説明

ポリマー粒子の製造方法

【課題】平均粒子径が1μm以上で、かつ変動係数が10%以内である粒子径分布が狭く粒子径の揃ったポリマー粒子を安定的に製造する方法を提供する。
【解決手段】ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子およびイオン性官能基を有する水溶性ラジカル重合開始剤を溶解させた水性媒体中に、重合性単量体を分散させ、ソープフリー重合を行うポリマー粒子の製造方法。これにより、平均粒子径が1μm以上で粒子径分布範囲が狭く粒子径の揃ったポリマー粒子を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマー粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光拡散剤、液晶用スペーサー、トナー、つや消し剤、化粧品、機能性担体などに使用されるポリマー粒子は、一般に粒子径が1μm以上で、かつ粒子径分布の狭いものが必要とされる。
従来、このようなポリマー粒子を製造する方法としては、懸濁重合により比較的広い粒子径分布を有するポリマー粒子を合成後、得られたポリマー粒子を分級し、必要とする粒子径のポリマー粒子を得る方法がある。しかしながら、この方法では分級工程に時間がかかるため生産効率が悪く、さらに得られた大部分のポリマー粒子が不要になるため、必要とされるポリマー粒子の収率が非常に低いという難点がある。
【0003】
粒子径分布の狭いポリマー粒子を製造する方法としてソープフリー重合が知られている。ソープフリー重合によるポリマー粒子の製造法は、例えば、カチオン性重合開始剤又はアニオン性重合開始剤の存在下に重合する方法やラジカル重合性単量体とp−スチレンスルホン酸ナトリウムなどのイオン性単量体と水溶性ラジカル重合開始剤とを使用する重合方法等が一般的に知られている。しかしながら、上記の方法では粒子径が1μm未満の微粒子しか得ることができない。
【0004】
粒子径分布が狭く、粒子径が1μm以上のポリマー粒子を製造する方法としてシード重合が知られている。この方法は、例えば、ソープフリー重合などにより得られた1μm未満の粒子径のポリマー微粒子を種粒子に用い、この種粒子に重合性単量体を吸収させた後、重合を行ない、ポリマー粒子を成長させる方法である。しかしこの方法では、一度に種粒子に吸収できる重合性単量体の量には限度があるため、重合性単量体の吸収と重合を繰り返し行なう必要があり、製造工程が煩雑で、生産効率が悪いという問題がある。
【0005】
本発明者らは、水性媒体中で水溶性のアニオン性ラジカル重合開始剤及びカチオン性ラジカル重合開始剤を用いてスチレンなどの重合性単量体の重合を行なう、ソープフリー重合法により1μm以上で、粒子径分布の狭いポリマー粒子を得ることを報告した(特許文献1)。
しかし、この方法では水性媒体中の重合性単量体の濃度を少し変更しただけで重合途中の、又は重合後のポリマー粒子の分散安定性が低下し、その結果、平均粒子径分布幅が狭く粒子径の揃った平均粒子径が1μm以上のポリマー粒子を安定的に生産することができないという問題が見出された。
【0006】
【特許文献1】特開2003−25912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる従来の課題に鑑み、重合性単量体の濃度を変動させても、平均粒子径が1μm以上で、かつ変動係数が10%以内である粒子径分布が狭く粒子径の揃ったポリマー粒子を、安定的に製造する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ね、水性媒体中に、特定の水溶性高分子を特定量添加して重合することにより、重合性単量体の濃度が変動しても、重合途中の、又は重合後のポリマー粒子の分散安定性に優れ、安定的にミクロンオーダーの平均粒子径を有し粒子径分布が狭いポリマー粒子が得られることを見出し本発明を為した。
【0009】
すなわち、本発明は(1)水溶性高分子及びイオン性官能基を有する水溶性ラジカル重合開始剤を溶解させた水性媒体中に、重合性単量体を分散させ、重合を行なうことを特徴とするポリマー粒子の製造方法;
(2)水性媒体中に溶解している水溶性高分子の濃度が0.001〜5kg/m3であることを特徴とする上記(1)に記載のポリマー粒子の製造方法;
(3)水性媒体が緩衝液であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のポリマー粒子の製造方法;
を要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、重合性単量体の濃度を変動させても重合途中の、又は重合後のポリマー粒子の分散安定性に優れ、平均粒子径が1μm以上で、しかも変動係数が10%以内である粒子径分布が狭い範囲にある粒子径の揃ったポリマー粒子を、効率よく安定的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のポリマー粒子の製造方法に用いられる重合性単量体としては、ラジカル重合可能な重合性単量体であり、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、2,4,6−トリブロモスチレン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、ジビニルベンゼンなどの芳香族ビニル化合物;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、ブタンジオールジアクリレートなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどのメタクリル酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル基含有ビニル化合物などが挙げられ、これらの重合性単量体を2種類以上混合して用いても良い。
【0012】
本発明において上記重合性単量体の添加量は、水性媒体100重量部に対し1〜30重量部であることが好ましく、さらに好ましくは5〜15重量部である。重合性単量体の添加量が1重量部未満ではポリマー粒子の収量が少なく生産性の点で好ましくない。一方30重量部を超えると得られるポリマー粒子が凝集や凝結を起こす虞がある。
【0013】
本発明に用いられるイオン性官能基を有する水溶性ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス(2−メチルアミジノプロパン)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシ−ブチル)]プロピオンアミド}等のアミン基、イミダゾール基、アミジノ基、ピリミジン基等を有するカチオン性の水溶性アゾ化合物、及びこれらの水和物あるいはこれらの塩;4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等のカルボキシル基、スルホン酸基等を有するアニオン性の水溶性アゾ化合物、及びこれらの塩;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシルエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]等の両性の水溶性アゾ化合物等が挙げられ、これらの水溶性ラジカル重合開始剤を2種類以上混合して用いても良い。
