説明

ポリ乳酸複合繊維

【課題】ポリ乳酸を構成成分としながらも、耐湿熱分解性、強度、色調に優れ、衣料用途、産業資材用途等様々な用途に使用することが可能なポリ乳酸複合繊維を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸を芯成分、主たる繰り返し単位であるエチレンテレフタレートが80モル%以上を占める芳香族ポリエステルを鞘成分とする芯鞘型の複合繊維であって、芯鞘比率(横断面面積比率 芯:鞘)が20:80〜80:20であり、かつ、温度60℃、湿度90%の環境下に500時間暴露処理させた後の強度保持率が80%以上であることを特徴とするポリ乳酸複合繊維。ここで、強度保持率(%)とは、(暴露処理後の引張強度/暴露処理前の引張強度)×100で表される値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を芯成分、芳香族ポリエステルを鞘成分とする芯鞘型の複合繊維であって、耐湿熱分解性、強度に優れ、色調も良好であり、衣料用途、産業資材用途等様々な用途に使用することができるポリ乳酸複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維の中でも特にポリエステル繊維は、その優れた寸法安定性、耐候性、機械的特性等から衣料や産業資材として不可欠なものとなっており、様々な分野、用途において広く使用されている。
【0003】
従来の合成繊維の大部分は限りある化石資源を原料としており、また、自然環境下ではほとんど分解されないため、処分方法は焼却が主となる。これに対し、ポリ乳酸繊維は自然環境下で最終的に炭酸ガスと水に分解される完全生分解性を有するためコンポスト処理が可能であり、二酸化炭素排出量を軽減することができる。そして、植物由来の資源を原料としているため化石資源の節約になる。
【0004】
しかしながら、ポリ乳酸繊維は、強度及び耐摩耗性が従来の合成繊維よりも劣っている。また、耐湿熱性に乏しく、染色等の湿熱処理による分解が大きいため、強度低下や染色斑が生じるという問題点もある。他にも、衣料用布帛としてポリ乳酸繊維を用いた場合には、汎用の合成繊維のものと同じようにアイロン掛けを行うと風合いが硬くなるという問題を有している。そのために、ポリ乳酸繊維からなる布帛にアイロン掛けを行うに際しては、特別に低い温度設定と細心の注意が必要とされる。
【0005】
このため、従来のポリ乳酸繊維は、ディスポーザブルの日用資材、農林園芸資材等の用途が主流であり、衣料用、土木建築用、水産資材用、自動車資材用等の強度が要求される分野での使用は限定されているのが現状である。
【0006】
このようなポリ乳酸繊維の問題点を解決する手段の一つとしては、質量や厚みを増大させて強度や耐摩耗性をカバーする方法がある。
【0007】
また、繊維中のカルボキシル末端基の加水分解により湿熱処理時の物性低下が生じるため、特許文献1では、ポリ乳酸の耐久性を上げるために、カルボジイミドなどの末端封鎖剤によりポリマーの末端を封鎖し、耐加水分解性を向上させることが提案されている。しかしながら、耐湿熱性能は不十分であった。
【0008】
特許文献2には、ポリ乳酸と他の成分とからなる複合繊維として、ポリ乳酸が単繊維の表面の全部または一部を形成し、他の成分としてポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステルを芯部に用いた複合繊維が提案されている。しかしながら、この繊維はポリ乳酸成分が繊維の外周部を占め、ポリ乳酸成分を接着成分とするバインダー繊維であり、上記したような衣料用、土木建築用、水産資材用、自動車資材用等の強度が要求される分野で使用するものではなかった。
【0009】
特許文献3には、ポリ乳酸と芳香族ポリエステルからなる複合繊維として、ポリ乳酸を芯部とし、芳香族ポリエステルを鞘部とした芯鞘形状を呈し、芯部及び/又は鞘部に末端封鎖剤を添加し、繊維全体のカルボキシル末端基を減少した複合繊維が提案されている。しかしながら、この繊維においては、カルボキシル末端基を減少させるために末端封鎖剤を添加しており、繊維が黄味がかった色に変色しやすく、染色品位の低下が生じやすいものであり、また、添加量を多くすると紡糸操業性が悪化するという問題があった。
【特許文献1】特開2001-261797号公報
【特許文献2】特開平11-279841号公報
