説明

マイクロチップ

【課題】マイクロチップが有する複数の光学測定用キュベットに収容された検査・分析対象について、簡便かつ迅速に検査・分析を行なうことができるマイクロチップを提供する。
【解決手段】基板表面上に設けられた溝および厚み方向に貫通する複数の貫通穴を備える第1の基板と、1または2以上の第2の基板とを貼り合わせてなる、内部に流体回路を有するマイクロチップであって、該マイクロチップは、該複数の貫通穴のうちいずれか2以上の貫通穴と該第2の基板の基板表面とから構成される2以上の光学測定用キュベットを有し、該2以上の光学測定用キュベットを構成する2以上の貫通穴は、第1の基板表面において、同一円の円周上に配置されるマイクロチップである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA、タンパク質、細胞、免疫および血液等の生化学検査、化学合成ならびに、環境分析などに好適に使用されるμ−TAS(Micro Total Analysis System)などとして有用なマイクロチップに関し、より詳しくは、検査・分析等を光学的測定により行なうための光学測定用キュベットを備えるマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。マイクロチップは、実験室で行なっている一連の実験・分析操作を、数cm〜10cm角で厚さ数mm〜数cm程度のチップ内で行なえることから、検体および試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができ、検体を採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有している。
【0003】
マイクロチップはその内部に流体回路を有しており、該流体回路は、たとえば検体(その一例として血液が挙げられる)と混合あるいは反応、または該検体を処理するための液体試薬を保持する液体試薬保持部、該検体や液体試薬を計量する計量部、検体と液体試薬とを混合する混合部、混合液について分析および/または検査するための光学測定用のキュベット(検出部)などの各部と、これら各部を適切に接続する微細な流路(たとえば、数百μm程度の幅)とから主に構成される。マイクロチップは、典型的には、これに遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して使用される。マイクロチップに適切な方向の遠心力を印加することにより、検体および液体試薬の計量、混合、ならびに該混合液の光学測定用キュベットへの導入等を行なうことができる。光学測定用キュベットに導入された混合液の検査・分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出)は、たとえば、混合液が収容された光学測定用キュベットへ検出光を照射し、その透過率等を測定することなどにより行なうことができる。
【0004】
ここで、マイクロチップ、特には、マイクロチップに導入される1種の検体について、複数項目の検査・分析を行なうことができるマイクロチップ(この場合、マイクロチップは、複数の光学測定用キュベットを有する)を用いた検査・分析においては、マイクロチップが有する上記メリットを最大限に生かすために、簡便かつ迅速な検出操作が求められる。
【0005】
なお、以上本発明についての従来の技術を、出願人の知得した一般技術情報に基づいて説明したが、出願人の記憶する範囲において、出願前までに先行技術文献情報として開示すべき情報を出願人は有していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、マイクロチップが有する複数の光学測定用キュベットに収容された検査・分析対象(たとえば、上記した検体と液体試薬との混合液)について、簡便かつ迅速に検査・分析を行なうことができるマイクロチップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明によれば、基板表面上に設けられた溝および厚み方向に貫通する複数の貫通穴を備える第1の基板と、1または2以上の第2の基板とを貼り合わせてなる、内部に流体回路を有するマイクロチップであって、該マイクロチップは、該複数の貫通穴のうちいずれか2以上の貫通穴と該第2の基板の基板表面とから構成される2以上の光学測定用キュベットを有し、該2以上の光学測定用キュベットを構成する2以上の貫通穴は、第1の基板表面において、同一円の円周上に配置されるマイクロチップが提供される。
【0008】
本発明のマイクロチップにおいて流体回路は、液体試薬を収容する液体試薬保持部と、液体試薬または検体を計量するための1以上の計量部と、該計量部に接続され、計量時において該計量部から溢れる液体試薬または検体を収容するための1以上の溢出液収容部と、を備えていてもよい。この場合、当該溢出液収容部は、第1の基板表面において、上記2以上の貫通穴が配置される円周上に配置されることが好ましい。