【0014】
上記の水溶性ラジカル重合開始剤の添加量は、重合性単量体100重量部に対して0.01〜10重量部であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜5重量部である。水溶性ラジカル重合開始剤の添加量が0.01重量部未満であると重合反応が完結せず未反応の重合性単量体が残存する虞がある。一方10重量部を超えると得られるポリマー粒子の粒子径が小さくなり、所期の粒子径のポリマー粒子が得られない虞がある。
【0015】
本発明に用いられる水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、デンプン等が挙げられ、これらの水溶性高分子は2種類以上混合して用いても良い。
上記の水溶性高分子は、通常、粘度平均分子量が10,000〜1,000,000程度のものが用いられる。尚、ここでいう粘度平均分子量の測定に際しては、たとえば、ポリビニルピロリドンの場合、溶媒は30℃の水、式[η]=KMraにおける定数Kは39.3×10-3cm3-1、定数aは0.59が採用される。
【0016】
本発明に用いられる水溶性高分子の水性媒体中の濃度は0.001〜5kg/m3であることが好ましく、さらに好ましくは0.01〜5kg/m3である。水溶性高分子の水性媒体中の濃度が0.001kg/m3未満では、水溶性高分子による十分な安定効果が得られず、得られるポリマー粒子の粒子径分布が広がってしまう虞がある。一方5kg/m3を超えると、重合反応完結後、ポリマー粒子を単離、精製する際、水溶性高分子がポリマー粒子表面に多量に残留する虞がある。
【0017】
本発明のポリマー粒子の製造方法において、水性媒体は脱イオン水が用いられるが、水性媒体のpHを調整するために、例えば、酢酸−酢酸ナトリウム、ホウ酸−炭酸ナトリウム、ホウ酸−四ホウ酸ナトリウム、塩酸−四ホウ酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム−リン酸水素二ナトリウム、クエン酸−水酸化ナトリウム、クエン酸二水素塩酸−フタル酸水素カリウム、クエン酸−リン酸水素二ナトリウム、コハク酸−四ホウ酸ナトリウム、アンモニア−塩化アンモニウム等を添加して調整した緩衝液を用いることが好ましい。これらの緩衝液で、重合途中の、又は重合後のポリマー粒子表面の電荷密度を制御することにより、ポリマー粒子の凝集を防止し、重合反応中のポリマー粒子の分散安定性を高めることができる。
【0018】
本発明のポリマー粒子の製造方法において、得られるポリマー粒子の分子量を調整するために、例えば、n−ドデシルメルカプタンやα−メチルスチレンダイマー等の連鎖移動剤を重合性単量体に添加しても良い。さらに、ポリマー粒子に様々な性能や機能を付与するため、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、導電化剤、顔料、金属微粒子、金属酸化物微粒子、ゴム成分等を添加しても良い。
【0019】
本発明における重合は、撹拌装置を備えた反応容器に、所定量の水性媒体、水溶性高分子、ラジカル重合開始剤、及び重合性単量体を入れ、反応器内を窒素等の不活性ガスにより置換後、加温することにより重合反応が進行する。なお、水溶性ラジカル重合開始剤は水に溶解させた状態で添加することが好ましい。重合反応の温度は使用する重合性単量体やラジカル重合開始剤の種類や濃度により異なるが、通常60〜90℃の範囲である。また、重合時間は通常10〜36時間の範囲である。重合反応完了後、得られたポリマー粒子は遠心分離機等により脱水され、水やアルコールで繰り返し洗浄され、さらに減圧乾燥や噴霧乾燥等により単離、精製される。
【0020】
本発明のポリマー粒子の製造方法では、平均粒子径が0.1〜10μmのポリマー粒子を製造することが可能であるが、本発明の方法は、特に、平均粒子径が1μm以上で、かつ変動係数が10%以内である粒子径分布が狭く粒子径の揃ったポリマー粒子を安定的に製造するのに適しており、更には、平均粒子径が1〜7μmで、かつ変動係数が10%以内である粒子径分布が狭く粒子径の揃ったポリマー粒子を安定的に製造するに適している。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。ただし、本発明は本実施例に限定されるものでない。
【0022】
実施例1
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素導入管を取り付けた四つ口セパラブルフラスコに、水溶性高分子としてポリビニルピロリドン(粘度平均分子量40,000、K値 30)0.08gを溶解させたアンモニア緩衝液(脱イオン水中のアンモニア、及び塩化アンモニウム濃度がそれぞれ10mol/m3になるように調整、pH=8.3/65℃)750mlを入れ、内容物を300rpmで撹拌しながら、窒素バブリングを30分間行なって容器内を窒素置換した後、スチレン91.5g(水100重量部に対して11.4重量部)を投入し、撹拌しながら65℃に昇温した。次いで水溶性ラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシルエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]・水和物(和光純薬社製)2.6gを、ポリビニルピロリドンを含まないアンモニア緩衝液50ml溶解させた溶液を投入し、重合反応を開始させた。温度65℃、撹拌速度300rpm、窒素雰囲気下の条件で24時間重合を行ない、ポリマー粒子を得た。尚、ポリビニルピロリドンにおけるK値とは、分子量と相関する粘性特性値で、毛細管粘度計により測定される相対粘度値(25℃)を下記のFikentscherの式に適用して計算されたものである。
【0023】
(数1)
K=(1.5logηrel −1)/(0.15+0.003c)+(300clogηrel +(c+1.5clogηrel21/2/(0.15c+0.003c2
ただし、ηrelは、ポリビニルピロリドン水溶液の水に対する相対粘度であり、cは、ポリビニルピロリドン水溶液中のポリビニルピロリドン濃度(%)である。
【0024】
得られたポリマー粒子の平均粒子径dv(μm)、及び変動係数Cv(%)は、ポリマー粒子を透過型電子顕微鏡により観察し、200個以上のポリマー粒子について粒子径を測定し、以下の式により、平均粒子径dv(μm)、及び変動係数Cv(%)を求めた。
【0025】
平均粒子径;dv(μm)
【数2】

