説明

マイクロニードルを用いる経粘膜的薬物送達のための装置及び方法

【課題】経粘膜的薬物送達の有効性を向上させるための内腔内装置が提供される。
【解決手段】内腔内装置は、ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されるように構成されたハウジング12と、少なくとも1つの薬物を含む、薬物分配投与部分と、前記ハウジングから延在するか又は伸長可能である、複数のマイクロニードル26であって、前記ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置された後の、選択された時間に、前記ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一つの部位を破壊するように構成された、マイクロニードルと、を備え、前記複数のマイクロニードルにより破壊された粘膜障壁部分に前記ハウジングから前記薬物を分配投与するように作動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は植込み可能な医療用装置に関し、より具体的には、患者に薬物を経粘膜的に送達する装置及び方法に関する。
【0002】
経粘膜的薬物送達は、初回通過代謝効果(first-pass metabolism effect)を回避することで高い相対的バイオアベイラビリティを保ちつつ全身作用性薬物を送達できる可能性、治療薬剤を目的の部位に局所的に送達する可能性、及び投与経路の利便性から、関心を集めている分野である。経粘膜的薬物送達が可能な部位として、口腔、鼻腔、膣、及び直腸の投与経路が挙げられる。
【0003】
経粘膜的薬物送達、特に特定のアミノ酸配列を含む巨大分子の経粘膜的送達には、複数の課題がある。粘膜組織により分泌される流体中に存在する酵素は特定のアミノ酸を分解する。粘膜組織が提示する酵素の種類は粘膜組織の位置に応じて変わる。膣液中に存在する酵素としては、ヌクレアーゼ、リゾチーム、エステラーゼ、グアイアコールペルオキシダーゼ、アルドラーゼ、及びβ−グルクロニダーゼが挙げられる。更に、アミノペプチダーゼ、β−グルクロニダーゼ、ホスファターゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、エステラーゼ、及び5型ホスホジエステラーゼが、膣粘膜表面に並ぶ頂端細胞層に結合する。これらの酵素の存在、特にアミノペプチダーゼの存在が、膣に適用されるタンパク質薬物及びペプチド薬物のバイオアベイラビリティ低下の一因である。
【0004】
その他の粘膜組織にも特定の薬物を分解し得る別の酵素が存在する。例えば、胃腸管には、混合機能オキシダーゼ系、アルコールデヒドロゲナーゼ、モノアミンオキシダーゼ、レダクターゼ、p−ニトロアニソールデメチラーゼ、エトキシクルナリン−o−デエチラーゼ、エポキシド加水分解酵素、UDP−グルクロン酸トランスフェラーゼ、スルホキナーゼ、グルタチオン−Sトランスフェラーゼ、グリシントランスフェラーゼ、アセチルトランスフェラーゼ、及びカレコール−O−メチルトランスフェラーゼが存在する。これらの酵素は、そのような粘膜組織に使用されるタンパク質薬物及びペプチド薬物のバイオアベイラビリティを低下させる。
【0005】
更に、ほとんどの粘膜組織は粘性の水性液体を連続的に排出している。この粘稠液も経粘膜的薬物送達にとって問題となる。第一に、粘稠液は、異物を捕捉してその進入速度を低下させるので、内在する酵素的機構及びその他の防御機構にその異物を分解及び/又は死滅させる時間を与える。第二に、粘稠液流体は組織から排出されると粘膜組織の表面を連続的に浄化及び洗浄する。したがって、従来の適用値術を用いた場合、かなりの量の薬物が無駄になり得る。
【0006】
膣における薬物送達では、膣粘膜は、水性障壁と粘膜障壁との、連続する2つの障壁とみなすことができる。粘膜裏層は、グリコーゲン化及び非ケラチン化された重層扁平上皮である。ヒトの膣上皮は、成熟度及び位置に応じて、約25層の細胞層からなる。多くのその他の重層上皮同様、ヒトの膣上皮は、最も上側の細胞層に密着結合(TJ)系を含む。これらのTJは、頂端細胞表面ドメインを基底外側の細胞表面ドメインから分離し、水溶性分子種を経粘膜的送達するに際して主な障壁となる。薬物の局所的投与を妨げるのは、膣のみならず身体の全粘膜中に存在する、これらの上皮及びTJである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,308,867号
【特許文献2】米国特許第4,402,695号
【特許文献3】米国特許第4,308,867号
【特許文献4】米国特許第5,002,540号
【特許文献5】米国特許第5,112,614号
【特許文献6】米国特許第5,928,195号
【特許文献7】米国特許第6,183,434号
【特許文献8】米国特許第6,322,532号
【特許文献9】米国特許第6,532,386号
【特許文献10】米国特許第6,591,133号
【特許文献11】米国特許第6,756,053号
【特許文献12】米国特許第6,835,392号
【特許文献13】米国特許第6,978,172号
【特許文献14】米国特許第7,004,171号
【特許文献15】米国特許第7,486,989号
【特許文献16】米国特許第7,497,855号
【特許文献17】米国特許出願公開第2004/0219192号
【特許文献18】米国特許出願公開第2005/0244502号
【特許文献19】米国特許出願公開第2005/0267440号
【特許文献20】米国特許出願公開第2008/0262412号
【非特許文献1】HASHIMOTO, et al. (2008) "Oxidative stress induces gastric epithelial permeability through claudin-3." Biochemical and Biophysical Research Communications
