説明

ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の製造方法

【課題】透明性および導電性に優れた導電性薄膜を形成することの可能な、導電性ポリマー成分を含む水分散体の製造方法、および該方法により得られた水分散体を提供すること。
【解決手段】3,4−ジアルコキシチオフェンを、ポリ陰イオンの存在下で、酸化剤を用いて、水系溶媒中で重合させる工程を含み、該ポリ陰イオンとして、特定の分子量とスルホン化率とを有するポリスチレンスルホン酸または他の特定のスルホン化率のポリスチレンスルホン酸を用いること、あるいは、反応時のpHを特定の値に規定することを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の製造方法、ならびに該方法により得られる水分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、太陽電池、タッチパネルなどの透明電極、ならびに電磁波シールド材などの基材のコーティングに用いられている。最も広く応用されている透明導電膜は、インジウム−スズの複合酸化物(ITO)の蒸着膜であるが、成膜に高温が必要であるとか、成膜コストが高いという問題点がある。塗布成膜法によるITO膜も、成膜に高温が必要であり、その導電性はITOの分散度に左右され、ヘイズ値も必ずしも低くない。また、ITOなどの無機酸化物膜は、基材の撓みによりクラックが入りやすく、そのため導電性の低下が起こりやすい。
【0003】
一方、有機材料の透明導電膜として、低温かつ低コストで成膜可能な導電性ポリマーを用いたものが提案されている。例えば、特許文献1には、水分散性が良好なポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の製造方法が示されている。その水分散体を含むコーティング用組成物を基材上に付与してなる薄膜は、帯電防止機能については十分であるが、透明性および導電性については不十分である。
【0004】
また、特許文献2には、上記の特許文献1に記載のポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体に、ジヒドロキシ基、ポリヒドロキシ基、アミド基、およびラクタム基からなる群より選択される基を有する化合物を添加することによって得られたコーティング用組成物を基材上に付与してなる薄膜の導電性が向上することが記載されている。また、特許文献3には、ε≧15の誘電率を有する非プロトン性化合物を含むコーティング用組成物を基材に付与し、100℃未満の温度で乾燥させてなる薄膜の導電性が向上することが記載されている。
【0005】
これらの公報に記載のコーティング用組成物は、いずれも上記特許文献1に記載のポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体に特定の化合物を添加することにより、その性質を向上させたものであり、導電性は比較的改良されている。しかし、使用される導電性ポリマーを含む水分散体自体は同一であるため、得られる水分散体の透明性および導電性は必ずしも十分なものではない。
【0006】
特許文献4には、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)をポリ陰イオンの存在下で重合させる際に、ペルオキソ二硫酸を酸化剤として用いること、あるいは重合時に酸を添加してpHを低下させることによって、透明性および導電性に優れた薄膜を形成し得る複合体を含む水分散体が得られることが開示されている。この手法により比較的優れた透明性および導電性を有する薄膜が形成されるが、さらに透明性および導電性に優れた薄膜を形成し得る材料およびそれを製造する方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2636968号公報
【特許文献2】特開平8−48858号公報
【特許文献3】特開2000−153229号公報
【特許文献4】特開2004−59666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記従来の問題点を解決することにあり、その目的とするところは、透明性および導電性に優れた導電性薄膜を形成することの可能な、導電性ポリマー成分を含む水分散体の製造方法、および該方法により得られる水分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、3,4−ジアルコキシチオフェンをポリ陰イオンの存在下で重合させる際に、該ポリ陰イオンとして、特定の分子量のまたは特定のスルホン化率のポリスチレンスルホン酸を用いること、あるいは、反応時のpHを特定の値に規定することにより、透明性および導電性に優れた導電性ポリマー成分を含む水分散体を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明のポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の第1の製造方法は、以下の式(1)で表される3,4−ジアルコキシチオフェン
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、RおよびRは相互に独立して水素またはC1−4のアルキル基であるか、あるいは一緒になってC1−4のアルキレン基を形成し、該アルキレン基は任意に置換されてもよい)を、ポリ陰イオンの存在下で、酸化剤を用いて、水系溶媒中で重合させる工程を含み、該、ポリ陰イオンは、重量平均分子量80,000から1,000,000のポリスチレンスルホン酸であり、該ポリスチレンスルホン酸のスルホン化率は99%以上である。
【0013】
