マイクロチャネル装置を用いた標的分子の検出または単離
体液または他の液体試料から細胞を分離または単離するためのマイクロフロー装置が、横断するポストのパターンによって直線的な流れが妨げられている流路を用いる。ポストは、その上表面と下表面の間に延びる流路内の収集領域の幅にわたって間隔をおいて配置され、それらは直線的な表面を有し、弓形の横断面を有し、かつ層流を分断するようにランダムに配置される。親水性コーティング、好ましくはイソシアネート部分または実質的な長さのPEGもしくはポリグリシンを含むヒドロゲルを介して、Abなどの隔離剤が収集領域内の全ての表面に接着され、これは、そのような層流分断の結果として細胞または他の標的とする生体分子を捕捉するのに非常に有効である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は概して、標的分子の検出または単離、および特に所望の標的細胞または生体分子を検出または単離するのに有用な装置または方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
異種混交的な細胞集団からの希少な細胞の有効な単離および収集は、疾患の診断および治療、例えば遺伝子治療に用いるため、ならびに基礎科学研究のための、単離された細胞集団に対する需要の高まりを理由として、未だに大きな関心を集めている。例えば、癌細胞のように病的に変化した細胞を、より多数の正常細胞集団から分離することができ、続いて、浄化された細胞集団を患者に移植して戻すこともできる。
【0003】
妊娠中に潜在的な染色体疾患の初期スクリーニングを行うなど、初期の胎児診断を可能にするための胎児細胞の単離に対する1つの高い要望がある;胎児細胞は、羊水穿刺または絨毛生検などの方法によって採取されてきた。そのような方法を用いて、例えば信頼性の高い診断を可能にするために有意な量の胎児細胞を得ることができるが、そのような方法は、子宮への侵入が必要であり、典型的には最初の三半期の後にしか実施できないことから、特に胎児にとって危険をもたらす。
【0004】
胎児細胞は、ごく少数が胎児から母体の血流へ流れることから、母体の循環血液内にも存在する;しかしこれは結果として、母体の細胞に対して胎児細胞の比率はわずかなppmのオーダーでしかない。原則として、静脈穿刺によって得られた母体の血液試料が胎児の診断に用いられ得る:しかしながら多くの母体の細胞集団から非常に少数の胎児細胞を単離し回収するこのような方法に関して、重要な課題がいくつかある。これらの課題はまた、子宮頚管粘膜から胎児細胞を分離する際にも存在し、これらは、ごく僅かしか存在しない他の生体分子の検出および単離に加え、他の希少な細胞の体液などからの回収についても共通する可能性がある。
【0005】
細胞の検出および分離は生物医学的および臨床的な開発の点で急速に発展中の分野であり、複合集団から所望の細胞サブセットを分離する改良された方法は、比較的均一で規定された特徴を有する細胞のより広範囲にわたる研究および使用を可能にすると考えられる。細胞分離はまた、例えば、標的とする細胞集団に対する薬物または治療法の効果を判定するため、生物学的経路を調べるため、形質転換されたまたは他の様式で改変された細胞集団を単離および研究するため、などのために、研究においても広く用いられている。現在の臨床的な用途には、例えば、特に除去的な化学療法および放射線療法と組み合わせた、血液細胞の再構成のための造血幹細胞の単離が含まれる。
【0006】
固相への標的細胞集団の選択的で可逆性の接着を達成するために、細胞表面の分子を特異的親和性リガンドで標的化することによって、細胞分離を行うことが多い。その後の工程で、非特異的に吸着した細胞を、洗浄によって除去し、標的細胞を遊離させる。このような特異的親和性リガンドは、抗体、レクチン、受容体リガンド、またはタンパク質、ホルモン、糖質、もしくは生物活性を有する他の分子に結合する他のリガンドであってよい。
【0007】
多くのバイスタンダー集団から希少な細胞を回収するために用いられている現行の方法の1つは、標的細胞集団に選択的な抗体でコーティングされたポリスチレンマクロビーズを用いることである。特異的抗体でコーティングされたこのようなマクロビーズは、マクロビーズが沈降途中で標的細胞を捕捉するように、不均一な細胞集団の懸濁液中を重力により沈殿させることが多い。
【0008】
標的細胞を試料液体から分離するためにカラムと共に用いられる他の基板もあり、通常分離を行うために選択される基板のタイプが、最終的にどのように標的を試料液体から分離するのかを決定する。基板は一般に、所望の標的が基板に対して試料のその他の成分とは実質的に異なる結合特性を有するように、特徴を与えられる。細胞分離用のカラムタイプの装置の例は、1993年8月31日に発行された米国特許第5,240,856号(特許文献1)に見出され、そこでは細胞は、カラム内のマトリックスに結合する。1997年12月9日に発行された米国特許第5,695,989号(特許文献2)では、結合した細胞の除去を促進するために圧搾することができる柔軟な管となるよう、カラムが設計される。1997年9月30日に発行された米国特許第5,672,481号(特許文献3)では、回収、濃縮、および移動に単一の固い管が用いられる密閉された無菌フィールドでの分離用装置が記載されている。米国特許第5,763,194号(特許文献4)には、リガンドが内部表面に接着する半透過性中空繊維のアレイからなる細胞分離デバイスが記載されている。
【0009】
多くの問題と技術的な困難が、上記のアプローチと、同様に非常に広く使用されているマクロビーズ捕捉アプローチとに関連しており、このマクロビーズ捕捉アプローチは、基本的にカラムを通したマクロビーズの沈降を利用することから、カラム法と称されることが多い。カラム法を広く実用的にするために取り除くべき1つの大きな障害は、非特異的結合による支障である。さらに、そのようなカラム分離法においてマクロビーズを用いて標的細胞を捕捉することは、液体の流れからビーズを回収し、次いで通常の手法であれば洗浄であるクリーニングを必要とする。ビーズは、洗浄中に喪失、崩壊、または凝集を受ける可能性があり、これは標的細胞の回収効率を低下させる。
【0010】
多くは特定の標的細胞集団に選択的な抗体である捕捉物質は、通常物理的または化学的にビーズ表面に接着している。物理的にビーズに接着している捕捉物質は、移動および操作の結果、はがれ落ちたり動かされたりする可能性がある。しかしながら、それらが共有結合を介して強く接着し、そのため捕捉された細胞が洗浄中もビーズ上に確実に留まる場合、それらはその後、回収の過程で遊離させて回収できない可能性もある。
【0011】
カラム分離法に加えて、例えば体液などに見出され得る多様な細胞集団から標的細胞を分離するための他の方法も現在開発されつつある。例えば米国特許出願公開第2004/0142463号(特許文献5)では、胎児細胞を母体の血液などから分離するためのシステムが教示されており、ここでは血液試料由来の望ましくない成分は最初に、特異的結合メンバーを保持するプレートの表面またはカラムを含む他の固体支持体を用いて分離され、次いで電気泳動などを用いて標的細胞の分離と分析を完了させる。
【0012】
公開された米国特許出願第2004/038315号(特許文献6)は、毛細管の内腔面に対して放出可能なリンカーを付着させ、所望の結合細胞はその後、切断試薬によって放出されて回収される。米国公開特許出願第2002/132316号(特許文献7)は、移動性光学勾配フィールドの使用によって細胞集団を分離するために、マイクロチャネルデバイスを使用する。米国特許第6,074,827号(特許文献8)は、特定の核酸を試料から分離して同定するために、電気泳動が用いられる「濃縮チャネル」を有するように構築されたマイクロ流体デバイスの使用法を開示する。所望の標的生体材料を保持するための抗体または他の結合断片の光学的使用法も同じく言及されている。米国特許第6,432,630号(特許文献9)は、選択的偏向を利用したチャネルによって生体粒子を含む流体の流れを導くためのマイクロフローシステムを開示しており、それは、胎児細胞を母体血液試料から分離するために、このようなシステムを用いることができることを示す。
【0013】
K. Takahashi et al., J. Nanobiotechnology, 2, 5(13 June 2004)(6pp)(非特許文献1)は、多数のマイクロ流体流入口通路が、ガラスプレートに近接したPDMSプレート(光硬化性エポキシ樹脂中に造られた種型の中で製造)として作られた、中央の細胞選別領域に通じているオンチップ細胞選別システムを開示している。PDMSプレートには、合流点である短い細胞選別領域を通る最中にこれらの細胞を緩衝液の平行した連続的な流れへと導く静電力の印加によって、望ましくない細胞の分離を容易にするための寒天ゲル電極が設けられている。サイズの大きな塵粒を物理的に捕らえるためのポストタイプフィルター配置もまた開示する。
【0014】
米国特許第6,454,924号(特許文献10)は、分析物を含む液体が、捕捉剤が表面に付着した直立した柱の頂上に配置された試料表面を通り越して概ね下向きに流されていき、このような柱の側面がそれらが範囲を定めるチャネル内での流れを容易にするために疎水性にされている、マイクロ流体デバイスを開示している。
【0015】
公開された国際特許出願WO 2004/029221号(特許文献11)は、胎児赤血球を母体血液から分離するといった細胞分離のために用いることができるマイクロ流体デバイスを開示している。細胞を含む試料を、マイクロ流体チャネルに導入することができ、マイクロ流体チャネルは複数の障害物を含み、障害物の表面には抗体などの結合部分が適切に連結されており、それらの部分は試料中の細胞と結合すると考えられる。米国特許第6,344,326号(特許文献12)は、関心対象の生体分子を捕捉するために、抗体などの結合要素が架橋されたガラスフィラメントなどに結合された、複数の濃縮チャネルを有するマイクロ流体デバイスを開示している。米国特許第5,147,607号(特許文献13)は、抗体をマイクロチャネル内に固定化する、サンドイッチアッセイなどのイムノアッセイを実行するためのデバイスの使用法を教示している。マイクロチャネル内には、チャネルの底面から上向きに延びそれらに対して抗体が固定化される、一群の突起を含む陥凹部を設けることができる。
【0016】
前述の、簡単に説明してきた参考文献は、細胞または他の生体材料を体液などから単離または検出するための改良された方法が引き続き探索されているという証拠を提供するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第5,240,856号
【特許文献2】米国特許第5,695,989号
【特許文献3】米国特許第5,672,481号
【特許文献4】米国特許第5,763,194号
【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0142463号
【特許文献6】米国特許出願第2004/038315号
【特許文献7】米国公開特許出願第2002/132316号
【特許文献8】米国特許第6,074,827号
【特許文献9】米国特許第6,432,630号
【特許文献10】米国特許第6,454,924号
【特許文献11】国際特許出願WO 2004/029221号
【特許文献12】米国特許第6,344,326号
【特許文献13】米国特許第5,147,607号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】K. Takahashi et al., J. Nanobiotechnology, 2, 5(13 June 2004)(6pp)
【発明の概要】
【0019】
ランダム化流動パターン、特にランダム化流体マルチチャネルパターンによって提供されたランダム化流動パターンを、標的分子または実体を単離または検出するために使用可能であることが、本発明の知見である。したがって、本発明は、標的分子、特に標的細胞または生体分子を単離または検出するのに有用な装置および方法を提供する。
【0020】
一つの態様において、本発明は、マイクロフロー装置を提供する。マイクロフロー装置は、ランダム化流路を有しかつ流入口手段、流出口手段、および流入口手段と流出口手段の間に伸びるマイクロチャネル配列を含む主要部分を備える。マイクロチャネル配列は、マイクロチャネルの基部表面と一体化しかつそこから突出している複数の横断するセパレータポストを含む。ポストはランダム化流路を提供できるパターンで配置される。
【0021】
別の態様において、本発明は、本発明の装置と、装置のマイクロチャネル表面を隔離剤(sequestering agent)でコーティングするための説明書とを含むキットを提供する。
【0022】
なお別の態様において、本発明は、装置のマイクロチャネル表面が隔離剤でコーティングされている本発明の装置を含むキットを提供する。
【0023】
なお別の態様において、本発明は、試料を含む液体本体を本発明の装置のマイクロチャネル中を流れさせることを含む、試料中で標的分子を捕捉する方法を提供する。ここで、マイクロチャネル表面は、標的分子に結合可能な隔離剤でコーティングされている。
【0024】
なお別の態様において、本発明は、試料を含む液体本体を本発明の装置のマイクロチャネル中を流れさせることを含む、試料中で標的分子を検出する方法を提供する。ここで、マイクロチャネル表面は、標的分子に結合しかつ標的分子を検出することが可能な隔離剤でコーティングされている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】簡略化されたポストを含む収集領域がマイクロチャネル内に構成されている、マイクロフロー装置用の基板の斜視図である。
【図2】パターン化されたポストが設置された、図1の収集領域の一部分を示す拡大部分図である。
【図3】その底面に取り付けられたカバープレートを伴う、線3-3に沿った図1の基板の正面断面図である。
【図4】図1で一般的に示された基板に、中板を含めることによって2つの弁を組み込んだ装置の概略斜視図である。
【図5】図4の線5-5に沿った断面図である。
【図6】ポンプがマイクロフロー装置の一部として構成されている、図1に示されたタイプの基板を示す概略平面図である。
【図7】マイクロ混合器が供給領域に組み込まれている基板の一部分の概略図である。
【図8】親水性コーティングの適用によって収集領域の全体にわたって付着された抗体の概略図である。
【図9】所望の標的細胞の捕捉の描写を伴う、隔離剤、すなわち選択した抗体を、親水性コーティングを用いて収集領域全体にわたって共有結合させるために用いることができる、化学反応の概略図である。
【図10】所望の標的細胞の捕捉の描写を伴う、隔離剤、すなわち選択した抗体を、親水性コーティングを用いて収集領域全体にわたって共有結合させるために用いることができる、化学反応の概略図である。
【図11】このようなパターン化されたポスト、細胞分離デバイスを利用する細胞回収操作の諸工程を図示した工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
好ましい態様の詳細な説明
ランダム化流路、特にランダム化流体マルチチャネルパターンによって提供されたランダム化流路を、標的分子または実体を単離または検出するために使用可能であることが、本発明の知見である。したがって、本発明は、標的分子、特に標的細胞または生体分子を単離または検出するのに有用な装置および方法を提供する。
【0027】
本発明の1つの局面に従って、流入口手段、流出口手段、および流入口手段と流出口手段の間に伸びるマイクロチャネル配列を含む装置を提供する。本発明のマイクロチャネル配列は、ランダム化流路を提供可能な任意のマイクロチャネルパターンであり得る。本発明に従い、ランダム化流路は、層流または繰り返しの流動パターンを最小限、例えばごくわずかな量含むかまたは全く含まない、任意の流路であり得る。一つの態様において、本発明のランダム化流路は、層流または繰り返し流動パターンを有さない流路である。別の態様において、本発明のランダム化流路は、直線的な流動を妨害または阻害する流路である。なお別の態様において、本発明のランダム化流路は、当業者に公知の数学的にランダムであるパターンに相当する流路である。
【0028】
本発明のランダム化流路は、本分野で公知または後に見出される任意の適した手段を用いて提供することができる。例えば、マイクロチャネルの基部表面と一体化してそこから突出しており、かつ本発明のランダム化流路を提供できるパターンで配置された複数の横断するセパレータポストを有するマイクロチャネル配列を用いて、本発明のランダム化流路を作製することができる。通常、マイクロチャネル配列内、例えば単一のユニットまたは領域内のポストは、サイズ、例えば横断面のサイズおよび形状が変化し得る。例えば、本発明のマイクロチャネル配列は、例えば大きい、小さい、および中程度の少なくとも2つまたは3つの異なる横断面サイズを有するポストを含むことができる。本発明のマイクロチャネル配列はまた、単一の形状または複数の形状を有するポストを含むことができる。通常、異なるサイズおよび/または形状を有する本発明のポストは、本発明のランダムパターンに従って、連続的または均一に分布している。
【0029】
一つの態様において、ポストの平均横断面サイズは、マイクロチャネル配列中を流れる標的分子のサイズに関連している。通常、ポストの平均横断面サイズと標的分子のサイズの相対比は、約0.5:5、0.5:8、1:5、1:8、2:5、2:9、3:5、または3:8である。別の態様において、ポストの横断面は、そこにポストを含むマイクロチャネルの基部表面の横断面の約20%〜約75%を占めている。なお別の態様において、このポストの総量(例えば固体体積分率)は、マイクロチャネルの総量の約15%〜約25%である(例えば空隙体積分率)。なおさらに別の態様において、2つのポスト間の最小の距離は、ポストの最小の横断面サイズに関連し、例えばポストの最小の横断面サイズに等しい。
【0030】
本発明の1つの態様に従い、数学的アルゴリズム、例えばコンピュータープログラムによって生成されるランダムパターンに相当するパターンで、本発明のポストを配置することができる。例えば、特定の規定パラメーター、例えばポストの総数および2つのポスト間の最小距離に基づくランダムパターンを生成する数学的アルゴリズムを用いることができる。特に、各サイズ群のポストの総数および2つのポスト間の最小距離を特定することによって、数学的アルゴリズムによって生成されるランダムパターンを得ることができる。
【0031】
本発明の別の態様に従って、本発明のマイクロチャネル配列の表面を、任意で少なくとも1つの隔離剤で部分的または完全にコーティングすることができる。通常隔離剤は、特異的な様式で標的分子、例えば生体分子と相互作用し、物理的に標的を封鎖することができる任意の実体であり得る。