【非特許文献2】SETH, et al. (2008) "Probiotics ameliorate the hydrogen peroxide-induced epithelial barrier disruption by a PKC- and MAP kinase-dependent mechanism." Am J Physiol Gastrontest Liver Physiol.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
経粘膜的薬物送達の有効性を向上させる装置及び方法を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、経粘膜的薬物送達のためのデバイスおよび方法を提供する。ある実施形態では、経粘膜的薬物送達のための内腔内装置が提供される。この装置は、ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されるように構成されたハウジングと、少なくとも1つの薬物を含む、薬物分配投与部分と、前記ハウジングから延在するか又は伸長可能である、複数のマイクロニードルであって、前記ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置された後の、選択された時間に、前記ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一つの部位を破壊するように構成された、マイクロニードルと、を備え、前記複数のマイクロニードルにより破壊された粘膜障壁部分に前記ハウジングから前記薬物を分配投与するように作動する。ある実施形態では、前記ハウジングは膣内に配置されるように構成される。
【0010】
別の態様では、前記装置は、前記ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置された時に送信装置から動力または制御シグナルを受け取る受信機を更に含む。当該装置は無線により動力供給されてもよく、無線により制御/運転されてもよく、これらの両方がなされてもよい。
【0011】
別の種々の実施形態では、前記装置の薬物分配投与部分は、ハウジングから薬物を能動的に分配投与するための容積式要素を備える。
【0012】
ある実施形態では、前記装置は更に、選択された時間に前記複数のマイクロニードルを第一の位置から第二の位置に動かすように構成されたアクチュエータを備える。第二の位置では、前記複数のマイクロニードルが、選択された時間に、粘膜障壁を穿刺(penetrate)する。
【0013】
またある実施形態では、経粘膜的薬物送達のための膣内装置が提供される。当該装置は、ヒトである患者又は動物である患畜の膣中に配置されるように構成されたハウジングと、前記ハウジングから延在するか又は伸長可能である、複数のマイクロニードルであって、前記ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置された後の、選択された時間に、前記ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一つの部位を穿刺するように構成された、マイクロニードルと、少なくとも1つの薬物を格納する薬物貯留槽と、前記ハウジングから前記少なくとも1つの薬物を、前記マイクロニードルによって破壊された粘膜組織部位上に、又は前記マイクロニードルを通じて粘膜組織内に、分配投与する容積式要素と、を備えた薬物ディスペンサーと、を備える。
特定の実施形態では、前記装置は更に、(i)容積式要素の作動を制御するように構成された制御装置、および/または、(ii)第一の位置から、前記複数のマイクロニードルが選択された時間に粘膜障壁を穿刺する第二の位置に、前記複数のマイクロニードルを動かすように構成されたアクチュエータ、を備え得る。別の実施形態では、装置は更に、選択された時間にマイクロニードルを露出するように構成された、溶解可能なコーティングまたは可動性のカバーを備える。
【発明の効果】
【0014】
本明細書に記載される本発明のある実施形態によれば、経粘膜的薬物送達の有効性を向上させ得る装置及び方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】組織内腔中における経粘膜的薬物送達装置の設置を示す断面図である。
【図2】内腔における粘膜組織中に図1の装置のマイクロニードルが穿刺している様子を示す断面図である。
【図3】内腔中の溶解可能なコーティングを有する経粘膜的薬物送達装置の設置を示す断面図である。
【図4】溶解可能なコーティングが溶解した後に図3の装置のマイクロニードルが粘膜組織中に穿刺している様子を示す断面図である。
【図5】マイクロニードルが粘膜組織を穿刺した後の、図3の装置から粘膜組織中への薬物送達を示す断面図である。
【図6】マイクロニードルを通して薬物を分配投与するためのガス体積に基づく容積式機構を有する薬物送達装置を示す断面図である。
【図7】ガス体積に基づく容積式機構により薬物を分配投与している図6の装置を示す断面図である。
【図8】マイクロニードルを通して薬物を分配投与するための構成要素拡張機構を有する薬物送達装置を示す断面図である。
【図9】内部構成要素の拡張により薬物を分配投与している図8の装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
内腔内に配置される経粘膜的薬物送達装置を提供する。本明細書において「内腔内」という用語は、粘膜組織壁を有する体腔、通路、管等の中への設置を意味する。この用語の範囲には、膣内、子宮内、及び胃腸管内の部位が包含されるが、これらに限定されるものではない。内腔内の装置の配置又は設置は通常、少なくとも一回又は複数回分の用量の薬物を送達している間維持される。配置された装置は、例えば、各用量の送達と送達との間や、数回投与分の薬物が送達された後や、複数回投与分の薬物による一連の処置が完了した後などに、所望があれば内腔から回収され得る。この装置は、充填された薬物が使い果たされるまで配置され得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、経粘膜的薬物送達装置は、(i)内腔内における配置を可能にするように構成されたハウジング、(ii)薬物を格納するための一つまたは複数の貯留槽、および(iii)前記ハウジングから延在するか又は伸長可能である複数のマイクロニードル、を備える。薬物送達装置はまた、装置からの薬物の放出もしくは送達および/または粘膜組織中へのマイクロニードルの移動もしくは穿刺を制御するための内蔵制御モジュールを備えてもよい。
