説明

ポリ乳酸極細繊維の製造方法

【課題】本発明の目的は、海島型複合繊維の海成分を熱水により溶解除去して得られる、単糸繊維径が10〜1000nmで且つ繊維径が均一で融着の少ないポリ乳酸極細繊維の製造方法を提供することにある。
【解決手段】熱水可溶性ポリエステルを海成分とし、ポリ乳酸を島成分とする海島型複合繊維から、海成分を溶解除去することによって得られるポリ乳酸極細繊維の製造方法において、下記要件を満足することを特徴とするポリ乳酸極細繊維の製造方法。
a)該海島型複合繊維が、海成分用ポリマーの島成分用ポリマーに対する溶融粘度比を0.8〜2.5として得られた海島型複合繊維であること。
b)単糸繊維径が10〜1000nmであること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海島型複合繊維から海成分を溶解除去することによって極細化し、ポリ乳酸極細繊維を得る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸の極細繊維の製造方法として、特許文献1にはポリ乳酸と特定の親水性化合物を添加したポリ乳酸からなる2成分分割型複合糸とし、アルカリ減量処理により親水性化合物の添加されたポリ乳酸部分を溶解しポリ乳酸単独の極細繊維とする方法が開示されている。しかしながらポリ乳酸は数%のアルカリ減量処理でも分子量低下による強度低下が著しく、この方法では分割後の布帛にした時に磨耗性に劣るなどの問題がある。
【0003】
特許文献2には、沸水収縮率の異なる2成分からなる剥離分割型複合繊維が提案されている。該複合繊維を沸騰水処理して2成分の沸水収縮率差を利用して分割し、極細ポリ乳酸を得る方法であるが本方法では分割後の繊度に限度があり、単糸繊度0.01dtex以下とするのは困難である。
【0004】
さらに特許文献3には、ポリ乳酸を島成分とし熱水可溶性ポリエステルを海成分とする複合繊維として、海成分を熱水溶解除去することによって極細ポリ乳酸繊維を得る方法が開示されている。本方法により単糸繊度0.01dtex以上(単糸径990nm)の極細繊維であれば可能であるが、0.01dtex未満のさらに極細繊度を得ようとする場合、単に島数を増大しても単糸繊維径が不均一であったり、繊維同士が融着しやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−310229号公報
【特許文献2】特開平9−302531号公報
【特許文献3】特許第4221801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、海島型複合繊維の海成分を熱水により溶解除去して得られる、単糸繊維径が10〜1000nmで且つ繊維径が均一で融着の少ないポリ乳酸極細繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
熱水可溶性ポリエステルを海成分とし、ポリ乳酸を島成分とする海島型複合繊維から、海成分を溶解除去することによって得られるポリ乳酸極細繊維の製造方法であって、下記要件を満足することを特徴とするポリ乳酸極細繊維の製造方法。
a)該海島型複合繊維が、海成分用ポリマーの島成分用ポリマーに対する溶融粘度比を0.8〜2.5として得られた海島型複合繊維であること。
b)単糸繊維径が10〜1000nmであること。
【0008】
好ましくは、島成分数が100以上であり、海成分の島成分に対する複合重量比率(海:島)が95:5〜5:95であるポリ乳酸極細繊維の製造方法、
又、熱水可溶性ポリエステルが、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、イソフタル酸、ポリオキシエチレングリコール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1成分が共重合されたポリエステルであるポリ乳酸極細繊維の製造方法、
さらに島成分用ポリ乳酸の分子量が15万以上であるポリ乳酸極細繊維の製造方法、
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
熱水可溶性ポリエステルを海成分とし、ポリ乳酸を島成分とする海島型複合繊維において、海成分と島成分の溶融粘度比を特定範囲として得られた海島複合繊維とし、海成分を熱水にて溶解除去することで、繊維径が10〜1000nmで、繊維径が均一なポリ乳酸極細繊維が容易に得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に用いられるポリ乳酸としては、L−乳酸を主たる繰り返し単位とするポリL乳酸及び/又はD−乳酸を主たる繰り返し単位よりなるポリD乳酸を主たる対象とする。
