説明

マイクロチャンバーアレイを用いたスクリーニング方法およびスクリーニング装置

【課題】 マイクロチャンバーアレイを利用して有用な機能を持つ微生物やタンパク質をスクリーニングする方法および装置を提供する。
【解決手段】 本発明のスクリーニング方法およびスクリーニング装置は、アレイ状に配置された複数のマイクロチャンバーを有する基板を用いて、スクリーニング対象となる試料から、目的とする酵素活性を有するタンパク質あるいは当該タンパク質を産生する微生物をスクリーニングするというものである。この方法および装置では、酵素活性を有するタンパク質と蛍光基質との酵素反応によって発生する蛍光を検出することによって、マイクロチャンバー内に存在する酵素活性を有するタンパク質あるいはそのタンパク質を産生する微生物を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチャンバーアレイを用いて、酵素活性を有するタンパク質や、酵素活性を有するタンパク質を産生している微生物をスクリーニングする方法、および、このような微生物のスクリーニングに用いる装置に関する。また、本発明は、微生物が酵素活性を有するタンパク質を細胞膜の表層で発現したり、酵素活性を有するタンパク質を分泌発現したりしていることを確認する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有用な機能を有する微生物(例えば、有用なタンパク質を産生する微生物)をスクリーニングするという技術に関しては、寒天プレートに微生物を散布し、ある種の選択圧をかけて増殖するか否かを確認する、あるいは基質を加えて、例えば、ハロを形成するか否かを確認するなどといった方法が定法とされている。このような方法によって、目的に合う微生物がスクリーニングされている。しかしながら、このような方法では数多くの寒天プレートが必要であり、寒天プレートを作成したり、菌を撒いたりするのに多くの労力と時間とコストがかかるという問題を抱えている。
【0003】
また、昨今、ゲノミクスやプロテオミクスで数多くの遺伝子やタンパク質の機能を解析するにあたり、微量なサンプルを用い、高速な解析を行うことが必要になってきている。このようなニーズに対応するために、微量かつ高速な解析用のDNAチップやプロテオチップなどの開発が進められている。そして、微細加工技術の進歩から極微小なチャンバー(ウェル)を作成することが可能になった。さらに、CCDカメラおよびコンピューター処理を利用して、定性的、半定量的に解析することも可能になってきた。
【0004】
非特許文献1には、実際にこのようなマイクロチャンバーアレイ技術を用いて、1細胞でPCRを行ったり、無細胞系蛋白合成を行ったり、細胞を入れて蛍光発色する細胞を検出したりするなどといった技術が報告されている。また、この非特許文献1には、網羅的に変換された遺伝子を大腸菌や酵母に導入し、発現された蛋白の機能を解析することが可能となってきていることが報告されている。
【0005】
このような技術の進歩に伴って、多数の遺伝子またはタンパク質を一度にスクリーニングでき、短時間に機能解析することのできるハイスループットスクリーニングが注目されている。現在のハイスループットスクリーニングは、数多くの化合物を、96ウェルや386ウェルのプレートを用いて、自動化された装置を用いてスクリーニングするという方法で実施されている。また、非特許文献2には、無細胞タンパク質合成系を用いて合成されたタンパク質のハイスループットスクリーニング技術について記載されている。
【非特許文献1】「特集:コンビナトリアル・バイオエンジニアリング」、バイオインダストリー、2001年、18巻、6月号、7〜17頁、56〜72頁
【非特許文献2】Nippon Nogeikagaku Kaishi, Vol.78, No.5, 27〜30(2004年5月1日発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この96ウェルや386ウェルのプレートに存在する各チャンバーの容積は、96ウェルのもので約300μlであり、384ウェルのもので約100μlである。このようなプレートを用いてスクリーニングを行う場合、少なくとも各チャンバーの容積の3分の1程度の溶媒が必要となるとともに、それに見合った量の試薬などが必要となる。そして、スクリーニングの回数が多くなればコストもそれだけ上昇する。
【0007】
しかも、最近では、さらに大量のライブラリーから、リパーゼ活性などの酵素活性を有するタンパク質や微生物を、微量に、かつ、短時間で安くスクリーニングすることが必要になってきている。上記のような寒天プレートでスクリーニングすれば、多大な労力とコストをかけなければならず、このようなニーズに応えることは困難である。また、96ウェルや384ウェルのプレートを用いて酵素反応を行い、阻害剤をハイスループットにスクリーニングすることは実際に行われているが、さらに大量に処理する場合はコストも含めて多くの問題が生じてくる。
【0008】
一方、例えば、内径が100μm程度、深さが10μm程度のマイクロチャンバーであれば、その容積は約80plとなり、上述の96ウェルや386ウェルのプレートに設けられたチャンバーの10万分の1の容積で済む。また、上記の容積を有するマイクロチャンバーであれば、面積1cmのプレート上に5000〜100000個程度配置することができる。そのため、マイクロチャンバーがアレイ状に配置されたプレートを用いて微生物やタンパク質のスクリーニングを行えば、高速かつ低コストの機能解析を実現できると期待される。
【0009】
しかしながら、マイクロチャンバー内で種々の反応を起こさせることは可能になってきているが、酵素反応を行い、ハイスループットにスクリーニングすることはまだ行われていないのが現状である。
【0010】