【0018】
別の態様では、経粘膜的薬物送達の方法が提供される。当該方法は、患者(対象であるヒト若しくは動物)の内腔内に薬物送達装置を設置又は配置する工程を含む。内腔は、例えば、膣、子宮頸、子宮、又は直腸等の胃腸管部分であり得る。
【0019】
薬物送達装置を内腔中に設置した後、薬物送達装置のマイクロニードルは内腔の粘膜側壁を穿刺し得る。その後、薬物送達装置は、粘膜組織内またはマイクロニードルにより破壊された粘膜組織部位に、マイクロニードルを通じて薬物を分配投与し得る。このマイクロニードルによる穿刺により、薬物の輸送速度及び/又は分解されずに粘膜障壁を通過することができる薬物の量を増加することができ、それにより薬物の経粘膜的投与の有効性を向上させ得る。
【0020】
いくつかの実施形態では、装置が内腔中に配置されている間に、マイクロニードルが選択された時間に作動されて粘膜組織壁を穿刺する。例えば、図1に示すように、一つまたは複数の薬物を含む薬物貯留槽30を備えたハウジング12を有する経粘膜的薬物送達装置10が提供され得る。ハウジング12は、粘膜組織14を有する内腔16内に設置されるように構成され得る。ハウジング12はまた、複数のマイクロニードル26が取り付けられたマイクロニードル運搬体24、及び、マイクロニードル運搬体24とマイクロニードル26とを第一の位置(図1に示す)と第二の位置(図2に示す)との間で動かすアクチュエータ28を備え得る。ハウジング12はまた、アクチュエータ28の制御および/または薬物貯留槽30からの薬物放出の制御のための制御モジュール18を備え得る。
【0021】
制御モジュール18は、バッテリ等の動力源20および制御装置22を備える。制御装置22は、アクチュエータ28を制御することでマイクロニードル運搬体24およびマイクロニードル26の動きを制御するように構成され得、一つまたは複数の薬物を送達するタイミングおよび順序を制御し得る。以下に詳細に記載するように、容積式プロセスまたはその他のプロセスによりハウジングから薬物を分配投与するために、種々の機構が用いられ得る。
【0022】
図2に示すように、制御モジュール18でアクチュエータ28を作動させることで、ハウジングから装置周辺の粘膜組織14中へとマイクロニードル26が伸長され得る。マイクロニードル26が粘膜組織14を穿刺した後、制御モジュール18が薬物貯留槽30からの薬物の放出を開始させてもよく、マイクロニードル26を介して薬物を粘膜組織経由で拡散させてもよく、容積式プロセスにより装置から薬物を分配投与してもよい。
【0023】
いくつかの実施形態では、静止状態のマイクロニードル(static microneedles)を、溶解可能なカバー又は可動性のカバーと組み合わせて用いて、選択された時間に粘膜組織を穿刺できるようにしてよい。例えば、図3に示すように、薬物送達装置31が提供され得る。この薬物送達装置31は、薬物貯留槽46と、ハウジング33に取り付けられてハウジング33から外へ延在する複数の静止状態マイクロニードル34と、ハウジング33の一部を被覆し且つ静止マイクロニードル34を少なくとも部分的に覆う可動性カバーまたは溶解可能なコーティング32と、を備える。ハウジング33はまた、ピストン36、ピストンを動かすためのアクチュエータ38、およびアクチュエータ38を制御するための制御モジュール40を備え得る。
【0024】
図1の実施形態同様、図3〜9の実施形態の制御モジュール40も、バッテリ等の動力源44および制御装置42を備える。図3〜5の実施形態では、制御装置42は、アクチュエータ38を制御することで薬物送達のタイミングを制御するように構成され得る。以下に詳細に記載するように、容積式プロセスまたはその他のプロセスによりハウジングから薬物を分配投与するために、種々のその他の機構が用いられ得る。
【0025】
図4に示すように、静止マイクロニードル34は、溶解可能なコーディング32が溶解した後に粘膜組織14を穿刺し得る。図5に示すように、静止マイクロニードル34が粘膜組織14を穿刺した後、制御モジュール40がアクチュエータ38を作動させて、薬物貯留槽46中でピストン36を前進させ、薬物貯留槽46から薬物を、マイクロニードル34を通して、粘膜組織14中に分配投与し得る。
【0026】
いくつかの実施形態では、膨張可能な構成要素が膨張した時に薬物が分配投与されるよう、膨張可能な構成要素をハウジング内に設けてもよい。例えば、図6及び図7に示すように、容積式プロセスを介して薬物貯留槽46中に格納されている薬物の分配投与を開始させるために、ポンプ式容器50の中に、またはそれに隣接して、内部ガス容積式ポンプを設けてよい。ある実施形態では、ポンプは、ポンプ式容器50の内側で水または水溶液に接触している陰極54と陽極56とを含み得る。粘膜組織14からの水性分泌物がチャネル52を満たして陰極54と陽極56に接触できるように、ハウジング中にチャネル52を設けてもよい。別の実施形態では、内腔16の内部空間と流体で繋がったチャネル52を省いてもよく、電解質を装置に搭載してもよい。例えば、ポンプ式容器50は、塩化ナトリウム等のイオン溶液を含み得る。あるいは、ポンプ式容器50は脱イオン水を含んでもよく、チャネル52の代わりに固体電解質を設けて、チャネル52に面する陰極54および陽極56の表面に固体電解質が接触するようにしてもよい。制御装置42は、陰極54および陽極56に電位を印加することによって薬物送達のタイミングおよび順序を制御するように構成され得る。陰極54および陽極56を用いてポンプ式容器50内部でガスを生成する機構は以下に詳細に記載する。
【0027】
別の実施形態では、膨張可能な構成要素は、膨潤可能材料または膨張可能容器を含み得る。例えば、図8及び図9に示すように、膨潤可能材料または膨張可能容器60をハウジング中に設けてよい。バルブ64を作動させることで、ポート66を介してハウジング中に水を進入させてよい。特定の実施形態では、膨張構成要素は膨潤可能なマトリックスまたはゲルであり得る。別の実施形態では、膨張可能容器は、熱または電磁場が加えられた時に固体または液体からガスへと相変化し得る相転移可能な材料を含み得る。制御装置42は、熱源または電磁場を作動させることによって薬物送達のタイミングおよび順序を制御するように構成され得る。後述するように、容積式プロセスを介してハウジングから薬物を分配投与するために、種々のその他のアクチュエータ機構が用いられ得る。
