説明

マイクロアレイの測定方法

【課題】マイクロアレイごとの性能劣化や洗浄不良などを客観的に判定する手段を提供する。
【解決手段】マイクアレイを用いてプローブポリヌクレオチドとターゲットポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを検出する方法であって、1)プローブポリヌクレオチドが固定化された複数のスポットに加えて、蛍光標識された基準ポリヌクレオチドが固定化された基準スポットを一箇所以上有するマイクロアレイに、蛍光標識されたターゲットポリヌクレオチドを接触させる工程、2)マイクロアレイを洗浄することにより、未反応のターゲットポリヌクレオチドを除去する工程、3)基準スポットにおける蛍光を測定し、所定の値を満たせば測定可と判断する工程、及び4)測定可と判断されたら、プローブポリヌクレオチドが固定化された各スポットにおける蛍光を測定する工程を含む、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロアレイを用いてプローブポリヌクレオチドとターゲットポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多種多様な生物の遺伝子構造を明らかにするのみならず、その遺伝子機能をゲノムスケールで解明しようとする試みが行われつつあり、遺伝子機能を効率的に解析するための技術開発も急速に進んでいる。マイクロアレイは、スライドガラス等の担体に多数のポリヌクレオチドを所定の領域毎に整列固定させた高密度のアレイであり、遺伝子の塩基配列の決定、並びに遺伝子の発現、変異、多型性などの同時解析に非常に有用である。このマイクロアレイを用いた遺伝子情報の解析は、創薬研究、疾病の診断や予防法の開発などに極めて有用である。
【0003】
マイクロアレイを用いた検出では、まず担体表面に高密度に整列したプローブポリヌクレオチドに対して、放射性同位体や蛍光色素で標識したターゲットポリヌクレオチドをハイブリダイズさせる。このとき、プローブポリヌクレオチドと相補的な塩基配列をもつターゲットポリヌクレオチドは、プローブポリヌクレオチドと相補的にハイブリダイズするが、ハイブリダイズしなかったポリヌクレオチドは洗浄により除去される。
【0004】
マイクロアレイを用いたハイブリダイゼーションの検出では、マイクロアレイごとの性能劣化や洗浄不良などにより誤判定が起こる場合がある。しかし、その誤判定か否かの判断は、マイクロアレイを使用するユーザーに委ねられており、非常にあいまいであった。このような状況では検出器と反応装置と組み合わせた自動装置で多数の試料を処理することは不可能であった。
【0005】
特許文献1には、スポットの輝度が検出器の検出下限以下である場合や検出上限以上である場合に生じる判定誤差をなくすために、プローブDNAを濃度を変えてスポットしたマイクロアレイを用い、特定の範囲の輝度を有するスポットの結果のみで判定する方法が記載されている。しかし、当該方法では、マイクロアレイごとの性能劣化や洗浄不良などを判定することはできない。
【0006】
【特許文献1】特許0880361
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、マイクロアレイごとの性能劣化や洗浄不良などを客観的に判定する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、プローブポリヌクレオチドが固定化されたスポットに加えて、蛍光標識された基準ポリヌクレオチドが固定化された基準スポットを設けたマイクロアレイを用い、ハイブリダイゼーション反応して洗浄した後に、まず基準スポットの蛍光を測定することによりマイクロアレイごとの信頼性を判定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
【0010】
(1)マイクアレイを用いてプローブポリヌクレオチドとターゲットポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを検出する方法であって、
1)プローブポリヌクレオチドが固定化された複数のスポットに加えて、蛍光標識された基準ポリヌクレオチドが固定化された基準スポットを一箇所以上有するマイクロアレイに、蛍光標識されたターゲットポリヌクレオチドを接触させる工程、
2)マイクロアレイを洗浄することにより、未反応のターゲットポリヌクレオチドを除去する工程、
