説明

ポリ乳酸系マルチフィラメント

【課題】生分解性があり、かつ高強度であると共に、加えて優れた耐摩耗性を有する品質の安定したポリ乳酸系マルチフィラメントを提供する。
【解決手段】光学純度が95%以上、メルトフローレート値が1〜50g/10分であるポリ乳酸系重合体からなる未延伸繊維の水分を3%以下に調整した後、熱延伸を行うことにより得られるフィラメントであって、強度が4.0g/d以上であり、繊維/繊維の耐摩耗性が5000回以上であるポリ乳酸系マルチフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性があり、かつ高強度で、優れた耐摩耗性を有するポリ乳酸系マルチフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂からなる従来の合成繊維は、自然環境下での分解速度が遅く、また焼却時の発熱量が多いため、自然環境保護の見地からの見直しが必要である。このため、脂肪族ポリエステルからなる生分解性繊維が開発されつつあり、環境保護への貢献が期待されている。
【0003】
脂肪族ポリエステルのあるものは、ある程度の繊維性能を持ち、新しい特徴のある繊維素材として期待されるが、繊維やその製品の強度や耐摩耗性が弱く、また、表面タッチ、外観等における品質上の問題も多く、特に、高強度を要する分野での汎用的な展開が困難であった。
【0004】
このため、脂肪族ポリエステルの中でも比較的高融点であるポリ乳酸系重合体を用いて、高強度の繊維が開発されつつある。例えば、特開平2−203729号公報や特開平8−226016号公報では、高強度のモノフィラメント繊維が開示されている。しかし、マルチフィラメントでは、生産速度が速いために高強度の繊維が得られ難く、かつ、得られる繊維の耐摩耗性が極めて劣るという問題があった。また、マルチフィラメントの繊維間で糸径変動が生じたり、繊維表面に凹凸が生じ、さらには長さ方向においてもそれらの変動が生じやすく、品質上の観点からも問題であった。
【特許文献1】特開平2−203729号公報
【特許文献2】特開平8−226016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題を解決し、生分解性を有し、かつ、高強度で耐摩耗性があり、品質の安定した繊維製品となるポリ乳酸系マルチフィラメントを提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、蒸気の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、次の構成を有するものである。
(1)光学純度が95%以上、メルトフローレート値が1〜50g/10分であるポリ乳酸系重合体からなる未延伸繊維の水分を3%以下に調整した後、熱延伸を行うことによる、強度が4.0g/d以上、繊維/繊維の耐摩耗性が5000回以上であることを特徴とするポリ乳酸系マルチフィラメント。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、生分解性なので環境を汚染することが少なく、高い強度を有し、かつ、繊維を構成する単繊維間での均斉度が高くて優れた耐摩耗性を有するポリ乳酸系マルチフィラメントが提供される。本発明のポリ乳酸系マルチフィラメントは、寸法安定性にも優れているため、編み物、織物、その他各種繊維構造物、複合構造物などに応用できる製品が得られ、衣料用、産業資材、家庭用品、土木資材、農業資材、林業資材などに好適に利用できる。特に、このポリ乳酸系マルチフィラメントを用いた布帛は、強力と耐摩耗性に優れているため、フィルター、植生シート、法面緑化、土砂流失防止シート、漁網、テント、寝袋、台所水切り袋、ごみ袋、ワイパ−、木質ボード、自動車内装材等に好適に用いることができる。しかもこのポリ乳酸系マルチフィラメントは、その使用後に微生物が多数存在する環境下や海水、淡水等の存在する環境下、例えば土中又は水中に放置すると、最終的には完全に分解消失するため自然環境保護の観点からも有益であり、あるいは、例えば堆肥化して肥料とする等、再利用を図ることもできるため、資源の再利用の観点からも有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。まず、本発明のポリ乳酸系マルチフィラメントを構成する重合体について説明する。ポリ乳酸は、L−乳酸とD−乳酸又はそれらのブレンドによる光学異性体の重合体を主成分としたものである。したがって、異成分を共重合するものではなく同一の素材であるため、極めて製糸特性が優れている。L−乳酸の光学純度が0〜100%存在する中で、このL体に対するD体の比率は、耐熱性や生分解性に影響する要因であり、L体の純度がD体によって純度が低くなると共に、結晶性が低下し、融点降下が大きくなる傾向を示す。また、柔軟性や弾性回復性の改良、熱収縮性増加、分解性やガラス転移温度の制御、他成分との接着性の改良などができる。
