説明

ポリ乳酸系樹脂防湿コーティング用組成物

【課題】塗膜が水蒸気バリア性、透明性、ポリ乳酸系樹脂への密着性に優れたポリ乳酸系樹脂防湿コーティング用組成物を提供すること。
【解決手段】(A)オレフィン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体100重量部および(B)置換もしくは非置換のスチレンまたはスチレン誘導体/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体1〜100重量部、さらに必要に応じ(C)ワックス系樹脂1〜100重量部、(D)無機板状粒子1〜50重量部を含有するポリ乳酸系樹脂防湿コーティング用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ乳酸系樹脂への密着性に優れたポリ乳酸系樹脂防湿コーティング用組成物に関する。本発明に係るポリ乳酸系樹脂防湿コーティング用組成物をポリ乳酸系樹脂フィルム、シート、成型物などへ塗工処理した際には、水蒸気バリア性、密着性、透明性に優れた被膜を形成させることができる。
【背景技術】
【0002】
石油等化石資源を原料とするポリプロピレン、ポリエチレン或いはポリ塩化ビニル等のプラスチックはフィルム、シート、成型物などに形を変え、様々な用途に用いられており、我々の生活には欠かせない非常に重要なものである。しかしながら、石油資源の枯渇感、焼却時の排出ガスによる環境汚染などの社会的問題が浮上しており、国際的に代替資源の開発が急務となっている。
【0003】
このような状況の下、注目されているのが植物由来の原料を用いた生分解性プラスチックであり、限りある化石資源の節約だけでなく、カーボンニュートラルを指向した環境調和型高分子に成り得る材料として期待されている。その中でもトウモロコシ、サツマイモなどの植物資源から得られる糖質を発酵し製造される乳酸から合成されるポリ乳酸系樹脂は透明性に優れ、その生産量も飛躍的に増大し、射出成形、押出成形、インフレーションフィルム、溶融紡糸など各種用途に利用されはじめている。
【0004】
ポリ乳酸系樹脂からなるフィルム、シート、成型物などの樹脂加工品は、従来のプラスチックと同等の強度、透明性を示すことが知られており、将来的に化石資源を出発原料としている各種汎用プラスチックを代替する応用展開が期待されている。そのための改良点として耐衝撃性、耐熱性、軟質性、バリア性の向上が課題となっている。フィルム物性で特に重要であるバリア性、中でも水蒸気バリア性はポリエチレン、ポリプロピレンなどの汎用プラスチックと比較するとその差は歴然であり、内容物の吸湿、放湿が問題となる用途には用いることが困難であり、普及への障害となっている。
【0005】
特許文献1ではSBRラテックス、パラフィンワックス、変性ポリエチレン水系分散体からなる防湿性コーティング剤が記載されているが、紙の防湿コートを目的としているため、透明性、密着性という観点は重視されておらず、ポリ乳酸系樹脂への応用は困難と考えられる。特許文献2では膨潤性フッ素雲母系鉱物と疎水性樹脂からなるコーティング剤が記載されているが、アスペクト比が大きいマイカなどを用いるため、透明性に悪影響を及ぼしてしまう。よってフィルムなどの透明性が求められる用途には応用はできない。特許文献3ではポリ乳酸を基材とし可塑剤、天然ワックスを使用した防湿性を付与したポリ乳酸系フィルムの製造方法が記載されているが、ポリ乳酸系フィルムに防湿剤をコーティングした後の密着性が得られず実用的でない。
【特許文献1】特開平10−53996号公報
【特許文献2】特開2002−13094号公報
【特許文献3】特開2006−35787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的はその塗膜が水蒸気バリア性、透明性、ポリ乳酸系樹脂への密着性に優れたポリ乳酸系樹脂防湿コーティング用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決すべく、水蒸気バリア性、ポリ乳酸系樹脂への密着性評価を進めた結果、スチレン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体がポリ乳酸系樹脂とオレフィン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体とのバインダー効果を発現することを見出し、更に適正種類、配合量を検討することにより、水系分散体の乾燥被膜厚が0.1〜5μmにおいて、40℃、90%RHでの水蒸気透過度が50g/m以下、ヘイズが5%以下、更にはポリ乳酸系樹脂への密着性が良好となる従来技術で得られない優れた防湿コーティング用水系分散体が得られることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、(A)オレフィン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体100重量部および(B)置換もしくは非置換のスチレンまたはスチレン誘導体/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体1〜100重量部を含有するポリ乳酸系樹脂防湿コーティング用組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明で得られるポリ乳酸系樹脂防湿コーティング用組成物の乾燥塗膜は、水蒸気バリア性、透明性が良好であり、なおかつ基材ポリ乳酸系樹脂に優れた密着性を有することを特徴としている。