説明

ポリ乳酸系水性ラミネート用接着剤、エマルジョンおよびそれらを用いた積層体

【課題】 乳化剤を添加しなくても安定な水系エマルジョンを形成することのできる自己乳化機能を有し、なおかつ植物原料由来の樹脂骨格を有するポリ乳酸系樹脂を含有する水性ラミネート用接着剤、これを含有する水系エマルジョンおよび水性接着剤組成物を提供する。
【解決手段】 ポリ乳酸セグメントとスルホン酸金属塩基含有セグメントを分子中に有する共重合ポリウレタン樹脂を含有する水性ラミネート用接着剤および、これを含有する水性ラミネート用接着剤調製用水系エマルジョンおよびそれらを用いて得られた積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分子中に共重合されたポリ乳酸セグメントとスルホン酸金属塩基含有セグメントを有し、このスルホン酸金属塩基により自己乳化した、ポリ乳酸系樹脂エマルジョンをラミネート用接着剤として使用した層間接着強度の優れた積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年環境問題から塗料、インキ、コーティング剤、接着剤、粘着剤、シール剤、プライマー及び繊維製品や紙製品の各種処理剤が従来の有機溶剤系から水系化、ハイソリッド化、粉体化の方向に進みつつある。とりわけ水分散体による水系化は作業性の良さと作業環境保護の面から最も汎用的で有望視されている。加えて水分散体を形成する合成樹脂自身にも生分解性や植物由来原料を主体として構成されている事が廃棄後の環境汚染の面から好ましい。
【0003】
ポリ乳酸原料の乳酸はトウモロコシやイモなどの天然の素材を原料としており、関連した業界では注目されている。ポリ乳酸樹脂は土壌や海水中では数年内に水と二酸化炭素に分解される性質を持ち、安全性が高く人体に無害である。その水分散体は優れた塗膜加工性、各種基材への密着性から塗料、インキ、コーティング剤、接着剤、プライマー、等の工業製品、及び優れた洗浄性、保水性、抗菌性、人体への低毒性を利用して衣料用、食器用、石鹸や洗剤、歯磨き、シャンプー、リンス、化粧品、乳液、整髪料、香水、ローション、軟膏など幅広い分野で用いられる可能性がある。
【0004】
ポリ乳酸やその他生分解性ポリマーをラミネート用接着剤として用いた例としては特許文献1、2、3が挙げられる。これらのうち特許文献1、2では接着剤が溶融押し出しにより基材上に積層される事が明示されている。具体的に特許文献1では生分解性脂肪族系ポリエステル樹脂をTダイ溶融押し出し法により積層させる事が、また特許文献2ではポリカプロラクトンを主体とする生分解性樹脂をコートした紙基材上に3−ヒドロキシ酪酸・3−ヒドロキシ吉草酸共重合体を主成分とする生分解性樹脂を押出コーティング法にて積層する方法が記載されている。しかしながらこれら生分解性樹脂を溶融押し出しにより積層させる工程においてはしばしば樹脂が加水分解を受け、分子量が低下してしまう事により期待した接着強度が得られない等の問題があった。一方、特許文献3では上記の様な問題を回避するため、乳酸を主成分とするポリマーを非ハロゲン系汎用有機溶剤に溶解し、基材上に塗布する事が提案されている。しかし有機溶剤溶液を用いた塗布工程は先にも述べたとおり昨今の環境問題から好ましくない。
【0005】
そこで有機溶剤溶液に代えて、ポリ乳酸の水分散体が提案されるが、ポリ乳酸の水分散体としては例えば特許文献4にはポリ乳酸樹脂をアニオン系乳化剤で乳化分散させた強制乳化分散体が提案されている。また特許文献5には種々の手法によりポリ乳酸樹脂の水分散体を調製する方法が示されているが、具体的な分散手法として実施例に示されているのは、ポリビニルアルコールやレシチンの様な乳化剤による強制乳化処方により得られた水分散体である。同様に特許文献6の実施例にもステアリン酸ナトリウムを乳化剤とした水分散体の調製方法が例示されている。
【0006】
しかしながら例示されている様な水分散体粒子は分散体粒子経が大きいので長期保存中に樹脂分が沈殿しやすく、また添加されている乳化剤の影響で分散体を乾燥して得られた塗膜の基材への接着性や耐水性が劣る等の問題点が有った。
【0007】
【特許文献1】特開平9−249868号公報
【特許文献2】特開平6−293113号公報
【特許文献3】特開2003−72008号公報
【特許文献4】特開平10−101911号公報
【特許文献5】特開2003−277595号公報
【特許文献6】特開2004−2871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明が解決しようとする課題は、環境に配慮した植物原料由来の樹脂骨格を有し、乳化剤の存在無しに安定な水系エマルジョンを形成するポリ乳酸系樹脂をラミネート用接着剤として使用する事で環境に配慮した工程で得る事ができる基材接着性に優れた積層体を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は以下の構成からなる。
(1) ポリ乳酸セグメントとスルホン酸金属塩基含有セグメントを分子中に有する共重合ポリウレタン樹脂を含有する水性ラミネート用接着剤。
(2) 前記共重合ポリウレタン樹脂が、ポリ乳酸ジオール(A)、スルホン酸金属塩基含有ジオール(B)、(A)(B)以外のジオール(C)、を、ジイソシアネート化合物(D)との重付加反応により結合した構造からなる(1)に記載の水性ラミネート用接着剤。
(3) 前記共重合ポリウレタン樹脂のスルホン酸金属塩基濃度が100eq/ton以上500eq/ton以下である(1)または(2)に記載の水性ラミネート用接着剤。
(4) 前記ジオール(C)が2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネートを含有する(1)または(2)に記載の水性ラミネート用接着剤。
(5) 前記ジオール(C)がポリエーテルジオール及び又はポリカプロラクトンジオールを含有する(1)または(2)に記載の水性ラミネート用接着剤
(6) 前記ポリ乳酸ジオールのL−乳酸とD−乳酸のモル比(L/D)が1〜9である(1)または(2)に記載の水性ラミネート用接着剤。
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の水性接着剤を含有する水性ラミネート用接着剤調製用水系エマルジョン。
(8) エマルジョンの平均粒子径が200nm未満である(7)に記載の水性ラミネート用接着剤調製用水系エマルジョン。
