説明

ポリ乳酸の調製のための新規方法

本発明は、二峰性モル質量分布または多峰性モル質量分布を有するポリヒドロキシカルボン酸、その調製方法、ポリヒドロキシカルボン酸、特に二峰性モル質量分布または多峰性モル質量分布を有するポリヒドロキシカルボン酸の調製のための単一ベンゼン環を有する芳香族ジオールの使用および前記ポリヒドロキシカルボン酸を用いる射出成形品またはインフレートフィルム、ポリマーブレンド、複合材料またはナノ複合材料の調製方法を記載している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二峰性モル質量分布または多峰性モル質量分布を有するポリヒドロキシカルボン酸、その調製方法、ポリヒドロキシカルボン酸、特に二峰性モル質量分布または多峰性モル質量分布を有するポリヒドロキシカルボン酸の調製のための単一ベンゼン環を有する芳香族ジオールの使用および前記ポリヒドロキシカルボン酸を用いる射出成形品またはインフレートフィルム、ポリマーブレンド、複合材料またはナノ複合材料の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸(PLA)などのヒドロキシカルボン酸から誘導されたポリマーは、再生可能な資源から製造されたポリマーの最も有望な種類の一つである。乳酸などのヒドロキシカルボン酸から誘導されたポリマーは、再生可能、堆肥化可能および生体適合性である他に、標準加工装置により加工可能でもある。
【0003】
ポリヒドロキシカルボン酸は、医療用途、例えば縫合糸および被覆物などの様々な用途のために用いられる。一般に、高モル質量ポリヒドロキシカルボン酸は上の目的のために最も望ましい。比較的モル質量が低いポリヒドロキシカルボン酸は殆どの用途に適さない低い機械的特性をもたらすからである。しかし、各用途は特定の特性を有するポリヒドロキシカルボン酸を要求する。従って、当該技術分野においては、種々の用途のために必要とされる多様性に寄与する新規ポリヒドロキシカルボン酸組成物が必要とされ続けている。
【0004】
ポリヒドロキシカルボン酸を従来通り調製すると、一般に、一峰性モル質量分布を有するポリヒドロキシカルボン酸が得られる。二峰性モル質量分布を有するポリヒドロキシカルボン酸は、シャムロイ(Shyamroy)ら(シャムロイ S.(Shyamroy S.)、ガーナイク B.(Garnaik B.)およびシバラム S.(Sivaram S.)、J.Polymer Sci.:パートA:Polymer Chem.2005、第43巻:2164〜2177頁)によって開示されている。モル質量は、1つのフラクションがそれぞれ3400または2600の数平均分子量を有し、第2のフラクションがそれぞれ600または500の数平均分子量を有する低分子量のフラクションに制限される。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、芳香族ジオールが単一ベンゼン環のみを有するとき、触媒/芳香族ジオール系の存在下でヒドロキシカルボン酸を重縮合すると、より高い分子量を有する二峰性モル質量分布および/または多峰性モル質量分布を有するポリヒドロキシカルボン酸を得ることが可能であることを今や見出した。二峰性モル質量分布を有するポリヒドロキシカルボン酸は、低分子量フラクションに加えて高分子量フラクションを有する。低分子量フラクションは、単一ベンゼン環を有する芳香族ジオールでなく脂肪族ジオールの存在下で重合させる際にも見られる。
【0006】
従って、本発明は、二峰性モル質量分布または多峰性モル質量分布を有し、1〜200kDaの範囲内のモル質量を有する第1のフラクションと200kDaを上回るモル質量を有する第2のフラクションとを少なくとも含むポリヒドロキシカルボン酸に関する。こうしたポリヒドロキシカルボン酸は以前には得られなかったものであり、例えば加工性に関して特定の用途のために新規な機会を提供できる新規組成物を提供する。更に、一実施形態において、前記ポリヒドロキシカルボン酸は後で更に連結されて、用途における更なる使用のために高モル質量ポリヒドロキシカルボン酸を得ることが可能である。
【0007】
二峰性モル質量分布または多峰性モル質量分布は、好ましくはゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって決定される。GPC測定は、例えば、「ファーマシア(Pharmacia)」LKB−HPLCポンプ2248、TSK−ゲルG3000、G2500およびG1500HXLカラムならびにLKB2142RI検出器に基づくシステムを用いて行うことが可能である。単分散ポリスチレン標準は、好ましくは較正のために用いられる。サンプルの濃度は、GPCシステムにおいて移動相として用いてもよいTHFの中で、好ましくは1.5〜2mg/mlであってもよい。