このため本発明で得られる防湿コーティング水系分散体は水蒸気バリア性に乏しいポリ乳酸系樹脂にコーティング処理するだけで水蒸気バリア性を付与させ、広く用いられているポリエチレン、ポリプロピレンなどの汎用プラスチックを代替する材料として、フィルム、シート、成型物などの樹脂加工品として好適に使用し得る。これらの技術を広く応用することにより、環境に与える負荷を軽減し、資源循環型社会の実現に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明で用いられる(A)オレフィン/α、β―不飽和カルボン酸共重合体としては、70〜95質量%のオレフィンと5〜30質量%不飽和カルボン酸を共重合することにより得られる共重合体であり、その構造としてはランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体などが挙げられる。オレフィンとしてはエチレン、プロピレン、ブテン等を挙げることができるが、エチレンが最も好ましい。α、β―不飽和カルボン酸には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸などのモノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのジカルボン酸、無水マレイン酸などのカルボン酸無水物を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。また、該共重合体は本発明により得られる効果を損なわない範囲で共重合可能な他のモノマー単位を含んでもよい。
【0011】
本発明で用いられる(B)置換もしくは非置換のスチレンまたはスチレン誘導体/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体としては、40〜90質量%の置換もしくは非置換のスチレン成分と10〜60質量%不飽和カルボン酸を共重合することにより得られる共重合体であり、その構造としてはランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体などが挙げられる。その配合量は前記(A)100重量部に対し1〜100重量部であるが、塗膜の基材への密着性と水蒸気バリア性のバランスの点で20〜80重量部が好ましく、30〜70重量部がより好ましい。置換もしくは非置換のスチレンとしては、スチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、m−エチルスチレン、クロロスチレン等が挙げられる。スチレン誘導体としては、α−メチルスチレン、β−メチルスチレンが挙げられる。α、β―不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸などのモノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのジカルボン酸、無水マレイン酸などの酸無水物、またそれらの部分エステル化物を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。また、該共重合体は本発明により得られる効果を損なわない範囲で共重合可能な他のモノマー単位を含んでもよく、具体的にはα−メチルスチレンなどのスチレン誘導体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸イソボニル、アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸3-メトキシブチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸n-ステアリル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸トリメチロールプロパン、アクリル酸1,9-ノナンジオール、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピルなどのアクリル酸エステルモノマー類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸アルキル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸イソボニル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-メトキシエチル、メタクリル酸2−エトキシエチル、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸1,3ブチレングリコール、ジメタクリル酸1,6-ヘキサンジオール