説明

ポリマー膜を基材にコーティングする方法およびポリマー膜のコーティング部材

【課題】生産性が高く、環境負荷が低い、基材へのポリマーのコーティング方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリマー膜を基材にコーティングする方法であって、(A)ポリマー源となるポリマー部材および基材を準備するステップと、(B)前記ポリマー部材および前記基材の少なくとも一方を回転させるステップと、(C)ステップ(B)の状態のまま、前記基材に前記ポリマー部材を押し付けるステップであって、前記ポリマー部材と前記基材が接触面を介して接触されるステップと、(D)前記基材から、前記ポリマー部材を引き離すステップと、を有し、これにより、前記基材の接触面に、ポリマー膜がコーティングされる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー膜を基材にコーティングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、様々な産業分野において、金属等の基材表面に各種ポリマーをコーティングすることにより、耐食性、防汚性等の機能を付与する技術が利用されている。特に、テフロン(登録商標)に代表されるフッ化炭素樹脂は、その優れた化学的安定性のため、各種厨房機器および電子機器類の筐体等において、金属表面のコーティングに広く適用されている。
【0003】
一般に、基材表面にポリマーをコーティングする方法としては、(1)ゾルゲルのスピンコート法のような、溶液を使用した方法(特許文献1)、(2)溶射法(特許文献2)、(3)分散めっき等のような、ポリマー粒子を含む膜をめっきにより形成する方法(特許文献3)、(4)有機系接着剤を用いて、ポリマー製のフィルムを金属表面に貼り付ける方法(特許文献4)、(5)バレル処理のような、回転反応容器内で被コーティング表面に固体潤滑剤をコーティングする方法(特許文献5)、(6)PVD法のような、プラズマによるガスの分解を利用して、コーティングを行う方法(特許文献6)、等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−206417号公報
【特許文献2】特開2007−98955号公報
【特許文献3】特開2001−104865号公報
【特許文献4】特開平5−185556号公報
【特許文献5】特開2000−126672号公報
【特許文献6】WO00/19507号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の基材表面にポリマーをコーティングする方法には、以下のような一般的な問題がある。
【0006】
まず、(1)の方法では、コーティング膜の密着性を高めるために、得られた製品を高温で熱処理する必要がある。このため、熱に弱い低融点の基材に対しては、適用することができない。また、短時間で処理を完遂することができず、生産性が悪いという問題がある。
【0007】
次に(2)の溶射法は、処理中に基材が高温に晒されるため、低融点の基材には適用することができないという問題がある。また、溶射法では、処理の際に、コーティング源となるポリマーが周囲にも飛散するため、材料ロスが多く、環境負荷が大きいという問題がある。
【0008】
また、(3)の分散めっき等を用いる方法では、めっきに使用した廃液の処理などが必要であり、環境負荷が大きいという問題がある。
【0009】
(4)のフィルムを接着する方法では、フィルムの接着後に、密着性を高めるため、加熱処理を行う必要があり、生産性が悪いという問題がある。
【0010】
(5)のバレル処理のような方法では、処理に多大な時間を要し、生産性が悪いという問題がある。
【0011】
また、(6)のプラズマを利用した方法では、一般に真空中で処理を行う必要がある。このため、真空チャンバ等の追加の設備が必要となり、設備が複雑化し、生産性が低下するという問題がある。
【0012】
このように、従来のいずれの方法も、プロセスの生産性(処理コスト、処理の容易性、処理時間)および/または環境負荷の観点からは、十分に魅力のある方法であるとは言い難い。従って、環境負荷が少なく、高い生産性で、基材にポリマーをコーティングすることが可能な方法が要望されている。
【0013】
本発明は、このような問題に鑑みなされたものである。本発明では、生産性が高く、環境負荷が低い、基材へのポリマーのコーティング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、ポリマー膜を基材にコーティングする方法であって、
(A)ポリマー源となるポリマー部材および基材を準備するステップと、
(B)前記ポリマー部材および前記基材の少なくとも一方を回転させるステップと、
(C)ステップ(B)の状態のまま、前記基材に前記ポリマー部材を押し付けるステップであって、前記ポリマー部材と前記基材が接触面を介して接触されるステップと、
(D)前記基材から、前記ポリマー部材を引き離すステップと、
を有し、
これにより、前記基材の接触面に、ポリマー膜がコーティングされる方法が提供される。
【0015】
ここで、本発明の方法は、さらに、ステップ(C)の後に、
(E)前記ポリマー部材および前記基材の少なくとも一方を、所定の方向に移動させるステップ
を有しても良い。
【0016】