【特許文献3】特開2005-187950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決し、ポリ乳酸を構成成分としながらも、耐湿熱分解性、強度、色調に優れ、衣料用途、産業資材用途等様々な用途に使用することが可能なポリ乳酸複合繊維を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、ポリ乳酸を芯成分、主たる繰り返し単位であるエチレンテレフタレートが80モル%以上を占める芳香族ポリエステルを鞘成分とする芯鞘型の複合繊維であって、芯鞘比率(横断面面積比率 芯:鞘)が20:80〜80:20であり、かつ、温度60℃、湿度90%の環境下に500時間暴露処理させた後の強度保持率が80%以上であることを特徴とするポリ乳酸複合繊維を要旨とするものである。
ここで、強度保持率(%)とは、(暴露処理後の引張強度/暴露処理前の引張強度)×100で表される値である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリ乳酸複合繊維は、ポリ乳酸を構成成分としながらも、耐湿熱分解性、強度、色調に優れており、かつ操業性よく得ることができ、衣料、産業資材用途等に幅広く用いることが可能となる。また、ポリ乳酸は植物由来の原料であるため、地球環境に優しい繊維となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリ乳酸複合繊維は、横断面形状が芯鞘形状を呈する芯鞘型複合繊維であって、芯成分がポリ乳酸、鞘成分が芳香族ポリエステルである。本発明の複合繊維は単繊維形状を示すものであるので、本発明の複合繊維(単繊維)を複数本集合させた繊維(マルチフィラメント)として、長繊維や短繊維として使用することができる。また、複数本集合させることなくモノフィラメントとして用いてもよい。
【0015】
また、ポリ乳酸のみからなる繊維である場合は熱処理温度を高くして仮撚加工を施すことができないが、本発明のポリ乳酸複合繊維は、芳香族ポリエステルを鞘成分とするものであるため、十分な熱処理温度で仮撚加工を施すことができ、良好な仮撚加工糸とすることができる。
【0016】
まず、本発明で芯成分に用いるポリ乳酸としては、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸又はポリL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体、あるいはこれらのブレンド体が挙げられる。
【0017】
そして、ポリ乳酸は、上記のようにL−乳酸とD−乳酸が単独で用いられているもの、もしくは併用されているものであるが、中でも融点が120℃以上であることが好ましい。
【0018】
ポリ乳酸のホモポリマーであるL−乳酸やD−乳酸の融点は約180℃であるが、D−乳酸とL−乳酸との共重合体の場合、いずれかの成分の割合を10モル%程度とすると、融点はおよそ130℃程度となる。
【0019】
さらに、いずれかの成分の割合を18モル%以上とすると、融点は120℃未満、融解熱は10J/g未満となって、ほぼ完全に非晶性の性質となる。このような非晶性のポリマーとなると、製造工程において特に熱延伸し難くなり、高強度の繊維が得られ難くなるという問題が生じたり、繊維が得られたとしても、耐熱性及び耐摩耗性に劣ったものとなるため好ましくない。
【0020】
そこで、ポリ乳酸としては、ラクチドを原料として重合する時のL−乳酸やD−乳酸の含有割合で示されるL−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)であるL/D又はD/Lが、82/18以上のものが好ましく、中でも90/10以上、さらには95/5以上とすることが好ましい。
【0021】
また、ポリ乳酸の中でも、上記したようなポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)は、融点が200〜230℃と高く、高温雰囲気下での強度も高くなり、特に好ましい。
【0022】
次に、本発明の複合繊維の鞘成分である芳香族ポリエステルについて説明する。芳香族ポリエステルとポリ乳酸との融点差が大きいと、複合紡糸に際してポリ乳酸の熱分解を引き起こすことがある。このため、他の成分を共重合させることにより芳香族ポリエステルの融点を低下させることが好ましい。しかし、共重合量が多すぎ、融点が低下しすぎると、鞘成分の耐湿熱性が低下することになる。このため、芳香族ポリエステルは、繰り返し単位であるエチレンテレフタレートが80モル%以上を占めるものとする。
