説明

ポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法

【課題】 高分子量かつ高融点を有するポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成するポリ乳酸ブロック共重合体が容易に得られる製造方法を提供する。
【解決手段】 (1)それぞれの重量平均分子量が9000〜65000を満たすL−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸およびD−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸をそれぞれ製造する第1工程、(2)前記第1工程で得たポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合する第2工程、および(3)前記第2工程で得たポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物を、その融点よりも低い温度、かつ、120℃以上で固相重合する第3工程からなることを特徴とするポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子量かつ高融点を有するポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成するポリ乳酸ブロック共重合体を容易に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、地球環境保全の見地から、土中や水中に存在する微生物の作用により自然環境下で分解される生分解性ポリマーが注目されており、様々な生分解性ポリマーが開発されている。これらのうち溶融成形が可能な生分解性ポリマーとして、例えばポリヒドロキシブチレートやポリカプロラクトン、コハク酸やアジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールやブタンジオールなどのグリコール成分とからなる脂肪族ポリエステルおよびポリ乳酸などがよく知られている。
【0003】
なかでもポリ乳酸は、比較的コストが安く、融点もおよそ170℃と耐熱性を有していることから、溶融成形可能な生分解性ポリマ−として期待されている。また、最近ではモノマーである乳酸が微生物を利用した発酵法により安価に製造されるようになり、より一層低コストでポリ乳酸を生産できるようになってきたため、生分解性ポリマーとしてだけでなく、汎用ポリマーとしての利用も検討されるようになってきた。
【0004】
さらに、ポリ−L−乳酸(以下、PLLAと称する)とポリ−D−乳酸(以下、PDLAと称する)を混合することにより、ポリ乳酸ステレオコンプレックスが得られることが知られており、このことについては特許文献1、特許文献2、非特許文献1および特許文献3などに記載されている。そして、ポリ乳酸ステレオコンプレックスは、高融点および高結晶性を示し、繊維やフィルム、樹脂成形品として有用な成形品を与えることが知られている。
【0005】
しかし、特許文献1、特許文献2、非特許文献1および特許文献3などに記載の方法でポリ乳酸ステレオコンプレックスを得るにためは、溶液状態または溶融状態でPLLAとPDLAを混合して作製する必要がある。
【0006】
しかしながら、PLLAとPDLAを溶液状態で混合する場合には、混合後に溶剤を揮発させる必要があることから、製造工程が煩雑になりコストアップにつながるという問題があった。
【0007】
また、PLLAとPDLAを溶融状態で混合する場合には、ポリ乳酸ステレオコンプレックスが十分に溶融する温度で混合する必要があり、そのような温度ではポリ乳酸の分解反応も同時に発生するため、成形品として用いる際には、物性の低下を招くという問題があった。
【0008】
また、成形品としての実用的な強度を達成するためには高分子量のポリ乳酸を用いることが好ましいが、非特許文献1には、PLLAとPDLAのそれぞれの分子量が、高分子量、特に10万以上の高分子量ポリ乳酸の組み合わせからは、ポリ乳酸ステレオコンプレックスが得られにくいと記載されており、高分子量ポリ乳酸の組み合わせからポリ乳酸ステレオコンプレックスを得るためには、溶液状態で混合する場合には、混合溶液を溶液状態で長期間にわたって保持する必要があり、また溶融状態で混合する場合には、長時間の混練を行う必要があることから、生産性に問題があった。さらに、これらの方法で得たポリ乳酸ステレオコンプレックスは、溶融処理を行うたびに、融点が著しく降下してしまうという問題があった。
【特許文献1】特開昭61−36321号公報
【特許文献2】特開昭63−241024号公報
【特許文献3】特開平2000−17163号公報
【非特許文献1】Macromolecules,24,5651(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、その目的とするところは、高分子量かつ高融点を有するポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成するポリ乳酸ブロック共重合体を容易に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、高融点を有するポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成するポリ乳酸ブロック共重合体を容易に得られる製造方法を見出し、本発明に至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明のポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法は次の(i)〜 (iv)の4方法がある。
(i)(1)それぞれの重量平均分子量が9000〜65000を満たすL−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸およびD−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸をそれぞれ製造する第1工程、(2)前記第1工程で得たポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合する第2工程、および(3)前記第2工程で得たポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物を、その融点よりも低い温度、かつ、120℃以上で固相重合する第3工程からなることを特徴とするポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。
(ii) (1)L−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸およびD−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸をそれぞれ製造する第1工程、(2)前記第1工程で得たポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合し、ステレオコンプレックスを形成させる第2工程、および(3)前記第2工程で得たポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物を、その融点よりも低い温度、かつ、120℃以上で固相重合する第3工程からなることを特徴とするポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。