本発明のポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の第2の製造方法は、以下の式(1)で表される3,4−ジアルコキシチオフェン
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、RおよびRは相互に独立して水素またはC1−4のアルキル基であるか、あるいは一緒になってC1−4のアルキレン基を形成し、該アルキレン基は任意に置換されてもよい)を、ポリ陰イオンの存在下で、酸化剤を用いて、水系溶媒中で重合させる工程を含み、該、ポリ陰イオンは、スルホン化率80から99%のポリスチレンスルホン酸である。
【0016】
本発明のポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の第3の製造方法は、以下の式(1)で表される3,4−ジアルコキシチオフェン
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、RおよびRは相互に独立して水素またはC1−4のアルキル基であるか、あるいは一緒になってC1−4のアルキレン基を形成し、該アルキレン基は任意に置換されてもよい)を、ポリ陰イオンの存在下で、酸化剤を用いて、水系溶媒中で重合させる工程を含み、該重合工程において、水溶性の無機酸および有機酸からなる群より選択される酸が添加され、反応溶液のpHが0.82以下とされる。
【0019】
本発明のポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の第4の製造方法は、以下の式(1)で表される3,4−ジアルコキシチオフェン
【0020】
【化4】

【0021】
(式中、RおよびRは相互に独立して水素またはC1−4のアルキル基であるか、あるいは一緒になってC1−4のアルキレン基を形成し、該アルキレン基は任意に置換されてもよい)を、ポリ陰イオンの存在下で、酸化剤を用いて、水系溶媒中で重合させる工程を含み、該、ポリ陰イオンは、重量平均分子量80,000から1,000,000のポリスチレンスルホン酸であり、該重合工程において、水溶性の無機酸および有機酸からなる群より選択される酸が添加され、反応溶液のpHが0.82以下とされる。
【0022】
本発明のポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の第5の製造方法は、以下の式(1)で表される3,4−ジアルコキシチオフェン
【0023】
【化5】

【0024】
(式中、RおよびRは相互に独立して水素またはC1−4のアルキル基であるか、あるいは一緒になってC1−4のアルキレン基を形成し、該アルキレン基は任意に置換されてもよい)を、ポリ陰イオンの存在下で、酸化剤を用いて、水系溶媒中で重合させる工程を含み、該、ポリ陰イオンは、スルホン化率80から99%のポリスチレンスルホン酸であり、該重合工程において、水溶性の無機酸および有機酸からなる群より選択される酸が添加され、反応溶液のpHが0.82以下とされる。
【0025】
本発明は、上記いずれかの方法により得られる、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体を包含する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の方法により、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体が容易に製造される。この水分散体を用いると、ウェットプロセスにより基材上に薄膜を低温条件下においても容易に形成することが可能であり、得られる薄膜は可撓性を有し、透明性と導電性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の方法により得られた被覆基材の全光線透過率と表面抵抗率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の製造方法は、以下の式(1)で表される3,4−ジアルコキシチオフェン
【0029】
【化6】

【0030】
(式中、RおよびRは相互に独立して水素またはC1−4のアルキル基であるか、あるいは一緒になってC1−4のアルキレン基を形成し、該アルキレン基は任意に置換されてもよい)を、ポリ陰イオンの存在下で、酸化剤を用いて水系溶媒中で重合させる工程を包含する。
【0031】
本発明の第1の方法においては、上記ポリ陰イオンは、特定の分子量とスルホン化率とを有するポリスチレンスルホン酸であり、第2の方法においては、上記ポリ陰イオンは、特定のスルホン化率を有するポリスチレンスルホン酸であり、第3の方法においては、上記重合工程において、pHが特定の範囲に設定される。さらに、第4の方法においては、上記ポリ陰イオンが特定の分子量を有するポリスチレンスルホン酸であり、かつ上記重合工程においてpHが特定の範囲に設定される。第5の方法においては、上記ポリ陰イオンが特定のスルホン化率を有するポリスチレンスルホン酸であり、かつ上記重合工程においてpHが特定の範囲に設定される。以下に、これらについて順次説明を行う。
【0032】
(I)第1の方法
この方法で用いられる、上記式(1)で示される3,4−ジアルコキシチオフェンにおいて、RおよびRのC1−4のアルキル基としては、好適には、メチル基、エチル基、n−プロピル基などが挙げられる。RおよびRが一緒になって形成されるC1−4のアルキレン基としては、1,2−アルキレン基、1,3−アルキレン基などが挙げられ、好適には、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基などが挙げられる。このうち、1,2−エチレン基が特に好適である。また、C1−4のアルキレン基は置換されていてもよく、置換基としては、C1−12のアルキル基、フェニル基などが挙げられる。置換されたC1−4のアルキレン基としては、1,2−シクロヘキシレン基、2,3−ブチレン基などが挙げられる。このようなアルキレン基の代表例として、RおよびRが一緒になって形成されるC1−12のアルキル基で置換された1,2−アルキレン基は、エテン、プロペン、ヘキセン、オクテン、デセン、ドデセン、スチレンなどのα−オレフィン類を臭素化して得られる1,2−ジブロモアルカン類から誘導される。
