説明

ポリ乳酸系樹脂溶断シール袋

【課題】 生分解性を有し、かつ溶断シール部の強度が十分な溶断シール袋を安定して提供すること。
【解決手段】 ポリ乳酸系樹脂溶断シール袋は、ポリ乳酸系樹脂フィルムを溶断シールしたポリ乳酸系樹脂溶断シール袋であって、ポリ乳酸系樹脂フィルムの平均厚みをtμmとしたときに、溶断シール部分の縦断面積が6,000μm2〜(110×t2)μm2の範囲内である。ここで、ポリ乳酸系樹脂フィルムは少なくとも一方向に延伸された配向フィルムであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、溶断シールにより製袋した溶断シール袋に関し、特に、ポリ乳酸系樹脂フィルムから形成されているポリ乳酸系樹脂溶断シール袋に関する。
【0002】
【従来の技術】従来のプラスチック容器や包装材料等のプラスチック製品は使い捨てされることが多く、使用後、廃棄する際に焼却又は埋め立て等の処分が問題となっている。包装材料等に使用される代表的なプラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられるが、これらの樹脂は、燃焼時の発熱量が多く、燃焼処理中に燃焼炉を傷める恐れがあり、ポリ塩化ビニルは焼却時に有害なガスを発生する。一方、埋め立て処分においても、これらのプラスチック製品は化学的安定性が高いので自然環境下でほとんど分解されず半永久的に土中に残留し、ゴミ処理用地の能力を短期間で飽和させてしまう。また、自然環境中に投棄されると、景観を損なったり海洋生物等の生活環境を破壊する。そこで、環境保護の観点から、近年においては、生分解性の材料の研究、開発が活発に行われている。その注目されている生分解性の材料の1つとして、ポリ乳酸がある。ポリ乳酸系樹脂は、生分解性であるので土中や水中で自然に加水分解が進行し、微生物により無害な分解物となる。また、燃焼熱量が小さいので焼却処分を行ったとしても炉を傷めない。さらに、出発原料が植物由来であるため、枯渇する石油資源から脱却できる等の特徴も有している。現在、ポリ乳酸を用いて成型物、例えばフィルムやシート、袋やボトルのような容器等を得る研究がなされている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ポリ乳酸系樹脂フィルムはそれ自体脆性が高いので、柔軟性、強靭性を要求される包装袋の材料としては必ずしも好適ではない。また、ポリ乳酸系樹脂は、ポリエステル樹脂の一種であり一般に結晶性を有するので、ポリ乳酸系樹脂からなるフィルムを溶断シールして、実用性のある強度をもった袋状物体に形成することは困難であると予測されていた。ポリ乳酸系樹脂フィルムの脆さを改良するために、特開平7−205278号公報、特開平7−207041号公報、特開平8−198955号公報には、延伸加工を施して配向させたポリ乳酸系樹脂フィルムが開示されている。また、特開平9―77124号公報には、配向ポリ乳酸系樹脂フィルムを溶断シールして製袋された溶断シール袋が開示されている。しかし、上記公報においては、溶断シール部分の強度が十分な溶断シール袋を安定して提供することはできなかった。これは、溶断シール機(製袋機)における加工条件、例えばシールバーの形状、温度、1分間あたりの仕上がり枚数(すなわちシール時間を意味する)等に大きく影響されるためである、と考えられる。そのため、溶断シール部の強度が十分な溶断シール袋を安定して製造できることが求められていた。本発明は上記問題点を解決すべくなされたものであり、本発明の目的は、環境問題を生じることがなく、かつ溶断シール部の強度が十分な溶断シール袋を安定して提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明のポリ乳酸系樹脂溶断シール袋は、ポリ乳酸系樹脂フィルムを溶断シールしたポリ乳酸系樹脂溶断シール袋であって、前記ポリ乳酸系樹脂フィルムの平均厚みをtμmとしたときに、溶断シール部分の縦断面積が6,000μm2〜(110×t2)μm2の範囲内であることを特徴とする。ここで、前記ポリ乳酸系樹脂フィルムは少なくとも一方向に延伸された配向フィルムであることができる。また、前記ポリ乳酸系樹脂フィルムは柔軟剤として脂肪族ポリエステルを配合した樹脂組成物からなるフィルムであることができる。また、前記ポリ乳酸系樹脂フィルムは可塑剤を4〜33質量%配合した樹脂組成物からなるフィルムであることができる。
【0005】
