説明

ポリマー電解質膜および製造方法

燃料電池に使用されるようなポリマー電解質膜およびそれらの製造方法。前記ポリマー電解質膜が、1200より小さい当量および101℃〜155℃のTgを有するポリマーまたはポリマーのブレンドを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1200より小さい当量および101℃〜155℃のTgを有するポリマーまたはポリマーのブレンドを含む燃料電池において用いられるようなポリマー電解質膜、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン(TFE)と式:FSO2−CF2−CF2−O−CF(CF3)−CF2−O−CF=CF2のコモノマーとのコポリマーが公知であり、スルホン酸の形で、すなわち、FSO2−末端基がHSO3−に加水分解されて、デラウェア州、ウィルミントンのデュポン・ケミカル・カンパニー(DuPont Chemical Company,Wilmington,Delaware)によって商品名ナフィオン(Nafion)(登録商標)として販売されている。ナフィオン(登録商標)燃料電池に使用するためのポリマー電解質膜の作製に一般に用いられる。
【0003】
テトラフルオロエチレン(TFE)と式:FSO2−CF2−CF2−O−CF=CF2のコモノマーとのコポリマーが、燃料電池に使用するためのポリマー電解質膜の作製において公知であり、スルホン酸の形で、すなわち、FSO2−末端基がHSO3−に加水分解されて、販売されている。ムーア(Moore)およびマーティン(Martin)著、ダウペルフルオロスルホネートイオノマーのモフォロジーおよび化学的性質(“Morphology and Chemical Properties of the Dow Perfluorosulfonate Ionomers”)、Macromolecules、vol.22、3594〜3599ページ(1989年)には、示差走査熱量測定(DSC)によって測定された、様々な当量を有するこのポリマーの試料についてのTg値が開示されている。その論文には、表Iに繰り返されたTgの測定値が記載されている。
【0004】
【表1】

【0005】
2002年、12月19日に出願された米国特許出願第10/325,278号明細書には、高フッ素化主鎖と、式:
YOSO2−CF2−CF2−CF2−CF2−O−[ポリマー主鎖]
の反復側基とを含むポリマーを含む、90ミクロン以下の厚さを有するポリマー電解質膜が開示されており、上式中、Yは、H+またはアルカリ金属カチオンなどの一価カチオンである。典型的に、膜はキャスト膜である。典型的に、ポリマーは22,000より大きい水和物を有する。典型的に、ポリマーは800〜1200の当量を有する。
【0006】
米国特許第4,358,545号明細書および米国特許第4,417,969号明細書には、約22,000より小さい水和物および800〜1500の当量を有するポリマーおよびそれらのイオン交換膜が開示されており、それらは、ほとんどフッ素化された主鎖と、式:YSO3−(CFRfa(CFR’fb−O−主鎖、の側基とを有し、上式中、Yが水素またはアルカリ金属であり、RfおよびR’fがハロゲンまたはほとんどフッ素化されたアルキル基であり、aが0〜3であり、bが0〜3であり、a+bが少なくとも1である。
【0007】
特開昭第58−93728号公報には、実施例3においてTFEとFSO2−CF2−CF2−CF2−CF2−O−CF=CF2との共重合が開示されている。得られたポリマーを押出成形して150ミクロンの厚さのフィルムを製造し、加水分解し、得られた膜が990の当量を有する。このフィルムをさらに処理して、膜の一方の面の薄い表面層においてスルホン酸基をカルボン酸基に変換した。
【0008】