【0028】
ハウジングは通常、粘膜内腔内に薬物送達装置が配置し易くなるように構成される。いくつかの実施形態では、装置は、身体外部の開口部を介して内腔中に挿入することで内腔内に設置され得る。したがって、いくつかの実施形態では、ハウジングは、身体外部の開口部を介して意図する内腔内に装置を挿入及び設置(すなわち配置)することができるような形状及び寸法をしている。具体的には、ハウジングは、膣、子宮頸、子宮、又は直腸に挿入及び設置するための形状及び寸法であってよい。装置ハウジングの構造材料、サイズ、形状、及び表面特性、及びその他の特性は、装置が粘膜内腔中に設置され、装置作動中、装置が内腔中にしっかりと保持され、通常、装置の作動後又はそれ以外の取り出しが望まれる時点で装置が内腔から回収されるように構成される。装置の構成は、患者の不快感を最小限に抑えて設置されるように、特定の内腔部位及びヒト又は動物の解剖学的考察に基づいてなる。
【0029】
ハウジングは、一つまたは複数の薬物を分配投与するためのディスペンサーと、薬物の放出および送達を制御するための制御モジュールとを備え得る。ディスペンサーは、一つまたは複数の薬物を格納するための内部に配置された一つまたは複数の貯留槽および一つまたは複数の薬物を分配投与するためのマイクロニードルを備え得る。マイクロニードルは、ハウジングから延びているか、伸長可能であり得る。ハウジングはまた、第一の位置から第二の位置にマイクロニードルを動かすためのアクチュエータを備えてよい。このアクチュエータも制御モジュールにより制御され得る。
【0030】
ハウジングは任意の生体適合性材料から形成され得る。更に、ハウジング材料は、内腔環境中における分解に対して抵抗性を有してよい。好適な材料の例としては、ステンレス鋼、チタン、及び特定のポリマーが挙げられる。ハウジングを形成する材料は、装置の生体適合性及び/又は作用を高めるためのコーティングを有してもよい。
【0031】
前記装置は、装置が内腔中に配置された後に、選択された時間に粘膜組織を穿刺するための、複数のマイクロニードルを備える。本明細書において、「マイクロニードル」という用語は、マイクロニードル、マイクロブレード、および当該技術分野で公知のその他の微小突起を意味する。マイクロニードルは中実または中空であり得る。マイクロニードルは、当該技術分野で公知のように、マイクロニードルの中または周辺における流体の流れを容易にするために、一つまたは複数の軸方向の穴またはチャネル、および/または一つまたは複数の溝、および/または一つまたは複数の横方向の開口部を有し得る。マイクロニードルはストレートシャフトまたはテーパーシャフトを有してよく、非テーパー基部とテーパー末端部との両方を有してもよい。マイクロニードルは横断面が円形または非円形のシャフトを有するよう形成し得る。マイクロニードルは、基部が四角または三角のピラミッド形状であってもよい。マイクロニードルの先端部は種々の形態をとり得る。マイクロニードルの先端は、シャフト長軸に関して対称であってもよく、非対称であってもよい。先端は、斜角をつけてもよく、テーパー状にしてもよく、四角にしてもよく、丸くしてもよい。種々の実施形態において、マイクロニードルの長さは約10〜約1500μm、例えば約50〜約1400μm、約150〜約1300μm、約300〜約1300μm、約300〜約1000μm、または約300〜約800μmであり得る。種々の実施形態において、マイクロニードルの基部は、最大の幅または横断面寸法が約10〜約500μm、約50〜約400μm、または約100〜約250μmである。中空のマイクロニードルの場合、最大の外径または幅が約50〜約400μm、開口部の直径が約5〜約100μmであり得る。マイクロニードルは、アスペクト比(幅:長さ)が約1:1〜約1:10となるように製造され得る。その他の長さ、幅、およびアスペクト比も想定される。マイクロニードルの製造は、生体適合性の金属およびポリマーを含む当該技術分野で公知の方法および材料を用いて成され得るが、これらに限定されるものではない。
【0032】
装置が内腔中に配置された後にマイクロニードルが粘膜組織を穿刺する時間を指して使用される際の「選択された時間に」という用語は、装置が内腔内にある期間配置された後に、複数のマイクロニードルが粘膜組織を穿刺することを意味する。この特徴により、マイクロニードルが粘膜組織を穿刺して装置の位置調整が阻まれる前に、装置を内腔内の所望の向きまたは位置に設置することができる。例えば装置は、内腔中の特定の位置に、内腔に関して特定の向きで設置され得、マイクロニードルで粘膜組織を穿刺する前に、粘膜組織が所望の位置および向きに装置を摩擦係合して維持するための時間が得られる。
【0033】
粘膜組織穿刺のタイミングを制御するために種々の機構が用いられ得る。いくつかの実施形態では、可動性マイクロニードルを作動させてハウジングから粘膜組織中に伸長させてもよい。別の実施形態では、静止マイクロニードルを、溶解可能なコーティングまたは可動性カバーと組み合わせて用いてもよい。溶解可能なコーティングまたは可動性カバーは、装置が内腔中に配置された後で、選択された時間にマイクロニードルを粘膜組織に露出し得る。
【0034】
図1および図2に示すように、マイクロニードル運搬体24上に複数の可動性マイクロニードル26を設けて、この複数のマイクロニードル26が一緒に動けるようにしてもよい。アクチュエータ28はリニアアクチュエータであってもよく、第一の位置(図1)から第二の位置(図2)へのマイクロニードル26およびマイクロニードル運搬体24の移動を作動させ得、第2の位置でマイクロニードル26は粘膜組織14を穿刺する。図1に示すように、マイクロニードル26は、装置10が内腔16中に最初に配置される時、ハウジング12内に完全に格納されていてもよい。アクチュエータ28は、第二の位置(図2)から第一の位置(図1)へのマイクロニードル26およびマイクロニードル運搬体24の移動も作動させ得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、マイクロニードル26が粘膜組織14を穿刺し、ハウジング33中に引き戻されて、その後に粘膜組織14が破壊された状態で残る。装置はその後、ハウジング10の孔(例えば、可動性マイクロニードル26が第一の位置と第二の位置の間を動く時に、その中を通って伸びる、ハウジング10中の孔)を介して、ニードルにより破壊された粘膜組織上に薬物を分配投与し得る。上記破壊により経粘膜的な薬物送達が容易になり得る。
