説明

ポンプ

【課題】シリンダの側面に吐出通路が形成されたポンプにおいて、シリンダ破損を防止する。
【解決手段】シリンダ13の内周面と吐出通路13cの内周面とが交差する連結部に、シリンダ13の内周面から径方向外方に窪んだ凹部13dを設ける。ポンプ室15の流体の圧力により連結部近傍に作用するシリンダ周方向の引張応力は、シリンダ13の内周面と凹部13dとの境界線に沿って伝達されて分散されるため、連結部に発生するシリンダ周方向の引張応力が低減されてシリンダ13の破損が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を吸入・吐出するポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮着火式内燃機関に燃料を噴射するための燃料噴射装置は、燃料を加圧してコモンレールに供給するサプライポンプを備えている。そのサプライポンプは、シリンダの内周面とプランジャの端面(頂部)とによってポンプ室が形成され、シリンダ内でプランジャが往復動してポンプ室内の燃料が加圧され、シリンダの側面に形成された吐出通路を介して高圧燃料がコモンレール側に吐出されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭64−73166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に示された従来のサプライポンプは、ポンプ室内の燃料が加圧されると、シリンダ内周は燃料圧力によりシリンダ径方向(以下、径方向と略す)外側に膨らむため、シリンダ内周面にはシリンダ周方向(以下、周方向と略す)の引張応力が発生する。ここで、図7は、従来のサプライポンプにおけるシリンダ内周面の展開図であり、図中の多数の矢印は、ポンプ室内の燃料が加圧されたときに発生する引張応力の方向を示している。
【0004】
そして、この図7に示すように、シリンダの内周面と吐出通路13cの内周面とが交差する連結部13xの近傍には、周方向の引張応力が集中して高応力が発生する。そして、ポンプ運転時には、燃料の吸入、圧送を繰り返すことにより、連結部13x近傍に応力振幅が発生して疲労破壊が発生し、シリンダ破損が生じる虞がある。
【0005】
また、図8に示すように、シリンダ13の軸線J1に対して吐出通路13cの軸線J2が傾斜している場合は、シリンダ13の軸線J1と吐出通路13cの軸線J2とのなす角が鋭角となる側の連結部13x近傍の壁面厚さt1は、シリンダの軸線と吐出通路の軸線とのなす角が鈍角となる側の連結部近傍の壁面厚さt2よりも小さいため、シリンダ13の軸線J1と吐出通路13cの軸線J2とのなす角が鋭角となる側の連結部13x近傍に、特に高い応力が発生する。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、シリンダの側面に吐出通路が形成されたポンプにおいて、シリンダ破損を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シリンダ(13)の側面に形成された吐出通路(13c)を介してポンプ室(15)の加圧流体が外部に導かれるポンプにおいて、シリンダ(13)の内周面と吐出通路(13c)の内周面とが交差する連結部に、シリンダ(13)の内周面から径方向外方に窪んだ凹部(13d)が設けられていることを特徴とする。
【0008】
このようにすれば、ポンプ室(15)の流体の圧力により連結部近傍に作用する周方向の引張応力は、シリンダ(13)の内周面と凹部(13d)との境界線に沿って伝達されて分散されるため、連結部に発生する周方向の引張応力が低減されてシリンダ(13)の破損が防止される。
【0009】
この場合、シリンダ(13)の軸線(J1)に対して吐出通路(13c)の軸線(J2)が傾斜しているポンプにおいては、シリンダ(13)の軸線(J1)と吐出通路(13c)の軸線(J2)とのなす角が鋭角となる側の連結部に凹部(13d)を設け、シリンダ(13)の軸線(J1)と吐出通路(13c)の軸線(J2)とのなす角が鈍角となる側の連結部には凹部(13d)を設けないようにすることができる。
【0010】
このようにすれば、ポンプ室(15)の流体の圧力により連結部近傍に作用する引張応力は、凹部(13d)内でシリンダ軸線方向の引張応力に変換されるため、凹部(13d)内の連結部近傍に作用する周方向の引張応力が大幅に低減される。したがって、凹部(13d)内の連結部近傍に発生する周方向の引張応力が大幅に低減されてシリンダ(13)の破損が一層確実に防止される。
【0011】
また、連結部の全ての部位に、凹部(13d)を設けることができる。このような構成は、シリンダ(13)の軸線(J1)に対して吐出通路(13c)の軸線(J2)が直交している場合に有利である。
