説明

マイクロ流体システム用支持ユニットを用いて光化学反応または分光分析を行う方法

【課題】 反応や分析のステップ数や量の制限が緩く、製造が容易であり、さらに複雑な流体回路を高密度に実装できるマイクロ流体システム用支持ユニットを用いて、流体の光化学反応または分光分析を行う方法を提供する。
【解決手段】 第一の支持体と、マイクロ流体システムの流路を構成する中空フィラメントとを備え、該中空フィラメントが前記第一の支持体に任意の形状に敷設され、中空フィラメントの所定箇所が光透過性を有し、かつ中空フィラメントの内側の所定箇所が機能性を有するマイクロ流体システム用支持ユニットの、
前記光透過性を有する中空フィラメントに流体を流し、光を照射して流体の光化学反応または分光分析を行う方法であって、
前記機能性は、吸・脱着、イオン交換、分離、除去、分配及び酸化・還元からなる群から選ばれる少なくとも一つである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体システム用支持ユニットを用いて流体の光化学反応または分光分析を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学や生化学の分野ではMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を応用した反応系や分析装置の小型化に関する研究が進められている。従来は、構成要素の一つとなるマイクロポンプ、マイクロバルブといった単一機能を有する機械要素(マイクロマシン)の研究開発が行われている(例えば、非特許文献1及び2参照。)。
目的の化学反応や化学分析を行うためには、マイクロマシンなどの各種部品を複数組み合わせてシステム化する必要がある。一般にそれらのシステムの完成形は、マイクロリアクターシステム(Micro Reactor System)、マイクロ化学分析システム(Micro Total Analysis System:μTAS)などと呼称されている。通常、マイクロマシンは半導体製造プロセスを適用してシリコンチップ上に形成する。複数の要素を一つのチップに形成(集積)し、システム化することは、原理的には可能であり、その取り組みも実際行われている(例えば、非特許文献3参照。)。しかし、その作製プロセスは複雑であり、量産レベルでこれを製造することは困難と予想されている。
【0003】
複数のマイクロマシン等を接続して流体回路(システム)を形成する方法として、シリコン基板の所定の位置にエッチング等で溝を形成して流路とするチップ型基板(ナノリアクター)が提案されている。上記の集積化する方法より製造ははるかに容易というメリットがある。しかし、流路断面積が小さく流体と溝側面との界面抵抗が大きく、その流路長は最大でmm単位といったところが現状であり、流路層の多層化が難しく、実際に行われる合成反応や化学分析では反応や分析の種類、ステップ数や量が制限されてしまうという点が克服されていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】庄子、「化学工業」、2001年4月、第52巻、第4号、45−55頁
【非特許文献2】前田、「エレクトロニクス実装学会誌」、2002年1月、第5巻、第1号、25−26頁
【非特許文献3】伊永、「日本学術会議50周年記念環境工学連合講演論文集」、1999年、第14号、25−32頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討されたものである。本発明の目的は、反応や分析のステップ数や量の制限が緩く、製造が容易であるマイクロ流体システム用支持ユニットを提供することである。また、本発明の他の目的は、複雑な流体回路を高密度に実装できるマイクロ流体システム用支持ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、(1)第一の支持体と、マイクロ流体システムの流路を構成する、少なくとも一本の中空フィラメントとを備え、該中空フィラメントが前記第一の支持体に任意の形状に敷設され、かつ前記中空フィラメントの内側の所定箇所が機能性を有するマイクロ流体システム用支持ユニットに関する。
【0007】
中空フィラメントを流路として用いるため、精度がよく、製造が容易であり、且つ反応や分析のステップ数や量を制限しない多機能のマイクロ流体システムを提供することができる。
【0008】
本発明は、(2)前記中空フィラメントが、複数本敷設された上記(1)記載のマイクロ流体システム用支持ユニットに関する。
【0009】
本発明は、(3)さらに、内側の所定箇所に機能性を有さない中空フィラメントが、第一の支持体に任意の形状に少なくとも一本敷設された上記(1)又は(2)記載のマイクロ流体システム用支持ユニットに関する。
【0010】
本発明は、(4)少なくとも一本の中空フィラメントが、他の少なくとも一本の中空フィラメントに交差するように敷設された上記(1)〜(3)いずれか1つに記載のマイクロ流体システム用支持ユニットに関する。
【0011】
本発明は、(5)少なくとも一本の中空フィラメントが、該中空フィラメント自身に交差するように敷設された上記(1)〜(4)いずれか1つに記載のマイクロ流体システム用支持ユニットに関する。
【0012】
立体的に敷設することができるため、精度がよく、製造が容易で、且つ反応や分析のステップ数や量を制限しない。更に、多機能のマイクロ流体システム用支持ユニットを提供することができる。また、複雑な流体回路であっても場所を要しない小型マイクロ流体システム用支持ユニットを提供することができるため、マイクロ流体システム自体のコンパクト化を図ることもできる。
【0013】
本発明は、(6)さらに、第二の支持体を有し、該第二の支持体と第一の支持体との間に少なくとも一本の中空フィラメントが挟まれた構造である上記(1)〜(5)いずれか1つに記載のマイクロ流体システム用支持ユニットに関する。
【0014】
本発明は、(7)少なくとも一本の中空フィラメントの一部が、第一の支持体及び第二の支持体の少なくともいずれかから露出するように敷設された上記(1)〜(6)いずれか1つに記載のマイクロ流体システム用支持ユニットに関する。
【0015】
これにより、外部部品や装置との接続を容易に行なうことができる。
【0016】
本発明は、(8)少なくとも一本の中空フィラメントが、流体を外部から注入及び外部へ抽出の少なくともいずれかを行うためのポートを備える上記(1)〜(7)いずれか1つに記載のマイクロ流体システム用支持ユニットに関する。
【0017】
本発明は、(9)ポートが第一の支持体及び第二の支持体の少なくともいずれかに固定されている上記(8)に記載のマイクロ流体システム用支持ユニットに関する。
【0018】
これにより、ポートの抜き差し作業により生じる中空フィラメントの折損等の不具合を抑えることができる。