、ジメタクリル酸ポリプロピレングリコール、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸ヘプタデカフルオロデシルなどのメタクリル酸エステルモノマー類、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N−n−ブトキシアクリルアミド、オレイン酸アミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミドなどのα、β―不飽和カルボン酸アミドモノマー類、アクリロニトリルなどのα、β―不飽和ニトリルモノマー類、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどのオレフィン系モノマー類が挙げられ、必要に応じて1種類または2種類以上を選択して使用される。
【0012】
本発明のポリ乳酸系樹脂防湿コーティング用組成物に(C)ワックス系樹脂を配合することにより、塗膜の水蒸気バリア性を向上させることができる。その配合量は前記(A)100重量部に対し1〜100重量部であれば好ましいが、塗膜の透明性と水蒸気バリア性のバランスの点で10〜80重量部がより好ましく、20〜60重量部が特に好ましい。ワックス系樹脂としては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムなどの石油由来ワックス、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、ジャパンワックスなどの植物由来ワックス、蜜蝋などの動物由来ワックス、モンタンワックスなどの鉱物由来ワックス、ポリエチレンワックスなどの合成ワックス、更にはそれらの酸変性ワックスなどを目的に応じて1種類または2種類以上を選択して使用される。前記ワックスの中でも比較的融点が高く、高温下での水蒸気バリア性に影響を及ぼさないことと、これらを配合した防湿性コーティング剤を皮膜化したときの透明性に優れる点で、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、キャンデリラワックス、ポリエチレンワックスが好適に用いることができる。
【0013】
本発明のポリ乳酸系樹脂防湿コーティング用組成物に(D)無機板状粒子を配合することにより、塗膜の水蒸気バリア性を向上させることができる。その配合量は前記(A)100重量部に対し1〜50重量部であれば好ましいが、塗膜の透明性と水蒸気バリア性のバランスの点で5〜30重量部がより好ましい。無機板状粒子は、極薄の単位結晶からなり、結晶層間に溶媒を配位、吸収・膨潤する性質を持つ粘土化合物である。無機板状粒子としては、スメクタイト族、バーミキュライト族、マイカ族の天然粘土及び合成粘土鉱物が好ましい。これらのうちで、スメクタイト族であるモンモリロナイト、サポナイト、バイデライト、ヘクトライト、スチブンサイトなどよりモンモリロナイトが、マイカ族である合成雲母が好ましい。無機板状粒子は単独で、または二種以上組み合わせて使用することができる。無機板状粒子が共存する際は乾燥性、透明性が低下する懸念があり、生産性の低下につながるおそれもあることから、平均粒子径で3μm以下が好ましい。更にコロイダルシリカなど必要に応じ使用される。
【0014】
本発明でオレフィン/α、β―不飽和カルボン酸共重合体、ワックス系樹脂、スチレン/アクリル系共重合体を水系分散化する際に中和剤を使用することが好ましい。中和剤として用いることができる塩基性化合物には、アンモニア水、アルカリ金属系として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化リチウム、また2価の金属としては酸化亜鉛、水酸化カルシウムなど、さらに3級アミンとして、トリエチルアミン、N,N−ジメチルブチルアミン、N,N−ジメチルアリルアミン、N−メチルピロリジン、テトラメチルジアミノメタン、トリメチルアミン、2級アミンとして、N−メチルエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジエチルアミン、1級アミンとして、プロピルアミン、t−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、イソブチルアミン、1,2−ジブチルプロピルアミン、3−ペンチルアミン等があり、モルホリン系としてモルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、ピペラジン系としてピペラジン、ヒドロキシエチルピペラジン、2−メチルピペラジン、アミノエチルピペラジン、アミノアルコール系として、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−n−ブチルエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−t−ブチルエタノールアミン、N−t−ブチルジエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)イソプロパノールアミン、N,N−ジエチルイソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールなど、またジアミンではエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、アミノエチルエタノールアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、また脂肪族アミンとしてココナットアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンとそれらのEO付加体などが挙げられ、必要に応じて1種類または2種類以上を選択して使用される。
