説明

ポータブルトイレにおける高さ調節装置

【課題】 ポータブルトイレにおいて、身長に応じた高さに便座の高さ調節を行えるようにするとともに、高さ調節機構を有する脚部と、便器を有する座部とを互いに独立した構造として、異なる形態を持つ脚部又は座部を任意に組み合わせ得るようにする。
【解決手段】 椅子型のポータブルトイレにおける座面の高さ調節機構であって、脚部30に対して独立した構造を持つ座部10、20を脚部30と組み合わせて1基のポータブルトイレを構成し得るもので、高さ調節機構として1対の支柱31、32を交差させ交差部33で軸支したものを複数個用意し、支柱31、32の交差角度を変えることにより高さを調節可能とした。高さ調節機構は、各支柱31、32の下端及び上端の一方を下枠34及び上枠35に軸支し、各支柱の下端及び上端の他方を下枠34及び上枠35にスライド可能に設け、スライド可能に設けた支柱の側に弾性部材やピストンシリンダー装置等の付勢手段44を取り付けた構成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子型のポータブルトイレにおける座面の高さ調節装置に関するものであ
る。
【背景技術】
【0002】
椅子型のポータブルトイレは公知であるが、ストール型か、或いは背凭れ付きかの違いはあるものの、座面までの高さは一定であるため、使用者の身長によっては適合しないものとなる。また低過ぎれば座ったり立ったりが負担となり、高過ぎた場合には座ることが困難となる。特にポータブルトイレを必要とする者は高齢者や傷病者など、身体を自由に動かすことが困難である場合が多いために、僅かな高さの違いでも大変使用しにくいものとなる。
【0003】
これに対して、高さ調節することの可能な便器と称するものも提案されており、例えば特開2001−161595号では、数個のシリンダを組み込み、シートを昇降させて高さを調節する介護用便器を開示している。このような機構を有するものは、シリンダ装置によって便器及び使用者の全荷重を支えることになり、介護用便器として複雑、高価となり、大重量ともなるので据え付け型としてはともかく、ポータブル型としては不向きである。
【0004】
また従来の椅子型トイレ装置は脚又は台となる下部と、便座を有する上部が一体化した構造になっており、前記の発明も同様である。これらの従来の構造では、便座又は椅子の構造が下部構造と不可分の関係になっているために、例えば便座のデザインだけを変更することができない。このような場合に、例えば便座だけ、或いは高さ調節機構部だけを交換することができれば合理的であるが、前記のように脚又は台となる下部と便座を有する上部が一体構造になっているものでは一部の変更が全体に及ぶという問題が付いて回るため、設計変更などが容易ではない。
【0005】
【特許文献1】特開2001−161595号
【特許文献2】特開2003−475号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記の点に着目してなされたものであり、その課題はポータブルトイレにおいて、身長に応じた高さに便座の高さ調節を行えるようにするとともに、高さ調節機構を有する脚部と便器を有する座部とを互いに独立した構造として、異なる形態を持つ脚部又は座部を任意に組み合わせ得るようにすることである。また本発明の他の課題は比較的簡単な手段、構成によって、無段階に近い高さ調節を行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するため、本発明は、椅子型のポータブルトイレにおける座面の高さ調節装置について、脚部に対して独立した構造を持つ座部を脚部と組み合わせて1基のポータブルトイレを構成し得るものとし、高さ調節機構として1対の支柱を交差させ交差部で軸支したものを複数個用意し支柱の交差角度を変えることにより高さを調節可能にするという手段を講じたものである。
【0008】
本発明に係るポータブルトイレは、脚部と座部とから成る椅子型のものであり、座部は背凭れを有している。脚部と座部に関して、これらが互いに独立した構造を持つ、とは、互いに分離可能であること、分離した状態で各部、特に脚部は独立して高さ調節機能を発揮し得る構造、機能を有していることが必要であるという趣旨である。互いに独立した構造を持つ脚部と座部は、予め決められた一定の組み合わせというものを持つ必要はなく、材質、構造等の異なる複数種類のものを組み合わせられ、かつ、組み合わせを任意に変更することが可能となる。
【0009】
1基のポータブルトイレは、便器を座部に有するものとし、便器は脚部の上に位置するものとする。便器の便座に当たる箇所は、いわゆる便座カバーにより覆われ、不使用時に椅子として使用し得るように、便座カバーを座板としても利用し得る構造とすることが望ましく、このような構造を具備することによって、ポータブルトイレはトイレ付きの椅子となる。本発明において、座部として、便器を有するものと、便器を有していないものを使用することが可能であり、これらを交換して使用すること及び使用せず踏み台とすることは問題なく行える。
【0010】
高さ調節機構は脚部に設けられており、1対の支柱を交差させ、X字状に軸支したものを複数個用意し、交差角度を変えることにより高さを調節可能とする。従って、支柱の交差角度を変える手段、構成は任意事項であるが、望ましいのは各支柱の下端及び上端の一方を下枠及び上枠に軸支し、各支柱の下端及び上端の他方を下枠及び上枠にスライド可能に設け、スライド可能に設けた支柱の側に弾性部材やピストン、シリンダー装置等から成る付勢手段を取り付ける、という構成である。付勢手段により、上枠を上昇する方向へ付勢するものとすれば、上からの押し下げ荷重により座部の高さを任意に変化させ、荷重を取り去れば座部を上昇傾向に付勢し得る。