(9) 前記共重合ポリウレタン樹脂以外の乳化剤を含有しない(7)または(8)に記載の水性ラミネート用接着剤調製用水系エマルジョン。
(10) 前記共重合ポリウレタン樹脂100重量部に対して、多価イソシアネート系硬化剤が5〜50重量部の範囲で配合されている(7)〜(9)のいずれかに記載の水性ラミネート用接着剤調製用水系エマルジョン。
(11) (1)〜(6)のいずれかに記載の水性ラミネート用接着剤および/または(7)〜(10)のいずれかに記載の水性ラミネート用接着剤調製用水系エマルジョンを用いて得られた積層体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂は分子中に十分な濃度のスルホン酸金属塩基を有するため、共重合ポリウレタン樹脂自体が水への自己乳化機能を有し、乳化剤を添加しなくても粒子径の小さい水系エマルジョンを形成する事が出来、その結果としてエマルジョンの保存安定性に優れる。このため、本発明の共重合ポリウレタン樹脂を含有する水性ラミネート用接着剤を用いることにより、別途乳化剤を添加しなくても保存安定性に優れなおかつ基材接着性に優れる水性ラミネート用接着剤を提供することができる。また、本発明の水性ラミネート用接着剤から得られる積層体はその好ましい実施態様において層間接着性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂はスルホン酸金属塩基を分子中に有し、その濃度は樹脂重量に対して50eq/ton以上500eq/tonであることが好ましく、より好ましくは100eq/ton以上、更に好ましくは150eq/ton以上である。本発明の共重合ポリウレタン樹脂はこのスルホン酸金属塩基により自己乳化機能を発現し、粒子系の小さなエマルジョン粒子を形成することができ、保存安定性に優れる水系エマルジョンを得ることができる。スルホン酸金属塩基濃度が100eq/ton未満では形成される水分散体粒子の粒子径が大きくなり、エマルジョン保存安定性が低下する傾向がある。スルホン酸金属塩基濃度が低い場合には、微量の乳化剤を併用することにより、エマルジョンの保存安定性を改善できる場合がある。また、スルホン酸金属塩基濃度が500eq/tonを越えるとポリウレタン溶液の溶液粘度が高くなり、重合反応が困難となる傾向がある。
【0012】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂におけるポリ乳酸セグメントおよびスルホン酸金属塩基含有セグメントは、例えば、ポリ乳酸含有ジオールとスルホン酸金属塩基含有ジオールとジイソシアネートの重付加反応によって得ることができる。更に異なるジオール成分を共存させて重付加反応を行うことも可能であり、用いるジオール成分の選択により、種々の機能を付加したりすることができる。
【0013】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂に共重合されるスルホン酸金属塩基含有セグメントとは、スルホン酸金属塩基を有する二塩基酸或いはそのジエステル化合物と、グリコール成分との縮合反応により得られる化学構造を有するポリエステルジオール化合物であることが好ましい。前記スルホン酸金属塩基を有する二塩基酸は、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、3−ナトリウムスルホテレフタル酸、4−カリウムスルホ−1,8−無水ナフタレンから選ばれる1種以上であることが好ましい。また前記スルホン酸金属塩基としては、ナトリウム塩基、リチウム塩基、カリウム塩基を挙げることができる。金属塩のほか、四級アンモニウム塩基や四級ホスホニウム塩基等の有機塩基も同様の効果を示す。これらのうち、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が汎用性と共重合される事により得られたスルホン酸金属塩基含有セグメントの汎用溶剤への溶解性の点で特に好ましい。また、前記グリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、2−メチル−1,3−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、3−エチル−1,5−ペンタンジオール、3−プロピル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、3−オクチル−1,5−ペンタンジオール等の脂肪族ジオール類や1,3−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシプロピル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシメトキシ)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシメトキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシシクロヘキシル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、3(4),8(9)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール等の脂環族グリコール類或いはビスフェノールAの両末端水酸基へのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物の様な芳香族系グリコール類から選ばれる1種以上であることが好ましい。これらグリコール成分のうち、得られたスルホン酸金属塩基含有ポリエステルジオール化合物の汎用溶剤への溶解性の面からは、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、3(4),8(9)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールが好ましい。更に好ましくは2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、3(4),8(9)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、最も好ましくは2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネートである。
【0014】