【0032】
本発明の隔離剤は、核酸、例えばDNA、RNA、PNA、またはオリゴヌクレオチド、リガンド、タンパク質、例えば受容体、ペプチド、酵素、酵素阻害因子、酵素基質、免疫グロブリン(特に抗体またはそれらの断片)、抗原、レクチン、修飾タンパク質、修飾ペプチド、生体アミン、および複合糖質を含むことができる。合成分子、例えば特定の特異的結合活性を有するように設計された薬物および合成リガンドを用いることもできる。「修飾」タンパク質またはポリペプチドとは、新たな化学部分の付加によって、既存の化学部分の除去によって、または除去および付加の何らかの組み合わせによって改変された、1つまたは複数のアミノ酸を分子内に有するタンパク質またはペプチドを意味する。この改変には、天然および合成性の修飾の両方が含まれる。天然の修飾には、リン酸化、硫酸化、グリコシル化、ヌクレオチド付加および脂質化が非限定的に含まれうる。合成修飾には、ヒドロゲル、微細構造、ナノ構造、例えば、量子ドットまたは他の合成材料に対する結合を促進するための化学リンカーが非限定的に含まれてもよい。さらに、修飾には、既存の官能部分、例えばヒドロキシル、スルフヒドリルもしくはフェニル基の除去、または天然の側鎖もしくはポリペプチドアミド骨格の除去もしくは改変も含まれうる。
【0033】
複合糖質の例には、天然および合成性の直鎖状および分枝状のオリゴ糖、修飾多糖、例えば、糖脂質、ペプチドグリカン、グリコサミノグリカンまたはアセチル化種、さらには異種オリゴ糖、例えば、N-アセチルグルコサミンまたは硫酸化種が非限定的に含まれる。天然の複合炭水化物の例には、キチン、ヒアルロン酸、硫酸ケラタン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、セルロース、ならびにアルブミンおよびIgGなどの修飾タンパク質上に認められる炭水化物部分がある。
【0034】
本発明に従って、本発明のマイクロチャネル表面をコーティングする、例えば少なくとも1つまたは2つまたはそれ以上の隔離剤に、直接または間接的に連結させるかまたは結合させることができる。一つの態様において、2つまたはそれ以上のそのような作用剤の組み合わせを、本発明のマイクロチャネル表面上、例えば基部表面および/またはポストの表面上に固定し、そのような組み合わせを2つの実体の混合物として添加することができる、または連続的に添加することができる。別の態様において、1つまたは複数の隔離剤を、1つまたは複数の遮断剤で処理した本発明のマイクロチャネル表面に結合させる。例えば本発明のマイクロチャネル表面を、過剰なフィコールまたは任意の他の適した遮断剤で処理し、本発明のマイクロチャネルのバックグラウンドのシグナルを減少させることができる。
【0035】
本発明の別の局面に従って、本発明の装置および任意で説明書を含むキットを提供する。一つの態様において、本発明のキットは本発明の装置を含み、ここで本装置のマイクロチャネル表面は隔離剤でコーティングされておらず、キットは任意でマイクロチャネル表面を隔離剤でコーティングするための説明書を含む。別の態様において、本発明のキットは本発明の装置を含み、ここで本装置のマイクロチャネル表面は隔離剤および任意で遮断剤でコーティングされており、キットは任意でそのような装置を用いるための説明書を含む。
【0036】
本発明のさらに別の局面に従って、標的分子、例えば標的生体分子を捕捉または検出するために本発明の装置を用いる方法を提供する。標的生体分子は、様々な細胞、および核酸、タンパク質、ペプチド、ウイルス、糖質などのいずれかであってよい。しかしながら、いかなる範囲も限定せずに、本発明は特定の効率を提示すると確信され、細胞分離および検出において特定の利点を有する。「細胞」という用語を、本出願を通して使用するが、隔離剤に特異的な表面リガンドを同様に保持する細胞断片および/またはレムナントを含むことが理解されるべきである。一つの態様において、本発明の標的細胞は、新生物、例えば癌または腫瘍細胞である。別の態様において、本発明の標的細胞は、例えば胎児を保有する対象由来の血液中または子宮頚管粘膜試料中の胎児細胞である。なお別の態様において、標的細胞は試料中にわずかしか存在せず、例えば試料中の標的細胞と総細胞集団の比は、約1:107、1:108、または1:109より低い。
【0037】
本発明の装置によって捕捉される標的分子は、インサイチューまたはマイクロチャネル表面から遊離させた後のいずれかで、検出または分析することができる。例えば、FISHまたは任意の他の適した方法により、インサイチューで、細胞を直接検出することができる。ヌクレオチドおよびタンパク質を、本発明のマイクロチャネル表面からの遊離前または後のいずれかに、インサイチューで直接分析することもできる。
【0038】
本発明のある特定の態様に従い、収集領域17を有する少なくとも1つのマイクロチャネル13を含む流路が内部に定められている基板11を含む装置を提供する。本装置においては、流路が試料流入口15および液体流出口19に連結されている。本明細書で以下に述べるように、流路は、そのそれぞれが1つのこのような収集領域を有する、連続して配置されたいくつかのマイクロチャネルを含んでもよい。または、いずれも当技術分野で周知であるように、マイクロチャネルが、連続して配置された複数の収集領域を有してもよく、複数の流入口および複数の流出口があってもよい。さらに、それが、チップ、ディスクなどの上に構築された一体型マイクロ流体装置の一部であってもよい;このような装置においては、細胞回収および/または試料から単離された生体分子の診断を行うために必要なMEMS(マイクロエレクトロメカニカルシステム)または構成要素の実質的に全てを、単一の小型で容易に取り扱える単位装置の一部として組み込んでもよい。
【0039】
図1は、試料液体が入口または流入口としての役割を果たす開口部またはウェル15を通して供給される、マイクロチャネル13および流出口としての役割を果たす開口部19を含む流路を伴って形成された、基板11の斜視図である。収集領域17の断面積は、流入口開口部15からつながる流入口区域18のそれよりも大きい。流入口区域は、それが領域18の末端で広がって収集領域17に入るところのすぐ上流に、軸方向に配置された一対の仕切/支持体21を含む。これらの中央仕切は、流れを2つの行路に分けて、液体の流れをそれが収集領域17の入口末端に送達される際により均等に分配する役割を果たす。収集領域は、液体流路を横断するように揃えられ、フローチャネルの収集領域部分の幅全体にわたって不規則な、一般的にはランダムなパターンに配置された、複数の直立したポスト23を含む。ポストのパターンは、収集領域を通る直線的な流れが最小限かまたはその流れがなく、層流の流れが乱されるかまたは阻害されて、流路に沿って流される液体とポストの表面との間に良好な接触が確保されるようなものである。ポストは収集領域17の平台22と一体化され、それに対して直角に延び、基板11のフローチャネルを通って流される流体の水平路に対して垂直な表面を呈する。好ましくは、本明細書の以下で述べるように、それらは、基部面22と並行であってフローチャネルを閉鎖する、対向する平坦閉鎖板27の面へ延びて、それとの結合によってその遊離端面で固定される。流入口および流出口の穴24aおよび24bを、このような閉鎖板を貫通させて開けてもよいが、それらは好ましくは基板11の内部に提供される。もう1つの流れ仕切/支持体21aは、収集領域からの出口に置かれる。
【0040】
当技術分野で周知であるように、それぞれが収集領域を有する一対の並行したマイクロチャネルを含む流路を伴って、基板を形成することができる。このようなものは直列流配置として用いることも可能であると考えられ、またはそれらを並列流操作に用いることも可能であると考えられる。流れは、例えばシリンジポンプなどを用いたポンプ輸送により、または直径の大きな流入口穴24aによって提供される流入口ウェルで、貯留槽から液体を引き出すと考えられる陰圧により、実現される。好ましくは、約50μl〜約500μlの液体試料を収容する能力を有する、このようなウェルが含まれる。
【0041】
フローチャネルのデザインは、適度な範囲にある装置を通る流速で、例えば、収集領域内に1秒当たり約0.01〜100mmの速度の流れを生み出すような標準的なHarvard Apparatus社の注入シリンジポンプを用いた母体血液の注入で、乱流を生み出すことなく領域を通る層流の実質的な乱れがあるようなものである;これは収集領域の全体にわたる種々のサイズのポストのランダムな配置およびポストの相対的な間隔に起因する。死点を伴わない比較的平滑で非層流的な流れは、好ましくは液体流速が約0.3〜10mm/秒で実現され、より好ましくは流速は約0.5〜5mm/秒に維持され、規定されたサイズの流入口ウェルからの吸引によって実現される。
【0042】
一般的には基板11は、ケイ素、溶融シリカ、ガラスおよびポリマー材料などの任意の適した実験許容性材料で作ることができる。光透過性の材料を用いることが望ましいと考えられ、特に診断機能を任意で用いる場合にはそうである。その最も簡単な態様において、構成されたマイクロチャネルを担持する基板を、図3に示す基板11の対向面に隣接すると考えられる平面を有する板27によって封止する。このような板は同じ材料から製造してもよく、または単にガラスでできたカバープレートであってもよい;しかし、本明細書の以下に説明するように中間流調節板25を含めてもよい。用いうる適したプラスチックには、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ならびに実験材料使用が許容されることが周知の他のポリマー樹脂が含まれる。このようなパターン化された基板は、従来の型成形法および注型成形法から選択されるもののような、任意の好都合な方法を用いて製造することができる。
【0043】
基板は、当技術分野で周知であって、その開示内容が参照により本明細書に組み入れられるJ. Nanobiotechnology誌の論文に記載されているように、光リソグラフィーを用いて、厚いネガ型フォトレジストで作り出すことができる種型または雌型構造を用いてポリマー材料から都合よく製造してもよい。例えば、構築層は、市販されている標準グレードのエポキシ樹脂(EPON SU-8)フォトレジストおよび硬化剤(SU-82025)の混合物から形成することができ、それらをシリコンウエハー基板上に2000rpmでスピン加工して、例えば、このようなフォトレジストの40または50μm厚の薄膜を得ることができる。その厚みが収集領域内の高さを決定する。薄膜を、全体にわたって均等な厚みを確保するために、正確な水準の熱板上で60℃で3分間、続いて95℃で7分間にわたる露光前ベーキングに供し、その結果得られたサンプルを室温まで冷却する。Karl Suss Contact Mask Alignerを用いて、最終的デバイスにおける流路のための所望のパターンで薄膜に露光させる。続いて薄膜を65℃で2分間、続いて95℃で5分間ポストベークし、その後それを、現像中は軽い攪拌を適用しながら市販のSU-8現像剤中で5分間現像した。これによってエポキシ樹脂フォトレジストの雌パターンの型が作り出され、それは続いてPDMSまたは他の適したポリマー樹脂でのパターン化されたポスト基板の複製のための種型として用いられる。
【0044】
一例として、PDMS組成物を、PDMSプレポリマーおよび硬化剤の重量比で10:1の混合物(Sylgard 184キット、Dow Corning)から調製する。この混合物を、混合中に形成される可能性のある泡を排除するために減圧下に供し、その後所望の深さの腔の中に設置されたエポキシ樹脂種型に注ぎ入れ、所望の厚さの基板を作り出す。種型には任意で、硬化後のPDMSレプリカの離型を改善するために、適した金属(例えば金)の薄層(ほぼ50nm)をプレコーティングしてもよい。PDMS基板の硬化は80℃で90分間行うことができる;しかし、本明細書で以下に考察するように、PDMSをまず生硬化(undercuring)させることにより、ポスト表面を含む収集領域のその後の機能付与を容易にすることも可能である。
【0045】
マイクロチャネル13および収集領域17内のパターン化されたポスト23の割付および寸法は、種型の製造の露光段階で用いられるマスクによって決定される。マイクロチャネル13の深さは種型のSU-8層の厚さによって制御され、それはスピンコーティング条件によって決定される。図2は、好ましい概ねランダムな配置にある収集領域17内のポスト23を拡大したものを示す、マイクロチャネル13の上面図を提示する。
【0046】
代替的な態様において、流入口および流出口の連絡を得るために、離型されたPDMSレプリカ基板の平坦で無傷の表面またはカバープレートに、穴24をドリルで開けること、または他の様式で作り出すことも可能と考えられる。前者の場合、それを、基板に対する無孔カバーまたは底板を提供すると考えられる、簡易な顕微鏡カバーガラスまたはPDMSの薄い平坦な小片などのような他の適した平板とかみ合わせることもできると考えられる。この2つの構成要素をプラズマクリーニングに2分間供した後、浄化された2つの表面を、対向する表面に触れることなく直ちに表面を密着させて置き、それを続いて当技術分野で周知であるような表面反応によって封着し、永続的な封を形成し、マイクロ流体流路を閉鎖する。
【0047】
オンチップでのフロー管理をこのような装置に一体化することが望ましい場合、空気弁などのフロー調節特徴要素のための腔を組み込んだ別個のSU-8母型を、同様に製造することもできる。このような種型から生成されたフロー調節板または層25をまずマイクロチャネル基板11に積層させ(図4および5参照)、続いてそれに平坦閉鎖板27を積層させることが考えられる。マイクロフロー装置におけるこのようなフロー調節構成要素および他のMEMSの使用は、米国特許第6,074,827号および第6,454,924号に示されており、それらの開示内容は参照により本明細書に組み入れられる。このようなフロー調節板25をマイクロチャネルを担持する基板11と慎重に揃えて置き、続いて80℃で一晩焼き入れして、複合構造を製造する。その後、フロー調節板25内の腔を、前述したものと同じ手法を用いて、平板またはスライドガラス27によって閉鎖する。さらなる選択肢として、さらにより精密な制御および随意選択的な加工処理を組み込むことが望ましい場合、第2のフロー調節板を同じ手法を用いて第1の板25に積層させてもよい。
【0048】
例えば、オンチップでのフロー調節機構を、基板に対して封着されるフロー調節層25をそれらに配置することにより、基板11中に形成された多チャネル系に提供することができる。簡単な系は図4および5に図示されており、そこでは通路24aおよび24bが流入口および出口につながっている。空気弁29に対する空気供給は、基板11を貫通して板25まで延びた、穿孔により、または他の様式により適切に形成された穴30を介したものであってよい。フロー調節板25または基板11は、任意で、液体を流入口15に送達しうる代替的な供給通路を含むことも可能であると考えられ、これはまた、当技術分野で周知であるような代替的な出口または排出通路を含んでもよい。
【0049】
前述したように、2つの直列連結された収集領域が備えられた配列は、様々な操作方法および使用方法に適する。例えば、関心対象の標的生体分子または細胞の2つの異なる部分集団を含む可能性のある試料液体を処理しようとする場合、1つの種類の隔離剤を1つの収集領域またはチャンバー内のポストに付着させ、異なる種類の隔離剤を下流収集チャンバーのポストに付着させることができる。または、標的細胞が極めて希少である状況では、液体試料中の細胞のほぼ100%を捕捉しうる尤度が高くなるように、同一の隔離剤を両方の収集チャンバー内のポストに付着させることが望ましいかもしれない。
【0050】
パターン化されたポスト領域のポリマー表面は、所望の標的細胞または他の生体分子に特異的な隔離剤の全ての表面への結合を可能にするために、様々な方法で誘導体化することができる。例えば、プラズマ処理およびマイクロチャネルを担持する基板の閉鎖の後、アミノ官能基含有シラン(例えば、Dow Corning Z-6020の10%溶液)またはチオ官能基含有シランのエタノールによる容積比1〜50%の溶液をマイクロチャネルに注入して開口部15と19との間の領域17を満たし、液が満ちたマイクロチャネル13を続いて室温で30分間インキュベートする。誘導体化は、不完全に硬化したPDMSなどのポリマーに対して、マイクロチャネル領域を板で閉鎖する前に行うことができる。このような場合、前述のように、代替的な方法は、PDMS基板をわすかに生硬化させ、続いて密着板を固定して置換シランまたは他の官能化試薬で処理した後、硬化を完了させることである。例えば、Z-6020で処理した後硬化を完了させるために、約50〜90℃で約90分間の最終加熱段階を用いてもよい。または、室温で1日または2日置いても硬化が完了すると考えられる。対向する表面の誘導体化は真の結果ではないため、このような誘導体化処理をマイクロチャネル領域の閉鎖の前に行うこともできる。続いて流路をエタノールで浄化すれば、マイクロチャネルに生体分子隔離剤を結合させる準備が整う。
【0051】
隔離剤はポスト上に直接的または間接的に固定化することができ、付着を促進するためにポストを前処理および/またはコーティングしてもよい。間接的な固定化が明らかに好ましく、これはポストと最初に連結される中間作用物質または物質を用いることを想定しており、さらに、中間作用物質と連結させるためにはカップリング対を用いることが望まれると考えられる。例えば、ストレプトアビジンまたは別の種の抗体を標的とする抗体を、中間作用物質と結合させることができ、それらにその後ビオチン化Abまたはこのような別の種のAbとカップリングさせることが考えられる。
【0052】
隔離剤としての抗体の使用は細胞分離のために好ましく、それらの付着は米国特許第5,646,404号および第4,675,286号ならびに先行技術全般にわたって記載されている。例えば、非共有結合的付着のための手順は米国特許第4,528,267号に記載されている。抗体を固体支持体に共有結合的に付着させるための手順も、Ichiro ChibataによりIMMOBILIZED ENZYMES;Halstead Press:New York (1978)、およびA. Cuatrecasas, J. Bio. Chem. 245:3059 (1970)に記載されており、両者の内容は参照により本明細書に組み入れられる。抗体は固体ポスト表面と、表面層の使用、または続いてそれにAbを付着させる長いリンカーのコーティングを介するように、間接的に結合させることが好ましい。例えば、表面を最初にタンパク質などの二官能性または多官能性作用物質でコーティングする;続いて作用物質をカップリング剤、例えばグルタールアルデヒドを用いて抗体とカップリングさせる。抗体はまた、水溶液中にある抗体を、遊離イソシアネート基またはポリエーテルイソシアネートなどの等価な基を有する層でコーティングされた表面に適用することによって有効に結合させることもでき、または抗体をシアン化臭素によってヒドロキシル化材料とカップリングさせてもよい。特に好ましいのは、同時係属中の特許出願に開示され本明細書の以下の実施例に記載する遊離イソシアネート基を有する親水性ポリウレタンを基にしたヒドロゲル層の使用、またはPEGの1つ、ポリグリシンなどのように十分な長さのある親水性リンカーの使用である。
