説明

マイクロ波加熱装置及びマイクロ波加熱方法

【課題】導体の膜または導体を分散させた分散物の膜を適切に加熱することができるマイクロ波加熱装置及びマイクロ波加熱方法を提供する。
【解決手段】導波管16aに波長範囲1m〜1mmのマイクロ波を供給しつつ、この導波管16aの中において、導体の膜または導体を分散させた分散物の膜を形成した基板24を、上記膜の形成面が前記マイクロ波の磁力線方向と略平行になり、かつ上記マイクロ波の磁界の最大点を含んだ位置に配置し、またはその位置を移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波加熱装置及びマイクロ波加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、マイクロ波を使用して金属等の材料、またはそれらの薄膜を加熱処理する技術が知られている。マイクロ波を使用する場合、電界または磁界の作用により、加熱対象物を内部発熱させて選択的に加熱することができる
【0003】
マイクロ波加熱の例としては、下記特許文献1(特に段落0073等)に、金属酸化物半導体の前駆体となる無機金属塩材料から形成された薄膜に、大気圧下(酸素の存在下)でマイクロ波を照射して半導体に変換する技術が開示されている。
【0004】
また、下記特許文献2(特に段落0024等)には、等間隔にマイクロ波源(マグネトロン)が配設されたトンネル内に超硬合金、サーメット又はセラミック製切断板等の加工材を通過させながら加熱する技術が開示されている。
【0005】
また、下記特許文献3(特に段落0019等)には、定在波(入射波と反射波の合成)の電界最大又は磁界最大の位置に砥石材料を設置し、効率よく加熱を行うマイクロ波加熱装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−177149号公報
【特許文献2】特開2006−300509号広報
【特許文献3】特開2010−274383号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、導体もしくは半導体の膜または導体もしくは半導体を分散させた分散物の膜をマイクロ波により加熱する場合、スパークの発生によりこれらの膜や膜を形成した基板が破損され、適切に加熱することが困難であるという問題がある。上記従来の技術には、この問題を解決する構成が開示されていない。
【0008】
本発明の目的は、導体の膜または導体を分散させた分散物の膜を適切に加熱することができるマイクロ波加熱装置及びマイクロ波加熱方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、マイクロ波加熱装置であって、導波管と、前記導波管に波長範囲1m〜1mmのマイクロ波を供給するマイクロ波供給手段と、前記導波管内において、導体の膜または導体を分散させた分散物の膜を形成した基板を、前記膜の形成面が前記マイクロ波の磁力線方向と略平行になり、かつ前記マイクロ波の磁界の最大点を含んだ位置に配置し、またはその位置を移動させる基板供給手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、前記膜の厚さは1μm〜30μmであるのが好適である。
【0011】
また、前記基板はポリイミド、ポリエステル、ポリカーボネート、紙フェノール、ガラスエポキシ、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、シリコンまたは炭化ケイ素を含む基材で構成されていることを特徴とする。
【0012】
また、前記導体が金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一実施形態は、マイクロ波加熱方法であって、導波管中に波長範囲1m〜1mmのマイクロ波を供給し、前記導波管内において、導体の膜または導体を分散させた分散物の膜を形成した基板を、前記膜の形成面が前記マイクロ波の磁力線方向と略平行になり、かつ前記マイクロ波の磁界の最大点を含んだ位置に配置し、またはその位置を移動させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、膜が形成された基板の面をマイクロ波の磁力線方向と略平行とすることによりスパークの発生を抑制し、適切に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態にかかるマイクロ波加熱装置の構成例を示す図である。
【図2】加熱部を構成する導波管の構成例を示す図である。
【図3】導波管中に発生するマイクロ波の電磁界分布の説明図である。
【図4】導体の膜または導体を分散させた分散物の膜が形成された基板の断面図である。