【0019】
本発明は、(10)中空フィラメントの経路を連結する中継部を備える上記(1)〜(9)いずれか1つに記載のマイクロ流体システム用支持ユニットに関する。
【0020】
これにより、互いに機能が異なるチューブを容易に接続でき、多段の反応などを行うことができる。
【0021】
本発明は、(11)少なくとも一本の中空フィラメントの所定箇所に金属膜が形成されている上記(1)〜(10)いずれか1つに記載のマイクロ流体システム用支持ユニットに関する。
【0022】
本発明は、(12)少なくとも一本の中空フィラメントの所定箇所が光透過性を有する上記(1)〜(11)いずれか1つに記載のマイクロ流体システム用支持ユニットに関する。
【0023】
本発明は、(13)前記中空フィラメントが有する機能性が、吸・脱着、イオン交換、分離、除去、分配及び酸化・還元からなる群から選ばれる少なくとも一つである上記(1)〜(12)いずれか1つに記載のマイクロ流体システム用支持ユニットに関する。
【0024】
本発明は、(14)少なくとも一本の中空フィラメントの内側の所定箇所に充填剤を固定することにより機能性を付与する上記(1)〜(13)いずれか1つに記載のマイクロ流体システム用支持ユニットに関する。
【0025】
本発明は、(15)少なくとも一本の中空フィラメントの内側の所定箇所にグラフト重合処理を施すことにより機能性を付与する上記(1)〜(14)いずれか1つに記載のマイクロ流体システム用支持ユニットに関する。
【0026】
本発明は、(16)少なくとも一本の中空フィラメントの内側の所定箇所に多孔体を形成することにより機能性を付与する上記(1)〜(13)いずれか1つに記載のマイクロ流体システム用支持ユニットに関する。
【0027】
多種多様な吸/脱着、分配、分離、濃縮等の化学操作を簡単な構造で逐次的にかつ多段に構築することができる。その結果、反応や分析のステップ数や量を制限しない更に多機能のマイクロ流体システム用支持ユニットを提供することができる。また、更に、複雑な流体回路であっても場所を要しない小型マイクロ流体システム用支持ユニットを提供することができるため、マイクロ流体システム自体のコンパクト化を図ることもできる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のマイクロ流体システム用支持ユニットは製造が容易である。また、反応や分析の工程数や量の制限が緩い。また、cm単位の長い距離の流路長を得ることができる。
【0029】
この結果、本発明のマイクロ流体システム用支持ユニットは、精度がよく、製造ばらつきが少ない流体回路(マイクロ流体システム)を提供することができる。また、立体的に少なくとも一本の中空フィラメントを交差させることができるため、複雑な流体回路の小型のマイクロ流体システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1(a)は、本発明の第一の実施の形態に係るマイクロ流体システム用支持ユニットの断面図で、図1(b)は、図1(a)のIa−Ia線矢印方向から見た断面図が図1(a)に対応する平面図である。
【図2】図2は本発明の第二の実施の形態に係るマイクロ流体システム用支持ユニット用中空フィラメントの構造を説明する斜視図であり、図2(a)は該ユニットの面内にて中空フィラメントが露出している付近の斜視図、図2(b)は該ユニットの面外にて中空フィラメントが露出している付近の斜視図である。
【図3】図3(a)は、本発明の第三の実施の形態に係るポート(穴)を備えるマイクロ流体システム用支持ユニットの斜視図で、図3(b)は、本発明の第三の実施の形態に係るポート(ニードル)を備えるマイクロ流体システム用支持ユニットの斜視図である。
【図4】図4は本発明の第四の実施の形態に係る継手を備えるマイクロ流体システム用支持ユニットの斜視図である。
【図5】図5は本発明の第五の実施の形態に係る継手を備えるマイクロ流体システム用支持ユニットの斜視図である。
【図6】図6(a)は、本発明の第六の実施の形態に係る中継部を備えるマイクロ流体システム用支持ユニットの斜視図で、図6(b)は、図6(a)のVIa−VIa線矢印方向の断面図である。
【図7】図7(a)は、図7(c)に示す本発明の第七の実施の形態に係るマイクロ流体システ厶用支持ユニットの平面図のVIIa−VIIa線矢印方向から見た断面図、図7(b)は、図7(c)に示す平面図のVIIb−VIIb線矢印方向から見た断面図である。
【図8】図8は本発明の第八の実施の形態に係るマイクロ流体システム用支持ユニットの斜視図である。
【図9】図9は本発明の第九の実施の形態に係るマイクロ流体システム用支持ユニットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0032】
図1に本発明の第一の実施の形態に係るマイクロ流体システム用支持ユニットの模式図を示す。図1(a)は、マイクロ流体システム用支持ユニットの断面図で、図1(b)は、Ia−Ia線矢印方向から見た断面図が図1(a)に対応する平面図である。
【0033】
図1(a)、(b)に示すように、本発明の第一の実施の形態に係るマイクロ流体システム用支持ユニットは、第一の支持体1と、この第一の支持体1に任意の形状に敷設された複数の中空フィラメント501、502、503、…、508からなる第一のフィラメント群と、この複数の中空フィラメントに交差する方向に敷設された複数の中空フィラメント511、512、513、…、518からなる第二のフィラメント群とを備える。また、この支持ユニットは、これら中空フィラメントに対して第一の支持体1とは反対側に第二の支持体2を有している。前記第一及び第二のフィラメント群は第一の支持体1と第二の支持体2との間にそれぞれ接着層8a、8bを介して挟まれた構造をとっている。
【0034】
これらの各中空フィラメントの内側には機能性を有する所定箇所301、302、…、308、311、312、…、318が備えられている。また、これらの複数の中空フィラメントは、それぞれ第一の実施の形態に係るマイクロ流体システム用支持ユニットの薬液の流路層を構成している。上記第一のフィラメント群と第二のフィラメント群とは、互いに交差した配線である。化学チップ等の場合は同一面内での交差は困難または不可能であるが、本発明における上記第一のフィラメント群と第二のフィラメント群とは交差が容易に可能である。
【0035】
