説明

マイクロノズル

【課題】通過する液体を瞬時に加熱することができ、液体を加熱するヒータ部に電力を供給するための大型の外部スイッチを必要としないマイクロノズルを提供する。
【解決手段】ゲート電極24に印加する電圧を制御することによりマイクロノズル10内のドレイン領域27からソース領域22へ流れる電流を制御することができる。したがって、マイクロノズル10を加熱するために必要な比較的大きな電流を、ゲート電極24に低電流を印加するだけで制御することができるので、マイクロノズル10の加熱を行うための電力を制御する電流制御装置などを外部に備える必要がなくなり、マイクロノズル10の加熱用の回路の大幅な小型化、簡素化を図ることができる。また貫通孔28の近傍に集中して電流が流れるため、貫通孔28の近傍を特に集中して昇温することができ、燃料油の加熱を急速に、かつ効率よく行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に設けられた貫通孔を通過する液体を加熱するマイクロノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃焼器に供給する燃料は、噴霧が細かければ細かいほど燃焼性が良く、熱効率が向上し、かつ排ガス中の有害物質も減少する。
そこで、噴霧を細かくする手段として、燃料油の加圧圧力を上げたり、噴射口を小さくしたりする方法などが知られている。
また、噴射された燃料油の気化を促進するために、噴射する燃料油の温度を上げるなどの方法も知られている。
燃料油の噴霧を微粒化したり、燃料油自体の温度を上げたりすると、噴射後液滴から気化するまでの時間が短くなり、良好な混合気を形成しやすくなるため、燃焼性を良くすることができる。
【0003】
そこで特許文献1に記載のものにおいては、燃料噴射装置の噴射弁の下流側にPTC(Positive Temperature Coefficient)ヒータを設けて、外部から一定の電圧を印加し、電流によるジュール発熱によって燃料油の昇温を行っている。
燃料油を加熱するヒータとして用いたPTC素子は、抵抗値の温度特性が正であり、温度が上がると抵抗値が上昇する特性を有する。したがって、一定電圧を印加した状態では、電流が下がり発熱が自動的に抑えられ、過度の加熱を防止できる。
そのためPTC素子をヒータとして用いることにより、燃料油の温度が必要以上に上昇し、自己発火点以上にまで昇温されることを防止することができる。
また噴射弁の下流側に設けたPTCヒータは、外部スイッチのオンオフによってPTCヒータに流れる電流が制御されている。
【特許文献1】特開2000−249005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来のものにおいては、燃料油を十分に昇温させるために必要な比較的大きな電流を外部スイッチを制御することによってPTCヒータに供給することとなるため、このような電流を制御するためには、リレーや放熱板の付いた半導体式スイッチを用いる必要があり、外部スイッチのサイズが大きくなるといった問題がある。
具体的には、自動車用内燃機関の燃料噴射弁の先端にマイクロノズルを取り付けた場合、燃料噴射弁の静的流量(Q=500[mL/min]において、イソオクタン(定圧比熱Cp:2088[J/kg/K]、密度ρ:688[kg/m]、ただし全て室温での値)をΔT=100℃昇温させるために必要な電力P[W]は、Cp×Q×ρ×ΔTより算出することができるため、概ね1200[W]であることがわかる。
なお、燃料噴射弁の静的流量とは、燃料噴射弁のニードルバルブを開弁させた状態での燃料油の流量である。
【0005】
燃料油を燃焼室内に間欠的に噴射する4サイクルエンジンを例にすると、機関回転数r:6000[rpm]で1行程(点火プラグの点火から点火までの時間:20msec)のうち5[msec]間燃料油を噴射し続ける場合は、平均では、1200[W]×5[msec]/20[msec]=300[W]の電力を供給し続ける必要がある。電源電圧を12[V]とすれば、25[A]の平均電流となる。
このようにPTCヒータに供給する電流は比較的大きいため、外部スイッチが大きくなってしまう。
【0006】
また自動車用内燃機関では、触媒コンバータによって排気ガスの浄化が行われている。