前記スルホン酸金属塩基含有セグメントにおいて、スルホン酸金属塩基を有する二塩基酸或いはそのジエステル化合物以外の二塩基酸及びそれらのジエステル化合物を、全酸性分を100モル%としたとき90モル%未満の範囲で共重合させることにより、スルホン酸金属塩基含有セグメントの溶剤溶解性を向上させる事が出来る。具体的な二塩基酸成分としてはナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸等の芳香族二塩基酸や、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸等の脂肪族二塩基酸、或いは1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族二塩基酸及びそれらのジエステル化合物が挙げることができる。
【0015】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂に共重合されるポリ乳酸セグメントは、ポリオールを開始剤としてラクチドを開環付加することによって得ることができる化学構造を有するポリエステルジオールであることが好ましい。前記ポリオールはジオールであることが好ましく、更に好ましくは脂肪族ジオールである。
【0016】
また本発明のポリ乳酸セグメント中のL−乳酸とD−乳酸のモル比(L/D)は1〜9であることが好ましく、この範囲ではポリウレタン重合時の反応溶媒への良好な溶解性とウレタン反応性が得られる。L−乳酸とD−乳酸のモル比(L/D)が上記範囲を外れると、ポリ乳酸セグメントの汎用溶剤への溶解性が悪くなり、共重合反応性が低下する。
【0017】
本発明のポリ乳酸セグメントの合成方法としては以下2種の方法を例示できる。
<第1の合成法>スルホン酸金属塩基を含有しないジオールを開始剤としてラクチドモノマーを開環付加重合させる方法。
<第2の合成法>スルホン酸金属塩基を含有するジオールを開始剤としてラクチドモノマーを開環付加重合させる方法。
【0018】
前記<第1の合成法>で使用される開始剤は、前記スルホン酸金属塩基含有セグメントの構成成分として例示した種々のグリコール類を用いる事が出来る。これらのうち、エチレングリコール、2−メチルペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の比較的分子量の低いグリコール類を用いることにより、バイオマス度を比較的高く保つことができ、好ましい。この場合得られたスルホン酸金属塩基を含有しないポリ乳酸ジオールと前記スルホン酸金属塩基含有セグメントをウレタン共重合する事で本発明の共重合ポリウレタン樹脂を得ることができる。
【0019】
前記<第2の合成法>で使用される開始剤は、前記スルホン酸金属塩基含有セグメントおよび/または5−ナトリウムスルホイソフタル酸への2倍モルのエチレングリコール縮合付加物等のスルホン酸金属塩基含有ジオールを用いる事が出来る。この場合、得られたポリ乳酸セグメントにはスルホン酸金属塩基が含有されているのでスルホン酸金属塩基含有セグメントでもあり、これをウレタン共重合させる事で本発明の共重合ポリウレタン樹脂が得られる。
【0020】
また、前記<第2の合成法>で得られたスルホン酸金属塩基を含有するポリ乳酸セグメントと前記<第1の合成法>で得られたスルホン酸金属塩基を含有しないポリ乳酸セグメントをウレタン共重合させる事によっても、本発明の共重合ポリウレタン樹脂を得ることができる。さらには、前記<第2の合成方法>で得られたスルホン酸金属塩基を含有するポリ乳酸セグメントとポリ乳酸成分を含有しないスルホン酸金属塩基含有セグメントをウレタン共重合すること、前記<第2の合成法>で得られたスルホン酸金属塩基を含有するポリ乳酸セグメントと前記<第1の合成法>で得られたスルホン酸金属塩基を含有しないポリ乳酸セグメントとポリ乳酸成分を含有しないスルホン酸金属塩基含有セグメントをウレタン共重合することによっても本発明の共重合ポリウレタン樹脂を得ることができる。これらの方法は、共重合ポリウレタン樹脂のスルホン酸金属塩基の濃度の制御が容易である点で優れている。
【0021】
前記ポリ乳酸セグメントの数平均分子量は400〜10000であることが好ましく、より好ましくは800〜5000、更に好ましくは1000〜3000の範囲である。数平均分子量が400未満では開始剤に開環付加させるラクチドモノマー量が少なく、得られる共重合ポリウレタン樹脂のバイオマス度を上げる事が出来ない。一方、数平均分子量が10000を越える場合、分子末端の水酸基の数が少ないのでポリ乳酸ジオールの反応性が低くなり、ウレタン共重合による高分子量化反応が進みにくくなる。
【0022】
本発明の好ましい実施態様において、共重合ポリウレタン樹脂にポリエーテルセグメント或いはポリ乳酸以外の脂肪族系ポリエステル系セグメントを共重合させる事により、フィルム基材等への接着特性を向上させることが出来る。具体的なポリエーテル化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。またポリ乳酸以外の脂肪族系ポリエステル系セグメントとしては琥珀酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族二塩基酸骨格を有するポリエステルジオール或いはポリカプロラクトンジオール、更には1,6−ヘキサンジオール等の脂肪族グリコールベースのポリカーボネートジオール等が挙げられる。これらのうち特にポリエチレングリコール、琥珀酸やアジピン酸骨格を有するポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオールは生分解特性を向上させるためより好ましい。本発明の共重合ポリウレタン樹脂中への共重合率は5重量%〜50重量%が好ましい。5重量%未満では接着特性を向上する効果があまり発現されず、50重量%を越えると得られるポリウレタン樹脂の凝集力が低下し、十分なラミ接着強度が得られないし、バイオマス度も低下する
ため、好ましくない。また共重合される上記ポリエーテルセグメント鎖の数平均分子量は
任意の分子量のものを用いる事が出来るが、ポリウレタン反応性と基材接着性向上の効果の観点から500〜6000、好ましくは1000〜4000である。