(iii) (1)それぞれの重量平均分子量が9000〜65000を満たすL−乳酸またはD−乳酸単位からなるポリマー(A)を製造する第1工程、(2)前記第1工程で得たポリマー(A)に対して、このポリマー(A)のモノマー単位の対掌体単位をモノマー単位とするセグメントを結合させたポリマー(B)を製造する第2工程、および(3)前記第2工程で得たポリマー(B)を、その融点よりも低い温度、かつ、120℃以上で固相重合する第3工程からなり、第3工程の固相重合の温度を段階的に上げることを特徴とするポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。
(iv) (1)L−乳酸またはD−乳酸単位からなるポリマー(A)を製造する第1工程、(2)前記第1工程で得たポリマー(A)に対して、このポリマー(A)のモノマー単位の対掌体単位をモノマー単位とするセグメントを結合させたポリマー(B)を製造し、ステレオコンプレックスを形成させる第2工程、および(3)前記第2工程で得たポリマー(B)を、その融点よりも低い温度、かつ、120℃以上で固相重合する第3工程からなり、第3工程の固相重合の温度を段階的に上げることを特徴とするポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高分子量かつ高融点を有するポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成するポリ乳酸ブロック共重合体を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明において、ポリ乳酸ブロック共重合体とは、L−乳酸単位からなるセグメントとD−乳酸単位からなるセグメントにより構成されるポリ乳酸ブロック共重合体である。
【0015】
ここで、L−乳酸単位からなるセグメントとは、L−乳酸を主成分とする重合体であり、L−乳酸単位を90モル%以上含有していることが好ましく、さらには95モル%以上含有していることが好ましい。
【0016】
また、D−乳酸単位からなるセグメントとは、D−乳酸を主成分とする重合体であり、D−乳酸単位を90モル%以上含有していることが好ましく、さらには95モル%以上含有していることが好ましい。
【0017】
本発明において、L−乳酸またはD−乳酸単位からなるセグメントは、得られるポリ乳酸ブロック共重合体の性能を損なわない範囲で、他の成分単位を含んでいてもよい。L−乳酸またはD−乳酸単位以外の他の成分単位としては、多価カルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトンなどが挙げられ、具体的には、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸などの多価カルボン酸類またはそれらの誘導体、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ビスフェノールにエチレンオキシドを付加反応させた芳香族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの多価アルコール類またはそれらの誘導体、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類、およびグリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトンなどのラクトン類などが挙げられる。
【0018】
本発明の方法により得られるポリ乳酸ブロック共重合体の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、10万以上であることが、機械物性の点で好ましい。特に、10万以上120万以下であることが、成形性および機械物性の点でより好ましい。なお、重量平均分子量とは、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量の値である。
【0019】
さらに、本発明においては、ポリ乳酸ブロック共重合体一分子あたりに含まれるL−乳酸単位からなるセグメントおよびD−乳酸単位からなるセグメントの合計数が3以上であることが、高融点のポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成しやすいポリ乳酸ブロック共重合体が得られる点で好ましい。
【0020】
本発明において、L−乳酸単位からなるセグメントとD−乳酸単位からなるセグメントのそれぞれの合計の重量比は、90:10〜10:90であることが好ましく、さらに75:25〜25:75であることがより好ましく、特に60:40〜40:60であることが最も好ましい。L−乳酸単位からなるセグメントの重量比がそれぞれ10重量部未満であるか、あるいは90重量部を越えると、得られるポリ乳酸ブロック共重合体の融点の上昇が小さくなり、ポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成しにくくなる傾向を生じる。
【0021】
本発明において、ポリ乳酸ブロック共重合体を製造するための第1の方法は、(1)L−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸およびD−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸をそれぞれ製造する第1工程、
(2)前記第1工程で得られたポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合する第2工程、および
(3)前記第2工程で得たポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物をその融点より低い温度で固相重合する第3工程からなる。
【0022】
まず、(1)L−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸およびD−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸をそれぞれ製造する第1工程について説明する。
【0023】
この第1工程を実施する方法としては、特に限定されるものではなく、一般のポリ乳酸の製造方法を利用することができる。具体的には、L−乳酸またはD−乳酸を原料として、一旦、環状2量体であるL−ラクチドまたはD−ラクチドを生成せしめ、その後、開環重合を行う2段階のラクチド法と、当該原料を溶媒中で直接脱水縮合を行う一段階の直接重合法などが知られており、いずれの製法を利用してもよい。また、L−乳酸およびD−乳酸の等量混合物であるラセミ体を原料として、立体選択的重合を行う方法においては、上記第2工程を省略することができるため好ましい。
【0024】
また、重合反応に触媒を用いることにより、重合時間を短縮することができる。重合触媒としては、例えば、錫、亜鉛、鉛、チタン、ビスマス、ジルコニウム、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウムなどの金属およびその誘導体が挙げられる。誘導体としては、金属アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、酸化物およびハロゲン化物などが好ましい。具体的には、塩化錫、オクチル酸錫、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、酸化鉛、炭酸鉛、塩化チタン、アルコキシチタン、酸化ゲルマニウムおよび酸化ジルコニウムなどが挙げられる。これらの中でも、錫化合物が好ましく、特にオクチル酸錫がより好ましい。
【0025】
