説明

マイクロバブルを用いた気液反応方法及び気液反応装置

【課題】エアリフト式気液反応装置において、特定のドラフトチューブあるいは仕切り板を設置することによって、装置内でのオゾンマイクロバブルの流動挙動に着目した装置工学の観点から、オゾンの利用効率を高めることを可能とした気液反応方法および気液反応装置の提供。
【解決手段】エアリフト気泡塔にマイクロバブル発生器を組み込み、ドラフトチューブの径や仕切り板の位置によって塔に対する下降流部の断面積の割合を調整することにより、塔内におけるマイクロバブルの流動状態を制御することを特徴とする、気液反応方法および気液反応装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロバブルを用いた有機物質を含有する排水等の気液反応処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の難分解性有機物質を含む排水処理に当たっては、オゾン、紫外線、過酸化水素、フェントン試薬などやこれらを組み合わせた酸化促進法が実用化されているが、それらの方法は、通常の排水処理に較べていずれも運転のための経費が高くなるという欠点がある。従って、これらの酸化剤を効率的に機能させる操作方法の開発が強く望まれている。
【0003】
最近、非特許文献1及び2に紹介されているように、気体の液中への溶解効率を改善するための気泡微細化技術としてマイクロバブル発生器が脚光を浴びており、種々の分野で実用されている。そして、特許文献1〜4および非特許文献3〜6においては、オゾンのマイクロバブル利用についても種々検討が行われており、更に、特許文献5〜7および非特許文献7では、曝気装置において、ドラフトチューブを設置することによって酸素の溶解効率を高める研究も行われている。しかしながら、オゾンを効率的に使用するためには、反応装置内でのオゾンマイクロバブルの流動挙動に着目した装置工学の観点からの改良が重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−094076号公報
【特許文献2】特開2004−321959号公報
【特許文献3】特開2008−018378号公報
【特許文献4】特開2008−055352号公報
【特許文献5】特開平5−237488号公報
【特許文献6】特開2003−053371号公報
【特許文献7】特開2006−110543号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】大成博文、高橋正好ら:混相流、16,130−137(2002)
【非特許文献2】高橋正好:混相流、18,324−331(2004)
【非特許文献3】P.Li and H.Tsuge:J.Chem.Eng.Japan,39,1213−1220(2006)
【非特許文献4】M.Takahashi,K.Chiba and P.Li:J.Phys.Chem.B.,111,11443−11446(2007)
【非特許文献5】Y.Bando,T.Yoshimatsu,W.Luo,Y.Wang,K.Yasuda,M.Nakamura,Y.Funato and M.Oshima:J.Chem.Eng.Japan,41,562−567(2008)
【非特許文献6】坂東芳行、吉松崇、王宇飛、安田啓司、杉江享、浅井健好:日本混相流学会誌、混相流研究の進展3,51−57(2008)
【非特許文献7】王宇飛、深谷健也、吉松崇、安田啓司、坂東芳行、川瀬泰人:化学工学会第73年会、A309,浜松(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、この問題を解決するために、エアリフト式気液反応装置において、特定のドラフトチューブあるいは仕切り板を設置することによって、装置内でのオゾンマイクロバブルの流動挙動に着目した装置工学の観点から、オゾンの利用効率を高めることを可能とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1は、エアリフト気泡塔にマイクロバブル発生器を組み込み、ドラフトチューブの径や仕切り板の位置によって塔に対する下降流部の断面積の割合を調整することにより、塔内におけるマイクロバブルの流動状態を制御することを特徴とする、気液反応方法に関する。
本発明の第2は、前記エアリフト気泡塔において,塔に対する下降流部の断面積の割合が0.7以下のものである、請求項1記載の気液反応方法に関する。
本発明の第3は、前記マイクロバルブ発生器に通される気体がオゾンである、請求項1〜2記載の気液反応方法に関する。
