説明

マイクロ化学反応装置

【課題】
マイクロリアクタを用いた2液の化学反応装置において、高効率に反応させるとともに、反応溶液を増大させる。
【解決手段】
マイクロリアクタ400に用いる流路溝基板101の中心部から外周部にわたり、深さがほぼ一定で、この流路溝基板の中心部からの距離Rに応じて流路幅が徐々に減少する扇形状溝102を形成する。扇形状溝の外周部に、第1の溶液10を導入する第1の分岐流入孔104と第2の溶液20を導入する第2の分岐流入孔105を交互に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学反応装置に係り、特に異なる2液を混合または反応させる微小流路が形成されるマイクロリアクタを用いた化学反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のマイクロリアクタを有する化学反応装置の例が、特許文献1に記載されている。この公報に記載の化学反応装置に用いるマイクロリアクタは、基本的なY字型やT字型のマイクロリアクタを改良したものであり、多層構造のマイクロリアクタである。すなわち、第1の溶液用、ついで第2の溶液用、また第1の溶液用、第2の溶液用…というように、平板上に第1、第2の溶液が交互に流れるように、複数の流路を空間配置している。
【0003】
基本的なY字型やT字型のマイクロリアクタは、最も簡単な形状のマイクロリアクタであり、第1の溶液と第2の溶液とは分子拡散で混合して、反応が生じる。混合の時間は、マイクロリアクタの流路幅の2乗に比例し、流路幅が小さければ反応が効率的に進む。この基本的なマイクロリアクタの改良版である特許文献1に記載のマイクロリアクタでは、多層構造にしているので、反応流量を増大できる。
【0004】
マイクロロアクタの他の例が、非特許文献1に開示されている。この文献に記載のマイクロリアクタは、中心衝突型とでも呼ぶべきものであり、円板の半径方向に形成された複数の流路の外周部から中心部に向けて、第1、第2の溶液を流し、中心部で2液を衝突させている。衝突時のせん断力で、2液を効率よく混合させている。
【0005】
【特許文献1】特願2002−319638号公報
【0006】
【非特許文献1】Hideharu Nagasawa, Nobuaki Aoki and Kazuhiro Mae, “Design of a New Micromixer for Instant Mixing Based on the Collision of Micro Segments,” Chem. Eng. Technol., 28, pp. 324-331 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のY字型やT字型のマイクロリアクタを用いた2液の化学反応装置では、反応効率を向上させるために、数10μm〜数100μm程度に形成されたマイクロ流路に溶液を流しているので、流せる流量を十分に確保することが困難であった。混合性能と圧力損失はトレードオフの関係にあり、混合性能を向上させるためにはマイクロ流路の代表径を小さくするのが好ましい。一方、マイクロ流路の代表径を小さくすると、圧力損失が代表径の4乗に反比例して大きくなり、流動抵抗が増大して流量を増大させることが困難である。
【0008】
この不具合を解消するための上記特許文献1に記載の化学反応装置では、多層構造のマイクロリアクタを採用しているので、流せる流量を多くすることは可能であるが、流路チップの大きさが大きくなるという、新たな不具合を生じている。
【0009】
さらに、上記非特許文献1に記載の方法では、異なる2種の溶液の混合または反応を円板の中心部でしか行えず、マイクロリアクタの面積に比べて反応領域がわずかであり、反応流量を増大できない、という不具合を発生する。
【0010】