しかしながら、エンジン始動直後は吸気ポート、吸気バルブやシリンダー壁面が十分に温まっておらず未燃ガス(HC)等が多く発生したり、触媒コンバータが十分に温まっていないことにより未燃ガス(HC)等を十分に浄化することができない。
この場合、触媒コンバータの容量を大きくすることによって未燃ガス等を十分に浄化することが考えられるが、一般に未燃ガスを酸化し浄化する触媒コンバータには、貴金属が用いられており、コストを増大させてしまう。
したがって、エンジンの始動直後から燃料油をすばやく昇温させ、理想的な混合気を形成して完全な燃焼を促すことが一層重要となる。
【0007】
エンジンの始動初回の噴射から十分に燃料油を昇温させるには、ヒータ部分を極力小型にし、ヒータ部分の熱容量を小さくすればよい。
しかし熱容量を小さくすると、電力の供給に対する昇温の応答性が良くなるため、燃料油が噴射されない期間には外部から電力の供給を停止するか、温度上昇に対する抵抗率の変化が非常に大きいPTC素子を用い、自動的に加熱を停止する必要がある。
しかし、従来のPTC素子を用いて燃料油の昇温を行う場合には、温度上昇に伴う抵抗値の上昇度合いが十分とは言えず、精度のよい温度制御が困難であるといった問題がある。
また、燃料油の噴射にあわせて電力の供給を行うためには、高速(〜数msec以上)かつ大電流のスイッチング動作を行わねばならないため、機械式リレーではなく、半導体式スイッチが必要となる。
半導体スイッチを用いて電力の供給を行う場合、半導体のスイッチ部分での損失をできるだけ下げるために、半導体チップの面積を大きくする必要があり、駆動回路の大型化、コストの増大を招くといった問題がある。
【0008】
そこで本発明はこのような問題点に鑑み、通過する液体を瞬時に加熱することができ、液体を加熱するヒータ部に電力を供給するための大型の外部スイッチを必要としないマイクロノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、半導体基板の表裏面を貫通する流路を備え、流路を通過する液体の昇温を行うヒータ部を、半導体基板の外表面に設けられた第1の電極、および第2の電極と、第1の電極と第2の電極を区分けし、少なくとも流路の近傍に延びて半導体基板と逆の導電型のチャネル形成層と、流路近傍において、チャネル形成層上に絶縁膜を挟んで配置された第3の電極とより構成し、第3の電極に電気信号を加えることにより、該第3の電極と絶縁膜を挟んで対向したチャネル形成層の電気伝導率を変調させて、第1の電極と第2の電極間に流れる電流を制御し、該電流によって流路壁面を昇温させるものとした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マイクロノズルを加熱するために供給する電流を、第3の電極により低電流で制御することができるため、加熱の制御を行うために必要な外付けの電流制御装置が不要となり、マイクロノズルの駆動回路の大幅な小型化、簡素化を図ることができる。
また、第3の電極を流路近傍に配置して、第1の電極と第2の電極間に流れる電流を流路近傍に集中させる構造のため、流路近傍を特に集中して昇温することができ、流路を流れる液体の加熱を急速に、かつ効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に本発明の実施の形態を実施例により説明する。
まず、第1の実施例について説明する。
図1に、マイクロノズルを燃料噴射弁に適用した場合の燃料噴射弁先端部断面を示す。
図示しない燃料ポンプによって加圧された燃料油が、燃料噴射弁1に供給される。
燃料噴射弁1は、筐体2の内部に燃料ポンプによって加圧された燃料油を蓄える油圧室8が形成され、筐体2の底壁(図1中の下方側)には油圧室8と連通する流量調節孔9が形成されている。
【0012】
油圧室8には図1中の上下方向に移動可能なニードルバルブ3が備えられ、上下に移動させることによりニードルバルブ3の先端によって流量調節孔9を塞いだり、開口させたりすることができる。
このニードルバルブ3を上下に移動させることによって、油圧室8内から流量調節孔9を通って噴出される燃料油の流量を制御することができる。
筐体2の燃料噴射側には、流量調節孔9を覆うようにして保持構造体4が取り付けられる。
【0013】
保持構造体4は、流量調節孔9の開口と対向する位置にマイクロノズル10を保持している。