【0023】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂に使用されるジイソシアネート化合物としては、例えば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニレンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートジフェニルエーテル、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネート、またはヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートおよびm−キシレンジイソシアネートの水添物等の脂肪族、脂環族系ジイソシアネートが挙げられるが、これらの内、2,4−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートが汎用性の面から好ましい。
【0024】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂に使用されるジイソシアネート化合物の一部を3官能以上のポリイソシアネートで置換することにより、共重合ポリウレタン樹脂の分子量を上げやすくすること、また硬化剤との反応性を向上させることが可能である。但し、3官能ポリイソシアネートの置換比率が低すぎるとこれらの効果が発揮されず、置換比率が高すぎると共重合ポリウレタン樹脂のゲル化が生じるので、3官能以上のポリイソシアネートへの置換率は0.1モル%以上5モル%以下であることが好ましく、0.5モル%以上3モル%以下であることが更に好ましい。好ましい3官能以上のポリイソシアネートとしては、トリメチロールプロパン或いはグリセリン各々1分子に対し、3分子のトリレンジイソシアネートもしくは3分子の1,6−ヘキサンジイソシアネートの付加物、さらには3分子の1,6−ヘキサンジイソシアネートで形成されるイソシアヌレート環を有する化合物を挙げることができる。
【0025】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂にジオール化合物やアミノアルコール化合物、ジアミン化合物を共重合させることにより、塗膜の強靭性を向上させることが出来る場合がある。ジオール化合物としては例えば前記スルホン酸金属塩基含有セグメントの構成成分として例示した種々のグリコール類を挙げることができる。エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、2−メチルプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、N−メチルモノエタノールアミン、エチレンジアミン等の比較的低分子量の化合物が、バイオマス度を比較的高く保つことができ、好ましい。
【0026】
また本発明の共重合ポリウレタン樹脂に、トリメタノールプロパン、トリエタノールアミン、ペンタエリスリトール等のポリオール化合物を、得られる共重合ポリウレタン樹脂がゲル化しない範囲で共重合させることにより、共重合ポリウレタン樹脂の分子量を上げやすくする、或いは硬化剤との反応性を向上させる事が可能である。これらポリオールの中ではバイオマス度を比較的高く保つことができるので、分子量の小さいトリメチロールプロパンが好ましい。ポリオール化合物の共重合比率は、本発明の共重合ポリウレタン樹脂を構成するポリ乳酸ジオール(A)、スルホン酸金属塩基含有ジオール(B)、(A)(B)以外のジオール(C)の合計に対し、0.1モル%以上5モル%以下であることが好ましく、0.5モル%以上3モル%以下であることが更に好ましい。
【0027】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂を含有する水性ラミネート用接着剤の水系エマルジョン粒子の平均粒子径は200nm以下であることが好ましい。平均粒子径が200nmを越えるとエマルジョン液の保存安定性が悪く、保存中に樹脂が沈殿し易い。また、造膜特性も低下し、高い層間接着性能が発揮されにくい。
【0028】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂の数平均分子量は5000以上40000未満である事が好ましい。より好ましくは8000以上30000未満、更に好ましくは10000以上25000未満である。5000未満では一分子中のスルホン酸金属塩基数が不足し、その共重合ポリウレタン樹脂を含有する水性ラミネート用接着剤は安定なエマルジョン粒子を形成出来にくくなる傾向にある。また、積層して得られる積層体の層間接着力も弱くなる。一方、40000を越える場合、その共重合ポリウレタン樹脂を含有する水性ラミネート用接着剤は造膜特性が劣り、基材上に平滑で均一な途膜が形成されにくくなり、層間接着性に優れる積層体が形成されにくくなる傾向にある。
【0029】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂のガラス転移温度は−20℃から+40℃の範囲が好ましい。より好ましくは−10℃から+20℃の範囲である。−20℃未満ではラミ接着時に被着体界面から樹脂分がはみ出し易く、また40℃を越えると、被着体との密着性が不足し、接着層全面にわたる安定したラミ接着強度が得られにくい。
【0030】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂にはこの共重合ポリウレタン樹脂100重量部に対して、水中でエマルジョンを形成する事が出来る多価イソシアネート系硬化剤が5〜50重量部の範囲で配合されている事がラミネート接着強度向上の目的で好ましい。5重量部未満では硬化剤配合による硬化架橋反応効果が得られにくく、ラミネート接着強度が十分に向上しない。一方50重量部以上では未反応の硬化剤量が多くなり、これらの未反応物が可塑化効果を引き起こし、ラミ接着強度が低下してしまう。配合される硬化剤のタイプとしては水中でイソシアネート基がポリエーテル鎖等のノニオン系界面活性剤で保護されたミセル、或いはオキシム化合物等で一時的にブロック化されたイソシアネート基が同様のノニオン系界面活性剤で保護されたミセル構造を形成するタイプ、或いは一般的な種々アニオン系またはカチオン系界面活性剤にてブロック化されたイソシアネート基が水中に乳化されたタイプが好ましい。
【0031】