【0009】
また、上記流体回路は、液体試薬を計量するための1以上の液体試薬計量部および検体を計量するための1以上の検体計量部を有し、かつ計量時において該計量部から溢れる液体試薬または検体を収容するための複数の溢出液収容部を有していてもよい。
【0010】
また、本発明のマイクロチップは、基板の両面に設けられた溝および厚み方向に貫通する複数の貫通穴を備える第1の基板の両面に第2の基板を貼り合わせてなる、内部に2層の流体回路を有するマイクロチップであることが好ましい。
【0011】
ここで、上記第2の基板は、透明基板であることが好ましい。また、上記第1の基板は、不透明基板であることが好ましく、黒色基板であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数の光学測定用キュベットを有する、1種の検体について多項目の検査・分析を行なうことができるマイクロチップにおいて、当該複数の光学測定を簡便かつ迅速に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、実施の形態を示して、本発明を詳細に説明する。図1は、本発明に係るマイクロチップの一例を示す外形図であり、図1(a)は上面図、図1(b)は側面図、図1(c)は下面図である。図1に示されるマイクロチップ100は、黒色基板である第1の基板101の両面に、透明基板である2枚の第2の基板102、103を貼り合わせてなる(図1(b)参照)。これら基板の縦横の長さは、特に限定されないが、本実施形態においては、横(図1におけるA)およそ62mm×縦(図1におけるB)およそ30mmとしている。また、本実施形態において、第2の基板102、第1の基板101、第2の基板103の厚み(それぞれ図1のC、DおよびE)は、それぞれ約1.6mm、約9mm、約1.6mmとしている。ただし、基板の縦横の長さおよび厚みは、これらに限定されるものではない。
【0014】
第2の基板102には、その厚み方向に貫通する液体試薬導入口110(本実施形態において合計11個)および検体(たとえば、全血等)をマイクロチップ流体回路内に導入するための検体導入口120が形成されている。液体試薬は、マイクロチップ実使用(検体の検査・分析等)前に、あらかじめ流体回路の液体試薬保持部に内蔵されており、検体と混合あるいは反応、または該検体を処理するための試薬である。マイクロチップは、通常、液体試薬を液体試薬導入口110から注入した後、当該液体試薬導入口110を封止用ラベル等により封止して、実使用に供される。
【0015】
第1の基板101には、その両面に形成された溝および厚み方向に貫通する貫通孔が形成されており、これに第2の基板102、103を貼り合わせることによって、マイクロチップ内部に2層の流体回路が形成されている。ここで、2層とは、マイクロチップの厚み方向に関して異なる2つの位置に流体回路が設けられていることを意味する。これら2つの流体回路は、第1の基板101に形成された貫通孔によって連通されている。
【0016】
第1の基板101に形成された複数の貫通孔のうち、図1(b)に示される貫通孔311、312、313、314、315、316(合計6個)はそれぞれ、該貫通穴の開口を封止する第2の基板102、103基板表面とともに、光学測定用キュベット(本明細書において検出部とも称することがある。)161、162、163、164、165、166を構成する。なお、本実施形態においては、貫通穴141〜146の第2の基板102側開口部の直径は1.5mm程度とし、第2の基板103側開口部の直径は1mm程度としているが特に限定されるものではない。当該光学測定用キュベットに対して、たとえばマイクロチップ下側(または上側)からマイクロチップ表面に対して略垂直方向の検出光を照射し、その透過率などを測定することにより、当該光学測定用キュベット内に収容された検査・分析対象(たとえば検体と液体試薬との混合液等)の検査・分析(たとえば、該混合液中の特定成分の検出)が行なわれる。なお、液体試薬と混合される検体は、検体それ自体であってもよく、またはマイクロチップ内または外で当該検体から分離された特定成分であってもよい。本明細書において、検体とは、これら両方の意味を含むものとする。
【0017】
ここで、本実施形態のマイクロチップは、光学測定用キュベットを構成する貫通穴311〜316が、第1の基板101表面において、同一円の円周150上に配置されることを特徴とする(図1(a)参照)。かかる構成により、これら6個の光学測定用キュベット(検出部)内に導入された各検査・分析対象の検査・分析を簡便にかつ迅速に行なうことが可能となる。
【0018】