本発明は上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、マイクロリアクタを用いた2液の化学反応装置において、高効率で反応させるとともに反応溶液を増大させることにある。本発明の他の目的は、反応溶液を増大させながらマイクロリアクタを小型化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の特徴は、マイクロ化学反応装置が、第1の溶液を導入するための第1の導入孔と、第2の溶液を導入するための第2の導入孔とを周方向に交互に形成し、これら第1の導入孔と第2の導入孔を一方端側に含む流路溝を周方向に間隔をおいて複数形成し、この流路溝を前記第1、第2の導入孔が配置された端部と反対端側で連結した第1の基板と、この第1の基板の流路溝を密封し、第1の基板の連結部に対応する位置に排出用の穴が形成された第2の基板とを有することにある。
【0012】
そしてこの特徴において、第1の導入孔をほぼ同一円周上に配置し、第2の導入孔をこの第1の導入孔の円周よりも大径のほぼ同一円周上に配置するのがよく、排出用の穴は、基板の中心部に設けられており、流路溝はほぼ扇形であるのが好ましい。また、第2の導入孔から導入された第2の溶液が直進するための流路を、第1の導入孔よりも外周側に形成してもよく、第1の導入孔と第2の導入孔を、流路溝1個についてともに多数個設けるのが望ましい。
【0013】
上記目的を達成する本発明の他の特徴は、マイクロ化学反応装置において、基板上に、第1の溶液を導入するための第1の導入孔と、第2の溶液を導入するための第2の導入孔とを周方向に交互に形成し、これら第1の導入孔と第2の導入孔を一方端側に含む流路溝を周方向に間隔をおいて複数形成し、この流路溝を前記第1、第2の導入孔が配置された端部と反対端側で連結して第1の溶液と第2の溶液を縮流しながら、混合およびまたは反応させることにある。
【0014】
上記目的を達成する本発明のさらに他の特徴は、マイクロ化学反応装置において、中心部から外周部にわたり深さがほぼ一定のリング状の溝が形成され、このリング状の溝の外周部に第1の溶液を供給する複数の第1の孔と第2の溶液を供給する複数の第2の孔とが配置された基板と、この基板の中心部から第1、第2の溶液が混合およびまたは反応した溶液を取り出す手段とを有し、第1の孔と第2の孔とを交互に配置されており、第1の複数の孔と第2の複数の孔は、互いにはほぼ同一の円周上にほぼ一定間隔で配置されていることにある。
【0015】
そしてこの特徴において、第1の溶液を供給する複数の第1の孔は、第2の溶液を供給する複数の第2の孔よりも小径の同心円状に配置されているのがよく、リング状の溝に半径方向に延びる複数の仕切り壁を設けてこのリング状溝を複数の扇形状に分割するのが好ましい。また、仕切り壁は、基板の中心からの距離に比例して流路幅が減少するように設けられているのがよく、複数の扇形状溝の容積が、ほぼ等容積になるように前記仕切り壁を設けてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、2液の化学反応装置に用いるマイクロリアクタにおいて、円板上に2液の流路を交互に配置した多層化構造とし、円板の外周部近傍から2液の混合を可能にしたので、高効率で2液を反応させることが可能になるとともに反応溶液を増大させることができる。また、反応液量を確保しながらマイクロリアクタを小型化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係るマイクロ化学反応装置のいくつかの実施例を、図面を用いて説明する。図1に、マイクロ化学反応装置が備えるマイクロリアクタ400、701に用いる流路溝基板101の一実施例を、上面図で示す。図2に、図1に示した扇形状溝102の詳細を、斜視図で示す。また、図3に流路溝基板101と、この流路溝基板101に組み合わせる流路蓋基板301とを斜視図で示す。流路蓋基板301の中央部には、流路溝基板101の扇形状溝102で混合および/または反応した溶液を流出させる混合・反応溶液の流出孔302が形成されている。
【0018】
