説明

ポリマー膜でコーティングされた炭素粒子、その製造方法およびその使用

本発明は、プラズマコーティングされたフラーレン系煤粒子を含む組成物、その調製方法、およびそのポリマー混合物での使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマコーティングされたフラーレン系煤粒子を含む組成物、その製造方法およびポリマーブレンドにおけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、ポリマー、熱可塑性プラスチックおよびゴムへの電導性添加剤として用いられている。ポリマー/カーボンブラック複合材は、通常は非常に典型的なパーコレーション挙動を示す。この複合材の電気抵抗率は、図1に示されたような曲線に従う。
【0003】
図1に示されているように、ポリマー組成物へのカーボンブラックの添加は、ある水準までは、DC抵抗率へのいずれかの効果もなく、次いで急激にその抵抗率が低水準に低下し、そして非常にゆっくりとのみ漸進的に変化するが、このことは当技術分野でよく知られている現象である。充填剤として選択されるカーボンブラックの種類の影響は、通常は、パーコレーション効果を達成させるのに必要な濃度への影響だけであり、一方で、ポリマー/カーボンブラック混合物の結果として得られる抵抗率は、充填剤として加えられたカーボンブラックの種類とは関係なく一定の水準のままである。しかしながら、用途によっては、電導性ポリマーは望ましくなく、そして充填剤は、非電導性ポリマーの帯電防止改質剤としてのみに用いられなければならい。
【0004】
また、カーボンブラックは、通常はエラストマー(ゴム)混合物中の充填剤として用いられる。そのようなゴム混合物は、例えばタイヤ工業において大変な重要性を有している。異なるゴムは、応力に対して異なる種類の応答を有するので、選択されたゴムの混合は、相反する一連の性質の必要性に合致するように、すなわち所望の性質を備えたゴム製品をもたらすように実践されている。また、混合は、ゴムの加工性を向上させ、そして総体的に製造コストを低下させることができる。
【0005】
ゴムは、その純粋な形態ではほとんど使用することができない。ゴムは、通常は、所望の物理的性質を与えるように、そして最適な水準の加硫をもたらすように、補強性充填剤、非補強性充填剤、可塑剤、加工助剤、酸化防止剤および加硫剤と混合される。対照的に、熱可塑性プラスチックは、充填剤、安定剤および加工助剤などの成分は、僅かしか混合されず、そしてそれらの融点またはガラス転移温度より高い温度で加工される。
【0006】
事実、カーボンブラックは、ゴム工業において、ゴムの機械的および動的性能を向上させるために、用いられる最も重要な活性充填剤の1つである。これらの充填剤のゴムマトリック中での挙動は、主にはそれらの表面特性における違いのために、非常に異なっている。これらの充填剤の表面特性は、濡れ挙動、ゴムマトリックスとの相互作用、マトリック中での再凝集などに対して重大な寄与をする。
【0007】
カーボンブラック充填剤で通常遭遇する問題の1つは、慣用のカーボンブラックの表面エネルギーは、種々のエラストマー、例えばスチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、およびエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)の表面エネルギーよりも、通常は高いことである。充填剤とゴムの間の大きな表面エネルギー差によって、充填剤−充填剤相互作用は増大し、それが今度は、混合の間に到達する分散状態の安定性に対して負の影響を与える。表面エネルギーと化学的性質を種々のゴムの範囲にまで低減することは、それらの充填剤を相溶化させるのを促進する可能性がある。
【0008】
カーボンブラック粒子の表面エネルギーと表面特性を改質するために、カーボンブラック粒子をポリマー層でコーティングする試みがなされてきた。表面上へのポリマー膜の生成は、変化した接触抵抗および接点容量をもたらす。言い換えれば、ポリマーコーティングされたカーボンブラックを用いたポリマー/カーボンブラック混合物は、電子が、周囲の充填剤粒子もしくはポリマーと相互作用するためには、粒子の付加的な表面ポリマー層を通り抜けなければならないために、ポリマーまたは非改質カーボンブラックとの混合物と比べて、増大したDC抵抗率を示す。
【0009】
重合によるカーボンブラックの表面改質は、当技術分野において一般的に知られている。慣用の重合反応(モノマーを好適な溶媒中に溶解し、このモノマー溶液および適用可能な添加剤をカーボンブラック粒子と接触させ、そして次いでこの溶媒を蒸発(大抵は加熱によって)させて、粒子の表面上にポリマー層を形成する)によるカーボンブラックの重合は、従来技術において開示されている。例えば、溶媒の存在の下で、カーボンブラックを含むフラーレン系煤の表面上にエポキシまたはフェノール樹脂を堆積させることが、東海カーボン株式会社の特開1996-291295(特開平08-291295号明細書)中に記載されている。
【0010】
しかしながら、慣用の重合は、多くの不利益、例えば表面上に膜の固定化を達成するために熱を加える必要性、および重合を成し遂げるために用いられた残留溶媒もしくは他の添加剤の最終製品中への望まれない存在、を有している。
【0011】
プラズマ重合が、金属、ポリマーおよび粉末のための表面改質技術として出現している。プラズマ重合は、慣用の重合プロセスとは異なっている。プラズマ重合から形成されるポリマーと慣用の重合では、重合に同じモノマーを用いたとしても、化学的組成ならびに化学的および物理的性質において広範囲に異なっている。プラズマポリマーのこの特異性は、ポリマー形成プロセスの反応機構からもたらされる。
【0012】
この技術は、モノマー分子の電界衝撃を含んでおり、それによって活性モノマー種を生成して、それが次いで表面と反応して基質上に膜を形成する。結果として、基質の表面特性は劇的に変化する。モノマーの好適な選択によって、基質は疎水性または親水性のいずれにもすることができる。プラズマ重合は、周囲温度で実施することができ、そしてこのプロセスではいずれの溶媒も必要としてせず、これを清浄なプロセスにしている。
【0013】
