説明

ポリ乳酸樹脂組成物

【課題】結晶化速度が速く、しかも、造核剤とともに劣化防止剤を添加する必要がないポリ乳酸樹脂組成物を提供することを目的としている。
【解決手段】ポリ乳酸と、添加剤とを含むポリ乳酸樹脂組成物であって、添加剤として少なくとも下式(1)で示されるイノシトールをポリ乳酸に対して0.01〜10重量%含むことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は、生分解性を有し、環境に優しい樹脂として昨今いろいろな成形品への用途が開発されている。
しかし、ポリ乳酸は、結晶性の高分子であるものの、結晶化が遅いという欠点を有しているために、成形加工を行う際には、造核剤を添加しなければならない。
【0003】
造核剤としては、脂肪族カルボン酸アミドを用いる方法(特許文献1)がすでに提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−173584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような従来の造核剤を配合したポリ乳酸樹脂組成物を得ようとした場合、混練の際の樹脂の劣化を抑止するために、造核剤だけでなく、カルボジイミド化合物等の劣化防止剤をさらに加える必要があった。
しかし、ポリ乳酸だけでなく樹脂材料へ添加する添加剤の種類が多くなると、それだけ管理が煩雑になるとともに、材料コストがかかるという問題があり、さらに、添加剤同士が予期せぬ副作用を招く虞もある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みて、結晶化速度が速く、しかも、造核剤とともに劣化防止剤を添加する必要がないポリ乳酸樹脂組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明にかかるポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸と、添加剤とを含むポリ乳酸樹脂組成物であって、添加剤として少なくとも下式(1)で示されるイノシトールを含むことを特徴としている。
【化1】

【0008】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物において、イノシトールとしては、myo-、epi-、allo-、myo-、muco-、chiro-、scyllo-の各イノシトールを用いることができる。
【0009】
イノシトールの添加量は、ポリ乳酸に対して0.01〜10重量%が好ましい。

すなわち、イノシトールの添加量がポリ乳酸の0.01重量%未満であると、その効果があまり期待できず、イノシトールまたはイノシトール誘導体の添加量がポリ乳酸の10重量%を超えると、ブリードアウトの現象が顕著になり、脆い成型品となり不具合となる虞がある。
【0010】
本発明において、ポリ乳酸とは、L−乳酸及び/またはD−乳酸を主たる構成成分とするポリマーである。
【0011】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、イノシトール以外の添加剤を必要に応じて添加しても構わない。
このような添加剤としては、特に限定されないが、たとえば、アロイ化樹脂、増粘剤、可塑剤、結晶核剤、難燃剤、充填剤、安定剤、滑剤等が挙げられる。
【0012】
上記アロイ化樹脂としては、特に限定されないが、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニル、セルロース、フェノール樹脂、ポリエチレングリコールテレフタレート、ポリブチレングリコールテレフタレート、ポリエチレングリコールナフタレート、ポリブチレングリコールナフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル、ポリオキシメチレン、ナイロン-6、ナイロン-6.6、ナイロン-6.12、ナイロン-4,6、天然ゴム、ポリブタジエン、ABS樹脂、等が挙げられる。また、2つ以上のアロイ化樹脂を添加することもある。
【0013】
上記増粘剤としては、特に限定されないが、たとえば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化カリウム、 水酸化カリウム、酸化亜鉛等が挙げられる。
上記可塑剤としては、特に限定されないが、たとえば、フタル酸エステルなどの多価カルボン酸系可塑剤、ポリビニルアルコール等のポリアルキレングリコール系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、エポキシ系可塑剤、等が挙げられる。
【0014】
上記結晶核剤としては、特に限定されないが、たとえば、タルクなどの無機核剤、安息香酸ナトリウムなどの有機カルボン酸金属塩、リン酸エステル金属塩、ベンジリデンソルビトール、カルボン酸アミドなどの有機核剤、等が挙げられる。
上記難燃剤としては、特に限定されないが、たとえば、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン系難燃剤、窒素化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤、等が挙げられる。
【0015】
上記充填剤としては、特に限定されないが、たとえば、炭酸カルシウム、マイカ、クレー、チタン酸カリウム、珪酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、水酸化アルミニウム、ホウ酸アルミニウム、モンモリロナイト、ガラス繊維、炭素繊維、またケナフ繊維などの植物系繊維、等が挙げられる。
【0016】
上記安定剤としては、特に限定されないが、たとえば、ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系、ビタミン系、ホスフェート系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、芳香族ベンゾエート系、多価アミン系、シュウ酸アニリド系、シアノアクリレート系、ヒンダードアミン系、トリアジン系、ヒドラジン誘導体系化合物、等が挙げられる。
上記滑剤としては、特に限定されないが、たとえば、ステリン酸等の脂肪酸、ステアリン酸ナトリウム等の脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、等が挙げられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかるポリ乳酸樹脂組成物は、以上のように、添加剤としてイノシトールを用いるようにしたので、イノシトールがポリ乳酸の造核剤として機能し、結晶化を促進させると共に、イノシトールが劣化防止剤としても働き、別に劣化防止剤を添加することが不要となる。したがって、材料管理や製造管理が簡略化できるとともに、材料コストの低減を図ることができる。しかも、添加剤の種類が少なくなり、副作用の問題も低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明を、その実施例を参照しつつ参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)
ポリ-L-乳酸(三井化学社製商品名Lacea H-100)に対し、10重量%のmyo-イノシトール(和光純薬社製)をドライブレンドするとともに、二軸混練押出機を用いて混練し、ポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0020】
(実施例2)
myo-イノシトールの配合量を1重量%とした以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0021】
(実施例3)
myo-イノシトールの配合量を0.1重量%とした以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0022】
(実施例4)
myo-イノシトールの配合量を0.01重量%とした以外は、実施例1と同様にしてポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0023】
上記実施例1〜4で得られたポリ乳酸樹脂組成物と、比較例1としてのポリ-L-乳酸(三井化学社製商品名Lacea H-100)および比較例2としての二軸混練押出機を用いて混練したポリ-L-乳酸(三井化学社製商品名Lacea H-100)のそれぞれについて
結晶化ピーク温度、多分散度、数平均分子量を測定し、その結果を表1に示した。
【0024】
なお、結晶化ピーク温度は、得られたポリ乳酸樹脂組成物の結晶化温度を熱示差走査測定装置で測定した。数平均分子量は、得られたポリ乳酸樹脂組成物の1%クロロホルム溶液を調整し、その分子量、多分散度をGPC(クロロホルム溶媒、ポリスチレン標準)で測定した。
【0025】
【表1】