【0023】
また、融点は180〜260℃とすることが好ましく、中でも200〜240℃とすることが好ましい。共重合成分は酸成分、グリコール成分のいずれか、もしくは両方であってもよい。
【0024】
繰り返し単位であるエチレンテレフタレートが80モル%未満であると、融点が180℃未満となり、鞘成分の耐湿熱性が低下し、また、熱処理温度を高くして仮撚加工を施すことも困難となる。
【0025】
このような芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレートを主体としたポリエステルであって、共重合成分としては、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の酸成分及びトリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等のグリコール成分等が挙げられる。
【0026】
そして、繊維中のカルボキシル末端基量が少ないほど、耐湿熱性能が向上し、高温多湿の環境下で長時間使用した後でも強度の低下が少ないものとなる。このため、本発明のポリ乳酸複合繊維の繊維全体のカルボキシル末端基量は35eq/t以下であることが好ましく、中でも30eq/t以下であることが好ましい。
【0027】
さらには、複合繊維の中でも繊維外周を占める鞘成分は環境変化の影響を受けやすいため、鞘成分である芳香族ポリエステルのカルボキシル末端基量は25eq/t以下であることが好ましく、中でも20eq/t以下であることが好ましい。
【0028】
このようなカルボキシル末端基量の低い芳香族ポリエステルを製造する方法としては、紡糸の際に末端基封鎖剤を添加する方法がある。しかし、末端基封鎖剤は多く添加すると黄味がかった色に繊維が変色しやすく、これにより染色品位の低下が生じやすい。また、紡糸操業性も悪化しやすい。
【0029】
そこで、末端封鎖剤を添加することなく、低コストかつ安定的に、既存の重合設備を使用してカルボキシル末端基量の低い芳香族ポリエステルを得るには、重合時に添加するアンチモン化合物、コバルト化合物及びリン化合物を、下記式(a)〜(c)を満足する量とする製造方法を採用することが好ましい。
(a) 75≦{Sb}≦450
(b) 12≦{Co}≦75
(c) 10≦{P}≦2000
ここで、{Sb}、{Co}及び{P}は各々芳香族ポリエステル原料におけるアンチモン化合物、コバルト化合物及びリン化合物の含有量を表し、単位は質量ppmである。
【0030】
アンチモン化合物は十分な重縮合活性を示すが、色調を悪化させるという欠点がある。そこで、コバルト化合物を併用することにより色調を良好なものとする。
【0031】
このため、アンチモン化合物の添加量は十分な重縮合反応速度が発揮される範囲で少なくし、コバルト化合物を色調改良効果が発現する量で併用する。しかし、コバルト化合物には、重縮合反応後期で熱分解を促進する作用もあるので、多量に添加すると目的とする原料が得られなくなる。これらの観点から、アンチモン化合物及びコバルト化合物の添加量は、それぞれ式(a)及び式(b)の範囲とすることが好ましい。
【0032】
リン化合物は、アンチモン化合物及びコバルト化合物によるポリエステル繊維の色調変化及び熱分解作用を抑制する効果を奏するものであり、この作用を十分発揮させるためには、式(c)を満足させることが好ましい。リン化合物が少ない場合はこれらの効果が不充分となる。多い場合は、重縮合反応時にポリエステル系内が酸性となることによりジエチレングリコールが多く生成するため、耐湿熱性が劣るばかりでなく強度も低下する。
【0033】
上記(a)〜(c)式は鞘成分の芳香族ポリエステルを得る際の重合時の添加量であり、本発明のポリ乳酸複合繊維においては、繊維全体のこれらの化合物の含有量が下記式(1)〜(3)を同時に満足することが好ましい。
(1) 15≦〔Sb〕≦360
(2) 2.5≦〔Co〕≦60
(3) 2.0≦〔P〕≦1600
ここで、〔Sb〕はアンチモン化合物の含有量、〔Co〕はコバルト化合物の含有量及び〔P〕はリン化合物の含有量を表し、単位は質量ppmである。
【0034】