重合触媒の添加量については特に限定されるものではなく、使用する原料(L−乳酸、D−乳酸、L−ラクチドまたはD−ラクチドなど)100重量部に対して0.001重量部以上、2重量部以下が好ましく、とくに0.001重量部以上、1重量部以下がより好ましい。触媒量が0.001重量部未満では重合時間の短縮効果が低下し、2重量部を越えると最終的に得られるポリ乳酸ブロック共重合体の分子量が大きくなりにくい傾向を生じる。
【0026】
この第1工程を実施する方法としては、回分法でも連続法でもよく、また、反応容器は特に限定されるものではなく、例えば、撹拌槽型反応器、ミキサー型反応器、塔型反応器および押出機型反応器などを用いることができ、これらの反応器は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0027】
また、この第1工程を実施する際の温度条件については、特に限定されるものではなく、100℃以上、250℃以下の範囲にあることが好ましく、特に120℃以上、230℃以下の範囲にあることがより好ましい。なお、溶融状態で反応を行う場合には、ポリマーを溶融させるために、ポリマーの融点以上で反応させることが好ましいが、分解反応を抑制するという点では、反応物が固まらない程度にできる限り温度を下げて反応を行うことが好ましい。
【0028】
一方、溶媒中で反応を行う場合には、ポリマーおよびモノマーが溶解する溶媒を用いる。溶媒としては、たとえば、クロロホルム、塩化メチレンおよびアセトニトリルなどを用いることができる。反応後に溶媒を除去する必要がある場合に溶媒を除去する方法としては、特に限定されるものではなく、たとえば室温で溶媒を揮発させる方法、および減圧下で溶媒の沸点以上の温度で溶媒を揮発させる方法などを用いることができる。
【0029】
また、この第1工程を実施する際の圧力条件については特に限定されるものではなく、減圧、常圧または加圧のいずれの条件でもよい。
【0030】
なお、反応系内をできる限り乾燥状態にすることが好ましく、原料であるL−乳酸類などを乾燥することや、乾燥窒素などの不活性気体雰囲気下で反応を行うことなどが、最終的に得られるポリ乳酸ブロック共重合体の高分子量化にとって有効である。
【0031】
反応終了後に、L−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸およびD−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸を、それぞれ反応容器から取り出す方法については特に限定されるものではなく、低粘度の場合には、窒素などの不活性気体による押出により取り出す方法が、高粘度の場合には、ギヤポンプなどで取り出す方法などが、それぞれ代表例として挙げられる。
【0032】
次に、(2)ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合する第2工程について説明する。
【0033】
この第2工程を実施する方法については特に限定されるものではなく、例えば、融点以上で溶融混練する方法、および溶媒中で混合した後に溶媒を除く方法などが挙げられるが、効率的に混合できるという観点においては、融点以上で溶融混練する方法が好ましい。
【0034】
融点以上で溶融混練する方法としては、回分法でも連続法でもよく、また、装置としては、特に限定されるものではなく、例えば一軸押出機、二軸押出機、プラストミル、ニーダーおよび減圧装置付き撹拌槽型反応器などが挙げられ、均一かつ十分に混練できるという観点においては、一軸押出機または二軸押出機を用いることが好ましい。
【0035】
溶融混練する温度条件としては、140℃以上、250℃以下が好ましく、180℃以上、230℃以下がより好ましい。
【0036】
溶融混練する圧力条件については特に限定されるものではなく、減圧、常圧または加圧のいずれの条件でもよいが、溶融混練時に発生するガスを除去できるという観点においては、減圧で行うことが好ましい。
【0037】
溶融混練する雰囲気条件としては、特に限定されるものではなく、大気雰囲気下または窒素などの不活性気体雰囲気下のいずれの条件でもよいが、溶融混練時に発生するガスを抑制できるという観点においては、不活性気体雰囲気下で行うことが好ましい。
【0038】
溶媒中で混合する場合には、ポリマーおよびモノマーが溶解する溶媒を用いる。溶媒としては、たとえば、クロロホルム、塩化メチレンおよびアセトニトリルなどを用いることができる。混合後に溶媒を除去する必要がある場合に溶媒を除去する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、室温で溶媒を揮発させる方法および減圧下で溶媒の沸点以上の温度で溶媒を揮発させる方法などを用いることができる。
【0039】
この第2工程において、L−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸とD−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸の混合重量比は、90:10〜10:90であることが好ましく、さらに75:25〜25:75であることがより好ましく、特に60:40〜40:60であることが最も好ましい。L−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸の重量比がそれぞれ10重量部未満であるか、あるいは90重量部を越えると、最終的に得られるポリ乳酸ブロック共重合体の融点の上昇が小さくなり、ポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成しにくくなる傾向を生じる。
【0040】
この第2工程において、重合反応時に用いる触媒を添加することは、次の第3工程で行う固相重合を効率的に進めるために好ましい。
【0041】
触媒の添加量は、特に限定されるものではなく、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物100重量部に対して0.001重量部以上、2重量部以下が好ましく、とくに0.001重量部以上、1重量部以下がより好ましい。触媒量が0.001重量部未満では、次の第3工程で行う固相重合の反応時間短縮効果が低下し、2重量部を越えると最終的に得られるポリ乳酸ブロック共重合体の分子量が大きくなりにくい傾向を生じる。
【0042】
また、この第2工程においては、最終的に得られるポリ乳酸ブロック共重合体のL−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸(L−乳酸単位からなるセグメント)と、D−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸(D−乳酸単位からなるセグメント)との交互性を高めるために、多官能性化合物を混合してもよい。
【0043】
