説明

マイクロタイター・プレート

本発明は透明な底部を有するウェルを備えるマイクロタイター・プレートに関するものであり、そこにおいて前記マイクロタイター・プレートは少なくとも2つの隣接するウェルの間に少なくとも1つの物理的変形を含む。物理的変形は、例えば溝、隆起、穴、切れ込み、または段の形状を有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェル間の光学クロストークが減少したマイクロタイター・プレートに関する。本発明は、光の放射または透過を用いた分析法で使用するこの種のマイクロタイター・プレートにも関する。
【背景技術】
【0002】
多数の生物工学的な分析法はマルチ・ウェル・サンプル・プレート(一般にマイクロタイター・プレートと呼ばれる)を利用する。別々の反応が各ウェルにおいて実行され、そして反応の最終製品は分析の結果を解釈するために用いる。あるいは、反応はリアルタイムにフォローされることができる。
【0003】
この種の分析法は溶液において実行されることができる、すなわち、すべての反応物は溶液中に存在する。検出される分析物が存在する場合、反応物はある種の信号、例えば外観、または色の変化、光放射、汚濁等を与える。1つの実施例はパイロシーケンシング(Pyrosequencing)(登録商標)分析であり、それは、ヌクレオチドの核酸鎖への結合の後に酵素カスケード・システムにより放射される光の検出を含む。分析法は、ウェルの固相で、例えば、いわゆるサンドイッチ分析で実行されることも可能であり、そこでは分析物に対する親和性を有する分子がウェルの底部に結合され、おそらく分析物を含んでいるサンプルが加えられ、分析物に対する親和性を有するラベルを付けられた分子が加えられ、過剰なラベルが流され、そしておそらく現像薬の追加の後に、いかなる残りのラベルも検出される。
【0004】
上記のような方法で検出される信号は、ウェルからの光放射またはウェルを通しての光透過を含むことができる。さまざまな光検出手段によって、ウェルの底部の下でこの種の光を自動的に検出することは一般的である。従って、マイクロタイター・プレートは、試薬が上から施されることができるのに対して、下からのリアルタイム光検出を可能にするために透明な底部を有する。ウェルの内容の色または汚濁が測定されることになっている場合、光はプレートより上の光源から放射されることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第94/21379号パンフレット
【特許文献2】米国特許第6,051,191号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この種のプレートを製造する最も便利で経済的な方法は、それを1枚の透明材料から、例えば真空成形または射出成形によって作り出すことである。このように、全体のプレートは透明である。また一方、透明なプラスチックは光を1つのウェルから別のウェルまで導くことができる。この現象は光の内面反射および透過によって生じ、そして光信号が発生しないはずのウェルからの疑似信号を生じる。その結果は誤った結果である。従って、この種の反射および透過は回避されなければならない。
【0007】
特許文献1は、ウェルの壁が、内側および/または外側で、反射材料、例えば金属、セラミック、または半導体で被覆されている構造を示している。あるいは、プレートは、反射材料から、または透明なマイクロプレートを反射プレート内に入れることにより製作される。しかしながら、これらの構造は製作するのに高くつく。また、この種のコーティング技術を使用するときに、ウェルの底面をコーティングする危険がある。加えて、内側のコーティングは、ウェル内の所望の生物学的/化学的処理に影響を及ぼすかもしれない。前記文献はまた、プラスチックを着色し、それによって透過率または反射率を低下させるための色素の使用も公知であると述べている。プレートが2つの異なる材料で形成されることを必要とするので、透明な底部が必要である場合、これらの解決策は製造コストを増大させる。
【0008】
特許文献2は、2つの異なるポリマーを含む構造によるクロストークを減らすマイクロプレートを提供する。ウェルは不透明なポリマーの基材(マトリックス)に置かれる透明なポリマーから成る。不透明なポリマーは、ウェルの壁の外側、および前記ウェル間の上面をカバーして、透明な底部および不透明な壁を有するウェルにする。このマイクロプレートがウェル間のクロストークを減らす一方、それはまた複雑な多段階の製造工程を必要として、それはそれを製作するのを高価にする。
【0009】
全ての上述のマイクロタイター・プレートは光ベースの分析法で用いられることが可能である。しかしながら、製造するのが容易であり、安価であり、そして光の検出または測定に基づいて分析法で使われるときに、光の透過率および/または反射率をさらに低下させるマイクロタイター・プレートの必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、リアルタイム測定を容易にして、減少した光学クロストークを呈するマイクロタイター・プレート構造を提供することである。マイクロタイター・プレートの製造コストは、それを使い捨てにするために十分に低くなければならない。
【0011】
本発明の第1態様において、透明な底部を有するウェルを備えるマイクロタイター・プレートが設けられ、そこにおいて前記マイクロタイター・プレートは少なくとも2つの隣接するウェルの間に少なくとも1つの物理的変形を有する。物理的変形は、溝、隆起、穴、切れ込み、または段の形状を有することができる。
【0012】