【0012】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態に係るポンプは、圧縮着火式内燃機関に燃料を噴射するための燃料噴射装置において、高圧の燃料を蓄えるコモンレールに高圧の燃料を供給するサプライポンプとして用いられる。
【0014】
図1は本実施形態に係るポンプの構成を示すもので、ポンプハウジング10には、その下端側に位置するカム室10aと、このカム室10aからポンプハウジング10の上方に向かって延びる円柱状の摺動子挿入孔10bと、この摺動子挿入孔10bからポンプハウジング10の上端面まで延びる円柱状のシリンダ挿入孔10cとが形成されている。
【0015】
カム室10aには、図示しない圧縮着火式内燃機関(以下、内燃機関という)にて駆動されるカム軸11が配置され、このカム軸11はポンプハウジング10に回転自在に支持されている。また、カム軸11にはカム12が形成されている。
【0016】
シリンダ挿入孔10cには、シリンダ挿入孔10cを塞ぐようにしてシリンダ13が取り付けられている。このシリンダ13には、円柱状のプランジャ挿入穴13aが形成されており、このプランジャ挿入穴13aに、円柱状のプランジャ14が往復動自在に挿入されている。そして、このプランジャ14の上端面とシリンダ13の内周面とによりポンプ室15が形成されている。
【0017】
プランジャ14の下端にシート14aが連結されており、このシート14aはスプリング16によって摺動子17に押し付けられている。この摺動子17は、円筒状に形成されており、摺動子挿入孔10bに往復動自在に挿入されている。また、摺動子17にはカムローラ18が回転自在に取り付けられており、このカムローラ18はカム12に当接している。そして、カム軸11の回転によりカム12が回転すると、シート14a、摺動子17およびカムローラ18とともに、プランジャ14が往復駆動されるようになっている。
【0018】
シリンダ13とポンプハウジング10との間には、燃料溜り19が形成されている。この燃料溜り19には、図示しないフィードポンプから吐出される低圧の燃料が、図示しない低圧燃料配管を介して供給されるようになっている。また、燃料溜り19は、シリンダ13に形成された吸入通路13b、および電磁弁30内の吸入通路31aを介して、ポンプ室15に連通されている。
【0019】
シリンダ13の側面には、ポンプ室15に常時連通する吐出通路13cが形成されている。そして、ポンプ室15は、この吐出通路13c、吐出弁20、および図示しない高圧燃料配管を介して図示しないコモンレールに接続されている。
【0020】
吐出弁20は、吐出通路13cの下流側においてシリンダ13に取り付けられている。この吐出弁20は、吐出通路13cを開閉する弁体20aと、この弁体20aを閉弁向きに付勢するスプリング20bとを備えている。そして、ポンプ室15で加圧された燃料は、スプリング20bの付勢力に抗して弁体20aを開弁向きに移動させ、コモンレールに圧送されるようになっている。
【0021】
電磁弁30は、プランジャ14の上端面に対向した位置において、ポンプ室15を閉塞するようにしてシリンダ13に螺合固定されている。電磁弁30のボディ31には、一端がポンプ室15に連通し他端が吸入通路13bに連通する吸入通路31aと、この吸入通路31a中に配置されたシート部(図示せず)とが形成されている。
【0022】
また、この電磁弁30は、通電時に吸引力を発生するソレノイド32、ソレノイド32により吸引されるアーマチャ33、このアーマチャ33を反吸引側に向かって付勢するスプリング34、アーマチャ33と一体に移動してシート部に接離することにより吸入通路31aを開閉する弁体35、この弁体35の開弁時の位置を規制するストッパ36とを有している。ストッパ36は、電磁弁30とシリンダ13に挟持されており、吸入通路31aとポンプ室15とを連通させる連通孔(図示せず)が多数形成されている。
【0023】
次に、本実施形態になるポンプの要部の構成について詳述する。図2(a)は図1のポンプにおけるシリンダ13の要部を示す断面図、図2(b)は図2(a)のA−A線に沿う断面図、図2(c)は図2(a)のシリンダ13の内周面の展開図である。
【0024】
図2に示すように、ポンプ室15を囲むシリンダ13の内周面において、シリンダ13の内周面と吐出通路13cの内周面とが交差する連結部に、シリンダ13の内周面から径方向外方に窪んだ凹部13dが設けられている。換言すると、シリンダ13の内周面に、シリンダ13の内周面から径方向外方に窪んだ凹部13dを備え、吐出通路13cにおけるポンプ室15側の開口端部は凹部13dに開口している。なお、凹部13dは、電解加工によって形成されており、球面形状になっている。また、シリンダ13の軸線J1に対して吐出通路13cの軸線J2が傾斜している。