カーボンブラックの表面は、黒鉛状平面(サイトI)、無定形炭素(サイトII)、結晶子端(サイトIII)およびスリット形状の空洞(サイトIV)からなっていることが知られている。黒鉛状構造に関係付けられる伝導電子は、これらのサイトに関係付けられるエネルギーの量に重要な役割を果たしている。最近、Schroederら(非特許文献1)は、種々の分子の吸着等温線を解析することによって、カーボンブラックの表面上のこれらのサイトにおける異なるエネルギーを定量化した。彼らの解析によれば、特に、カーボンブラックの表面上の結晶子端(III)とスリット形状の空洞(IV)は、π−電子が高濃度のサイトである(図2を参照)。これらのサイトは、ゴム−充填剤および充填剤−充填剤相互作用の点で、最も重要である。黒鉛状構造に関係付けられる伝導電子は、これらのサイトと関係付けられるエネルギーの量に重要な役割を果たしている。
【0014】
更に、カーボンブラックの表面はまた、可能基、例えばカルボキシル、フェノール、ラクトンおよびキノン系(quinonic)基で被覆されている(図3を参照)。これらは、好ましくは黒鉛状基礎面の端部または結晶子端に位置している。
【0015】
カーボンブラックがプラズマに暴露された場合には、以下のプロセスが発生する可能性がある:
黒鉛状平面におけるC−C結合の破壊。
【0016】
これらのC−C結合の破壊によって、黒鉛状平面上にラジカルが発生する。しかしながら、この黒鉛状構造は、共鳴によって安定化されている。ラジカルが発生すると直ぐに、ラジカルは結合を再生して、そしてそれらの安定した状態に戻る。
【0017】
C−O結合および他の官能基の破壊は、結晶子端に位置している。結晶子端に位置するC−O結合または他の官能基が破壊されると直ぐに、モノマー活性種はこれらのサイトを攻撃することができ、そのことがより好ましい。
【0018】
モノマー活性種の連続的な結合は、結晶子で発生したサイト、すなわち、官能基の結合破壊によって発生したサイトのみで起こる。ファーネスカーボンブラックでは、これらの活性サイト(III〜IV)の濃度は、表面上の5〜20%の範囲で変わり、そして他の95〜80%は黒鉛状平面が寄与している。より大きな表面積およびより小さな粒子径を備えたファーネスカーボンブラックは、これらのエネルギー性のサイト(サイトII〜IV)が、より大きな割合を占めている。表面積が減少し、そして粒子径が増大すると、これらのサイトの割合は減少する。
【0019】
カーボンブラックやシリカなどの充填剤のゴムへの応用のための表面改質技術としてのプラズマ重合の進展は、極めて最近に展開された。Nahら(非特許文献2)は、シリカへのプラズマ重合およびそのゴム特性への効果を報告している。Akovaliら(非特許文献3)およびTricasら(非特許文献4、5)は、プラズマ重合によるカーボンブラックの改質を報告している。このプロセスに用いられたモノマーは、アクリル酸、スチレンおよびブタジエンであった。彼らの発見は、カーボンブラックの表面上の全てのサイトを被覆するコーティングで、カーボンブラックは成功裏に改質されるとの結論に導いた。また、Kangら(非特許文献6)は、プラズマ重合によるカーボンブラックの改質を報告しており、そして表面特性を操作することが可能であると結論している。
【0020】
しかしながら、カーボンブラックの全ての種類が、成功裏にプラズマ重合されるのではなく、そして大抵のカーボンブラックは、シリカに比較して、ほんの非常に小さい量のプラズマポリマーでしか被覆されず、それらの表面特性の不十分な変化しかもたらさないことが見出された(例えば、Mathewら(非特許文献7)を参照)。観察される他の問題は、プラズマポリマーで被覆された粒子の低い均一性、長い処理時間およびカーボンブラックの種々の種類に対する乏しい再現性である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】A. Schroeder、PhD Thesis、ハノーファー大学、Deutsches Institut fuer Kautschuktechnologie、ハノーファー、独国、2000年
【非特許文献2】C. Nah、M.Y. Huh、J.M. RheeおよびT.H. Yoon、Polym. Int.、第51巻、p.510、2002年
【非特許文献3】G. AkovaliおよびI. Ukem、Polymer、第40巻、p.7417、1999年
【非特許文献4】N. Tricas、E. Vidal-Escales、S. BorrosおよびM. Gerspacher、16th Conference of International Society of Plasma Chemistry、Taormina、伊国、2003年
【非特許文献5】N. Tricas、S. BorrosおよびR.H. Schuster、Proceedings of the Kautschuk-Herbst-Kolloquium、ハノーファー、独国、2004年
【非特許文献6】Y.C. KangおよびW. J. van Ooij、Proceedings ACS Rubber Div. Fall Meeting、シンシナティ、Paper 67、2006年
【非特許文献7】T. Mathews、R.N. Datta、W.K. Dierkes、J.W.M. Noordermeer、W.J. van Ooij、Plasma Chem Plasma Process、第28巻、p.273-287、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
最新の技術水準を考慮しても、プラズマ重合技術によって成功裏に、そして再現性よく調製することができる表面改質カーボンブラック組成物への要求が依然として存在している。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、ここで驚くべきことに、プラズマ重合プロセスにおいてフラーレン系煤の炭素粒子が用いられた場合には、このプロセスは信頼性高く、そして良好な効率で実施することができ、慣用の重合技術を通して得られた製品よりも、有利な特性を有するプラズマ重合されたカーボンブラック組成物をもたらすことを見出した。更に、プラズマ重合条件の変更が、製品の広範囲にわたる所望の特性を実現させるように、製品の抵抗率または導電性などの特性を適合させることを可能にすることが見出された。本発明においては、このような組成物は、プラズマコーティングされたフラーレン系煤またはPCFSと称される。