また、本発明におけるポリ乳酸は、L−乳酸、D−乳酸の他にエステル形成能を有するその他の成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよい。共重合可能な成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸など分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体が挙げられる。
【0011】
ポリ乳酸の融点は、100℃以上、好ましくは140℃以上、最も好ましくは160℃ 以上である。融点が100℃に満たない場合には、単糸間の融着の発生による延伸性不良や、染色加工時、熱セット時、摩擦加熱時に溶融欠点が生じるなど耐熱性が低下し、製品の品位が著しく低いものとなるため、衣料用途に用いることができない。ここで融点とはDSC測定によって得られたファーストラン溶融ピークのピーク温度を意味する。
【0012】
そのため耐熱性繊維とするためには、ポリL乳酸であればL−乳酸の比率が95モル%以上、より好ましく98モル%以上であることが必要であり、ポリD乳酸であればD乳酸の比率は95モル%以上、より好ましくは98モル%以上であることが必要である。
【0013】
より好ましくは上記ポリL−乳酸とポリD−乳酸とが対となるステレオコンプレックス結晶を形成しているものである。ステレオコンプレックスポリ乳酸とすることにより高強度、高耐熱性ポリ乳酸繊維が得られる。
【0014】
ポリ乳酸の製造方法には、L−乳酸および/またはD−乳酸を原料として一旦環状二量体であるラクチドを生成せしめ、その後開環重合を行う二段階のラクチド法と、L−乳酸および/またはD−乳酸を原料として溶媒中で直接脱水縮合を行う一段階の直接重合法が知られている。本発明で用いるポリ乳酸はいずれの製法によって得られたものであってもよい。
【0015】
また、溶融粘度を低減させるため、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルポリマーを内部可塑剤として、あるいは外部可塑剤として用いることができる。
【0016】
また、耐加水分解性を向上させるため、ポリ乳酸のカルボキシル末端基を、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物、ジオール化合物、長鎖アルコール化合物などの末端封鎖剤によって封鎖したポリ乳酸であってもよい。この場合、ポリ乳酸の末端カルボキシル基濃度が0〜10eq/tであると、熱水処理時の強力低下を抑制することができるので、リラックス精練や染色加工などの風合い出しのための加工を十分に行うことができるようになる。
さらには、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤、着色顔料などとして無機微粒子や有機化合物を必要に応じて添加することができる。
【0017】
一方、本発明の複合繊維の海成分を形成する熱水可溶性ポリエステルとしては、熱水溶解性を有することが必要である。通常、ポリエチレンテレフタレートからなる極細糸を海島型の複合繊維から製造する場合、海成分としてアルカリ溶解性の高い改質ポリエステルを使用することが一般的であるが、島成分にポリ乳酸を用いた海島型複合繊維をアルカリ溶液によって分割処理すると、ポリ乳酸のアルカリ溶液による分解性が高いため、分割処理と同時に島成分のポリ乳酸の分解も起こってしまい、物性的に劣った極細糸しか得られないばかりか、場合によっては島成分のポリ乳酸の分解が先に進行してしまうため極細糸を得ることすら困難となるのである。熱水可溶性ポリエステルを海成分とした複合繊維とすることによって、織編物加工工程で一般的な精練工程において、海成分を溶解除去し、複合繊維中の島成分を各々に完全に分割極細化できるのである。
【0018】
本発明で用いられる熱水可溶性ポリエステルとしては、特開平1−272820号公報、特開昭61−296120号公報、特開昭63−165516号公報および特開昭63−159520号公報等に記載されているような、5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびイソフタル酸を特定量共重合した共重合ポリエステル、5−ナトリウムイソフタル酸、イソフタル酸およびポリアルキレングリコールもしくはその誘導体を特定量共重合した共重合ポリエステル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、イソフタル酸および脂肪族ジカルボン酸を特定量共重合した共重合ポリエステルなどが挙げられる。
【0019】