【図5】スライドガラスに形成したインクの塗布領域の説明図である。
【図6】比較例1における導波管内の基板の配置の説明図である。
【図7】比較例1における導波管内の基板の配置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0017】
図1には、本実施形態にかかるマイクロ波加熱装置の構成例が示される。図1において、マイクロ波加熱装置は、マイクロ波発生部10、モニタ部12、チューナ部14、加熱部16、被加熱対象物供給部18及び可動短絡部20を含んで構成されている。
【0018】
マイクロ波発生部10は、加熱部16を構成する導波管に供給するマイクロ波を発生する。ここで、マイクロ波とは、波長範囲が1m〜1mm(周波数が300MHz〜300GHz)の電磁波である。
【0019】
モニタ部12は、マイクロ波発生部10が発生したマイクロ波の入射電力と、加熱部16からの反射電力を監視する装置である。
【0020】
チューナ部14は、加熱部16を構成する導波管に上記マイクロ波が進入する際に発生する反射波と逆位相の電磁波を発生させて反射波を打ち消し、反射波がマイクロ波発生部10に戻ることを防止する。
【0021】
加熱部16は、上述の通り、導波管により構成され、被加熱対象物をマイクロ波により加熱する。後述するように、本実施形態では、マイクロ波のエネルギのうち磁界のエネルギを使用し被加熱対象物を加熱する。
【0022】
被加熱対象物供給部18は、マイクロ波の漏洩防止機構を備え、加熱部16を構成する導波管に被加熱対象物を供給する。この被加熱対象物供給部18は、例えば導波管に形成した被加熱対象物の供給用の開口であってよい。この場合には、人手により被加熱対象物を上記開口から導波管内に挿入する。また、ロールツーロール等の適宜な供給装置により、被加熱対象物を導波管内に供給する構成としてもよい。なお、本実施形態において、被加熱対象物は、基板に形成された導体の膜または導体を分散させた分散物の膜である。また、本願において導体とは、抵抗率が10Ωcm以下の物質をいう。
【0023】
可動短絡部20は、被加熱対象物の材質により加熱部16を構成する導波管内のマイクロ波の波長に短縮が生じ、定在波が変化したときに、導波管内に定在波を維持するための部材であり、モニタ部12の反射電力を監視し、定在波を維持するための最適な位置に先端部20aが配置される。
【0024】
図2には、加熱部16を構成する導波管の構成例(TE10モードの空洞共振器)が示される。図2において、導波管には、マイクロ波を受け入れる側に上記チューナ部14が設けられている。また、マイクロ波の入り口には、アイリス部22が形成され、マイクロ波はこのアイリス部22の開口から導波管16aに進入する。また、図2では、被加熱対象物供給部18が破線で示されている。図2中のマイクロ波Mwの波は電界強度の曲線(波(振幅)の最高点(曲線の最上点)が電界最大点、最下点(曲線の最下限)が電界最小点)を示している。
【0025】
導波管16aのアイリス部22と反対側の端部付近には、上記可動短絡部20が設けられており、アイリス部22と可動短絡部20との間に存在するマイクロ波Mwの磁界により被加熱対象物供給部18から供給された被加熱対象物すなわち基板24上に形成された上記膜が加熱される。この磁界の影響範囲はマイクロ波の周波数(波長)によって異なるが、例えば2.45GHz(約148mm)の場合は磁界強度の最大点より+/−15mm程度の範囲である。なお、アイリス部22と可動短絡部20との間にマイクロ波Mwの定在波を発生させるためには、アイリス部22と先端部20aとの距離Lを、
L=(2n−1)λg/2
λgはマイクロ波Mwの導波管内における波長、nは自然数
とすればよい。ただし、導波管16a中に発生するマイクロ波は、定在波に限定されず、進行波であってもよい。
【0026】
図3(a)、(b)、(c)には、導波管16a中に発生するマイクロ波の電磁界分布の説明図が示される。
【0027】
図3(a)は、導波管16aの斜視図であり、図のx−y平面に直交する方向(z軸方向)に導波管16aが伸びている。導波管16aにマイクロ波が供給されると、x軸方向(y−z平面に直交する方向)に磁界が発生する。このときの磁界を表す磁力線が破線の矢印で表示されている。また、電界は磁界と直交するy軸方向に発生し、電気力線が実線の矢印で表示されている。
【0028】
図3(b)は、導波管16aのx−z平面に平行な面での断面図である。図3(b)では、マイクロ波の電気力線が白丸(○)と黒丸(●)で示されており、白丸が紙面の手前側から裏側に向かう向き、黒丸が紙面の裏側から手前側に向かう向きの電気力線である。また、磁力線は破線で示されている。
【0029】