【0024】
1つの態様では、本発明は、フラーレン系煤の炭素粒子が、芯の炭素粒子上に、プラズマ重合されたモノマーからなる層のコーティングを有することを特徴とする、フラーレン系煤の炭素粒子を含む組成物を提供する。
【0025】
態様によっては、このPCFS組成物は、重合されたモノマーの層が、粒子の質量の、1.0〜30%、好ましくは1.5〜20%、またはより好ましくは1.5〜8.0%、存在することを特徴としている。重合されたモノマー層の質量は、熱重量分析によって好都合に測定される。
【0026】
更なる態様では、PCFS組成物は、炭素粒子の表面エネルギーが、65.0mJ/m未満、または60.0mJ/m未満、または57.0mJ/m未満であることを特徴としている。他の態様では、PCFS組成物は、その電気抵抗率が、0.4オーム・cm超であることを特徴としている。
【0027】
なお更なる態様では、PCFS組成物は、芯の炭素粒子が、黒鉛または他の炭素同素体を前駆体として用いた高温プラズマによって生成されたフラーレン系煤粒子であることを特徴としている。他の態様では、本組成物は、芯の炭素粒子が、カーボンブラック、黒鉛または他の炭素同素体を前駆体として用いた高周波(RF)プラズマによって生成されることを特徴としている。あるいは、芯の炭素粒子は、燃焼プロセスによって、またはアークプロセス、またはレーザーアブレーションによって生成されたフラーレン煤粒子である。
【0028】
態様によっては、重合されたモノマーの層は、重合された炭化水素モノマーからなっており、このモノマーは、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含んでいる。特定の態様では、このモノマーは、アセチレンである。
【0029】
本発明のPCFS組成物は、フラーレン系煤の芯の炭素粒子の表面上へのモノマーのプラズマ重合プロセスによって得ることができる。
【0030】
従って、本発明の他の態様は、プラズマ重合反応器内で、芯のフラーレン系煤の炭素粒子上へ、モノマーのプラズマ重合を実施することを特徴とする、上記のPCFS組成物の調製プロセスの提供である。
【0031】
本発明の更に他の態様では、上記のPCFS組成物と、1種もしくは2種以上のポリマーとを含む混合物が提供される。態様によっては、このポリマーは、天然もしくは合成エラストマーであり、好ましくは天然ゴム、スチレン−ブタジエン−ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン−ゴム、またはエチレン−プロピレン−ジエンゴムからなる群から選ばれる。
【0032】
本発明のこの態様の実施態様によっては、この混合物は、極限抵抗率(ultimate conductivity)が、10〜1013オーム・cmの範囲内であることを特徴としている。どのような場合でも、本発明で提供されるPCFS組成物を含むこれらの混合物は、重合されていない炭素粒子を含む組成物と比べて、それ以外は同様の成分を有していたとしても、より高い抵抗率を特徴としている。
本発明の更に他の態様では、この混合物中のプラズマコーティングされたフラーレン系煤は、互いの親和性が小さく、そして炭素充填剤に対して異なる親和性を備えたポリマーを相溶化するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、ポリマー/カーボンブラック複合材の電気抵抗率曲線を示している。
【図2】図2は、エネルギーサイトI〜IVのカーボンブラックミクロ構造への帰属を示している。
【図3】図3は、カーボンブラックの表面上の官能基を示している。
【図4】図4は、本発明のプロセスに好適な垂直型プラズマ反応器の概略図を示している。
【図5】図5は、炭素粒子の表面上へのアセチレンのプラズマ重合前後の炭素粒子のTGA温度記録図を示している。
【図6】図6は、コーティングされていないフラーレン系煤試料に対するコーティングされたフラーレン系煤試料の抵抗率を示している。
【図7】図7は、種々のフラーレン系煤の充填量での、SBR中でのペイン効果(Payne effect)を示している。
【図8】図8は、種々のフラーレン系煤の充填量での、NBR中でのペイン効果(Payne effect)を示している。
【図9】図9は、種々のフラーレン系煤の充填量での、EPDM中でのペイン効果(Payne effect)を示している。
【図10】図10は、異なるゴム中でのペイン効果の百分率での低下を示している。
【図11】図11は、40部のプラズマコーティングされたフラーレン系煤を備えたSBRの応力−歪曲線を示している。
【図12】図12は、40部のプラズマコーティングされたフラーレン系煤を備えたNBRの応力−歪曲線を示している。
【図13】図13は、40部のプラズマコーティングされたフラーレン系煤を備えたEPDMの応力−歪曲線を示している。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の目的の1つは、帯電防止性の非導電性ポリマーもしくはゴムおよびゴム混合物を含む種々の用途における応用に向けて、炭素粒子表面上にポリマー層を堆積させるために、プラズマ重合プロセスによって炭素粒子の表面を改質する信頼でき、かつ好都合なプロセスを提供することである。この技術は、プラズマ重合を含み、それはモノマー分子の電界衝撃を含んでおり、それによって活性モノマー種を生成させ、それが次いでフラーレン系煤(FS)の炭素粒子の表面と反応して、基質上に膜を形成する。この改質の結果として、FS基質の表面特性は劇的に変化する。好適なモノマーを選択することによって、基質は疎水性または親水性のいずれにもすることができる。本発明のプロセスによって得られたPCFS組成物は、例えばタイヤの充填剤として用いることができる。
【0035】
驚くべきことに、フラーレン系煤炭素粒子がプラズマ重合プロセスに用いられた場合には、この組成物の表面特性における変化は、慣用のカーボンブラック粒子で観察されるよりも、より迅速に達成することができることが見出された。例えば、慣用のカーボンブラック粒子を含む組成物は、フラーレン系煤炭素粒子組成物が、アセチレンプラズマ中で1時間で得られる表面張力と同じ値に達するのに、アセチレンプラズマ中で4時間の処理を必要とする(図2を参照)。
【0036】
<フラーレン系煤>