本発明においては、上記のような化合物を重合時に添加する方法で得られた芳香族ポリエステルを原料とすることにより、末端封鎖剤を添加せずとも、耐湿熱性に優れた繊維を製造することが可能である。また、効果を損なわない範囲であれば、末端封鎖剤を添加(併用)してもよく、少量の添加量で繊維の耐湿熱性を向上させることができる。
【0035】
なお、鞘成分の芳香族ポリエステルの耐湿熱性が繊維全体の耐湿熱性に大きな影響を与えるため、末端基封鎖剤を添加する場合は鞘成分に添加することが好ましい。芯成分のポリ乳酸に末端封鎖剤を添加してもよいが、ポリ乳酸はもともと耐湿熱性に劣るため、耐湿熱性の向上効果は小さいものとなる。
【0036】
さらに、本発明のポリ乳酸複合繊維は、上記のような化合物の含有量が上記式(1)〜(3)を同時に満足することで、繊維の色調は変色がなく良好なものとなり、繊維の色調を示すb値は4.0以下であることが好ましく、中でも1.0以下であることが好ましい。
【0037】
b値が4.0以下であることにより、染色後に所望の色彩を呈する繊維製品を得ることができる。b値は繊維の黄−青系の色調(+は黄味、−は青味)を示す値であり、0に近いほど黄味が少なく、繊維として好ましい色調となる。
【0038】
次に、本発明のポリ乳酸複合繊維の形状について説明する。本発明のポリ乳酸複合繊維は、横断面形状、すなわち繊維の長さ方向に対して垂直に切断した断面の形状が芯鞘形状を呈する芯鞘型複合繊維であって、上記のようなポリ乳酸が芯成分であり、芳香族ポリエステルが鞘成分となるものである。このとき、芯部は1つであっても複数であってもよい。つまり、芯鞘形状としては、芯部が1つである同心芯鞘型や偏心芯鞘型、芯部が複数個である海島型等の複合形態のものが挙げられる。
【0039】
このような芯鞘型の複合形状とすることにより、耐湿熱分解性、強度及び耐摩耗性に優れる芳香族ポリエステルが繊維表面を覆うことができるため、ポリ乳酸がこれらの性能に劣っていながらも、繊維全体として耐湿熱分解性、強度及び耐摩耗性に優れたものとなる。また、交撚糸、合撚糸、仮撚糸、引き揃え糸、混紡糸、ループ加工糸、カバーリングヤーン、インターレース糸等に加工する際に熱処理を高温で行うことが可能となるため、十分な撚り等が付与された加工糸とすることができる。
【0040】
上記のような芯鞘型の複合形状を呈していれば本発明の複合繊維は丸断面に限定されるものではなく、扁平断面、多角形、多葉形、ひょうたん形、アルファベット形(T型、Y型等)、井型等の各種の異形のものであってもよい。また、これらの形状において中空部を有するものでもよい。
【0041】
芯鞘比率については、鞘成分の芳香族ポリエステルの厚みが厚いほど耐湿熱分解性、強度及び耐摩耗性に優れた繊維となる。一方、芯成分のポリ乳酸の占める割合が多い程、環境に優しい繊維となる。このため、芯鞘比率(横断面面積比率)を20:80〜80:20とし、中でも30:70〜70:30とすることが好ましい。
【0042】
また、このような形状において、鞘成分の最も厚い部分の厚みをaとし、最も薄い部分の厚みをbとして、偏心度=a/bとした場合に、偏心度が2.0以下となるようにすることが好ましく、中でも1.5以下となるようにすることが好ましい。偏心度が大きくなりすぎると、紡糸操業性が悪化し、強度等の物性が低下しやすい。
【0043】
なお、繊維の横断面の面積や芯鞘成分の厚みは、光学顕微鏡にて繊維の横断面(繊維の長さ方向に対して垂直に切断した断面)を500倍で撮影し、顕微鏡写真より測定したものであり、サンプル数(n=20)の平均値とする。
【0044】
そして、本発明のポリ乳酸複合繊維は、耐湿熱性に優れるものであり、具体的には湿熱処理として、温度60℃、湿度90%の高温多湿環境下に500時間暴露させた後の強度保持率が80%以上である。
ここで、強度保持率(%)とは、(処理後の引張強度/処理前の引張強度)×100で表される値である。
【0045】
本発明においては、繊維の引張強度をJIS−L1013 引張強さ及び伸び率の標準時試験に従い、定速伸張形の試験機を用い、つかみ間隔20cmで測定する。次に、湿熱処理を60℃、湿度90%の環境下で500時間暴露処理させた後、再度同様の方法で繊維の強度を求める。そして、以下のようにして算出するものである。
強度保持率(%)=(S/M)×100
S:ポリ乳酸複合繊維の暴露処理後の引張強度(cN/dtex)
M:ポリ乳酸複合繊維の暴露処理前の引張強度(cN/dtex)
【0046】