【0033】
第1の方法においては、用いられるポリ陰イオンは、上述のように、重量平均分子量が80,000から1,000,000のポリスチレンスルホン酸である。この分子量は、好ましくは80,000から700,000、さらに好ましくは150,000から500,000の範囲である。ポリスチレンスルホン酸のスルホン化率(後述)は99%以上であり、通常、スルホン化率が100%のポリスチレンスルホン酸が用いられる。上記特定の分子量およびスルホン化率を有するポリスチレンスルホン酸を用いると、得られる複合体の水分散体を用いて形成される薄膜の導電性および透明性に優れる。
【0034】
上記ポリ陰イオンの使用量は、上記3,4−ジアルコキシチオフェン100質量部に対して、50から3,000質量部の範囲が好ましく、より好ましくは100から1,000質量部の範囲であり、最も好ましくは、150から500質量部の範囲である。
【0035】
上記方法に用いられる溶媒は水系溶媒であり、特に好ましくは水である。メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノールなどのアルコール;アセトン、アセトニトリルなどの水溶性の溶媒を水に添加して用いてもよい。
【0036】
この方法において、3,4−ジアルコキシチオフェンの重合反応を行う際の酸化剤としては、以下の化合物が挙げられるが、これらに限定されない:ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、無機酸化第二鉄塩、有機酸化第二鉄塩、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、二クロム酸カリウム、過ホウ酸アルカリ塩、銅塩など。これらのうち、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、およびペルオキソ二硫酸アンモニウムが最も好適である。さらに、酸化剤として、必要に応じて触媒量の金属イオン、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、バナジウムイオンなどを添加しても良い。酸化剤の使用量は、上記チオフェン1モル当たり、1から5当量の範囲が好ましく、より好ましくは、2から4当量の範囲である。
【0037】
本発明の方法においては、重合時におけるpHは比較的低いことが好ましく、通常、pHは1.5以下とされる。上記酸化剤の中で、ペルオキソ二硫酸を選択した場合には、これを反応系に加えると通常、pHが1.5以下となるので好適である。反応系には、必要に応じて酸を加えることによりpHが調整される。
【0038】
酸としては、水溶性の無機酸および有機酸からなる群より選択される酸が使用される。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸などが挙げられる。有機酸としては、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などが挙げられる。
【0039】
上記方法において重合を行う際の反応混合液の温度は、0〜100℃であり、副反応を抑制する観点から、好ましくは0〜50℃、さらに好ましくは0〜30℃である。
【0040】
重合反応を行う時間は、酸化剤の種類・量、重合温度、反応液のpHなどに依存して、5〜100時間であり得る。通常は、10〜40時間である。
【0041】
(II)第2の方法
この方法で用いられる3,4−ジアルコキシチオフェンは、上記第1の方法で用いられる3,4−ジアルコキシチオフェンと同様である。
【0042】
この方法に用いられるポリ陰イオンとしては、スルホン化率80から99%のポリスチレンスルホン酸が用いられ、スルホン化率は、好ましくは85から99%、さらに好ましくは85から95%の範囲である。ここで、「スルホン化率」とは、ポリスチレンスルホン酸において、分子中のスルホン酸基を有するスチレン単位およびスチレン単位全体のうちのスルホン酸基を有するスチレン単位の割合(%)を指していう。即ち、スルホン化率とは、以下の式(2.1)で示されるスルホン酸基を有するスチレン単位および式(2.2)で示されるスチレン単位の数の合計に対する式(2.1)で示される単位の割合(%)をいう。
【0043】
【化7】

【0044】
例えば、上記スルホン化率が80から99%のポリスチレンスルホン酸とは、式(2.1)の単位と式(2.2)とが80:20から99:1の割合で含有されるポリスチレンスルホン酸をいう。このような特定のスルホン化率のポリスチレンスルホン酸を用いると、得られる複合体の水分散体を用いて形成される薄膜の導電性および透明性に優れる。
【0045】
上記ポリスチレンスルホン酸の分子量は特に限定されないが、通常、重量平均分子量が1,000から2,000,000の範囲であり、好ましくは、2,000から1,000,000の範囲であり、より好ましくは、10,000から500,000の範囲である。
【0046】
上記3,4−ジアルコキシチオフェンと、特定のスルホン化率を有するポリスチレンスルホン酸であるポリ陰イオンとを用い、上記第1の方法に準じて反応が行われる。
【0047】
(III)第3の方法
この方法で用いられる3,4−ジアルコキシチオフェンは、上記第1の方法で用いられる3,4−ジアルコキシチオフェンと同様である。