ここで用いられる用語「フラーレン系煤」は、「フラーレン生成および炭素ナノ構造生成からの残基を含む炭素」と同義であると理解され、そしてフラーレン型のナノ構造を相当な割合で含む残基を意味している。フラーレン型炭素化合物の割合は、5員もしくは6員炭素環の存在を通して測定され、これらの環はカーボンブラック表面上への湾曲した炭素の層をもたらす。ここでのフラーレン型炭素ナノ構造の割合は、通常は約100%であるが、それ未満であってもよい。決定的要因は、官能化を許容する必要条件であり、それがカーボンブラックの性質に重大な変化をもたらす。この割合は、好ましくは80%〜100%である。しかしながら、この好ましい割合は、用途によって変わる可能性がある。
【0037】
原則として、フラーレン生成および/または炭素ナノ構造生成のための知られているいずれのプロセスでも、炭素含有残基を得るために好適である。他のプロセスからのファーネスブラックまたはカーボンブラックもまた、表面上にフラーレン型残基が存在する限り好適である。
【0038】
1つの好ましい態様によれば、炭素含有残基は、炭素電極の、電気アーク、レーザー、または太陽エネルギーによるアブレーションによって得られる。電気アークアブレーションのプロセスが、Journet, C.ら、Nature、第388号、1997年、p.756に記載されている。炭素のレーザーアブレーションおよび炭素含有残基の生成に好適なプロセスが、例えば、Thess, A.ら、Science、第273号、1996年、p.483に記載されている。炭化水素を用いた化学気相堆積による炭素含有残基の生成に好適なプロセスが、更に、Ivanovら、Chem Phys. Lett.、第223巻、1994年、p.329に記載されている。プラズマ技術を用いた他の生成プロセスが、台湾特許出願第93107706号明細書中に記載されており、そして炭素含有残基の生成のために好適な太陽エネルギープロセスが、Fieldsらの米国特許第6,077,401号明細書中に記載されている。
【0039】
炭素含有残基は、炭化水素の不完全燃焼によって得ることができる。例として、予備混合されたベンゼン/アセチレンから誘導された火炎中で、フラーレンの生成が観察されている(Baumら、Ber. Bunsenges. Phys. Chem.、第96巻、1992年、p.841〜847)。炭素含有残基の生成のための燃焼に好適な炭化水素の他の例としては、エチレン、トルエン、プロピレン、ブチレン、ナフタレンまたは他の多環式芳香族炭化水素、特には石油、重油およびタールがあり、そしてこれらも同様に用いることができる。また、炭素から、カラギーンから、そして主に炭化水素を含んでいるバイオマスから誘導される物質を用いることも可能である。しかしながら、それらはまた他の元素、例えば窒素、硫黄および酸素を含んでいてもよい。米国特許第5,985,232号明細書には、炭化水素の燃焼に特に好ましいプロセスが記載されている。
【0040】
他の態様によれば、炭素含有残基は、炭素粉末の熱プラズマ中での処理によって、フラーレンと共に、得ることができる。あるいは、炭素含有残基は、不活性な、もしくは少なくともある程度は不活性な雰囲気中での炭素の再凝集によって得ることができる。
【0041】
例として、欧州特許出願公開第0682561号明細書には、プラズマガス中での炭素の転化プロセスが記載されている。このプロセスによって、フラーレンおよびカーボンナノチューブもまた生成することができる。
【0042】
炭素含有残基は、好ましくは以下の工程によって生成され、好ましくは以下の順序で生成される。
・プラズマが、電気エネルギーで発生される。
・炭素前駆体および/または1種もしくは2種以上の触媒およびキャリアプラズマガスが、反応区域中に導入される。この反応区域は、適切であれば、高温に耐える気密の容器中にある。
・炭素前駆体は、この容器中で、非常な高温で、好ましくは4000℃以上で、ある程度まで蒸発させられる。
・キャリアプラズマガス、蒸発した炭素前駆体および触媒は、プラズマガスの流れの方向に、その直径が細くなる、太くなる、もしくはさもなければ一定のままである、ノズルを通過する。
・キャリアプラズマガス、蒸発した炭素前駆体および触媒は、ノズルを通過して、核形成、成長および急冷(quenching)のための急冷区域中へと入る。この急冷区域は、空気力学的および電磁的力によって生成された流動条件で操作されており、それによって出発材料または製品の反応区域中へのいずれの顕著な戻りをも防止する。
・急冷区域中のガス温度は、この区域の上部における約4000℃から、この区域の下部における約800℃に制御されている。
・用いられる炭素前駆体は、固体炭素材料であることができ、これらとしては、以下の材料、カーボンブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、黒鉛、コークス、プラズマ炭素ナノ構造体、発熱炭素(pyrolitic carbon)、カーボンエアロゲル、活性化炭素またはいずれかの所望の固体炭素材料を挙げることができる。
・あるいは、用いられる炭素前駆体は、炭化水素、好ましくは、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロピレン、重油、廃油の1種もしくは2種以上から、または熱分解燃料油から、またはいずれかの他の所望の液体炭素材料から、構成される炭化水素であることができる。また、炭素前駆体は、いずれかの有機分子、例えば植物性脂肪、例えば菜種油であることができる。
・炭素前駆体を生成するおよび/またはプラズマを生成するガスは、以下の、水素、窒素、アルゴン、ヘリウムまたは、炭素親和性でなく、好ましくは酸素を含まない、いずれかの所望の他の純粋なガスの1種もしくは2種以上を含む、あるいはそれらで構成されている。
【0043】
他のプロセスの変形については、国際公開第04/083119号が参考文献として引用され、その全体を参照することによって本明細書の内容とする。
【0044】
好ましい態様では、炭素前駆体は、カーボンブラック、黒鉛、他の炭素同素体またはそれらの混合物から選択される。
【0045】
あるいは、官能化されたフラーレン系煤は、本発明の目的に用いることができる。例えば、国際特許出願公開第2006/114419号から、官能化反応はフラーレン系煤の生成過程の間または後に実施することができることが知られており、そしてそれによって得られたフラーレン系煤もまた、ここで用いられる用語「フラーレン系煤」に包含される。