ザルスキー(Zaluski)およびスー(Xu)著、「ナフィオンとダウペルフルオロスルホン化イオノマーとのブレンドの膜(“Blends of Nafion and Dow Perfluorosulfonated Ionomer Membranes”)」、Macromolecules、vol.27、6750〜6754ページ(1994年)には、ナフィオン(登録商標)とダウペルフルオロスルホン化イオノマーとのブレンドを含む膜が記載されている。このブレンドについてTgは記載されていない。膜をスライド上にキャストし、130℃に加熱した。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
簡潔に言えば、本発明は、a)少なくとも2つの混和性ポリマーのブレンドの懸濁液または溶液を提供する工程であって、前記ポリマーの少なくとも1つが、高フッ素化主鎖とスルホン酸基を含む少なくとも1つの側基とを含み、ポリマーの前記ブレンドが、1200より小さい当量、101℃〜155℃のTgを有する、工程と、b)膜を前記懸濁液または溶液からキャストする工程と、c)前記膜をTg+Xに等しい温度Ta(Xが少なくとも10℃であり、Taが210℃以下である)においてアニールする工程と、を含む、ポリマー電解質膜の作製方法を提供する。典型的にTaが少なくとも135℃である。より典型的に、ポリマーの前記ブレンドが110℃〜140℃のTgを有する。より典型的に、Xが少なくとも55℃である。より典型的に、ポリマーの前記ブレンドが1050より小さい当量を有する。典型的に前記膜が90ミクロン以下の厚さを有する。
【0010】
別の態様において、本発明は、a)ポリマーの懸濁液または溶液を提供する工程であって、前記ポリマーが、高フッ素化主鎖と、少なくとも1つがスルホン酸基を含む少なくとも2つの異なった側基とを含み、1200より小さい当量、101℃〜155℃のTgを有する、工程と、b)膜を前記懸濁液または溶液からキャストする工程と、c)前記膜をTg+Xに等しい温度Ta(Xが少なくとも10℃であり、Taが210℃以下である)においてアニールする工程と、を含む、ポリマー電解質膜の作製方法を提供する。より典型的に、前記ポリマーが110℃〜140℃のTgを有する。より典型的に、Xが少なくとも55℃である。より典型的に、前記ポリマーが1050より小さい当量を有する。典型的に前記膜が90ミクロン以下の厚さを有する。
【0011】
別の態様において、本発明は、a)高フッ素化主鎖とスルホン酸基を含む少なくとも1つの側基とを含むポリマーの懸濁液または溶液を提供する工程であって、前記側基が式:
−O−CF2−CF2−CF2−CF2−SO3H(I)
の側基ではなく、前記ポリマーが、1200より小さい当量を有し、155℃より低く、かつ等しい当量のナフィオン(Nafion)(登録商標)ポリマーのTgより高いTgを有する、工程と、b)膜を前記懸濁液または溶液からキャストする工程と、c)前記膜をTg+Xに等しい温度Ta(Xが少なくとも10℃であり、Taが210℃以下である)においてアニールする工程と、を含む、ポリマー電解質膜の作製方法を提供する。典型的にTaが少なくとも135℃である。より典型的に、前記ポリマーが、少なくとも101℃、より典型的に110℃〜140℃のTgを有する。より典型的に、Xが少なくとも55℃である。より典型的に、前記ポリマーが1050より小さい当量を有する。典型的に前記膜が90ミクロン以下の厚さを有する。
【0012】
別の態様において、本発明は、少なくとも2つの混和性ポリマーのブレンドを含むポリマー電解質膜を提供し、前記ポリマーの少なくとも1つが、高フッ素化主鎖とスルホン酸基を含む少なくとも1つの側基とを含み、ポリマーの前記ブレンドが1200より小さい当量、101℃〜155℃のTgを有する。より典型的に、前記ブレンドが110℃〜140℃のTgを有する。より典型的に、前記ブレンドが1050より小さい当量を有する。典型的に前記膜が、アニールされたキャスト膜である。典型的に前記膜が90ミクロン以下の厚さを有する。
【0013】
別の態様において、本発明は、高フッ素化主鎖と、少なくとも1つがスルホン酸基を含む少なくとも2つの異なった側基とを含むポリマーを含むポリマー電解質膜を提供し、前記ポリマーが、1200より小さい当量を有し、101℃〜155℃のTgを有する。より典型的に、前記ポリマーが、110℃〜140℃のTgを有する。より典型的に、前記ポリマーが、1050より小さい当量を有する。典型的に前記膜が、アニールされたキャスト膜である。典型的に前記膜が90ミクロン以下の厚さを有する。