つまり、これまでの96ウェルや384ウェルのプレートは、医薬用途の酵素阻害剤のスクリーニングを目的とするものであった。酵素阻害剤は低分子化合物であるため、ケミカルライブラリーは多くても100万個くらいまでに限られており、マイクロチャンバーアレイの需要はそれほど高くはなかった。しかし、最近のさらに大量のライブラリーからのスクリーニングの必要性とともに、マイクロチャンバーアレイを用いてスクリーニングを行うことが望まれている。
【0011】
そこで、本発明では、上記のマイクロチャンバーアレイを利用して有用な機能を持つ微生物やタンパク質をスクリーニングする方法および装置を提供する。また、本発明は、遺伝子組み替えによって、酵母などの微生物や細胞において、酵素活性を有するタンパク質が、細胞膜の表層で発現していること、あるいは、分泌発現していることを確認することのできる方法および装置を提供するものでもある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかるスクリーニング方法は、上記の課題を解決するために、アレイ状に配置された複数のマイクロチャンバーを有する基板上に、分解することによって蛍光を発する蛍光基質を添加する工程と、タンパク質あるいは微生物を含む試料を上記基板上に滴下する工程と、タンパク質あるいは微生物と上記蛍光基質との酵素反応によって発生する蛍光を検出することによって、上記マイクロチャンバー内に存在する酵素活性を有するタンパク質あるいはそのタンパク質を産生する微生物を検出する工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0013】
本発明のタンパク質あるいは微生物のスクリーニング方法は、何らかの酵素活性を有するタンパク質あるいはそのタンパク質を産生する微生物を、アレイ状に配置された複数のマイクロチャンバーを有する基板を用いてスクリーニングするというものである。
【0014】
このスクリーニング方法によれば、その容量がpl単位の非常に小さなマイクロチャンバーを有する基板を用いることによって、大量のライブラリーを含む試料から、短時間で安くスクリーニングすることができる。さらに、各マイクロチャンバーが非常に小さいため、試料中から目的とするタンパク質や微生物を含む溶液を微量に摘出することができる。その結果、微生物の場合は1個から数個を取り出すことができ、それを増殖させることもできる。これによって、スクリーニングの次の段階に実施される、例えば機能解析などにそのままの状態あるいは増殖させた状態で使用することができる。ここでライブラリーとは、試料中に含まれている、全タンパク質あるいは全微生物(目的とするタンパク質あるいは微生物以外のタンパク質や微生物も含む)を意味する。
【0015】
なお、「タンパク質あるいは微生物を含む試料」には、ある特定の酵素活性を有するタンパク質あるいは微生物を含んでいる可能性のある試料も含まれる。つまり、上記試料とは、目的とするタンパク質あるいは微生物のスクリーニング対象となるものを意味する。上記試料の具体例としては、土壌あるいは海洋などの自然環境中から採取した試料、従来公知の遺伝子工学技術による形質転換法によって作製した変異タンパク質あるいは微生物の変異体を含む試料などが挙げられる。
【0016】
上記試料として土壌あるいは海洋などの自然環境中から採取した試料を用いて、本発明のスクリーニングを行った場合には、自然界から特定の酵素活性を有する有用な微生物をスクリーニングすることができる。また、上記試料として変異タンパク質あるいは微生物の変異体を含む試料を用いて、膨大なライブラリーから作製した変異タンパク質あるいは変異体を容易に単離することができる。
【0017】
本発明のスクリーニング方法において、上記タンパク質は、微生物の細胞膜の表層に発現しているタンパク質であり、上記の検出する工程では、上記複数のマイクロチャンバーのうち、蛍光を発するマイクロチャンバーを検出することによって、酵素活性を有するタンパク質を細胞膜の表層に発現している微生物を検出することが好ましい。
【0018】
つまり、上記のスクリーニング方法では、スクリーニング対象となるタンパク質は、酵母などの微生物の細胞膜の表層に発現しているタンパク質である。また、この場合、細胞膜の表層で酵素活性を有するタンパク質を発現している微生物自体もスクリーニング対象に含まれる。
【0019】
この細胞膜の表層でタンパク質を発現している微生物を含む試料を基板上に滴下すると、上記微生物は基板上に形成された複数のマイクロチャンバーのいくつかにちらばって存在することになる。それゆえ、上記のスクリーニング方法によれば、どのマイクロチャンバーで蛍光を発しているかを検出することによって、どのマイクロチャンバー内に目的とするタンパク質が含まれているかを確認することができる。
【0020】
なお、本発明のスクリーニング方法において、基質を細胞内に導入して酵素反応を実施すれば、細胞外に分泌発現したり、細胞膜の表層で発現したりしているタンパク質だけではなく、細胞内において発現しているタンパク質をスクリーニングすることもできる。
【0021】
本発明のスクリーニング方法において、上記マイクロチャンバーの内径は、5〜500μmであることが好ましい。
【0022】
上記のように、マイクロチャンバーの内径が5〜500μmの範囲内であれば、マイクロチャンバーの容量をpl単位の非常に小さな容量にすることができる。
【0023】
本発明のスクリーニング方法では、上記の検出する工程の後に、上記タンパク質が含まれているマイクロチャンバー内の内容物を取り出す工程をさらに含むことが好ましい。
【0024】
上記の取り出し工程を含むことによって、目的とするタンパク質あるいは微生物を含む微量な溶液を得ることができる。この溶液は、非常に微量でありながら確実に目的のタンパク質や微生物を含んでいるため、スクリーニングの後に行われる機能解析などにそのまま増殖させて利用することができる。