3)基準スポットにおける蛍光を測定し、所定の値を満たせば測定可と判断する工程、及び
4)測定可と判断されたら、プローブポリヌクレオチドが固定化された各スポットにおける蛍光を測定する工程、
を含む、前記方法。
【0011】
(2)基準ポリヌクレオチドの蛍光標識とターゲットポリヌクレオチドの蛍光標識が同一である、(1)記載の方法。
【0012】
(3)マイクロアレイにおいて、プローブポリヌクレオチドのスポットと基準スポットが整列して配置されており、基準スポットが少なくとも二箇所存在し、いずれか二箇所の基準スポットを結ぶ線を基準線として、基準スポットからの距離と基準線からの角度に基づいてプローブポリヌクレオチドの各スポットの位置が検出される、(1)又は(2)記載の方法。
【0013】
(4)プローブポリヌクレオチドのスポットと基準スポットが、外周が四角形の格子状に配置されており、基準スポットが四角形の異なる頂点に存在する、(3)記載の方法。
【0014】
(5)マイクロアレイにおいて、プローブポリヌクレオチドのスポットと基準スポットが、外周が正方形又は長方形の格子状に整列して配置されており、基準スポットがその対角線上の頂点に二箇所存在し、
各基準スポット上を通る二つの直線が垂直に交わる交点を検出し、
前記交点と各基準スポットとを結ぶ二つの結線の長さを検出し、
前記結線の長さとスポット数から結線上の各スポット位置が検出される、(1)又は(2)記載の方法。
【0015】
(6)工程2)の後かつ工程4)の前において、
すべてのスポットについて、スポットの中心から一定の範囲の位置の輝度をそれぞれ測定して、複数のバックグラウンド値を得る工程、
得られた複数のバックグラウンド値を代表するバックグラウンド代表値を算出する工程、及び
すべてのスポットについて、バックグラウンド値とバックグラウンド代表値の差をそれぞれ算出し、所定の値以上の差を有するスポットが存在する場合には測定不可と判断する工程
をさらに含む、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0016】
(7)工程2)の後かつ工程4)の前において、
複数のスポットについて、スポットの中心から一定の範囲の位置の輝度をそれぞれ測定して、複数のバックグラウンド値を得る工程、
得られた複数のバックグラウンド値を代表するバックグラウンド代表値を算出する工程、及び
バックグラウンド値を測定したすべてのスポットについて、バックグラウンド値とバックグラウンド代表値の差をそれぞれ算出し、所定の値以上の差を有するスポットが存在する場合には測定不可と判断する工程
をさらに含む、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0017】
(8)前記スポットの中心から一定の範囲が、スポットの中心位置から一定の距離以上で、スポット間隔長を一辺としスポットの中心位置を中心とした四角形の範囲内である(6)又は(7)に記載の方法。
【0018】
(9)バックグラウンド代表値が、複数のバックグラウンド値の平均値又はメディアン値である(6)〜(8)のいずれかに記載の方法。
【0019】
(10)工程2)の後かつ工程4)の前において、
複数のスポットについて、スポットの中心から一定の範囲の位置の輝度をそれぞれ測定して、複数のバックグラウンド値を得る工程、
複数のバックグラウンド値の平均値又はメディアン値をバックグラウンド代表値として算出する工程、
バックグラウンド代表値が所定の値以上の場合には測定不可と判断する工程
をさらに含む、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0020】
(11)バックグラウンド代表値を、マイクロアレイにおけるスポット群の最外周に存在する複数のスポットのバックグラウンド値から算出することを特徴とする(6)〜(10)のいずれかに記載の方法。
【0021】
(12)基準スポットに固定化する蛍光標識したポリヌクレオチドの濃度が、100nM〜250nMの範囲である、(1)〜(11)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、マイクロアレイごとの信頼性が判定でき、信頼性のあるマイクロアレイを用いて測定を実施することができる。従って、誤判定を抑えることができる。また、自動反応装置などと組み合わせることで、自動でマイクロアレイの測定を高い信頼性をもって実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、マイクアレイを用いてプローブポリヌクレオチドとターゲットポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを検出する方法に関する。