さらなる実施形態において、隣接するウェル間の各表面は少なくとも1つの物理的変形を有する。
【0013】
さらなる実施形態において、物理的変形はいかなる幾何学的パターンででもウェルを囲むことができる。これは、例えば、格子または円または正方形の形で行われることができる。
【0014】
本発明によるマイクロタイター・プレートは、光の放射または透過、例えば化学ルミネセンス、生物発光、光度測定、および/または蛍光を測定する分析法のために適切に用いられることが可能である。
【0015】
本発明は、測定の間に反応物の同時追加を含む、リアルタイム測定を可能にする透明な底部を有するウェルを備えるマイクロタイター・プレートを提供する。クロストークの減少はウェルの間の物理的変形により達成される。マイクロタイター・プレートは、簡単な製造プロセスおよび安い生産コストを意味する従来の処理技術によって一体のものとして製造されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来技術において公知である、上から見られるマイクロタイター・プレート(a)および前記マイクロタイター・プレートの断面(b)を示す。点線矢印はウェルの配置を示す。
【図2】いろいろな物理的変形およびそれらのいろいろな組合せを有する本発明によるマイクロタイター・プレートの断面図を示す。
【図3】穴または切れ込み、および穴または切れ込みの隆起との組合せを含む構造を有する本発明によるマイクロタイター・プレートの断面図を示す。点線は穴または切れ込みを表す。
【図4】ウェルを囲む物理的変形を有する上から見た本発明によるマイクロタイター・プレートを示す。斜線の部分は物理的変形を表す。
【図5】実施例1による2つのマイクロタイター・プレートを示す。プレート1はウェルの間に溝を有するのに対して、プレート2はそうではない。
【図6】実施例2によるマイクロタイター・プレートを示す。
【図7】本発明によるマイクロタイター・プレートのa) 上から見た図、b) 断面図(Y―Y)、c) 断面図(XーX)、およびd) 斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本マイクロタイター・プレートは、図1による従来のマイクロタイター・プレートの通常の構造を備えることができる。マイクロタイター・プレートは通常矩形のプラスチックのマルチ・ウエル・プレートであるが、他のサイズまたは形状も可能である。リアルタイム測定を容易にするために、ウェルは、光が検出のために通過することを可能にするために透明な底部を有することを必要とする。上からの検出も可能である。放射/透過光が全方向に広げられるので、それはプラスチック材料によって、隣接するウェル中に透過および/または反射されて、誤った検出を生じる。この「クロストーク」は正確な測定値を得るために減らされなければならない。
【0018】
図1を参照すると、マイクロタイター・プレートの上面は1と表わされて、表面全体を指すのに対して、参照番号1aまたは1bは2つの隣接するウェル14の間の表面を示す。1aが上の上面であるのに対して、1bは下の上面である。本発明を以下に説明するときに、これらの参照番号が使われる。マイクロタイター・プレート用のこの種の従来の構造は本発明によるマイクロタイター・プレートのベースとして用いられる。
【0019】
図2は、上面(top surface)1aおよび1bのためのいろいろな物理的変形を含む本発明によるマイクロタイター・プレートの実施形態を示す。1つ以上の溝12または隆起13はいずれの表面上にも形成されることができる。溝は同じ位置の両方の表面上に形成することができ、それにより材料の厚みを減らすことができる。また、物理的変形は一方の側だけに位置することがありえる。図2a〜eに示される物理的変形のいかなる組合せも可能である。
【0020】
図3は、ウェル14間の上面の1つ以上の穴または切れ込み15がプレートの光の透過を減らすために用いられる実施形態を示す。点線は穴または切れ込みを表す。前記穴または切れ込みはウェル14の間のクロストークを減らすが、明らかにウェル14を完全に囲むというわけではない。図3はまた隆起13と穴または切れ込み15との組合せを示す。
【0021】
図4a〜dは、ウェル14を囲む物理的変形の幾何学的パターンを示し、斜線(ハッチング)部分16は物理的変形を表す。連続および非連続のパターンのどちらも可能である。
【0022】
変形がクロストークを減らす限り、それらがウェルを囲む物理的変形および幾何学的パターンの形状、高さ、または深さは重要でない。物理的変形が溝または隆起の形状を有する場合には、適切に、隆起の高さまたは溝の深さは、適切に、マイクロタイター・プレートを製造するために使用するプラスチック材料の厚みの0.1倍〜10倍、好ましくは0.5〜10倍、そして最も好ましくはプラスチック材料の厚みの2〜6倍である。通常、プラスチック材料は厚さ約0.5mmである。
【0023】
物理的変形は、所望の構造を有する型を用いてマイクロタイター・プレートの製造プロセスの間に形成されることができる。好ましくは、マイクロタイター・プレートは真空成形によって一体に製造される。当業者に知られている他の適切な製造技術、例えば射出成形または圧縮形成を用いることが可能である。
【0024】
本発明によるマイクロタイター・プレートは光検出に依存する分析法で適切に用いられて、マイクロタイター・プレートのウェルにおいて、放射されるか、またはそれを透過する光をいろいろな波長で測定できる。光は、上から、または、プレートの下で検出されることができる。さまざまな発光現象、例えば、生物発光、化学ルミネセンス、光度測定、および蛍光を分析できる。本発明は合成によるシークエンシング方法(sequencing−by−synthesis)にも適している。