【0008】
好ましくは、第2のフラクションは200〜1500kDaの範囲内のモル質量を有する。より高いモル質量を有するポリマーが極端に粘性であり、取り扱うのに困難であるからである。
【0009】
第1のフラクションは、好ましくは1〜100kDa、より好ましくは1〜50kDaの範囲内のモル質量を有する。第2のフラクションは、好ましくは250〜1200kDa、より好ましくは300〜100kDaの範囲内のモル質量を有する。
【0010】
これまでに、ポリヒドロキシカルボン酸を調製するために主たる2つの方法:ヒドロキシカルボン酸の環形成された環式(ジ)エステルの重縮合または開環重合、が知られている。開環重合は、より高い分子量を有するポリマーをもたらすことが知られているが、ヒドロキシカルボン酸の単純な重縮合より手間がかかり、高価でもある。
【0011】
高モル質量を有するポリヒドロキシカルボン酸は殆どの場合工業用途のために用いられるので、こうしたポリヒドロキシカルボン酸の調製の単純な方法が当該技術分野において必要とされ続けている。達成され得るモル質量を高めることも試みられている。こうした方法の1つは、連鎖延長剤として作用することが多いジオールコモノマーまたは二酸コモノマーの存在下で重合を行うことである。その際、こうした重合は、1個のヒドロキシル末端基および1個のカルボン酸末端基でなく2個のヒドロキシル末端基または2個のカルボン酸末端基を有するプレポリマーの形成をもたらす。得られたプレポリマーはイソシアネートまたはジエポキシなどの化学化合物を用いて後で架橋して、高モル質量ポリヒドロキシカルボン酸を得てもよい。
【0012】
ヒルツネン(Hiltunen)およびセパラ(Seppala)(J.Appl.Polymer Sci.1998、第67巻:1011〜1016頁)は、連結反応に更に供されて高分子量を有するポリマーを得る乳酸系プレポリマーの調製のために異なる触媒とジオールの組み合わせの使用を開示している。脂肪族ジオールまたは2個以上のベンゼン環を有する芳香族ジオールをジオールとして試験した。約25,000g/モルの最大平均分子量を有する芳香族ジオールポリ乳酸を得ることができた。
【0013】
本発明者らは、触媒/単一ベンゼン環を有する芳香族ジオール系の存在下でヒドロキシカルボン酸を重縮合に供するとき、二峰性モル質量または多峰性モル質量を有するポリヒドロキシカルボン酸を得ることができることを今や見出した。こうした二峰性モル質量分布または多峰性モル質量分布は、2個以上のベンゼン環を有する芳香族ジオールを用いるときにも脂肪族ジオールを用いるときにも得られない。
【0014】
従って、本発明は、触媒および芳香族ジオールの存在下でヒドロキシカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸の環式(ジ)エステルを重合に供する工程を含むポリヒドロキシカルボン酸を調製する方法であって、前記芳香族ジオールが単一ベンゼン環を有することを特徴とする方法に関する。
【0015】
触媒としてのオクタン酸錫などの適する金属触媒および上述した芳香族ジオールの存在下での乳酸の重縮合が得られたポリマーのモル質量分布に驚くべき効果を及ぼすことを見出した。モル質量分布は二峰のピークを示した。これに対して、同じ条件下で触媒としてオクタン酸錫および脂肪族ジオールの存在下で乳酸の重縮合によって得られたポリ乳酸のGPC曲線は単一ピークを示し、単一ベンゼン環芳香族ジオールの存在下で重合させると追加的に見られた追加の高分子量ポリ乳酸フラクションを含まなかった。
【0016】
減圧下で行われた実験から、芳香族ジオール中のヒドロキシル基の僅かな量のみがヒドロキシカルボン酸および/またはポリマーのカルボキシル基と反応し、芳香族ジオールの存在が計算されたほどにポリマー鎖の長さを制限しないようであったことが注目された。従って、数ポリマー鎖のみが芳香族ジオールに結合したようである。結果として、ヒドロキシル末端基とカルボン酸末端基の両方を主として有し、フェノール末端基を有するのはわずかに過ぎないポリヒドロキシカルボン酸が得られる。従って、ポリヒドロキシカルボン酸の調製に際して真の開始剤/連鎖停止剤として作用する脂肪族ジオールとは異なり、本発明による芳香族ジオールは触媒の作用を単に助け、よって二峰性モル質量分布を有するポリヒドロキシカルボン酸をもたらす。このポリヒドロキシカルボン酸は、脂肪族ジオールの存在下で重合すると見られるフラクションに加えて高分子量フラクションを含んでいた。
【0017】
