説明

ポリ(アリーレンエーテル)/ポリアミド組成物および製造方法

ポリ(アリーレンエーテル)とポリアミドとクエン酸の合計質量に対して、75〜94.5質量%のポリ(アリーレンエーテル)と、5〜24.5質量%のポリアミドと、0.5〜2.5質量%のクエン酸と、の反応生成物を含むマスタバッチがここに開示される。該マスタバッチの製造および使用方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は熱可塑性組成物の製造方法に関し、特にポリ(アリーレンエーテル)/ポリアミド組成物の製造方法に関する。
【0002】
ポリ(アリーレンエーテル)/ポリアミド組成物は、自動車車体部品などの種々の用途に広く使用されている。世界経済における輸送費の上昇と共に、ポリ(アリーレンエーテル)/ポリアミド組成物の新規な製造法を見出すことが益々重要になってきている。これらの新規な製造法では、使用場所に近い所で、その場所で入手可能な設備を用いて該組成物を製造することが可能になるであろう。しかしながら、新規製造法でも、従来の方法で製造される材料と同様の(あるいは匹敵する)物性プロフィールを実現する組成物をもたらさなければならない。
【発明の開示】
【0003】
上記の要求は、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)と、5〜30質量部のポリアミドと、0.5〜5質量部のクエン酸と、の反応生成物を含むマスタバッチによって満たされる。組成物の全質量に対して、45質量%のポリ(アリーレンエーテル)と、45質量%のポリアミドと、10質量%のポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレンと、で配合されたマスタバッチは、国際照明委員会(CIE)LD65で求めたCIE L値が40〜70の組成物をもたらす。
【0004】
また、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)と、5〜30質量部のポリアミドと、0.5〜5質量部のクエン酸と、を含む混合物を溶融混合するステップを備えるマスタバッチの製造方法も開示される。
【0005】
また、第1のポリアミドをマスタバッチと溶融混合するステップであって、前記マスタバッチと第1のポリアミドとの質量比が1:1.1〜1:2.7であり、前記マスタバッチは、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)と、5〜30質量部の第2のポリアミドと、0.5〜5質量部のクエン酸と、の反応生成物を含むことを特徴とするステップを備える方法で製造された組成物も開示される。
【0006】
また、第1のポリアミドと導電性充填材をマスタバッチと溶融混合するステップであって、前記マスタバッチと第1のポリアミドとの質量比が1:1.1〜1:2.7であり、前記マスタバッチは、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)と、0〜30質量部の第2のポリアミドと、0.5〜5質量部のクエン酸と、の反応生成物を含むことを特徴とするステップを備える方法で製造された組成物も開示される。
【0007】
また、第1のポリアミドとガラス繊維をマスタバッチと溶融混合するステップであって、前記マスタバッチと第1のポリアミドとの質量比が1:1.1〜1:2.7であり、前記マスタバッチは、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)と、0〜30質量部の第2のポリアミドと、1〜5質量部のクエン酸と、の反応生成物であることを特徴とするステップを備える方法で製造された組成物も開示される。
【0008】
また、第1のポリアミドと選択的に導電性充填材またはガラス繊維をマスタバッチと溶融混合するステップであって、前記マスタバッチと第1のポリアミドとの質量比が1:1.1〜1:2.7であり、前記マスタバッチは、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)と、5〜30質量部の第2のポリアミドと、0.5〜5質量部のクエン酸と、の反応生成物を含むことを特徴とするステップを備える組成物の製造方法も開示される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例のデータをグラフ化したものである。
【図2】実施例のデータをグラフ化したものである。
【図3】実施例のデータをグラフ化したものである。
【図4】実施例のデータをグラフ化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
米国特許公報第2005/0228077号には、ポリ(アリーレンエーテル)−ポリアミド組成物の製造方法が開示されている。該方法は、ポリ(アリーレンエーテル)と、相溶化剤と、ポリアミドと、添加剤と、の溶融混合による濃縮物の製造方法に関係する。該濃縮物はさらに耐衝撃性改良剤を含んでいてもよく、あるいは該耐衝撃性改良剤を最終組成物製造時に濃縮物に添加してもよい。最終組成物は、該濃縮物とポリアミドであり得る追加の熱可塑性物との溶融混合によって製造される。前記特許公報第2005/0228077号では、相溶化剤の量については開示されておらず、あるいは濃縮物を用いない方法で製造された組成物と比較した該最終組成物の物性については示唆されていない。また、同第2005/0228077号では、群としてのポリ(アリーレンエーテル)/ポリアミド類に対して異なる相溶化剤が開示されており、従って、それらの互換性と等価性が暗示されている。
【0011】
ポリ(アリーレンエーテル)を含む多くの熱可塑性物が、該熱可塑性物に対する典型的な溶融混合温度に近いまたはそれを超える高温に曝されたときに分解することは周知である。そのような温度への曝露はそれぞれ熱履歴として周知である。また、該相溶化剤は、ポリ(アリーレンエーテル)およびポリアミドと化学的に反応して、多相組成物の形態を安定化する共重合体を形成すると考えられている。相溶化ポリ(アリーレンエーテル)−ポリアミドブレンドの形態は、さらなる熱履歴時に分散相粒子の合体を呈し得るために、該共重合体は分解し易いと考えられる理由があるが、しかし、多数の熱履歴を受けた時の共重合体の安定性については未知である。
【0012】
米国特許公報第2005/0228077号に記載の方法に加えて、相溶化剤とポリ(アリーレンエーテル)との溶融混合によって官能化ポリ(アリーレンエーテル)を製造することも既知である。該官能化ポリ(アリーレンエーテル)をペレット化し、後にポリアミドおよび他の所望の成分と溶融混合して最終組成物を製造することもできる。
【0013】
