説明

ポリ乳酸系樹脂シートおよびそれからなる飼育容器インナーケージ

【課題】本発明は、透明性、加工性、すべり性、耐摩耗性、滅菌処理に優れ、特に成形品に適したポリ乳酸系樹脂シート及び飼育容器インナーケージを提供せんとするものである。
【解決手段】ポリ乳酸系樹脂を含む層(以下、ポリ乳酸層という)と、該ポリ乳酸層の少なくとも片面にシリコーン系離形層を有するシートであって、
前記ポリ乳酸層の融点が、140〜155℃であり、
ヘイズが0.5〜3.5%であり、
少なくとも片面の2次元中心線平均粗さが0.001〜0.05μmであることを特徴とする、飼育容器インナーケージ用ポリ乳酸系樹脂シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系樹脂シートおよびそれからなる飼育容器インナーケージに関する。ポリ乳酸系樹脂シートおよびそれからなる飼育容器インナーケージは、例えば、動物実験分野において、好適に用いられる。本発明は、透明性、加工性、すべり性、耐摩耗性、滅菌処理に優れ、特に成形品に適したポリ乳酸系樹脂シート及び飼育容器インナーケージに関する。
【背景技術】
【0002】
従来動物実験等に用いられる飼育ケージはポリカーボネートなどの樹脂を用いてきた。当該ケージは1〜2週間に1回の割合で蒸気滅菌を施した新しい飼育ケージへ飼育動物を移し替え、使用していたケージから床敷き、糞尿を取り出した後に該ケージを水洗、蒸気滅菌して繰り返し使用してきた。この再生作業は糞尿の臭いの中での作業となるため作業環境としては好ましくなく、また、衛生的にも好ましいとは言えないものであった。また、このような再生作業を行った場合、洗浄による汚水の発生があり、環境負荷も決して小さなものではない。特に、感染実験やDNA操作などに用いられたケージの洗浄は汚染除去にコスト、労力、時間を費やす必要があり、作業を省略することが望まれてきた。
【0003】
これらの問題を解決するため飼育ケージとして必要な強度を保持するアウターケージ内に交換可能なインナーケージを挿入し、実験動物を飼育する方法が提案されてきた。この方法では、1〜2週間の飼育に使用した後はインナーケージを交換し、使用済みのインナーケージを焼却処分することとなる。これにより、ケージを洗浄滅菌する手間や労力が省け、洗浄・滅菌の際に必要だった光熱費・汚水処理の節約が可能となった。何より、直接糞尿や床敷に触れることなく作業ができ、作業者が衛生的な環境で作業することが可能となっている。
【0004】
その一方で、このようなインナーケージの使用は新たなプラスチック製品が廃棄物として排出されることとなり、環境負荷を生み出すものとなる。近年、大気中の炭酸ガス濃度増加による地球温暖化問題が世界的な問題となりつつあり、各産業分野においても、大気中への炭酸ガス排出量を削減する技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−552045号公報
【特許文献2】特開2010−251390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1にはインナーケージを用いること、該インナーケージの材質として生分解性樹脂を用いることなどが記載されているが、飼育ユニットとしての構成の記述のみに終始し、成形品に適したポリ乳酸系樹脂シート及びポリ乳酸系樹脂シートからなる飼育容器インナーケージについてどのような特性であるのかについて具体的な記述はない。
【0007】
特許文献2には電離放射線照射による滅菌時に強度と耐衝撃性の低下の少ない芳香族系生分解性樹脂組成物を用いた医療用具および医療用材料を提供することを目的として芳香族ポリエステル系生分解性樹脂とポリ乳酸とからなる組成物を含有し、前記組成物重量の25〜70重量%がポリ乳酸であることを特徴とする電離放射線滅菌された医療用具および医療用材料についての記載があるが、該発明はポリブチレンアジペート・テレフタレート共重合体、ポリブチレンサクシネート・テレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル系生分解性樹脂とポリ乳酸とからなる組成物を含有し、前記組成物重量の25〜70重量%がポリ乳酸であることを特徴とする電離放射線滅菌された医療用具および医療用材料としている。該発明では石油由来の芳香族ポリエステル系生分解性樹脂を30〜75重量%含むため、樹脂のバイオマス度や環境負荷の低減といった面に於いては改善すべき点が残る。また、該発明で用いるポリブチレンアジペート・テレフタレート共重合体、ポリブチレンサクシネート・テレフタレートは透明性の点でポリ乳酸に劣り、本発明にて適用する飼育容器インナーケージに適用した場合、視認性に問題が生じるため転用することは難しい。
【0008】
そこで本発明は、上述した課題解決を目的として鋭意検討した結果、達成されたものであり、透明性、加工性、すべり性、耐摩耗性、滅菌処理に優れ、特に成形品に適したポリ乳酸系の樹脂シートおよびポリ乳酸系樹脂シートからなる飼育容器インナーケージを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために次のような手段を採用するものである。
(1) ポリ乳酸系樹脂を含む層(以下、ポリ乳酸層という)と、該ポリ乳酸層の少なくとも片面にシリコーン系離形層を有するシートであって、
前記ポリ乳酸層の融点が、140〜155℃であり、
ヘイズが0.5〜3.5%であり、
少なくとも片面の2次元中心線平均粗さが0.001〜0.05μmであることを特徴とする、飼育容器インナーケージ用ポリ乳酸系樹脂シート。
(2)上述(1)のシートからなる飼育容器インナーケージ。
(3)内側最表面がポリ乳酸層であることを特徴とする上述(2)記載の飼育容器インナーケージ。
