説明

ポリ塩化ビニル系樹脂成形体の製造方法及びプラスチック光ファイバーの製造方法

【課題】透明性に優れ、光学樹脂材料として許容されるポリ塩化ビニル系樹脂成形体を成形する方法及びプラスチック光ファイバーの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリ塩化ビニル系組成物を揮発性有機溶媒に溶解し、得られたポリ塩化ビニル系組成物溶液からフィルムを形成し、該フィルムをプレス成形するポリ塩化ビニル系樹脂成形体の製造方法及びこの方法により得られたポリ塩化ビニル系樹脂成形体を溶融紡糸するプラスチック光ファイバーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニル系樹脂成形体の製造方法及びプラスチック光ファイバーの製造方法に関し、より詳細には、光学用途に使用可能なポリ塩化ビニル系樹脂成形体の製造方法及びプラスチック光ファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポリ塩化ビニル系樹脂は、管材、建材を始め、その他多くの製品用途で使用されており、これは、耐酸性、耐アルカリ性、耐水性、電気絶縁性、難燃性、機械強度等の樹脂特性に優れるためである。しかし、ポリ塩化ビニル系樹脂は、透明性には余り優れていないため、通常は着色された状態で使用されている。
ポリ塩化ビニル系樹脂は、通常、押出成形、射出成形により成形されるが、この成形時の高温及び剪断により、樹脂が脱塩酸反応を起こし黄変することが透明性の劣る主原因である。
また、プレス成形を利用して成形する場合においても、通常、成形原料となる樹脂が、予めロール成形や、押出成形によりペレット状及び板状等に成形された溶融状態の樹脂が使用されている(例えば、特許文献2)。これは、高温条件下でのプレス成形だけでは、樹脂のゲル化が不十分となり、樹脂特性を発現しないためである。ゲル化不十分であると、ポリマー粒子の凝集体が光を散乱するため透明性にも悪影響を与える。
さらに、ポリ塩化ビニル系樹脂の透明性が劣るその他の原因としては、樹脂中に存在する微結晶が光を散乱することが挙げられる。
【0003】
このような状況下で、一部のポリ塩化ビニル樹脂で透明性が改善されたものもあるが、光学材料として使用できるほどの透明性は未だ得られていないのが現状である(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−107531号公報
【特許文献2】特開2004−107520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、透明性に優れ、光学樹脂材料として許容されるポリ塩化ビニル系樹脂成形体を成形する方法及びプラスチック光ファイバーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂成形体の製造方法は、ポリ塩化ビニル系組成物を揮発性有機溶媒に溶解し、得られたポリ塩化ビニル系組成物溶液からフィルムを形成し、該フィルムをプレス成形することを特徴とする。
このポリ塩化ビニル系樹脂成形体の製造方法では、溶解性パラメーターが7.5〜12.0(cal/cm31/2である物質を、ポリ塩化ビニル系組成物の全重量に対して50重量%未満で配合することができる。
また、トリメリット酸エステル、ジペンタエリスリトール、ジフェニルスルホン、トリフェニルホスフェートから選ばれる少なくとも1つが、ポリ塩化ビニル系組成物の全重量に対して25重量%以下で配合することができる。
また、本発明のプラスチック光ファイバーの製造方法は、上記の製造方法により得られたポリ塩化ビニル系樹脂成形体を溶融紡糸することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、成形時の剪断応力、剪断熱による脱塩酸を抑制することができ、よって、透明性に優れ、光学樹脂材料として許容されるポリ塩化ビニル系樹脂成形体を製造することができる。
従って、着色されていない透明性に優れた光学材料として、高性能のプラスチック光ファイバーを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂の製造方法において用いるポリ塩化ビニル系組成物とは、塩化ビニルモノマー及び/又は塩化ビニルと共重合可能なモノマーを重合又は共重合して得られる(共)重合体若しくはその後塩素化物を含む組成物である。
ポリ塩化ビニル系樹脂の重合度は特に限定されないが、500程度以上、1000程度以下が、機械物性と成形性のバランスに優れているため好ましい。
【0008】
塩化ビニルと共重合可能なモノマーとしては、公知のビニルモノマーのすべてが含まれる。例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα−オレフィン類:酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類:エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類:メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