【0036】
図3および図4に示すように、装置31のハウジング33の表面から複数の静止マイクロニードル34が延在してよい。静止マイクロニードル34は、溶解可能なコーティング32により少なくとも一部が被覆されていてよい。図2に示すように、マイクロニードル34は、溶解可能なコーティング32が溶解すると、粘膜組織14を穿刺し得る。溶解可能なコーティングは、糖、または、内腔16中で溶解するその他の水溶性材料を含んでよい。マイクロニードル34が粘膜組織14を穿刺する前に装置が内腔16中に配置される時間の長さを制御するために、コーティング32の材料および厚さは変わり得る。同様な効果を得るには、可動性カバーを用いて選択された時間にマイクロニードルを露出させてもよい。ハウジングは、選択された時間にマイクロニードル34の覆いをとるように動くか粘膜組織14とマイクロニードル34が接触できるように動く構成要素を備えてよい。例えばこの可動性構成要素は、静止マイクロニードル32およびハウジング33の基部に向かって放射状に内側に動いて、溶解可能なコーティングの溶解と同様な役目を果たし得る。可動性カバーの移動を作動させるためにアクチュエータを用いてもよい。
【0037】
内腔からの装置の取り出しを容易にするために、マイクロニードルを粘膜組織から引っ込めてもよい。例えば、可動性のマイクロニードルが装置のハウジング中に引っ込むように作動させてもよい。あるいは、マイクロニードルは、一定時間経過後に粘膜組織または内腔中でマイクロニードルが溶解、分解、または浸食されるよう、可溶性、生分解性、または生体内分解性であってもよい。マイクロニードルは受動的に溶解されてもよく、能動的に溶解してもよい。例えば、マイクロニードルは、金属に電圧が印加されて金属がイオン種に接触したときに可溶性塩を形成する金属を含んでよい。この例では、薬物が分配投与された後にマイクロニードルに電圧を印加することでマイクロニードルは能動的に溶解され得る。
【0038】
マイクロニードルは種々の形状および構造で形成され得る。マイクロニードルのそれぞれは、管またはチャネルを介して薬物貯留槽から粘膜組織中に薬物が自由に流れることができるように薬物貯留槽に流体で繋がった当該管またはチャネルを有し得る。あるいは、マイクロニードルが多孔性材料を含み、薬物はマイクロニードルの細孔を通って粘膜組織中に送達されてもよい。別の実施形態では、非多孔性非チャネル型マイクロニードル(例えばマイクロニードルピン)を用いて粘膜組織に破壊を生じさせてもよい。マイクロニードルは、円筒形、ピラミッド形、円錐形を含む種々の形状で形成され得るが、これらに限定されるものではない。マイクロニードルの先端は、粘膜組織の穿刺を容易にするために斜角等の特徴を有し得る。ハウジングから伸長されるか露出された時、マイクロニードルはハウジングの外側表面から長さ約10〜約1000μm、より好ましくは約150〜約450μm延びていてよい。
【0039】
マイクロニードルは種々の材料から形成され得る。例えば、マイクロニードルは、ステンレス鋼、アルミニウム/アルミニウム合金、ニッケル/ニッケル合金、またはチタン/チタン合金等の金属/合金で形成され得る。また、マイクロニードルは生分解性ポリマー等の種々のポリマー性材料で形成されてよい。金属およびポリマーの微細構造(マイクロニードル等)を作製するための種々の方法が公知であり、その例としてはマイクロ成形およびエッチングプロセスが挙げられる。
【0040】
薬物送達装置から薬物を能動的に容積式(positive displacement)で分配投与するための薬物ディスペンサーを設け得る。薬物は、装置の貯留槽中に貯蔵され、選択された時間に、内腔又は粘膜組織中に分配投与され得る。薬物ディスペンサーは、マイクロニードルによって破壊された粘膜障壁領域に、または、マイクロニードルを通じて粘膜障壁内に、薬物がハウジングから分配投与されるように配置され得る。
【0041】
いくつかの実施形態においては、薬物は受動的拡散によってハウジングから放出され得る。他の実施形態においては、薬物ディスペンサーには、装置から薬物を分配投与するための種々の容積式要素を用い得る。そのような要素としては、機械的な容積式要素(mechanical displacement)、浸透圧膨潤に基づく容積式要素(osmotic swelling displacement)、ガス体積に基づく容積式要素(gas−volume displacement)、静電誘導圧縮に基づく容積式要素、圧電駆動に基づく容積式要素、又は熱/磁気誘導相転移に基づく容積式要素が挙げられる。容積式要素は、静圧ヘッドと組み合わせた作動可能な分配投与バルブを含み得る。本明細書において、「容積式(positive displacement)」という用語は通常、薬物送達装置内から加えられる力の下で薬物送達装置から薬物を分配投与する任意のプロセスを意味する。したがって、装置からの薬物の受動的な化学的拡散は、この用語に包含されない。
【0042】
いくつかの実施形態では、薬物はハウジング内の貯留槽内に貯蔵され、ピストンやバネ等の機械的な容積式要素により、複数のマイクロニードルを介して、ハウジングから能動的に分配投与される。例えば、図4及び図5の実施形態では、内蔵制御モジュール40は、アクチュエータ38に電気的又は機械的動力を選択的に送信し、アクチュエータ38のピストン36を薬物貯留槽46中で前進させ、マイクロニードル34を介して薬物を分配投与し得る。アクチュエータ38は線形アクチュエータであり得る。
【0043】