流路溝基板101では、円板の対向する2面に切り欠き部101aが形成されている。この切り欠き部101aは、マイクロリアクタ701に流路溝基板101を収容するときの位置決めに用いられる。流路溝基板101の周方向複数箇所、本実施例では8箇所に、第1、第2の溶液10、20を導入し、混合・反応させる扇形状溝102が形成されている。扇形状溝102間には、円板の中心の極一部を除いた位置まで仕切り壁103が延びている。扇形状溝102の外縁部には、第1の溶液10をこの扇形状溝102に導入するための複数個、本実施例では6個の分岐流入孔104が、周方向に間隔をおいて形成されている。この分岐流入孔104は、図の裏面側まで貫通している。
【0019】
扇形状溝102の外縁部からは、第2の溶液20を導入するために第2の溶液流路106が、複数個、本実施例では6個、半径方向外方に放射状に形成されている。この第2の溶液流路106の外縁部には、第2の溶液20を導入する分岐流入孔105が、図の裏面側まで貫通して形成されている。第2の溶液流路106の周方向位置は、第1の溶液10用の分岐流入孔104間に位置する。扇形状溝102の中心部は互いに連結しており、中心合流部107が形成されている。したがって、外延部から導入された第1、第2の溶液10、20は、扇形状溝102部を外径方向から内径側へ移動し、その途中において第1、第2の溶液10、20が混合・反応し、中心合流部107から流出する。
【0020】
図2に、扇形状溝102部の詳細を示す。この図2では、1個の扇形状溝102のみを示しているが、他の扇形状溝102もほぼ同一に形成されている。ガラスやステンレス等でできた円形基板の対向する2辺を切り落として形成された流路溝基板101に、深さHがほぼ150μmの扇形状溝102を、周方向に8箇所、エッチング等で形成する。この扇形状溝102では、中心合流部107に接続する出口部分で最も周方向幅が狭くなる。この最挟部の流路幅Wminは、約300μmである。
【0021】
次に、図1〜3を用いて、流路溝基板101と流路蓋基板301により形成される空間内の溶液10、20の流れを、説明する。流路溝基板101に形成した1個の扇形状溝102には、第1の溶液10用の分岐流入孔104が6個、直径500μm程度に形成されている。同様に、第2の溶液20用の分岐流入孔105が6個、直径500μm程度に形成されている。
【0022】
第1の溶液10は、流路溝基板101の裏面側から分岐流入孔104に流入し、この分岐流入孔104から扇形状溝102に流れ込む。第2の溶液20も同様に、流路溝基板101の裏面側から分岐流入孔105に流入する。そして、分岐流入孔105の直径とほぼ同程度の流路幅500μmを有する流路106を約4mm流れた後、扇形状溝102に流れ込む。1個の扇形状溝102には、第1の溶液10の流れ201と第2の溶液20の流れ202が、6対形成される。これらの6対の溶液の流れは、周方向に多層状態の溶液の流れを形成する。この多層流れは、扇形状溝102の中心合流部107に向けて流れる際に、縮流される。
【0023】
ところで、扇形状溝102の流れ方向の流路幅Wは、中心合流部107の中心からの距離Rに比例して、徐々に狭くなる。したがって、急激な流路の縮小を防げるので、扇形状溝102内を流れる第1、第2の溶液10、20の圧力損失は非常に小さい。その結果、最も狭い流路溝幅Wminを、約300μmまで低下させることができる。このことは、多層溶液流の中心合流部107の直前における流路幅が、各溶液流あたり平均で、約300μm/12(本)=約25μmであるから、各溶液10、20の流路幅が500μmから約25μmまで、ほとんど圧力損失なく縮流されていることを示している。この状態では、第1の溶液と第2の溶液が短時間に分子拡散だけで混合される。
【0024】
流路溝基板101上には8つの扇形状溝102が形成されているので、中心合流部107では、12本×8=96本の溶液流が生じることになる。しかしながら、実際は扇形状溝102部で、上記分子拡散により混合されているので、混合された混合溶液と混合されていない溶液をも含んだ溶液流が多層状態になって、中心合流部107側に流れ込む。混合されずに残る溶液の割合等は、使用する溶液の種類、および環境により変化する。多くの場合、第1、第2の溶液10、20は、中心合流部107に流入する前に混合・反応が進んで、ほぼ混合された状態になる。混合・反応が進んだ混合・反応溶液30は、中心合流部107から、流路蓋基板301に形成された流出孔302側へ流入し、取り出される。