前述のことを考慮すると、クエン酸とポリアミドを用いて作られたマスタバッチによる組成物が、従来のワンパス法により製造された組成物と比較可能な物性を有することは驚くべきことである。ポリ(アリーレンエーテル)の末端水酸基およびポリアミドの末端アミン基のクエン酸との反応によって、ポリ(アリーレンエーテル)とポリアミドとの相溶化が起こると長い間考えられてきた。従来のプロセスでは、通常、ポリ(アリーレンエーテル)をクエン酸と最初に反応させて官能化し、次に該官能化ポリ(アリーレンエーテル)をポリアミドに分散させて分散相を形成する。官能化ポリ(アリーレンエーテル)の反応性部分がポリアミドと反応して混合および分散プロセスが終了し、安定的な所望の形態が得られる。ポリアミドはポリ(アリーレンエーテル)の官能化を妨害すると予想されるので、反応物の添加順序が重要であると一般的には考えられる。従って、従来のワンパス法により製造された組成物と比較可能な物性を得るためには、マスタバッチ中にはポリアミドが必要であるという事実は予想外のことである。実際、一部の実施形態では、マスタバッチ中により多くのポリアミドが存在することにより、ノッチ付アイゾッドなどの良好な物性(同量のクエン酸を用いた場合の比較)を有する組成物が得られた。従って、ポリ(アリーレンエーテル)と、ポリアミドと、クエン酸と、から作られたマスタバッチによる組成物の物性が、別のプロセスで作られた官能化ポリ(アリーレンエーテル)による組成物の物性を凌駕することは驚くべきことである。官能化ポリ(アリーレンエーテル)を用いて作られた組成物では、従来のワンパス法により製造された組成物の物性は得られない。
【0014】
また、従来のワンパス法では、相反転が生じることに注目する。従来の溶融混合における初期段階では、ポリ(アリーレンエーテル)は連続相だが、ポリアミドの添加後に相反転が起こりポリアミドが連続相となる。混合相組成物中の相反転は、一連の変数に依存する予測不可能な現象である。このように、マスタバッチ中のポリアミドの存在によって、組成物全体の相反転がどのように影響を受けるかについては知られていなかったが、その存在によって、相反転の発生を防ぐことはなかった。
【0015】
最後に、クエン酸を用いて作られたマスタバッチによる組成物が、無水マレイン酸を用いて作られたマスタバッチによる組成物より良好な物性を示したことは驚くべきことである。クエン酸と無水マレイン酸は、最終組成物における等価な物性を有する相溶化剤であり、概して互いに置換可能であると一般的に考えられてきた。
【0016】
導電性の充填材と強化材(ガラス繊維を含む)を含まない組成物は、第1のポリアミドをマスタバッチと溶融混合するステップであって、前記マスタバッチと第1のポリマミドとの質量比が1:1.1〜1:2.7であり、前記マスタバッチは、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)と、5〜30質量部の第2のポリアミドと、0.5〜5質量部のクエン酸と、の反応生成物を含むことを特徴とするステップを備える方法で製造される。これらの組成物のノッチ付アイゾッド値は、温度23℃において10〜35kJ/mであり得る。この範囲において、ノッチ付アイゾッドは15kJ/m以上であり、より具体的には20kJ/m以上であり得る。一部の実施形態では、該組成物のノッチ付アイゾッドは温度−30℃において8〜28kJ/mであり得る。この範囲において、ノッチ付アイゾッドは10kJ/m以上であり得、より具体的には15kJ/m以上であり得る。ノッチ付アイゾッドは実施例で述べる方法で求められる。
【0017】
実施例に示すように、またそれ以降で再度議論するように、クエン酸で作られたマスタバッチが、無水マレイン酸で調製されたマスタバッチによる組成物より、高衝撃強度など良好な物性を有する最終組成物をもたらすこと予想外に見出された。過去のいくつかの研究では、無水マレイン酸は、ポリ(アリーレンエーテル)/ポリアミドブレンドに対する等価な、あるいは一部の例ではより優れた相溶化剤であることが示唆されてきたために、これは非常に驚くべきことである。また、クエン酸マスタバッチを用いることによって、射出成形複合部品あるいは大型部品にとって重要な物性である溶融流れが良好な組成物がもたらされる。溶融流れの上昇は、多数の熱履歴によるポリマー分解と関係することが多く、衝撃強度などの物性低下を伴うことから、この良好な(高い)溶融流れが良好な物性、特に衝撃強度と共に実現されることも驚きである。また以下の実施例で示されるように、マスタバッチ中のポリアミドの存在は、最終組成物の物性プロフィールにとって重要であり、多数の熱履歴で、ポリアミドは分解しポリ(アリーレンエーテル)/ポリアミドの形態も分解(合体)すると予想されるために、マスタバッチ中のポリアミドの存在が重要であるとの発見は非常に驚くべきものである。最後に、無水マレイン酸マスタバッチを用いて作られた組成物の色は、クエン酸マスタバッチを用いて作られた組成物よりはるかに黒ずんでおり、分解生成物の可能性を示唆していることは非常に驚くべきことである。
【0018】
導電性充填材を含む組成物は、第1のポリアミドと導電性充填材をマスタバッチと溶融混合するステップであって、前記マスタバッチと第1のポリアミドとの質量比は1:1.1〜1:2.7であり、前記マスタバッチは、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)と、0〜30質量部の第2のポリアミドと、0.5〜5質量部のクエン酸と、の反応生成物を含むことを特徴とするステップを備える方法で製造される。一部の実施形態では、前記第2のポリアミドの量は、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)に対して5〜30質量部である。これらの組成物のノッチ付アイゾッド値は、温度23℃で5〜25kJ/mであり得る。この範囲において、ノッチ付アイゾッドは6kJ/m以上であり得、より具体的には9kJ/m以上であり得る。一部の実施形態では、該組成物のノッチ付アイゾッドは温度−30℃において5〜25kJ/mであり得る。この範囲において、ノッチ付アイゾッドは6kJ/m以上であり得、より具体的には8kJ/m以上であり得る。ノッチ付アイゾッドは実施例で説明する方法で求められる。該組成物のDynatup(落錘)衝撃強度は温度23℃において6〜50Jであってもよい。該組成物のDynatup(落錘)衝撃強度は温度−30℃において3〜45Jであってもよい。Dynatup衝撃強度は実施例で説明する方法で求められる。
【0019】
ガラス繊維を含む組成物は、第1のポリアミドとガラス繊維をマスタバッチと溶融混合するステップであって、前記マスタバッチと第1のポリアミドとの質量比は1:1.1〜1:2.7であり、前記マスタバッチは、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)と、5〜30質量部の第2のポリアミドと、0.5〜5質量部のクエン酸と、の反応生成物を含むことを特徴とするステップを備える方法で製造される。これらの組成物のノッチ付アイゾッド値は温度23℃で7〜12kJ/mである。この範囲において、ノッチ付アイゾッドは8kJ/m以上であり得、より具体的には9kJ/m以上であり得る。ノッチ付アイゾッドは実施例で説明する方法で求められる。該組成物のDynatup(落錘)衝撃強度は温度23℃において4〜7Jであってもよい。Dynatup衝撃強度は実施例で説明する方法で求められる。
【0020】
ポリ(アリーレンエーテル)は式(I)の繰り返し構造単位を含む。
【化1】