【0024】
本発明においてポリヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドが包含され、DNAおよびRNAを含む核酸が包含される。DNAには、一本鎖DNAおよび二本鎖DNAが包含される。また、核酸には、リン酸ジエステル部位を修飾した人工核酸;フラノース部位のグリコシル結合やヒドロキシル基を修飾した人工核酸;核酸塩基部位を修飾した人工核酸;および糖・リン酸骨格以外の構造を利用した人工核酸なども包含され、より具体的には、リン酸部位の酸素原子を硫黄原子で置換したホスホロチオエート型、ホスホロジチオエート型、ホスホロジアミデート型、メチルホスホネート型またはメチルホスホノチオエート型の人工核酸;フラノース環上の置換基修飾型、糖環骨格が1炭素増炭したピラノース型、または多環式糖骨格型の人工核酸;ピリミジンC−5位修飾塩基型、プリンC−7位修飾塩基型、または環拡張修飾塩基型の人工核酸などが包含される。
【0025】
本発明においてプローブポリヌクレオチドは、当技術分野で通常用いられる意味を有し、目的遺伝子を検出するために用いられるポリヌクレオチドであって、目的遺伝子に対応するポリヌクレオチドまたはその断片と特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドをさす。プローブポリヌクレオチドとしては、通常、合成オリゴヌクレオチド、cDNAおよびゲノムDNA、それらの断片、ならびにそれらを変性させたもの(例えば、一本鎖を二本鎖に変性させたもの)等が用いられる。プローブポリヌクレオチドは、通常3〜5000塩基、好ましくは10〜1000塩基を有する。マイクロアレイに固定化するプローブポリヌクレオチドの濃度は、通常100nM〜250nMの範囲である。
【0026】
本発明においてターゲットポリヌクレオチドは、当技術分野で通常用いられる意味を有し、検出対象であるポリヌクレオチドをさす。ターゲットは標的と称される場合もある。通常、被検試料由来のポリヌクレオチドおよびそれを基にして酵素的に合成されたポリヌクレオチド、具体的には、mRNA、cDNA、aRNA、それらの断片、ならびにそれらを変性させたもの等が用いられる。
【0027】
ハイブリダイズまたはハイブリダイゼーションは、当技術分野で通常用いられる意味を有し、相補的な配列を持つポリヌクレオチド同士、例えば、一本鎖のDNA同士、一本鎖のRNA同士、または一本鎖のDNAと一本鎖のRNAが適切な条件下で二本鎖を形成することをいう。
【0028】
本発明においては、蛍光標識されたターゲットポリヌクレオチドを用いる。標識方法や標識の種類は、プローブポリヌクレオチドとターゲットポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションを検出できるものであれば特に制限されず、当技術分野で公知である。例えば、ターゲットポリヌクレオチドを合成または増幅する際に蛍光標識を共有結合させた基質(主にUTP)を取り込ませることにより、蛍光標識されたターゲットポリヌクレオチドを得ることができる。蛍光標識としては、Cy3およびCy5などのCyDye、FITC、RITC、ローダミン、テキサスレッド、TET、TAMRA、FAM、HEX、ROXなどが挙げられる。
【0029】
本発明では、マイクロアレイとして、プローブポリヌクレオチドが固定化された複数のスポットに加えて、蛍光標識された基準ポリヌクレオチドが固定化された基準スポットを一箇所以上、好ましくは少なくとも2箇所、より好ましくは2〜4箇所、さらに好ましくは2箇所有するマイクロアレイを用いる。基準スポットに固定化する蛍光標識したポリヌクレオチドの濃度は、通常100nM〜250nMの範囲である。
【0030】
本発明においては、上記マイクロアレイに、蛍光標識されたターゲットポリヌクレオチドを接触させ、洗浄により未反応のターゲットポリヌクレオチドを除去した後、基準ポリヌクレオチドの蛍光を測定する。基準ポリヌクレオチドは蛍光標識を有することから、ターゲットポリヌクレオチドがハイブリダイズしなくとも蛍光が検出されるはずである。蛍光が検出されない、または蛍光の値が低いということは、基準ポリヌクレオチドがマイクロアレイから失われていること、すなわち、その他のプローブポリヌクレオチドも同様に失われていることを意味する。従って、基準ポリヌクレオチドの蛍光を測定し、所定の値を満たすかどうか判定することにより、マイクロアレイが劣化しているか否か、換言すればマイクロアレイの信頼性を判断することができる。