【0048】
この方法に用いられるポリ陰イオンは、特に限定されない。例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸などのポリスルホン酸類;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸などのポリカルボン酸類などが用いられる。これらのスルホン酸類およびカルボン酸類はまた、ビニルスルホン酸類またはビニルカルボン酸類と他の重合可能なモノマー類(例えば、アクリレート類、スチレンなど)との共重合体であっても良い。上記ポリ陰イオンの重量平均分子量は、1,000から2,000,000の範囲が好ましく、より好ましくは、2,000から1,000,000の範囲であり、最も好ましくは、10,000から500,000の範囲である。上記第1および第2の方法で用いられる特定のポリスチレンスルホン酸も好適に用いられ得る。
【0049】
この方法においては、重合時における該重合反応時のpHが0.82以下に設定される。重合反応時のpHは、好ましくは0.01以上0.82以下、さらに好ましくは0.01以上0.60以下である。上記酸化剤の中で、ペルオキソ二硫酸を選択した場合には、これを反応系に加えると比較的低いpHが達成されるので好適である。反応系には、必要に応じて酸を加えることによりpHが調整される。酸としては、上記第1の方法において記載した酸のいずれもが用いられる。このようなpHに設定することにより、得られる複合体の水分散体を用いて形成される薄膜の導電性および透明性に優れる。
【0050】
上記3,4−ジアルコキシチオフェンとポリ陰イオンとを用い、上記特定のpH条件下において、上記第1の方法に準じて反応が行われる。
【0051】
(IV)第4の方法
この方法で用いられる3,4−ジアルコキシチオフェンは、上記第1の方法で用いられる3,4−ジアルコキシチオフェンと同様である。この方法においては、ポリ陰イオンとしては、重量平均分子量が80,000から1,000,000のポリスチレンスルホン酸が用いられる。さらに、反応時に、上記第3の方法におけるのと同様にpHが0.82以下に設定される。
【0052】
上記3,4−ジアルコキシチオフェンと特定のポリ陰イオンとを用い、上記特定のpH条件下において、上記第1の方法に準じて反応が行われる。
【0053】
(V)第5の方法
この方法で用いられる3,4−ジアルコキシチオフェンは、上記第1の方法で用いられる3,4−ジアルコキシチオフェンと同様である。この方法においては、ポリ陰イオンとして、上記第2の方法と同様の、スルホン化率80から99%のポリスチレンスルホン酸が用いられる。さらに、反応時に、上記第3の方法におけるのと同様にpHが0.82以下に設定される。
【0054】
上記3,4−ジアルコキシチオフェンと特定のポリ陰イオンとを用い、上記特定のpH条件下において、上記第1の方法に準じて反応が行われる。
【0055】
上記第1〜第5の方法における重合反応により、いずれもポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)が生成する。このポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)は、ポリ陰イオンがドープした状態であると考えられ、本明細書では、これを「ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体」、あるいは単に「複合体」と記載する。
【0056】
上記複合体の水分散体は、基材上に薄膜を形成するのに利用される。得られた基材表面の薄膜は、可撓性を有し、これまでのポリチオフェン系導電性ポリマーによる薄膜に比べて、飛躍的に向上した透明性と導電性を有する。
【実施例】
【0057】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において「部」は「質量部」を示す。
【0058】
1.使用材料
実施例または比較例において、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体のイオン交換処理には、陽イオン交換樹脂として、BAYER社製Lewatit S100Hを、陰イオン交換樹脂として、BAYER社製Lewatit MP62を用いた。
【0059】
2.ポリスチレンスルホン酸の精製
各実施例および比較例で使用するポリスチレンスルホン酸の精製において、限外濾過には、限外ろ過膜(ミリポア社製Biomax−100もしくはBiomax−50)を用いた。限外濾過により低分子量物を除去した後、Lewatit S100Hを充填したカラムを用いた陽イオン交換処理を行った。
【0060】
3.コーティング剤の塗布および乾燥方法
基材としてガラス板(JIS R3202)を用いた。実施例または比較例で得られるコーティング剤をワイヤーバー[No.12(形成される膜厚(wet)27.4μm)またはNo.22(形成される膜厚(wet)50.3μm)]で塗布し、100℃で3分間送風することにより塗膜を乾燥させて、薄膜を有する被膜基材を得た。
【0061】
4.基材表面の薄膜の評価
4.1 表面抵抗率は、JIS K6911に従い「三菱化学(株)製ロレスターGP(MCP−T600)を用いて測定した。
【0062】
4.2 全光線透過率およびヘイズ値は、JIS K7150に従い、スガ試験機(株)製ヘイズコンピュータHGM−2Bを用いて測定した。なお、未処理のガラス板(JIS R−3202)の全光線透過率は90.6%であり、ヘイズ値は0.1%である。
【0063】
(実施例1.1)