強度保持率は80%以上、中でも85%以上であることが好ましい。強度保持率が80%未満であると、衣料用途であれば洗濯時やアイロンを掛けた際に、また、産業資材用途では、高温高湿下に曝されている間に、強度の低下が大きくなり、繊維が切断したり、品位が悪くなる。強度保持率を80%以上とすることで、産業資材用途としても好適に用いることが可能となり、多くの用途に用いることができる。
【0047】
また、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリ乳酸及び芳香族ポリエステル中には、熱安定剤、結晶核剤、艶消剤、末端封鎖剤、顔料、耐光剤、耐候剤、滑剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、その他類似の添加剤を繊維中に添加してもよい。
【0048】
そして、前記したように、本発明のポリ乳酸複合繊維は、交撚糸、合撚糸、仮撚糸、引き揃え糸、混紡糸、ループ加工糸、カバーリングヤーン、インターレース糸等に加工することもできる。このような加工糸とする場合は、本発明のポリ乳酸複合繊維のみを用いてもよいし、他の繊維と混用してもよい。
【0049】
例えば、混用する他の繊維としては、ポリエステル、ナイロン、アクリル、アラミド等の合成繊維、ビスコース、キュプラ、ポリノジック等のレーヨン系繊維、リヨセル等の溶剤紡糸セルロース繊維、絹、綿、麻、羊毛その他の獣毛繊維が挙げられる。
【0050】
中でも本発明のポリ乳酸複合繊維は、仮撚加工を施したものとすることが好ましい。仮撚加工方法としては、ベルトニップやディスク型の摩擦仮撚装置、スピンドルピン型による加工のほか、圧縮空気等の流体による旋回加工等を利用することができる。
【0051】
これらの加工方法において熱処理を施す際のヒーターの加熱方法や表面材質は特に限定されるものではないが、仮撚加工時の摩擦抵抗低減のため、セラミック梨地加工が施されていることが好ましい。梨地加工により摩擦抵抗が低減し、毛羽や糸切れの発生を抑制することができる。
【0052】
また、熱処理温度(ヒーター温度)としては芯部、鞘部のポリマーの融点にもよるが、100〜170℃とすることが好ましく、中でも110〜160℃、さらには130〜150℃とすることが好ましい。熱処理温度が100℃未満であると、熱セット効果が不十分となり、織編物としたときのストレッチ性が劣り、また風合いがペーパーライクとなり布帛品位が低下するため好ましくない。一方、熱処理温度が高い程、熱セット性の面で優位であるが、170℃を超えると、芯部に配したポリ乳酸の軟化によって単糸断面が過度に変形し疑似融着状の未解撚部が発生する。また、熱による繊維の劣化、耐湿熱性の低下が進行するため、好ましくない。
【0053】
次に、本発明のポリ乳酸複合繊維の製造方法について、長繊維とする場合の製造例を用いて説明する。まず、ポリ乳酸と芳香族ポリエステルをそれぞれ別々の押出機に導入して溶融し、常用の複合紡糸装置を用いて複合紡糸する。そして、紡糸した糸条を冷却、固化した後、2000m/分以上の高速紡糸により延伸することなく半未延伸糸として巻き取るPOY法、あるいは、2000m/分以上の高速紡糸法、または、2000m/分未満の低速紡糸で溶融紡糸し、一旦捲き取った後、糸条を延伸熱処理する二工程法、または、一旦捲き取ることなく連続して延伸を行う一工程法により得ることができる。延伸を行う際には、目的とする繊維の物性や用途に応じて、延伸倍率、温度等を適宜設定すればよい。
【0054】
仮撚加工を施す際には延伸した繊維を一旦巻き取り、または延伸に引き続いて仮撚装置に導入し、仮撚加工を施す。そして目的とする繊維の物性や用途に応じて、熱処理温度や撚数等を適宜設定すればよい。
【0055】
なお、短繊維とする際には、数千〜数百万本を集合させた繊維束として用いる。溶融紡糸し、冷却、油剤を付与した後、延伸することなく一旦捲き取る。この未延伸糸を数十万〜二百万dtexの糸条束に集束して、延伸倍率2〜5倍、延伸温度40〜80℃で延伸を行い、80〜160℃で熱処理を施す。続いて、押し込み式クリンパーにより機械捲縮を施した後、ECカッター等のカッターで目的とする長さにカットして短繊維とする。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例における特性値の測定及び評価は以下の通りに行った。
(1)極限粘度
フェノールと四塩化エタンの当質量混合液を溶媒とし、温度20℃で測定した溶液粘度より求めた。