「ヒドロキシカルボン酸」という用語は当該技術分野で周知である。本発明によるポリヒドロキシカルボン酸の調製の際に出発材料として用いられるべきヒドロキシカルボン酸の適する例は、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸およびヒドロキシカプロン酸である。ヒドロキシカルボン酸がキラル化合物であるとき、ヒドロキシカルボン酸はD−配置、L−配置またはDL−配置のいずれを有してもよい。
【0018】
本明細書で用いられる「ヒドロキシカルボン酸の環式(ジ)エステル」という用語も当該技術分野で周知である。この用語は、ラクチド、グリコリドおよびマンデリドなどのヒドロキシカルボン酸の環式ジエステル、ならびにε−カプロラクトン、ブチロラクトンおよびバレロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸の環式エステルを含む。
【0019】
「重合」という用語は当該技術分野で周知である。重合方法の非限定的な例には、重縮合、すなわち、水または他の単純な物質の引き続く放出を伴う2個以上の分子が化合する化学反応によるポリマーの形成が挙げられ、ヒドロキシカルボン酸の環式(ジ)エステルの開環重合も挙げられる。
【0020】
液体重縮合、メルト重縮合または固相重縮合などのヒドロキシカルボン酸のための重縮合の従来のいかなる手段も用いてよい。重縮合は、好ましくは反応混合物が非常に激しく混合/混練される系内で行われ、これには、相境界層が効率的に取り替えられるという利点があり、溶媒を使用せずに物質移動と熱移動の両方が促進される。
【0021】
ヒドロキシカルボン酸の環式(ジ)エステルの開環重合は溶液内または塊状で行うことが可能である。塊状重合はポリマーの融点より下(しかし、モノマーの融点より上で)でまたはポリマーの融点より上で行うことが可能である。後者の方法は、多様な適する反応器システム、例えば、押出機、ニーダー、スタチックミキサ、管状反応器などが利用できるので殆どの場合用いられる。
【0022】
重合反応は、好ましくは従来の触媒の存在下で行われる。ヒドロキシカルボン酸の重合のための従来の触媒は当該技術分野で周知である。その適する例には、酸;、あるいはオクタン酸錫などの元素の周期律表におけるI−VIIIA族および/またはIB−VIIN族の元素を含有する金属化合物または有機金属化合物、トルエンスルホン酸、硫酸、チタニウムアセチルアセトネート、および種々の配位子を有するアンチモン、鉄、亜鉛、オスミウムおよびゲルマニウムが挙げられる。
【0023】
芳香族ジオールは単一ベンゼン環を有する点で特徴付けられる。こうした芳香族ジオールが二峰性モル質量分布または多峰性モル質量分布を有するポリヒドロキシカルボン酸の形成を助け、予備的な証拠としてこれらが反応速度を改善する場合があることを示すことが見出された。
【0024】
触媒および芳香族ジオールの典型的な量は0.01〜0.5モル%の範囲内であり、最も一般的には約0.1モル%である。
【0025】
好ましくは、ポリヒドロキシカルボン酸は二峰性モル質量分布または多峰性モル質量分布を有し、より好ましくは、少なくとも第1のフラクションおよび第2のフラクションを含み、フラクションは1〜1500kDaの範囲内のモル質量を有する。最も好ましくは、ポリヒドロキシカルボン酸は、上で示した理由のために1〜200kDaの範囲内のモル質量を有する第1のフラクションと200kDaを上回るモル質量を有する第2のフラクションとを少なくとも含む。
【0026】
好ましくは、第2のフラクションは、上述した理由のために200〜1500kDaの範囲内のモル質量を有する。
【0027】
一実施形態において、重合は重縮合である。結果として得られた、二峰性モル質量分布または多峰性モル質量分布を有する生成物は、重縮合方法に関して前例のない高分子量の第2のフラクションを含む。こうしたポリヒドロキシカルボン酸は更に連結されて、なおより高い分子量を有するポリヒドロキシカルボン酸を得てもよい。
【0028】
更なる実施形態において、重合は2工程で起き、1つの工程は重縮合であり、1つの工程は開環重合である。従って、1つの工程において、ヒドロキシカルボン酸を触媒および本発明による芳香族ジオールの存在下で重縮合に供して第1のポリマーを得る。もう1つの工程において、ヒドロキシカルボン酸の環式(ジ)エステルを第1のポリマーに添加してもよく、これを開環重合に供して、より高い平均モル質量を有するポリヒドロキシカルボン酸を得てもよい。
【0029】
好ましくは、芳香族ジオールは以下の構造を有する。
【0030】
【化1】

【0031】