上記したように、本発明のマイクロチップのような内部に流体回路を有するマイクロチップにおいては、流体回路内での、検体および液体試薬の計量、検体と液体試薬との混合、ならびに検体、液体試薬および混合液の各部位への移動などの一連の操作は、マイクロチップに対して適切な方向の遠心力を印加することにより行なうことができる。マイクロチップへの遠心力の印加は、たとえば、マイクロチップを載置するためのマイクロチップ搭載部を有する遠心装置を用いて行なわれる。
【0019】
マイクロチップに遠心力を印加する遠心装置は、たとえば、遠心中心を軸に回転(マイクロチップを公転させるための回転)自在な円形状ステージを有し、該ステージ表面上または該ステージ上に設けられたマイクロチップを自転させるための円形状ステージ表面上に、上記マイクロチップ搭載部が設けられた構成とすることができる。マイクロチップ搭載部の構成は、特に制限されず、たとえば、マイクロチップ外形と略同一の形状を有するマイクロチップを嵌め込むための溝とすることもできるし、あるいは搭載したマイクロチップを支持する固定壁から構成することもできる。図2は、マイクロチップ支持用の固定壁から構成されるマイクロチップ搭載部を備える遠心装置に、マイクロチップを搭載した状態を示す概略斜視図である。図2に示されるように、マイクロチップ搭載部200には、搭載したマイクロチップの位置を固定するための、たとえば板バネやスプリング等を用いた固定具203を付設することができる。遠心装置の円形状ステージ201上に設けられた、マイクロチップ支持用の固定壁202aおよび202bに沿うように載置されたマイクロチップは、固定具203で押さえられ、かかる状態で円形状ステージ201を回転させることにより遠心力が印加される。
【0020】
所定の遠心操作が施された後、円形状ステージ201下部に位置する光源(図示せず)より、マイクロチップの光学測定用キュベットに向けて検出光204が照射され、その透過率等を測定することにより、光学測定用キュベット内の検査・分析対象についての検査・分析が行なわれる。この際、複数の光学測定用キュベットを有する本実施形態のマイクロチップにおいては、各光学測定用キュベットに対して、それぞれ検出光を照射する必要があるが、本実施形態においては、これら光学測定用キュベットは、同一円の円周上に配置されているため、固定された光源から検出光204を照射するとともに、円形状ステージ201を回転させて、各光学測定用キュベットを、検出光204の光軸上に順に配置していくことにより、簡便かつ迅速に検査・分析を行なうことができる。なお、検出光は、マイクロチップ上面側から照射されてもよい。
【0021】
ここで、上記「同一円」における円は、マイクロチップに遠心力を付与するための遠心中心を中心とする円であることが好ましい。より具体的には、マイクロチップは、通常、上記したように、回転自在な円形状ステージを有する遠心装置の該円形状ステージ上に載置されて遠心力が印加されることから、マイクロチップに遠心力を付与するための遠心中心を中心とする円とは、当該円形状ステージの回転中心を中心とする円ともいうことができる。
【0022】
次に、本実施形態のマイクロチップが有する流体回路の構成について、さらに具体的に説明する。
【0023】
図3は、第1の基板101に形成された流体回路を示す斜視図であり、図3(a)は、第2の基板102側(以下、単に「上側」と称することがある。)表面に形成された流体回路を示す斜視図、図3(b)は、第2の基板103側(以下、単に「下側」と称することがある)表面に形成された流体回路を示す斜視図である。図3に示されるように、第1の基板101には、その表面に形成された溝および厚み方向に貫通する貫通孔によって、検体、液体試薬またはそれらの混合液の流体処理が行なわれる各部位とこれら部位を適切に接続する微細な流路とが形成されている。
【0024】
図4および図5に、それぞれ第1の基板101の上面図および下面図を示す。図4は、第1の基板101の上側流体回路を示しており、図5は、下側流体回路を示している。なお、図5では、図4に示される上側流体回路との対応関係が明確に把握できるよう、左右反転させた状態で第1の基板の下側流体回路を示している。本実施形態のマイクロチップ100は、1つの検体について6項目の検査・分析を行なうことができる多項目チップであり、その流体回路は、6項目の検査・分析を行なうことができるよう、6つのセクション(図4におけるセクション1〜6)に分けられている(ただし、検体計量部設置領域(下側流体回路上部領域)においてこれらは互いに接続されている)。各セクションには、液体試薬が内蔵された液体試薬保持部が1つまたは2つ設けられている(図4における液体試薬保持部301a、301b、302a、302b、303a、303b、304a、304b、305a、305bおよび306aの合計11個)。図1における検体導入口120から導入された検体は、血球成分が分離除去された後、各セクションに分配されるとともに計量されると、別途計量された各セクション内の1種または2種の液体試薬と混合されて、それぞれ光学測定用キュベットを構成する貫通穴311、312、313、314、315、316に導入される。各光学測定用キュベット(検出部)に導入された混合液は、上記したように、たとえばマイクロチップ表面と略垂直な方向から光学測定用キュベットに光を照射し、その透過光を測定する等の光学的測定に供され、該混合液中の特定成分の検出等がなされる。これら一連の処理は、マイクロチップに対して適切な方向の遠心力を印加することにより、液体試薬、検体またはこれらの混合液を、各セクションに設けられた2層の流体回路内の各部位へ適切な順序で移動させていくことにより行なわれる。
