説明

ポリ乳酸系樹脂組成物

【課題】難燃性を付与するために難燃剤を含有する組成でありながら、結晶性に優れ、短時間で成形加工することができ、かつ耐熱性に優れた成形体を得ることが可能となるポリ乳酸系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂(A)とポリリン酸アンモニウム(B)と有機スルホン酸金属塩(C)とを含有する樹脂組成物であって、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、ポリリン酸アンモニウム(B)は15〜65質量部含有されており、有機スルホン酸金属塩(C)は、ポリ乳酸樹脂(A)とポリリン酸アンモニウム(B)の合計量100質量部に対して、0.1〜5質量部含有されているポリ乳酸系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃剤と結晶核剤が含有されたポリ乳酸樹脂を主成分とするポリ乳酸系樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、成形用の樹脂原料としては、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート樹脂等が使用されている。このような樹脂から製造された成形物は成形性、機械的強度に優れているが、廃棄する際、ゴミの量を増やすうえに、自然環境下で殆ど分解されないために、埋設処理しても半永久的に地中に残留する。
【0003】
そこで、近年、環境保全の見地から、生分解性ポリエステル樹脂が注目されている。中でも、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等は、大量生産可能なためコストも安く、有用性が高い。特に、ポリ乳酸樹脂は既にトウモロコシやサツマイモ等の植物を原料として工業生産が可能となっており、使用後に焼却されても、これらの植物の生育時に吸収した二酸化炭素を考慮すると、地球環境への負荷の低い樹脂とされている。
【0004】
また、電気製品や電子・電気機器の樹脂部品には、難燃性が要求される用途が増えている中、ポリ乳酸樹脂材料を用いる検討もなされている。しかしながら、ポリ乳酸樹脂は、それ自体燃焼しやすく、さらに耐熱性に劣るという性質を有する。そのため、ポリ乳酸樹脂を単体で電気製品等の筺体などの難燃性や耐熱性が必要とされる用途に利用する場合には、安全上の問題があった。
【0005】
また、ポリ乳酸樹脂は、結晶化速度が遅いため、成形サイクルが長いという問題もある。したがって、十分な難燃性を付与できるとともに、結晶性にも優れたポリ乳酸系樹脂組成物が求められている。ところが、難燃剤によってはポリ乳酸樹脂の結晶性を低下させるものがある。結晶性が低下すると、成形サイクルが長くなり、得られる成形体の耐熱性の低下や成形時の滞留による難燃性の低下も見られる場合もある。
【0006】
特許文献1にはポリ乳酸に難燃剤としてポリリン酸系難燃剤、ホウ酸金属塩、ガラス繊維、結晶核剤として有機アミド化合物を含有させた樹脂組成物が記載されている。しかしながら、特許文献1に記載された樹脂組成物は、難燃性は付与できるが、結晶性に劣るものであった。このため、成形時の成形サイクルが長く、得られる成形体は耐熱性に劣るものであった。
【0007】
また、特許文献2には、ポリ乳酸に対して、5−スルホイソフタル酸ジメチル金属塩を含有させた樹脂組成物が記載されている。5−スルホイソフタル酸ジメチル金属塩は、結晶化促進効果を有し、耐熱性の向上、成形性の向上という効果を奏することが記載されている。
【0008】
しかしながら、特許文献2には、難燃剤を添加することについては記載されておらず、5−スルホイソフタル酸ジメチル金属塩を用いたポリ乳酸樹脂組成物において、ポリ乳酸樹脂の結晶性を低下させずに難燃性を付与するためには、どのような難燃剤が適しているのかについては全く示唆されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−263451号公報
【特許文献2】特開2011−157538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決しようとするものであり、難燃性を付与するために難燃剤を含有する組成でありながら、結晶性に優れ、短時間で成形加工することができ、かつ耐熱性に優れた成形体を得ることが可能となるポリ乳酸系樹脂組成物を提供することを技術的な課題とするものである。
【0011】
本発明者は上記課題を解決するために検討した結果、難燃剤と結晶核剤の最適な組合せを発見し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、ポリ乳酸樹脂(A)とポリリン酸アンモニウム(B)と有機スルホン酸金属塩(C)とを含有する樹脂組成物であって、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、ポリリン酸アンモニウム(B)は15〜65質量部含有されており、有機スルホン酸金属塩(C)は、ポリ乳酸樹脂(A)とポリリン酸アンモニウム(B)の合計量100質量部に対して、0.1〜5質量部含有されていることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、難燃剤としてポリリン酸アンモニウム(B)、結晶核剤として有機スルホン酸金属塩(C)がポリ乳酸樹脂(A)中に特定の割合で含有されているため、十分な難燃性を有し、結晶性にも優れている。このため、成形性よく(短い成形サイクルで)、耐熱性に優れた成形体を得ることが可能となる。さらに、ポリ乳酸樹脂(A)として、D体含有量が特定の範囲であるポリ乳酸樹脂を用いた場合には、さらに結晶性に優れることにより、得られるポリ乳酸系樹脂組成物は、成形性が向上されるとともに、耐熱性、難燃性にもより優れた成形体を得ることが可能となる。