いくつかの実施形態では、薬物は、ガス体積に基づく容積式要素により分配投与される。例えば、装置は、図6及び図7に示すように、水又は水溶液を含むポンプ式容器50を備えてよい。酸素や水素等のガスを生成するために、ポンプ式容器50内に電極対(陰極54及び陽極56)を設けてもよい。内腔16内からの水がポンプ式容器50内の水又は水溶液とプロトン及び電子を交換することができるように、電極間にチャネル52を設ける。別の実施形態では、内腔の内部空間に流体で繋がっているチャネル52を省いてもよく、装置に電解質を搭載してもよい。例えば、ポンプ式容器50は、塩化ナトリウム等のイオン溶液を含み得る。あるいは、ポンプ式容器50は脱イオン水を含んでもよく、チャネル52の代わりに固体電解質を設け、チャネル52に面する陰極54及び陽極56の表面に固体電解質が接触するようにしてもよい。
【0044】
約1.0V以上の電位を電極に印加することで陽極にOが生成され得る。陽極の反応は下記式1で表される。水中では、負に帯電した陰極で還元反応が起こり、陰極から電子が水素陽イオンに付与され、下記式2に示すように水素ガスが形成される。発生した酸素及び水素により生じる圧力が、ピストン58を薬物貯留槽46中に前進させ、それにより、マイクロニードル34を通して薬物が粘膜組織14中に分配投与される。酸素及び水素の発生は、装置のハウジング中に搭載された内蔵制御モジュール40により制御され得る。制御モジュール40は、バッテリ等の動力源44と、選択された時間に陰極54及び陽極56に電位を印加するようにプログラムされた制御装置42とを含み得る。
2H(l)→O2(g)+4H(aq)+4e 式1
2H(aq)+2e→H2(g) 式2
【0045】
他の容積式要素については、図8及び図9を参照することにより、より深く理解されよう。これらの例では、薬物貯留槽46に格納されている薬物は、構成要素60の拡張により分配投与される。構成要素60は、例えば膨潤可能材料(例えば膨潤可能なゲル)又は拡張可能な貯留槽であり得る。いくつかの実施形態では、薬物は、浸透圧膨潤に基づく容積式要素により分配投与される。必要に応じて、貯留槽又は膨潤可能材料中へのポート66または半透膜を通じての水の進入を選択的に制御するために、バルブ64を設けてもよい。内腔16から貯留槽又は膨潤可能材料中に水が引き込まれ、貯留槽又は膨潤可能材料の容積が膨張し得る。貯留槽又は膨潤可能材料の膨張により、ハウジング内に含まれる薬物がある体積量移動して、薬物が装置から粘膜組織14中へと分配投与され得る。バルブ64の作動は内蔵制御モジュール40により制御され得る。
【0046】
別の実施形態では、薬物は、誘導された相転移によって生じる膨張力により分配投与され得る。例えば、構成要素60は、相転移可能材料を含む膨張可能な容器を含み得る。相転移可能材料は、加熱された時又は電磁場に曝された時に固体又は液体からガスへと相転移する任意の液体又は固体であり得る。材料がガスに相転移すると、材料が膨張して薬物貯留槽46中を進み、装置から薬物が分配投与される。相転移の開始は、搭載された制御モジュール50により制御され得る。
【0047】
別の実施形態では、薬物は、静電誘導圧縮により、又は圧電アクチュエータを用いて、ハウジングから容積式で分配投与され得る。例えば、アクチュエータへの電圧又は電流の変化によりアクチュエータが薬物貯留槽中の薬物に圧縮力を及ぼすように、誘電エラストマーアクチュエータ又は圧電アクチュエータが配置され得る。この圧縮力により装置から薬物が分配投与され得る。アクチュエータの作動は、搭載された制御モジュールにより制御され得る。
【0048】
別の実施形態では、薬物は、静圧ヘッド及び作動可能なバルブにより容積式で投与され得る。バルブは、例えば振幅で投与を調節するアナログモードで運転されてもよく、振動数/デュティサイクル(duty-cycle)で投与を調節するデジタルモードで運転されてもよい。静圧ヘッドの圧力は、圧力下で薬物を装置に充填することで得てもよく、薬物を装置に充填した後に装置を加圧してもよい。
【0049】
種々の実施形態で、装置は、例えば患者又は患畜中に配置された後に無線運転できるように構成され得る。そのような場合、装置は、当該技術分野で公知のように適切な遠隔測定要素を含む。例えば、マイクロニードルの配置及び/又は薬物分配投与の作動開始は、例えば患者又は患畜の外から、遠隔制御装置でなされ得る。一般的に、遠隔測定(すなわち送受信)は、一致/対応する第2のコイルに誘導的に電磁エネルギーを結合する第1のコイルを用いてなされる。このための手段は十分に確立されており、振幅又は周波数の変調等の種々の変調スキームを用いて搬送周波数上でデータが送信される。搬送周波数及び変調スキームの選択は、他の因子の中でもとりわけ、装置の位置及び必要な帯域幅に応じて変わる。当該技術分野で公知のその他のデータ遠隔測定システムを用いてもよい。別の場合には、装置は、遠隔的に動力供給又は充電されるように構成される。例えば、装置は、無線で装置に送信されたエネルギーを受信するためのトランスデューサ、受信した動力を使用又は貯蔵可能な形態に向ける又は変換するための回路、及び、動力を貯蔵する場合に用いられる、充電式のバッテリ又はコンデンサ等の貯蔵装置を備えてよい。更に別の場合には、装置は無線で動力供給され且つ無線で制御される。
【0050】
種々の薬物が薬物送達装置から投与され得る。薬物はタンパク質又はペプチドであり得る。例えば、いくつかの実施形態では、ホルモン又はステロイドを送達するのに薬物送達装置を用いてもよく、当該ホルモン又はステロイドの例としては、卵胞刺激ホルモン、副甲状腺ホルモン、黄体ホルモン、生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)、エストラジオール、プロゲステロン、メラトニン、セロトニン、チロキシン、トリヨードチロニン、エピネフリン、ノルエピネフリン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
いくつかの実施形態では、薬物送達装置は、細胞連絡に用いられるサイトカインシグナル伝達分子又は免疫抑制薬の投与に用いてもよく、これらの分子としては一般的にタンパク質、ペプチド、又は糖タンパク質が挙げられる。
【0052】
いくつかの実施形態では、薬物送達装置を疼痛管理用の薬物投与に用いてもよく、そのような薬物としては、コルチコステロイド類、オピオイド類、抗うつ薬、抗痙攣薬、非ステロイド性抗炎症薬、COX2阻害剤、三環系抗うつ薬(例えばアミトリプチリン)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