【0009】
一方、D−乳酸の光学純度が0〜100%存在する中で、このD体に対するL体の比率は、同様に耐熱性や生分解性に影響する要因であり、D体の純度がL体によって純度が低くなると結晶性が低下し、融点降下が大きくなる傾向を示す。さらに、柔軟性や弾性回復性の改良、熱収縮性増加、分解性やガラス転移温度の制御、他成分との接着性の改良などができる。このようなところから、L体とD体とのブレンド比が1:1であると最も結晶性が低下して融点降下が大きく、生分解速度も同時に速くなる。
【0010】
本発明に適用するポリ乳酸としては、純粋なポリ乳酸であり、D体又はL体が主体成分であることが望ましく、融点は120℃以上のものが好適である。光学純度の低いものを適用すると、融点が低いため熱延伸し難いことや、高強度の繊維が得られ難い問題が生じたり、耐熱性、耐摩耗性が低下するため好ましくない。そのため光学純度は、95%以上とすることが必要であり、より好ましくは、96%以上、最も好ましくは97%以上である。
【0011】
次に、前記したポリ乳酸系重合体の溶融粘度、すなわち、本発明の繊維を構成する重合体のメルトフローレート値(MFR)は、ASTM−D1238の処方で210℃、2160g下で測定した値が1g/10分以上、50g/10分以下であるものが必要である。MFRが1g/10分未満では、溶融粘度が大きくてポリマーの流動性が低下するため曳糸性が低下する。また曳糸性を改良するために紡糸温度を上げると発煙性が増加して紡糸環境が悪化したり、糸切れが増加する。また、MFRが50g/10分を超えると、強度を高くすることが難しく、耐熱性や耐摩耗性も低下する。したがって、MFRの範囲は、1〜50g/10分とすることが必要であるが、より好ましくは、2〜45g/10分、最も好ましくは3〜40g/10分がよい。
【0012】
本発明のポリ乳酸系マルチフィラメントは、強度が4.0g/d以上であることが必要である。繊維強度は、高い程実用範囲が広がるのでよいが、4.0g/d未満では産業資材用途や土木資材用途、漁業資材用途などの高強度を必要とする分野での適用が制限される。したがって、本発明では、強度は4.0g/d以上であることが必要であり、好ましくは4.5g/d以上、より好ましくは、5.0g/d以上、最も好ましくは5.5g/dのものがよい。
【0013】
繊維の伸度は、特に限定されるものではないが、20〜60%が好ましい。伸度は小さ過ぎると、繊維を製造する際に毛羽が発生したり、糸切れが生じて操業性が低下しやすくなる。また、伸度が大きすぎると、製編織した時に伸びて寸法安定性が低下しやすいので好ましくない。
【0014】
また、本発明のポリ乳酸系マルチフィラメントは、繊維/繊維(F/F)の耐摩耗性が5000回以上であることが必要である。耐摩耗性が低いと、製編織した時にフィブリル化が生じ、毛羽が発生したり、強度が低下しやすく、さらに、製品の寿命が短かすぎて実用性が低下する。一般的に、ポリ乳酸繊維は、耐摩耗性が通常の合成繊維に比べて劣り、F/Fの耐摩耗性を5000回以上とすることは難しい。この理由は、微細結晶構造の違いと、繊維表面の均整度、摩擦係数及び単繊維間の均斉度の違いによるものと推定される。これに反して、本発明のポリ乳酸系マルチフィラメントは、F/Fの耐摩耗性が5000回以上であり、好ましくは、6000回以上、より好ましくは、7000回以上、最も好ましくは8000回以上とするのがよい。
【0015】
また、本発明のポリ乳酸系マルチフィラメントの単繊維繊度は、1〜50デニールであることが好ましい。1デニール未満になると、繊維を形成する際の固化点の制御、口金孔の精度アップ、吐出量の低減に伴う生産性の低下、糸切れ発生がしやすいなどの問題が生じやすくなる。また、50デニールを超えると、通常の溶融紡糸法で長繊維を生産する工程では、糸条の冷却固化ができなくなり、紡糸や延伸が困難となって、別途特殊生産設備を必要とすることになり、高コストとなるので好ましくない。