中空フィラメントの内径及び外径は目的に応じて選択すればよいが、単位時間当たりの流量がミリリットル(mL)〜マイクロリットル(μL)単位となる場合が多いと考えられるので、内径は、φ0.01mm〜1.0mm程度であることが好ましい。この様な径の中空フィラメントを作製する場合は、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)などの樹脂の材質が特に適している。φ0.01mm未満の内径にすると、中空フィラメントの内壁面と流体との界面抵抗の影響が無視できなくなり、詰まりなどの不具合を生じやすい傾向がある。一方、φ1.0mmより大きい内径では流体を連続的に流すためには高圧が必要となり他の部品への負担が増え、また、流体中への気泡の混入等が生じてしまう可能性がある。中空フィラメントに流している流体に化学反応を生じさせる場合は、中空フィラメントは耐薬品性を有するものがよい。
【0036】
中空フィラメントは、例えば、市販の各種材質のチューブを使用することができ、目的に応じて任意の材質のものを選択することができる。それらの例としては、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂(PVA)、ポリスチレン樹脂(PS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(ABS)、ポリエチレン樹脂(PE)、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリ4−メチルペンテン樹脂(TPX)、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、酢酸セルロース、ポリ四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体樹脂(FEP)、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体樹脂(PFA)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体樹脂(ETFE)、ポリ三フッ化塩化エチレン樹脂(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリアミド樹脂(ナイロン等)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリフェニレンオキシド樹脂(PPO)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリウレタン樹脂、ポリエステルエラストマ、ポリオレフィン樹脂、シリコーン樹脂、等の有機材質や、ガラス、石英、カーボン等の無機材質などが挙げられる。
【0037】
中空フィラメントの内側の所定箇所301、302、…、308、311、312、…、318が有する機能性としては、例えば、吸・脱着、イオン交換、分離、除去、分配、酸化・還元等が挙げられる。これらの内の少なくとも一つを有するのが好ましい。
【0038】
機能性を、充填剤を充填して固定することにより少なくとも一本の中空フィラメントに付与する場合は、例えば、無機系充填剤、樹脂系充填剤等から目的に応じた充填剤を選んでよい。無機系充填剤としては、例えば、シリカゲル、活性炭、アルミナ、ジルコニア、チタニア等を基材としたものなど挙げられる。なお、シリカゲル充填剤は塩基性の水溶液に溶解するため、pHは8以下で使用することが好ましい。樹脂系充填剤としては、例えば、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ポリメタクリレート等の合成ポリマーゲル、天然高分子ゲルなどが挙げられる。樹脂系充填剤は目的に応じて、硬さ、細孔の大きさなどを制御することが容易であり、また、幅広いpH範囲(pH2〜13程度)で使用できる。目的に応じて、これら充填剤の表面に所定のDNAプローブ、抗体、イオン交換基を導入してもよく、また、触媒作用のある金属などを担持させてもよい。充填剤の固定により中空フィラメントへ付与される機能性としては、吸・脱着、イオン交換、分離、除去、分配、酸化・還元等が挙げられる。
【0039】
少なくとも一本の中空フィラメントの内側の所定箇所に機能性をグラフト重合処理を施すことによって付与する場合は、例えば、放射線グラフト重合法が好ましい。例えば、中空フィラメントに用いるチューブの所定箇所に電子線、ガンマ線等の高エネルギーの放射線を照射し、ラジカルを生成させ、グリシジルメタクリレート(GMA)モノマーをチューブに流すとグラフト重合側鎖が生成する。この側鎖に目的とする機能基を導入するという方法である。グラフト重合による処理は、任意形状のチューブの所定箇所に機能基を導入することが、様々な機能を付与することができるので好ましい。グラフト重合処理により中空フィラメントへ付与される機能性としては、吸・脱着、イオン交換、分離、分配等が挙げられる。
【0040】
少なくとも一本の中空フィラメントの内側の所定箇所に多孔体を形成することによって機能性を付与する場合は、例えば、シリカ多孔体等を用いると良い。該シリカ多孔体は、中空フィラメント内にモノマーを流した後に重合させて多孔体の構造を形成するので、φ0.01〜0.1mmの微小径の中空フィラメントでも作製し易い。また、多孔体構造の仕様(材質、骨格サイズ、孔サイズ、表面修飾等の仕様)を任意にできるため、目的に応じた機能を実現できるため好ましい。多孔体形成により中空フィラメントへ付与される機能性としては、吸・脱着、イオン交換、分離、分配等が挙げられる。
【0041】
また、中空フィラメントに流している流体に光を照射し、光化学反応を生じさせたり、分光分析を行ったりする機能性を付与する場合は、光化学反応を生じさせたり、分光分析を行う少なくとも一本の中空フィラメントの所定箇所に光透過性があるとよい。光透過率は目的に応じた値でよいが、目的波長において80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。この場合、中空フィラメントの所定箇所に隣接する部分の第一の支持体1、及び/又は、第二の支持体2が上述のような光透過率を有することが好ましい。また、接着層を有する場合は、これも中空フィラメントの所定箇所に隣接する部分が光透過率を有することが好ましい。
【0042】
図2は本発明の第二の実施の形態に係るマイクロ流体システム用支持ユニット用中空フィラメントの構造を説明する斜視図であり、図2(a)は該ユニットの面内にて中空フィラメント58が両方向に露出している付近の斜視図、図2(b)は該ユニットの面外にて中空フィラメントが露出している付近の斜視図である。図2(a)に示すように、第一の支持体1と接着層8a、及び/又は、第二の支持体2と接着層8bに露出窓9を設け中空フィラメント58を露出させることも好ましい。すなわち、少なくとも一本の中空フィラメントの一部が、第一の支持体から、第二の支持体がある場合は第一の支持体及び/又は第二の支持体から、露出するように敷設されているのが好ましい。また、光非透過性の接着層がある場合は接着層から、露出するように敷設されているのが好ましい。
【0043】