【0025】
本発明にかかるスクリーニング装置は、上記の課題を解決するために、試料中から酵素活性を有するタンパク質あるいはそのタンパク質を産生している微生物をスクリーニングする装置であって、アレイ状に配置された複数のマイクロチャンバーを有する基板と、上記基板上で発生する蛍光を検出する蛍光検出器とを備え、上記蛍光検出器は、酵素活性を有するタンパク質と蛍光基質との酵素反応によって発生する蛍光を検出することによって、上記マイクロチャンバー内に存在する酵素活性を有するタンパク質あるいはそのタンパク質を産生する微生物を検出することを特徴とするものである。
【0026】
上記のタンパク質あるいは微生物のスクリーニング装置は、何らかの酵素活性を有するタンパク質あるいはそのタンパク質を産生する微生物を、アレイ状に配置された複数のマイクロチャンバーを有する基板(マイクロチャンバーアレイ)を用いてスクリーニングするというものである。
【0027】
つまり、本発明のスクリーニング装置では、アレイ状に配置された複数のマイクロチャンバーを有する基板上に、酵素活性を有するタンパク質あるいは当該タンパク質を産生する微生物を含んでいる可能性のある試料、および、分解することによって蛍光を発する蛍光基質を添加し、マイクロチャンバー内で酵素活性を有するタンパク質と蛍光基質とを酵素反応させる。そして、蛍光検出器が、基板上に設けられたマイクロチャンバーにおいて蛍光を発しているか否かを検出することによって、マイクロチャンバー内における酵素反応の有無、ひいては、酵素活性を有するタンパク質あるいは当該タンパク質を産生する微生物の有無を判定する。
【0028】
このスクリーニング装置によれば、その容量がpl単位の非常に小さなマイクロチャンバーを有する基板を用いることによって、大量のライブラリーから、短時間で安くスクリーニングすることができる。さらに、各マイクロチャンバーが非常に小さいため、試料中から目的とするタンパク質や微生物を含む溶液を微量に摘出することができる。その結果、微生物の場合は1個から数個を取り出すことができ、それを増殖させることもできる。これによって、スクリーニングの次の段階に実施される、例えば機能解析などにそのままの状態あるいは増殖させた状態で使用することができる。なお、ここでライブラリーとは、試料中に含まれている、全タンパク質あるいは全微生物(目的とするタンパク質あるいは微生物以外のタンパク質や微生物も含む)を意味する。
【0029】
このように、上記試料は、スクリーニングの対象となるものであり、具体的には、土壌あるいは海洋などの自然環境中から採取した試料、従来公知の遺伝子工学技術による形質転換法によって作製した変異タンパク質あるいは微生物の変異体を含む試料などが挙げられる。
【0030】
上記試料として土壌あるいは海洋などの自然環境中から採取した試料を用いて、本発明のスクリーニングを行った場合には、自然界から特定の酵素活性を有する有用な微生物をスクリーニングすることができる。また、上記試料として変異タンパク質あるいは微生物の変異体を含む試料を用いて、スクリーニングを行った場合には、作製した変異タンパク質あるいは変異体を容易に単離することができる。
【0031】
本発明のスクリーニング装置において、上記タンパク質は、微生物の細胞膜の表層に発現しているタンパク質であり、上記蛍光検出器は、上記複数のマイクロチャンバーのうち、蛍光を発するマイクロチャンバーを検出することによって、酵素活性を有するタンパク質を細胞膜の表層に発現している微生物を検出することが好ましい。
【0032】
つまり、上記のスクリーニング装置では、スクリーニング対象となるタンパク質は、酵母などの微生物の細胞膜の表層で発現しているタンパク質である。また、この場合、細胞膜の表層に酵素活性を有するタンパク質を発現している微生物自体もスクリーニング対象に含まれる。
【0033】
この細胞膜の表層にタンパク質を発現している微生物を含む試料を基板上に滴下すると、上記微生物は基板上に形成された複数のマイクロチャンバーのいくつかにちらばって存在することになる。それゆえ、蛍光検出器が、基板上に設けられた複数のマイクロチャンバーのうち、どのマイクロチャンバーにおいて蛍光を発しているかを検出することによって、どのマイクロチャンバー内に目的とするタンパク質が含まれているかを確認することができる。
【0034】
本発明のスクリーニング装置は、蛍光を発するマイクロチャンバー内の内容物を取り出すマイクロマニプレーターをさらに備えていることが好ましい。
【0035】
上記の構成によれば、目的とするタンパク質あるいは微生物を含む微量な溶液を得ることができる。この溶液は、非常に微量でありながら確実に目的のタンパク質や微生物を含んでいるため、スクリーニングの後に行われる機能解析などにそのまま利用することができる。
【0036】
本発明のスクリーニング装置において、上記マイクロチャンバーの内径は、5〜500μmであることが好ましい。
【0037】
上記のように、マイクロチャンバーの内径が5〜500μmの範囲内であれば、マイクロチャンバーの容量をpl単位の非常に小さな容量にすることができる。これによれば、1つのマイクロチャンバー内に含まれるタンパク質あるいは微生物を含む溶液を、そのまま次に行われる機能解析などに利用することができる。
【0038】
また、本発明の方法および装置を利用すれば、簡便に酵母などの微生物や細胞において、酵素活性を有するタンパク質が細胞膜の表層で発現していること、あるいは、分泌発現していることを確認することができる。従来、微生物や細胞に目的とする蛋白を発現する遺伝子が導入されたか否かを調べるために、ベクターに抗生物質耐性遺伝子を導入し、抗生物質添加培地で生育するか否かを確認するという手法が用いられる。この場合、余分な遺伝子をベクターに結合させる必要があり、場合によってはその遺伝子を除去する必要も生じる。
