説明

マイクロホン装置

【課題】 音源からマイクロホンアレイのマイクロホンまでの距離が異なっていても、広い周波数帯に亘って鋭い指向性を持たせる。
【解決手段】 マイクロホンアレイ2において、マイクロホン8−1乃至8−8によって7つのマイクロホンユニットを構成し、ビームフォーミング部12は、7つのマイクロホンユニットからの音声信号を入力して、各マイクロホンの指向性を合成した指向性を有する音声信号を出力する。音源と各マイクロホンとの各距離差に基づいて各マイクロホンの音声信号に発生する遅延を一致させるように遅延量が調整された遅延回路10−1乃至10−8が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロホン装置に関し、特にマイクロホンアレーを用いたものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばスピーチを行う際に、マイクロホン、アンプ及びスピーカを使用して拡声することがある。この場合、マイクロホンを話者の口の当たりに設置して、収音するオンマイク状態とすることがある。オンマイク状態では、話者の動きによって音量や音質が過敏に変動し、また、話者の口元にあるマイクロホンが話者のスピーチの邪魔になることもある。そのため、話者から或る程度離れてマイクロホンを設置して収音するオフマイク状態とすることもある。しかし、この場合、話者の周囲の雑音も収音しやすくS/Nが低下するし、ハウリングに対する耐性も低下する。そこで、例えば特許文献1に開示されているような指向性を持たせたマイクロホン装置をオフマイク状態で使用することが考えられる。
【0003】
特許文献1の技術は、第1乃至第3の3本の単一指向性のマイクロホンを隣接するものの間の距離Dが予め定めた距離となるように一列に配置し、音源からの音を第1乃至第3のマイクロホンが収音するようにし、中央の第2のマイクロホンの音声信号のレベルを調整し、第2のマイクロホンの音声信号と両側の第1及び第3のマイクロホンの音声信号とを合成して、合成信号を出力することを基本とするものである。この合成信号は、上記距離Dによって定まる周波数に指向性のピークを持つ鋭い指向性を示す。上記距離を変更することによって、指向性のピークが発生する周波数を異ならせた鋭い指向性とすることができる。従って、例えば第1のマイクロホンの外側に距離2Dを空けて第4のマイクロホンを設置し、第1、第3及び第4のマイクロホンにおいて、中央の第1のマイクロホンの音声信号のレベルを調整し、第2及び第4のマイクロホンの音声信号と合成して、合成信号を出力する。第4のマイクロホンの外側に4Dの距離を空けて第5のマイクロホンを設置し、第3、第4及び第5のマイクロホンにおいて、中央の第4のマイクロホンの音声信号のレベルを調整し、第2及び第5のマイクロホンの音声信号と合成して、合成信号を出力する。それぞれ異なる周波数に指向性のピークを持つ合成信号をさらに合成することによって、広い周波数帯に亘って鋭い指向性を持たせたマイクロホン装置が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3732041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術は、音源がかなり各マイクロホンから離れて位置し、音源から各マイクロホンには時間差無く音声が到達して音声信号を発生することを前提としている。しかし、上記のマイクロホン装置を演台などに用いて上述したようなスピーチに使用する場合、音源である話者は、マイクロホン装置から比較的近くに位置することになる。そうすると、音源からの音声は各マイクロホンには時間差を持って到達することになる。音源に対してマイクロホン装置が充分小さければ、当該時間差は生じ得ないが、通常音声を充分収音できるように広く周波数帯をカバーしようと思えば、マイクロホン装置の各マイクロホンを充分離間しなければならず、各マイクロホンは話者に対してそれなりに距離を持つ必要があり、距離差を生じてしまう。このようにマイクロホンによって音源から距離差を生じると、上述したような複数のマイクロホンの音声信号を合成するに際して、位相がずれた音声が合成され、又は位相のずれによっては音声信号が打ち消しあって、音源からの距離差が無ければ或る周波数で鋭い指向性を示していた特定の周波数帯域において指向性を持たせる効果が達成し得ない。その結果、最終的に合成された音声信号の音質が本来の音質と異なったものとなる。また、音源である話者が移動したり、首を振ったりする度に話者と各マイクロホンとの距離差が変化し、音質が変化する。