いくつかの実施形態では、薬物送達装置を心血管系薬物の投与に用いてもよい。この装置を用いて投与され得る心血管系薬物の例としては、A型またはB型のナトリウム利尿ペプチド、心房性ナトリウム利尿因子、心房性ナトリウム利尿ホルモン、アトリオペプチン、抗不整脈薬、ACE阻害剤、アンギオテンシンII受容体拮抗薬、及びカルシウムチャネル遮断薬等が挙げられる。
【0054】
マイクロニードルの作動及び/又は粘膜組織中への薬物の送達を制御するための制御モジュールが設けられる。制御モジュールは薬物送達装置のハウジング中に搭載され得る。制御モジュールは動力源及び制御装置を備え得る。動力源は、バッテリ又は燃料電池等の任意の機械的又は電気的動力源であり得る。制御装置は、薬物送達及び/又はマイクロニードル作動が所定のスケジュールに従って行われるようにプログラム可能であるか予めプログラムされていてよい。
【0055】
いくつかの実施形態では、制御モジュールは、装置周辺又は内腔内の環境を分析するための一つ又は複数のセンサーを更に備えてもよい。例えば、内腔中にホルモン又は他の物質が存在するかどうかを検出するセンサーが用いられ得る。
【0056】
いくつかの実施形態では、制御モジュールは更に、別個の分離された送信装置から無線制御シグナルを受信するための無線受信機を備えてもよい。特定の実施形態では、装置は、患者又は医師により内腔中に配置され得、その後、設置された装置に制御シグナルを送信する送信装置を用いて、患者又は医師により薬物の放出が開始され得る。更に、いくつかの実施形態では、制御モジュールの受信機及び送信装置の両方が、制御シグナル及びその他の通信を互いに送受信できるトランシーバであり得る。したがって、特定の実施形態では、制御モジュールトランシーバは、既に投与された用量、投与スケジュール、貯留槽に残っている薬物の量、バッテリの残り充電量のデータを初めとする、装置の運転に関するデータ、及び、内蔵センサーにより検出又は測定されたデータ等の、内腔環境に関するデータを送信し得る。いくつかの実施形態では、制御モジュールは無線により動力供給されてもよい。
【0057】
内腔内装置を用いた経粘膜的薬物送達方法を提供する。この方法は、薬物送達装置を患者の内腔内に設置する工程を含む。患者はヒト又はその他の哺乳動物であり得る。当該方法は、種々の医学的及び獣医学的な治療並びに家畜学における用途を含む。内腔は、例えば、膣、子宮頸、子宮、膀胱、又は直腸であり得る。装置は、基本的に任意の粘膜組織表面との接触に適合させてよい。装置は、患者の外部開口部を通して内腔中に装置挿入することで内腔中に設置され得る。いくつかの実施形態では、装置は、胃腸管の粘膜組織を介した薬物送達のための経口投与され得る形態であり得る。
【0058】
薬物送達装置を内腔中に設置した後、薬物送達装置のマイクロニードルが粘膜側壁を穿刺し得る。いくつかの実施形態では、マイクロニードルは、内蔵制御モジュールにより選択された時間に粘膜側壁を穿刺するように作動され得る。薬物送達装置はその後、マイクロニードルで破壊された粘膜組織部位に、またはマイクロニードルを通して粘膜組織中に、薬物を分配投与し得る。装置からの薬物の放出も、マイクロニードルが粘膜組織を穿刺した後で、選択された別の時間に制御モジュールにより作動され得る。
【0059】
図1に示すように、経粘膜的薬物送達装置10は内腔16中に設置され得る。薬物送達装置10は、粘膜組織14とハウジング12の間の摩擦接触によりその場に維持され得る。図2に示すように、その後、マイクロニードル26は、アクチュエータ28の作動を介して、ハウジング12から粘膜組織14中に伸長するように作動され得る。アクチュエータ28の作動も制御モジュール18により制御され得る。
【0060】
あるいは、図3および図4に示すように、薬物送達装置は内腔16中に設置され得、溶解可能なコーティング32を溶解させることで、複数の静止マイクロニードル34に粘膜組織14を穿刺させてもよい。同様に、可動性カバーを設けて、選択された時間にマイクロニードルを露出させてもよい。可動性カバーは搭載された制御モジュールにより作動され得る。
【0061】
マイクロニードルが粘膜組織14を穿刺した後、制御モジュール40により薬物送達が開始され得る。図4および図5の例では、制御モジュール40はアクチュエータ38に電気エネルギーまたは機械的エネルギーを供給し得る。図6および7の例では、制御モジュールは、陰極54および陽極56に電位を印加し得る。図7に示すように、ポンプ式容器50中でガスが生成されることで、ピストン58が薬物貯留槽46中を前進し、薬物がマイクロニードル34を通して分配投与される。その後、装置は内腔から取り出してよい。取り出しやすいように、マイクロニードルは(静止マイクロニードルの場合)生分解性であってもよく、伸長可能なマイクロニードルがハウジング中に引っ込むように作動されてもよい。
【0062】
図8及び図9を参照すると、膨潤可能材料又は拡張可能な貯留槽が用いられる実施形態では、バルブ64を作動させ、膨潤可能材料又は膨張可能容器60に水を進入させ得る。あるいは、制御モジュール40を用いて、膨張可能容器60中の材料の相変化誘導を開始させてもよい。例えば、制御モジュール40により、相変化材料を加熱する加熱要素を作動させてもよく、電磁場を生成する回路を作動させてもよい。図9に示すように、膨潤可能材料又は膨張可能容器60の拡張により、薬物がマイクロニードル34から粘膜組織14中に押し出される。
【0063】
薬物を送達するための装置及び方法は、種々の治療的用途に使用され得る。いくつかの実施形態では、薬物送達装置は女性患者(雌患畜)の不妊症治療に用いられ得る。例えば、薬物送達装置は女性患者(雌患畜)の膣(又は子宮、又は産道のその他の部分)中に設置され得る。その後、マイクロニードルは粘膜組織を穿刺し得る。その後、薬物送達装置は卵胞刺激ホルモンを送達して女性患者(雌患畜)中で排卵を誘導し得る。いくつかの実施形態では、薬物送達装置は、卵胞刺激ホルモン、黄体ホルモン、生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン等の複数のホルモンを別々に又は組み合わせて、不妊症治療に適切な順序、適切な時間、適切な量で送達するように構成され得る。女性患者(雌患畜)中で正常なホルモン産生を制御するために、この装置でエストラジオールを分配投与してもよい。適当な投与スケジュール及び量は、生殖薬理学の分野の当業者により決定され得る。