【0026】
上記表1から、イノシトールを添加することにより分子量の低下(樹脂の劣化)を防ぐことができるとともに、結晶化ピークが観測され、結晶化促進効果が発現することがよくわかる。
【0027】
また、実施例1で得られたポリ乳酸樹脂組成物を120℃、1時間で結晶化させた後、透過型電子顕微鏡写真を、図1に示した。
図1で示すように、イノシトールを中心とした球晶成長が観測され、イノシトールが造核剤としての有効に働いていることが分かる。
【0028】
また、実施例2、比較例1,2で得られたポリ乳酸樹脂組成物について、シャルピー衝撃強度、曲げ弾性率、引張弾性率を測定し、その結果を表2に示した。
【0029】
なお、シャルピー衝撃強度の測定は、東洋精機製作所製シャルピー衝撃試験機B-121203601を用い、ハンマー4J、ノッチ無しの条件で行った。
【0030】
曲げ弾性率の測定は、インストロン社製材料試験機5569を用い、3点曲げ、支点間距離64mm、試験速度5mm/min、曲げ試験片(2個,80mmx10mmx4mm)の条件で行った。
【0031】
引張弾性率の測定は、インストロン社製材料試験機5569を用い、チャック間距離115mm、試験速度50mm/min、ダンベル型引張試験片(1個,160mmx10mmx4mm)の条件で行った。
【0032】
また、シャルピー衝撃強度、曲げ弾性率、引張弾性率の測定に用いた試験片は、各ポリ乳酸樹脂組成物を射出成形機(日精樹脂工業製、型締力35kN、スクリュー径30mm)を用いて射出成形することによって得た。
【0033】
【表2】

【0034】
上記表2から、比較例1と比較例2とを比較することにより、ポリ乳酸樹脂組成物は押出成形による熱履歴が加わることにより樹脂の劣化が起こり、力学的な物性が低下することが分かる。
【0035】
一方、イノシトールを添加することにより、力学的物性の低下が抑制されるだけではなく、イノシトールが核剤として働き物性が向上することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明にかかるポリ乳酸樹脂組成物は、たとえば、例えば繊維、フィルム、シート、チューブ、肉厚成型品、食器、電化製品の筐体等の種々の成形物を得るのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1で得られたポリ乳酸樹脂組成物を120℃、1時間で結晶化させた後、透過型電子顕微鏡写真の写しである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸と、添加剤とを含むポリ乳酸樹脂組成物であって、添加剤として少なくとも下式(1)で示されるイノシトールを含むことを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物。
【化1】

【請求項2】
イノシトールをポリ乳酸に対して0.01〜10重量%含む請求項1に記載のポリ乳酸樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−50460(P2008−50460A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227830(P2006−227830)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(591023594)和歌山県 (62)
【Fターム(参考)】