本発明の海島型複合繊維の海成分としては、前記熱水可溶性の5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびイソフタル酸を特定量共重合した共重合ポリエステルが、7〜13モル%の5−ナトリウムスルホイソフタル酸および8〜30重量%のイソフタル酸が共重合されている共重合ポリエステルから選ばれることが好ましい。5−ナトリウムスルホイソフタル酸が7モル%以下の場合では、充分な熱水可溶性が得られず、13モル%より多い場合は、複合繊維紡糸時の断糸が増加し、工程安定性が悪化する傾向があるので不適切である。また、イソフタル酸が8モル%以下の場合では、十分な熱水可溶性が得られず、30モル%より多い場合は、複合繊維紡糸時の断糸が増加し、工程安定性が悪化するだけでなく、非晶性となり軟化点が低下するため、延伸後の熱セット温度が上げられず、海成分を溶解除去して得られるポリ乳酸極細繊維は十分な強度を保持できないので不適切である。
【0020】
本発明のポリ乳酸極細繊維は、海成分として熱水溶解性ポリエステルを用いた海島型複合繊維の海成分を溶解することで得られるポリ乳酸極細繊維で、本発明でいう熱水可溶性とは、95℃の熱水に60分間浸した際に完全に熱水中に溶解することを意味するものであり、熱水可溶性ポリエステルを海成分とした複合繊維とすることによって、織編物加工工程で一般的な精練工程において、アルカリなどの薬品を用いずに海成分を溶解除去し、複合繊維中の島成分を各々に完全に分割することでポリ乳酸極細繊維が得られる。
【0021】
また、島成分の径は、10〜1000nmであることが必要であり、好ましくは100〜700nmである。島成分の径が10nm未満の場合には、繊維構造自身が不安定で、物性及び繊維形態を不安定になるので好ましくなく、一方1000nmを越える場合には超極細繊維特有の柔らかさや風合いが得られず、好ましくない。また、複合繊維断面内の各島成分は、その径が均一であるほど海成分を除去して得られる極細繊維からなるハイマルチフィラメント糸の品位及び耐久性が向上する。
【0022】
海成分と島成分の溶融粘度比(海/島)は、0.8〜2.5であることが必要であり、好ましくは1.1〜2.0、最も好ましくは1.3〜1.5の範囲内であることが好ましい。この比が0.8倍未満の場合には、工程の安定性溶融紡糸時に島成分が互に接合しやすくなり、一方それが2.5倍を越える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸工程の安定性が低下しやすい。
【0023】
海島複合繊維における島成分数は、多いほど海成分を溶解除去して極細繊維を製造する場合の生産性が高くなり、しかも得られる極細繊維も顕著に細くなって、超極細繊維特有の柔らかさ、滑らかさ、光沢感などを発現することができるので、島成分数は100以上であることが好ましく、より好ましくは500以上である。ここで島成分数が100未満の場合には、海成分を溶解除去しても極細単繊維からなるハイマルチフィラメント糸を得ることができず、本発明の目的を達成することができない。なお、島成分数があまりに多くなりすぎると、紡糸口金の製造コストが高くなるだけでなく、紡糸口金の加工精度自体も低下しやすくなるので、島成分数を1000以下とすることが好ましい。
【0024】
さらに、本発明の海島型複合繊維は、その海島複合質量比率(海:島)は、95:5〜5:95の範囲内にあることが必要であり、好ましくは30:70〜10:90の範囲内にあることが好ましい。上記範囲内にあれば、島成分間の海成分の厚さを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の微細繊維への転換が容易になる。ここで海成分の割合が5%未満の場合には、海成分の量が少なくなりすぎて、島間に相互接合が発生しやすくなる。
【0025】
本発明の海島型複合繊維の溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど適宜のものを用いることができる。例えば、WO2005/095686の図1および2に示されているような、中空ピンや微細孔より押し出された島成分と、その間を埋めるように設計された流路から供給された海成分流とを合流し、この合流体流を次第に細くしながら吐出口より押出して、海島型複合繊維を形成できる限り、いかなる紡糸口金でもよい。
【0026】
吐出された海島型断面複合繊維は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分の速度で巻き取られ、より好ましくは1000〜3500m/分である。紡糸速度が400m/分以下では生産性が不十分であり、また、6000m/分以上では紡糸安定性が不良になる。
【0027】