また本発明の方法は、さらに、ステップ(C)の前またはステップ(C)の間に、
(F)前記接触面に、OH基を導入するステップ
を有しても良い。
【0017】
また、本発明の方法において、前記OH基を導入するステップは、前記接触面に、水および/または有機溶媒を設置するステップであっても良い。
【0018】
また、本発明の方法において、前記OH基を導入するステップは、前記接触面に、真空紫外光を照射するステップを有しても良い。
【0019】
また、本発明の方法において、前記ポリマー部材は、フッ化炭素樹脂を含んでいても良い。
【0020】
特に、本発明の方法において、前記フッ化炭素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンを含んでいても良い。
【0021】
また、本発明の方法において、前記基材は、金属またはセラミックスで構成されても良い。
【0022】
特に、本発明の方法において、前記金属は、マグネシウム、アルミニウム、鉄およびこれらの合金からなる群から選定された、少なくとも一つであっても良い。
【0023】
また、前記セラミックスは、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化珪素、炭化珪素からなる群から選定された、少なくとも一つであっても良い。
【0024】
さらに本発明では、前述のような特徴を有する方法で製造された、ポリマー膜のコーティング部材が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、生産性が高く、環境負荷が低い、基材へのポリマーのコーティング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明によるポリマー膜を基材にコーティングする方法の一例を概略的に示したフロー図である。
【図2】本発明による方法のプロセスの一例を概略的に示した側面図である。
【図3】ポリマー部材を基材に押し付けながら水平方向に移動させ、広範囲にわたってポリマー層を形成する工程を模式的に示した図である。
【図4】本発明による方法のプロセスの別の例を概略的に示した側面図である。
【図5】本発明の実施例1に係るコーティング膜のXPSスペクトルである。
【図6】本発明の実施例2および実施例3に係るコーティング膜の接触角の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下図面により本発明の形態を説明する。
【0028】
図1は、本発明によるポリマー膜を基材にコーティングする方法の一例を概略的に示したフロー図である。また図2は、本発明による方法のプロセスの一例を概略的に示した側面図である。
【0029】
図1に示すように、本発明による方法100は、ポリマー部材および基材を準備するステップ(ステップS110)と、ポリマー部材および/または基材を回転させるステップ(ステップS120)と、基材にポリマー部材を押し付けるステップ(ステップS130)と、基材からポリマー部材を引き離すステップ(ステップS150)と、を有する。さらに、本発明による方法100は、ステップS130の後に、任意で、基材にポリマー部材を押し付けた状態のまま、ポリマー部材または基材を所定の方向に移動させるステップ(ステップS140)を有しても良い。
【0030】
図2には、図1のステップS120〜ステップS150の部分に関連するプロセスの一部を概略的に示す。この図を用いて、本発明の方法の概略的な特徴について説明する。
【0031】
この図2に示すように、本発明による方法では、ポリマー部材110または基材120の一方が、他方の上方に配置され、回転される(図1のステップS120)。図2の例では、基材120の上方で、丸棒状のポリマー部材110が回転される。
【0032】
次に、ポリマー部材110と基材120が相互に押し付けられる(図1のステップS130)。図2の例では、基材120上に、回転した状態のポリマー部材110が押し付けられている。
【0033】
このような「押しつけ」(すなわち、少なくとも一方の部材が回転した状態で両者が押し付けられること)により、ポリマー部材110と基材120の間の接触面130に摩擦が生じる。さらに、摩擦熱によって、接触面130の温度が上昇する。これにより、以下の2つの効果が得られる。
【0034】
(1)まず、摩擦熱により、ポリマー部材110の接触面130およびその近傍(すなわちポリマー部材110の基材120との当接部。以下、単に「当接部」とも称する)において、ポリマー部材110の温度が上昇する。これにより、ポリマー部材110の当接部が局部的に軟化し、この部分のポリマーの変形抵抗が低下する。やがて、ポリマー部材110の回転の剪断力が、ポリマー部材110の当接部の変形抵抗を上回ると、当接部のポリマーが他のポリマー部材110の残りの部分から切断され、この切除されたポリマーが基材120に置載される。
【0035】
(2)一方、摩擦熱および押圧により、接触面130には、非常に強い歪みエネルギー(塑性変形エネルギー)が蓄積され、局所的にみると、この接触面130は、高温・高圧の活性化状態になっている。
【0036】
このような状況では、例えば基材120の表面等に存在するOH基が活性化されて、遊離基(OH基のフリーラジカル)が生じる。このフリーラジカルは、極めて活性な化学種であるため、フリーラジカルの存在により、接触面130において、前述の切除されたポリマーと基材120との間で、化学的な結合が達成される。