【0011】
弾性部材による付勢の場合には、各支柱の下端の一方と他方を接近させる方向へ圧縮ばねを掛ける方法があり、座面が適当な高さとなる位置で、位置決め機構を用いて下端の他方を固定することにより、一定の高さに保持することができる。流体圧力を利用するピストンシリンダー装置を付勢に利用するときには、やはり流体圧力によって座部を上昇させる傾向となるように付勢するのであるが、座部の高さ位置を固定するには流体圧力を一定に保持すれば良いので、機械的な位置決め機構は必要ではない代わりに、流体圧力回路における圧力流体を制御することにより行うことができる。
【0012】
高さ調節機構は、独立した構成を有するため、座部から取り外すことにより、踏み台として利用することが可能であり、上枠に踏み板を載せて置く。この場合にも高さ調節は可能であり、従って高さ調節可能な踏み台として構成し得る。脚部には、最小限度の移動手段として小車輪を設けることができるが、本発明のようなポータブルトイレ、踏み台の類では4輪の必要はなく、例えば後部に左右1対の2輪を設ければ十分である。この2輪はポータブルトイレを移動させるためのものではあるが、運搬のための移動ではなく、位置をずらせたりする程度の極く限定された用途とし、脚部後側に作り付けに取り付けておくことができ、そのようにしても脚部前側には車輪がなく、しかも荷重がかかっているので不意に移動するおそれはない。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以上のように構成されかつ作用するものであるから、ポータブルトイレにおいて、身長に応じた高さに便座の高さ調節を行うことが可能になり、また高さ調節機構を有する脚部と便器を有する座部とを互いに独立した構造としているので、異なる形態を持つ脚部又は座部を任意に組み合わせて1基のポータブルトイレを構成し得るとともに、座部として何種類のものを組み合わせることができ、商品展開の多様性に寄与し、ポータブルトイレという単機能製品に、椅子や車椅子としても利用可能という多機能性を付与することができる等、顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下図示の実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。図1は、本発明に係る高さ調節装置を適用したポータブルトイレの例示であり、便器11を有する座部10と、便器を有しない座部20との2種類の座部10、20を、1種類の脚部30と組み合わせるものである。
【0015】
便器11を使用する座部10は、アルミニウムパイプを加工して座枠12と背枠13、肘当て14、14′及び脚部30との係合枠部15、15を設けた軽量なもので、便器受けには便座16と、便座カバーを兼ねた座板17を設けている。肘当て14、14′の一方14′は他方14の半分程に短くし、使用上の便宜を図っている。係合枠15、15は左右一対が同形とされ、後述する脚部30の上枠35の外側を挟む状態となり、座部10は上枠35に安置される。この例の座部10はアルミニウム製であるから、プラスチック製となる便座16とともに、座板17を樹脂シートでカバーすることにより水洗いも可能である。
【0016】
座板17は、二つ折り構造を持ち、ポータブルトイレとして使用する状態では二つ折りとして跳ね上げ、背凭れとして使用される。また、座板17を便座カバー16の上に延ばして塞いだ椅子としての使用時のために、背凭れ18が背枠13に取り付けられている。更に、背枠13の上端部は後方へ曲げられてさらに下がり気味となり、ハンドル19として使用することができる。
【0017】
便器を有さない方の座部20は、木材を用いて座枠21と背枠22と肘当て23、23を設けた家具調のもので、座枠21には座板24が、また背枠22には背凭れ25が設けられており、便器11を使用する座部10よりもゆったりと腰掛けられるようになっている。例示の肘当て23、23は、後端の軸26により背枠22に軸支されており、前端の支持材27、27を座枠21の左右側面に設けた支持材受け28、28に係合させ、図示のようにして使用する。肘当て23、23は係合解除のための操作レバー29を有しており、これを操作すると支持材受け28から支持材27、27を外して肘当て23、23を下に回し、さらに肘当て23、23を背枠22に沿って下げた状態に変えることができるように構成されている。
【0018】
脚部30は、各1対2本の支柱31、32をX字状に交差し、かつ交差部33にて軸支したものを、2組並列して配置した高さ調節機構を具備しており、一方の支柱31、31の一端を下枠34に夫々軸支して結合し、一方の支柱31、31の他端を上枠35に夫々スライド可能に設け、他方の支柱32、32の一端も下枠34に夫々軸支して結合し、他方の支柱32、32の他端を上枠35に夫々スライド可能に設け、各支柱31、32、31、32の交差角度の変化によって高さを調節可能にしている。下枠34は並行する2本の枠部を有し、その内側にガイドロール36を設け、他方の支柱32、32の下方の他端に取り付けたガイドロール37によってスライドがスムーズに行えるようになっている。上枠35も並行する2本の枠部を有し、その内側にガイドレール38を設け、一方の支柱31、31の上方の他端に取り付けたガイドロール39によって、スライドがスムーズに行えるようになっている。