【0025】
上記各セクションには、その下側流体回路内に、検体を計量する検体計量部(図5における401、402、403、404、405、406の合計6個)および液体試薬を計量する液体試薬計量部(図5における液体試薬計量部411a、411b、412a、412b、413a、413b、414a、414b、415a、415bおよび416aの合計11個)が設けられている。各検体計量部は、流路によって直列的に接続されている。
【0026】
ここで、本実施形態のマイクロチップにおいては、図4に示されるように、計量時において検体計量部から溢れ出た検体を収容するための溢出検体収容部330および計量時において液体試薬計量部から溢れ出た液体試薬を収容するための溢出試薬収容部331a、331b、332a、332b、333a、333b、334a、334b、335a、335bおよび336aが設けられている。溢出検体収容部330は、流路16a(図5参照)、厚み方向に貫通する貫通穴26aおよび流路16b(図4参照)を介して検体計量部406に接続されている。また、各溢出試薬収容部は、対応する各液体試薬計量部に、流路および貫通穴を介して接続されている。たとえば、セクション1において、液体試薬保持部301a内に収容される液体試薬を計量するための液体試薬計量部411aと、溢れ出た液体試薬を収容する溢出試薬収容部331aとは、流路11a(図5参照)、厚み方向に貫通する貫通穴21aおよび流路11b(図4参照)を介して接続されている。他の溢出試薬収容部についても同様である。
【0027】
このように、マイクロチップが、溢出検体収容部および溢出試薬収容部(以下、まとめて溢出液収容部と称する。)を備えることにより、当該溢出液収容部における溢出液の有無を検出することによって、検体または液体試薬が遠心操作により確実に検体計量部または液体試薬計量部に移送され、かつ当該検体計量部または液体試薬計量部が、検体または液体試薬で満たされたどうかを容易に確認することができる。すなわち、溢出液収容部に溢出液が存在することが検知されれば、検体計量部または液体試薬計量部において検体または液体試薬が正確に計量されたことが保証される。これにより、検体についての検査・分析の信頼性が向上するとともに、計量異常が確認されれば、得られた検査・分析データについては採用しないという判断を下すことが可能となる。計量異常としては、たとえば、装置誤動作により検体または液体試薬が検体計量部または液体試薬計量部に導入されていない;液体試薬の蒸発、ユーザーの誤使用による検体導入量不足、マイクロチップ製造時における基板貼り合わせ不良などにより、計量されるべき量の検体または液体試薬が計量されていない、などの場合を挙げることができる。
【0028】
ここで、溢出液収容部内に、溢れ出た検体または液体試薬が存在するか否かを検知する方法としては、特に制限されないが、たとえば、当該溢出液収容部に対して、透明基板である第2の基板102側から光を照射し、その反射光の強度を測定する方法を好ましく用いることができる。用いる光は、特に制限されず、たとえば波長400〜1000nm程度の単色光(たとえばレーザ光)であってもよいし、白色光等の混合光であってもよい。反射光の強度の測定は、たとえば市販の反射センサなどを用いて行なうことができる。
【0029】
上記反射光強度の測定を行なうことにより溢出液の有無を検知する方法においては、基本的には、溢出液収容部内に溢出液が導入される前に、溢出液収容部に対して、第2の基板102側から光を照射することにより得られる反射光強度と、検体計量部または液体試薬計量部に検体または液体試薬が導入された後に、溢出液収容部に対して、第2の基板102側から光を照射することにより得られる反射光強度との比を求め、当該強度比から溢出液の有無を検知する。すなわち、当該比(導入後の反射光強度/導入前の反射光強度)が1より小さい場合(導入後の反射光強度がより小さい場合)には、溢出液収容部内に、溢出液が存在すると判断される。ただし、マイクロチップ間の製造振れが小さく、溢出液導入前の反射光強度が、マイクロチップ間でほぼ一定とみなすことができる場合には、溢出液導入前における反射光強度の測定は省略することが可能である。
【0030】