【0039】
一方、本発明の方法で確認する場合には、少量のサンプルから導入された変異株を大量かつ同時に選抜することができる。また、余分な遺伝子をベクターに導入する必要もない。さらに、GFPなどの発光タンパク質の遺伝子をベクターに導入して発現を確認することが常法として行われるが、この場合も余分な遺伝子を結合させる必要があり、これによってベクターも長くなってしまう。ベクターが長くなると、遺伝子が導入されにくかったり、導入されたとしても発現しなかったりするという問題が発生する。
【発明の効果】
【0040】
本発明のスクリーニング方法およびスクリーニング装置は、以上のように、その容量がpl単位の非常に小さなマイクロチャンバーを有する基板を用いることによって、大量のライブラリーを含む試料から、短時間で安くスクリーニングすることができる。さらに、各マイクロチャンバーが非常に小さいため、試料中から目的とするタンパク質や微生物を含む溶液を微量に摘出することができる。これによって、スクリーニングの次の段階に実施される、例えば機能解析などにそのままの状態で使用することができる。
【0041】
このように、本発明にかかるスクリーニング方法およびスクリーニング装置は、高速かつ低コストで実施することができるとともに、目的とするタンパク質や微生物を次段階に利用し易い状態で得ることができるため、利便性の高い方法および装置であると言える。また、本発明の方法および装置によれば、微生物が酵素活性を有するタンパク質を細胞膜の表層で発現したり、酵素活性を有するタンパク質を分泌発現したりしていることを確認することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこの記載に限定されるものではない。
【0043】
本発明のタンパク質あるいは微生物のスクリーニングでは、内径20〜500μmのマイクロチャンバーがアレイ状に配列されたスライドグラス(基板)を用いる。そして、そのマイクロチャンバーに酵母や微生物などを含む試料、および、蛍光基質を入れることによって酵素反応を起こさせ、発生する蛍光を蛍光顕微鏡で観察したり、顕微鏡に取り付けられたCCDカメラで撮影したりすることによって、酵素反応が起こっているマイクロチャンバーを検出するという手法を用いる。
【0044】
本発明のスクリーニング方法、および、本発明のスクリーニング装置について、以下にそれぞれ説明する。
【0045】
(1)本発明のスクリーニング方法について
本発明のスクリーニング方法は、アレイ状に配置された複数のマイクロチャンバーを有する基板上に蛍光基質を添加する工程と、タンパク質あるいは微生物を含む試料を上記基板上に滴下する工程と、タンパク質あるいは微生物と上記蛍光基質との酵素反応によって発生する蛍光を検出することによって、上記マイクロチャンバー内に存在する酵素活性を有するタンパク質あるいはそのタンパク質を産生する微生物を検出する工程と、を含むものである。
【0046】
このスクリーニング方法では、アレイ状に配置された複数のマイクロチャンバーを有する基板を使用する。この基板は、マイクロチャンバーアレイとも呼ばれ、スライドガラス上に、容量が1〜2000pl程度(例えば、マイクロチャンバーの内径が500μmの場合の容量は2μl、内径が100μmの場合の容量は80pl)の非常に小さな凹型形状のチャンバーがアレイ状に配列したものである。この基板は、本発明のスクリーニング装置に備えられた複数のマイクロチャンバーを有する基板と同じものであるため、スクリーニング装置の説明中で詳述する。
【0047】
そして、上記基板のマイクロチャンバー内に、蛍光基質を添加するとともに、タンパク質あるいは微生物を含む試料を滴下する。この蛍光基質を添加する工程と、タンパク質あるいは微生物を含む試料を滴下する工程とは、順不同であり、どちらを先に行ってもよい。なお、「タンパク質あるいは微生物を含む試料」とは、スクリーニング対象となる試料のことを意味するとともに、本発明のスクリーニング方法では、その酵素活性を有するタンパク質あるいは当該タンパク質を産生する微生物をスクリーニングすることを意味する。
【0048】
「蛍光基質を添加する工程」、および、「タンパク質あるいは微生物を含む試料を滴下する工程」の後に、「マイクロチャンバー内に存在する酵素活性を有するタンパク質あるいはそのタンパク質を産生する微生物を検出する工程」が行われる。この検出する工程では、アレイ状に配置された複数のマイクロチャンバーのうちのどのマイクロチャンバーで酵素反応が起こっているかを検出する。そして、酵素反応が起こっているマイクロチャンバーには、目的とするタンパク質あるいは微生物が含まれており、酵素反応が起こっていないマイクロチャンバーには、目的とするタンパク質あるいは微生物が含まれていないと判定する。
【0049】
本発明のスクリーニング方法では、酵素反応の有無を確認するための酵素反応基質として蛍光基質を用いる。そのため、上記の検出する工程では、マイクロチャンバー毎に蛍光を発するか否かを検出することによって、酵素反応が起こっているか否かを容易に確認することができる。それゆえ、マイクロチャンバー内に目的とするタンパク質あるいは微生物が含まれているか否かを容易に判定することができる。
【0050】
本発明のスクリーニング方法によれば、その容量がpl単位の非常に小さなマイクロチャンバーを有する基板を用いることによって、大量のライブラリーを含む試料から、短時間で安くスクリーニングすることができる。さらに、各マイクロチャンバーが非常に小さいため、試料中から目的とするタンパク質や微生物を含む溶液を微量に摘出することができる。その結果、微生物の場合は1個から数個を取り出すことができ、それを増殖させることもできる。これによって、スクリーニングの次の段階に実施される、例えば機能解析などにそのままの状態あるいは増殖させた状態で使用することができる。