【0053】
抗体(Ab)を用いる場合、当技術分野で周知の任意の機序を用いて、それらを、好ましくはこのような中間作用物質によって、適切に付着させる。例えば、Abを、それらをチオール化するために2-アミノチオランで処理し、その結果生じたチオール化Abを、PEG-マレイミドで処理したポストと結合させてもよい;または、Abを、反応性イソシアネート基またはチオシアネート基を有する適切な親水性コーティングと、直接的に共有結合させることもできる。
【0054】
抗体または他の隔離剤がパターン化されたポスト収集領域の全体にわたって配置されれば、マイクロチャネルデバイスは使用可能な状態である。血液試料もしくは尿試料などの体液、または標的細胞集団を含むもしくは含むことが疑われる他の何らかの前処理された液体を、標準的なシリンジポンプからこのようなマイクロチャネルデバイスに対する流入口15につながる流入口通路24aへと注意深く放出させること、または所望の容量の検査用の試料を収容するためのウェルとしての役割を果たす相対的に直径の大きい流入口通路24aによって提供される試料貯留槽を通して真空ポンプなどによって吸引することなどによって、流路に沿って収集領域17を通して流す。開口部24aは、このようなシリンジポンプと接続された管とかみ合わせるために、このようなものを用いる場合、継手(示されていない)を含んでもよい。ポンプは、装置を通る約0.5〜10μl/分の流れを生じさせるように操作してもよい。処理および/または分析しようとする体液または他の細胞を含む液体によっては、当技術分野で公知であるように、その容積を減らすため、および/または望ましくない生体分子をそこから除去するために、前処理の段階を用いることもできる。
【0055】
細胞分離法の全体的な効率を潜在的に高めるためには、流出口19から出る試料を収集して、それを複数回マイクロチャネルデバイスを通して流すことが望ましい場合もある;このような反復処理は、細胞が特に希少であって、そのため試料中の数が極めて少ない可能性が高い場合に特に有用と思われる。しかし、本装置によって実現される捕捉効率が高いことからみて、このような反復的な流れが必要になることはめったにないと考えられる。または、前述したように、連続して連結された2つの収集チャンバーを用いることも考えられる。さらに、ある程度大量の体液試料を処理しようとする場合、2つまたはそれ以上のマイクロチャネルを基板上で並列的に用いることも可能と考えられる。
【0056】
隔離剤(例えば、Ab)は、マイクロチャネル内の基部、対向表面、ポストおよび収集領域の側壁に付着される;しかし、このような側壁表面は、基部、対向表面および流れを乱すポストほどには、細胞の捕捉に関して特に有効ではない。細胞または他の生体分子を含む液体の流れは、限定された管腔を通してであっても、結果として細胞は流動剪断力が最小である中央の流動領域に主として存在する;その結果として、隔離剤を担持する側壁上での捕捉は、横断ポストが層流を乱している中間領域における表面上での捕捉と比較して極めて乏しい。これらの領域内では、適正にカップリングすることの結果として本来の三次元コンフィギュレーションをとりうる隔離剤が驚くほどに有効である。
【0057】
装置を通した液体試料の流れの完了後、存在するならば、標的とした細胞が収集領域内に捕捉されていると考えられ、パージはまず、試料の一部であって収集領域内の抗体または他の隔離剤によって強く捕捉されない異質な生体材料の全てを除去するために、緩衝液を用いて行われる。有効な緩衝液を用いたこのようなパージにより、非特異的に結合した全ての材料が除去され、マイクロチャネル装置内の収集領域内に付着した標的細胞のみが残ると考えられる。
【0058】
緩衝液を用いたパージがひとたび完了したところで、処理方法の目的が細胞収集のみである場合、捕捉された細胞を続いて適切に遊離させる。本明細書で以下に述べるように、場合によっては、何らかの分析をインサイチューで行うことが望ましいと思われる。例えば、細胞を付着した状態で算定すること、またはそれらを溶解させてその後、収集チャンバーまたは下流のいずれかにおいてPCRに供してもよい。または、細胞を、捕捉または接着させながら、例えばFISHまたは任意の他の適した検出方法によって、直接観察または検出することができる。
【0059】
遊離を行わせる場合、力学的(例えば、高流量)、化学的(例えば、pHの変化)、または酵素的切断剤の使用のような、当技術分野で公知の任意の方法を用いることができる。例えば、標的細胞を収集領域から遊離させることを目的として、隔離剤を切断するため、または作用物質と細胞との間の結合を切断するために、試薬を適用することもできる。例えば、トリプシンまたは特異的に照準が合わされた酵素を、Abおよび/または細胞表面抗原を分解するために用いることもできる。Abなどを付着させ、かつ続いて捕捉されたリガンドを有効に取り出すための具体的な方法は、米国特許第5,378,624号で考察されている。例えば、希少な細胞の表面上の特徴に特異的な抗体の使用によって、細胞が隔離されている場合、遊離は、トリプシンまたはプロテイナーゼKなどの別の適したプロテアーゼを含む溶液を用いた処理によって行わせることができる。または、他の隔離剤からの遊離を行わせるためにコラゲナーゼを用いてもよく、または特異的に切断されうるリンカーを隔離剤と付着させるために用いてもよい。このような切断の際には、マイクロチャネルからの流出口を貯留槽または他の収集装置と接続し、遊離した希少な細胞を保有する排出流を、さらなる分析のために収集する。マイクロチャネルデバイスを、流出口に複数の出口通路、およびどの出口が開くかを調節するための弁を備えるように構成することもできる;これにより、1つの出口通路を予備段階における廃棄物の排出のために用い、続いて標的細胞の流れを収集容器に導くために異なる出口通路を用いることが可能になる。
【0060】
パターン化されたポスト収集領域17におけるポスト23の位置および形状は、最適な流体力学、およびその特異的な表面上の特徴による標的細胞の捕捉の向上のために操作することができることが、見いだされている。極めて一般的には、ほとんどの場合において、横断固定ポスト23の水平断面の好ましい形状は、ポストの横断表面に対する非特異的結合を促進する可能性のある鋭角を回避したものである。ポスト23は直線的な外面を有し、好ましくは一般的には環状断面形状または6つもしくはそれ以上の辺を有する正多角形である。用いうる代替的な形状には、先端が下流端にある涙滴形、および軽度に弯曲した形状または卵形がある;しかし、より強い衝突が望ましい場合、四角形を用いてもよい。ポストのパターンは、ポストの表面、基部および対向表面に付着された隔離剤による標的細胞の捕捉を向上させる液体の流れの流動パターンを生み出すべきである。この目的を達成するためには、ポストは様々に異なるサイズであって、ひと揃いのランダムなパターンで配置されているべきであることが見出されている。驚いたことに、例えば、高さが約100ミクロンで幅が約2〜4mmである収集領域内の、断面サイズが様々に異なるポスト23、例えば、直径約70〜約130ミクロンの少なくとも約3種または4種の異なるサイズである環状断面のポストのランダムなパターンは、ポスト間の最短の分離間隔が50〜70μm、好ましくは約60μmである場合に、液体試料の流れからの細胞の特に有効な捕捉を促進するようである。
【0061】
全てが基部に対して垂直である平行線によって形成された側壁を有するポストの断面積は、それらが収集領域の容積の約15〜25%を占めるようなものであることが特に好ましい。好ましくは、ポストのパターンは、それらが収集領域の容積の約20%を占め、液体の流れのための空隙容積が約80%残されるようなものであると考えられる。図2に示されたポスト位置の特定のランダムなパターンは、層流が有効に乱されるこれらの領域内で、隔離剤によって細胞が捕捉される傾向を高めるように見える。ポスト23は互いにかなりの間隔、例えば少なくとも約60ミクロンをあけており、異なるサイズのポストが互いの上流および下流に設置されることが好ましい。
【0062】
より小さなポストはより大きなポストの下流に渦領域を作り出す可能性があり、生成される流動パターンの結果として、その近傍にある表面は、標的細胞の捕捉に特別な有効性を示すと考えられる。図2に示されるように、側壁から約100ミクロンを上回る位置にある、流路の長軸方向に延びる任意の直線は、複数のポストと交差すると考えられる。前述したように、ポストは基板の基部20の表面と一体化しており、好ましくは対向表面、すなわちフロー調節板25もしくは平坦閉鎖板27のいずれかに対する反対端または遊離端で固定される。
【0063】
前に示したように、抗体などの隔離剤の接着が収集領域全体にわたって促進され、特定の親水性ヒドロゲル物質の薄層、または分子量が少なくとも約1,000ダルトン、好ましくはMWが約2,000〜100,000ダルトン、より好ましくは約3,000〜50,000ダルトンである、PEG、ポリグリシンなどの親水性リンカーの薄層で、その表面をコーティングすることにより、隔離剤をより効率的に作用させる。特に好ましいのは、ウレタン結合によって重合し、反応性イソシアネート基を含むPEG、PPG、またはそれらのコポリマーを含むイソシアネート官能性ポリマーである親水性ヒドロゲルコーティングを用いることである。このようなコーティング材料の処方の詳細は、2004年12月23日に出願した同時係属中の米国特許出願第11/021,304号に開示されており、これは本出願の指定代理人に帰属する。チャンバーを通る層流を乱すようにランダムに配置された様々な直径の複数のポスト61が存在し、ポスト61および対向する平面のそれぞれが外部コーティング63を担持している、マイクロチャネル内部の収集領域の図を、図8に概略的に示す。ポスト上の親水性ヒドロゲルコーティングに接着し、結果として、主として水であるヒドロゲルに付着することによって、改変されないその本来の三次元コンフォメーションを保つ抗体の形態である隔離剤65もまた記載する。
【0064】
図9は、図8に示すような、好ましい特徴を有するヒドロゲルを用いた場合に用いてもよい化学反応の概略図として提供する。隔離剤、例えば抗体を、親水性ヒドロゲルポリマーコーティング49が表面に塗布されている収集領域17''の全体にわたる全ての表面に付着させる、代表的な一連の流れを示す。図9のポイント1は、アミノシランなどによる処理によるアミノ誘導体化の後の表面を示す。この段階の後、表面をカゼインコーティングするために脱脂乳を用いる;ポイント2を参照。ポイント3は、トルエンジイソシアネートによる末端キャッピングを受けた分子量が約3400のPEGを含むプレポリマーを用いてコーティングが行われた後の、コーティングされた表面を表す。そのようなプレポリマーを、NMPとCH3CNとの混合物のような水混和性の有機溶媒に溶解させてもよい。ヒドロゲル製剤は好ましくは、三官能性またはそれを上回る官能性ポリオール、例えば、PEGおよびPPGを含み、三官能性イソシアネートを含んでもよい。重量比で約98.5パーセントの水を含む水溶液を調製し、その溶液をマイクロチャネルを通してポンプ輸送し、そのためアミン誘導体化された表面にある末端キャッピングを受けたイソシアネート基の反応の結果として、ポストの表面および収集領域の対向表面が、この親水性ヒドロゲルコーティングと接触する。その最終結果は図9にポイント3として表す。
【0065】
ポイント4は、表面アミノ基を有すると考えられる抗体の付加を表している。それらは、ポイント5に示されるように、Abのアミンと親水性コーティングによって担持されるイソシアネート基またはチオシアネート基との共有結合によって、ポストのこのような親水性ヒドロゲルコーティングに対して直接付着させることができる。または、図9のポイント6に示すように抗体をまずチオール化して、続いてこれらのチオール化抗体を水溶液として、それらが次にコーティングされたポリマーのイソシアネート基と容易に共有結合すると考えられる場所である収集チャンバーに供給することもできる、ポイント7参照。
【0066】
図92中のポイント8および9に示すように、収集チャンバーを通して流す液体試料中の細胞が、乱された層流の結果として、ポストおよび/または対向表面と接触するようになると、抗体に特異的な細胞表面上の抗原がそれに結合し、細胞を有効に捕捉する。
【0067】
図10は、隔離剤、特に抗体を収集領域内の表面に係留するために、細長いPEGまたはPPGの直鎖状ポリマーを用いる場合に用いうる化学反応の概略図として提供される。直鎖状ポリマーは、抗体が、捕捉が行われる水性環境中でその本来の三次元構造であると想定されるような長さであるように選択される。図10のポイント1は、アミノシランなどによる処理によるアミノ誘導体化後の表面を示す。この段階の後、再び上記のように、表面をカゼインコーティングするために脱脂乳を用いる。洗浄後、分子量が少なくとも約2000、好ましくは少なくとも約3000であって、NHS部分を一方の端に、マレイミジル部分を反対の端に有する、直鎖状のPEGまたはPPGで、全ての表面を処理する。N-ヒドロキシ-スクシニミジルエステル部分は表面上のアミノ基と容易に反応し、少なくとも約1ミクロン厚のコーティングを提供する。適したインキュベーション後、図10のポイント3によって表されるように、マイクロチャネルを排液させ、適した緩衝液で洗浄し、マレイミド-PEGでコーティングされた表面を残す。ポイント4は、栄養芽細胞に特異的であって、表面アミノ基を元来有する抗体を表す。抗体は好ましくは、図10中のポイント5に示したポイントに到達させるために、トラウト試薬などの適した試薬を用いてチオール化される。続いてチオール化された抗体を、緩衝液中にある精製チオール化抗体をマイクロチャネルに導入し、それを適切にインキュベートすることにより、マレイミド-PEGでコーティングされたポストと結合させる。続いてマイクロチャネルを適した緩衝液で洗浄し、図6に示す配列を得る。
【0068】
図10の概略図のポイント7は、直鎖状PEGカップリング剤によって表面に係留された抗体による栄養芽細胞の捕捉を示す。
【0069】
以下の実施例は、子宮頚管粘膜の抽出物から栄養芽細胞を隔離するための、このタイプのプロトタイプ的マイクロチャネルデバイスの有効な使用法を例示する。これらは、当然ながら、本発明の特定の態様のみを単に例示するものであって、この説明の末尾に添付された特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲に対する制約をなすものではないことが理解される必要がある。
【0070】
実施例1
生体分子を分離するためのマイクロフロー装置は、実施例1に記載のプロトタイプ基板を用いて構築される。基板はPDMSから形成され、フローチャネルを閉鎖するために平坦ガラスプレートと結合される。収集領域の全体にわたる内面は、Dow Corning Z-6020の容積百分率10パーセント溶液とともに室温で30分間インキュベートすることによって誘導体化される。エタノールで洗浄した後、それらを脱脂乳により室温で約1時間処理し、薄いカゼインコーティングを生じさせる。水中10%エタノールでの洗浄に続き、イソシアネートでキャップした平均MWが6000のPEGトリオールをベースとするヒドロゲルを用いて処置を行う。用いる製剤は、約3%のポリマーから構成される。ヒドロゲルプレポリマーは、6部の有機溶媒に対して重量で1部のポリマーを用いて作製する。すなわち、アセトニトリルおよびDMFを、BSAを含む100 mMのホウ酸ナトリウム(pH 8.0)中1 mg/mlの抗体溶液と混合した。特定の製剤は、Acn/DMF中100 mgのプレポリマー、ホウ酸緩衝液中0.25 mg/ml抗体混合物を350μL、およびホウ酸緩衝液中1 mg/ml BSAを350μL含み、約2重量%のポリマーを含有する。
【0071】
この試験のため、子宮頚管粘膜の試料から栄養芽細胞を単離することが望ましく、Kawata et al., J. Exp. Med., 160:653 (1984)には、細胞特異的Ab(例えばヒト栄養芽細胞に対するモノクローナル抗体(抗Trop-1および抗Trop-2))を用いて標的細胞を検出することにより胎盤細胞集団を単離するための方法が開示されている。'596特許は、他のそのようなAbを同じ目的のために使用することを教示し、米国特許第5,503,981号は、この目的のために用いることができる他の3つのモノクローナルAbを特定している。Trop-1およびTrop-2に対する抗体は、胎児の器官のものである栄養芽細胞の外表面に担持されているリガンドに特異的である。これらの抗体に対して選択される緩衝液をまず、Amicon's Centricon-30(商標)膜ベースのミクロン濃縮器で繰り返し濃縮することによって、この抗体の計画された改変と安定性により適合する緩衝液へ変更した。抗体(0.1 mg)を次いで、5 mM EDTA(pH 8.3)を含む100μlの0.2 Mホウ酸ナトリウム/0.15 M NaCl中に溶解し、5μlの40 mMトラウト試薬と室温で一時間反応させ、チオール化させた。過剰量のトラウト試薬を10μlの100mMグリシンと反応させ、続いてCentricon-30(商標)上でのチオール化抗体の精製を行った。チオール化は標準的な検査法によって確認した。
【0072】
合計約5μgのチオール化抗Trop-1および抗Trop-2を含む濃度約0.5mg/mlの水溶液を、前処理したマイクロフロー装置に供給し、溶液をそのまま置いて25℃で2時間インキュベートする。このインキュベーション期間の後、1%PBS/BSAでフローチャネルを流し洗いして、抗体がコーティングされた表面を得た上で、それを用いて胎児栄養芽細胞を単離することを試みた。
【0073】
妊婦(妊娠8〜12週)から得た子宮頚管粘膜を、HAM培地(InVitrogen)で10mlに希釈し、DNアーゼ(120単位)により37℃で30分間処理した。100μmの細胞濾過器を通した濾過の後、細胞を1500RPMで30分間遠心した。細胞ペレットをHAM培地(100μl)中に再懸濁させ、約50μlの子宮頚管粘膜抽出物のこの細胞懸濁液が満たされたHarvard Apparatus社製シリンジポンプから流出口管までマイクロフロー分離装置をつなぐことにより、Trop-1およびTrop-2がコーティングされたマイクロチャネルを通過させた。シリンジポンプを作動させて、室温で約10μl/分の速度でマイクロフロー装置を通る試料液体の緩徐な連続流を生じさせる。この期間中に、横断ポストのランダムなパターンが設置された収集領域内の表面に付着させたTrop-1およびTrop-2 Abは、試料中に存在する栄養芽細胞を捕捉する。全試料をシリンジポンプによって送達した後、1%PBS/BSA水性緩衝液によるゆっくりとした洗い流しを行う。約100μlのこの水性緩衝液を約10分間にわたって装置を通して供給し、それが非特異的に結合した全ての生体材料をデバイス内のフローチャネルから効率的に除去する。続いて、それぞれ約100μlの1%PBS+1%BSAにより、約10分間にわたってさらに2回の洗浄を行う。