【0046】
ここでの官能化反応は、以下の反応の1つもしくは2つ以上を含んでいる。
・残基のヒドロキシル化、好ましくは酸化剤によるものであり、この酸化剤は好ましくは過マンガン酸カリウムである。
・アンモニアとの、残基の、アミノ基を得る反応。
・アルキルまたはアリールアミンとの、残基の反応。
・オゾンとの、残基の、オゾン化物を形成し、そして続いてカルボニル化合物を形成する反応。
・残基の、ハロゲン化剤での処理(このハロゲン化剤は、好ましくは塩素もしくは臭素である)。
・残基を付加環化反応させること。
・残基をグリニャール反応させること。
・残基の水素添加。
・残基を電気化学反応させること。
・残基をディールス−アルダー反応させること。
・ドナー−アクセプター分子錯体の形成。
【0047】
上記の反応とならんで、他の好適な官能化反応としては、フラーレンに関連して従来技術において知られているいずれかの官能化反応がある。
【0048】
<プラズマ重合のプロセス>
一般に、本発明のプラズマ重合は、いずれかの好適なプラズマ反応器中で実施することができる。種々の種類のプラズマ反応器が、当業者には知られている。本発明の1つの態様では、プラズマ重合は、高周波(RF)プラズマ垂直型反応器中で実施される。この反応器の概略図が、図4に示されている。
【0049】
特定の態様では、反応器は、長い管状領域が結合された丸底フラスコからなっている。プラズマが、13.56MHzの高周波(RF)プラズマ発生器(MKS-ENI ACG 3B)の援けを得て発生される。典型的には、80〜250ワットの電力出力が用いられる(表IおよびVを参照)。これは、自動インピーダンス整合ユニット(MKS MWH-5)と接続され、これは次に反応器の長い管状領域上に巻かれた銅コイルへと接続される。粉末が、チャンバーの底に保持されて、そして粉末粒子を均一にプラズマに暴露するために、電磁攪拌器の援けを得て攪拌される。この系は、30ミリトールの圧力まで排気される。モノマーが、一定した流動条件下で反応チャンバー中へと注入される。モノマー流は、質量流量制御器(MKS-1179A)によって監視され、そしてこの系の圧力は、温度が管理された静電容量型圧力計(MKS-627B)によって監視される。所望のモノマー圧力が達成されたら、RF出力が加えられる。
【0050】
フラーレン煤の生成のためのこのRF熱プラズマ技術は、例えばTororovic-Markovic B.、Markovic S.、Mohai I.、Karoly Z.、Gal L.、Foeglein K.、Szabo P.I.、Szepvoeglyi J.、Chemical Phys. Letters、2003年、第378巻、第3〜4号、p.434〜439に記載されている。
【0051】
プラズマ重合プロセスにおいては、モノマー分子は電子、イオンおよびラジカルから高いエネルギーを得て、そして活性化された小さな断片、場合によっては原子へと断片化される。これらの活性化された断片は、再結合し、時には転位を伴って、そしてこの分子は、気相中で、もしくは基質の表面で、大きな分子量の分子に成長する。活性化、断片化、そして再結合の繰り返しが、ポリマーの形成をもたらす。慣用の重合では、モノマー分子は、化学反応を通して、そのモノマーの化学構造のいずれの改変もなしに互いに結合される。従って、慣用の重合によって形成されるポリマーの化学構造は、そのモノマーの構造によって良好に予測される。対照的に、プラズマ重合の場合には、ポリマーの構造は、モノマーの構造からは明確には予測できない。
【0052】
極端な場合には、出発分子は、原子へと断片化されて、そして大きな分子へと再構成される。従って、形成されるポリマーのシーケンスおよび化学構造は、出発分子のそれとは同一ではない。出発分子が、如何にして活性化された小断片へと断片化されるかは、プラズマの水準および出発分子の性質に依存する。このことが、同じ出発材料がプラズマ重合に用いられたとしても、プラズマ重合が異なる条件、例えば、モノマー流量、高周波(RF)出力および反応チャンバー圧力、で行なわれた場合には、プラズマポリマーが何故に異なる化学組成を有しているかの理由である。
【0053】
プラズマ重合による炭素粒子の改質に伴って、架橋されたポリマー膜が、表面上に形成される。プラズマポリマーは、相当の量の捕捉されたラジカルを含んでおり、そして重合過程の後に大気条件に暴露されると、プラズマポリマーは容易に酸化されて、表面上に酸素の存在を生じさせる可能性がある。コーティングの表面上の炭素と酸素のそれぞれの濃度は、X線光電子分光法によって容易に測定することができる。
【0054】
プラズマ重合で最も一般的に遭遇するモノマーの分類は以下のようである。
1.炭化水素
これらは、従来の重合可能な基を含んでいる必要はない。典型的な例としては、アセチレン、エチレン、エタン、メタン、シクロヘキサン、ベンゼン、スチレンおよびブタジエンが挙げられる。しかしながら、これらのモノマーの性能の間には差異がある。飽和した系の場合には、重合は、よりゆっくりと進行する。また、エチレンの場合には、プラズマ重合を行うことができる機会領域(window)は非常に狭い。この領域の外では、プラズマポリマー粉末または油状の膜の形成の可能性がある。
【0055】
2.極性基を備えた炭化水素
これらは、より極性のプラズマポリマーを形成するのに用いることができる。モノマー、例えばアクリル酸、アリルアミン、ピリジン、ビニルピリジン、アリルアルコールなどは、この目的に用いることができる。
【0056】
3.へテロ分子を備えた炭化水素
ピロール、チオフェン、フランなどのモノマーを用いることができる。
【0057】
4.フルオロカーボン
用いられる典型的なモノマーとしては、ペルフルオロヘキサン、オクタフルオロトルエン、六フッ化イオウ、テトラフルオロエチレンが挙げられる。
【0058】
5.ケイ素含有モノマー
これは、テトラメチルシラン(TMS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)などが挙げられる。
【0059】
モノマーの選択は、必要とされるプラズマポリマーの種類および重合プロセスの実際的な実現可能性に常に依存する。一般に、上記のモノマーの全ては、本発明との関連において想定されている。