(4) シリコーン系離形層の側から放射線を照射することにより得られることを特徴とする、上述(2)または(3)に記載の飼育容器インナーケージ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、透明性、加工性、すべり性、耐摩耗性、滅菌処理に優れ、特に飼育容器インナーケージ用に適したポリ乳酸系樹脂シートが提供される。本発明のポリ乳酸系樹脂シートを用いれば、従来の石油系樹脂からなるインナーケージの透明性、加工性、すべり性、耐摩耗性、滅菌処理性を損なうことなく、環境低負荷な成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のポリ乳酸系樹脂シートについて説明する。なお、以下において「シート」とは、2次元的な構造物、例えば、フィルム、プレートなどを含む意味に用い、また、「成形品」とは、3次元的な構造物、例えば容器や印刷物など、前記シートに加工が施されたものを含む意味に用いる。
【0012】
本発明の飼育容器インナーケージ用ポリ乳酸系樹脂シートは、ポリ乳酸系樹脂を含む層(以下、ポリ乳酸層という)と、該ポリ乳酸層の少なくとも片面にシリコーン系離形層を有するシートであって、前記ポリ乳酸層の融点が、140〜155℃であり、ヘイズが0.5〜3.5%であり、少なくとも片面の2次元中心線平均粗さが0.001〜0.05μmであることを特徴とする。つまり本発明のポリ乳酸系樹脂シートは、ポリ乳酸系樹脂を含むものであって、さらに以下の条件を満たすことが重要である。
(条件1)ポリ乳酸層の融点が140〜155℃である。
(条件2)シートのヘイズが0.5〜3.5%である。
(条件3)シートの少なくとも片面の2次元中心線平均粗さが0.001〜0.05μmである。
(条件4)ポリ乳酸層の少なくとも片面にシリコーン系離形層を有する。
【0013】
以下、本発明の各要件についてそれぞれ説明する。
【0014】
本発明のポリ乳酸層は、融点が140〜155℃であることが重要である。ポリ乳酸層の融点が140℃より低いと、成形加工後に十分な強度を有することができずにインナーケージとして不適切なものとなってしまう。また、ポリ乳酸層の融点が155℃よりも高いと、ポリ乳酸系樹脂シートをインナーケージに成型する際に結晶化が進みすぎ、割れやすくなったり、透明性を損なうこととなり、本用途としては不適切なものとなってしまう。このため、本発明のポリ乳酸系樹脂シートを構成するポリ乳酸層は、融点が140〜155℃であることが重要である。
【0015】
ここで、融点が140〜155℃であるポリ乳酸系樹脂を含む層とは、該層においてポリ乳酸系樹脂が主たる成分であることが好ましい。ポリ乳酸層中のポリ乳酸系樹脂を含む割合は、廃棄時の炭酸ガス排出量を削減する観点から多い方が好ましく、好ましくはポリ乳酸層(ポリ乳酸系樹脂を含む層)の全体100質量%において、ポリ乳酸系樹脂を70〜100質量%含む態様であり、より好ましくは80〜100質量%、さらに好ましくは90〜100質量%、最も好ましくは95〜100質量%の範囲である。
【0016】
本発明に用いられるポリ乳酸系樹脂は、L−乳酸および/またはD―乳酸を主成分とする。そしてL−乳酸および/またはD―乳酸が主成分とは、これら乳酸由来の成分が、ポリ乳酸系樹脂を構成する全ての単量体成分100モル%において70モル%以上100モル%以下のものをいい、実質的にL−乳酸および/またはD―乳酸のみからなるホモポリ乳酸が好ましく用いられる。
【0017】
また本発明に用いるポリ乳酸系樹脂は、結晶性を有することが好ましい。ポリ乳酸系樹脂が結晶性を有するとは、該ポリ乳酸を加熱下で十分に結晶化させた後に、適当な温度範囲で示差走査熱量分析(DSC)測定を行った場合、ポリ乳酸成分に由来する結晶融解熱が観測されることを言う。
【0018】
通常、ホモポリ乳酸は、光学純度が高いほど融点や結晶性が高い。ポリ乳酸系樹脂の融点や結晶性は、分子量や重合時に使用する触媒の影響を受けるが、通常、ポリ乳酸系樹脂を構成する全モノマー由来の成分100モル%において、L−乳酸由来の成分が99モル%以上のホモポリ乳酸系樹脂では、融点が約170℃程度であり、結晶性も比較的高い。また、光学純度が低くなるに従って融点や結晶性が低下し、例えばポリ乳酸系樹脂を構成する全モノマー由来の成分100モル%において、L−乳酸由来の成分の量が94モル%のホモポリ乳酸では融点は約145℃程度であり、L−乳酸由来の成分量が88モル%のホモポリ乳酸では融点は約120℃程度である。L−乳酸由来の成分が85モル%よりもさらに低いホモポリ乳酸では、明確な融点は示さず非結晶性となる。
【0019】
本発明のシートを構成するポリ乳酸層の融点を140〜155℃に制御するためには、ポリ乳酸層中に用いるポリ乳酸系樹脂の融点を140〜155℃の範囲とすることが好ましいので、結晶性を有するホモポリ乳酸と非晶性のホモポリ乳酸を混合することも可能である。この場合、非晶性のホモポリ乳酸の割合は本発明の効果を損ねない範囲で決定すれば良く、使用するポリ乳酸系樹脂のL−乳酸由来の成分量が92〜97モル%のポリ乳酸であることが好ましい。
【0020】
本発明に用いるポリ乳酸系樹脂の質量平均分子量は、通常少なくとも5万、好ましくは8万〜40万、さらに好ましくは10万〜30万である。なお、ここでいう質量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でクロロホルム溶媒にて測定を行い、ポリメチルメタクリレート換算法により計算した分子量をいう。
【0021】
ポリ乳酸系樹脂の質量平均分子量を少なくとも5万とすることで、該ポリ乳酸系樹脂を含んだ組成物を本発明であるポリ乳酸系シートに加工した際には、機械的物性が優れたものとすることができる。
【0022】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートを構成するポリ乳酸系樹脂としては、Nature Works製“Ingeo”4032D(D体量=1.4%)、4042D(D体量=4.25%)、4050D(D体量=5.5%)、4060D(D体量=12%)などが挙げられる。これらを用いて本発明の条件であるポリ乳酸層の融点を140〜155℃とするためには、各樹脂を適宜ブレンドしたり、他の樹脂とブレンドしても構わない。