基板24は、図3(b)に示されるように、導体の膜または導体を分散させた分散物の膜が形成された面をマイクロ波の磁力線方向(磁界の方向)と略平行に維持した状態で導波管16a中に配置し、または導波管16a中を移動させる。これにより、上記膜に対して磁界による誘導加熱を行うことができる。ここで、略平行とは、基板24の面とマイクロ波の磁力線方向とが平行または磁力線方向に対して30度以内の角度を維持した状態をいう。なお、上記30度以内の角度とは、基板24の面に立てた法線と磁力線方向とが60度以上の角度をなしている状態をいう。また、基板24が配置され、または移動する導波管16a中の位置は、マイクロ波の磁力線の渦の中心を含む位置(磁界最大点を含む位置)である。基板24の面には、被加熱対象物である、導体の膜または導体を分散させた分散物の膜が形成されている。このため、上記膜に磁力線が侵入し、磁性損失によりスパークを発生させずに被加熱対象物を内部発熱させて選択的に加熱できる。従って、オーブン等により基板24ごと加熱する必要はない。なお、シリコンまたは炭化ケイ素等の半導体基板を使用した場合には、マイクロ波で加熱する際に基板自体も発熱するが、短時間で膜の焼結が完了する。この結果、基板24及びその表面に形成された導体の膜または導体を分散させた分散物の膜を破損せずに適切に加熱することができる。
【0030】
図3(c)は、導波管16aのy−z平面に平行な面での断面図である。図3(c)では、マイクロ波の磁力線が白丸(○)と黒丸(●)で示されており、白丸が紙面の手前側から裏側に向かう向き、黒丸が紙面の裏側から手前側に向かう向きの磁力線である。上述したように、基板24の膜の形成面がマイクロ波の磁力線方向と略平行になるように配置されている。
【0031】
基板24は、導波管16a中の磁力線の密度が高い領域、すなわちマイクロ波の磁界最大点を含んだ位置に配置し、またはその位置を通過させるのが好適である。なお、磁界最大点では、電界は最小となっている。この際、上記磁界が最大となる位置を含む概ね縦横3cm以内の領域に基板24を配置するとスパークの発生を抑制でき、基板24及びその表面に形成された導体の膜または導体を分散させた分散物の膜を破損させることを防止できる。
【0032】
図4には、導体の膜または導体を分散させた分散物の膜が形成された基板24の断面図が示される。図4において、基板24の少なくとも一方の面には、導体の膜26または導体を分散させた分散物の膜26が形成されている。上記基板の厚さは0.01〜10mmの範囲が好適である。また、上記膜の厚さは100nm〜100μmの範囲、発熱しやすさの点から好ましくは1μm〜30μmの範囲とする。100nmより薄い膜は損失が少なくなり、100μmより厚い膜は磁力線が内部まで侵入せず、いずれの場合も誘導加熱することが困難である。
【0033】
導体の例としては、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ等を挙げることができる。また、上記導体を分散させる分散媒としては、公知の樹脂を用いることができる。これらの樹脂の例としては、セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エポキシ樹脂等を挙げることができる。また、基板24の材料の例としては、ポリイミド、ポリエステル、ポリカーボネート、紙フェノール、ガラスエポキシ、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、シリコンまたは炭化ケイ素を含む基材を挙げることができる。上記基板24は、導波管に設けられた被加熱対象物供給部18から導波管16a中に挿入され、図示していない基板保持、移動手段によって上記膜の形成面が導波管中のマイクロ波の磁力線方向と略平行になるようにして導波管中に配置または導波管中を移動させてもよい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下の実施例及び比較例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0035】
実施例1
基板として東レ・デュポン社製ポリイミドフィルム;カプトン150EN(フィルム厚 37.5μm)を使用し、この基板の表面に銀(Ag)ペースト(ドータイトFA−353N 藤倉化成株式会社製)を塗布した。
【0036】
上記銀ペーストの塗布は、上記基板にスクリーン印刷により2cm×2cmの正方パターンを印刷することにより行った。印刷したパターン(銀ペースト層)の厚さは、乾燥後で6μm(3点平均値)であった。
【0037】