また、少なくとも一本の中空フィラメントの所定個所に金属膜を形成することができる。例えば図2(b)に示すように、中空フィラメント58の露出した一部に金属膜59を形成し、電圧などを印加するための端子を形成することができる。この場合、Cu、Al、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、金(Au)、等を単層、或いは多層化してめっきや蒸着などで形成するとよい。
【0044】
本発明のマイクロ流体システム用支持ユニットにおいて、内側の所定箇所に機能性を有さない中空フィラメントが、第一の支持体に任意の形状に少なくとも一本敷設されていても良い。環境分析などの場合、検体の一部を前処理を施さないリファレンスとして採取する場合がある。本発明では、機能性を有さない中空フィラメントをリファレンス用として、機能性を有する中空フィラメントとともに敷設することができるので、容易に上述の要求に応じることができる。
【0045】
少なくとも一本の中空フィラメントが、他の少なくとも一本の中空フィラメントに交差するように敷設されていても良い。流路は、分析する検体数や反応ステップ数に応じた流路数を敷設しなければならない。また、温度制御や反応時間の確保等のため必要長さを敷設しなければならない。これらの場合にも、配線を自由に交差させることができるので、パターン設計時に敷設の禁止域を考えずに配線することができる。
【0046】
少なくとも一本の中空フィラメントが、該中空フィラメント自身に交差するように敷設されていても良い。例えば、原材料を中空フィラメントに連続的あるいは間断的に流し、該フィラメントの機能性を有する部分に到達させて反応を生じさせるリアクターユニットを挙げる。多くの場合、ヒーターやペルチェ素子といった温度制御デバイスをリアクターユニットの所定の箇所に接させ、該箇所に存在する中空フィラメントの中を流れる前記原材料を加熱/冷却する構成になる。温度制御を高効率かつ高速に行うためには、前記デバイスに接する箇所に必要長さのフィラメントを敷設し、それ以外での敷設を可能な限り省かなければならない。本発明では、該箇所に、中空フィラメントを自身と交差させながら渦巻状のパターンを形成し必要長さを確保できる特長がある。
【0047】
中空フィラメントの固定を容易にする目的で、第一の支持体、及び/又は、第二の支持体の中空フィラメント側の表面に接着剤の層(図1(a)の接着層8a、8b参照。)を設けてもよい。それらの例としては、国際公開WO03/070623号公報記載のものが好適に挙げられる。
【0048】
例えば、第一の支持体1の表面に形成する第一の接着層8aは、感圧性や感光性を備える接着剤が好ましい。一般的にこれらの材料は、圧力、光および熱に対する感受性を有する。これらの刺激を印加することで粘着性、接着性や埋込みによる保持力を発現させるので、中空フィラメント(中空キャピラリ)を機械的に敷設する場合に適する。
【0049】
感圧性接着剤では、高分子量合成ゴムやシリコーン樹脂系の接着剤が適する。
【0050】
高分子量合成ゴムの接着剤としては、例えば、トーネックス株式会社製の商品名ビスタネックスMML−120の様なポリイソブチレンや、日本ゼオン株式会社製の商品名ニポールN1432等のアクリロニトリルブタジエンゴムや、デュポン社製のハイパロン(登録商標)20の様なクロルスルホン化ポリエチレン等を用いることが出来る。この場合は、これら材料を溶剤に溶解して第一の支持体1に直接塗布乾燥して第一の接着層8aを形成することが出来る。更に、必要に応じてこれら材料に架橋剤を配合することも出来る。又、日東電工株式会社製型番No.500やスリーエム社製の商品名VHBA−10、A−20、A−30等のアクリル樹脂系の両面粘着テープ等も使用できる。
【0051】
シリコーン樹脂系の接着剤としては、高分子量のポリジメチルシロキサン又はポリメチルフェニルシロキサンからなり末端にシラノール基を有したシリコーンゴムと、メチルシリコーンレジン又はメチルフェニルシリコーンといったシリコーンレジンとを主成分としたシリコーン接着剤が適している。凝集力を制御するため各種の架橋を行っても良い。例えば、シランの付加反応、アルコキシ縮合反応、アセトキシ縮合反応、過酸化物などによるラジカル反応などにより架橋を行うことが出来る。この様な接着剤として市販のものでは、YR3286(GE東芝シリコーン株式会社製、商品名)やTSR1521(GE東芝シリコーン株式会社製、商品名)、DKQ9−9009(ダウコーニング社製、商品名)などがある。
【0052】
感光性接着剤としては、例えば、プリント基板のエッチングレジストとして使用されているドライフィルムレジストやソルダーレジストインクやプリント基板の感光性ビルドアップ材等が適用できる。具体的には、日立化成工業(株)製の商品名H−K440やチバガイギー社製のプロビマー等がある。特に、ビルドアップ配線板用途として提供されているフォトビア材料は、プリント配線板の製造工程やはんだによる部品実装工程にも耐えることが出来る。この様な材料としては、光によって架橋可能な官能基を有した共重合体或いは単量体を含んだ組成物及び/又は光の他に熱で架橋可能な官能基と熱重合開始剤を混合した組成物であれば何れも使用可能である。
【0053】
このような前記感光性接着剤の組成としては、エポキシ樹脂、ブロム化エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、ゴム分散エポキシ樹脂等の脂環式エポキシ樹脂又はビスフェノール−A系エポキシ樹脂及びこれらエポキシ樹脂の酸変性物などが挙げられる。特に光照射を行って光硬化を行う場合にはこれらエポキシ樹脂と不飽和酸との変性物が好ましい。不飽和酸としては無水マレイン酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、イタコン酸無水物、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。これらはエポキシ樹脂のエポキシ基に対し等量若しくは等量以下の配合比率で不飽和カルボン酸を反応させることによって得られる。
【0054】
また、メラミン樹脂、シアネートエステル樹脂のような熱硬化性材料、或いはこのものとフェノール樹脂の組み合わせ等も好ましい適用例の一つである。このような熱硬化性の材料を添加することで、光が照射されない交差部の陰の部分等の接着剤も硬化させることが出来る。
【0055】
他には可とう性を付与する目的で天然ゴム、前述の高分子量合成ゴム、例えばアクリロニトリルブタジエンゴム、アクリルゴム、SBR、カルボン酸変性アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボン酸変性アクリルゴム、架橋NBR粒子、カルボン酸変性架橋NBR粒子等を添加しても良い。
【0056】