式中、RおよびRは脂肪族置換基である。こうした芳香族ジオールにより、二峰性モル質量分布または多峰性モル質量分布が得られることが予想される。
【0032】
より好ましくは、芳香族ジオールは以下の構造を有する。
【0033】
【化2】

【0034】
式中、nは0または1から選択された整数であり、mは0、1または2から選択された整数である。こうした芳香族ジオールにより、二峰性モル質量分布または多峰性モル質量分布が得られることが見出された。
【0035】
以下の特定の化合物により、最善の結果を反応速度および分子量に関して得られることが見出された。
【0036】
置換基は分子の以下の位置上に位置することができた。
【0037】
【表1】

【0038】
こうした芳香族ジオールの例を以下で記載する。
【0039】
【化3】

【0040】
好ましい実施形態において、nは0であり、mは1であり、前記化合物は2−ヒドロキシルフェネチルアルコールである。こうした芳香族ジオールにより、二峰性モル質量分布を有するポリマーが得られることが見出された。
【0041】
好ましくは、ヒドロキシカルボン酸は、グリコール酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸および乳酸からなる群の1種以上から選択される。
【0042】
ヒドロキシカルボン酸の環式(ジ)エステルは、好ましくはグリコリド、カプロラクトンおよびラクチドからなる群の1種以上から選択される。
【0043】
一実施形態において、ヒドロキシカルボン酸は乳酸であり、および/またはヒドロキシカルボン酸の環式(ジ)エステルはラクチドである。低分子量ポリマーの場合の低い機械的特性の問題は、ポリ乳酸(PLA)に関して特に明らかであり、従って、本発明は、PLAのために特に適切である。
【0044】
本発明による重縮合の場合、重縮合はi)プレメルト重縮合、ii)メルト重縮合およびiii)固相重縮合の工程を有利に含む。
【0045】
工程i)において、ヒドロキシカルボン酸は低分子量ポリヒドロキシカルボン酸に転化される。この工程において、水の除去は反応混合物の比較的低い粘度のゆえに重要ではない。工程i)における速度決定工程は用いられる触媒によって大幅に影響を受けるヒドロキシカルボン酸の化学反応、すなわち、重縮合反応である。
【0046】
低モル質量ポリヒドロキシカルボン酸への工程i)のヒドロキシカルボン酸のプレメルト重縮合は、例えば、流下薄膜型蒸発器のような蒸発器内で行ってもよい。飛沫同伴(entrainment)によるヒドロキシカルボン酸の損失は、還流冷却器、デミスタパッケージまたは精留塔を有することによって克服することが可能である。工程i)は、良好な放射混合および軸混合を発生させる攪拌機を有する攪拌型反応器内で行うことも可能である。好ましくは、工程i)のプレメルト重縮合は、狭い滞留時間分布(プラグフロー挙動)を有する系内で行って、狭い分子量分布(小さい分散)を有するヒドロキシカルボン酸のプレポリマーを得る。
【0047】
工程ii)は水を除去するのがより難しくなるメルト重縮合である。同様に起きるエステル交換反応よりも重縮合反応を優先するために、反応混合物中で生じた水は除去されるべきである。工程ii)における速度決定工程は水の物質移動である。物質移動と熱移動の両方を促進するために、メルト重縮合反応は、好ましくは相境界層が非常に効率的に取り替えられる装置内で行われる。この装置では好ましくは非常に激しい混合および混練を行い、反応混合物を均質にする。不活性雰囲気内で真空条件下で反応を行うと粘性ポリ乳酸塊からの水の除去を更に促進することが可能である。
【0048】
メルト重縮合は、好ましくは、良好な物質移動および熱移動ならびに混合物の激しい混合および混練がなされる系内で行われる。ヒドロキシカルボン酸の増加する分子量のゆえに、好ましくは、高粘度塊を取り扱うことができる系が用いられる。こうした装置は良好な表面の取替えをもたらし、生成した水に対する物質移動を促進する回転ディスク型反応器であることができる。こうした装置は、好ましくは非常に良好な熱移動も有して、反応混合物中で均質温度プロファイルをもたらす。特に、(高)粘性ポリヒドロキシカルボン酸の混合および混練のゆえに生じた機械的熱は制御されるはずである。
【0049】
工程i)のプレメルト重縮合および工程ii)のメルト重縮合は、例えば、1000ミリバールの圧力を同時に用いて周囲温度から190℃に反応混合物を加熱し始めることによって当該技術分野で知られている、適するいかなる方式で行ってもよい。十分な自由水および反応水が蒸発するとともに反応混合物が必要な温度に達したとき、圧力は以下のステップ:800ミリバール−700ミリバール−600ミリバール−500ミリバール−400ミリバール−320ミリバール−270ミリバール−220ミリバール−170ミリバール−120ミリバール−90ミリバール−30ミリバール、により例えば20分の間隔で下げてもよい。