【0006】
本発明は、音源から各マイクロホンまでの距離が異なっていても広い周波数帯に亘って鋭い指向性を持つマイクロホン装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様のマイクロホン装置は、マイクロホンアレイを有している。このマイクロホンアレイは、複数のマイクロホンユニットを複数配列して構成されている。各マイクロホンユニットは、互いに間隔を空けて配列された複数のマイクロホンから構成され、各マイクロホンユニットごとにマイクロホン間の間隔は異なっている。マイクロホンユニットを構成するマイクロホンは2本以上の任意の数とすることができ、各マイクロホンユニットのマイクロホンの本数は、同数とすることもできるし、マイクロホンユニットごとに異なる本数とすることもできる。各マイクロホンユニットにおけるマイクロホン間の間隔は、同じマイクロホンユニット内におけるマイクロホン間の間隔は、同一とすることもできるし、異なったものとすることもできる。マイクロホン指向性調整手段は、各マイクロホンユニットごとに合成手段を有し、各合成出段は、前記各マイクロホンユニットにおける前記一組のマイクロホンが音源からの音を収集して発生した音声信号を合成して合成信号を出力する。マイクロホン指向性調整手段では、各合成手段によって得られた前記各マイクロホンユニットごとに出力された合成信号を、更に再合成手段で合成して出力する。前記音源と前記各マイクロホンとの各距離差に基づいて前記各マイクロホンの音声信号に発生する遅延を一致させるように遅延量が調整された遅延手段が設けられている。遅延手段は、各マイクロホンと前記各合成手段の間に設けることもできるし、各合成手段と再合成手段との間に設けることもできる。
【0008】
このように構成すると、各マイクロホンが発生する音声信号は遅延手段によって各音源との時間差が全て同一となるように調整されて、マイクロホン指向性調整手段に供給されているので、マイクロホン指向性調整手段から出力される合成信号は、広い周波数帯に亘って鋭い指向性を有するものとなる。
【0009】
前記各合成手段の後段にフィルタを設けることもできる。各フィルタは、各マイクロホンユニット毎に、マイクロホンユニットを構成するマイクロホン間の間隔に応じた異なる周波数帯域の合成信号を抽出して出力し、互いに周波数帯域の異なる合成信号を更に再合成手段で合成して出力する。これによって、互いに周波数帯域の異なる合成信号を更に再合成手段で合成して出力することができ、再合成手段より出力される再合成信号を、より確実に広い周波数帯に亘って鋭い指向性を有するものとすることができる。
【0010】
前記遅延手段は、前記音源から最も距離の遠いマイクロホンの音声信号に発生する遅延と、他のマイクロホンの音声信号に発生する遅延とを、一致させるように、遅延量が調整されるものとすることができる。最も音源から距離が遠いマイクロホンの音声信号の遅延に、他のマイクロホンの音声信号の遅延を一致させるようにしているので、遅延調整が容易となる。
【0011】
前記音源が移動するものとすることができる。例えば音源がスピーチをする話者であり、移動には話者自体が移動する場合の他、話者がスピーチ時に聴衆に対する顔の向きを、例えば中央から上手側や下手側に変えた場合も含む。この場合、前記音源の移動に従って、逐次前記音源の位置を音源位置推定手段が推定する。この音源位置推定手段によって推定された位置に応じて、前記各遅延手段の遅延量を調整する遅延量調整手段が設けられている。
【0012】
このように構成すると、音源が移動して、各マイクロホンと音源との距離が時間経過と共に変化しても、その変化に追従して各遅延手段の遅延量を変更できるので、音源が移動してもマイクロホン指向性調整手段から出力される合成信号は、広い周波数帯に亘って鋭い指向性を有するものとなる。
【0013】