したがって、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、電気製品の筐体などの難燃性や耐熱性が必要とされる用途に好適に用いることが可能であり、低環境負荷材料であるポリ乳酸樹脂の使用範囲を大きく広げることができ、産業上の利用価値はきわめて高い。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」と称する場合がある)について詳細に説明する。
ポリ乳酸樹脂(A)とは、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、これらの混合物または共重合体のことをいう。
【0014】
ポリリン酸アンモニウム(B)は、難燃剤としてポリ乳酸樹脂(A)に含有されるものであり、市販のものとしては、たとえば、クラリアント社製の『エクソリットAP』シリーズや、ブーデンハイム社製の『テラージュ』などを用いることができる。
また、ポリリン酸アンモニウム(B)を後述する有機スルホン酸金属塩(C)とともに添加することにより、得られる樹脂組成物の耐熱性も向上させることができる。
【0015】
ポリリン酸アンモニウム(B)としては、難燃性向上の観点からリン含有量は27〜50質量%であることが好ましく、中でも29〜35質量%であることが好ましい。ポリリン酸アンモニウム(B)中のリン含有量が50質量%を超えると、混練や成形の際に低分子物が揮発してポリ乳酸樹脂の分解を促進し、機械的強度が低下しやすくなる傾向にある。
【0016】
有機スルホン酸金属塩(C)は、結晶核剤として作用するものであり、これを含有することにより、得られる樹脂組成物の結晶性が向上し、成形性が向上する(成形サイクルが短くなる)とともに、得られる成形体の耐熱性も向上する。本発明の樹脂組成物において、有機スルホン酸金属塩(C)以外の結晶核剤を用いた場合は、結晶化促進効果が不十分となり、結晶性に優れた樹脂組成物とすることが困難となる。
【0017】
有機スルホン酸金属塩(C)としてはスルホイソフタル酸塩など、種々のものを用いることができるが、中でも、結晶化促進効果の点から5−スルホイソフタル酸ジメチル金属塩が好ましい。さらに、金属塩としては、バリウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、ナトリウム塩などが好ましく、特に、5−スルホイソフタル酸ジメチルバリウムや5−スルホイソフタル酸ジメチルカリウムが好ましい。
また、5−スルホイソフタル酸ジメチル金属塩の平均粒子径(メジアン径)を0.1〜5μmの範囲内となるように調整したものが好ましい。
【0018】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、難燃剤としてポリリン酸アンモニウム(B)を用い、結晶核剤として有機スルホン酸金属塩(C)を用いることにより、難燃剤を含有していながらも結晶性が十分に向上し、耐熱性も向上する。このため、成形性よく、十分な難燃性と耐熱性を有する成形体を得ることが可能となる。
【0019】
本発明の樹脂組成物におけるポリリン酸アンモニウム(B)の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して15〜65質量部であり、中でも25〜50質量部であることが好ましい。ポリリン酸アンモニウム(B)の含有量が15質量部未満では、十分な難燃性や付与することができない。また、耐熱性の向上効果も不十分となる。一方、65質量部を超えると難燃性や耐熱性の向上効果が飽和し、機械的強度が低下する。
【0020】
本発明の樹脂組成物中の有機スルホン酸金属塩(C)の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)とポリリン酸アンモニウム(B)の合計100質量部あたり、0.1〜5質量部であることが好ましく、中でも0.3〜3.5質量部であることが好ましい。含有量が0.1質量部未満であると、結晶化促進効果に乏しくなり、樹脂組成物の結晶性を向上させることが困難となる。一方、含有量が5質量部を超えると、結晶化促進効果が飽和して、成形サイクルの短縮効果もみられず、コスト的に不利になると同時に、機械的強度にも悪影響を与える場合がある。
【0021】
さらに、本発明におけるポリ乳酸樹脂(A)について説明する。ポリ乳酸樹脂の耐熱性と結晶性をさらに向上させるために、ポリ乳酸樹脂(A)は、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であることが好ましい。中でも、D体含有量が0.1〜0.6モル%であるか、または99.4〜99.9モル%であることが好ましい。