【0025】
このように構成した流路蓋基板301と流路溝基板101とを収容するマイクロリアクタ400の一実施例を、図4〜図6を用いて説明する。図4はマイクロリアクタ400の分解斜視図であり、図5はマイクロリアクタ400の斜視図、そして図6はマイクロリアクタ400の縦断面図であり、図5のA−A断面図である。
【0026】
図4および図6に示すように、マイクロリアクタ400は、中央部に凹部が形成され下側に配置される入口筐体部材401の凹部に、上側に配置される出口筐体部材402の凸部が嵌合している。入口筐体部材401の凹部には、下側から順に流路溝基板101、次いで流路蓋基板301が収容されている。この流路溝基板101および流路蓋基板301を周方向に位置決めするために、入口筐体部材401の凹部は対向する2辺を切り欠いた円柱形状になっている。
【0027】
入口筐体部材401の凹部上面の中心部には、流路溝基板101に形成した扇形状溝102に対応する位置に、ほぼ扇形状溝102と同形状の第1の溶液用プール部405が周方向に間隔をおいて配置されている。この第1の溶液用プール部間には、扇形の支持土手408が形成されている。第1の溶液用プール部405の外周側には、第1の溶液10と第2の溶液20の仕切り土手407を挟んで、リング状の第2の溶液用プール部406が形成されている。これら第1、第2の溶液用プール部405、406の深さは、流路溝基板101や流路蓋基板301の厚さに比べて十分大きい。
【0028】
なお、第1の溶液用プール部405の外径は、第1の溶液の分岐流入孔104よりも外径側で第2の溶液の分岐流入孔105よりも内径側である。第2の溶液用プール部406は、内径位置が第1の分岐流入孔104よりも外径側で、外径位置が第2の溶液の分岐流入孔105よりも外径側である。
【0029】
入口筐体部材401の中心部には、流路溝基板101の中心合流部107に対応する位置に、上面側から下方に止まり穴601が形成されている。入口筐体部材401は、円板を周方向複数箇所で切り欠いた形状をしている。この切り欠きにより形成された切り欠き面412a〜412cの1面412aに形成した水平方向穴411aが、この止まり穴601に連通している。これらの穴411a、601は、第1の溶液10の流入路を形成する。
【0030】
同様に、第2の溶液用プール部406には、入口筐体部材401の上面側から下方に止まり穴603bが形成されている。この止まり穴603bに、切り欠き面412aに隣り合って形成された切り欠き面412bから入口筐体部材401の中心側に水平方向に延びる水平方向穴411bが、連通している。これらの穴603b、411bは、第2の溶液20の流入路を形成する。
【0031】
出口筐体部材402の中央部には、下面側から上方に延びる止まり穴604が形成されている。この止まり穴604には、切り欠き面412a、412bとほぼ反対側に形成された切り欠き面412cから出口筐体部材402の中心部に水平方向に延びる水平方向穴411cが連通している。これらの穴604、411cは、流路蓋基板301の混合・反応溶液の流出孔302とともに、混合・反応溶液30の流出路を形成する。
【0032】
出口筐体部材402の外周近傍には、この出口筐体部材402と入口筐体部材401とを組み立てた後、ボルト501で固定するためのボルト穴401が周方向に間隔をおいて複数個形成されている。入口筐体部材401の対応する位置には、ねじ穴410bが形成されている。
【0033】
図5に示すように、第1の溶液10用の水平方向穴411aの入口部403には、継ぎ手503が取り付けられている。継ぎ手503には、チューブ502が取り付け可能であり、第1の溶液10をマイクロリアクタ400に導く。第2の溶液20用の水平方向穴411bの入口部404にも継ぎ手505が取り付けられており、この継ぎ手にチューブ504が接続されて第2の溶液20をマイクロリアクタ400に導く。混合・反応溶液30用の水平方向穴411cの出口部409には継ぎ手507が取り付けられており、この継ぎ手507にチューブ506が接続されており、流路溝基板101で混合・反応した溶液がこのチューブ506から外部に流出可能になっている。