【0074】
この時点で、装置が光透過性材料でできている限りは、顕微鏡写真機などを用いることにより、捕捉の効果について顕微鏡検査を行うことができる。結合した細胞を、栄養膜由来の捕捉された細胞に特異的なサイトケラチン7およびサイトケラチン17によって染色した。このような顕微鏡写真における細胞を算定することにより、試料中に存在すると推定される栄養芽細胞の実質的に97%が、パターン化されたポスト収集領域内に捕捉されることが推定されており、これは極めて優れた結果であると判断される。
【0075】
捕捉および洗浄の段階を介したこの手順の反復において、100μlの0.25%トリプシン溶液を27℃で20分間にわたってフローチャネルを通してゆっくりと流すことにより、捕捉された栄養芽細胞が遊離される。この試薬は、Abの消化を引き起こして、栄養芽細胞を水流中に遊離させ、それらが流出口を通過して収集される。収集された細胞の、PCRおよびFISHを基にした技術による分析により、それらが実際に、用いたAbによって標的とされた栄養芽細胞であることが示される。
【0076】
実施例2
生体分子を分離するためのマイクロフロー装置を、実施例1に記載のプロトタイプ基板を用いて構築する。基板はPDMSから形成され、フローチャネルに近接した平坦なガラスプレートに結合される。収集領域全体にわたる内部表面は、10容量%のDow Corning Z-6020溶液と共に室温で30分間インキュベートすることによって誘導体化される。エタノールで洗浄後、室温で約1時間それらを脱脂乳で処理し、薄いカゼインコーティングを生成させる。水中10%エタノールでの洗浄に続き、イソシアネートでキャップした平均MWが6000のPEGトリオールをベースとするヒドロゲルを用いて処置を行う。用いる製剤は、約3%のポリマーから構成される。ヒドロゲルプレポリマーは、6部の有機溶媒、すなわち、アセトニトリルおよびDMFに対して重量で1部のポリマーを用いて作製し、BSAを含む100 mMのホウ酸ナトリウム(pH 8.0)中1 mg/mlの抗体溶液と混合する。得られた特定の製剤は、Acn/DMF中100 mgのプレポリマー、ホウ酸緩衝液中0.25 mg/ml抗体混合物を350μL、およびホウ酸緩衝液中1 mg/ml BSAを350μL含み、約2重量%のポリマーを含有する。栄養芽細胞の外表面に担持されているリガンドに特異的である抗体Trop-1およびTrop-2を再度用いる。
【0077】
合計約5μlのTrop-1およびTrop-2ヒドロゲル水性溶液を、前処理したマイクロフロー装置に添加し、溶液を25℃で約30分間インキュベートした。このインキュベーション期間後、フローチャネルにゆっくりと押し入れられて過剰なヒドロゲルを遊離させて押し出すミネラルオイルで、フローチャネルを洗い流す。これにより、PDMS材料からオイルを分離するヒドロゲルコーティングの薄層を有するオイルで充填したフローチャネルが得られる。3時間後、ヒドロゲルを完全に重合させ、オイルを1×PBS/0.1%Tween溶液で洗い流す。デバイスを次いで1×PBS溶液で充填し、Abを保護する。
【0078】
妊婦(妊娠8〜12週)由来の子宮頚管粘膜を、HAM培養液(InVitrogen)で10 mlに希釈し、DNアーゼ(120ユニット)により37℃で30分間処理する。100μm細胞ストレーナーを通して濾過した後、細胞を1500 RPMで30分間スピンする。細胞ペレットをHAM培養液(100μl)に再懸濁し、約50μlのこの子宮頚管粘膜抽出液の細胞懸濁液を満たしたHarvard Apparatusシリンジポンプからの流出管にマイクロフロー分離装置を接続することによってTrop-1およびTrop-2でコーティングしたマイクロチャネルを通過させた。シリンジポンプを操作して、試料液がマイクロフロー装置中を、室温で約10μl/分の速度で、ゆっくり連続的に流れるようにし、その間収集領域内の表面に接着したTrop-1およびTrop-2 Abが、試料中に存在する栄養芽細胞を捕捉する。全試料をシリンジポンプによって送達した後、1%PBS/BSA水性緩衝液によるゆっくりとした洗い流しを行う。この水性緩衝液の約100μlを約10分間にわたり、装置を通して供給し、これにより非特異的に結合した全ての生体材料がデバイス内のフローチャネルから効率的に除去される。続いて、それぞれ約100μlの1%PBS+1%BSAにより、約10分間にわたりさらに2回の洗浄を行う。
【0079】
この場合も、結合した細胞をサイトケラチン7およびサイトケラチン17で染色した後、捕捉の効果に関する顕微鏡検査を顕微鏡写真法を用いて行う。このような顕微鏡写真における細胞を算定することにより、試料中に存在すると推定される栄養芽細胞の優れた捕捉が達成されたことが明らかにされる。
【0080】
実施例3
生体分子を分離するための別のマイクロフロー装置を、実施例1に記載のプロトタイプ基板を用いて構築する。基板はPDMSから形成され、フローチャネルに近接した平坦なガラスプレートに結合される。収集領域全体にわたる内部表面は、10容量%のDow Corning Z-6020溶液と共に室温で30分間インキュベートすることによって誘導体化される。エタノールで洗浄後、室温で約1時間それらを脱脂乳で処理し、薄いカゼインコーティングを生成させる。
【0081】
10%エタノール水溶液で洗浄した後、2.5mM NHS-ポリグリシン(平均MWは約4500)を含む0.2 MOPS/0.5M NaCl、pH 7.0の10μlを用いて、攪拌を提供するためにチャネル内の溶液をポンプで穏やかに行き来させながらRTで2時間インキュベートすることにより、処理を行う。マレイミド-ポリGlyでコーティングされたチャネルを得るために、マイクロチャネルを500μlのpH 7.0 MOPS緩衝液で3回洗浄する。
【0082】
栄養芽細胞の外表面に担持されているリガンドに特異的である、抗体Trop-1およびTrop-2を実施例1と同様に処理し、それらをチオール化する。
【0083】
合計約5μgのチオール化抗Trop-1および抗Trop-2を含む濃度約0.25mg/mlの水溶液を、前処理したマイクロフロー装置に供給し、溶液をそのまま置いて25℃で2時間インキュベートする。このインキュベーション期間の後、1%PBS/BSAでフローチャネルを流し洗いし(3回)、抗体がコーティングされた表面を得た上で、それを用いて胎児栄養芽細胞を単離することを試みる。
【0084】
妊婦(妊娠8〜12週)由来の子宮頚管粘膜を、HAM培養液(InVitrogen)で10 mlに希釈し、DNアーゼ(120ユニット)により37℃で30分間処理した。100μm細胞ストレーナーを通して濾過した後、細胞を1500 RPMで30分間スピンした。細胞ペレットをHAM培養液(100μl)に再懸濁し、約50μlのこの子宮頚管粘膜抽出液の細胞懸濁液を満たしたHarvard Apparatusシリンジポンプからの流出管にマイクロフロー分離装置を接続することによってTrop-1およびTrop-2でコーティングしたマイクロチャネルを通過させた。シリンジポンプを操作して、試料液がマイクロフロー装置中を、室温で約10μl/分の速度で、ゆっくり連続的に流れるようにし、その間収集領域内の表面に接着したTrop-1およびTrop-2 Abが、試料中に存在する栄養芽細胞を捕捉する。全試料をシリンジポンプによって送達した後、1%PBS/BSA水性緩衝液によるゆっくりとした洗い流しを行う。この水性緩衝液約100μlを約10分間にわたって装置を通して供給し、それによって非特異的に結合した全ての生体材料をデバイス内のフローチャネルから効率的に除去される。続いて、それぞれ約100μlの1%PBS+1%BSAにより、約10分間にわたりさらに2回の洗浄を行う。
【0085】
この場合も、結合した細胞をサイトケラチン7およびサイトケラチン17で染色した後、捕捉の効果に関する顕微鏡検査を顕微鏡写真法を用いて行う。このような顕微鏡写真における細胞を算定することにより、試料中に存在すると推定される栄養芽細胞の良好な捕捉が達成されたことが明らかにされる。
【0086】
本発明を、現時点で発明者らが知りうる本発明を実施するための最良の実施形態を構成する、特定の好ましい態様に関して説明してきたが、本明細書に添付の特許請求の範囲に規定された発明の範囲を逸脱することなく、当業者には明らかであろう様々な変更および修正を加えることができることが理解されるべきである。例えば、ある種の好ましい材料を、内部にマイクロチャネルが定められた基板の製造用に記載してきたが、これのような検査デバイスに適するものとして用いうる、当技術分野で周知の広範囲にわたる構造材料が存在する。母体血液試料由来の胎児細胞または子宮頚管粘膜抽出物由来の栄養芽細胞の分離に、全般的な強調が置かれているが、本発明は例えば有核赤血球、リンパ球といった非常に様々な血液細胞、転移性癌細胞、幹細胞その他を分離するために有用であることが理解される必要がある;さらに、他の生物材料、例えば、タンパク質、炭水化物、ウイルスその他を、液体試料から分離することも考えられる。試料が細胞の特定の部分集団を含む場合、捕捉しようとする標的細胞は、希少な細胞から分離しようとする望ましくない細胞の群などであってもよい。さらに、標的とした細胞がひとたび収集されれば、それらをインサイチューで溶解して細胞DNAを得て、それを下流での分析のために収集してもよく、または代替的には収集チャンバー内部でのPCRに供してもよい。米国公開出願第2003/0153028号は、遊離された核酸を得るためにこのような結合細胞を溶解することを教示している。試料中に標的細胞の2種の異なる部分集団が存在する場合、異なる隔離剤を、一対の上流および下流収集チャンバー内のポストに付着してもよい。もう1つの状況において、1つの属の細胞を最初に上流収集チャンバー内に収集し、遊離させ、続いて細胞の亜属を単離するために下流チャンバー内で再びスクリーニングしてもよい。
【0087】
構築上の見地から、このような装置に任意で組み込んでもよいいくつかの追加的な構成要素が、図6および7に図示する。図6は、蠕動型ポンプ配列が、収集チャンバーに隣接する流入口通路領域および流出口通路領域に組み込まれている、図1に示すものに類似したマイクロチャネルを示す。図示されるのは、流入口15'、収集チャンバー17'および流出口19'を含むマイクロチャネル配列13'であり、これには収集チャンバーにつながる入口通路18'に設置された、特別に設計された3つの膜弁を組み入れることにより、一体型ポンプ輸送配列41が構築されている。概略図は図4および5に示されたものに類似した配列のものであり、そこではフロー調節層または調節板内のそれぞれの弁膜の圧迫側につながる通路30'に対する空気または他の高圧ガスの適用により、その膜が拡張させられ、それが結び付いているマイクロチャネルの隣接領域内の液体が圧搾される。3つの弁が左から右へと順々に作動するように制御ユニットをプログラムすることにより、マイクロチャネルの入口領域18'内の液体が右へとポンプ輸送されて収集デバイス17'を通るような波状の動きが設定される。所望であれば、同様の蠕動型ポンプ輸送配列43も、収集チャンバー17'から下流につながる出口通路領域45内に組み込まれる。
【0088】
もう1つの潜在的な代替物として、マイクロ混合配列が図7に図示される。供給通路55につながる環状経路53を含むマイクロ混合器51が図示されており、これは前述したような基板中の収集チャンバーにつながる入口通路であってもよい。液体を環状経路53に供給するために一対の流入口チャネル57aおよび57bが備えられ、経路55、57aおよび57bを通る液体流量は空気弁59を介して制御される。追加的な3つの空気弁61が通路それ自体の中に配置され、前述した種類の蠕動型ポンプ63を構成する。この構成は、収集チャンバーなどへの送達の前に、基板それ自体の中での2つの液体のマイクロ混合の効率的な方法を提供する。例えば、環状経路53を、1つの流入口チャネル57aからの何らかの液体および流入口チャネル57bからの何らかの緩衝液で満たすことにより、続いて環状経路に備えられた環の周りの液体をポンプ輸送するために3つの弁61を順々に作動させることによって混合を生じさせることができる;このようにして、送達通路55を通って排出される前に液体を十分に混合することができる。
【0089】
実施例4:血液試料中の胎児細胞の分離−MACS対CEE
基本的な実験アプローチ:
・ドナー1人当たり6×10 mlの血液を採取する
・フィコール細胞ペレットを各10 mlから調製する(主に血液の有核白血球成分を含む)
・約50 JEG細胞を各細胞ペレットにスパイクする
・MACSで3回、CEEで3回実行する、すなわち同じドナーから3つ組で実行する
・MACSとCEEは両方とも、通常MACSで血液中の上皮細胞を捕捉するために用いられるEpCAM抗体で、コーティングされている
・MACSとCEEからのJEG細胞の回収率をカウントする
・MACSとCEE上のバックグラウンドDAPIポジティブ細胞をカウントする
・6つの異なるドナーで繰り返す(合計18試料/デバイス)
【0090】
結果:
パフォーマンス
【0091】
結論:
・累計CEE捕捉はMACSより約2倍高かった(p<0.0001)
・全体のMACS非特異的捕捉はCEEより約13倍高かった(p<0.0001)
・フィコールからの特異的および非特異的な捕捉変動率は、両方の手法で高く、試料操作に起因するところが大きく、試料の変動率ではないようである
【0092】
具体的に本明細書で特定される米国特許および出願の全ての開示は、明確に参照により本明細書に組み入れられる。
【0093】
本発明の特定の特徴は、以下の特許請求の範囲で強調される。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は概して、標的分子の検出または単離、および特に所望の標的細胞または生体分子を検出または単離するのに有用な装置または方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
異種混交的な細胞集団からの希少な細胞の有効な単離および収集は、疾患の診断および治療、例えば遺伝子治療に用いるため、ならびに基礎科学研究のための、単離された細胞集団に対する需要の高まりを理由として、未だに大きな関心を集めている。例えば、癌細胞のように病的に変化した細胞を、より多数の正常細胞集団から分離することができ、続いて、浄化された細胞集団を患者に移植して戻すこともできる。
【0003】
妊娠中に潜在的な染色体疾患の初期スクリーニングを行うなど、初期の胎児診断を可能にするための胎児細胞の単離に対する1つの高い要望がある;胎児細胞は、羊水穿刺または絨毛生検などの方法によって採取されてきた。そのような方法を用いて、例えば信頼性の高い診断を可能にするために有意な量の胎児細胞を得ることができるが、そのような方法は、子宮への侵入が必要であり、典型的には最初の三半期の後にしか実施できないことから、特に胎児にとって危険をもたらす。
【0004】
胎児細胞は、ごく少数が胎児から母体の血流へ流れることから、母体の循環血液内にも存在する;しかしこれは結果として、母体の細胞に対して胎児細胞の比率はわずかなppmのオーダーでしかない。原則として、静脈穿刺によって得られた母体の血液試料が胎児の診断に用いられ得る:しかしながら多くの母体の細胞集団から非常に少数の胎児細胞を単離し回収するこのような方法に関して、重要な課題がいくつかある。これらの課題はまた、子宮頚管粘膜から胎児細胞を分離する際にも存在し、これらは、ごく僅かしか存在しない他の生体分子の検出および単離に加え、他の希少な細胞の体液などからの回収についても共通する可能性がある。
【0005】
細胞の検出および分離は生物医学的および臨床的な開発の点で急速に発展中の分野であり、複合集団から所望の細胞サブセットを分離する改良された方法は、比較的均一で規定された特徴を有する細胞のより広範囲にわたる研究および使用を可能にすると考えられる。細胞分離はまた、例えば、標的とする細胞集団に対する薬物または治療法の効果を判定するため、生物学的経路を調べるため、形質転換されたまたは他の様式で改変された細胞集団を単離および研究するため、などのために、研究においても広く用いられている。現在の臨床的な用途には、例えば、特に除去的な化学療法および放射線療法と組み合わせた、血液細胞の再構成のための造血幹細胞の単離が含まれる。
【0006】
固相への標的細胞集団の選択的で可逆性の接着を達成するために、細胞表面の分子を特異的親和性リガンドで標的化することによって、細胞分離を行うことが多い。その後の工程で、非特異的に吸着した細胞を、洗浄によって除去し、標的細胞を遊離させる。このような特異的親和性リガンドは、抗体、レクチン、受容体リガンド、またはタンパク質、ホルモン、糖質、もしくは生物活性を有する他の分子に結合する他のリガンドであってよい。
【0007】
多くのバイスタンダー集団から希少な細胞を回収するために用いられている現行の方法の1つは、標的細胞集団に選択的な抗体でコーティングされたポリスチレンマクロビーズを用いることである。特異的抗体でコーティングされたこのようなマクロビーズは、マクロビーズが沈降途中で標的細胞を捕捉するように、不均一な細胞集団の懸濁液中を重力により沈殿させることが多い。
【0008】
標的細胞を試料液体から分離するためにカラムと共に用いられる他の基板もあり、通常分離を行うために選択される基板のタイプが、最終的にどのように標的を試料液体から分離するのかを決定する。基板は一般に、所望の標的が基板に対して試料のその他の成分とは実質的に異なる結合特性を有するように、特徴を与えられる。細胞分離用のカラムタイプの装置の例は、1993年8月31日に発行された米国特許第5,240,856号(特許文献1)に見出され、そこでは細胞は、カラム内のマトリックスに結合する。1997年12月9日に発行された米国特許第5,695,989号(特許文献2)では、結合した細胞の除去を促進するために圧搾することができる柔軟な管となるよう、カラムが設計される。1997年9月30日に発行された米国特許第5,672,481号(特許文献3)では、回収、濃縮、および移動に単一の固い管が用いられる密閉された無菌フィールドでの分離用装置が記載されている。米国特許第5,763,194号(特許文献4)には、リガンドが内部表面に接着する半透過性中空繊維のアレイからなる細胞分離デバイスが記載されている。
【0009】