【0022】
ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量とは、ポリ乳酸樹脂(A)を構成する総乳酸単位のうち、D乳酸単位が占める割合(モル%)をいうものである。したがって、例えば、D体含有量が1.0モル%のポリ乳酸樹脂の場合、このポリ乳酸樹脂においては、D−乳酸単位が占める割合が1.0モル%であり、L−乳酸単位が占める割合が99.0モル%である。
【0023】
本発明において、ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量は、以下の方法により算出されるものである。つまり、ポリ乳酸樹脂(A)を分解して得られるL−乳酸とD−乳酸を全てメチルエステル化し、L−乳酸のメチルエステルとD−乳酸のメチルエステルとをガスクロマトグラフィー分析機で分析する方法により算出される。
【0024】
D体含有量が上記の範囲を満足するポリ乳酸樹脂(A)は、結晶性に優れることにより、結晶化速度も向上する。このため、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を成形加工する際には、さらに成形サイクルが短くなり成形性に優れるものとなる。そして、より耐熱性に優れた成形体を得ることが可能となる。
【0025】
さらに、D体含有量が上記の範囲を満足するポリ乳酸樹脂(A)を用いた場合は、ポリリン酸アンモニウム(B)を特定の割合で含有させることによる、難燃性の向上効果が特に顕著に発現する。よって、D体含有量が1.0モル%を超えるポリ乳酸樹脂(A)に含有させる場合よりも、少ない含有量で優れた難燃性を付与することができる。
この理由としては、D体含有量が上記の範囲を満足するポリ乳酸樹脂(A)は結晶性に優れるため、成形体を得る際(結晶化する際)に、ポリリン酸アンモニウム(B)の働きが活性化され、難燃性を付与するという効果がより向上するためではないかと推測される。
【0026】
ポリ乳酸樹脂(A)は公知の溶融重合法で、あるいは、さらに固相重合法を併用して製造される。また、上記のような特定のD体含有量を満足するポリ乳酸樹脂(A)としては、市販のものを用いてもよいし、乳酸の環状2量体であるラクチドのうち、D体含有量が十分に低いL−ラクチド、または、L体含有量が十分に低いD−ラクチドを原料に用い、公知の溶融重合法で、あるいは、さらに固相重合法を併用して製造したものを用いてもよい。
【0027】
また、ポリ乳酸樹脂(A)には、主たる構成成分である乳酸成分以外のモノマーが共重合されていてもよい。共重合可能なモノマーとしては、例えば、酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、メチルテレフタル酸、4,4´−ビフェニルジカルボン酸、2,2´−ビフェニルジカルボン酸、4,4´−ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、セバシン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、水添ダイマー酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、ダイマー酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸およびこれらの無水物;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸などの脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。
【0028】
共重合可能なモノマーとしては、例えば、ジオール成分として、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオールなどの脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、ビスフェノールAやビスフェノールSなどのビスフェノール類またはそれらのエチレンオキサイド付加体;ハイドロキノン、レゾルシノールなどの芳香族ジオールなどが挙げられる。
【0029】
さらには、共重合可能なモノマーとして、p−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、6−ヒドロキシカプロン酸、3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸などのヒドロキシカルボン酸;δ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトンなどのラクトン化合物などが挙げられる。
【0030】
そして、本発明におけるポリ乳酸樹脂(A)は、アセトン処理が施されており、残存ラクチド量が700ppm以下であることが好ましい。ポリ乳酸樹脂(A)としてアセトン処理が施されており、残存ラクチド量が700ppm以下であるものを用いることにより、本発明の樹脂組成物はさらに結晶性が向上し、耐熱性、成形性がより向上したものとなる。したがって、アセトン処理を施すポリ乳酸樹脂(A)としては、中でもD体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上であるポリ乳酸樹脂を用いることが好ましい。