また、マイクロノズル10から伸びる1組の主電流端子7A、7Bと、制御端子6は、保持構造体4の内部を通って外部まで伸びている。
制御端子6に印加する電圧を制御することによって、主電流端子7A、7B間に電流が流れてマイクロノズル10が発熱し、マイクロノズル10に設けられた流路を通過する燃料油を昇温することができる。
このように、油圧室8に供給された燃料油は、ニードルバルブ3の動作によって流量調節孔9から噴出される流量が制御され、流量調節孔9から噴出された燃料油はマイクロノズル10によって昇温されて燃焼室内(図1中における燃料噴射弁1の下方側)に噴射される。
【0014】
次にマイクロノズル10の詳細について説明する。
図2に、マイクロノズル10の断面を示し、図3に、主要部の平面配置を示す。
なお図2は、図3におけるA−A部断面を拡大して示し、図3は、n型拡散層22、第3の電極24、貫通孔28のみを示してある。
マイクロノズル10はn型半導体基板20(n型)を主要構成要素とし、表裏面をつなぐ複数の貫通孔28が設けられている。
なお、マイクロノズル10は図2中の上側面が流量調節孔9と対向する向きに取り付けられ、燃料油は貫通孔28を図2中の上側から下側に向かって流れる。
また以下において、マイクロノズル10の図2中の上側面を表面、下側面を裏面とも呼ぶ。
【0015】
各貫通孔28の壁面は、例えばSiO2等の絶縁保護膜29によって覆われている。
n型半導体基板20の表面には、貫通孔28付近を除く部分にp型拡散層21が形成されている。
またp型拡散層21の領域内において、n型拡散層22が表面に露出するように、かつ、貫通孔28を囲むようにリング状に形成されている。
p型拡散層21とn型拡散層22が形成されたn型半導体基板20の表面にはAl等で構成された第1の電極25が設けられている。
貫通孔28の周りを除いて、p型拡散層21とn型拡散層22の表面の一部は、第1の電極25とオーミック接続されている。
したがって、第1の電極25とリング状のn型拡散層22の外周部分とが導通している。
【0016】
p型拡散層21とn型拡散層22が形成されたn型半導体基板20の表面と、第1の電極25との間に挟まれて、貫通孔28を囲むようにリング状の第3の電極24が配置されている。
また第3の電極24は、高濃度に不純物がドープされたポリシリコンで構成されている。
なお第3の電極24は、その周囲がSiO2酸化膜23によって覆われて、p型拡散層21、n型拡散層22および第1の電極25から絶縁されている。
特に図3に示すように、複数の貫通孔28の周囲にそれぞれ第3の電極24が配置されるが、第3の電極24は互いに隣接するもの同士がn型半導体基板20の表面において接続されている。
【0017】
一方、n型半導体基板20の裏面には、良好なオーミック接続を確保するために高濃度n型拡散層27(n型)が全面に形成され、さらに高濃度n型拡散層27の上から(図2中の下側から)Al等で構成された第2の電極26が重ねられ、高濃度n型拡散層27と第2の電極26とがオーミック接続されている。
【0018】
n型半導体基板20の表裏面にそれぞれ第1の電極25や第2の電極26が形成された状態で、その外周面、および貫通孔28の内周面はSiO2等の絶縁保護膜29によって覆われてマイクロノズル10が構成される。
なお、図1に示す制御端子6が、第3の電極24と接続され、主電流端子7A、7Bがそれぞれ第1の電極25、第2の電極26と接続されている。
【0019】
以上に述べた電気的な構造は、いわゆるMOSFETと同様のものであるので、マイクロノズル10の動作の説明では、第1の電極25をソース電極25、n型拡散層22をソース領域22、p型拡散層21をp型領域21、第2の電極26をドレイン電極26と呼び、さらに第3の電極24をゲート電極24、SiO2酸化膜23をゲート酸化膜23と呼ぶ。また、n型半導体基板20と高濃度n型拡散層27とがドレイン領域となるが、以下の説明において、ドレイン領域として高濃度n型拡散層27を代表させ、ドレイン領域27として示す。
【0020】
次に、マイクロノズル10の貫通孔28を通過する燃料油を加熱する動作手順について説明する。
図4に、マイクロノズル10内を流れる電流の経路を示す。
ニードルバルブ3を開弁させると、油圧室8からマイクロノズル10に向けて燃料油が供給される。