さらに、前記音源位置推定手段が推定する位置に上限を設け、前記遅延量調整手段は、前記音源位置推定手段が前記上限を超えた位置を推定した場合、当該上限を超えて推定された位置に応じた遅延量の調整は行わないように構成することができる。前記上限としては、例えば音源位置を推定するために定めた原点位置からの予め定めた距離のみを使用し、この距離よりも遠くの位置に音源がある場合には、遅延量の調整を行わないようにすることもできるし、上限として原点位置を通る基準線に対して予め定めた角度のみを使用し、この角度よりも小さい角度あるいは大きい角度の位置に音源がある場合には遅延量の調整を行うようにすることもできる。或いは2つの異なる第1及び第2の角度(第2の角度>第1の角度)を上限として設定し、音源の角度が第1の角度よりも小さい場合または第2の角度よりも大きい場合には遅延量の調整を行わないようにすることもできる。或いは角度と距離とを組み合わせて、或る角度よりも小さい(または大きい)角度の場合には距離とは無関係に遅延量の調整を行わないようにし、音源の位置が或る1つの角度よりも大きい(または小さい)場合には予め定めた距離よりも音源の距離が大きい場合に遅延量の調整を行わないようにすることもできる。或いは上記の第1及びだい2の角度によって角度範囲を設定し、この角度範囲外の場合には、遅延量の調整を行わず、角度範囲内では、予め定めた距離よりも音源の位置が遠い場合には、遅延量の設定を行わないようにすることもできる。このように構成すると、収音したい音源以外の収音したくない音源、例えばスピーカが収音したい音源の周囲にあっても、収音したくない音源の音を収音することを防止することができる。
【0014】
或いは、前記遅延量調整手段は、前記音源位置推定手段が前記上限を超えた位置を推定した場合、当該上限を超えて推定された位置に応じた遅延量の調整は行わず、前記上限内で推定していた位置に応じた遅延量を前記遅延手段に継続させるように構成することもできる。例えば上限を超える直前に推定された音源の位置に音源が止まっているように遅延量を調整することができる。このように構成すると、収音したい音源の音を充分に収音することができる。
【0015】
或いは、前記遅延量調整手段は、前記音源位置推定手段が前記上限を超えた位置を推定した場合、当該上限を超えて推定された位置に応じた遅延量の調整は行わず、前記上限の位置に応じた遅延量を遅延手段に設定するように構成することもできる。例えば上限の位置に音源が停止しているように遅延量を調整する。このように構成した場合も、収音したい音源の音を充分に収音することができる。
【0016】
前記音源の位置を予め仮想的に決定しておき、前記遅延手段は、前記仮想的に決定した音源と前記各マイクロホンとの各距離差に基づいて前記各マイクロホンの音声信号に発生する遅延を一致させるように遅延量を調整することもできる。このように仮想的に音源の位置を設定しておくと、収音したくない音を確実に収音しないようにすることができ、また音源位置の推定作業が1度だけでよい。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、音源から各マイクロホンまでの距離が異なっていてもマイクロホン装置に広い周波数帯に亘って鋭い指向性を持たせることができ、たとえ音源が移動するものであっても、広い周波数帯に亘って鋭い指向性を持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態のマイクロホン装置のブロック図である。
【図2】図1のマイクロホン装置のマイクロホンアレイを演台に取り付けた状態の斜視図である。
【図3】図1のマイクロホン装置のビームフォーミング部のブロック図である。
【図4】図1のマイクロホン装置の音源位置推定部における音源の位置の推定原理の説明図である。
【図5】図1のマイクロホン装置の音源位置推定部における遅延量の決定原理の説明図である。
【図6】図1のマイクロホン装置における指向性調整可能範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の1実施形態のマイクロホンシステムは、図1に示すようなマイクロホンアレイ2を有している。このマイクロホンアレイ2は、本体4内に複数、例えば8本の単一指向性のマイクロホンを一列に配置したものである。これら単一指向性のマイクロホンは、同一の単一指向性を持つものである。このマイクロホンアレイ2は、例えば図2に示すように、ステージに設置された演台6の一端に配置され、演台6を使用する話者の音声を収集する。即ち、この実施形態では、話者が音源である。
【0020】
マイクロホンアレイ2では、本体4の長さ方向に沿って間隔Dを隔てて第1及び第2のマイクロホン8−1と8−2とが配置されている。これらマイクロホン8−1と8−2との中央に第3のマイクロホン8−3が配置されている。マイクロホン8−1と8−3との間隔、マイクロホン8−2と8−3との間隔は、それぞれD/2である。