以上の様な種々の樹脂成分を加えることで光硬化性、熱硬化性という基本性能を保持したまま硬化物に色々な性質を付与することが可能になる。例えばエポキシ樹脂やフェノール樹脂との組み合わせによって硬化物に良好な電気絶縁性を付与することが可能になる。ゴム成分を配合した時には硬化物に強靭な性質を与えると共に、酸化性薬液による表面処理によって硬化物表面の粗化を簡単に行うことが可能になる。
【0057】
又、通常使用される添加剤(重合安定剤、レベリング剤、顔料、染料等)を添加しても良い。又フィラーを配合することもなんら差し支えない。フィラーとしてはシリカ、溶融シリカ、タルク、アルミナ、水和アルミナ、硫酸バリウム、水酸化カルシウム、エーロジル、炭酸カルシウム等の無機微粒子、粉末状エポキシ樹脂、粉末状ポリイミド粒子等の有機微粒子、粉末状ポリテトラフロロエチレン粒子等が挙げられる。これらのフィラーには予めカップリング処理を施してあっても良い。これらの分散はニーダー、ボールミル、ビーズミル、3本ロール等既知の混練方法によって達成される。
【0058】
この様な感光性樹脂の形成方法は、液状の樹脂をロールコート、カーテンコート、ディプコート等の方法で塗布する方式や、絶縁樹脂をキャリアフィルム上でフィルム化してラミネートで張合わせる方式を用いることが出来る。具体的には、日立化成工業(株)製のフォトビアフィルム商品名BF−8000等がある。
【0059】
第二の接着層8bは、第一の接着層8aで示した各種の材料が使用できる。
【0060】
中空フィラメントを第一の支持体に敷設し、好ましくは固定することは、中空フィラメント単体の場合と比較して、周囲の温度、電場、磁場等様々な環境を制御し易いという優れたメリットがある。このことは、化学反応、化学分析等を行う際に有利であり、特にマイクロ化された反応系及び分析系においては好ましい。また、その他の部品とのアライメントが容易で接続し易く、多数の中空フィラメントをコンパクトに収容できるという利点もある。
【0061】
化学分析を行う場合、複数の中空フィラメントを有していることが作業効率を高める点でよい。この場合、複数の中空フィラメントは、反応時間、泳動距離、エネルギー印加量等の条件を等しくするという観点から、互いに等長であることが好ましい。つまり、試料の流入部から流出部まで外部から受けるエネルギー量が均一であり、更に他の中空フィラメントが受けるエネルギー量ともほとんど差がないことが好ましい。この様な観点から、中空フィラメントに伝わる熱の分布が均一になるように中空フィラメントが2枚以上の支持体間に挟まれていることが好ましい。すなわち、本発明のマイクロ流体システム用支持ユニットは、第二の支持体をさらに有し、該第二の支持体と第一の支持体との間に少なくとも一本の中空フィラメントが挟まれた構造であるのが好ましい。
【0062】
また、複数の中空フィラメントは、互いに等間隔に敷設されているのが好ましい。さらに、複数の中空フィラメントの管の厚みは均一であることが好ましい。
【0063】
第一の支持体、第二の支持体等の支持体の材質、形状、サイズなどは目的に応じて選定すればよく、板厚、フィルム厚等の適正な範囲は目的や求められる機能によって異なることが多い。例えば、電気絶縁性を求める場合は、プリント配線板等に用いられているエポキシ樹脂板、ポリイミド樹脂板など、フレキシブル配線板等に用いられているデュポン社製のカプトン(登録商標)フィルムに代表されるようなポリイミドフィルム、東レ株式会社製のルミラー(登録商標)フィルムに代表されるようなPETフィルムや東レ株式会社製のトレリナ(登録商標)フィルムに代表されるPPSフィルムなどを選定することが好ましい。電気絶縁性を求める場合は、第一の支持体の板厚(フィルム厚)は厚い方が好ましく、0.05mm以上であることがより好ましい。
【0064】
また、第一の支持体に放熱性を求める場合は、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ステンレス、チタン(Ti)等の金属製の箔や板を選定することが好ましい。この場合、第一の支持体の板厚は更に厚い方が好ましく、0.5mm以上であることがより好ましい。
【0065】
また、第一の支持体に光透過性を求める場合は、ガラス、石英板等の無機材料の板やフィルム、ポリカーボネート、アクリル等の有機材料の板やフィルムなどを選定することが好ましい。この場合、第一の支持体の板厚(フィルム厚)は薄い方が好ましく、0.5mm以下であることがより好ましい。
【0066】
更に、支持体として、表面に銅等の金属パターンをエッチング、めっき等で形成したいわゆるフレキシブル回路基板やプリント回路基板などを用いてもよい。これにより、マイクロマシン、発熱素子、圧電素子、温度・圧力・歪み・振動・電圧・磁界等の各種センサーや抵抗・コンデンサ・コイル・トランジスタやICなどの電子部品、更に半導体レーザ(LD)、発光ダイオード(LED)、及びフォトダイオード(PD)などの光部品など、様々な部品や素子を実装する端子や回路を形成でき、システム化が容易になる。
【0067】
第二の支持体2は、第一の支持体1で示した各種の材料が使用できる。更に第二の支持体2と、複数の中空フィラメント511〜518からなる第二のフィラメント群との間に、第二の接着層8bが挿入されることで、複数の中空フィラメント501〜508からなる第一のフィラメント群及び第二のフィラメント群を保護する作用が一層増すので好ましい。第二の支持体2として網目状又は多孔性のフィルム又は織物を選択すれば、ラミネート時の気泡の抱き込みといった不具合が生じにくくなる。この網目状フィルム又は織物としては、東京スクリーン株式会社製のポリエステルメッシュ型番TB−70等が挙げられる。多孔性のフィルムとしては、セラニーズ・ケミカル社製の商品名ジュラガードやダイセル化学工業株式会社製の商品名セルガード2400等が挙げられる。
【0068】
また、少なくとも一本の中空フィラメントが、流体を外部から注入、及び/又は、外部へ抽出するためにポートを有することが好ましい。これらポートの構造、形状、設ける箇所等は任意でよい。図3(a)に、本発明の第三の実施の形態に係るポート(穴)を備えるマイクロ流体システム用支持ユニットの斜視図を、図3(b)に、本発明の第三の実施の形態に係るポート(ニードル)を備えるマイクロ流体システム用支持ユニットの斜視図を示す。図4に本発明の第四の実施の形態に係る継手を備えるマイクロ流体システム用支持ユニットの斜視図を示す。図5に本発明の第五の実施の形態に係る継手を備えるマイクロ流体システム用支持ユニットの斜視図を示す。
【0069】