ニードルバルブ3を開弁させると同時に、ゲート電極24に正の電圧を印加すると、p型領域21のゲート電極24と対向する部分に反転層チャネルCが形成され、図4に示すように、電流がドレイン領域27から反転層チャネルCを通ってソース領域22に向けて流れる。
したがって、反転層チャネルCが貫通孔28の周囲に形成されるため、電流は貫通孔28に集まってくることとなる。
n型半導体基板20は電流が流れた部位でジュール発熱するため、電流が集まる貫通孔28周囲を集中して加熱することができ、貫通孔28を流れる燃料油を効率的に加熱することができる。
【0021】
次に、燃焼室への燃料油の供給を停止させるために、ニードルバルブ3を閉弁し、マイクロノズル10への燃料油の流入を停止する。
ここで、マイクロノズル10への通電加熱を継続すると、マイクロノズル10の温度が急激に上昇してしまうため、ゲート電極24の電位を閾値電圧以下に落とし、MOSFETの反転層チャネルCを消失させ電流の流れを遮断し、加熱を停止する。
一般に自動車用内燃機関では、最短数msecで燃料油の供給を停止させる必要があるが、本発明では、貫通孔28付近のみに電流を流して局所的に加熱を行うため、非常に高応答でn型半導体基板20の加熱の制御が可能となる。
【0022】
次に、マイクロノズル10の製造方法について説明する。
図5の(a)〜(d)に、マイクロノズル10の製造過程を示す。
まず図5の(a)に示すように、n型半導体基板20の表面の所定位置にp型拡散層21を形成する。
このp型拡散層21は、平面形状において所定部位に孔が設けられた形状となっている。なお、この所定部位に設けられた孔の部分を通るように後述の貫通孔28が形成される。
p型拡散層21に設けられた孔を囲むようにリング状にn型拡散層22が設けられ、p型拡散層21に設けられた孔からn型拡散層22のリング状の内側部分に重なる位置まで円状にSiO2酸化膜23、第3の電極24を形成する。
この際、一般的なパワーMOSFETの製造方法と同様に、チャネル領域(図4中、反転層チャネルCとなる部分)はDSA構造で形成してもよく、またフォトリソグラフィーの繰り返しで形成してもよい。
なお第3の電極24は、図示しない断面において隣接する第3の電極24同士が接続されている。
【0023】
一般的なパワーMOSFETでは、オン抵抗をできるだけ小さくする必要があるため、チャネル長(図4中、反転層チャネルCとなる部分)をできるだけ短くする必要があるが、本発明の場合は、必ずしも低抵抗にする必要はなく、むしろ発熱させることを目的としているため、扱い易い電流、電圧になるように抵抗値を設定すればよく、パターンレイアウトや製造プロセスも抵抗値に応じた設計をすればよい。
n型半導体基板20の裏面には、高濃度n型拡散層27を形成する。
【0024】
次に図5の(b)に示すように、第3の電極24、SiO2酸化膜23、n型半導体基板20、高濃度n型拡散層27を貫通するようにエッチングを行い、基板の表裏面を貫通する貫通孔28を形成する。
このエッチングには、Deep RIE等を用いることができる。
次に図5の(c)に示すように、第3の電極24をSiO2酸化膜23によって完全に覆う。
その後、n型半導体基板20の表面において、貫通孔28を除く部位に第1の電極25を形成する。
【0025】
図5の(d)に示すように、n型半導体基板20の裏面において貫通孔28を除く部位に第2の電極26を形成し、さらに第1の電極25や第2の電極26の外面と貫通孔28の内周面とを絶縁保護膜29によって覆うことによってマイクロノズル10が形成される。
【0026】
本実施例は以上のように構成され、ゲート電極24に印加する電圧を制御することによりマイクロノズル10内のドレイン領域27からソース領域22へ流れる電流を制御することができる。したがって、マイクロノズル10を加熱するために必要な比較的大きな電流を、ゲート電極24に低電流を印加するだけで制御することができるので、マイクロノズル10の加熱を行うための電力を制御する電流制御装置などを外部に備える必要がなくなり、マイクロノズル10の加熱用の回路の大幅な小型化、簡素化を図ることができる。
また貫通孔28の近傍に集中してマイクロノズル10の加熱用の電流が流れるため、貫通孔28の近傍を特に集中して昇温することができ、貫通孔28を通過する燃料油の加熱を急速に、かつ効率よく行うことができる。
【0027】
次に、第2の実施例について説明する。