【0031】
基準ポリヌクレオチドの蛍光標識は、特に制限されないが、ターゲットポリヌクレオチドの蛍光標識と同じものを用いるのが好ましい。同じものを用いることで、同じ検出器を用いて双方の蛍光標識を一括して測定することができ、迅速且つ簡便に測定を実施できる。
【0032】
本発明で用いるマイクロアレイにおいては、好ましくは、プローブポリヌクレオチドのスポットと基準スポットとが整列して、好ましくは格子状に配置されている。そして、好ましくは基準スポットが少なくとも二箇所存在し、いずれか二箇所の基準スポットを結ぶ線を基準線として、基準スポットからの距離及び基準線からの角度に基づいてプローブポリヌクレオチドの各スポットの位置(スポットの中心)が検出される。より具体的には、基準スポットからの距離及び基準線からの角度(各スポットと基準スポットを結ぶ線と基準線とがなす角度)、並びに所望によりスポットピッチ等から各スポットの中心位置を決定することができる。
【0033】
また、プローブポリヌクレオチドのスポットと基準スポットを、外周が正方形又は長方形の格子状に整列して配置し、基準スポットをその対角線上の向かい合う頂点に二箇所存在させることができる。この場合には、それぞれの基準スポット上を通る二つの直線が垂直に交わる交点を検出し、この交点とそれぞれの二箇所の基準スポットを結ぶ二つの結線を検出する。そして、結線の長さを算出しこの距離を、あらかじめ決定されている(四角形の外周上のスポット数−1)の数で割ることで、結線上の各スポット間隔が求められ、このスポット間隔から各スポット位置を検出することができる。例えば、スポットが4行×4列のマイクロアレイを用いたとする。このときは結線上のスポット数は4点である。結線の長さが900μmだったとすると、900÷(4−1)=300となり、スポット間隔は300μmとなる。これを用いて、基準スポットから結線上に300μm移動したところをスポットの中心とすることができ、さらにこの中心から結線上に300μm移動したところが次のスポットの中心となる。
【0034】
基準線を構成する二箇所の基準スポットは、マイクロアレイ上に整列したスポット群において、遠い位置に存在することが好ましい。プローブポリヌクレオチドのスポットと基準スポットは、外周が四角形の格子状に配置されており(例えば、図1)、基準スポットが四角形の異なる頂点に存在することが好ましい。
【0035】
プローブポリヌクレオチドのスポットと基準スポットにおける蛍光を測定するための検出器としては、例えば、蛍光レーザー顕微鏡、冷却CCDカメラ及びコンピュータを連結した蛍光スキャニング装置が用いられ、マイクロアレイ上の蛍光強度を自動的に測定することができる。CCDカメラの代わりに共焦点型または非焦点型のレーザーを用いてもよい。これにより、画像データが得られる。得られたデータから、マイクロアレイ上に固定化されたプローブポリヌクレオチドに対して相補性を有するターゲットポリヌクレオチドを同定することができ、これに基づいて遺伝子発現プロファイルを作成したり、ポリヌクレオチドの塩基配列を決定したりすることが可能になる。
【0036】
本発明の一実施形態では、マイクロアレイを洗浄することにより、未反応のターゲットポリヌクレオチドを除去する工程の後、実際の測定、すなわちプローブポリヌクレオチドが固定化された各スポットにおける蛍光の測定の前に、さらに以下の工程を実施することが好ましい。下記工程は、基準スポットにおける蛍光測定の前に実施してもよいし、後に実施してもよい。
【0037】
複数、好ましくはすべてのスポットについて、スポットの中心から一定の範囲の位置の輝度をそれぞれ測定して、複数のバックグラウンド値を得る工程、
得られた複数のバックグラウンド値を代表するバックグラウンド代表値を算出する工程、及び
バックグラウンド値を測定したすべてのスポットについて、バックグラウンド値とバックグラウンド代表値の差をそれぞれ算出し、所定の値以上の差を有するスポットが存在する場合には測定不可と判断する工程。
【0038】