【0014】
別の態様において、本発明は、高フッ素化主鎖とスルホン酸基を含む少なくとも1つの側基とを含むポリマーを含むポリマー電解質膜を提供し、ほとんどの側基が、式:
−O−CF2−CF2−CF2−CF2−SO3H(I)
によって表され、前記ポリマーが1200より小さい当量を有し、155℃より低く、かつ等しい当量のナフィオン(登録商標)ポリマーのTgより高いTgを有する。より典型的に、前記ポリマーが少なくとも101℃、より典型的に110℃〜140℃のTgを有する。より典型的に、前記ポリマーが1050より小さい当量を有する。典型的に前記膜が、アニールされたキャスト膜である。典型的に前記膜が90ミクロン以下の厚さを有する。
【0015】
本技術分野にまだ記載されておらず、本発明によって提供されるのは、本発明による当量、Tg、および構造の制限を満たすポリマー電解質膜であり、改良された耐久性をもたらす。
【0016】
本出願において、
「懸濁液」は、懸濁液、分散系またはラテックスを意味する。
「混和性」は、ブレンド中の2つのポリマーに関して、2つのポリマーが、単一のTgを示すブレンドを形成することを意味する。
「Tg」は、特に記載しない限り、典型的に200℃においてアニールされた、アニールされたキャスト試料で測定された、1ヘルツにおいて動的機械分析(DMA)によって測定されたタンジェントデルタの最大であるとされる。
ポリマーの「当量」(EW)は、塩基の1当量を中和するスルホン酸官能性ポリマーの重量を意味する。
ポリマーの「水和物」(HP)は、膜中に存在するスルホン酸基の1当量当たり膜によって吸収された水の当量数(モル)にポリマーの当量を乗じた値を意味する。
「高フッ素化」は、40wt%以上、典型的に50wt%以上およびより典型的に60wt%以上の量においてフッ素を含有することを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、ポリマー電解質膜(PEM)と、懸濁液または溶液からキャストしてアニールすることによるPEMの製造方法とを提供する。本発明のPEMは、PEM燃料電池において使用される時に改良された耐久性を示す。
【0018】
燃料電池に使用するための膜電極接合体(MEA)の製造において本発明のPEMを用いてもよい。MEAは、水素燃料電池などのなどのプロトン交換膜燃料電池の中心的要素である。燃料電池は、水素などの燃料と酸素などの酸化体との触媒組合せによって有用な電気を生じる電気化学電池である。代表的なMEAは、固体電解質として機能する、ポリマー電解質膜(PEM)(イオン導電性膜(ICM)としても知られている)を含む。PEMの一方の面は、アノード電極層と接触しており、反対側の面は、カソード電極層と接触している。各電極層は、電気化学触媒を含有し、典型的に白金金属を含有する。気体拡散層層(GDL)は、アノードおよびカソード電極材料へのおよびそれらからの気体輸送を容易にし、電流を伝導する。GDLはまた、流体輸送層(FTL)または拡散体/集電体(DCC)と呼ばれることがある。アノードおよびカソード電極層を触媒インクの形でGDLに適用してもよく、得られたコーティングされたGDLをPEMで挟んで5層MEAを形成してもよい。代わりに、アノードおよびカソード電極層を触媒インクの形でPEMの対向した面に適用してもよく、得られた触媒コーティングされた膜(CCM)を2つのGDLで挟んで5層MEAを形成してもよい。5層MEAの5層は、順に、アノードGDL、アノード電極層、PEM、カソード電極層、およびカソードGDLである。代表的なPEM燃料電池において、水素の酸化によってプロトンがアノードに形成され、PEMを横切ってカソードに輸送されて酸素と反応し、電極に接続する外部回路に電流を流させる。PEMは反応体ガスの間に耐久性、非多孔性、電気非導電性機械的バリアを形成し、しかもそれはまた、H+イオンを容易に通過させる。
【0019】