本発明の第4は、エアリフト気泡塔内にドラフトチューブあるいは仕切り板が設置され、塔底部にマイクロバルブ発生器が組み込まれたことを特徴とする、請求項1〜3何れかの気液反応装置に関する。
【0008】
本発明の気液反応方法及びその装置は、流量が一定で難分解性物質の濃度が経時的に大きく変化するような排水に対応して効果的な酸化処理方法となりうる。即ち、オゾンガスをマイクロバブル化することでオゾンの利用効率を高めると共に、ガス流量を一定とすることにより被分解物質濃度に応じてオゾン濃度を変化させることができるものである。
【0009】
本発明で用いられるマイクロバブル化される気体には、空気、オゾン、酸素またはそれらの混合物が用いられる。
【0010】
対象となる排水には、ダイオキシン類、環境ホルモン、多環芳香族炭化水素(PAHs)、ポリビニルアルコール(PVA)、微量有機溶剤含有排水、界面活性剤混入排水等であり、また本発明が対象とする難分解性有機物としては、有機水銀化合物、有機砒素化合物、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、四塩化炭素、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、1,3−ジクロロプロペン(農薬)、チウラム(農薬)、シマジン(農薬)、チオベンカルブ(ベンチオカーブ)(農薬)、ベンゼン、クロロホルム、トランス−1,2−ジクロロエチレン、1,2−ジクロロプロパン、p−ジクロロベンゼン、イソキサチオン、ダイアジノン、フェニトロチオン(MEP)、イソプロチオラン、オキシン銅(有機銅)、クロロタロニル(TPN)、プロピザミド、EPN、ジクロルボス(DDVP)、フェノブカルブ(BPMC)、イプロベンホス(IBP)、クロルニトロフェン(CNP)、トルエン、キシレン、フタル酸ジエチルヘキシル、フェノール類、有機リン、陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、フタル酸エステル類、ヘキサクロロシクロヘキサン(HCH)、2−メチルイソボルネオール、ジオスミン、ホルムアルデヒド、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、ジクロロアセトニトリル、抱水クロラール、腐植質(フミン質)、1,4−ジオキサン、ダイオキシン類、ポリ塩化ビフェニル類、ポリ臭化ビフェニル類、ヘキサクロロベンゼン、ペンタクロロフェノール、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、アミトロール、アトラジン、アラクロール、シマジン、ヘキサクロロシクロヘキサン(HCH)、カルバリル、クロルデン、オキシクロルデン、トランス−ノナクロル、1,2−ジブロモ−3−クロロプロパン(DBCP)、DDT、DDE及びDDD、ケルセン(ジコホル)、アルドリン、エンドリン、ディルドリン、エンドスルファン(ベンゾエピン)、ヘプタクロル、ヘプタクロルエポキサイド、マラチオン(マラソン)、メソミル(ランネート)、メトキシクロル、マイレックス、ニトロフェン、トキサフェン(カンフェクロル)、トリブチルスズ(TBT)、トリフェニルスズ(TPT)、トリフルラリン、アルキルフェノール類、ビスフェノールA、フタル酸エステル類、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ブチルベンジン、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジエチル、ベンゾ[a]ピレン、2,4−ジクロロフェノール、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、ベンゾフェノン、4−ニトロトルエン、オクタクロロスチレン、アルディカーブ、ベノミル(ベンレート)、キーポン(クロルデコン)、マンゼブ(マンコゼブ)、マンネブ、メチラム、メトリブジン、シペルメトリン、エスフェンバレレート、フェンバレレート、ペルメトリン、ビンクロゾリン、ジネブ、ジラム、フタル酸ジペンチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジプロピルなどが挙げられる。
【0011】