ここで、スポットには、プローブポリヌクレオチドのスポットと基準スポットの双方が包含される。バックグラウンド値を得る複数のスポットとしては、マイクロアレイに整列して配置されたスポットのうち、少なくとも外周を形成するスポットすべてについてバックグラウンド値を測定することが好ましい。また、すべてのスポットについてバックグラウンド値を測定する必要はないが、すべてのスポットについてバックグラウンド値を測定してもよい。バックグラウンド値を測定する複数のスポットは、例えば、プローブポリヌクレオチドのスポットと基準スポットが、外周が四角形の格子状に配置されている場合、通常、少なくとも四角形の頂点の2スポット、好ましくは少なくとも四角形の頂点の4スポット、より好ましくは最外周のスポットすべてである。より具体的には、16行×16列のスポットであったときの最外周の60スポット、又は16行×16列のスポットであったときの全スポットである256スポットである。
【0039】
スポットの中心から一定の範囲の位置の輝度をそれぞれ測定して、バックグラウンド値とする際、中心から一定の範囲は、スポットの大きさとスポット間隔等に基づいて適宜設定される。例えば、図4に示すように、スポットの中心から一定の距離以上で、スポット間隔長を一辺としスポットの中心位置を中心とした四角形の範囲内とすることができる。例えば、スポット中心から70μm以上で一辺が1000μmの四角形の範囲内、好ましくはスポット中心から70μm以上で一辺が380μmの四角形の範囲内である。また、一定の範囲の位置のスポット全て又は一部について輝度を測定した平均値をバックグラウンド値としてもよいし、一定の範囲の位置の一スポットのみの輝度を測定してそれをバックグラウンド値としてもよい。
【0040】
スポットの中心の位置決め方法は特に制限されないが、例えば、各スポットにおいて、所定の蛍光強度(例えば、3000以上)を有する部分を検出し、その部分の中心とすることができる。あるいは、二箇所の基準スポットの中心を結ぶ線を基準線とし、基準スポットからの距離及び基準線からの角度、並びにスポットピッチ等から各スポットの中心位置を決定してもよい。
【0041】
バックグラウンド代表値は、測定した複数のバックグラウンド値を代表する値であれば特に制限されないが、好ましくは複数のバックグラウンド値の平均値又はメディアン値である。
【0042】
すべてのスポットについて、又は、バックグラウンド値を測定した全てのスポットについてのバックグラウンド値とバックグラウンド代表値の差をそれぞれ算出し、所定の値以上の差を有するスポットが存在する場合は、スポット周囲のバックグラウンド値にばらつきが大きいと判定でき、従って、当該マイクロアレイは洗浄不良であり、信頼性に欠けることから測定不可と判断することができる。ここで、所定の値は、条件等によって異なるが、例えば、画像の表示が16ビット諧調であるときは1000以上に設定することができる。画像の表示が例えば8ビット諧調であるときは、1000よりも小さい値を設定することになる。
【0043】
本発明の別の実施形態では、マイクロアレイを洗浄することにより、未反応のターゲットポリヌクレオチドを除去する工程の後、実際の測定、すなわちプローブポリヌクレオチドが固定化された各スポットにおける蛍光の測定の前に、さらに以下の工程を実施することが好ましい。下記工程は、基準スポットにおける蛍光測定の前に実施してもよいし、後に実施してもよい。
【0044】
複数のスポットについて、スポットの中心から一定の範囲の位置の輝度をそれぞれ測定して、複数のバックグラウンド値を得る工程、
複数のバックグラウンド値の平均値又はメディアン値をバックグラウンド代表値として算出する工程、
バックグラウンド代表値が所定の値以上の場合には測定不可と判断する工程。
【0045】
ここで、スポットには、プローブポリヌクレオチドのスポットと基準スポットの双方が包含される。バックグラウンド値を得る複数のスポットとしては、マイクロアレイに整列して配置されたスポットのうち、少なくとも外周を形成するスポットすべてについてバックグラウンド値を測定することが好ましい。また、すべてのスポットについてバックグラウンド値を測定する必要はないが、すべてのスポットについてバックグラウンド値を測定してもよい。バックグラウンド値を測定する複数のスポットは、例えば、プローブポリヌクレオチドのスポットと基準スポットが、外周が四角形の格子状に配置されている場合、通常、少なくとも四角形の頂点の2スポット、好ましくは少なくとも四角形の頂点の4スポット、より好ましくは最外周のスポットすべてである。より具体的には、16行×16列のスポットであったときの最外周の60スポット、又は16行×16列のスポットであったときの全スポットである256スポットである。