【0050】
縮合反応が進行するにつれて、反応水の量は更に減少し、例えば、以下の減圧ステップ:20ミリバール−10ミリバール−5ミリバール、を伴って30分の間隔で減圧をなお更に低下させて遊離反応水の蒸発を促進してもよい。
【0051】
生成した少量の反応水をなお更に除去するために、圧力を取得可能な最低圧力レベルに下げることも可能である。任意に、不活性ガス(例えば窒素またはアルゴン)のパージは、生成した反応水の除去を助けるために用いてもよい。
【0052】
工程iii)において、工程ii)の生成物を固相重縮合、すなわち結晶化に供する。ポリヒドロキシカルボン酸の結晶化を利用するとき、重縮合反応は非晶質相内で進行する。工程iii)における速度決定工程は分子拡散による物質移動である。物質移動と熱移動の両方を促進するため、固相重縮合反応は、工程ii)のメルト重縮合のために上述したように相境界層が非常に効率的に取り替えられる装置内で行われるべきである。装置では、好ましくは非常に激しく混合および混練して、反応混合物を均質化する。不活性雰囲気内で真空条件下で反応を行うと水の除去を更に促進することが可能である。
【0053】
ポリヒドロキシカルボン酸の結晶化/固化温度は、PHAのタイプ、その分子量およびその立体化学構造に応じて異なる。結晶化/固化温度の下で、二相、すなわち結晶質相および非晶質相を確認することが可能であるのに対して、1相−液層のみは結晶化/固化温度より上で検出される。非晶質相において、反応性末端基(ヒドロキシ基およびカルボン酸基)は濃縮される。末端基のこの濃縮は重縮合の速度を上げることが可能である。
【0054】
固相重縮合工程iii)は、不活性ガス(例えば、窒素またはアルゴン)を任意にパージしつつ可能な限り低い圧力、好ましくは5ミリバール未満を用いて例えばポリ(乳酸)の場合に140〜160℃などのポリヒドロキシカルボン酸の融点より低い温度でポリヒドロキシカルボン酸の結晶化後に行って、生成した反応水の除去を助けてもよい。
【0055】
メルト重縮合と固相重縮合との間の遷移段階に加えて工程iii)の固相重縮合は、工程ii)のメルト重縮合に関して記載したのと同じ装置内で行うことが可能である。好ましくは、メルト重縮合または固相重縮合は、狭い滞留時間分布(プラグフロー挙動)を有する系内で行って、狭い分子量分布(小さい分散)を有するヒドロキシカルボン酸のポリマーを得る。
【0056】
好ましくは、触媒が固相重縮合とメルト重縮合の両方に効率的に触媒作用を及ぼすことができるように、この場合、こうした触媒は(有機)金属触媒である。これらの触媒は、様々な金属、金属酸化物あるいはSn、TiまたはZnのような1種以上の遷移金属を含有する有機金属化合物であり得る。
【0057】
重縮合に先だって、ヒドロキシカルボン酸を処理して自由水を除去することが非常に好ましい。ヒドロキシカルボン酸、例えば、酪農産業における副生物として得られる乳酸は、乳酸に加えて水、いわゆる自由水を含有してもよい。この乳酸と水の平衡のゆえに、乳酸の少量のオリゴマー(線状ダイマー、線状トリマーなど)をすでに形成することが可能である。乳酸をポリ乳酸に転化するために、最初に、自由水を除去しなければならない。あるいは、この蒸発工程を必要としないように比較的濃縮されたヒドロキシカルボン酸を用いてもよい。
【0058】
自由水の蒸発、任意の工程a)は、良好な熱移動を有するシステムを必要とし、例えば流下薄膜型蒸発器(falling film evaporator)のような一般的に知られている蒸発器内で行うことが可能である。フラッシュ蒸発も、ヒドロキシカルボン酸中の自由水分の除去を処理することが可能である。
【0059】
反応混合物、ポリ乳酸からの水の除去に加えて、副生物として生成したラクチドも除去される。ラクチドの生成を完全に排除できないが、ラクチドの生成を抑制するとともに乳酸の重縮合反応の第1パス収率を上げるために、除去されたラクチドを反応混合物に戻すことができることが考えられる。重縮合が中で行われる反応容器の上に置かれた部分冷却器(還流冷却器)または精製塔は、反応混合物へのラクチドの再循環を確実にする場合がある。
【0060】
重合を真空下で少なくとも部分的に行うことも好ましい。こうした条件が、重縮合反応からの水の最も効率的な除去を確実にすることが見出された。それは反応の更なる進行のために有利な場合がある。
【0061】