【0034】
このように構成したマイクロリアクタ400では、マイクロリアクタ400外に保持された第1の溶液10が、第1の溶液10の入口部403から止まり穴601(図6参照)へ流入し、入口筐体部材401の中央部に位置する第1の溶液10のプール部405に導かれる。その後、第1の溶液10の分岐流入孔104を経て48本の流れに分岐して中心合流部107に流れ込む。
【0035】
それとともに、マイクロリアクタ400外に保持した第2の溶液20は、第2の溶液20の入口部404から第2の溶液用プール部406に導かれる。その後、第2の溶液20の分岐流入孔105を経て48本の流れに分岐して中心合流部107に流れ込む。中心合流部107に流れ込む第1、第2の溶液10、20は、上述したように流路溝基板101に形成した流路溝102において混合および/または反応して、混合・反応溶液30となる。
【0036】
混合・反応溶液30は、中心合流部107から、流路蓋基板301に形成した流出孔302を経て、混合・反応溶液の止まり穴604(図6参照)を垂直上方に流れる。その後水平方向に90°向きを変えて、出口筐体部材402に形成された混合・反応溶液の出口部409から、マイクロリアクタ400外に取り出される。
【0037】
ここで、図5に示す流路溝基板101、流路蓋基板301、入口筐体部材401および出口筐体部材402は、接触面を鏡面仕上げにしており、入口筐体部材401と出口筐体部材402とをボルト501締結することにより、これら各部材101、301、401、402間を圧着させる。これにより、シール性が確保される。流路溝基板101や流路蓋基板301に使用する基板の材質や、マイクロリアクタ400に加わる圧力に応じて、流路溝基板101と流路蓋基板301との接触方法を変えることができる。すなわち、それらの基板がガラスであれば溶着し、それらの基板が金属であれば拡散接合して、シール性を確保してもよい。
【0038】
上述したマイクロリアクタ400を用いた実験システムの一実施例を、図7に模式図で示す。マイクロリアクタ701には、第1の溶液10を導入するための継ぎ手503にチューブ502が取り付けられている。チューブ502の途中には、チューブ502内を流通する第1の溶液10を加熱するコイル状に形成された予熱部702が設けられている。同様に、第2の溶液20を導入する継ぎ手505にはチューブ504が取り付けられており、チューブ504の途中にはチューブ504内を流通する第2の溶液20を加熱するコイル状に形成された予熱部703が設けられている。さらに、混合・反応溶液30をマイクロリアクタ30から排出するために継ぎ手507にチューブ506が取り付けられており、チューブ506の途中にはコイル状に形成された反応時間調整部704が設けられている。
【0039】
マイクロリアクタ701および予熱部702、703、反応時間調整部704は、恒温水槽705内に収容される。恒温水槽705には、水温調節部706が付設されており、常に恒温水槽705内の水を、図示しない加熱源および冷却源を用いて、所定温度に調節する。恒温水槽705内で、マイクロリアクタ701全体が液に漬かるように、恒温水槽705内の液量を調節して液面707を監視する。
【0040】
第1の溶液10をマイクロリアクタ701に送液するために、チューブ502は恒温水槽705外に配置したシリンジポンプ等の送液ポンプ708に接続されている。送液ポンプ708は、第1の溶液タンク711にもチューブで接続されている。第2の溶液20をマイクロリアクタ701に送液するために、チューブ504は恒温水槽705外に配置したシリンジポンプ等の送液ポンプ709に接続されている。送液ポンプ709は、第2の溶液タンク712にもチューブで接続されている。送液ポンプ708、709はともに、プランジャー710を2個づつ有しており、プランジャー710の動作タイミングを調整して脈動を低減する。
【0041】