図1で示されるのは、本発明の気液反応装置を用いた処理プロセス系の一例である。プロセス系全体は、調整槽Aと気液反応器Bから構成され、当該反応器にドラフトチューブあるいは仕切り板を設置したエアリフト気泡塔を用いる。調整槽では、気液反応器からの排オゾンガスと空気により排水が混合・攪拌される。調整槽のガス出口にはオゾン分解器Dを設置する。気液反応器はエアリフト気泡塔で、マイクロバブル発生器Cおよびその液循環系を有する。気液反応器へ流入する排水中の被分解物質濃度に応じてオゾン濃度を変化させる。なお、ガス流量および液循環流量は一定に保たれるので、気液反応器内の流動状態は不変となる。
【0012】
気液反応器であるエアリフト気泡塔(ドラフトチューブを設置して、その内部に通気する場合)の概略を図2に示す。気泡塔(1)底部の下方にマイクロバブル発生器(3)を取り付ける。ドラフトチューブ(2)は当該気泡塔に対して同心円状に設置され、ドラフトチューブの内部にマイクロバブルが供給される。気液は塔底から上向並流として流され、塔頂の溢流管から排出されるように構成される。
【0013】
図2はドラフトチューブの内部に通気する場合であるが、通気方法やドラフトチューブ(2)に代えて仕切り板を設置することにより対応することも可能であり、その具体的な態様を図3で示している。即ち、ドラフトチューブの内部に通気する場合は図3a)となるが、同塔における塔とドラフトチューブとの環状部への通気〔図3b)〕や同塔内に仕切り板を設置する場合〔図3c)〕や矩形槽内に仕切り板を適用〔図3d)〕することも可能である。これらは、塔に対する下降流部分の断面積の割合とそこでの液速度に基づいて設計することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明気液反応装置により、分解が困難な有機物質を含有しその濃度が経時的に変動する排水の処理を安価な運転経費で効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】気液反応装置を用いた処理プロセス(排水に対応する分解プロセス)を示す。
【図2】気液反応装置の概略を示す。
【図3】エアリフト気泡塔の構造を示す。
【図4】下降流部の液速度に及ぼす下降流部断面積の影響を示す。
【図5】下降流部の平均気泡径に及ぼす下降流部断面積の影響を示す。
【図6】液相基準物質移動容量係数に及ぼす下降流部断面積の影響を示す。
【図7】分解率に及ぼす下降流部断面積の影響を示す。
【実施例】
【0016】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれによって何らの限定を受けるものではない。
〔実施例〕
【0017】
気泡塔は内径0.190m、高さ1.90mの透明アクリル樹脂製とした。塔底部の下方にマイクロバブル発生器を取り付けた。塔頂からポンプへの液配管を設置し、液配管には液温度を一定とするための冷却器を取り付けた。ドラフトチューブは肉厚5mmの透明アクリル樹脂管で、塔に対して同心状に設置した。ドラフトチューブの長さは1.00mで一定とし、ドラフトチューブの径は0.070〜0.160mの範囲で変えた。塔断面積基準のガス空塔速度を0.29mm/s、液空塔速度を5mm/sで一定とした。なお、空塔速度とはガスまたは液の流量を塔断面積で除した値である。
流動特性の測定では、ガスに空気、液に水道水を用いた。流動状態を観察し、下降流部(塔とドラフトチューブとの間の環状部分)における液速度、下降流部における平均気泡径及び物質移動容量係数を測定した。平均気泡径は、硬性鏡と高速ビデオを組み合せて撮影したビデオ画像から求めた気泡径分布から算出した。
分解性能の測定では、ガスにオゾンガス、液にメチレンブルー(被分解物質)水溶液を用いた。オゾンガスの濃度は59g/m、メチレンブルーの濃度は3mmol/mとした。4分間オゾンを通気した後のメチレンブルー濃度を分析し、分解率を求めた。
【0018】
本実施例では、加圧ポンプと旋回流を利用するラインミキサから構成されるマイクロバブル発生器を用いたが、これに限定するものではなく、他のマイクロバブル発生法、例えばキャビテーション方式やフィルター方式などでも構わない。
【0019】
通常のガス分散器(ノズルや多孔質分散器)を用いてミリサイズの気泡を分散させる場合、本測定範囲のガス速度では気泡は下降流部(塔とドラフトチューブとの間の環状部分)に同伴されない。マイクロバブルを分散させる場合、ドラフトチューブ上端付近においてドラフトチューブ内部を上昇する気泡群のうち大気泡はさらに上方へ流れて液面から排出し、多くのマイクロバブルは液循環流により下降流部へ同伴される。ガス速度が高くなるにつれて、液循環流量が高くなり、下降流部へのマイクロバブルの同伴量が増える。大きいドラフトチューブではマイクロバブルは下降流部を円滑に流下するが、小さいドラフトチューブではかなり乱れて流下する。
【0020】