多くの問題と技術的な困難が、上記のアプローチと、同様に非常に広く使用されているマクロビーズ捕捉アプローチとに関連しており、このマクロビーズ捕捉アプローチは、基本的にカラムを通したマクロビーズの沈降を利用することから、カラム法と称されることが多い。カラム法を広く実用的にするために取り除くべき1つの大きな障害は、非特異的結合による支障である。さらに、そのようなカラム分離法においてマクロビーズを用いて標的細胞を捕捉することは、液体の流れからビーズを回収し、次いで通常の手法であれば洗浄であるクリーニングを必要とする。ビーズは、洗浄中に喪失、崩壊、または凝集を受ける可能性があり、これは標的細胞の回収効率を低下させる。
【0010】
多くは特定の標的細胞集団に選択的な抗体である捕捉物質は、通常物理的または化学的にビーズ表面に接着している。物理的にビーズに接着している捕捉物質は、移動および操作の結果、はがれ落ちたり動かされたりする可能性がある。しかしながら、それらが共有結合を介して強く接着し、そのため捕捉された細胞が洗浄中もビーズ上に確実に留まる場合、それらはその後、回収の過程で遊離させて回収できない可能性もある。
【0011】
カラム分離法に加えて、例えば体液などに見出され得る多様な細胞集団から標的細胞を分離するための他の方法も現在開発されつつある。例えば米国特許出願公開第2004/0142463号(特許文献5)では、胎児細胞を母体の血液などから分離するためのシステムが教示されており、ここでは血液試料由来の望ましくない成分は最初に、特異的結合メンバーを保持するプレートの表面またはカラムを含む他の固体支持体を用いて分離され、次いで電気泳動などを用いて標的細胞の分離と分析を完了させる。
【0012】
公開された米国特許出願第2004/038315号(特許文献6)は、毛細管の内腔面に対して放出可能なリンカーを付着させ、所望の結合細胞はその後、切断試薬によって放出されて回収される。米国公開特許出願第2002/132316号(特許文献7)は、移動性光学勾配フィールドの使用によって細胞集団を分離するために、マイクロチャネルデバイスを使用する。米国特許第6,074,827号(特許文献8)は、特定の核酸を試料から分離して同定するために、電気泳動が用いられる「濃縮チャネル」を有するように構築されたマイクロ流体デバイスの使用法を開示する。所望の標的生体材料を保持するための抗体または他の結合断片の光学的使用法も同じく言及されている。米国特許第6,432,630号(特許文献9)は、選択的偏向を利用したチャネルによって生体粒子を含む流体の流れを導くためのマイクロフローシステムを開示しており、それは、胎児細胞を母体血液試料から分離するために、このようなシステムを用いることができることを示す。
【0013】
K. Takahashi et al., J. Nanobiotechnology, 2, 5(13 June 2004)(6pp)(非特許文献1)は、多数のマイクロ流体流入口通路が、ガラスプレートに近接したPDMSプレート(光硬化性エポキシ樹脂中に造られた種型の中で製造)として作られた、中央の細胞選別領域に通じているオンチップ細胞選別システムを開示している。PDMSプレートには、合流点である短い細胞選別領域を通る最中にこれらの細胞を緩衝液の平行した連続的な流れへと導く静電力の印加によって、望ましくない細胞の分離を容易にするための寒天ゲル電極が設けられている。サイズの大きな塵粒を物理的に捕らえるためのポストタイプフィルター配置もまた開示する。
【0014】
米国特許第6,454,924号(特許文献10)は、分析物を含む液体が、捕捉剤が表面に付着した直立した柱の頂上に配置された試料表面を通り越して概ね下向きに流されていき、このような柱の側面がそれらが範囲を定めるチャネル内での流れを容易にするために疎水性にされている、マイクロ流体デバイスを開示している。
【0015】
公開された国際特許出願WO 2004/029221号(特許文献11)は、胎児赤血球を母体血液から分離するといった細胞分離のために用いることができるマイクロ流体デバイスを開示している。細胞を含む試料を、マイクロ流体チャネルに導入することができ、マイクロ流体チャネルは複数の障害物を含み、障害物の表面には抗体などの結合部分が適切に連結されており、それらの部分は試料中の細胞と結合すると考えられる。米国特許第6,344,326号(特許文献12)は、関心対象の生体分子を捕捉するために、抗体などの結合要素が架橋されたガラスフィラメントなどに結合された、複数の濃縮チャネルを有するマイクロ流体デバイスを開示している。米国特許第5,147,607号(特許文献13)は、抗体をマイクロチャネル内に固定化する、サンドイッチアッセイなどのイムノアッセイを実行するためのデバイスの使用法を教示している。マイクロチャネル内には、チャネルの底面から上向きに延びそれらに対して抗体が固定化される、一群の突起を含む陥凹部を設けることができる。
【0016】
前述の、簡単に説明してきた参考文献は、細胞または他の生体材料を体液などから単離または検出するための改良された方法が引き続き探索されているという証拠を提供するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第5,240,856号
【特許文献2】米国特許第5,695,989号
【特許文献3】米国特許第5,672,481号
【特許文献4】米国特許第5,763,194号
【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0142463号
【特許文献6】米国特許出願第2004/038315号
【特許文献7】米国公開特許出願第2002/132316号
【特許文献8】米国特許第6,074,827号
【特許文献9】米国特許第6,432,630号
【特許文献10】米国特許第6,454,924号
【特許文献11】国際特許出願WO 2004/029221号
【特許文献12】米国特許第6,344,326号
【特許文献13】米国特許第5,147,607号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】K. Takahashi et al., J. Nanobiotechnology, 2, 5(13 June 2004)(6pp)
【発明の概要】
【0019】
ランダム化流動パターン、特にランダム化流体マルチチャネルパターンによって提供されたランダム化流動パターンを、標的分子または実体を単離または検出するために使用可能であることが、本発明の知見である。したがって、本発明は、標的分子、特に標的細胞または生体分子を単離または検出するのに有用な装置および方法を提供する。
【0020】
一つの態様において、本発明は、マイクロフロー装置を提供する。マイクロフロー装置は、ランダム化流路を有しかつ流入口手段、流出口手段、および流入口手段と流出口手段の間に伸びるマイクロチャネル配列を含む主要部分を備える。マイクロチャネル配列は、マイクロチャネルの基部表面と一体化しかつそこから突出している複数の横断するセパレータポストを含む。ポストはランダム化流路を提供できるパターンで配置される。
【0021】
別の態様において、本発明は、本発明の装置と、装置のマイクロチャネル表面を隔離剤(sequestering agent)でコーティングするための説明書とを含むキットを提供する。
【0022】
なお別の態様において、本発明は、装置のマイクロチャネル表面が隔離剤でコーティングされている本発明の装置を含むキットを提供する。
【0023】
なお別の態様において、本発明は、試料を含む液体本体を本発明の装置のマイクロチャネル中を流れさせることを含む、試料中で標的分子を捕捉する方法を提供する。ここで、マイクロチャネル表面は、標的分子に結合可能な隔離剤でコーティングされている。
【0024】
なお別の態様において、本発明は、試料を含む液体本体を本発明の装置のマイクロチャネル中を流れさせることを含む、試料中で標的分子を検出する方法を提供する。ここで、マイクロチャネル表面は、標的分子に結合しかつ標的分子を検出することが可能な隔離剤でコーティングされている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】簡略化されたポストを含む収集領域がマイクロチャネル内に構成されている、マイクロフロー装置用の基板の斜視図である。
【図2】パターン化されたポストが設置された、図1の収集領域の一部分を示す拡大部分図である。
【図3】その底面に取り付けられたカバープレートを伴う、線3-3に沿った図1の基板の正面断面図である。
【図4】図1で一般的に示された基板に、中板を含めることによって2つの弁を組み込んだ装置の概略斜視図である。
【図5】図4の線5-5に沿った断面図である。
【図6】ポンプがマイクロフロー装置の一部として構成されている、図1に示されたタイプの基板を示す概略平面図である。
【図7】マイクロ混合器が供給領域に組み込まれている基板の一部分の概略図である。
【図8】親水性コーティングの適用によって収集領域の全体にわたって付着された抗体の概略図である。
【図9】所望の標的細胞の捕捉の描写を伴う、隔離剤、すなわち選択した抗体を、親水性コーティングを用いて収集領域全体にわたって共有結合させるために用いることができる、化学反応の概略図である。
【図10】所望の標的細胞の捕捉の描写を伴う、隔離剤、すなわち選択した抗体を、親水性コーティングを用いて収集領域全体にわたって共有結合させるために用いることができる、化学反応の概略図である。
【図11】このようなパターン化されたポスト、細胞分離デバイスを利用する細胞回収操作の諸工程を図示した工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
好ましい態様の詳細な説明
ランダム化流路、特にランダム化流体マルチチャネルパターンによって提供されたランダム化流路を、標的分子または実体を単離または検出するために使用可能であることが、本発明の知見である。したがって、本発明は、標的分子、特に標的細胞または生体分子を単離または検出するのに有用な装置および方法を提供する。
【0027】
本発明の1つの局面に従って、流入口手段、流出口手段、および流入口手段と流出口手段の間に伸びるマイクロチャネル配列を含む装置を提供する。本発明のマイクロチャネル配列は、ランダム化流路を提供可能な任意のマイクロチャネルパターンであり得る。本発明に従い、ランダム化流路は、層流または繰り返しの流動パターンを最小限、例えばごくわずかな量含むかまたは全く含まない、任意の流路であり得る。一つの態様において、本発明のランダム化流路は、層流または繰り返し流動パターンを有さない流路である。別の態様において、本発明のランダム化流路は、直線的な流動を妨害または阻害する流路である。なお別の態様において、本発明のランダム化流路は、当業者に公知の数学的にランダムであるパターンに相当する流路である。
【0028】
本発明のランダム化流路は、本分野で公知または後に見出される任意の適した手段を用いて提供することができる。例えば、マイクロチャネルの基部表面と一体化してそこから突出しており、かつ本発明のランダム化流路を提供できるパターンで配置された複数の横断するセパレータポストを有するマイクロチャネル配列を用いて、本発明のランダム化流路を作製することができる。通常、マイクロチャネル配列内、例えば単一のユニットまたは領域内のポストは、サイズ、例えば横断面のサイズおよび形状が変化し得る。例えば、本発明のマイクロチャネル配列は、例えば大きい、小さい、および中程度の少なくとも2つまたは3つの異なる横断面サイズを有するポストを含むことができる。本発明のマイクロチャネル配列はまた、単一の形状または複数の形状を有するポストを含むことができる。通常、異なるサイズおよび/または形状を有する本発明のポストは、本発明のランダムパターンに従って、連続的または均一に分布している。
【0029】
一つの態様において、ポストの平均横断面サイズは、マイクロチャネル配列中を流れる標的分子のサイズに関連している。通常、ポストの平均横断面サイズと標的分子のサイズの相対比は、約0.5:5、0.5:8、1:5、1:8、2:5、2:9、3:5、または3:8である。別の態様において、ポストの横断面は、そこにポストを含むマイクロチャネルの基部表面の横断面の約20%〜約75%を占めている。なお別の態様において、このポストの総量(例えば固体体積分率)は、マイクロチャネルの総量の約15%〜約25%である(例えば空隙体積分率)。なおさらに別の態様において、2つのポスト間の最小の距離は、ポストの最小の横断面サイズに関連し、例えばポストの最小の横断面サイズに等しい。
【0030】
本発明の1つの態様に従い、数学的アルゴリズム、例えばコンピュータープログラムによって生成されるランダムパターンに相当するパターンで、本発明のポストを配置することができる。例えば、特定の規定パラメーター、例えばポストの総数および2つのポスト間の最小距離に基づくランダムパターンを生成する数学的アルゴリズムを用いることができる。特に、各サイズ群のポストの総数および2つのポスト間の最小距離を特定することによって、数学的アルゴリズムによって生成されるランダムパターンを得ることができる。
【0031】
本発明の別の態様に従って、本発明のマイクロチャネル配列の表面を、任意で少なくとも1つの隔離剤で部分的または完全にコーティングすることができる。通常隔離剤は、特異的な様式で標的分子、例えば生体分子と相互作用し、物理的に標的を封鎖することができる任意の実体であり得る。
【0032】
本発明の隔離剤は、核酸、例えばDNA、RNA、PNA、またはオリゴヌクレオチド、リガンド、タンパク質、例えば受容体、ペプチド、酵素、酵素阻害因子、酵素基質、免疫グロブリン(特に抗体またはそれらの断片)、抗原、レクチン、修飾タンパク質、修飾ペプチド、生体アミン、および複合糖質を含むことができる。合成分子、例えば特定の特異的結合活性を有するように設計された薬物および合成リガンドを用いることもできる。「修飾」タンパク質またはポリペプチドとは、新たな化学部分の付加によって、既存の化学部分の除去によって、または除去および付加の何らかの組み合わせによって改変された、1つまたは複数のアミノ酸を分子内に有するタンパク質またはペプチドを意味する。この改変には、天然および合成性の修飾の両方が含まれる。天然の修飾には、リン酸化、硫酸化、グリコシル化、ヌクレオチド付加および脂質化が非限定的に含まれうる。合成修飾には、ヒドロゲル、微細構造、ナノ構造、例えば、量子ドットまたは他の合成材料に対する結合を促進するための化学リンカーが非限定的に含まれてもよい。さらに、修飾には、既存の官能部分、例えばヒドロキシル、スルフヒドリルもしくはフェニル基の除去、または天然の側鎖もしくはポリペプチドアミド骨格の除去もしくは改変も含まれうる。
【0033】
複合糖質の例には、天然および合成性の直鎖状および分枝状のオリゴ糖、修飾多糖、例えば、糖脂質、ペプチドグリカン、グリコサミノグリカンまたはアセチル化種、さらには異種オリゴ糖、例えば、N-アセチルグルコサミンまたは硫酸化種が非限定的に含まれる。天然の複合炭水化物の例には、キチン、ヒアルロン酸、硫酸ケラタン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、セルロース、ならびにアルブミンおよびIgGなどの修飾タンパク質上に認められる炭水化物部分がある。
【0034】
本発明に従って、本発明のマイクロチャネル表面をコーティングする、例えば少なくとも1つまたは2つまたはそれ以上の隔離剤に、直接または間接的に連結させるかまたは結合させることができる。一つの態様において、2つまたはそれ以上のそのような作用剤の組み合わせを、本発明のマイクロチャネル表面上、例えば基部表面および/またはポストの表面上に固定し、そのような組み合わせを2つの実体の混合物として添加することができる、または連続的に添加することができる。別の態様において、1つまたは複数の隔離剤を、1つまたは複数の遮断剤で処理した本発明のマイクロチャネル表面に結合させる。例えば本発明のマイクロチャネル表面を、過剰なフィコールまたは任意の他の適した遮断剤で処理し、本発明のマイクロチャネルのバックグラウンドのシグナルを減少させることができる。
【0035】
本発明の別の局面に従って、本発明の装置および任意で説明書を含むキットを提供する。一つの態様において、本発明のキットは本発明の装置を含み、ここで本装置のマイクロチャネル表面は隔離剤でコーティングされておらず、キットは任意でマイクロチャネル表面を隔離剤でコーティングするための説明書を含む。別の態様において、本発明のキットは本発明の装置を含み、ここで本装置のマイクロチャネル表面は隔離剤および任意で遮断剤でコーティングされており、キットは任意でそのような装置を用いるための説明書を含む。
【0036】
本発明のさらに別の局面に従って、標的分子、例えば標的生体分子を捕捉または検出するために本発明の装置を用いる方法を提供する。標的生体分子は、様々な細胞、および核酸、タンパク質、ペプチド、ウイルス、糖質などのいずれかであってよい。しかしながら、いかなる範囲も限定せずに、本発明は特定の効率を提示すると確信され、細胞分離および検出において特定の利点を有する。「細胞」という用語を、本出願を通して使用するが、隔離剤に特異的な表面リガンドを同様に保持する細胞断片および/またはレムナントを含むことが理解されるべきである。一つの態様において、本発明の標的細胞は、新生物、例えば癌または腫瘍細胞である。別の態様において、本発明の標的細胞は、例えば胎児を保有する対象由来の血液中または子宮頚管粘膜試料中の胎児細胞である。なお別の態様において、標的細胞は試料中にわずかしか存在せず、例えば試料中の標的細胞と総細胞集団の比は、約1:107、1:108、または1:109より低い。
【0037】
本発明の装置によって捕捉される標的分子は、インサイチューまたはマイクロチャネル表面から遊離させた後のいずれかで、検出または分析することができる。例えば、FISHまたは任意の他の適した方法により、インサイチューで、細胞を直接検出することができる。ヌクレオチドおよびタンパク質を、本発明のマイクロチャネル表面からの遊離前または後のいずれかに、インサイチューで直接分析することもできる。
【0038】
本発明のある特定の態様に従い、収集領域17を有する少なくとも1つのマイクロチャネル13を含む流路が内部に定められている基板11を含む装置を提供する。本装置においては、流路が試料流入口15および液体流出口19に連結されている。本明細書で以下に述べるように、流路は、そのそれぞれが1つのこのような収集領域を有する、連続して配置されたいくつかのマイクロチャネルを含んでもよい。または、いずれも当技術分野で周知であるように、マイクロチャネルが、連続して配置された複数の収集領域を有してもよく、複数の流入口および複数の流出口があってもよい。さらに、それが、チップ、ディスクなどの上に構築された一体型マイクロ流体装置の一部であってもよい;このような装置においては、細胞回収および/または試料から単離された生体分子の診断を行うために必要なMEMS(マイクロエレクトロメカニカルシステム)または構成要素の実質的に全てを、単一の小型で容易に取り扱える単位装置の一部として組み込んでもよい。