【0016】
本発明における単繊維の断面形状は、丸断面の他、異形断面、中空断面でもよく、また、複合形態を伴った芯鞘型、海島型、分割型、並列型、多層型などの複合断面でもよい。
【0017】
なお、本発明においては、前述したポリ乳酸系重合体に、必要に応じて、例えば熱安定剤、結晶核剤、艶消し剤、顔料、耐光剤、耐候剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、微粉体、難燃剤等の各種添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0018】
本発明のポリ乳酸系マルチフィラメントは、単独で、又は他の繊維と混用し、それらを用いた編物、織物や不織布、さらには複合材料その他の構造物の製造に用いることができる。他の繊維と混用する場合には、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維などの繊維形成性重合体からなる合成繊維や、レーヨンなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、また、羊毛、絹、木綿、麻などの天然繊維が採用される。そして、その中でも、再生繊維、半合成繊維や天然繊維、あるいは脂肪族ポリエステルからなる繊維などの生分解性繊維と混用すれば、完全生分解性の製品が得られるので好ましい。
【0019】
次に、本発明のポリ乳酸系マルチフィラメントの製造方法について説明する。本発明のポリ乳酸系マルチフィラメントを製造するためには、基本的には公知の溶融紡糸装置による紡糸方法を適用することができ、重合体として前記したポリ乳酸系重合体を選択して用いればよい。次に、この重合体を溶融、計量し、紡糸口金の装置から繊維を紡出し、冷却固化した後、油剤を付与してからローラで引き取り、巻き取った後、熱延伸するか又は巻き取らずに引き続き熱延伸した後、巻き取って、目的とするポリ乳酸系マルチフィラメントを得ることができる。
【0020】
前記ポリ乳酸系重合体を溶融紡糸する際の紡糸温度は、190℃〜250℃が好適に用いることができる。紡糸温度が低過ぎると、重合体の流動性が低下するため曳糸性が低下する。また、紡糸温度が高すぎると重合体の熱分解が生じやすく、発煙が生じて紡糸環境を悪化させるため好ましくない。したがって、紡糸温度は190〜250℃が好ましいが、より好ましくは、200〜240℃、最も好ましくは210〜230℃である。
【0021】
紡糸口金は、目的とする繊維の繊度や断面形状に応じて適度の孔径や形状を有する口金を用いればよい。紡糸速度は、任意の速度を適用できるが、高強度の繊維を得るためには全延伸倍率ができるだけ大きく取れるような未延伸糸繊維とするのがよく、その観点からは低いほうが望ましいが、生産性の観点もあり、通常100m/分から1500m/分までを適用するのがよい。
【0022】
本発明の製造方法において最も重要な点は、ポリ乳酸系重合体を溶融紡糸した後の未延伸繊維の水分を3%以下に調整した後、熱延伸を行うことである。前述したように、一般的に、ポリ乳酸繊維は、通常の合成繊維に比べて、微細結晶構造の違いと、繊維表面の均整度、摩擦係数及び単繊維間の均斉度の違いによるものか、耐摩耗性が劣るので、F/Fの耐摩耗性を5000回以上とするのは難しい。そのため、ポリ乳酸繊維の耐摩耗性を向上させ、F/Fの耐摩耗性を5000回以上とするためには、いかに微細結晶構造を制御し、繊維の均斉度を上げて摩擦抵抗を少なくさせるかが重要なポイントとなる。
【0023】
そこで、本発明では、未延伸繊維の水分を3%以下、より好ましくは、2%以下、最も好ましくは1%以下に調整した後、熱延伸を行うことにより、微細結晶構造を制御し、繊維の均斉度を上げて摩擦抵抗を少なくし、F/Fの耐摩耗性が5000回以上の繊維とするものである。すなわち、水分を多く付着させて熱延伸すると、水の蒸発潜熱によって未延伸繊維が延伸変形する前に繊維表面が部分的に加水分解され、その後延伸張力が付与されて細化されることで繊維表面に凹凸形状が増長して現れる。そして、繊維の一部でも凹凸形状が存在するとトータル的に強度や耐摩耗性が低下する原因となる。そこで、本発明では、未延伸繊維の水分を3%以下に調整して延伸することで繊維表面の凹凸形状の発生を抑制し、強度や耐摩耗性の優れた繊維とするものである。
【0024】
