説明

ポリ擬ロタキサンの製造方法、架橋体の製造方法及びポリマーの回収方法

【課題】原料ポリマーを容易に回収することが可能なポリ擬ロタキサンの製造方法及び該原料ポリマーの回収方法を提供する。
【解決手段】環状構造を複数有するポリマーに、次式(I):(R1−R2−N+2−R3−X)・Y-(式中、R1は前記ポリマーの環状構造の空洞部よりも嵩高い基であり、R2及びR3はそれぞれ独立して二価の炭化水素基、二価の芳香族基又はそれらを複合してなる原子団であって、ヘテロ原子を含んでもよく、Xは水酸基、一級アンモニウム塩又はカルボキシル基であり、Y-は一価の陰イオンである)で表されるアンモニウム塩を該アンモニウム塩のX側から貫通させることを特徴とするポリ擬ロタキサンの製造方法である。また、該方法によって得たポリ擬ロタキサンからなる架橋体を脱架橋させることを特徴とするポリマーの回収方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ擬ロタキサンの製造方法、該方法により得たポリ擬ロタキサンを用いる架橋体の製造方法及び該ポリ擬ロタキサンを構成するポリマーの回収方法に関し、特に原料ポリマーを容易に回収することが可能なポリ擬ロタキサンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図1に示すように軸1が輪2に貫通し、軸1の両端に輪2が抜けないようにエンドキャップ3が結合した構造を有する化合物が知られており、該化合物をロタキサンと呼んでいる。ここで、軸1と輪2とは、機械的結合によって繋がっていると表現されている。上記輪2は軸1上で、回転や並進運動を自由に行うことができるため、例えば、外部刺激により輪2の位置を制御して、分子スイッチ等への応用が研究されている。なお、軸1の一方の末端にエンドキャップ3がない場合や、エンドキャップ3の嵩高さが不十分である場合、ロタキサン構造における軸1と輪2が分かれることがあり、このような化合物を擬ロタキサンと呼んでいる。
【0003】
特開2005−68032号公報(特許文献1)では、ロタキサン構造による機械的結合で架橋された種々の架橋体が開示されており、該架橋体は、物性が高く、リサイクル性に優れるため、新規なゲル素材として期待されている。また、特開2005−68032号公報では、架橋体がロタキサン構造による機械的結合で架橋されることにより、ゲルの形成が確認されたことから、新規なゲル素材を開発する上で、ロタキサン構造の制御は重要な課題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−68032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開2005‐68032号公報は、軸に相当するダンベル型化合物を中央部のジスルフィド結合の開裂により輪に相当する化合物に挿入し、次いでジスルフィド結合の再結合により架橋体を得ることを開示するものの、反応性の中間体であるポリ擬ロタキサンの生成は架橋体の生成と平衡関係にあるため、ポリ擬ロタキサンを単独で製造することはできない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、環状構造を複数有するポリマー中の環状構造の空洞部に、軸に相当する部分を含む化合物を貫通させることで、ポリ擬ロタキサンを生成する方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、該方法により得たポリ擬ロタキサンを用いる架橋体の製造方法を提供することである。更に、本発明の他の目的は、該ポリ擬ロタキサンを構成するポリマーの回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、一方の末端のみに最も安定した配座での大きさが輪の空洞サイズより嵩高い基(エンドキャップに相当する)を有するアンモニウム塩を、該アンモニウム塩の他方の末端から輪に相当する部分を含むポリマーへ挿入することで、ポリ擬ロタキサンが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明のポリ擬ロタキサンの製造方法は、環状構造を複数有するポリマーに、下記式(I):
(R1−R2−N+2−R3−X)・Y- ・・・ (I)
(式中、R1は最安定配座で上記ポリマー中の環状構造の空洞部よりも嵩高い基であり、R2及びR3はそれぞれ独立して二価の炭化水素基、二価の芳香族基又はそれらを複合してなる原子団であって、ヘテロ原子を含んでもよく、Xは水酸基、一級アンモニウム塩又はカルボキシル基であり、Y-は一価の陰イオンである)で表されるアンモニウム塩を該アンモニウム塩のX側から貫通させることを特徴とする。
【0009】
本発明のポリ擬ロタキサンの製造方法の好適例においては、前記ポリマーが、下記式(II):
【化1】

(式中、Zは連結部位である)で表されるクラウンエーテル単位を有するポリクラウンエーテルである。
【0010】
また、本発明の架橋体の製造方法は、上記の方法によって得たポリ擬ロタキサンのXを、下記式(III):
OCN−R4−NCO ・・・ (IV)
(式中、R4は二価の基である)で表される架橋剤で連結し、ポリロタキサンを合成することを特徴とする。
【0011】
更に、本発明のポリマーの回収方法は、上記の方法によって得た架橋体の架橋鎖を除去することを特徴とする。
【0012】
本発明のポリマーの回収方法の好適例においては、上記の方法によって得た架橋体を塩基性条件下で溶媒に膨潤させ、中和反応により脱架橋する。
【0013】
本発明のポリマーの回収方法の他の好適例においては、上記の方法によって得た架橋体をドナー数が20以上である極性溶媒に膨潤させ、脱架橋する。
【0014】
本発明のポリマーの回収方法は、前記架橋体を脱架橋した後に得られるゾルを貧溶媒中で再沈殿するのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、環状構造を複数有するポリマーに、一方の末端に最安定配座で上記ポリマー中の環状構造の空洞部よりも嵩高い基を有し且つ他方の末端に水酸基、一級アンモニウム塩又はカルボキシル基を有するアンモニウム塩を、該アンモニウム塩の水酸基、一級アンモニウム塩又はカルボキシル基で構成される末端側から貫通させることで、原料ポリマーを容易に回収することが可能なポリ擬ロタキサンを提供することができる。また、該ポリ擬ロタキサンを用いることで、ロタキサン構造を介した機械的結合により架橋した架橋体を提供することができる。更に、該ポリ擬ロタキサンを構成するポリマーの回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ロタキサンの概念図である。
【図2】擬ロタキサン合成の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明のポリ擬ロタキサンの製造方法は、環状構造を複数有するポリマーに、下記式(I):
(R1−R2−N+2−R3−X)・Y- ・・・ (I)
(式中、R1は最安定配座で上記ポリマー中の環状構造の空洞部よりも嵩高い基であり、R2及びR3はそれぞれ独立して二価の炭化水素基、二価の芳香族基又はそれらを複合してなる原子団であって、ヘテロ原子を含んでもよく、Xは水酸基、一級アンモニウム塩又はカルボキシル基であり、Y-は一価の陰イオンである)で表されるアンモニウム塩を該アンモニウム塩のX側から貫通させることを特徴とする。ここで、本発明の製造方法により得たポリ擬ロタキサンは、ロタキサン構造の軸に相当するアンモニウム塩がそのX側からポリマー中の環状構造の空洞部を抜け出ることが可能であり、原料ポリマーを容易に回収することができるため、新規なゲル素材を開発する上で有効である。
【0018】
本発明のポリ擬ロタキサンの製造方法において、ロタキサン構造の輪に相当する化合物は、環状構造を複数有するポリマーである限り特に限定されるものではないが、例えば、クラウンエーテル、シクロデキストリン、大環状ペプチド類、シクロファン類、カリックスアレーン類、シラクラウンエーテル類、クリプタンド類等の大環状分子に由来する大環状構造を含む繰り返し単位を有するポリマーが挙げられ、該大環状構造は、21員環以上の環であるのが好ましく、24員環以上の環であるのが更に好ましい。これらの中でも、繰り返し単位がクラウンエーテルに由来する大環状構造を含むポリマー、即ち、ポリクラウンエーテルが好ましい。かかるポリクラウンエーテルのクラウンエーテル環としては、24−クラウン−8(孔サイズ:4.0Å)、27−クラウン−9(孔サイズ>4.0Å)、30−クラウン−10(孔サイズ>4.0Å)等が挙げられる。上記ポリクラウンエーテルの中でも、24員環のクラウンエーテル単位を有するポリクラウンエーテルが更に好ましく、上記式(II)で表されるクラウンエーテル単位を有するポリクラウンエーテルが特に好ましい。なお、式(II)中、Zは、クラウンエーテル環の連結部位として機能する限り、特に限定されるものではないが、例えば、ウレタン結合、エステル結合又はアミド結合等を有する連結部位であるのが好ましい。
【0019】
上記ポリクラウンエーテルとして、具体的には、下記式(IV)、式(V)、式(VI)、式(VII)又は式(VIII):
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

(式(V)、(VI)、(VII)及び(VIII)中、nは1以上の整数である)で表される繰り返し単位よりなるポリマーが挙げられる。
【0020】
上記ポリクラウンエーテルは、クラウンエーテル単位を有するモノマーから、通常の高分子合成技術で合成することができる。例えば、上記式(IV)で表される単位を有するポリクラウンエーテルは、ジベンゾ−24−クラウンエーテル−8のアルコール誘導体とアジピン酸ジクロリドとをピリジンとジクロロメタンとの混合溶媒中で重縮合させることで製造でき、クラウンエーテルのアルコール誘導体とアジピン酸ジクロリドとはエステル結合で繋がっている。下記に反応式を示す。
【化7】

【0021】
本発明のポリ擬ロタキサンの製造方法において、上記式(I)で表されるアンモニウム塩は、ロタキサン構造の軸に相当する部分を含む化合物である。式(I)において、R1は、ポリロタキサンのエンドキャップに相当する部分であるため、最安定配座で上記ポリマー中の環状構造の空洞部よりも嵩高い基であることを要するが、ポリ擬ロタキサンから誘導される架橋体からの原料ポリマーの回収をより容易にするという観点から、上記ポリマー中の環状構造の空洞部の径と同程度のサイズであるのが好ましい。ここで、上記ポリマー中の環状構造の空洞部の径と同程度のサイズの置換基とは、最も安定した配座でのサイズが上記ポリマー中の環状構造の空洞部の径以上のサイズとなるが、該ポリマー中の環状構造の空洞部の径より小さいサイズの配座をとることが可能な置換基を意味する。なお、ポリマー中の空洞部の径とは、空洞部に内接する最大円の直径を指し、置換基のサイズとは、置換基に外接する最大円の直径を指す。上記R1として、具体的には、シクロヘキシル基、t-ブチル基、t-ブチルフェニル基等が挙げられる。
【0022】
また、式(I)中、R2及びR3はそれぞれ独立して二価の炭化水素基、二価の芳香族基又はそれらを複合してなる原子団であって、ヘテロ原子を含んでもよい。R2及びR3は、直鎖状の二価の炭化水素基、1,4位の水素原子が除去された芳香族基又はそれらを複合してなる原子団等が好ましく、具体的には、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、ヘキサメチレン基、ドデカメチレン基等のアルキレン基、フェニレン基等のアリーレン基が挙げられる。式(I)中、Xは水酸基、一級アンモニウム塩又はカルボキシル基であり、ここで、Xが一級アンモニウム塩である場合、一級アンモニウム塩の陰イオンとしては、PF6-、CF3SO3-、BF4-、CF3CO2-等が挙げられる。式(I)中、Y-は一価の陰イオンであり、具体例としては、PF6-、CF3SO3-、BF4-、CF3CO2-等が挙げられる。
【0023】
上記式(I)で表されるアンモニウム塩として、具体的には、下記式(IX)、式(X)又は式(XI)で表されるアンモニウム塩が挙げられる。
【化8】

【化9】

【化10】

【0024】
上記式(I)で表されるアンモニウム塩は、例えば、一方の末端にロタキサン構造のエンドキャップを構成する官能基を有し且つもう一方の末端に架橋体の架橋鎖を形成する官能基を有するアミンから、通常の有機合成技術で合成することができる。例えば、上記式(IX)で表されるアンモニウム塩は、4-(アミノメチル)安息香酸と塩化チオニルとから得られる4-(メトキシカルボニル)ベンジルアンモニウム塩酸塩にピバリン酸クロリドを反応させて、一方の末端にエンドキャップを構成する官能基を有し且つもう一方の末端に後の工程で架橋体の架橋鎖を形成する官能基を有する下記式(XII)で表される化合物を合成し、水素化リチウムアルミニウムで還元し、ヘキサフルオロリン酸と塩を形成することで製造できる。下記に反応式を示す。
【化11】

【0025】
また、本発明のポリ擬ロタキサンの製造方法は、一般に、図2に示すように、軸1と輪2のホストゲスト相互作用によって擬ロタキサン4を生成する手法が利用され、例えば、ロタキサン構造の輪に相当する化合物として上記式(II)で表されるクラウンエーテル単位を有するポリクラウンエーテルと、ロタキサン構造の軸に相当する化合物として上記式(I)で表されるアンモニウム塩とを用いた場合、下記式(XIII):
【化12】

(式中、R1、R2、R3、X及びZは上記と同義であり、Aは貫通率である)で表されるポリ擬ロタキサンを製造することができる。なお、上記式(I)で表されるアンモニウム塩は、二級アンモニウムイオンを分子中に有しており、例えば、ポリクラウンエーテルのクラウンエーテル環等を構成する酸素原子と静電気的に相互作用することができるため、ポリ擬ロタキサンの形態を安定的に維持できる。ここで、貫通率Aとは、ロタキサン構造の輪(式(XIII)では、ポリクラウンエーテル内の空洞部)のうち上記式(I)で表されるアンモニウム塩が貫通した輪が占める割合を意味する。
【0026】
本発明のポリ擬ロタキサンの製造方法においては、高い収率でポリ擬ロタキサンを製造する観点から、ドナー数の小さい溶媒の存在下で行うことが好ましい。ここで、「ドナー数」は、供与性能を表す溶媒パラメータであり、1,2-ジクロロエタン中における五塩化アンチモンと溶媒分子の1:1錯体生成平衡のエンタルピー損失−ΔH(kcal mol-1)として定義される値を意味し、「ドナー数の小さい」とは、ドナー数が15以下であることを指す。具体例としては、クロロホルム、ニトロメタン、アセトニトリル、1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロベンゼン等が好適に挙げられる。
【0027】
また、本発明の架橋体の製造方法は、上記の方法によって得たポリ擬ロタキサンを用い、ポリロタキサンを合成することで達成される。ここで、本発明の架橋体の製造方法は、後の工程でロタキサン構造の輪に相当する化合物が容易に回収できるように、上記ポリ擬ロタキサンのX(即ち、水酸基、一級アンモニウム塩又はカルボキシル基)を、上記式(III)で表される架橋剤で連結し、ポリロタキサンを合成することを特徴とする。得られる架橋体は、ロタキサン構造の輪に相当する複数のポリマーがロタキサン構造による機械的結合により架橋されており、該複数のポリマーは、ロタキサン構造の軸に相当する上記アンモニウム塩のXと上記架橋剤とから形成される架橋鎖によって繋がっている。なお、本願では、上記架橋体をポリロタキサンネットワークと称することがある。
【0028】
上記(III)で表される架橋剤は、イソシアナート基を二つ有する化合物である。式(III)中、R4は二価の基であり、枝分れのない線状の基であるのが好ましい。式(III)のR4としては、エチレン基、トリメチレン基、ヘキサメチレン基、ドデカメチレン基、p-キシリレン基、イソホロン基、4,4'-ジシクロヘキシルメチレン基、m-フェニレン基、p-フェニレン基等が挙げられる。
【0029】
更に、上記の方法によって得た架橋体の架橋鎖を除去することで、ロタキサン構造の輪に相当する環状構造を複数有するポリマーを回収し、リサイクルできる。このようなポリマーの回収方法は、該ポリマーがロタキサン構造による機械的結合により架橋されてなり、該ポリマーに傷をつけずに回収できるため、該ポリマーをリサイクルする手段として有効である。また、架橋体の架橋鎖を除去するには、(1)上記の方法によって得た架橋体を塩基性条件下で溶媒に膨潤させ、中和反応により脱架橋するか、又は(2)上記の方法によって得た架橋体をドナー数の大きい極性溶媒に膨潤させ、脱架橋するのが好ましい。これにより、チオール等の脱架橋剤を使用せずに、上記環状構造を複数有するポリマーを回収できる。ここで、上記(1)において、架橋体を膨潤させるのに用いる溶媒としては、ポリマーの膨潤に広く使用される汎用溶媒であれば特に制限されないが、例えば、ニトロメタン、アセトン、クロロホルム、テトラヒドロフラン等が好適に挙げられる。また、塩基として、トリエチルアミン、ピリジン、フッ化テトラブチルアンモニウム等を用いるのが好ましい。更に、中和反応は、室温(約20℃)で行ってもよいし、加熱条件下で行ってもよい。一方、上記(2)において、ドナー数の大きい極性溶媒とは、ドナー数が20以上である溶媒を意味し、該ドナー数の大きい溶媒によって、ロタキサン構造を維持する水素結合を除去することができる。なお、ドナー数の大きい極性溶媒として、具体的には、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルスルホキシド等が好適に挙げられる。更に、上記(1)又は(2)に記載の手法により脱架橋を行うと、ゾルが形成されるため、架橋体を脱架橋した後に得られるゾルを貧溶媒中で再沈殿するのが好ましい。ここで、貧溶媒とは、ロタキサン構造の輪に相当する環状構造を複数有するポリマーは溶解しないが、中和反応により生じる塩等を溶解する性質を持つ溶媒を指し、具体例としては、メタノール、エタノール、ジエチルエーテル等が挙げられる。これにより、環状構造を複数有するポリマーが沈殿するため、容易に回収することができる。なお、脱架橋を行う際に選択される溶媒によっては、ゾルが形成しないこともあり得るが、この場合においては、脱架橋を行った溶液を貧溶媒中で再沈殿すればよい。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0031】
(ポリクラウンエーテルの合成例1)
ジベンゾ‐24‐クラウン‐8‐エーテルのアルコール誘導体4.68g(9.21mmol)をピリジン5.00mL及びジクロロメタン30mLに溶かし、アジピン酸ジクロリド1.34mLとジクロロメタン33.5mLとの溶液を加えて40℃で5時間加熱した。反応液を大量のメタノールへ再沈殿させ、上記式(IV)で表されるポリクラウンエーテル3.49gを得た。得られたポリクラウンエーテルは、示査走査熱量計で測定したガラス転移点(Tg)が11.3℃で、熱重量質量計で測定した5%重量減少温度(Td5)は339℃で、GPCで測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は4000で、分子量分布(Mw/Mn)は1.35であった。
【0032】
(ポリクラウンエーテルの合成例2)
ジベンゾ‐24‐クラウン‐8‐エーテルのアルコール誘導体1.52g(3.00mmol)に、コモノマーとして数平均分子量(Mn)が1600で、分子量分布(Mw/Mn)が4.20で、1,4付加体が80%の両末端ヒドロキシル化ポリブタジエン4.81g(3.00mmol)を添加し、更にアジピン酸ジクロリド0.872mL(6.00mmol)を加え、合成例1と同様の方法で重縮合させて上記式(V)で表されるポリクラウンエーテル2.14gを得た。得られたポリクラウンエーテルは、数平均分子量(Mn)が11400で、分子量分布(Mw/Mn)が1.62であった。
【0033】
(ポリクラウンエーテルの合成例3)
ジベンゾ‐24‐クラウン‐8‐エーテルのアルコール誘導体1.02g(2.00mmol)にコモノマーとしてポリテトラヒドロフラン(Terathane(登録商標)2000、デュポン社製)16.0g(8.00mmol)を添加し、アジピン酸ジクロリド1.45mL(10.0mmol)を加え、合成例1と同様の方法で重縮合させて上記式(VI)で表されるポリクラウンエーテル14.2gを得た。得られたポリクラウンエーテルは、数平均分子量が(Mn)が13000で、分子量分布(Mw/Mn)が3.14であった。
【0034】
(ポリクラウンエーテルの合成例4)
ジベンゾ‐24‐クラウン‐8‐エーテルのアルコール誘導体2.03g(4.00mmol)にコモノマーとしてポリテトラヒドロフラン(Terathane(登録商標)2000、デュポン社製)16.0g(8.00mmol)を添加し、それをピリジン1.2mL及び脱水N,N-ジメチルアセトアミド12mLに溶解し、反応液を調製した。該反応液に、テレフタル酸ジクロリド2.44g(12.0mmol)と脱水N,N-ジメチルアセトアミド12mLとの溶液を添加し、60℃で12時間攪拌した。反応液を室温まで冷却し、水200mLを加えて反応を停止した後、ジクロロメタン200mLで有機成分を2回抽出した。有機相を飽和食塩水200mLで洗浄した後、有機相を100mLまで濃縮し、メタノール700mLに再沈殿して上記式(VII)で表されるポリクラウンエーテル15.2gを得た。得られたポリクラウンエーテルは、数平均分子量(Mn)が27000で、分子量分布(Mw/Mn)が1.53であった。
【0035】
(ポリクラウンエーテルの合成例5)
ジベンゾ‐24‐クラウン‐8‐エーテルのアルコール誘導体0.508g(1.00mmol)にコモノマーとしてポリテトラヒドロフラン(Terathane(登録商標)2000、デュポン社製)6.00g(3.00mmol)を添加し、脱水N,N-ジメチルアセトアミド2.0mLに溶解し、反応液を調製した。該反応液に、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート(東京化成工業(株)製)1.00g(4.00mmol)と脱水N,N-ジメチルアセトアミド2.00mLとの溶液を添加し、100℃で1時間、50℃で一晩攪拌した。更にクロロホルム2.0mLを加え、これをメタノール150mLに再沈殿して上記式(VIII)で表されるポリクラウンエーテル6.24gを得た。得られたポリクラウンエーテルは、数平均分子量(Mn)が8700で、分子量分布(Mw/Mn)が2.22であった。
【0036】
(アンモニウム塩の合成例1)
4-(アミノメチル)安息香酸9.06g(60.0mmol)をメタノール400mLに溶かし、塩化チオニル20mLを滴下した後、12時間還流した。余剰の塩化チオニル及び溶媒を減圧留去して白色固体を得た後、これを酢酸エチルで洗浄し、真空乾燥後8.16gの4‐(メトキシカルボニル)ベンジルアンモニウム塩酸塩を得た。
1H NMR(400MHz,298K,CD3OD):δ 8.51 (br,3H),7.97 (d,J = 12.0Hz,2H,Ar-H),7.62 (d,J = 12.0Hz,2H,Ar-H),4.09 (s,2H,ベンジル位),3.82 (s,3H,メチル基) ppm.
次に、4-(メトキシカルボニル)ベンジルアンモニウム塩酸塩4.02g(20.0mmol)を脱水テトラヒドロフラン60mLに溶解し、トリエチルアミン10mLを加えた。ここにピバリン酸クロリド2.40g(20.0mmol)と脱水テトラヒドロフラン30mLとの溶液を0℃で加え、室温で一晩攪拌した。反応液に1M塩酸を酸性になるまで加え、酢酸エチル200mLで抽出した。溶媒を減圧留去し、残渣を真空乾燥して上記式(XII)で表される化合物の白色固体4.87g(収率98.1%)を得た。
1H NMR(400MHz,298K,アセトン-d6):δ 8.00 (d,J = 7.08Hz,2H,-OCO-Ar-H),7.31 (d,J = 7.08Hz,2H,-CH2-Ar-H),6.19 (br,1H,N-H),4.50,4.48 (s,1H×2,ベンジル位のプロトン),3.93 (s,3H,Me),1.20 (s,9H,tBu) ppm.
次に、上記式(XII)で表される化合物4.87g(19.6mmol)と脱水テトラヒドロフラン90mLとの溶液を、脱水テトラヒドロフラン90mL中に水素化リチウムアルミニウム2.73g(72.0mmol)を懸濁させた溶液に0℃で滴下した。反応液を12時間還流し、室温まで冷却した後、飽和硫酸ナトリウム水溶液で余剰の水素化リチウムアルミニウムを処理した。ろ過により沈殿物を除去し、ろ液をクロロホルム250mLで2回抽出し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、得られた無色オイルを20mLのメタノールに溶かし、氷浴下で10質量%ヘキサフルオロリン酸水溶液30mLを加え、さらに水を沈殿の析出が止まるまで加えた。ろ過により沈殿を回収し、真空乾燥により上記式(IX)で表されるアンモニウム塩を5.06g(収率73%)で得た。
1H NMR(400MHz,298K,アセトン-d6):δ 8.20 (br,N-H,2H),7.56 (d,J = 1.22Hz,Ar-H,2H),7.46 (d,J = 1.22Hz,Ar-H,2H),4.68 (s,N-CH2-Ar,2H),2.07 (s,tBu-CH2-N,2H),1.15 (s,tBu,9H) ppm.
融点:168.1‐169.5℃.
【0037】
(アンモニウム塩の合成例2)
前述の式(XII)で表される化合物と同様の合成手法で、4-(メトキシカルボニル)ベンジルアンモニウム塩化物塩2.01g(10.0mmol)と4‐t‐ブチル安息香酸1.97g(10.0mmol)から、下記式(XIV):
【化13】

で表される化合物3.10g(95%)を得た。
次に、前述の式(IX)で表される化合物と同様の合成手法で、上記式(XIV)で表される化合物2.44g(7.50mmol)から上記式(X)で表されるアンモニウム塩1.89gを得た。
1H NMR(400MHz,298K,CDCl3):δ 7.55-7.44 (m,Ar-H,8H),4.68,4.64,4.42 (s,6H,ベンジルプロトン),2.93 (br,3H,NH2 + OH),1.31 (s,9H,tBu) ppm.
IR(KBr):3406 (O-H),3158 (N-H),2971 (Ar-H),846 (P-F, nas),561 (P-F,ns) cm-1
融点:226.5‐227.5℃.
【0038】
(アンモニウム塩の合成例3)
シクロヘキシルメチルアミン4.17mL(30.0mmol)とトリエチルアミン4.17mL(30.0mmol)と脱水テトラヒドロフラン20mLとの溶液に、4‐(メチルカルボニル)安息香酸クロリド3.98g(20.0mmol)と脱水テトラヒドロフラン20mLとの溶液を0℃で滴下し、室温で一晩攪拌した。水50mLを加えて反応を停止し、ジクロロメタン100mLで2回抽出した後、有機相を1M塩酸100mL、飽和食塩水100mL及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液100mLで洗浄した。硫酸マグネシウムで有機相を乾燥後、溶媒を減圧留去して得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:アセトン=1:1、Rf0.5)で精製し、真空乾燥して、下記式(XV):
【化14】

で表される化合物の白色固体4.30g(77%)得た。
1H NMR(400MHz,298K,CDCl3):δ 8.08 (d,J = 8.62Hz,2H,-NHCO-CH=C-),7.81 (d,J = 8.62Hz,2H),6.30 (br,1H,N-H),3.94 (s,3H,CH3O-),3.31 (t,J = 6.24Hz,2H,NHCH2),1.80‐1.47 (m,7H,シクロヘキシル−プロトン),1.3‐0.9 (m,5H,シクロヘキシル−プロトン) ppm.
IR(KBr):3355 (N-H),2927 (Ar-H),2849 (脂肪族C-H),1716 (C=O,エステル),1636 (C=O,アミド),1531 (C=C),1436 (脂肪族C-H, vr),1282 (C‐O,エステル),870 (C-H,Ar-H,vas) cm-1
融点:130.4−132.1℃.
次に、水素化リチウムアルミニウム3.42g(90.0mmol)を脱水テトラヒドロフラン100mLに懸濁し、上記式(XV)で表される化合物3.89g(15.0mmol)と脱水THF100mLとの溶液を氷浴下で滴下した。12時間還流し、氷浴下で飽和硫酸ナトリウム水溶液をゆっくり滴下して過剰の水素化リチウムアルミニウムを処理し、反応液を濾過した。残渣を300mLのジクロロメタンでよく洗浄し、反応液に水100mLを加え、先に加えたジクロロメタンで抽出後、飽和食塩水100mLで洗浄し、有機相を硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去により除去し、無色オイルを得た。これをメタノール20mLに溶解し、氷浴下で10質量%ヘキサフルオロリン酸水溶液24mLを滴下した。さらに大量の水を加えて沈殿を析出させ、これを回収し真空乾燥することで上記式(XI)であらされるアンモニウム塩5.01g(98%)を得た。
1H NMR(400MHz,298K,CD3CN):δ 7.42 (s,4H,芳香族プロトン),4.59 (s,2H,o-ベンジル−プロトン),4.12 (s,2H,N-ベンジルプロトン),2.87-2.85 (m,2H,シクロヘキシル−メチレンプロトン),1.72-1.63 (m,6H,シクロヘキシルプロトン),1.30-1.12 (m,3H,シクロヘキシル−プロトン),1.01-0.93 (m,2H,シクロヘキシル−プロトン) ppm.
融点:175.6−177.8℃.
【0039】
(実施例1)
上記式(XI)で表されるアンモニウム塩7.6mg(10μmol)及び上記式(IV)で表されるポリクラウンエーテル12.4mg(10μmol)を重ニトロメタン1.0mLに溶解し、1H NMRを測定し、貫通率を百分率で算出したところ、貫通率78%のポリ擬ロタキサンの形成を原料との混合物として確認した。ここで、貫通率とは、ポリクラウンエーテル内の空洞のうち、アンモニウム塩が貫通した空洞が占める割合を表し、空洞を貫通したN-ベンジル位のプロトンに帰属される4.76-4.72ppmのマルチプレットのシグナルと、ポリクラウンエーテルのカルボニル基に隣接するメチレン基のプロトンに帰属される2.37ppmのシグナルの積分比から算出され、即ち、貫通率を百分率で表すと、下記式のように表される。
(貫通率)(%)=(4.76-4.72ppmのマルチプレットの積分比)/(2.37ppmの積分比)×2×100
1H NMR(400MHz,298K,重ニトロメタン):δ 7.56 (d,J = 8.0Hz,0.44H,ポリクラウンエーテルを貫通していないフェニレン基のプロトン),7.51 (d,J = 7.8Hz,1.56H,ポリクラウンエーテルを貫通したフェニレン基のプロトン),7.42 (d,J = 8.0Hz,0.44H,ポリクラウンエーテルを貫通していないフェニレン基のプロトン),7.21 (d,J = 7.8Hz,1.56H,ポリクラウンエーテルを貫通したフェニレン基のプロトン),7.15 (br,2H,N-Hプロトン),6.98-6.94 (m,6H,クラウンエーテル上の芳香族プロトン),5.01 (s,4H,ポリクラウンエーテルのベンジルプロトン),4.76-4.72 (m,1.56H,ポリクラウンエーテルを貫通したN-ベンジル位のプロトン),4.66 (s,0.44H,ポリクラウンエーテルを貫通していないN-ベンジル位のプロトン),4.51 (s,1.56H,ポリクラウンエーテルを貫通したo-ベンジル位のプロトン),4.35 (s,0.44H,ポリクラウンエーテルを貫通したo-ベンジル位のプロトン),4.33-4.16 (m,8H,クラウンエーテルのアルファ位のメチレンプロトン),3.90-3.80 (m,8H,クラウンエーテルのベータ位のメチレンプロトン),3.61-3.57 (m,8H,クラウンエーテルのガンマ位のメチレンプロトン),3.16 (br,1.56H,ポリクラウンエーテルを貫通したN-メチレン基のプロトン),2.99 (br,0.44H,ポリクラウンエーテルを貫通していないN-メチレン基のプロトン),2.37 (br,4H,カルボニル基に隣接するメチレンのプロトン),1.85-1.64 (s,11H,シクロヘキシル基のプロトン及びポリクラウンエーテルのカルボニル基が隣接していないメチレン基のプロトン),1.19-1.01 (m,3H,シクロヘキシル基のプロトン),0.79 (br,2H,シクロヘキシル基のプロトン) ppm.
【0040】
(実施例2)
実施例1と同様な手法で、上記式(IX)で表されるアンモニウム塩7.1mg(10μmol)及び上記式(IV)で表されるポリクラウンエーテル12.4 mg(10μmol)を重ニトロメタン1.0mL中に溶解し、1H NMRを測定し、貫通率を百分率で算出したところ、貫通率50%のポリ擬ロタキサンの形成を原料との混合物として確認した。
1H NMR(400MHz,298K,重ニトロメタン):δ 7.61 (d,J = 7.8Hz,1H,ポリクラウンエーテルを貫通していないフェニレン基のプロトン),7.55 (d,J = 7.8Hz,1H,ポリクラウンエーテルを貫通したフェニレン基のプロトン), 7.44 (d,J = 7.8Hz,1H,ポリクラウンエーテルを貫通していないフェニレン基のプロトン),7.20 (d,J = 7.8Hz,1H,ポリクラウンエーテルを貫通したフェニレン基のプロトン),6.99-6.92 (m,6H,クラウンエーテル上の芳香族プロトン),5.03 (s,4H,ポリクラウンエーテルのベンジルプロトン),4.76-4.72 (m,1H,ポリクラウンエーテルを貫通したN-ベンジル位のプロトン),4.68 (s,1H,ポリクラウンエーテルを貫通していないN-ベンジル位のプロトン),4.54 (s,1H,ポリクラウンエーテルを貫通したo-ベンジル位のプロトン),4.35 (s,1H,ポリクラウンエーテルを貫通したo-ベンジル位のプロトン),4.35-4.14 (m,8H,クラウンエーテルのアルファ位のメチレンプロトン),3.92-3.82 (m,8H,クラウンエーテルのベータ位のメチレンプロトン),3.80-3.70 (m,8H,クラウンエーテルのガンマ位のメチレンプロトン),3.33 (br,1H,ポリクラウンエーテルを貫通したN-メチレン基のプロトン),3.03 (br,1H,ポリクラウンエーテルを貫通していないN-メチレン基のプロトン),2.61 (br,4H,カルボニル基に隣接するメチレンのプロトン),1.65 (s,4H,ポリクラウンエーテルのカルボニル基が隣接していないメチレン基のプロトン),1.05 (s,4.5H,ポリクラウンエーテルを貫通していないt-ブチル基のプロトン),0.92 (s,4.5H,ポリクラウンエーテルを貫通していないt-ブチル基のプロトン) ppm.
【0041】
(実施例3)
実施例1と同様な手法で、上記式(X)で表されるアンモニウム塩8.6mg(10μmol)及び上記式(IV)で表されるポリクラウンエーテル12.4mg(10μmol)を重ニトロメタン1.0mL中に溶解し、1H NMRを測定し、貫通率を百分率で算出したところ、貫通率86%のポリ擬ロタキサンの形成を原料との混合物として確認した。
1H NMR(400MHz,298K,重ニトロメタン)δ 7.64 (br,2H,N-H),7.52-7.45 (m,1.12H,ポリクラウンエーテルを貫通していないフェニレン基のプロトン),7.41 (d,J = 8.0Hz,1.72H,ポリクラウンエーテルを貫通したフェニレン基のプロトン),7.36 (d,J = 8.0Hz,1.72H,ポリクラウンエーテルを貫通したフェニレン基のプロトン),7.44 (d,J = 7.8Hz,1H,ポリクラウンエーテルを貫通していないフェニレン基のプロトン),7.27 (d,J = 7.8Hz,1.72H,ポリクラウンエーテルを貫通したフェニレン基のプロトン),7.15 (d,J = 7.8Hz,1.72H,ポリクラウンエーテルを貫通したフェニレン基のプロトン),6.96-6.78 (m,6H,クラウンエーテル上の芳香族プロトン),5.00 (s,4H,ポリクラウンエーテルのベンジルプロトン),4.78-4.70 (m,3.44H,ポリクラウンエーテルを貫通したN-ベンジル位のプロトン),4.66 (s,0.28H,ポリクラウンエーテルを貫通していないN-ベンジル位のプロトン),4.58 (s,0.28H,ポリクラウンエーテルを貫通していないN-ベンジル位のプロトン),4.50 (s,1.72H,ポリクラウンエーテルを貫通したo-ベンジル位のプロトン),4.43 (s,0.28H,ポリクラウンエーテルを貫通したo-ベンジル位のプロトン),4.15 (br,8H,クラウンエーテルのアルファ位のメチレンプロトン),3.85 (m,8H,クラウンエーテルのベータ位のメチレンプロトン),3.66 (br,8H,クラウンエーテルのガンマ位のメチレンプロトン),2.38 (br,4H,カルボニル基に隣接するメチレンのプロトン),1.65 (s,1.26H,ポリクラウンエーテルのカルボニル基が隣接していないメチレン基のプロトン),1.38 (s,4.5H,ポリクラウンエーテルを貫通していないt-ブチル基のプロトン),1.26 (s,7.74H,ポリクラウンエーテルを貫通していないt-ブチル基のプロトン) ppm.
【0042】
(実施例4)
上記式(IV)で表されるポリクラウンエーテル0.309g(0.500mmol)及び上記式(XI)で表されるアンモニウム塩0.171g(0.500mmol)をニトロメタン1.0mLに溶解し、さらに4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート(東京化成工業(株)製)75.0mg(0.500mmol)及びジラウリン酸ジブチルすず15μLを溶かして、室温で静置したところ4時間でゲル化し、架橋体を得た。その後、室温で一晩放置し、黄色のゲルを定量的に得た。反応式を以下に示す。
【化15】

【0043】
(実施例5)
実施例4で得たゲルをN,N-ジメチルホルムアミドに完全に浸し、膨潤させながら一晩放置したところ、脱架橋が進行しゾルを得た。
【0044】
(実施例6)
実施例4で得たゲルをアセトンに膨潤させ、ここにトリエチルアミン1mLを加えて室温で放置すると,トリエチルアミンと接する表層から徐々にゲルが崩壊し、ゾルとなった。また、この状態で60℃に加熱すると、ゲルの脱架橋が加速し、4時間でゲル全体が完全に分解されゾルとなった。
【0045】
(実施例7)
実施例6で得たゾルをメタノールで再沈殿し、上記式(IV)で表されるポリクラウンエーテル0.303g(98%)を回収した。
1H NMR(400MHz,298K,重クロロホルム)δ 6.89-6.81 (m,6H,芳香族のプロトン),5.00 (s,ベンジル位のプロトン),4.14 (s,8H,クラウンエーテル部分のアルファ位のメチレン基のプロトン),3.90 (s,8H,クラウンエーテル部分のベータ位のメチレン基のプロトン),3.81 (s,8H,クラウンエーテル部分のガンマ位のメチレン基のプロトン),2.33 (s,4H,カルボニル基が隣接したメチレン基のプロトン),1.65 (s,4H,カルボニル基が隣接しないメチレン基のプロトン) ppm.
【0046】
(実施例8)
上記式(VIII)で表されるポリクラウンエーテル1.41g(0.750mmol)と上記式(X)で表されるアンモニウム塩0.321g(0.75mmol)をジクロロメタン3.0mLとニトロメタン4.5mLとの混合溶媒に溶解し、得られた溶液をテフロンシャーレ上に浸して一晩静置した。このとき、アルミホイルで完全にシャーレを密閉し、溶媒の蒸発を最小限に抑えた。4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI,東京化成工業(株)製)0.188g(0.75mmol、2.0当量)及びジラウリン酸ジブチルすず(DBTDL)75μLを反応液に加え、シャーレをよく振って攪拌し、これを同様にアルミホイルで密閉し静置した。1時間ごとに観察し、4時間後にゲル化を確認したが、そのまま一晩放置した。得られたゲルをクロロホルム、次いでメタノールに膨潤させ、余剰の反応剤を除去した。真空下60℃で乾燥し、フィルム状の架橋体1.88g(97%)を得た。反応式を以下に示す。
【化16】