なお、本実施例におけるマイクロノズル10Aは、第1の実施例におけるマイクロノズル10の内部構造を変更したものであり、第1の実施例と同様に燃料噴射弁先端に取り付けられる。
マイクロノズル10Aの詳細について説明する。
図6に、マイクロノズル10Aの断面を示す。
マイクロノズル10Aは、n型半導体基板20A(n型)を主要構成要素とし、マイクロノズル10Aの表裏面をつなぐ複数の貫通孔28Aが設けられている。
n型半導体基板20Aの表面にはp型拡散層21Aが形成され、裏面には高濃度n型拡散層27A(n型)が形成される。
n型半導体基板20Aに設けられた貫通孔28Aの内周面近傍にも、p型拡散層21Aが形成される。
n型半導体基板20Aの表面側において、貫通孔28Aの周囲にはn型拡散層22A(n型)が形成される。
【0028】
n型半導体基板20Aの表裏面において、貫通孔28Aの周囲には絶縁保護膜29Aで包まれたリング状の第3の電極部24aがn型拡散層22A上に形成されている。
なおn型半導体基板20Aの表面における第3の電極部24aの径はn型拡散層22Aよりも小さい。
n型半導体基板20Aの表裏面に形成された第3の電極部24aは、貫通孔28Aに通されて絶縁保護膜29Aによって包まれた円筒形状の第3の電極部24bによって接続されて第3の電極24Aが構成される。
これにより貫通孔28Aの内周面は絶縁保護膜29Aが露出している。
n型半導体基板20Aの表面側は貫通孔28Aの周囲を除いて第1の電極25Aによって覆われ、裏面側は貫通孔28Aの周囲を除いて第2の電極26Aによって覆われている。
【0029】
以上に述べた電気的な構造は、いわゆるMOSFETと同様のものであるので第1の実施例と同様に、マイクロノズル10Aの動作の説明では、第1の電極25Aをソース電極25A、n型拡散層22Aをソース領域22A、p型拡散層21Aをp型領域21A、第2の電極26Aをドレイン電極26Aと呼び、さらに第3の電極24Aをゲート電極24Aと呼ぶ。また、n型半導体基板20Aと高濃度n型拡散層27Aとがドレイン領域となるが、以下の説明において、ドレイン領域として高濃度n型拡散層27Aを代表させ、ドレイン領域27Aとして示す。
【0030】
次に、マイクロノズル10Aの貫通孔28Aを通過する燃料油を加熱する動作手順について説明する
ニードルバルブ3を開弁させると同時に、ゲート電極24Aに正の電圧を印加すると、p型領域21Aにおける貫通孔28Aの内壁全面に反転層チャネルC’が形成され、図6中に矢印で示すように、電流がドレイン領域27Aからソース領域22Aに向けて貫通孔28Aの内壁に沿って流れる。
したがってドレイン領域27Aからソース領域22Aに流れる電流を貫通孔28Aの周囲に集中させることができるので、効率よく貫通孔28Aを通過する燃料油を昇温することができる。
ゲート電極24Aの電位を閾値電圧以下に落として、マイクロノズル10Aの加熱を停止する構成は第1の実施例と同様の構成であり説明を省略する。
【0031】
次に、マイクロノズル10Aの製造方法について説明する。
図7の(a)〜(c)、図8の(a)〜(c)に、マイクロノズル10Aの製造工程を示す。
まず図7の(a)に示すように、n型半導体基板20Aの表面の全面にp型拡散層21Aを形成し、p型拡散層21A上の所定位置に円形のn型拡散層22Aを所定数形成する。
n型半導体基板20Aの裏面の全面に高濃度n型拡散層27A(n型)を形成する。
次に、n型拡散層22Aの円形状に形成された部分を貫通するようにDeep RIE等で貫通孔28Aを形成する。
【0032】
図7の(b)に示すように、貫通孔28Aの内周壁にp型不純物を拡散し、貫通孔28Aの内壁にもp型拡散層21Aを形成する。
図7の(c)に示すように、貫通孔28Aの内壁、およびn型半導体基板20Aの表裏面を絶縁保護膜29Aで覆う。
その後、絶縁保護膜29Aの上から、貫通孔28Aの内壁、およびn型半導体基板20Aの表裏面における貫通孔28Aの周囲にリング状の第3の電極部24aおよび円筒形状の第3の電極部24bより構成される第3の電極24Aを形成する。
なお、n型半導体基板20の表面において、図示しない断面において隣接する第3の電極部24a同士が接続されている。
【0033】
次に図8の(a)に示すように、第3の電極24Aの表面を覆うようにさらに絶縁保護膜29Aを形成する。