ここで使用する多官能性化合物としては、特に限定されるものではなく、多価カルボン酸無水物、多価カルボン酸ハロゲン化物、多価カルボン酸、多価イソシアネート、多価アミン、多価アルコールおよび多価エポキシ化合物などが挙げられ、具体的には、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、コハク酸無水物、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物、1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物、ピロメリット酸無水物などの多価カルボン酸無水物、イソフタル酸クロリド、テレフタル酸クロリド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロリドなどの多価カルボン酸ハロゲン化物、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの多価カルボン酸、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエン−2,4−ジイソシアネートなどの多価イソシアネート、エチレンジアミン、ヘキサンジアミン、ジエチレントリアミンなどの多価アミン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコール、およびテレフタル酸ジグリシジルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステル、ピロメリット酸テトラグリシジルエステル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどの多価エポキシ化合物などが挙げられる。好ましくは、多価カルボン酸無水物、多価イソシアネート、多価アルコールおよび多価エポキシ化合物であり、特に多価カルボン酸無水物、多価イソシアネートおよび多価エポキシ化合物がより好ましい。また、これらは1種または2種以上を併用して使用することができる。
【0044】
多官能性化合物の混合量については特に限定されるものではなく、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸の合計100重量部に対して、0.01重量部以上、20重量部以下が好ましく、さらに0.1重量部以上、10重量部以下であることがより好ましい。多官能性化合物の添加量が多すぎても、あるいは少なすぎても、多官能性化合物を使用する効果が小さくなる傾向となる。
【0045】
さらに、多官能性化合物を用いる際には、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸と多官能性化合物の反応を促進させるために、触媒を添加してもよい。触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、水素化ほう素ナトリウム、水素化ほう素リチウム、フェニル化ほう素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、りん酸水素二ナトリウム、りん酸水素二カリウム、りん酸水素二リチウム、ビスフェノールAの二ナトリウム塩、同二カリウム塩、同二リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、同カリウム塩、同リチウム塩、同セシウム塩などのアルカリ金属化合物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属化合物、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリアミルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリエチレンジアミン、ジメチルフェニルアミン、ジメチルベンジルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルアニリン、ピリジン、ピコリン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7などの3級アミン、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、4−フェニル−2−メチルイミダゾールなどのイミダゾール化合物、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、トリプロピルベンジルアンモニウムクロライド、N−メチルピリジニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィンなどのホスフィン化合物、テトラメチルホスホニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、エチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、トリフェニルベンジルホスホニウムブロマイドなどのホスホニウム塩、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリ(p−ヒドロキシ)フェニルホスフェート、トリ(p−メトキシ)フェニルホスフェートなどのリン酸エステル、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸などの有機酸、および三フッ化ホウ素、四塩化アルミニウム、四塩化チタン、四塩化スズなどのルイス酸などが挙げられ、これらは1種または2種以上を併用して使用することができる。
【0046】
触媒の添加量は特に限定されるものではなく、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸の合計100重量部に対して、0.001重量部以上、1重量部以下が好ましい。触媒量が0.001重量部未満では、触媒を添加する効果が不充分であり、逆に1重量部を越えると、最終的に得られるポリ乳酸ブロック共重合体の分子量が大きくなりにくい傾向を生じる。
【0047】
次に、(3)ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物をその融点より低い温度で固相重合する第3工程について説明する。
【0048】
この第3工程を実施する際には、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物の形状は、特に限定されるものではなく、塊状、フィルム、ペレットおよび粉末などいずれでもよいが、固相重合を効率的に進めるという観点においては、ペレットまたは粉末を用いることが好ましい。ペレットにする方法としては、混合物を溶融状態にした後、ストランド状に押出し、ストランドカッターでペレタイズする方法が挙げられる。また、粉末にする方法としては、ミキサー、ブレンダー、ボールミルおよびハンマーミルなどの粉砕機を用いて粉砕する方法が挙げられる。 この第3工程を実施する方法については特に限定されるものではなく、回分法でも連続法でもよく、また、反応容器は、撹拌槽型反応器、ミキサー型反応器および塔型反応器などを用いることができ、これらの反応器は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0049】
この第3工程を実施する際には、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物が結晶化していることが好ましい。
【0050】
結晶化させる方法については特に限定されるものではなく、公知の方法を利用することができる。例えば、気相中または液相中において結晶化温度で保持する方法、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の溶液混合物から溶媒を揮発させる方法およびポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の溶融混合物を延伸または剪断の操作を行いながら冷却固化させる方法などが挙げられ、操作が簡便であるという観点においては、気相中または液相中において結晶化温度で保持する方法が好ましい。
【0051】
ここでいう結晶化温度とは、ガラス転移温度より高く、融点よりも低い温度範囲であれば特に限定されるものではないが、予め示差走査型熱量計(DSC)により測定した昇温結晶化温度および降温結晶化温度の範囲内であることがより好ましい。
【0052】
結晶化させる際には、減圧、常圧または加圧のいずれの条件でもよい。
【0053】