以上のようにして銀ペーストを塗布して銀ペースト層を形成した基板を、図2に示した装置によりマイクロ波加熱(磁界による加熱)を行った。この際、基板24は、上述したように、銀ペーストを塗布した面が、マイクロ波の磁力線方向と略平行となる方向に配置し、かつマイクロ波の磁界の最大点を含んだ位置に配置した。使用したマイクロ波の周波数は2.45GHzであり、このときの磁界の最大点(電界の最小点)は理論上アイリス部22からλg/2離れた位置(電界の最大点からλg/4離れた位置(2.45GHzのマイクロ波を使用する場合λgは148mm))となるが、基板をセットすると基板の中を進むマイクロ波が波長短縮し、共振位置がずれる。そのため、アイリス部22からλg/4離れた電界の最大点にマイクロ波検出器を配置し、マイクロ波検出器に接続した導波管内電圧計の電圧が最大値を示す位置にプランジャーの位置を微調整する。加熱時間は30秒〜60秒である。これにより、銀ペースト層の表面温度が200℃程度まで上昇し、銀粒子が焼結して銀膜を生成した。このとき、基板24は溶解しなかった。また、マイクロ波加熱中にスパークの発生はなく、基板24を破損させずにその表面上に銀膜が形成できた。形成された銀膜の膜厚は8μmであった。加熱処理前後の銀ペースト層及び銀膜の抵抗率を、三菱化学アナリテック株式会社製ロレスタGPを用いて3点平均値として測定した。測定結果を表1に示す。
【0038】
実施例2
以下の手順によりアルミニウム粒子を分散させたインクを作製した。
【0039】
アルミニウムパウダー(RD10−3560 東洋アルミニウム株式会社製 D50=13μm)4.0g、フェノキシタイプエポキシ樹脂(jER1256 ジャパンエポキシレジン株式会社製)の35%γ−ブチロラクトン溶液4.0g、γ−ブチロラクトン4.0gを良く混合して、均一な分散剤とした。なお、上記アルミニウムパウダーの粒径は、日機装株式会社製 マイクロトラック粒度分布測定装置 MT3000IIシリーズ USVRを使用して測定した。
【0040】
上記分散剤を、実施例1と同様にして、東レ・デュポン社製 カプトン150EN(フィルム厚 37.5μm)の基板表面にスクリーン印刷により2cm×2cmの正方パターンで印刷し、アルミニウムが分散された膜(アルミニウム分散層)を形成した。乾燥後の膜厚は15μm(3点平均値)であった。その後、実施例1と同様にして、マイクロ波加熱を行った。マイクロ波加熱中に基板を溶解させず、またスパークの発生もなく、基板を破損させずにその表面上にアルミニウム膜を形成できた。形成されたアルミニウム膜の膜厚は21μmであった。実施例1と同様にして加熱処理前後のアルミニウム分散層及びアルミニウム膜の抵抗率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0041】
実施例3
以下の手順により銅粒子を分散させたインクを作製した。
【0042】
銅パウダー(1100Y 三井金属鉱業株式会社製 D50=1.1μm)4.0g、フェノキシタイプエポキシ樹脂(jER1256 ジャパンエポキシレジン株式会社製)の20%γ−ブチロラクトン溶液2.0g、グリセリン1.0gを良く混合して、均一な分散剤とした。なお、上記銅パウダーの粒径は、日機装株式会社製 ナノ粒度分布測定装置 UPA-UT151を使用して測定した。
【0043】
上記分散剤を、実施例1と同様にして、東レ・デュポン社製 カプトン150EN(フィルム厚 37.5μm)の基板表面にスクリーン印刷により2cm×2cmの正方パターンで印刷し、銅が分散された膜(銅分散層)を形成した。乾燥後の膜厚は3μm(3点平均値)であった。その後、実施例1と同様にして、マイクロ波加熱を行った。マイクロ波加熱中に基板を溶解させず、またスパークの発生もなく、基板を破損させずにその表面上に銅膜を形成できた。形成された銅膜の膜厚は4μmであった。実施例1と同様にして加熱処理前後の銅分散層及び銅膜の抵抗率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示されるように、実施例1の加熱処理前の銀ペースト層は、抵抗率が2.10E−04(2.10×10−4)Ωcmであったものが、マイクロ波加熱処理後の銀膜では1.03×10−5Ωcmまで抵抗率が低下した。また、実施例2のアルミニウム粒子を分散させたインクで形成したアルミニウム分散層では、抵抗率が測定できなかった(上記測定装置の測定上限より高い抵抗率であった)が、マイクロ波加熱処理後のアルミニウム膜では抵抗率が3.45×10−3Ωcmまで低下した。また、実施例3の銅粒子を分散させたインクで形成した銅分散層では、抵抗率が測定できなかった(上記測定装置の測定上限より高い抵抗率であった)が、マイクロ波加熱処理後の銅膜では抵抗率が2.18×10−2Ωcmまで低下した。
【0046】