図8の(b)に示すように、n型半導体基板20Aの表裏面の絶縁保護膜29Aにおいて、オーミックコンタクトを形成するために不要となる部分、すなわち貫通孔28Aの周辺以外の部分を除去する。
図8の(c)に示すように、貫通孔28Aの開口部周囲を除いたn型半導体基板20Aの表裏面に、Al等によってそれぞれ第1の電極25A、第2の電極26Aを形成することによってマイクロノズル10Aが形成される。
【0034】
本実施例は以上のように構成され、貫通孔28Aの内周面および開口部近傍にゲート電極24Aを形成し、n型半導体基板20Aの表面および貫通孔28Aの内周面にp型領域21Aを形成し、さらに、n型半導体基板20Aの表面側において貫通孔28Aの開口部周囲のp型領域21A上にソース領域22Aを形成することにより、ゲート電極24Aに電圧を印加した場合、貫通孔28Aの側壁部分の全面に反転層チャネルC’が形成され、ドレイン領域27Aからソース領域22Aに流れる電流は貫通孔28Aの側壁部分のみとなる。
したがって電流が流れた部位でジュール発熱するため、貫通孔28Aの内壁近傍のみを発熱させることができ、貫通孔28A内を流れる燃料油の加熱をより急速に、かつより効率よく行うことができる。
【0035】
次に、第3の実施例について説明する。
本実施例では、抵抗とダイオードを介して、ゲート電極を自己バイアスさせるものである。
図9に、マイクロノズルの断面を示し、図10に、主要部の平面配置を示す。
なお図9は、図10におけるB−B部断面を拡大して示し、図10は、抵抗34、ゲート電極35、ダイオード36、n型拡散層22、貫通孔28Bのみを示してある。
第3の電極35が、抵抗34、n層31を介してn型半導体基板20B(n型)に接続されている。
第3の電極35は貫通孔28Bの周囲を囲むようにリング状に形成され、第3の電極35の内側にリング状の抵抗34が配置されている。
抵抗34、第3の電極35、ダイオード36は、SiO2酸化膜23Bによって覆われている。
また第3の電極35の外側にはリング状のダイオード36が接続されている。
【0036】
n型半導体基板20Bの表面側には、貫通孔28Bを除いて第1の電極25Bによって覆われ、ダイオード36と第1の電極25Bとが接続している。
なお、貫通孔28Bの周囲に形成された複数の第3の電極35は、図示しない断面において、隣接する物同士が接続されている。
n型半導体基板20B上に第1の電極25Bや第2の電極26が形成された状態で、n型半導体基板20Bの表裏面、および貫通孔28Bの内周面が絶縁保護膜29Bによって覆われてマイクロノズル10Bが形成される。
他の構成は第1の実施例と同じであり、同一番号を付して説明を省略する。
【0037】
抵抗34は、ポリシリコンの不純物濃度とその形状を規定することで、所望の抵抗値を得ることができる。
第3の電極35は、ポリシリコンの不純物をボロン等で形成したp型とする。
ダイオード36は、リン等で形成したn型とし、第3の電極35側をカソードに、ソース電極25B側をアノードにする。
したがって、第3の電極35周りの電気的構成は、図11に示す等価回路と同様の構成となる。
【0038】
以上に述べた電気的な構造は、いわゆるMOSFETと同様のものであるので第1の実施例と同様に、マイクロノズル10Bの動作の説明では、第1の電極25Bをソース電極25B、n型拡散層22をソース領域22、p型拡散層21をp型領域21、第2の電極26をドレイン電極26と呼び、さらに第3の電極35をゲート電極35、SiO2酸化膜23Bをゲート酸化膜23Bと呼ぶ。また、n型半導体基板20Bと高濃度n型拡散層27とがドレイン領域となるが、以下の説明において、ドレイン領域として高濃度n型拡散層27を代表させ、ドレイン領域27として示す
【0039】
次に、マイクロノズル10Bの貫通孔28Bを通過する燃料油を加熱する動作手順について説明する
まず、マイクロノズル10Bのドレイン電極26に、ソースに対して正となる電位を印加しておく。
マイクロノズル10Bの温度が低い場合は、ゲートソース間のインピーダンスが非常に高いため、ゲート電極35には、ドレイン電圧とほぼ同じ電圧が印加される。
これにより、電流がマイクロノズル10B内をドレイン領域27からソース領域22に向かって流れる。
流れる電流は、第1の実施例と同様に貫通孔28Bの周辺に沿って流れるため、貫通孔28Bを流れる燃料油を効果的に加熱することができる。