図4において、下降流部の液速度に及ぼす下降流部断面積の影響を示す。エアリフト気泡塔では非通気部が下降流部となる。横軸は、塔の断面積に対する下降流部の断面積の割合である。下降流部の液速度は、下降流部断面積の割合が小さくなるにつれて高くなる。
【0021】
図5には、下降流部の平均気泡径に及ぼす下降流部断面積の割合の影響を示す。平均気泡径は、下降流部断面積の割合が小さくなるにつれて増大する。これは、下降流部断面積の割合が小さくなるほど下降流部における液速度が高くなる(図4)ので、より大きなマイクロバブルも下降流部へ同伴されるためである。このことは、下降流部の液速度により下降流部へ同伴されるマイクロバブルの大きさを制御できることを意味する。
【0022】
図6に、液相基準物質移動容量係数に及ぼす下降流部断面積の割合の影響を示す。横軸1.0の値はドラフトチューブのない場合のデータである。ドラフトチューブを設置することにより、物質移動容量係数は著しく高くなる。これは、下降流部に同伴されるマイクロバブルが物質移動を大きく促進するためである。また、下降流部断面積の割合が小さくなるにつれて、下降流部の断面積が小さくなるにもかかわらず物質移動容量係数は高くなり、下降流部断面積の割合が0.7以下になるとほぼ一定となる。なお、液相基準物質移動容量係数kaとは、気液系でガスが分散相となる(液中に気泡が分散する状況)気液接触装置における物質移動性能を表す値である(物質移動容量係数が高いほど、性能の高い装置となる)。kは液相基準物質移動係数、aは比界面積(装置の単位体積あたりの気液界面積)を意味するが,両者が高いほど物質移動性能は高くなる。装置工学では両者の積である液相基準物質移動容量係数で装置性能を比較する。
【0023】
図7に、分解率に及ぼす下降流部断面積の割合の影響を示す。上記図6と同様、横軸1.0の値はドラフトチューブのない場合のデータである。物質移動容量係数と同様、分解率は、下降流部断面積の割合が小さくなるにつれて高くなり、下降流部断面積の割合が0.7より小さくなるとほぼ一定となる。また、分解率が物質移動容量係数と同様な傾向を示すことより、オゾンの溶解効率を高めるには、気液物質移動が重要因子であることがわかる。
【0024】
図6および図7の結果より、オゾンの溶解効率を高めるには塔の断面積に対する下降流部の断面積の割合を0.7以下にすることが有効であることがわかる。なお、この下降流部断面積の割合が0.7以下になると液の循環流が極めて低くなり、またマイクロバブルの循環流も少なくなるため、分解性能は低下する。このことは、ドラフトチューブを設置した円塔の環状部に通気する場合、仕切り板を設置した円塔や矩形槽を用いる場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0025】
下降流部の断面積 [m
A 塔の断面積 [m
/A 塔断面積に対する下降流部の断面積の割合 [−]
L,D 下降流部における液速度 [mm/s]
AVE,D 下降流部における平均気泡径 [μm]
a 液相基準物質移動容量係数(aは比界面積) [1/s]
X 分解率 [−]

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアリフト気泡塔にマイクロバブル発生器を組み込み、ドラフトチューブの径や仕切り板の位置によって塔に対する下降流部の断面積の割合を調整することにより、塔内におけるマイクロバブルの流動状態を制御することを特徴とする、気液反応方法。
【請求項2】
前記エアリフト気泡塔において,塔に対する下降流部の断面積の割合が0.7以下のものである、請求項1記載の気液反応方法。
【請求項3】
前記マイクロバルブ発生器に通される気体がオゾンである、請求項1〜2記載の気液反応方法。
【請求項4】
エアリフト気泡塔内にドラフトチューブあるいは仕切り板が設置され、塔底部にマイクロバルブ発生器が組み込まれたことを特徴とする、請求項1〜3何れかの気液反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−172842(P2010−172842A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19366(P2009−19366)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年8月9日 日本混相流学会主催の「日本混相流学会年会講演会2008(会津)」において文書をもって発表
【出願人】(593053335)日本リファイン株式会社 (15)
【Fターム(参考)】