本発明において用いられるポリ塩化ビニル系樹脂は、通常、イオン重合方法と呼ばれる方法を好適に利用することができるが、別の観点から、塊状重合方法、溶液重合方法等、いかなる公知の方法を採用しても製造することができる(例えば、特開2005−36195号公報、特開2006-160912号公報等に記載の重合方法参照)。なお、溶液重合を行う場合の溶剤としては、特に限定されないが、溶媒自体が重合中に変性しないものが選択される。例えば、ヘキサン、ジクロロメタン、トルエン等が挙げられる。
【0009】
本発明においては、ポリ塩化ビニル系樹脂として、脱塩酸性が低く、ポリマー粒子の凝集体及び微結晶による光散乱が少なく透明性が向上する点から、後塩素化物であることが好ましい。
(共)重合体を塩素化して後塩素化物を得る方法は、公知の塩素化方法又はこれに準じた方法を用いることができる。具体的には、水懸濁熱塩素化法、水懸濁光塩素化法、溶液塩素化法等が挙げられるが、脱塩酸性がより低いことを考慮すると、水懸濁熱塩素化法が好ましい。なお、塩素化の際に、過酸化水素のようなラジカル発生剤を添加すると、得られた後塩素化物は、主鎖に脱塩酸の基点となる構造が生成するので、可能な限り添加しないのが好ましい。ラジカル発生剤を添加する場合の添加量は、50ppm程度以下が適当である。
塩素含有率は、特に制限されないが、高くなると熱成形加工性が低下するため、73重量%程度以下、70重量%程度以下、さらに、68重量%程度以下が好ましい。
【0010】
本発明において使用される揮発性有機溶媒としては、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を溶解し得る溶媒であれば特に限定されないが、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の良溶媒、つまり、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を膨潤又は溶解可能な溶媒を用いることが好ましい。良溶媒としては、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトン等の有機溶媒が挙げられる。特に、ポリマーの膨潤・溶解効果及び触媒の除去効果等を考慮して、溶解度パラメーターが7.3〜9.5の範囲の有機溶媒が適しており、なかでも、テトラヒドロフラン、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトンが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよいし、さらに別の溶媒との混合物として用いてもよい。溶媒は、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の溶液濃度が1〜10重量%となるように使用することが適している。また、別の観点から、得られるポリ塩化ビニル系組成物溶液の粘度が100mmPasec程度以下とすることが適している。
【0011】
なお、最終的に得られるポリ塩化ビニル系樹脂成形体は、異物を含まないことが好ましいことから、揮発性有機溶媒にポリ塩化ビニル系樹脂を溶解した溶液を濾過するなど、当該分野で公知の異物の除去方法を行うことが適している。これらの方法はクリーンルーム内で行なうことが好ましい。
例えば、濾過に用いるフィルターとしては、アルミナセラミックス、ポリテトラフルオロエチレンなどにより形成されたものが挙げられ、濾過精度、耐薬品性などからアルミナセラミックスが好ましい。フィルターの細孔径は0.1μm程度以下であれば充分な効果が得られる。特に、濾過速度と異物除去率について高い効果が得られることから、0.05μm程度の細孔径を有するフィルターを用いることが好ましい。濾過は、主フィルターのみを1回以上通過させれば充分な効果が得られるが、多段濾過または循環濾過を行なうことが好ましい。
【0012】
本発明において、得られたポリ塩化ビニル系組成物溶液からフィルムを形成する。本発明においては、ポリ塩化ビニル系組成物を溶媒に溶融させて組成物を練る、つまり組成物に剪断応力、剪断熱を加えることなく、溶液の状態から、フィルム形状に成形することを特徴とする。フィルムを形成する方法は、特に限定されないが、得られるフィルムに剪断応力がかからない方法を選択することが好ましい。例えば、溶液状態から、乾燥してフィルムを得ることができる。ここでフィルムとは、特に膜厚が制限されるような形態を意味するものではなく、溶液から十分に溶媒を蒸発させることができる形態を包含するものであり、厚み方向においては溶媒が揮発し得る程度の厚さであれば、平面的に広がっているものでもよいし、小片、粒のように平面的に広範な広がりがなくてもよい。なかでも、溶媒が揮発しやすく、取り扱いが容易であるという観点から、100〜500μm程度の膜厚を有し、平面的に広がっている膜形状が好ましい。フィルムは、キャスト法と呼ばれる方法、あるいは一般的な塗布及び/又は乾燥方法により容易に作成することができる。
具体的な手順としては、ポリ塩化ビニル系組成物の揮発性有機溶媒の溶液(例えば、約1〜30%程度、具体的には約5%程度)を調製し、これを塗布により、一定厚みに形成する。塗布の際、鏡面板等の平坦な平面を用いることが好ましい。塗布は、例えば、鏡面板上に溶液を適量垂らすのみでもよいし、垂らした後、専用の器具により、この液だまりを延ばすか、あるいは、得られた溶液を回転塗布、噴霧塗布等行ってもよい。
次いで、フィルムを乾燥する。例えば、残溶媒を可能な限り少なくするために、減圧雰囲気下、約30から60℃程度、具体的には40℃程度に加熱し、数時間〜数日程度、具体的には数十時間程度乾燥することが好ましい。
これらの工程は、異物の混入を防ぐため、クリーンルーム内で行うことが好ましい。
【0013】
得られたフィルムをプレス成形する方法は、特に限定されず、公知の熱可塑性樹脂で行われるプレス成形を利用することができる。特に、成形時にできる限り熱エネルギーをかけないことが、脱塩酸を抑制できるため好ましいことから、プレス成形は、160〜200℃程度の温度で行うことが適している。
プレス成形時のひけや内部歪みを緩和する目的で、従来既知の方法に準じて徐冷又はアニール処理を行ってもよい。
【0014】
本発明においては、ポリ塩化ビニル系組成物又はこの揮発性有機溶媒の溶液に、さらなる成分を添加してもよい。さらなる成分としては、溶解性パラメーター(SP値)が7.5〜12.0(cal/cm31/2である物質及び/又は拡散抑制剤等が挙げられる。これらは、単独で又は複数種類を組み合わせて用いてもよい。
特に、溶解性パラメーター(SP値)が7.5〜12.0(cal/cm31/2である物質を用いることが好ましい。この物質は、ポリ塩化ビニル系樹脂共存系において、相分離による白濁が生じず、散乱を抑制し、光伝送損失を良好に維持し得る物質を指す。
【0015】
SP値は、次式により計算で求めることができる(Hoyらの方法(POLYMER HANDBOOK, Third edition, VII/519(Wiley Interscience社発行)を参照)。
SP=dΣG/M
(式中、d及びMは、それぞれポリマーの密度及び分子量を示し、Gは、原子団、基に固有の定数(Group Molar Attraction Constant)を示す。)
SP値は、さらに、7.8程度以上、8.0程度以上、8.2程度以上、11.8程度以下、11.6程度以下、11.5程度以下であることが好ましい。ポリ塩化ビニル系樹脂との均一混合を維持しながら、透明性を確保するためである。
【0016】
本発明において、散乱抑制剤とは、ポリ塩化ビニル系樹脂の結晶化度を低下させて、光散乱を減少させるものを意味する。なお、散乱抑制剤は、任意に粒子構造を消滅させるもの、屈折率を増減し得るものでもよい。散乱抑制剤としては、例えば、上述したSP値が7.5〜12.0(cal/cm31/2の範囲であるものが挙げられるが、この範囲を外れるSP値を有するものを用いてもよい。
【0017】
このような散乱抑制剤としては、例えば、アルキル基部分の炭素数が1〜8、好ましくは炭素数が1〜6であるポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ポリ(メタ)アクリル酸ベンジル、ポリ(メタ)アクリル酸フェニル、ポリ(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、ポリ(メタ)アクリル酸1−フェニルエチル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリクロロスチレン等が挙げられる。特に、ポリメタクリル酸メチル(SP値:9.2(cal/cm31 / 2)が好ましい。
【0018】
また、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、ポリプロピレンアジペート、ポリプロピレンセバケート、塩素化ポリエチレン、塩素化パラフィン;リン酸トリフェニル、リン酸トリエチル、リン酸トリ−2-エチルヘキシル等のリン酸エステル;アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソデシル等のアジピン酸エステル;アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル、アゼライン酸ジイソオクチル等のアゼライン酸エステル;セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル、セバシン酸ジブチル等のセバシン酸エステル;二塩基酸とグリコールとを重縮合させたものを基本構造とするポリマー又はオリゴマーを用いることができる。二塩基酸としてはセバシン酸、アゼライン酸、アジピン酸、フタル酸などが挙げられる。また、グリコールとしてはプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオールなどが挙げられる。
さらに、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸イソトリデシル等のフタル酸エステル;ピロメリット酸オクチルエステル等のピロメリット酸エステル;トリメリット酸とアルコールとのエステル化反応で得られるエステル、すなわち、下記式(I)
【0019】
【化1】

(式中、R1〜R3は、同一又は異なって、アルキル基を示す。ここで、R1〜R3のアルキル基としては、それぞれ異なっていてもよいが、3つが同じであることが好ましい。また、炭素数1〜12、さらに炭素数4〜10の直鎖又は分岐のアルキル基が好ましい。)
で表わされるトリメリット酸エステルを用いてもよい。トリメリット酸エステルとしては、例えば、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリ−2-エチルヘキシル、トリメリット酸トリn−オクチル、トリメリット酸トリイソノニル、トリメリット酸トリイソデシル等のトリメリット酸トリアルキルが挙げられる。また、トリメリット酸と複数種のアルコールとのエステルであってもよい。なかでも、トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシル、トリメリット酸トリイソデシルが好ましい。
加えて、旭電化製UL−6等の下記式(II)
【0020】
【化2】

(式中、R4は、任意の官能基、xは1〜4の整数を示す。R4としては、例えば、炭素数1〜6の低級アルキル基(メチル、エチル、プロピル、n−ブチル、t−ブチル等)、アリール基(フェニル、トリル、キシリル、ビフェニル等)、
【0021】
【化3】

等が例示される。なお、置換基R4は、xが2〜4の場合には、その数に応じて2〜4価の置換基となり得る。具体的には、xが2、R4が−(CH24−である化合物が挙げられる。)
で表されるジペンタエリストールエステル等を用いてもよい。
さらに、散乱抑制剤の候補として、ジフェニルスルホンおよびジフェニルスルホン誘導体、ジフェニルスルフィド、ジフェニルスルホキシド等の硫黄化合物を用いてもよい。ジフェニルスルホン誘導体としては4,4'−ジクロロジフェニルスルホン、3,3',4,4'−テトラクロロジフェニルスルホン等が挙げられる。
なお、上記成分は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
このようなさらなる成分は、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物中に、50重量%未満とすることが適当である。ポリ塩化ビニル系樹脂の特性を優勢に維持するためである。
特に、硫黄化合物(例えば、ジフェニルスルホン等)、リン酸エステル(例えば、トリフェニルホスフェート等)、トリメリット酸エステル及び/又はジペンタエリストールエステルをポリ塩化ビニル系樹脂組成物に含有させる場合には、25重量%以下で含有させることが好ましい。また、これらを複数組み合わせて用いる場合においては、その合計量が25重量%以下であることが好ましい。これにより、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物のガラス転移点を適当な値に維持し、必要な強度を確保することができる。
【0023】
また、散乱抑制剤を配合する際に、二種類以上の屈折率の異なる化合物を配合してもよい。この二種類以上の化合物の中に、ベースとなる樹脂組成物の屈折率と比較して、高屈折率の化合物及び低屈折率の化合物が含まれることが好ましい。このような高屈折率の化合物及び低屈折率の化合物を併用することにより、高屈折率の化合物のみ又は低屈折率の化合物のみを配合した場合と比較して、これと同じ屈折率差を得るために樹脂組成物に配合させる散乱抑制剤の添加量を相対的に少なくすることができる。このため、ガラス転移点が相対的に高くなり、これによって得られる光伝送体の耐熱性を向上させることができる。
【0024】
この場合には、次式で定義される換算重合度が400程度以上、1000程度以下の範囲となることが好ましい。さらに好ましくは500程度以上、800程度以下の範囲である。必要な強度が確保しつつ、成形を容易にするためである。
【0025】
換算重合度=ポリ塩化ビニル系樹脂の重合度×(ポリ塩化ビニル系樹脂の配合比率/(ポリ塩化ビニル系樹脂の配合比率/1.5)+散乱抑制剤の配合比率)/1.5
なお、上記式中の散乱抑制剤は、上に例示したもののうち、硫黄化合物、リン酸エステル、トリメリット酸エステル及び/又はジペンタエリストールエステルであることが特に好ましい。
【0026】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂成形体においては、ポリ塩化ビニル系樹脂の特長である耐酸性、耐アルカリ性、耐水性、電気絶縁性、難燃性、機械強度を損なわない範囲で、必要に応じて、配合剤、例えば、熱安定剤、安定化助剤、改質剤、滑剤、加工助剤、耐熱向上剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料、充填剤、可塑剤等を配合してもよい。これら配合剤は、塩化ビニル系樹脂を成形する際に使用されているものであれば、その種類は限定されず、それぞれ、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
熱安定剤としては、例えば、ジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー等の有機錫系安定剤、ステアリン酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、三塩基性硫酸鉛等の鉛系安定剤、カルシウム−亜鉛系安定剤、バリウム−亜鉛系安定剤、バリウム−カドミウム系安定剤等が挙げられる。
【0028】
安定化助剤としては、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ豆油エポキシ化テトラヒドロフタレート、エポキシ化ポリブタジエン、リン酸エステル等が挙げられる。
改質剤としては、例えば、メチルメタクリレート−ブタジエンースチレン共重合体(MBS樹脂)等が挙げられる。
滑剤としては、内部滑剤、外部滑剤等が挙げられる。内部滑剤は、成形加工時の溶融樹脂の流動粘度を下げ、摩擦発熱を防止する目的で使用される。例えば、ブチルステアレート、ラウリルアルコール、ステアリルステアレート、エポキシ化大豆油、グリセリンモノステアレート、ステアリン酸、ビスアミド等が挙げられる。外部滑剤は、成形加工時の溶融樹脂と金属面との滑り効果を上げる目的で使用される。例えば、モンタン酸ワックス、パラフィンワックス、ポリオレフィンワックス、エステルワックス等が挙げられる。
【0029】
加工助剤としては、例えば、重量平均分子量3万〜500万のアルキルアクリレート−アルキルメタクリレート共重合体、アルキルアクリレート−アルキルメタクリレート−スチレン共重合体等のアクリル系加工助剤が挙げられ、具体例としては、n−ブチルアクリレート−メチルメタクリレート共重合体、2−エチルヘキシルアクリレート−メチルメタクリレート−ブチルメタクリレート共重合体等が挙げられる。
耐熱向上剤としては、例えば、α−メチルスチレン系、N−フェニルマレイミド系等の耐熱向上剤が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系抗酸化剤、硫黄系抗酸化剤、ホスファイト系抗酸化剤等が挙げられる。
光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系の光安定剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、例えば、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0030】
帯電防止剤としては、例えば、カチオン系帯電防止剤、非イオン系帯電防止剤等が挙げられる。
顔料としては、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系等の有機顔料、酸化物系、クロム酸モリブデン系、硫化物・セレン化物系、フェロシアン化物系等の無機顔料等が挙げられる。
充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、水酸化マグネシウム、タルク、マイカ、クレー、フライアッシュ等が挙げられる。
可塑剤としては、例えば、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート等が挙げられる。特に、可塑剤は、本発明においてはプレス成形時に付加する熱エネルギーを低減させることができるため、有効である。
【0031】
配合物とポリ塩化ビニル系樹脂組成物とを混合する方法は特に限定されないが、均一混合の観点から、ポリ塩化ビニル系樹脂を揮発性有機溶媒に溶解する際に混合することが好ましい。
【0032】
以下、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂成形体及びプラスチック光ファイバーの製造方法の実施態様を詳細に説明するが、本発明は下記に限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)
塩素含有率66.0重量%、重合度670の塩素化ポリ塩化ビニル樹脂をテトラヒドロフランに溶解し、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂濃度約10%のテトラヒドロフラン溶液を調製した。この溶液を、細孔径0.05μmのアルミナセラミックス製フィルターで濾過した。
塩素化ポリ塩化ビニル樹脂の100重量部に対し、ブチルスズメルカプトを5重量部、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシルを5.3重量部となるように濾液へ添加した後、攪拌し、混合した。
この溶液からキャスト法により、およそ100μmのフィルムを複数枚作成し、40℃で24時間真空乾燥させた。
乾燥後のフィルムを15×15mm程度の大きさに裁断し、成形用の原材料とした。
直径20mm、長さ150mmの円筒状のキャビティを有する金型を用い、150℃で20分間プレス成形を行い、その後、20℃程度の冷却水温にて5分冷却し、成形体であるプリフォームを得た。
【0034】
得られたプリフォームを、140℃に設定された円筒型加熱機に供給し、加熱延伸して直径0.6mmの光ファイバーを得た。
得られた光ファイバーを切り出して、Ocean Optics社製スペクトロメーター及び白色光源を用いたカットバック法により伝送損失を測定した。その結果、1004dB/kmであった。
【0035】
(実施例2)
塩素含有率66.0重量%、重合度670の塩素化ポリ塩化ビニル樹脂をテトラヒドロフランに溶解し、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂濃度約10%のテトラヒドロフラン溶液を調製した。この溶液を、細孔径0.05μmのアルミナセラミックス製フィルターで濾過した。
塩素化ポリ塩化ビニル樹脂の100重量部に対し、ブチルスズメルカプトを5重量部、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシルを17.6重量部となるように添加した後、攪拌し、混合した。
この溶液からキャスト法により、およそ100μmのフィルムを複数枚作成し、40℃で24時間真空乾燥させた。
乾燥後のフィルムを15×15mm程度の大きさに裁断し、成形用の原材料とした。