冷却固化後の未延伸繊維の水分を3%以下に調整する方法としては、エマルジョン油剤の濃度を上げて繊維表面への水分付着量を規制する方法、繊維のガラス転移温度未満の温風を付与して水分率を低下させる方法、紡糸時の引き取りローラ温度を繊維のガラス転移温度未満で加熱する方法、非水油剤を付与する方法等を好適に用いることができる。
【0025】
熱延伸する際の温度は、(Tm −60) ℃〜(Tm −10) ℃、特に(Tm −50)℃〜(Tm −20) ℃の範囲が好ましい。多段延伸する際には、最終ローラ温度が最も高くなるようにローラ間で温度勾配を付けることがより好ましい。ローラ温度が(Tm −60) ℃未満になると、全延伸倍率を大きくすることができず、結果として高強度の繊維を得られ難くなる。またローラ温度が(Tm −10) ℃を超えると、繊維が密着したり、ローラに巻きついて操業性が低下しやすくなる。 紡糸に引き続いて多段で延伸する際の延伸倍率は、一段目で全延伸倍率の80%程度を付与し、その後二段目以降で残りの20%分を延伸し、その後リラックス熱処理を施してもよい。
【0026】
また、紡糸を行った後、一旦巻き取った未延伸繊維を延伸する際には、一段目の延伸を予備延伸としてわずかな延伸倍率で施した後、二段目で全延伸倍率の80%〜100%程度を付与し、その後三段目以降で残分を延伸したり、リラックス熱処理を施してもよい。
【0027】
熱延伸する際に、加熱空気又は過熱蒸気を利用して熱延伸を増長させると、全延伸倍率をさらに大きくでき、強度が高い繊維が得られるので重要である。過熱空気又は過熱蒸気を付与する位置は、一段目及び/又は二段目の延伸ゾーンに適用することができる。また、繊維に付与する過熱空気又は過熱蒸気の温度は、(Tm−40)℃〜(Tm−10)℃、特に(Tm−30)℃〜(Tm−15)℃が好ましい。過熱空気又は過熱蒸気の温度が(Tm−40)℃未満になると、全延伸倍率を大きくする効果が低下しやすい。また、(Tm−10)℃を超えると、繊維が密着したり、優着しやすくなる。
【0028】
なお、熱延伸する際に過熱空気や過熱蒸気を利用する場合、通常はローラも過熱するが、過熱空気や過熱蒸気の温度をローラ温度より高くして、延伸点を過熱空気や過熱蒸気の噴出点に位置させることが、延伸倍率を高く、かつ、操業性よく延伸できるので好ましい
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、実施例における各種特性の測定及び評価は、次の方法により実施した。
(1) 重合体の融点(℃)
パ−キンエルマ社製示差走査型熱量計DSC−2型を用い、重合体試料約5mg、窒素中、昇温速度10℃/分、200℃で5分保持し、降温速度10℃/分で20℃まで降温し、再び昇温速度10℃/分で200℃まで昇温させた時の最大融解発熱ピーク温度を融点 (Tm)とした。
(2) ガラス転移温度(℃)
上記融点を測定する際に得た初期発熱ピーク温度をガラス転移温度 (Tg)とした。
(3) 結晶化温度(℃)
上記融点を測定する際に得た吸熱ピーク温度を結晶化温度(Tc)とした。
(4) MFR(g/10分)
ASTM D1238における210℃、2160g荷重下で測定した値である。
【0030】
(5) 繊維の強度、伸度JIS L−1013に準じ、掴み間隔25cm、引張速度30cm/分の条件下で引張した時の最大引張強さを繊度で除したものを強度(g/d)とし、またその時の伸び率から伸度(%)を求めた。
(6) 繊維の乾熱収縮率JIS L−1013に準じ、乾熱温度120℃、15分間熱処理を行って乾熱収縮率を求めた。
(7) 繊維のF/F耐摩耗性直径100mmの円柱回転板とその軸部が荷重140g一定に付与されて水平方向に移動するラビング装置を用いて、繊維は、円柱回転板の外周を旋回後、互いに2回クロスさせてそのクロス角度を50度一定で、ストローク長3cm、ストローク速度30回/分で繊維/繊維(F/F)の擦過により切断するまでのストローク回数を計測して耐摩耗性とした。この値が大きい程、耐摩耗性がよいことを意味する。
(8) 繊維の生分解性長繊維の試料片を土中に埋設して2年後に取り出し、繊維形態が保持されていない場合、あるいはその形態を保持しているが、引張強力が埋設前の50%以下に低下している場合、分解性が良好であると評価した。
【0031】
実施例1