日本エヌエスシー(株)のVERSA−TL125を、ミリポア社製Biomax−100を用いて限外ろ過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量175,000;スルホン化率100%)22.2部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、30部の濃硝酸、8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェン、および121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液を加えた。このときの反応混合物のpHは0.82であった。この反応混合物を18℃で19時間攪拌した。次いで、この反応混合物に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、脱塩されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,033部:固形分1.39%)を得た。
【0064】
(実施例1.2)
日本エヌエスシー(株)の9X402を、ミリポア社製Biomax−100を用いて限外ろ過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量282,000;スルホン化率100%)22.2部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、30部の濃硝酸、8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェン、および121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液を加えた。このときの反応混合物のpHは0.81であった。この反応混合物を18℃で19時間攪拌した。次いで、この反応混合物に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、脱塩されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,056部:固形分1.33%)を得た。
【0065】
(実施例1.3)
日本エヌエスシー(株)の9X309を、ミリポア社製Biomax−100を用いて限外ろ過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量460,000;スルホン化率100%)22.2部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、30部の濃硝酸、8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェン、および121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液を加えた。このときの反応混合物のpHは0.84であった。この反応混合物を18℃で19時間攪拌した。次いで、この反応混合物に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、脱塩されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,048部:固形分1.34%)を得た。
【0066】
(実施例1.4)
日本エヌエスシー(株)のVERSA−TL502を、ミリポア社製Biomax−100を用いて限外ろ過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量640,0000、スルホン化率100%)22.2部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、30部の濃硝酸、8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェン、および121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液を加えた。このときの反応混合物のpHは0.86であった。この反応混合物を18℃で19時間攪拌した。次いで、この反応混合物に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、脱塩されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,058部:固形分1.37%)を得た。
【0067】
(実施例1.5)
日本エヌエスシー(株)の9X407を、ミリポア社製Biomax−100を用いて限外ろ過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量165,000、スルホン化率90%)24.7部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、30部の濃硝酸、8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェン、および121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液を加えた。このときの反応混合物のpHは0.93であった。この反応混合物を18℃で19時間攪拌した。次いで、この反応混合物に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、脱塩されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,010部:固形分1.44%)を得た。
【0068】
(実施例1.6)