【0051】
また、本発明のスクリーニング方法では、上記検出工程の後に、目的とするタンパク質が含まれているマイクロチャンバー内の内容物を取り出す工程をさらに加えてもよい。この取り出し工程は、マイクロマニプレーターなどを利用して実施することができる。このような取り出し工程を含むことによって、目的とするタンパク質あるいは微生物を含む微量な溶液を得ることができる。この溶液は、非常に微量でありながら確実に目的のタンパク質や微生物が含まれているため、スクリーニングの後に行われる機能解析などにそのまま利用することができる。
【0052】
(2)本発明のスクリーニング装置について
本発明のスクリーニング装置は、試料中から酵素活性を有するタンパク質あるいはそのタンパク質を産生している微生物をスクリーニングする装置である。このスクリーニング装置は、アレイ状に配置された複数のマイクロチャンバーを有する基板と、上記基板上で発生する蛍光を検出する蛍光検出器とを備えており、上記蛍光検出器が、酵素活性を有するタンパク質と蛍光基質との酵素反応によって発生する蛍光を検出することによって、上記マイクロチャンバー内に存在する酵素活性を有するタンパク質あるいはそのタンパク質を産生する微生物を検出する。
【0053】
図1には、本発明のスクリーニング装置の構成例を示す。図1に示すスクリーニング装置10は、マイクロチャンバーを有する基板1と、上記基板1を載置して移動させるための電動ステージ2と、基板1上で発生する蛍光を検出するための蛍光検出器とから構成されている。基板1上には、内径5〜500μm程度のマイクロチャンバーがアレイ状に配列されている。なお。図1のAには、基板1上に配置されているチャンバーアレイを示す。そして、蛍光検出器は、CCDカメラ3とCCDカメラがとらえた映像を映し出すためのPC4とから構成されている。以下に、スクリーニング装置を構成する各部分について説明する。
【0054】
まず、上記スクリーニング装置に設けられた複数のマイクロチャンバーを有する基板について説明する。
【0055】
基板の材質には、ガラスやポリカーボネートなどを使用することができる。そして、この基板上に直接加工を施すことによって、マイクロチャンバーを形成してもよいし、この基板上にウェル(穴)を開けた状態のポリジメチルシロキサン、ポリイミドなどのフィルムを貼り付けてもよい。このようなフィルムを貼り付ける場合には、フィルムに開けられたウェルがマイクロチャンバーになる。またあるいは、ガラス製の基板上にフィルムをコーティングした後に、フィルム面に加工を施してマイクロチャンバーを形成してもよい。
【0056】
なお、このスクリーニング装置では、目的とするタンパク質と基質との酵素反応を蛍光で検出するため、基板およびフィルムはなるべく蛍光をもたないことが好ましい。このようなマイクロチャンバーアレイは現在市販も含め、入手可能である。
【0057】
基板上に形成されるマイクロチャンバーは、チャンバー内の容量を適切なものとするために、その内径が5〜500μmであることが好ましく、10〜100μmであることがより好ましい。また、マイクロチャンバーの深さは、5〜50μmであることが好ましく、7〜20μmであることがより好ましい。上記のように、マイクロチャンバーの内径が5〜500μmの範囲内であれば、その容量を1〜2000pl程度とすることができる。スクリーニング後に行われるタンパク質の機能解析では、この程度の微量な溶液を使用する。そのため、マイクロチャンバーの容量を上記の範囲内にすれば、1つのマイクロチャンバー内に含まれるタンパク質あるいは微生物を含む溶液を、そのまま次に行われる機能解析などに利用することができる。
【0058】
また、上記マイクロチャンバーは、その縦・横の長さが5〜20mm、好ましくは5〜10mm範囲の基板上に配列されている。1つの基板上に形成されるマイクロチャンバーの数としては1000〜100000が好ましく、5000〜100000がより好ましい。
【0059】
マイクロチャンバーの形状は、凹型であれば特に限定はされず、例えば、非特許文献1に示すような四角錐、あるいは、四角柱、円柱、半球、円錐などであればよい。なお、マイクロチャンバーの形状が四角錐あるいは四角柱の場合、上記「内径」とは、基板表面におけるマイクロチャンバーの一辺の長さのことを意味する。また、マイクロチャンバーの形状が円柱、半球、あるいは円錐の場合、上記「内径」とは、基板表面におけるマイクロチャンバーの直径のことを意味する。
【0060】
図2(a)は、複数のマイクロチャンバーを有する基板の一例を示す模式図である。図2(a)の上部に示す図は、上記基板の全体を示すものであり、下部に示す図は基板上に配置されたマイクロチャンバーを拡大して示すものである。この図に示す基板には、そのほぼ中央部に80×80個のマイクロチャンバーが間隔80μmでアレイ状に配置されている。そして、このマイクロチャンバーの大きさは、内径50μm、深さ10μmであり、その形状は、半球型である。
【0061】
図2(b)、(c)には、上記基板上に配置されているマイクロチャンバーのアレイパターンの一例を示す。図2(b)に示すパターン1では、80×80個のマイクロチャンバーが一辺10.32mmの範囲内に等間隔に配置されている。図2(c)に示すパターン2では、40×40個のマイクロチャンバーの部分配列が一辺に2個ずつ、合計4個、一辺11.24mmの範囲内に配置されている。
【0062】
次に、上記スクリーニング装置に設けられた蛍光検出器について説明する。
【0063】
上記蛍光検出器としては、検出対象物から発せられた蛍光を検出することが可能な従来公知のあらゆる機器を使用することができる。その具体例としては、蛍光顕微鏡、光源およびCCDカメラ付の画像表示装置などを挙げることができる。図2に示すスクリーニング装置における蛍光検出器は、CCDカメラ3とPC4とから構成されるものである。