更なる実施形態において、上で示した理由のために、ニーダー、押出機、スタチックミキサ、管状反応器または加熱容器、すなわち、良好な物質移動および熱移動ならびに混合物の激しい混合および混練がなされる系内で、重合は少なくとも部分的に行われる。
【0062】
重合が不活性雰囲気内で少なくとも部分的に行われることが非常に好ましい。こうした条件が望ましくない副反応を制限することが見出された。反応器を通して不活性ガスをフラッシュすることにより、重縮合反応からの水の最も効率的な除去に到達する。それは反応の更なる進行のために有利な場合がある。
【0063】
本発明は、本発明による方法のいずれかによって得ることができるポリヒドロキシカルボン酸にも関連する。
【0064】
更なる態様において、本発明は、ポリヒドロキシカルボン酸の調製のための単一ベンゼン環を有する芳香族ジオールの使用に関する。
【0065】
好ましくは、上で記載した理由のために、芳香族ジオールは以下の構造を有する。
【0066】
【化4】

【0067】
式中、RおよびRは脂肪族置換基である。
【0068】
芳香族ジオールが上述したように以下の構造を有することがさらにより好ましい。
【0069】
【化5】

【0070】
式中、nは0または1から選択された整数であり、mは0、1または2から選択された整数である。
【0071】
好ましくは、得られたポリヒドロキシカルボン酸は二峰性モル質量分布または多峰性モル質量分布を有する。好ましくは、ポリヒドロキシカルボン酸は1〜200kDaの範囲内のモル質量を有する第1のフラクションと200kDaを上回るモル質量を有する第2のフラクションとを少なくとも含む。より好ましくは、第2のフラクションは200〜1500kDaの範囲内のモル質量を有する。
【0072】
一実施形態において、ポリヒドロキシカルボン酸は、すでに上述した理由のためにポリ乳酸である。
【0073】
すでに前述したように、高分子量ポリヒドロキシカルボン酸は、二峰性モル質量分布を有するポリヒドロキシカルボン酸の連結によって得られる。ポリヒドロキシカルボン酸は、連結反応を用いて高分子量ポリヒドロキシカルボン酸を容易に得るために有利に用いることができる前例のない高分子量フラクションを含む。
【0074】
カルボン酸末端基および/またはヒドロキシル末端基を有するポリマーを互いに連結できる方法は当該技術分野で周知である。例えば、ヒドロキシル基(例えば、酸無水物、イソシアネート)またはカルボン酸基(例えば、エポキシド、オキサゾリン)のいずれかと反応性の化合物を利用することにより鎖伸長を行うことが可能である。連結のもう1つの方法は、例えば、有機過酸化物または他の開始剤によるラジカル誘導反応を含む。
【0075】
なお更なる態様において、本発明は、射出成形品またはインフレートフィルムを調製する方法であって、本発明によるポリヒドロキシカルボン酸を用いることを特徴とする方法にも関連する。二峰性モル質量分布または多峰性モル質量分布を有するこうしたポリマーは、こうした用途のために特に適する場合がある。
【0076】
一実施形態において、本発明によるポリヒドロキシカルボン酸は、ポリマーブレンド、複合材料またはナノ複合材料を調製するために用いられる。
【0077】
充填剤、強化剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤、安定剤、着色剤、難燃剤、粘着防止剤および開始剤または上で開示された用途のために一般に用いられる他の添加剤からなる群から選択された1種以上の添加剤と組み合わせてポリヒドロキシカルボン酸を用いることが好ましい。
【0078】
これより、以下の実施例および図によって本発明を更に説明するが、これらは決して本発明の範囲を限定すると解釈されるものではない。
【実施例】
【0079】
実施例1.分子量に及ぼす芳香族ジオールの効果
量800gのL−乳酸を100℃および50ミリバールで一晩乾燥させた。次に、最初にほぼ800ミリバールに圧力を調節し、その後、10℃/15分で温度を上げることにより重縮合反応を開始した。反応の始めに、1gのオクタン酸錫および0.5gの2−ヒドロキシフェネチルアルコールを添加した。最終温度は200℃であった。最終温度に達したとき、圧力を20ミリバールに徐々に低下させ、重縮合を16時間にわたり続けた。同じ条件で同じ方法によるが、しかし、脂肪族ジオール(ブタンジオール)の存在下でさらなる重合も行った。反応が完了した後、反応混合物を室温に冷却し、固体黄色ポリ乳酸を集め、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって特性分析した。
【0080】
「ファーマシア(Pharmacia)」LKB−HPLCポンプ2248、TSK−ゲルG3000、G2500およびG1500HXLカラムならびにLKB2142RI検出器に基づくシステムを用いることによりゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)測定を行った。単分散ポリスチレン標準を較正のために用いた。サンプルの濃度は、GPCシステムにおける移動相としても用いたTHF中で約1.5〜2mg/mlであった。
【0081】
GPCスペクトルは、2000〜20000g/モルのモル質量(M)に対応する脂肪族ジオールの存在下で調製された生成物(図1のピークa)と比較して、芳香族ジオールの存在下で調製された重合生成物に関して追加のピーク(図1のピークb)を示した。追加のピークは有意な大きさのピークであり、そのフラクションに関して数十万g/モル(Da)の分子量を表している。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】脂肪族ジオールの存在下で調製されたポリ乳酸(上の線)に対する芳香族ジオールの存在下で本発明による方法によって調製されている二峰性モル質量分布を有するポリ乳酸(下の線)のGPCクロマトグラムを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜200kDaの範囲内のモル質量を有する第1のフラクションと200kDaを上回るモル質量を有する第2のフラクションとを少なくとも含む、二峰性モル質量分布または多峰性モル質量分布を有するポリヒドロキシカルボン酸。
【請求項2】
前記第2のフラクションが200〜1500kDaの範囲内のモル質量を有する、請求項1に記載のポリヒドロキシカルボン酸。
【請求項3】
触媒および芳香族ジオールの存在下でヒドロキシカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸の環式(ジ)エステルを重合に供する工程を含むポリヒドロキシカルボン酸を調製する方法であって、
前記芳香族ジオールが単一ベンゼン環を有することを特徴とする、方法。
【請求項4】
前記ポリヒドロキシカルボン酸が二峰性モル質量分布または多峰性モル質量分布を有するポリヒドロキシカルボン酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリヒドロキシカルボン酸が少なくとも第1のフラクションと第2のフラクションとを含み、前記フラクションが1〜1500kDaの範囲内のモル質量を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリヒドロキシカルボン酸が1〜200kDaの範囲内のモル質量を有する第1のフラクションと200kDaを上回るモル質量を有する第2のフラクションとを少なくとも含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記第2のフラクションが200〜1500kDaの範囲内のモル質量を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記重合が重縮合である、請求項3〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
重合が2つの工程で起き、1つの工程は重縮合であり、1つの工程は開環重合である、請求項3〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記芳香族ジオールが、以下の構造
【化1】

(式中、RおよびRは脂肪族置換基である)
を有する、請求項3〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記芳香族ジオールが、以下の構造
【化2】

(式中、nは0または1から選択された整数であり、mは0、1または2から選択された整数である)
を有する、請求項3〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒドロキシカルボン酸が、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸およびヒドロキシカプロン酸からなる群の1種以上から選択される、請求項3〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ヒドロキシカルボン酸の環式(ジ)エステルが、ラクチド、グリコリド、マンデリド、ε−カプロラクトン、ブチロラクトンおよびバレロラクトンからなる群の1種以上から選択される、請求項3〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ヒドロキシカルボン酸が乳酸であり、および/または前記ヒドロキシカルボン酸の環式(ジ)エステルがラクチドである、請求項3〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記重縮合がi)プレメルト重縮合、ii)メルト重縮合およびiii)固相重縮合の工程を含む、請求項8〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