【0025】
上記構成になるポンプの作動を説明する。まず、電磁弁30のソレノイド32に通電されていないときには、弁体35はスプリング34の付勢力により開弁位置に移動されている。すなわち、弁体35がボディ31のシート部から離れており、吸入通路31aが開かれている。
【0026】
そして、吸入通路31aが開かれている状態でプランジャ14が下降するときには、フィードポンプから吐出される低圧の燃料が、燃料溜り19、吸入通路13b、および吸入通路31aを介して、ポンプ室15に供給される。
【0027】
次いで、プランジャ14が上昇し始めると、プランジャ14はポンプ室15内の燃料を加圧しようとする。しかし、プランジャ14の上昇開始初期においては、電磁弁30に通電されておらず、吸入通路31aが開かれているため、ポンプ室15内の燃料は、吸入通路31aおよび吸入通路13bを介して燃料溜り19側に溢流し、加圧されない。
【0028】
このポンプ室15内の燃料の溢流中に電磁弁30に通電されると、アーマチャ33および弁体35がスプリング34に抗して吸引され、弁体35がボディ31のシート部に着座して吸入通路31aが閉塞される。これにより、燃料溜り19側への燃料の溢流が停止されて、プランジャ14によるポンプ室15内の燃料の加圧が開始される。そして、ポンプ室15内の燃料圧力により吐出弁20が開弁され、燃料がコモンレールに圧送される。
【0029】
次に、シリンダ13の内周面に発生する引張応力について詳述する。図3(a)は引張応力の方向を示す図2のシリンダ13の内周面の展開図、図3(b)は図3(a)のB−B線に沿う断面図である。
【0030】
図3(a)、図3(b)の多数の矢印は、ポンプ室15内の燃料が加圧されたときに発生する引張応力の方向を示している。そして、シリンダ13の内周面と吐出通路13cの内周面とが交差する連結部の近傍に作用する周方向の引張応力は、シリンダ13の内周面と凹部15dとの境界線に沿って伝達されて分散されるため、図3(a)、図3(b)に示すように、連結部近傍に発生する周方向の引張応力も分散され、連結部近傍に発生する周方向の引張応力が低減される。なお、シミュレーションによると、連結部近傍に発生する周方向の最大引張応力を従来の80%程度に抑制できることが確認された。
【0031】
本実施形態では、シリンダ13の軸線J1に対して吐出通路13cの軸線J2が傾斜しているポンプを示したが、シリンダ13の軸線J1に対して吐出通路13cの軸線J2が直交していてもよい。
【0032】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。図4(a)は第2実施形態に係るポンプにおけるシリンダ13の要部を示す断面図、図4(b)は図4(a)のC−C線に沿う断面図、図4(c)は図4(a)のシリンダ13の内周面の展開図である。本実施形態は、凹部15dを設ける範囲が第1実施形態と異なっている。第1実施形態と同一もしくは均等部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0033】
図4に示すように、シリンダ13の軸線J1に対して吐出通路13cの軸線J2が傾斜している場合は、シリンダ13の内周面と吐出通路13cの内周面とが交差する連結部の近傍のうち、シリンダ13の軸線J1と吐出通路13cの軸線J2とのなす角が鋭角となる側の連結部の近傍に、特に高い応力が発生する。
【0034】
そして、本実施形態では、シリンダ13の内周面と吐出通路13cの内周面とが交差する連結部の近傍のうち、特に高い応力が発生する部位である、シリンダ13の軸線J1と吐出通路13cの軸線J2とのなす角が鋭角となる側の連結部の近傍に凹部13dが設けられている。一方、シリンダ13の軸線J1と吐出通路13cの軸線J2とのなす角が鈍角となる側の連結部の近傍には凹部13dは設けられていない。
【0035】
換言すると、吐出通路13cにおけるポンプ室15側の開口端部のうち、シリンダ13の軸線J1と吐出通路13cの軸線J2とのなす角が鋭角となる側の開口端部は凹部13dに開口し、シリンダ13の軸線J1と吐出通路13cの軸線J2とのなす角が鈍角となる側の開口端部はシリンダ13の内周面に開口している。
【0036】
次に、シリンダ13の内周面に発生する引張応力について詳述する。図5(a)は引張応力の方向を示す図4のシリンダ13の内周面の展開図、図5(b)は図5(a)のD−D線に沿う断面図である。
【0037】