【実施例1】
【0025】
溝はウェルの間に形成された。この溝は、プラスチックを通って導かれるいかなる光のかなり大きな割合も隣接したウェルに入るのを止めた。
【0026】
2つのプレートは同じプラスチックから製作された。図5に示すように、プレート1はウェルの間に溝12を有していたのに対して、プレート2はそうではなかった。
【0027】
ウェルB6〜8は、パイロシーケンシング(Pyrosequencing)(登録商標 )反応を実行するために用いる20ミクロン・リットルのアニーリング・バッファ(Annealing Buffer)で充填された。パイロシーケンシング分析を実行するための酵素および基質がウェルB7に加えられた。パイロスホスフェート(Pyrosphosphate)が、処理(dispensation)2でB7に施され、高い信号を与えた。水がB6およびB8に施され、それは信号を与えないはずである。このようにして、ウェルB7の処理2だけは信号を発生するはずである。B6およびB8はクロストークを測定するために用いた。ウェルの処理は下表に記載されている。
【0028】
【表1】

【0029】
試験の結果を以下に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
これらの結果は、明らかに、ウェル間の溝の追加(プレート1)がウェルの間に溝のないプレートが使用される場合(プレート2)と比較するとクロストークを減らすことを示す。右側の列に与えられるパーセント値はB6またはB8とB7の間の信号比率を表す。溝のないウェルの前記比率を溝のあるウェルの前記比率と比較すると、クロストークは50%以上減少した。
【実施例2】
【0032】
切れ込み15は図6に示すようにウェルの間に作られた。
【0033】
全てのウェル9は、パイロシーケンシング(Pyrosequencing)(登録商標 )反応を実行するために用いる20ミクロン・リットルのアニーリング・バッファで充填された。パイロシーケンシング分析を実行するための酵素および基質が中央ウェルに加えられた。3つの処理は全てのウェルに行われた。全ての処理は、中央ウェルへの2回目の処理を除いて、水であった。そしてそれは信号を与えないはずである。パイロスホスフェート(Pyrosphosphate)が、処理2として、中央ウェルに施され、高い信号を与えた。全てのウェルからの信号は各処理後に測定された。結果を以下に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
処理2からの信号は、中央ウェルB7の信号に対するパーセントとして、上の図表と同じレイアウトで以下に与えられる。
【0036】
【表4】

【0037】
このように、ウェル間の切れ込み15は、クロストークを著しく減らした(ウェルA6、B6、C6、A8、B8、およびC8の値をA7およびC7の値と比較する)。
【符号の説明】
【0038】
1 プレート
1a 上の上面
1b 下の上面
2 プレート
12 溝
13 隆起
14 ウェル
15 切れ込み
16 斜線部分
A6〜A8 ウェル
B6〜B8 ウェル
C6〜C8 ウェル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な底部を有するウェルを備えるマイクロタイター・プレートであって、少なくとも2つの隣接するウェルの間に少なくとも1つの物理的変形を含むマイクロタイター・プレート。
【請求項2】
前記物理的変形が、溝、隆起、穴、切れ込み、または段の形状を有する請求項1に記載のマイクロタイター・プレート。
【請求項3】
物理的変形が溝の形状を有する請求項1または2に記載のマイクロタイター・プレート。
【請求項4】
物理的変形がウェルを幾何学的パターンで囲む請求項1〜3のいずれか一項に記載のマイクロタイター・プレート。
【請求項5】
物理的変形が、円、格子、または正方形の形でウェルを囲む請求項4に記載のマイクロタイター・プレート。
【請求項6】
前記マイクロタイター・プレートは一体に製造される請求項1〜5のいずれか一項に記載のマイクロタイター・プレート。
【請求項7】
前記マイクロタイター・プレートは真空成形により製造される請求項6に記載のマイクロタイター・プレート。
【請求項8】
マイクロタイター・プレートのウェルで放射されるか、またはウェルを透過する光を測定する分析法で使用する請求項1〜7のいずれか一項に記載のマイクロタイター・プレート。
【請求項9】
前記分析法が、光度測定、化学ルミネセンス、生物発光、および/または蛍光を利用する請求項8に記載のマイクロタイター・プレート。
【請求項10】
分析法が合成によるシークエンシングである請求項8に記載のマイクロタイター・プレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−516823(P2011−516823A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−547593(P2010−547593)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【国際出願番号】PCT/SE2009/050198
【国際公開番号】WO2009/105030
【国際公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(510226428)キアゲン インストゥルメント アクチェンゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】