得られた未延伸繊維は、別途延伸工程をとおして所望の引張り強さ、切断伸び率及び熱収縮特性を有する延伸複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。具体的には60〜190℃、好ましくは75℃〜180℃の予熱ローラー上で予熱し、延伸倍率1.2〜6.0倍、好ましくは2.0〜5.0倍で延伸し、セットローラー100〜220℃、好ましくは120〜200℃で熱セットを実施することが好ましい。予熱温度不足の場合には、目的とする高倍率延伸を達成することができなくなる。セット温度が低すぎると、得られる延伸繊維の収縮率が高すぎるため好ましくない。また、セット温度が高すぎると、得られる延伸繊維の物性が著しく低下するため好ましくない。
【0028】
本発明の海島型複合繊維から海成分を溶解除去して得られる直径10〜1000nmの極細単繊維の繊度のばらつきを表すCV%値は、0〜25%であることが好ましい。より好ましくは0〜20%、さらに好ましくは0〜15%である。このCV値が低いことは、繊度のばらつきが少ないことを意味する。単繊維繊度のばらつきが少ない極細繊維を用いることにより、ナノレベルで極細単繊維の繊維径のコントロールが可能となるので、用途に合わせた商品設計が可能となる。例えば、フィルター用途では、極細単繊維径において吸着できる物質を選択しておけば、用途に合わせて繊維径の設計をすることが可能になり、非常に効率的に商品設計を行うことが可能になる。
【0029】
本発明の海島型複合繊維から海成分を溶解除去して得られ、直径10〜1000nmの極細繊維の引張り強さは1.0〜6.0cN/dtexであり、その切断伸び率が15〜80%であることが好ましい。前記極細繊維の物性、特に引張り強さが1.0cN/dtex以上であることが重要である。引張り強さがこれよりも低いと用途が限定されてしまう。本発明によって、様々な用途に応用展開可能な強度を持ち、かつ従来にない特徴を有する極細ポリ乳酸を得ることができる。
【0030】
本発明で得られるポリ乳酸極細繊維は、比表面積が大きいという特徴がある。このため、優れた吸着・吸収特性を有する。また、ポリ乳酸は再生産可能な資源から合成される繊維で、ポリ乳酸の特性として生分解性、抗菌性、生体適合性などがある。これらの効果を生かして、例えば、機能性薬剤を吸収させて新たな用途展開が可能となる。機能性薬剤とは例えばたんぱく質、ビタミン類など健康・美容促進のための薬剤、そのほか抗炎症剤や消毒剤などの医薬品なども用いることができる。一方で、吸収・吸着特性だけではなく、優れた除放特性を持つ。この効果を生かして先述した機能性薬剤を除放させるなど、ドラッグデリバリーシステムをはじめとし、さまざまな医薬・衛生用途に展開可能である。
【0031】
本発明の極細繊維を少なくとも一部に有する繊維製品は糸、組み紐状糸、短繊維からなる紡績状糸、織物、編物、フェルト、不織布、人工皮革などの中間製品とすることができる。これらをジャケット、スカート、パンツ、下着などの衣料、スポーツ衣料、衣料資材、カーペット、ソファー、カーテンなどのインテリア製品、カーシートなどの車輌内装品、化粧品、化粧品マスク、ワイピングクロス、健康用品などの生活用途や研磨布、フィルター、有害物質除去製品、電池用セパレーターなどの環境・産業資材用途や、縫合糸、スキャフォールド、人工血管、血液フィルターなどの医療用途に使うことができる。
【実施例】
【0032】
本発明を下記実施例によりさらに説明する。
下記実施例及び比較例において、下記の測定及び評価を行った。
(1)溶融粘度
供試ポリマーを乾燥し、溶融紡糸用押出機の溶融温度に設定されたオリフィス中にセットし、3分間溶融状態に保持したのち、所定水準の荷重下に、押出し、このときの剪断速度と溶融粘度とをプロットした。上記操作を、複数水準の荷重下において繰り返えした。
上記データに基いて、剪断速度一溶融粘度関係曲線を作成した。この曲線上において、剪断速度が1000秒−1のときの溶融粘度を見積る。
(2)海島断面形成性
光学顕微鏡を用いて海島状態を観察し、2段階評価した。
○:島湯膠着部分なし
×:島湯膠着部分あり
(3)紡糸性
紡糸時間2時間における糸切れ回数から製糸性を3段階評価した。
○:糸切れ無し
△:糸切れ若干有り(1〜3回)
×:糸切れ多発
(4)延伸性
2kg巻きパーンを5本作製する際の延伸糸切れ回数から延伸性を3段階評価した。
○:糸切れ無し
△:糸切れ若干有り(1〜3回)
×:糸切れ多発
(5)極細単繊維の繊度および直径
極細繊維の断面を走査型電子顕微鏡により観察し、繊維断面写真より直径を計測し、繊度を算出した。
【0033】
[実施例1〜3]