【0031】
アセトン処理とは、ポリ乳酸樹脂をアセトンで洗浄し、未反応ラクチドを抽出することである。アセトンでの洗浄方法としては、以下のような方法が好ましい。ポリ乳酸樹脂とアセトンとの質量比が、(ポリ乳酸樹脂):(アセトン)=1:1〜1:3となるように両者を混合し、この混合物に対して、攪拌翼などによって30分以上の攪拌を行う。なお、攪拌時の温度は、0℃〜60℃の範囲が好ましく、中でも10℃〜40℃、より好ましくは20℃〜30℃である。攪拌温度が60℃を超える場合、アセトンの沸点を超えているため、アセトンの揮発が大きくなる。攪拌温度が0℃未満の場合、アセトンの冷却を行わなければならないため、コスト的に不利となる。
【0032】
攪拌翼の攪拌速度は、50〜1000rpmが好ましく、中でも100〜500rpmが好ましく、より好ましくは150〜300rpmである。1000rpmを超える場合、攪拌速度が速すぎ、樹脂同士が激しくぶつかることによってダストの発生が多くなる。50rpm未満の場合、アセトン中に抽出されるラクチド量が少なくなり、処理時間が長時間となる。
【0033】
一般には、ポリ乳酸樹脂中の未反応ラクチドを抽出するためには、メタノール等の他の溶媒も使用できる。しかしながら、本発明においては、アセトンを溶媒として使用することにより、未反応ラクチドを抽出すると同時に、ポリ乳酸樹脂の結晶化速度を向上させることが可能となる。
【0034】
アセトンは比較的安価な溶媒でありコスト的に有利であり、また、ラクチドだけでなく、ポリ乳酸樹脂中の低分子オリゴマーの抽出も可能である。また、処理後の残渣から乳酸が検出されず、抽出物が分解して乳酸になることがなく安定である。これらのことにより、上記したようなポリ乳酸樹脂の結晶化速度の向上効果が生じるものと推測される。また、ラクチドの再利用などを考えた場合にはコスト的に有利となる。
【0035】
アセトンに代えて、メタノールなどの他の溶媒を用いた場合、残渣から乳酸が多く検出される。このため、樹脂中に乳酸が残存した場合などは、加工や保存中に分子量低下などの問題が生じることがあり、そして、このようなポリ乳酸樹脂では結晶化速度は向上していない。
【0036】
また、ポリ乳酸樹脂中の未反応ラクチドを除去する方法として、一軸押出し機、二軸押出し機などでラクチド除去を行う方法も一般的である。しかしながら、これらの方法でラクチド除去を行った場合も低分子オリゴマーがポリ乳酸樹脂中に残存しており、得られるポリ乳酸樹脂は結晶化速度が向上したものとはならない。
【0037】
本発明におけるポリ乳酸樹脂(A)は、上記のようなアセトン処理が施されることにより、樹脂中の残存ラクチド量が700ppm以下とされていることが好ましく、中でも500ppm以下であることがより好ましい。残存ラクチド量が700ppmを超える場合、結晶化速度の向上効果が小さくなる場合があり、また、溶融加工時に分子量低下や着色が生じることもある。
【0038】
ポリ乳酸樹脂(A)の残存ラクチド量は、以下のようにして測定、算出される。まず、試料0.1gに、塩化メチレン9ml、内部標準液1ml(2,6−ジメチル−γ−ピロンの5000ppm溶液)を加え、ポリマーを溶解させる。ポリマー溶解液にシクロヘキサン40mlを添加し、ポリマーを析出させる。HPLC用ディスクフィルター(孔径0.45μm)で濾過後、Agilent Technologies社製7890A GCSystemでGC測定し、ラクチド含有量を算出する。
【0039】
なお、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリリン酸アンモニウム(B)及び有機スルホン酸金属塩(C)を含有する樹脂組成物において、ポリ乳酸樹脂(A)の残存ラクチド量を測定する際にも上記と同様に測定、算出できる。このときは、樹脂組成物を試料として用いる。
【0040】
また、本発明の樹脂組成物には、ポリリン酸アンモニウム以外の難燃剤として、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)、無機系化合物(硼酸塩、Mo化合物)などから選ばれる一種以上の難燃剤を併用してもよい。ドリップ防止剤としてフッ素樹脂を使用してもよい。
【0041】
また、本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、ポリ乳酸樹脂(A)以外の他の樹脂成分を含有していてもよい。また、本発明の樹脂組成物を使用する際には、本発明の樹脂組成物と他の樹脂成分とを配合して使用することもできる。
【0042】
このような他の樹脂成分としては、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、ポリ(アクリル酸)、ポリ(アクリル酸エステル)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(メタクリル酸エステル)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、およびそれらの共重合体等の非脂肪族ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0043】