【0060】
<炭素粒子のプラズマ重合の幾つかの利点>
1.炭素粒子の表面特性を改質することができる、非常に薄い均一な膜を生成することができる。フラーレン系煤では、これは典型的には、芯の炭素粒子上に、3〜9nmの範囲である(例1を参照)。
2.このプロセスは、高度に汎用性があり、何故ならば、特定の表面特性を達成するために、多様な異なるモノマーと異なる反応器条件の両方を適用することができるからである。
3.重合には溶媒も触媒も必要としないために、溶媒や触媒から誘導される不純物を含まない重合されたモノマーの層を形成することが可能である。
4.プラズマ重合は、周囲温度で行なうことができる。例えば、高周波(RF)プラズマ垂直型反応器を用いることができ、それは80〜250ワットの典型的な出力で運転される(表IおよびVを参照)。
【0061】
要約すると、慣用の重合プロセスによって得られるフラーレン系煤の表面改質は、プラズマ重合によって達成される化学的改質とは非常に異なっている。従って、本発明は、慣用の重合では達成することのできなかった、フラーレン系煤の表面改質を成し遂げることができるプロセスを開示している。
【0062】
本願出願人が知る限りでは、プラズマ重合によるフラーレン系煤の改質のためのプロセスは、従来技術には記載されていない。勿論のこと、このプロセスによって得ることのできるPCFS組成物についても同様である。
【実施例】
【0063】
例1:プラズマコーティングプロセス
以下の炭素試料を実験に用いた。
1.Ensaco 250g:伝導性カーボンブラック
2.E-MM131: 黒鉛化されたE-250g
3.EP-P434: 前駆体E-250gを備えたフラーレン系カーボンブラック
4.KS 4: 基礎的な合成黒鉛
5.RP-P534: フラーレン系黒鉛
【0064】
Ensaco 250およびKS4は、Timcal S.A.から商業的に入手可能な製品である。E-MM-131、EP 434およびRP534は、Timcal S.A.の実験的製品である。
【0065】
上記の炭素種の高周波(RF)プラズマ垂直型反応器中での処理のための詳細なプロセス条件は、表1に与えられている。このプラズマ垂直型反応器は、図4中に示された大きさおよび種類であった。
【0066】
【表1】

【0067】
<試料の特性決定>
a.熱重量分析
パーキンエルマーTGAを、試料の熱重量分析に用いた。試料は、10℃/分で、空気雰囲気中で、50℃〜800℃に加熱した。純粋なプラズマ重合されたアセチレンの熱分解挙動を最初に検討した。純粋なプラズマ重合されたアセチレンは、265℃で分解し始め、そして分解は600℃で完了した。この観察結果に基づいて、前記プラズマ重合されたアセチレンの分解の前述の領域における、コーティングされた、そしてコーティングされていないフラーレン系煤の質量損失を計算した。コーティングされた、そしてコーティングされていない試料の間の質量損失の違いは、その表面に形成されたプラズマ重合されたアセチレンの量に対応している。
【0068】
種々のカーボンブラック試料のTGA温度記録図を図5に示した。それぞれの試料の計算された質量損失を、表II中に示した。異なる試料の間では、フラーレン系煤E-P434が、プラズマ重合されたアセチレンの大きな堆積量を与えた。フラーレン系黒鉛RP-P534は、その前駆体、基礎的な合成黒鉛KS 4よりも、相当に大きな堆積を示した。しかしながら、この黒鉛状試料は、E-250gおよびEM-M131よりも幾らか大きな堆積を示した。
【0069】
また、フラーレン系煤E-P434は、異なるプロセス条件の下で大きな堆積を与えた。
【0070】
【表2】

【0071】
b.X線光電子分光法
Al KαX線源(1486.6 eV)を装備した、Physical ElectronicsのQuantera XPSで、表面解析を実施した。224 eVのパスエネルギーでスペクトルを得て、そして元素スキャンを55 eVで、0.1 eVでの段階的に取得した。
【0072】
改質の前後の充填剤の表面上の炭素および酸素の濃度が、表III中に示されている。
【0073】
【表3】

【0074】
c.表面積測定
改質前後の、フラーレン系煤のBET表面積およびCTAB表面積を測定した。アセチレンプラズマポリマーの堆積の後に、BETならびにCTAB表面積が減少したことが見出された。結果を表IV中に示した。
【0075】
【表4】

【0076】
d.透過型電子顕微鏡
試料E-P434の炭素粒子は、表1中に特定した条件に従った処理の前後で、TEM画像化を行った。コーティングの厚さは、芯の粒子の大抵の領域において3〜5nmの範囲であり、幾らかの領域では、7〜9nmの範囲にまで広がっていることを認めることができる。
【0077】
<結論>
フラーレン系煤E-P434の表面は、プラズマ重合を通して、プラズマ重合されたアセチレン層の堆積によって容易に改質することができる。表面上に形成される層の厚さは、約5nmの範囲である。
【0078】
例2:処理された、および処理されていないカーボンブラックの表面エネルギー
非フラーレン系ファーネスカーボンブラック(N330)に、アセチレンプラズマを伴う処理を、1時間と4時間のそれぞれに亘り、加えた(N330)。処理された試料の表面エネルギーを、アセチレンプラズマ中で、1時間に亘り処理したフラーレン系煤粒子と比較した。溶媒浸漬試験の結果を、下記のスキーム中に示した。
【0079】
【表5】

【0080】
従って、処理されたカーボンブラックは、表面エネルギーの相当の低下を示している。1時間の処理の後の改質されたフラーレン煤は、4時間処理されたファーネスカーボンブラック(N330)と同様の表面エネルギー低下を示した。
【0081】
例3:ポリマー混合物への使用のためのプラズマコーティングされたフラーレン系煤
綿毛状の形態のフラーレン系煤を、ベルギー国のTimcal Graphite and Carbonから得た。この試料の略号はRP-P579であった。このフラーレン系煤のBET比表面積は、66.8m/gであった。プラズマ重合に用いられたモノマーは、米国オハイオ州のMatheson Trigasによって供給されたアセチレンであった。
【0082】