【0046】
スポットの中心から一定の距離、及び中心の決定方法については、上述のとおりである。
【0047】
複数のバックグラウンド値の平均値又はメディアン値であるバックグラウンド代表値が所定の値以上の場合には、スポット周囲のバックグラウンド値が全体的に大きいと判定でき、従って、当該マイクロアレイは洗浄不良であり、信頼性に欠けることから測定不可と判断することができる。ここで、所定の値は、条件等によって異なるが、例えば、1000以上に設定することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
実施例1 担体の調製
3mm角のシリコン基板にイオン化蒸着法を用いて、下記の条件で2層のDLC層の製膜を行った。
【0050】
【表1】

【0051】
得られた表面にDLC層を有するシリコン基板上に、下記の条件でアンモニアプラズマを用いて、アミノ基を導入した。
【0052】
【表2】

【0053】
140mM 無水コハク酸及び0.1M ホウ酸ナトリウムを含む1−メチル−2−ピロリドン溶液に30分間浸漬し、カルボキシル基を導入した。0.1M リン酸カリウムバッファー、0.1M 1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミド、20mM N−ヒドロキシスクシイミドを含む溶液に30分間浸漬し、活性化を行い、シリコン基板表面にDLC層及び化学修飾基としてのN−ヒドロキシスクシイミド基を有する担体を得た。
【0054】
実施例2 マイクロアレイの作製
プローブDNA及び基準DNAをそれぞれSol.6に溶解し(250nM)、実施例1で作製した担体上に図1のような配置でスポット(日立ソフトウエア製 SPBIO)した。基準DNAはCyDye(Cy5)で標識されたものを用いた。スポットピッチは、280μmとした。プローブDNA及び基準DNAにおけるDNAの配列は、以下のとおりである。
プローブDNA:TTGTCCGCGCCGGGCTTCGCTC(配列番号1)
基準DNA:ACTGGCCGTCGTTTTACAACGT(配列番号2)
【0055】
60℃で3時間ベーキングを実施した後に、次の手順で洗浄した。まず、2×SSC/0.2%SDS中、室温で、攪拌しながら15分間洗浄し、続いて、同溶液を用いて60℃に加熱しながら5分間洗浄し、超純水にてリンスした。再度にエアーにて吹き付け乾燥し、プローブDNA及び基準DNAがスポットされたマイクロアレイを作製した。
【0056】
上記実施例1及び2の手順に従って、2つのマイクロアレイ、すなわち、マイクロアレイ1及びマイクロアレイ2を作製した。
【0057】
実施例3 ターゲットDNAとのハイブリダイゼーション
ラムダファージのゲノムDNAを鋳型とし、上記プローブDNAとハイブリダイズする領域を以下のプライマーセットを用いてPCRで増幅した。
プライマー1:ACAGGGAATGCCCGTTCTGC(配列番号3)
プライマー2:AATAACCGACACGGGCAGAC(配列番号4)
標識は、CyDye(Cy5)を用いて行った。PCR溶液の組成は以下のとおりとした。
【0058】
【表3】

【0059】
得られたPCR産物1μlを、ハイブリダイズ溶液2μlに溶かし(最終濃度1×SSC/0.1%SDS溶液)、実施例2で作製したマイクロアレイ1及び2にそれぞれ滴下し、湿箱に入れて45℃で1時間インキュベートした。2×SSC/0.2%SDS、続いて2×SSCで洗浄し、乾燥した。
【0060】
実施例4 マイクロアレイの信頼性の判定及びハイブリダイゼーションの検出
蛍光の測定は、図2に示すような検出器を用いて実施した。レーザーで励起光をマイクロアレイ全面に照射した。蛍光フィルターにより、目的の波長以外の波長を有する光をカットした。
【0061】
まず、基準スポットの蛍光を測定した。基準スポットにおいて、8000以上の蛍光強度を有する部分を検出し、その部分の中心を決定し、基準スポットの中心とした。基準スポットにおいて、8000以上の蛍光強度が検出されなかった場合は、測定不可と判定することとした。マイクロアレイ1においては、基準スポット1(Y=8、X=1)で8500の蛍光強度が検出され、基準スポット2(Y=8、X=8)で8197の蛍光強度が検出された。マイクロアレイ2においては、基準スポット1(Y=8、X=1)で7168の蛍光強度が検出され、基準スポット2(Y=8、X=8)で7243の蛍光強度が検出された。従って、マイクロアレイ1は測定可と判断し、マイクロアレイ2は測定不可と判断した。