【0064】
また、本発明のスクリーニング装置には、上述のマイクロチャンバーを有する基板および蛍光検出器が少なくとも備えられていればよいが、この2つの構成部材のほかに、蛍光を発するマイクロチャンバー内の内容物を取り出すためのマイクロマニプレーターがさらに備えられていてもよい。
【0065】
マイクロマニプレーターが設けられていれば、目的とするタンパク質あるいは微生物を含む微量な溶液を得ることができ、この微量な溶液を、次に行われるタンパク質の機能解析などにそのまま用いることができる。
【0066】
続いて、本発明のスクリーニング装置を用いて、目的とするタンパク質あるいは微生物をスクリーニングする手順を説明する。
【0067】
上記のスクリーニング装置を用いてスクリーニングを行う場合には、まず、上記のマイクロチャンバーが形成された基板上に、スクリーニング対象となるタンパク質あるいは微生物を含んでいる可能性のある試料を滴下する。
【0068】
試料を滴下する際には、1つのマイクロチャンバー内に、微生物が1〜100個、好ましくは1〜10個程度入るように撒く。そのためには、酵母の変異株や微生物からなるライブラリーを水、あるいはバッファーに濁度が0.01〜1.0になるように懸濁して試料を調製することが望ましい。そして、チャンバー内に微生物を1個〜数個入れるには0.5程度の濁度が適しており、さらに多くの微生物を入れる場合にはより高い濁度とする。微生物がチャンバー内に入る数は、試料中に含まれる微生物の濃度と相関しており、ポアッソン分布式に従うとされる。
【0069】
次に、この基板上に蛍光基質を含む溶液を添加する。
【0070】
蛍光基質としては例えば、リパーゼ活性を検出する場合は、ウンベリフェノンの脂肪酸エステル、フルオレセインの脂肪酸エステルなどが挙げられる。これらの基質はエステルが加水分解されることによって蛍光を発することになる。グルコシダーゼ活性を検出する場合は、ウンベリフェロンのグルコシド誘導体や、フルオレセインのグルコシド誘導体、レソルフィンのグルコシド誘導体などが挙げられる。また、ガラクトシダーゼやグルクロニダーゼなども同様のガラクトシド誘導体やグルクロナイド誘導体を用いて検出できる。
【0071】
また、ペプチダーゼを含むプロテアーゼなどは、それらの基質のアミノ酸配列を持つオリゴペプチドのC末端にアミノクロマン誘導体などのアミノ基を有する蛍光プローブをアミド結合させた基質を用いることによって検出できる。例えば、カスペースはC末側にアスパラギルクロマンを、トリプシンなどの塩基性アミノ酸を認識するプロテアーゼは、C末側にリジルクロマンやアルギニルクロマンを、キモトリプシンなどの脂溶性アミノ酸を認識するプロテアーゼは、C末側にフェニルアラニルクロマン、ロイシルクロマンなどを有するオリゴペプチドを用いることができる。
【0072】
これらの蛍光基質は、各酵素の触媒作用によって分解すると蛍光を発する性質を有するようになる。蛍光検出器は、この蛍光を検出することによって、上記試料中に酵素活性(例えば、リパーゼ活性、グルコシダーゼ活性、プロテアーゼ活性など)を有するタンパク質あるいはそれを産生する微生物が含まれるか否かを判別することができるとともに、アレイ状に配置されたどのマイクロチャンバーに上記タンパク質あるいは上記微生物が含まれているかを判別することができる。
【0073】
なお、この蛍光基質を含む溶液中の当該基質濃度は、10μm〜1mmol/dm3(10μmM〜1mM)であることが好ましい。この程度の濃度であれば、試料中に含まれるタンパク質の酵素活性を充分に検出することができる。
【0074】
以上のように、基板上に試料および蛍光基質を含む溶液を添加すると、試料中に含まれる酵素活性を有するタンパク質と蛍光基質とが酵素反応を起こし、蛍光基質が分解する。そして、基板上で発生する蛍光を検出するために備えられた蛍光顕微鏡(蛍光検出器)では、蛍光基質が分解して生じた物質の蛍光を観察することによって、どのマイクロチャンバーが酵素活性を有しているかを検出することができる。これによって、どのマイクロチャンバーに目的とするタンパク質または微生物が含まれているかを検出することができる。また、蛍光検出器が光源およびCCDカメラ付のPCの場合には、光源から励起波長を基板上に照射し、当該基板上から発生する蛍光をCCDカメラでPCに取り込み、PCに設けられた画像表示装置に蛍光を発する基板を映す。そして、使用者は、画像表示装置上で観察することによって、蛍光を発するマイクロチャンバーを認識することができる。
【0075】
なお、上記の装置を用いてスクリーニングを行う場合、試料の滴下と、蛍光基質の添加は、どちらを先にしても構わない。つまり、上述のように試料を先に滴下するのではなく、蛍光基質溶液を先に添加した後、試料を滴下して酵素活性を検出することもできる。
【0076】
上記スクリーニング装置にマイクロマニプレーターが備えられている場合には、蛍光を発するマイクロチャンバーから内容物を取り出すことによって、目的とする酵素活性を有する微生物やタンパク質を微量に得ることができる。その結果、微生物の場合は1個から数個を取り出すことができ、それを増殖させることもできる。そして、この目的とする微生物は、機能解析などにそのまま利用することができる。
【0077】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0078】
次に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。しかし、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0079】
〔実施例1〕リパーゼ分泌発現酵母におけるマイクロチャンバーアレイ中での蛍光基質を用いた加水分解反応の検出