これらの実験に用いられたゴムは、スチレン−ブタジエン−ゴムの溶液(S−SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン−ゴム(NBR)およびエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)であった。S−SBRは、独国、Lanxess Corporationによって供給されたBuna VSL 5025-0HMであり、ムーニー粘度ML(1+4)100°Cが65、ビニル含量が50質量%、スチレン含量が25質量%であった。また、NBRも、独国、Lanxess Corporationによって供給されたPerbunan NT 3446であり、ムーニー粘度ML(1+4)100°Cが45、アクリロニトリル含量が、34.7±1質量%であった。EPDMは、オランダ国、DSM Elastomers B.V.によって供給されたKeltan 4703であり、ムーニー粘度ML(1+4)125℃が65、エチレン含量が48質量%、そしてエチリデンノルボルネン含量が9.0質量%であった。
【0083】
フラーレン系煤を備えたゴム配合物は、FSと表わされ、そしてプラズマコーティングされたフラーレン系煤を備えたゴム配合物は、PCFSと表わされる。
【0084】
プラズマ重合は、高周波(RF)プラズマタンブラー反応器中で実施された。100gのフラーレン系煤の導入の後に、チャンバーを10Paの圧力まで排気した。次いで、チャンバー内部を予め定められたモノマー圧力に維持しながら、モノマーを、反応チャンバー中に、一定した流動条件下で注入した。次いで、RF出力を加えた。13.56MHzの周波数が加えられた。このプロセスの条件は、煤の表面上に堆積されたプラズマポリマーの量を基に、このプロセスの最適な条件を見出すために、表V中に与えられたように変化した。
【0085】
【表6】

【0086】
<プラズマコーティングされたフラーレン系煤試料の抵抗率>
コーティングされていないフラーレン系煤試料に対するプラズマコーティングされた試料の抵抗率を、図6に示した。この図中に示されたデータから、綿毛状フラーレン系煤の抵抗率は、プラズマコーティングの堆積の後に実質的に増加することを導き出すことができる。このことは、プラズマコーティングの状態では炭素−炭素の接触がより少ないと直ちに言い換えられる。ゴムでの用途では、綿毛状フラーレン系煤は、粒状化された。また、この粒状化された試料で行なった電導率測定値は、コーティングされていないものに比較して増大した抵抗率を示した。綿毛状のプラズマコーティングされたフラーレン系煤に比べて、特により高い圧縮密度(compacted densities)では、抵抗率の幾らかの低下があった。更に、抵抗率値は、コーティングされていないものについて観察されるよりも、実質的に高かった。このことは、粒状化の後でさえもなお、フラーレン状煤の表面上に、有意な量のプラズマコーティングがあることを意味しており、このコーティングの良好な接着を示している。言い換えれば、プラズマ重合を通したフラーレン系煤のコーティングによって、結果として得られる組成物の抵抗率に有意な増加が観察される。
【0087】
<ゴムの混合および硬化>
フラーレン系煤試料を備えたゴム配合物を、下記の表VIに与えられた配合に従って調製した。混合は、390mLのチャンバー容積のBrabender Plasticorder密閉式混合機中で実施した。用いられた混合手順は、表VII中に挙げた。出発温度は50℃であった。混合条件は、500MJ/m未満の混合エネルギーを得るように最適化した。このことは、工業的スケールの混合の状態に匹敵する状態を得るようになされた。ローター速度は50rpmであった。混合の後に、配合物は排出され、そして2本のロールミル上でシートにされた。硫黄および促進剤の添加も、同様に2本のロールミル上で行なった。
【0088】
硬化剤の添加の後に、この配合物の硬化特性を、Alpha TechnologiesのRPA 2000を用いて測定した。最適加硫時間t90およびスコーチ時間ts2を測定した。この配合物を、次いでWickert試験用プレス中で、160℃で、そして100バールの圧力で硬化させた。
【0089】
【表7】

【0090】
【表8】

【0091】
<結果>
<ゴム中のプラズマコーティングされたフラーレン系煤の挙動>
上記のように、プラズマコーティングしたフラーレン系煤を、異なるゴム、SBR、NBRおよびEPDMと混合した。この混合エネルギーは、500MJ/m未満であるように最適化された。硬化していない配合物の歪掃引測定(Strain sweep measurements)を、RPA 2000で実施した。貯蔵弾性率G’を、0.56%〜100.04%歪の範囲で測定した。温度および周波数は、60℃および0.5Hzで一定に保持された。
【0092】
SBR、NBRおよびEPDM中の種々の充填剤の充填量における、プラズマコーティングされたフラーレン系煤のペイン効果が、図7〜10中にそれぞれ示されている。0.56%歪と100.04%歪のG’値の違いを、ペイン効果として表わすことができる。ペイン効果は、通常は、ゴムマトリックス中の充填剤−充填剤相互作用についての情報を得るために用いられている。小さい歪における貯蔵弾性率(G’)値が高ければ高いほど、充填剤−充填剤相互作用はより高い。歪掃引測定の間に、貯蔵弾性率値は、充填剤−充填剤ネットワークの破壊のために低下して、小さい歪で開始した充填剤−充填剤相互作用であるにもかかわらず、大きな歪においてと同様のG’値が得られる。
【0093】
ペイン効果は、通常は充填剤含量を、浸透限界を超えて備えるゴム配合物に用いられ、それは、カーボンブラックの具体的な品種にもよるが、通常は30phr(ゴム100部当たりの部)の範囲である。プラズマコーティングされたフラーレン系煤は、全てのゴム配合物および全ての充填剤濃度で、より小さなペイン効果を示す。ペイン効果値の違いは、充填剤のより高い充填量でより顕著になる。異なるゴムにおけるペイン効果の相対的な低下が、図10に示されている。充填剤のより少ない充填量(20および30phr)では、ペイン効果の低下は、EPDMゴムで最も顕著であることが、明確に示されている。しかしながら、充填剤のより高い充填量では、この効果は、試験された他のゴム試料についてもほぼ同じである。
【0094】