さらに、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、その特性を損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、無機充填材、植物繊維、強化繊維、耐候剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、耐衝撃改良剤、可塑剤、反応性を有する化合物等の添加剤を添加することができる。
【0044】
顔料としては、チタン、カーボンブラックなどを挙げることができる。
熱安定剤や酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物などが例示される。
【0045】
無機充填材としては、例えば、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、アルミナ、マグネシア、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維、層状珪酸塩などが例示される。層状珪酸塩を配合することにより、樹脂組成物のガスバリア性を向上させることができる。
【0046】
植物繊維としては、例えば、ケナフ繊維、竹繊維、ジュート繊維、その他のセルロース系繊維などが例示される。
強化繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、液晶ポリマー繊維などの有機強化繊維などが挙げられる。
【0047】
耐候剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンズオキサジノンなどが挙げられる。
滑剤としては、各種カルボン酸系化合物を用いることができ、中でも、各種脂肪酸金属塩、特に、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなどが好ましい。
【0048】
離型剤としては、各種カルボン酸系化合物、中でも、各種脂肪酸エステル、各種脂肪酸アミドなどが好適に用いられる。
耐衝撃改良剤としては、特に限定されず、コアシェル型構造を有する(メタ)アクリル酸エステル系耐衝撃剤など、種々のものを用いることができる。
【0049】
耐衝撃改良剤の含有割合は、耐衝撃性、成形性および耐熱性の観点から、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、1〜30質量部であることが好ましい。
【0050】
上記の添加剤のうち、可塑剤は、ポリ乳酸樹脂に対して柔軟性を付与させる目的で含有されるものである。可塑剤の具体例としては、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノカプレート、ポリグリセリン酢酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、中鎖脂肪酸トリセライド、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、トリエチレングリコールジアセテート、アセチルリシノール酸メチル、アセチルトリブチルクエン酸、ポリエチレングリコール、ジブチルジグリコールサクシネート、ビス(ブチルジグリコール)アジペート、ビス(メチルジグリコール)アジペート、アジピン酸エステルなどが挙げられる。
【0051】
可塑剤の含有割合は、耐熱性、難燃性および柔軟性の観点から、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、0.05〜20質量部であることが好ましい。
【0052】
反応性を有する化合物としては、例えば、カルボジイミド化合物が好ましい。カルボジイミド化合物を含有することによって耐湿熱性が向上し、溶融混練による相溶性もより良好になり、機械物性も向上する。
【0053】
カルボジイミド化合物としては、種々のものを用いることができ、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有するものであれば特に限定されない。カルボジイミド化合物としては、例えば、脂肪族モノカルボジイミド、脂肪族ポリカルボジイミド、脂環族モノカルボジイミド、脂環族ポリカルボジイミド、芳香族モノカルボジイミド、芳香族ポリカルボジイミドなどが挙げられる。さらに、分子内に各種複素環、あるいは、各種官能基を持つものであっても構わない。
【0054】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を製造する方法は、特に制限されず、各成分が均一に分散されている状態になればよい。例えば、タンブラーやヘンシェルミキサーを用いて、均一にドライブレンドした後、溶融混練押出して、冷却・カッティング・乾燥工程に付してペレット化すればよい。溶融混練に際しては、単軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、ブラベンダー等の一般的な混練機を使用することができる。
【0055】
混練状態を良好にするためには、中でも二軸押出機を用いることが好ましい。混練温度は{[ポリ乳酸樹脂(A)の融点]+5}℃〜{[ポリ乳酸樹脂(A)の融点]+100}℃であることが好ましい。この範囲より低温であると混練が不十分となり、一方、この範囲より高温であると樹脂の分解や着色が起きる場合がある。また、混練時間は、20秒〜30分が好ましい。この時間より短いと混練が不十分となり、一方、この時間より長いと樹脂の分解や着色が起きる場合がある。
【0056】
本発明のポリ乳酸樹系脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、インジェクションブロー成形、発泡シート成形、および、シート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。すなわち、射出成形してなる成形体、あるいは、押出成形してなるフィルム、シート、およびこれらのフィルムやシートを加工してなる成形体、あるいはブロー成形してなる中空体、および、この中空体から加工してなる成形体などとすることができる。上記のなかでも、とりわけ、射出成形法を採用することが好ましく、一般的な射出成形法のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等も採用できる。
【0057】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物に適した射出成形条件の一例を挙げれば、シリンダ温度を樹脂組成物の融点または流動開始温度以上、例えば、170〜250℃とすることが好ましく、170〜230℃とすることがより好ましい。また、金型温度は(樹脂組成物の融点−40)℃以下とすることが適当である。成形温度が上記のシリンダ温度や金型温度の範囲より低すぎると、成形品にショートが発生するなどして操業性が不安定になったり、過負荷に陥りやすくなったりする場合がある。逆に、成形温度が上記のシリンダ温度や金型温度の範囲を超えて高すぎると、樹脂組成物が分解し、得られる成形体の強度が低下したり、着色したりする等の問題が発生しやすく、ともに好ましくない場合がある。
【0058】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、成形の際に結晶化を促進させることにより、得られる成形体の耐熱性をさらに高めることができる。結晶化を促進させる方法としては、例えば、射出成形時に金型内で結晶化を促進させる方法があり、その場合には、樹脂組成物のガラス転移温度以上、(樹脂組成物の融点−40)℃以下に保たれた金型内で、一定時間成形体を保持した後、金型より取り出す方法が好適である。また、このような方法をとらずに金型から取り出された成形体であっても、該成形体を、樹脂組成物のガラス転移温度以上、(樹脂組成物の融点−40)℃以下で熱処理することにより、結晶化を促進することができる。
【0059】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を用いた成形体の具体例としては、パソコン筐体部品および筐体、携帯電話筐体部品および筐体、その他OA機器筐体部品、コネクター類等の電化製品用樹脂部品;バンパー、インストルメントパネル、コンソールボックス、ガーニッシュ、ドアトリム、天井、フロア、エンジン周りのパネル等の自動車用樹脂部品をはじめ、コンテナーや栽培容器等の農業資材や農業機械用樹脂部品;浮きや水産加工品容器等の水産業務用樹脂部品;皿、コップ、スプーン等の食器や食品容器;注射器や点滴容器等の医療用樹脂部品;ドレーン材、フェンス、収納箱、工事用配電盤等の住宅・土木・建築材用樹脂部品;花壇用レンガ、植木鉢等の緑化材用樹脂部品;クーラーボックス、団扇、玩具等のレジャー・雑貨用樹脂部品;ボールペン、定規、クリップ等の文具用樹脂部品等が挙げられる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
実施例および比較例で得られた樹脂組成物の評価に用いた測定法は次の通りである。
【0061】
(1)ポリ乳酸樹脂(A)のD体含有量
得られた樹脂組成物より取り出したポリ乳酸樹脂を0.3g秤量し、1N−水酸化カリウム/メタノール溶液6mLに加え、65℃にて充分撹拌した。次いで、硫酸450μLを加えて、65℃にて撹拌し、ポリ乳酸を分解させ、サンプルとして5mLを計り取った。このサンプルに純水3mL、および、塩化メチレン13mLを混合して振り混ぜた。静置分離後、下部の有機層を約1.5mL採取し、孔径0.45μmのHPLC用ディスクフィルターでろ過後、HP−6890SeriesGCsystem(HewletPackard社製)を用いてガスクロマトグラフィー測定した。乳酸メチルエステルの全ピーク面積に占めるD乳酸メチルエステルのピーク面積の割合(%)を算出し、これをポリ乳酸樹脂のD体含有量(モル%)とした。
【0062】
(2)曲げ強度
得られた樹脂組成物のペレットを70℃で24時間真空乾燥したのち、射出成形機(東芝機械社製、「IS−80G型」)を用いて、金型表面温度を105℃に調整しながら、ISO準拠の試験片を作製した。得られた試験片を用い、ISO178に従って測定した。曲げ強度は65MPa以上であることが好ましい。
