説明

ポリ乳酸の製造方法

【課題】着色がなく、且つ、高分子量及び高光学純度を達成する。
【解決手段】乳酸プレポリマーをフェニルリン酸、フェニルホスホン酸及びフルオロリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のリン酸系触媒の存在下で固相重合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単量体である乳酸から直接重合法によりポリ乳酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
循環型社会の実現、すなわち環境低負荷型の社会の実現には、ポリ乳酸等に代表される植物等の生物由来の生分解性プラスチックの利用が非常に重要な役割を果たす。ポリ乳酸を各種樹脂製品に利用するには、目的とする用途に適した強度などの各種物性を達成すること、製造コストの引き下げにより汎用性を高めることが重要となる。
【0003】
ところで、ポリ乳酸の製造方法としては、単量体の乳酸を二量体したラクチドを原料として開環重合する方法、乳酸を有機溶媒中で直接脱水重縮合する方法、粉末又は粒子状の低分子量のポリ乳酸を不活性ガス雰囲気下又は真空下で所定の温度で加熱することで分子量を増加させる方法が挙げられる。また、ポリ乳酸の製造方法としては、例えば、特許文献1に示すように、結晶化した低分子量のポリ乳酸を触媒の存在下で固相重合する技術において、特定の原料及び触媒を用い、流通ガス量を制御することにより高分子量のポリ乳酸を製造する方法が知られている。特に、この直接脱水重合法は、乳酸からラクチドを介さずに直接ポリ乳酸を製造できるため、ラクチド法などの他の製造方法に比べて工程を少なくすることが可能なため、初期設備費が抑えられるメリットがある。
【0004】
特に特許文献1では、固相重合の際の触媒として揮発性触媒、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、p−クロロベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸系化合物を使用することが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、重合触媒としてリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸及び酢酸リン酸を使用したポリ乳酸の製造方法が開示されている。さらに、特許文献3には、金属系触媒及び活性化剤の存在下で乳酸を重縮合反応させてポリ乳酸を製造する際に、活性化剤としてフェニルホスホン酸等のリン系プロトン酸やヘキサフルオロリン酸等のフッ素含有プロトン酸を使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−122954号公報
【特許文献2】特開2002−138142号公報
【特許文献3】特開2007−119597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1において具体的に開示された揮発性触媒を用い、ポリ乳酸を固相重合により製造しても、淡黄色の着色が認められ、脱色するために脱色剤の添加、又は新たな脱色工程の追加が必要となるため、製造コストの上昇につながるおそれがある。また、特許文献2に開示されたリン酸等を触媒として使用してポリ乳酸を製造しても、高分子量且つ高光学純度のポリ乳酸を製造することができない。以上のように、乳酸から直接重合法によりポリ乳酸を製造するに際して、脱色剤を添加するか又は脱色工程の追加することなくしては、着色がなく、且つ、優れた物性を有するポリ乳酸を製造することができないといった問題があった。
【0008】
本発明は、上述した実情に鑑み、着色がなく、且つ、高分子量及び高光学純度を達成することで強度等の物性に優れたポリ乳酸の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、固相重合法に使用する種々の触媒のなかから、着色がなく、高分子量及び高光学純度を達成することができる特定の触媒を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係るポリ乳酸の製造方法は以下を包含する。
(1)乳酸プレポリマーをフェニルリン酸、フェニルホスホン酸及びフルオロリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のリン酸系触媒の存在下で固相重合する、ポリ乳酸の製造方法。
(2)上記リン酸系触媒の存在下で乳酸を溶融重合させ上記乳酸プレポリマーを合成する工程を含む(1)記載のポリ乳酸の製造方法。
(3)上記乳酸プレポリマーは、上記リン酸系触媒の存在下で乳酸を溶融重合させたものであることを特徴とする(1)記載のポリ乳酸の製造方法。
(4)上記溶融重合は、1.0〜3.0重量%の上記リン酸系触媒を含有する反応系にて行われることを特徴とする(2)又は(3)記載のポリ乳酸の製造方法。
【0011】