【0039】
図1は、試料液体が入口または流入口としての役割を果たす開口部またはウェル15を通して供給される、マイクロチャネル13および流出口としての役割を果たす開口部19を含む流路を伴って形成された、基板11の斜視図である。収集領域17の断面積は、流入口開口部15からつながる流入口区域18のそれよりも大きい。流入口区域は、それが領域18の末端で広がって収集領域17に入るところのすぐ上流に、軸方向に配置された一対の仕切/支持体21を含む。これらの中央仕切は、流れを2つの行路に分けて、液体の流れをそれが収集領域17の入口末端に送達される際により均等に分配する役割を果たす。収集領域は、液体流路を横断するように揃えられ、フローチャネルの収集領域部分の幅全体にわたって不規則な、一般的にはランダムなパターンに配置された、複数の直立したポスト23を含む。ポストのパターンは、収集領域を通る直線的な流れが最小限かまたはその流れがなく、層流の流れが乱されるかまたは阻害されて、流路に沿って流される液体とポストの表面との間に良好な接触が確保されるようなものである。ポストは収集領域17の平台22と一体化され、それに対して直角に延び、基板11のフローチャネルを通って流される流体の水平路に対して垂直な表面を呈する。好ましくは、本明細書の以下で述べるように、それらは、基部面22と並行であってフローチャネルを閉鎖する、対向する平坦閉鎖板27の面へ延びて、それとの結合によってその遊離端面で固定される。流入口および流出口の穴24aおよび24bを、このような閉鎖板を貫通させて開けてもよいが、それらは好ましくは基板11の内部に提供される。もう1つの流れ仕切/支持体21aは、収集領域からの出口に置かれる。
【0040】
当技術分野で周知であるように、それぞれが収集領域を有する一対の並行したマイクロチャネルを含む流路を伴って、基板を形成することができる。このようなものは直列流配置として用いることも可能であると考えられ、またはそれらを並列流操作に用いることも可能であると考えられる。流れは、例えばシリンジポンプなどを用いたポンプ輸送により、または直径の大きな流入口穴24aによって提供される流入口ウェルで、貯留槽から液体を引き出すと考えられる陰圧により、実現される。好ましくは、約50μl〜約500μlの液体試料を収容する能力を有する、このようなウェルが含まれる。
【0041】
フローチャネルのデザインは、適度な範囲にある装置を通る流速で、例えば、収集領域内に1秒当たり約0.01〜100mmの速度の流れを生み出すような標準的なHarvard Apparatus社の注入シリンジポンプを用いた母体血液の注入で、乱流を生み出すことなく領域を通る層流の実質的な乱れがあるようなものである;これは収集領域の全体にわたる種々のサイズのポストのランダムな配置およびポストの相対的な間隔に起因する。死点を伴わない比較的平滑で非層流的な流れは、好ましくは液体流速が約0.3〜10mm/秒で実現され、より好ましくは流速は約0.5〜5mm/秒に維持され、規定されたサイズの流入口ウェルからの吸引によって実現される。
【0042】
一般的には基板11は、ケイ素、溶融シリカ、ガラスおよびポリマー材料などの任意の適した実験許容性材料で作ることができる。光透過性の材料を用いることが望ましいと考えられ、特に診断機能を任意で用いる場合にはそうである。その最も簡単な態様において、構成されたマイクロチャネルを担持する基板を、図3に示す基板11の対向面に隣接すると考えられる平面を有する板27によって封止する。このような板は同じ材料から製造してもよく、または単にガラスでできたカバープレートであってもよい;しかし、本明細書の以下に説明するように中間流調節板25を含めてもよい。用いうる適したプラスチックには、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ならびに実験材料使用が許容されることが周知の他のポリマー樹脂が含まれる。このようなパターン化された基板は、従来の型成形法および注型成形法から選択されるもののような、任意の好都合な方法を用いて製造することができる。
【0043】
基板は、当技術分野で周知であって、その開示内容が参照により本明細書に組み入れられるJ. Nanobiotechnology誌の論文に記載されているように、光リソグラフィーを用いて、厚いネガ型フォトレジストで作り出すことができる種型または雌型構造を用いてポリマー材料から都合よく製造してもよい。例えば、構築層は、市販されている標準グレードのエポキシ樹脂(EPON SU-8)フォトレジストおよび硬化剤(SU-82025)の混合物から形成することができ、それらをシリコンウエハー基板上に2000rpmでスピン加工して、例えば、このようなフォトレジストの40または50μm厚の薄膜を得ることができる。その厚みが収集領域内の高さを決定する。薄膜を、全体にわたって均等な厚みを確保するために、正確な水準の熱板上で60℃で3分間、続いて95℃で7分間にわたる露光前ベーキングに供し、その結果得られたサンプルを室温まで冷却する。Karl Suss Contact Mask Alignerを用いて、最終的デバイスにおける流路のための所望のパターンで薄膜に露光させる。続いて薄膜を65℃で2分間、続いて95℃で5分間ポストベークし、その後それを、現像中は軽い攪拌を適用しながら市販のSU-8現像剤中で5分間現像した。これによってエポキシ樹脂フォトレジストの雌パターンの型が作り出され、それは続いてPDMSまたは他の適したポリマー樹脂でのパターン化されたポスト基板の複製のための種型として用いられる。
【0044】
一例として、PDMS組成物を、PDMSプレポリマーおよび硬化剤の重量比で10:1の混合物(Sylgard 184キット、Dow Corning)から調製する。この混合物を、混合中に形成される可能性のある泡を排除するために減圧下に供し、その後所望の深さの腔の中に設置されたエポキシ樹脂種型に注ぎ入れ、所望の厚さの基板を作り出す。種型には任意で、硬化後のPDMSレプリカの離型を改善するために、適した金属(例えば金)の薄層(ほぼ50nm)をプレコーティングしてもよい。PDMS基板の硬化は80℃で90分間行うことができる;しかし、本明細書で以下に考察するように、PDMSをまず生硬化(undercuring)させることにより、ポスト表面を含む収集領域のその後の機能付与を容易にすることも可能である。
【0045】
マイクロチャネル13および収集領域17内のパターン化されたポスト23の割付および寸法は、種型の製造の露光段階で用いられるマスクによって決定される。マイクロチャネル13の深さは種型のSU-8層の厚さによって制御され、それはスピンコーティング条件によって決定される。図2は、好ましい概ねランダムな配置にある収集領域17内のポスト23を拡大したものを示す、マイクロチャネル13の上面図を提示する。
【0046】
代替的な態様において、流入口および流出口の連絡を得るために、離型されたPDMSレプリカ基板の平坦で無傷の表面またはカバープレートに、穴24をドリルで開けること、または他の様式で作り出すことも可能と考えられる。前者の場合、それを、基板に対する無孔カバーまたは底板を提供すると考えられる、簡易な顕微鏡カバーガラスまたはPDMSの薄い平坦な小片などのような他の適した平板とかみ合わせることもできると考えられる。この2つの構成要素をプラズマクリーニングに2分間供した後、浄化された2つの表面を、対向する表面に触れることなく直ちに表面を密着させて置き、それを続いて当技術分野で周知であるような表面反応によって封着し、永続的な封を形成し、マイクロ流体流路を閉鎖する。
【0047】
オンチップでのフロー管理をこのような装置に一体化することが望ましい場合、空気弁などのフロー調節特徴要素のための腔を組み込んだ別個のSU-8母型を、同様に製造することもできる。このような種型から生成されたフロー調節板または層25をまずマイクロチャネル基板11に積層させ(図4および5参照)、続いてそれに平坦閉鎖板27を積層させることが考えられる。マイクロフロー装置におけるこのようなフロー調節構成要素および他のMEMSの使用は、米国特許第6,074,827号および第6,454,924号に示されており、それらの開示内容は参照により本明細書に組み入れられる。このようなフロー調節板25をマイクロチャネルを担持する基板11と慎重に揃えて置き、続いて80℃で一晩焼き入れして、複合構造を製造する。その後、フロー調節板25内の腔を、前述したものと同じ手法を用いて、平板またはスライドガラス27によって閉鎖する。さらなる選択肢として、さらにより精密な制御および随意選択的な加工処理を組み込むことが望ましい場合、第2のフロー調節板を同じ手法を用いて第1の板25に積層させてもよい。
【0048】
例えば、オンチップでのフロー調節機構を、基板に対して封着されるフロー調節層25をそれらに配置することにより、基板11中に形成された多チャネル系に提供することができる。簡単な系は図4および5に図示されており、そこでは通路24aおよび24bが流入口および出口につながっている。空気弁29に対する空気供給は、基板11を貫通して板25まで延びた、穿孔により、または他の様式により適切に形成された穴30を介したものであってよい。フロー調節板25または基板11は、任意で、液体を流入口15に送達しうる代替的な供給通路を含むことも可能であると考えられ、これはまた、当技術分野で周知であるような代替的な出口または排出通路を含んでもよい。
【0049】
前述したように、2つの直列連結された収集領域が備えられた配列は、様々な操作方法および使用方法に適する。例えば、関心対象の標的生体分子または細胞の2つの異なる部分集団を含む可能性のある試料液体を処理しようとする場合、1つの種類の隔離剤を1つの収集領域またはチャンバー内のポストに付着させ、異なる種類の隔離剤を下流収集チャンバーのポストに付着させることができる。または、標的細胞が極めて希少である状況では、液体試料中の細胞のほぼ100%を捕捉しうる尤度が高くなるように、同一の隔離剤を両方の収集チャンバー内のポストに付着させることが望ましいかもしれない。
【0050】
パターン化されたポスト領域のポリマー表面は、所望の標的細胞または他の生体分子に特異的な隔離剤の全ての表面への結合を可能にするために、様々な方法で誘導体化することができる。例えば、プラズマ処理およびマイクロチャネルを担持する基板の閉鎖の後、アミノ官能基含有シラン(例えば、Dow Corning Z-6020の10%溶液)またはチオ官能基含有シランのエタノールによる容積比1〜50%の溶液をマイクロチャネルに注入して開口部15と19との間の領域17を満たし、液が満ちたマイクロチャネル13を続いて室温で30分間インキュベートする。誘導体化は、不完全に硬化したPDMSなどのポリマーに対して、マイクロチャネル領域を板で閉鎖する前に行うことができる。このような場合、前述のように、代替的な方法は、PDMS基板をわすかに生硬化させ、続いて密着板を固定して置換シランまたは他の官能化試薬で処理した後、硬化を完了させることである。例えば、Z-6020で処理した後硬化を完了させるために、約50〜90℃で約90分間の最終加熱段階を用いてもよい。または、室温で1日または2日置いても硬化が完了すると考えられる。対向する表面の誘導体化は真の結果ではないため、このような誘導体化処理をマイクロチャネル領域の閉鎖の前に行うこともできる。続いて流路をエタノールで浄化すれば、マイクロチャネルに生体分子隔離剤を結合させる準備が整う。
【0051】
隔離剤はポスト上に直接的または間接的に固定化することができ、付着を促進するためにポストを前処理および/またはコーティングしてもよい。間接的な固定化が明らかに好ましく、これはポストと最初に連結される中間作用物質または物質を用いることを想定しており、さらに、中間作用物質と連結させるためにはカップリング対を用いることが望まれると考えられる。例えば、ストレプトアビジンまたは別の種の抗体を標的とする抗体を、中間作用物質と結合させることができ、それらにその後ビオチン化Abまたはこのような別の種のAbとカップリングさせることが考えられる。
【0052】
隔離剤としての抗体の使用は細胞分離のために好ましく、それらの付着は米国特許第5,646,404号および第4,675,286号ならびに先行技術全般にわたって記載されている。例えば、非共有結合的付着のための手順は米国特許第4,528,267号に記載されている。抗体を固体支持体に共有結合的に付着させるための手順も、Ichiro ChibataによりIMMOBILIZED ENZYMES;Halstead Press:New York (1978)、およびA. Cuatrecasas, J. Bio. Chem. 245:3059 (1970)に記載されており、両者の内容は参照により本明細書に組み入れられる。抗体は固体ポスト表面と、表面層の使用、または続いてそれにAbを付着させる長いリンカーのコーティングを介するように、間接的に結合させることが好ましい。例えば、表面を最初にタンパク質などの二官能性または多官能性作用物質でコーティングする;続いて作用物質をカップリング剤、例えばグルタールアルデヒドを用いて抗体とカップリングさせる。抗体はまた、水溶液中にある抗体を、遊離イソシアネート基またはポリエーテルイソシアネートなどの等価な基を有する層でコーティングされた表面に適用することによって有効に結合させることもでき、または抗体をシアン化臭素によってヒドロキシル化材料とカップリングさせてもよい。特に好ましいのは、同時係属中の特許出願に開示され本明細書の以下の実施例に記載する遊離イソシアネート基を有する親水性ポリウレタンを基にしたヒドロゲル層の使用、またはPEGの1つ、ポリグリシンなどのように十分な長さのある親水性リンカーの使用である。
【0053】
抗体(Ab)を用いる場合、当技術分野で周知の任意の機序を用いて、それらを、好ましくはこのような中間作用物質によって、適切に付着させる。例えば、Abを、それらをチオール化するために2-アミノチオランで処理し、その結果生じたチオール化Abを、PEG-マレイミドで処理したポストと結合させてもよい;または、Abを、反応性イソシアネート基またはチオシアネート基を有する適切な親水性コーティングと、直接的に共有結合させることもできる。
【0054】
抗体または他の隔離剤がパターン化されたポスト収集領域の全体にわたって配置されれば、マイクロチャネルデバイスは使用可能な状態である。血液試料もしくは尿試料などの体液、または標的細胞集団を含むもしくは含むことが疑われる他の何らかの前処理された液体を、標準的なシリンジポンプからこのようなマイクロチャネルデバイスに対する流入口15につながる流入口通路24aへと注意深く放出させること、または所望の容量の検査用の試料を収容するためのウェルとしての役割を果たす相対的に直径の大きい流入口通路24aによって提供される試料貯留槽を通して真空ポンプなどによって吸引することなどによって、流路に沿って収集領域17を通して流す。開口部24aは、このようなシリンジポンプと接続された管とかみ合わせるために、このようなものを用いる場合、継手(示されていない)を含んでもよい。ポンプは、装置を通る約0.5〜10μl/分の流れを生じさせるように操作してもよい。処理および/または分析しようとする体液または他の細胞を含む液体によっては、当技術分野で公知であるように、その容積を減らすため、および/または望ましくない生体分子をそこから除去するために、前処理の段階を用いることもできる。
【0055】
細胞分離法の全体的な効率を潜在的に高めるためには、流出口19から出る試料を収集して、それを複数回マイクロチャネルデバイスを通して流すことが望ましい場合もある;このような反復処理は、細胞が特に希少であって、そのため試料中の数が極めて少ない可能性が高い場合に特に有用と思われる。しかし、本装置によって実現される捕捉効率が高いことからみて、このような反復的な流れが必要になることはめったにないと考えられる。または、前述したように、連続して連結された2つの収集チャンバーを用いることも考えられる。さらに、ある程度大量の体液試料を処理しようとする場合、2つまたはそれ以上のマイクロチャネルを基板上で並列的に用いることも可能と考えられる。
【0056】
隔離剤(例えば、Ab)は、マイクロチャネル内の基部、対向表面、ポストおよび収集領域の側壁に付着される;しかし、このような側壁表面は、基部、対向表面および流れを乱すポストほどには、細胞の捕捉に関して特に有効ではない。細胞または他の生体分子を含む液体の流れは、限定された管腔を通してであっても、結果として細胞は流動剪断力が最小である中央の流動領域に主として存在する;その結果として、隔離剤を担持する側壁上での捕捉は、横断ポストが層流を乱している中間領域における表面上での捕捉と比較して極めて乏しい。これらの領域内では、適正にカップリングすることの結果として本来の三次元コンフィギュレーションをとりうる隔離剤が驚くほどに有効である。
【0057】
装置を通した液体試料の流れの完了後、存在するならば、標的とした細胞が収集領域内に捕捉されていると考えられ、パージはまず、試料の一部であって収集領域内の抗体または他の隔離剤によって強く捕捉されない異質な生体材料の全てを除去するために、緩衝液を用いて行われる。有効な緩衝液を用いたこのようなパージにより、非特異的に結合した全ての材料が除去され、マイクロチャネル装置内の収集領域内に付着した標的細胞のみが残ると考えられる。
【0058】
緩衝液を用いたパージがひとたび完了したところで、処理方法の目的が細胞収集のみである場合、捕捉された細胞を続いて適切に遊離させる。本明細書で以下に述べるように、場合によっては、何らかの分析をインサイチューで行うことが望ましいと思われる。例えば、細胞を付着した状態で算定すること、またはそれらを溶解させてその後、収集チャンバーまたは下流のいずれかにおいてPCRに供してもよい。または、細胞を、捕捉または接着させながら、例えばFISHまたは任意の他の適した検出方法によって、直接観察または検出することができる。
【0059】