重縮合に先だって、前記ヒドロキシカルボン酸を処理して自由水(free water)を除去する、請求項8〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記重合が真空条件下で少なくとも部分的に行われる、請求項3〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記重合がニーダー内、押出機内、スタチックミキサ内、管状反応器内または加熱容器内で少なくとも部分的に行われる、請求項3〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記重合が不活性雰囲気内で少なくとも部分的に行われる、請求項3〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
ポリヒドロキシカルボン酸の調製のための単一ベンゼン環を有する芳香族ジオールの使用。
【請求項21】
前記芳香族ジオールが、以下の構造
【化3】

(式中、RおよびRは脂肪族置換基である)
を有する、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記芳香族ジオールが、以下の構造
【化4】

(式中、nは0または1から選択された整数であり、mは0、1または2から選択された整数である)
を有する、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記ポリヒドロキシカルボン酸が二峰性モル質量分布または多峰性モル質量分布を有する、請求項20〜22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
前記二峰性モル質量分布または多峰性モル質量分布が1〜200kDaの範囲内のモル質量を有する第1のフラクションと200kDaを上回るモル質量を有する第2のフラクションとを少なくとも示す、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
前記ポリヒドロキシカルボン酸がポリ乳酸である、請求項20〜24のいずれか一項に記載の使用。
【請求項26】
二峰性モル質量分布を有する前記ポリヒドロキシカルボン酸の架橋によって高分子量ポリヒドロキシカルボン酸を得る、請求項20〜25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
射出成形品またはインフレートフィルムを調製する方法であって、
請求項1または2のいずれかに記載のポリヒドロキシカルボン酸または請求項3〜19に記載の方法によって調製されたポリヒドロキシカルボン酸を用いることを特徴とする、方法。
【請求項28】
ポリマーブレンド、複合材料またはナノ複合材料を調製する方法であって、
請求項1または2のいずれかに記載のポリヒドロキシカルボン酸または請求項3〜19に記載の方法によって調製されたポリヒドロキシカルボン酸を用いることを特徴とする、方法。
【請求項29】
充填剤、強化剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤、安定剤、着色剤、難燃剤、粘着防止剤および開始剤からなる群から選択された1種以上の添加剤と組み合わせて前記ポリヒドロキシカルボン酸を用いることを特徴とする、請求項27または28のいずれかに記載の方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2009−510212(P2009−510212A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533266(P2008−533266)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【国際出願番号】PCT/NL2005/000699
【国際公開番号】WO2007/037673
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(504337372)テート アンド ライル パブリック リミテッド カンパニー (5)
【Fターム(参考)】