【0019】
例示の場合、他方の支柱32、32を横架材41によって結合しており、そのため横架材41との結合部材42に支柱下端を軸支している。また結合部材42には前記ガイドレール36の内側をガイド面とする補助ロール43、43が設けられている。このようにしてスライド可能に設けた、他方の支柱32、32の脚部に付勢手段44としてコイルばねの一端を取り付け、コイルばねの他端は一方の支柱31、31の側に取り付け、一対の支柱31、32の交差角度が狭まるように引張力を加えている。なお付勢手段としてピストンシリンダー装置を利用し、そのピストンの伸縮により一対の支柱31、32の交差角度を変化させるようにしても良い。
【0020】
付勢手段44としてコイルばねを使用した例示の場合、一対の支柱31、32を任意の交差角度で固定するために、位置決め機構を設ける。例示の位置決め機構は、他方の支柱32の下端の移動方向に沿って列設した調節孔45と、調節孔45に係合、離脱可能な係合子46とを有し、係合子46の他端はプッシュプルケーブル等から成る操作索47により操作されるレバー48に取り付けられていて、圧縮ばねから成る押圧手段49により、係合子46を調節孔45との係合方向へ付勢する構成を有している。なお、調節孔45は可能な限り狭い間隔で設けると微調節が可能となる。
【0021】
脚部30には、さらに移動手段51として小車輪を下枠34の枠部後端52に設けている。小車輪は下枠34の下面よりも僅かに下に出る程度とし、枠部後端52より後方にも出る構成として、前端の支点53を持ち上げるようにすることにより小車輪のみによる移動を容易にしている。より積極的な運搬手段としては着脱式の車輪54を使用することも可能である。この車輪54は、車輪枠に取り付け用のねじ軸を有し、それを下枠下面に開けられたねじ孔55にねじ入れるような簡単な方法で取り付けられかつ取り外せることが望ましい。
【0022】
本発明に係るポータブルトイレの高さ調節装置では、脚部30に座部10を載置して1基のポータブルトイレを構成することができる。図4参照。座部10は係合枠15、15を上枠35の左右両枠部の外側に配置して載せることにより、便器11が一対の支柱31、32、31、32間に収まり安定した状態になるが、補助的な固定手段を併用して脚部30と座部10を固定することは自由に行って良い。脚部30に座部10を載置する代わりに踏み板40を載せて置くこともでき、この場合には脚部単独で踏み台として使用することができる。また便器を有しない座部20を脚部30に載置したときには高さ調節可能な椅子として使用することができる。
【0023】
位置決め手段を非係合状態にして、脚部30又は脚部30に組み合わされた座部10、20に荷重を加えると、付勢手段44の作用下に脚部30又は座部10、20の高さを高低変化させることができ、その結果選んだ高さで操作索47を操作し、固定すれば、希望の高さの座面を持つポータブルトイレ、或いは椅子、若しくは任意の高さの踏み台とな
る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るポータブルトイレの高さ調節装置の実施形態を示す斜視図。
【図2】ガイドレール及び位置決め機構部を下から見た斜視図。
【図3】位置決め機構部の平面説明図。
【図4】使用状態を示す側面図。
【符号の説明】
【0025】
10、20 座部
11 便器
12、21 座枠
13、22 背枠
15 係合枠
17、24 座
18、25 背凭れ
19 ハンドル
30 脚部
31、32 1対の支柱
33 交差部
34 下枠
35 上枠
36、38 ガイドレール
37、39 ガイドロール
40 踏み板
41 横架材
43 補助ロール
44 付勢手段
45 調節孔
46 係合子
47 操作索
51 移動手段
53 支点




【特許請求の範囲】
【請求項1】
椅子型のポータブルトイレにおける座面の高さ調節装置であって、脚部に対して独立した構造を持つ座部を脚部と組み合わせて1基のポータブルトイレを構成し得るものであり、高さ調節機構として1対の支柱を交差させ交差部で軸支したものを複数個用意し支柱の交差角度を変えることにより高さを調節可能とした構成を有するポータブルトイレの高さ調節装置。
【請求項2】
高さ調節機構は、各支柱の下端及び上端の一方を下枠及び上枠に軸支し、各支柱の下端及び上端の他方を下枠及び上枠にスライド可能に設け、スライド可能に設けた支柱の側に弾性部材やピストンシリンダー装置等の付勢手段を取り付けた構成を有する請求項1記載のポータブルトイレの高さ調節装置。
【請求項3】
高さ調節機構は、座部から取り外すことにより踏み台となり、そのために上枠に踏み板を載せて置くようにした請求項1記載のポータブルトイレの高さ調節装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−26324(P2006−26324A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213543(P2004−213543)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(595113989)コシオカ産業株式会社 (3)
【出願人】(504279692)株式会社ハンナ高圧工業 (1)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】