例えば、図3(a)に示すように中空フィラメント58の内径若しくは外径と同程度又はそれ以下の径の穴41をレーザ加工、切削加工等で形成し、シリコーンゴム(図示せず。)等で蓋をする方法や、図3(b)に示すように、やはり同径程度の径を有するニードル42を中空フィラメント58に突き刺し、前記ニードル42を固定する方法が挙げられる。また、図4及び図5に示すように中空フィラメントの末端に流体用の継手43を設ける方法などがある。ここで、継手43等のポートは第一の支持体に、第二の支持体がある場合は第一の支持体及び/又は第二の支持体に、固定されることが好ましい。これにより、ポートの抜き差し作業により生じる中空フィラメントの折損等の不具合を抑えることができる。目的に応じて単心、多心の何れのタイプを使用しても良い。また、バルブ機能やフィルター機能を内蔵した継手を設けることでより高機能なマイクロ流体システム用支持ユニットを構成することができる。
【0070】
穴41、ニードル42、継手43等のポートの大きさは基本的に任意でよいが、倍以上の大きさになると無駄な容量が増加してマイクロ化のメリットが減少してしまったり、気泡などの混入を引き起こす原因となったりするので、注意が必要である。
【0071】
以上、本発明について上記実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす部分及び図面はこの発明を限定すると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。例えば、マイクロ流体システム用支持ユニットの一部に貫通孔を設け、カム付きモータなどで中空フィラメント58の一部に時間周期的な力を加えこの箇所の中空フィラメントを変形させ、この箇所にある流体を移動させて、脈動流を生じさせるマイクロポンプ、若しくはマイクロバルブのような使い方をする場合は、中空フィラメント58に弾性があるとよい。特に、中空フィラメント58は、ヤング率で10MPa以下であることが好ましい。
【0072】
図6(a)は、本発明の第六の実施の形態に係る中継部を備えるマイクロ流体システム用支持ユニットの斜視図で、図6(b)は、図6(a)のVIa−VIa線矢印方向の断面図である。本発明のマイクロ流体システム用支持ユニットは、図6(a)、図6(b)に示すように、開口部である中継部6を備えていることが好ましい。中継部6は、中空フィラメントの経路を連結するものであり、第一の接着層8aと第二の接着層8bの間から中空フィラメント58を露出する構造になっている。露出した中空フィラメント58は、流体を排出する。中継部6は、排出された流体を混合、又は分岐させる。中継部6の形状やサイズは流体の流量に応じて決めれば良い。例えば、2〜3本の内径φ200μmの中空フィラメント58で形成した流路と、その中空フィラメント58を保持する第一の接着層8aと第二の接着層8bの厚さの合計が200μmの場合、中継部6はφ2mm〜φ7mm程度の円柱形状で良い。中継部6を備えることによって、中空フィラメント58を流れる流体を混合又は分岐させることが出来る。更に、第二の支持体2を中継部6の一部にすることで、中継部6を開いた構造に出来るので、外部から中継部に新たな流体を注入する、又は中継部6にある流体を外部に取り出すことが出来る。中継部6が流体の混合又は分岐のみを行う場合、第二の支持体2を除去加工しないで閉ざした構造にしてもよい。
【0073】
更に、中空フィラメントと中空フィラメントの交差は、必ずしも90度に直交している必要はなく、交差していればよい。
【0074】
また、中空フィラメントは必ずしも交差させる必要はない。図7(a)は、図7(c)に示す本発明の第七の実施の形態に係るマイクロ流体システム用支持ユニットの平面図のVIIa−VIIa線矢印方向から見た断面図、図7(b)は、図7(c)に示す平面図のVIIb−VIIb線矢印方向から見た断面図である。なお、図7〜図9では機能性を付与した所定箇所は図示していない。図8は本発明の第八の実施の形態に係るマイクロ流体システム用支持ユニットの斜視図である。図7(a)〜図7(c)及び図8に示すように、中空フィラメント群を一方向に走行する複数の中空フィラメント501〜508のみから構成してもよい。図9は本発明の第九の実施の形態に係るマイクロ流体システム用支持ユニットの斜視図である。図9に示すように、湾曲を描く複数の中空フィラメント511〜518を敷設してもよい。
【0075】
尚、中空フィラメントは、必ずしも複数敷設されていなくてもよく、即ち中空フィラメントは単数であってもよい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0077】
(作製例1)
第一の支持体1として、厚さ75μmのデュポン社製ポリイミドフィルム(登録商標カプトン)型番300Hに、接着層として厚さ250μmで室温で粘着性であるスリーエム社製の粘着フィルム:商品名VHB A−10フィルムを貼付したものを用いた。この第一の支持体1の所望の位置に、超音波振動と荷重の出力制御が可能でNC制御でX−Yテーブルを可動できるNC配線装置を用い、仁礼工業株式会社の高機能エンプラチューブ(材質:PEEK、内径0.2mm、外径0.4mm)からなる中空フィラメント501〜508、511〜518を敷設した。
【0078】
敷設する中空フィラメント501〜508、511〜518には、荷重80gと周波数30kHzの超音波による振動をかけ、半径5mmの円弧状に行い、交差する部分も設けた。第二の支持体2として、デュポン社製ポリイミドフィルム(登録商標カプトン)型番300Hを用い、複数の中空フィラメント511〜518からなる第二の中空フィラメント群を敷設した。
【0079】
その後、プリント基板用の小径穴あけ用途のレーザ穴あけ機を用い、パルス幅5ms、ショット数4ショットでφ0.2mmの穴を0.1mm間隔で移動させて、図1(b)に示す所望の切断線に沿って、幅広の十字の形に外形加工した。その後、中空フィラメント501〜508、511〜518の端部付近の第一の支持体1の所定部分を除去し、8本の全長20cmの中空フィラメント501〜508からなる第一の中空フィラメント群、及び8本の全長20cmの中空フィラメント511〜518からなる第二の中空フィラメント群を、それぞれの端部の10mmの長さを露出させた形状でマイクロ流体システム用支持ユニットを作製した。敷設部分全般、特に交差する部分で中空フィラメントの破損はなかった。
【0080】
この結果、複数の中空フィラメント501〜508からなる第一の中空フィラメント群、及び複数の中空フィラメント511〜518からなる第二の中空フィラメント群で形成した流路の位置ばらつきは、設計図面に対し、±10μm以内に収まった。マイクロ流体システム用支持ユニットを温度調節器内に入れ、80℃に保ち、液状の着色インクを一方の端から流入し、流出までの時間をストップウォッチ等の計測機器で計測したところ、8本ともほぼ同じタイミング(±1秒以下)で他端から流出した。
【0081】
(作製例2)