【0026】
変動係数;Cv(%)
【数3】

ここで、di;ポリマー粒子の粒子径(μm)、ni;ポリマー粒子の個数
【0027】
上記により得られたポリマー粒子の粒子径と個数頻度との関係を図1のグラフに示す。図1に見られるように、粒子径分布が狭く粒子径の揃ったものである。
【0028】
実施例2
スチレンを45.8g(水100重量部に対して5.7重量部)とした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0029】
実施例3
水溶性高分子としてポリビニルピロリドン(粘度平均分子量10,000、K値 15)0.075gを溶解させたアンモニア緩衝液750mlを用い、スチレンを45.8g(水100重量部に対して5.7重量部)とした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0030】
比較例1
水溶性高分子を添加せず、スチレンを45.8g(水100重量部に対して5.7重量部)とした以外は、実施例1と同様に実施した。得られたポリマー粒子の粒子径と個数頻度との関係を図2のグラフに示す。
【0031】
比較例2
水溶性高分子を添加せず、スチレンを91.5g(水100重量部に対して11.4重量部)とした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0032】
実施例及び比較例の結果を、表1及び表2に示す。
表1及び表2から、水溶性高分子を添加した本発明による実施例では、実施例1と実施例2に見られるように、水性媒体に対する重合性単量体(スチレン)の割合を変化させても、変動係数が10%以内で粒子径分布幅の狭い粒子径の揃ったポリマー粒子を得ることができることが分かる。
一方、水溶性高分子を添加していない場合、水性媒体に対する重合性単量体が11.4重量部である場合(比較例2)には変動係数が1.7%であるが、重合性単量体を5.7重量部とした場合(比較例1)には変動係数が22%となり、重合性単量体の割合によって、変動係数が大きく変動し、粒子径分布の狭いポリマー粒子を得ることのできる条件幅が狭いことが分かる。
【0033】
(表1)

(*1) ポリビニルピロリドン、(*2) 水性媒体中のPVP濃度
(*3) 水100重量部に対する重量部
【0034】
(表2)

(*2) 水性媒体中の水溶性高分子の濃度、(*3) 水100重量部に対する重量部
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明によるポリマー粒子の粒子径と個数頻度との関係を示すグラフ。
【図2】水溶性高分子を添加しない従来法(比較例1)によるポリマー粒子の粒子径と個数頻度との関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子及びイオン性官能基を有する水溶性ラジカル重合開始剤を溶解させた水性媒体中に、重合性単量体を分散させ、重合を行なうことを特徴とするポリマー粒子の製造方法。
【請求項2】
水性媒体中に溶解している水溶性高分子の濃度が0.001〜5kg/m3である請求項1に記載のポリマー粒子の製造方法。
【請求項3】
水性媒体が緩衝液であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリマー粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−262331(P2007−262331A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92374(P2006−92374)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】