【0023】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートが目的とする飼育容器インナーケージは、生分解性を必要とせず保管耐久性があった方が好ましい用途であることから、ポリ乳酸系樹脂の加水分解による強度低下を抑制し、良好な耐久性を付与する観点から、ポリ乳酸系樹脂基材中のカルボキシル基末端濃度が0当量/10kg以上30当量/10kg以下であることが好ましく、より好ましくは20当量/10kg以下、さらに好ましくは10当量/10kg以下である。ポリ乳酸系樹脂基材中のカルボキシル基末端濃度が30当量/10kg以下であると、加水分解の自己触媒ともなるカルボキシ基末端濃度が十分低いために、用途にもよるが実用的に良好な耐久性を付与できる場合が多い。
【0024】
ポリ乳酸系樹脂基材中のカルボキシル基末端濃度を30当量/10kg以下とする方法としては、例えば、ポリ乳酸系樹脂の合成時の触媒や熱履歴により制御する方法、シート製膜時の押出温度を低下あるいは滞留時間を短時間化する等熱履歴を低減する方法、反応型化合物を用いカルボキシル基末端を封鎖する方法等が挙げられる。
【0025】
反応型化合物を用いカルボキシル基末端を封鎖する方法では、ポリ乳酸系樹脂基材中のカルボキシル基末端の少なくとも一部が封鎖されていることが好ましく、全量が封鎖されていることがより好ましい。反応型化合物としては、例えば、脂肪族アルコールやアミド化合物等の縮合反応型化合物やカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物等の付加反応型化合物が挙げられるが、反応時に余分な副生成物が発生しにくい点で付加反応型化合物が好ましく、中でも反応効率の点からカルボジイミド化合物が好ましい。
【0026】
また、本発明に用いるポリ乳酸系樹脂は、L−乳酸、D−乳酸のほかにエステル形成能を有するその他の単量体成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよい。共重合可能な単量体成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体が挙げられる。なお、上記した共重合成分の中でも、用途に応じて生分解性を有する成分を選択することが好ましい。これら共重合成分は、ポリ乳酸系樹脂を構成する全ての単量体成分100モル%において0モル%以上30モル%以下含有することが好ましい。
【0027】
ポリ乳酸系樹脂の製造方法としては、詳細は後述するが、乳酸からの直接重合法、ラクチドを介する開環重合法などを挙げることができる。
【0028】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートには、経済性などの観点から、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明のポリ乳酸系樹脂シートを製造する際に生じた屑や、他のシートを製造する際に生じた屑をブレンドして使用してもかまわない。
【0029】
なお、本発明のポリ乳酸層には、ポリ乳酸系樹脂以外に他の樹脂や粒子などを混合させることができる。例えば、耐衝撃性の改良方法として、ポリ乳酸にゴム粒子特にシリコーンアクリル複合ゴムなどを含有させることができ、また、ポリ乳酸に多層構造重合体としてコアーシェル型ゴムを含有させることができる。その他の改良方法としては、ポリ乳酸系樹脂を減量して、その代わりにポリブチレンアジペートテレフタレートやポリブチレンサクシネートなどの生分解性樹脂を用いても良い。
【0030】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートは、ヘイズが0.5〜3.5%であることが重要である。ヘイズが3.5%よりも高いとインナーケージを成型した際に該ケージが曇った状態となるため飼育動物の観察に対して視認性が低下するようになる。なお、ポリ乳酸系樹脂の一般的な特性から、ポリ乳酸系樹脂シートのヘイズとしては0.5%未満にすることは困難であることから、ポリ乳酸系樹脂シートのヘイズの下限は0.5%程度である。このため、本発明の本発明のポリ乳酸系樹脂シートは、ヘイズが0.5〜3.5%であることが重要である。
【0031】
ヘイズを0.5〜3.5%に制御する方法としては、ポリ乳酸層中のポリ乳酸系樹脂に適切な範囲の結晶性を有する樹脂を用いることが肝要であり、ポリ乳酸層中のポリ乳酸系樹脂として融点が140〜155℃であるポリ乳酸系樹脂を用いることが好ましい。ポリ乳酸層中に融点が155℃よりも高いポリ乳酸系樹脂を用いると、ポリ乳酸系樹脂シートを結晶化により透明性を損なってヘイズが上昇するため本用途としては不適切なものとなってしまう。一方、ポリ乳酸層中に融点が140℃より低いポリ乳酸系樹脂を用いると、成形加工後に十分な強度を有することができずにインナーケージとして不適切なものとなってしまう。本発明のポリ乳酸系樹脂シートは、融点が140〜155℃であるポリ乳酸系樹脂を含むことが重要である。
【0032】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートには、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の酸化防止剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、抗酸化剤、イオン交換剤、結晶核剤、着色顔料等の各種添加剤、あるいは滑剤として、無機微粒子やゴム粒子以外の有機粒子、有機滑剤を必要に応じて添加してもよい。各種添加剤などの好ましい含有量は、ポリ乳酸系樹脂を含む層の全成分100質量%において0.1質量%以上2.0質量%以下である。
【0033】
酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系などが例示される。着色顔料としてはカーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄などの無機顔料の他、シアニン系、スチレン系、フタロシアニン系、アンスラキノン系、ペリノン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、キノクリドン系、チオインディゴ系などの有機顔料等を使用することができる。