【0015】
本発明のポリ乳酸系樹脂防湿コーティング用組成物には、被膜性能の向上を目的として架橋剤を配合してもよい。架橋剤としては、本発明で使用する重合体、ワックス中のカルボキシル基との反応性を有する官能基を有する化合物、多価金属塩などを挙げることができ、具体的にはカルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物、イソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、メラミン系化合物、シランカップリング剤、ジルコニウム系化合物などが挙げられる。これらは本発明により得られる効果を損なわない範囲で任意の部数を配合することができ、その種類としては単独でも、複数種を併用することもできる。
【0016】
さらに本発明により得られる効果を損なわない範囲で可塑剤、造膜助剤、レベリング剤、無機添加物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、防腐剤、抗菌剤、消泡剤、着色剤、香料、分散安定剤、粘度調整剤、架橋剤など用途目的に必要とされる添加剤を併用することができる。
【0017】
本発明に係るポリ乳酸系樹脂とは、乳酸単位を50重量%以上、好ましくは75重量%以上からなる重合体を主成分とする重合体組成物を意味するものであり、原料に用いられる乳酸類としては、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸又はそれらの混合物又は環状2量体であるラクタイドを使用することができる。その他の成分としては、サクシネート、カプロラクトン、グリコール酸、アミノ酸などを挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0018】
本発明に使用される樹脂系に、さらに必要に応じ他の樹脂系を配合使用することが出来る。例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、各種クラフト系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂等各種の水系分散体が挙げられる。これらの樹脂は、1種類のみを用いてもよく、適宜、2種類以上を混合してもよい。また、同種の樹脂においても、組成の異なる樹脂を組み合わせてもよい。前記樹脂水系分散体の中で、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂などが好ましく用いられる。
【0019】
本発明のポリ乳酸系樹脂防湿コーティング用組成物は、例えば前記(A)オレフィン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体および(B)置換もしくは非置換のスチレンまたはスチレン誘導体/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体をそれぞれ別個に水系分散化したものを混合するか、また、両共重合体を同時に水系分散化することによって得ることができる。水系分散化の手段については特に限定するものではないが、オレフィン/α、β―不飽和カルボン酸共重合体、ワックス系樹脂、スチレン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体の融点近く以上に温度上昇が可能であり、必要に応じて加圧下でも乳化・分散できる設備、高せん断力を得られる設備による水系分散化、また高圧ホモジナイザー法、他の機械的方法、噴霧法等との併用・組み合わせによる方法、さらに冷却コントロールの可能な設備が使用される。これらはポリオレフィン系樹脂の物性、官能基の構造と量、使用する乳化剤の種類と量、要求される水系分散体の性能、粒子径等により選定し使用される。
【0020】
得られた防湿コーティング水系分散体の塗工方法は通常行なわれる方法、例えばドクターブレード法、ロールコーター法、エアナイフ法、グラビア法、又状況によってはスプレー法、ディッピング法などが挙げられるが、これらの方法に限定されることはない。加えて塗工処理を行う前に、基材となるポリ乳酸系樹脂にコロナ処理、アンカーコート処理等の公知の方法による表面処理を行うことができる。さらに本発明で用いられるスチレン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体水系分散体を予め、基材となるポリ乳酸系樹脂に塗工処理した後に、オレフィン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体、ワックス系樹脂からなる水系分散体を塗工処理することで密着性を付与することもできる。