(2)融点
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−7型を使用し、昇温速度20℃/分で測定した。なお、融点ピークが不明瞭になるものは、ホットステージ付の顕微鏡を用いて融解時の温度を目視にて測定した。
(3)L−乳酸及びD−乳酸の含有量
超純水と1Nの水酸化ナトリウムのメタノール溶液の等質量混合溶液を溶媒とし、高速液体クロマトグラフィー法により測定した。カラムにはSumichiral OA6100を使用し、UV吸収測定装置により検出した。
(4)カルボキシル末端基量
得られた複合繊維0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解し、この溶液にクロロホルム10mlを加えた後、1/10規定の水酸化カリウムベンジルアルコール溶液で滴定して求めた。
(5)繊維中のアンチモン、コバルト、リン含有量
得られた複合繊維をアルミ板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平面を有する成型体に形成し、蛍光X線測定装置(理学電機工業株式会社製3270型)に供して、定量分析した。
(6)芯鞘比率(横断面面積比率)
前記した方法により測定した。
(7)強度(暴露処理前後、強度保持率)
得られた複合繊維を前記した方法により測定した。なお、得られた仮撚加工糸についても同様に測定した。
(8)b値(色調)
得られた複合繊維を筒編みし、未染色の状態でミノルタ社製の色彩色差計CR-100を用いてb値を測定した。なお、筒編みは、栄光産業社製一口筒編機CR−Aを使用し、28ゲージで行った、
(9)紡糸操業性
16錘で168時間連続して紡糸を行い、糸切れ回数により以下の4段階で評価した。
糸切れなし ◎
1〜2回 ○
3〜5回 △
6回以上 ×
(10)耐アイロン性
得られた複合繊維を(8)と同様にして筒編みし、編地全体が均一に湿るよう水を散布し、表面温度140℃に設定したアイロンにて15秒プレスした後の風合いを以下の3段階で官能評価した。
○:風合いの硬化が見られない。
△:やや風合いの硬化が見られる。
×:かなりの風合いの硬化が見られる。
(11)染色斑
得られた複合繊維を(8)と同様にして筒編みして染色し、染色斑の有無を目視で判定し、以下の3段階で評価した。染色条件は、Terasil Navy Blue SGL(Ciba Speciality Chemicals社製原糸用染料)の1.0%omf、浴比1:50の染液を用いて100℃で30分間、常法により染色した。
○:染色斑は見られない。
△:やや染色斑が見られる。
×:かなりの染色斑が見られる。
(12)風合い
得られた複合繊維を(8)と同様にして筒編みし、沸水にて30分処理後乾燥して編地の風合いをパネラー10人により以下の基準で官能評価した。なお、得られた仮撚加工糸についても同様にして筒編みし、評価した。
◎:ソフト感に特に優れている。
○:ソフト感に優れている。
△:ややソフト感がある。
×:ソフト感がみられない。
(13)仮撚操業性
24錘で連続120時間の仮撚加工を行い、糸切れ回数により以下の4段階で評価した。
○:0〜4回
△:5〜9回
×:10回以上
【0057】
実施例1
エステル化反応器に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリー(TPA:EG モル比=1:1.6)を連続的に供給し、温度250℃、圧力50hPaの条件で反応させ、滞留時間8時間としてエステル化反応率95%のポリエステルオリゴマーを連続的に得た。また、エステル化反応器にイソフタル酸(IPA)とEGをIPA:EGモル比1:3.5となるように供給し、温度200℃として反応率95%となるまでエステル化反応を行い、IPA−EG液を得た。
ポリエステルオリゴマーとIPA−EG液をIPA共重合量が8モル%となるように重合反応器に仕込み、続いて、触媒として、ポリエステルを構成するエチレンテレフタレートに対し三酸化アンチモンを150質量ppm、酢酸コバルトを25質量ppm、リン成分としてトリエチルフォスフェートを50質量ppmとなるように添加した。反応器を減圧にして最終圧力0.9hPa、温度270℃で4時間重合反応を行い、極限粘度が0.64、融点が230℃、カルボキシル末端基量が12eq/tの芳香族ポリエステル(共重合ポリエチレンテレフタレート)を得た。