【0034】
無機粒子としては、シリカ等の酸化ケイ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の各種炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の各種硫酸塩、カオリン、タルク等の各種複合酸化物、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等の各種リン酸塩、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の各種酸化物、フッ化リチウム等の各種塩等からなる微粒子を使用することができる。無機粒子の平均粒径は、特に限定されないが、0.01〜5μmが好ましく、より好ましくは0.05〜3μm、最も好ましくは0.08〜2μmである。
【0035】
またゴム粒子以外の有機粒子としては、シュウ酸カルシウムや、カルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩などからなる微粒子が使用される。架橋高分子粒子としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸のビニル系モノマーの単独または共重合体からなる微粒子が挙げられる。その他、ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの微粒子も好ましく使用される。有機粒子の平均粒径は、特に限定されないが、0.01〜5μmが好ましく、より好ましくは0.05〜3μm、最も好ましくは0.08〜2μmである。
【0036】
有機滑剤としては、例えば、流動パラフィン、天然パラフィン、合成パラフィン、ポリエチレンなどの脂肪族炭化水素系、ステアリン酸、ラウリル酸、ヒドロキシステアリン酸、硬性ひまし油などの脂肪酸系、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミドなどの脂肪酸アミド系、ステアリン酸アルミ、ステアリン酸鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどの脂肪酸金属塩、グリセリン脂肪酸エステル、ルビタン脂肪酸エステルなどの多価アルコールの脂肪酸(部分)エステル系、ステアリン酸ブチルエステル、モンタンワックスなどの長鎖エステルワックスなどの長鎖脂肪酸エステル系などが挙げられる。中でも、ポリ乳酸との適度な相溶性から少量で効果の得られやすい、ステアリン酸アミドやエチレンビスステアリン酸アミドが好ましい。
【0037】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートは、少なくとも片面の2次元中心線平均粗さが0.001〜0.05μmであることが重要である。少なくとも片面の2次元中心線平均粗さが0.05μmを超える場合、マット状の表面となるため内部の視認性を損なうこととなる。一方、少なくとも片面の2次元中心線平均粗さが0.001μm未満の場合、成型加工時に積層したシート同士が滑らずに送り不良が発生するなど加工効率を低下させてしまう。
【0038】
このため、少なくとも片面を0.001〜0.05μmの範囲に2次元中心線平均粗さRaを調整することが重要である。更に好ましくは、シート両面の2次元中心線平均粗さが0.001〜0.05μmであることである。両面ともに2次元中心線平均粗さRaが0.001〜0.05μmの範囲にある場合、視認性と成形加工時の取り扱い性の何れにも好ましいポリ乳酸系樹脂シートとすることができる。どちらか片面であった場合、シリコーン系離形層はポリ乳酸層と比較して滑り性や離型性に富むことから、ポリ乳酸層が該範囲を満たすことが好ましい。
【0039】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂シートを用いて飼育容器のインナーケージとした場合、アウターケージとの接触面において削れ防止を図るため適度な表面粗さ、つまり2次元中心線平均粗さが0.001〜0.05μmであることが重要である。
【0040】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートにおいて、少なくとも片面の2次元中心線平均粗さを0.001〜0.05μmとするための方法は、特に限定されないが、例えば、Tダイから押出した後、5〜50℃の一対の金属製キャスティングロール同士で冷却固化する方法等を挙げることができる。このとき一対のキャスティングロールの温度設定条件を選択することにより、上述の2次元中心線平均粗さを満たすことができる。また、先に述べたように本発明にて目標とするヘイズの範囲を外れない範囲で上述の表面粗さを達成するよう滑剤として無機粒子および/または有機粒子を添加しても良い。
【0041】
上述のヘイズや2次元中心線平均粗さRaの範囲を満たすポリ乳酸系樹脂シートとするためには、ポリ乳酸層が単一処方である単層フィルムであっても、ポリ乳酸層が複数の層を有して各層毎に処方を変更して機能性を付与する積層構成であってもよい。本発明のポリ乳酸系樹脂シートのポリ乳酸層は、上述の範囲を満たせば単層であっても積層構成であってもいずれもとりえるが、本発明のポリ乳酸系シートのポリ乳酸層が積層構成の場合は、共押出による積層構成のものを意味する。本発明のポリ乳酸系シートのポリ乳酸層を積層構成とした場合、目的に応じた樹脂組成物を溶融押出し、口金上に設置されたフィードブロックにて合流せしめるか、または、同様にして別の流路からマルチマニホールド口金にて積層し口金よりシート状に共押出される。
【0042】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートは、ポリ乳酸層の少なくとも片面にシリコーン系離形層を有することが重要である。本発明のポリ乳酸系樹脂シートは飼育用インナーケージとして成型加工される際、真空成型などの加工工程に供される。当該工程においては本発明のポリ乳酸系樹脂シートを所望の形に成型するため加熱した金型等を用いて成型加工を行う。この時、金型に対する離型性に乏しいと成型後のシートが金型上に粘着し、目標とする形を得られない、加工性に乏しいなどの問題を有することとなる。