遊離を行わせる場合、力学的(例えば、高流量)、化学的(例えば、pHの変化)、または酵素的切断剤の使用のような、当技術分野で公知の任意の方法を用いることができる。例えば、標的細胞を収集領域から遊離させることを目的として、隔離剤を切断するため、または作用物質と細胞との間の結合を切断するために、試薬を適用することもできる。例えば、トリプシンまたは特異的に照準が合わされた酵素を、Abおよび/または細胞表面抗原を分解するために用いることもできる。Abなどを付着させ、かつ続いて捕捉されたリガンドを有効に取り出すための具体的な方法は、米国特許第5,378,624号で考察されている。例えば、希少な細胞の表面上の特徴に特異的な抗体の使用によって、細胞が隔離されている場合、遊離は、トリプシンまたはプロテイナーゼKなどの別の適したプロテアーゼを含む溶液を用いた処理によって行わせることができる。または、他の隔離剤からの遊離を行わせるためにコラゲナーゼを用いてもよく、または特異的に切断されうるリンカーを隔離剤と付着させるために用いてもよい。このような切断の際には、マイクロチャネルからの流出口を貯留槽または他の収集装置と接続し、遊離した希少な細胞を保有する排出流を、さらなる分析のために収集する。マイクロチャネルデバイスを、流出口に複数の出口通路、およびどの出口が開くかを調節するための弁を備えるように構成することもできる;これにより、1つの出口通路を予備段階における廃棄物の排出のために用い、続いて標的細胞の流れを収集容器に導くために異なる出口通路を用いることが可能になる。
【0060】
パターン化されたポスト収集領域17におけるポスト23の位置および形状は、最適な流体力学、およびその特異的な表面上の特徴による標的細胞の捕捉の向上のために操作することができることが、見いだされている。極めて一般的には、ほとんどの場合において、横断固定ポスト23の水平断面の好ましい形状は、ポストの横断表面に対する非特異的結合を促進する可能性のある鋭角を回避したものである。ポスト23は直線的な外面を有し、好ましくは一般的には環状断面形状または6つもしくはそれ以上の辺を有する正多角形である。用いうる代替的な形状には、先端が下流端にある涙滴形、および軽度に弯曲した形状または卵形がある;しかし、より強い衝突が望ましい場合、四角形を用いてもよい。ポストのパターンは、ポストの表面、基部および対向表面に付着された隔離剤による標的細胞の捕捉を向上させる液体の流れの流動パターンを生み出すべきである。この目的を達成するためには、ポストは様々に異なるサイズであって、ひと揃いのランダムなパターンで配置されているべきであることが見出されている。驚いたことに、例えば、高さが約100ミクロンで幅が約2〜4mmである収集領域内の、断面サイズが様々に異なるポスト23、例えば、直径約70〜約130ミクロンの少なくとも約3種または4種の異なるサイズである環状断面のポストのランダムなパターンは、ポスト間の最短の分離間隔が50〜70μm、好ましくは約60μmである場合に、液体試料の流れからの細胞の特に有効な捕捉を促進するようである。
【0061】
全てが基部に対して垂直である平行線によって形成された側壁を有するポストの断面積は、それらが収集領域の容積の約15〜25%を占めるようなものであることが特に好ましい。好ましくは、ポストのパターンは、それらが収集領域の容積の約20%を占め、液体の流れのための空隙容積が約80%残されるようなものであると考えられる。図2に示されたポスト位置の特定のランダムなパターンは、層流が有効に乱されるこれらの領域内で、隔離剤によって細胞が捕捉される傾向を高めるように見える。ポスト23は互いにかなりの間隔、例えば少なくとも約60ミクロンをあけており、異なるサイズのポストが互いの上流および下流に設置されることが好ましい。
【0062】
より小さなポストはより大きなポストの下流に渦領域を作り出す可能性があり、生成される流動パターンの結果として、その近傍にある表面は、標的細胞の捕捉に特別な有効性を示すと考えられる。図2に示されるように、側壁から約100ミクロンを上回る位置にある、流路の長軸方向に延びる任意の直線は、複数のポストと交差すると考えられる。前述したように、ポストは基板の基部20の表面と一体化しており、好ましくは対向表面、すなわちフロー調節板25もしくは平坦閉鎖板27のいずれかに対する反対端または遊離端で固定される。
【0063】
前に示したように、抗体などの隔離剤の接着が収集領域全体にわたって促進され、特定の親水性ヒドロゲル物質の薄層、または分子量が少なくとも約1,000ダルトン、好ましくはMWが約2,000〜100,000ダルトン、より好ましくは約3,000〜50,000ダルトンである、PEG、ポリグリシンなどの親水性リンカーの薄層で、その表面をコーティングすることにより、隔離剤をより効率的に作用させる。特に好ましいのは、ウレタン結合によって重合し、反応性イソシアネート基を含むPEG、PPG、またはそれらのコポリマーを含むイソシアネート官能性ポリマーである親水性ヒドロゲルコーティングを用いることである。このようなコーティング材料の処方の詳細は、2004年12月23日に出願した同時係属中の米国特許出願第11/021,304号に開示されており、これは本出願の指定代理人に帰属する。チャンバーを通る層流を乱すようにランダムに配置された様々な直径の複数のポスト61が存在し、ポスト61および対向する平面のそれぞれが外部コーティング63を担持している、マイクロチャネル内部の収集領域の図を、図8に概略的に示す。ポスト上の親水性ヒドロゲルコーティングに接着し、結果として、主として水であるヒドロゲルに付着することによって、改変されないその本来の三次元コンフォメーションを保つ抗体の形態である隔離剤65もまた記載する。
【0064】
図9は、図8に示すような、好ましい特徴を有するヒドロゲルを用いた場合に用いてもよい化学反応の概略図として提供する。隔離剤、例えば抗体を、親水性ヒドロゲルポリマーコーティング49が表面に塗布されている収集領域17''の全体にわたる全ての表面に付着させる、代表的な一連の流れを示す。図9のポイント1は、アミノシランなどによる処理によるアミノ誘導体化の後の表面を示す。この段階の後、表面をカゼインコーティングするために脱脂乳を用いる;ポイント2を参照。ポイント3は、トルエンジイソシアネートによる末端キャッピングを受けた分子量が約3400のPEGを含むプレポリマーを用いてコーティングが行われた後の、コーティングされた表面を表す。そのようなプレポリマーを、NMPとCH3CNとの混合物のような水混和性の有機溶媒に溶解させてもよい。ヒドロゲル製剤は好ましくは、三官能性またはそれを上回る官能性ポリオール、例えば、PEGおよびPPGを含み、三官能性イソシアネートを含んでもよい。重量比で約98.5パーセントの水を含む水溶液を調製し、その溶液をマイクロチャネルを通してポンプ輸送し、そのためアミン誘導体化された表面にある末端キャッピングを受けたイソシアネート基の反応の結果として、ポストの表面および収集領域の対向表面が、この親水性ヒドロゲルコーティングと接触する。その最終結果は図9にポイント3として表す。
【0065】
ポイント4は、表面アミノ基を有すると考えられる抗体の付加を表している。それらは、ポイント5に示されるように、Abのアミンと親水性コーティングによって担持されるイソシアネート基またはチオシアネート基との共有結合によって、ポストのこのような親水性ヒドロゲルコーティングに対して直接付着させることができる。または、図9のポイント6に示すように抗体をまずチオール化して、続いてこれらのチオール化抗体を水溶液として、それらが次にコーティングされたポリマーのイソシアネート基と容易に共有結合すると考えられる場所である収集チャンバーに供給することもできる、ポイント7参照。
【0066】
図92中のポイント8および9に示すように、収集チャンバーを通して流す液体試料中の細胞が、乱された層流の結果として、ポストおよび/または対向表面と接触するようになると、抗体に特異的な細胞表面上の抗原がそれに結合し、細胞を有効に捕捉する。
【0067】
図10は、隔離剤、特に抗体を収集領域内の表面に係留するために、細長いPEGまたはPPGの直鎖状ポリマーを用いる場合に用いうる化学反応の概略図として提供される。直鎖状ポリマーは、抗体が、捕捉が行われる水性環境中でその本来の三次元構造であると想定されるような長さであるように選択される。図10のポイント1は、アミノシランなどによる処理によるアミノ誘導体化後の表面を示す。この段階の後、再び上記のように、表面をカゼインコーティングするために脱脂乳を用いる。洗浄後、分子量が少なくとも約2000、好ましくは少なくとも約3000であって、NHS部分を一方の端に、マレイミジル部分を反対の端に有する、直鎖状のPEGまたはPPGで、全ての表面を処理する。N-ヒドロキシ-スクシニミジルエステル部分は表面上のアミノ基と容易に反応し、少なくとも約1ミクロン厚のコーティングを提供する。適したインキュベーション後、図10のポイント3によって表されるように、マイクロチャネルを排液させ、適した緩衝液で洗浄し、マレイミド-PEGでコーティングされた表面を残す。ポイント4は、栄養芽細胞に特異的であって、表面アミノ基を元来有する抗体を表す。抗体は好ましくは、図10中のポイント5に示したポイントに到達させるために、トラウト試薬などの適した試薬を用いてチオール化される。続いてチオール化された抗体を、緩衝液中にある精製チオール化抗体をマイクロチャネルに導入し、それを適切にインキュベートすることにより、マレイミド-PEGでコーティングされたポストと結合させる。続いてマイクロチャネルを適した緩衝液で洗浄し、図6に示す配列を得る。
【0068】
図10の概略図のポイント7は、直鎖状PEGカップリング剤によって表面に係留された抗体による栄養芽細胞の捕捉を示す。
【0069】
以下の実施例は、子宮頚管粘膜の抽出物から栄養芽細胞を隔離するための、このタイプのプロトタイプ的マイクロチャネルデバイスの有効な使用法を例示する。これらは、当然ながら、本発明の特定の態様のみを単に例示するものであって、この説明の末尾に添付された特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲に対する制約をなすものではないことが理解される必要がある。
【0070】
実施例1
生体分子を分離するためのマイクロフロー装置は、実施例1に記載のプロトタイプ基板を用いて構築される。基板はPDMSから形成され、フローチャネルを閉鎖するために平坦ガラスプレートと結合される。収集領域の全体にわたる内面は、Dow Corning Z-6020の容積百分率10パーセント溶液とともに室温で30分間インキュベートすることによって誘導体化される。エタノールで洗浄した後、それらを脱脂乳により室温で約1時間処理し、薄いカゼインコーティングを生じさせる。水中10%エタノールでの洗浄に続き、イソシアネートでキャップした平均MWが6000のPEGトリオールをベースとするヒドロゲルを用いて処置を行う。用いる製剤は、約3%のポリマーから構成される。ヒドロゲルプレポリマーは、6部の有機溶媒に対して重量で1部のポリマーを用いて作製する。すなわち、アセトニトリルおよびDMFを、BSAを含む100 mMのホウ酸ナトリウム(pH 8.0)中1 mg/mlの抗体溶液と混合した。特定の製剤は、Acn/DMF中100 mgのプレポリマー、ホウ酸緩衝液中0.25 mg/ml抗体混合物を350μL、およびホウ酸緩衝液中1 mg/ml BSAを350μL含み、約2重量%のポリマーを含有する。
【0071】
この試験のため、子宮頚管粘膜の試料から栄養芽細胞を単離することが望ましく、Kawata et al., J. Exp. Med., 160:653 (1984)には、細胞特異的Ab(例えばヒト栄養芽細胞に対するモノクローナル抗体(抗Trop-1および抗Trop-2))を用いて標的細胞を検出することにより胎盤細胞集団を単離するための方法が開示されている。'596特許は、他のそのようなAbを同じ目的のために使用することを教示し、米国特許第5,503,981号は、この目的のために用いることができる他の3つのモノクローナルAbを特定している。Trop-1およびTrop-2に対する抗体は、胎児の器官のものである栄養芽細胞の外表面に担持されているリガンドに特異的である。これらの抗体に対して選択される緩衝液をまず、Amicon's Centricon-30(商標)膜ベースのミクロン濃縮器で繰り返し濃縮することによって、この抗体の計画された改変と安定性により適合する緩衝液へ変更した。抗体(0.1 mg)を次いで、5 mM EDTA(pH 8.3)を含む100μlの0.2 Mホウ酸ナトリウム/0.15 M NaCl中に溶解し、5μlの40 mMトラウト試薬と室温で一時間反応させ、チオール化させた。過剰量のトラウト試薬を10μlの100mMグリシンと反応させ、続いてCentricon-30(商標)上でのチオール化抗体の精製を行った。チオール化は標準的な検査法によって確認した。
【0072】
合計約5μgのチオール化抗Trop-1および抗Trop-2を含む濃度約0.5mg/mlの水溶液を、前処理したマイクロフロー装置に供給し、溶液をそのまま置いて25℃で2時間インキュベートする。このインキュベーション期間の後、1%PBS/BSAでフローチャネルを流し洗いして、抗体がコーティングされた表面を得た上で、それを用いて胎児栄養芽細胞を単離することを試みた。
【0073】
妊婦(妊娠8〜12週)から得た子宮頚管粘膜を、HAM培地(InVitrogen)で10mlに希釈し、DNアーゼ(120単位)により37℃で30分間処理した。100μmの細胞濾過器を通した濾過の後、細胞を1500RPMで30分間遠心した。細胞ペレットをHAM培地(100μl)中に再懸濁させ、約50μlの子宮頚管粘膜抽出物のこの細胞懸濁液が満たされたHarvard Apparatus社製シリンジポンプから流出口管までマイクロフロー分離装置をつなぐことにより、Trop-1およびTrop-2がコーティングされたマイクロチャネルを通過させた。シリンジポンプを作動させて、室温で約10μl/分の速度でマイクロフロー装置を通る試料液体の緩徐な連続流を生じさせる。この期間中に、横断ポストのランダムなパターンが設置された収集領域内の表面に付着させたTrop-1およびTrop-2 Abは、試料中に存在する栄養芽細胞を捕捉する。全試料をシリンジポンプによって送達した後、1%PBS/BSA水性緩衝液によるゆっくりとした洗い流しを行う。約100μlのこの水性緩衝液を約10分間にわたって装置を通して供給し、それが非特異的に結合した全ての生体材料をデバイス内のフローチャネルから効率的に除去する。続いて、それぞれ約100μlの1%PBS+1%BSAにより、約10分間にわたってさらに2回の洗浄を行う。
【0074】
この時点で、装置が光透過性材料でできている限りは、顕微鏡写真機などを用いることにより、捕捉の効果について顕微鏡検査を行うことができる。結合した細胞を、栄養膜由来の捕捉された細胞に特異的なサイトケラチン7およびサイトケラチン17によって染色した。このような顕微鏡写真における細胞を算定することにより、試料中に存在すると推定される栄養芽細胞の実質的に97%が、パターン化されたポスト収集領域内に捕捉されることが推定されており、これは極めて優れた結果であると判断される。
【0075】
捕捉および洗浄の段階を介したこの手順の反復において、100μlの0.25%トリプシン溶液を27℃で20分間にわたってフローチャネルを通してゆっくりと流すことにより、捕捉された栄養芽細胞が遊離される。この試薬は、Abの消化を引き起こして、栄養芽細胞を水流中に遊離させ、それらが流出口を通過して収集される。収集された細胞の、PCRおよびFISHを基にした技術による分析により、それらが実際に、用いたAbによって標的とされた栄養芽細胞であることが示される。
【0076】
実施例2
生体分子を分離するためのマイクロフロー装置を、実施例1に記載のプロトタイプ基板を用いて構築する。基板はPDMSから形成され、フローチャネルに近接した平坦なガラスプレートに結合される。収集領域全体にわたる内部表面は、10容量%のDow Corning Z-6020溶液と共に室温で30分間インキュベートすることによって誘導体化される。エタノールで洗浄後、室温で約1時間それらを脱脂乳で処理し、薄いカゼインコーティングを生成させる。水中10%エタノールでの洗浄に続き、イソシアネートでキャップした平均MWが6000のPEGトリオールをベースとするヒドロゲルを用いて処置を行う。用いる製剤は、約3%のポリマーから構成される。ヒドロゲルプレポリマーは、6部の有機溶媒、すなわち、アセトニトリルおよびDMFに対して重量で1部のポリマーを用いて作製し、BSAを含む100 mMのホウ酸ナトリウム(pH 8.0)中1 mg/mlの抗体溶液と混合する。得られた特定の製剤は、Acn/DMF中100 mgのプレポリマー、ホウ酸緩衝液中0.25 mg/ml抗体混合物を350μL、およびホウ酸緩衝液中1 mg/ml BSAを350μL含み、約2重量%のポリマーを含有する。栄養芽細胞の外表面に担持されているリガンドに特異的である抗体Trop-1およびTrop-2を再度用いる。
【0077】
合計約5μlのTrop-1およびTrop-2ヒドロゲル水性溶液を、前処理したマイクロフロー装置に添加し、溶液を25℃で約30分間インキュベートした。このインキュベーション期間後、フローチャネルにゆっくりと押し入れられて過剰なヒドロゲルを遊離させて押し出すミネラルオイルで、フローチャネルを洗い流す。これにより、PDMS材料からオイルを分離するヒドロゲルコーティングの薄層を有するオイルで充填したフローチャネルが得られる。3時間後、ヒドロゲルを完全に重合させ、オイルを1×PBS/0.1%Tween溶液で洗い流す。デバイスを次いで1×PBS溶液で充填し、Abを保護する。
【0078】
妊婦(妊娠8〜12週)由来の子宮頚管粘膜を、HAM培養液(InVitrogen)で10 mlに希釈し、DNアーゼ(120ユニット)により37℃で30分間処理する。100μm細胞ストレーナーを通して濾過した後、細胞を1500 RPMで30分間スピンする。細胞ペレットをHAM培養液(100μl)に再懸濁し、約50μlのこの子宮頚管粘膜抽出液の細胞懸濁液を満たしたHarvard Apparatusシリンジポンプからの流出管にマイクロフロー分離装置を接続することによってTrop-1およびTrop-2でコーティングしたマイクロチャネルを通過させた。シリンジポンプを操作して、試料液がマイクロフロー装置中を、室温で約10μl/分の速度で、ゆっくり連続的に流れるようにし、その間収集領域内の表面に接着したTrop-1およびTrop-2 Abが、試料中に存在する栄養芽細胞を捕捉する。全試料をシリンジポンプによって送達した後、1%PBS/BSA水性緩衝液によるゆっくりとした洗い流しを行う。この水性緩衝液の約100μlを約10分間にわたり、装置を通して供給し、これにより非特異的に結合した全ての生体材料がデバイス内のフローチャネルから効率的に除去される。続いて、それぞれ約100μlの1%PBS+1%BSAにより、約10分間にわたりさらに2回の洗浄を行う。
【0079】
この場合も、結合した細胞をサイトケラチン7およびサイトケラチン17で染色した後、捕捉の効果に関する顕微鏡検査を顕微鏡写真法を用いて行う。このような顕微鏡写真における細胞を算定することにより、試料中に存在すると推定される栄養芽細胞の優れた捕捉が達成されたことが明らかにされる。
【0080】
実施例3