マイクロリアクタ701内で生成された混合・反応溶液は、反応時間調整部704を経た後、高温水槽705外に配置されたタンク713にチューブで導かれる。本実験システムでは、第1、第2の溶液10、20の種類とその濃度等を選択することにより種々の化学反応系の実験が可能であり、これら選択した化学反応系に応じて、恒温水槽705の温度や送液ポンプ708、709の送液量を、図示しない制御手段が制御する。
【0042】
図8に、図7に示した実験システムを用いて実験したときの、マイクロリアクタ701内の流れ状態の一例を示す。扇形状溝102内で、第1の溶液10の層状流れ801(網掛け部)と第2の溶液の層状流れ802(白紙部分)は、周方向に多層化状態で流れ、徐々にその流れ幅を減少した縮流となって中心部に向かう。第1の溶液10と第2の溶液20は、中心部に向かうに従い、幅方向の端側から混合および/または反応して、中心合流部107のかなり上流側803で、すでに第1の溶液10および第2の溶液20全体が、混合および/または反応する。したがって、効率よく、混合・反応が推進される。
【0043】
上記実施例においては、扇形状溝を設けているが、第1の溶液と第2の溶液とが流れ方向に直角な方向の端部である幅方向端面で混合するような構造であれば、扇形状溝に限るものではなく、例えば流れの途中をより絞ったベル状やラッパ状であってもよい。ただしその場合においても、流路の拡大や急激な縮流の発生を防止する必要があることはいうまでもない。
【0044】
また、扇形状溝の個数は8個にしているが、これもマイクロリアクタの大きさや第1、第2の溶液の性状、反応条件に応じて変更することができる。そして、比較的圧力が低い条件で反応させるときは、扇形状溝間の隙間に対応する支持土手の負荷が小さくなるから、支持土手の割合を低減して、扇形状溝の割合を多くすることが可能になる。また、第1、第2の溶液の層状流れの幅に深く関係する分岐流入孔の径やそれに続く流路の幅を、上記実施例では500μmにしたが、これもそれに限るものではない。第1、第2の溶液の流動抵抗を無視できるような大きさまで、低減することが望ましい。このように流路幅を低減できれば、第1、第2の溶液の混合または反応の均一度が早期に高まり、より効果的に混合・反応させることができるとともに、マイクロリアクタを小径化できる。さらに上記実施例では、1個の扇形状溝に設ける分岐流入孔を6個ずつ計12個としたが、上述したように第1、第2の溶液の性状等に応じて変更可能である。
【0045】
以上述べたように、本発明によれば、マイクロリアクタを用いた2液の化学反応装置において、2液を円周上に交互に配置する多層化構造とし、さらに基板の中心からの距離Rに応じて流路幅が徐々に減少する溝構造としたので、流路チップの大きさをコンパクトにしても圧力損失が少なく、処理流量を従来の構造に比べて増大可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係るマイクロリアクタが有する流路溝基板の一実施例の上面図。
【図2】図1に示した流路溝基板の流路溝部Bの詳細斜視図。
【図3】流路蓋基板と図1に示した流路溝基板との係合を示す斜視図。
【図4】本発明に係るマイクロリアクタの一実施例の分解斜視図。
【図5】図4に示したマイクロリアクタの斜視図。
【図6】図5のA−A断面図。
【図7】本発明に係る反応装置の一実施例のブロック図。
【図8】マイクロリアクタの流路溝部内の流れを説明する図。
【符号の説明】
【0047】
101…流路溝基板、102…扇形状溝、103…仕切り壁、104…(第1の)分岐流入孔、105…(第2の)分岐流入孔、106…第2の溶液の流路、107…中心合流部、201…第1の溶液の流れ、202…第2の溶液の流れ、301…流路蓋基板、302…混合・反応溶液の流出孔、401…入口筐体部材、402…出口筐体部材、403…第1の溶液の入口部、404…第2の溶液の入口部、405…第1の溶液のプール部、406…第2の溶液のプール部、407…仕切り土手、408…支持土手、409…混合・反応溶液の出口部、410…ボルト孔、501…ボルト、502…チューブ、503…継ぎ手、504…チューブ、505…継ぎ手、506…混合・反応溶液のチューブ、