式中、各構造単位に対して、Zはそれぞれ独立に、ハロゲン、ヒドロカルビル基が第三級ヒドロカルビルではない未置換または置換C−C12ヒドロカルビル、C−C12ヒドロカルビルチオ、C−C12ヒドロカルビルオキシ、または少なくとも2つの炭素原子がハロゲンと酸素原子とを分離しているC−C12ハロヒドロカルビルオキシであり、Zはそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロカルビル基が第三級ヒドロカルビルではない未置換または置換C−C12ヒドロカルビル、C−C12ヒドロカルビルチオ、C−C12ヒドロカルビルオキシ、または少なくとも2つの炭素原子がハロゲンと酸素原子とを分離しているC−C12ハロヒドロカルビルオキシである。
【0021】
本明細書では、用語「ヒドロカルビル」は、単独で用いられていても、他の用語の接頭辞、接尾辞あるいはその一部として用いられていても、炭素と水素だけを含む残基を指す。該残基は、脂肪族あるいは芳香族、直鎖、環式、二環式、分枝鎖、飽和あるいは不飽和であり得る。それにはまた、脂肪族、芳香族、直鎖、環式、二環式、分枝鎖、飽和および不飽和の炭化水素部分の組み合わせが含まれ得る。しかしながら、該ヒドロカルビル残基が置換として記載された場合には、置換された残基の炭素員および水素員上にヘテロ原子を含み得る。このように、置換と特定的に記載された場合、該ヒドロカルビル残基は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、カルボニル基、カルボン酸基、エステル基、アミノ基、アミド基、スルホニル基、スルホキシル基、スルホンアミド基、スルファモイル基、水酸基、アルコキシ基などを含み得、またヒドロカルビル残基骨格内にヘテロ原子を含み得る。
【0022】
該ポリ(アリーレンエーテル)は、水酸基に対して典型的にオルト位置に存在するアミノアルキル含有末端基を有する分子を含み得る。また、テトラメチルジフェニルキノン(TMDQ)副生成物が存在する反応混合物から典型的に得られるテトラメチルジフェニルキノン末端基も存在することが多い。
【0023】
前記ポリ(アリーレンエーテル)は、ホモポリマー、共重合体、グラフト共重合体、イオノマー、ブロック共重合体、あるいはこれらのポリマー類の複数を含む組み合わせの形態であり得る。ポリ(アリーレンエーテル)は、2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル単位と、選択的に2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエーテル単位と、を含むポリフェニレンエーテルを含む。
【0024】
前記ポリ(アリーレンエーテル)は、2,6−キシレノールおよびまたは2,3,6−トリメチルフェノールなどのモノヒドロキシ芳香族化合物の酸化カップリングによって調製できる。そうしたカップリングには一般に触媒系が採用され、該触媒系には、銅、マンガンあるいはコバルト化合物などの重金属化合物と、通常、第2級アミン、第3級アミン、ハロゲン化物あるいはこれらの2つ以上の組み合わせなどの種々の他の材料と、が含まれる。
【0025】
前記ポリ(アリーレンエーテル)の数平均分子量は、単分散ポリスチレン標準と、温度40℃のスチレンジビニルベンゼンゲルと、クロロホルム濃度が1mg/mLのサンプルと、を用いたゲル透過クロマトグラフで測定して、3,000〜40,000g/molであり、質量平均分子量は、同じ方法で測定して5,000〜80,000g/molであり得る。該ポリ(アリーレンエーテル)またはポリ(アリーレンエーテル)類の組み合わせの初期固有粘度は、温度25℃のクロロホルム中で測定して0.1〜0.60dl/gである。初期固有粘度は、該組成物の他の成分との溶融混合前のポリ(アリーレンエーテル)の固有粘度として定義され、最終固有粘度は、他の成分との溶融混合後の固有粘度として定義される。当業者には理解されるように、ポリ(アリーレンエーテル)の粘度は、溶融混合後には30%まで上昇していてもよい。上昇比率は、(最終固有粘度−初期固有粘度)/初期固有粘度で求められる。2つの初期固有粘度を用いる場合の正確な比率の決定は、使用されるポリ(アリーレンエーテル)の正確な固有粘度と所望の最終物性とにある程度依存する。
【0026】
一部の組成物に対しては、マスタバッチの一部であるポリ(アリーレンエーテル)に加えて、さらにポリ(アリーレンエーテル)を添加することが望ましいと考えられる。マスタバッチの製造後に添加されるポリ(アリーレンエーテル)は、マスタバッチに使用されるポリ(アリーレンエーテル)と同じであっても違っていてもよい。ここでの「同じまたは違う」とは、固有粘度、化学構造あるいはその両方の類似性または差異についてである。
【0027】
ナイロンとして知られるポリアミド類はアミド基(−C(O)NH−)の存在によって特徴付けられ、米国特許第4,970,272号に記載されている。典型的なポリアミド類には、これに限定されないが、ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−4、ナイロン−4,6、ナイロン−12、ナイロン−6,10、ナイロン6,9、ナイロン−6,12、アモルファスポリアミド樹脂、ナイロン9T、トリアミン濃度が0.5質量%未満のナイロン6/6Tおよびナイロン6,6/6T、およびこれらのポリアミ類の少なくとも1つを含む組み合わせが含まれる。ある実施形態では、該ポリアミドはナイロン6とナイロン6,6を含む。
【0028】
ポリアミド樹脂は、米国特許第2,071,250号、同第2,071,251号、同第2,130,523号、同第2,130,948号、同第2,241,322号、同第2,312,966号および同第2,512,606号に記載されたものなどの多くの周知のプロセスで得られる。ポリアミド樹脂は広範な供給元から市販されている。
【0029】
ISO307に準拠して、96質量%の硫酸中の0.5質量%の溶液中で測定した固有粘度が400mL/gまでのポリアミド樹脂が使用でき、より具体的には固有粘度が90ml/g〜350ml/gまでのポリアミド樹脂が使用でき、さらにより具体的には固有粘度が110ml/g〜240ml/gまでのポリアミド樹脂が使用できる。
【0030】
前記ポリアミドのマスタバッチ中の量は、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)に対して0〜30質量部である。この範囲において、ポリアミドの量は5質量部以上であってもよく、より具体的には10質量部以上であってもよい。またこの範囲において、ポリアミドの量は25質量部以下にでき、より具体的には20質量部以下にでき、さらにより具体的には15質量部以下にできる。
【0031】
全組成物中のポリアミド量は、その全質量に対して30〜50質量%である。この範囲において、ポリアミドの量は32質量%以上であってもよく、より具体的には35質量%以上であってもよい。またこの範囲において、ポリアミドの量は48質量%以下であってもよく、より具体的には45質量%以下であってもよい。
【0032】