第一の支持体に、厚さ100μmの非粘着型感圧接着剤S9009(ダウコーニングアジア株式会社製商品名)を有した厚さ0.5mmのアルミニウム板を用いた。これに、超音波振動と荷重の出力制御が可能でNC制御でX−Yテーブルを可動できるNC配線装置を用い、株式会社ハギテック製のガラスチューブ型式名ESG−2(内径0.8mm外径1mm)を敷設した。敷設する中空フィラメントには、荷重100gと周波数20kHzの超音波による振動をかけた。中空フィラメントの敷設は、半径10mmの円弧状に行い、交差する部分も設けた。その交差する部分の近傍では、荷重と超音波振動を止めることとした。
【0082】
第二の支持体には、デュポン社製ポリイミドフィルム(登録商標カプトン)型番200Hを用い、真空ラミネートを用いて中空フィラメントを施設した支持ユニット上にラミネートした。その際、流入部、流出部、及び交差部の中空フィラメント近傍に温度測定用の熱電対を埋め込んだ。
【0083】
その後の外形加工では、プリント基板用の外形加工機を用いて所望の形に切断した。所定部分の支持体を除去し、12本の全長40cmの中空フィラメントを50mmの長さを露出させた形状のマイクロ流体システム用支持ユニットを作製できた。中空フィラメントで形成した流路の位置ばらつきは設計図面に対し、±20μm以内に収まった。敷設部分全般、特に交差配線部分で中空フィラメントの破損はなかった。
【0084】
加熱装置として共立電子産業株式会社製のフィルムヒート型番FTH−40をアルミニウム板裏面の全面に貼り付け、90℃に設定した。約20℃の水を一方の端から流入し、他端から流出した水の温度を測定したところ、88±1℃であった。又、流入部、流出部、及び交差部の各温度は89±0.5℃であり、精度良い温度制御が可能であった。
【0085】
(作製例3)
第一の支持体1に、室温で非粘着性接着剤であるダウコーニングアジア株式会社製商品名S9009(厚さ200μm)を有した厚さ35μmの銅はくを用いた。これに超音波振動と荷重の出力制御が可能でNC制御でX−Yテーブルを可動できるマルチワイヤ用布線機を用い、仁礼工業株式会社の高機能エンプラチューブ(材質:PEEK、内径0.2mm、外径0.4mm)を敷設した。敷設する中空フィラメント58には、荷重80gと周波数30kHzの超音波による振動をかけた。中空フィラメント58の敷設は、半径5mmの円弧状に行い、交差する部分も設けた。その交差部の近傍では、荷重と超音波振動を止めることとした。
【0086】
第二の支持体2として、上述の接着剤であるダウコーニングアジア株式会社製商品名S9009(厚さ200μm)を貼付したデュポン社製ポリイミドフィルム(登録商標カプトン)型番200Hを用い、真空ラミネートで中空フィラメント58を敷設した表面にラミネートした。
【0087】
その後、中継部6となる箇所の第二の支持体2、中空フィラメント58に対して、プリント基板用の小径穴あけ用途のレーザ穴あけ機を用いてパルス幅5ms、ショット数を4ショットでφ0.2mmの穴をあけた。その後、ルーターで外形加工し、複数の流路が接続した中継部6を有するマイクロ流体システム用支持ユニットを作製できた。
【0088】
作製例1〜3で作製したマイクロ流体システム用支持ユニットは、充填材の固定、グラフト重合処理、多孔体の形成等をさらに施すことにより機能性を付与できる構造である。
【0089】
(実施例1)
第一の支持体に、非粘着型感圧接着剤ダウコーニングアジア株式会社製商品名S9009(厚さ100μm)を有した厚さ0.5mmのアルミニウム板を用いた。これに、超音波振動と荷重の出力制御が可能でNC制御でX−Yテーブルを可動できるNC配線装置を用い、中空フィラメントとして株式会社イワセ製のフッ素樹脂チューブ商品名EXLON PFAチューブ(内径0.5mm、外径1.5mm)を敷設した。中空フィラメントには、荷重120gと周波数20kHzの超音波による振動をかけ、長さ40cmの直線状に密着して並べた。その交差する部分の近傍では、荷重と超音波振動を止めた。
【0090】
第二の支持体には、デュポン社製ポリイミドフィルム(登録商標カプトン)型番200Hを用い、真空ラミネートを用いて中空フィラメントの上からラミネートした。
【0091】
その後の外形加工で、プリント基板用の外形加工機を用いて所望の形に切断した。所定部分の支持体を除去し、12本の全長40cmの中空フィラメントを50mmの長さを露出させた形状のマイクロ流体システム用支持ユニットを作製した。中空フィラメントで形成した流路の位置ばらつきは設計図面に対し、±20μm以内に収まり、敷設部分全般、特に交差配線部分で中空フィラメントの破損等の不具合は認められなかった。
【0092】
続いて、中空フィラメントの所定箇所に電子線を照射後、グリシジルメタクリレート(GMA)をグラフト重合させた後、イミノジ酢酸二ナトリウム/ジメチルスルホキシドの水溶液を一定温度に保ちながらチューブ内に一定流速で流し、グラフトポリマー鎖のエポキシ基をイミノジ酢酸基に変換させて金属イオン交換機能を付与させた。
【0093】
本実施例で作製したマイクロ流体システム用支持ユニットにおいて金属イオン交換機能が働くか否かを確認する目的で、一定濃度Cの硫酸銅水溶液を一方の端から供給し他方の端から出てきた流出液の濃度Cを測定した。供給した銅イオンの交換率を次の式で計算した。
【0094】
交換率(%)=(C−C)/C×100
交換率は約60%であり、マイクロ流体システム用支持ユニットが金属イオン交換機能を有することを確認した。
【0095】
(実施例2)
株式会社イワセ製のフッ素樹脂チューブ商品名EXLON PFAチューブ(内径0.5mm、外径1.5mm)を用意した。該チューブを約40cmの長さに切断し、一方の端からポリエチレンフィルタを挿入して所定箇所301〜308に固定した。チューブ内に日立化成工業株式会社製のゲルパック充填剤商品名TM70を0.01cc充填した後、ポリエチレンフィルタを詰めて蓋をして中空フィラメント501〜508とした。
【0096】
第一の支持体1として、非粘着型感圧接着剤ダウコーニングアジア株式会社製商品名S9009(厚さ100μm)を有した厚さ0.5mmのアルミニウム板を用いた。これに、超音波振動と荷重の出力制御が可能でNC制御でX−Yテーブルを可動できるNC配線装置を用い、上記の中空フィラメントを敷設した。中空フィラメント501〜508には、荷重150gと周波数20kHzの超音波による振動をかけ、長さ40cmの直線状に密着して並べた。
【0097】
第二の支持体2には、デュポン社製ポリイミドフィルム(登録商標カプトン)型番200Hを用い、真空ラミネートを用いて中空フィラメント501〜508の上からラミネートした。
【0098】
その後の外形加工で、プリント基板用の外形加工機を用いて所望の形に切断した。所定部分の支持体を除去し、8本の全長40cmの中空フィラメント501〜508を50mmの長さを露出させた形状のマイクロ流体システム用支持ユニットを作製した。中空フィラメント501〜508で形成した流路の位置ばらつきは設計図面に対し、±20μm以内に収まり、敷設部分全般、特に交差配線部分で中空フィラメント501〜508の破損等の不具合は認められなかった。
