説明

マイクロホン装置

【課題】指向性が強く、かつ簡易な構成を有するマイクロホン装置を提供する。
【解決手段】内部空間26が形成されたハウジング16内に、内部空間26に正面が向くよう無指向性エレメント12と単一指向性エレメント14を配置する。ハウジング16には、内部空間26に音波を導入するための導入開口24と、単一指向性エレメントの背面と外部をつなぐ背面開口が形成されている。導入開口24を通る面(縦断面M)に関し、2個のエレメント12,14は、この面を挟むように対称に配置される。また、内部空間26の形状は、縦断面Mに関して対称である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロホン装置、特に指向性を有するマイクロホン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二つのマイクロホンを組み合わせて指向性を向上させる技術が知られている。例えば、無指向性マイクロホンと単一指向性マイクロホンそれぞれで検出された音信号を差し引きすることで、より強い指向性を得る技術が知られている。音源から二つのマイクロホンまでの距離が異なる場合、二つのマイクロホンで検出された信号を差し引き、所望の指向性を得るためには、これらの信号の位相を調整する必要があった。
下記特許文献には、二つのマイクロホンで検出された信号に対し、一方のマイクロホンについて、伝播時間や演算処理などの時間遅延を保証するために遅延回路を設ける構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−133388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二つのマイクロホンで検出された信号の位相を調整するために遅延回路を設ける必要があった。そして、遅延回路の特性がばらつくなどの問題がある場合、量産化にあたっては、二つのマイクロホンの距離をとり、遅延回路の特性のばらつきに対する影響が小さくなるように考慮しなければならなかった。このため、設置スペースの制約がある場所で、二つのマイクロホンを用いた装置を設けることが難しかった。
【0005】
本発明は、二つのマイクロホンを用いて指向性を得る一方、遅延回路を不要とするマイクロホン装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のマイクロホン装置は、二つのマイクロホンである無指向性エレメントと単一指向性エレメントを組み合わせ、これらのエレメントにより検出された信号を差し引きして、より強い指向性を得る装置である。二つのエレメントは、共通のハウジングに収容される。ハウジングには内部空間が形成されており、二つのエレメントの正面側は、ハウジングの内部空間に向いている。また、ハウジングには、内部空間に音波を導入するための導入開口と、指向性エレメントの背面側と外部をつなぐための背面開口が形成されている。ハウジングの内部空間において、導入開口から無指向性エレメントまでの音波の経路長と、導入開口から単一指向性エレメントまでの音波の経路長とが等しくされている。
【0007】
また、ハウジングの内部空間を、導入開口を通る面に関して対称な形状とし、また無指向性エレメントと単一指向性エレメントを、導入開口を通る前記の面を挟むように対称に配置することができる。
【発明の効果】
【0008】
ハウジング内部空間の形状の対称性、二つのエレメントの配置の対称性により、導入開口から二つのエレメントへ達する音波の経路長は等しくなり、遅延回路により位相調整が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態のマイクロホン装置10の断面を示す図である。
【図2】マイクロホン装置10の概略の外形を示す斜視図である。
【図3】マイクロホン装置10の断面図である。
【図4】マイクロホン装置10の指向性チャートである。
【図5】マイクロホン装置10の電気回路構成を示す図である。
【図6】他のマイクロホン装置の電気回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。以下の説明においては、自動車の室内、特に乗用車の運転席と助手席の間の天井近傍に設けられたマイクロホン装置を例に挙げる。しかしながら、本発明は、この例に限定されるものではない。
【0011】
図1〜図3は、マイクロホン装置10の構成を示す図である。図1は図3に示すA−B−C−D線における断面図であり、図2は、図1の斜め下方から見た斜視図であり、図3は図1に示すE−E線における断面図である。
【0012】
マイクロホン装置10は、運転席と助手席の間の天井近傍、例えばオーバヘッドコンソール等に内蔵され、オーバヘッドコンソールの意匠面Pの内部に配置される。図1において下方が車室空間であり、右方向Y1が運転席側、左方向Y2が助手席側である。マイクロホン装置10は、二つのマイクエレメント(以下、エレメントと記す。)を有する。二つのエレメントは、ダイアフラム型マイクであり、一方が無指向性、他方が単一指向性である。無指向性エレメントを符号12で示し、単一指向性エレメントを符号14で示す。二つのエレメント12,14は、ハウジング16に収められている。ハウジング16は、概略四角形の枠状のフレーム18と、フレーム18の一方の面全体を覆うように設けられた基板20を含む。基板20には、エレメント12,14で検出された音波を電気信号に変換し、さらにこれらの信号の処理を行う電気回路が実装されている。
【0013】
ハウジング16は、車室に向いて開放した開放空間22と、開口24を介してこれに繋がる内部空間26を形成している。開口24は、車室内から開放区間22を介して内部空間26内に音波を導入するための開口であり、以下、導入開口24と記して説明する。内部空間26には、エレメント12,14を収め、保持するための収容窪み28,30が設けられている。収容窪み28,30は、内部空間26において、導入開口24の反対側の端に設けられている。二つのエレメント12,14は、それぞれ各エレメントの正面を内部空間26に向けて収容窪み28,30内に収められる。単一指向性エレメント14を収める収容窪み30の底には、開口32が設けられている。この開口32を介して単一指向性エレメント14の背面と車室がつながる。単一指向性エレメント14の背面に対し設けられているという意味で、開口32を背面開口32と記す。内部空間26は、導入開口24と背面開口32のみで外部に繋がった、閉じた又は囲まれた空間である。