【0063】
(3)耐熱性
(2)と同様にして得られた試験片を用い、ISO75−1に従って、荷重0.45MPaで荷重たわみ温度(DTUL)を測定した。荷重たわみ温度は80℃以上であることが好ましい。
【0064】
(4)難燃性
(2)に記載した試験片の作製方法と同様の条件で、厚み1/16インチ(約1.6mm)の試験片を作製した。この試験片を用い、UL94(米国におけるUnder Writers Laboratories Inc.で定められた規格)の方法に従って測定した。難燃性はV−0、V−1あるいはV−2であることが好ましく、それ以外のものは難燃性に劣るものと判断し、「×」とした。
【0065】
(5)成形性(成形サイクル)
得られた樹脂組成物のペレットを用い、射出成形機(東芝機械社製、「IS−80G」)でISOダンベル型試験片を作製した。具体的には、成形温度190℃で溶融し、金型温度105℃の金型に溶融樹脂を充填した。成形サイクルは、樹脂組成物が金型内に射出(充填、保圧)、冷却された後、成形体が金型に固着、または、抵抗なく取り出すことができ、突き出しピンによる変形がなく、良好に離型できるまでの所要時間(秒)とした。
成形サイクルは60秒以下であることが好ましい。
(6)結晶化速度
DSC装置(パーキンエルマー社製 Pyrisl DSC)を用い、得られた樹脂組成物のペレット(試料)を20℃から500℃/分で200℃まで昇温した後、200℃で5分間保持し、そして200℃から500℃/分で130℃まで降温し、その後130℃で保持し結晶化させた。130℃等温時における結晶化のピークトップまでの時間を結晶化速度(分)とした。結晶化速度が遅いものはピークが現れず、計測できなかった。
【0066】
また、実施例および比較例に用いた各種原料は次の通りである。
(1)ポリ乳酸樹脂(A)
・PLA−1
Nature Works社製、商品名「Nature Works 3001D」(融点:168℃、D体含有量1.4モル%)
・PLA−2
トヨタ自動車社製、商品名「S−12」(融点:178℃、D体含有量0.1モル% 残存ラクチド量1100ppm)
・PLA−3
PLA−2に以下のようにアセトン処理を施し、PLA−3を得た。
PLA−2とアセトンの質量比が1:2になるよう計測し、PLA−2にアセトンを加え、室温条件下で1時間、150rpmで攪拌した。その後、ろ過して70℃×24時間真空乾燥(Yamato Vacuum dry DP61を使用)することでアセトンの除去を行い、ポリ乳酸(PLA−3)を得た。得られたPLA−3の残存ラクチド量は400ppmであった。
・PLA−4
トヨタ自動車社製 商品名「A−1」(融点:172℃、D体含有量0.6モル%、残存ラクチド量1020ppm。)
(2)ポリリン酸アンモニウム(B)
・B−1
クラリアント社製、商品名「AP423」
・B−2
クラリアント社製、商品名「AP462」
・B−3
ブーデンハイム社製、商品名「テラージュC60」
(3)ポリリン酸アンモニウム以外の難燃剤
・E−1
ポリリン酸メラミン、三和ケミカル社製、商品名「アピノンMPP−B」
・E−2
縮合リン酸エステル系化合物、大八化学社製、商品名「PX−200」
(4)有機スルホン酸金属塩(C)
・C−1
5−スルホイソフタル酸ジメチルバリウム、竹本油脂社製、商品名「LAK−403」
・C−2
5−スルホイソフタル酸ジメチルカリウム、竹本油脂社製、商品名「LAK−301」
(5)有機スルホン酸金属塩以外の結晶核剤
・F−1
タルク、林化成社製、商品名「MW−HST」
・F−2
N,N′−エチレンビス(12−ヒドロキシステアリン酸)アミド、川研ファインケミカル社製、商品名「WX−1」
【0067】
実施例1
二軸押出機(東芝機械社製「TEM37BS型」)を用い、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリリン酸アンモニウム(B)、有機スルホン酸金属塩(C)として、表1に示す種類のものを用い、表1に示す含有量となるようにドライブレンドして押出機に根元供給口から供給した。バレル温度190℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量15kg/hの条件で、ベントを効かせながら溶融押出を実施した。押出機先端から吐出された溶融樹脂をストランド状に引き取り、冷却水を満たしたバットを通過させて冷却した後、ペレット状にカッティングして、樹脂組成物のペレットを得た。
【0068】
実施例2〜20、比較例1〜6
ポリ乳酸樹脂(A)、ポリリン酸アンモニウム(B)、有機スルホン酸金属塩(C)の種類や含有量を表1、表2に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。
【0069】
比較例7〜10、13〜14
難燃剤として、ポリリン酸アンモニウム(B)以外の他の難燃剤(E−1やE−2)を用い、ポリ乳酸樹脂(A)、有機スルホン酸金属塩(C)、他の難燃剤の種類や含有量を表2に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。
【0070】