日本エヌエスシー(株)の9X401を、ミリポア社製Biomax−100を用いて限外ろ過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量253,000;スルホン化率90%)24.7部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、30部の濃硝酸、8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェン、および121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液を加えた。このときの反応混合物のpHは0.93であった。この反応混合物を18℃で19時間攪拌した。次いで、この反応混合物に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、脱塩されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,019部:固形分1.45%)を得た。
【0069】
(実施例1.7)
日本エヌエスシー(株)の9X308を、ミリポア社製Biomax−100を用いて限外ろ過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量350,000;スルホン化率90%)24.7部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、30部の濃硝酸、8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェン、および121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液を加えた。このときの反応混合物のpHは0.80であった。この反応混合物を18℃で19時間攪拌した。次いで、この反応混合物に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、脱塩されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,008部:固形分1.42%)を得た。
【0070】
(実施例1.8)
日本エヌエスシー(株)のVERSA−TL72を、ミリポア社製Biomax−50を用いて限外ろ過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量75,000;スルホン化率100%)22.2部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、60部の濃硝酸、8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェン、および121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液を加えた。このときの反応混合物のpHは0.64であった。この反応混合物を18℃で、19時間攪拌した。次いで、この反応混合物に、154部の陽イオン交換樹脂および273部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、脱塩されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,080部:固形分1.35%)を得た。
【0071】
(実施例1.9)
日本エヌエスシー(株)の9X401を、ミリポア社製Biomax−100を用いて限外ろ過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量253,000;スルホン化率90%)24.7部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、60部の濃硝酸、8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェン、および121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液を加えた。このときの反応混合物のpHは0.55であった。この反応混合物を18℃で19時間攪拌した。次いで、この反応混合物に、154部の陽イオン交換樹脂および273部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、脱塩されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,002部:固形分1.44%)を得た。
【0072】
(実施例1.10)
日本エヌエスシー(株)の9X410を、ミリポア社製Biomax−100を用いて限外ろ過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量187,000、スルホン化率95%)23.4部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、30部の濃硝酸、8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェン、および121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液を加えた。このときの反応混合物のpHは0.80であった。この反応混合物を18℃で19時間攪拌した。次いで、この反応混合物に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、脱塩されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,033部:固形分1.44%)を得た。
【0073】
(実施例1.11)