島成分として融点172℃、260℃1000sec−1における溶融粘度が1500poiseであるポリL−乳酸(重量平均分子量 26万、L体比率100%)を用い、海成分として260℃、1000sec−1における溶融粘度が2100poiseである5−ナトリウムスルホイソフタル酸12モル%、およびイソフタル酸19モル%を共重合した熱水可溶性ポリエステルを用い、島成分数900、ホール数10の海島型複合用口金を用いて、複合紡糸機にて複合比率を表1のように変更して紡糸温度260℃、引き取り速度1000m/分で巻き取った。続いて、得られた未延伸糸をホットロール−ホットロール系延伸機を用いて、延伸温度80℃、熱セット温度120℃で延伸糸の伸度が35%となるように延伸倍率を合わせて延伸を行い、マルチフィラメント延伸糸(複合繊維)を得た。得られたマルチフィラメント延伸糸を、95℃の熱水で精練と同時に海成分を溶解除去した後、得られた極細繊維について表1に示す。
実施例1〜3では、断面形成性、紡糸性および延伸性は非常に良好であり、海成分溶解後極細繊維が形成されていた。
【0034】
[比較例1]
島成分として実施例1同様、融点172℃、260℃1000sec−1における溶融粘度が1500poiseであるポリL−乳酸(重量平均分子量 26万、L体比率100%)を用い、海成分として260℃、1000sec−1における溶融粘度が900poiseである5−ナトリウムスルホイソフタル酸10モル%、およびイソフタル酸25モル%を共重合した熱水可溶性ポリエステルを用い、実施例1同様に紡糸した。溶融粘度比(海/島)は0.6と低く、断面形成性が可能であったのは海成分の重量比が多い場合で、海:島=70:30で良好であった。しかし、延伸性は悪化し充分に延伸できないため、単糸繊維径は1400nmとなった。
【0035】
[比較例2]
島成分として融点172℃、260℃、1000sec−1における溶融粘度が700poiseであるポリL−乳酸(重量平均分子量 13万、L体比率100%)を用い、実施例1と同様に紡糸した。ポリ乳酸の分子量が低いために、溶融粘度比(海/島)は3.0と高く、粘度差が大きすぎるために紡糸工程の安定性が悪化した。断面形成性、紡糸性共に劣るものであった。
【0036】
[比較例3]
島成分として融点172℃、260℃、1000sec−1における溶融粘度が1250poiseであるポリL−乳酸(重量平均分子量 17万、L体比率100%)を用い、海成分として実施例1と同様のポリマーを用い、島成分数70、ホール数10の海島型複合用口金を用いて、複合紡糸機にて複合比率(海:島)を70:30として、紡糸温度260℃、引き取り速度1000m/分で巻き取った。続いて、得られた未延伸糸を通常のホットロール−ホットロール系延伸機を用いて、延伸温度80℃、熱セット温度120℃で延伸糸の伸度が35%となるように延伸倍率を合わせて延伸を行い、マルチフィラメント延伸糸(複合繊維)を得た。島成分数が70と少ないため、海成分溶解後に得られた繊維の直径は2300nmの極細繊維しか得られなかった。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のポリ乳酸極細繊維により、環境負荷が小さくなるように土壌中やコンポスト中で分解する極細繊維が得られるので、衣料用途やインテリア用途、また、紙や不織布の形態にして、フィルター、絶縁紙、ワイパー、包装材、衛材等の用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱水可溶性ポリエステルを海成分とし、ポリ乳酸を島成分とする海島型複合繊維から、海成分を溶解除去することによって得られるポリ乳酸極細繊維の製造方法であって、下記要件を満足することを特徴とするポリ乳酸極細繊維の製造方法。
a)該海島型複合繊維が、海成分用ポリマーの島成分用ポリマーに対する溶融粘度比を0.8〜2.5として得られた海島型複合繊維であること。
b)ポリ乳酸の単糸繊維径が10〜1000nmであること。
【請求項2】
島成分数が100以上である請求項1に記載のポリ乳酸極細繊維の製造方法。
【請求項3】
海成分の島成分に対する複合重量比率(海:島)が95:5〜5:95である請求項1〜2いずれかに記載のポリ乳酸極細繊維の製造方法。
【請求項4】
熱水可溶性ポリエステルが、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、イソフタル酸、ポリオキシエチレングリコール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1成分が共重合されたポリエステルである請求項1〜3いずれかに記載のポリ乳酸極細繊維の製造方法。
【請求項5】
島成分用ポリ乳酸の分子量が15万以上である請求項1〜4いずれかに記載のポリ乳酸極細繊維の製造方法。


【公開番号】特開2011−58123(P2011−58123A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209431(P2009−209431)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】