【0021】
また、第1及び第3のマイクロホン8−1、8−3の中間には、第4のマイクロホン8−4が配置されている。マイクロホン8−1と8−4との間隔及び第4のマイクロホン8−4と第3のマイクロホン8−3との間隔は、それぞれD/4である。
【0022】
第4のマイクロホン8−4と第3のマイクロホン8−3との中央には、第5のマイクロホン8−5が配置されている。第4のマイクロホン8−4と第5のマイクロホン8−5との間隔、第3のマイクロホン8−3と第5のマイクロホン8−5との間隔は、D/8である。
【0023】
第5のマイクロホン8−5と第3のマイクロホン8−3との中央には、第6のマイクロホン8−6が配置されている。第5のマイクロホン8−5と第6のマイクロホン8−6との間隔、第3のマイクロホン8−3と第6のマイクロホン8−6との間隔は、D/16である。
【0024】
第6のマイクロホン8−6と第3のマイクロホン8−3との中央には、第7のマイクロホン8−7が配置されている。第7のマイクロホン8−7と第6のマイクロホン8−6との間隔、第7のマイクロホン8−7と第3のマイクロホン8−3との間隔はD/32である。
【0025】
第7のマイクロホンと第3のマイクロホン8−3との中央には、第8のマイクロホン8−8が配置されている。第7のマイクロホン8−8と第7のマイクロホン8−7との間隔、第3のマイクロホン8−3と第8のマイクロホン8−3との間隔はD/64である。
【0026】
このようにマイクロホンアレイでは、第1及び第2のマイクロホン8−1、8−2の間隔Dを2の倍数のそれぞれ異なる値(1、2、4・・・64)分の1にした間隔に配置されている。第3のマイクロホン8−3と第8のマイクロホン8−8の間隔dを基準として言えば、間隔dの2の倍数のそれぞれ異なる値(1、2、4・・・64)倍の間隔に配置されている。
【0027】
各マイクロホン8−1乃至8−8が収音した話者の音声は、それぞれ音声信号として各マイクロホン8−1乃至8−8から出力される。これら音声信号は、各マイクロホン8−1に対応して設けた遅延手段、例えば可変遅延回路10−1乃至10−8に供給され、それぞれ所定の遅延が与えられて、指向性調整手段、例えばビームフォーミング部12に供給される。
【0028】
ビームフォーミング部12では、各音声信号を後述するように処理して、広い周波数帯に亘って鋭い指向性を有する音声信号として、増幅手段、例えば増幅器14に供給され、ここで、増幅され、スピーカ16から拡声される。
【0029】
ビームフォーミング部12では、例えば図3に示すように、最も間隔が広くDである第1及び第2のマイクロホン8−1、8−2によって第1のマイクロホンユニットが構成され、それらの音声信号は、レベル調整手段、例えば増幅器20−1、20−2によって増幅され、合成手段、例えば加算器22によって合成されている。増幅器20−1、20−2の利得は、それぞれ同じ値、例えば1である。このように構成すると、特許文献1に開示されているように第1または第2のマイクロホン8−1、8−2を単体で使用した場合よりも鋭い指向性が得られ、間隔Dによって指向性が最も鋭くなる周波数f1が決まる。
【0030】
隣接するものの間隔がそれぞれD/2である第1乃至第3のマイクロホン8−1、8−2、8−3によっても第2のマイクロホンユニットが構成され、それらの音声信号は増幅器24−1、24−2、24−3によって増幅され、加算器26によって合成されている。増幅器24−1、24−2、24−3の利得は、第3のマイクロホン34−3の音声信号に対する増幅器24−3の利得が例えば1で、第1及び第2のマイクロホン8−1、8−2の音声信号に対する増幅器24−1、24−2の利得が例えば0.5となるように設定されている。このように構成すると、特許文献1に記載されているように第1のマイクロホンユニットの場合よりも鋭い指向性が得られ、最も指向性が鋭くなる周波数f2は、間隔D/2によって決まり、上記の周波数f1よりも高い周波数である。
【0031】