また、本発明は、本発明に係るポリ乳酸の製造方法により製造され、残留溶媒として上記リン酸系触媒を含むポリ乳酸も包含する。さらに、本発明は、本発明に係るポリ乳酸を用いて成形された成形品も包含する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るポリ乳酸の製造方法によれば、脱色剤を添加する又は脱色工程を追加することなく、着色がなく、高分子量及び高光学純度を達成し、強度等の物性に優れたポリ乳酸を製造することができる。すなわち、本発明に係るポリ乳酸の製造方法によれば、着色のない優れた品質であって、強度等の物性に優れた各種成形品として加工することができるポリ乳酸を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明に係るポリ乳酸の製造方法は、低分子量のポリ乳酸(若しくは乳酸オリゴマー、以下、乳酸プレポリマーと称する場合もある)を固相重合する方法において、触媒としてフェニルリン酸、フェニルホスホン酸及びフルオロリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のリン酸系触媒を使用する方法である。ここで、固相重合とは、結晶化した乳酸プレポリマーを固相状態で、好ましくは流通ガス雰囲気下で脱水重縮合する反応を意味する。したがって、固相重合によれば、固相重合終了後のポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)が、固相重合開始前の乳酸プレポリマーの重量平均分子量(Mw)を上回ることとなる。
【0014】
固相重合における触媒であるフェニルリン酸、フェニルホスホン酸及びフルオロリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のリン酸系触媒は、乳酸プレポリマーを合成する溶融重合反応時に触媒として添加され、得られた乳酸プレポリマーを固相重合に供する際に乳酸プレポリマーとともに固相重合の反応系に持ち込まれることが好ましい。なお、乳酸プレポリマーをフェニルリン酸、フェニルホスホン酸及びフルオロリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のリン酸系触媒以外の有機化合物等を触媒として合成し、当該有機化合物を留去した後の乳酸プレポリマーを、フェニルリン酸、フェニルホスホン酸及びフルオロリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のリン酸系触媒を触媒とする固相重合反応に供してもよい。
【0015】
本発明に係るポリ乳酸の製造方法において、固相重合反応における上記リン酸系触媒の触媒量、すなわち存在量(若しくは添加量)は特に限定されない。ただし、上記リン酸系触媒が多量に存在しすぎると、触媒費用が多くなるといった問題がある。また、上記リン酸系触媒が少量である場合には、固相重合における重合反応の進行が遅くなり、高分子量のポリ乳酸を得ることが困難になる虞がある。例えば、乳酸プレポリマーを溶融重合により合成する反応系において、触媒として使用する上記リン酸系触媒を1.0〜3.0重量%、特に1.5〜2.5重量%の割合とすることが好ましい。上記リン酸系触媒量を上記範囲とすることによって、より高分子量のポリ乳酸を合成することができる。すなわち、乳酸プレポリマーを溶融重合により合成する反応系において、触媒として使用する上記リン酸系触媒を1.0重量%未満とした場合には、固相重合後のポリ乳酸の分子量が低くなる虞がある。また、乳酸プレポリマーを溶融重合により合成する反応系において、触媒として使用する上記リン酸系触媒を3.0重量%より大としても、固相重合後の分子量は頭打ちとなり、効果が少なくなるといった問題がある。
【0016】
固相重合における反応温度は、反応系に存在するポリマー(プレポリマー及び反応生成物であるポリ乳酸)が実質的に固体状態を維持していれば特に制限されないが、例えば、100℃以上、融点(Tm)未満であることが好ましい。また、反応温度が高い程、重合速度が速く、触媒である上記リン酸系触媒が揮散しやすくなる。このため、高分子量のポリ乳酸を得るには、ポリマー(プレポリマー及び反応生成物である脂肪族ポリエステル)の融点(Tm)以下の温度範囲の中で、上記リン酸系触媒の揮散速度を考慮して、反応温度を設定する。反応温度としては、例えば100〜170℃、好ましくは110〜160℃、より好ましくは120〜150℃である。
【0017】
また、固相重合は、不活性ガスや乾燥空気の雰囲気下で行っても良い。また、固相重合は、これら不活性ガスや乾燥空気を流通させせた雰囲気下で行ってもよい。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、キセノンガス、クリプトンガス等を挙げることができる。また、流通ガスの雰囲気下で固相重合を行う場合、流通ガスの含水量を低く、実質的に無水状態とすることが好ましい。含水量を低く、実質的に無水状態とすることで、固相重合反応で生成した水を効率よく除去することができ、重合速度を高く維持することができる。
【0018】
さらに、固相重合は減圧下で行うことが好ましい。反応系内の減圧度は、実質的に固相重合反応の進行を維持して、充分に高い重量平均分子量を有するポリ乳酸が得られれば、特に制限されない。減圧下で固相重合を行う場合、反応系内の減圧度は、重合速度や、揮発性触媒の種類及び使用量、固相重合反応の過程においてポリ乳酸から揮発性触媒が揮散していく速度や効率、脱水重縮合反応により生成した水を除去する速度や効率、到達重量平均分子量(Mw)等を考慮して設定される。
【0019】
一方、固相重合は加圧下で行っても良い。反応系内の圧力は、実質的に固相重合反応の進行を維持して、充分に高い重量平均分子量を有するポリ乳酸が得られれば、特に制限されない。加圧下で固相重合を行う場合、反応系内の圧力は、重合速度や、揮発性触媒の種類及び使用量、固相重合反応の過程においてポリ乳酸から揮発性触媒が揮散していく速度や効率、脱水重縮合反応により生成した水を除去する速度や効率、到達重量平均分子量(Mw)等を考慮して設定される。
【0020】
さらにまた、固相重合において、固体状プレポリマーの粒子径固体状のプレポリマーの粒子径は特に制限されない。固体状のプレポリマーの粒子径は、固相重合工程等の工程における操作容易性や、固相重合工程において、揮発性触媒が揮散していく速度や効率を考慮して設定される。特に、揮発性触媒が有する揮発性が十分に発現されるよう、粒子径は設定される。このように、触媒の揮発性が十分に発揮されるように固体状のプレポリマーの単位重量あたりの表面積を考慮すると、一般的には、固体状のプレポリマーの粒子径は、10μm〜10mmであることが好ましく、0.1mm〜10mmがより好ましく、1mm〜5mmが更に好ましい。
【0021】
ところで、固相重合に用いる乳酸プレポリマーは、ポリ乳酸のホモポリマーでもよいし、乳酸単位と他の成分とを含有するコポリマーでも良いし、これらの混合物でも良い。また、ここで、他の成分としては、乳酸以外の脂肪族ヒドロキシカルボン酸を挙げることができる。脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、例えばグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸等を挙げることができる。また、これらの脂肪族ヒドロキシカルボン酸は、単独で、または2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0022】
乳酸プレポリマーを構成する乳酸単位は、D体、L体、及びそれらの等量混合物(ラセミ体)が存在するが、得られるプレポリマー重合体が結晶性を有していれば、それらの何れも使用することができる。なかでも光学純度が95%以上、好ましくは98%以上、更に好ましくは99%以上の発酵法で製造されるL-乳酸が特に好ましい。
【0023】
固相重合に用いる乳酸プレポリマーは、乳酸単位の他に2以上の水酸基を有する脂肪族多価アルコール、2以上のカルボキシル基を有する脂肪族多塩基酸を含んでいても良い。
【0024】
脂肪族多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族二価アルコールを挙げることができる。脂肪族多価アルコールとしては、上記の脂肪族二価アルコール以外に、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、イノシトール等を挙げることができる。
【0025】
脂肪族多塩基酸としては、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタン酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、3,3−ジメチルペンタン二酸等の脂肪族ジカルボン酸や、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等の脂肪族二塩基酸を挙げることができる。脂肪族多塩基酸としては、上記の脂肪族二塩基酸以外に、例えば、1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、テトラヒドロフラン2R,3T,4T,5C−テトラカルボン酸、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、4−カルボキシ−1,1−シクロヘキサンジ酢酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、(1α,3α,5β)−1,3,5−トリメチル−1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、2,3,4,5−フランテトラカルボン酸等の環状化合物及びその無水物、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、meso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、1,3,5−ペンタントリカルボン酸、2−メチロールプロパントリカルボン酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸、1,1,2−エタントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸等の線状化合物及びその無水物を挙げることができる。
【0026】
脱水重縮合反応によりプレポリマーを製造する方法には、溶融重合方法、有機溶媒を使用する溶液重合方法があり、所望の重量平均分子量(Mw)や操作の簡便性に応じて、適宜、公知の反応方法を選択して用いられる。例えば、特開昭59−96123号公報記載の溶融重合方法、USP5,310865、5,401,796、5,817,728及びEP 0829503−A記載の溶液重合方法に準じた方法が用いられる。また、プレポリマーの製造に触媒を用いる場合、前記の固相重合において用いるリン酸系触媒を用いることが好ましい。
【0027】
本発明に係るポリ乳酸の製造方法によれば、固相重合する際の触媒として上述したリン酸系触媒を使用することにより、有機スルホン酸系化合物を触媒として使用した場合と比較して、固相重合後のポリ乳酸における着色を防止し、且つ、高分子量及び高光学純度のポリ乳酸を製造することができる。例えば、固相重合の際の触媒として有機スルホン酸系触媒を使用した場合には、高分子量のポリ乳酸を製造できるが、淡黄色の着色が認められ、高品質のポリ乳酸とはならない。また、フェニルリン酸、フェニルホスホン酸及びフルオロリン酸以外のリン酸系触媒を固相重合の際の触媒として使用した場合には、有機スルホン酸系触媒を使用した場合と比較すると着色を防止できるものの、高分子量のポリ乳酸が得られないか、光学純度の低いポリ乳酸となってしまう。ここで、ポリ乳酸の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ−(GPC:Gel permeation chromatography)を用いて、ポリスチレン換算の数値として測定することができる。また、分子量残存率は、100×[上記熱処理後のポリ乳酸の分子量]÷[固相反応後のポリ乳酸の分子量]で算出することができる。
【0028】
また、フェニルリン酸、フェニルホスホン酸及びフルオロリン酸は、製造対象のポリ乳酸の溶解度パラメータに対して近似した値を示すため、より高分子量のポリ乳酸を製造することができる。ここで、溶解度パラメータの算出方法は、一例として、溶解度パラメータはFedor法(Fedor's Group Contribution Method)を適用することができる。このFedor法によれば下記式によって溶解度パラメータ(d)を算出することができる。
【0029】
【数1】

【0030】
上記式において、溶解度パラメータ〔d〕の単位は〔(J/cm3)1/2〕である。また、上記式においてVは、原子団寄与法によって算出された構成上の繰り返し数のモル体積である。さらに、EcohはFodor〔J/mol〕によるモル結合エネルギーであり、Ecoh, iはi番目の原子団のEcohへの寄与を示ししている。
【0031】
上記式を適用すると、ポリ乳酸の溶解度パラメータは下記のように算出される。なお、ポリ乳酸を構成する原子団のCH3のEcoh及びVはそれぞれ4710及び33.5であり、CHのEcoh及びVはそれぞれ3430及び-1.0であり、-O-のEcoh及びVはそれぞれ3350及び3.8であり、-CO2-のEcoh及びVはそれぞれ18000及び18.0である。
【0032】
【数2】

【0033】
また上記式を適用すると、フェニルリン酸の溶解度パラメータは33.3であり、フェニルホスホン酸の溶解度パラメータは33.4であり、フルオロリン酸の溶解度パラメータは3.65である。一方、オルトリン酸の溶解度パラメータは55.8であり、ポリリン酸の溶解度パラメータは55.8である。このように、フェニルリン酸、フェニルホスホン酸及びフルオロリン酸の溶解度パラメータは、オルトリン酸やポリリン酸の溶解度パラメータと比較すると、ポリ乳酸の溶解度パラメータと近似していることが判る。よって、フェニルリン酸、フェニルホスホン酸及びフルオロリン酸を触媒として使用することにより、オルトリン酸やポリリン酸を触媒として使用した場合と比較してより高分子量のポリ乳酸を製造できることが判る。
【0034】
また、本発明に係るポリ乳酸の製造方法により製造されたポリ乳酸は、残留溶媒としてフェニルリン酸、フェニルホスホン酸、フルオロリン酸若しくはその分解物を含有しているため、他の製造方法で製造されたポリ乳酸と区別することができる。ポリ乳酸に残留溶媒として含まれるフェニルリン酸、フェニルホスホン酸、フルオロリン酸若しくはその分解物は、ガスクロマトグラフィー等の手法により検出することができる。
【0035】
さらに、本発明に係るポリ乳酸の製造方法により製造されたポリ乳酸は、特に制限されないが、具体的には、射出成形、押出成形、インフレーション成形、押出中空成形、発泡成形、カレンダー成形、ブロー成形、バルーン成形、真空成形、紡糸等の成形加工法により所望の形状が付与された成形品として広く利用される。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例及び比較例]
プレポリマーの製造
本例では、L-乳酸(Hipure90;ピューラック社製)5.00gを試験管に投入し、さらに下記表1の触媒を0.5重量%又は2.0重量%添加した。室温、常圧から段階的に昇温、減圧し、最終的に150℃、30Torrとして脱水重縮合反応を行った。この脱水重縮合反応の反応時間を5hとし、乳酸プレポリマーを合成した。また、得られたオリゴマーを室温、常圧から段階的に昇温、減圧し、最終的に160℃、10Torrとして更に脱水重縮合反応を行った。この脱水重縮合反応の反応時間を20hとして、乳酸プレポリマーを合成した。
【0038】
