説明

マイクロピペッタチップ先端部、マイクロピペッタチップ、及びマイクロピペッタ

【課題】マイクロピペッタを改良することにより、前処理工程を省略、又は簡略化し、コストの削減と生産性の向上を図る。
【解決手段】ピペッタチップ先端部4の中には、イオンを包接する包接化合物からなる、又は包接化合物を含有する高分子物質5が充填されている。高分子物質は典型的には薄膜状のものであるが、繊維状のものであってもよい。ピペッタチップ先端部4の先端部と反対側には孔の空いた蓋体6が設けられ、高分子物質5がピペッタチップ溶液保存部3内に流入しないようになっている。溶液中に含まれる目的のイオンは、溶液の吸入の際に高分子物質5に包接され、さらに、溶液が吐出されるときにも高分子物質5に包接される。よって、高分子物質5の物質を適当に選んでおくことにより、目的とするイオンを選択的に溶液中から除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロピペッタチップ先端部、マイクロピペッタチップ、及びマイクロピペッタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液検査をはじめとした生体検査においては、微量の被検試料液でいかに精度の高い検査が行えるかが鍵となる。そこで試料液内に含まれる不純物イオンを除去する前処理工程が必要となる。前処理工程においては、イオン交換樹脂を内部に有する装置等を用いて、不純物イオンを除去している。
【特許文献1】特開平10−290927号公報
【特許文献2】特開昭61−266952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、大量の被検試料を扱う場合、このような前処理工程を設けることは、前処理工程に時間とコストがかかり生産性向上において、大きな障害となっている。
【0004】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、被検試料液を吸い上げて他の場所に移す作用をするマイクロピペッタを改良することにより、前処理工程を省略、又は簡略化し、コストの削減と生産性の向上を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための第1の手段は、溶液を吸い上げて採取するマイクロピペッタに用いられるマイクロピペッタチップの先端部であって、内部に、包接化合物からなる、又は包接化合物を含有する高分子物質が存在することを特徴とするマイクロピペッタチップ先端部である。
【0006】
前記課題を解決するための第2の手段は、溶液を吸い上げて採取するマイクロピペッタに用いられるマイクロピペッタチップの先端部であって、その内壁に包接化合物の単分子膜が形成されており、かつ、包接化合物からなる、又は包接化合物を含有する高分子物質が、前記マイクロピペッタチップ先端部の内部に存在することを特徴とするマイクロピペッタチップ先端部である。
【0007】
前記課題を解決するための第3の手段は、前記第2の手段であって、前記包接化合物の単分子膜が、自己組織化により形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
前記課題を解決するための第4の手段は、前記第2の手段であって、前記包接化合物の単分子膜と前記マイクロピペッタチップ先端部の内壁の結合が、共有結合であることを特徴とするものである。
【0009】
前記課題を解決するための第5の手段は、前記第1の手段から第4の手段のいずれかであって、前記包接化合物がクラウンエーテル類であることを特徴とするものである。
【0010】
前記課題を解決するための第6の手段は、前記第1の手段から第5の手段のいずれかのマイクロピペッタチップ先端部を有することを特徴とするマイクロピペッタチップである。
【0011】
前記課題を解決するための第7の手段は、前記第6の手段のマイクロピペッタチップを有することを特徴とするマイクロピペッタである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被検試料液を吸い上げて他の場所に移す作用をするマイクロピペッタを改良することにより、前処理工程を省略、又は簡略化し、コストの削減と生産性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態の例を、図を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態の1例であるマイクロピペッタの概要を示す図である。マイクロピペッタは、溶液を吸引する吸引機構を有する本体部1と、その先に嵌め込まれて使用されるピペッタチップ2から成り立っている。嵌め込みの機構は図示を省略しているが、太さの違う管を嵌め込む単純な機構と同じである。
【0014】
ピペッタチップ2は、ピペッタチップ溶液保存部3とピペッタチップ先端部4とから成り立っている。これらは一体形成される場合もあるが、この実施の形態においては、ピペッタチップ溶液保存部3にピペッタチップ先端部4を嵌め込んで使用している。ピペッタチップ溶液保存部3とピペッタチップ先端部4とを一体形成したものも本発明の範囲に含まれる。
【0015】
ピペッタチップ先端部4は、その先端が溶液中に浸漬され、溶液をピペッタチップ溶液保存部3中に汲み上げるものであり、ピペッタチップ溶液保存部3は汲み上げた溶液をその中に一時的に保存しておくものである。ピペッタチップ先端部4は、先の尖った中空円筒型をしており、ピペッタチップ溶液保存部3は、中空の裁頭円錐形をしている。汲み上げられた溶液は、本体部1中のノブを押すことによって、再びピペッタチップ先端部4を通って外部に流出する。
【0016】
図2は、本発明の実施の形態の第1の例であるピペッタチップ先端部4の概要を示す図である。ピペッタチップ先端部4の中には、イオンを包接する包接化合物からなる、又は包接化合物を含有する高分子物質5が充填されている。高分子物質は典型的には薄膜状のものであるが、繊維状のものであってもよい。ピペッタチップ先端部4の先端部と反対側には孔の空いた蓋体6が設けられ、高分子物質5がピペッタチップ溶液保存部3内に流入しないようになっている。蓋体6が無くても高分子物質5がピペッタチップ溶液保存部3内に流入する恐れがないときは、あえて蓋体6を設ける必要はない。
【0017】
溶液中に含まれる目的のイオンは、溶液の吸入の際に高分子物質5に包接され、さらに、溶液が吐出されるときにも高分子物質5に包接される。よって、高分子物質5の物質を適当に選んでおくことにより、目的とするイオンを選択的に溶液中から除去することができる。
【0018】
図3は、本発明の実施の形態の第2の例であるピペッタチップ先端部4の概要を示す図である。これは、第1の実施の形態であるピペッタチップ先端部4の内壁に、包接化合物の単分子膜7を形成したものであり、その他の部分は第1の実施の形態と同じであるので、同じ部分の説明を省略し、異なる部分のみの説明を行う。
【0019】
包接化合物の単分子膜7は、後に実施例で示すように、少なくともその一端に包接基を有し、他端がガラスと共有結合を形成すると共に、その基同士が共有結合を形成する化合物をピペッタチップ先端部4内に浸漬することにより、自己組織化により形成され、ピペッタチップ先端部4の内壁を構成するガラスと結合される。ガラスとの結合には、配位結合、イオン結合もあるが、結合の強さの面からは、共有結合で結合させるのが有利である。
【0020】
包接化合物単分子膜形成においてガラス基板との結合部は、加水分解によりOH基を生成してガラス上のOH基と反応する基であればよく、特に制限はない。この様なものとしては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロピシシランなどがある。カリウムイオンを吸着する包接化合物構造式の例を以下に示す。この化合物は、OH基がガラスのOH基と反応して脱水反応によりSi−OHの共有結合を形成すると共に、分子同士のOH基が反応して脱水反応によりSi−O−Siの共有結合を形成し、単分子膜となる。よって、ガラス表面に高分子化合物の単分子膜が形成される。
【化1】

【0021】
このように、ピペッタチップ先端部4の内壁に包接化合物の単分子膜7を設けることにより、管壁を通る溶液中のイオンが包接されやすくなる。
【0022】
図4は、本発明の実施の形態の第3の例であるピペッタチップ先端部4の概要を示す図である。これは、第2の実施の形態であるピペッタチップ先端部4の変形例である。この実施の形態においては、ピペッタチップ先端部4の中全体に高分子物質5が設けられておらず、孔の空いた下部ストッパ8が設けられており、蓋体6と下部ストッパ8との間に高分子物質5が充填されている。その作用効果は、第2の実施の形態であるピペッタチップ先端部4と同じである。又、この例から包接化合物の単分子膜7を取り去れば、第1の実施の形態であるピペッタチップ先端部4の変形例となり、その作用効果は第1の実施の形態であるピペッタチップ先端部4と同じである。
【0023】
なお、以上の実施の形態のピペッタチップ先端部4において、包接化合物の包接基は、鎖の先端部にある必要はなく、鎖の途中に存在するようなものであってもよい。また、高分子化合物は、包接化合物のみからなるもので無くてもよく、包接化合物と他の化合物の混合物からなるものであってもよい。
【0024】
このようなピペッタチップ先端部4は、単独でも製造販売可能であり、ピペッタチップ溶液保存部3と組み合わせて製造したり、ピペッタチップ溶液保存部3と組み合わせて販売したりすることができる。又、使用に際しては、ピペッタチップ溶液保存部3及び本体部1と組み合わせて使用されることは言うまでもない。ピペッタチップ先端部4は、包接化合物の単分子膜7を形成しないときは、ガラスやポリプロピレンで製造可能であるが、包接化合物の単分子膜7を形成する場合には、ガラスを用いることが好ましい。又、ピペッタチップ溶液保存部3は、通常、ポリプロピレンで製造される。
【0025】
代表的で好ましい包接化合物としては、クラウンエーテル化合物がある。クラウンエーテル化合物として、12-crown-4, 15-crown-5, 18-crown-6, Benzo-12-crown-4, Benzo-15-crown-5, Benzo-18-crown-6, Dicyclohexyl 18-crown-6, Dibenzo -18-crown-6などがある。
【0026】
上記のクラウンエーテル類が捕捉するイオンとしては、Liイオン、Naイオン、Kイオン、Pbイオン、Srイオン、Baイオンが挙げられる。一例として、Naイオン検査時におけるKイオンの分離除去に本発明のピペッタチップを用いる例を説明する。
【0027】
18-crown-6とKイオンとの錯形成反応は以下の式で表され、その錯安定度定数をKとすると、Log K = 2.1となり、18-crown-6とNaイオンのLog K = 0.8に比べて高く、選択的なイオン吸着が可能となる。
【数1】

【実施例】
【0028】
(1)包接化合物単分子膜の作成
まず中空のガラス製5ml用ピペッタチップ先端部を、1wt%のBenzo-18-crown-6 末端修飾シリカ(化1として示された化合物)のメタノール溶液に、Dip Coaterを利用して30 s浸漬し、600 mm/minで引き上げた。Dip後のガラス基板を100℃で2時間乾燥機を用いて乾燥させことにより、結合を進行させ、管壁への包接化合物単分子膜形成を行った。
【0029】
(2)包接化合物含有高分子膜の作成
18-crown-6、ポリ塩化ビニル、セバシン酸ジオクチル、テトラヒドラフランを混合して、混合液を乾燥させることにより、Benzo-18-crown6を含有する高分子膜を作成した。
【0030】
(3)ピペッタチップの形成
(1)で形成したピペッタチップ先端部の内部に(2)で形成した高分子膜を充填し、図2に示すようなピペッタチップ先端部を完成させた。そして、5ml用ピペッタチップの溶液保存部に嵌め込み、ピペッタチップを完成させた。
【0031】
(4)不純物イオン除去方法及び除去確認
上記において作成した5ml用ピペッターチップを市販のピペッターに取り付け、1mol/lのNaイオンとKイオンの混合溶液をピペッターを用いて10 ml採取し、別容器への吐出を行った。吐出後の溶液について、市販のカリウムセンサーによりKイオン濃度を測定すると、0.01mol/lであった。99%のKイオンが除去されていることが確認された。Naイオン量は変化がないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態の1例であるマイクロピペッタの概要を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態の第1の例であるピペッタチップ先端部の概要を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態の第2の例であるピペッタチップ先端部の概要を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態の第3の例であるピペッタチップ先端部の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1…本体部、2…ピペッタチップ、3…ピペッタチップ溶液保存部、4…ピペッタチップ先端部、5…高分子物質、6…蓋体、7…包接化合物の単分子膜、8…下部ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液を吸い上げて採取するマイクロピペッタに用いられるマイクロピペッタチップの先端部であって、内部に、包接化合物からなる、又は包接化合物を含有する高分子物質が存在することを特徴とするマイクロピペッタチップ先端部。
【請求項2】
溶液を吸い上げて採取するマイクロピペッタに用いられるマイクロピペッタチップの先端部であって、その内壁に包接化合物の単分子膜が形成されており、かつ、包接化合物からなる、又は包接化合物を含有する高分子物質が、前記マイクロピペッタチップ先端部の内部に存在することを特徴とするマイクロピペッタチップ先端部。
【請求項3】
前記包接化合物の単分子膜が、自己組織化により形成されていることを特徴とする請求項2に記載のマイクロピペッタチップ先端部。
【請求項4】
前記包接化合物の単分子膜と前記マイクロピペッタチップ先端部の内壁の結合が、共有結合であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のマイクロピペッタチップ先端部。
【請求項5】
前記包接化合物がクラウンエーテル類であることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載のマイクロピペッタチップ先端部。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載のマイクロピペッタチップ先端部を有することを特徴とするマイクロピペッタチップ。
【請求項7】
請求項6に記載のマイクロピペッタチップを有することを特徴とするマイクロピペッタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−261731(P2008−261731A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104728(P2007−104728)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】