【0062】
また、上記2つのマイクロアレイにおいて、二箇所の基準スポットの中心を結ぶ線を基準線とし、基準スポットからの距離及び基準線からの角度(各スポットと基準スポットを結ぶ線と基準線とがなす角度)、並びにスポットピッチから各スポットの中心位置を決定した。
【0063】
なお、各スポットの中心位置から220μmの位置以上から、スポット間隔(280μm)長を1辺とした四角形(中心はスポット中心と同じ)の内部で囲まれるピクセルの輝度をバックグラウンド値算出対象とすることができる。最外周の全スポットのバックグラウンド値を測定し、その平均値をバックグラウンド代表値として求めた。これが所定の値(1500)より高い場合、マイクロアレイの洗浄不良と判断し、測定不可と判断することとした。
【0064】
また、最外周すべてのスポットについて、バックグラウンド値とバックグラウンド代表値(平均値)の差をそれぞれ算出し、所定の値(1000)以上の差を有するスポットが存在する場合にもマイクロアレイの洗浄不良と判断し、測定不可と判断することとした。
【0065】
最外周の全スポットのバックグラウンド値の測定結果、並びにバックグラウンド値とバックグラウンド代表値(平均値)の差を以下の表に示す。
【0066】
【表4】

【0067】
マイクロアレイ1では、最外周の全スポットのバックグラウンド値の平均値は391.57であった。一方、マイクロアレイ2では、最外周の全スポットのバックグラウンド値の平均値は1871.14であった。従って、マイクロアレイ1は測定可と判断し、マイクロアレイ2は測定不可と判断した。
【0068】
また最外周の全スポットについて、バックグラウンド値とバックグラウンド代表値(平均値)の差を測定した結果、マイクロアレイ1では、所定の値(1000)以上の差を有するスポットは存在しなかった。一方、マイクロアレイ2では、所定の値(1000)以上の差を有するスポットが存在した。従って、マイクロアレイ1は測定可と判断し、マイクロアレイ2は測定不可と判断した。
【0069】
マイクロアレイ1及び2の蛍光画像を図3に示す。マイクロアレイ2は洗浄不良であることが蛍光画像から明らかである。以上から、本発明の方法により、ユーザーが蛍光画像を見て判断することなく、マイクロアレイごとの性能劣化や洗浄不良などを客観的に判定できることが示された。
【0070】
なお、上記実施例では最外周すべてのスポットについて、バックグラウンド値とバックグラウンド代表値(平均値)の差をそれぞれ算出したが、最外周すべてのスポットのみではなく、マイクロアレイ上の全てのスポットのバックグラウンド値とバックグラウンド代表値(平均値)の差をそれぞれ算出して処理を行うこともできる。この場合には、より精度が高い判断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】マイクロアレイにおけるプローブDNA及び基準DNAのスポットの配置の一態様を示す。
【図2】マイクロアレイの蛍光検出に用いる検出器の一態様を示す。
【図3】本発明において測定可と判断されるマイクロアレイと測定不可と判断されるマイクロアレイの蛍光画像を示す。
【図4】バックグラウンド値として輝度を測定する、スポットの中心から一定の範囲の位置を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクアレイを用いてプローブポリヌクレオチドとターゲットポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを検出する方法であって、
1)プローブポリヌクレオチドが固定化された複数のスポットに加えて、蛍光標識された基準ポリヌクレオチドが固定化された基準スポットを一箇所以上有するマイクロアレイに、蛍光標識されたターゲットポリヌクレオチドを接触させる工程、
2)マイクロアレイを洗浄することにより、未反応のターゲットポリヌクレオチドを除去する工程、
3)基準スポットにおける蛍光を測定し、所定の値を満たせば測定可と判断する工程、及び
4)測定可と判断されたら、プローブポリヌクレオチドが固定化された各スポットにおける蛍光を測定する工程、
を含む、前記方法。
【請求項2】
基準ポリヌクレオチドの蛍光標識とターゲットポリヌクレオチドの蛍光標識が同一である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