【発明の実施の形態】本発明のポリ乳酸系樹脂溶断シール袋は、ポリ乳酸系樹脂フィルムを溶断シールして製袋したものであり、溶断シール部分の縦断面積が6,000μm2〜(110×t2)μm2の範囲内にある。ただし、tはポリ乳酸系樹脂フィルムの平均厚みを示す。図1R>1に、溶断シール袋の溶断シール部の縦断面を拡大して示す。図1において、2枚の又は円筒状のポリ乳酸系樹脂フィルム1を溶断シールすると溶断シール部2が形成される。この部分をシール部の長さ方向に対して垂直に切断した場合の断面積(縦断面積)が上記範囲内であることが必要である。溶接シールは、例えば、サイドウエルド製袋機を用いて行うことができる。この場合、サイドウエルド製袋機に備えられた溶断シールバーの先端形状や設定温度、ショット数等を適宜、設定することによって、上記範囲内の縦断面積を有する溶断シール袋が形成される。図2に本発明に使用されるサイドウエルド製袋機に備えられる溶断シールバーの具体例を示す。本具体例において、溶断シールバー3の内部にはカートリッジヒーター4が取りつけられており、溶断シールの温度を適宜変更することができるようになっている。溶断シールバー3の下方先端には、溶断シールバー先端部5が形成されている。通常、先端部5の長さaは約5〜20mm、先端部5の直径bは約3〜15mmであり、先端部5の角度cは約30〜140#であることが好ましい。
【0006】本発明に用いられるポリ乳酸系樹脂は、構造単位がL−乳酸又はD−乳酸であるホモポリマー、すなわち、ポリ(L−乳酸)又はポリ(D−乳酸)、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸の両方である共重合体、すなわちポリ(DL−乳酸)や、これらの混合体が挙げられる。ポリ乳酸系樹脂の重合法としては、縮重合法、開環重合法等の公知の方法を採用することができる。例えば、縮重合法では、L−乳酸又はD−乳酸、あるいはこれらの混合物を直接脱水縮重合して、任意の組成を有するポリ乳酸系樹脂を得ることができる。また、開環重合法(ラクチド法)では、乳酸の環状2量体であるラクチドを、必要に応じて重合調節剤等を用いながら、適宜選択された触媒を使用してポリ乳酸系樹脂を得ることができる。ラクチドには、L−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、さらにL−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより、任意の組成、結晶性を有するポリ乳酸系樹脂を得ることができる。
【0007】さらに、耐熱性向上等の必要に応じて、少量の共重合成分を添加することができ、テレフタル酸等の非脂肪族ジカルボン酸、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の非脂肪族ジオール等を用いることができる。さらにまた、分子量増大を目的として、少量の鎖延長剤、例えばジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を使用することもできる。
【0008】ポリ乳酸系樹脂は、さらにα−ヒドロキシカルボン酸等の他のヒドロキシカルボン酸単位との共重合体であっても、脂肪族ジオール/脂肪族ジカルボン酸との共重合体であってもよい。ただし、ポリ乳酸成分は50%以上含むものとする。他のヒドロキシカルボン酸単位としては、乳酸の光学異性体(L−乳酸に対してはD−乳酸、D−乳酸に対してはL−乳酸)、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。ポリ乳酸系樹脂に共重合される脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。また、脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸及びドデカン二酸等が挙げられる。
【0009】本発明において使用されるポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は、6万〜70万の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは8万〜40万、特に好ましくは10万〜30万である。ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量が6万未満では機械物性や耐熱性等の実用物性がほとんど発現されず、70万を超えると溶融粘度が高くなりすぎて成形加工性に劣ることがある。
【0010】本発明においては、ポリ乳酸系樹脂の共重合成分とその量とを適宜選択することにより、また、必要に応じて分子量を調整することによって、ポリ乳酸系樹脂からなるフィルムのポリ乳酸系樹脂換算融解熱量を特定範囲に設計することが極めて重要である。