【0043】
また、本発明のインナーケージは成形後の後工程において放射線での滅菌処理を施されるが、通常のポリ乳酸樹脂は放射性に対する耐性が低いため、減菌処理を施している際に樹脂の劣化を生じてしまう。さらに、本発明のインナーケージをアウターケージと組み合わせて飼育容器として使用する際、インナーケージとアウターケージの間の摩擦が大きいとインナーケージの交換作業に手間取ることとなり本発明の適用効果が薄れることとなる。また、飼育容器として使用中、飼育動物からの振動によりインナーケージとアウターケージがこすれる状況が生じるが、インナーケージとアウターケージの間の摩擦が大きいと接触面での削れが生じ、視認性が低下するなどの問題を生じることとなる。
【0044】
このような問題を解決するため、本発明のポリ乳酸系樹脂シートは、ポリ乳酸層の少なくとも片面にシリコーン系離形層を有することが重要である。該シリコーン系離形層は、ポリ乳酸系樹脂と混合して共押出することで、ポリ乳酸層とシリコーン系離形層を形成しても、ポリ乳酸層に塗布することで付与しても良いが、塗布工程により付与されるのが一般的である。塗布工程にてシリコーン離型層を設ける場合、シート成形と同一ラインにて当該塗布を行うインラインコーティング、シート成形の後ロール上に巻き取ったものを塗布工程に供するオフラインコーティングのいずれの方法を用いても良い。
【0045】
このシリコーン系離型層は必要に応じて片面のみに設けても、両面に設けてもいずれの場合でも良いが、本発明にて目的とする内側最表面がポリ乳酸層であることで、樹脂劣化による酸末端および乳酸オリゴマー増加に起因する制菌効果を得るためにはシリコーン系離型層を片面のみとすることが好ましい。その一方で、上述の制菌効果よりも離型性を重視する場合には両面にシリコーン系離型層を設けても構わない。
【0046】
シリコーン系離型層を塗布する塗布方法は特に限定されるものではないが、シリコーン化合物からなる被膜の形成は、常法により、シリコーンエマルジョンを塗布し、乾燥することによって行うことができる。シリコーン化合物の例としては、ジメチルシロキサンや、(ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン)メチルポリシロキサン等の共重合型のシリコーンなどを用い、これらの水系エマルジョンを形成して塗付液とすれば良い。
【0047】
シリコーン系離型層について、水系エマルジョンでのシリコーン化合物の含有量に特に制限はないが、各塗布方法で問題を生じない塗布厚みと被膜量の関係から適切な範囲のものを用いればよい。一般的に、水系塗剤を塗布する場合、塗布量が多くなると乾燥時間を稼ぐために乾燥工程が長くなる、ライン速度を遅くするなどの対応を求められる。このため、塗布量としては薄い方が好ましいが、薄すぎると塗布スジを生じるなどの品質問題を生じることがある。このため、水系塗剤の塗布厚みとしては1〜10μm程度が一般的であり、シリコーン化合物の含有量としては溶媒である水に対して0.05〜8質量%が好ましい。
【0048】
シリコーン系離型層としては上述の塗剤を塗布し、さらにこれを乾燥させて塗膜の水分を十分に揮発させれば良い。上記の塗剤を塗布する方法としては、ローターダンプニング法、キスロールエアーナイフ法、リバースロール法、グラビアロール法などの従来公知の方法が挙げられる。乾燥についても通常用いられる赤外線ヒーター、電熱炉、加熱除湿熱風など塗剤の水分を十分に揮発させることができれば特に制限されるものではない。
【0049】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートのシリコーン系離型層の被膜量は特に制限されないが、通常10mg/m以上、200mg/m以下である。被膜量が10mg/m未満では離型効果が付与できない場合が多い。また被膜量が200mg/mを超えてもそれ以上の優位な効果は得られず、むしろ外観不良やブロッキングといった弊害が顕著になる場合が多い。本発明のポリ乳酸系樹脂シートが、間接加熱方式の真空成形加工または真空圧空成形加工に用いられる場合、シリコーン系離型層の被膜量は30mg/m以上、150mg/m以下であることがより好ましい。一方で熱板直接加熱方式の真空成形加工または真空圧空成形加工に用いられる場合のシリコーン系離型層の被膜量は、シート加熱時に離型層が熱板に奪われてしまうという理由から、被膜量は70mg/m以上、150mg/m以下であることがより好ましい。
【0050】
つまりシリコーン系離型層の被膜量は、間接加熱方式の真空成形加工、間接加熱方式の真空圧空成形加工、熱板直接加熱方式の真空成形加工、及び熱板直接加熱方式の真空圧空成形加工のいずれの方式にも好適に使用できるという点から、70mg/m以上、150mg/m以下であることが特に好ましい。
【0051】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートからなる飼育容器インナーケージは上述の条件を備えるシートからなることが重要である。
【0052】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートからなる飼育容器インナーケージの成形法としては、特に限定されるものではないが、本発明のポリ乳酸系樹脂シートに対して真空成形、真空圧空成形、プラグアシスト成形、ストレート成形、フリードローイング成形、プラグアンドリング成形、スケルトン成形などの各種成形法を適用できる。各種成形法におけるシート予熱方式としては、間接加熱方式と熱板直接加熱方式があり、間接加熱方式はシートから離れた位置に設置された加熱装置によってシートを予熱する方式であり、熱板直接加熱方式は、シートと熱板が接触することによってシートを予熱する方式である。
