洞形成内に入れることができる。初期凝結を行うセメントの表面輪郭形成(surface contouring)後、ポリマー表面材料、すなわちFortify(登録商標)又はBisCover(登録商標)(両方ともBISCO Dental Productsから入手可能)、又は任意の充填又は非充填の穴及び裂溝封止材料は、凝結性又は初期凝結したセメントの表面にわたってブラシによる塗布又は被覆、及び光硬化されてもよい。この被覆は、表面すなわちカルシウム系の水系セメントを安定化させ、その表面硬度及び初期強度を改良する。
【実施例6】
【0025】
歯根管封止材料又は歯根管修復材料は、ポルトランドセメント又はアルミン酸カルシウムセメントを2〜10%ポリビニルピロリドン溶液と組み合わせて製造される。ポリビニルピロリドンは、40,000〜1,300,000の分子量を有していてもよい。
【0026】
他のポリマーは、セメントと組み合わせることで歯科用途に有用であり、このようなポリマーとしては、カチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーを等量混合して調製されるホスホリルコリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート及び/又はn−ドデシル硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0027】
これらのポリマーの組み合わせは、粘度及び凝結時間を指示される要求通りに調整することが可能である。これらのポリマーは、何時間ではなくほんの何分かで、セメントを凝結させることができる。
【0028】
さらに、様々なポリマーの添加は、セメントの耐圧強度を表1に示すように約50MPa〜100MPa超に上げることができる。
【0029】
【表1】

【0030】
あるいは、セメントは、酸化ビスマス、酸化セリウム、又はバリウム含有ガラス若しくはストロンチウム含有ガラス等の放射線不透過材を含有していてもよい。ガラスは、in vivoでフッ化物を放出するフッ化物を含有していてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー浸潤カルシウムセメントを含む、複合材料。
【請求項2】
前記セメントが、水溶性ポリマー及び疎水性樹脂から成る群から選択されるポリマーによって浸潤される、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記ポリマーが、カチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーを等量混合して調製されるホスホリルコリン、UDMA、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート及びn−ドデシル硫酸ナトリウム、並びにそれらの混合物から成る群から選択される、請求項2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記カルシウムセメントが、三酸化ミネラルアグリゲイトである、請求項1に記載の複合材料。
【請求項5】
ポリマー浸潤カルシウムセメントを含む、歯科用複合材料。
【請求項6】
前記セメントが、水溶性ポリマー及び疎水性樹脂から成る群から選択されるポリマーによって浸潤される、請求項5に記載の歯科用複合材料。
【請求項7】
前記ポリマーが、カチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーを等量混合して調製されるホスホリルコリン、UDMA、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート及びn−ドデシル硫酸ナトリウム、並びにそれらの混合物から成る群から選択される、請求項6に記載の歯科用複合材料。
【請求項8】
前記カルシウムセメントが、三酸化ミネラルアグリゲイトである、請求項5に記載の歯科用複合材料。
【請求項9】
歯科用充填材料をさらに含む、請求項5に記載の歯科用複合材料。
【請求項10】
前記充填材料がガッタパーチャである、請求項9に記載の歯科用複合材料。
【請求項11】
前記カルシウムセメントが、ポルトランドセメント及びアルミン酸カルシウムセメントから成る群から選択される、請求項5に記載の歯科用複合材料。
【請求項12】
ポリビニルピロリドンを2〜10重量%含む、請求項11に記載の歯科用複合材料。
【請求項13】
前記ポリビニルピロリドンが、40,000〜1,300,000の分子量を有する、請求項12に記載の歯科用複合材料。
【請求項14】
50MPaより大きい耐圧強度を有する、請求項5に記載の歯科用複合材料。
【請求項15】
100MPaより大きい耐圧強度を有する、請求項14に記載の歯科用複合材料。
【請求項16】
前記ポリマーが、歯科用自己エッチング接着剤である、請求項5に記載の歯科用複合材料。
【請求項17】
前記ポリマーが、歯科用自己下塗り接着剤(self-priming adhesive)である、請求項5に記載の歯科用材料。

【公表番号】特表2007−528398(P2007−528398A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502941(P2007−502941)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【国際出願番号】PCT/US2005/007670
【国際公開番号】WO2005/087178
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(590004464)デンツプライ インターナショナル インコーポレーテッド (85)
【Fターム(参考)】