【0014】
図3に良く示されるように、ハウジングの内部空間26は、開口24の中央を通る縦断面Mに関して対称の形状を有している。また、無指向性エレメント12と単一指向性エレメント14は、縦断面Mを挟むように、かつ縦断面Mに関して対称に配置される。これにより開口24から二つのエレメント12,14までの距離は、ほぼ等しくなり、開口から内部空間26に導入された音波は、ほぼ同時に二つのエレメント12,14に到達する。
【0015】
図4は、マイクロホン装置10の指向性を示すチャートである。図4の紙面は、水平面に一致し、図中の右方向Y1が運転席側、左方向Y2が助手席側である。無指向性エレメント12には、車室内から開放空間22、導入開口24、内部空間26を介して音波が達する。一方、単一指向性エレメント14に関しては、無指向性エレメント12と同様の経路でエレメント正面側に伝播する音波と、車室内から背面開口32を介してエレメント背面側に達する音波とがある。これらの音波の位相が揃うと、干渉し、単一指向性エレメント14のダイアフラムは振動しなくなる。図1を見ると、マイクロホン装置10においては、助手席側(Y2)から、内部空間26を介してエレメント正面側に達する音波の経路も、背面開口32を介してエレメント背面側に達する音波の経路もほぼ同じである。一方で、運転席側(Y1)から、内部空間26を介してエレメント正面側に達する音波の経路は、背面側に達する経路に比べ、大きく迂回しているため位相遅れが生じる。マイクロホン装置10においては、エレメント14において、指向性が助手席側(Y1)となるように、正面側と背面側とで位相が調整されている。特に、エレメント14内の背面側に位相調整板を設けることにより、ダイアフラムに達する音波の位相を調整している。この結果、単一指向性エレメント14の指向性は、図4のチャートS2のようになっている。無指向性エレメント12のチャートS1は全方位に対して均一である。
【0016】
無指向性エレメント12で得られた信号から、単一指向性エレメント14で得られた信号を減算すると、合成されたチャートS3が得られる。このチャートS3で示された指向性は、運転席側(Y1)に向き、しかも、単一指向性エレメント14のチャートS2よりも指向性が強くなっている。これにより、運転者の声を特に良く拾うマイクロホン装置が提供される。
【0017】
図5は、マイクロホン装置10の信号処理回路の構成を示す図である。二つのエレメント12,14に音波が電気信号に変換され、更にA/D変換器34,36によりデジタル信号に変換され、一方が反転されて加算器38で加算される。これをD/A変換器40で再度アナログ信号に変換し、これを出力する。前述のように、導入開口24から二つのエレメント12,14までの距離はほぼ等しいため、二つの信号の位相調整を行う必要がなく、遅延回路は設けられていない。
【0018】
図6は、他の実施形態のマイクロホン装置の回路構成を示す図である。このマイクロホン装置は、2個の無指向性エレメント12A、12Bを備える。ハウジング等の構成は、前述のマイクロホン装置10とほぼ同様であるが、単一指向性エレメント14を用いないために、背面開口32は設けられていない。他の構成については、同一の構成である。図6の回路に示されるように、一方のエレメント12Aの出力信号はA/D変換された後、高域を通過させるハイパスフィルタ42を介して加算器38に送られる。他方のエレメント12Bは、A/D変換された後、加算器38に送られる。加算器38では、一方を反転させた後で加算し(差分をとり)、再びアナログ信号に変換の後、出力する。合成された出力信号は、低域が大きく減衰した信号となり、例えば風切り音の低減に役立つ。
【0019】
<付記>
2個の無指向性エレメントを組み合わせて用いるマイクロホン装置であって、
2個の無指向性エレメントを収容するハウジングを有し、
収容部には、2個の無指向性エレメントの正面が向く内部空間と、内部空間に音波を内部空間へ導入するための導入開口とが設けられ、
前記導入開口を通る面に関し、2個の無指向性エレメントが対称に配置され、前記内部空間の形状が対称であり、
さらに、一方の無指向性エレメントの出力信号をハイパスフィルタを通して他方の無指向性エレメントの出力信号から差し引く処理回路を有する、
マイクロホン装置。
【符号の説明】
【0020】
10 マイクロホン装置、12 無指向性エレメント、14 単一指向性エレメント、16 ハウジング、22 開放空間、24 導入開口、26 内部空間、32 背面開口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無指向性エレメントと単一指向性エレメントを組み合わせて用いるマイクロホン装置であって、
無指向性エレメントと単一指向性エレメントを収容するハウジングと、
無指向性エレメントと単一指向性エレメントで得られた検出信号の差分をとる処理回路と、
を有し、
ハウジングには、無指向性エレメントと単一指向性エレメントの正面が向く内部空間と、内部空間に音波を内部空間へ導入するための導入開口と、単一指向性エレメントの背面と外部をつなぐ背面開口とが設けられ、
前記内部空間内の、導入開口から無指向性エレメントまでの音波の経路長と、導入開口から単一指向性エレメントまでの音波の経路長とが等しい、
マイクロホン装置。
【請求項2】
無指向性エレメントと単一指向性エレメントを組み合わせて用いるマイクロホン装置であって、
無指向性エレメントと単一指向性エレメントを収容するハウジングと、
無指向性エレメントと単一指向性エレメントで得られた検出信号の差分をとる処理回路と、
を有し、
ハウジングには、無指向性エレメントと単一指向性エレメントの正面が向く内部空間と、内部空間に音波を内部空間へ導入するための導入開口と、単一指向性エレメントの背面と外部をつなぐ背面開口とが設けられ、
前記導入開口を通る面に関し、無指向性エレメントと単一指向性エレメントが対称に配置され、前記導入開口を通る面に関し前記内部空間の形状が対称である、
マイクロホン装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate