説明

マイクロ波加熱装置

【課題】幅広いフィルム基材に対し均一にマイクロ波加熱できるマイクロ波加熱装置を提供し、更に極短時間に処理することで、フィルム基材上に積層された特定層のみを加熱することにより、フィルム基材への熱ダメージを発生させることなく結晶化させることに対しても、使用可能なマイクロ波加熱装置を提供する。
【解決手段】マイクロ波を導入する反対側が無反射終端されている矩形状導波管1の筐体面の一部に、マイクロ波の進行方向に沿って縦長の開口部2を設け、この開口部に近接し且つ平行にガイドローラーを併設し、該ガイドローラーと該矩形状導波管の開口部との間にフィルム基材4を配置し、該ガイドローラーに該フィルム基材を保持し搬送しながらマイクロ波を照射することにより該フィルム基材を加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波加熱装置又はその加熱を利用した乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロ波を利用する加熱又は乾燥装置は、電磁シールドされた筐体内へマイクロ波を供給し、そのマイクロ波電力が供給された筐体内へ基材を搬送することにより基材の一部にマイクロ波を吸収させて発熱させる方法が一般的であった(例えば、特許文献1参照)。しかしこの様な方法では、エネルギーロスが大きく且つ基材上に均一なマイクロ波電力を供給することは難しく基材上で均一な温度を必要する場合には使用できない。
【0003】
一方、矩形状のマイクロ波導波管を利用する場合は、エネルギーロスを低減できるが、矩形状導波管の縦方向(矩形の長さ方向)にマイクロ波が進行した場合、この進行方向に直角な方向(矩形の巾方向)の電界強度が強くなることが知られており、同様に基材上に均一なマイクロ波電力を供給することは難しい。
【0004】
また導波管内のマイクロ波の伝播波長を長くするほど導波管の縦方向における電磁波エネルギーの効率が高くなることも知られているが、このマイクロ波の導波管内波長は導波管の横幅長さを狭くすると長くできる。通常使用されるマイクロ波(波長2.45GH)の場合、導波管の巾(横の長さ)を61mmから62mmにしたとき管内伝播波長が一番長くなり電界強度が最大になる。即ち導波管に設ける開口部を導波管に対して横方向に配置することによって横方向に強力な電界強度を発生させることができるが、前記したように導波管の巾は61〜62mm程度に限定されるので、これ以上長く均一な電界が得られず、均一な加熱はできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−283114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、幅広いフィルム基材に対し均一にマイクロ波加熱できるマイクロ波加熱装置を提供し、更に極短時間に処理することでフィルム基材上にコーティングされた特定層のみを加熱することによりフィルム基材への熱ダメージを発生させることなく緻密化させたり結晶化させることに対しても使用可能なマイクロ波加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
【0008】
1.マイクロ波発生源で発生したマイクロ波を導入する反対側が無反射終端されている導波管を有するマイクロ波加熱装置であって、該導波管の筐体面の一部に、マイクロ波の進行方向に沿って縦長の開口部を設け、この開口部に近接し且つ平行にガイドローラーを併設し、該ガイドローラーと該導波管の開口部との間にフィルム基材を配置し、該ガイドローラーに該フィルム基材を保持し搬送しながらマイクロ波を照射することにより該フィルム基材を加熱することを特徴とするマイクロ波加熱装置。
【0009】
2.前記縦長の開口部と前記導波管の内面との間に形成される狭窄された空間部分に、該狭窄された空間部分の電界強度を調整するための導電体を設けたことを特徴とする前記1に記載のマイクロ波加熱装置。
【0010】
3.前記導電体と前記開口部との関係位置を調整する手段を併せ備えたことを特徴とする前記2に記載のマイクロ波加熱装置。
【0011】
4.前記狭窄された空間部分に設けた前記導電体を、前記導波管の縦軸方向に沿って複数個設け、該導電体と前記開口部との関係位置を前記導波管の外部から調整する手段を併せ設けることにより、前記導波管の縦軸方向に沿った電界強度分布を均整化できるようにしたことを特徴とする前記1〜3の何れか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
【0012】
5.前記導波管が偏平な矩形状導波管であることを特徴とする前記1〜4の何れか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
【0013】
6.前記マイクロ波が、導波管の両端より導入されることを特徴とする前記1〜5の何れか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
【0014】
7.前記マイクロ波が、100μsec以下のパルス巾で供給されることを特徴とする前記1〜5の何れか1項にマイクロ波加熱装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、導波管内を伝播するマイクロ波電磁エネルギーをフィルム基材に直接照射させることができ、更に処理時間もマイクロ秒オーダーでコントロールできることより、照射エネルギーを詳細に制御できることで、フィルム基材への熱ダメージも抑制でき且つ効率的に基材上に設けた特定の膜だけを加熱することが出来るため、熱に弱いフィルム基材上でも緻密な結晶化薄膜をえることが可能となった。
【0016】
更に導波管内の、空間導波路部の電界強度分布を、管の縦方向に沿って調整する手段を提供したので、導波管の縦方向加工歪及び基材吸収に基づく電界強度のバラツキも容易に調整することが可能となり、長さ方向に均一に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のマイクロ波発生装置の基本概念を示す斜視図である。
【図2】本発明の基本概念に基づいて構成したマイクロ波発生装置の動作説明用側面図である。
【図3】本発明のマイクロ波導波路の電界強度を調整する機構の説明図である。
【図4】従来のマイクロ波加熱装置の作用説明のための動作説明用側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記、問題点に対し、本発明者等は、導波管の側壁部にこの導波管の縦方向(マイクロ波の伝播方向)に沿ってスリット状の開口部を設け、このスリットの方向に沿って導波管の外に隣接して且つ平行にガイドローラーを併設し、該ガイドローラーと矩形状導波管開口部との間にフィルム基材を配置し、該ガイドローラーにフィルム基材を保持し搬送しながらマイクロ波を照射する加熱手段を考案し、本発明を成すに至った。
【0019】
本発明により導波管の横幅は前記によって制限されても縦長さは自由に長くでき、広い面積のフィルム基材をより効率良く均一に加熱又は加熱を利用した乾燥ができるようになった。
【0020】
以下本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明マイクロ波加熱装置の基本構成を示す図で、マイクロ波の導波管1はアルミや真鍮などの導体で構成され、縦長さy横幅a厚さbの偏平な矩形状の空洞型導波管で、矢印MWの方向からマイクロ波が導入され管内を縦方向に進行する。2はこの導波管の偏平平面(H面)に設けられた縦長の開口部である。その開口部2に近接して且つ平行にフィルム基材4を保持するガイドローラー3が併設され、そのガイドローラーとマイクロ波導波管1に設けられた開口部2との間にフィルム基材4が配置されている。
【0022】
図1において、導波管1へ導入されるマイクロ波の波長をλoとしたとき、導波管内を伝播するマイクロ波の波長λgは、次式を満足するように選定し、λgが開口部長y’より長くなるように導波管の幅aを選定するのが望ましい。
【0023】
【数1】

【0024】
εは誘電率、μは透磁率である。(rは、真空の値に対しての比を表す。たとえば、ε、μは、それぞれ比誘電率と比透磁率を表す。)
一般的に使われる周波数2.45GHz、波長120mmのマイクロ波をこの導波管に送り込む場合は、上式によれば導波管幅aを61.3mmに選定したとき導波管内のマイクロ波の波長λgは2467mmとなり、縦軸方向に十分長い波長のマイクロ波を走らせることができる。
【0025】
図2は、図1の基本構成の側面図である。図2において5はマイクロ波発生源、6はマイクロ波誘導管、7は電磁波の反射部で反射波の波長を調整するための可動反射板8を備えている。この反射板8はプランジャー式になっており、位置を左右に調整することにより導波管内を進行するマイクロ波波長λgを微調整することができ、これにより導波管内の電界強度を長さ方向全体に亘って均一になるように調整できる。
【0026】
導波管内を伝播するマイクロ波電磁エネルギーが点線矢印meに示すようにフィルム基材(図示せず)へ放射される。
【0027】
図3は、導波管の厚みbをある程度厚くした状態で、導波管内の下面の導波路空間ギャップkを実質的に狭くし、この部分の電界強度を強くする手段を設けた実施例である。即ち導波管1の下壁面の内側に第2の導電体の壁板9を取り付け、この壁板の中央部付近9aを図に示すように内側へ凹ませることにより、マイクロ波の伝播容積を充分大きく確保しつつギャップkの部分の電界密度即ち電界強度を高めたものである。これにより導波管内のマイクロ波の電磁波エネルギーが強く作用し、フィルム基材によるエネルギー損失に伴う電界強度分布の補正を行い均一化させることができる。
【0028】
尚10は開口部下面の狭隘部空間(ギャップ部k)に設けられた導電性ブラシで、このブラシ10の上下位置をねじ機構11によって導波管外から矢印方向に調整することにより、ギャップk部の電界強度を微調整する。このブラシ機構を紙面に垂直方向即ち開口部の長手方向(図2、y’の方向)に沿って複数個設けておくことにより、電界強度の不均一性を調整することができる。
【0029】
尚、本発明に用いる導波管にはマイクロ波を管内へ誘導管などを介して導入するものであるが、必要に応じてこれに高周波コイルなどを付設して高周波電力を付加的に与え、導波管内の電磁波エネルギーを強めるようにしても良い。
【0030】
本発明のマイクロ波加熱装置は、矩形型導波管の縦軸方向に沿って安定したライン状のマイクロ波照射を行うことができるので、広い面積をもつ被処理物体に対しても短時間に効率的に加熱処理することが可能となる。
【0031】