本発明の自己乳化型ポリ乳酸ポリウレタン樹脂の水系エマルジョンの製造方法は、まず第一段階においてメチルエチルケトン(以下、MEKと略記する場合がある)溶液中で共重合ポリウレタン樹脂を重合し、次いで第二段階で得られた樹脂のMEK溶液に水を混合し、次いで系からMEKを留去させる方法で調製出来るが、この方法に限ったものでは無い。より好ましい調製方法としては、100%MEK中で本発明の共重合ポリウレタン樹脂を重合した後、固形分濃度30重量%溶液に対して5〜40重量%のイソプロピルアルコール又はエチルアルコールを均一混合し、減圧下に50℃以下の条件でMEK及びイソプロピルアルコール又はエタノールを留去する方法が挙げられる。MEK溶液にイソプロピルアルコール又はエチルアルコールを混合させておく事で相転移がスムーズに進行し、得られるエマルジョン粒子がより微粒子化され、かつ粒子径分布もより狭くなる傾向にある。
【0032】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂は有機溶剤を含有しない水中にポリマー粒子が分散した水系エマルジョンとして安定に保存かつ基材に塗布可能であるが、共溶剤としてメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等の低級モノアルコール類、或いはエチルアセテート、ブチルアセテート等のアセテート類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤を任意の濃度で配合した水系エマルジョンとし、特定基材への造膜特性を更に改善させても良い。
【0033】
本発明の水性ラミネート用接着剤に用いられる樹脂としては本発明の共重合ポリウレタン樹脂単独でも良く、必要に応じてロジン系、アクリル系、塩ビ系、塩酢ビ系、ポリビニルアルコール系、ポリエチレングリコール系等の親水性樹脂を配合使用しても良い。ロジン系、ポリビニルアルコール系、ポリエチレングリコール系等の生分解性の親水性樹脂を配合使用すれば、水性インキ全体の生分解性を高くすることができ、特に好ましい。また本発明の水性インキの溶剤成分としては水の他、水と親和性の高い有機溶剤を添加し、印刷物の乾燥性の調整や印刷基材との密着性を改善させる事ができる。
【0034】
また本発明の水性ラミネート用接着剤には必要に応じて耐候性安定剤や消泡剤、防腐剤、レベリング剤、増粘剤、凍結防止剤等の種々の添加剤を配合出来る。さらには水系硬化剤を配合する事で二液型水性接着剤としても使用出来る。使用出来る硬化剤としてはノニオン系乳化剤で乳化されたポリイソシアネート系硬化剤或いはポリエチレングリコールジグリシジルエーテル等の親水性ポリエポキシ系硬化剤が挙げられる。これら硬化剤は主剤としてのバンダー樹脂配合量の5〜40重量%の範囲で配合されることが好ましい。
【0035】
本発明の水性ラミネート用接着剤は主剤樹脂、水系硬化剤、水、上記種々の添加剤及び必要により、イソプロピルアルコール、エタノール等の低級アルコール等の共溶剤を混合し、ディゾルバー等で混合させる事により得られる。主剤樹脂はあらかじめ水系エマルジョンとしておくことが好ましく、その場合、別途水を加える必要は必ずしもない。
【0036】
本発明の共重合ポリウレタンの水系エマルジョンとは水100%の分散媒中に分散した本発明の共重合ポリウレタンのエマルジョンのみならず、この共重合ポリウレタンのエマルジョン粒子の分散安定性を損ねない範囲で任意の割合に親水性有機溶剤が水と混合されたエマルジョンも含まれる。また本発明の水性ラミネート用接着剤とは本発明の共重合ポリウレタン樹脂が水系硬化剤及び上述した種々添加剤と共に有機溶剤を含有しない水分散媒中、或いは接着剤としての性能を損ねない任意の範囲で親水性有機溶剤が水と混合された分散媒中に分散されている接着剤組成物を意味するものである。
【0037】
本発明の水性ラミネート用接着剤のラミネート対象物の素材および形状は特に限定されない。ラミネート対象物の素材が、紙、ポリ乳酸、ポリ乳酸成分を含有する共重合体、その他の生分解性樹脂を含有する素材であると、ラミネート対象物および接着剤の双方を生分解性とすることができ、好ましい。ポリ乳酸、ポリ乳酸成分を含有する共重合体からなるフィルムは、本発明の接着剤による接着力が高く、ラミネート対象物の素材として特に好適である。ラミネート対象物が塗装、印刷あるいはコーティングを施したものである場合には、塗料、インクあるいはコーティング剤をも生分解性のものとすれば、ラミネート体全体を生分解性とすることができ、更に好ましい。また、ラミネート対象物の形状がシート状であると、加圧ロール処理あるいは加熱加圧ロール処理によって容易にラミネートすることができ、好ましい。
【0038】
本発明の水性ラミネート用接着剤および水性ラミネート用接着剤調製用水系エマルジョンによってから基材上に接着剤層を形成し、必要に応じてさらに他の層を積層し、本発明の積層体を得ることができる。基材が、紙、ポリ乳酸、ポリ乳酸成分を含有する共重合体、その他の生分解性樹脂を含有する素材からなるものであると、ラミネート対象物および接着剤の双方を生分解性とすることができ、好ましい。ポリ乳酸、ポリ乳酸成分を含有する共重合体からなるフィルムは、本発明の接着剤による接着力が高く、基材として特に好適である。基材が塗装、印刷あるいはコーティングを施されたものである場合には、塗装に用いられる塗料、インクあるいはコーティング剤をも生分解性のものとすれば、ラミネート体全体を生分解性とすることができ、更に好ましい。また、基材の形状がシート状であると、加圧ロール処理あるいは加熱加圧ロール処理によって容易にラミネートすることができ、好ましい。
【0039】
本発明の積層体の層構成は、本発明の接着剤からなる層を含むことのほかには特に限定されない。本発明の積層体は、基材と本発明の接着剤層の二層構成のものに限らず、複数の基材を単数または複数の接着剤層で積層したものであってもよい。基材と本発明の接着剤層と離型保護層の三層を含む構成の積層体は、特に好ましい実施態様の例であり、多層構造の積層体を得る際の中間体として特に重要な実施態様である。離型保護層としては、紙の両面に、クレー、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの目止剤の塗布層を設け、さらにその各塗布層の上にシリコーン系、フッ素系、アルキド系等の離型剤が塗布されたもの、及び、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体等の各種オレフィンフィルム単独、及びポリ乳酸、ポリ乳酸成分を含有する共重合体、ポリエチレンテレフタレート等からなるフィルム上に上記離型剤を塗布したもの、等を挙げることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0041】