日本エヌエスシー(株)の9X409を、ミリポア社製Biomax−100を用いて限外ろ過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量190,000、スルホン化率85%)26.1部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、30部の濃硝酸、8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェン、および121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液を加えた。このときの反応混合物のpHは0.80であった。この反応混合物を18℃で19時間攪拌した。次いで、この反応混合物に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、脱塩されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,005部:固形分1.59%)を得た。
【0074】
(実施例1.12)
日本エヌエスシー(株)のVERSA−TL72を、ミリポア社製Biomax−50を用いて限外ろ過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量75,000、スルホン化率100%)22.2部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、200部の濃硝酸、8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェン、および121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液を加えた。このときの反応混合物のpHは0.10であった。この反応混合物を18℃で19時間攪拌した。次いで、この反応混合物に、154部の陽イオン交換樹脂および1016部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、脱塩されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(1,989部:固形分1.30%)を得た。
【0075】
(比較例1.1)
日本エヌエスシー(株)のVERSA−TL72を、ミリポア社製Biomax−50を用いて限外ろ過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量75,000;スルホン化率100%)22.2部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、30部の濃硝酸、8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェン、および121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液を加えた。このときの反応混合物のpHは0.83であった。この反応混合物を18℃で19時間攪拌した。次いで、この反応混合物に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、脱塩されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,075部:固形分1.36%)を得た。
【0076】
(比較例1.2)
日本エヌエスシー(株)のYE970を、ミリポア社製Biomax−50を用いて限外ろ過した後、陽イオン交換を行い、脱塩水で希釈することにより、ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量118,000、スルホン化率67%)33.1部を含む1,887部の水溶液を得た。この水溶液に、49部の1%硫酸鉄(III)水溶液、30部の濃硝酸、8.8部の3,4−エチレンジオキシチオフェン、および121部の10.9%のペルオキソ二硫酸水溶液を加えた。このときの反応混合物のpHは0.87であった。この反応混合物を18℃で19時間攪拌した。次いで、この反応混合物に、154部の陽イオン交換樹脂および232部の陰イオン交換樹脂を加えて、2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、脱塩されたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体(2,075部:固形分1.36%)を得た。
【0077】
(実施例2.1)
実施例1.1で得られたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体100部に、40部のエタノールおよび20部の脱塩水を加え、10分間攪拌して、150部のコーティング剤を得た。
【0078】
(実施例2.2〜2.12)
実施例1.1で得られた水分散体の代わりにそれぞれ実施例1.2〜1.12で得られた水分散体を用いたこと以外は、実施例2.1と同様に行ってそれぞれ150部のコーティング剤を得た。
【0079】
(比較例2.1〜2.2)
実施例1.1で得られた水分散体の代わりにそれぞれ比較例1.1〜1.2で得られた水分散体を用いたこと以外は、実施例2.1と同様に行ってそれぞれ150部のコーティング剤を得た。
【0080】
(実施例3.1)
実施例2.1で得られたコーティング剤を、No.12およびNo.22のワイヤーバーを用いてガラス板に塗布し、次いで、それらを乾燥させて薄膜被覆基材を得た。得られた被覆基材の全光線透過率およびヘイズ値、さらに基材上の薄膜の表面抵抗率の評価結果を表1に示す。基材として用いたガラス板の全光線透過率およびへイズ値は、それぞれ90.6%および0.1%であった。
【0081】
(実施例3.2〜3.12)