また、結晶化させる際の時間については特に限定されるものではないが、3時間以内であれば十分に結晶化されており、2時間以内でも好ましい。
【0054】
この第3工程を実施する際の温度条件としては、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物の融点以下の温度であり、具体的には、100℃以上、220℃以下が好ましく、さらに固相重合を効率的に進めるという観点においては、110℃以上、210℃以下であることがより好ましく、さらには、120℃以上、200℃以下であることが最も好ましい。また、固相重合の反応時間を短縮するために、反応の進行とともに温度を段階的に上げてもよい。
【0055】
また、この第3工程を実施する際には、真空下または乾燥窒素などの不活性気体気流下で行うことが好ましい。
【0056】
上述した(1)〜(3)までの工程は、連続的に行ってもよく、またそれぞれの工程を回分的に行ってもよい。
【0057】
次に、本発明において、ポリ乳酸ブロック共重合体を製造するための第2の方法は、(1)L−乳酸またはD−乳酸単位からなるポリマー(A)を製造する第1工程、(2)前記第1工程で得たポリマー(A)に対して、このポリマー(A)のモノマー単位の対掌体単位をモノマー単位とするセグメントを結合させたポリマー(B)を製造する第2工程、および(3)前記第2工程で得たポリマー(B)を、その融点よりも低い温度で固相重合する第3工程からなる。
【0058】
この第2の方法における第1工程および第3工程については、上述した第1の方法とほとんど重複するので、ここにおいては、(2)前記ポリマー(A)に対して、ポリマー(A)のモノマー単位の対掌体単位をモノマー単位とするセグメントを結合させたポリマー(B)を製造する第2工程について詳述する。
【0059】
この第2工程を実施する方法については特に限定されるものではなく、例えば、ポリマー(A)の存在下で、ポリマー(A)に結合させるセグメントを形成するモノマーを一般のポリ乳酸の製造方法を利用して重合することにより製造することができる。また、触媒を用いることにより、重合時間を短縮することができる。なお、この方法においては、ポリマー(A)が重合開始剤として働いて重合が進行する。
【0060】
ポリマー(A)と重合させるモノマーの重量比は、90:10〜10:90であることが好ましく、さらに75:25〜25:75であることがより好ましく、特に60:40〜40:60であることが最も好ましい。ポリマー(A)の重量比が、10重量未満であるか、あるいは90重量を越えると、最終的に得られるポリ乳酸ブロック共重合体の融点の上昇が小さくなり、ポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成しにくくなる傾向を生じる。
【0061】
第2工程において、重合反応時に用いる触媒を添加することは、次の第3工程で行う固相重合を効率的に進めるために好ましい。
【0062】
触媒の添加量は、特に限定されるものではなく、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物100重量部に対して0.001重量部以上、2重量部以下が好ましく、とくに0.001重量部以上、1重量部以下がより好ましい。触媒量が0.001重量部未満では、次の第3工程で行う固相重合の反応時間短縮効果が低下し、2重量部を越えると最終的に得られるポリ乳酸ブロック共重合体の分子量が大きくなりにくい傾向となる。
【0063】
上述した(1)〜(3)までの工程は、連続的に行ってもよく、また、それぞれの工程を回分的に行ってもよい。
【0064】
本発明の製造方法により得られるポリ乳酸ブロック共重合体には、本発明の目的を損なわない範囲で、通常の添加剤、例えば、充填剤(ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、天然繊維、有機繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、セラミックスファイバー、セラミックビーズ、アスベスト、ワラステナイト、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、モンモリロナイト、合成マイカ、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、石膏、ノバキュライト、ドーソナイトまたは白土など)、紫外線吸収剤(レゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、熱安定剤(ヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、滑剤、離形剤(モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料(ニグロシンなど)および顔料(硫化カドミウム、フタロシアニンなど)を含む着色剤、着色防止剤(亜リン酸塩、次亜リン酸塩など)、難燃剤(赤燐、燐酸エステル、ブロム化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、水酸化マグネシウム、メラミンおよびシアヌール酸またはその塩など)、導電剤あるいは着色剤(カーボンブラックなど)、摺動性改良剤(グラファイト、フッ素樹脂など)、結晶核剤(タルク、有機カルボン酸金属塩など)、帯電防止剤などの1種または2種以上を添加することができる。
【0065】
また、本発明の製造方法により得られるポリ乳酸ブロック共重合体には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミドなど)または熱硬化性樹脂(例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂など)または軟質熱可塑性樹脂(例えば、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、エチレン/プロピレンターポリマー、エチレン/ブテン−1共重合体など)などの少なくとも1種以上をさらに含有することができる。
【0066】
本発明の製造方法により得られるポリ乳酸ブロック共重合体は、成形品などに加工する際に、一旦熱溶融させて固化した後も、高融点のポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成しやすい。
【0067】
本発明の製造方法により得られるポリ乳酸ブロック共重合体は、成形品として広く用いることができる。成形品としては、例えば、フィルム、シート、繊維・布、不織布、射出成形品、押出し成形品、真空圧空成形品、ブロー成形品、および他の材料との複合体などが挙げられ、これらの成形品は、農業用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、文具、医療用品、自動車用部品、電気・電子部品またはその他の用途として有用である。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ここで、実施例中の部数は、重量部を示す。
【0069】
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した標準ポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量の値である。GPCの測定は、検出器にWATERS社示差屈折計WATERS410を用い、ポンプにMODEL510高速液体クロマトグラフィーを用い、カラムにShodex GPC HFIP−806MとShodex GPC HFIP−LGを直列に接続したものを用いて行った。測定条件は、流速0.5mL/minとし、溶媒にヘキサフルオロイソプロパノールを用い、試料濃度1mg/mLの溶液を0.1mL注入した。