507…継ぎ手、601…止まり穴、602…第1の溶液の流れ、603…第2の溶液の流れ、604…止まり穴、605…混合・反応溶液の流れ、701…マイクロリアクタ、702、予熱部、704…反応時間調整部、705…恒温水槽、706…水温調節部、707…液面、708、709…送液ポンプ、710…プランジャー、711〜713…タンク、801…第1の溶液の層状流れ、802…第2の溶液の層状流れ、803…反応・混合溶液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の溶液を導入するための第1の導入孔と、第2の溶液を導入するための第2の導入孔とを周方向に交互に形成し、これら第1の導入孔と第2の導入孔を一方端側に含む流路溝を周方向に間隔をおいて複数形成し、この流路溝を前記第1、第2の導入孔が配置された端部と反対端側で連結した第1の基板と、この第1の基板の流路溝を密封し、第1の基板の連結部に対応する位置に排出用の穴が形成された第2の基板とを有することを特徴とするマイクロ化学反応装置。
【請求項2】
前記第1の導入孔をほぼ同一円周上に配置し、前記第2の導入孔をこの第1の導入孔の円周よりも大径のほぼ円周上に配置したことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ化学反応装置。
【請求項3】
前記排出用の穴は、基板の中心部に設けられており、前記流路溝はほぼ扇形であることを特徴とする請求項2に記載のマイクロ化学反応装置。
【請求項4】
前記第2の導入孔から導入された第2の溶液が直進するための流路を、前記第1の導入孔よりも外周側に形成したことを特徴とする請求項2に記載のマイクロ化学反応装置。
【請求項5】
前記第1の導入孔と第2の導入孔を、流路溝1個についてともに多数個設けたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ化学反応装置。
【請求項6】
基板上に、第1の溶液を導入するための第1の導入孔と、第2の溶液を導入するための第2の導入孔とを周方向に交互に形成し、これら第1の導入孔と第2の導入孔を一方端側に含む流路溝を周方向に間隔をおいて複数形成し、この流路溝を前記第1、第2の導入孔が配置された端部と反対端側で連結して第1の溶液と第2の溶液を縮流しながら、混合およびまたは反応させることを特徴とするマイクロ化学反応装置。
【請求項7】
中心部から外周部にわたり深さがほぼ一定のリング状の溝が形成され、このリング状の溝の外周部に第1の溶液を供給する複数の第1の孔と第2の溶液を供給する複数の第2の孔とが配置された基板と、この基板の中心部から第1、第2の溶液が混合およびまたは反応した溶液を取り出す手段とを有し、前記第1の孔と第2の孔とを交互に配置されており、前記第1の複数の孔と前記第2の複数の孔は、互いにはほぼ同一の円周上にほぼ一定間隔で配置されていることを特徴とするマイクロ化学反応装置。
【請求項8】
前記第1の溶液を供給する複数の第1の孔は、前記第2の溶液を供給する複数の第2の孔よりも小径の同心円状に配置されていることを特徴とする請求項7に記載のマイクロ化学反応装置。
【請求項9】
前記リング状の溝に半径方向に延びる複数の仕切り壁を設けてこのリング状溝を複数の扇形状に分割したことを特徴とする請求項8に記載のマイクロ化学反応装置。
【請求項10】
前記仕切り壁は、前記基板の中心からの距離に比例して流路幅が減少するように設けられていることを特徴とする請求項9に記載のマイクロ化学反応装置。
【請求項11】
前記複数の扇形状溝の容積が、ほぼ等容積になるように前記仕切り壁を設けたことを特徴とする請求項10に記載のマイクロ化学反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−69137(P2007−69137A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260032(P2005−260032)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】