【0053】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートからなる飼育容器インナーケージは、内側最表面がポリ乳酸層であることが好ましい。内側最表面がポリ乳酸層であることで、樹脂劣化による酸末端および乳酸オリゴマー増加に起因する制菌効果の向上効果が得られることとなる。
【0054】
この制菌効果に対して、放射線による減菌処理時の樹脂劣化を両立させるためには、シリコーン系離形層を有する面の側から放射線を照射することにより得られる飼育容器インナーケージとすることが好ましい。シリコーン系離形層を持たない面より放射線を照射した場合、樹脂劣化による制菌効果は得られるが、樹脂劣化が進みすぎるため飼育容器としては脆くなるなど弊害も生じる。このため本発明に於いては、シリコーン系離形層を有する面の側から放射線を照射することが必要である。
【0055】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートからなる飼育容器インナーケージは、所定形状へ成形され、組み立て、包装等された後、あるいはその過程において、所定線量の放射線を照射されることにより滅菌され、医療用具等として使用されることが可能となる。照射される電離放射線の線量は、対象製品により異なり特に限定されるものではないが、5〜100kGy、好ましくは、10kGy〜60kGyである。照射する放射線の種類は、電子線、γ線、またはエックス線などを用いることができるが、工業的生産が容易であることから、電子加速器による電子線とコバルト−60からのγ線が好ましい。より好ましくは、電子線を用いる。電子加速器は、比較的厚い部分を有する医療用具等の内側まで照射を可能とするために、加速電圧1MeV以上の中エネルギーから高エネルギー電子加速器を用いることが好ましい。電離放射線の照射雰囲気は、特に限定されないが、空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行ってもよい。また、照射時の温度はいずれであってもよいが、典型的には室温で行う。
【0056】
本発明においては、上述の放射線処理による減菌処理の他、紫外線処理による減菌処理を行うことができる。本発明における紫外線処理とは、大気中で取り出せる180〜400nmの波長領域の紫外線を照射する処理をいう。この波長領域の中で、300nm以下の紫外線が特に有効である。光源としては高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプなどを使用することができる。これらの中でも、エネルギーレベルの高い183.9nmと253.7nmの波長に強いピークを有する低圧水銀ランプが好ましく使用される。かかる紫外線の照射強度は、照度が253nmの波長において、好ましくは3mW/cm2以上、より好ましくは10mW/cm2以上がよく、照射時間は数秒から数分であり、照度、時間は目的とする効果に応じて変更することができる
本発明にかかるポリ乳酸系樹脂シートを得るにあたっては、溶媒への原料の溶解や溶媒除去等の工程が不要な、より実用的な製造方法である、各成分を溶融混練することにより組成物を製造する溶融混練法を採用することが好ましい。
【0057】
その溶融混練方法については、特に制限はなく、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、単軸または二軸押出機等の通常使用されている混合機を用いることができる。中でも生産性の観点から、単軸または二軸押出機の使用が好ましい。
【0058】
またその混合順序についても特に制限はなく、例えばポリ乳酸と粒子などの添加物をドライブレンド後、溶融混練機に供する方法や、予めポリ乳酸と粒子などの添加物を溶融混練したマスターバッチを作製後、該マスターバッチとポリ乳酸とを溶融混練する方法等が挙げられる。また必要に応じて、その他の成分を同時に溶融混練する方法や、予めポリ乳酸系樹脂とその他の添加剤を溶融混練したマスターバッチを作製後、該マスターバッチと上述した粒子などの添加物を含むマスターバッチとポリ乳酸とを溶融混練する方法を用いてもよい。
【0059】
次に本発明のポリ乳酸系樹脂シートを製造する方法について具体的に説明する。
【0060】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂は、例えば、次のような方法で得ることができる。原料としては、L−乳酸またはD−乳酸の乳酸成分を主体とし、前述した乳酸成分以外のヒドロキシカルボン酸を併用することができる。またヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体、例えば、ラクチド、グリコリド等を原料として使用することもできる。更にジカルボン酸類やグリコール類等も使用することができる。
【0061】
ポリ乳酸系樹脂は、上記原料を直接脱水縮合する方法、または上記環状エステル中間体を開環重合する方法によって得ることができる。例えば直接脱水縮合して製造する場合、乳酸類または乳酸類とヒドロキシカルボン酸類を好ましくは有機溶媒、特にフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、特に好ましくは共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合することにより高分子量のポリマーが得られる。
【0062】
また、ラクチド等の環状エステル中間体をオクチル酸錫等の触媒を用い減圧下開環重合することによっても高分子量のポリマーが得られることも知られている。このとき、有機溶媒中での加熱還流時の水分および低分子化合物の除去の条件を調整する方法や、重合反応終了後に触媒を失活させ解重合反応を抑える方法、製造したポリマーを熱処理する方法などを用いることにより、ラクチド量の少ないポリマーを得ることができる。