L−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが98.8/1.2であり、融点が170℃、極限粘度1.88であるポリ乳酸を用いた。
ポリ乳酸を芯成分、芳香族ポリエステルを鞘成分とし、芯鞘比率(横断面面積比率 芯:鞘)が50:50となるようにして、複合紡糸装置に供給し、紡糸温度260℃にて溶融紡糸を行った。紡糸口金には、孔径0.40mmの紡糸孔24個が穿設されており、紡出した糸条を空気流により冷却し、オイリング装置を通過させて0.5質量%の付着量となるように油剤を付与し、集束ガイドで集束した。続いて、速度3000m/分のローラで引き取り、続いて捲取機にて捲き取り、122dtexの半未延伸糸を得た。
得られた糸を延伸速度667m/分、延伸倍率1.51、予備加熱ローラ温度90℃、熱セット温度150℃にて延伸し、84dtex/24filのポリ乳酸複合繊維を得た。
【0058】
実施例2〜3、比較例1
複合繊維の芯鞘比率を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0059】
実施例4
芳香族ポリエステルを、カルボン酸成分としてテレフタル酸80モル%、イソフタル酸20モル%とし、極限粘度が0.62、融点が200℃、カルボキシル末端基量が13eq/tの共重合ポリエチレンテレフタレートとし、紡糸温度を240℃に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0060】
実施例5
芳香族ポリエステルを、カルボン酸成分としてテレフタル酸100モル%とし、グリコール成分をEG94モル%、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)6モル%とし、極限粘度が0.61、融点が255℃、カルボキシル末端基量が13eq/tの共重合ポリエチレンテレフタレートとし、紡糸温度を270℃に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0061】
実施例6
重合時の酢酸コバルトの添加量をポリエステルを構成するエチレンテレフタレートに対して、2質量ppmとした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0062】
比較例2
重合時の三酸化アンチモンの添加量をポリエステルを構成するエチレンテレフタレートに対して、1500質量ppmとした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0063】
比較例3
重合時の三酸化アンチモンの添加量をポリエステルを構成するエチレンテレフタレートに対して、15質量ppmとした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0064】
比較例4
重合時の酢酸コバルトの添加量をポリエステルを構成するエチレンテレフタレートに対して、250質量ppmとした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0065】
比較例5
重合時のトリエチルフォスフェートの添加量をポリエステルを構成するエチレンテレフタレートに対して、5000質量ppmとした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0066】
比較例6
重合時のトリエチルフォスフェートの添加量をポリエステルを構成するエチレンテレフタレートに対して、2.5質量ppmとした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0067】
比較例7
ポリ乳酸のみを用いて単成分紡糸装置に供給し、紡糸温度220℃にて溶融紡糸を行い、ポリ乳酸のみの単成分繊維とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0068】
比較例8
芳香族ポリエステルを、カルボン酸成分としてテレフタル酸70モル%、イソフタル酸30モル%とし、極限粘度が0.61、融点が130℃、カルボキシル末端基量が15eq/tの共重合ポリエチレンテレフタレートとし、紡糸温度を235℃に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0069】