【0070】
融点は、示差走査型熱量計(DSC)により測定した値であり、測定条件は、試料10mg、窒素雰囲気下中、昇温速度20℃/分である。得られた結果において、融点の上昇(高融点化)が見られたものは、ポリ乳酸ステレオコンプレックスが形成されたものと判断し、融点が変わらないものについては、ポリ乳酸ステレオコンプレックスが形成されなかったものと判断した。また、結晶融解エンタルピーの大きさにより、ポリ乳酸ステレオコンプレックスの形成量を判断した。すなわち、高融点化し、かつ結晶融解エンタルピーが20J/g以上(この融点ピークをLPとする)であれば、ポリ乳酸ステレオコンプレックスの形成量が多いと判断した。一方、高融点化しても、その結晶融解エンタルピーが5J/g以下のピーク(この融点ピークをSPとする)であれば、ポリ乳酸ステレオコンプレックスの形成量は少なく、実質的にポリ乳酸ステレオコンプレックスは形成されていないと判断した。
【0071】
[実施例1]
(1)ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸をそれぞれ製造する第1工程
L−ラクチド50部を撹拌装置のついた反応容器中で、窒素雰囲気下、120℃で均一に溶解させた後、温度を150℃にし、オクチル酸錫0.05部を加え、30分間重合反応させることにより、L−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸(P11)を得た。
【0072】
次に、D−ラクチド50部を撹拌装置のついた反応容器中で、窒素雰囲気下、120℃で均一に溶解させた後、温度を150℃にし、オクチル酸錫0.05部を加え、30分間重合反応させることにより、D−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸(P12)を得た。
【0073】
(2)ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合する第2工程
P11:25部、P12:25部およびオクチル酸錫:0.05部をベント付き二軸押出機を用いて、減圧下、220℃で溶融混練(滞留時間2分)し、ストランドカッターでペレタイズすることにより、P11とP12の混合物からなるペレット(P13)を得た。
【0074】
(3)ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物を固相重合する第3工程
P13を真空乾燥機に入れ、13.3Pa、140℃で20時間、180℃で30時間反応させたポリマー(P14)を、250℃で5分間プレスし、厚み約0.1mmのフィルム(P15)を得た。
【0075】
上記で得られたそれぞれのポリマー、固相重合後のペレットおよびフィルムについて、GPCおよびDSCを測定した結果を表1に示す。
【0076】
[実施例2]
(1)ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸をそれぞれ製造する第1工程
L−ラクチド50部を撹拌装置のついた反応容器中で、窒素雰囲気下、120℃で均一に溶解させた後、温度を150℃にし、オクチル酸錫0.05部を加え、30分間重合反応させることにより、L−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸(P21)を得た。
【0077】
次に、D−ラクチド50部を撹拌装置のついた反応容器中で、窒素雰囲気下、120℃で均一に溶解させた後、温度を150℃にし、オクチル酸錫0.05部を加え、30分間重合反応させることにより、D−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸(P22)を得た。
【0078】
(2)ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合する第2工程
P21:25部およびP22:25部を撹拌装置のついた反応容器中で、窒素雰囲気下、250℃で均一に溶解させた後、コハク酸無水物:2部を加え5分間撹拌した後、テレフタル酸ジグリシジルエステル:3部およびトリフェニルホスフェート:0.1部を順に加え、2時間反応させ、最後にオクチル酸錫:0.05部を加えた。得られた混合物を冷却固化させた後、ミキサーで粉砕することにより、P21とP22の混合物からなる粉末(P23)を得た。
【0079】
(3)ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物を固相重合する第3工程
P23を真空乾燥機に入れ、13.3Paで、140℃で20時間、180℃で30時間反応させたポリマー(P24)を、250℃で5分間プレスし、厚み約0.1mmのフィルム(P25)を得た。
【0080】
上記で得られたそれぞれのポリマー、固相重合後のペレットおよびフィルムについて、GPCおよびDSCを測定した結果を表1に示す。
【0081】
[実施例3]
(1)ポリ−D−乳酸(ポリマー(A))を製造する第1工程
D−ラクチド50部を撹拌装置のついた反応容器中で、窒素雰囲気下、120℃で均一に溶解させた後、温度を150℃にし、オクチル酸錫0.05部を加え、45分間重合反応させた。重合反応終了後、反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノール(クロロホルムの10倍量)中で撹拌しながら沈殿させ、モノマーを完全に除去することにより、D−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸(ポリマー(A);P31)を得た。
【0082】
(2)ポリ−D−乳酸(ポリマー(A))に対して、L−乳酸単位からなるセグメントを結合させたポリマー(B)を製造する第2工程
L−ラクチド20部および上記で得たP31:20部を、撹拌装置のついた反応容器中で、窒素雰囲気下、250℃で均一に溶解させた後、オクチル酸錫0.05部を加え、2時間重合反応させることにより、ポリ−D−乳酸(ポリマー(A))に対して、L−乳酸単位からなるセグメントを結合させたポリマー(B)(P32)を得た。
【0083】
(3)ポリマー(B)を固相重合する第3工程
P32を真空乾燥機に入れ、13.3Paで、140℃で20時間、180℃で30時間反応させたポリマー(P33)を、250℃で5分間プレスすることにより、厚み約0.1mmのフィルム(P34)を得た。
【0084】
上記で得られたそれぞれのポリマー、固相重合後のペレットおよびフィルムについて、GPCおよびDSCを測定した結果を表1に示す。
【0085】
[実施例4]
(1)ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸をそれぞれ製造する第1工程
撹拌装置のついた反応容器中に、L−乳酸50部およびジフェニルエーテル30部を入れ、温度を160℃にした後、減圧して水を除去した。その後、窒素雰囲気下で常圧にし、塩化第一錫0.05部を加え、13.3Paになるまで徐々に減圧しながら、10時間重合反応させることにより、L−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸(P41)を得た。
【0086】
撹拌装置のついた反応容器中に、D−乳酸50部およびジフェニルエーテル30部を入れ、温度を160℃にした後、減圧して水を除去した。その後、窒素雰囲気下で常圧にし、塩化第一錫0.05部を加え、13.3Paになるまで徐々に減圧しながら、10時間重合反応させることにより、D−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸(P42)を得た。