なお、上記反射光強度の測定による液体が存在するかどうかを検知する手法は、溢出液収容部に限らず、マイクロチップの他の部位にも適用することができる。たとえば、マイクロチップ実使用前に液体試薬保持部に対して光を照射し、その反射光強度を測定することにより、液体試薬が液体試薬保持部内に存在するかどうかを確認することができるため、輸送時の衝撃等による流出や蒸発などにより液体試薬が液体試薬保持部に収容されていないという異常を検知することができる。また、検体計量部、液体試薬計量部および検体と液体試薬とが混合される混合部等に対して光を照射し、その反射光強度を測定することにより、計量部および混合部に確実に検体、液体試薬またはその混合液が存在することを確認できるため、遠心力印加により、確実に所定の処理が行なわれていることを保証することができる。
【0031】
本実施形態のマイクロチップ100は、上記したように、各液体試薬に対応する合計11個の溢出試薬収容部と1個の溢出検体収容部を有しているが、これらはすべて第2の基板102側の流体回路(上側流体回路)内に形成されていることが好ましい(図4参照)。すべての溢出液収容部を一方の流体回路に形成することにより、反射光強度測定の際、マイクロチップを裏返す必要がなく、簡便かつ迅速にすべての収容部における溢出液の有無を検知することができる。また、これらの溢出液収容部は、第1の基板101表面に形成された一方の流体回路内において、同一円の円周上に配置されることがより好ましく、上記光学測定用キュベットを構成する貫通孔311〜316が配置される円周上に配置されることが特に好ましい(図4参照)。光学測定用キュベットおよび溢出液収容部を同一円の円周上に配置することにより、固定された透過光測定用光源および反射光測定用光源(これらは同一光源であってもよい)から検出光を照射するとともに、円形状ステージを回転させて、各光学測定用キュベットおよび各溢出液収容部を、検出光の光軸上に順に配置していくことにより、簡便かつ迅速に検査・分析および溢出液の有無の検知を行なうことができる。
【0032】
次に、本実施形態のマイクロチップ100を用いた流体処理の一例を、図6〜12を参照して説明する。図6〜12は、流体処理の各工程における第1の基板101の上面(第2の基板102側表面)の液体(検体、液体試薬およびその混合液)の状態および下面(第2の基板103側表面)の液体の状態を示す図である。各図における(a)が第1の基板101上面の液体の状態を示す図であり、(b)が第1の基板101下面の液体の状態を示す図である。なお、図6(b)〜12(b)においては、図5と同様に、図6(a)〜12(a)に示される上側流体回路との対応関係が明確に把握できるよう、左右反転させた状態で第1の基板の下側流体回路を示している。また、以下の説明においては、主にセクション1の流体回路における流体処理についてのみ説明するが、他のセクションについても同様の処理がなされており、このことは、図面を参照することにより明確に理解することができる。さらに、以下では、検体が全血(以下では、全血から分離された血漿成分をも検体と称することがある。)である場合を例に説明するが、検体の種類はこれに限定されるものではない。
【0033】
(1)血球分離、液体試薬計量工程
まず、本工程において、図4および5に示される状態にあるマイクロチップに対して、図6における下向き(以下、単に下向きという。図7〜12についても同様であり、また、他の方向についても同様である。)に遠心力を印加する。これにより、第2の基板102の検体導入口から導入された全血は、貫通穴20aを通って下側流体回路に移動し、血球分離部420に導入される(図6(b)参照)。血球分離部420に導入された全血600は、下向きの遠心力により血球分離部420にて遠心分離され、血漿成分(上層)と血球成分(下層)とに分離される。血球分離部420から溢れた全血は、貫通穴20bを通って上側流体回路に移動し、廃液溜め430に収容される(図6(a)参照)。また、下向きの遠心力印加により、液体試薬保持部301a、301b内の液体試薬は、それぞれ貫通穴21b、21cを通って液体試薬計量部411a、411bに至り、計量される(図6(b)参照)。計量部から溢れた液体試薬は、それぞれ貫通穴21a、21dを通って、上面側流体回路内の溢出試薬収容部331a、331bに収容される(図6(a)参照)。
【0034】
(2)検体計量工程
次に、左向きの遠心力を印加する。これにより、血球分離部420において分離された血漿成分は、検体計量部401に導入され(同時に検体計量部402、403、404および405,406にも導入される)、計量される(図7(b)参照)。計量部から溢れた血漿成分は、貫通穴26aを通って上側流体回路内に移動される(図7(a)参照)。下側流体回路の混合部441aには、液体試薬が残存している。
【0035】
(3)第1混合工程