マイクロアレイにおいて、プローブポリヌクレオチドのスポットと基準スポットが整列して配置されており、基準スポットが少なくとも二箇所存在し、いずれか二箇所の基準スポットを結ぶ線を基準線として、基準スポットからの距離と基準線からの角度に基づいてプローブポリヌクレオチドの各スポットの位置が検出される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
プローブポリヌクレオチドのスポットと基準スポットが、外周が四角形の格子状に配置されており、基準スポットが四角形の異なる頂点に存在する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
マイクロアレイにおいて、プローブポリヌクレオチドのスポットと基準スポットが、外周が正方形又は長方形の格子状に整列して配置されており、基準スポットがその対角線上の頂点に二箇所存在し、
各基準スポット上を通る二つの直線が垂直に交わる交点を検出し、
前記交点と各基準スポットとを結ぶ二つの結線の長さを検出し、
前記結線の長さとスポット数から結線上の各スポット位置が検出される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項6】
工程2)の後かつ工程4)の前において、
すべてのスポットについて、スポットの中心から一定の範囲の位置の輝度をそれぞれ測定して、複数のバックグラウンド値を得る工程、
得られた複数のバックグラウンド値を代表するバックグラウンド代表値を算出する工程、及び
すべてのスポットについて、バックグラウンド値とバックグラウンド代表値の差をそれぞれ算出し、所定の値以上の差を有するスポットが存在する場合には測定不可と判断する工程
をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
工程2)の後かつ工程4)の前において、
複数のスポットについて、スポットの中心から一定の範囲の位置の輝度をそれぞれ測定して、複数のバックグラウンド値を得る工程、
得られた複数のバックグラウンド値を代表するバックグラウンド代表値を算出する工程、及び
バックグラウンド値を測定したすべてのスポットについて、バックグラウンド値とバックグラウンド代表値の差をそれぞれ算出し、所定の値以上の差を有するスポットが存在する場合には測定不可と判断する工程
をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記スポットの中心から一定の範囲が、スポットの中心位置から一定の距離以上で、スポット間隔長を一辺としスポットの中心位置を中心とした四角形の範囲内である請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
バックグラウンド代表値が、複数のバックグラウンド値の平均値又はメディアン値である請求項6〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
工程2)の後かつ工程4)の前において、
複数のスポットについて、スポットの中心から一定の範囲の位置の輝度をそれぞれ測定して、複数のバックグラウンド値を得る工程、
複数のバックグラウンド値の平均値又はメディアン値をバックグラウンド代表値として算出する工程、
バックグラウンド代表値が所定の値以上の場合には測定不可と判断する工程
をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
バックグラウンド代表値を、マイクロアレイにおけるスポット群の最外周に存在する複数のスポットのバックグラウンド値から算出することを特徴とする請求項6〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
基準スポットに固定化する蛍光標識したポリヌクレオチドの濃度が、100nM〜250nMの範囲である、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−236626(P2009−236626A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81773(P2008−81773)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】