【0037】
その後、ポリマー部材110が回転状態のまま、基材120から取り外されると、基材表面(接触部130)に、密着性の良好なポリマー膜140が形成される(図1のステップS150)。
【0038】
なお、以上のメカニズムは、現時点で考えられる一つの考察例であり、別のメカニズムに基づいて、本方法における「押しつけ」によって、密着性の良好なポリマー膜140が形成されることも考えられる。
【0039】
以下、図1および図2を参照して、本発明の各ステップについてさらに詳しく説明する。
【0040】
(ステップS110)
まず、ポリマー源となるポリマー部材110と、コーティングが施工される基材120とが準備される。
【0041】
ポリマー部材110の形状は、特に限られないが、回転させる場合、偏心が生じにくく、均一な回転が可能となる形状が好ましい。また、ポリマー部材110は、基材120に押し付けた際に、接触面130に均一な押圧が生じる形状のものが好ましい。ポリマー部材110の形状は、例えば図2に示すような丸棒状であっても良い。なお、ポリマー部材110の寸法は、特に限られない。
【0042】
ポリマー部材110を構成するポリマー材料、すなわちコーティングされるポリマー材料は、特に限られない。ポリマー材料は、例えばフッ化炭素樹脂であっても良い。フッ化炭素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレンとパーフルオロアルコキシエチレンの共重合体、等がある。
【0043】
基材120は、例えば、図2に示すような板状片で構成される。ただし、基材の形状は、これに限られるものではなく、例えばブロック等であっても良い。また、基材120の寸法は、特に限られない。
【0044】
基材120は、金属またはセラミック等、いかなる材料で構成されても良い。金属の例としては、例えば、マグネシウムおよびその合金、アルミニウムおよびその合金、ならびに鉄およびその合金(ステンレス鋼等)がある。セラミックの例としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化珪素、および炭化珪素等が挙げられる。
【0045】
なお、以降の記載では、丸棒状のポリマー部材と、平板状の基材とを使用する場合を例に、説明する。
【0046】
(ステップS120)
次に、ポリマー部材110および基材120が、所定の相対位置に配置される。また、ポリマー部材110および基材120のいずれか一方(あるいは双方)が、回転軸に対して回転される。ここでは、図2に示すように、ポリマー部材110が回転する場合を例に説明する。
【0047】
ポリマー部材110は、例えば、丸棒状のポリマー部材110の一端を、通常の回転手段(図2には、示されていない)と連結させることにより、長手軸(中心軸)に対して回転させることができる。
【0048】
回転速度は、特に限られないが、例えば1500rpm以上であり、2000〜2500rpmの範囲が好ましい。回転数が極端に小さくなると、接触面130に、十分な発熱が生じず、良好なコーティング膜が得られない場合がある。また、回転数が極端に大きくなると(例えば3500rpm以上などの場合)、得られるコーティング膜の均一性が悪くなるおそれがある。
【0049】
ここで、基材120の接触面130に、外部から積極的に、OH基を導入しても良い。前述のように、接触面130では、局部的な加熱、加圧により、例えば基板側から活性なOH基のフリーラジカルが生じる。このフリーラジカルの存在により、前述の切除されたポリマーと基材120との間で、化学的な結合が生じる。
【0050】
接触面130に、外部から積極的にOH基を導入することにより、ポリマーと基材120との間の化学的な結合がより一層促進される。従って、これにより、最終的に得られるコーティング膜の密着性および均一性をより一層向上させることができる。
【0051】
ここで、接触面130にOH基を導入する方法として、基材120の表面に、OH基の発生源となる物質を設置する方法を採用しても良い。
【0052】
OH基の発生源となる物質としては、水および有機溶媒等が挙げられる。有機溶媒の一例には、エタノール、メタノール等が含まれる。通常の場合、このようなOH基の発生源となる物質は、スプレー塗布等の従来の方法により、基材120の接触面130に設置される。
【0053】
あるいは、接触面130に、外部から積極的にOH基を導入するための別の方法として、接触面130の近傍に、紫外線を照射する方法を採用しても良い。紫外線の照射により、環境中の水分からOH基が形成され、これにより、ポリマーと基材120の間の化学的結合を促進させることができる。紫外線としては、波長が約200nm以下の、いわゆる真空紫外光が好ましい。この真空紫外光を利用することにより、環境中の水分および酸素等から、効率的にOH基を発生させることができる。
【0054】
(ステップS130)
次に、回転した状態のままで、ポリマー部材120が基材110の被コーティング表面に押し付けられる。
【0055】
ポリマー部材120の接触面130での押付圧力は、特に限られず、例えば4.5MPa〜8.0MPa程度であっても良い。押付圧力が極端に小さくなると、良好なコーティング膜が得られなくなるおそれがある。また、押付圧力が極端に大きくなると、最終的に得られるコーティング膜の均一性が悪くなる場合がある。