なお、以下、特記のない場合、部は重量部を表す。また、本明細書中で採用した測定、評価方法は次の通りである。
(1)数平均分子量
ウォーターズ社製ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)150Cを用い、テトラヒドロフランをキャリアー溶剤とし、検出器には示差屈折計(RI)検出器を用いて、流速1ml/分で測定した。カラムとして昭和電工(株)製 Shodex KF−802、KF−804、KF−806を3本連結しカラム温度は30℃に設定した。分子量標準サンプルとしてはポリスチレン標準物質を用いた。
【0042】
(2)スルホン酸金属塩基含有ジオール原料−Gの酸価
スルホン酸金属塩基含有ジオール原料−Gの80重量%トルエン溶液0.2gを20mlのテトラヒドロフランに溶解後、0.1N−NaOHエタノール溶液でフェノールフタレインを指示薬として測定した。測定値をスルホン酸金属塩基含有ジオール原料−Gの10g中の当量で示した。
【0043】
(3)ポリ乳酸オリゴマーの酸価
樹脂0.5gをクロロホルム/メタノール=3/1混合溶液20mlに溶解後、0.1N−ナトリウムメトキシドメタノール溶液でフェノールフタレインを指示薬として測定した。測定値を樹脂固形分10g中の当量(eq/ton)で示した。
【0044】
(4)スルホン酸金属塩基濃度の定量
スルホン酸ナトリウム含有ジオール原料及び共重合ポリウレタン樹脂中のスルホン酸金属塩基濃度を見積もるための手段としてナトリウム濃度の定量を行った。ナトリウムの定量は共重合ポリウレタン樹脂を加熱炭化、灰化させ、残留灰分を塩酸酸性溶液とした後、原子吸光法により定量した。検出されたナトリウムが全て共重合ポリウレタン樹脂に含有されているスルホン酸ナトリウム塩基に由来するものとみなして、スルホン酸金属塩基濃度を算出した。
【0045】
(5)ガラス転移温度
サンプル5mgをアルミニウム製サンプルパンに入れて密封し、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量分析計DSC−220を用いて、200℃まで、昇温速度20℃/分にて測定し、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と遷移部における最大傾斜を示す接線との交点の温度で求めた。
【0046】
(6)ポリマー組成
試料をクロロホルム−dに樹脂を溶解し、ヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)“ジェミニ−200”を用い、H−NMRにより樹脂組成比を求めた。
【0047】
(7)エマルジョン粒子の平均粒子径
HORIBA LB−500を用いて体積粒子径基準の算術平均径を測定し、エマルジョン粒子の平均粒子径として採用した。
【0048】
(8)エマルジョン安定性
得られたエマルジョンを室温で2ヶ月、暗所密閉下に静置保存し、エマルジョン液の外観をエマルジョン調製直後と比較した。また、目視で沈殿物を認めずエマルジョン状態が保持できていたエマルジョン液については、エマルジョン粒子径を測定した。
【0049】
(9)バイオマス度
共重合ポリウレタン樹脂の合成に用いた仕込原料全体(但し、溶媒および触媒は除く)に対するラクチドモノマーの重量分率を計算し、バイオマス度(%)とした。
【0050】
以下、実施例中の本文及び表に示した化合物の略号はそれぞれ以下の化合物を示す。
MEK:メチルエチルケトン
TMP:トリメチロールプロパン
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
MDI:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
PEG#2000:ポリエチレングリコール、分子量2000
CLD2000:ポリカプロラクトンジオール、分子量2000
【0051】
合成例−1
1)スルホン酸ナトリウム塩基含有ジオール原料−Gの合成
温度計、攪拌棒、リービッヒ冷却管を具備した1Lガラスフラスコに2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネート408部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル197部、テトラブチルチタネート(TBT)触媒0.1部を仕込んだ。190℃で溜出するメタノールを溜去しつつ、1時間攪拌反応後、以後1時間毎に10℃ずつ昇温させ、230℃まで到達させた。230℃でメタノールの溜出終了を確認後、250℃に昇温、10分間減圧下に攪拌し、反応物を100℃まで冷却。トルエン141部を混合し、均一溶解させた。
得られた80重量%トルエン溶液中のスルホン酸金属塩基濃度及び酸価は下記のとおりであった。
スルホン酸金属塩基濃度:948eq/ton
酸価 : 23eq/ton
【0052】
2)ポリ乳酸ジオール−Aの合成
温度計、攪拌棒、リービッヒ冷却管を具備した1Lガラスフラスコにネオペンチルグリコール18部、L−ラクチド400部、D−ラクチド100部及び触媒としてオクチル酸錫0.33部を仕込み、常温で30分窒素ガスを封入した。次いで常温下に30分間減圧し、内容物を更に乾燥させた。
再び窒素ガスを封入しつつ反応系を180℃に昇温し、3時間攪拌した。次いでリン酸0.22部を添加し、20分攪拌後、系を減圧し、未反応残留ラクチドを留去した。約20分後、未反応ラクチドの留出が収まった後内容物を取り出し冷却した。得られたポリ乳酸ジオール−Aの分子量、酸価を測定し、以下に示した。
数平均分子量:3000
酸価 :24eq/ton
【0053】
3)共重合ポリウレタン樹脂(LU−1)の合成
温度計、攪拌棒、コンデンサーを具備した1Lガラスフラスコに前記ポリ乳酸ジオール−A100部、前記スルホン酸ナトリウム塩基含有ジオール原料−G(80重量%トルエン溶液)37.5部、分子量2000のポリカプロラクトンジオール40部をMEK200部に溶解し、60℃に加温した。次いでヘキサメチレンジイソシアネート25部を溶解し、触媒としてジブチル錫ラウレート0.01部を添加した。70℃で4時間反応後、MEK100部で希釈し、次いでトリメチロールプロパン3部、ジブチル錫ラウレート0.02部を添加し、反応温度70度で更に3時間攪拌後、MEK160部で希釈し、反応を終了した。得られた共重合ポリウレタン樹脂(LU−1)の組成を表1に、分子量、スルホン酸ナトリウム濃度、バイオマス度を表2に示した。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