【0087】
(2)ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合する第2工程
P41:25部、P42:25部およびオクチル酸錫:0.05部を、ベント付き二軸押出機を用いて、減圧下、220℃で溶融混練(滞留時間2分)し、ストランドカッターでペレタイズすることにより、P41とP42の混合物からなるペレット(P43)を得た。
【0088】
(3)ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物を固相重合する第3工程
P43を真空乾燥機に入れ、190℃、13.3Paで100時間反応させたポリマー(P44)を、250℃で5分間プレスすることにより、厚み約0.1mmのフィルム(P45)を得た。
【0089】
上記で得られたそれぞれのポリマー、固相重合後のペレットおよびフィルムについて、GPCおよびDSCを測定した結果を表1に示す。
【0090】
[比較例1]
L−ラクチド50部、エチレングリコール0.02部を、撹拌装置のついた反応容器中で、窒素雰囲気下、120℃で均一に溶解させた後、温度を150℃にし、オクチル酸錫0.03部を加え、2時間重合反応させた。重合反応終了後、反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノール(クロロホルムの10倍量)中で撹拌しながら沈殿させ、モノマーを完全に除去することにより、L−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸(P101)を得た。
【0091】
D−ラクチド50部、エチレングリコール0.02部を、撹拌装置のついた反応容器中で、窒素雰囲気下、120℃で均一に溶解させた後、温度を150℃にし、オクチル酸錫0.03部を加え、2時間重合反応させた。重合反応終了後、反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノール(クロロホルムの10倍量)中で撹拌しながら沈殿させ、モノマーを完全に除去することにより、D−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸(P102)を得た。
【0092】
P101:10部、P102:10部を、それぞれクロロホルムに溶解した後、10分間混合した。混合物をメタノール中で沈殿させ、濾過した後、真空乾燥により溶媒を除去することによりポリマー(P103)を得た。このポリマー(P103)を250℃で5分間プレスすることにより、厚み約0.1mmのフィルム(P104)を得た。
【0093】
上記で得られたそれぞれのポリマーおよびフィルムについて、GPCおよびDSCを測定した結果を表1に示す。
【0094】
[比較例2]
L−ラクチド50部、エチレングリコール0.04部を、撹拌装置のついた反応容器中で、窒素雰囲気下、120℃で均一に溶解させた後、温度を150℃にし、オクチル酸錫0.1部を加え、1時間重合反応させた。重合反応終了後、反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノール(クロロホルムの10倍量)中で撹拌しながら沈殿させ、モノマーを完全に除去することにより、L−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸(P201)を得た。
【0095】
D−ラクチド50部、エチレングリコール0.04部を撹拌装置のついた反応容器中で、窒素雰囲気下、120℃で均一に溶解させた後、温度を150℃にし、オクチル酸錫0.1部を加え、1時間重合反応させた。重合反応終了後、反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノール(クロロホルムの10倍量)中で撹拌しながら沈殿させ、モノマーを完全に除去することにより、D−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸(P202)を得た。
【0096】
P201:10部、P202:10部を、それぞれクロロホルムに溶解した後、10分間混合した。混合物をメタノール中で沈殿させ、濾過した後、真空乾燥により溶媒を除去することによりポリマー(P203)を得た。このポリマー(P203)を250℃で5分間プレスすることにより、厚み約0.1mmのフィルム(P204)を得た。
【0097】
上記で得られたそれぞれのポリマーおよびフィルムについて、GPCおよびDSCを測定した結果を表1に示す。
【0098】
[比較例3]
L−ラクチド50部、エチレングリコール0.02部を、撹拌装置のついた反応容器中で、窒素雰囲気下、120℃で均一に溶解させた後、温度を150℃にし、オクチル酸錫0.05部を加え、2時間重合反応させた。重合反応終了後、反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノール(クロロホルムの10倍量)中で撹拌しながら沈殿させ、モノマーを完全に除去することにより、L−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸(P301)を得た。
【0099】
D−ラクチド50部、エチレングリコール0.05部を、撹拌装置のついた反応容器中で、窒素雰囲気下、120℃で均一に溶解させた後、温度を150℃にし、オクチル酸錫0.05部を加え、2時間重合反応させた。重合反応終了後、反応物をクロロホルムに溶解させ、メタノール(クロロホルムの10倍量)中で撹拌しながら沈殿させ、モノマーを完全に除去することにより、D−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸(P302)を得た。
【0100】
P301:30部とP302:30部を、2軸押出機で溶融混練(滞留時間2分)することにより、ポリ乳酸のペレット(P303)とした。得たペレット(P303)を250℃で5分間プレスすることにより、厚み約0.1mmのフィルム(P304)を得た。
【0101】
上記で得られたそれぞれのポリマーおよびフィルムについて、GPCおよびDSCを測定した結果を表1に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
実施例1〜4に示すように、本発明の製造方法から得たポリ乳酸ブロック共重合体は、200℃以上でLPのみが観測され、高融点化しており、高分子量かつ高融点を有するポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成した。また、プレスフィルムとした後も、高融点を維持したままポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成した。
【0104】
一方、比較例1に示すように、溶液混合においては、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の組み合わせが10万以上の高分子量であると、融点の上昇が見られないため、ポリ乳酸ステレオコンプレックスはほとんど形成されなかった。
【0105】
また、比較例2に示すように、溶液混合であっても、分子量が10万未満の組み合わせでは、200℃以上でLPのみが観測され、高融点のポリ乳酸ステレオコンプレックスが形成されたが、プレスフィルムとして成形した後には、融点の低下が生じた。
【0106】