【0011】本発明においては、ポリ乳酸系樹脂に柔軟剤として特定の脂肪族(脂環族も含む。以下同様)ポリエステルを含むことができる。特定の脂肪族ポリエステルとは乳酸以外の脂肪族ポリエステルであって、脂肪族ジカルボン酸単位および脂肪族ジオール単位を主成分とする重合体である。
【0012】特定の脂肪族ポリエステルは、直接法、間接法等の公知の方法によって調製することができる。ここで直説法とは、脂肪族カルボン酸単位と脂肪族アルコール単位とを、各単位中に含まれる水分を除去しながら、あるいはこれらの各単位を重合している際に発生する水分を除去しながら、直接重合して高分子量物を得る方法である。間接法とは、脂肪族カルボン酸単位と脂肪族アルコール単位とをオリゴマー程度に重合した後、少量の鎖延長剤を使用して高分子量物を得るという間接的な製造方法である。
【0013】ここで用いられる脂肪族カルボン酸単位としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、又はこれらの無水物や誘導体が挙げられ、2種類以上を併用することもできる。脂肪族アルコール単位としては、エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族ジオール、またはこれらの誘導体が挙げられ、2種類以上を併用することもできる。脂肪族カルボン酸単位及び脂肪族アルコール単位は、いずれも、炭素数2〜10のアルキレン基又はシクロアルキレン基を有する2官能性化合物を主成分とするものであることが好ましい。
【0014】柔軟剤として使用する脂肪族ポリエステルは、重量平均分子量が2万〜30万であることが好ましく、15万〜25万の範囲内であることが特に好ましい。重量平均分子量が2万より小さいと、ポリマーとしての性質が劣り、ヒートシール性の向上につながらず、時間の経過によって柔軟剤がフィルム表面にブリードアウトする場合がある。重量平均分子量が30万より大きいと、溶融粘度が高くなりすぎてポリ乳酸と十分に混合することができなかったり、フィルム成形の際に押出成形性の低下を招く場合がある。なお、耐衝撃性の改良効果、耐寒性の点からは、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下であることが好ましい。
【0015】本発明において好ましく用いられる、特定の脂肪族ポリエステルとしては、下記一般式(1)の構造を有する脂肪族ポリエステルが挙げられる。ただし、脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は2万〜30万であることが好ましい。
【0016】


式中、R1およびR2は、炭素数2〜10のアルキレン基またはシクロアルキレン基である。nは、重量平均分子量が2万〜30万となるのに必要な重合度である。n個のR1またはR2は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。また、式(1)で表される脂肪族ポリエステルは、エステル結合残基に代えて、ウレタン結合残基及び/又はカーボネート結合残基を重量平均分子量の5%まで含有することができる。
【0017】本発明において、特に好ましく使用される特定の脂肪族ポリエステルとしては、例えばポリエチレンスベレート、ポリエチレンセバケート、ポリエチレンデカンジカルボキシレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンセバケート、ポリブチレンサクシネートアジペートやこれらの共重合体が挙げられる。
【0018】また特定の脂肪族ポリエステルは、溶融粘度の向上のためにポリマー中に分岐を設ける目的で、3官能以上のカルボン酸又はアルコール、あるいはヒドロキシカルボン酸を用いてもよい。具体的には、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、あるいはペンタエリスリトールやトリメチロールプロパン等の多官能成分を用いることができる。ただし、これらの多官能成分を多量に用いた場合には得られるポリマーが架橋構造を有するので、熱可塑性でなくなったり、熱可塑性であったとしても部分的に高度に架橋構造を有するミクロゲルが生じ、フィルムに成形したときにフィッシュアイとなる恐れがある。従って、これら多官能成分の使用量はごく僅かであることが好ましく、ポリマーの化学的性質、物理的性質等を大きく左右しない程度の量に制限される。さらに必要に応じて、少量共重合成分として、テレフタル酸のような非脂肪族ジカルボン酸及び/又はビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような非脂肪族ジオールや、乳酸及び/又は乳酸以外のヒドロキシカルボン酸を用いてもよい。