【0047】
(実施例9)
実施例8と同様な手法で、上記式(VIII)で表されるポリクラウンエーテルと上記式(X)で表されるアンモニウム塩とから、黄色フィルム状のポリロタキサンネットワークを得た。
(実施例10)
実施例8と同様な手法で、上記式(VIII)で表されるポリクラウンエーテルと上記式(XI)で表されるアンモニウム塩とから、黄色フィルム状のポリロタキサンネットワークを得た。
(実施例11)
実施例8と同様な手法で、上記式(VI)で表されるポリクラウンエーテルと上記式(IX)で表されるアンモニウム塩とから、黄色フィルム状のポリロタキサンネットワークを得た。
(実施例12)
実施例8と同様な手法で、上記式(VI)で表されるポリクラウンエーテルと上記式(X)で表されるアンモニウム塩とから、黄色フィルム状のポリロタキサンネットワークを得た。
(実施例13)
実施例8と同様な手法で、上記式(VI)で表されるポリクラウンエーテルと上記式(XI)で表されるアンモニウム塩とから、黄色フィルム状のポリロタキサンネットワークを得た。
【0048】
次に、ポリロタキサンネットワークを製造する過程で生成したゲル(実施例8参照)を20mg程度の小片として切り取り、乾燥させた後、これを精確に秤量した。その後、ゲルを5mLサンプル管に満たされた溶媒中に完全に浸漬し、3日間室温で静置した。デカンテーションにより余剰の溶媒を取り除き、ゲルの重量変化を測定した。なお、重量膨潤度は、下記の式から算出される。結果を表1に示す。
重量膨潤度(%)=(膨潤後のゲルの重量)/(乾燥状態のゲルの重量)× 100
【0049】
【表1】

【符号の説明】
【0050】
1 軸
2 輪
3 エンドキャップ
4 擬ロタキサン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状構造を複数有するポリマーに、下記式(I):
(R1−R2−N+2−R3−X)・Y- ・・・ (I)
(式中、R1は最安定配座で上記ポリマー中の環状構造の空洞部よりも嵩高い基であり、R2及びR3はそれぞれ独立して二価の炭化水素基、二価の芳香族基又はそれらを複合してなる原子団であって、ヘテロ原子を含んでもよく、Xは水酸基、一級アンモニウム塩又はカルボキシル基であり、Y-は一価の陰イオンである)で表されるアンモニウム塩を該アンモニウム塩のX側から貫通させることを特徴とするポリ擬ロタキサンの製造方法。
【請求項2】
前記ポリマーが、下記式(II):
【化1】

(式中、Zは連結部位である)で表されるクラウンエーテル単位を有するポリクラウンエーテルであることを特徴とする請求項1に記載のポリ擬ロタキサンの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法によって得たポリ擬ロタキサンのXを、下記式(III):
OCN−R4−NCO ・・・ (III)
(式中、R4は二価の基である)で表される架橋剤で連結し、ポリロタキサンを合成することを特徴とする架橋体の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法によって得た架橋体の架橋鎖を除去することを特徴とするポリマーの回収方法。
【請求項5】
請求項3に記載の方法によって得た架橋体をドナー数が20以上である極性溶媒に膨潤させ、脱架橋することを特徴とするポリマーの回収方法。
【請求項6】
請求項3に記載の方法によって得た架橋体を塩基性条件下で溶媒に膨潤させ、中和反応により脱架橋することを特徴とするポリマーの回収方法。
【請求項7】
前記架橋体を脱架橋した後に得られるゾルを貧溶媒中で再沈殿することを特徴とする請求項5又は6に記載のポリマーの回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−209301(P2010−209301A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60235(P2009−60235)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.平成20年10月9日合成樹脂工業協会発行の第58回ネットワークポリマー講演討論会・講演要旨集
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】