本発明のPEMは典型的に、スルホン酸基を含有する側基を有するポリマーからなる。PEMの製造において有用なポリマーは典型的に、スルホン酸基を含有する。酸官能性側基は典型的に、1200より小さい、より典型的に1150より小さい、より典型的に1100より小さい、より典型的に1050より小さい、より典型的に1000より小さい、可能性としては900より小さい当量(当量)をもたらすのに十分な量において存在する。
【0020】
PEMの耐久性の改良は、当量を1200より低く維持したままPEMを構成するポリマーのTgを101℃〜155℃に制限することによって達成され得ることを本願出願人は見出した。より典型的に、Tgは少なくとも105℃、より典型的に少なくとも110℃、より典型的に少なくとも115℃、最も典型的に少なくとも120℃である。より典型的に、Tgは、150℃以下、より典型的に140℃以下、最も典型的に130℃以下である。これらの制限条件を満たすポリマーを含むPEMは、2002年12月19日に出願された米国特許出願第10/325,278号明細書に開示されている。その文献には、高フッ素化主鎖と、式:
YOSO2−CF2−CF2−CF2−CF2−O−[ポリマー主鎖]
[上式中、YがH+またはアルカリ金属カチオンなどの一価カチオンである]の反復側基とを有するポリマーを含むポリマー電解質膜が開示されている。上に記載された当量およびTgの制限条件を満たす混和性ポリマーのブレンドもまた、PEMの製造において使用されてもよいことを本願出願人は見出した。さらに、混合モノマーから誘導されるポリマー、すなわち、ターポリマーおよび高次ポリマーなど、これらの制限条件を満たす他のポリマーを用いてもよい。
【0021】
理論に縛られることを望まないが、以下の問題点が概して、本発明のPEMに用いられたポリマー電解質に該当する。所定のポリマーについて、当量の減少は、酸官能性側基の数の増加を示す。当量の減少は典型的に、より良いイオン伝導度をもたらすが水和ポリマーの物理的性質を弱化する。燃料電池用途に有効なポリマー電解質であるために、ポリマーの当量は典型的に1200以下、より典型的に1150以下、より典型的に1100以下、最も典型的に1050以下である。しかしながら、十分に低い当量において、ポリマーが溶解し、物理的バリアとして機能しない場合がある。有効な当量範囲において、Tgは典型的に、当量の減少によって上昇する。(Tgはまた、おそらく、何も占有されていないポリマー主鎖(unpopulated polymer backbone)の長い伸長を生じる結晶度のために、燃料電池運転に有用でないもっと高い当量レベルにおいて上昇することに注目のこと)。製造の問題点はまた、膜強度に影響を与えることがある。製造方法に応じて、ポリマーを加熱してそれを焼結、アニールするかまたは物理的凝集性膜に押出してもよい。不十分な加熱は、物理的に弱い生成物をもたらす場合があり、または製造プロセスが全く機能することができない場合がある。懸濁液または溶液からキャストされた膜は典型的に、キャストした後にアニールされる。有効なアニーリング、焼結または押出は典型的に、Tg+Xに等しい温度Ta(Xが少なくとも10℃である)において行なわれる。より典型的に、Xは少なくとも25℃、より典型的に少なくとも40℃、最も典型的に少なくとも55℃である。Taは典型的に、少なくとも135℃、より典型的に少なくとも145℃、より典型的に少なくとも155℃、より典型的に少なくとも165℃、より典型的に少なくとも175℃である。しかしながら、過度なTaは、ポリマー電解質の分解につながり、従ってTaは典型的に210℃以下およびより典型的に200℃以下である。本発明のポリマーまたはポリマーブレンドは、PEMとして有効であるために十分に低い当量を有し、なおかつ、ポリマーの分解につながるほど高くならずに物理的凝集性膜を形成するために有効である温度においてアニール、焼結または押出されるために十分に低いTgを有する。結果は耐久性の製造可能な、かつ有効な膜である。
【0022】