【0019】本発明においては、特定の脂肪族ポリエステルとともに、または脂肪族ポリエステルに代えて、ポリ乳酸系樹脂と脂肪族ポリエステルとのブロック共重合体(その一部がエステル交換された生成物や、少量の鎖延長剤残基を含む生成物も含む)を使用することができる。このブロック共重合体は、任意の方法で調整することができる。例えば、ポリ乳酸系樹脂または脂肪族ポリエステルのいずれか一方の存在下で、他方の構成成分であるモノマーを重合させることによりブロック共重合体を得ることができる。通常は、予め準備した脂肪族ポリエステルの存在下でラクチドの重合を行うことにより、ポリ乳酸と脂肪族ポリエステルのブロック共重合体を得る。基本的には、脂肪族ポリエステルを共存させる点が相違するだけで、ラクチド法でポリ乳酸系樹脂を調整する場合と同様に重合を行うことができる。この時、ラクチドの重合が進行すると同時に、ポリ乳酸と脂肪族ポリエステルの間で適度なエステル交換反応が起こり、比較的ランダム性が高い共重合体が得られる。出発物質として、ウレタン結合を有する脂肪族ポリエステルウレタンを用いた場合には、エステル−アミド交換も生成する。
【0020】本発明においては、ポリ乳酸系樹脂と特定の脂肪族ポリエステルとの配合割合は、重量比で97:3〜50:50の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは90:10〜50:50の範囲内である。
【0021】本発明においては柔軟剤として可塑剤を単独で、あるいは特定の脂肪族ポリエステルと併用して用いることができる。本発明用いられる可塑剤としては、ジ−n−オクチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジベンジルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ジウンデシルフタレート等のフタル酸誘導体、ジオクチルイソフタレート等のイソフタル酸誘導体、ジ−n−ブチルアジペート、ジオクチルアジペート等のアジピン酸誘導体、ジ−n−ブチルマレエート等のマレイン酸誘導体、トリ−n−ブチルシトレート等のクエン酸誘導体、モノブチルイタコネート等のイタコン酸誘導体、ブチルオレート等のオレイン酸誘導体、グリセリンモノリシノレート等のリシノール酸誘導体、トリクレジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート等のリン酸エステル等の低分子化合物、ポリエチレンアジペート、ポリアクリレート等の高分子可塑剤等が挙げられる。これらの可塑剤のうち、トリアセチン(グリセリントリアセテート)及び重合度2〜10程度の乳酸オリゴマー等が好ましく使用される。本発明においては、例えば、ビオノーレ#3003(昭和高分子(株)製)等を商業的に入手することもできる。
【0022】可塑剤の配合割合は、ポリ乳酸系樹脂100質量%に対して10〜30質量%であることが好ましい。可塑剤の配合割合が10質量%を下回ると、ポリ乳酸系樹脂フィルムの剛性を十分に低下させることができない場合がある。可塑剤の配合割合が30質量%を上回ると、ポリ乳酸系樹脂フィルムのガラス転移温度が室温よりかなり低くなるので、製膜の際に取り扱いに困難を生じる場合がある。また、取り扱いに困難を生じなかったとしてもフィルム表面に可塑剤が移行して(いわゆるブリードアウト)、フィルム表面がべたつき、滑り性を低下させることがある。また、可塑剤の配合割合が30質量%以下であれば、袋の内部に収納された被包装体に可塑剤が移行することもない。なお、本発明において、フィルムにはシートの概念も含まれるものとする。
【0023】本発明に係るポリ乳酸系樹脂フィルムの製造においては、ポリ乳酸系樹脂と柔軟剤等との混合物には、諸物性を調整する目的で、熱安定剤、光安定剤、光吸収剤、滑剤、無機充填剤、着色剤、顔料等を添加することもできる。特に本発明では、無機粒子等を配合してフィルム表面を粗すことで、フィルムの滑り性・アンチブロッキング性を付与することが好ましい。かかる無機粒子としては、例えば、不活性の酸化けい素(シリカ)、酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、カオリン、アルミナ等が挙げられ、好ましくは、シリカ等の二酸化ケイ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、二酸化チタン、カオリン等が挙げられ、特に好ましくは、シリカ等の二酸化ケイ素である。上記無機粒子は1種のみを使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。無機粒子の配合量は、フィルムの透明性等を考慮しながら適宜決定されるが、例えば、0.01〜1質量部の範囲内で混合することが好ましい。