カーボンブラック試料を備えた硬化された配合物の応力−歪特性を、ISO037に従って測定した。この測定は、Zwick Z 1.0/TH1S引張試験機で行なった。40phrの充填剤を充填したSBR、NBRおよびEPDMの加硫物の応力−歪曲線が、図11〜13にそれぞれ示されている。プラズマコーティングされたフラーレン系煤を備えたSBRは、引張強度における僅かな改善を示している。NBRの場合には、有意な改善は観察されなかった。EPDMの場合には、破断時伸びの向上を伴った、引張強度の相当の低下があった。
【0095】
カーボンブラックは、エラストマーと、化学的および物理的に相互作用することができ、そして従ってそのエラストマーの補強に寄与することができる。カーボンブラック−ゴム相互作用パラメータを、ゴムとカーボンブラックとの間の相互作用を表わし、そして定量化するために用いることが、広く受け入れられている。それは、通常は、比較的に直線状の領域、典型的には100〜300%の伸び率の範囲の中の、応力−歪極性の傾きとして表わすことができる。
【0096】
【数1】

【0097】
式中、σおよびσは、それぞれ対応する歪λおよびλ、300および100での応力である。これらの伸びでの弾性率の発現は、カーボンブラック表面とポリマーとの間の強力な接着に依存することが示されている。一方で異なるカーボンブラックを比較すると、応力−歪曲線の傾きは、個々の弾性率値よりも、ポリマー−充填剤相互作用のよりよい指標であることが見出された。
【0098】
計算されたσ値は、表VIII中に要約した。SBRとNBRの場合には、σ値の僅かな増加が観察され、一方で、EPDMの場合には、カーボンブラック−ゴム相互作用の有意な低下が観察された。
【0099】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレン系煤の炭素粒子を含む組成物であって、該フラーレン系煤の炭素粒子が、芯の炭素粒子上にプラズマ重合されたモノマーからなる層のコーティングを有してなることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記芯の炭素粒子上のプラズマ重合されたモノマーの前記層の厚さが、3〜9nmの範囲にあることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
重合されたモノマーの前記層が、前記芯の粒子の質量の1.0〜30%、または1.5〜20%、または1.5〜8.0%、または20%未満であることを特徴とする、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
前記炭素粒子の表面エネルギーが、65.0mJ/m未満、または60.0mJ/m未満、または57.0mJ/m未満であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物の電気抵抗が、0.4オーム・cm超であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
前記芯の炭素粒子が、前駆体として黒鉛または他の炭素同素体を用いた高温プラズマによって生成されたフラーレン煤粒子である、請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
前記芯の炭素粒子が、前駆体として、カーボンブラック、黒鉛または他の炭素同素体を用いた高周波(RF)プラズマによって生成されたフラーレン煤粒子である、請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
前記芯の炭素粒子が、燃焼プロセス、アークプロセスまたはレーザーアブレージョンによって生成されたフラーレン煤粒子である、請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
重合されたモノマーの前記層が、重合された炭化水素モノマーからなることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
前記モノマーが、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含み、好ましくは前記モノマーがアセチレンである、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
プラズマ重合されたモノマーの前記層が、前記芯の炭素粒子の表面上へのモノマーのプラズマ重合プロセスによって調製される、請求項1〜10のいずれか1項記載の組成物。
【請求項12】
プラズマ重合性モノマーの前記芯の粒子上へのプラズマ重合を特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項記載の組成物の調製方法。
【請求項13】
前記プラズマ重合が、流動床プラズマ重合反応器中で行われる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項記載の組成物、および1種もしくは2種以上のポリマーを含む混合物。
【請求項15】
前記ポリマーが、天然もしくは合成エラストマー、好ましくは天然ゴム、スチレン−ブタジエン−ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン−ゴム、またはエチレン−プロピレン−ジエンゴムからなる群から選ばれる、請求項14記載の混合物。
【請求項16】
極限抵抗率が、10〜1013オーム・cmの範囲にあることを特徴とする、請求項14または15記載の混合物。
【請求項17】
前記プラズマコーティングされたフラーレン系煤が、相互に低い親和性備え、そして炭素充填剤と異なる親和性を備えたポリマーを相溶化するのに用いられる、請求項14記載の混合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2012−505277(P2012−505277A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530502(P2011−530502)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/063211
【国際公開番号】WO2010/040840
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(511089686)ティムカル ソシエテ アノニム (3)
【Fターム(参考)】