【表1】

【0039】
なお、上記表に示したSP値は、Fedor法(Fedor's Group Contribution Method)により算出した。また、上記表に示したpKa値は、Calculator Plugins(ChemAxons社)を使用して算出した。
【0040】
ポリ乳酸の製造(固相重合)
上記で得られた乳酸プレポリマーのうち、初段の脱水重縮合反応(反応時間5h)で得られた乳酸プレポリマーを乳鉢にて粉砕した後、試験管に1.0gずつ採取し、2hのアニーリングを行った。その後、0.5〜1.0Torrの条件下で、融解前の温度で段階的に昇温させながら固相重合反応を行った(反応時間を45h又は60h)。
【0041】
評価試験
上述した乳酸プレポリマー及び固相重合後のポリ乳酸について、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び光学純度を測定した。なお、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエションクロマトグラフィ(GPC)法により測定した。具体的に、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、GPC測定装置として東ソー株式会社製のHLC-8100GPC(検出器:示差屈折計(RI))を使用し、カラムとして東ソー株式会社製のTSK-GEL Hタイプ(溶離液:クロロホルム)を使用した。重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の値は標準ポリスチレンにて換算した。分子量分布(PDI)は(Mw)/(Mn)として算出した。さらに光学純度は、試料1mgに5M NaOH 5mlとイソプロパノール 2.5mlを添加し、40℃で加熱撹拌しながら加水分解した後、1M H2SO4で中和した中和液を希釈し、HPLCにて測定したL-乳酸及びD-乳酸の検出ピーク面積から下記式により算出した。
光学純度=100×[L]/([L]+[D])
(式中、[L]はL-乳酸の重量比率(%)であり、[D]はD-乳酸の重量比率(%)である。)
HPLC測定には、ウォーターズ社製のLC Module Iを使用し、カラムには株式会社住化分析センター社製のSUMICHIRAL OA-5000を使用した。
【0042】
乳酸プレポリマーに関する結果を表2に示し、固相重合後のポリ乳酸に関する結果を表3に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
表2及び3に示すように、触媒としてフェニルリン酸、フェニルホスホン酸又はフルオロリン酸を使用した場合には、着色がなく、且つ高分子量及び高光学純度のポリ乳酸を製造できることが明らかとなった。これに対して、p-トルエンスルホン酸を触媒として使用した場合には、高分子量且つ高光学活性ではあるものの、淡黄色(pale yellow)の着色が認められ高品質なポリ乳酸を製造することができなかった。また、リン酸系触媒であってもオルトリン酸を使用した場合には、着色がないものの、高分子量のポリ乳酸を製造できなかった。リン酸系触媒であってもポリリン酸を使用した場合には、高分子量のポリ乳酸を製造できないか、或いは淡黄色(pale yellow)の着色が認められ高品質なポリ乳酸を製造することができなかった。
【0046】
以上の結果から、触媒としてフェニルリン酸、フェニルホスホン酸又はフルオロリン酸を使用して製造したポリ乳酸は、着色がない高品質なものであり、また、高分子量且つ高光学活性であるために機械的強度に優れたものとなることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸プレポリマーをフェニルリン酸、フェニルホスホン酸及びフルオロリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のリン酸系触媒の存在下で固相重合する、ポリ乳酸の製造方法。
【請求項2】
上記リン酸系触媒の存在下で乳酸を溶融重合させ上記乳酸プレポリマーを合成する工程を含む、請求項1記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項3】
上記乳酸プレポリマーは、上記リン酸系触媒の存在下で乳酸を溶融重合させたものであることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項4】
上記溶融重合は、1.0〜3.0重量%の上記リン酸系触媒を含有する反応系にて行われることを特徴とする請求項2又は3記載のポリ乳酸の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか一項記載のポリ乳酸の製造方法により製造され、残留溶媒として上記リン酸系触媒を含むポリ乳酸。
【請求項6】
請求項5記載のポリ乳酸を用いて成形された成形品。

【公開番号】特開2012−46607(P2012−46607A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189239(P2010−189239)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】