【0056】
接触面130の面積は、特に限られない。接触面130の面積は、例えば10cm程度である。コーティング領域が一定の場合、接触面130の面積が大きいほど、処理に必要な時間が短くなる。
【0057】
また、接触面130の形状は、特に限られない。例えば丸棒状のポリマー部材110を使用した場合、接触面130は、円形となる。
【0058】
(ステップS140)
次に、必要な場合、ポリマー部材110を基材120に押し付けた状態のまま、ポリマー部材110または基材120の一方(あるいは両方)を、所定の方向に移動させても良い。
【0059】
図3には、この処理の様子を概略的に示す。図3に示すように、ポリマー部材110を、基材120に対して移動させることにより、所定の領域にわたって、ポリマー膜150を形成することが可能となる。
【0060】
このような操作は、ポリマー部材110および/または基材120に、一般的な駆動手段(図3には、示されていない)を取り付けることにより、容易に行い得ることは、当業者には明らかである。
【0061】
ポリマー部材110の基材120に対する移動速度は、特に限られないが、移動速度は、例えば50mm/分以下であっても良く、例えば20〜35mm/分の範囲である。移動速度が極端に大きくなると、最終的に得られるコーティング膜の均一性が悪くなる。
【0062】
(ステップS150)
最後に、基材120からポリマー部材110が引き離される。これにより、所定の領域に、ポリマー膜140をコーティングすることができる。
【0063】
本発明によるポリマーのコーティング方法は、以下のような特徴を有する:
(i)室温の大気中での簡単な処理により、基材上にポリマー膜をコーティングすることができる。従って、真空チャンバ、熱処理装置のような特殊な装置等が不要となり、コーティング装置が簡略化される。
(ii)熱処理等の後工程が不要となるため、コーティング時間は、従来のコーティング方法に比べて、有意に短くなる。
(iii)ポリマー部材は、コーティングに使用された分が消費されるのみであり、周囲に飛散する分は、ほとんどない(すなわち、「収率」は、ほぼ100%である)。また本発明の方法では、めっき処理において必要となる廃液処理のような余分な工程も発生しない。従って、本発明では、低環境負荷のコーティング方法が得られる。
(iv)基材とポリマー膜は、化学的に結合されているため、コーティング膜には、高い密着性が得られる。
【0064】
従って、本発明では、従来のコーティング方法において問題となっていた、低生産性、高環境負荷の問題を軽減することができ、すなわち、従来に比べて、生産性が高く、環境負荷が低いコーティング方法を提供することができる。
【0065】
図4には、本発明による方法の別のプロセスを示す。
【0066】
この図には、ポリマー部材の代わりに、基材を回転させて、コーティングを行う例が示されている。
【0067】
まず、例えばブロック状のポリマー部材210の上方に、基材220を配置する。図の例では、基材220は、板状であるが、基材220の形状は、特に限られない。基材220のポリマー部材210とは反対の側には、支持冶具260が設置されており、この支持冶具260は、基材220を回転させるための回転手段(図示されていない)と連結されている。
【0068】
次に、このような配置で、支持冶具260を介して、基材220を回転させる。さらに基材220を回転させた状態で、基材220をポリマー部材210に押し付け、接触面230にポリマー膜を設置する。必要な場合、前述のような方法で、基材220をポリマー部材210に対して(あるいは、ポリマー部材210を基材220に対して)移動させる。
【0069】
その後、基材220をポリマー部材210から取り外すとともに、支持冶具260を基材220から取り外すことにより、所定の領域に、ポリマー膜240がコーティングされた基材220を得ることができる。
【実施例】
【0070】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
直径約25mm、全長120mmのAZ31マグネシウム合金製基材と、縦80mm、横100mm、厚さ1.5mmのテフロン(登録商標)板(ポリマー部材)とを準備した。
【0072】
次に、市販のACサーボモータを用いて、基材を長手方向の中心軸を中心に2000rpmで回転させた。さらにこの状態で、基材をテフロン(登録商標)板に押し付けた(押し付け圧力5MPa程度)。押し付け時間は、30秒であった。その後、基材をテフロン(登録商標)板から外し、基材の回転を中止した。
【0073】
基材のコーティング表面を、X線光電子分光(XPS)法(Thermo Fisher Scientific社製、Sigma Probe)により分析した。
【0074】
図6には、測定結果を示す。図からわかるように、結合エネルギーが693eVの位置に、フッ素に関連するピークが認められた。また、結合エネルギーが290eVの位置に、フルオロ基に関連するピークが認められた。この結果から、基材のコーティング表面には、テフロン(登録商標)層が形成されていることが確認された。
【0075】
(実施例2)
直径約25mm、全長120mmのテフロン(登録商標)製丸棒と、縦80mm、横100mm、厚さ1.5mmのマグネシウム合金基材とを準備した。
【0076】