【0040】
燃料油が所望の温度まで加熱されるか、あるいは、燃料油の供給が止まることで、マイクロノズル10B自身の温度が上昇し、ダイオード36の真性キャリア濃度を超えると、ダイオード36のリーク電流が急激に増え、ゲートソース間が低インピーダンスとなり、ドレイン領域27からソース領域22へ向けて電流が流れなくなる。
したがって、マイクロノズル10Bの温度上昇とともにマイクロノズル10Bの加熱が自動的に停止される。
【0041】
本実施例は以上のように構成され、ゲート電極35をダイオード36を介してソース電極25Bに接続し、マイクロノズル10Bの温度が上昇した場合に、ダイオード36のリーク電流が増えてゲートソース間が低インピーダンスとなる構成としたので、マイクロノズル10Bの温度に応じて自動的にマイクロノズル10B内を流れる電流が遮断されて、発熱を停止することができる。
自動的にマイクロノズル10内に流れる電流を遮断することができるので、外部にマイクロノズル10Bの発熱を制御するための装置を必要とすることなく、マイクロノズル10Bを2端子素子として使用することができる。
【0042】
また、ダイオード36を用いたことにより、温度変化に対する抵抗値の変化が非常に大きいため、従来のようにPTC素子の温度特性を用いて過熱の防止を行う場合に比べて、マイクロノズルの温度を精度よく一定に保つことが可能である。
マイクロノズル10Bに流れる電流が、貫通孔の周辺近傍のみであるため、貫通孔28Bの内壁周辺のみが発熱し、貫通孔28B内を流れる燃料油を効率よく加熱することができる。
また。温度によって特性の大きく異なる素子(ダイオード36)が、加熱領域(貫通孔28B周囲)に非常に隣接した部位に形成されているため、貫通孔28Bを通過する燃料油を、応答性がよく、かつ精度よく一定温度に保つことができる。
【0043】
なお、上記各実施例において、マイクロノズル10を燃料油を噴射する燃料噴射弁に適用した例を示したが、これに限定されず他の流体を噴射する流体噴射装置にマイクロノズルを適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】マイクロノズルを適用した燃料噴射弁先端部断面を示す図である。
【図2】第1の実施例におけるマイクロノズルの断面を示す図である。
【図3】マイクロノズルの主要部の平面配置を示す図である。
【図4】マイクロノズル内を流れる電流の経路を示す図である。
【図5】マイクロノズルの製造工程を示す図である。
【図6】第2の実施例におけるマイクロノズルの断面を示す図である。
【図7】マイクロノズルの製造工程を示す図である。
【図8】マイクロノズルの製造工程を示す図である。
【図9】第3の実施例におけるマイクロノズルの断面を示す図である。
【図10】マイクロノズルの主要構成要素を示す図である。
【図11】ゲート電極周りの等価回路を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 燃料噴射弁
2 筐体
3 ニードルバルブ
4 保持構造体
6 制御端子
7A、7B 主電流端子
8 油圧室
9 流量調節孔
10、10A、10B マイクロノズル
20、20A、20B n型半導体基板
21、21A p型拡散層(p型領域)
22、22A n型拡散層(ソース領域)
23、23B SiO2酸化膜(ゲート酸化膜)
24、24A、35 第3の電極(ゲート電極)
25、25A、25B 第1の電極(ソース電極)
26、26A 第2の電極(ドレイン電極)
27、27A 高濃度n型拡散層(ドレイン領域)
28、28A、28B 貫通孔
29、29A、29B 絶縁保護膜
34 抵抗
36 ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の表裏面を貫通する流路を備え、前記流路を通過する液体の昇温を行うヒータ部を備えたマイクロノズルにおいて、
前記ヒータ部は、
前記半導体基板の外表面に設けられた第1の電極、および第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極を区分けし、少なくとも前記流路の近傍に延びて前記半導体基板と逆の導電型のチャネル形成層と、
前記流路近傍において、前記チャネル形成層上に絶縁膜を挟んで配置された第3の電極と、より構成され、