次に、下向きの遠心力を印加する。これにより、計量された液体試薬(液体試薬保持部301aに保持されていた液体試薬)と、検体計量部401にて計量された血漿成分とが、液体試薬計量部411aにおいて混合される(第1混合工程第1ステップ、図8(b)参照)。次に、左向きの遠心力を印加することにより、混合液は、混合部441aに残存していた液体試薬とさらに混合される(第1混合工程第2ステップ、図9(b)参照)。これら第1ステップおよび第2ステップを必要に応じて複数回行ない、確実に混合を行なう。最終的に、図9に示される状態と同様の状態を得る。
【0036】
(4)第2混合工程
次に、上向きの遠心力を印加する。これにより、混合部441a内の混合液は、貫通穴21eを通って混合部441bに至り、計量されたもう一方の液体試薬(液体試薬保持部301b内に保持されていた液体試薬)もまた、貫通穴21eを通って混合部441bに至り、これらは混合される(第2混合工程第1ステップ、図10(a)参照)。次に、右向きの遠心力を印加することにより、図11(a)に示されるように、混合液は混合部441b内を移動し、混合が促進される(第2混合工程第2ステップ、図11(a)参照)。また、この右向きの遠心力により、溢出試薬収容部332bに液体試薬が収容されることとなる(図11(a)参照)。これら第1ステップおよび第2ステップを必要に応じて複数回行ない、確実に混合を行なう。最終的に、図11に示される状態と同様の状態を得る。
【0037】
(5)検出部導入工程
最後に、下向きの遠心力を印加する。これにより、混合液は光学測定用キュベット(検出部)を構成する貫通穴311に導入される(他の混合液についても同様、図12(a)および(b)参照)。また、溢出試薬収容部331a、331bおよび溢出検体収容部330には、液体試薬または検体(血漿成分)が収容された状態となる。他の溢出試薬収容部についても同様である。以上のような工程を経て、各光学測定用キュベットに検査・分析対象である混合液が充填され、かつ、各溢出試薬収容部および溢出検体収容部に溢出液が充填された状態となる。かかる状態において、上記したような方法により、透過光測定用光源および反射光測定用光源(これらは同一光源であってもよい)から検出光を照射するとともに、円形状ステージを回転させて、各光学測定用キュベットおよび各溢出液収容部を、検出光の光軸上に順に配置していくことにより、検査・分析および溢出液の有無の検知を行なう。なお、検体または液体試薬の有無の確認は、必ずしもこの段階で行なわれる必要はないが、検体または液体試薬が、すべての溢出検体収容部および溢出試薬収容部に収容され得る状態となるのはこの段階であるため、操作の簡略化のためには、光学測定用キュベット導入工程後に検体または液体試薬の有無の確認を行なうことが好ましい。
【0038】
以上、本発明のマイクロチップおよびその使用方法を2層の流体回路を有するマイクロチップを例に挙げて説明したが、本発明のマイクロチップは、1層の流体回路を有するもの、すなわち、片面に流体回路を構成する溝および貫通穴が形成された第1の基板と、透明基板である1枚の第2の基板とを貼り合わせてなるマイクロチップであってもよい。
【0039】
また、本発明のマイクロチップが有する光学測定用キュベットの数は特に限定されるものではなく、少なくとも2以上の光学測定用キュベットを有していればよい。また、本発明においては、流体回路の構造は、上記実施形態に示されるものに限定されず、検体に対してなされるべき処理に応じて種々の構造を採り得る。流体回路は必ずしも溢出液収容部を有している必要はなく、少なくとも複数の光学測定用キュベットを有していればよい。
【0040】
本発明のマイクロチップが2層の流体回路を有する場合において、上記実施形態を参照して、第2の基板102、103は、必ずしも透明基板である必要はないが、少なくとも光学測定用キュベットを構成する表面領域については、入射した光の透過光が測定できるよう、透明であることが必要である。また、第1の基板101および第2の基板102、103を貼り合わせる方法として、基板の貼り合わせ面に光を照射し該面を融解させることによって貼合する溶着法を用いる場合には、入射した光をより効率的に吸収できるよう、第1の基板101を不透明基板(好ましくは黒色基板)とし、第2の基板102、103を透明基板とすることが好ましい。これにより、第2の基板102、103側から光を照射して、第1の基板101の貼り合わせ面を融解させることによって、第1の基板101と第2の基板102、103との貼合を容易に行なうことができる。
【0041】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係るマイクロチップの一例を示す外形図である。
【図2】マイクロチップ搭載部を備える遠心装置にマイクロチップを搭載した状態を示す概略斜視図である。