比較例11〜12
結晶核剤として、有機スルホン酸金属塩(C)以外の他の結晶核剤(F−1やF−2)を用い、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリリン酸アンモニウム(B)、他の結晶核剤の種類や含有量を表2に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。
【0071】
実施例1〜20、比較例1〜14で得られた樹脂組成物の組成、評価結果を表1、表2に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
表1から明らかなように、実施例1〜20で得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)に、ポリリン酸アンモニウム(B)および有機スルホン酸金属塩(C)が特定の割合で含有されているため、結晶性と難燃性に優れるものであった。このため、結晶化速度が速く、成形性(成形サイクルが短い)よく成形することが可能であり、耐熱性、難燃性、に優れ、曲げ強度も高い成形体を得ることができた。
【0075】
中でも、実施例8〜12、15で得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、D体含有量が1.0モル%以下のポリ乳酸樹脂(A)が用いられていたため、結晶性により優れており、結晶化速度が速く、耐熱性および成形性がより向上した。さらには、ポリリン酸アンモニウム(B)の働きも活性化され、難燃性もより向上したものとなった。
【0076】
また、実施例13〜14で得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、D体含有量が1.0モル%以下のポリ乳酸樹脂(A)にアセトン処理を施し、残存ラクチド量を700ppm以下としたものを用いたため、アセトン処理を施していないポリ乳酸樹脂(A)を用いた同様の組成の樹脂組成物(実施例11〜12の樹脂組成物)よりもさらに結晶性に優れ、結晶化速度は速く、耐熱性および成形性がより向上したものとなった。
【0077】
一方、比較例1〜3で得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、有機スルホン酸金属塩(C)の含有量が過少であったため、結晶性に劣るものとなり、結晶化速度が遅く、耐熱性、成形性に劣るものであった。
【0078】
比較例4で得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、有機スルホン酸金属塩(C)の含有量が過多であったため、結晶化促進効果が飽和し、曲げ強度に劣るものであった。
【0079】
比較例5で得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリリン酸アンモニウム(B)の含有量が過少であったため、難燃性に劣るものであった。
【0080】
比較例6で得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリリン酸アンモニウム(B)の含有量が過多であったため、難燃性や耐熱性の向上効果が飽和し、曲げ強度に劣るものであった。
【0081】
比較例7〜10、13〜14で得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、難燃剤としてポリリン酸アンモニウム(C)以外の難燃剤を使用したため、難燃性に劣るとともに、結晶性も向上せず、結晶化速度が遅く、成形性、耐熱性にも劣るものとなった。
【0082】
比較例11〜12で得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、結晶核剤として有機スルホン酸金属塩(B)以外の結晶核剤を使用したため、結晶性が向上せず、結晶化速度が遅く、成形性に劣るとともに耐熱性にも劣るものとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂(A)とポリリン酸アンモニウム(B)と有機スルホン酸金属塩(C)とを含有する樹脂組成物であって、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、ポリリン酸アンモニウム(B)は15〜65質量部含有されており、有機スルホン酸金属塩(C)は、ポリ乳酸樹脂(A)とポリリン酸アンモニウム(B)の合計量100質量部に対して、0.1〜5質量部含有されていることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項2】
ポリ乳酸樹脂(A)は、D体含有量が1.0モル%以下であるか、または99.0モル%以上である請求項1記載のポリ乳酸系樹脂組成物。


【公開番号】特開2013−79356(P2013−79356A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−270172(P2011−270172)
【出願日】平成23年12月9日(2011.12.9)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】