同様に、隣接するものの間隔がそれぞれD/4である第1、第3及び第4のマイクロホン8−1、8−3、8−4によって第3のマイクロホンユニットが構成され、それらの音声信号は、増幅器28−1、28−2、28−3によって増幅され、加算器30によって合成されている。増幅器28−1、28−2、28−3の利得は、第1、第3及び第4のマイクロホン8−1、8−3、8−4のうち中央に位置する第4のマイクロホン8−4に対する増幅器28−2の利得が例えば1で、第1及び第3のマイクロホン8−1、8−3に対する増幅器28−1、28−3の利得は、例えば0.5に設定されている。このように構成すると、特許文献1に開示されているように第2のマイクロホンユニットとほぼ同じ鋭い指向性が得られ、最も鋭い指向性が得られる周波数f3は、上記の周波数f2よりも高くなる。
【0032】
隣接するものの間隔がそれぞれD/8である第3、第4及び第5のマイクロホン8−3、8−4、8−5によって第4のマイクロホンユニットが構成され、それらの音声信号は増幅器32−1、32−2、32−3によって増幅され、加算器34によって合成されている。増幅器32−1、32−2、32−3の利得も、中央に位置する第5のマイクロホンに対する増幅器32−2の利得が例えば1で、他の増幅器32−1、32−3の利得が例えば0.5に設定されている。このように構成すると、特許文献1に開示されているように第2のマイクロホンユニットとほぼ同じ鋭い指向性が得られ、最も鋭い指向性が得られる周波数f4は、上記の周波数f3よりも高くなる。
【0033】
隣接するものの間隔がそれぞれD/16である第3、第5及び第6マイクロホン8−3、8−5、8−6によって第5のマイクロホンユニットが構成され、それらの音声信号は、増幅器36−1、36−2、36−3によって増幅され、加算器38によって合成されている。増幅器36−1、36−2、36−3の利得も、中央に位置する第6のマイクロホンに対する増幅器32−2の利得が例えば1で、他の増幅器36−1、36−3の利得が例えば0.5に設定されている。この場合も、第2のマイクロホンユニットとほぼ同じ鋭い指向性が得られ、最も鋭い指向性が得られる周波数f5は、上記の周波数f4よりも高くなる。
【0034】
隣接するものの間隔がそれぞれD/32である第3、第6及び第7マイクロホン8−3、8−6、8−7によって第6のマイクロホンユニットが構成され、それらの音声信号は、増幅器40−1、40−2、40−3によって増幅され、加算器42によって合成されている。増幅器40−1、40−2、40−3の利得も、中央に位置する第7のマイクロホンに対する増幅器40−2の利得が例えば1で、他の増幅器40−1、40−3の利得が例えば0.5に設定されている。この場合も、第2のマイクロホンユニットとほぼ同じ鋭い指向性が得られ、最も鋭い指向性が得られる周波数f6は、上記の周波数f5よりも高くなる。
【0035】
隣接するものの間隔がそれぞれD/64である第3、第7及び第8マイクロホン8−3、8−7、8−8によって第7のマイクロホンユニットが構成され、それらの音声信号は、増幅器44−1、44−2、44−3によって増幅され、加算器46によって合成されている。増幅器44−1、44−2、44−3の利得も、中央に位置する第8のマイクロホンに対する増幅器44−2の利得が例えば1で、他の増幅器44−1、44−3の利得が例えば0.5に設定されている。この場合も、第2のマイクロホンユニットとほぼ同じ鋭い指向性が得られ、最も鋭い指向性が得られる周波数f7は、上記の周波数f6よりも高くなる。
【0036】
加算器22の合成出力からローパスフィルタ48によって周波数f1以下の周波数成分を抽出する。加算器26の合成出力からバンドパスフィルタ50によって、周波数f2を中心周波数とし、周波数f1、f2間の所定周波数を下限周波数、周波数f2、f3間の所定周波数を上限周波数とする帯域成分を抽出する。加算器30の合成出力からバンドパスフィルタ52によって、周波数f3を中心周波数とし、周波数f2、f3間の所定周波数を下限周波数、周波数f3、f4間の所定周波数を上限周波数とする帯域成分を抽出する。加算器34の合成出力からバンドパスフィルタ54によって、周波数f4を中心周波数とし、周波数f3、f4間の所定周波数を下限周波数、周波数f4、f5間の所定周波数を上限周波数とする帯域成分を抽出する。加算器38の合成出力からバンドパスフィルタ56によって、周波数f5を中心周波数とし、周波数f4、f5間の所定周波数を下限周波数、周波数f5、f6間の所定周波数を上限周波数とする帯域成分を抽出する。加算器42の合成出力からバンドパスフィルタ58によって、周波数f6を中心周波数とし、周波数f5、f6間の所定周波数を下限周波数、周波数f6、f7間の所定周波数を上限周波数とする帯域成分を抽出する。加算器44の合成出力からハイパスフィルタ60によって、周波数f7より高い帯域成分を抽出する。各フィルタ48、50、52、54、56、58、60によって抽出された帯域成分を合成手段、例えば加算器62によって合成することによって、広帯域に亘って鋭い指向性を持った音声信号を得ることができる。