いずれの適したポリマーを本発明の実施において用いてもよい。本発明の実施において有用なポリマーは、分岐または非分岐であってもよいが典型的に非分岐である主鎖を含む。主鎖は高フッ素化されており、より典型的に過フッ素化されている。主鎖は、テトラフルオロエチレン(TFE)から誘導された単位と、典型的に少なくとも、式CF2=CQ−Rのコモノマーを含めた、コモノマーから誘導された単位とを含んでもよく、上式中、Qが典型的にFであるが同様にCF3であってもよく、Rが、式−S02Yの基を含有する側基であり、YがF、Cl、Br、OH、または−O-+であり、M+が一価カチオン、典型的にNa+などのアルカリ金属カチオンである。Yは、ポリマー電解質膜においてポリマーを使用する前に加水分解および/またはイオン交換によってOHに変換される。別の実施態様において、側基Rをグラフト化によって主鎖に付加してもよい。典型的に、側基Rが高フッ素化されており、より典型的に過フッ素化されている。側基Rが芳香族であってもよいが、より典型的に非芳香族である。典型的に、Rが−R1−S02Xであり、R1が1〜15個の炭素原子と0〜4個の酸素原子とを含む分岐または非分岐のペルフルオロアルキルまたはペルフルオロエーテル基である。R1が典型的に−O−R2−であり、R2が、1〜15個の炭素原子と0〜4個の酸素原子とを含む分岐または非分岐のペルフルオロアルキルまたはペルフルオロエーテル基である。R1が、より典型的に−O−R3−であり、R3が、1〜15個の炭素原子を含むペルフルオロアルキル基である。R1の例には、
−(CF2n−(nが1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15である)、
(−CF2CF(CF3)−)n(nが1、2、3、4、または5である)、
(−CF(CF3)CF2−)n(nが1、2、3、4、または5(−CF2CF(CF3)−)n−CF2−(nが1、2、3または4である)、
(−O−CF2CF2−)n(nが1、2、3、4、5、6または7である)、
(−O−CF2CF2CF2−)n(nが1、2、3、4、または5である)、
(−O−CF2CF2CF2CF2−)n(nが1、2または3である)、
(−O−CF2CF(CF3)−)n(nが1、2、3、4、または5である)、
(−O−CF2CF(CF2CF3)−)n(nが1、2または3である)、
(−O−CF(CF3)CF2−)n(nが1、2、3、4または5である)、
(−O−CF(CF2CF3)CF2−)n(nが1、2または3である)、
(−O−CF2CF(CF3)−)n−O−CF2CF2−(nが1、2、3または4である)、
(−O−CF2CF(CF2CF3)−)n−O−CF2CF2−(nが1、2または3である)、
(−O−CF(CF3)CF2−)n−O−CF2CF2−(nが1、2、3または4である)、
(−O−CF(CF2CF3)CF2−)n−O−CF2CF2−(nが1、2または3である)、
−O−(CF2n−(nが1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14である)などがある。
【0023】
2002年、12月17日に出願された米国特許出願第10/322,226号明細書に開示された方法など、いずれの適した方法によってフルオロモノマーを合成してもよい。
【0024】
1つの実施態様において、PEMは、当量およびTgの記載された範囲を満たすポリマーブレンドからなる。ポリマーは、使用された量において混和性である。前記ポリマーの少なくとも1つが、上記のように、高フッ素化され、酸官能性である。典型的に、付加的なポリマーも高フッ素化され、より典型的に過フッ素化される。第1のポリマーと混和性であるために、付加的なポリマーも酸官能性であると考えられるが必ずしもそうである必要はない。
【0025】
別の実施態様において、PEMは、高フッ素化主鎖と、少なくとも1つが上記のように酸官能基である少なくとも2つの異なった側基とを有する、当量およびTgの記載された範囲を満たすポリマーからなる。付加的な側基は、いずれの適した基であってもよい。付加的な側基は、芳香族または非芳香族、直鎖または分岐状であってもよく、ヘテロ原子を含有してもよい。付加的な側基は、上記のように、酸官能基であってもよいが必ずしもそうである必要はない。
【0026】