本実施例では、まず、リパーゼ分泌発現酵母を以下の手順で作製した。
【0080】
(1)リパーゼ分泌発現酵母の作製
Geotrichum candidum lipase lip1遺伝子の5’側にEcoRI、 3’側にSalIのサイトができるプライマーを用いて、polymerase chain reaction (PCR)を行った。得られたPCR産物をEcoRI, SalIで切断した後、同様にEcoRI, SalIで処理した酵母用分泌用ベクターpYE22mと連結することにより、Geotrichum candidum lipase分泌発現プラスミドpYEGCL1を構築した。構築したpYEGCL1のGeotrichum candidum lipase遺伝子部分の塩基配列はデオキシターミネーター法によりエラーがないことを確認した。pYEGCL1でSaccharomyces cerevisiae EH1315株を形質転換し、リパーゼ分泌発現酵母を作製した。プラスミド導入の確認は、形質転換株から抽出した遺伝子を鋳型としてGeotrichum candidum lipase遺伝子の両端のプライマーを用いてPCRを行い、Geotrichum candidum lipase遺伝子サイズ1.6kb付近でのバンドの増幅で確認した。
【0081】
(2)マイクロチャンバーアレイ中での蛍光基質を用いた加水分解反応の検出
上記の手順で調製されたGeotrichum candidum lipase分泌発現酵母を合成培地10 mLで2日間、30℃で振とう培養後、培養液を3000rpm、4℃、10分で遠心分離し、集菌した。得られた菌体はPBS 10 mLで懸濁後、同条件の遠心分離にて集菌した。菌体の洗浄をもう一度行い、洗浄菌体はPBS 1 mLに懸濁した。濁度をOD600で測定した。4℃に保った状態のマイクロチャンバーアレイ(内径20μm)上に、懸濁酵母 40 μl(OD600=0.6相当)を散布し、4℃で10分間放置した。さらにその液面に添わせるように基質(0.1 mmol/l(0.1mM) MU-C18/ 1% DMF/ 50mmol(50 mM) リン酸緩衝液(pH7.0))360 μlを加え、4℃で10分間放置した。滑らすようにカバーガラスを乗せ、水分を押し出し、その後プレートを湿度100%のインキュベーター(室温)内で1時間反応させた後、蛍光顕微鏡で観察した(励起波長 320 nm、検出波長 450 nm)。
【0082】
その結果を図3(a)に示す。この図は、倍率400倍の顕微鏡写真である。この図に示すように、基板上の各マイクロチャンバーにおいて蛍光が観察され、Geotrichum candidum lipase分泌発現酵母が各マイクロチャンバー内に存在することが確認できた。
【0083】
〔実施例2〕リパーゼ表層発現酵母におけるマイクロチャンバーアレイ中での蛍光基質を用いた加水分解反応の検出
本実施例では、まず、リパーゼ表層発現酵母を以下の手順で作製した。
【0084】
(1)リパーゼ(Geotrichum candidum lipase)表層発現酵母の作製
Geotrichum candidum lipase lip1遺伝子の5’側にEcoRI、 3’側にXhoIのサイトができるプライマーを用いてpolymerase chain reaction (PCR)を行った。得られたPCR産物をEcoRI, XhoIで切断した後、同様にEcoRI, XhoIで処理した酵母用分泌用ベクターpCASS25と連結することにより、Geotrichum candidum lipase表層発現プラスミドpCASS25GCL1を構築した。構築したpCASS25GCL1のGeotrichum candidum lipase遺伝子部分の塩基配列はデオキシターミネーター法によりエラーがないことを確認した。PCASS25GCL1でSaccharomyces cerevisiae EH1315株を形質転換し、リパーゼ表層発現酵母を作製した。プラスミド導入の確認は、形質転換株から抽出した遺伝子を鋳型としてGeotrichum candidum lipase遺伝子の両端のプライマーを用いてPCRを行い、Geotrichum candidum lipase遺伝子サイズ1.6kb付近でのバンドの増幅で確認した。
【0085】
(2)マイクロチャンバーアレイ中での蛍光基質を用いた加水分解反応の検出
上記の手順で調製されたGeotrichum candidum lipase表層発現酵母を合成培地10 mLで2日間、30℃で振とう培養後、培養液を3000rpm、4℃、10分で遠心分離し、集菌した。得られた菌体はPBS 10 mLで懸濁後、同条件の遠心分離にて集菌した。菌体の洗浄をもう一度行い、洗浄菌体はPBS 1 mLに懸濁した。濁度をOD600で測定した。4℃に保った状態のマイクロチャンバーアレイ(内径20μm)上に、懸濁酵母 40 μl(OD600=0.6相当)を散布し、4℃で10分間放置した。さらにその液面にそわせるように基質(0.1 mM MU-C18/ 1% DMF/ 50 mM リン酸緩衝液(pH7.0))360 μlを加え、4℃で10分間放置した。滑らすようにカバーガラスを乗せ、水分を押し出し、その後プレートを湿度100%のインキュベーター(室温)内で1時間反応させ、蛍光顕微鏡で観察した(励起波長 320 nm、検出波長 450 nm)。
【0086】
その結果を図3(b)に示す。この図は、倍率400倍の顕微鏡写真である。この図に示すように、基板上の各マイクロチャンバーにおいて蛍光が観察され、Geotrichum candidum lipase表層発現酵母が各マイクロチャンバー内に存在することが確認できた。
【0087】
〔実施例3〕海洋性微生物におけるマイクロチャンバーアレイ中での蛍光基質を用いた加水分解反応の検出