【0037】
上述したように、特許文献1の技術を使用したビームフォーミング部12は、音源から各マイクロホン8−1乃至8−8までの距離差を無視できるほどかなり離れて音源が位置していることを前提としている。しかし、図2に示すようにマイクロホンアレイ2を演台6に設置した場合、音源である話者と各マイクロホン8−1乃至8−8との間には、距離差があり、各マイクロホン8−1乃至8−3に同じ音声が到達するのに時間差が生じる。そのため、上述したように、特定の周波数において鋭い指向性が得られなくなり、その結果、ビームフォーミング部12からの合成信号の音質が、本来の音質と異なったものとなることがある。
【0038】
この点を改善するために、この実施形態では、第1乃至第8のマイクロホン8−1乃至8−8の音声信号を可変遅延回路10−1乃至10−8に供給し、最も遅れて音声信号が到達しているマイクロホンと同じだけの遅延を他のマイクロホンからの音声信号にも与えて、ビームフォーミング部12に供給するようにしている。これによって、音源と各マイクロホン8−1乃至8−8との間に距離差がある場合でも、広い周波数帯に亘って鋭い指向性を持った合成信号をビームフォーミング部12から出力することができる。
【0039】
各可変遅延回路10−1乃至10−8での遅延量を決定するためには、まず音源の位置、即ち話者の位置を推定し、その推定位置から第1乃至第8のマイクロホン8−1乃至8−8までの距離を決定する必要がある。また、話者は、スピーチをしている途中に移動することもあるし、スピーチ中に顔を中央から舞台の上手または下手側に振ることもある。このような場合には、話者と第1乃至第8のマイクロホンまでの距離は変化する。このように距離が変化した場合には、その新たな距離に応じて各可変遅延回路10−1乃至10−8の遅延量を変更する必要がある。
【0040】
そのため、この実施形態では、遅延量設定手段、例えば音源位置推定部64が設けられている。音源位置推定部64には、例えば第1、第2及び第3のマイクロホン8−1、8−2、8−3の音声信号が入力されている。音源位置推定部54は、まず、第2、第3のマイクロホン8−2、8−3の音声信号の相互相関を求めて、相互相関から第2及び第3のマイクロホン8−2、8−3間の時間差δT23を求める。この時間差から距離差δL23を求める。この距離差δL23は、図4に示すように第1、第2及び第3のマイクロホン8−1、8−2、8−3の列で聴衆側と話者側とに分割される双曲線Aによって表される。これでは、音源は双曲線A上にあることのみが分かるだけで、音源の位置を特定することができない。そこで、音源位置推定部64は、第1及び第3のマイクロホン8−1、8−3の音声信号の相互相関も求めて、この相互相関関係により第1及び第3のマイクロホン8−1、8−3の時間差δT13を求める。この時間差から距離差δL13を求める。この距離差δL13は、図4に示す双曲線Bによって表される。この双曲線Bも、第1、第2及び第3のマイクロホン8−1、8−2、8−3の列で聴衆側と話者側とに分割される。双曲線Bと上述した双曲線Aとの交点Cを音源の位置と推定することができる。なお、双曲線A、Bの交点はステージ側と聴衆側との2か所存在するが、上述した演台6にマイクロホンユニット2を設置する場合、聴衆側にできる交点は、音源でないことは明らかであるので、話者側の交点のみを音源の位置と推定する。
【0041】
このようにして音源の位置Cが推定されると、図5に示すように音源から第1乃至第8のマイクロホン8−1乃至8−8までの距離を決定することができる。そして、これら距離のうち最も長いもの、図5では、音源の位置Cから第2のマイクロホン8−2までの距離を半径とし、音源の位置Cを中心とする円弧を決定する。各マイクロホン8−1、8−3乃至8−8と音源の位置Cとを結ぶ各線分を、上記円弧に向けて延長し、各交点を求め、各交点と対応する各マイクロホン8−1、8−3乃至8−8との距離が、マイクロホン8−2に到達するのと同時に、他のマイクロホン8−1、8−3乃至8−8に音声信号を到達させるための遅延量に対応する。これら延長した距離をそれぞれ算出し、遅延量に変換して、対応する可変遅延回路10−1、10−3乃至10−8に設定する。これによって、音源から最も距離の遠いマイクロホン、この実施形態ではマイクロホン8−2の音声信号に発生する遅延と、他のマイクロホン、この実施形態ではマイクロホン8−1、8−3乃至8の音声信号に発生する遅延とは、一致している。