【0064】
別の実施形態では、薬物送達装置は、患者(患畜)中でインスリン依存性糖尿病(I型糖尿病)を治療するために用いられ得る。薬物送達装置は患者(患畜)の内腔内に設置され得る。その後、マイクロニードルは粘膜組織を穿刺し得る。その後、薬物送達装置は、インスリンを、選択された時間に患者に送達し得る。
【0065】
別の実施形態では、薬物送達装置は、患者(患畜)中で真性糖尿病(II型糖尿病)を治療するために用いられ得る。薬物送達装置は患者(患畜)の内腔内に設置され得る。その後、マイクロニードルは粘膜組織を穿刺し得る。その後、薬物送達装置は、選択された時間に患者にエクセナチドを送達し得る。
【0066】
別の実施形態では、薬物送達装置は、患者(患畜)中で乳癌又は子宮癌を処置するために用いられ得る。薬物送達装置は、患者(患畜)の内腔内、例えば女性患者(雌患畜)の膣内に設置され得る。その後、マイクロニードルは粘膜組織を穿刺し得る。その後、薬物送達装置は、選択された時間に、患者にアブラキサン(又は乳癌又は子宮癌の治療に有効なその他の薬物)を送達し得る。
【0067】
別の実施形態では、薬物送達装置は、患者(患畜)中でHIV/AIDSを治療するために用いられ得る。薬物送達装置は患者(患畜)の内腔内に設置され得る。その後、マイクロニードルは粘膜組織を穿刺し得る。その後、薬物送達装置は、選択された時間に、患者にアバカビル(ABC)又はシドホビル(又はHIV/AIDSの治療に有効なその他の薬物)を送達し得る。装置はその他の性行為感染症の治療にも用いられ得る。
【0068】
別の実施形態では、薬物送達装置は、患者(患畜)中で陰部ヘルペスを処置するために用いられ得る。薬物送達装置は患者(患畜)の内腔内、例えば女性患者(雌患畜)の膣内に設置され得る。その後、マイクロニードルは粘膜組織を穿刺し得る。その後、薬物送達装置は、選択された時間に、患者にアシクロビル、ファムシクロビル、又はバラシクロビル(又は陰部ヘルペスの治療に有効なその他の薬物)を送達し得る。
【0069】
別の実施形態では、薬物送達装置は、患者(患畜)中で尿崩症を治療するために用いられ得る。薬物送達装置は患者(患畜)の内腔内に設置され得る。その後、マイクロニードルは粘膜組織を穿刺し得る。その後、薬物送達装置は、選択された時間に患者にデスモプレシン(又は尿崩症の治療に有効なその他の薬物)を送達し得る。
【0070】
別の実施形態では、薬物送達装置は、患者(患畜)中で骨粗しょう症を処置するために用いられ得る。薬物送達装置は患者(患畜)の内腔内、例えば女性患者(雌患畜)の膣内に設置され得る。その後、マイクロニードルは粘膜組織を穿刺し得る。その後、薬物送達装置は、選択された時間に患者にイバンドロネート、カルシトニン、又は副甲状腺ホルモン(又は骨粗しょう症の治療に有効なその他の薬物)を送達し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経粘膜的薬物送達のための内腔内装置であって、
ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置されるように構成されたハウジングと、
少なくとも1つの薬物を含む、薬物分配投与部分と、
前記ハウジングから延在するか又は伸長可能である、複数のマイクロニードルであって、前記ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置された後の、選択された時間に、前記ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一つの部位を破壊するように構成された、マイクロニードルと、
を備え、前記複数のマイクロニードルにより破壊された粘膜障壁部分に前記ハウジングから前記薬物を分配投与するように作動する、装置。
【請求項2】
前記ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置された時に送信装置から動力または制御シグナルを受け取る受信機を更に含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記複数のマイクロニードルが前記粘膜障壁を穿刺した後に前記ハウジングからの前記少なくとも1つの薬物の放出を開始させる制御装置を更に含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
経粘膜的薬物送達のための膣内装置であって、
ヒトである患者又は動物である患畜の膣中に配置されるように構成されたハウジングと、
前記ハウジングから延在するか又は伸長可能である、複数のマイクロニードルであって、前記ヒトである患者又は動物である患畜の内腔内に配置された後の、選択された時間に、前記ハウジングに隣接する粘膜障壁の少なくとも一つの部位を穿刺するように構成された、マイクロニードルと、
少なくとも1つの薬物を格納する薬物貯留槽と、前記ハウジングから前記少なくとも1つの薬物を、前記マイクロニードルによって破壊された粘膜組織部位上に、又は前記マイクロニードルを通じて粘膜組織内に、分配投与する容積式要素と、を備えた薬物ディスペンサーと、
を備えた装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−78771(P2011−78771A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225810(P2010−225810)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(502096543)パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド (393)
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
【Fターム(参考)】