【図3】本発明に係るマイクロチップの第1の基板に形成された流体回路の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明に係るマイクロチップの第1の基板の一例を示す上面図である。
【図5】本発明に係るマイクロチップの第1の基板の一例を示す下面図である。
【図6】血球分離、液体試薬計量工程における第1の基板の上面の液体の状態および下面の液体の状態を示す図である。
【図7】検体計量工程における第1の基板の上面の液体の状態および下面の液体の状態を示す図である。
【図8】第1混合工程第1ステップにおける第1の基板の上面の液体の状態および下面の液体の状態を示す図である。
【図9】第1混合工程第2ステップにおける第1の基板の上面の液体の状態および下面の液体の状態を示す図である。
【図10】第2混合工程第1ステップにおける第1の基板の上面の液体の状態および下面の液体の状態を示す図である。
【図11】第2混合工程第2ステップにおける第1の基板の上面の液体の状態および下面の液体の状態を示す図である。
【図12】検出部導入工程における第1の基板の上面の液体の状態および下面の液体の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
100 マイクロチップ、101 第1の基板、102,103 第2の基板、110 液体試薬導入口、120 検体導入口、150 円周、161,162,163,164,165,166 光学測定用キュベット、200 マイクロチップ搭載部、201 円形状ステージ、202a,202b 固定壁、203 固定具、204 検出光、301a,301b,302a,302b,303a,303b,304a,304b,305a,305b,306a 液体試薬保持部、311,312,313,314,315,316 光学測定用キュベットを構成する貫通穴、330 溢出検体収容部、331a,331b,332a,332b,333a,333b,334a,334b,335a,335b,336a 溢出試薬収容部、401,402,403,404,405,406 検体計量部、411a,411b,412a,412b,413a,413b,414a,414b,415a,415b,416a 液体試薬計量部、420 血球分離部、430 廃液溜め、441a,441b 混合部、11a,11b,16a,16b 流路、20a,20b,21a,21b,21c,21d,21e,26a 貫通穴、600 全血。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面上に設けられた溝および厚み方向に貫通する複数の貫通穴を備える第1の基板と、1または2以上の第2の基板とを貼り合わせてなる、内部に流体回路を有するマイクロチップであって、
前記マイクロチップは、前記複数の貫通穴のうちいずれか2以上の貫通穴と前記第2の基板の基板表面とから構成される2以上の光学測定用キュベットを有し、
前記2以上の光学測定用キュベットを構成する前記2以上の貫通穴は、前記第1の基板表面において、同一円の円周上に配置されるマイクロチップ。
【請求項2】
前記流体回路は、
液体試薬を収容する液体試薬保持部と、
前記液体試薬または検体を計量するための1以上の計量部と、
前記計量部に接続され、計量時において前記計量部から溢れる前記液体試薬または前記検体を収容するための1以上の溢出液収容部と、を備え、
前記溢出液収容部は、前記第1の基板表面において、前記2以上の貫通穴が配置される円周上に配置される請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記流体回路は、前記液体試薬を計量するための1以上の液体試薬計量部および検体を計量するための1以上の検体計量部を有し、かつ計量時において前記計量部から溢れる前記液体試薬または前記検体を収容するための複数の溢出液収容部を有する請求項2に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
基板の両面に設けられた溝および厚み方向に貫通する複数の貫通穴を備える第1の基板の両面に第2の基板を貼り合わせてなる、内部に2層の流体回路を有する請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記第2の基板は、透明基板である請求項1〜4のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記第1の基板は、不透明基板である請求項1〜5のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記第1の基板は、黒色基板である請求項6に記載のマイクロチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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