海底から採取したTerrabacter属の海洋微生物(文献:J. Bacteriol. 179, 53-62, 1997:に記載のTerrabacter属の細菌の16SrRNAと相同性が100%の菌)を市販のmarine broth(Difco, cat no. 279110)10 mLで5日間、25℃で振とう培養後、培養液を8000rpm、4℃、5分で遠心分離し、集菌した。得られた菌体はPBS 10 mLで懸濁後、同条件の遠心分離にて集菌した。菌体の洗浄をもう一度行い、洗浄菌体はPBS 1 mLに懸濁した。濁度をOD600で測定した。4℃に保った状態のマイクロチャンバーアレイ(内径100μm)上に、懸濁酵母 40 μl(OD600=0.6相当)を散布し、4℃で10分間放置した。さらにその液面にそわせるように基質(0.1 mM Fluorescein-diC18/ 1% DMF/ 50 mM リン酸緩衝液(pH7.0))360 μlを加え、4℃で10分間放置した。滑らすようにカバーガラスを乗せ、水分を押し出し、その後プレートを湿度100%のインキュベーター(室温)内で1時間反応させ、市販のマイクロアレイスキャナ(CRBIOTMIIe-FIPC)で検出した(励起波長473nm、検出波長532nm)。
【0088】
その結果を図3(c)に示す。この図に示すように、基板上の各マイクロチャンバーにおいて蛍光が観察され、リパーゼ活性を有するタンパク質を産生する海洋微生物がマイクロチャンバー内に存在することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、短時間でコストのかからないスクリーニングを微量な単位で行うことができる。そのため、ゲノミクスやプロテオミクスにおける数多くの遺伝子やタンパク質の機能解析に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明のスクリーニング装置の一例の構成を示す模式図である。
【図2】(a)は、マイクロチャンバーを有する基板の一例を示す模式図である。(b)、(c)は、(a)に示す基板上に配置されたマイクロチャンバーのパターンを示す模式図である。
【図3】(a)は実施例1の結果を示す模式図であり、(b)は実施例2の結果を示す模式図であり、(c)は実施例3の結果を示す模式図である。
【符号の説明】
【0091】
1 マイクロチャンバーを有する基板
2 電動ステージ
3 CCDカメラ
4 PC
10 スクリーニング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイ状に配置された複数のマイクロチャンバーを有する基板上に、分解することによって蛍光を発する蛍光基質を添加する工程と、
タンパク質あるいは微生物を含む試料を上記基板上に滴下する工程と、
タンパク質あるいは微生物と上記蛍光基質との酵素反応によって発生する蛍光を検出することによって、上記マイクロチャンバー内に存在する酵素活性を有するタンパク質あるいはそのタンパク質を産生する微生物を検出する工程と、
を含むことを特徴とするタンパク質あるいは微生物のスクリーニング方法。
【請求項2】
上記タンパク質は、微生物の細胞膜の表層に発現しているタンパク質であり、
上記の検出する工程では、上記複数のマイクロチャンバーのうち、蛍光を発するマイクロチャンバーを検出することによって、酵素活性を有するタンパク質を細胞膜の表層に発現している微生物を検出することを特徴とする請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
上記マイクロチャンバーの内径は、5〜500μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
上記の検出する工程の後に、
上記タンパク質が含まれているマイクロチャンバー内の内容物を取り出す工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
試料中から酵素活性を有するタンパク質あるいはそのタンパク質を産生している微生物をスクリーニングする装置であって、
アレイ状に配置された複数のマイクロチャンバーを有する基板と、
上記基板上で発生する蛍光を検出する蛍光検出器とを備え、
上記蛍光検出器は、酵素活性を有するタンパク質と蛍光基質との酵素反応によって発生する蛍光を検出することによって、上記マイクロチャンバー内に存在する酵素活性を有するタンパク質あるいはそのタンパク質を産生する微生物を検出することを特徴とするタンパク質あるいは微生物のスクリーニング装置。
【請求項6】
上記タンパク質は、微生物の細胞膜の表層に発現しているタンパク質であり、
上記蛍光検出器は、上記複数のマイクロチャンバーのうち、蛍光を発するマイクロチャンバーを検出することによって、酵素活性を有するタンパク質を細胞膜の表層に発現している微生物を検出することを特徴とする請求項5に記載のスクリーニング装置。
【請求項7】
蛍光を発するマイクロチャンバー内の内容物を取り出すマイクロマニプレーターをさらに備えていることを特徴とする請求項5または6に記載のスクリーニング装置。
【請求項8】
上記マイクロチャンバーの内径は、5〜500μmであることを特徴とする請求項5〜7の何れか1項に記載のスクリーニング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−61023(P2006−61023A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244275(P2004−244275)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【出願人】(591001949)株式会社海洋バイオテクノロジー研究所 (33)
【出願人】(500317224)
【Fターム(参考)】