4)水系エマルジョン(E−1)の調製
温度計、攪拌棒、リービッヒ冷却管を具備した2Lガラスフラスコに前記共重合ポリウレタン樹脂LU−1のMEK溶液400部を仕込み、40℃に加温し、攪拌しつつイソプロピルアルコール80部次いで脱イオン水400部を徐々に添加し、均一に混合させた。次いで内容物を40℃に保ちながら減圧下にイソプロピルアルコールとMEKを留去させ、約350部のイソプロピルアルコール/MEK/水混合液を除いた。得られた水系エマルジョン液E−1の平均粒子径を求め、表3に示した。
【0057】
【表3】

【0058】
合成例−2
共重合ポリウレタン樹脂(LU−2)の合成及び水系エマルジョン(E−2)の調製
温度計、攪拌棒、コンデンサーを具備した1Lガラスフラスコに前記合成例−1で得られたポリ乳酸ジオール−A100部、スルホン酸ナトリウム塩基含有ジオール原料−G(80重量%トルエン溶液)25部をMEK150部に溶解し、50℃に加温した。次いで4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート31部を溶解し、触媒としてジブチル錫ラウレート0.1部を添加した。1時間反応後、ポリエチレングリコール#2000を20部及び分子量2000のポリカプロラクトンジオール20部を投入した。70℃で3時間反応後MEK140部を投入して希釈した。 次いでトリメチロールプロパン3部を添加し、触媒としてジブチル錫ラウレート0.3部を追加添加した。70℃で更に2時間反応後、MEK160部で希釈し、反応を終了した。得られた共重合ポリウレタン樹脂(LU−2)の組成を表1に、分子量、スルホン酸ナトリウム濃度、バイオマス度を表2に示した。
上記で得られた共重合ポリウレタン樹脂のMEK溶液を実施例−1と同様に水置換し、水系エマルジョン(E−2)を得た。得られたエマルジョン液、E−2の平均粒子径を求め、表3に示した。
【0059】
合成例−3
共重合ポリウレタン樹脂(LU−3)の合成及び水系エマルジョン(E−3)の調製
温度計、攪拌棒、コンデンサーを具備した1Lガラスフラスコに前記合成例−1で得られたポリ乳酸ジオール−A100部、スルホン酸ナトリウム塩基含有ジオール原料−G(80重量%トルエン溶液)50部をMEK200部に溶解し、60℃に加温した。次いでヘキサメチレンジイソシアネート28部を溶解し、触媒としてジブチル錫ラウレート0.1部を添加した。1時間反応後、分子量2000のポリカプロラクトンジオールを30部投入した。70℃で3時間反応後MEK100部を投入して希釈した。 次いでトリメチロールプロパン3部を添加し、触媒としてジブチル錫ラウレート0.3部を追加添加した。触媒としてジブチル錫ラウレート0.3部を追加添加した。70℃で更に2時間反応後、MEK170部で希釈し、反応を終了した。得られた共重合ポリウレタン樹脂(LU−3)の組成を表1に、分子量、スルホン酸ナトリウム濃度、バイオマス度を表2に示した。
上記で得られた共重合ポリウレタン樹脂のMEK溶液を実施例−1と同様に水置換し、水系エマルジョン(E−3)を得た。得られたエマルジョン液、E−3の平均粒子径を求め、表3に示した。
【0060】
合成例−4
1)スルホン酸金属塩基を含有するポリ乳酸ジオール−Bの合成
温度計、攪拌棒、リービッヒ冷却管を具備した1Lガラスフラスコに合成例−1で得られたスルホン酸ナトリウム塩基含有ジオール原料−G91部(80重量%トルエン溶液)、L−ラクチド400部、D−ラクチド100部及び触媒としてオクチル酸錫0.33部を仕込み、常温で30分窒素ガスを封入した。次いで常温下に30分間減圧し、内容物を更に乾燥させた。
再び窒素ガスを封入しつつ反応系を180℃に昇温し、3時間攪拌した。次いでリン酸0.22部を添加し、20分攪拌後、系を減圧し、未反応残留ラクチドを留去した。約20分後、未反応ラクチドの留出が収まった後内容物を取り出し冷却した。得られたポリ乳酸ジオールの分子量、酸価、及びスルホン酸ナトリウム濃度を測定し、以下に示した。
数平均分子量 :3300
酸価 : 28eq/ton
スルホン酸ナトリウム濃度:150eq/ton
2)共重合ポリウレタン樹脂(LU−4)の合成及び水系エマルジョン(E−4)の調製
温度計、攪拌棒、コンデンサーを具備した1Lガラスフラスコに前記ポリ乳酸ジオール−B100部、前記スルホン酸ナトリウム塩基含有ジオール原料−G(80重量%トルエン溶液)10部をMEK150部に溶解し、50℃に加温した。次いで4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート23部を溶解し、触媒としてジブチル錫ラウレート0.1部を添加した。1時間反応後、分子量2000のポリカプロラクトンジオールを40部投入した。70℃で3時間反応後MEK110部を投入して希釈した。 次いでトリメチロールプロパン3部を添加し、触媒としてジブチル錫ラウレート0.3部を追加添加した。70℃で更に3時間反応後、MEK150部で希釈し、反応を終了した。得られた共重合ポリウレタン樹脂(LU−4)の組成を表1に、分子量、スルホン酸ナトリウム濃度、バイオマス度を表2に示した。上記で得られた共重合ポリウレタン樹脂のMEK溶液を実施例−1と同様に水置換し、水系エマルジョン(E−4)を得た。得られたエマルジョン液、E−4の平均粒子径を求め、表3に示した。
【0061】
合成例−5
共重合ポリウレタン樹脂(LU−5)の合成及び水系エマルジョン(E−5)の調製
温度計、攪拌棒、コンデンサーを具備した1Lガラスフラスコに前記合成例−1で得られたポリ乳酸ジオール−A100部、スルホン酸ナトリウム塩基含有ジオール原料−G(80重量%トルエン溶液)15部をMEK150部に溶解し、50℃に加温した。次いで4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート26部を溶解し、触媒としてジブチル錫ラウレート0.1部を添加した。1時間反応後、分子量2000のポリカプロラクトンジオールを40部投入した。70℃で更に3時間反応後、MEK120部で希釈した。次いでトリメチロールプロパン3部を添加し、触媒としてジブチル錫ラウレート0.3部を追加添加した。70℃で更に3時間反応後、MEK150部で希釈し、反応を終了した。得られた共重合ポリウレタン樹脂(LU−5)の組成を表1に、分子量、スルホン酸ナトリウム濃度、バイオマス度を表2に示した。