光学純度が99%でMFRが20g/10分であり、DSCによるガラス転移温度(Tg)60℃、結晶化温度(Tc)136℃、融点(Tm)170℃のポリL−乳酸樹脂を重合体として用い、溶融紡糸を行った。まず、単軸のエクストルーダー型溶融押し出し機1台による紡糸機を用いて、温度220℃で溶融し、孔径0.4mm、孔数96のノズル口金より吐出量128g/分で紡出し、空気冷却装置にて冷却、非水系油剤を付与しながら紡糸速度300m/分の速度で引き取り、引き続き4段延伸が可能なスピンドロー型熱延伸を行った。
【0032】
熱延伸は、1段目/2段目/3段目の延伸倍比を8/1/1とし、4段目は0.98の延伸倍率を付与した。また、第1ローラ温度は110℃、第2ローラ温度は120℃とし、第3ローラ温度は130℃、第4ロール温度は140℃、第5ロール温度は150℃で総延伸倍率を7.1倍として延伸を行って、500デニール/96フィラメントの長繊維を得た。なお、第1ローラより引き取った未延伸繊維を、引き続き別の捲取機を準備して300m/分で巻き取った後、その繊維の水分率を測定したところ0%であった。
【0033】
得られた長繊維は、密着もなく、繊維表面は全単繊維が平滑な状態にあり、強度5.3g/d、伸度25%、120℃における乾熱収縮率8%であった。この繊維のF/F耐摩耗性は、6500回であり、優れた耐摩耗性を有する繊維であった。また、この長繊維を土中に埋設し、その生分解性を評価したところ、良好であることが確認できた。
【0034】
実施例2
光学純度が99.5%でMFRが10g/10分であり、DSCによるガラス転移温度63(Tg)℃、結晶化温度(Tc)139℃、融点(Tm)175℃のポリL−乳酸樹脂を重合体として用い、吐出量を96.7g/分、総延伸倍率を5.8とした以外は実施例1と同じ方法で500デニール/96フィラメントの長繊維を製造した。なお、延伸前の未延伸繊維の水分率は0%であった。
【0035】
得られた長繊維は、密着もなく、繊維表面は全単繊維が平滑な状態にあり、強度5.6g/d、伸度27%、120℃における乾熱収縮率8%であった。この繊維のF/F耐摩耗性は7400回であり、優れた耐摩耗性を有する繊維であった。また、この長繊維を土中に埋設し、その生分解性を評価したところ、良好であることが確認できた。
【0036】
実施例3
光学純度が95%で、MFRが18g/10分であり、DSCにおけるガラス転移温度(Tg)56℃で、結晶化温度(Tc)130℃、融点(Tm)152℃であるポリL−乳酸樹脂の重合体を用いたこと、吐出量を108g/分としたこと、非水系油剤の代わりに、油剤濃度20%のエマルジョン系油剤を用いたこと以外は実施例1と同じ方法で紡糸を行った。
【0037】
また、熱延伸は、各ローラ温度を15℃ずつ下げた温度を適用したこと、総延伸倍率を6.5倍としたこと以外は実施例1と同様にして500デニール/96フィラメントの長繊維を得た。なお、第1ローラより引き取った未延伸繊維を、引き続き別の捲取機を準備して300m/分で巻き取った後、その繊維の水分率を測定したところ3.0%であった。
【0038】
得られた長繊維は、密着もなく、繊維表面は極く一部の単繊維に微細な凹凸が観察されたが、強度4.8g/d、伸度28%、120℃における乾熱収縮率10%であった。この繊維のF/F耐摩耗性は5000回であり、実用的な耐摩耗性を有する繊維であった。この長繊維を土中に埋設し、その生分解性を評価したところ、良好であることが確認できた。
【0039】
実施例4
光学純度が99%で、MFRが50g/10分であり、DSCによるガラス転移温度(Tg)60℃、結晶化温度(Tc)136℃、融点(Tm)170℃のポリL−乳酸樹脂を重合体として、紡糸温度210℃、吐出量137g/分で溶融紡糸を行ない、総延伸倍率8.2倍として延伸を行ったこと以外は実施例1と同じ方法で、500デニール/96フィラメントの長繊維を得た。なお、延伸前の未延伸繊維の水分率は0%であった。
【0040】
得られた長繊維は、密着もなく、繊維表面は全単繊維が平滑な状態にあり、強度5.8g/d、伸度26%、120℃における乾熱収縮率8%であった。この繊維のF/F耐摩耗性は6400回であり、優れた耐摩耗性を有する繊維であった。また、この長繊維を土中に埋設し、その生分解性を評価したところ、良好であることが確認できた。
【0041】
実施例5
光学純度が99%で、MFRが4g/10分であり、DSCによるガラス転移温度(Tg)60℃、結晶化温度(Tc)136℃、融点(Tm)170℃のポリL−乳酸樹脂を重合体として、紡糸温度230℃、吐出量86.7g/分で溶融紡糸を行ない、総延伸倍率5.2倍として延伸を行った以外は実施例1と同じ方法で、500デニール/96フィラメントの長繊維を得た。なお、延伸前の未延伸繊維の水分率は0%であった。