前記第3の電極に電気信号を加えることにより、該第3の電極と前記絶縁膜を挟んで対向した前記チャネル形成層の電気伝導率を変調させて、前記第1の電極と前記第2の電極間に流れる電流を制御し、該電流によって前記流路壁面を昇温させることを特徴とするマイクロノズル。
【請求項2】
前記チャネル形成層は、前記半導体基板の外表面において少なくとも前記流路周囲を囲むように形成され、
前記第3の電極は、前記チャネル形成層の前記流路側の端部上に、前記流路を囲むようにリング状に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロノズル。
【請求項3】
前記チャネル形成層は、少なくとも前記半導体基板の外表面における前記流路周囲から前記流路の内壁の少なくとも一部にかけて形成され、
前記第3の電極は、前記チャネル形成層上において、前記半導体基板の外表面における前記流路周囲から前記流路の内壁の少なくとも一部にかけて配置されることを特徴とする請求項1に記載のマイクロノズル。
【請求項4】
前記第3の電極と前記第2の電極間に接続された抵抗と、
前記第3の電極と前記第1の電極間に配置され、前記第3の電極にカソード側が接続され、前記第1の電極にアノード側が接続されたダイオードとを備え、
前記ダイオードが所定温度未満の場合には、前記第3の電極に電気信号を加えることによって前記第2の電極側から前記第1の電極側に向けて電流が流れ、
前記ダイオードが所定温度以上の場合には、前記第3の電極と前記第1の電極とが導通し、前記第2の電極側から前記第1の電極側に向けて流れる電流が遮断状態となることを特徴とする請求項1、2または3に記載のマイクロノズル。
【請求項5】
前記抵抗および前記ダイオードは、ポリシリコンによって構成され、前記半導体基板上に形成されていることを特徴とする請求項4に記載のマイクロノズル。
【請求項6】
前記半導体基板は第1の導電型であり、
前記半導体基板の表面において、少なくとも前記流路周囲を囲むように第2の導電型の前記チャネル形成層が形成され、
該チャネル形成層上において、前記流路を囲むようにリング状に第1の導電型のソース領域が形成されて該ソース領域と前記第1の電極とが接続され、
前記ソース領域のリング形状内側部分において、前記チャネル形成層上に前記絶縁膜を挟んでリング状の第3の電極を配置し、
前記半導体基板の裏面に、前記第2の電極が接続されて前記半導体基板が第1の導電型のドレイン領域を構成していることを特徴とする請求項1に記載のマイクロノズル。
【請求項7】
前記リング状の第3の電極は、その内周部が抵抗を介して前記ドレイン領域に接続され、
外周部がダイオードを介して前記第1の電極に接続され、
前記ダイオードは、第3の電極にカソード側が接続され、前記第1の電極にアノード側が接続され、
前記ダイオードが所定温度未満の場合には、前記第3の電極に電気信号を加えることによって前記第2の電極側から前記第1の電極側に向けて電流が流れ、
前記ダイオードが所定温度以上の場合には、前記第3の電極と前記第1の電極とが導通し、前記第2の電極側から前記第1の電極側に向けて流れる電流が遮断状態となることを特徴とする請求項6に記載のマイクロノズル。
【請求項8】
前記半導体基板は第1の導電型であり、
前記半導体基板の外表面における前記流路周囲から少なくとも前記流路の内壁の一部にかけて第2の導電型の前記チャネル形成層が形成され、
前記半導体基板の外表面において、前記チャネル形成層上に前記流路を囲むようにリング状に第1の導電型のソース領域が形成されて該ソース領域と前記第1の電極とが接続され、
前記チャネル形成層上および前記ソース領域上において、前記半導体基板の外表面における前記流路周囲から前記流路の内壁の一部にかけて、前記絶縁膜を挟んで第3の電極が配置され、
前記半導体基板の裏面に、前記第2の電極が接続されて前記半導体基板が第1の導電型のドレイン領域を構成していることを特徴とする請求項1に記載のマイクロノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−275729(P2007−275729A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103748(P2006−103748)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】