以上のように、銀、アルミニウム、銅の分散物の膜を基板上に形成し、マイクロ波加熱することにより、抵抗率の低い金属膜を形成できた。本実施例によれば、マイクロ波によるスパークを発生させずに各金属粒子を内部発熱させることができ、効率よく金属膜の抵抗率を下げることができた。
【0047】
比較例1
実施例1と同様にして、銀ペーストを、東レ・デュポン社製 カプトン150EN(フィルム厚 37.5μm)の基板表面にスクリーン印刷により2cm×2cmの正方パターンで印刷した。印刷したパターン(銀ペースト層)の厚さは、乾燥後で15μm(3点平均値)であった。
【0048】
以上のようにして銀ペーストを塗布して銀ペースト層を形成した基板24を、図2、図3(b)、(c)に示した導波管内に、図6、図7(b)、(c)に示されるように配置し、マイクロ波加熱を行った。本比較例1の基板24の配置では、図6、図7(b)、図7(c)に示されるように、マイクロ波の磁界の最大点をはずれており、かつ基板24の銀ペーストを塗布した面が、マイクロ波の電気力線方向と略直交する方向となる。このため、マイクロ波の電気力線の大部分を上記銀ペーストの塗布面で受けるようになり、スパークが発生して基板24および銀ペースト層が破損した。この結果から、実施例1〜3のように、基板面の方向をマイクロ波の磁力線方向と略平行となる方向に配置し、かつマイクロ波の磁界の最大点を含んだ位置に配置する必要があることがわかる。
【0049】
比較例2〜4
実施例1〜3において、マイクロ波の代わりに、電気オーブン(恒温槽)により200℃で1時間外部加熱し、加熱処理前後の各金属の分散層及び各金属膜の抵抗率を測定した。測定結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2に示されるように、アルミニウム粒子を分散させたインクを使用して形成したアルミニウム分散層、及び銅粒子を分散させたインクを使用して形成した銅分散層については抵抗率が測定できなかった(上記測定装置の測定上限より高い抵抗率であった)。また、Agペーストを使用して形成した膜(銀ペースト層)についても、マイクロ波加熱処理(実施例1)の場合よりも加熱処理後の抵抗率が高いことが分かる。
【符号の説明】
【0052】
10 マイクロ波発生部、12 モニタ部、14 チューナ部、16 加熱部、16a 導波管、18 被加熱対象物供給部、20 可動短絡部、20a 先端部、22 アイリス部、22a 先端部、24 基板、26 膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波管と、
前記導波管に波長範囲1m〜1mmのマイクロ波を供給するマイクロ波供給手段と、
前記導波管内において、導体の膜または導体を分散させた分散物の膜を形成した基板を、前記膜の形成面が前記マイクロ波の磁力線方向と略平行になり、かつ前記マイクロ波の磁界の最大点を含んだ位置に配置し、またはその位置を移動させる基板供給手段と、
を備えることを特徴とするマイクロ波加熱装置。
【請求項2】
前記膜の厚さが1μm〜30μmであることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項3】
前記基板がポリイミド、ポリエステル、ポリカーボネート、紙フェノール、ガラスエポキシ、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、シリコンまたは炭化ケイ素を含む基材で構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項4】
前記導体が金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項5】
導波管中に波長範囲1m〜1mmのマイクロ波を供給し、
前記導波管内において、導体の膜または導体を分散させた分散物の膜を形成した基板を、前記膜の形成面が前記マイクロ波の磁力線方向と略平行になり、かつ前記マイクロ波の磁界の最大点を含んだ位置に配置し、またはその位置を移動させる、
ことを特徴とするマイクロ波加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−101808(P2013−101808A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244284(P2011−244284)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構「ナノテク・先端部材実用化研究開発/マイクロ波による金属薄膜の形成及びそのパターン化技術の研究開発」に係る業務委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】