本発明の方法において、ポリマーまたはポリマーブレンドは、キャスチングのために懸濁液または溶液において提供される。典型的には水など、いずれの適したキャリアまたは溶剤を用いてもよい。膜は、バーコーティング、噴霧コーティング、スリットコーティング、ブラシコーティング等、いずれかの適した方法によってキャストされる。キャスチングは典型的に、典型的に高温において、典型的に30℃〜130℃において、アニールする前に乾燥される。アニーリングはTg+Xに等しい温度Ta(Xが少なくとも10℃である)において行なわれる。より典型的に、Xは少なくとも25℃、より典型的に少なくとも40℃、最も典型的に少なくとも55℃である。Taは典型的に210℃以下、より典型的に200℃以下である。アニーリングの時間は典型的に1〜30分である。
【0027】
典型的に本発明のPEMは、90ミクロン以下、より典型的に60ミクロン以下、最も典型的に30ミクロン以下の厚さを有する。膜を薄くすると、イオンの移行に対する抵抗を少なくすることができる。燃料電池の用途において、これは、より低温の運転をもたらし、有用なエネルギーの出力を大きくする。より薄い膜は、十分な構造強度を提供する材料または方法によって作製されなければならない。
【0028】
本発明は、ポリマー電解質膜燃料電池において有用である。
【0029】
本発明の目的および利点は以下の実施例においてさらに説明されるが、これらの実施例に記載された特定の材料およびそれらの量、ならびに他の条件および詳細は、本発明を不当に限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0030】
特に記載しない限り、全ての試薬はウィスコンシン州、ミルウォーキーのアルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Aldrich Chemical Co.,Milwaukee,WI)から得られたかまたは入手可能であり、または周知の方法によって合成されてもよい。
【0031】
Tgの測定
Tgを動的機械分析(DMA)によって測定した。DMAにおいて、試験されるポリマーの試料を、振動力を適用して試料の得られた変位を測定する試験装置内にクランプする。このプロセスを温度制御された環境内で行なう。温度は、測定が行なわれる時に上昇される。このデータから、装置は典型的に、温度の関数としての試料の弾性率(E’)、損失弾性率(E”)、および減衰率(タンジェントデルタ)を計算、記録および表示する。Tgは、タンジェントデルタの最大であるとされる。
【0032】
この実施例において、レオメトリクス・ソリッド・アナライザ(Rheometrics Solid Analyzer)RSAII(米国、デラウェア州、ニューキャッスルのTAインストルメンツ(TA Instruments,New Castle,Delaware,USA))を1ヘルツ(6.28rad/秒)の振動数において用いた。幅約6.5mm×長さ約25mm×厚さ約30〜38ミクロンの試料の薄い試験片を試験した。25℃〜200℃の温度範囲で引張応力下で測定を行なった。
【0033】
試料の調製
試験用のポリマー膜試料を、固形分20%を含有する水/プロパノール懸濁液(30〜50%の水)からナイフコーティングによってガラス板またはPETフィルム上にキャストし、10分間、80℃において乾燥させ、10分間、200℃においてアニールした。
【0034】
測定されたTg値
様々な当量を有するナフィオン(登録商標)膜の試料(比較用試料)のTg値を上記のようにDMAによって測定し、表IIに記録した。
【0035】
【表2】

【0036】
ブレンドされたポリマー
ブレンドされたおよびブレンドされないポリマー膜のTg値を上記のようにDMAによって測定し、表IIIに記録した。
【0037】
【表3】

【0038】
ポリマーAは、2002年、12月19日に出願された米国特許出願第10/325,278号明細書に開示されているような、TFEと式:
CF2=CF−O−CF2−CF2−CF2−CF2−SO2
のモノマーとのコポリマーであり、上式中、SO2F基はSO3H基に加水分解されていた。
【0039】