更にパルスマイクロ波を用いることで、極短時間での加熱処理も可能となることで、熱に弱い樹脂フィルム上にコーティングされた膜に対し有効に該薄膜部のみを発熱させることが出来るため、フィルム上で緻密な結晶化無機膜の形成などにも応用可能となる。
【0032】
図4は従来のマイクロ波加熱装置20の動作説明用側面図である。マイクロ波遮断壁22内にマイクロ波アンテナ21が設置され、図示されないが、該アンテナにはマイクロ波電源が接続されている。該マイクロ波電源より供給された電力は、マイクロ遮断壁内に該アンテナよりマイクロ波エネルギーとして供給される。フィルム基材4は矢印方向に搬送されながら、マイクロ波によって加熱される。
【実施例】
【0033】
以下実施例により本発明を説明するが本発明はこれにより限定されるものではない。
【0034】
実施例1
図1記載のマイクロ波加熱装置を用いて、100μm厚みのポリエチレンテレフタレート(PET)上に酸化錫膜15nmがコーティングされたフィルムにマイクロ波を照射し酸化錫膜を加熱させた。
【0035】
装置条件は、
ロール径:100mmΦ
ロール幅:1500mm
フィルム幅:1450mm
マイクロ波:(株)ニッシン製 マイクロ波電源 MPS−30D
(周波数2.45GHz)
導波管幅aは61.3mm
スリット間隙:10mm
スリット幅:1400mm
であり、フィルムをライン速度10m/minで処理を行った。
【0036】
加熱均一性の評価
酸化錫膜上に日油技研工業(株)製サーモラベル(5S−95)を貼付け、加熱処理後の温度分布を巾手50mm間隔で測定した。
【0037】
加熱処理前の基材温度は室温の25℃であったが、加熱処理後は巾手全域に渡り全て105℃以上110℃未満を示した。
【0038】
実施例2
実施例1に於いて、酸化錫膜の代わりに酸化チタン膜を100nm真空蒸着した後、その上にITO膜を10nm真空蒸着したフィルムに代え、更にマイクロ波電源を(株)エーイーティー社製マイクロ波電源ML2000D及びMH2000SをパルスジェネレーターAPPGでパルス駆動させて加熱処理を行った。
【0039】
ここで用いたパルス条件は、パルス幅3μsecでパルス間隔を2msecとした。
【0040】
加熱処理後の酸化チタン膜の屈折率は、処理前2.1であったものが、2.45まで増加し、結晶構造を解析した結果、アナターゼ構造を示した。またこの時の基材フィルムは特に熱ダメージも無く良好であった。
【0041】
比較例
図4に示す一般的なマイクロ波ボックス内でマイクロ波を照射するマイクロ波加熱装置を用い実施例1と同様の加熱均一性を評価した結果、温度分布は95℃以下を示すところも有れば115℃以上を示すところもあり、均一な加熱状況は確認できなかった。
【符号の説明】
【0042】
1 マイクロ波の導波管
2 導波管の壁面に設けた縦長開口部
3 フィルム基材を保持するガイドローラー
4 フィルム基材
5 マイクロ波発生源
6 マイクロ波誘導管
7 マイクロ波反射部
8 可動反射板
9 導波管内の電界強度調整用第2の壁板(導電体)
10 導体ブラシ
11 ねじ機構
20 マイクロ波加熱装置
21 マイクロ波アンテナ
22 マイクロ波遮断壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波発生源で発生したマイクロ波を導入する反対側が無反射終端されている導波管を有するマイクロ波加熱装置であって、該導波管の筐体面の一部に、マイクロ波の進行方向に沿って縦長の開口部を設け、この開口部に近接し且つ平行にガイドローラーを併設し、該ガイドローラーと該導波管の開口部との間にフィルム基材を配置し、該ガイドローラーに該フィルム基材を保持し搬送しながらマイクロ波を照射することにより該フィルム基材を加熱することを特徴とするマイクロ波加熱装置。
【請求項2】
前記縦長の開口部と前記導波管の内面との間に形成される狭窄された空間部分に、該狭窄された空間部分の電界強度を調整するための導電体を設けたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項3】
前記導電体と前記開口部との関係位置を調整する手段を併せ備えたことを特徴とする請求項2に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項4】
前記狭窄された空間部分に設けた前記導電体を、前記導波管の縦軸方向に沿って複数個設け、該導電体と前記開口部との関係位置を前記導波管の外部から調整する手段を併せ設けることにより、前記導波管の縦軸方向に沿った電界強度分布を均整化できるようにしたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項5】
前記導波管が偏平な矩形状導波管であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項6】
前記マイクロ波が、導波管の両端より導入されることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項7】
前記マイクロ波が、100μsec以下のパルス巾で供給されることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項にマイクロ波加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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