図5(a)、図5(b)の多数の矢印は、ポンプ室15内の燃料が加圧されたときに発生する引張応力の方向を示している。そして、シリンダ13の内周面と吐出通路13cの内周面とが交差する連結部の近傍に作用する引張応力は、凹部15d内でシリンダ13の軸線J1方向の引張応力に変換されるため、図5(a)、図5(b)に示すように、凹部15d内においてはシリンダ13の軸線J1方向の引張応力が主となり、連結部近傍に発生する周方向の引張応力が大幅に低減される。なお、シミュレーションによると、連結部近傍に発生する周方向の最大引張応力を従来の60%程度に抑制できることが確認された。
【0038】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。図6(a)は第3実施形態に係るポンプにおけるシリンダ13の要部を示す断面図、図6(b)は図6(a)のE−E線に沿う断面図、図6(c)は図6(a)のF−F線に沿う断面図である。本実施形態は、凹部15dの加工方法が第2実施形態と異なっている。第2実施形態と同一もしくは均等部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0039】
第2実施形態では、凹部13dを電解加工によって球面形状に加工したが、図6に示すように、凹部13dをフライス加工によって円柱状に加工してもよい。また、第1実施形態のポンプにおいても、凹部13dをフライス加工によって円柱状に加工してもよい。
【0040】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、本発明を内燃機関用燃料噴射装置のサプライポンプに適用したが、本発明は、流体を吸入・吐出するポンプに広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施形態に係るポンプの構成を示す断面図である。
【図2】(a)は図1のポンプにおけるシリンダ13の要部を示す断面図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図、(c)は(a)のシリンダ13の内周面の展開図である。
【図3】(a)は引張応力の方向を示す図2のシリンダ13の内周面の展開図、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。
【図4】(a)は本発明の第2実施形態に係るポンプにおけるシリンダ13の要部を示す断面図、(b)は(a)のC−C線に沿う断面図、(c)は(a)のシリンダ13の内周面の展開図である。
【図5】(a)は引張応力の方向を示す図4のシリンダ13の内周面の展開図、(b)は(a)のD−D線に沿う断面図である。
【図6】(a)は本発明の第3実施形態に係るポンプにおけるシリンダ13の要部を示す断面図、(b)は(a)のE−E線に沿う断面図、(c)は(a)のF−F線に沿う断面図である。
【図7】従来のポンプにおけるシリンダ内周面の展開図である。
【図8】従来のポンプにおけるシリンダ13の要部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0042】
13…シリンダ、14…プランジャ、15…ポンプ室、13c…吐出通路、13d…凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ(13)の内周面とプランジャ(14)の端面とによってポンプ室(15)が形成され、前記シリンダ(13)内で前記プランジャ(14)が往復動して前記ポンプ室(15)内の流体が加圧され、前記シリンダ(13)の側面に形成された吐出通路(13c)を介して前記ポンプ室(15)の加圧流体が外部に導かれるポンプにおいて、
前記シリンダ(13)の内周面と前記吐出通路(13c)の内周面とが交差する連結部に、前記シリンダ(13)の内周面から径方向外方に窪んだ凹部(13d)が設けられていることを特徴とするポンプ。
【請求項2】
前記シリンダ(13)の軸線(J1)に対して前記吐出通路(13c)の軸線(J2)が傾斜しており、
前記凹部(13d)は、前記シリンダ(13)の軸線(J1)と前記吐出通路(13c)の軸線(J2)とのなす角が鋭角となる側の連結部に設けられ、前記シリンダ(13)の軸線(J1)と前記吐出通路(13c)の軸線(J2)とのなす角が鈍角となる側の連結部には設けられていないことを特徴とする請求項1に記載のポンプ。
【請求項3】
前記連結部の全ての部位に、前記凹部(13d)が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−68371(P2009−68371A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235543(P2007−235543)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】