【0021】
本発明に係るポリ乳酸系樹脂防湿コーティング用組成物の乾燥被膜厚は特に限定されないが、水蒸気バリア性を付与するフィルムとしての機能を保持するという観点及び製造コストの観点から、0.1〜5μm、好ましくは0.2〜2μmである。
【実施例】
【0022】
以下実施例により本発明を説明する。但し本発明は、これらの実施例及び比較例によってなんら制限されるものではない。なお、試験方法は以下の通りである。
【0023】
<水蒸気透過度>
1.二軸延伸ポリ乳酸フィルム(厚さ40μm)上に、バーコーターを用いて水系分散液をコーティングし、105℃で2分間加熱乾燥処理を行い、水系分散体の乾燥被膜厚5μm(基材フィルムとの合計45μm)の積層フィルムを試験片とする。
2.JIS Z−0208に準拠し、試験片の塗工面を恒温恒湿側とし40℃、90%RHの条件下で測定した。
【0024】
<透明性>
1.二軸延伸ポリ乳酸フィルム(厚さ40μm)上に、バーコーターを用いて水系分散体をコーティングし、105℃で2分間加熱乾燥処理を行い、水系分散体の乾燥被膜厚5μm(基材フィルムとの合計45μm)の積層フィルムを試験片とする。
2.温度23℃、50%RHの恒温恒湿条件下にて、ヘイズ測定機(東京電色製TC−HIIIDPK)を用い作製したフィルムのヘイズ値を測定した。数値が小さい程、透明性が優れていることを示す。ヘイズ値(%)は以下の基準で評価した。
2%以下:◎、2〜3%:○、3〜5%:△、5%以上:×
【0025】
<密着性>
1.二軸延伸ポリ乳酸フィルム(厚さ40μm)上に、バーコーターを用いて水系分散液をコーティングし、105℃で2分間加熱乾燥処理を行い、水系分散体の乾燥被膜厚5μm(基材フィルムとの合計45μm)の積層フィルムを試験片とする。
2.JIS K−5400に準拠し、乾燥被膜を1mm×1mm×100個の碁盤目状に切り、セロハンテープ剥離試験を行い、剥離せず残存している個数により、以下の基準で評価した。
90個以上:◎、90〜70:○、70〜50個:△、50個以下:×
【0026】
製造例1
オレフィン/α、β―不飽和カルボン酸共重合体水系分散体(O−1)の調製
撹拌機、温度計、温度コントローラーを備えた内容量1.0Lの水系分散化設備に、エチレン/アクリル酸共重合体(ダウ・ケミカル社製:プリマコール5980)200.0g、25%アンモニア水15.1g、イオン交換水584.9gを加え、撹拌しながら130℃まで加熱し2時間熟成した。熟成後、40℃まで冷却し固形分25%のオレフィン/α、β―不飽和カルボン酸共重合体水系分散体(O−1)を得た。
【0027】
製造例2
オレフィン/α、β―不飽和カルボン酸共重合体/ワックス系樹脂の共乳化水系分散体(OW−1)の調製
製造例1と同様の水系分散化設備に、エチレン/アクリル酸共重合体(ダウ・ケミカル社製:プリマコール5980)150g、マイクロクリスタリンワックス(日本精鑞社製:Hi−Mic2095)30g、25%アンモニア水22.6g、イオン交換水517.4gを加え、撹拌しながら130℃まで加熱し2時間熟成した。熟成後、40℃まで冷却し固形分25%のオレフィン/α、β―不飽和カルボン酸共重合体/ワックス系樹脂の共乳化水系分散体(OW−1)を得た。
【0028】
製造例3
スチレン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体水系分散体(S−1)の調製
製造例1と同様の水系分散化設備に、スチレンマレイン酸共重合体(サートマー社製:SMA1440)100.0g、25%アンモニア水34.5g、イオン交換水365.5gを加え、撹拌しながら100℃まで加熱し1時間熟成した。熟成後、40℃まで冷却し固形分20%のスチレン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体水系分散体(S−1)を得た。
【0029】
製造例4
スチレン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体水系分散体(S−2)の調製
工業的に供給し得るものとしてDSM社製A−2092を用い固形分47%のスチレン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体水系分散体(S−2)とした。
【0030】
製造例5
ワックス系樹脂水系分散体(W−1)の調製
製造例1と同様の水系分散化設備に、マイクロクリスタリンワックス(日本精鑞社製:Hi−Mic2095)200g、ドデシルベンゼンスルホン酸Na10.0g、イオン交換水490gを加え、撹拌しながら130℃まで加熱し2時間熟成した。熟成後、40℃まで冷却し固形分30%のワックス系樹脂水系分散体(W−1)を得た。
【0031】
製造例6
ワックス系樹脂水系分散体(W−2)の調製