【0063】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートは、例えばTダイキャスト法、インフレーション法、カレンダー法などの既存のフィルムの製造法により得ることが出来るが、Tダイを用いてポリ乳酸を溶融混練して押出すTダイキャスト法が好ましい。例えば、Tダイキャスト法による製法例としては、チップを60〜110℃にて3時間以上乾燥するなどして、水分量を400ppm以下、より好ましくは200ppm以下、更に好ましくは100ppm以下としたポリ乳酸を用い、溶融混練時のシリンダー温度は150℃〜240℃の範囲が好ましく、ポリ乳酸の劣化を防ぐ意味から、200℃〜220℃の範囲とすることがより好ましい。また、Tダイ温度も200℃〜220℃の範囲とすることが好ましく、Tダイから押出した後、5〜50℃のキャスティングロールにて冷却することで厚み0.1mmから1.0mm程度のシートを得る。さらに、得られたシートに、コーティング適性を向上させる目的で各種の表面処理を施すことが好ましい。表面処理の方法としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、酸処理などが挙げられ、いずれの方法をも用いることができるが、連続処理が可能であり、既存の製膜設備への装置設置が容易な点や処理の簡便さからコロナ放電処理が最も好ましいものとして例示できる。
【0064】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートは、本発明の効果を損なわない範囲であれば、単層構成であっても積層構成であってもどちらでもよい。例えば、層A/層B/層Aの順に、順次3層に積層された構成の場合、層Aにのみ粒子などの添加物が含有されてもよい。あるいは、層A、層Bの両層に粒子などの添加物が含有され、各層の含有量が異なってもよい。
【0065】
本発明のポリ乳酸系樹脂シートの厚みとしては、特に制限はないが、通常0.1mmから1.0mm程度である。本発明のポリ乳酸系樹脂シートは適用する用途が飼育容器インナーケージであることからシートは通常0.15mmから0.7mm程度の厚さが好適である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
[測定及び評価方法]
実施例中に示す測定や評価は次に示すような条件で行った。
(1)シート厚み
厚みをシート全幅に対して、マイクロゲージで10点測定し、厚みの平均値t(mm)を求めて、シート厚みとした。
(2)2次元中心線平均粗さ:Ra
JIS B 0601:2001に従い万能表面形状測定器SE−3FA((株)小坂研究所製)により、片面の2次元中心線平均粗さ(Ra)を測定した。なお、測定条件は、測定モード:触針式(STYLUS)、触針先端半径:2μm、測定力:0.7mN、測定長25mm、カットオフ:0.08mmである。触針走査方向はフィルムの長手方向と直交する巾方向とした。片面のみがシリコーン系離形層の場合、ポリ乳酸層の側について測定した。
(3)ヘイズHa値(%)
JIS−K−7105(1981年)に準じて、ヘイズメーターHGM−2DP型(スガ試験機社製)を用いてヘイズ値を測定した。測定は1水準につき3回行い、3回の測定の平均値から求めた。
【0067】
該シートに離型層がある場合、離型層が設けられている面から測定を行った。
(4)ポリ乳酸層の融点
JIS K 7122−1987に従い結晶融解ピークを測定した。セイコーインスツルメント社製のDSC(示差走査熱量計)RDC220を用いて測定した。対象となるポリ乳酸系樹脂シートより採取したポリ乳酸層の試料5mgをDSC装置にセットし、25℃から20℃/分で250℃まで昇温し、融解ピーク熱量を測定した。この時、複数の融解ピーク熱量が得られた場合には、測定によって得られた融解ピーク熱量のうち、該熱量の最も大きな部分をポリ乳酸層の融点とした。
(5)インナーケージ強度の評価
本発明のシートを用いてインナーケージを成形し、その取り扱い性について下記の評価を行った。
◎:挿入/取り外しの際、取り扱いに不具合はない
○:挿入/取り外しの際に多少撓むものの取り扱いに影響はない
△:挿入/取り外しの際に大きく撓むなど取り扱いに影響が出る
×:挿入/取り外しの際に変形してしまい取り扱いに支障が生じる
(6)インナーケージ摩擦の評価
本発明のシートを用いてインナーケージを成形し、その取り扱い性について下記の評価を行った。
◎:挿入/取り外しの際、取り扱いに不具合はない
○:挿入/取り外しの際に多少抵抗があるものの取り扱いに影響はない
△:挿入/取り外しの際に大きな抵抗があるなど取り扱いに影響が出る
×:挿入/取り外しの際に変形してしまい取り扱いに支障が生じる
(7)インナーケージ内部の視認性
本発明のシートを用いてインナーケージを成形し、その取り扱い性について下記の評価を行った。
◎:挿入後、内部の観察に不具合はない
○:挿入後、観察する角度によっては視認性に影響があるものの内部の観察に不具合はない
△:観察する角度によっては視認性が大きく低下し、観察する角度が限られる。
×:視認性に問題があり、内部の観察に不都合が生じる。
(8)インナーケージの抗菌性試験
本発明のシートを用いてインナーケージを成形し、該インナーケージの一部を切り取り、これを試験片として下記の菌についての抗菌性試験に供した。抗菌性の試験方法は、フィルム密着法であり、対照として、ポリエチレンシートを使用した。前記フィルム密着法は、抗菌製品技術評議会が制定する試験法であり、培地に菌液を滴下し、フィルム(試験片)、シート等を密着し検査する方法である。使用する培地も、この試験法に規定されており、最終培地は標準寒天培地である。抗菌性試験の結果を下記に示す。
【0068】
(供試菌)
・大腸菌:Escherichia coli(IFO 3972)
(抗菌性試験結果)
○:本発明の試験片が対照とするポリエチレンシートよりも生菌数が少ない
△:本発明の試験片と対照とするポリエチレンシートで生菌数に差がない
×:本発明の試験片が対照とするポリエチレンシートよりも生菌数が多い
(9)インナーケージのブロッキング評価
本発明のシートを用いてインナーケージを成形し、成形したものを積み重ねて常温常湿にて保管し、保管後の取り扱い性について下記の評価を行った。
○:積み重ねた成形品を取り出す際、問題なく取り出すことができる