マスタバッチ製造後に添加されるポリアミドは、マスタバッチに使用されるポリアミドとおなじであっても違っていてもよい。ここでの「同じまたは違う」とは、固有粘度、化学構造あるいはその両方の類似性または差異についてである。
【0033】
マスタバッチ中のクエン酸量は、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)に対して0.5〜5.0質量部である。この範囲において、クエン酸量は1.0質量部以上であってもよい。またこの範囲において、クエン酸量は2.5質量部以下であってもよい。
【0034】
一部の実施形態では、組成物の全質量に対して、45質量%のポリ(アリーレンエーテル)と、45質量%のポリアミドと、10質量%のポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレンと、で配合されたマスタバッチは、CIE LD65で求めたCIE L値が40〜70の組成物をもたらす。
【0035】
前記マスタバッチは、前記ポリ(アリーレンエーテル)と、相溶化剤と、下記の添加剤などの任意の他の選択的成分と、を押出機に加え、溶融混合して第1の混合物を形成し、次に該第1の混合物を前記ポリアミドと溶融混合することにより製造される。該マスタバッチは、水中ペレット化などの従来法を用いてペレット化される。
【0036】
前記組成物は、前記マスタバッチと追加のポリアミドおよび選択的に追加されるポリ(アリーレンエーテル)との溶融混合により製造される。該追加のポリアミドは、マスタバッチに使用したポリアミドと化学的に違っていても同じであってもよい。化学的な差異には、これに限定されないが、繰り返し単位、分子量(質量平均およびまたは数平均)、固有粘度、アミン末端基含量および相対粘度における差異が含まれる。前記追加のポリアミドは、1回の添加でマスタバッチと溶融混合でき、あるいは2回に分けて溶融混合することもできる。一部の実施形態では、該マスタバッチを溶融混合条件におき、次にポリアミドをマスタバッチに添加する。該組成物はさらに、耐衝撃性改良剤、難燃剤、強化材、導電性充填材、酸化防止剤および安定剤などの追加の成分を含んでいてもよい。該強化材を追加マスタバッチの一部として添加してもよい。同様に、該導電性充填材を追加マスタバッチの一部として添加してもよい。強化材および導電性充填材を含む組成物では、強化材を含むマスタバッチと導電性充填材を含むマスタバッチの2つのマスタバッチであってもよく、あるいはその両方を含む単一のマスタバッチであってもよい。単一の添加プロセスまたは複数の添加プロセスを用いて、前記追加成分をマスタバッチおよびポリアミドと溶融混合してもよい。ブレンドを製造する際の成分の添加順序は、ポリ(アリーレンエーテル)とクエン酸を標準的にマスタバッチに添加する周知の方法の内、任意のものをまねることができる。マスタバッチを使用することにより、ポリ(アリーレンエーテル)パウダの取り扱い能力が必要なくなり、シングルパス法を用いて同じ成分から製造された組成物に匹敵する、ノッチ付アイゾッドなどの物性を有する組成物が得られる。
【0037】
上記のように、前記組成物は耐衝撃性改良剤をさらに含んでいてもよく、それには、室温で弾性体である天然ポリマー物質および合成ポリマー物質が含まれる。耐衝撃性改良剤は、アルケニル芳香族繰り返し単位を含むブロック共重合体であり得、例えば、通常はスチレンブロックである1つまたは2つのアルケニル芳香族ブロックA(アルケニル芳香族繰り返し単位を有するブロック)と、通常はイソプレンまたはブタジエンブロックであるゴムブロックBと、を有するA−Bジブロック共重合体およびA−B−Aトリブロック共重合体であり得る。該ブタジエンブロックは、部分的にあるいは完全に水素化されていてもよい。また、これらのジブロックおよびトリブロック共重合体の混合物を、非水素化共重合体、部分水素化共重合体、完全水素化共重合体およびこれらの複数の組み合わせと同様に使用してもよい。
【0038】
A−BおよびA−B−A共重合体には、これに限定されないが、ポリスチレン−ポリブタジエン、ポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)、ポリスチレン−ポリイソプレン、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリブタジエン、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン(SBS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)−ポリスチレン、ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレン、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリブタジエン−ポリ(α−メチルスチレン)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン−スチレン)−ポリスチレンなどが含まれる。上記ブロック共重合体類の混合物も有用である。こうしたA−BおよびA−B−Aブロック共重合体は、SOLPRENEの商標名で販売しているPhillips Petroleum社や、KRATONの商標名で販売しているKraton Polymers社、VECTORの商標名で販売しているDexco社、TUFTECの商標名で販売している旭化成株式会社、FINAPRENEおよびFINACLEARの商標名で販売している社Total Petrochemicals社およびSEPTONの商標名で販売している株式会社クラレなどの多くの供給元から市販されている。
【0039】
ある実施形態では、前記耐衝撃性改良剤は、ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレン、ポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)またはこれらの組み合わせを含む。
【0040】
別のタイプの耐衝撃性改良剤は、本質的にアルケニル芳香族繰り返し単位を含まず、カルボン酸、無水物、エポキシ、オキサゾリンおよびオルトエステルから構成される群から選択される1つまたは複数の部分を含む。本質的に含まないとは、ブロック共重合体の全質量に対して、アルケニル芳香族単位の量が5質量%未満であり、より具体的には3質量%未満であり、さらにより具体的には2質量%未満である、と定義する。前記耐衝撃性改良剤がカルボン酸部分を含む場合、該カルボン酸部分を亜鉛またはナトリウムなどの金属イオンなどのイオンで中和してもよい。耐衝撃性改良剤はアルキレン−アルキル(メタ)アクリレート共重合体であってもよく、該アルキレン基は2〜6個の炭素原子を有し、該アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基は1〜8個の炭素原子を有していてもよい。このタイプのポリマーは、例えばエチレンやプロピレンなどのオレフィンと、種々の(メタ)アクリレートモノマー類およびまたは種々のマレイン系モノマー類と、の共重合により調製できる。用語(メタ)アクリレートは、アクリレートと対応するメタクリレート類似物の両方を指す。用語(メタ)アクリレートモノマーには、アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、前述の反応性部分の少なくとも1つを含む種々の(メタ)アクリレートモノマーと、が含まれる。
【0041】
ある実施形態では、前記共重合体は、アルキレン成分としてのエチレン、プロピレンまたはこれらの混合物と、前記追加の反応性部分(すなわち、カルボン酸、無水物、エポキシ)を供給するモノマーとしてのアクリル酸、無水マレイン酸、メタクリル酸グリシジルあるいはこれらの組み合わせを有するアルキル(メタ)アルリレートモノマー成分のための、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレートまたはプロピルアクリレートおよび対応するアルキル(メタ)アクリレート類と、から誘導される。
【0042】
典型的な第1の耐衝撃性改良剤は、すべてDuPont社から販売されているELVALOY PTW、SURLYNおよびFUSABONDを含む種々の供給元から販売されている。
【0043】
上記耐衝撃性改良剤は、単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。
【0044】
前記組成物は、1〜15質量%の耐衝撃性改良剤あるいは耐衝撃性改良剤類の組み合わせを含んでいてもよい。この範囲において、耐衝撃性改良剤の量は1.5質量%以上であってもよく、より具体的には2質量%以上であってもよく、さらにより具体的には4質量%以上であってもよい。またこの範囲において、耐衝撃性改良剤の量は13質量%以下であってもよく、より具体的には12質量%以下であってもよく、さらにより具体的には10質量%以下であってもよい。質量%は該熱可塑性組成物の全質量に対するものである。
【0045】
前記組成物は強化材を含んでいてもよい。強化材には、鉱物充填材、非鉱物充填材あるいはこれらの組み合わせが含まれる。鉱物充填材の限定しない例としては、溶融シリカ、結晶シリカ、天然ケイ砂および種々のシラン被覆シリカ類などのシリカ粉末;窒化ホウ素粉末およびホウケイ酸塩粉末;アルミナおよび酸化マグネシウム(またはマグネシア);表面処理珪灰石を含む珪灰石;硫酸カルシウム(例えばその二水和物または三水和物として);チョーク、石灰石、大理石および合成沈降炭酸カルシウムを含む、通常は、98%以上の炭酸カルシウムと、残りは炭酸マグネシウム、酸化鉄およびアルミノケイ酸塩などの他の無機物を含むことが多い粉砕粒子の形態の炭酸カルシウム;表面処理炭酸カルシウム;繊維状、モジュール状、針状および層状タルクを含むタルク;硬質、軟質、焼成カオリンおよびポリマー分散性および相溶性を高めるための当分野で既知の種々のコーティングを含むカオリン;金属化雲母および配合ブレンドに良好な特性を付与するために、アミノシランやアクリロイルシランコーテンィングで表面処理された雲母を含む雲母;長石および霞石閃長岩;ケイ酸塩球体;煙塵;セノスフェア;フィライト;シラン化および金属化アルミノシリケートを含むアルミノシリケート(アルモスフェア);石英;ケイ岩;パーライト;トリポリ石;珪藻土;炭化ケイ素;硫化モリブデン;硫化亜鉛;珪酸アルミニウム(ムライト);合成ケイ酸カルシウム;ケイ酸ジルコニウム;チタン酸バリウム;バリウムフェライト;硫酸バリウムおよび重晶石;粒子状または繊維状のアルミニウム、ブロンズ、亜鉛、銅およびニッケル;ガラスフレーク、フレーク化炭化ケイ素、二ホウ化アルミニウム、アルミニウムフレークおよび鋼フレークなどのフレーク化充填材および補強材;珪酸アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムおよび硫酸カルシウム半水化物の内の少なくとも1つを含むブレンドから誘導されるものなどの処理された鉱物繊維;およびE、A、C、ECR、R、S、DおよびNEガラスなどの織物用ガラス繊維を含むガラス繊維などが挙げられる。
【0046】
典型的な鉱物充填材には、平均粒径が5mm以下でアスペクト比が3以上の無機充填材が含まれる。このような鉱物充填材には、タルク、カオリナイト、雲母(例えば絹雲母、白雲母および金雲母など)、緑泥石、モンモリロナイト、スメクタイトおよびハロイサイトなどが含まれる。
【0047】
非鉱物充填材の限定しない例としては、天然繊維;ポリエチレンテレフフタレート繊維、ポリビニルアルコール繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、ポリイミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維などのポリエステル繊維を含む合成強化繊維などが挙げられる。
【0048】
前記組成物中の強化材の量は、その全質量に対して約5〜約50質量%とすることができる。この範囲において、強化材の量は約45質量%以下とすることができ、より具体的には約40質量%以下とすることができ、さらにより具体的には約35質量%以下とすることができる。またこの範囲において、強化材の量は約10質量%以上とすることができ、より具体的には約15質量%以上とすることができ、さらにより具体的には、特に約20質量%以上とすることができる。
【0049】
前記組成物は導電性充填材を含んでいてもよい。該導電性充填材は、成形された組成物の導電性を高める任意の充填材であってもよい。好適な導電性充填材は、繊維状であっても、円盤状であっても、球状であっても、あるいは非晶質であってもよく、例えば、導電性カーボンブラック;ミルドファイバを含む導電性炭素繊維;気相成長炭素繊維およびこれらの種々の混合物を含む。他の使用可能な導電性充填材は、金属皮膜炭素繊維;金属繊維;金属円盤;金属粒子;金属皮膜のタルク、雲母およびカオリンなどの金属皮膜円盤状充填材などを含む。一部の実施形態では、該導電性充填材は、カーボンブラック、炭素繊維およびこれらの混合物を含み、その具体的な例としては、Akzo Chemical社から商標名Ketjen black EC600JDで販売されている材料が挙げられる。一部の実施形態では、カーボンブラックには、平均粒径が200nm未満の導電性カーボンブラックが含まれ、より具体的には100nm未満の導電性カーボンブラックが含まれ、さらにより具体的には50nm未満の導電性カーブンブラックが含まれる。また、導電性カーボンブラックの表面積は200m/g超であってもよく、より具体的には400m/g超であってもよく、さらにより具体的には1000m/g超であってもよい。また、導電性カーボンブラックの(フタル酸ジブチル吸収で測定した)細孔容積は、40cm/100g超であってもよく、より具体的には100cm/100g超であってもよく、さらにより具体的には150cm/100g超であってもよい。また、導電性カーボンブラックの揮発分は2質量%未満であってもよい。有用な炭素繊維には、直径が3.5〜500nmの黒鉛状または部分黒鉛状の気相成長炭素繊維類、より具体的には直径が3.5〜70nmのそれら、さらにより具体的には直径が3.5〜50nmのそれらが含まれる。代表的な炭素繊維は、Hyperion社から販売されているものなどの気相成長炭素繊維や、Carbon Nanotechnologies Incorporated (CNI)社から販売されているものなどの二層および単層ナノチューブである。このタイプの導電性充填材は、例えば、Tibbettsらの米国特許第4,565,684号および同第5,024,818号、Arakawaの米国特許第4,572,813号、Tennentの米国特許第4,663,230号および同第5,165,909号、Komatsuらの米国特許第4,816,289号、Arakawaらの米国特許第4,876,078号、Tennentらの米国特許第5,589,152号およびNahassらの米国特許第5,591,382号などに記載されている。
【0050】
一般に、前記導電性充填材が使用される場合の量は、組成物の全重量に対して0.2質量%〜20質量%であろう。その量は導電性充填材の特性に依存するであろう。例えば、導電性充填材が導電性カーボンブラックの場合、その量は1〜10質量%とすることができ、より具体的には1〜8質量%とすることができ、さらにより具体的には1.4〜7質量%とすることができる。導電性充填材が気相成長炭素繊維の場合、その量は組成物の全質量に対して、0.2〜6質量%とすることができ、より具体的には0.5〜4質量%とすることができる。導電性充填材の量が上記下限値未満の場合には、適切な導電性を付与できないことが多く、上記上限値を上回る場合には、最終ブレンドが脆くなりがちである。
【0051】
また、前記組成物は当分野で既知の添加剤を含んでいてもよい。酸化防止剤、染料、顔料、着色剤、安定剤、難燃剤、液滴抑制剤、結晶核形成剤、金属塩類、帯電防止剤、可塑剤、潤滑剤およびこれらの添加剤の複数を含む組み合わせなどが含まれていてもよい。これらの添加剤の有効量とその配合方法は当分野で既知である。添加剤の有効量は大きく異なるが、通常その量は、組成物の全質量に対して50質量%以下である。これらの添加剤の量は一般に、組成物の全質量に対して0.25質量%〜2質量%である。該有効量は、不要な実験を行うことなく当業者によって決められる。
【0052】
上記のマスタバッチ、該マスタバッチの製造方法および前記組成物の組成と製造方法について、以下の限定しない実施例によってさらに説明する。
実施例
【0053】
表1に示した材料を用いて実施例を製造した。Werner & Pfleiderer53mm二軸押出機を用いてマスタバッチを製造した。該マスタバッチはすべて、ポリ(アリーレンエーテル)100質量部当たりIrganox(登録商標)1010を0.6質量部と、ポリ(アリーレンエーテル)100質量部当たりヨウ化カリウムの30質量%水溶液を0.3質量部と、を含む。ポリ(アリーレンエーテル)、Irganox(登録商標)1010、相溶化剤およびヨウ化カリウムは供給口で添加し、ポリアミドを使用する場合は下流で添加した。押出機のバレル温度は250〜300℃に、ダイ温度は315℃に、スクリュ回転は250rpmに、処理量は200ポンド/h(91kg/h)にそれぞれ設定した。
【0054】
組成物をWerner & Pfleiderer30mm二軸押出機上で製造した。前記マスタバッチは供給口で添加し、ポリアミドは下流で添加した。ガラス充填材または導電性充填材を含む組成物では、これらの材料も下流で添加した。押出機のバレル温度は230〜300℃に、ダイ温度は305℃に、スクリュ回転は340rpmに、処理量は40ポンド/h(18kg/h)にそれぞれ設定した。
【0055】
ポリ(アリーレンエーテル)、相溶化剤、Irganox(登録商標)1010およびヨウ化カリウムは供給口で添加し、ポリアミドは下流で添加して、マスタバッチを用いない比較組成物を製造した。Irganox(登録商標)1010とヨウ化カリウムの量は、すべての実施例において同等とした。
【表1】

【0056】
マスタバッチを、表2〜4に示した成分と量を用いて上記のように製造した。該マスタバッチに、相溶化剤の種類とポリアミド量を基に順番に名前を付けた。組成物間の比較を平易にするために、相溶化剤とポリアミドの量をポリ(アリーレンエーテル)100質量部当たりの質量部で示す。
【表2】

【表3】



【表4】



【0057】
上記のクエン酸マスタバッチを用いて、組成物の全質量に対して、45質量%のポリ(アリーレンエーテル)と、44質量%のポリアミドと、10質量%のSBSと、を含む組成物を製造した。該組成物を成形し、ISO180/Aに準拠した温度23℃および−30℃におけるノッチ付アイゾッド衝撃強度と、ASTM D3763に準拠した温度23℃および−30℃におけるDynatup衝撃強度(落錘)と、ISO1133に準拠した温度280℃、5kg荷重を用いた溶融体積速度(MVR)と、CIE LD65に準拠した色と、を試験した。ノッチ付アイゾッド衝撃強度の結果をkJ/mで示す。Dynatup衝撃強度の結果をJで示す。MVRの結果をg/10minで報告する。表5−A〜5−Eに組成物とその結果を示す。比較実施例は「CE」と記載する。マスタバッチを用いない比較実施例1を上記のように調製した。比較実施例1の製造に用いたクエン酸の量(組成物の製造に用いた成分の全質量に対して0.6質量%)は、ポリ(アリーレンエーテル)100質量部に対するクエン酸量1.33質量部に等しい。ポリ(アリーレンエーテル)と添加剤だけを含むマスタバッチを用いて比較実施例2を製造した。ポリ(アリーレンエーテル)、ポリアミドおよび添加剤だけを含む(相溶化剤は含まず)マスタバッチを用いて比較実施例8〜11を製造した。ポリアミドを含まないマスタバッチを用いて比較実施例3〜7を製造した。組成物の製造にマスタバッチを用いた場合、追加の相溶化剤は使用しなかった。
【表5】





【0058】
表5および図1に示すように、ポリアミドを含むマスタバッチを用いて作られた組成物は驚くことに、ポリアミドを含まないマスタバッチ(同量のクエン酸仕込み量での官能化ポリ(アリーレンエーテル)、比較実施例3〜7)を用いて作られた組成物より良好な(高い)衝撃強度を有していた。例えば、実施例1のノッチ付アイゾッド値は比較実施例3のそれの2倍を超える。さらに、ポリアミドを有するマスタバッチによる組成物のノッチ付アイゾッド衝撃強度を25kJ/m以上とすることができ、これは、同一成分(量および種類において)を用い、二軸スクリュ押出機によるワンパス法で製造された組成物(比較実施例1)のノッチ付アイゾッド衝撃強度と匹敵するかより良好である。また、多くの組成物の溶融体積速度は、比較実施例の1と同じか高い。これらの結果は予想しなかったことである。
【0059】
上記の無水マレイン酸マスタバッチを用いて、組成物の全質量に対して、45質量%のポリ(アリーレンエーテル)と、44質量%のポリアミドと、10質量%のSBSと、を含む組成物を製造した。該組成物を成形し、ISO180/Aに準拠した温度23℃および−30℃におけるノッチ付アイゾッド衝撃強度と、ASTM D3763に準拠した温度23℃および−30℃におけるDynatup衝撃強度(落錘)と、ISO1133に準拠した温度280℃、5kg荷重を用いた溶融体積速度(MVR)と、CIE LD65に準拠した色と、を試験した。ノッチ付アイゾッド衝撃強度の結果をkJ/mで示す。Dynatup衝撃強度の結果をJで示す。MVRの結果をg/10minで報告する。表6−A〜6−Cに組成物とその結果を示す。マスタバッチを用いない比較実施例1を上記のように調製した。比較実施例1の製造に用いたクエン酸の量(組成物の製造に用いた成分の全質量に対して0.6質量%)は、比較実施例14、19および24の製造に用いた無水マレイン酸の量に等しい。ポリ(アリーレンエーテル)と添加剤だけを含むマスタバッチを用いて比較実施例2を製造した。ポリ(アリーレンエーテル)、ポリアミドおよび添加剤だけを含む(相溶化剤、無水マレイン酸は含まず)マスタバッチを用いて比較実施例8および9を製造した。ポリアミドを含まず、官能化ポリ(アリーレンエーテル)を用いて作られた組成物を表すマスタバッチを用いて、比較実施例12〜16を製造した。
【表6】



【0060】
官能化ポリ(アリーレンエーテル)を用いて作られた組成物(MA−MB−1)は、ポリアミドを含むマスタバッチを用いて作られた組成物(MB−MB−2およびMA−MB−3)とほぼ同等な特性を有する。ポリアミドなしで作られた無水マレイン酸マスタバッチ(官能化ポリ(アリーレンエーテル))を用いて作られた比較実施例の衝撃強度は、等価な量のクエン酸比較実施例のそれよりも高い(比較実施例3〜7対比較実施例12〜16)。驚くことに、無水マレイン酸とポリアミドとを用いて作られたマスタバッチによる組成物の衝撃強度は一般に、クエン酸とポリアミドを用いて作られたマスタバッチによる組成物のそれより低い(比較実施例17〜21対実施例1〜5、比較実施例22〜26対実施例6〜10)。また、無水マレイン酸を用いて作られた実施例のいずれも、その溶融体積速度は比較実施例1のそれ以上ではない。
【0061】
図2は、クエン酸を含むマスタバッチで作られた充填材なし組成物と、無水マレイン酸を含むマスタバッチで作られた充填材なし組成物との色の差異を示す。CIE−LD65値が高いほどより黄変が少なく、望ましいことを示す。驚くことに、図2からわかるように、クエン酸を含むマスタバッチで作られた組成物は、無水マレイン酸で作られた組成物より黄変が少ない。
【0062】
また、上記のクエン酸マスタバッチを用いて、組成物の全質量に対して10質量%のガラス繊維を含む組成物を製造し、かつ2質量%の導電性カーボンブラックを含む組成物を製造した。10質量%のガラス繊維を含む組成物は、その全質量に対して、41.5質量%のポリ(アリーレンエーテル)と、41.5質量%のポリアミドと、6質量%のSBSも含んでいた。該組成物を成形し、ISO180/Aに準拠した温度23℃におけるノッチ付アイゾッド衝撃強度と、ASTM D3763に準拠した温度23℃におけるDynatup衝撃強度と、CIE LD65に準拠した色と、を試験した。ノッチ付アイゾッド衝撃強度の結果をkJ/mで、Dynatup衝撃強度の結果をJで示す。表7−A〜7−Cに組成物とその結果を示す。結果を図3にも示す。マスタバッチを用いない実施例27では、ポリ(アリーレンエーテル)、添加剤、クエン酸、SEBSおよびSEPは供給口で添加し、ポリアミドとCCB−MBは下流で添加した。比較実施例1は、残りの実施例と同じ添加材を同量含む。
【表7】



【0063】
また、上記のクエン酸マスタバッチを用いて、その全質量に対して2質量%の導電性カーボンブラックを含む組成物を製造した。2質量%の導電性カーボンブラックを含む組成物は、その全質量に対して、35質量%のポリ(アリーレンエーテル)と、7質量%のSEBSと、8質量%のSEPと、24質量%のポリアミドと、25質量%のCCB−MBも含んでいた。該組成物を成形し、ISO180/Aに準拠した温度23℃および−30℃におけるノッチ付アイゾッド衝撃強度と、ASTM D3763に準拠した温度23℃および−30℃におけるDynatup衝撃強度と、を試験した。ノッチ付アイゾッド衝撃強度の結果をkJ/mで、Dynatup衝撃強度の結果をJで示す。
【0064】
体積固有抵抗率(SVR)を以下の方法で求めた。ISO3167に準拠して引張棒を成形した。該棒の中央の狭い部分の各末端近くに鋭く浅い切り込みを入れた。該棒を各切り込みで脆性的に破砕して該中央の狭い部分を分離し、破砕した末端部の大きさを10mm×4mmとした。脆性的に破砕するために必要に応じて、引張棒を、例えば−40℃のフリーザ内でドライアイスまたは液体窒素で最初に冷却した。破砕末端部間の棒の長さを測定した。試料の破砕末端部を導電性の銀ペンキで塗って乾燥させた。前記ペンキ表面のそれぞれに電極を取り付け、フルーク(Fluke)187などのマルチメータ、すなわち抵抗モードのTrue RMS Multimeterを用いて、印加電圧500mV〜1000mVの時の抵抗を測定した。測定した抵抗値に該棒の一方の破砕面積を乗じさらに長さで除して、体積固有抵抗率値rを得た。
r=R×A/L
式中、rは体積固有抵抗率(Ω−cm)、Rは測定され抵抗(Ω)、Aは破砕面積(cm)、Lは試料長さ(cm)である。体積固有抵抗率値の単位はkΩ−cmである。
【0065】
表8−A〜8−Cに組成物と結果を示す。図4にも結果を示す。
【表8】



【0066】
本明細書と特許請求の範囲には、多くの用語について言及されているが、それらは次の意味を持つと定義される。ここで使用される「第1の」「第2の」など、「一級の」「二級の」など、「(a)」「(b)」などの用語は、いかなる順序や量あるいは重要度を表すものではなく、ある成分と他の成分とを区別するために用いられる。同じ成分あるいは特性に関する範囲の終了点はすべて終点を含むものであり、該終点は互いに独立に組み合わせ可能である。本明細書と特許請求の範囲全体を通した「1つの実施形態」、「別の実施形態」、「ある実施形態」、「一部の実施形態」などの言及は、該実施形態に関連して説明される特定の要素(例えば、特長、構造、特性およびまたは特徴)が、ここで説明された少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味し、他の実施形態には含まれても含まれていなくてもよい。また、説明された要素は種々の実施形態中で任意の好適な方法で組み合わせられてもよいことは理解されるべきである。単数表現は、文脈上明らかにそうでないことが示されない限り、複数の対象を含む。「選択的な」あるいは「選択的に」は、続いて説明する出来事あるいは状況が生じても生じなくてもよく、その説明にはその事象が生じる事例と生じない事例とを含んでいる。
【0067】
本発明を典型的な実施形態において例示し説明したが、本発明の趣旨から決して逸脱することなく種々の変更と置換が可能であるために、示された詳細に限定されるものではない。そのようなものとして、当業者であれば、ただのルーチンの実験でしかないものを用いて、開示された本発明のさらなる改良および等価物を思い付くかも知れないが、こうした改良と等価物はすべて、以下の特許請求の範囲で定義され本発明の趣旨と範囲に入るものと考えられる。ここで引用した特許と公表論文のすべては参照により本明細書に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100質量部のポリ(アリーレンエーテル)と、
5〜30質量部のポリアミドと、
0.5〜5質量部のクエン酸と、の反応生成物を含み、
組成物の全質量に対して、45質量%のポリ(アリーレンエーテル)と、45質量%のポリアミドと、10質量%のポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレンと、で配合されると、CIE LD65で求めたCIE L値が40〜70の組成物をもたらすことを特徴とするマスタバッチ。
【請求項2】
100質量部のポリ(アリーレンエーテル)と、
5〜30質量部のポリアミドと、
0〜5質量部のクエン酸と、
の反応生成物であることを特徴とする請求項1に記載のマスタバッチ。
【請求項3】
前記ポリアミドの量は、100質量部の前記ポリ(アリーレンエーテル)に対して7〜25質量部であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマスタバッチ。
【請求項4】
100質量部のポリ(アリーレンエーテル)と、
5〜30質量部のポリアミドと、
5〜5質量部のクエン酸と、
を含む混合物を溶融混合するステップを備えることを特徴とするマスタバッチの製造方法。
【請求項5】
前記クエン酸の量は、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)に対して1.0〜5質量部であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
溶融混合は、前記クエン酸とポリ(アリーレンエーテル)とを溶融混合して第1の混合物を形成し、前記第1の混合物を前記ポリアミドと溶融混合するステップを備えることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリアミドの量は、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)に対して7〜25質量部であることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
第1のポリアミドをマスタバッチと溶融混合するステップであって、
前記マスタバッチと第1のポリアミドとの質量比が1:1.1〜1:2.7であり、
前記マスタバッチは、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)と、5〜30質量部の第2のポリアミドと、0.5〜5質量部のクエン酸と、の反応生成物を含むことを特徴とするステップを備える方法で製造された組成物。
【請求項9】
第1のポリアミドと導電性充填材をマスタバッチと溶融混合するステップであって、
前記マスタバッチと第1のポリアミドとの質量比が1:1.1〜1:2.7であり、
前記マスタバッチは、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)と、0〜30質量部の第2のポリアミドと、0.5〜5質量部のクエン酸と、の反応生成物を含むことを特徴とするステップを備える方法で製造された組成物。
【請求項10】
前記マスタバッチは、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)と、5〜30質量部の第2のポリアミドと、0.5〜5質量部のクエン酸と、の反応生成物を含むことを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物のノッチ付アイゾッド値は、温度23℃において5〜25kJ/mであることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物のDynatup衝撃強度は、温度23℃において6〜50Jであることを特徴とする請求項9乃至請求項11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
第1のポリアミドとガラス繊維をマスタバッチと溶融混合するステップであって、
前記マスタバッチと第1のポリアミドとの質量比が1:1.1〜1:2.7であり、
前記マスタバッチは、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)と、0〜30質量部の第2のポリアミドと、1〜5質量部のクエン酸と、の反応生成物であることを特徴とするステップを備える方法で製造された組成物。
【請求項14】
前記マスタバッチは、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)と、5〜30質量部の第2のポリアミドと、0.5〜5質量部のクエン酸と、の反応生成物を含むことを特徴とする請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物のノッチ付アイゾッド値は、温度23℃において7〜12kJ/mであることを特徴とする請求項13または請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物のDynatup衝撃強度は、温度23℃において4〜7Jであることを特徴とする請求項13乃至請求項15のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
第1のポリアミドをマスタバッチと溶融混合するステップであって、
前記マスタバッチと第1のポリアミドとの質量比が1:1.1〜1:2.7であり、
前記マスタバッチは、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)と、5〜30質量部の第2のポリアミドと、0.5〜5質量部のクエン酸と、の反応生成物を含むことを特徴とするステップを備える組成物の製造方法。
【請求項18】
前記第2のポリアミドの量は、100質量部のポリ(アリーレンエーテル)に対して7〜25質量部であることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
導電性充填材を前記第1のポリアミドおよびマスタバッチと溶融混合するステップをさらに備えることを特徴とする請求項17または請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ガラス繊維を前記第1のポリアミドおよびマスタバッチと溶融混合するステップをさらに備えることを特徴とする請求項17乃至請求項19のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−504171(P2012−504171A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529175(P2011−529175)
【出願日】平成21年9月23日(2009.9.23)
【国際出願番号】PCT/US2009/057988
【国際公開番号】WO2010/039522
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(508171804)サビック・イノベーティブ・プラスチックス・アイピー・ベスローテン・フェンノートシャップ (86)
【Fターム(参考)】