上記で得られた共重合ポリウレタン樹脂のMEK溶液を実施例−1と同様に水置換し、水系エマルジョン(E−5)を得た。得られたエマルジョン液、E−5の平均粒子径を求め、表3に示した。
【0062】
比較合成例−6
温度計、攪拌棒、リービッヒ冷却管を具備した1LガラスフラスコにL−ラクチド130部、D−ラクチド20部、ε−カプロラクトンモノマー50部、グリコール酸1.52部及び触媒としてオクチル酸錫0.33部を仕込み、常温で30分窒素ガスを封入した。次いで常温下に30分間減圧し、内容物を更に乾燥させた。
再び窒素ガスを封入しつつ反応系を190℃に昇温し、3時間攪拌した。次いでリン酸0.22部を添加し、20分攪拌後、系を減圧し、未反応残留ラクチドを留去した。約20分後、未反応ラクチドの留出が収まった後内容物を取り出し冷却した。得られたポリ乳酸樹脂(L−6)の分子量、酸価を測定し、表1に示した。
上記ポリ乳酸樹脂30部にステアリン酸ナトリウム3部、テトラヒドロフラン20部を加えて50℃で均一混合し、脱イオン水100部を徐々に加えた。次いで50℃で減圧下にテトラヒドロフラン/水混合液を留去し、ポリ乳酸樹脂の水系エマルジョン(E−6)を得た。得られたエマルジョン液、E−6の平均粒子径を求め、表3に示した。
【0063】
比較合成例6のポリ乳酸樹脂はスルホン酸金属塩を含有せず、またウレタン結合を有さないポリ乳酸樹脂である。
【0064】
実施例−1
(ラミ接着強度の測定)
合成例−1で得られたポリ乳酸ウレタン(LU−1)の水系エマルジョン(E−1)を用いて以下の処方にてラミ接着強度測定用試験片を作製した。
【0065】
以下組成の接着層用塗工液をワイヤーバーを用いて乾燥塗布厚みが2〜3μm厚になるように25μm厚のポリ乳酸フィルム(ユニチカ(株)製:「テラマックTF(25μm)」)上に塗布し、100℃×1分間熱風乾燥させた。次いで得られた塗工フィルムの塗工面どうしを重ね合わせ50℃の熱ロールラミネーターで3kg/cmの圧力をかけてロールラミネーターで熱圧着させた。得られた接着フィルムを湿度無調整、50℃雰囲気下で2日間エージングさせた。
(接着層用塗工液組成)
水系エマルジョン(E−1) 100部
水系硬化剤(日本ポリウレタン工業(株)製アクアネート200) 20部
【0066】
上記接着フィルムを2cm×10cmの短冊状で片端にピール強度測定用のつかみしろ約1cmの未接着部を残して切り取り、25℃雰囲気下でピール強度を測定した。測定結果を表3に示した。
【0067】
実施例−2〜5
合成例2〜5で得られたポリ乳酸ウレタン(LU−2〜5)の水系エマルジョン(E−2〜5)を用いて実施例−1と同様の処方にてラミ接着強度測定用試験片を作製し、実施例−1と同様に評価した。評価結果を表3にまとめた。
【0068】
比較例−6
比較合成例−6で得られたポリ乳酸樹脂(L−6)の水系エマルジョン(E−6)を用いて実施例−1と同様の処方にてラミ接着強度測定用試験片を調製し、実施例−1と同様に評価した。評価結果を表3にまとめた。
【0069】
表3の結果から本発明の共重合ポリウレタン樹脂により形成された水系エマルジョンを用いて調製された水性ラミネート用接着剤は基材接着性に優れ、かつエマルジョン自体の保存安定性にも優れる事が分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の共重合ポリウレタン樹脂は自己乳化型水系エマルジョンを形成し、生分解性基材に対する接着性に優れる事から水性ラミネート用接着剤として使用する事で優れたラミ接着強度を有するラミネートフィルムを環境に配慮した製造工程で得る事が出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸セグメントとスルホン酸金属塩基含有セグメントを分子中に有する共重合ポリウレタン樹脂を含有する水性ラミネート用接着剤。
【請求項2】
前記共重合ポリウレタン樹脂が、ポリ乳酸ジオール(A)、スルホン酸金属塩基含有ジオール(B)、(A)(B)以外のジオール(C)、を、ジイソシアネート化合物(D)との重付加反応により結合した構造からなる請求項1記載の水性ラミネート用接着剤。
【請求項3】
前記共重合ポリウレタン樹脂のスルホン酸金属塩基濃度が100eq/ton以上500eq/ton以下である請求項1または2に記載の水性ラミネート用接着剤。
【請求項4】
前記ジオール(C)が2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2’,2’−ジメチル−3−ヒドロキシプロパネートを含有する請求項1または2に記載の水性ラミネート用接着剤。
【請求項5】
前記ジオール(C)がポリエーテルジオール及び又はポリカプロラクトンジオールを含有する請求項1または2に記載の水性ラミネート用接着剤
【請求項6】
前記ポリ乳酸ジオールのL−乳酸とD−乳酸のモル比(L/D)が1〜9である請求項1または2に記載の水性ラミネート用接着剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の水性接着剤を含有する水性ラミネート用接着剤調製用水系エマルジョン。
【請求項8】
エマルジョンの平均粒子径が200nm未満である請求項7記載の水性ラミネート用接着剤調製用水系エマルジョン。
【請求項9】
前記共重合ポリウレタン樹脂以外の乳化剤を含有しない請求項7または8に記載の水性ラミネート用接着剤調製用水系エマルジョン。
【請求項10】
前記共重合ポリウレタン樹脂100重量部に対して、多価イソシアネート系硬化剤が5〜50重量部の範囲で配合されている請求項7〜9いずれかに記載の水性ラミネート用接着剤調製用水系エマルジョン。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の水性ラミネート用接着剤および/または請求項7〜10のいずれかに記載の水性ラミネート用接着剤調製用水系エマルジョンを用いて得られた積層体。

【公開番号】特開2010−275441(P2010−275441A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130130(P2009−130130)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】