直径20mm、長さ150mmの円筒状のキャビティを有する金型を用い、140℃で20分間プレス成形を行い、その後、冷却水温にて5分冷却し、成形体であるプリフォームを得た。
【0036】
得られたプリフォームを、120℃に設定された円筒型加熱機に供給し、加熱延伸して直径0.6mmの光ファイバーを得た。
得られた光ファイバーを切り出して、実施例1と同様に伝送損失を測定した結果、442dB/kmであった。
【0037】
(比較例1)
塩素含有率66.0重量%、重合度670の塩素化ポリ塩化ビニル樹脂をテトラヒドロフランに溶解し、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂濃度約10%のテトラヒドロフラン溶液を調製した。この溶液を、細孔径0.05μmのアルミナセラミックス製フィルターで濾過した。
濾液を大量のメタノール中に流し込み、再沈殿させ、析出したポリマーを濾別し、このポリマーを40℃で24時間真空乾燥させた。
得られたポリマー粉体に対し、ブチルスズメルカプトを5重量部、n−ブチルアクリレート−メチルメタクリレートを0.75重量部、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシルを15重量%となるように添加した後、攪拌し、混練した。
【0038】
得られた樹脂粉体に対し、180℃でロール成形を行い、厚み1mm程度のシートに成形した。このシートを細かく裁断し、プレス成形用の原料とした。
直径20mm、長さ150mmの円筒状のキャビティを有する金型を用い、140℃で20分間プレス成形を行い、その後、20℃程度の冷却水温にて5分冷却し、成形体であるプリフォームを得た。
得られたプリフォームを、120℃に設定された円筒型加熱機に供給し、加熱延伸して直径0.6mmの光ファイバーを得た。
得られた光ファイバーを切り出して、実施例1と同様に伝送損失を測定した結果、1554dB/kmであった。これは、プレス成形前のポリ塩化ビニル系組成物の混練及びロール成形による過大な剪断応力と、剪断熱に起因するものと考えられる。
【0039】
(比較例2)
塩素含有率66.0重量%、重合度670の塩素化ポリ塩化ビニル樹脂をテトラヒドロフランに溶解し、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂濃度約10%のテトラヒドロフラン溶液を調製した。この溶液を、細孔径0.05μmのアルミナセラミックス製フィルターで濾過した。
塩素化ポリ塩化ビニル樹脂の100重量部に対し、ブチルスズメルカプトを5重量部、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシルを122重量部となるように添加した後、攪拌し、混合した。
この溶液からキャスト法により、およそ100μmのフィルムを複数枚作成し、40℃で24時間真空乾燥させた。
乾燥後のフィルムを15×15mm程度の大きさに裁断し、成形用の原材料とした。
直径20mm、長さ150mmの円筒状のキャビティを有する金型を用い、150℃で20分間プレス成形を行い、その後、冷却水温にて5分冷却し、成形体であるプリフォームを得た。
得られたプリフォームは、トリメリット酸エステルの添加割合が大きいことに起因して、非常に可塑変形しやすく、円筒型加熱機での加熱延伸で非常に切れ易く紡糸は困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、塩化ビニル系樹脂を使用することを期待するあらゆる分野において利用することができる。特に、高い透明性を有する分野において有用であり、例えば、光学系、具体的には、光ファイバー、光ファイバーのプリフォーム、ロッドレンズなどの各種レンズ、光導波路等の各種光デバイスの構成要素として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル系組成物を揮発性有機溶媒に溶解し、
得られたポリ塩化ビニル系組成物溶液からフィルムを形成し、
該フィルムをプレス成形することを特徴とするポリ塩化ビニル系樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
溶解性パラメーターが7.5〜12.0(cal/cm31/2である物質が、ポリ塩化ビニル系組成物の全重量に対して50重量%未満で配合されてなる請求項1に記載のポリ塩化ビニル系樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
トリメリット酸エステル、ジペンタエリスリトール、ジフェニルスルホン、トリフェニルホスフェートから選ばれる少なくとも1つが、ポリ塩化ビニル系組成物の全重量に対して25重量%以下で配合されてなる請求項1又は2に記載のポリ塩化ビニル系樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の製造方法により得られたポリ塩化ビニル系樹脂成形体を溶融紡糸することを特徴とするプラスチック光ファイバーの製造方法。

【公開番号】特開2008−115291(P2008−115291A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300290(P2006−300290)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】