【0042】
上述したように音源の位置は変化することがあるので、上述した音源位置の推定を所定時間が経過するごとに行い、音源の位置が変化していると、あらたに求められた音源の位置に基づいて、上述したようにして新たな遅延量を設定する。
【0043】
音源の移動に追従してマイクロホンアレイ2の指向性を調整していくと、例えば図6に示すようにマイクロホンアレイ2の両側後方あたりにスピーカボックス200、200が設置されていて、音源である話者が、これらスピーカボックス200、200のいずれかの近傍に移動した場合、スピーカボックス200からの拡声音も、このマイクロホンアレイ2が収音する可能性がある。この場合、ハウリングが生じる。これを防止するために、この実施形態では、音源の移動に伴ってマイクロホンアレイ2の指向性を変化させる指向性変化可能範囲202を制限している。適切に定めた原点、例えばマイクロホン8−3の位置を原点として、水平面上でこの原点を通る直線rを考え、例えばr軸に対する角度α及びβとを設定し、角度α、βをなす線分上で原点から予め定めた距離D、Dの位置を設定し、これら両位置を繋いで囲われた範囲を指向性変化可能範囲202とする。角度α、β及び距離Dは、マイクロホンアレイ2を設置した場所に応じてユーザーが変化させる。
【0044】
音源位置推定部64による推定の結果、音源位置204が、この指向性変化可能範囲202の外部に出たと推定された場合、指向性を音源に追従させるのを中止する、その場合、指向性は、例えば指向性変化可能範囲202を出る直前に推定されていた音源の位置206に固定するか、音源位置204に近い指向性変化可能範囲の境界上、例えば音源位置204と同じ距離を持つ境界上の位置208とする。なお、指向性変化可能範囲202は、2つの角度α、β及び距離Dによって規制する例を示したが、基準線rと一つの角度例えばβと距離Dによって規制することもできる。
【0045】
上記の説明は、アナログの音声信号を処理することを前提として説明したが、各マイクロホン8−1乃至8−8のアナログの音声信号をA/D変換器を使用してデジタル音声信号に変換して処理することもできる。その場合、可変遅延回路10−1乃至10−8、ビームフォーミング部12及び音源位置推定部64は、いずれもデジタル回路とすることができ、これらは全て例えば1台のDSPによって構成することができる。デジタル処理する場合、音源位置推定部64での音源位置を推定するための相互相間は、例えば予め定めた数の連続するデジタル音声信号が得られるごとに、その得られた予め定めた数のデジタル音声信号を対象として求めることもできる。
【0046】
<変形例>
(1)上記の実施形態では、第1及び第2のマイクロホン8−1、8−2のように2本のマイクロホンによってマイクロホンユニットを構成した例と、第1乃至第3のマイクロホン8−1、8−2、8−3のように3本のマイクロホンによってマイクロホンユニットを構成した例を示したが、マイクロホンユニットを構成するマイクロホンの本数は、2本以上の任意の本数とすることができ、例えば5本のマイクロホン、7本のマイクロホンによって1つのマイクロホンユニットを構成することができる。また、3本のマイクロホンによって構成したマイクロホンユニットでは、マイクロホンの間隔を2倍ずつ広げた例を示したが、これは一例に過ぎず、その間隔は任意に広げていくことができる。また、3本のマイクロホンでマイクロホンユニットを構成した場合、中央のマイクロホンの利得を2倍としたが、これは一例にすぎず、利得は任意の値に変更することができる。
【0047】
(2)上記の実施形態では、音源位置推定部64において、音源の位置が移動する場合に対処するために、所定時間の経過ごとに音源位置の推定をやり直して、その結果に従って可変遅延回路10−1乃至10−8の遅延量を更新したが、これに限られない。
すなわち、音源の位置が殆ど変化しない場合には、一度だけ又は所定時間の間だけ音源位置推定部64にて音源の位置を推定して可変遅延回路10−1乃至10−8の遅延量を決定した後、音源位置の推定処理は行わず、その遅延量を維持するように構成することもできる。
