説明

マイクロプレートの処理装置

【課題】蓋の保持機構についてのコストを抑えるとともに配置の自由度を高めたマイクロプレートの処理装置を提供する。
【解決手段】マイクロプレート5から離脱された蓋13を所定の位置で保持する蓋保持機構12と、保持ヘッド9に左右から挟まれて保持されたマイクロプレートを所定の位置を含む所定の範囲内で移送する直交座標型ロボット8を備え、蓋保持機構12が、保持ヘッドに保持されたマイクロプレートの左右方向の幅より大きい間隔をおいて配置された一対の軸受け部と、一対の軸受け部に互いに接離する方向に変位可能に軸支された一対の回転軸と、一対の回転軸のそれぞれに装着された一対の回転体と、一対の回転軸を互いに近接する方向に付勢する付勢手段を備え、一対の回転体が蓋を左右から挟んで保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上面に複数のウェルが形成された矩形のマイクロプレートと、マイクロプレートの上面を覆う蓋からなるマイクロプレートの処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロプレートのウェルに試薬等の液体を供給する分注装置では、複数のマイクロプレートを連続的に取り扱うため、マイクロプレートに付属する蓋を自動的に着脱する機能が要求されている。蓋はマイクロプレートの本体の上部を覆うように載置されているだけであるので、蓋と本体を上下に相対的に移動させることで蓋を着脱することができる。特許文献1には、蓋の上面をパッドで吸着することで蓋を保持し、ロボットアームによって本体を上下動させて蓋の着脱を行う技術が開示されている。
【特許文献1】特開2002−333450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示された技術は、複数の吸着パッドを負圧に維持するための真空ポンプと、真空ポンプとそれぞれ吸着パッドを連結する配管を必要とする。また任意の蓋を着脱できるようにするため、各配管にはそれぞれ電磁バルブを備えなければならない。このためコストが嵩むだけではなく、配管の取り回しの点から配置が制限されるという問題がある。また真空ポンプの騒音や振動が精密さを要求される分注作業に好ましくない影響を与えることも考えられる。
【0004】
本発明は、蓋の保持機構についてのコストを抑えるとともに配置の自由度を高めたマイクロプレートの処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載のマイクロプレートの処理装置において、上面に複数のウェルが形成された矩形のマイクロプレートと、マイクロプレートの上面を覆う蓋からなる蓋付きマイクロプレートを取り扱うマイクロプレートの処理装置であって、マイクロプレートから離脱された蓋を所定の位置で保持する蓋保持機構と、保持ヘッドに左右から挟まれて保持されたマイクロプレートを前記所定の位置を含む所定の範囲内で移送するマイクロプレート移送機構を備え、前記蓋保持機構が、前記保持ヘッドに保持されたマイクロプレートの左右方向の幅より大きい間隔をおいて配置された一対の軸受け部と、前記一対の軸受け部に互いに接離する方向に変位可能に軸支された一対の回転軸と、前記一対の回転軸のそれぞれに装着された一対の回転体と、前記一対の回転軸を互いに近接する方向に付勢する付勢手段を備え、前記一対の回転体が蓋を左右から挟んで保持する。
【0006】
請求項2に記載のマイクロプレートの処理装置は請求項1に記載のマイクロプレートの処理装置であって、前記保持ヘッドがマイクロプレートの後方側を保持し、前記一対の回転体が蓋の前方側を保持し、前記保持ヘッドがマイクロプレートを保持する箇所と、前記一対の回転体が蓋を保持する箇所が上下方向において重ならない。
【0007】
請求項3に記載のマイクロプレートの処理装置は請求項1または2に記載のマイクロプレートの処理装置であって、前記回転体の断面形状が六角形以上の正多角形である。
【0008】
請求項4に記載のマイクロプレートの処理装置は請求項1乃至3の何れかに記載のマイクロプレートの処理装置であって、前記回転体が前記回転軸の軸方向に離間して装着され
ている。
【0009】
請求項5に記載のマイクロプレートの処理装置は請求項1乃至4の何れかに記載のマイクロプレートの処理装置であって、前記蓋保持機構が上下方向に所定の間隔で複数備えられている。
【発明の効果】
【0010】
マイクロプレートから離脱された蓋は互いに近接する方向に付勢された一対の回転体に左右から挟まれて保持され、外部から駆動力を付与する必要がないので、これに伴うランニングコストおよびイニシャルコストの負担増や駆動系統の取り回しによる配置の制約を受けることがなく、また、駆動による騒音や振動等が精密作業に与える影響を払拭することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
添付した図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1はマイクロプレートの処理装置の構成を示す斜視図、図2は蓋保持機構を示す(a)正面図(b)平面図、図3はマイクロプレートから蓋を離脱するまでの工程図、図4はマイクロプレートに蓋を装着するまでの工程図である。
【0012】
マイクロプレートの処理装置は分注装置1においてマイクロプレートに対して特定の処理を行う装置である。分注ヘッド2は同じ高さで規則的に配列された複数のノズル3を備えている。分注ヘッド2はリザーバ4に貯えられた液状の試料を各ノズル3で適量吸引し、マイクロプレート5のウェル6に吐出する機能を備えている。マイクロプレート5は一辺が長い矩形であり、その上面に複数のウェル6が規則的に形成されている。各ノズル3は個々のウェル6に対応して配列されている。リザーバ4とマイクロプレート5は基台7に設定された所定の位置に配置されている。直交座標型ロボット8は分注ヘッド2を基台7の上方で水平移動させる機能を備えている。分注ヘッド2は直交座標型ロボット8によってリザーバ4とマイクロプレート5の間を移動し、リザーバ4に貯えられた液状の試料をマイクロプレート5に供給する分注作業を連続して行う。
【0013】
保持ヘッド9は、同じ高さに配置された一対のアーム10を互いに近接または離反させる方向に移動させることで、マイクロプレート5の長辺側の側面を左右から挟んで保持し、または保持を解除する機能を備えている。保持ヘッド9は、直交座標型ロボット8とは別に設けられた直交座標型ロボット80によって所定の範囲内で水平移動が可能であるとともに昇降機構11によって上下移動も可能であり、一対のアーム10によって保持したマイクロプレート5を移送するマイクロプレート移送機構としての機能を備えている。
【0014】
蓋保持機構12は蓋13を所定の位置で一時的に保管しておく役割を担っている。蓋13はマイクロプレート5と同じく一辺が長い矩形であり、マイクロプレート5の上面を覆うことでウェル6を外部環境から遮断して清潔に保つ役割を担っている。蓋13の縁には、下方へ延びる側壁が形成されており、この側壁の外側の面が蓋13の側面13aを構成している。分注作業時にはウェル6を開放する必要があるため、蓋13をマイクロプレート5から離脱しなければならない。蓋保持機構12はマイクロプレート5から蓋13を離脱するとともに、分注装置1において分注作業が行われる間、マイクロプレート5から離脱した蓋13を保持しておく機能を備えている。
【0015】
図2は蓋保持機構を示す(a)正面図と(b)平面図である。蓋保持機構12はコ字型のフレーム14を主体として構成されている。水平に配置されたフレーム14の下側に対向する一対の軸受け部15がボルト16によって装着されている。一対の軸受け部15には水平方向に長い軸受け孔17がそれぞれ形成されており、この軸受け孔17のそれぞれ
に回転軸18が挿通されて軸受けされている。回転軸18は軸受け孔17に沿って水平方向に所定の範囲で移動自在であり、これにより一対の回転軸18は互いに近接または離反する方向に変位可能になっている。一対の回転軸18の両端には軸方向と直交する断面の形状が正八角形である回転体19が軸方向に離間して装着されている。
【0016】
一対の軸受け部15には水平方向に穿孔された空隙部20に接触部材21が移動自在に挿通されている。接触部材21は空隙部20に内蔵された圧縮ばね22の弾性力によってその先端が回転軸18に接触する方向に付勢されている。これにより一対の回転軸18は互いに近接する方向に付勢された状態になっている。この圧縮ばね22による付勢力に抗し得る外力が作用したときに一対の回転軸18は軸受け孔17に沿って互いに離反する方向に移動することができる。
【0017】
一対の回転軸18に装着された一対の回転体19は、圧縮ばね22の弾性力によって蓋13の長辺側の側面13aを左右から挟み込んでこれを保持する。蓋13を保持する位置は、長辺に対して略前半分となる位置であり、かつ上下方向において蓋13がフレーム14に重ならない位置である。なお、保持ヘッド9に装着された一対のアーム10がマイクロプレート5を保持する位置は、マイクロプレート5の長辺に対して略後半分となる位置である。このため、保持ヘッド9がマイクロプレート5を保持する箇所と一対の回転体19が蓋13を保持する箇所は上下方向において重ならないようになっている。
【0018】
一対の軸受け部15は、その間をマイクロプレート5や蓋13が上下方向に通過できるように、マイクロプレート5や蓋13の短辺の長さより大きい間隔をおいて配置されている。そして一対の回転体19は、最も接近した箇所の間隔が蓋13の短辺の長さより小さくなっており、蓋13をその間に挟み込んだ際に圧縮ばね22の弾性力によって保持できるようになっている。
【0019】
フレーム14にはさらに光電センサ23を備えている。光電センサ23は検出物に向けて光を発射し、検出物によって反射された光を受光して検出物の有無を検出する反射型センサであり、ここでは蓋13が一対の回転体19の間に保持されているかどうかを検出する。
【0020】
図3はマイクロプレートから蓋を離脱するまでの工程を示している。この離脱工程は以下の手順で行われる。最初に蓋13が装着されたマイクロプレート5を左右方向から一対のアーム10で保持し、蓋13を一対の回転体19の間に向けて上昇させる(矢印A)。蓋13は上昇過程で一対の回転体19に接触し、これらの間隔を押し広げてその間に入り込む。その後蓋13が一対の回転体19によって左右から確実に保持される高さに到達したら(これは光電センサ23によって検出される)、一対のアーム10を下降させ、蓋13を残してマイクロプレート5のみを下降させる(矢印B)。これにより蓋13はマイクロプレート5から離脱され、蓋保持機構によって左右から挟まれて保持される。マイクロプレート5はそのまま分注作業を行う所定の位置まで移送され、蓋13が離脱されたことで開放されたウェルに試料の供給を受ける。
【0021】
図3(b)に示すように一対の回転体19は、その断面形状の正八角形によって回転面に形成される8つの平面のうち何れかの面で蓋13の左右両側面と接触してこれを保持する。図3(a)に示すように一対の回転体19は回転角によっては平面が蓋13の側面と平行になっていない場合があるが、上昇する蓋13と接触することで適度に回転しつつ(矢印a)互いに離反する方向(矢印b)に移動する。回転体19が移動した分だけ圧縮ばね22が縮み、予め圧縮されていた分と併せた弾性力が蓋13の左右両側面に作用する(矢印c)。
【0022】
図4はマイクロプレートに蓋を装着するまでの工程を示している。この装着工程は以下の手順で行われる。最初に分注作用を終えたマイクロプレート5を左右方向から一対のアーム10で保持し、蓋保持機構によって所定の位置に保持された蓋13に向けて上昇させる(矢印C)。マイクロプレート5は上昇過程でその上面に蓋13を被せた状態となり(図4(b))、そのままさらに上昇させると蓋13も一体となって上昇し、一対の回転体19の間から離脱する(矢印D)。これにより蓋13がマイクロプレート5に装着される。
【0023】
なお、一対の回転体19はその対向する2つの面と蓋13の左右両側面の間に生じる摩擦力で蓋13を保持することになるので、回転角に関係なく一定の摩擦力が得られるように断面形状は正多角形であるのが好ましく、蓋13を保持するために必要な摩擦力を確保する観点からは六角形か八角形程度の多角形であることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明はマイクロプレートに試料を供給する分注装置を使用する分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】マイクロプレートの処理装置の構成を示す斜視図
【図2】蓋保持機構を示す(a)正面図(b)平面図
【図3】マイクロプレートから蓋を離脱するまでの工程図
【図4】マイクロプレートに蓋を装着するまでの工程図
【符号の説明】
【0026】
1 分注装置
5 マイクロプレート
6 ウェル
8 直交座標型ロボット
9 保持ヘッド
12 蓋保持機構
13 蓋
15 一対の軸受け部
18 一対の回転軸
19 一対の回転体
22 圧縮ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に複数のウェルが形成された矩形のマイクロプレートと、マイクロプレートの上面を覆う蓋からなる蓋付きマイクロプレートを取り扱うマイクロプレートの処理装置であって、
マイクロプレートから離脱された蓋を所定の位置で保持する蓋保持機構と、保持ヘッドに左右から挟まれて保持されたマイクロプレートを前記所定の位置を含む所定の範囲内で移送するマイクロプレート移送機構を備え、
前記蓋保持機構が、前記保持ヘッドに保持されたマイクロプレートの左右方向の幅より大きい間隔をおいて配置された一対の軸受け部と、前記一対の軸受け部に互いに接離する方向に変位可能に軸支された一対の回転軸と、前記一対の回転軸のそれぞれに装着された一対の回転体と、前記一対の回転軸を互いに近接する方向に付勢する付勢手段を備え、
前記一対の回転体が蓋を左右から挟んで保持することを特徴とするマイクロプレートの処理装置。
【請求項2】
前記保持ヘッドがマイクロプレートの後方側を保持し、前記一対の回転体が蓋の前方側を保持し、前記保持ヘッドがマイクロプレートを保持する箇所と、前記一対の回転体が蓋を保持する箇所が上下方向において重ならないことを特徴とする請求項1に記載のマイクロプレートの処理装置。
【請求項3】
前記回転体の断面形状が六角形以上の正多角形であることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロプレートの処理装置。
【請求項4】
前記回転体が前記回転軸の軸方向に離間して装着されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のマイクロプレートの処理装置。
【請求項5】
前記蓋保持機構が上下方向に所定の間隔で複数備えられていることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のマイクロプレートの処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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