【0024】ポリ乳酸系樹脂と柔軟剤(脂肪族ポリエステル及び/又は可塑剤)等の混合は、同一の押出機にそれぞれの原料を投入して行われる。各材料を混合した後、そのまま金口より押出して直接フィルムを製造するか、あるいはストランド形状に押し出してペレットを作製した後、得られたペレットを再度押出機に投入してフィルムを製造することにより、ポリ乳酸系樹脂フィルムが得られる。ただし、いずれの方法においても、分解による分子量の低下を考慮しなければならない。したがって、ポリ乳酸系樹脂はL−乳酸構造とD−乳酸構造の組成比によって融点が変化することや、脂肪族ポリエステルの融点と混合の割合等を考慮して、適宜、溶融押出温度を選択する必要がある。実際には100〜250℃の温度範囲が通常選ばれる。
【0025】本発明に係るポリ乳酸系樹脂フィルムの製造方法としては、Tダイキャスト法、インフレーション法等による実質無延伸のフィルムを得る方法とテンター法、ロール延伸法、チューブラー法等による延伸フィルムを得る方法の2種類がある。ここでは延伸フィルムの製造方法について、中でもテンター法による延伸フィルムの製造方法について言及するが、これらに限定されるものではない。
【0026】延伸フィルム、特に2軸延伸フィルムの製造では、加熱ロールにフィルムを接触させロール間の周速差により縦延伸を行う工程と、レール上を稼動しているクリップによってフィルムを把持し、加熱炉に導いて延伸及び熱処理を行う工程とを有する逐次二軸延伸法、フィルムを把持したクリップが縦方向に加速されながら横方向にも拡がって、縦横同時にフィルムが延伸される同時二軸延伸法がある。本発明においては、いずれの方法でも、フィルムを加熱炉で一旦加熱し、延伸した後、熱処理を行うことが好ましい。熱処理条件は、温度が70℃〜160℃であることが好ましく、さらに好ましくは90℃〜140℃、特に好ましくは100〜140℃であり、処理時間が1秒〜5分の範囲内であることが好ましい。温度が70℃未満では熱処理効果を得にくく、160℃より高いとシートがドローダウンしやすい。処理時間が5秒未満では熱処理効果が得にくく、5分を上回ると熱処理設備が長大なものとなり、経済性が低下する。
【0027】
【実施例】以下に実施例を示して本発明を詳述するが、本発明はこれにより何ら制限を受けるものではない。なお、実施例において使用された各種測定値及び評価方法は以下に示す方法で測定し、評価を行って求めた。
(1)フィルムの平均厚みダイヤルゲージ式厚み測定器を用いて、フィルム上に十点を無作為に選択して測定し、その平均値を求めた。
(2)フィルムの強さ及びフィルムの伸びフィルムの長手方向(MD)に、長さ120mm×幅15mmの短冊状試料を切り出した。この短冊状試料をインテスコ万能試験機205型を用いてチャック間40mm、引っ張り速度500mm/分で試験を行い、引っ張り強さ(単位:N/15mm)を求めた。また、フィルムの伸びは、下記の計算式に基づいて、フィルムが破断したときのチャック間距離から初期のチャック間距離(ここでは40mm)を減じて、その数値を初期のチャック間距離(40mm)で除した値を%で表示した。
フィルムの伸び(%)=100×[(破断時のチャック間距離)−(初期チャック間距離)]/(初期チャック間距離)
(3)溶断シール強度溶断シール部が試験用の短冊状試料長辺のほぼ中央部に位置し、かつ短冊状試料の長辺と直交するように、長さ100mm×幅15mmの短冊状試料をフィルムから切り出す。この短冊状試料について、インテスコ万能試験機205型を用いてチャック間距離40mm、引っ張り速度500mm/分で引張試験を行い、溶断シール部が破断したときの応力(単位:N/15mm)を読み取った。
(4)溶断シールトタニ技研工業(株)製のサイドウエルド製袋機HK―65Vを用い、溶断シールバーの設定温度、ショット数及び溶断シールバーの先端部形状を表1に示すように設定して、フィルムに溶断シールを行い、幅200mm×縦400mmの袋を作製した。ただし、溶断シールバーの先端形状は、先端部の角度(図2における記号c)が60゜〜140゜の範囲内から3種類準備し、先端部の角度が60゜のものをタイプI、120゜のものをタイプII、角度140゜のものをタイプIIIとした。