また、マイクロホン2の製造段階や出荷段階において、予め音源位置を仮想的に決めてこの仮想音源位置に各マイクロホン8−1乃至8−8の指向性を合わせる様に遅延量を設定し、マイクロホン2の稼動時には音源位置推定を行わないようにしてもよい。この場合、具体的には、実施の形態の場合と同様に、予め決めた仮想音源の位置から最も距離の遠いマイクロホンの音声に発生する遅延と、他のマイクロホンの音声信号に発生する遅延とを一致させる遅延量とすればよい。
【0048】
(3)上記の実施形態では、第1乃至第8のマイクロホン8−1乃至8−8は、直線状に一列に配置したが、例えば円弧状に一列に配置することもできる。また、上記の実施形態では、8本のマイクロホンを使用したが、これに限らず、種々の本数を使用することができる。
【符号の説明】
【0049】
2 マイクロホンアレイ
8−1乃至8−8 マイクロホン
10 可変遅延回路(遅延手段)
12 ビームフォーミング部(マイクロホン指向性調整手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔をあけて配列される複数のマイクロホンを一組とするマイクロホンユニットを複数配列して構成し、前記各マイクロホンユニットごとにマイクロホン間の前記間隔は異なるマイクロホンアレイと、
前記各マイクロホンユニットにおける前記一組のマイクロホンが音源からの音を収集して発生した音声信号を合成して合成信号を出力する合成手段を各マイクロホンユニットごとに有し、前記各マイクロホンユニットごとに出力された合成信号を更に再合成手段で合成して出力するマイクロホン指向性調整手段とを、
具備し、
前記音源と前記各マイクロホンとの各距離差に基づいて前記各マイクロホンの音声信号に発生する遅延を一致させるように遅延量が調整された遅延手段を設けたマイクロホン装置。
【請求項2】
請求項1記載のマイクロホン装置において、各マイクロホンユニットごとに、前記各合成手段の後段にフィルタを具備し、
各フィルタは、各マイクロホンユニット毎に、マイクロホンユニットを構成するマイクロホン間の間隔に応じた異なる周波数帯域の合成信号を抽出して前記再合成手段に出力するマイクロホン装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のマイクロホン装置において、前記遅延手段は、前記音源から最も距離の遠いマイクロホンの音声信号に発生する遅延と、他のマイクロホンの音声信号に発生する遅延とを一致させるように遅延量が調整されるマイクロホン装置。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか記載のマイクロホン装置において、前記音源の移動に従って、逐次前記音源の位置を推定する音源位置推定手段と、
音源位置推定手段によって推定された位置に応じて、前記各遅延手段の遅延量を調整する遅延量調整手段を、有するマイクロホン装置。
【請求項5】
請求項4記載のマイクロホン装置において、前記音源位置推定手段が推定する位置に上限を設け、前記遅延量調整手段は、前記音源位置推定手段が前記上限を超えた位置を推定した場合、当該上限を超えて推定された位置に応じた遅延量の調整は行わないマイクロホン装置。
【請求項6】
請求項5記載のマイクロホン装置において、前記遅延量調整手段は、前記音源位置推定手段が前記上限を超えた位置を推定した場合、当該上限を超えて推定された位置に応じた遅延量の調整は行わず、前記上限内で推定していた位置に応じた遅延量を前記遅延手段に継続させるマイクロホン装置。
【請求項7】
請求項5記載のマイクロホン装置において、前記遅延量調整手段は、前記音源位置推定手段が前記上限を超えた位置を推定した場合、当該上限を超えて推定された位置に応じた遅延量の調整は行わず、前記上限の位置に応じた遅延量を遅延手段に設定するマイクロホン装置。
【請求項8】
請求項1乃至3いずれか記載のマイクロホン装置において、前記音源の位置を予め仮想的に決定しておき、前記遅延手段は、前記仮想的に決定した音源と前記各マイクロホンとの各距離差に基づいて前記各マイクロホンの音声信号に発生する遅延を一致させるように遅延量が調整されているマイクロホン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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