実施例1〜6、比較例1〜6、8で得られたポリ乳酸複合繊維及び比較例7で得られたポリ乳酸繊維の特性値と評価結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1から明らかなように、実施例1〜6で得られたポリ乳酸複合繊維は、強度、強度保持率ともに高く、色調も良好であり(b値が低く)、紡糸操業性、耐アイロン性、風合い、染色性ともに優れていた。
一方、比較例1の繊維は、鞘成分の比率が少なすぎたため、比較例7の繊維はポリ乳酸のみからなるものであったため、ともに強度保持率が低く、耐アイロン性、風合い、染色性の評価のいずれも低いものであった。比較例2〜6の繊維は繊維中のアンチモン化合物、コバルト化合物及びリン化合物の含有量が適切でなく、カルボキシル末端基量が高かったため、いずれも強度保持率が低く、紡糸操業性、耐アイロン性、風合い、染色性の評価が低いものであった。比較例8の繊維は、鞘成分の芳香族ポリエステルが共重合成分が多く、融点の低いものであったので、強度保持率が低く、紡糸操業性に劣り、耐アイロン性、風合い、染色性の評価も低いものであった。
【0072】
実施例7〜9、12 比較例9〜14
実施例1〜3、6、比較例1〜6で得られたポリ乳酸複合繊維に、スピンドルピンタイプの仮撚装置(三菱重工社製LS-6型)を用いて、仮撚速度100m/分、熱処理温度140℃、撚数3050TM、オーバーフィード率0.5%の条件で仮撚加工を施し、仮撚加工糸を得た。
【0073】
実施例10
実施例4で得られたポリ乳酸複合繊維に、仮撚加工時の熱処理温度を130℃に変更した以外は実施例7と同様に仮撚加工を施し、仮撚加工糸を得た。
【0074】
実施例11
実施例5で得られたポリ乳酸複合繊維に、仮撚加工時の熱処理温度を150℃に変更した以外は実施例7と同様に仮撚加工を施し、仮撚加工糸を得た。
【0075】
比較例15
比較例7で得られたポリ乳酸繊維に、仮撚加工時の熱処理温度を110℃に変更した以外は実施例7と同様に仮撚加工を施し、仮撚加工糸を得た。
【0076】
比較例16
比較例8で得られたポリ乳酸複合繊維に、仮撚加工時の熱処理温度を125℃に変更した以外は実施例7と同様に仮撚加工を施し、仮撚加工糸を得た。
【0077】
実施例7〜12、比較例9〜16で得られた仮撚加工糸の特性値と評価結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
表2から明らかなように、実施例7〜12で得られた仮撚加工糸は、強度、強度保持率ともに高く、仮撚操業性、風合いともに優れていた。
一方、比較例9〜16の仮撚加工糸は、比較例1〜8の繊維を用いたものであるため、強度、強度保持率ともに低く、仮撚操業性、風合いに劣るものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸を芯成分、主たる繰り返し単位であるエチレンテレフタレートが80モル%以上を占める芳香族ポリエステルを鞘成分とする芯鞘型の複合繊維であって、芯鞘比率(横断面面積比率 芯:鞘)が20:80〜80:20であり、かつ、温度60℃、湿度90%の環境下に500時間暴露処理させた後の強度保持率が80%以上であることを特徴とするポリ乳酸複合繊維。
ここで、強度保持率(%)とは、(暴露処理後の引張強度/暴露処理前の引張強度)×100で表される値である。
【請求項2】
繊維全体のカルボキシル末端基量が35eq/t以下である請求項1記載のポリ乳酸複合繊維。
【請求項3】
繊維中にアンチモン化合物、コバルト化合物及びリン化合物が下記式(1)〜(3)を同時に満足する量含有されている請求項1〜2いずれかに記載のポリ乳酸複合繊維。
(1) 15≦〔Sb〕≦360
(2) 2.5≦〔Co〕≦60
(3) 2.0≦〔P〕≦1600
ここで、〔Sb〕はアンチモン化合物の含有量、〔Co〕はコバルト化合物の含有量及び〔P〕はリン化合物の含有量を表し、単位は質量ppmである。
【請求項4】
仮撚加工が施されている請求項1〜3いずれかに記載のポリ乳酸複合繊維。


【公開番号】特開2008−174889(P2008−174889A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57339(P2007−57339)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】