生体分子を分離するための別のマイクロフロー装置を、実施例1に記載のプロトタイプ基板を用いて構築する。基板はPDMSから形成され、フローチャネルに近接した平坦なガラスプレートに結合される。収集領域全体にわたる内部表面は、10容量%のDow Corning Z-6020溶液と共に室温で30分間インキュベートすることによって誘導体化される。エタノールで洗浄後、室温で約1時間それらを脱脂乳で処理し、薄いカゼインコーティングを生成させる。
【0081】
10%エタノール水溶液で洗浄した後、2.5mM NHS-ポリグリシン(平均MWは約4500)を含む0.2 MOPS/0.5M NaCl、pH 7.0の10μlを用いて、攪拌を提供するためにチャネル内の溶液をポンプで穏やかに行き来させながらRTで2時間インキュベートすることにより、処理を行う。マレイミド-ポリGlyでコーティングされたチャネルを得るために、マイクロチャネルを500μlのpH 7.0 MOPS緩衝液で3回洗浄する。
【0082】
栄養芽細胞の外表面に担持されているリガンドに特異的である、抗体Trop-1およびTrop-2を実施例1と同様に処理し、それらをチオール化する。
【0083】
合計約5μgのチオール化抗Trop-1および抗Trop-2を含む濃度約0.25mg/mlの水溶液を、前処理したマイクロフロー装置に供給し、溶液をそのまま置いて25℃で2時間インキュベートする。このインキュベーション期間の後、1%PBS/BSAでフローチャネルを流し洗いし(3回)、抗体がコーティングされた表面を得た上で、それを用いて胎児栄養芽細胞を単離することを試みる。
【0084】
妊婦(妊娠8〜12週)由来の子宮頚管粘膜を、HAM培養液(InVitrogen)で10 mlに希釈し、DNアーゼ(120ユニット)により37℃で30分間処理した。100μm細胞ストレーナーを通して濾過した後、細胞を1500 RPMで30分間スピンした。細胞ペレットをHAM培養液(100μl)に再懸濁し、約50μlのこの子宮頚管粘膜抽出液の細胞懸濁液を満たしたHarvard Apparatusシリンジポンプからの流出管にマイクロフロー分離装置を接続することによってTrop-1およびTrop-2でコーティングしたマイクロチャネルを通過させた。シリンジポンプを操作して、試料液がマイクロフロー装置中を、室温で約10μl/分の速度で、ゆっくり連続的に流れるようにし、その間収集領域内の表面に接着したTrop-1およびTrop-2 Abが、試料中に存在する栄養芽細胞を捕捉する。全試料をシリンジポンプによって送達した後、1%PBS/BSA水性緩衝液によるゆっくりとした洗い流しを行う。この水性緩衝液約100μlを約10分間にわたって装置を通して供給し、それによって非特異的に結合した全ての生体材料をデバイス内のフローチャネルから効率的に除去される。続いて、それぞれ約100μlの1%PBS+1%BSAにより、約10分間にわたりさらに2回の洗浄を行う。
【0085】
この場合も、結合した細胞をサイトケラチン7およびサイトケラチン17で染色した後、捕捉の効果に関する顕微鏡検査を顕微鏡写真法を用いて行う。このような顕微鏡写真における細胞を算定することにより、試料中に存在すると推定される栄養芽細胞の良好な捕捉が達成されたことが明らかにされる。
【0086】
本発明を、現時点で発明者らが知りうる本発明を実施するための最良の実施形態を構成する、特定の好ましい態様に関して説明してきたが、本明細書に添付の特許請求の範囲に規定された発明の範囲を逸脱することなく、当業者には明らかであろう様々な変更および修正を加えることができることが理解されるべきである。例えば、ある種の好ましい材料を、内部にマイクロチャネルが定められた基板の製造用に記載してきたが、これのような検査デバイスに適するものとして用いうる、当技術分野で周知の広範囲にわたる構造材料が存在する。母体血液試料由来の胎児細胞または子宮頚管粘膜抽出物由来の栄養芽細胞の分離に、全般的な強調が置かれているが、本発明は例えば有核赤血球、リンパ球といった非常に様々な血液細胞、転移性癌細胞、幹細胞その他を分離するために有用であることが理解される必要がある;さらに、他の生物材料、例えば、タンパク質、炭水化物、ウイルスその他を、液体試料から分離することも考えられる。試料が細胞の特定の部分集団を含む場合、捕捉しようとする標的細胞は、希少な細胞から分離しようとする望ましくない細胞の群などであってもよい。さらに、標的とした細胞がひとたび収集されれば、それらをインサイチューで溶解して細胞DNAを得て、それを下流での分析のために収集してもよく、または代替的には収集チャンバー内部でのPCRに供してもよい。米国公開出願第2003/0153028号は、遊離された核酸を得るためにこのような結合細胞を溶解することを教示している。試料中に標的細胞の2種の異なる部分集団が存在する場合、異なる隔離剤を、一対の上流および下流収集チャンバー内のポストに付着してもよい。もう1つの状況において、1つの属の細胞を最初に上流収集チャンバー内に収集し、遊離させ、続いて細胞の亜属を単離するために下流チャンバー内で再びスクリーニングしてもよい。
【0087】
構築上の見地から、このような装置に任意で組み込んでもよいいくつかの追加的な構成要素が、図6および7に図示する。図6は、蠕動型ポンプ配列が、収集チャンバーに隣接する流入口通路領域および流出口通路領域に組み込まれている、図1に示すものに類似したマイクロチャネルを示す。図示されるのは、流入口15'、収集チャンバー17'および流出口19'を含むマイクロチャネル配列13'であり、これには収集チャンバーにつながる入口通路18'に設置された、特別に設計された3つの膜弁を組み入れることにより、一体型ポンプ輸送配列41が構築されている。概略図は図4および5に示されたものに類似した配列のものであり、そこではフロー調節層または調節板内のそれぞれの弁膜の圧迫側につながる通路30'に対する空気または他の高圧ガスの適用により、その膜が拡張させられ、それが結び付いているマイクロチャネルの隣接領域内の液体が圧搾される。3つの弁が左から右へと順々に作動するように制御ユニットをプログラムすることにより、マイクロチャネルの入口領域18'内の液体が右へとポンプ輸送されて収集デバイス17'を通るような波状の動きが設定される。所望であれば、同様の蠕動型ポンプ輸送配列43も、収集チャンバー17'から下流につながる出口通路領域45内に組み込まれる。
【0088】
もう1つの潜在的な代替物として、マイクロ混合配列が図7に図示される。供給通路55につながる環状経路53を含むマイクロ混合器51が図示されており、これは前述したような基板中の収集チャンバーにつながる入口通路であってもよい。液体を環状経路53に供給するために一対の流入口チャネル57aおよび57bが備えられ、経路55、57aおよび57bを通る液体流量は空気弁59を介して制御される。追加的な3つの空気弁61が通路それ自体の中に配置され、前述した種類の蠕動型ポンプ63を構成する。この構成は、収集チャンバーなどへの送達の前に、基板それ自体の中での2つの液体のマイクロ混合の効率的な方法を提供する。例えば、環状経路53を、1つの流入口チャネル57aからの何らかの液体および流入口チャネル57bからの何らかの緩衝液で満たすことにより、続いて環状経路に備えられた環の周りの液体をポンプ輸送するために3つの弁61を順々に作動させることによって混合を生じさせることができる;このようにして、送達通路55を通って排出される前に液体を十分に混合することができる。
【0089】
実施例4:血液試料中の胎児細胞の分離−MACS対CEE
基本的な実験アプローチ:
・ドナー1人当たり6×10 mlの血液を採取する
・フィコール細胞ペレットを各10 mlから調製する(主に血液の有核白血球成分を含む)
・約50 JEG細胞を各細胞ペレットにスパイクする
・MACSで3回、CEEで3回実行する、すなわち同じドナーから3つ組で実行する
・MACSとCEEは両方とも、通常MACSで血液中の上皮細胞を捕捉するために用いられるEpCAM抗体で、コーティングされている
・MACSとCEEからのJEG細胞の回収率をカウントする
・MACSとCEE上のバックグラウンドDAPIポジティブ細胞をカウントする
・6つの異なるドナーで繰り返す(合計18試料/デバイス)
【0090】
結果:
パフォーマンス
【0091】
結論:
・累計CEE捕捉はMACSより約2倍高かった(p<0.0001)
・全体のMACS非特異的捕捉はCEEより約13倍高かった(p<0.0001)
・フィコールからの特異的および非特異的な捕捉変動率は、両方の手法で高く、試料操作に起因するところが大きく、試料の変動率ではないようである
【0092】
具体的に本明細書で特定される米国特許および出願の全ての開示は、明確に参照により本明細書に組み入れられる。
【0093】
本発明の特定の特徴は、以下の特許請求の範囲で強調される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入口手段、流出口手段、および流入口手段と流出口手段の間に伸びるマイクロチャネル配列を含むランダム化流路を有する主要部分を備えるマイクロフロー装置であって、該マイクロチャネル配列が、マイクロチャネルの基部表面と一体化しかつそこから突出している複数の横断するセパレータポストを含み、該ポストが該ランダム化流路を提供できるパターンで配置される、マイクロフロー装置。
【請求項2】
ポストが、基部表面に対して実質的に垂直に整列化される、請求項1記載の装置。
【請求項3】
ポストが、数学的アルゴリズムによって生成されるランダム化パターンで配置される、請求項1記載の装置。
【請求項4】
ポストが、該ポストの総数と該ポストのうちの2つの間の最小距離を用いた数学的アルゴリズムによって生成されるランダム化パターンで配置される、請求項1記載の装置。
【請求項5】
ポストが、少なくとも2つの異なる横断面サイズを有する、請求項1記載の装置。
【請求項6】
ポストの平均横断面サイズが、マイクロチャネルを流れる標的分子のサイズに関連する、請求項1記載の装置。
【請求項7】
ポストの横断面が、マイクロチャネルの基部表面の横断面の約20%〜約75%を占める、請求項1記載の装置。
【請求項8】
ポストの総容量が、マイクロチャネルの総容量の約15%〜約25%である、請求項1記載の装置。
【請求項9】
2つのポスト間の最小距離が、ポストの最小横断面サイズに関連する、請求項1記載の装置。
【請求項10】
マイクロチャネルの表面が親水性の層でコーティングされる、請求項1記載の装置。
【請求項11】
マイクロチャネルの表面が、PEG、PPG、またはそのコポリマーのイソシアネート官能性ポリマーを含む少なくとも約1ミクロンの厚さの親水性の層でコーティングされる、請求項1記載の装置。
【請求項12】
マイクロチャネルの表面が隔離剤(sequestering agent)でコーティングされている、請求項1記載の装置。
【請求項13】
マイクロチャネルの表面が、抗体、抗原、受容体、リガンド、オリゴヌクレオチド、およびペプチドからなる群より選択される隔離剤でコーティングされる、請求項1記載の装置。
【請求項14】
隔離剤が、リンカーによってマイクロチャネルの表面に結合される、請求項1記載の装置。
【請求項15】
隔離剤が、親水性リンカーまたはヒドロゲル層によってマイクロチャネルの表面に結合される、請求項1記載の装置。
【請求項16】
流入口手段が、液体試料を保持することが可能なウェルを含む、請求項1記載の装置。
【請求項17】
マイクロチャネルが、ポストの自由端に取り付けられたプレートで密封される、請求項1記載の装置。
【請求項18】
マイクロチャネルが、光学的に透過性である基部表面を含み、かつ光学的検出手段によって見ることができる、請求項1記載の装置。
【請求項19】
マイクロチャネルが、ポストの自由端に取り付けられたプレートで密封され、該マイクロチャネルの基部表面および該プレートが、光学的に透過性である、請求項1記載の装置。
【請求項20】
請求項1記載の装置と、マイクロチャネルの表面を隔離剤でコーティングするための説明書とを含む、キット。
【請求項21】
マイクロチャネルの表面が隔離剤でコーティングされている、請求項1記載の装置を含むキット。
【請求項22】
以下の段階を含む、試料中の標的分子を捕捉する方法:
該試料を含む液体本体を、請求項1記載の装置のマイクロチャネル中を流れさせる段階であって、該マイクロチャネルの表面が標的分子に結合可能な隔離剤でコーティングされている、段階。
【請求項23】
以下の段階を含む、試料中の標的分子を検出する方法:
該試料を含む液体本体を、請求項1記載の装置のマイクロチャネル中を流れさせる段階であって、該マイクロチャネルの表面が標的分子に結合可能な隔離剤でコーティングされている、段階、および
標的分子を検出する段階。
【請求項24】
標的分子が状態に関連する細胞である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
標的分子が癌または腫瘍細胞である、請求項23記載の方法。
【請求項26】
標的分子が胎児細胞である、請求項23記載の方法。
【請求項27】
標的分子が標的細胞であり、試料中の標的細胞数と総細胞数の比が、少なくとも1:107、1:108、または1:109である、請求項23記載の方法。
【請求項28】
試料を含む液体本体が、約0.5 mm〜約5 mm/秒の速度でマイクロチャネルを通って流れる、請求項23記載の方法。
【請求項1】
流入口手段、流出口手段、および流入口手段と流出口手段の間に伸びるマイクロチャネル配列を含むランダム化流路を有する主要部分を備えるマイクロフロー装置であって、該マイクロチャネル配列が、マイクロチャネルの基部表面と一体化しかつそこから突出している複数の横断するセパレータポストを含み、該ポストが該ランダム化流路を提供できるパターンで配置される、マイクロフロー装置。
【請求項2】
ポストが、基部表面に対して実質的に垂直に整列化される、請求項1記載の装置。
【請求項3】
ポストが、数学的アルゴリズムによって生成されるランダム化パターンで配置される、請求項1記載の装置。
【請求項4】
ポストが、該ポストの総数と該ポストのうちの2つの間の最小距離を用いた数学的アルゴリズムによって生成されるランダム化パターンで配置される、請求項1記載の装置。
【請求項5】
ポストが、少なくとも2つの異なる横断面サイズを有する、請求項1記載の装置。
【請求項6】
ポストの平均横断面サイズが、マイクロチャネルを流れる標的分子のサイズに関連する、請求項1記載の装置。
【請求項7】
ポストの横断面が、マイクロチャネルの基部表面の横断面の約20%〜約75%を占める、請求項1記載の装置。
【請求項8】
ポストの総容量が、マイクロチャネルの総容量の約15%〜約25%である、請求項1記載の装置。
【請求項9】
2つのポスト間の最小距離が、ポストの最小横断面サイズに関連する、請求項1記載の装置。
【請求項10】
マイクロチャネルの表面が親水性の層でコーティングされる、請求項1記載の装置。
【請求項11】
マイクロチャネルの表面が、PEG、PPG、またはそのコポリマーのイソシアネート官能性ポリマーを含む少なくとも約1ミクロンの厚さの親水性の層でコーティングされる、請求項1記載の装置。
【請求項12】
マイクロチャネルの表面が隔離剤(sequestering agent)でコーティングされている、請求項1記載の装置。
【請求項13】
マイクロチャネルの表面が、抗体、抗原、受容体、リガンド、オリゴヌクレオチド、およびペプチドからなる群より選択される隔離剤でコーティングされる、請求項1記載の装置。
【請求項14】
隔離剤が、リンカーによってマイクロチャネルの表面に結合される、請求項1記載の装置。
【請求項15】
隔離剤が、親水性リンカーまたはヒドロゲル層によってマイクロチャネルの表面に結合される、請求項1記載の装置。
【請求項16】
流入口手段が、液体試料を保持することが可能なウェルを含む、請求項1記載の装置。
【請求項17】
マイクロチャネルが、ポストの自由端に取り付けられたプレートで密封される、請求項1記載の装置。
【請求項18】
マイクロチャネルが、光学的に透過性である基部表面を含み、かつ光学的検出手段によって見ることができる、請求項1記載の装置。
【請求項19】
マイクロチャネルが、ポストの自由端に取り付けられたプレートで密封され、該マイクロチャネルの基部表面および該プレートが、光学的に透過性である、請求項1記載の装置。
【請求項20】
請求項1記載の装置と、マイクロチャネルの表面を隔離剤でコーティングするための説明書とを含む、キット。
【請求項21】
マイクロチャネルの表面が隔離剤でコーティングされている、請求項1記載の装置を含むキット。
【請求項22】
以下の段階を含む、試料中の標的分子を捕捉する方法:
該試料を含む液体本体を、請求項1記載の装置のマイクロチャネル中を流れさせる段階であって、該マイクロチャネルの表面が標的分子に結合可能な隔離剤でコーティングされている、段階。
【請求項23】
以下の段階を含む、試料中の標的分子を検出する方法:
該試料を含む液体本体を、請求項1記載の装置のマイクロチャネル中を流れさせる段階であって、該マイクロチャネルの表面が標的分子に結合可能な隔離剤でコーティングされている、段階、および
標的分子を検出する段階。
【請求項24】
標的分子が状態に関連する細胞である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
標的分子が癌または腫瘍細胞である、請求項23記載の方法。
【請求項26】
標的分子が胎児細胞である、請求項23記載の方法。
【請求項27】
標的分子が標的細胞であり、試料中の標的細胞数と総細胞数の比が、少なくとも1:107、1:108、または1:109である、請求項23記載の方法。
【請求項28】
試料を含む液体本体が、約0.5 mm〜約5 mm/秒の速度でマイクロチャネルを通って流れる、請求項23記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2009−544043(P2009−544043A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−520982(P2009−520982)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/073817
【国際公開番号】WO2008/011486
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(507240956)バイオセプト インコーポレイティッド (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/073817
【国際公開番号】WO2008/011486
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(507240956)バイオセプト インコーポレイティッド (8)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]