ナフィオン(登録商標)とポリマーAとの25/75ブレンドは、ナフィオン(登録商標)のTgとポリマーAのTgとの間の中間の単一のTgを示し、2つのポリマーが混和性であることを示した。
【0040】
ターポリマー
83.5/5.0/11.5のモル比のTFE、CF2=CF−O−CF3およびCF2=CF−O−CF2−CF2−CF2−CF2−SO2Fのターポリマー(そこにおいてSO2F基がSO3H基に加水分解されている)のTg値を上記のようにDMAによって測定した。プレエマルションにCF2=CF−O−CF3モノマーを添加して、2002年12月19日に出願された米国特許出願第10/325,278号明細書に開示されているように、ポリマーを製造した。得られたポリマーの当量は、計算によって、1177であった。測定されたTgは110℃であった。
【0041】
本発明の様々な改良及び変更が、本発明の範囲及び原理から逸脱することなく実施できることは、当業者には明らかであり、本発明は、上記の例示的な実施態様に不当に制限されるものではないことは理解されるはずである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも2つの混和性ポリマーのブレンドの懸濁液または溶液を提供する工程であって、前記ポリマーの少なくとも1つが、高フッ素化主鎖と、スルホン酸基を含む少なくとも1つの側基とを含み、ポリマーの前記ブレンドが1200より小さい当量を有し、ポリマーの前記ブレンドが101℃〜155℃のTgを有する、工程と、
b)膜を前記懸濁液または溶液からキャストする工程と、
c)前記膜をTg+Xに等しい温度Ta(Xが少なくとも10℃であり、Taが210℃以下である)においてアニールする工程と、を含む、ポリマー電解質膜の作製方法。
【請求項2】
a)ポリマーの懸濁液または溶液を提供する工程であって、前記ポリマーが、高フッ素化主鎖と、少なくとも1つがスルホン酸基を含む少なくとも2つの異なった側基とを含み、前記ポリマーが、1200より小さい当量を有し、101℃〜155℃のTgを有する、工程と、
b)膜を前記懸濁液または溶液からキャストする工程と、
c)前記膜をTg+Xに等しい温度Ta(Xが少なくとも10℃であり、Taが210℃以下である)においてアニールする工程と、を含む、ポリマー電解質膜の作製方法。
【請求項3】
前記膜が90ミクロン以下の厚さを有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも2つの混和性ポリマーのブレンドを含むポリマー電解質膜であって、前記ポリマーの少なくとも1つが、高フッ素化主鎖と、スルホン酸またはスルホネート基を含む少なくとも1つの側基とを含み、ポリマーの前記ブレンドが1200より小さい当量を有し、ポリマーの前記ブレンドが101℃〜155℃のTgを有する、ポリマー電解質膜。
【請求項5】
高フッ素化主鎖と、少なくとも1つがスルホン酸基を含む少なくとも2つの異なった側基とを含むポリマーを含み、前記ポリマーが、1200より小さい当量を有し、101℃〜155℃のTgを有する、ポリマー電解質膜。
【請求項6】
アニールされたキャスト膜である、請求項4または5に記載のポリマー電解質膜。
【請求項7】
90ミクロン以下の厚さを有する、請求項4、5、または6のいずれか一項に記載のポリマー電解質膜。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法によって作製されたポリマー電解質膜を含む燃料電池膜電極接合体。
【請求項9】
請求項4〜7のいずれか一項に記載のポリマー電解質膜を含む燃料電池膜電極接合体。

【公表番号】特表2007−511047(P2007−511047A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538036(P2006−538036)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/033299
【国際公開番号】WO2005/045978
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】