さらに、比較例3に示すように、溶融混練においては、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の組み合わせが10万以上の高分子量であると、200℃以上で融点ピークが観測されたものの、その融点ピークはSPであり、ポリ乳酸ステレオコンプレックスの形成量は少なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)それぞれの重量平均分子量が9000〜65000を満たすL−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸およびD−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸をそれぞれ製造する第1工程、(2)前記第1工程で得たポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合する第2工程、および(3)前記第2工程で得たポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物を、その融点よりも低い温度、かつ、120℃以上で固相重合する第3工程からなることを特徴とするポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。
【請求項2】
(1)L−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸およびD−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸をそれぞれ製造する第1工程、(2)前記第1工程で得たポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合し、ステレオコンプレックスを形成させる第2工程、および(3)前記第2工程で得たポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物を、その融点よりも低い温度、かつ、120℃以上で固相重合する第3工程からなることを特徴とするポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。
【請求項3】
(1)それぞれの重量平均分子量が9000〜65000を満たすL−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸およびD−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸をそれぞれ製造する第1工程、(2)前記第1工程で得たポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を混合し、ステレオコンプレックスを形成させる第2工程、および(3)前記第2工程で得たポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物を、その融点よりも低い温度、かつ、120℃以上で固相重合する第3工程からなることを特徴とする請求項1または2に記載のポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。
【請求項4】
(1)それぞれの重量平均分子量が9000〜65000を満たすL−乳酸またはD−乳酸単位からなるポリマー(A)を製造する第1工程、(2)前記第1工程で得たポリマー(A)に対して、このポリマー(A)のモノマー単位の対掌体単位をモノマー単位とするセグメントを結合させたポリマー(B)を製造する第2工程、および(3)前記第2工程で得たポリマー(B)を、その融点よりも低い温度、かつ、120℃以上で固相重合する第3工程からなり、第3工程の固相重合の温度を段階的に上げることを特徴とするポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。
【請求項5】
(1)L−乳酸またはD−乳酸単位からなるポリマー(A)を製造する第1工程、(2)前記第1工程で得たポリマー(A)に対して、このポリマー(A)のモノマー単位の対掌体単位をモノマー単位とするセグメントを結合させたポリマー(B)を製造し、ステレオコンプレックスを形成させる第2工程、および(3)前記第2工程で得たポリマー(B)を、その融点よりも低い温度、かつ、120℃以上で固相重合する第3工程からなり、第3工程の固相重合の温度を段階的に上げることを特徴とする請求項3記載のポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。
【請求項6】
(1)それぞれの重量平均分子量が9000〜65000を満たすL−乳酸またはD−乳酸単位からなるポリマー(A)を製造する第1工程、(2)前記第1工程で得たポリマー(A)に対して、このポリマー(A)のモノマー単位の対掌体単位をモノマー単位とするセグメントを結合させたポリマー(B)を製造し、ステレオコンプレックスを形成させる第2工程、および(3)前記第2工程で得たポリマー(B)を、その融点よりも低い温度、かつ、120℃以上で固相重合する第3工程からなり、第3工程の固相重合の温度を段階的に上げることを特徴とする請求項3記載のポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。
【請求項7】
第1工程で製造するポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸について、それぞれの重量平均分子量が9000〜48000であることを特徴とする請求項1または3に記載のポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。
【請求項8】
第1工程において、L−乳酸を出発原料にして直接重合法でL−乳酸単位からなるポリ−L−乳酸を製造し、D−乳酸を出発原料に直接重合法でD−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸を製造することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。
【請求項9】
得られるポリ乳酸ブロック共重合体の重量平均分子量が10万以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。
【請求項10】
第3工程の固相重合の温度を140℃以上で段階的に上げることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。
【請求項11】
第1工程を減圧下または不活性気体雰囲気下で行うことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。
【請求項12】
第2工程において、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合物、または、第1工程で得たポリマー(A)に対して、このポリマー(A)のモノマー単位の対掌体単位をモノマー単位とするセグメントを結合させたポリマー(B)100重量部に対して、触媒0.001重量部以上、2重量部以下を添加することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−291268(P2008−291268A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176682(P2008−176682)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【分割の表示】特願2002−37876(P2002−37876)の分割
【原出願日】平成14年2月15日(2002.2.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】