(5)シール部の断面積溶断シール袋のシール部分を垂直にガラスナイフで切断し、溶断シール部分の縦断面を表出させる。次いで、切断した試料の縦断面が表面に表れるようにして、専用の固定台に試料を接着した。(株)日立製作所製のイオンスパッタ E−1030を用いて、真空度10Pa以下、電流15mAで200秒間駆動し、試料の縦断面部分に白金パラジウムをコーティングした。次いで、(株)日立製作所製の電界放射型走査電子顕微鏡S−4500を用いて拡大写真を撮影し、断面積を読み取った。ただし、拡大率は100〜200倍であり、1000μm2の精度で断面積を読み取った。
(6)シール部の仕上がり溶断シール部の外観を肉眼で観察した。シール部分に波打ち等が認められず真直ぐに形成されており、かつ糸を引くようなざらつきがない状態、いわゆるひげのない状態のものを記号「○」、シール部分に波打ち、若しくはひげのどちらかが認められるのものを記号「△」、シール部分に波打ちが認められ、かつひげがある状態でシールされているものを記号「×」で示した。
【0028】(実施例1)ピュ−ラックジャパン社製のL−ラクチド(商品名:PURASORB L)96kgと同社製のDL−ラクチド(商品名:PURASORB DL)4kgに、オクチル酸スズを15ppm添加したものを、攪拌機と加熱装置を備えた500Lバッチ式重合槽に入れた。窒素置換を行い、185℃、攪拌速度100rpmで、60分間重合を行った。得られた溶融物を、真空ベントを3段備えた三菱重工社製40mmφ同方向2軸押出機に供給し、ベント圧4Torrで脱揮しながら、200℃でストランド状に押し出して原料用ポリ乳酸系樹脂をペレット化した。得られた原料用ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は20万であり、L体含有量が98%であった。また、DSCによる融点は166℃であった。この原料用ポリ乳酸系樹脂99質量部と、アンチブロッキング剤として平均粒子径2.5μmのシリカ(富士シリシア化学(株)製、商品名:サイロホービック702)1重量部とをそれぞれ乾燥させた後、直径40mmの同方向二軸押出機に投入して約210℃で溶融混合し、ストランド状に押出し、冷却しながら切断してマスターバッチ用ペレットを形成した。得られたマスターバッチ用ペレットと、上記原料用ポリ乳酸系樹脂と同一のポリ乳酸系樹脂とをそれぞれ乾燥させた後、さらに上記シリカと同様のシリカを混合した。ただし、原料用ポリ乳酸系樹脂とマスターバッチ用ペレットとの混合割合は、質量比で95:5であり、混合されるシリカの量が0.5質量部となるように混合した。これを、直径40mmの同方向二軸押出機に投入し、設定温度210℃で溶融押出して、35℃の冷却ドラムに接触させて急冷固化させ、実質的に非晶質のシートを作製した。続いて、シートを温水循環式ロールと連続的に接触させつつ赤外線ヒーターで加熱し、周速差ロールを用いて73℃で縦方向に3.0倍、次いでこの縦延伸シートをクリップで把持しながらテンターに導き、75℃でフィルム流れの垂直方向に3.5倍に延伸した後、140℃で約15秒間熱処理を行い、厚み25μmの延伸フィルムを作製した。得られたフィルムについて、フィルムの強さ、伸び、シール部の断面積、シール強度等の評価を行った。また、総合評価も行った。その評価基準は、良好である場合を記号「○」、実用レベル以上である場合を記号「△」、劣っており、実用不可能レベルである場合を記号「×」で表した。その結果を表1に示す。
【0029】(実施例2,3及び比較例1,2)実施例1において重合した原料用ポリ乳酸系樹脂と、実施例1において形成されたマスターバッチ用ペレットと、脂肪族ポリエステルであるポリブチレンサクシネート/アジペート(昭和高分子(株)製、商品名:ビオノーレ3003)とを質量比で82:5:13になるように混合した。得られた混合物はシリカの混合量が0.05質量%となり、ポリ乳酸と脂肪族ポリエステル(ビオノーレ3003)との質量比は87:13である。これを、直径40mmの同方向二軸押出機に投入し、設定温度210℃で溶融押出して、35℃の冷却ドラムに接触させて急冷固化させ、シートを作製した。続いて、シートを温水循環式ロールと連続的に接触させつつ赤外線ヒーターで加熱し、周速差ロールを用いて縦方向に温度73℃で2.8倍に、横方向に温度77℃で3.5倍に延伸した後、140℃で約20秒間熱処理を行った以外は、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。但し、得られたフィルムの厚さは40μmであった。得られたフィルムについて、実施例1と同様の測定、評価等を行った。その結果を表1に示す。