△:積み重ねた成形品を取り出す際、一部にブロッキングが生じているが取り出すことができる
×:積み重ねた成形品を取り出す際、ブロッキングが生じているため取り出すことができないものがある
[使用したポリ乳酸]
本発明のポリ乳酸系樹脂シートを構成するポリ乳酸系樹脂としては、Nature Works製“Ingeo”4032D(D体量=1.4モル%)をポリ乳酸樹脂A、4042D(D体量=4.25モル%)をポリ乳酸樹脂B、4050D(D体量=5.5モル%)をポリ乳酸樹脂C、4060D(D体量=12モル%)をポリ乳酸樹脂Dとして用い、各樹脂を表1に示す割合でブレンドした。
[使用した添加剤]
本発明のポリ乳酸系樹脂シートを構成する添加剤としては、平均粒径が3.4μmである二酸化珪素を粒子A、BASF社製ポリブチレンアジペートテレフタレートEcoflex FBX7011をポリマ1、三菱化学(株)製ポリブチレンサクシネートGSPla FZ91PDをポリマ2として用い、各添加剤を表1に示す割合でブレンドした。
[ポリ乳酸系樹脂シートの作成]
(実施例1〜7、10、11、比較例1〜5、8、9)
表1記載のポリ乳酸樹脂をベント式二軸押出機に供給し、真空ベント部を脱気しながら210℃で溶融混練し、口金温度を210℃に設定したTダイ口金より押出し、互いに接する方向に回転し40℃に冷却した、一対のキャスティングドラムとポリッシングロール間に吐出してキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、厚み0.3mmの未延伸シート状のポリ乳酸層を作製した。
【0069】
上記のポリ乳酸層のうち、シリコーン系離型層を設けるものについては、該シート状物を巻き取ることなく、コロナ処理を施し(シリコーン系離型層を片面のみに設ける場合には、該層を設ける片面にコロナ放電処理を施し、シリコーン系離型層を両面に設ける場合には、両面にコロナ放電処理を施し)、該コロナ処理を施した面に対して、ジメチルシリコーンの水エマルジョンをグラビアロール方式により片面もしくは両面に塗布し、乾燥炉を通して乾燥し、塗布量が固形分で表1記載の量となるようにシリコーン被膜を形成した後にワインダーにてシートを巻き取った。
【0070】
得られたシートの評価結果を表1、表2に示した。
【0071】
(実施例8、9、比較例6,7)
表1記載のポリ乳酸樹脂を主層押出用、副層押出用の各1台のベント式二軸押出機に供給し、真空ベント部を脱気しながら210℃で溶融混練し、フィードブロックにて表1の積層厚みとなるよう副層/主層/副層からなる三層積層となるよう合流させ、口金温度を210℃に設定したTダイ口金より押出し、互いに接する方向に回転し40℃に冷却した。以降の工程については実施例1〜7、10,11、比較例1〜5、8、9と同じくシートを作成した。
[飼育容器インナーケージの成形]
成形品1:間接加熱方式の真空成形加工
試験サンプルのシートを用い、バッチ式の真空成形機にて上下加熱ヒーター設定温度:290℃、予熱時間12秒にて、上下加熱ヒーターからそれぞれ50mm離れた中央位置に水平に設置されたシートを表裏から加熱後、メス型の成形型をシートに押し当てて内部を減圧することで縦:約32cm、横:約22cm、高さ:約12cmの飼育容器インナーケージを成形した。この際、被膜が片面に設けられているものについてはシートのシリコーン系離型層側が該インナーケージの外側となるようにシートの面を選択した。
【0072】
該成形品に、室温にて、10MeV電子加速器による電子線20kGyを照射し放射線照射済みの成形品を作製した。上述の成形を行った後、別途準備した該インナーケージと対をなすアウターケージに該インナーケージを挿入/取り外しを行い必要な強度を保持しているか、挿入/取り外しの際の摩擦は使用に差し支えがないか、アウターケージに該インナーケージを挿入して使用状態としたときに必要とされる内部の視認性が確保されているか、インナーケージ強度、インナーケージ摩擦、インナーケージ内部の視認性について評価を行った。得られた成形品の評価結果を表3に示した。
【0073】
成形品2:直接加熱方式の真空成形加工
試験サンプルのシートを用い、バッチ式の真空成形機にて上下熱板設定温度:85℃、予熱時間1秒にて、上下熱板に接触して挟まれたシートを表裏から加熱後、メス型の成形型をシートに押し当てて内部を減圧することで縦:約32cm、横:約22cm、高さ:約12cmの飼育容器インナーケージを成形した。この際、被膜が片面に設けられているものについてはシートのシリコーン系離型層側が該インナーケージの外側となるようにシートの面を選択した。該成形品に、室温にて、10MeV電子加速器による電子線20kGyを照射し放射線照射済みの成形品を作製した。使用に際しての評価は上記成型品1と同様の評価を行った。得られた成形品の評価結果を表4に示した。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

【0079】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂を含む層(以下、ポリ乳酸層という)と、該ポリ乳酸層の少なくとも片面にシリコーン系離形層を有するシートであって、
前記ポリ乳酸層の融点が、140〜155℃であり、
ヘイズが0.5〜3.5%であり、
少なくとも片面の2次元中心線平均粗さが0.001〜0.05μmであることを特徴とする、飼育容器インナーケージ用ポリ乳酸系樹脂シート。
【請求項2】
請求項1のシートからなる飼育容器インナーケージ。
【請求項3】
内側最表面がポリ乳酸層であることを特徴とする請求項2記載の飼育容器インナーケージ。
【請求項4】
シリコーン系離形層の側から放射線を照射することにより得られることを特徴とする、請求項2または3に記載の飼育容器インナーケージ。

【公開番号】特開2012−70650(P2012−70650A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216629(P2010−216629)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】