実施例2.1で得られたコーティング剤の代わりにそれぞれ実施例2.2〜2.12で得られたコーティング剤を用いたこと以外は、実施例3.1と同様に行った。得られた基材表面の薄膜の評価結果を、表1にまとめて示す。
【0082】
(比較例3.1〜3.2)
実施例2.1で得られたコーティング剤の代わりにそれぞれ比較例2.1〜2.2で得られたコーティング剤を用いたこと以外は、実施例3.1と同様に行った。得られた基材表面の薄膜の評価結果を、表1にまとめて示す。
【0083】
【表1】

【0084】
(実施例4)
表1に記載された実施例および比較例の各々において、全光線透過率と表面抵抗率との関係をグラフとした。これを図1に示す。さらに、このグラフから、全光線透過率が80%のときの表面抵抗率を読み取った。各実施例および比較例において使用したポリスチレンスルホン酸の分子量、スルホン化率、および上記全光線透過率が80%のときの表面抵抗率を併せて表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
表2の実施例3.1および比較例3.1の結果を参照すると、ポリスチレンスルホン酸の分子量が75,000から175,000に上がると、全光線透過率が80%のときの表面抵抗率は、4.8×10Ω/□から3.0×10Ω/□に低下し、分子量が高いほど高い導電性が得られることがわかる。実施例3.1〜3.4を参照すると、ポリスチレンスルホン酸の分子量が175,000から640,000の間であり、かつポリスチレンスルホン酸のスルホン化率が100%の場合は、全光線透過率が80%のときの表面抵抗率は、3.0×10Ω/□でほぼ一定となることもわかる。
【0087】
さらに、実施例3.1と実施例3.5の結果を比較すると、スルホン化率100%のポリスチレンスルホン酸を用いた場合には、全光線透過率が80%のときの表面抵抗率は3.0×10Ω/□であったのに対し、スルホン化率90%のポリスチレンスルホン酸を用いると、全光線透過率が80%のときの表面抵抗率は2.4×10Ω/□まで低下する。このことにより、スルホン化率は90%の場合の方が、導電率が高いことがわかる。
【0088】
さらに、実施例3.8および比較例3.1の比較、ならびに実施例3.9および実施例3.6の比較により、反応時のpHを低下させることで、全光線透過率が80%のときの表面抵抗率がさらに低下する、つまり高い導電率が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の方法によりポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体が容易に製造される。得られた複合体を含む水分散体は、各種基材上に薄膜を形成するのに好適に用いられる。得られる薄膜は、透明性と導電性とに優れるため、エレクトロルミネッセンスパネルの表面電極、液晶ディスプレイの画素電極、コンデンサーの電極、タッチパネルの透明電極、メンブレンスイッチの透明電極、電子ペーパーの透明電極などの各種透明電極、ブラウン管ディスプレイの電磁遮蔽、液晶ディスプレイやパチンコ台などのノイズカットのための電磁波シールド、調光ガラス、有機TFTの電極などに好適に用いられる。得られる薄膜は可撓性を有することから、プラスチックフィルム用の透明導電膜として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)で表される3,4−ジアルコキシチオフェン
【化1】

(式中、RおよびRは相互に独立して水素またはC1−4のアルキル基であるか、あるいは一緒になってC1−4のアルキレン基を形成し、該アルキレン基は任意に置換されてもよい)を、ポリ陰イオンの存在下で、酸化剤を用いて、水系溶媒中で重合させる工程を含み、
該ポリ陰イオンが、スルホン化率80から99%のポリスチレンスルホン酸である、
ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の製造方法。
【請求項2】
以下の式(1)で表される3,4−ジアルコキシチオフェン
【化2】

(式中、RおよびRは相互に独立して水素またはC1−4のアルキル基であるか、あるいは一緒になってC1−4のアルキレン基を形成し、該アルキレン基は任意に置換されてもよい)を、ポリ陰イオンの存在下で、酸化剤を用いて、水系溶媒中で重合させる工程を含み、
該ポリ陰イオンが、スルホン化率80から99%のポリスチレンスルホン酸であり、
該重合工程において、水溶性の無機酸および有機酸からなる群より選択される酸を添加し、反応溶液のpHを0.82以下とする、
ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法により得られる、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンとの複合体の水分散体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−90397(P2010−90397A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17571(P2010−17571)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【分割の表示】特願2004−204450(P2004−204450)の分割
【原出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【出願人】(591007228)エイチ・シー・スタルク・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (20)
【氏名又は名称原語表記】H.C.Starck Gmbh
【Fターム(参考)】