【0030】(実施例4及び比較例3,4)実施例1において重合した原料用ポリ乳酸系樹脂と、実施例1において形成されたマスターバッチ用ペレットと、可塑剤として液状のトリアセチン(大八化学工業(株)製)とを質量比が65:20:15となるように、直径40mmの同方向二軸押出機に投入した。得られた混合物はシリカ含有量が0.2質量%となり、ポリ乳酸系樹脂とトリアセチンとは重量比で85:15である。なお、液状のトリアセチンはチューブポンプにより投入した。押出機から、設定温度200℃で溶融押出しし、温度25℃に設定した冷却ドラムに接触させて急冷固化させた以外は実施例1と同様にして、ポリ乳酸系樹脂のシートを得た。得られたシートを加熱し、周速差ロールを用いて縦方向に温度58℃で3.0倍に延伸し、次にテンターのクリップで把持しながら横方向に温度60℃で3.3倍に延伸した後、135℃で約15秒間熱処理を行った以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製した。但し、フィルムの厚さは25μmであった。得られたフィルムについて、実施例1と同様の測定、評価等を行った。その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】


【0032】表1から明らかなように、シール部の断面積が6,000μm2〜(110×t2)μm2の範囲内である実施例1〜4では、シール強度が十分で、シール部分の仕上がりが良好なポリ乳酸系樹脂溶断シール袋を得ることができた。すなわち、本発明によれば、総合評価が実用可能なレベル以上の溶断シール袋を提供することができる。一方、比較例1〜4のフィルムでは、シール強度又はシール部の仕上がりが不良であり、総合評価において実用不可能なレベルの溶断シール袋となった。
【0033】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、十分なシール強度を有し、かつシール部の外観も良好な溶断シール袋を安定して提供することができる。また、本発明のポリ乳酸系樹脂溶断シール袋は、ポリ乳酸系樹脂を主成分とするため生分解性を有し、自然環境中に廃棄された場合でも生分解され、自然環境に悪影響を与えない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る溶断シール袋の縦断面図である。
【図2】本発明の溶断シールに使用される製袋機に備えられる溶断シールバーの断面図である。
【符号の説明】
1 ポリ乳酸系樹脂フィルム
2 溶断シール部
3 溶断シールバー
4 カートリッジヒーター
5 先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリ乳酸系樹脂フィルムを溶断シールしたポリ乳酸系樹脂溶断シール袋であって、前記ポリ乳酸系樹脂フィルムの平均厚みをtμmとしたときに、溶断シール部分の縦断面積が6,000μm2〜(110×t2)μm2の範囲内であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂溶断シール袋。
【請求項2】 前記ポリ乳酸系樹脂フィルムが少なくとも一方向に延伸された配向フィルムであることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系樹脂溶断シール袋。
【請求項3】 前記ポリ乳酸系樹脂フィルムが柔軟剤として脂肪族ポリエステルを配合した樹脂組成物からなるフィルムであることを特徴とする請求項1又は2記載のポリ乳酸系樹脂溶断シール袋。
【請求項4】 前記ポリ乳酸系樹脂フィルムが可塑剤を4〜33質量%配合した樹脂組成物からなるフィルムであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のポリ乳酸系樹脂溶断シール袋。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2003−291984(P2003−291984A)
【公開日】平成15年10月15日(2003.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−98729(P2002−98729)
【出願日】平成14年4月1日(2002.4.1)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】