【0042】
得られた長繊維は、密着もなく、繊維表面は全単繊維が平滑な状態にあり、強度6.5g/d、伸度26%、120℃における乾熱収縮率8%であった。この繊維のF/F耐摩耗性は、8600回であり、優れた耐摩耗性を有する繊維であった。また、この長繊維を土中に埋設し、その生分解性を評価したところ、良好であることが確認できた。
【0043】
実施例6
吐出量108g/分、第2ローラと第3ローラ間に140℃の過熱空気で加熱延伸できる装置(糸条導入口の直径が2.5mmで、過熱空気は走行する糸条に対して+30度と−30度の2角度で、流速は1200m/分で当たる)を具備し、1段目/2段目/3段目の延伸比を7.5/2/0.5とし、総延伸倍率6.5倍として延伸を行った以外は実施例1と同じ方法で、500デニール/96フィラメントの長繊維を得た。なお、延伸前の未延伸繊維の水分率は0%であった。
【0044】
得られた長繊維は、密着もなく、繊維表面は全単繊維が平滑な状態にあり、強度6.8g/d、伸度27%、120℃における乾熱収縮率8%であった。この繊維のF/F耐摩耗性は、9100回であり、優れた耐摩耗性を有する繊維であった。また、この長繊維を土中に埋設し、その生分解性を評価したところ、良好であることが確認できた。
【0045】
比較例1
光学純度が93%で、MFRが25g/10分であり、DSCにおけるガラス転移温度(Tg)49℃で、結晶化温度(Tc)、融点(Tm)を示さないポリL−乳酸樹脂(実溶融温度125℃)を重合体として用い、溶融紡糸を行った。まず、単軸のエクストルーダー型溶融押し出し機1台による紡糸機を用いて、温度220℃で溶融し、孔径0.4mm、孔数96のノズル口金より吐出量63g/分で紡出し、空気冷却装置にて冷却、エマルジョン系油剤をオイリングローラで付与しながら紡糸速度560m/分の速度で引き取った。この未延伸繊維の水分率は4%であった。
【0046】
次いで、この未延伸繊維を、2段延伸可能な熱延伸機を用いて延伸を行った。第1ローラ温度は25℃、第2ローラ温度は80℃とし、第3ローラ温度は25℃で、第2ローラと第3ローラ間のヒータ温度は120℃、1段目の延伸倍率1.01、2段目の延伸倍率3.76で延伸を行い、500デニール/96フィラメントの長繊維を得た。
【0047】
得られた長繊維には密着はなかったが、一部の単繊維は長手方向に凹凸を有していた。また、繊維の性能は、強度3.6g/d、伸度30%、120℃における乾熱収縮率28%であった。この繊維のF/F耐摩耗性は3600回であり、耐摩耗性が劣る繊維であった。また、この長繊維を土中に埋設し、その生分解性を評価したところ、良好であることは確認できた。
【0048】
比較例2
油剤濃度20%のエマルジョン系油剤に代えて、油剤濃度が10%でオイリング回転速度を倍にした以外は実施例3と同じ条件で紡糸延伸を行って、500デニール/96フィラメントの長繊維を得た。
【0049】
得られた長繊維には密着はなかったが、繊維表面は、全単繊維の半数以上が長さ方向に凹凸を有していた。延伸前の未延伸繊維の水分率を測定すると7%もあり、この水分が繊維表面の凹凸に起因することが分かった。得られた繊維は、強度4.2g/d、伸度28%、120℃における乾熱収縮率9%であった。この繊維のF/F耐摩耗性は1900回であり、耐摩耗性が劣る繊維であった。








【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学純度が95%以上、メルトフローレート値が1〜50g/10分であるポリ乳酸系重合体からなる未延伸繊維の水分を3%以下に調整した後、熱延伸を行うことによる、強度が4.0g/d以上、繊維/繊維の耐摩耗性が5000回以上であることを特徴とするポリ乳酸系マルチフィラメント。










【公開番号】特開2009−79349(P2009−79349A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312181(P2008−312181)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【分割の表示】特願平10−313136の分割
【原出願日】平成10年11月4日(1998.11.4)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】