【0099】
本実施例で作製したマイクロ流体システム用支持ユニットにおいて、薬剤の吸・脱着機能が働くか否かを確認する目的で、次の測定を行った。中空フィラメント501〜508に、アシュラム、オキシン銅、メコプロップ、チウラム、イプロジオン、ベンスリドの残留農薬試験用標準試薬(和光純薬工業株式会社製)を各々0.25ppmとなる混合水溶液を調合しマイクロシリンジで1ml注入した。注入した全量が所定箇所301〜308を通過するように通気した。続いて、中空フィラメント501〜508にアセトニトリルを注入して抽出し、HPLCにて該抽出液の成分分析を行った。その結果、全成分とも、注入量の90%以上回収できたことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のマイクロ流体システム用支持ユニットは製造が容易である。また、反応や分析の工程数や量の制限が緩い。また、cm単位の長い距離の流路長を得ることができる。
【0101】
この結果、本発明のマイクロ流体システム用支持ユニットは、精度がよく、製造ばらつきが少ない流体回路(マイクロ流体システム)を提供することができる。また、立体的に少なくとも一本の中空フィラメントを交差させることができるため、複雑な流体回路の小型のマイクロ流体システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0102】
1 第一の支持体
2 第二の支持体
301〜308、311〜318 機能性を付与した所定箇所
41 穴
42 ニードル
58、501〜508、511〜518 中空フィラメント
59 金属膜
6 中継部
8a、8b 接着層
9 露出窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体システム用支持ユニットを用いて、流体の光化学反応または分光分析を行う方法であって、
前記マイクロ流体システム用支持ユニットが、第一の支持体と、マイクロ流体システムの流路を構成する少なくとも一本の中空フィラメントとを備え、該中空フィラメントが前記第一の支持体に任意の形状に敷設され、かつ前記中空フィラメントの内側の所定箇所が吸・脱着、イオン交換、分離、除去、分配及び酸化・還元からなる群から選ばれる少なくとも一つである機能性を有し、少なくとも一本の中空フィラメントの所定箇所が光透過性を有し、
前記光透過性を有する中空フィラメントに流体を流す工程と、流れている流体に光を照射する工程とを含むマイクロ流体システム用支持ユニットを用いて光化学反応または分光分析を行う方法。
【請求項2】
マイクロ流体システム用支持ユニットは、前記中空フィラメントが複数本敷設された請求項1記載のマイクロ流体システム用支持ユニットを用いて光化学反応または分光分析を行う方法。
【請求項3】
マイクロ流体システム用支持ユニットは、さらに、内側の所定箇所に機能性を有さない中空フィラメントが、第一の支持体に任意の形状に少なくとも一本敷設された請求項1又は2記載のマイクロ流体システム用支持ユニットを用いて光化学反応または分光分析を行う方法。
【請求項4】
マイクロ流体システム用支持ユニットは、少なくとも一本の中空フィラメントが、他の少なくとも一本の中空フィラメントに交差するように敷設された請求項1〜3いずれか1項記載のマイクロ流体システム用支持ユニットを用いて光化学反応または分光分析を行う方法。
【請求項5】
マイクロ流体システム用支持ユニットは、少なくとも一本の中空フィラメントが、該中空フィラメント自身に交差するように敷設された請求項1〜4いずれか1項記載のマイクロ流体システム用支持ユニットを用いて光化学反応または分光分析を行う方法。
【請求項6】
マイクロ流体システム用支持ユニットは、さらに、第二の支持体を有し、該第二の支持体と第一の支持体との間に少なくとも一本の中空フィラメントが挟まれた構造である請求項1〜5いずれか1項記載のマイクロ流体システム用支持ユニットを用いて光化学反応または分光分析を行う方法。
【請求項7】
マイクロ流体システム用支持ユニットは、少なくとも一本の中空フィラメントの一部が、第一の支持体及び第二の支持体の少なくともいずれかから露出するように敷設された請求項1〜6いずれか1項記載のマイクロ流体システム用支持ユニットを用いて光化学反応または分光分析を行う方法。
【請求項8】
マイクロ流体システム用支持ユニットは、少なくとも一本の中空フィラメントが、流体を外部から注入及び外部へ抽出の少なくともいずれかを行うためのポートを備える請求項1〜7いずれか1項記載のマイクロ流体システム用支持ユニットを用いて光化学反応または分光分析を行う方法。
【請求項9】
ポートが第一の支持体及び第二の支持体の少なくともいずれかに固定されている請求項8に記載のマイクロ流体システム用支持ユニットを用いて光化学反応または分光分析を行う方法。
【請求項10】
マイクロ流体システム用支持ユニットは、中空フィラメントの経路を連結する中継部を備える請求項1〜9いずれか1項記載のマイクロ流体システム用支持ユニットを用いて光化学反応または分光分析を行う方法。
【請求項11】
マイクロ流体システム用支持ユニットは、少なくとも一本の中空フィラメントの所定箇所に金属膜が形成されている請求項1〜10いずれか1項記載のマイクロ流体システム用支持ユニットを用いて光化学反応または分光分析を行う方法。
【請求項12】
少なくとも一本の中空フィラメントの内側の所定箇所に充填剤を固定することにより機能性を付与する請求項1〜11いずれか1項記載のマイクロ流体システム用支持ユニットを用いて光化学反応または分光分析を行う方法。
【請求項13】
少なくとも一本の中空フィラメントの内側の所定箇所にグラフト重合処理を施すことにより機能性を付与する請求項1〜12いずれか1項記載のマイクロ流体システム用支持ユニットを用いて光化学反応または分光分析を行う方法。
【請求項14】
少なくとも一本の中空フィラメントの内側の所定箇所に多孔体を形成することにより機能性を付与する請求項1〜13いずれか1項記載のマイクロ流体システム用支持ユニットを用いて光化学反応または分光分析を行う方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−107523(P2010−107523A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21873(P2010−21873)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【分割の表示】特願2009−223292(P2009−223292)の分割
【原出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】