製造例1と同様の水系分散化設備に、キャンデリラワックス(東亜化成社製:精製キャンデリラワックス)200.0g、ジメチルエタノールアミン45.0g、イオン交換水555.0gを加え、撹拌しながら100℃まで加熱し2時間熟成した。熟成後、40℃まで冷却し固形分25%のワックス系樹脂水系分散体(W−2)を得た。
【0032】
製造例7
無機板状粒子分散体(F−1)の調整
工業的に供給し得るものとしてコープケミカル社製ソマシフMEB−3を用い固形分8%の無機板状粒子分散体(F−1)とした。
【0033】
実施例1
攪拌機を備えたガラス製容器にオレフィン/α、β―不飽和カルボン酸共重合体水系分散体(O−1)400部とワックス系樹脂水系分散体(W−2)100部およびスチレン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体水系分散体(S−1)250部を加え、完全に混合するまで攪拌した。二軸延伸ポリ乳酸フィルム(厚さ40μm)上に、バーコーターを用いてコーティングし、105℃で2分間加熱乾燥処理を行い、乾燥被膜厚5μmの積層フィルム(厚さ45μm)を作製し試験フィルムとした。
【0034】
実施例2
実施例1と同様の装置、方法でオレフィン/α、β―不飽和カルボン酸共重合体水系分散体(O−1)400部、無機板状粒子分散体(F−1)125部、スチレン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体水系分散体(S−2)43部を用い試験フィルムを作製した。
【0035】
実施例3
実施例1と同様の装置、方法でオレフィン/α、β―不飽和カルボン酸共重合体/ワックス系樹脂の共乳化水系分散体(OW−1)400部、スチレン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体水系分散体(S−1)200部を用い試験フィルムを作製した。
【0036】
比較例1
実施例1と同様の装置、方法でオレフィン/α、β―不飽和カルボン酸共重合体水系分散体(O−1)400部、ワックス系樹脂水系分散体(W−1)83部を用い試験フィルムを作製した。
【0037】
比較例2
実施例1と同様の装置、方法でワックス系樹脂水系分散体(W−1)200部、スチレン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体水系分散体(S−1)500部を用い試験フィルムを作製した。
【0038】
比較例3
実施例1と同様の装置、方法でスチレン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体水系分散体(S−1)を用い試験フィルムを作製した。
【0039】
比較例4
実施例1と同様の装置、方法でオレフィン/α、β―不飽和カルボン酸共重合体水系分散体(O−1)を用い試験フィルムを作製した。
【0040】
上記実施例に基づき各水系分散体の種類、配合割合を変化させポリ乳酸系樹脂用防湿コーティング水系分散体の調製を行った。なお配合割合は各水系分散体の固形分部数を示す。また前処理とは予め二軸延伸ポリ乳酸フィルム(厚さ40μm)上に塗膜厚1μmのプライマー処理を行ったことを表す。
【表1】

【0041】
上記試験方法、評価基準に基づき評価を行った結果を示す。なお基材フィルムとして用いた二軸延伸ポリ乳酸フィルム(厚さ40μm)の水蒸気透過度は155g/m・24hrであり、数値が小さい程良好な性能となる。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)オレフィン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体100重量部および(B)置換もしくは非置換のスチレンまたはスチレン誘導体/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体1〜100重量部を含有するポリ乳酸系樹脂防湿コーティング用組成物。
【請求項2】
さらに(C)ワックス系樹脂1〜100重量部を含有する請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂防湿コーティング用組成物。
【請求項3】
さらに(D)無機板状粒子1〜50重量部を含有する請求項1又は2に記載のポリ乳酸系樹脂防湿コーティング用組成物。
【請求項4】
前記オレフィン/α、β―不飽和カルボン酸系共重合体が、エチレン/アクリル酸共重合体またはエチレン/メタクリル酸共重合体である請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリ乳酸系樹脂防湿コーティング用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリ乳酸系樹脂防湿コーティング用組成物を片面または両面に塗工したポリ乳酸系樹脂フィルムまたはシート。


【公開番号】特開2008−45070(P2008−45070A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223642(P2006−223642)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】