市販のACサーボモータを用いて、テフロン(登録商標)製丸棒を、長手方向の中心軸を中心に2300rpmで回転させた。さらにこの状態で、丸棒を基材に押し付けた(押し付け圧力5MPa程度)。押し付け時間は、90秒であった。その後、丸棒を基材から外し、丸棒の回転を中止した。
【0077】
処理後の基材のコーティング表面における水滴の接触角を測定した。接触角は、約115度となった。この接触角は、フルオロ基が修飾された表面において、表面エネルギーから算出される水滴の、理論的な接触角に近い。このことから、コーティング表面には、テフロン(登録商標)が形成されていることが確認された。
【0078】
(実施例3)
直径約25mm、全長120mmのテフロン(登録商標)製丸棒と、縦80mm、横100mm、厚さ1.5mmのマグネシウム合金基材とを準備した。基材の被コーティング面に、スプレー器を用いて、少量の水をミスト状に塗布した。
【0079】
市販のACサーボモータを用いて、テフロン(登録商標)製丸棒を、長手方向の中心軸を中心に2300rpmで回転させた。さらにこの状態で、丸棒を基材に押し付けた(押し付け圧力5MPa程度)。押し付け時間は、90秒であった。その後、丸棒を基材から外し、丸棒の回転を中止した。
【0080】
処理後の基材のコーティング表面における水滴の接触角を測定した。測定された接触角は、約120度となり、コーティング表面は、極めて良好な撥水性能を示すことがわかった。
【0081】
図7には、実施例2および実施例3における基材のコーティング表面の接触角をまとめて示す。この図から、被コーティング面に水を塗布することにより、ポリマー膜の基材に対する密着性がより一層向上することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、各種建材類、携帯電話、およびパソコン筐体等の各種金属製機器類、各種厨房機器類等のコーティング、ならびにポリマー被覆層の形成技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0083】
110 ポリマー部材
120 基材
130 接触面
140 ポリマー膜
150 ポリマー層
210 ポリマー部材
220 基材
230 接触面
240 ポリマー膜
260 支持冶具。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー膜を基材にコーティングする方法であって、
(A)ポリマー源となるポリマー部材および基材を準備するステップと、
(B)前記ポリマー部材および前記基材の少なくとも一方を回転させるステップと、
(C)ステップ(B)の状態のまま、前記基材に前記ポリマー部材を押し付けるステップであって、前記ポリマー部材と前記基材が接触面を介して接触されるステップと、
(D)前記基材から、前記ポリマー部材を引き離すステップと、
を有し、
これにより、前記基材の接触面に、ポリマー膜がコーティングされる方法。
【請求項2】
さらに、ステップ(C)の後に、
(E)前記ポリマー部材および前記基材の少なくとも一方を、所定の方向に移動させるステップ
を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、ステップ(C)の前またはステップ(C)の間に、
(F)前記接触面に、OH基を導入するステップ
を有することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記OH基を導入するステップは、前記接触面に、水および/または有機溶媒を設置するステップを有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記OH基を導入するステップは、前記接触面に、真空紫外光を照射するステップを有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマー部材は、フッ化炭素樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
前記フッ化炭素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記基材は、金属またはセラミックスで構成されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
前記金属は、マグネシウム、アルミニウム、鉄およびこれらの合金からなる群から選定された、少なくとも一つであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記セラミックスは、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化珪素、炭化珪素からなる群から選定された、少なくとも一つであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一つに記載の方法で製造された、ポリマー膜のコーティング部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−194407(P2010−194407A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39740(P2009−39740)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】